部分的脱アセチル化キチン誘導体の組成物
本発明は、生物学的に活性なキチン様オリゴマーおよび精製されたその内毒素および部分的脱アセチル化キチンポリマー前駆体を含む組成物と、医薬組成物、生体材料組成物、医療デバイスでのその使用と、前記オリゴマーを生成するプロセスとに関する。より詳細には、本発明は、新規な組成物と、そのような組成物を生成するプロセスとに関する。組成物は、これら組成物の治療活性に重要な化学的および構造的特徴を最適化するために発生させた、N−アセチルグルコサミンおよびグルコサミンの特定の配列を含む、治療用ヘテロポリマーおよびヘテロオリゴマー組成物を含む。さらに本発明は、骨インプラント適用例のためのリン酸カルシウム複合体の物理的および生物学的パラメータを調節するために、部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度を使用する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液からポリマーキトサンを回収する新規な方法に関する。本発明はさらに、生物学的に活性なキチン質ポリマーおよびオリゴマーを含む本発明の方法によって生成された組成物と、医薬組成物、生体材料、医療デバイス、ならびに前記ポリマーおよびオリゴマーを生成するプロセスにおけるその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、甲殻類の殻から得ることが可能であるがその他の無脊椎動物および菌類からも得ることができるキチンから得られた、天然由来のバイオポリマーである。キトサンは、キチンポリマーのN−アセチルグルコサミン残基の脱アセチル化によって、典型的には濃アルカリによるN−アセチル結合の加水分解によって調製される。定義によれば、キトサンは一般に、D−グルコサミン(D)およびN−アセチル−D−グルコサミン(A)のコポリマーと呼ばれ、これはpHが6.2よりも高い(遊離アミン基の等電点)水に不溶であるが、約6.2よりも低いpHでは溶解する。典型的な場合、従来のキトサンコポリマー中のモノマー単位の70〜100%がD−グルコサミンであり、これを、脱アセチル化度が70〜100%である70〜100%脱アセチル化キトサンと呼ぶことができる。脱アセチル化度が約70%よりも低い場合、キトサンポリマーは、異なる溶解特性、高い生物活性、および全体的に高い生分解性を示す。
【0003】
キトサンの化学的および生物学的性質は、脱アセチル化度(DD)および重合度(DP)、即ちポリマーの鎖長の影響を直接受ける。pHが6.2よりも低い溶液では、またD−グルコサミン残基のアミン基がプロトン化される場合は、キトサンは正に帯電したポリマーである。アミンである場合、キトサンは弱塩基であり、カルボン酸や鉱酸などの酸と共に塩を形成することができる。これらの塩のほとんどは水溶性である。その天然形態では、キチンは水に不溶である。しかし、アルカリ処理による部分的脱アセチル化によって、水溶性にすることができる。DDが35〜50%である部分的に脱アセチル化されたキチンは、広範囲にわたるpHで水に可溶である。部分的に脱アセチル化されたキチンのこの形は、生物医学や医薬品、化粧品などの様々な分野で可能性のある適用例で、生物活性であることが示されている。
【0004】
60〜70%超のDDのキトサン調製物の欠点の1つは、pHが6.2よりも高いと析出する傾向があることである。このため、中程度のpHから高いpHで溶解性が必要とされる場合、その適用範囲が限定される。この点に関し、部分的脱アセチル化キチンは、その溶解度プロファイルが広範なpHを包含するので、DDがより高いキトサンにも優る大きな利点を有する。このキチンは、キトサンの物理的−化学的性質のほとんどを受け継ぎ、通常のキトサンに比べて高い保水力を有し、その結果、水に接触したときに素早く膨潤し、DDがより高い通常のキトサンに比べてバランスの取れた親水性/疎水性を有する。これらの性質は、生物医学、医薬品、化粧品、およびその他の関連ある産業における様々な適用例で、多大な可能性があることを表している。
【0005】
キチンおよびキトサンの生物学的活性は、文献にふんだんに文書化されており、益々増える証拠は、DDがより低くなるにつれて生物活性が増大することを示している。これは、生理的なpHで溶解度特性が改善されることと密接な関係がある。
【0006】
キトサンの精製では、一般に、溶液から不溶物または不純物が除去されるように、溶解プロセスが行われる。この後、溶液からのキトサンの析出による回収プロセスが続く。次いで析出物の形でのキトサンの回収物を洗浄して、中性pHにし、塩を除去することができる。この回収は、溶液のpHを6.2よりも高く上昇させることによって容易に析出させることができるので、一般に、55%DDおよびそれ以上のキトサンでは問題ではない。しかしpHの調節は、部分的脱アセチル化キチンに有効ではなく、通常は、析出プロセスを補助するのに有機溶媒が必要とされる。特許番号CN1554267は、ポリマー洗浄のためのエタノールの使用について報告しており、溶媒の使用に関するより多くの例が、特許JP10072502、CN1371922などに見出すことができる。あるいは、それほど適切ではない方法では、溶液を濾過し乾燥するだけであり、それによって塩が生成物中に存在することになる(JP2022301)。
【0007】
キトサンは、生体適合性であり生分解性であることが示されており、それが、生物工学の適用例に向けた生体材料の成分として、魅力的な選択肢となっている。生体材料は、一般に、生体系の一部と置き換えるために、または生体組織と密着させたときに機能させるために使用される合成材料と定義され、キトサンは一般に、生体材料配合物中の適切な不活性成分またはその他の物質もしくは成分の母材と見なされている。キトサンは、大量の生物活性物質を吸着によって、またはそのような物質を単純な化学反応を介して共有結合することによって、固定化することができるので、薬物送達担体として提示されている。
【0008】
WO2004/028578は、キトサン、トリポリホスフェート、および骨形成タンパク質(BMP)を含む、骨延長における骨形成および骨硬化のための組成物を開示している。さらにUS2003/0124172は、人工歯根または外傷状態での骨結合を強化するために生分解性ポリマーおよびBMPを含む、キトサンベースの被膜を製造するための方法を開示している。
【0009】
キチン由来材料の生物活性は、例えば、生物学的に活性であり、かつ結合組織の状態、特に関節炎および変形性関節症を治療する薬剤の活性成分であることが示唆されている、N−アセチル−グルコサミンおよびグルコサミンのヘテロオリゴマーを含むキトオリゴマー組成物を開示する、EP1435976に示されている。
【0010】
その他の特許出願では、ヒトおよびその他の脊椎動物のゲノムによって表されるキチナーゼ様タンパク質(CLP)が、これらのキトオリゴマーの生物活性に関与する標的受容体であり、キトオリゴマーに結合したときにシグナル伝達応答を誘発することが示唆されている。これらのキチナーゼ用タンパク質は、ほとんどの形の生物におけるファミリー18キチナーゼを発現する遺伝子のファミリーから得られる。ファミリー18キチナーゼの活性側は、これらタンパク質のほとんどが活性側の重要な変異によってその触媒活性を失っていること以外、CLP内に十分に保護されている。しかしヒトにおいては、これらタンパク質の少なくとも2種が、そのキチン分解活性を維持しており、即ち酸性哺乳類キチナーゼ(AMCase)およびキトトリシダーゼである。
【発明の開示】
【0011】
発明の要旨
本発明の目的は、治療の適用例に向けた、高度に精製された部分的脱アセチル化キチンの方法および組成物を提供することである。生体外または生体内でのファミリー18キチナーゼによる大規模な(extensive)加水分解により、部分的脱アセチル化ポリマー組成物は、治療活性を有するキチン質ヘテロ多糖を生成することになる。したがって本発明は、2つの形の組成物、即ちインプラントの適用例に向けた生体材料への活性成分として適切な、菌体内毒素などの有機汚染物質から実質的に精製されたポリマー組成物と、全身投与に適切なオリゴマー組成物とを提供する。本明細書では「キトバイオマー」と呼ぶこれらのポリマーおよびオリゴマー組成物は、従来のキトサンおよび従来技術のキチン由来材料とは明らかに異なる、生物学的に関連ある特徴を含む。さらに、本発明により提供されるオリゴマー組成物は、生物学的利用能、生物安定性、および生物活性を含めた、キトバイオマー組成物全体の治療活性の最適化を示す。これらのオリゴマー組成物を、本明細書では「治療用キトオリゴ多糖」(T−ChOS)と呼ぶ。ポリマー組成物は、特に局所マクロファージによって発現される内因性ファミリー18キチナーゼがポリマー基質をその場で徐々に分解し、瘢痕組織の形成を予防しかつ損傷軟骨および骨組織に組織再生を誘発させることが可能な治療的に活性なT−ChOSを生成するという、優れたin situ送達システムを提供する。これは、組織特異的な軟骨および骨前駆細胞の活性化と平行して、T−ChOS組成物による損傷組織での線維芽細胞活性の低減または阻害が行われる。しかしオリゴマー組成物は、ファミリー18キチナーゼによるポリマーキトバイオマー組成物の大規模な加水分解によって、商業ベースで生体外で生成することもでき、経口や筋肉内、皮下、静脈内投与などの任意の種類の全身送達用として、またはインプラント組成物での局所送達用として、T−ChOSを提供することができる。
【0012】
本発明の第1の態様では、治療的に活性な部分的脱アセチル化キチンヘテロポリマー(キトバイオマー)を生成するプロセスの、最適化がもたらされる。この最適化には、完全に溶解した部分的脱アセチル化キチンポリマーを精製するための方法が含まれ、この方法は、a)脱アセチル化後に部分的脱アセチル化キチンを中和するステップと、b)酸性溶液中に部分的脱アセチル化キチンを溶解するステップと、c)逐次的濾過ステップを通じて、溶解していない粒子を除去するステップと、d)溶液を、8よりも高いpHに調節するステップと、e)高温および塩の添加によって、溶液のカオトロピック因子を増大させる溶解した部分的脱アセチル化キチンを析出させるステップとを含む。この方法は、篩い分けによる析出後の析出物の回収、または遠心分離を特徴とし、この場合、析出物の温度は50℃よりも高くなっている。この最適化は特に、ファミリー18キチナーゼによるポリマーキトバイオマーの大規模な加水分解によって生成された、加水分解生成物に焦点を当てることによって得られる。基質は、全てのファミリー18キチナーゼに対してかなりの抵抗力を有するヘテロ−オリゴマーに分解することになる。提供されたプロセスで脱アセチル化ステップを慎重に制御することにより、均一性および脱アセチル化度の両方に関して、加水分解ステップ中に生成されたT−ChOS組成物の相対的収量を制御することができる。これは、キトバイオマー組成物の治療活性の最適化をもたらす。定義されたポリマーキトバイオマー組成物は、脱アセチル化度が30〜70%の範囲内に限定され、従来のキトサンとは実質的に異なる溶解特性を示す。この定義により、全てのキトバイオマー組成物は、生理的pHで溶解性を示す。
【0013】
本発明の第2の態様では、本発明の方法によって生成される、部分的脱アセチル化キチンポリマー組成物が提供される。本発明の実施形態では、組成物は、N−アセチルグルコサミン(A)とグルコサミン(D)との生物学的に活性なキトオリゴマーを含む。キトオリゴマーの組成物は、下記の基準(a〜d)の全てを満たさなければならない:
a)前記オリゴマーは、5〜20モノマー残基の範囲内の鎖長を有し、
b)各オリゴマー鎖は、当該オリゴマー鎖の一端または両端に2個のN−アセチルグルコサミン残基(AA)を有することができ、
c)当該オリゴマーの残りの内部部分は、最大量のA残基を有し、
d)前記内部鎖の配列は、N−アセチルグルコサミン残基(A)が別のN−アセチルグルコサミン残基に隣接(AAなど)しないようなものである。
【0014】
本発明の第3の態様では、生体材料/薬品の製造のための、本発明の組成物の使用が提供される。
本発明の第4の態様では、本発明の方法によって生成されたキトバイオマーのオリゴマー組成物を含む医薬組成物が提供される。
【0015】
本発明の別の態様では、キトバイオマーのポリマー組成物を使用して、リン酸カルシウム複合体中の水分活性を調節する。キトバイオマーのポリマー組成物は、マクロファージによって局所的に発現したファミリー18キチナーゼによるキトバイオマーの分解と一緒に、複合体の固化および硬化中に形成される結晶のサイズを限定することになり、これは、複合体の生分解性を高め、遊走細胞が足場に浸透するのを助け、その骨伝導性を増大させる。
【発明の詳しい説明】
【0016】
下記の実施形態および定義は、本発明の方法および組成物および使用に関する。
本発明の実施形態では、部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が25から70%であり、例えば30から65%、例えば30から60%、例えば30から55%などであり、この場合DDは、部分的脱アセチル化キチンの可溶性部分の平均DDを指し、このキトバイオマーの分子量は、約10kDaよりも高い。
【0017】
本発明の文脈において、脱アセチル化後の部分的脱アセチル化キチン混合物に関する「中和」という用語は、水を用いた洗浄による、または強酸の添加による脱アセチル化の過程での、強アルカリ溶液のpHの低下を指す。
【0018】
本発明の実施形態では、部分的脱アセチル化キチン溶液の加熱は、その温度を45〜100℃または沸騰するまで、例えば55〜90℃、または例えば60〜80℃、または好ましくは60から70℃に上昇させるステップを含む。
【0019】
本発明の実施形態では、部分的脱アセチル化キチン溶液の調節は、そのpHを、pH8〜13、例えばpH9〜12、または10〜11に上昇させるステップを含む。
本発明の実施形態では、塩析は、塩の添加によってまたは溶液に溶解した酸の中和によって得られ、この塩析に使用される塩は、塩化ナトリウム、または酢酸などの部分的脱アセチル化キチンの溶解に使用される任意の有機酸の塩であり、あるいはリンゴ酸やクエン酸などのジまたはトリカルボン酸が好ましい。これらの塩は、適切な塩基による溶液の中和によって、形成することができる。さらに塩濃度は、ポリマーの析出をもたらすことができる任意の濃度を指し、即ちこの塩濃度は、2%〜飽和状態である。
【0020】
本発明の実施形態では、キチンを脱アセチル化ステップの前に鉱酸で処理することにより、1から60EU/gまたは30EU/gより低い値など、非常に低い内毒素レベルを有する生成物が得られる。酸はポリマーを開き、内毒素に曝し、内毒素を破壊する。キチンポリマーの溶解をもたらす任意の高濃度酸、HCl、リン酸、ギ酸、硝酸、硫酸を使用することができる。内毒素の結果は、EU/mlまたはEU/gのようなEU単位で表す。
【0021】
本発明の別の実施形態では、哺乳類の骨折または切断された骨の治癒において骨再生および止血を増強するための、生体材料/薬品の製造に、このプロセスを使用する。そのような薬品は、組織特異的前駆細胞の活性化による軟骨内骨化を通じて、骨形成を増強する。
【0022】
本発明の実施形態では、生体材料は、ヒドロキシアパタイトを含めたリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ナトリウムトリポリホスフェート、アルギネート、コラーゲン、およびヒアルロン酸からなる群から選択された別の成分を含む。
【0023】
生物学的利用能、即ち所与の物質が生体膜を通過することのできる能力は、分子の疎水性に関係する。全ての生体膜は多分に疎水性であるので、物質は疎水性であるほどそのような生体膜をより良好に浸透することができるという、一般的規則を適用する。N−アセチル−グルコサミンおよび完全アセチル化キチンオリゴマーは、対応するグルコサミンモノマーまたは高度に脱アセチル化されたキトサンオリゴマーよりも疎水性であり、したがってキチン質ヘテロオリゴマーは、アセチル化が高まるほど、高い生物学的利用能を有することになることを示唆している。このようにT−ChOS形成は、その生物安定性を危うくすることなくその生物学的利用能を最大限にするために、その分子構造内に最大量のN−アセチル−グルコサミンを含有するように最適化されてきた。本発明は、ヒトボランティアにおけるT−ChOS組成物の、比較的高い生物学的利用能を示す独自のデータを提供する。
【0024】
有機化合物の生物安定性は、生体内の内因性酵素の感受性、およびその生物における半減期(t1/2)を指す。感受性が高いほど、化合物は生物安定性が低くなる。ヒトにおいては、キチン分解酵素を2つのグループに分けることができ、即ち、ファミリー18キチナーゼ(AMCase、キトトリオシダーゼ)のような高レベルのキチン分解特異性を有し、高い特異的活性を有する酵素、またはリゾチームや、キチンおよびキトサンの分解を引き起こす一部のプロテアーゼなどの、キチン分解特異性が低いが特異的活性がより低い酵素である。部分的脱アセチル化によって、T−ChOS組成物は、ファミリー18キチナーゼによる加水分解に対する最大限の安定性を得るために最適化された。これらの酵素は、切断の認識として2つ以上の連続N−アセチル−グルコサミン残基の配列を必要とするので、T−ChOS組成物は、分子の内部部分のそのような配列が排除されるように、特に最適化される。
【0025】
有機物質またはリガンドの生物活性は、生体応答を引き起こす標的受容体へのリガンドの親和性に、直接結び付けられる。人体におけるキチン質化合物の生物学的役割は、依然としてほとんど知られていないが、キチンオリゴマーは、胚発生において生命に関わる役割を演ずるという徴候がある。これは、キチンオリゴマーに結合するときに、ヒトゲノムが、特異的に活性化された特定の受容体を発現することが可能であることを示唆している。人体にいて唯一知られているキチン結合タンパク質は、ファミリー18キチナーゼに遺伝的に属しているがそのほとんどが自らの酵素活性を失っている、キチナーゼ様タンパク質(CLP)である。
【0026】
これらのタンパク質におけるキチン結合ドメインは、高度に保存されており、ファミリー18キチナーゼの活性側とは、1個または数個のアミノ酸だけしか異なっていない。完全アセチル化キチンオリゴ多糖とタンパク質の活性部位との結合は、一般に、タンパク質構造において構造変化を誘発することになり、これは相互作用のシグナル伝達の役割を示している。本発明は、完全アセチル化キチンオリゴ多糖に比べた場合、キチナーゼ様タンパク質(YKL−40またはHCgp−39)の1つの結合部位が、部分的脱アセチル化T−ChOS組成物に対してほとんど等しく強力な親和性(90%)を有することを示すデータを提供する。ファミリー18キチナーゼは、キチン質基質上で非常に活性であり、加水分解の認識部位として隣接するN−アセチル基を必要とし、アセチル基の1つは、プロトン供与体として加水分解反応に積極的に関与することになる。これは特に、キチン質構造が、対応する内因性ファミリー18キチナーゼの発現を誘発し易いので、完全にアセチル化したキチンオリゴマーが人体内で素早く分解する(不十分な生物安定性を有する)ことを示唆している。しかし、特に部分的脱アセチル化によって、オリゴマー本体内に隣接するアセチル基が存在しない配列が与えられる場合、キチンオリゴマーの部分的脱アセチル化は、生物安定性を増大させることになる。これは、ファミリー18キチナーゼのような特定のキチン分解酵素によって切断されることはないが、キチンならびにキトサンを切断することが可能であるが著しく低い特異的活性を有するそれほど特殊ではない酵素によって、ゆっくりと分解する分子を与えるだけである。これは、T−ChOS組成物が、治療活性に必要とされる生物学的利用能、生物安定性、および生物活性を有することを示唆している。
【0027】
骨インプラントでは、ポリマーキトバイオマーが、マクロファージ由来のファミリー18キチナーゼによって徐々に加水分解され、大量のT−ChOS組成物を生成することになる。これらの非常に可溶性があるオリゴマーは、複合体および隣接する組織の全体に拡散し、骨髄ならびに骨内膜および骨膜に局在化したマクロファージならびに軟骨および骨前駆細胞の化学走化性因子または刺激物として、作用することになる。これは、骨インプラント複合体に、骨伝導性を提供する。
【0028】
治療用キトオリゴマーおよびそのポリマー前駆体(まとめてキトバイオマーと呼ぶ)を含む本発明の組成物は、生成される材料の組成および性質、例えば溶解度や純度などに決定的な影響を及ぼす、いくつかの重要な処理ステップを基にしたプロセスによって生成される。最大限の純度では、任意選択の前処理ステップが行われ、即ち、適切な供給源からのキチンを、適切な酸溶液、好ましくは塩酸(HCl)などの鉱酸であるが、カルボン酸および/または硫酸やリン酸、硝酸などの鉱酸を含めたその他の酸を使用してもよい溶液に、十分に溶解する。HClを使用する場合、その濃度は、典型的には約15〜37%(重量/重量)であり、例えば25%以上であり、その他の酸の濃度は、同様の結果が得られるように適切に調節される。一実施形態では、酸溶解キチンを酸化剤で、好ましくは過酸化水素で処理するが、その他の酸化剤、例えばアルカリ金属過酸化物、アルカリ土類およびアルカリ金属過ホウ酸塩、過炭酸塩、ペルオキシ一硫酸塩、過硫酸塩、臭素酸塩、次亜ハロゲン酸塩、およびジハロトラジントリオンも、同様に使用することができる。キチンの酸性溶解は、その結晶構造を開き、材料内に埋め込まれた内毒素分子を露出させることになり、内毒素不純物の効率的な抽出および分解を可能にする。任意選択の酸化剤処理は、内毒素分子の分解の補助を目的とし、それによって、最終生成物の内毒素含量がさらに低下する。ポリマー鎖の一部の断片は、プロセスのこのステップで生ずることになる。十分に溶解したキチンの溶液を、好ましくは素早く希釈し、十分純粋な水またはアルカリ水溶液で十分に中和し、例えば、キチン材料のかなりの部分が非晶質コロイド状キチンとして析出するように、十分溶解したキチンを含む溶液を大量の中和水溶液に流すことによって中和する。水は、典型的には高温であり、例えば40〜100℃の範囲内であり、例えば50〜100℃の範囲内であり、例えば50〜80℃の範囲内である。温度は、コロイド状キチンの緻密度および凝固に影響を及ぼすことになる。十分純粋な水で洗浄した後(好ましくは連続洗浄)、コロイド状キチンは、脱アセチル化の準備が整う。
【0029】
本発明の実施形態では、最終的な複合体の物理化学的、機械的、および生物学的性質を調節するために、脱アセチル化度が30〜100%DDである部分的脱アセチル化キチンおよび/またはキトサンを、リン酸カルシウム複合体と混合する。この方法は、異なる脱アセチル化度のキトバイオマーまたはキトサンを複合体に混合することによって、リン酸カルシウム複合体の機械的および生物学的性質を制御するために提供する。これは、固化時間、硬化時間、硬さ、および強度、ならびに生分解性および細胞を宿主組織から移動させるための到達性など、複合体の決定的な性質を調節するための強力なツールを提供する。これらの基本的な性質を調節するこの可能性は、脱アセチル化度が30から100%DDに上昇したときの脱アセチル化キチン誘導体の保水能力の急峻な低下にあり、即ち、DDが低下するほど保水能力は高くなる。リン酸カルシウムの結晶化では、水と反応させるので、複合体内での水利用能が、結晶形成に影響を及ぼすことになる。部分的脱アセチル化キチンによってより多くの水が保たれるほど、複合体中の結晶は小さくなる。これは、複合体の機械的性質および生分解性に影響を及ぼすことになる。キトバイオマーの脱アセチル化度(DD)が低くなるほど、マクロファージなどの食細胞は複合体母材に侵入し易くなり、軟骨および骨前駆細胞ならびに血管内皮細胞などのその他の遊走細胞様に新しい孔を開ける。これは、健康な機能組織への複合体のリモデリングを増強するので、決定的な性質である。脱アセチル化プロセスでのキトバイオマーの最適化によって、複合体の再構築中に生成されるT−ChOSの収量を上昇させることが可能になり、骨欠損の軟骨性骨再生の効果的な刺激が行われる。
【0030】
したがって、複合体に使用される部分的脱アセチル化キチンの脱アセチル化度を慎重に制御することにより、複合体の骨伝導性ならびに骨誘導性を最適化することが可能であると結論付けられる。
【0031】
脱アセチル化は、典型的には、アルカリ塩基反応媒体に溶解したキチン原材料を用いて実施される。このアルカリ塩基は、典型的には水酸化ナトリウムであるが、KOH、LiOH、Ca(OH)2、Na3PO4、およびNH4OHを含めたその他の塩基も適切である。乾燥物質とアルカリとの比は、いくつかの実施形態では1:5から1:100に及ぶ。塩基溶液は、好ましくは混合前に冷却する。アルカリキチン混合物を凍結し、その後、脱アセチル化のために解凍しインキュベートすることによって、脱アセチル化の均一性が十分に高めらることがわかった。しかし、脱アセチル化プロセスのためのインキュベーション温度は、0〜100℃という比較的広い範囲内で調節することができ、インキュベーション時間もそれに応じて調節される(より低い脱アセチル化温度では、より長いインキュベーション時間が必要であり、またその逆も同様である)。いくつかの実施形態では、脱アセチル化は、5〜50℃の範囲内の温度、より好ましくは10〜40℃の範囲または20〜50℃の範囲、例えば10から30℃の範囲または10〜25℃の範囲、より好ましくは12〜25℃の範囲、例えば15〜25℃の範囲で実施される。部分的脱アセチル化キチンを、十分に純粋な水中で、好ましくは高温の水、例えば約35から65℃の範囲を含めた約30〜80℃の範囲、例えば約45〜60℃または40〜50℃の範囲の水中に析出させ、その後、十分に純粋な水で洗浄する。前述のように、析出物中のポリマーの回収をさらに補助するために、塩を溶液に添加することができる。材料は、引き続き洗浄することができ、意図される別の用途に応じて凍結乾燥または噴霧乾燥してもよい。
【0032】
記述されるプロセスは、著しく均質な脱アセチル化をもたらし、即ち、ポリマー中のN−アセチル−D−グルコサミン残基(A)およびグルコサミン残基(D)が実質的に均等に分布され、その後のポリマーから治療用キトオリゴマーへの加水分解に影響を及ぼすことを意味する。これは、部分的脱アセチル化キチンにおける平均脱アセチル化度を慎重に調節することによって、ファミリー18キチナーゼによる加水分解中にT−ChOSの収量を最適化する機会をもたらす。そのような加水分解は、使用前に(即ち、例えば以下に述べるように生体外で)、または医薬品、生体材料、もしくは医療デバイスの構成要素として得られたポリマー前駆体(キトバイオマー)を使用することによって生体内で、引き起こすことができる。キトバイオマーは、その場で治療用キトオリゴマーを製造するために、例えばキトトリオシダーゼなどの内因性酵素によって、ゆっくりと加水分化される。
【0033】
本明細書で使用される「カオトロピック剤」という用語は、分子構造を崩壊させる薬剤であり、特に、水素結合やファンデルワールス相互作用、疎水作用などの非結合力によって形成される薬剤である。しばしば、円偏光2色性などの手段によって検出される構造的特徴は、カオトロープ濃度依存的な手法で調整することができる。最も一般的に使用されるカオトロープは、6〜8M尿素および6M塩化グアニジニウムであり、尿素は非荷電分子であり、塩化グアニジニウムは塩酸塩である。非常に一般的な塩は、電荷を遮蔽し塩橋の安定化を防ぐことによって、カオトロピック特性を有することができる。水素結合は無極性媒体の場合より強力であり、したがって溶媒の双極子モーメントを増大させる塩は、水素結合を不安定化させることもできる。
【0034】
本発明の文脈において、「塩などのカオトロピック剤の添加」という用語は、限定するものではないがNaOH、硫酸アンモニウム、尿素、塩化グアニジニウム、酸の任意の塩、好ましくはトリカルボン有機酸(例えばクエン酸)の塩、次いでジカルボン酸(リンゴ酸)の塩、次いでモノカルボン酸の塩、高カオトロピック性の塩から選択された塩の添加を指す。
【0035】
得られた部分的脱アセチル化キトバイオマーは、明らかな特徴を有する。キチンの事前溶解、コロイド状キチンの形成、およびその後の、脱アセチル化前のアルカリ塩基への溶解は、キチン結晶構造を著しく開き、キチン質材料中の菌体内毒素を効率的に低下させ、ポリマーの純度を、生体材料の配合および/またはインプラント適用を目的とした医療デバイスでの使用に許容可能なものにする。
【0036】
治療用キトオリゴマーの連続パターンは、その生物学的活性に直接影響を及ぼし、即ち、生体膜上にどのように輸送されるのか(生物学的利用能)、生体系内でどの程度速く崩壊するのか(生物安定性)、キチナーゼ様タンパク質およびキチン質配列を結合するその他の特異的受容体とどのように相互作用するのか(生物活性)に影響を及ぼす。
【0037】
ファミリー18キチナーゼの活性メカニズムを考えると、基質分子の切断部位の認識には、2つ以上の隣接するN−アセチル−D−グルコサミン部分(−AA−)の配列が必要である。切断によって、得られた生成物の還元末端に2個のアセチル基が残されるが、これは、酵素加水分解が終了に至った場合、オリゴマーの大部分が還元末端に2個のN−アセチル−D−グルコサミン部分を有することを意味する。これは、最適な生物学的利用能、生物安定性、および生物活性を有する本発明の治療用キトオリゴマーが、分子の内部領域に2個の隣接するアセチル基を有することなく最大限アセチル化された部分アセチル化キトオリゴマーになることを示唆している。したがって単純計算では、内部領域においてその分子配列内に2個のモノマーが交互に配された(即ち、−DADADADA−)、約50%のアセチル化が示唆される。この構造とファミリー18キチナーゼ、YKL−40、またはそのCLP類縁体の結合ドメインのいずれかとが相互に作用する場合、−DADADADA−構造は、圧倒的に多いD配列(即ち、−DDDDDA−)に比べて結合部位に対する親和性が強力である。アセチル化が増すと分子の疎水性も同様に増すので、治療用キトオリゴマーの生物学的利用能についても同じことが言える。本発明は、CLP結合ドメインに対する結合親和性が、A残基(FA)の相対数と共に増大することを示すデータを提供する。しかし本発明者等のデータは、T−ChOS組成物が、完全アセチル化キチンヘキサマー(A6)に関して測定された結合親和性の少なくとも90%を有することも確かめている。
【0038】
菌体内毒素の汚染に関し、インプラントの適用例を目的としたキチンおよびキトサン由来の材料は、外骨格由来のキチンならびにヤリイカおよびコウイカ由来のキチンが典型的にはかなりのレベルの菌体内毒素を含有するので、特殊な注意を必要とする。さらにキトサンは、脱アセチル化の間および後に、菌体内毒素に対してかなりの親和性を得ることになる。したがって、インプラントの適用例に向けた、十分純粋なキトサンの生成を目的とする任意のプロセスは、原材料基質から菌体内毒素を十分に抽出し低下させる特定のステップを組み込む必要がある。
【0039】
本明細書に記述される医薬組成物は、本発明の治療用キトオリゴマー(T−ChOS)を含む。この組成物は、全身に投与することができ、内因性CLPに結合することができ、その多くは、いくつかの疾患および状態で役割を果たすことが示されておりまたは示唆されている。CLPの高い発現に関連する疾患および状態の中には、関節炎(例えばリウマチ様関節炎および変形性関節症)を含めた変形性関節疾患などの変性疾患がある。T−ChOS組成物は、これらの疾患、ならびに骨組織形成に関連した状態、および外科的介入または外傷後の骨再生などの状態を治療しかつ/または改善するのに有用であることがわかっている。
【0040】
組成物はさらに、薬学的に許容される賦形剤、例えば加工助剤、または安定剤、希釈剤、香料、栄養剤、または着色剤、または適切な追加の生物学的に活性なまたは非活性の成分などを含んでもよい。
【0041】
医薬組成物は、好ましくは、例えば1杯の水に容易に溶解することのできる乾燥形態など、経口投与に適した形をとるべきである。そのような形態には、乾燥粉末、懸濁液、ゲル、被膜、フォーム、ゾル、エアロゾル、顆粒、薄片、繊維、およびペースト形態が含まれる。しかし組成物は、丸薬またはカプセルに含めることもできる。医薬組成物はさらに、薬学的に許容される賦形剤を含むことができる。
【0042】
その他の有用な実施形態では、本発明の組成物が、筋肉内、皮下、または静脈内投与など、全身投与のその他の形に適した形をとる。そのような適切な形は、標準的な薬務に従い薬学的に許容される担体または賦形剤を有する溶液形態である。前記溶液形態は無菌であり、pHは適切に調節され緩衝される。静脈内使用では、調剤物が等張性になるように、溶質の合計濃度を制御すべきである。
【0043】
本発明のT−ChOSは、カプセルもしくは錠剤で送達することができまたは摂取用の水溶液中に溶解しもしくは懸濁することができる、粉末、薄片、または繊維状材料を含む、本質的に乾燥した形で都合良く提供することができる。そのような組成物は、実質的に前述の治療用キトオリゴマーのみから、即ちキトオリゴマーの約80〜100重量%の範囲内のキトオリゴマーのみからなってもよい。有用な実施形態では、組成物は、前記T−ChOSを20〜100重量%の範囲内で含み、この範囲には約25〜95重量%が含まれ、例えば約50から90重量%などである。
【0044】
本発明のT−ChOSの経口投与は、T−ChOSの分子構造がいくつかの要件を満たすことが必要であり;十分な生物学的利用能を有すること、即ち胃腸管の生体膜の端から端まで定量的に輸送する能力を有すること;GI管内で初期分解を生き抜くために、十分な生物安定性を有すること、および分解して系から排除される前に、体液中に効率的に分布されること、最後に、標的受容体との結合を通じて、適切な生物活性を保有しなければならないことが必要である。これらの要件を全て満たすには妥協が必要であり、一部または全ての基準は、最適には及ばないレベルでしか満たされない。これは、T−ChOSを確実に標的受容体に到達させ相互に作用させながら、吸収および生分解のハードルを克服することが可能な最良の可能性ある組成物を得るために、生成物最適化の概念に関して包括的な視点を必要とする。
【0045】
本発明の文脈において、「医療デバイス」という用語は一般に、ヒトまたはその他の動物の、疾患またはその他の状態の診断での使用、または疾患の治癒、緩和、治療、または予防での使用を目的とし、あるいはヒトまたはその他の動物の身体の構造または任意の機能に影響を及ぼすことを目的とした、器具、装置、道具、機械、仕掛け、インプラント、生体外試薬、またはその他同様のまたは関連する物品であって、構成部品を含めたもの、または付属品を指す。本明細書の文脈において、「生体材料生成物」という用語は、「医療デバイス」という用語と同義に使用される。
【0046】
本発明のキトバイオマー(ポリマーおよびオリゴマー)は、様々な目的の生体材料において特に有用である。従来のキトサンの有利な特徴(生体適合性、その他の成分と混合して、機械式インプラントや薬物送達装置などの医療デバイスに適した混合物を生成する能力)全てを示す他に、上述のように、体内でのCLPに対する高親和性が原因で、かなり高い溶解性と生物学的または治療活性を有している。
【0047】
生体材料の配合物は、様々なバイオポリマー(アルギネートおよびその他の多糖など)、コラーゲン、ヒドロキシアパタイトを含めたリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ナトリウムトリポリホスフェート、リン酸2水素ナトリウム、リン酸グリセロールナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、および様々な有機またはカルボン酸などの、その他の有機および無機成分を適切に含むことができる。
【0048】
本発明の生体材料は、生体材料組成物に含まれるキトバイオマーの性質から利益を得る、様々な医療デバイスで有用である。
骨およびその他の組織の再生では、2つの主なタイプの骨、骨梁骨および皮質骨がある。骨梁骨はスポンジ状であり、椎骨を含めたほとんどの骨の内部のバルクを構成し、一方、皮質骨は稠密で、骨の表面を形成する。小柱網は、骨内の血液形成要素を支える。
【0049】
「結合組織性骨化」という用語は、適正な誘発シグナルによって新しい骨に直接分化する、骨前駆細胞から生ずる新しい骨形成のプロセスを指す。骨化のこの経路は、特に頭蓋骨などの扁平骨の成長の際、胚性段階で生じる。
【0050】
「軟骨内骨化」という用語は、軟骨が最初に生じて最終な骨の枠組をもたらす、骨形成プロセスを指す。軟骨組織は、成熟骨組織に比べてその発達および維持には局所酸素濃度をそれほど必要とせず、したがって、血液供給系がその最終的な発達段階に到達しない場合であっても、軟骨が骨に取って代わることになる。軟骨は、血管新生がその進行段階に到達した後、新しい骨によって置き換えられるだけであり、発達した組織に対する酸素の必要不可欠な供給が保証される。骨形成のこのプロセスも、特に椎骨、長骨、胸骨などでの胚性段階中に典型的なものである。
【実施例1】
【0051】
高純度の部分的脱アセチル化キチンポリマー(キトバイオマー)の生成
1.1 脱アセチル化中に、キトバイオマー組成物の収量を増大させ、実質的に菌体内毒素のレベルを低下させるための、均質な脱アセチル化条件の使用
キチン粉末(1)を、15℃で50%NaOH(3)に添加し(2)(キチン/NaOHの比、1:15、w/w)、36rpmという一定速度(4)で1時間(5)混合した。引き続き、微粉砕した3〜10mmの氷(アルカリ/氷の比、1:3、w/w)(6)をアルカリスラリーに添加して、キチンを溶解した。キチンが溶解し、菌体内毒素がアルカリ溶液に完全に曝された2時間後、温度(7)を上昇させ、脱アセチル化反応を16℃で40時間実施した。脱アセチル化プロセスが終了し、内毒素が劇的に減少した後(<30EU/g)、pHをさらに3.8に調節した(8)。この後、一連の濾過ステップ(9)を行って、異物および溶解していないポリマーを除去した。ポリマーを、塩析法を介して析出することにより回収した。回収後、ポリマーを洗浄し、均質化した。最後に懸濁液を噴霧乾燥して(10)、精製されたポリマーを得た。このプロセスは、商業的に実現可能であり、完全に可溶性のキトバイオマー組成物の収率を、不均一脱アセチル化プロセスに比べて60%上昇させることになる。内毒素レベルは、このプロセス中に劇的に低下することになるが、その理由はおそらく、プロセス全体を通してキチン原材料がその結晶構造を維持する不均一脱アセチル化プロセスでの状況に比べて、内毒素分子がより多く苛性ソーダ溶液に曝され、かつ固体キチン構造内に固定され得る内毒素分子が、おそらくは反応媒体中の苛性ソーダから保護されるからである。
【0052】
括弧内の注釈番号は、下記のリストに従って変えることのできる方法ステップを表す
(1)粉末の粒度は2mm以下でもよい。エビ、カニ、コウイカ、ヤリイカ、オキアミなどを含めたキチンの供給源が適切である。
【0053】
(2)衛生要件を満たす反応器。
(3)アルカリの最終濃度は5から90%(w/w)に及んでもよい。最も好ましいアルカリは水酸化ナトリウムである。その他のアルカリも同様に適切であり、濃KOH、LiOH、Ca(OH)2、Na3PO4、およびNH4OHが含まれる。乾燥物質とアルカリとの比は、1:3から1:100に及んでもよい。アルカリの温度は2から35℃に及んでもよい。
【0054】
(4)混合速度は0から80rpmまで様々に変えてもよい。このプロセスに関して最も好ましい範囲は20〜40rpmである。
(5)脱アセチル化時間は、主にアルカリの温度および濃度に応じて0.5から1000時間に及んでもよい。
【0055】
(6)粉砕した氷のサイズは、0.5から50mmに及んでもよい。アルカリと氷との比は、1:1から1:30に及んでもよい。
(7)加えられる温度および時間の組合せに応じて、脱アセチル化温度は10から100℃に及んでもよく、最適な場合は5〜30℃であり、脱アセチル化時間は0.1から1000時間に及んでもよい。
【0056】
(8)この酸性化プロセスでは様々な酸を使用してもよく、高濃度のカルボン酸および高濃度の鉱酸が含まれる。塩酸が最も好ましい。HClの濃度は、0.01から37%(w/w)に及んでもよい。
【0057】
(9)限外濾過およびナノ濾過を含めた様々な濾過技術が適用可能である。
(10)乾燥は、凍結乾燥または噴霧乾燥器によって、あるいは任意のその他の適切な乾燥技術によって行ってもよい。
【0058】
1.2 菌体内毒素の低減をさらに増強するための、塩酸によるキチン原材料の前処理
この実施例は、キチン原材料の前処理の追加のステップを提供し、強塩酸(HCl)媒体にキチン粉末を溶解するステップと、溶解したキチン構造から菌体内毒素を効率的に抽出するステップと、その後、HClおよび任意選択の酸化剤(例えば過酸化水素)と接触させた、曝された内毒素を破壊するステップとを含む。さらに、その後の液体状態の脱アセチル化プロセス中、アルカリに溶解したキチンによって、HCl処理を生き抜いた内毒素のさらなる抽出および破壊が可能になる。この方法は、収集、保存、または輸送中に、その新鮮さを失いかつ細菌増殖に曝された原材料を処理する際に、特に有用である。
【0059】
詳細な製造プロセスの実施例
粉末状キチン(<150μm)(1)を、室温で30%塩酸(2)に溶解した(キチン/HClの比1:20、w/w)。10分後、過酸化水素を添加し(H2O2の最終濃度、2%、w/w)(3)、15(4)分間反応させ、次いでこの溶液を、75%IPAに流し込み(キチン溶液:50%IPA溶液は1:40であった)(5)、洗浄して中性pHにした。次いで析出物を、内毒素を含まない水で、70℃でさらに洗浄した(6)。過剰な水を除去した後、濃アルカリ溶液(アルカリの最終濃度は25%w/wであった)(7)をコロイド状キチンに添加した。次いで混合物を−25℃にした(8)。この後、コロイド状キチンを解凍し、溶解し、60℃で6時間脱アセチル化した(9)。脱アセチル化後、部分的脱アセチル化キチンを温水(70℃)に注ぐことによって回収し(10)、洗浄して中性pHにした。最後に、中和された懸濁液を、凍結乾燥器/噴霧乾燥器に移すことにより、乾燥物質が得られた。
【0060】
得られたキトバイオマー生成物の内毒素レベルは、一般に、LAL分析法によれば30EU/g部分的脱アセチル化キチンよりも十分低い。
1.3 部分的脱アセチル化キチン溶液の精製および塩析法によるポリマーの回収
本発明の組成物は、エビの殻などのキチン質原材料から適切に得ることができる。キチンは、部分的脱アセチル化キチンポリマーが得られるように、強塩基で脱アセチル化されることが有利である。または引き続き、材料は、可溶性キトバイオマーの収量を増加させるために、かつ精製前の菌体内毒素(EU)レベルを低下させるために、この実施例の1.1または1.2による生成物にすることができる。反応の時間およびキチンの濃度は、所望の脱アセチル化度に応じて変えてもよく、任意の特定の加工ユニットおよび特定の所望の脱アセチル化度に合わせて容易に最適化することができる。脱アセチル化反応は、得られた部分的脱アセチル化キチンを温水で洗浄することにより、または適切な酸を添加することにより、pHを中和することによって停止させる。次いで得られたポリマーを酸性溶液に溶解し、異物または不溶性物質を除去するためにこの溶液を濾過することにより、精製を行ってもよい。
【0061】
部分的脱アセチル化キチンポリマーを回収するには、濾過された溶液の温度を、最初に55℃よりも高く上昇させる。次いでpHを8よりも高く、好ましくはpH10〜11に調節し、最後に適切な塩を添加して、析出プロセスを開始させる。次いで温水を使用して、中性であり塩を含まない材料が得られるまで析出物を洗浄する。洗浄プロセスの後、適切な従来の乾燥方法を行って、材料を乾燥してもよい。
【0062】
この実施例は、高溶解性の部分的脱アセチル化キチン(平均脱アセチル化度が30から55%)を、そのような濾過済みポリマー溶液から有機溶媒を使用することなくどのように回収できるのかを教示している。任意選択の塩(NaCl)の添加は、商業的プロセスでのより容易な回収のために、析出物の緻密度を高めることにある。
【0063】
選択された実施例
1.3.1 43%DD部分的脱アセチル化キチン(Lot G060307P)1gを、水100gに分散させた。クエン酸(2g)を、ポリマーを溶解するために添加した。温度を60℃まで上昇させ、NaOH(35%溶液)を1滴ずつ添加して、pHを11に調節した。この結果、ポリマーが析出し、これを温水で洗浄してほぼ中性にすることができた。
【0064】
1.3.2 キチン1kgを用いるパイロット規模(Lot G060307P)では、キチンを最初に脱アセチル化し、洗浄し、1%クエン酸溶液に溶解した。この後、多段階濾過を行って、透明な溶液を得た。65℃に加熱した後、NaOH 350gを投入してpHを10.5に調節した。引き続き、NaCl 4.5kgを添加し、析出物の白色の塊を形成させた。析出物を、中性pHが得られるまで70℃の水で集中的に洗浄した。次いで析出物を均質化し、噴霧乾燥して、白色粉末状の部分的脱アセチル化キチンを生成した。析出を、下記の通り分析した:
乾燥粉末の平均粒度は5μm(分布は3〜10μm)であり、脱アセチル化度は43%であり、見掛け粘度は540cps(1%酢酸に溶かした1%の生成物)であり、濁度(1%生成物)<15NTUであった。
【0065】
図1は、70%脱アセチル化および94%脱アセチル化キトサンと比較した、この生成物(43%DD)の溶解度を示す。43%DDポリマーは、生理学的pH7.4で完全に可溶性であった(濁度に変化なし)。70%DDポリマーはpH7.4で一部溶解したが、94%DDキトサンポリマーは析出した(濁度>1000NTU)。
【0066】
結果は、キチンポリマーをアルカリおよび氷に溶解することによって、残りのN−アセチル−グルコサミンの分布を制御することができるように、均質な脱アセチル化を行うことができることを示す。この実験は、工業的に実現可能な規模で行うことができ、かつキチナーゼを加えることによって得られたキトオリゴマー調製物中のT−ChOSの収量が増加するように、この脱アセチル化法を使用できることも示す。
【実施例2】
【0067】
T−ChOSの生成および特徴付け
2.1 ロットG020418の生成;不均一ChOS試験ロット;同族体の定量および配列決定
生成
水酸化ナトリウム25kgを、80Lブレンダーに入れた水25kgに溶解し、60℃に加熱した。P.borealis(Genis ehf.)から得たエビの殻2.5kgを添加し、40分間撹拌した(15rpm)。次いでスラリーを水で冷却し、チーズクロスバッグ(200×40cm)に入れて10〜15分間洗浄した。キチンゲルを200Lブレンダーに移し、30%HClを添加することによってpHを4.0に調節し、100Lの体積が得られるように水を添加した。ファミリー18エンドキチナーゼを添加し(10000単位/kg基質)、ゲルを30℃で22時間撹拌した。pHを5.4に調節し、溶液を10分間80℃に加熱することによって、酵素を変性させた。冷却後、オリゴマー溶液(ChOS)を、280μmメッシュサイズの篩に通して注いだ。500Daのカットオフ膜0.72cm2を備えたDSS LabStak M20ナノ濾過ユニットを使用して、pH4.8で溶液を脱塩した。次いで入口空気温度が190℃であり出口空気温度が80℃であるロータリーアトマイジング噴霧乾燥ユニットを使用して、溶液を噴霧乾燥にかけた。微細な白色ChOS粉末2.0kg(80%)を収集し、室温で維持した。脱アセチル化度は、直接滴定によって判断した場合に37%(またはFA 0.63)であった。
【0068】
分析方法
BloGel P4ゲル透過クロマトグラフィー分析(GPC)
ChOS粉末の2.16g量を、pH4.2の0.05酢酸アンモニウム緩衝液180mLに溶解した。得られた溶液を、0.8μmおよび0.2μmの酢酸セルロース膜(Schleicher & Schuell)に通して順次濾過し、3000Daカットオフ膜(Amicon)に通して限外濾過した。濾液を凍結乾燥した。収量は0.74g(34%)であった。次いで得られた粉末(350mgのロット)を、Biogel P4、fine grade(BioRad、ミュンヘン、ドイツ)上でのゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって分離した。カラム寸法:5×200cm;移動相0.05M酢酸アンモニム緩衝液、0.23M酢酸でpH4.2に調節;流量60mL/時;屈折率検出器Shimadzu RID 6A。20mlの画分を収集し、適切に組み合わせ、小体積にまで濃縮し、最後に凍結乾燥した。
【0069】
同族体の調製−イオン交換クロマトグラフィー
GPCから得た凍結乾燥した画分4mgを、pH3.0の塩酸塩水溶液200μLに溶解した。溶液を、ナイロン膜(Nalgene)を備えた0.45μmシリンジフィルタに通して濾過した。同族体を、Resource S(Amersham Pharmacia Biotech、スウェーデン)上での高性能イオン交換クロマトグラフィー(HP−IEC)によって分離した。床体積:1ml;移動相:pH3.0の塩酸塩水溶液(A)、pH3.04の1M塩化ナトリウム水溶液(B);溶離プロファイル:0〜5分 100%A、5〜45分 100%〜50%A、45〜46分 50%〜0%A、46〜55分 0%A、55〜56分 0%〜100%A、56〜80分 100%A;流量60mL×h−1;UV検出器Jasco UV−MD−910。500μLの画分を収集し、適切に組み合わせ、floatalyzers(商標)(SpectraPor)で水に対して透析し(2L、4日間)、小体積に濃縮し、最後に凍結乾燥した。サンプルを、4mgのバッチでHP−IECにかけた。収量に関しては、結果および考察を参照されたい。
【0070】
2−アミノアクリドン(AMAC)によるChOSの還元的アミノ化
純粋なChOS 30nmolまたはChOS混合物60〜80nmolを、2−アミノアクリドンの0.1M酢酸/DMSO(v/v 3:17)溶液20μLに溶解し、手動で30秒間撹拌し、その後、シアノホウ水素化ナトリウムの1M水溶液20μLを添加し、さらに30秒間撹拌した。混合物を、90℃で30分間、暗所で加熱した。反応容器を−20℃に冷却し、反応混合物を凍結乾燥した。残留物を水1mlに溶解し、水1Lに対して48時間透析し、最後に凍結乾燥することによって、薄黄色の粉末が得られた。サンプルを直ぐに分析し、または−20℃で暗所に保存した。
【0071】
質量分析
凍結乾燥したAMAC−オリゴ糖誘導体を、メタノール/水(v/v 50:50)200〜500μLに再溶解した。この溶液のアリコート(0.5μL)を、30%エタノール水溶液に溶かした母材としてのDHB(15mg×mL−1)の溶液2μLと、標的上で混合し、穏やかな空気流中で液滴を乾燥した。母材の結晶化は、普通に自然に生じた。場合によっては、結晶化は、当初のサンプル溶液をメタノール/水(v/v 50:50)で約5倍に希釈した後にだけ、観察された。
【0072】
MALDI TOF質量スペクトルを、陽イオンモードのBruker Reflex II(Bruker Daltonik、ブレーメン、ドイツ)で記録した。イオン化では、窒素レーザ(337nm、3ナノ秒パルス幅、3Hz)を使用した。質量スペクトルの最適化では、レーザを、サンプルの中央領域または結晶縁の最も外側の端部に向けた。全てのスペクトルは、外部較正を使用して反射器モードで測定した(アンギオテンシンII)。
【0073】
ChOS同族体−同重体(isobar)の配列決定
MALDI TOF質量スペクトルで適切なシグナルを示す、DP8に対するDP3の全ての同族体について、他の箇所1に記述されている手順に従って配列決定をした。簡単に言うと、凍結乾燥したGPC画分F3〜F10それぞれの60〜80nmolを、2−アミノアクリドンで還元的にアミノ化することにより、還元末端にタグが付された同族体が得られた2(GPC画分F7−AMACのMALDI TOF質量スペクトルについては以下を参照のこと、その他については図示していない)。画分を、MALDIタンデム質量分析によって分析した。問題となっている同族体の一ナトリウム化擬似分子イオンを、質量分析器の4極子で選択し、衝突セル内で断片化することによって、非還元末端から形成されるA、B、およびCタイプのイオンと、還元末端からのX、Y、およびZタイプのイオンが得られた。還元末端のタグにより、Yタイプのイオンは、194Daの質量増加によって同定することができ、オリゴ糖配列は、配列系統樹を使用して還元末端から読み取ることができた。
【0074】
結果
表1は、各画分の各ChOSおよび同族体のDP、ならびに画分F1〜F10の質量分布を示す。表2は、ChOSの同族体の配列の配列分析によって見出された、同重体の配列を示す。
【0075】
DP5とDP7との間のChOSの主な化合物では、これらの結果を定量することができた(D2A3、D3A3、D2A4、D3A4)。
同重体の混合物に関する定量的情報を得るには、擬似MSを用いなければならなかった:サンプルを供給源内で断片化し(イオンの予備選択なしで)、断片イオンを質量分析器の4極子で選択し、衝撃セル内で断片化し、最後の断片化の質量スペクトルを記録する。
【0076】
最初の断片化は、イオンのいかなる予備選択もなしに実施されるので、サンプルは、純粋な同族体でなければならない。特に、分析物よりも低い質量を有するイオンは、MALDI TOF質力スペクトル内に存在すべきではない。
【0077】
そのような理由で、定量的配列分析の前に、GPC画分を精製する必要があった。GPC画分F6からF9の同族体を、陽イオン交換HPLCカラムでの電荷数によって分離した結果、純粋なD2A3(F6)、D3A3(F7)、D2A4(F8)、およびD3A4(F9)が得られた。表3は、GPC画分F6からF9のHP−IEC分離の結果をまとめている。
【0078】
純粋な同族体D2A3、D3A3、D2A4、およびD3A4を、2−アミノアクリドンで還元的にアミノ化して、還元末端にタグが付された誘導体を得た(D3A3−AMACのMALDI TOF質量スペクトルについては下記参照のこと、その他については図示していない)。誘導同族体について、擬似MALDI MSにより、上述のように配列決定した。
【0079】
同族体断片イオンの相対強度[%]を、評価ソフトウェアによって割り当てた。相対ピーク強度の再現性は、繰り返される断片化によって証明した。平均標準偏差は1%であることがわかった。図2は、異なる配列の断片イオンによって引き起こされたピークの強度を定量する、D3A3に関する配列系統樹を示す。Y2タイプのイオンでは、DA(7.5%)およびAA(92.5%)の相対量を、D1A1−AMACおよびA2−AMACの相対ピーク強度から直接読み取ることができた。
【0080】
Y3タイプのイオンでは、DDA(5.9%)およびAAA(6.5%)の相対量を、D2A1−AMACおよびA3−AMACの相対ピーク強度から直接読み取ることができた。ADAの相対量(1.6%)は、方程式[DDA]+[ADA]=7.5%から結論付けることができ、DAAの1つ(86.0%)は、方程式[DAA]+[AAA]=92.5%から得ることができた。
【0081】
Y4タイプのイオンでは、DDDA(0.9%)の相対量を、D3A1−AMACの相対ピーク強度から直接読み取ることができた。ADDAの相対量(5.0%)は、方程式[DDDA]+[ADDA]=5.9%から結論付けることができた。DAAAの相対量は、DAAA−AMACのみがA3−AMACを与えるので、6.5%であり、これに、6.5%の相対ピーク強度を割り当てた。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
D1A3−AMACの擬似MS3では、D1A1−AMACおよびA2−AMACの相対ピーク強度が、1.0%および99.0%である。D3A3−AMACのMALDIタンデム質量スペクトルでは、D1A3−AMACの相対ピーク強度が22.1%である。AADAは、断片D1A1−AMACを与えるD1A3(AADA、ADAA、DAAA)の唯一の配列である。その理由で、AADAの相対量が22.1%の1%=0.2%である。DADAの相対量(1.4%)は、方程式[AADA]+[DADA]=1.6%から計算することができた。ADAAの相対量(15.4%)は、方程式[AADA]+[ADAA]+[DAAA]=22.1%から計算することができた。最後に、DDAAの相対量(70.6)は、方程式[ADAA]+[DDAA]=86.0%から計算することができた。Y5タイプのイオンの場合、ADDDAの相対量は、ADDDA−AMACのみがDDDA−AMACを与えるので0.9%であり、これに相対ピーク強度0.9%を割り当てた。同じような考察により、DAADA(0.2%)、DADAA(15.4%)、およびDDAAA(6.5%)の割り当てが可能になる。
【0086】
D2A3−AMACの擬似MS3では、D2A1−AMAC、D1A2−AMAC、およびA3−AMACの相対ピーク強度が、2.6%、88.0%、および9.4%である。D3A3−AMACのMALDIタンデム質量スペクトルでは、D2A3−AMACの相対ピーク強度が82.0%である。AADDAは、断片D2A1−AMACを与えるD2A3(AADDA、ADADA、DAADA、ADDAA、DADAA、DDAAA)の最適な配列である。その理由で、AADDAの相対量は、82.0%の2.6%=2.1%である。DADDAの相対量(2.9%)は、方程式[DADDA]+[AADDA]=5.0%から計算することができる。D2A3−AMACの擬似MS3では、D1A1−AMACおよびA2−AMACの相対ピーク強度が3.9%および96.1%である。ADDAA、DADAA、およびDDAAAは、A2−AMACを与えるD2A3の最適な配列である。その理由で、ADDAA+DADAA+DDAAAの相対量は、82.0%の96.1%=78.8%である。この方程式から、ADDAAの相対量(56.9%)を計算することができる。DDDAAの相対量(13.7%)は、方程式[DDDAA]+[ADDAA]=70.6%から計算することができる。DDADAの相対量(0.5%)は、方程式[DDADA]+[ADDDA]+[DADDA]+[DDDAA]=18.0%から計算することができ、ADADAの相対量(0.9%)は、方程式[DDADA]+[ADADA]=1.4%から計算することができる。
【0087】
図3a〜3dは、同族体D2A3、D3A3、D2A4、およびD3A4の同重体の相対量を示す。この方法の再現性により、1%の未満の相対ピーク強度を決定することができないので、同重体は、計算量が1%未満の場合に図に含まれなかった。
【0088】
2.2 ロットG050421の生成;均質脱アセチル化プロセスによる改善されたT−ChOSの収量
均質キトオリゴ糖G050421の生成
脱アセチル化を、実施例1で述べたように行った。脱アセチル化プロセスの終了後、塩酸を使用してpHをさらに3.8に調節し、温度を35℃に調節した。ファミリー18エンドキチナーゼ(10000単位/kg基質)を溶液に添加し、加水分解反応を22時間続けて、加水分解を終了させた。この後、一連の濾過ステップを行って固体粒子を除去し、限外濾過ステップを行って、酵素タンパク質およびその他のポリマーの残遺物を除去した。最後に、溶液を噴霧乾燥することにより、粉末状の治療用キトオリゴ糖(T−ChOS)(G050421)が得られた。
【0089】
分析方法
Biogel P4のGPC分画を、前述のように行った。GPC画分のMALDI−TOF質量分析を、前述のように行った。
【0090】
結果
直接滴定による判定では、不均一脱アセチル化ChOSの脱アセチル化度が39%であり、均質脱アセチル化オリゴマー(G050421)では40%であった。
【0091】
不均一脱アセチル化オリゴマー(G020418)に関するオリゴマーピーク分布および同族体分析を、図4に示し、均質脱アセチル化オリゴマー(G050421)に関するものを図5に示す。ピーク分布における最も著しい差は、より長いオリゴマーで観察される。不均一脱アセチル化オリゴマーの場合、DP11から22(図4のピーク領域0)は、全材料の35.5%であり、その量は、DP11から22の増加と共に増加する。一方、均質脱アセチル化オリゴマーの場合、DP11から22(図5のピーク領域0から−3)は、全材料のわずか12.9%であり、その量は、DP11から22の増加と共に減少し、文献上はDP18またはそれ以上を残さない。これは、非常に活性なオリゴマー(DP5〜10)の値にも反映されている。均質オリゴマーは41%のDP5〜10を有するが、不均一オリゴマーは、わずか28%のDP5〜10を有する。
【0092】
これら2つの脱アセチル化方法による、オリゴマーに関する同族体分布を図6に示す。不均一オリゴマーの場合、均質オリゴマーの場合よりも非常に少ないDP4(A2D2およびA3D)およびDP5(A3D2)ならびにDP7(A3D4)およびDP8(A4D4)が存在する(図6)。
【0093】
まとめると、均質脱アセチル化は、不均一脱アセチル化よりも生物活性が高いChOSを与える可能性が高い。望ましくないより高いDP>15オリゴマーの生成の著しい減少は、この方法によって観察される。
【0094】
2.3 限外濾過によるT−ChOSの相対量の増強(ロットG051128)
T−ChOS(DP5〜15)の相対量を改善するために、追加の限外濾過ステップを行って、1kDaのUF膜(Helicon、Millipore)T−ChOS溶液を濾過し、濃縮し、小キトオリゴマー(DP2〜5)を大幅に減少させ、モノマーを排除した。浸透液を廃棄し、濃縮液を収集して噴霧乾燥した。
【0095】
試験材料の分析では、Beckman Goldシステムを使用してHPLCを実施した。分子量によってChOSを分離する(DP1、DP2など)TSK−オリゴカラム(TosoHaas、日本)を使用した。溶媒は5mM水酸化アンモニウム、pH10.0であり、流量は0.5ml/分、吸光度は205nm、注入体積は20μlであり、ChOS濃度は10mg/mlであった。
【0096】
図7は、限外濾過ステップ前後の各DPの相対量を示す。モノマーは除去され、より小さいオリゴマー(DP2〜5)が著しく低下している。
【実施例3】
【0097】
人体での治療用キトオリゴ糖の吸収
方法
キトオリゴマー
N−アセチルグルコサミンおよびグルコサミンからなるキトオリゴマーは、Genis、レイキャビク、アイスランドによって調製された。簡単に言うと、キチンをアルカリ中で部分的に脱アセチル化し、洗浄し、キチナーゼによりオリゴマーに加水分解した。オリゴマーを限外濾過し、脱塩し、噴霧乾燥して、微細な白色粉末にした。平均脱アセチル化度は47%(FA0.53)であった。オリゴマーおよび同族体の分析および定量を、血液の場合と同じ方法を使用して行った。このデータを使用して、血液中の種々の同族体の吸収度を比較した。
【0098】
全体的な血液サンプル処理
ボランティアの被験者に、4週間にわたって毎日、ChOS(Genis ehf;S041124−1K)1.8gを消費させた。血液サンプルを6週間以内に収集した。最初のサンプルは、ChOSの消費前に採取した。続いて4つのサンプルを、最初の消費から1週間後に開始して毎週採取した。サンプル6は、ChOSの消費を停止させてから2週間後に採取した。各サンプルの体積は、7.0mlであった。血液サンプルを、3000rpmで30分間遠心分離した。血清を収集した。メタノールおよび塩化ナトリウムを添加して、最終濃度をメタノール30%および塩化ナトリウム0.1mg/mlにし、その後、別の遠心ステップを行った。サンプル500μlを、3kDaのカットオフ膜に通して濾過した(限外濾過)。上澄みを3倍に満たした。適切な濾液を貯留し、メタノールを真空除去し、サンプルを最後に凍結乾燥した。
【0099】
MALDI−TOF MS
凍結乾燥したサンプル(約100μg)を、メタノール/水(v/v 50:50)100μlに再度溶解した。溶液のアリコートを、ターゲット上で、30%のエタノール水溶液(15mg*mg−1)に溶かしたDHBの溶液2μlと混合した。液滴を、穏やかな空気流中で乾燥した。質量スペクトルを、陽イオンモードのBruker Reflex II(Daltonik、ブレーメン、ドイツ)で記録した。イオン化では、窒素レーザ(337nm、3ナノ秒のパルス幅、3Hz)を使用した。全てのスペクトルを、外部較正を使用してリフレクタモードで測定した。モノアイソトピックピークを、全ての質量スペクトルにおいて標識した。
【0100】
MALDI−TOF MSによる同族体決定
凍結乾燥したサンプル(約100μg)を、メタノール/重水(v/v 50:50)100μl中に再度溶解した。10倍モル過剰なヘキサ重水素無水酢酸を添加し、それと共に氷状テトラ重水素酢酸を3滴添加した。溶液を、30℃で12時間撹拌した。等モル量のアンモニアを添加することによって、反応を停止させた。溶液を凍結乾燥し、アンモニア100μl中に再度溶解した。アンモニアの濃度は、N−アセチルグルコサミン単位(GlcNAcまたはA)のモル数に対して10倍モル過剰に設定した。溶液を、22℃で一晩撹拌した。アンモニアを真空中で除去した後、サンプルを凍結乾燥した。MALDI−TOF MSがO−アセチル基を依然として示す場合、凍結乾燥物を、水酸化ナトリウム水溶液(100μl)中に再度溶解した。水酸化カリウムの濃度は、GlcNAc単位のモル数に対して2倍モル量過剰に設定した。溶液を室温で10時間撹拌し、陽イオン交換樹脂(H+形)を添加することによって中和した後、濾過し、濾液を凍結乾燥した。
【0101】
MALDI−TOF質量スペクトルを、実施例4で述べるように採取した。相対シグナル強度の定量によって、混合物中の同族体の組成が得られる。
MALDI−TOF MSによるChOSの定量法
サンプルを、MALDI−TOF MSによる同族体決定で述べたように調製する。その後、標準物質を各サンプルに添加した。標準物質であるキチンオリゴマー(An)は、分析物と同じDP±1でなければならない。この標準物質の連続希釈物を使用した。分析物と標準物質との信号強度を比較することにより、分析物の濃度が得られる。
【0102】
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)
オリゴマーを、実施例2で述べたBiogel P4上でのGPCを用いて分離した。適切な画分を組み合わせた;体積を真空中で減じた後、一定質量まで凍結乾燥して、酢酸アンモニウムを除去した。
【0103】
高性能イオン交換クロマトグラフィー(HPIEC)
GPC分離から得られた同族体(およびオリゴマー)の混合物を、HPIECによって分析した。条件:固定相:Resource S(Pharmacia、ウプサラ、スウェーデン)、床体積1ml;移動相:塩酸pH3.5、塩化ナトリウム勾配0〜1M、5〜60分、流量1ml/分;装置:UV検出器(検出波長210nm)を備えたHPLC機器(Jasco、Gross−Umstadt、ドイツ)。HPLC画分を凍結乾燥した。時折り、画分を透析(Floatalyzer(登録商標)、SpektraPor、ドイツ)によって脱塩した。
【0104】
HPIECを用いた同族体の定量法
実験は本質的に、高速イオン交換クロマトグラフィーで述べたように行った。標準物質を各サンプルに添加した。標準物質は、分析物と同じ濃度範囲内になければならない。分析物の濃度は、標準物質と分析物とのピーク面積の比較から計算する。ピーク面積は、分析物分子中のアセチル基の数に対して線形相関を示す。
【0105】
結果
ChOSの消費前に収集された血液サンプルのMALDI−TOFは、ChOSのいかなるシグナルも示さなかった。
【0106】
1週間後
ChOS消費の1週間後の血液サンプルでは、オリゴマーのごく微量のDP2(A2同族体)およびDP3(D1A2同族体)が観察された(データは図示せず)。
【0107】
2週間後
ChOS消費の2週間後に採取した血液サンプルは、MALDI−TOF質量スペクトルによって判定したときに、ヘテロキトオリゴマーの明らかな徴候を示した。図8は、DP2〜DP5の同族体を示す;DP2(同族体A2)からDP12(同族体D7A5)までの同族体は、質量スペクトル内に明らかに認められた。様々な方法(方法の章を参照)による同族体の定量法は、消費から2週間後の全ChOS濃度が0.16mg/ml血清であることを明らかにした。全血液体積が5Lと仮定すると、吸収されたChOSの総量は、0.80gまたは日用量の44%である。
【0108】
3週間後
MALDI−TOF MSは、DP2からDP12までのオリゴマーについて明らかにした(図9)。図10は、消費された天然サンプルと3週間後の血液サンプルとの、オリゴマーと同族体の相対質量分光分析シグナル強度を比較する。当初の混合物と比べると、血液サンプル中において、より高いアセチル化同族体(より高いFA値)への明らかなシフトが観察される。3週間後の血液サンプルでは、DP15までの微量の同族体が見出された。様々な方法(表4および方法の章を参照)による同族体の定量法は、消費から3週間後の全ChOS濃度が0.19mg/ml血清であることを明らかにした。
【0109】
【表4】
【0110】
結論
毎日1.8gのChOSを消費することによって、血流中へのこれらの糖の吸収がもたらされる。微量のDP2およびDP3オリゴマーは、消費から1週間で明らかである。最大84%の摂取は、消費開始から2週間で達せられ、ChOSの最高水平域(100%)は、消費開始後3週間で達せられる。全体的な最大濃度は、血液ml当たり約190μgであり、毎日の投与の53%最大吸収率を示している(5L血液体積)。DP2〜7のオリゴマーは、血液ml当たり14〜40μgの濃度(むしろ等しい)であることがわかる。DP8〜9のオリゴマーは、3〜10μg/mlのより低い濃度であることがわかる。DP15までのオリゴマーは血液中に見出された。消費された天然サンプル中および血液中に見出された同族体の比較によって、より高いアセチル化度の同族体が、血流中に好ましく浸透していることが明らかにされる。
【0111】
消費停止から2週間後、もはや血流中にはキトオリゴマーが検出されない。
T−ChOS組成物は、FA値など、異なる組成を含むヘテロオリゴマー組成物に比べて、生物学的利用能がより高い傾向があると結論付けられる。これは、T−ChOS組成物が、その他のヘテロオリゴマー組成物に比べてより高い治療活性を含むという結論を裏付けている。
【実施例4】
【0112】
キチナーゼA活性の遮断薬としてのT−ChOS同族体;T−ChOS組成物の生物安定性に関するモデル
材料および方法
キトオリゴ糖(ChOS)(ロットNo.G020418およびG020218)を、陽イオン交換クロマトグラフィーまたはゲル透過クロマトグラフィーによって、あるいは両方の方法の組合せによって、同族体画分に分画した。生成物を凍結乾燥し、MALDI−TOF質量分光分析によって構造および配列を分析した。Genisから得た3つのその他の未分画ChOSロットについても、同じMALDI−TOF法によって分析した(ロットNo.G040823、G050421、およびG050421UF;UFは、DP≦5の含量を減少させるための、1kDa膜を通した限外濾過を表す)。
【0113】
限外濾過は、均質に脱アセチル化された部分的脱アセチル化キチンロットの加水分解によって調製された、バッチG050421に関して実施した。簡単に言うと、ChOS 16gを180mlの蒸留水に溶解し、Amiconセルを使用して、1kDa再生セルロース膜(Millipore、USA)でダイアフィルトレーションを行った。保持された溶液の最終体積は65mlであり、0.582gのChOSが得られた(収率=33%)。全透過液体積は970mlであった。全透過液と最終の濃縮液との両方を、実施例4に記述されるようにP4BiogelクロマトグラフィーおよびMALDI−TOF質量分光分析によって分析した。最終的な濃縮液を凍結乾燥し、これをG050421UFと呼ぶ。
【0114】
霊菌(S.marcescens)から精製されたキチナーゼA調製物を、標準的なファミリー18キチナーゼとして使用し、4−メチルウンベリフェリル−β−D−N,N’−トリアセチルキトトリオシド(4−MU−A3)、キチンテトラマー(A4)類似体を、標準的なキチナーゼ基質として使用した。
【0115】
標準的なキチナーゼA溶液は、0.1mg/ml BSA中に0.5nM(500pM)であり、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)(Chit−A sol.)および基質溶液は、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶かした40μMの4−MU−A3であった。
【0116】
純粋な各ChOS同族体の種々の濃度(通常、0、25、50、100、200、400、および800μM)を、基質緩衝液中に作製した。アッセイでは、Chit−A溶液25μlを基質/遮断溶液25μlと混合し、37℃で10分間インキュベートした。反応を、1.95mlの0.2M重炭酸ナトリウム緩衝液(Na2CO3)で停止させた。生成物、4−メチルウンベリフェロン(4−MU)の形成を、Perken−Elmer LS 50B蛍光高度計で各反応ごとに読み取った。励起波長は380nmであり(5nm調節スリット)、発光波長は460nm(4nm調節スリット)であった。各反応を、3回読み取った。遮断を評価するために、非線形当てはめ、f=y0+a*exp(−b*x)を使用して(式中、xはキチナーゼの特異的活性に等しく、fはオリゴ糖濃度(μM)に等しい)、50%阻害濃度(IC50)を各ChOS同族体ごとに計算した。各同族体の親和性を、IC50の逆数として計算した。使用した式は、1/IC50×1000であった。
【0117】
結果および結論
キナーゼAは、pH5.5で最適の活性を有するにも関わらず、遮断実験に関するpHは、pH7.4に調節された。これは、pH5.5で行われたより早期のパイロット実験で、ChOS同族体の低遮断活性が示されたので、ChOSのアミン基をプロトンから解放するために行った。またこのpHは、血液およびその他の生理学的流体の生理学的pHにより良く似ており、人体でのオリゴ糖の振舞いをより良く反映している。
【0118】
図11は、キチナーゼ活性の典型的なChOS遮断を示す。得られるIC50は、A4D2同族体に関して17μMと計算された。表5に、DP、同族体、IC50、試験がなされた全ての同族体に関して計算された親和性および配列をまとめる。図12は、試験がなされた各同族体の計算された親和性を示す。図13は、図12と同じ内容を示し、それと共に各同族体を含む全ての配列(同重体)も示す。異なる同族体の遮断活性を考慮すると、2つの主な規則を導き出すことができる。遮断は、DPが増加するほど強力になり、それと同時に、より多くのアセチル化同族体(分子当たり、より多くのA単位)がより高い親和性を示す。したがって、D6、D9、およびD12は全て、不十分な遮断薬である。A4D2、A4D3、A5D7、およびA6D9(DP6〜12)は、最も強い遮断性を示した。したがってこれらの同族体は、キチナーゼ活性側に対する見掛けの親和性により、最も高い生物活性を有すると見なすことができる。DP12(A5D7)は、最も高い親和性を示し、DP15(A5D7)では、親和性がそれほど著しく上昇しない(図12および13)。ホモオリゴマーA6は、MALDI−TOFによって判定されるように、キチナーゼAによってA3、A2、およびA1に切断した。
【0119】
しかしキチナーゼAは、MALDI−TOF質量分光分析によって判定されるように、アッセイ条件下(pH5.5およびpH7.4)で試験されたヘテロオリゴマーのいずれも切断せず、同族体が良好な生物安定性を有することが示された。この高い生物安定性の理由は、ChOS生成中のファミリー18キチナーゼによる、基質の完全な加水分解である。
【0120】
未分画ChOS調製物を同じ酵素系で試験した場合、IC50は、G040823に関しては70μg/mlであり(図14)、G050421に関しては105μg/mlであり、限外濾過したG050421UFの関しては67μg/mlであった。これは、ChOS混合物中での同族体の遮断活性および生物安定性を評価するのに、この方法を使用できること、およびこの方法では、分析前に同族体に分画する必要がないことを実証している。したがってこの方法は、ヘテロキトオリゴ糖の種々の同族体の混合物を含むChOS調製物の、平均遮断活性を評価するのに使用することができる。そのような評価は、酵素の活性部位に対する平均結合親和性、および含まれる同族体の平均生物安定性の指標を与えることが可能である。
【0121】
【表5】
【実施例5】
【0122】
ヘテロオリゴ糖と39kDaヒト軟骨糖タンパク質(HC gp−39)との結合
HC gp−39はキチナーゼ由来のタンパク質であるので、キチンオリゴマー(ポリマーキチンの他に)は、このタンパク質に対して最も強い親和性を示す。一方、キチンオリゴマーは、人体にも見出される活性ファミリー18キチナーゼによって素早く切断される。T−ChOS組成物などのヘテロキトオリゴ糖(AおよびD単位からなる)は、キチンオリゴマー(A単位またはホモオリゴ糖のみ)よりも著しく高い生物安定性性を有する。したがって本実施例の目的は、HC gp−39に対するChOSの親和性が、FAによって、さらにはヘテロオリゴ糖のDPによってどの程度の影響を受けるか調査することであった。
【0123】
材料および方法
ヘテロキトオリゴ糖の定性的および定量的配列分析は、前述のように(実施例4)行った。
【0124】
親和性の研究
ChOSとHC gp−39との非共有複合体の親和性を、結合条件下で、タンパク質の内因性トリプトファン蛍光の変化を利用して分析した。蛍光強度の変化は、リガンドで誘発されたトリプトファン残基の溶媒カバーの変化によって引き起こされ、糖濃度と正に相関する。
【0125】
HC gp−39を、1mMジチオトレイトールを含有する25mMトリスHCl緩衝液pH7.4に溶解して、最終濃度1.00μM(タンパク質溶液)にした。異なる濃度の同族体を、1mMジチオトレイトールを含有する25mMトリスHCl緩衝液pH7.4中に溶かして調製した(糖溶液)。各同族体ごとに、4つの異なる濃度を調製した:溶液I 1.3〜2.0μM、溶液II 6.5〜16.0μM、溶液III 52.0〜80.0μM、および溶液IV 130.0〜200.0μM(濃度は、同族体間で異なった)。アッセイでは、タンパク質溶液50μlおよび各糖溶液(溶液I〜IV)50μlを、サーモシェーカーで15分間、25℃で別々にプレインキュベートした。その後、サーモスタットで調節したタンパク質溶液50μLを、糖溶液50μLと(溶液I〜IVを続けて)混合した。混合物を、サーモシェーカーで、25℃で7分間インキュベートした。蛍光を、Perkin−Elmer LS 50B蛍光分光計(Perkin−Elmer、Uberlingen、ドイツ)で各反応ごとに読み取った。励起波長は295nm(5nmの調節スリット)、発光波長は340nm(10nmの調節スリット)であり、カットオフは290nmであった。各反応について、3回測定した。
【0126】
解離定数の計算
生の蛍光データから、ブランクの蛍光を差し引いた。F−F0を、同族体の濃度に対してプロットし、データを、非線形回帰により、SigmaPlot(登録商標)ソフトウェアを用いてワンサイト飽和モデルに当てはめて、結合等温式を得た。
【0127】
y=Bmax×x/(Kd+x)
Bmax:HC gp−39の飽和結合ドメインに関する蛍光強度
Kd:解離定数。
【0128】
KdとFAとの間の相関
A単位の数に基づく一連のDP6同族体(D6、D3A3、D2A4、およびA6)に関する解離定数のデータを、非線形回帰(SigmaPlot(登録商標)ソフトウェア)により2パラメータ双曲線形減衰に当てはめた。
【0129】
y=a×b/(b+x)
相対親和性とFAの間の相関
解離定数のデータを相対親和性に変換し、A6に関しては100%の相対親和性であり、D6に関しては0%の相対親和性であった。D3A3およびD2A4の相対親和性を、この仮想スケールに従って計算し、A単位の数に対してプロットした。データを、非線形回帰により(SigmaPlot(登録商標)ソフトウェア)2パラメータ単一矩形双曲線関数に当てはめた。
【0130】
y=a×x/(b+x)
結果
親和性研究の前に、本実施例で使用した全てのChOSを、その純度および配列組成に関して分析した。キチンオリゴマーA6(生化学工業(株)、日本)を精製し、分析した後に親和性の研究を行った。全てのオリゴマーについて、その純度をチェックした。表6は、試験がなされたChOSの配列組成を示す。
【0131】
ChOSとHC gp−39との複合体の親和性を、タンパク質の内因性トリプトファン蛍光を使用して分析した。蛍光強度の変化は糖濃度に依存しており、非結合条件下での、トリプトファンの表面を覆う溶媒分子の再配列によって説明される。24濃度依存性蛍光データを、非線形回帰によりワンサイト飽和モデルに当てはめた(SigmaPlot(登録商標)プログラム、図15参照)。D6、D3A3、D2A4、A6、およびD5A6に関して見出された解離定数は、全て、マイクロモル範囲内にある(図16)。
【0132】
予測されるように、解離定数に関する値は、ChOSのFAの上昇と共に低下する。一連のDP6同族体(D6、D3A3、D2A4、およびA6)に関する、FAの上昇に伴う解離定数の低下は、線形関数ではない。データは、双曲線型減衰関数に最も良く当てはまる(y=a×b/(b+x);a:419.932;b:0.3839;R2:0.9986;図17)。図17の差し込み図は、相対親和性[%](D6=0%およびA6=100%)を示し、D3A3に関する最大親和性は90.8%のままである。
【0133】
また解離定数の値は、D3A3(FA 0.5;Kd 51.1μM)およびD5A6(FA 0.55;Kd 6.9μM)の比較が示すように、DPおよび定数FAの上昇と共に低下する。興味深いことにKd値は、A6(6A単位;Kd 13.6μM)およびD5A6(6A単位;Kd 6.9μM)の比較が示すように(D5A6のKdは、D3A3に関するKdの14%である)、A単位の数は一定の状態でD単位の数が増加すると共にさらに低下する。
【0134】
【表6】
【0135】
結論
ChOSは、マイクロモル範囲内の親和性(解離定数)でHC gp−39と結合する。親和性は、FAおよびDPの増加と共に、さらにA単位数が一定の状態でのD単位数の増加と共に、増大する。一連のDP6同族体の場合、FAの50%低下(A6□D3A3)によって、わずか9.2%の低下を親和性に引き起こす。したがって、FAが0.5から0.75のChOSは、人体におけるHC gp−39の最適な結合パートナーである。これらは最大結合能力の90+%を回復し、十分なD単位を含有して(したがってD−D、D−A、A−D結合)、人体において著しく増大した生物安定性を示す。これらの化合物は最適な治療活性をもたらし、したがって本明細書では、治療用キトオリゴ糖(T−ChOS)と呼ぶ。
【実施例6】
【0136】
キトバイオマー成分の脱アセチル化度が、リン酸カルシウム−キトバイオマー複合体の性質に及ぼす影響
キトバイオマー/リン酸カルシウム複合体は、固体画分(5%のキトバイオマーまたはキトサン(80%DD)、リン酸カルシウム、およびミネラルを含有する)と、これに対応する量の酸性媒体とを混合することによって調製した。表7に、この実施例で試験をした組成物をまとめる。混合後のペーストの特徴は、スポンジ状で弾性があり、硬化時間は、DDが増大すると共に著しく短縮された。機械的強度も、DDの増大と共に(40%DD<<70%DD<80%DD)著しく増大した。
【0137】
図18に示すように、破砕表面は多孔質であり、複合体にはマクロ細孔(直径が50μmよりも大きい細孔)が豊富に見られる。
種々のタイプ(またはサイズ)の結晶が、種々の脱アセチル化度のポリマーによって調製された複合体内に観察された(図19)。部分的脱アセチル化キチン(40%DD)を有する複合体は、棒状結晶または粒子で占有されており(図20(a))、一方、80%DDキトサンを有する複合体(図20(c))は、プレート状の結晶が稠密に充填されていた。70%DDキトバイオマーを含む調製物では(図20(b))、その結晶は、40%DDキトバイオマーと80%DDキトサン複合体との中間体であり、棒状およびプレート状の両方の結晶を含有している。これは、キトサンの脱アセチル化度が、複合体における結晶形成に影響を及ぼし、70%DDで、棒状からプレート状の構造に明らかにシフトすることを実証している。この差は、キトサン(80%DD)と比較したときに、40〜70%DDキトバイオマーが有するより高い水結合能力に関係している可能性がある。これは、水の利用可能性に影響を及ぼし、したがって複合体における結晶の発達に影響を及ぼす。
【0138】
複合体における結晶形成の差は、複合体の強度およびその生分解性に影響を及ぼす可能性があるので、特に重要である。
この実施例は、キトバイオマーまたはキトサンの脱アセチル化度によって、複合体の強度をどのように操作できるかを示している。これは、複合体の足場の生分解性を制御するのに使用することができ、即ち複合体に侵入するための、マクロファージのような遊走細胞および破骨細胞の進入が制御され、即ち骨発達に必要な血管新生を生成する軟骨および骨前駆細胞ならびに上皮細胞が侵入するための細孔が形成される。
【0139】
【表7】
【実施例7】
【0140】
ラット大腿骨における軟骨内軟化による骨治癒
80匹のメスラットを使用して、リン酸カルシウム(CAP)を有する5%キトバイオマーの複合体の影響をチェックした。動物の全グループを3つのサブグループに分けた:I.対照(未処理);II.リン酸カルシウムで処理;III.5%キトバイオマーを含有するCAPで処理。キトバイオマーおよびCAPを、手術室で一緒に混合し、パン生地状のコンシステンシーにした。
【0141】
全ての動物に麻酔をかけ、その大腿骨の中央骨幹で露出させた。単皮質的ドリルホールを実現するために、圧縮空気を介して2mmドリルを使用した。ドリルを骨髄腔内に侵入させ、新しいホールにCAPのみを充填し、または5%キトバイオマーを有するCAPを充填した。ラットの1つのグループでは、ホールをそのままにし、その一方で全ての動物において、局所出血を制御した。筋肉およびその上の皮膚を層ごとに縫合し、その動物を、個々のケージ内で自由に動くままにした。一部の動物では、皮質に侵入させること(完全に)および侵入部位の当初の直径を5mmまで広げることの両方によって、局所損傷を意図的に拡大させた。これらのケースでは、骨ホールが十分に確定されておりかつ損傷部位で対向する皮質骨に損傷を与えることのないその他の動物群に比べ、大きな骨欠損が生ずると考えられた。
【0142】
上述の3つのサブグループをさらに分け、術後2、3、4、および5週間で犠牲にした。犠牲後、全ての標本を巨視的に検査し、その後、顕微鏡検査用に処理した。
結果
グループI:対照 未処理動物(単一ホール)
2週間で、骨ホールの開口は新しい骨の不規則粒子の島を含有したが、それでもホールは、骨の外側の隣接組織に対して十分に封止されなかった。また、新しい骨髄組織が、損傷領域内で明らかになった。3週間で、骨の薄層が骨ホールの橋かけをしていることが観察された。損傷部位では、新しい骨梁骨がほとんど明らかにされなかった。4週間で、上記にて観察されたパターンがさらにより明らかになった。新しい骨橋は脆弱のようであり、それと同時に新しい骨梁骨がその下にあった(図21)。かなりの亀裂が、手術部位の当初の大腿骨皮質に見られた。5週間で、骨ホールを封止する新しい骨橋は、依然として脆弱な組織のままに見え、骨髄は明らかではないが、その一方で、皮質骨は、骨細胞の損傷および死を表す多数の空の裂孔明らかにした。
【0143】
グループII:CAP処理動物(単一ホール)
2週間で、組織応答は骨損傷部位に限定され、CAPの埋込みペーストの下にある骨髄腔内での、多数の新しい骨小柱で表された。大きな塊のCAPが、骨ホール内のその埋込み部位に見られた。皮質縁の外側、即ち骨膜に沿って、細胞応答は見られなかった。3週間で、応答パターンは上述のパターンと同様であったが、より多くの骨組織が、ホールの「橋かけ」に関与した。4週間で、新しい骨橋が、損傷骨髄を外部環境から切り離し、より組織化されるように見え、連続層および健康な骨として見える(図22)。さらに、当初のホール部位の下に、新たに発生した骨髄組織が、散乱した骨梁に沿って明らかになった。その時間間隔では、埋め込まれたCAPの残遺物をもはや確認することはできなかった。5週間で、概して、先の2週間で見られた発生パターンが続けて生じた。新しい骨橋の再確立が終了したようであり、それによって、回復した骨髄組織が周囲組織から切り離された。そのときまでに、新しい骨髄組織は明らかであるのに対し、骨髄腔内の骨梁は、その内部の多数の亀裂を示した。
【0144】
グループIII:キトバイオマーCAP処理動物(単一ホール)
2週間で、損傷部位は、新しい骨髄組織と一緒に新しい軟骨および骨形成の形をとる、組織反応の明らかな徴候を示した(図23)。侵入部位は、既に完全に閉じられた。その時間間隔で見られる独自の特徴は、十分に発達した新しい骨梁の網状構造によって占有される、当初の骨髄組織の著しい応答であった。後者を、単核細胞、脂肪細胞、および毛細血管からなる骨髄の豊富な組織内に埋込み;追加の独自の特徴は、当初の皮質組織内の細胞応答に関係していた。これは、皮質そのものの内部の多数の細胞−骨細胞、結合組織細胞、および毛管の外観によって明らかにされた。3週間で、骨橋が終了した。この橋は、ドリルホールの両側にある、当初の皮質骨に接続される、新しい骨梁網状構造からなっていた。骨髄腔内では、新しい骨梁骨が、当初の皮質の内面に接続された。十分発達した骨髄組織が明らかであった。5週間で、骨梁骨の固い橋が侵入部位を完全に封止しており、骨梁骨の新しい「ガードル」が、当初の皮質を取り囲んでいた。キトバイオマーの残遺物は、当初の埋込み部位に依然として見られた。図24は、術後4週間での、新しく健康な骨組織の組織像を示す。
【0145】
大きな骨欠損
2週間で、1つの皮質に誘発されかつCP+キトバイオマーで処理した、より大きい欠陥(5〜6mm)について、検査をした。そのときまでに、全骨髄腔は、侵入ホールを介して連続している大きな塊の新しい骨梁骨と、皮質の外面にある骨梁骨の新しい塊を明らかにした。当初の皮質のほとんどは、皮質の外面に直接連絡している新しい骨梁骨層に包まれた。CAPのみで処理された同様の場合に見られる線維性骨とは対照的に、骨髄腔内の新しい骨梁は、より組織化されかつより稠密であるように見えた。その領域における大腿骨の当初の皮質層は、骨細胞を阻害する多数の裂孔を明らかにした。赤血球を含む毛管も、皮質内に見られた。同じ実験グループ(2週間、キトバイオマー、大きな欠損)の別の動物は、大腿骨の輪郭の外側に、大きな塊の軟骨を示した。この特徴は、骨膜内の前駆細胞に対するキトバイオマーの誘導性刺激の結果と考えられた。新しく形成された軟骨は、その後、鉱質化され、軟骨内骨化の活性座位に変換された。大腿骨の外側の新しい骨の形成は、当初の大腿骨に接続される外骨の発生で終わる、非常に広い領域で行われた。
【0146】
3週間で、本発明者等は、ドリルが両方の皮質を通り抜ける場合について検査した。無傷の皮質の比較的大きい小片が、当初の骨からはるかに離れた別個の部分として見出された。疑う余地なく、観察される最も顕著な特徴の1つは、皮質および当初の大腿骨皮質の両方の、切り離された小片の骨膜に由来しかつそこに結合されたままの、大きく新しい塊の軟骨であった。新しく形成された軟骨は、骨髄腔内で、その新しい軟骨状組織との連続性を保っている。新しい軟骨は、この組織に特徴的な組織分化の全ての段階を明らかにした。軟骨前駆細胞から始まって、若い軟骨芽細胞、次いで成熟軟骨細胞、次いで肥大性軟骨細胞、次いで基質の鉱質化が行われ、その後、軟骨内タイプの骨化に非常に特徴的な骨化プロセスが行われる。
【0147】
上述のプロセス全体は、わずか3週間続くが、これは、骨膜および骨髄組織の両方において前駆細胞から新しい軟骨を誘発させるという、キトバイオマー(5%)の限りない可能性を示している。これは、あたかもキトバイオマーが、特により広くかつ複雑な損傷の場合に強力な骨誘導的可能性を有するようであり;自然のプロセスでは、当初の組織、即ち骨の、本来の再生をもたらすプロセスを介して危険な損傷を克服することができず;しかしむしろ、癒着不能に終わる治癒プロセスのみ可能になる。
【0148】
さらに、キトバイオマーの担体として働くCAPは、独自に、キトバイオマーで処理された標本に見られる現象を実現することもできなかった。CAPは良好な骨誘導性材料であるが、最初に軟骨形成で、さらにこれに続く後者の骨化で示されるキトバイオマーが有する誘導能力に欠けている。
【0149】
まとめると、成体メスをモデルとして使用する生体内実験では、キトバイオマーが、BMPの場合に非常に良く似ている骨誘導的性質を有することが見出された。その目標は、適切なトリガーによって最終的には骨化する軟骨細胞に分化する、骨膜、骨内膜、および骨髄組織内で遺伝的に決定された細胞である。本発明の研究で使用された濃度:5%は非常に潜在性が高いようであり、上記知見を得るのに必要とされるキトバイオマーの最適なパーセンテージを決定するために、用量依存的な研究が必要不可欠である。
【0150】
骨切片の顕微鏡観察中に偏光を使用することにより、コラーゲン線維(I型コラーゲン)の向きを分析した。無傷の骨では、これらの線維が規則的な向きを有しており、それに対してより「原始的な」胚型の骨では、この向きが不十分である。図は、線維が規則的な向きを有することを示しており、これは、生ずる骨形成が、軟骨内骨化経路を辿ることを示している。マクロファージは、CAP−キトバイオマー複合体を侵襲し、その結果、新しい軟骨および骨組織に置き換えられるので、キトバイオマーが徐々に分解されることが示される。
【0151】
結論
まとめると、成体メスラットをモデルとして使用する生体内実験では、キトバイオマーが、BMPの場合に非常に良く似ている骨誘導的性質を有することが見出された。骨形成は、組織を表す図によって実証されるように、軟骨内骨化経路を辿る。軟骨内骨化のプロセスは、骨形成前の軟骨形成を特徴とする。軟骨形成は、骨形成段階とは対照的に酸素を必要とせず、したがって、軟骨から骨への変換を引き起こすことができる前に、新しい血管を形成することが必要である。
【0152】
キトバイオマーとの反応は、キトバイオマーインプラント内での新しい軟骨組織の形成と、新しい軟骨内での新しい血管組織の豊富な形成とを特徴とし、その結果、キトバイオマーが新しい組織に代わり、キトバイオマーの残遺物だけがインプラント内に検出される。さらに、軟骨細胞は、キトバイオマーの残遺物付近に形成され、鉱質化した軟骨が、新たに形成された骨組織に隣接して検出されるが、これは、新しい骨形成が軟骨内骨化経路を辿ることを裏付けている。キトバイオマーは、骨髄組織内ならびに骨膜内の両方で、骨形成原細胞に対して誘導的性質を有する。軟骨細胞は、骨形成が生ずる前に軟骨を形成し、この軟骨細胞は、骨芽細胞−軟骨細胞の境界で、II型コラーゲンを発現する肥大性軟骨細胞に最終分化し、血管原性因子を分泌し、それによって、石灰化した軟骨を鉱質化する。
【実施例8】
【0153】
II型コラーゲン誘導性関節炎のラットモデルを使用した、リウマチ様関節炎におけるT−ChOSの影響
材料および方法
T−ChOS組成物の60%以上を構成するキトオリゴマーの調製物を、実施例2に従ってGenisにより生成した(ロットG051128)。図25は組成を示す。この研究の被験動物は、研究の0日時点で体重が159〜179g(平均171g)の、メスのルイスラットであった。動物を、尾の基部に異なる番号を付して識別し、グループおよび動物番号を明らかにした。無作為化後、全てのケージに、プロトコル番号、グループおよび動物番号を、適切なカラーコードと共に付した。
【0154】
動物(関節炎の10/グループ、正常な4/グループ)を、4〜5/ケージで収容し、イソフルランで麻酔をかけ、2mg/mlのウシII型コラーゲンを含有するフロイント不完全アジュバント300μlを、第0日および6日目に尾の基部および背部の2カ所に注射した。水中でのT−ChOS処理を、研究の第0日に開始し、第0、6、9〜17日(体重計量日)に濃度調節を行いながら、17日間にわたって継続した。
【0155】
実験グループを、表8に示す。
【0156】
【表8】
【0157】
試験がなされた主なパラメータは、ラットの後足の左右の足関節の直径であり、炎症期間中は毎日測定した。問題とされるその他のパラメータは、第17日目に動物で測定された組織学的スコアであった。組織学的評価は、足関節および膝関節で行った。これらの関節を、半分長手方向に(足関節)または前額面(膝)で切断した。サンプルを保存し、石灰質を抜き(5%ギ酸)、等級付けされたアルコールおよび清浄剤で処理し、パラフィンを染み込ませ、埋込み、切断し、トルイジンブルーで染色した。全ての動物から得た全ての組織を、顕微鏡で検査し、その観察内容をコンピュータ支援データ検索システムに入力した。
【0158】
炎症に対するT−ChOSの影響を、足関節の直径のデータに関するANOVAおよびt検定(パラメータまたは非パラメータ検定)を利用して分析した。
結果
図26は、炎症(関節炎スコア)をモニタする主な方法を示す。左右の足関節に関する足関節直径を、第9日目から毎日測定した。図27は、コラーゲンが注入されたがその他の処理を全く行わないラットの、RAスコアを示す。炎症は、10日目に検出され、第15〜17日までに徐々に増大する。
【0159】
図28は、初期の足関節炎症率に対する、種々の用量のT−ChOSの影響を示す(第10〜12日)。AWグループ(0用量)からA0.25グループまで、明らかな用量依存的な影響があり、炎症率の減少は58%であり、非常に有意であった(p<0.01)。次に高い用量では、その影響が徐々に消失した。
【0160】
図29は、後期関節炎症率(第12〜17日)に対する、種々の用量のT−ChOSの影響を示す。初期に見られた用量依存的な影響は、消失した。
足関節炎症の全線形相の分析(第9〜15日)も行った。その期間の炎症率の有意な低下を示した唯一のグループは、A0.25グループであり、その影響は28%であった(t検定;p<0.05、表9参照)。
【0161】
第17日目の組織学的炎症および損傷スコアでは、最も活発なグループに関する主な結果を表9にまとめる。これらはA0.25であった。骨吸収(骨組織の崩壊)は48%減少するが、これは、全ての組織学的パラメータに対して最も強い影響を及ぼした。図30は、明らかな用量効果を示すが、A0.5グループは、相から外れているようである。これらは、炎症において28%の有意な減少を示し、炎症組織での瘢痕組織形成(パンヌス)では40%の減少を示した。T−ChOSにより、軟骨損傷は29%減少したが、この影響は統計的に有意ではなかった。最後に、組織病理学的スコアには有意な減少(33%)があったが、この因子は、各ラットごとの、炎症、パンヌス、軟骨損傷、および骨吸収スコアの合計であった。
【0162】
【表9】
【0163】
結論
ラットのII型コラーゲン誘発性関節炎の初期段階では、T−ChOSによる強力な著しい影響があった。足関節の炎症率の低下は、初期段階で最良の58%であった。この影響は、用量に関係しており、A0.25グループで最大の影響が示され、これはヒトの日用量0.5gに等しい。しかしより高い用量では、その影響が徐々に消失した。しかし、全ての組織学的スコアは、1つを除き、実験の終わりの最適なT−ChOS用量に対する応答として、関節炎状態の有意な減少を示した。最も強力な効果は、骨再生の減少(48%)およびパンヌスの予防(40%)で観察された。
【0164】
経口投与されたT−ChOS調製物は、組織変性を著しく減少させ、炎症状態の関節での瘢痕組織形成を減少させることが結論付けられた。これは、T−ChOSの組織再生活性(実施例7)および組織培養における線維芽細胞増殖の低下を示す(実施例9)、その他の結果を裏付けている。
【実施例9】
【0165】
固定化T−ChOSによる線維芽細胞増殖の阻害
材料および方法
マイクロプレートコーティング:
マイクロプレート用のコーティング溶液を、37℃のハンクス平衡塩類溶液(HBSS)にゼラチン(Bio−Rad、USA)を溶解して0.1%の濃度にすることによって調製した。この溶液の半分に、T−ChOSを補って、最終濃度を1000μg/mlにし、あとの半分を対照として役立てた。全ての溶液を、限外濾過(0.22μm Nalgeneフィルタ)によって滅菌した。マイクロプレート(96ウェル、Nunc、デンマーク)を、各ウェルにゼラチン溶液100μlを添加し、4℃で一晩インキュベートすることによってコーティングした。過剰な溶液を廃棄し、プレートを、4℃でHBSSと共に保存した。
【0166】
線維芽細胞のプレーティングおよび計数
ヒト線維芽細胞を、集密T−25培養フラスコからトリプシン処理によって収集し、10%血清を含むRPMI 1640培地の1×105細胞/mlで、コーティングされたマイクロプレートウェルに播種した。細胞を、37℃および5%CO2で3日間維持し、その後、光学顕微鏡下で計数することによって細胞数を決定した。各実験条件を、8個のウェルごとに繰り返した。
【0167】
細胞数は、8個のウェルのそれぞれにおいて、画定視野内で計数した(線維芽細胞密度)。計数は、培養物中で1、2、および3日後に行った。データを統計的に分析した(ANOVA)。
【0168】
結果
統計分析では、データの非正規分布が明らかにされた。したがって、順位二環するANOVA試験、その後のクルスカル・ウォリスの順位の一元配置分散分析を行った。ゼラチン中に固定化されたこのT−ChOSは、図31および32に示されるように、線維芽細胞の増殖を大幅に停止させた。
【0169】
結論
この実験では、本発明者等は、T−ChOSを培養プレートのゼラチンコーティング内に埋め込んだ場合に、ゼラチン表面の線維芽細胞の増殖を著しく低下させることができることを、実証することができた。
【0170】
創傷治癒に対するキトサンの影響の科学的報告、キトバイオマー、オリゴマーおよびポリマーの両方による本発明者等の経験、および本発明の結果と一緒に、本発明者等は、T−ChOSが、線維芽細胞による線維状組織の形成を抑制することができ、それと共に骨や軟骨、その他の硬質および軟質組織などの基本的な組織の再生を促進することができると結論付けた。創傷治癒のこのメカニズムは、瘢痕組織の形成をもたらさずかつ当初の組織の完全性および機能性を保存するので、非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】図1は、70%脱アセチル化および94%脱アセチル化キトサンと比較した、この生成物(43%DD)の溶解度を示す。
【図2】図2は、異なる配列の断片イオンによって引き起こされたピークの強度を定量する、D3A3に関する配列系統樹を示す。
【図3】図3のA〜Dは、同族体D2A3、D3A3、D2A4、およびD3A4の同重体の相対量を示す。
【図4】図4は、不均一脱アセチル化オリゴマー(G020418)に関するオリゴマーピーク分布および同族体分析を示す。ものを図5に示す。
【図5】図5は、均質脱アセチル化オリゴマー(G050421)に関するオリゴマーピーク分布および同族体分析をしめす。
【図6】図6は、2つの脱アセチル化方法による、オリゴマーに関する同族体分布を示す。
【図7】図7は、限外濾過ステップ前後の各DPの相対量を示す。
【図8】図8は、DP2〜DP5の同族体を示すMALDI−TOF MSである。
【図9】図9は、DP2からDP12までのオリゴマーについて明らかにするMALDI−TOF MSである。
【図10】図10は、消費された天然サンプルと3週間後の血液サンプルとの、オリゴマーと同族体の相対質量分光分析シグナル強度を比較する。
【図11】キチナーゼAに対する同族体A4D2の遮断効果を示す図である。非線形当てはめ、f=y0+a×exp(−b×x)が示されている。A4D2に関する50%阻害濃度(IC50)は、17μMとして計算された。
【図12】同族体の、計算された親和性を示す図である。図は、試験がなされた各同族体の親和性を示す(表5のデータに基づく)。
【図13】図12に示すようなCHOS同族体の生物活性および生物安定性を、配列と共に示す図であり、詳細は表5を参照されたい。
【図14】キチナーゼAに対するChOSロットG040823の遮断効果を示す図である。IC50は、70μg/mlとして計算された。
【図15】Bmaxを備えた、HC gp−39に結合するD6、D3A3、D2A2、A6、およびD5A6に関する結合等温線であって、結合部位飽和に関する相対蛍光強度を示す図である。
【図16】同族体/オリゴマーのFAを基にした、HC gp−30に結合するChOSの解離定数(Kdに関しては対数目盛りである)を示す図である。破線は、DP同族体のデータポイントを接続する。
【図17】FA(A単位の数)の関数として、DP6同族体の解離定数を示す図である。データを、非線形回帰によって双曲線型減衰に当てはめた。差し込み図は、A単位に対するDP6同族体の相対親和性のプロットを示す。
【図18】5%キトバイオマーを含有するキトサン/リン酸カルシウム複合体(40%DD)の破砕表面を示す図である。SEM写真を、37℃で7日間インキュベートした後に撮った。倍率1000×。
【図19】DDが結晶形成に及ぼす影響を示す図である。SEM写真は、37℃で7日間インキュベートした後に撮った。(a)キトバイオマー(40%DD)、倍率10K×、および(b)80%DDキトサン、倍率9.43K×。
【図20】37℃で7日間インキュベートした複合体のSEM分析を示す図である。(a)キトバイオマー40%DD、(b)キトバイオマー70%DD、および(c)キトサン80%DD、倍率100K×。
【図21】術後4週間の、未処理の動物を示す図である。この画像は、インプラントの側面を示し、脆弱な組織が骨の隙間を橋かけしており、この治癒状態を、癒着不能と特徴付けた。
【図22】術後4週間の、リン酸カルシウムで処理した動物を示す図である。この画像はインプラントの側面を示しており、リン酸カルシウム結晶の残遺物が、骨の隙間を橋かけする脆弱な組織内に埋め込まれている。この治癒状態を、癒着不能と特徴付けた。
【図23】術後2週間の、リン酸カルシウム−キトバイオマー複合体で処理した動物を示す図である。この画像はインプラントの側面を示し、皮質骨が、新しい皮質の下にある稠密な骨梁骨で、骨の隙間を覆っている。この治癒状態を、完全な癒合と特徴付けた。
【図24】術後4週間の、リン酸カルシウム−キトバイオマー複合体で処理した動物を示す図である。この画像は、健康な新しい骨梁骨を示す。
【図25】試験がなされたT−ChOS材料(ロットG051128)のHPLC分析を示す図である。図は、DP2から約15までの、種々の分子量の糖の相対量を示す。
【図26】炎症(関節炎スコア)の指標としての、足関節の直径の測定を示す図である。
【図27】AD(足関節直径)関節炎スコアを示す図である。第0日にコラーゲンが注入された10匹の個々のラットの足関節直径(左+右の足関節)(グループ2;関節炎+水)。
【図28】初期の足関節炎症率における、T−ChOS(全ての用量)の影響を示す図である(第10、11、および12日から得た左右の足関節直径の、平均増加としての初期炎症率)。平均および標準誤差が示されている。
【図29】後期足関節炎症率における、T−ChOS(全ての用量)の影響を示す図である(第12〜17日から得た左右の足関節直径の、平均増加としての初期炎症率)。平均および標準誤差が示されている。
【図30】組織学的検査によって判定された、骨吸収におけるT−ChOS(全ての用量)の影響。平均および標準誤差が示されている。
【図31】100μg/mlの固定化T−ChOSを含み、また含まない、ゼラチン層での線維芽細胞の増殖(密度対時間)を示す図である。平均(n=7〜8)、+/−標準誤差
【図32】3日間(d1〜3)のインキュベーション中の線維芽細胞増殖にT−ChOSが及ぼす影響の、統計的評価を示す図である。Cは未処理の、またOは処理した細胞を表す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液からポリマーキトサンを回収する新規な方法に関する。本発明はさらに、生物学的に活性なキチン質ポリマーおよびオリゴマーを含む本発明の方法によって生成された組成物と、医薬組成物、生体材料、医療デバイス、ならびに前記ポリマーおよびオリゴマーを生成するプロセスにおけるその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、甲殻類の殻から得ることが可能であるがその他の無脊椎動物および菌類からも得ることができるキチンから得られた、天然由来のバイオポリマーである。キトサンは、キチンポリマーのN−アセチルグルコサミン残基の脱アセチル化によって、典型的には濃アルカリによるN−アセチル結合の加水分解によって調製される。定義によれば、キトサンは一般に、D−グルコサミン(D)およびN−アセチル−D−グルコサミン(A)のコポリマーと呼ばれ、これはpHが6.2よりも高い(遊離アミン基の等電点)水に不溶であるが、約6.2よりも低いpHでは溶解する。典型的な場合、従来のキトサンコポリマー中のモノマー単位の70〜100%がD−グルコサミンであり、これを、脱アセチル化度が70〜100%である70〜100%脱アセチル化キトサンと呼ぶことができる。脱アセチル化度が約70%よりも低い場合、キトサンポリマーは、異なる溶解特性、高い生物活性、および全体的に高い生分解性を示す。
【0003】
キトサンの化学的および生物学的性質は、脱アセチル化度(DD)および重合度(DP)、即ちポリマーの鎖長の影響を直接受ける。pHが6.2よりも低い溶液では、またD−グルコサミン残基のアミン基がプロトン化される場合は、キトサンは正に帯電したポリマーである。アミンである場合、キトサンは弱塩基であり、カルボン酸や鉱酸などの酸と共に塩を形成することができる。これらの塩のほとんどは水溶性である。その天然形態では、キチンは水に不溶である。しかし、アルカリ処理による部分的脱アセチル化によって、水溶性にすることができる。DDが35〜50%である部分的に脱アセチル化されたキチンは、広範囲にわたるpHで水に可溶である。部分的に脱アセチル化されたキチンのこの形は、生物医学や医薬品、化粧品などの様々な分野で可能性のある適用例で、生物活性であることが示されている。
【0004】
60〜70%超のDDのキトサン調製物の欠点の1つは、pHが6.2よりも高いと析出する傾向があることである。このため、中程度のpHから高いpHで溶解性が必要とされる場合、その適用範囲が限定される。この点に関し、部分的脱アセチル化キチンは、その溶解度プロファイルが広範なpHを包含するので、DDがより高いキトサンにも優る大きな利点を有する。このキチンは、キトサンの物理的−化学的性質のほとんどを受け継ぎ、通常のキトサンに比べて高い保水力を有し、その結果、水に接触したときに素早く膨潤し、DDがより高い通常のキトサンに比べてバランスの取れた親水性/疎水性を有する。これらの性質は、生物医学、医薬品、化粧品、およびその他の関連ある産業における様々な適用例で、多大な可能性があることを表している。
【0005】
キチンおよびキトサンの生物学的活性は、文献にふんだんに文書化されており、益々増える証拠は、DDがより低くなるにつれて生物活性が増大することを示している。これは、生理的なpHで溶解度特性が改善されることと密接な関係がある。
【0006】
キトサンの精製では、一般に、溶液から不溶物または不純物が除去されるように、溶解プロセスが行われる。この後、溶液からのキトサンの析出による回収プロセスが続く。次いで析出物の形でのキトサンの回収物を洗浄して、中性pHにし、塩を除去することができる。この回収は、溶液のpHを6.2よりも高く上昇させることによって容易に析出させることができるので、一般に、55%DDおよびそれ以上のキトサンでは問題ではない。しかしpHの調節は、部分的脱アセチル化キチンに有効ではなく、通常は、析出プロセスを補助するのに有機溶媒が必要とされる。特許番号CN1554267は、ポリマー洗浄のためのエタノールの使用について報告しており、溶媒の使用に関するより多くの例が、特許JP10072502、CN1371922などに見出すことができる。あるいは、それほど適切ではない方法では、溶液を濾過し乾燥するだけであり、それによって塩が生成物中に存在することになる(JP2022301)。
【0007】
キトサンは、生体適合性であり生分解性であることが示されており、それが、生物工学の適用例に向けた生体材料の成分として、魅力的な選択肢となっている。生体材料は、一般に、生体系の一部と置き換えるために、または生体組織と密着させたときに機能させるために使用される合成材料と定義され、キトサンは一般に、生体材料配合物中の適切な不活性成分またはその他の物質もしくは成分の母材と見なされている。キトサンは、大量の生物活性物質を吸着によって、またはそのような物質を単純な化学反応を介して共有結合することによって、固定化することができるので、薬物送達担体として提示されている。
【0008】
WO2004/028578は、キトサン、トリポリホスフェート、および骨形成タンパク質(BMP)を含む、骨延長における骨形成および骨硬化のための組成物を開示している。さらにUS2003/0124172は、人工歯根または外傷状態での骨結合を強化するために生分解性ポリマーおよびBMPを含む、キトサンベースの被膜を製造するための方法を開示している。
【0009】
キチン由来材料の生物活性は、例えば、生物学的に活性であり、かつ結合組織の状態、特に関節炎および変形性関節症を治療する薬剤の活性成分であることが示唆されている、N−アセチル−グルコサミンおよびグルコサミンのヘテロオリゴマーを含むキトオリゴマー組成物を開示する、EP1435976に示されている。
【0010】
その他の特許出願では、ヒトおよびその他の脊椎動物のゲノムによって表されるキチナーゼ様タンパク質(CLP)が、これらのキトオリゴマーの生物活性に関与する標的受容体であり、キトオリゴマーに結合したときにシグナル伝達応答を誘発することが示唆されている。これらのキチナーゼ用タンパク質は、ほとんどの形の生物におけるファミリー18キチナーゼを発現する遺伝子のファミリーから得られる。ファミリー18キチナーゼの活性側は、これらタンパク質のほとんどが活性側の重要な変異によってその触媒活性を失っていること以外、CLP内に十分に保護されている。しかしヒトにおいては、これらタンパク質の少なくとも2種が、そのキチン分解活性を維持しており、即ち酸性哺乳類キチナーゼ(AMCase)およびキトトリシダーゼである。
【発明の開示】
【0011】
発明の要旨
本発明の目的は、治療の適用例に向けた、高度に精製された部分的脱アセチル化キチンの方法および組成物を提供することである。生体外または生体内でのファミリー18キチナーゼによる大規模な(extensive)加水分解により、部分的脱アセチル化ポリマー組成物は、治療活性を有するキチン質ヘテロ多糖を生成することになる。したがって本発明は、2つの形の組成物、即ちインプラントの適用例に向けた生体材料への活性成分として適切な、菌体内毒素などの有機汚染物質から実質的に精製されたポリマー組成物と、全身投与に適切なオリゴマー組成物とを提供する。本明細書では「キトバイオマー」と呼ぶこれらのポリマーおよびオリゴマー組成物は、従来のキトサンおよび従来技術のキチン由来材料とは明らかに異なる、生物学的に関連ある特徴を含む。さらに、本発明により提供されるオリゴマー組成物は、生物学的利用能、生物安定性、および生物活性を含めた、キトバイオマー組成物全体の治療活性の最適化を示す。これらのオリゴマー組成物を、本明細書では「治療用キトオリゴ多糖」(T−ChOS)と呼ぶ。ポリマー組成物は、特に局所マクロファージによって発現される内因性ファミリー18キチナーゼがポリマー基質をその場で徐々に分解し、瘢痕組織の形成を予防しかつ損傷軟骨および骨組織に組織再生を誘発させることが可能な治療的に活性なT−ChOSを生成するという、優れたin situ送達システムを提供する。これは、組織特異的な軟骨および骨前駆細胞の活性化と平行して、T−ChOS組成物による損傷組織での線維芽細胞活性の低減または阻害が行われる。しかしオリゴマー組成物は、ファミリー18キチナーゼによるポリマーキトバイオマー組成物の大規模な加水分解によって、商業ベースで生体外で生成することもでき、経口や筋肉内、皮下、静脈内投与などの任意の種類の全身送達用として、またはインプラント組成物での局所送達用として、T−ChOSを提供することができる。
【0012】
本発明の第1の態様では、治療的に活性な部分的脱アセチル化キチンヘテロポリマー(キトバイオマー)を生成するプロセスの、最適化がもたらされる。この最適化には、完全に溶解した部分的脱アセチル化キチンポリマーを精製するための方法が含まれ、この方法は、a)脱アセチル化後に部分的脱アセチル化キチンを中和するステップと、b)酸性溶液中に部分的脱アセチル化キチンを溶解するステップと、c)逐次的濾過ステップを通じて、溶解していない粒子を除去するステップと、d)溶液を、8よりも高いpHに調節するステップと、e)高温および塩の添加によって、溶液のカオトロピック因子を増大させる溶解した部分的脱アセチル化キチンを析出させるステップとを含む。この方法は、篩い分けによる析出後の析出物の回収、または遠心分離を特徴とし、この場合、析出物の温度は50℃よりも高くなっている。この最適化は特に、ファミリー18キチナーゼによるポリマーキトバイオマーの大規模な加水分解によって生成された、加水分解生成物に焦点を当てることによって得られる。基質は、全てのファミリー18キチナーゼに対してかなりの抵抗力を有するヘテロ−オリゴマーに分解することになる。提供されたプロセスで脱アセチル化ステップを慎重に制御することにより、均一性および脱アセチル化度の両方に関して、加水分解ステップ中に生成されたT−ChOS組成物の相対的収量を制御することができる。これは、キトバイオマー組成物の治療活性の最適化をもたらす。定義されたポリマーキトバイオマー組成物は、脱アセチル化度が30〜70%の範囲内に限定され、従来のキトサンとは実質的に異なる溶解特性を示す。この定義により、全てのキトバイオマー組成物は、生理的pHで溶解性を示す。
【0013】
本発明の第2の態様では、本発明の方法によって生成される、部分的脱アセチル化キチンポリマー組成物が提供される。本発明の実施形態では、組成物は、N−アセチルグルコサミン(A)とグルコサミン(D)との生物学的に活性なキトオリゴマーを含む。キトオリゴマーの組成物は、下記の基準(a〜d)の全てを満たさなければならない:
a)前記オリゴマーは、5〜20モノマー残基の範囲内の鎖長を有し、
b)各オリゴマー鎖は、当該オリゴマー鎖の一端または両端に2個のN−アセチルグルコサミン残基(AA)を有することができ、
c)当該オリゴマーの残りの内部部分は、最大量のA残基を有し、
d)前記内部鎖の配列は、N−アセチルグルコサミン残基(A)が別のN−アセチルグルコサミン残基に隣接(AAなど)しないようなものである。
【0014】
本発明の第3の態様では、生体材料/薬品の製造のための、本発明の組成物の使用が提供される。
本発明の第4の態様では、本発明の方法によって生成されたキトバイオマーのオリゴマー組成物を含む医薬組成物が提供される。
【0015】
本発明の別の態様では、キトバイオマーのポリマー組成物を使用して、リン酸カルシウム複合体中の水分活性を調節する。キトバイオマーのポリマー組成物は、マクロファージによって局所的に発現したファミリー18キチナーゼによるキトバイオマーの分解と一緒に、複合体の固化および硬化中に形成される結晶のサイズを限定することになり、これは、複合体の生分解性を高め、遊走細胞が足場に浸透するのを助け、その骨伝導性を増大させる。
【発明の詳しい説明】
【0016】
下記の実施形態および定義は、本発明の方法および組成物および使用に関する。
本発明の実施形態では、部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が25から70%であり、例えば30から65%、例えば30から60%、例えば30から55%などであり、この場合DDは、部分的脱アセチル化キチンの可溶性部分の平均DDを指し、このキトバイオマーの分子量は、約10kDaよりも高い。
【0017】
本発明の文脈において、脱アセチル化後の部分的脱アセチル化キチン混合物に関する「中和」という用語は、水を用いた洗浄による、または強酸の添加による脱アセチル化の過程での、強アルカリ溶液のpHの低下を指す。
【0018】
本発明の実施形態では、部分的脱アセチル化キチン溶液の加熱は、その温度を45〜100℃または沸騰するまで、例えば55〜90℃、または例えば60〜80℃、または好ましくは60から70℃に上昇させるステップを含む。
【0019】
本発明の実施形態では、部分的脱アセチル化キチン溶液の調節は、そのpHを、pH8〜13、例えばpH9〜12、または10〜11に上昇させるステップを含む。
本発明の実施形態では、塩析は、塩の添加によってまたは溶液に溶解した酸の中和によって得られ、この塩析に使用される塩は、塩化ナトリウム、または酢酸などの部分的脱アセチル化キチンの溶解に使用される任意の有機酸の塩であり、あるいはリンゴ酸やクエン酸などのジまたはトリカルボン酸が好ましい。これらの塩は、適切な塩基による溶液の中和によって、形成することができる。さらに塩濃度は、ポリマーの析出をもたらすことができる任意の濃度を指し、即ちこの塩濃度は、2%〜飽和状態である。
【0020】
本発明の実施形態では、キチンを脱アセチル化ステップの前に鉱酸で処理することにより、1から60EU/gまたは30EU/gより低い値など、非常に低い内毒素レベルを有する生成物が得られる。酸はポリマーを開き、内毒素に曝し、内毒素を破壊する。キチンポリマーの溶解をもたらす任意の高濃度酸、HCl、リン酸、ギ酸、硝酸、硫酸を使用することができる。内毒素の結果は、EU/mlまたはEU/gのようなEU単位で表す。
【0021】
本発明の別の実施形態では、哺乳類の骨折または切断された骨の治癒において骨再生および止血を増強するための、生体材料/薬品の製造に、このプロセスを使用する。そのような薬品は、組織特異的前駆細胞の活性化による軟骨内骨化を通じて、骨形成を増強する。
【0022】
本発明の実施形態では、生体材料は、ヒドロキシアパタイトを含めたリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ナトリウムトリポリホスフェート、アルギネート、コラーゲン、およびヒアルロン酸からなる群から選択された別の成分を含む。
【0023】
生物学的利用能、即ち所与の物質が生体膜を通過することのできる能力は、分子の疎水性に関係する。全ての生体膜は多分に疎水性であるので、物質は疎水性であるほどそのような生体膜をより良好に浸透することができるという、一般的規則を適用する。N−アセチル−グルコサミンおよび完全アセチル化キチンオリゴマーは、対応するグルコサミンモノマーまたは高度に脱アセチル化されたキトサンオリゴマーよりも疎水性であり、したがってキチン質ヘテロオリゴマーは、アセチル化が高まるほど、高い生物学的利用能を有することになることを示唆している。このようにT−ChOS形成は、その生物安定性を危うくすることなくその生物学的利用能を最大限にするために、その分子構造内に最大量のN−アセチル−グルコサミンを含有するように最適化されてきた。本発明は、ヒトボランティアにおけるT−ChOS組成物の、比較的高い生物学的利用能を示す独自のデータを提供する。
【0024】
有機化合物の生物安定性は、生体内の内因性酵素の感受性、およびその生物における半減期(t1/2)を指す。感受性が高いほど、化合物は生物安定性が低くなる。ヒトにおいては、キチン分解酵素を2つのグループに分けることができ、即ち、ファミリー18キチナーゼ(AMCase、キトトリオシダーゼ)のような高レベルのキチン分解特異性を有し、高い特異的活性を有する酵素、またはリゾチームや、キチンおよびキトサンの分解を引き起こす一部のプロテアーゼなどの、キチン分解特異性が低いが特異的活性がより低い酵素である。部分的脱アセチル化によって、T−ChOS組成物は、ファミリー18キチナーゼによる加水分解に対する最大限の安定性を得るために最適化された。これらの酵素は、切断の認識として2つ以上の連続N−アセチル−グルコサミン残基の配列を必要とするので、T−ChOS組成物は、分子の内部部分のそのような配列が排除されるように、特に最適化される。
【0025】
有機物質またはリガンドの生物活性は、生体応答を引き起こす標的受容体へのリガンドの親和性に、直接結び付けられる。人体におけるキチン質化合物の生物学的役割は、依然としてほとんど知られていないが、キチンオリゴマーは、胚発生において生命に関わる役割を演ずるという徴候がある。これは、キチンオリゴマーに結合するときに、ヒトゲノムが、特異的に活性化された特定の受容体を発現することが可能であることを示唆している。人体にいて唯一知られているキチン結合タンパク質は、ファミリー18キチナーゼに遺伝的に属しているがそのほとんどが自らの酵素活性を失っている、キチナーゼ様タンパク質(CLP)である。
【0026】
これらのタンパク質におけるキチン結合ドメインは、高度に保存されており、ファミリー18キチナーゼの活性側とは、1個または数個のアミノ酸だけしか異なっていない。完全アセチル化キチンオリゴ多糖とタンパク質の活性部位との結合は、一般に、タンパク質構造において構造変化を誘発することになり、これは相互作用のシグナル伝達の役割を示している。本発明は、完全アセチル化キチンオリゴ多糖に比べた場合、キチナーゼ様タンパク質(YKL−40またはHCgp−39)の1つの結合部位が、部分的脱アセチル化T−ChOS組成物に対してほとんど等しく強力な親和性(90%)を有することを示すデータを提供する。ファミリー18キチナーゼは、キチン質基質上で非常に活性であり、加水分解の認識部位として隣接するN−アセチル基を必要とし、アセチル基の1つは、プロトン供与体として加水分解反応に積極的に関与することになる。これは特に、キチン質構造が、対応する内因性ファミリー18キチナーゼの発現を誘発し易いので、完全にアセチル化したキチンオリゴマーが人体内で素早く分解する(不十分な生物安定性を有する)ことを示唆している。しかし、特に部分的脱アセチル化によって、オリゴマー本体内に隣接するアセチル基が存在しない配列が与えられる場合、キチンオリゴマーの部分的脱アセチル化は、生物安定性を増大させることになる。これは、ファミリー18キチナーゼのような特定のキチン分解酵素によって切断されることはないが、キチンならびにキトサンを切断することが可能であるが著しく低い特異的活性を有するそれほど特殊ではない酵素によって、ゆっくりと分解する分子を与えるだけである。これは、T−ChOS組成物が、治療活性に必要とされる生物学的利用能、生物安定性、および生物活性を有することを示唆している。
【0027】
骨インプラントでは、ポリマーキトバイオマーが、マクロファージ由来のファミリー18キチナーゼによって徐々に加水分解され、大量のT−ChOS組成物を生成することになる。これらの非常に可溶性があるオリゴマーは、複合体および隣接する組織の全体に拡散し、骨髄ならびに骨内膜および骨膜に局在化したマクロファージならびに軟骨および骨前駆細胞の化学走化性因子または刺激物として、作用することになる。これは、骨インプラント複合体に、骨伝導性を提供する。
【0028】
治療用キトオリゴマーおよびそのポリマー前駆体(まとめてキトバイオマーと呼ぶ)を含む本発明の組成物は、生成される材料の組成および性質、例えば溶解度や純度などに決定的な影響を及ぼす、いくつかの重要な処理ステップを基にしたプロセスによって生成される。最大限の純度では、任意選択の前処理ステップが行われ、即ち、適切な供給源からのキチンを、適切な酸溶液、好ましくは塩酸(HCl)などの鉱酸であるが、カルボン酸および/または硫酸やリン酸、硝酸などの鉱酸を含めたその他の酸を使用してもよい溶液に、十分に溶解する。HClを使用する場合、その濃度は、典型的には約15〜37%(重量/重量)であり、例えば25%以上であり、その他の酸の濃度は、同様の結果が得られるように適切に調節される。一実施形態では、酸溶解キチンを酸化剤で、好ましくは過酸化水素で処理するが、その他の酸化剤、例えばアルカリ金属過酸化物、アルカリ土類およびアルカリ金属過ホウ酸塩、過炭酸塩、ペルオキシ一硫酸塩、過硫酸塩、臭素酸塩、次亜ハロゲン酸塩、およびジハロトラジントリオンも、同様に使用することができる。キチンの酸性溶解は、その結晶構造を開き、材料内に埋め込まれた内毒素分子を露出させることになり、内毒素不純物の効率的な抽出および分解を可能にする。任意選択の酸化剤処理は、内毒素分子の分解の補助を目的とし、それによって、最終生成物の内毒素含量がさらに低下する。ポリマー鎖の一部の断片は、プロセスのこのステップで生ずることになる。十分に溶解したキチンの溶液を、好ましくは素早く希釈し、十分純粋な水またはアルカリ水溶液で十分に中和し、例えば、キチン材料のかなりの部分が非晶質コロイド状キチンとして析出するように、十分溶解したキチンを含む溶液を大量の中和水溶液に流すことによって中和する。水は、典型的には高温であり、例えば40〜100℃の範囲内であり、例えば50〜100℃の範囲内であり、例えば50〜80℃の範囲内である。温度は、コロイド状キチンの緻密度および凝固に影響を及ぼすことになる。十分純粋な水で洗浄した後(好ましくは連続洗浄)、コロイド状キチンは、脱アセチル化の準備が整う。
【0029】
本発明の実施形態では、最終的な複合体の物理化学的、機械的、および生物学的性質を調節するために、脱アセチル化度が30〜100%DDである部分的脱アセチル化キチンおよび/またはキトサンを、リン酸カルシウム複合体と混合する。この方法は、異なる脱アセチル化度のキトバイオマーまたはキトサンを複合体に混合することによって、リン酸カルシウム複合体の機械的および生物学的性質を制御するために提供する。これは、固化時間、硬化時間、硬さ、および強度、ならびに生分解性および細胞を宿主組織から移動させるための到達性など、複合体の決定的な性質を調節するための強力なツールを提供する。これらの基本的な性質を調節するこの可能性は、脱アセチル化度が30から100%DDに上昇したときの脱アセチル化キチン誘導体の保水能力の急峻な低下にあり、即ち、DDが低下するほど保水能力は高くなる。リン酸カルシウムの結晶化では、水と反応させるので、複合体内での水利用能が、結晶形成に影響を及ぼすことになる。部分的脱アセチル化キチンによってより多くの水が保たれるほど、複合体中の結晶は小さくなる。これは、複合体の機械的性質および生分解性に影響を及ぼすことになる。キトバイオマーの脱アセチル化度(DD)が低くなるほど、マクロファージなどの食細胞は複合体母材に侵入し易くなり、軟骨および骨前駆細胞ならびに血管内皮細胞などのその他の遊走細胞様に新しい孔を開ける。これは、健康な機能組織への複合体のリモデリングを増強するので、決定的な性質である。脱アセチル化プロセスでのキトバイオマーの最適化によって、複合体の再構築中に生成されるT−ChOSの収量を上昇させることが可能になり、骨欠損の軟骨性骨再生の効果的な刺激が行われる。
【0030】
したがって、複合体に使用される部分的脱アセチル化キチンの脱アセチル化度を慎重に制御することにより、複合体の骨伝導性ならびに骨誘導性を最適化することが可能であると結論付けられる。
【0031】
脱アセチル化は、典型的には、アルカリ塩基反応媒体に溶解したキチン原材料を用いて実施される。このアルカリ塩基は、典型的には水酸化ナトリウムであるが、KOH、LiOH、Ca(OH)2、Na3PO4、およびNH4OHを含めたその他の塩基も適切である。乾燥物質とアルカリとの比は、いくつかの実施形態では1:5から1:100に及ぶ。塩基溶液は、好ましくは混合前に冷却する。アルカリキチン混合物を凍結し、その後、脱アセチル化のために解凍しインキュベートすることによって、脱アセチル化の均一性が十分に高めらることがわかった。しかし、脱アセチル化プロセスのためのインキュベーション温度は、0〜100℃という比較的広い範囲内で調節することができ、インキュベーション時間もそれに応じて調節される(より低い脱アセチル化温度では、より長いインキュベーション時間が必要であり、またその逆も同様である)。いくつかの実施形態では、脱アセチル化は、5〜50℃の範囲内の温度、より好ましくは10〜40℃の範囲または20〜50℃の範囲、例えば10から30℃の範囲または10〜25℃の範囲、より好ましくは12〜25℃の範囲、例えば15〜25℃の範囲で実施される。部分的脱アセチル化キチンを、十分に純粋な水中で、好ましくは高温の水、例えば約35から65℃の範囲を含めた約30〜80℃の範囲、例えば約45〜60℃または40〜50℃の範囲の水中に析出させ、その後、十分に純粋な水で洗浄する。前述のように、析出物中のポリマーの回収をさらに補助するために、塩を溶液に添加することができる。材料は、引き続き洗浄することができ、意図される別の用途に応じて凍結乾燥または噴霧乾燥してもよい。
【0032】
記述されるプロセスは、著しく均質な脱アセチル化をもたらし、即ち、ポリマー中のN−アセチル−D−グルコサミン残基(A)およびグルコサミン残基(D)が実質的に均等に分布され、その後のポリマーから治療用キトオリゴマーへの加水分解に影響を及ぼすことを意味する。これは、部分的脱アセチル化キチンにおける平均脱アセチル化度を慎重に調節することによって、ファミリー18キチナーゼによる加水分解中にT−ChOSの収量を最適化する機会をもたらす。そのような加水分解は、使用前に(即ち、例えば以下に述べるように生体外で)、または医薬品、生体材料、もしくは医療デバイスの構成要素として得られたポリマー前駆体(キトバイオマー)を使用することによって生体内で、引き起こすことができる。キトバイオマーは、その場で治療用キトオリゴマーを製造するために、例えばキトトリオシダーゼなどの内因性酵素によって、ゆっくりと加水分化される。
【0033】
本明細書で使用される「カオトロピック剤」という用語は、分子構造を崩壊させる薬剤であり、特に、水素結合やファンデルワールス相互作用、疎水作用などの非結合力によって形成される薬剤である。しばしば、円偏光2色性などの手段によって検出される構造的特徴は、カオトロープ濃度依存的な手法で調整することができる。最も一般的に使用されるカオトロープは、6〜8M尿素および6M塩化グアニジニウムであり、尿素は非荷電分子であり、塩化グアニジニウムは塩酸塩である。非常に一般的な塩は、電荷を遮蔽し塩橋の安定化を防ぐことによって、カオトロピック特性を有することができる。水素結合は無極性媒体の場合より強力であり、したがって溶媒の双極子モーメントを増大させる塩は、水素結合を不安定化させることもできる。
【0034】
本発明の文脈において、「塩などのカオトロピック剤の添加」という用語は、限定するものではないがNaOH、硫酸アンモニウム、尿素、塩化グアニジニウム、酸の任意の塩、好ましくはトリカルボン有機酸(例えばクエン酸)の塩、次いでジカルボン酸(リンゴ酸)の塩、次いでモノカルボン酸の塩、高カオトロピック性の塩から選択された塩の添加を指す。
【0035】
得られた部分的脱アセチル化キトバイオマーは、明らかな特徴を有する。キチンの事前溶解、コロイド状キチンの形成、およびその後の、脱アセチル化前のアルカリ塩基への溶解は、キチン結晶構造を著しく開き、キチン質材料中の菌体内毒素を効率的に低下させ、ポリマーの純度を、生体材料の配合および/またはインプラント適用を目的とした医療デバイスでの使用に許容可能なものにする。
【0036】
治療用キトオリゴマーの連続パターンは、その生物学的活性に直接影響を及ぼし、即ち、生体膜上にどのように輸送されるのか(生物学的利用能)、生体系内でどの程度速く崩壊するのか(生物安定性)、キチナーゼ様タンパク質およびキチン質配列を結合するその他の特異的受容体とどのように相互作用するのか(生物活性)に影響を及ぼす。
【0037】
ファミリー18キチナーゼの活性メカニズムを考えると、基質分子の切断部位の認識には、2つ以上の隣接するN−アセチル−D−グルコサミン部分(−AA−)の配列が必要である。切断によって、得られた生成物の還元末端に2個のアセチル基が残されるが、これは、酵素加水分解が終了に至った場合、オリゴマーの大部分が還元末端に2個のN−アセチル−D−グルコサミン部分を有することを意味する。これは、最適な生物学的利用能、生物安定性、および生物活性を有する本発明の治療用キトオリゴマーが、分子の内部領域に2個の隣接するアセチル基を有することなく最大限アセチル化された部分アセチル化キトオリゴマーになることを示唆している。したがって単純計算では、内部領域においてその分子配列内に2個のモノマーが交互に配された(即ち、−DADADADA−)、約50%のアセチル化が示唆される。この構造とファミリー18キチナーゼ、YKL−40、またはそのCLP類縁体の結合ドメインのいずれかとが相互に作用する場合、−DADADADA−構造は、圧倒的に多いD配列(即ち、−DDDDDA−)に比べて結合部位に対する親和性が強力である。アセチル化が増すと分子の疎水性も同様に増すので、治療用キトオリゴマーの生物学的利用能についても同じことが言える。本発明は、CLP結合ドメインに対する結合親和性が、A残基(FA)の相対数と共に増大することを示すデータを提供する。しかし本発明者等のデータは、T−ChOS組成物が、完全アセチル化キチンヘキサマー(A6)に関して測定された結合親和性の少なくとも90%を有することも確かめている。
【0038】
菌体内毒素の汚染に関し、インプラントの適用例を目的としたキチンおよびキトサン由来の材料は、外骨格由来のキチンならびにヤリイカおよびコウイカ由来のキチンが典型的にはかなりのレベルの菌体内毒素を含有するので、特殊な注意を必要とする。さらにキトサンは、脱アセチル化の間および後に、菌体内毒素に対してかなりの親和性を得ることになる。したがって、インプラントの適用例に向けた、十分純粋なキトサンの生成を目的とする任意のプロセスは、原材料基質から菌体内毒素を十分に抽出し低下させる特定のステップを組み込む必要がある。
【0039】
本明細書に記述される医薬組成物は、本発明の治療用キトオリゴマー(T−ChOS)を含む。この組成物は、全身に投与することができ、内因性CLPに結合することができ、その多くは、いくつかの疾患および状態で役割を果たすことが示されておりまたは示唆されている。CLPの高い発現に関連する疾患および状態の中には、関節炎(例えばリウマチ様関節炎および変形性関節症)を含めた変形性関節疾患などの変性疾患がある。T−ChOS組成物は、これらの疾患、ならびに骨組織形成に関連した状態、および外科的介入または外傷後の骨再生などの状態を治療しかつ/または改善するのに有用であることがわかっている。
【0040】
組成物はさらに、薬学的に許容される賦形剤、例えば加工助剤、または安定剤、希釈剤、香料、栄養剤、または着色剤、または適切な追加の生物学的に活性なまたは非活性の成分などを含んでもよい。
【0041】
医薬組成物は、好ましくは、例えば1杯の水に容易に溶解することのできる乾燥形態など、経口投与に適した形をとるべきである。そのような形態には、乾燥粉末、懸濁液、ゲル、被膜、フォーム、ゾル、エアロゾル、顆粒、薄片、繊維、およびペースト形態が含まれる。しかし組成物は、丸薬またはカプセルに含めることもできる。医薬組成物はさらに、薬学的に許容される賦形剤を含むことができる。
【0042】
その他の有用な実施形態では、本発明の組成物が、筋肉内、皮下、または静脈内投与など、全身投与のその他の形に適した形をとる。そのような適切な形は、標準的な薬務に従い薬学的に許容される担体または賦形剤を有する溶液形態である。前記溶液形態は無菌であり、pHは適切に調節され緩衝される。静脈内使用では、調剤物が等張性になるように、溶質の合計濃度を制御すべきである。
【0043】
本発明のT−ChOSは、カプセルもしくは錠剤で送達することができまたは摂取用の水溶液中に溶解しもしくは懸濁することができる、粉末、薄片、または繊維状材料を含む、本質的に乾燥した形で都合良く提供することができる。そのような組成物は、実質的に前述の治療用キトオリゴマーのみから、即ちキトオリゴマーの約80〜100重量%の範囲内のキトオリゴマーのみからなってもよい。有用な実施形態では、組成物は、前記T−ChOSを20〜100重量%の範囲内で含み、この範囲には約25〜95重量%が含まれ、例えば約50から90重量%などである。
【0044】
本発明のT−ChOSの経口投与は、T−ChOSの分子構造がいくつかの要件を満たすことが必要であり;十分な生物学的利用能を有すること、即ち胃腸管の生体膜の端から端まで定量的に輸送する能力を有すること;GI管内で初期分解を生き抜くために、十分な生物安定性を有すること、および分解して系から排除される前に、体液中に効率的に分布されること、最後に、標的受容体との結合を通じて、適切な生物活性を保有しなければならないことが必要である。これらの要件を全て満たすには妥協が必要であり、一部または全ての基準は、最適には及ばないレベルでしか満たされない。これは、T−ChOSを確実に標的受容体に到達させ相互に作用させながら、吸収および生分解のハードルを克服することが可能な最良の可能性ある組成物を得るために、生成物最適化の概念に関して包括的な視点を必要とする。
【0045】
本発明の文脈において、「医療デバイス」という用語は一般に、ヒトまたはその他の動物の、疾患またはその他の状態の診断での使用、または疾患の治癒、緩和、治療、または予防での使用を目的とし、あるいはヒトまたはその他の動物の身体の構造または任意の機能に影響を及ぼすことを目的とした、器具、装置、道具、機械、仕掛け、インプラント、生体外試薬、またはその他同様のまたは関連する物品であって、構成部品を含めたもの、または付属品を指す。本明細書の文脈において、「生体材料生成物」という用語は、「医療デバイス」という用語と同義に使用される。
【0046】
本発明のキトバイオマー(ポリマーおよびオリゴマー)は、様々な目的の生体材料において特に有用である。従来のキトサンの有利な特徴(生体適合性、その他の成分と混合して、機械式インプラントや薬物送達装置などの医療デバイスに適した混合物を生成する能力)全てを示す他に、上述のように、体内でのCLPに対する高親和性が原因で、かなり高い溶解性と生物学的または治療活性を有している。
【0047】
生体材料の配合物は、様々なバイオポリマー(アルギネートおよびその他の多糖など)、コラーゲン、ヒドロキシアパタイトを含めたリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ナトリウムトリポリホスフェート、リン酸2水素ナトリウム、リン酸グリセロールナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、および様々な有機またはカルボン酸などの、その他の有機および無機成分を適切に含むことができる。
【0048】
本発明の生体材料は、生体材料組成物に含まれるキトバイオマーの性質から利益を得る、様々な医療デバイスで有用である。
骨およびその他の組織の再生では、2つの主なタイプの骨、骨梁骨および皮質骨がある。骨梁骨はスポンジ状であり、椎骨を含めたほとんどの骨の内部のバルクを構成し、一方、皮質骨は稠密で、骨の表面を形成する。小柱網は、骨内の血液形成要素を支える。
【0049】
「結合組織性骨化」という用語は、適正な誘発シグナルによって新しい骨に直接分化する、骨前駆細胞から生ずる新しい骨形成のプロセスを指す。骨化のこの経路は、特に頭蓋骨などの扁平骨の成長の際、胚性段階で生じる。
【0050】
「軟骨内骨化」という用語は、軟骨が最初に生じて最終な骨の枠組をもたらす、骨形成プロセスを指す。軟骨組織は、成熟骨組織に比べてその発達および維持には局所酸素濃度をそれほど必要とせず、したがって、血液供給系がその最終的な発達段階に到達しない場合であっても、軟骨が骨に取って代わることになる。軟骨は、血管新生がその進行段階に到達した後、新しい骨によって置き換えられるだけであり、発達した組織に対する酸素の必要不可欠な供給が保証される。骨形成のこのプロセスも、特に椎骨、長骨、胸骨などでの胚性段階中に典型的なものである。
【実施例1】
【0051】
高純度の部分的脱アセチル化キチンポリマー(キトバイオマー)の生成
1.1 脱アセチル化中に、キトバイオマー組成物の収量を増大させ、実質的に菌体内毒素のレベルを低下させるための、均質な脱アセチル化条件の使用
キチン粉末(1)を、15℃で50%NaOH(3)に添加し(2)(キチン/NaOHの比、1:15、w/w)、36rpmという一定速度(4)で1時間(5)混合した。引き続き、微粉砕した3〜10mmの氷(アルカリ/氷の比、1:3、w/w)(6)をアルカリスラリーに添加して、キチンを溶解した。キチンが溶解し、菌体内毒素がアルカリ溶液に完全に曝された2時間後、温度(7)を上昇させ、脱アセチル化反応を16℃で40時間実施した。脱アセチル化プロセスが終了し、内毒素が劇的に減少した後(<30EU/g)、pHをさらに3.8に調節した(8)。この後、一連の濾過ステップ(9)を行って、異物および溶解していないポリマーを除去した。ポリマーを、塩析法を介して析出することにより回収した。回収後、ポリマーを洗浄し、均質化した。最後に懸濁液を噴霧乾燥して(10)、精製されたポリマーを得た。このプロセスは、商業的に実現可能であり、完全に可溶性のキトバイオマー組成物の収率を、不均一脱アセチル化プロセスに比べて60%上昇させることになる。内毒素レベルは、このプロセス中に劇的に低下することになるが、その理由はおそらく、プロセス全体を通してキチン原材料がその結晶構造を維持する不均一脱アセチル化プロセスでの状況に比べて、内毒素分子がより多く苛性ソーダ溶液に曝され、かつ固体キチン構造内に固定され得る内毒素分子が、おそらくは反応媒体中の苛性ソーダから保護されるからである。
【0052】
括弧内の注釈番号は、下記のリストに従って変えることのできる方法ステップを表す
(1)粉末の粒度は2mm以下でもよい。エビ、カニ、コウイカ、ヤリイカ、オキアミなどを含めたキチンの供給源が適切である。
【0053】
(2)衛生要件を満たす反応器。
(3)アルカリの最終濃度は5から90%(w/w)に及んでもよい。最も好ましいアルカリは水酸化ナトリウムである。その他のアルカリも同様に適切であり、濃KOH、LiOH、Ca(OH)2、Na3PO4、およびNH4OHが含まれる。乾燥物質とアルカリとの比は、1:3から1:100に及んでもよい。アルカリの温度は2から35℃に及んでもよい。
【0054】
(4)混合速度は0から80rpmまで様々に変えてもよい。このプロセスに関して最も好ましい範囲は20〜40rpmである。
(5)脱アセチル化時間は、主にアルカリの温度および濃度に応じて0.5から1000時間に及んでもよい。
【0055】
(6)粉砕した氷のサイズは、0.5から50mmに及んでもよい。アルカリと氷との比は、1:1から1:30に及んでもよい。
(7)加えられる温度および時間の組合せに応じて、脱アセチル化温度は10から100℃に及んでもよく、最適な場合は5〜30℃であり、脱アセチル化時間は0.1から1000時間に及んでもよい。
【0056】
(8)この酸性化プロセスでは様々な酸を使用してもよく、高濃度のカルボン酸および高濃度の鉱酸が含まれる。塩酸が最も好ましい。HClの濃度は、0.01から37%(w/w)に及んでもよい。
【0057】
(9)限外濾過およびナノ濾過を含めた様々な濾過技術が適用可能である。
(10)乾燥は、凍結乾燥または噴霧乾燥器によって、あるいは任意のその他の適切な乾燥技術によって行ってもよい。
【0058】
1.2 菌体内毒素の低減をさらに増強するための、塩酸によるキチン原材料の前処理
この実施例は、キチン原材料の前処理の追加のステップを提供し、強塩酸(HCl)媒体にキチン粉末を溶解するステップと、溶解したキチン構造から菌体内毒素を効率的に抽出するステップと、その後、HClおよび任意選択の酸化剤(例えば過酸化水素)と接触させた、曝された内毒素を破壊するステップとを含む。さらに、その後の液体状態の脱アセチル化プロセス中、アルカリに溶解したキチンによって、HCl処理を生き抜いた内毒素のさらなる抽出および破壊が可能になる。この方法は、収集、保存、または輸送中に、その新鮮さを失いかつ細菌増殖に曝された原材料を処理する際に、特に有用である。
【0059】
詳細な製造プロセスの実施例
粉末状キチン(<150μm)(1)を、室温で30%塩酸(2)に溶解した(キチン/HClの比1:20、w/w)。10分後、過酸化水素を添加し(H2O2の最終濃度、2%、w/w)(3)、15(4)分間反応させ、次いでこの溶液を、75%IPAに流し込み(キチン溶液:50%IPA溶液は1:40であった)(5)、洗浄して中性pHにした。次いで析出物を、内毒素を含まない水で、70℃でさらに洗浄した(6)。過剰な水を除去した後、濃アルカリ溶液(アルカリの最終濃度は25%w/wであった)(7)をコロイド状キチンに添加した。次いで混合物を−25℃にした(8)。この後、コロイド状キチンを解凍し、溶解し、60℃で6時間脱アセチル化した(9)。脱アセチル化後、部分的脱アセチル化キチンを温水(70℃)に注ぐことによって回収し(10)、洗浄して中性pHにした。最後に、中和された懸濁液を、凍結乾燥器/噴霧乾燥器に移すことにより、乾燥物質が得られた。
【0060】
得られたキトバイオマー生成物の内毒素レベルは、一般に、LAL分析法によれば30EU/g部分的脱アセチル化キチンよりも十分低い。
1.3 部分的脱アセチル化キチン溶液の精製および塩析法によるポリマーの回収
本発明の組成物は、エビの殻などのキチン質原材料から適切に得ることができる。キチンは、部分的脱アセチル化キチンポリマーが得られるように、強塩基で脱アセチル化されることが有利である。または引き続き、材料は、可溶性キトバイオマーの収量を増加させるために、かつ精製前の菌体内毒素(EU)レベルを低下させるために、この実施例の1.1または1.2による生成物にすることができる。反応の時間およびキチンの濃度は、所望の脱アセチル化度に応じて変えてもよく、任意の特定の加工ユニットおよび特定の所望の脱アセチル化度に合わせて容易に最適化することができる。脱アセチル化反応は、得られた部分的脱アセチル化キチンを温水で洗浄することにより、または適切な酸を添加することにより、pHを中和することによって停止させる。次いで得られたポリマーを酸性溶液に溶解し、異物または不溶性物質を除去するためにこの溶液を濾過することにより、精製を行ってもよい。
【0061】
部分的脱アセチル化キチンポリマーを回収するには、濾過された溶液の温度を、最初に55℃よりも高く上昇させる。次いでpHを8よりも高く、好ましくはpH10〜11に調節し、最後に適切な塩を添加して、析出プロセスを開始させる。次いで温水を使用して、中性であり塩を含まない材料が得られるまで析出物を洗浄する。洗浄プロセスの後、適切な従来の乾燥方法を行って、材料を乾燥してもよい。
【0062】
この実施例は、高溶解性の部分的脱アセチル化キチン(平均脱アセチル化度が30から55%)を、そのような濾過済みポリマー溶液から有機溶媒を使用することなくどのように回収できるのかを教示している。任意選択の塩(NaCl)の添加は、商業的プロセスでのより容易な回収のために、析出物の緻密度を高めることにある。
【0063】
選択された実施例
1.3.1 43%DD部分的脱アセチル化キチン(Lot G060307P)1gを、水100gに分散させた。クエン酸(2g)を、ポリマーを溶解するために添加した。温度を60℃まで上昇させ、NaOH(35%溶液)を1滴ずつ添加して、pHを11に調節した。この結果、ポリマーが析出し、これを温水で洗浄してほぼ中性にすることができた。
【0064】
1.3.2 キチン1kgを用いるパイロット規模(Lot G060307P)では、キチンを最初に脱アセチル化し、洗浄し、1%クエン酸溶液に溶解した。この後、多段階濾過を行って、透明な溶液を得た。65℃に加熱した後、NaOH 350gを投入してpHを10.5に調節した。引き続き、NaCl 4.5kgを添加し、析出物の白色の塊を形成させた。析出物を、中性pHが得られるまで70℃の水で集中的に洗浄した。次いで析出物を均質化し、噴霧乾燥して、白色粉末状の部分的脱アセチル化キチンを生成した。析出を、下記の通り分析した:
乾燥粉末の平均粒度は5μm(分布は3〜10μm)であり、脱アセチル化度は43%であり、見掛け粘度は540cps(1%酢酸に溶かした1%の生成物)であり、濁度(1%生成物)<15NTUであった。
【0065】
図1は、70%脱アセチル化および94%脱アセチル化キトサンと比較した、この生成物(43%DD)の溶解度を示す。43%DDポリマーは、生理学的pH7.4で完全に可溶性であった(濁度に変化なし)。70%DDポリマーはpH7.4で一部溶解したが、94%DDキトサンポリマーは析出した(濁度>1000NTU)。
【0066】
結果は、キチンポリマーをアルカリおよび氷に溶解することによって、残りのN−アセチル−グルコサミンの分布を制御することができるように、均質な脱アセチル化を行うことができることを示す。この実験は、工業的に実現可能な規模で行うことができ、かつキチナーゼを加えることによって得られたキトオリゴマー調製物中のT−ChOSの収量が増加するように、この脱アセチル化法を使用できることも示す。
【実施例2】
【0067】
T−ChOSの生成および特徴付け
2.1 ロットG020418の生成;不均一ChOS試験ロット;同族体の定量および配列決定
生成
水酸化ナトリウム25kgを、80Lブレンダーに入れた水25kgに溶解し、60℃に加熱した。P.borealis(Genis ehf.)から得たエビの殻2.5kgを添加し、40分間撹拌した(15rpm)。次いでスラリーを水で冷却し、チーズクロスバッグ(200×40cm)に入れて10〜15分間洗浄した。キチンゲルを200Lブレンダーに移し、30%HClを添加することによってpHを4.0に調節し、100Lの体積が得られるように水を添加した。ファミリー18エンドキチナーゼを添加し(10000単位/kg基質)、ゲルを30℃で22時間撹拌した。pHを5.4に調節し、溶液を10分間80℃に加熱することによって、酵素を変性させた。冷却後、オリゴマー溶液(ChOS)を、280μmメッシュサイズの篩に通して注いだ。500Daのカットオフ膜0.72cm2を備えたDSS LabStak M20ナノ濾過ユニットを使用して、pH4.8で溶液を脱塩した。次いで入口空気温度が190℃であり出口空気温度が80℃であるロータリーアトマイジング噴霧乾燥ユニットを使用して、溶液を噴霧乾燥にかけた。微細な白色ChOS粉末2.0kg(80%)を収集し、室温で維持した。脱アセチル化度は、直接滴定によって判断した場合に37%(またはFA 0.63)であった。
【0068】
分析方法
BloGel P4ゲル透過クロマトグラフィー分析(GPC)
ChOS粉末の2.16g量を、pH4.2の0.05酢酸アンモニウム緩衝液180mLに溶解した。得られた溶液を、0.8μmおよび0.2μmの酢酸セルロース膜(Schleicher & Schuell)に通して順次濾過し、3000Daカットオフ膜(Amicon)に通して限外濾過した。濾液を凍結乾燥した。収量は0.74g(34%)であった。次いで得られた粉末(350mgのロット)を、Biogel P4、fine grade(BioRad、ミュンヘン、ドイツ)上でのゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって分離した。カラム寸法:5×200cm;移動相0.05M酢酸アンモニム緩衝液、0.23M酢酸でpH4.2に調節;流量60mL/時;屈折率検出器Shimadzu RID 6A。20mlの画分を収集し、適切に組み合わせ、小体積にまで濃縮し、最後に凍結乾燥した。
【0069】
同族体の調製−イオン交換クロマトグラフィー
GPCから得た凍結乾燥した画分4mgを、pH3.0の塩酸塩水溶液200μLに溶解した。溶液を、ナイロン膜(Nalgene)を備えた0.45μmシリンジフィルタに通して濾過した。同族体を、Resource S(Amersham Pharmacia Biotech、スウェーデン)上での高性能イオン交換クロマトグラフィー(HP−IEC)によって分離した。床体積:1ml;移動相:pH3.0の塩酸塩水溶液(A)、pH3.04の1M塩化ナトリウム水溶液(B);溶離プロファイル:0〜5分 100%A、5〜45分 100%〜50%A、45〜46分 50%〜0%A、46〜55分 0%A、55〜56分 0%〜100%A、56〜80分 100%A;流量60mL×h−1;UV検出器Jasco UV−MD−910。500μLの画分を収集し、適切に組み合わせ、floatalyzers(商標)(SpectraPor)で水に対して透析し(2L、4日間)、小体積に濃縮し、最後に凍結乾燥した。サンプルを、4mgのバッチでHP−IECにかけた。収量に関しては、結果および考察を参照されたい。
【0070】
2−アミノアクリドン(AMAC)によるChOSの還元的アミノ化
純粋なChOS 30nmolまたはChOS混合物60〜80nmolを、2−アミノアクリドンの0.1M酢酸/DMSO(v/v 3:17)溶液20μLに溶解し、手動で30秒間撹拌し、その後、シアノホウ水素化ナトリウムの1M水溶液20μLを添加し、さらに30秒間撹拌した。混合物を、90℃で30分間、暗所で加熱した。反応容器を−20℃に冷却し、反応混合物を凍結乾燥した。残留物を水1mlに溶解し、水1Lに対して48時間透析し、最後に凍結乾燥することによって、薄黄色の粉末が得られた。サンプルを直ぐに分析し、または−20℃で暗所に保存した。
【0071】
質量分析
凍結乾燥したAMAC−オリゴ糖誘導体を、メタノール/水(v/v 50:50)200〜500μLに再溶解した。この溶液のアリコート(0.5μL)を、30%エタノール水溶液に溶かした母材としてのDHB(15mg×mL−1)の溶液2μLと、標的上で混合し、穏やかな空気流中で液滴を乾燥した。母材の結晶化は、普通に自然に生じた。場合によっては、結晶化は、当初のサンプル溶液をメタノール/水(v/v 50:50)で約5倍に希釈した後にだけ、観察された。
【0072】
MALDI TOF質量スペクトルを、陽イオンモードのBruker Reflex II(Bruker Daltonik、ブレーメン、ドイツ)で記録した。イオン化では、窒素レーザ(337nm、3ナノ秒パルス幅、3Hz)を使用した。質量スペクトルの最適化では、レーザを、サンプルの中央領域または結晶縁の最も外側の端部に向けた。全てのスペクトルは、外部較正を使用して反射器モードで測定した(アンギオテンシンII)。
【0073】
ChOS同族体−同重体(isobar)の配列決定
MALDI TOF質量スペクトルで適切なシグナルを示す、DP8に対するDP3の全ての同族体について、他の箇所1に記述されている手順に従って配列決定をした。簡単に言うと、凍結乾燥したGPC画分F3〜F10それぞれの60〜80nmolを、2−アミノアクリドンで還元的にアミノ化することにより、還元末端にタグが付された同族体が得られた2(GPC画分F7−AMACのMALDI TOF質量スペクトルについては以下を参照のこと、その他については図示していない)。画分を、MALDIタンデム質量分析によって分析した。問題となっている同族体の一ナトリウム化擬似分子イオンを、質量分析器の4極子で選択し、衝突セル内で断片化することによって、非還元末端から形成されるA、B、およびCタイプのイオンと、還元末端からのX、Y、およびZタイプのイオンが得られた。還元末端のタグにより、Yタイプのイオンは、194Daの質量増加によって同定することができ、オリゴ糖配列は、配列系統樹を使用して還元末端から読み取ることができた。
【0074】
結果
表1は、各画分の各ChOSおよび同族体のDP、ならびに画分F1〜F10の質量分布を示す。表2は、ChOSの同族体の配列の配列分析によって見出された、同重体の配列を示す。
【0075】
DP5とDP7との間のChOSの主な化合物では、これらの結果を定量することができた(D2A3、D3A3、D2A4、D3A4)。
同重体の混合物に関する定量的情報を得るには、擬似MSを用いなければならなかった:サンプルを供給源内で断片化し(イオンの予備選択なしで)、断片イオンを質量分析器の4極子で選択し、衝撃セル内で断片化し、最後の断片化の質量スペクトルを記録する。
【0076】
最初の断片化は、イオンのいかなる予備選択もなしに実施されるので、サンプルは、純粋な同族体でなければならない。特に、分析物よりも低い質量を有するイオンは、MALDI TOF質力スペクトル内に存在すべきではない。
【0077】
そのような理由で、定量的配列分析の前に、GPC画分を精製する必要があった。GPC画分F6からF9の同族体を、陽イオン交換HPLCカラムでの電荷数によって分離した結果、純粋なD2A3(F6)、D3A3(F7)、D2A4(F8)、およびD3A4(F9)が得られた。表3は、GPC画分F6からF9のHP−IEC分離の結果をまとめている。
【0078】
純粋な同族体D2A3、D3A3、D2A4、およびD3A4を、2−アミノアクリドンで還元的にアミノ化して、還元末端にタグが付された誘導体を得た(D3A3−AMACのMALDI TOF質量スペクトルについては下記参照のこと、その他については図示していない)。誘導同族体について、擬似MALDI MSにより、上述のように配列決定した。
【0079】
同族体断片イオンの相対強度[%]を、評価ソフトウェアによって割り当てた。相対ピーク強度の再現性は、繰り返される断片化によって証明した。平均標準偏差は1%であることがわかった。図2は、異なる配列の断片イオンによって引き起こされたピークの強度を定量する、D3A3に関する配列系統樹を示す。Y2タイプのイオンでは、DA(7.5%)およびAA(92.5%)の相対量を、D1A1−AMACおよびA2−AMACの相対ピーク強度から直接読み取ることができた。
【0080】
Y3タイプのイオンでは、DDA(5.9%)およびAAA(6.5%)の相対量を、D2A1−AMACおよびA3−AMACの相対ピーク強度から直接読み取ることができた。ADAの相対量(1.6%)は、方程式[DDA]+[ADA]=7.5%から結論付けることができ、DAAの1つ(86.0%)は、方程式[DAA]+[AAA]=92.5%から得ることができた。
【0081】
Y4タイプのイオンでは、DDDA(0.9%)の相対量を、D3A1−AMACの相対ピーク強度から直接読み取ることができた。ADDAの相対量(5.0%)は、方程式[DDDA]+[ADDA]=5.9%から結論付けることができた。DAAAの相対量は、DAAA−AMACのみがA3−AMACを与えるので、6.5%であり、これに、6.5%の相対ピーク強度を割り当てた。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
D1A3−AMACの擬似MS3では、D1A1−AMACおよびA2−AMACの相対ピーク強度が、1.0%および99.0%である。D3A3−AMACのMALDIタンデム質量スペクトルでは、D1A3−AMACの相対ピーク強度が22.1%である。AADAは、断片D1A1−AMACを与えるD1A3(AADA、ADAA、DAAA)の唯一の配列である。その理由で、AADAの相対量が22.1%の1%=0.2%である。DADAの相対量(1.4%)は、方程式[AADA]+[DADA]=1.6%から計算することができた。ADAAの相対量(15.4%)は、方程式[AADA]+[ADAA]+[DAAA]=22.1%から計算することができた。最後に、DDAAの相対量(70.6)は、方程式[ADAA]+[DDAA]=86.0%から計算することができた。Y5タイプのイオンの場合、ADDDAの相対量は、ADDDA−AMACのみがDDDA−AMACを与えるので0.9%であり、これに相対ピーク強度0.9%を割り当てた。同じような考察により、DAADA(0.2%)、DADAA(15.4%)、およびDDAAA(6.5%)の割り当てが可能になる。
【0086】
D2A3−AMACの擬似MS3では、D2A1−AMAC、D1A2−AMAC、およびA3−AMACの相対ピーク強度が、2.6%、88.0%、および9.4%である。D3A3−AMACのMALDIタンデム質量スペクトルでは、D2A3−AMACの相対ピーク強度が82.0%である。AADDAは、断片D2A1−AMACを与えるD2A3(AADDA、ADADA、DAADA、ADDAA、DADAA、DDAAA)の最適な配列である。その理由で、AADDAの相対量は、82.0%の2.6%=2.1%である。DADDAの相対量(2.9%)は、方程式[DADDA]+[AADDA]=5.0%から計算することができる。D2A3−AMACの擬似MS3では、D1A1−AMACおよびA2−AMACの相対ピーク強度が3.9%および96.1%である。ADDAA、DADAA、およびDDAAAは、A2−AMACを与えるD2A3の最適な配列である。その理由で、ADDAA+DADAA+DDAAAの相対量は、82.0%の96.1%=78.8%である。この方程式から、ADDAAの相対量(56.9%)を計算することができる。DDDAAの相対量(13.7%)は、方程式[DDDAA]+[ADDAA]=70.6%から計算することができる。DDADAの相対量(0.5%)は、方程式[DDADA]+[ADDDA]+[DADDA]+[DDDAA]=18.0%から計算することができ、ADADAの相対量(0.9%)は、方程式[DDADA]+[ADADA]=1.4%から計算することができる。
【0087】
図3a〜3dは、同族体D2A3、D3A3、D2A4、およびD3A4の同重体の相対量を示す。この方法の再現性により、1%の未満の相対ピーク強度を決定することができないので、同重体は、計算量が1%未満の場合に図に含まれなかった。
【0088】
2.2 ロットG050421の生成;均質脱アセチル化プロセスによる改善されたT−ChOSの収量
均質キトオリゴ糖G050421の生成
脱アセチル化を、実施例1で述べたように行った。脱アセチル化プロセスの終了後、塩酸を使用してpHをさらに3.8に調節し、温度を35℃に調節した。ファミリー18エンドキチナーゼ(10000単位/kg基質)を溶液に添加し、加水分解反応を22時間続けて、加水分解を終了させた。この後、一連の濾過ステップを行って固体粒子を除去し、限外濾過ステップを行って、酵素タンパク質およびその他のポリマーの残遺物を除去した。最後に、溶液を噴霧乾燥することにより、粉末状の治療用キトオリゴ糖(T−ChOS)(G050421)が得られた。
【0089】
分析方法
Biogel P4のGPC分画を、前述のように行った。GPC画分のMALDI−TOF質量分析を、前述のように行った。
【0090】
結果
直接滴定による判定では、不均一脱アセチル化ChOSの脱アセチル化度が39%であり、均質脱アセチル化オリゴマー(G050421)では40%であった。
【0091】
不均一脱アセチル化オリゴマー(G020418)に関するオリゴマーピーク分布および同族体分析を、図4に示し、均質脱アセチル化オリゴマー(G050421)に関するものを図5に示す。ピーク分布における最も著しい差は、より長いオリゴマーで観察される。不均一脱アセチル化オリゴマーの場合、DP11から22(図4のピーク領域0)は、全材料の35.5%であり、その量は、DP11から22の増加と共に増加する。一方、均質脱アセチル化オリゴマーの場合、DP11から22(図5のピーク領域0から−3)は、全材料のわずか12.9%であり、その量は、DP11から22の増加と共に減少し、文献上はDP18またはそれ以上を残さない。これは、非常に活性なオリゴマー(DP5〜10)の値にも反映されている。均質オリゴマーは41%のDP5〜10を有するが、不均一オリゴマーは、わずか28%のDP5〜10を有する。
【0092】
これら2つの脱アセチル化方法による、オリゴマーに関する同族体分布を図6に示す。不均一オリゴマーの場合、均質オリゴマーの場合よりも非常に少ないDP4(A2D2およびA3D)およびDP5(A3D2)ならびにDP7(A3D4)およびDP8(A4D4)が存在する(図6)。
【0093】
まとめると、均質脱アセチル化は、不均一脱アセチル化よりも生物活性が高いChOSを与える可能性が高い。望ましくないより高いDP>15オリゴマーの生成の著しい減少は、この方法によって観察される。
【0094】
2.3 限外濾過によるT−ChOSの相対量の増強(ロットG051128)
T−ChOS(DP5〜15)の相対量を改善するために、追加の限外濾過ステップを行って、1kDaのUF膜(Helicon、Millipore)T−ChOS溶液を濾過し、濃縮し、小キトオリゴマー(DP2〜5)を大幅に減少させ、モノマーを排除した。浸透液を廃棄し、濃縮液を収集して噴霧乾燥した。
【0095】
試験材料の分析では、Beckman Goldシステムを使用してHPLCを実施した。分子量によってChOSを分離する(DP1、DP2など)TSK−オリゴカラム(TosoHaas、日本)を使用した。溶媒は5mM水酸化アンモニウム、pH10.0であり、流量は0.5ml/分、吸光度は205nm、注入体積は20μlであり、ChOS濃度は10mg/mlであった。
【0096】
図7は、限外濾過ステップ前後の各DPの相対量を示す。モノマーは除去され、より小さいオリゴマー(DP2〜5)が著しく低下している。
【実施例3】
【0097】
人体での治療用キトオリゴ糖の吸収
方法
キトオリゴマー
N−アセチルグルコサミンおよびグルコサミンからなるキトオリゴマーは、Genis、レイキャビク、アイスランドによって調製された。簡単に言うと、キチンをアルカリ中で部分的に脱アセチル化し、洗浄し、キチナーゼによりオリゴマーに加水分解した。オリゴマーを限外濾過し、脱塩し、噴霧乾燥して、微細な白色粉末にした。平均脱アセチル化度は47%(FA0.53)であった。オリゴマーおよび同族体の分析および定量を、血液の場合と同じ方法を使用して行った。このデータを使用して、血液中の種々の同族体の吸収度を比較した。
【0098】
全体的な血液サンプル処理
ボランティアの被験者に、4週間にわたって毎日、ChOS(Genis ehf;S041124−1K)1.8gを消費させた。血液サンプルを6週間以内に収集した。最初のサンプルは、ChOSの消費前に採取した。続いて4つのサンプルを、最初の消費から1週間後に開始して毎週採取した。サンプル6は、ChOSの消費を停止させてから2週間後に採取した。各サンプルの体積は、7.0mlであった。血液サンプルを、3000rpmで30分間遠心分離した。血清を収集した。メタノールおよび塩化ナトリウムを添加して、最終濃度をメタノール30%および塩化ナトリウム0.1mg/mlにし、その後、別の遠心ステップを行った。サンプル500μlを、3kDaのカットオフ膜に通して濾過した(限外濾過)。上澄みを3倍に満たした。適切な濾液を貯留し、メタノールを真空除去し、サンプルを最後に凍結乾燥した。
【0099】
MALDI−TOF MS
凍結乾燥したサンプル(約100μg)を、メタノール/水(v/v 50:50)100μlに再度溶解した。溶液のアリコートを、ターゲット上で、30%のエタノール水溶液(15mg*mg−1)に溶かしたDHBの溶液2μlと混合した。液滴を、穏やかな空気流中で乾燥した。質量スペクトルを、陽イオンモードのBruker Reflex II(Daltonik、ブレーメン、ドイツ)で記録した。イオン化では、窒素レーザ(337nm、3ナノ秒のパルス幅、3Hz)を使用した。全てのスペクトルを、外部較正を使用してリフレクタモードで測定した。モノアイソトピックピークを、全ての質量スペクトルにおいて標識した。
【0100】
MALDI−TOF MSによる同族体決定
凍結乾燥したサンプル(約100μg)を、メタノール/重水(v/v 50:50)100μl中に再度溶解した。10倍モル過剰なヘキサ重水素無水酢酸を添加し、それと共に氷状テトラ重水素酢酸を3滴添加した。溶液を、30℃で12時間撹拌した。等モル量のアンモニアを添加することによって、反応を停止させた。溶液を凍結乾燥し、アンモニア100μl中に再度溶解した。アンモニアの濃度は、N−アセチルグルコサミン単位(GlcNAcまたはA)のモル数に対して10倍モル過剰に設定した。溶液を、22℃で一晩撹拌した。アンモニアを真空中で除去した後、サンプルを凍結乾燥した。MALDI−TOF MSがO−アセチル基を依然として示す場合、凍結乾燥物を、水酸化ナトリウム水溶液(100μl)中に再度溶解した。水酸化カリウムの濃度は、GlcNAc単位のモル数に対して2倍モル量過剰に設定した。溶液を室温で10時間撹拌し、陽イオン交換樹脂(H+形)を添加することによって中和した後、濾過し、濾液を凍結乾燥した。
【0101】
MALDI−TOF質量スペクトルを、実施例4で述べるように採取した。相対シグナル強度の定量によって、混合物中の同族体の組成が得られる。
MALDI−TOF MSによるChOSの定量法
サンプルを、MALDI−TOF MSによる同族体決定で述べたように調製する。その後、標準物質を各サンプルに添加した。標準物質であるキチンオリゴマー(An)は、分析物と同じDP±1でなければならない。この標準物質の連続希釈物を使用した。分析物と標準物質との信号強度を比較することにより、分析物の濃度が得られる。
【0102】
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)
オリゴマーを、実施例2で述べたBiogel P4上でのGPCを用いて分離した。適切な画分を組み合わせた;体積を真空中で減じた後、一定質量まで凍結乾燥して、酢酸アンモニウムを除去した。
【0103】
高性能イオン交換クロマトグラフィー(HPIEC)
GPC分離から得られた同族体(およびオリゴマー)の混合物を、HPIECによって分析した。条件:固定相:Resource S(Pharmacia、ウプサラ、スウェーデン)、床体積1ml;移動相:塩酸pH3.5、塩化ナトリウム勾配0〜1M、5〜60分、流量1ml/分;装置:UV検出器(検出波長210nm)を備えたHPLC機器(Jasco、Gross−Umstadt、ドイツ)。HPLC画分を凍結乾燥した。時折り、画分を透析(Floatalyzer(登録商標)、SpektraPor、ドイツ)によって脱塩した。
【0104】
HPIECを用いた同族体の定量法
実験は本質的に、高速イオン交換クロマトグラフィーで述べたように行った。標準物質を各サンプルに添加した。標準物質は、分析物と同じ濃度範囲内になければならない。分析物の濃度は、標準物質と分析物とのピーク面積の比較から計算する。ピーク面積は、分析物分子中のアセチル基の数に対して線形相関を示す。
【0105】
結果
ChOSの消費前に収集された血液サンプルのMALDI−TOFは、ChOSのいかなるシグナルも示さなかった。
【0106】
1週間後
ChOS消費の1週間後の血液サンプルでは、オリゴマーのごく微量のDP2(A2同族体)およびDP3(D1A2同族体)が観察された(データは図示せず)。
【0107】
2週間後
ChOS消費の2週間後に採取した血液サンプルは、MALDI−TOF質量スペクトルによって判定したときに、ヘテロキトオリゴマーの明らかな徴候を示した。図8は、DP2〜DP5の同族体を示す;DP2(同族体A2)からDP12(同族体D7A5)までの同族体は、質量スペクトル内に明らかに認められた。様々な方法(方法の章を参照)による同族体の定量法は、消費から2週間後の全ChOS濃度が0.16mg/ml血清であることを明らかにした。全血液体積が5Lと仮定すると、吸収されたChOSの総量は、0.80gまたは日用量の44%である。
【0108】
3週間後
MALDI−TOF MSは、DP2からDP12までのオリゴマーについて明らかにした(図9)。図10は、消費された天然サンプルと3週間後の血液サンプルとの、オリゴマーと同族体の相対質量分光分析シグナル強度を比較する。当初の混合物と比べると、血液サンプル中において、より高いアセチル化同族体(より高いFA値)への明らかなシフトが観察される。3週間後の血液サンプルでは、DP15までの微量の同族体が見出された。様々な方法(表4および方法の章を参照)による同族体の定量法は、消費から3週間後の全ChOS濃度が0.19mg/ml血清であることを明らかにした。
【0109】
【表4】
【0110】
結論
毎日1.8gのChOSを消費することによって、血流中へのこれらの糖の吸収がもたらされる。微量のDP2およびDP3オリゴマーは、消費から1週間で明らかである。最大84%の摂取は、消費開始から2週間で達せられ、ChOSの最高水平域(100%)は、消費開始後3週間で達せられる。全体的な最大濃度は、血液ml当たり約190μgであり、毎日の投与の53%最大吸収率を示している(5L血液体積)。DP2〜7のオリゴマーは、血液ml当たり14〜40μgの濃度(むしろ等しい)であることがわかる。DP8〜9のオリゴマーは、3〜10μg/mlのより低い濃度であることがわかる。DP15までのオリゴマーは血液中に見出された。消費された天然サンプル中および血液中に見出された同族体の比較によって、より高いアセチル化度の同族体が、血流中に好ましく浸透していることが明らかにされる。
【0111】
消費停止から2週間後、もはや血流中にはキトオリゴマーが検出されない。
T−ChOS組成物は、FA値など、異なる組成を含むヘテロオリゴマー組成物に比べて、生物学的利用能がより高い傾向があると結論付けられる。これは、T−ChOS組成物が、その他のヘテロオリゴマー組成物に比べてより高い治療活性を含むという結論を裏付けている。
【実施例4】
【0112】
キチナーゼA活性の遮断薬としてのT−ChOS同族体;T−ChOS組成物の生物安定性に関するモデル
材料および方法
キトオリゴ糖(ChOS)(ロットNo.G020418およびG020218)を、陽イオン交換クロマトグラフィーまたはゲル透過クロマトグラフィーによって、あるいは両方の方法の組合せによって、同族体画分に分画した。生成物を凍結乾燥し、MALDI−TOF質量分光分析によって構造および配列を分析した。Genisから得た3つのその他の未分画ChOSロットについても、同じMALDI−TOF法によって分析した(ロットNo.G040823、G050421、およびG050421UF;UFは、DP≦5の含量を減少させるための、1kDa膜を通した限外濾過を表す)。
【0113】
限外濾過は、均質に脱アセチル化された部分的脱アセチル化キチンロットの加水分解によって調製された、バッチG050421に関して実施した。簡単に言うと、ChOS 16gを180mlの蒸留水に溶解し、Amiconセルを使用して、1kDa再生セルロース膜(Millipore、USA)でダイアフィルトレーションを行った。保持された溶液の最終体積は65mlであり、0.582gのChOSが得られた(収率=33%)。全透過液体積は970mlであった。全透過液と最終の濃縮液との両方を、実施例4に記述されるようにP4BiogelクロマトグラフィーおよびMALDI−TOF質量分光分析によって分析した。最終的な濃縮液を凍結乾燥し、これをG050421UFと呼ぶ。
【0114】
霊菌(S.marcescens)から精製されたキチナーゼA調製物を、標準的なファミリー18キチナーゼとして使用し、4−メチルウンベリフェリル−β−D−N,N’−トリアセチルキトトリオシド(4−MU−A3)、キチンテトラマー(A4)類似体を、標準的なキチナーゼ基質として使用した。
【0115】
標準的なキチナーゼA溶液は、0.1mg/ml BSA中に0.5nM(500pM)であり、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)(Chit−A sol.)および基質溶液は、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶かした40μMの4−MU−A3であった。
【0116】
純粋な各ChOS同族体の種々の濃度(通常、0、25、50、100、200、400、および800μM)を、基質緩衝液中に作製した。アッセイでは、Chit−A溶液25μlを基質/遮断溶液25μlと混合し、37℃で10分間インキュベートした。反応を、1.95mlの0.2M重炭酸ナトリウム緩衝液(Na2CO3)で停止させた。生成物、4−メチルウンベリフェロン(4−MU)の形成を、Perken−Elmer LS 50B蛍光高度計で各反応ごとに読み取った。励起波長は380nmであり(5nm調節スリット)、発光波長は460nm(4nm調節スリット)であった。各反応を、3回読み取った。遮断を評価するために、非線形当てはめ、f=y0+a*exp(−b*x)を使用して(式中、xはキチナーゼの特異的活性に等しく、fはオリゴ糖濃度(μM)に等しい)、50%阻害濃度(IC50)を各ChOS同族体ごとに計算した。各同族体の親和性を、IC50の逆数として計算した。使用した式は、1/IC50×1000であった。
【0117】
結果および結論
キナーゼAは、pH5.5で最適の活性を有するにも関わらず、遮断実験に関するpHは、pH7.4に調節された。これは、pH5.5で行われたより早期のパイロット実験で、ChOS同族体の低遮断活性が示されたので、ChOSのアミン基をプロトンから解放するために行った。またこのpHは、血液およびその他の生理学的流体の生理学的pHにより良く似ており、人体でのオリゴ糖の振舞いをより良く反映している。
【0118】
図11は、キチナーゼ活性の典型的なChOS遮断を示す。得られるIC50は、A4D2同族体に関して17μMと計算された。表5に、DP、同族体、IC50、試験がなされた全ての同族体に関して計算された親和性および配列をまとめる。図12は、試験がなされた各同族体の計算された親和性を示す。図13は、図12と同じ内容を示し、それと共に各同族体を含む全ての配列(同重体)も示す。異なる同族体の遮断活性を考慮すると、2つの主な規則を導き出すことができる。遮断は、DPが増加するほど強力になり、それと同時に、より多くのアセチル化同族体(分子当たり、より多くのA単位)がより高い親和性を示す。したがって、D6、D9、およびD12は全て、不十分な遮断薬である。A4D2、A4D3、A5D7、およびA6D9(DP6〜12)は、最も強い遮断性を示した。したがってこれらの同族体は、キチナーゼ活性側に対する見掛けの親和性により、最も高い生物活性を有すると見なすことができる。DP12(A5D7)は、最も高い親和性を示し、DP15(A5D7)では、親和性がそれほど著しく上昇しない(図12および13)。ホモオリゴマーA6は、MALDI−TOFによって判定されるように、キチナーゼAによってA3、A2、およびA1に切断した。
【0119】
しかしキチナーゼAは、MALDI−TOF質量分光分析によって判定されるように、アッセイ条件下(pH5.5およびpH7.4)で試験されたヘテロオリゴマーのいずれも切断せず、同族体が良好な生物安定性を有することが示された。この高い生物安定性の理由は、ChOS生成中のファミリー18キチナーゼによる、基質の完全な加水分解である。
【0120】
未分画ChOS調製物を同じ酵素系で試験した場合、IC50は、G040823に関しては70μg/mlであり(図14)、G050421に関しては105μg/mlであり、限外濾過したG050421UFの関しては67μg/mlであった。これは、ChOS混合物中での同族体の遮断活性および生物安定性を評価するのに、この方法を使用できること、およびこの方法では、分析前に同族体に分画する必要がないことを実証している。したがってこの方法は、ヘテロキトオリゴ糖の種々の同族体の混合物を含むChOS調製物の、平均遮断活性を評価するのに使用することができる。そのような評価は、酵素の活性部位に対する平均結合親和性、および含まれる同族体の平均生物安定性の指標を与えることが可能である。
【0121】
【表5】
【実施例5】
【0122】
ヘテロオリゴ糖と39kDaヒト軟骨糖タンパク質(HC gp−39)との結合
HC gp−39はキチナーゼ由来のタンパク質であるので、キチンオリゴマー(ポリマーキチンの他に)は、このタンパク質に対して最も強い親和性を示す。一方、キチンオリゴマーは、人体にも見出される活性ファミリー18キチナーゼによって素早く切断される。T−ChOS組成物などのヘテロキトオリゴ糖(AおよびD単位からなる)は、キチンオリゴマー(A単位またはホモオリゴ糖のみ)よりも著しく高い生物安定性性を有する。したがって本実施例の目的は、HC gp−39に対するChOSの親和性が、FAによって、さらにはヘテロオリゴ糖のDPによってどの程度の影響を受けるか調査することであった。
【0123】
材料および方法
ヘテロキトオリゴ糖の定性的および定量的配列分析は、前述のように(実施例4)行った。
【0124】
親和性の研究
ChOSとHC gp−39との非共有複合体の親和性を、結合条件下で、タンパク質の内因性トリプトファン蛍光の変化を利用して分析した。蛍光強度の変化は、リガンドで誘発されたトリプトファン残基の溶媒カバーの変化によって引き起こされ、糖濃度と正に相関する。
【0125】
HC gp−39を、1mMジチオトレイトールを含有する25mMトリスHCl緩衝液pH7.4に溶解して、最終濃度1.00μM(タンパク質溶液)にした。異なる濃度の同族体を、1mMジチオトレイトールを含有する25mMトリスHCl緩衝液pH7.4中に溶かして調製した(糖溶液)。各同族体ごとに、4つの異なる濃度を調製した:溶液I 1.3〜2.0μM、溶液II 6.5〜16.0μM、溶液III 52.0〜80.0μM、および溶液IV 130.0〜200.0μM(濃度は、同族体間で異なった)。アッセイでは、タンパク質溶液50μlおよび各糖溶液(溶液I〜IV)50μlを、サーモシェーカーで15分間、25℃で別々にプレインキュベートした。その後、サーモスタットで調節したタンパク質溶液50μLを、糖溶液50μLと(溶液I〜IVを続けて)混合した。混合物を、サーモシェーカーで、25℃で7分間インキュベートした。蛍光を、Perkin−Elmer LS 50B蛍光分光計(Perkin−Elmer、Uberlingen、ドイツ)で各反応ごとに読み取った。励起波長は295nm(5nmの調節スリット)、発光波長は340nm(10nmの調節スリット)であり、カットオフは290nmであった。各反応について、3回測定した。
【0126】
解離定数の計算
生の蛍光データから、ブランクの蛍光を差し引いた。F−F0を、同族体の濃度に対してプロットし、データを、非線形回帰により、SigmaPlot(登録商標)ソフトウェアを用いてワンサイト飽和モデルに当てはめて、結合等温式を得た。
【0127】
y=Bmax×x/(Kd+x)
Bmax:HC gp−39の飽和結合ドメインに関する蛍光強度
Kd:解離定数。
【0128】
KdとFAとの間の相関
A単位の数に基づく一連のDP6同族体(D6、D3A3、D2A4、およびA6)に関する解離定数のデータを、非線形回帰(SigmaPlot(登録商標)ソフトウェア)により2パラメータ双曲線形減衰に当てはめた。
【0129】
y=a×b/(b+x)
相対親和性とFAの間の相関
解離定数のデータを相対親和性に変換し、A6に関しては100%の相対親和性であり、D6に関しては0%の相対親和性であった。D3A3およびD2A4の相対親和性を、この仮想スケールに従って計算し、A単位の数に対してプロットした。データを、非線形回帰により(SigmaPlot(登録商標)ソフトウェア)2パラメータ単一矩形双曲線関数に当てはめた。
【0130】
y=a×x/(b+x)
結果
親和性研究の前に、本実施例で使用した全てのChOSを、その純度および配列組成に関して分析した。キチンオリゴマーA6(生化学工業(株)、日本)を精製し、分析した後に親和性の研究を行った。全てのオリゴマーについて、その純度をチェックした。表6は、試験がなされたChOSの配列組成を示す。
【0131】
ChOSとHC gp−39との複合体の親和性を、タンパク質の内因性トリプトファン蛍光を使用して分析した。蛍光強度の変化は糖濃度に依存しており、非結合条件下での、トリプトファンの表面を覆う溶媒分子の再配列によって説明される。24濃度依存性蛍光データを、非線形回帰によりワンサイト飽和モデルに当てはめた(SigmaPlot(登録商標)プログラム、図15参照)。D6、D3A3、D2A4、A6、およびD5A6に関して見出された解離定数は、全て、マイクロモル範囲内にある(図16)。
【0132】
予測されるように、解離定数に関する値は、ChOSのFAの上昇と共に低下する。一連のDP6同族体(D6、D3A3、D2A4、およびA6)に関する、FAの上昇に伴う解離定数の低下は、線形関数ではない。データは、双曲線型減衰関数に最も良く当てはまる(y=a×b/(b+x);a:419.932;b:0.3839;R2:0.9986;図17)。図17の差し込み図は、相対親和性[%](D6=0%およびA6=100%)を示し、D3A3に関する最大親和性は90.8%のままである。
【0133】
また解離定数の値は、D3A3(FA 0.5;Kd 51.1μM)およびD5A6(FA 0.55;Kd 6.9μM)の比較が示すように、DPおよび定数FAの上昇と共に低下する。興味深いことにKd値は、A6(6A単位;Kd 13.6μM)およびD5A6(6A単位;Kd 6.9μM)の比較が示すように(D5A6のKdは、D3A3に関するKdの14%である)、A単位の数は一定の状態でD単位の数が増加すると共にさらに低下する。
【0134】
【表6】
【0135】
結論
ChOSは、マイクロモル範囲内の親和性(解離定数)でHC gp−39と結合する。親和性は、FAおよびDPの増加と共に、さらにA単位数が一定の状態でのD単位数の増加と共に、増大する。一連のDP6同族体の場合、FAの50%低下(A6□D3A3)によって、わずか9.2%の低下を親和性に引き起こす。したがって、FAが0.5から0.75のChOSは、人体におけるHC gp−39の最適な結合パートナーである。これらは最大結合能力の90+%を回復し、十分なD単位を含有して(したがってD−D、D−A、A−D結合)、人体において著しく増大した生物安定性を示す。これらの化合物は最適な治療活性をもたらし、したがって本明細書では、治療用キトオリゴ糖(T−ChOS)と呼ぶ。
【実施例6】
【0136】
キトバイオマー成分の脱アセチル化度が、リン酸カルシウム−キトバイオマー複合体の性質に及ぼす影響
キトバイオマー/リン酸カルシウム複合体は、固体画分(5%のキトバイオマーまたはキトサン(80%DD)、リン酸カルシウム、およびミネラルを含有する)と、これに対応する量の酸性媒体とを混合することによって調製した。表7に、この実施例で試験をした組成物をまとめる。混合後のペーストの特徴は、スポンジ状で弾性があり、硬化時間は、DDが増大すると共に著しく短縮された。機械的強度も、DDの増大と共に(40%DD<<70%DD<80%DD)著しく増大した。
【0137】
図18に示すように、破砕表面は多孔質であり、複合体にはマクロ細孔(直径が50μmよりも大きい細孔)が豊富に見られる。
種々のタイプ(またはサイズ)の結晶が、種々の脱アセチル化度のポリマーによって調製された複合体内に観察された(図19)。部分的脱アセチル化キチン(40%DD)を有する複合体は、棒状結晶または粒子で占有されており(図20(a))、一方、80%DDキトサンを有する複合体(図20(c))は、プレート状の結晶が稠密に充填されていた。70%DDキトバイオマーを含む調製物では(図20(b))、その結晶は、40%DDキトバイオマーと80%DDキトサン複合体との中間体であり、棒状およびプレート状の両方の結晶を含有している。これは、キトサンの脱アセチル化度が、複合体における結晶形成に影響を及ぼし、70%DDで、棒状からプレート状の構造に明らかにシフトすることを実証している。この差は、キトサン(80%DD)と比較したときに、40〜70%DDキトバイオマーが有するより高い水結合能力に関係している可能性がある。これは、水の利用可能性に影響を及ぼし、したがって複合体における結晶の発達に影響を及ぼす。
【0138】
複合体における結晶形成の差は、複合体の強度およびその生分解性に影響を及ぼす可能性があるので、特に重要である。
この実施例は、キトバイオマーまたはキトサンの脱アセチル化度によって、複合体の強度をどのように操作できるかを示している。これは、複合体の足場の生分解性を制御するのに使用することができ、即ち複合体に侵入するための、マクロファージのような遊走細胞および破骨細胞の進入が制御され、即ち骨発達に必要な血管新生を生成する軟骨および骨前駆細胞ならびに上皮細胞が侵入するための細孔が形成される。
【0139】
【表7】
【実施例7】
【0140】
ラット大腿骨における軟骨内軟化による骨治癒
80匹のメスラットを使用して、リン酸カルシウム(CAP)を有する5%キトバイオマーの複合体の影響をチェックした。動物の全グループを3つのサブグループに分けた:I.対照(未処理);II.リン酸カルシウムで処理;III.5%キトバイオマーを含有するCAPで処理。キトバイオマーおよびCAPを、手術室で一緒に混合し、パン生地状のコンシステンシーにした。
【0141】
全ての動物に麻酔をかけ、その大腿骨の中央骨幹で露出させた。単皮質的ドリルホールを実現するために、圧縮空気を介して2mmドリルを使用した。ドリルを骨髄腔内に侵入させ、新しいホールにCAPのみを充填し、または5%キトバイオマーを有するCAPを充填した。ラットの1つのグループでは、ホールをそのままにし、その一方で全ての動物において、局所出血を制御した。筋肉およびその上の皮膚を層ごとに縫合し、その動物を、個々のケージ内で自由に動くままにした。一部の動物では、皮質に侵入させること(完全に)および侵入部位の当初の直径を5mmまで広げることの両方によって、局所損傷を意図的に拡大させた。これらのケースでは、骨ホールが十分に確定されておりかつ損傷部位で対向する皮質骨に損傷を与えることのないその他の動物群に比べ、大きな骨欠損が生ずると考えられた。
【0142】
上述の3つのサブグループをさらに分け、術後2、3、4、および5週間で犠牲にした。犠牲後、全ての標本を巨視的に検査し、その後、顕微鏡検査用に処理した。
結果
グループI:対照 未処理動物(単一ホール)
2週間で、骨ホールの開口は新しい骨の不規則粒子の島を含有したが、それでもホールは、骨の外側の隣接組織に対して十分に封止されなかった。また、新しい骨髄組織が、損傷領域内で明らかになった。3週間で、骨の薄層が骨ホールの橋かけをしていることが観察された。損傷部位では、新しい骨梁骨がほとんど明らかにされなかった。4週間で、上記にて観察されたパターンがさらにより明らかになった。新しい骨橋は脆弱のようであり、それと同時に新しい骨梁骨がその下にあった(図21)。かなりの亀裂が、手術部位の当初の大腿骨皮質に見られた。5週間で、骨ホールを封止する新しい骨橋は、依然として脆弱な組織のままに見え、骨髄は明らかではないが、その一方で、皮質骨は、骨細胞の損傷および死を表す多数の空の裂孔明らかにした。
【0143】
グループII:CAP処理動物(単一ホール)
2週間で、組織応答は骨損傷部位に限定され、CAPの埋込みペーストの下にある骨髄腔内での、多数の新しい骨小柱で表された。大きな塊のCAPが、骨ホール内のその埋込み部位に見られた。皮質縁の外側、即ち骨膜に沿って、細胞応答は見られなかった。3週間で、応答パターンは上述のパターンと同様であったが、より多くの骨組織が、ホールの「橋かけ」に関与した。4週間で、新しい骨橋が、損傷骨髄を外部環境から切り離し、より組織化されるように見え、連続層および健康な骨として見える(図22)。さらに、当初のホール部位の下に、新たに発生した骨髄組織が、散乱した骨梁に沿って明らかになった。その時間間隔では、埋め込まれたCAPの残遺物をもはや確認することはできなかった。5週間で、概して、先の2週間で見られた発生パターンが続けて生じた。新しい骨橋の再確立が終了したようであり、それによって、回復した骨髄組織が周囲組織から切り離された。そのときまでに、新しい骨髄組織は明らかであるのに対し、骨髄腔内の骨梁は、その内部の多数の亀裂を示した。
【0144】
グループIII:キトバイオマーCAP処理動物(単一ホール)
2週間で、損傷部位は、新しい骨髄組織と一緒に新しい軟骨および骨形成の形をとる、組織反応の明らかな徴候を示した(図23)。侵入部位は、既に完全に閉じられた。その時間間隔で見られる独自の特徴は、十分に発達した新しい骨梁の網状構造によって占有される、当初の骨髄組織の著しい応答であった。後者を、単核細胞、脂肪細胞、および毛細血管からなる骨髄の豊富な組織内に埋込み;追加の独自の特徴は、当初の皮質組織内の細胞応答に関係していた。これは、皮質そのものの内部の多数の細胞−骨細胞、結合組織細胞、および毛管の外観によって明らかにされた。3週間で、骨橋が終了した。この橋は、ドリルホールの両側にある、当初の皮質骨に接続される、新しい骨梁網状構造からなっていた。骨髄腔内では、新しい骨梁骨が、当初の皮質の内面に接続された。十分発達した骨髄組織が明らかであった。5週間で、骨梁骨の固い橋が侵入部位を完全に封止しており、骨梁骨の新しい「ガードル」が、当初の皮質を取り囲んでいた。キトバイオマーの残遺物は、当初の埋込み部位に依然として見られた。図24は、術後4週間での、新しく健康な骨組織の組織像を示す。
【0145】
大きな骨欠損
2週間で、1つの皮質に誘発されかつCP+キトバイオマーで処理した、より大きい欠陥(5〜6mm)について、検査をした。そのときまでに、全骨髄腔は、侵入ホールを介して連続している大きな塊の新しい骨梁骨と、皮質の外面にある骨梁骨の新しい塊を明らかにした。当初の皮質のほとんどは、皮質の外面に直接連絡している新しい骨梁骨層に包まれた。CAPのみで処理された同様の場合に見られる線維性骨とは対照的に、骨髄腔内の新しい骨梁は、より組織化されかつより稠密であるように見えた。その領域における大腿骨の当初の皮質層は、骨細胞を阻害する多数の裂孔を明らかにした。赤血球を含む毛管も、皮質内に見られた。同じ実験グループ(2週間、キトバイオマー、大きな欠損)の別の動物は、大腿骨の輪郭の外側に、大きな塊の軟骨を示した。この特徴は、骨膜内の前駆細胞に対するキトバイオマーの誘導性刺激の結果と考えられた。新しく形成された軟骨は、その後、鉱質化され、軟骨内骨化の活性座位に変換された。大腿骨の外側の新しい骨の形成は、当初の大腿骨に接続される外骨の発生で終わる、非常に広い領域で行われた。
【0146】
3週間で、本発明者等は、ドリルが両方の皮質を通り抜ける場合について検査した。無傷の皮質の比較的大きい小片が、当初の骨からはるかに離れた別個の部分として見出された。疑う余地なく、観察される最も顕著な特徴の1つは、皮質および当初の大腿骨皮質の両方の、切り離された小片の骨膜に由来しかつそこに結合されたままの、大きく新しい塊の軟骨であった。新しく形成された軟骨は、骨髄腔内で、その新しい軟骨状組織との連続性を保っている。新しい軟骨は、この組織に特徴的な組織分化の全ての段階を明らかにした。軟骨前駆細胞から始まって、若い軟骨芽細胞、次いで成熟軟骨細胞、次いで肥大性軟骨細胞、次いで基質の鉱質化が行われ、その後、軟骨内タイプの骨化に非常に特徴的な骨化プロセスが行われる。
【0147】
上述のプロセス全体は、わずか3週間続くが、これは、骨膜および骨髄組織の両方において前駆細胞から新しい軟骨を誘発させるという、キトバイオマー(5%)の限りない可能性を示している。これは、あたかもキトバイオマーが、特により広くかつ複雑な損傷の場合に強力な骨誘導的可能性を有するようであり;自然のプロセスでは、当初の組織、即ち骨の、本来の再生をもたらすプロセスを介して危険な損傷を克服することができず;しかしむしろ、癒着不能に終わる治癒プロセスのみ可能になる。
【0148】
さらに、キトバイオマーの担体として働くCAPは、独自に、キトバイオマーで処理された標本に見られる現象を実現することもできなかった。CAPは良好な骨誘導性材料であるが、最初に軟骨形成で、さらにこれに続く後者の骨化で示されるキトバイオマーが有する誘導能力に欠けている。
【0149】
まとめると、成体メスをモデルとして使用する生体内実験では、キトバイオマーが、BMPの場合に非常に良く似ている骨誘導的性質を有することが見出された。その目標は、適切なトリガーによって最終的には骨化する軟骨細胞に分化する、骨膜、骨内膜、および骨髄組織内で遺伝的に決定された細胞である。本発明の研究で使用された濃度:5%は非常に潜在性が高いようであり、上記知見を得るのに必要とされるキトバイオマーの最適なパーセンテージを決定するために、用量依存的な研究が必要不可欠である。
【0150】
骨切片の顕微鏡観察中に偏光を使用することにより、コラーゲン線維(I型コラーゲン)の向きを分析した。無傷の骨では、これらの線維が規則的な向きを有しており、それに対してより「原始的な」胚型の骨では、この向きが不十分である。図は、線維が規則的な向きを有することを示しており、これは、生ずる骨形成が、軟骨内骨化経路を辿ることを示している。マクロファージは、CAP−キトバイオマー複合体を侵襲し、その結果、新しい軟骨および骨組織に置き換えられるので、キトバイオマーが徐々に分解されることが示される。
【0151】
結論
まとめると、成体メスラットをモデルとして使用する生体内実験では、キトバイオマーが、BMPの場合に非常に良く似ている骨誘導的性質を有することが見出された。骨形成は、組織を表す図によって実証されるように、軟骨内骨化経路を辿る。軟骨内骨化のプロセスは、骨形成前の軟骨形成を特徴とする。軟骨形成は、骨形成段階とは対照的に酸素を必要とせず、したがって、軟骨から骨への変換を引き起こすことができる前に、新しい血管を形成することが必要である。
【0152】
キトバイオマーとの反応は、キトバイオマーインプラント内での新しい軟骨組織の形成と、新しい軟骨内での新しい血管組織の豊富な形成とを特徴とし、その結果、キトバイオマーが新しい組織に代わり、キトバイオマーの残遺物だけがインプラント内に検出される。さらに、軟骨細胞は、キトバイオマーの残遺物付近に形成され、鉱質化した軟骨が、新たに形成された骨組織に隣接して検出されるが、これは、新しい骨形成が軟骨内骨化経路を辿ることを裏付けている。キトバイオマーは、骨髄組織内ならびに骨膜内の両方で、骨形成原細胞に対して誘導的性質を有する。軟骨細胞は、骨形成が生ずる前に軟骨を形成し、この軟骨細胞は、骨芽細胞−軟骨細胞の境界で、II型コラーゲンを発現する肥大性軟骨細胞に最終分化し、血管原性因子を分泌し、それによって、石灰化した軟骨を鉱質化する。
【実施例8】
【0153】
II型コラーゲン誘導性関節炎のラットモデルを使用した、リウマチ様関節炎におけるT−ChOSの影響
材料および方法
T−ChOS組成物の60%以上を構成するキトオリゴマーの調製物を、実施例2に従ってGenisにより生成した(ロットG051128)。図25は組成を示す。この研究の被験動物は、研究の0日時点で体重が159〜179g(平均171g)の、メスのルイスラットであった。動物を、尾の基部に異なる番号を付して識別し、グループおよび動物番号を明らかにした。無作為化後、全てのケージに、プロトコル番号、グループおよび動物番号を、適切なカラーコードと共に付した。
【0154】
動物(関節炎の10/グループ、正常な4/グループ)を、4〜5/ケージで収容し、イソフルランで麻酔をかけ、2mg/mlのウシII型コラーゲンを含有するフロイント不完全アジュバント300μlを、第0日および6日目に尾の基部および背部の2カ所に注射した。水中でのT−ChOS処理を、研究の第0日に開始し、第0、6、9〜17日(体重計量日)に濃度調節を行いながら、17日間にわたって継続した。
【0155】
実験グループを、表8に示す。
【0156】
【表8】
【0157】
試験がなされた主なパラメータは、ラットの後足の左右の足関節の直径であり、炎症期間中は毎日測定した。問題とされるその他のパラメータは、第17日目に動物で測定された組織学的スコアであった。組織学的評価は、足関節および膝関節で行った。これらの関節を、半分長手方向に(足関節)または前額面(膝)で切断した。サンプルを保存し、石灰質を抜き(5%ギ酸)、等級付けされたアルコールおよび清浄剤で処理し、パラフィンを染み込ませ、埋込み、切断し、トルイジンブルーで染色した。全ての動物から得た全ての組織を、顕微鏡で検査し、その観察内容をコンピュータ支援データ検索システムに入力した。
【0158】
炎症に対するT−ChOSの影響を、足関節の直径のデータに関するANOVAおよびt検定(パラメータまたは非パラメータ検定)を利用して分析した。
結果
図26は、炎症(関節炎スコア)をモニタする主な方法を示す。左右の足関節に関する足関節直径を、第9日目から毎日測定した。図27は、コラーゲンが注入されたがその他の処理を全く行わないラットの、RAスコアを示す。炎症は、10日目に検出され、第15〜17日までに徐々に増大する。
【0159】
図28は、初期の足関節炎症率に対する、種々の用量のT−ChOSの影響を示す(第10〜12日)。AWグループ(0用量)からA0.25グループまで、明らかな用量依存的な影響があり、炎症率の減少は58%であり、非常に有意であった(p<0.01)。次に高い用量では、その影響が徐々に消失した。
【0160】
図29は、後期関節炎症率(第12〜17日)に対する、種々の用量のT−ChOSの影響を示す。初期に見られた用量依存的な影響は、消失した。
足関節炎症の全線形相の分析(第9〜15日)も行った。その期間の炎症率の有意な低下を示した唯一のグループは、A0.25グループであり、その影響は28%であった(t検定;p<0.05、表9参照)。
【0161】
第17日目の組織学的炎症および損傷スコアでは、最も活発なグループに関する主な結果を表9にまとめる。これらはA0.25であった。骨吸収(骨組織の崩壊)は48%減少するが、これは、全ての組織学的パラメータに対して最も強い影響を及ぼした。図30は、明らかな用量効果を示すが、A0.5グループは、相から外れているようである。これらは、炎症において28%の有意な減少を示し、炎症組織での瘢痕組織形成(パンヌス)では40%の減少を示した。T−ChOSにより、軟骨損傷は29%減少したが、この影響は統計的に有意ではなかった。最後に、組織病理学的スコアには有意な減少(33%)があったが、この因子は、各ラットごとの、炎症、パンヌス、軟骨損傷、および骨吸収スコアの合計であった。
【0162】
【表9】
【0163】
結論
ラットのII型コラーゲン誘発性関節炎の初期段階では、T−ChOSによる強力な著しい影響があった。足関節の炎症率の低下は、初期段階で最良の58%であった。この影響は、用量に関係しており、A0.25グループで最大の影響が示され、これはヒトの日用量0.5gに等しい。しかしより高い用量では、その影響が徐々に消失した。しかし、全ての組織学的スコアは、1つを除き、実験の終わりの最適なT−ChOS用量に対する応答として、関節炎状態の有意な減少を示した。最も強力な効果は、骨再生の減少(48%)およびパンヌスの予防(40%)で観察された。
【0164】
経口投与されたT−ChOS調製物は、組織変性を著しく減少させ、炎症状態の関節での瘢痕組織形成を減少させることが結論付けられた。これは、T−ChOSの組織再生活性(実施例7)および組織培養における線維芽細胞増殖の低下を示す(実施例9)、その他の結果を裏付けている。
【実施例9】
【0165】
固定化T−ChOSによる線維芽細胞増殖の阻害
材料および方法
マイクロプレートコーティング:
マイクロプレート用のコーティング溶液を、37℃のハンクス平衡塩類溶液(HBSS)にゼラチン(Bio−Rad、USA)を溶解して0.1%の濃度にすることによって調製した。この溶液の半分に、T−ChOSを補って、最終濃度を1000μg/mlにし、あとの半分を対照として役立てた。全ての溶液を、限外濾過(0.22μm Nalgeneフィルタ)によって滅菌した。マイクロプレート(96ウェル、Nunc、デンマーク)を、各ウェルにゼラチン溶液100μlを添加し、4℃で一晩インキュベートすることによってコーティングした。過剰な溶液を廃棄し、プレートを、4℃でHBSSと共に保存した。
【0166】
線維芽細胞のプレーティングおよび計数
ヒト線維芽細胞を、集密T−25培養フラスコからトリプシン処理によって収集し、10%血清を含むRPMI 1640培地の1×105細胞/mlで、コーティングされたマイクロプレートウェルに播種した。細胞を、37℃および5%CO2で3日間維持し、その後、光学顕微鏡下で計数することによって細胞数を決定した。各実験条件を、8個のウェルごとに繰り返した。
【0167】
細胞数は、8個のウェルのそれぞれにおいて、画定視野内で計数した(線維芽細胞密度)。計数は、培養物中で1、2、および3日後に行った。データを統計的に分析した(ANOVA)。
【0168】
結果
統計分析では、データの非正規分布が明らかにされた。したがって、順位二環するANOVA試験、その後のクルスカル・ウォリスの順位の一元配置分散分析を行った。ゼラチン中に固定化されたこのT−ChOSは、図31および32に示されるように、線維芽細胞の増殖を大幅に停止させた。
【0169】
結論
この実験では、本発明者等は、T−ChOSを培養プレートのゼラチンコーティング内に埋め込んだ場合に、ゼラチン表面の線維芽細胞の増殖を著しく低下させることができることを、実証することができた。
【0170】
創傷治癒に対するキトサンの影響の科学的報告、キトバイオマー、オリゴマーおよびポリマーの両方による本発明者等の経験、および本発明の結果と一緒に、本発明者等は、T−ChOSが、線維芽細胞による線維状組織の形成を抑制することができ、それと共に骨や軟骨、その他の硬質および軟質組織などの基本的な組織の再生を促進することができると結論付けた。創傷治癒のこのメカニズムは、瘢痕組織の形成をもたらさずかつ当初の組織の完全性および機能性を保存するので、非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】図1は、70%脱アセチル化および94%脱アセチル化キトサンと比較した、この生成物(43%DD)の溶解度を示す。
【図2】図2は、異なる配列の断片イオンによって引き起こされたピークの強度を定量する、D3A3に関する配列系統樹を示す。
【図3】図3のA〜Dは、同族体D2A3、D3A3、D2A4、およびD3A4の同重体の相対量を示す。
【図4】図4は、不均一脱アセチル化オリゴマー(G020418)に関するオリゴマーピーク分布および同族体分析を示す。ものを図5に示す。
【図5】図5は、均質脱アセチル化オリゴマー(G050421)に関するオリゴマーピーク分布および同族体分析をしめす。
【図6】図6は、2つの脱アセチル化方法による、オリゴマーに関する同族体分布を示す。
【図7】図7は、限外濾過ステップ前後の各DPの相対量を示す。
【図8】図8は、DP2〜DP5の同族体を示すMALDI−TOF MSである。
【図9】図9は、DP2からDP12までのオリゴマーについて明らかにするMALDI−TOF MSである。
【図10】図10は、消費された天然サンプルと3週間後の血液サンプルとの、オリゴマーと同族体の相対質量分光分析シグナル強度を比較する。
【図11】キチナーゼAに対する同族体A4D2の遮断効果を示す図である。非線形当てはめ、f=y0+a×exp(−b×x)が示されている。A4D2に関する50%阻害濃度(IC50)は、17μMとして計算された。
【図12】同族体の、計算された親和性を示す図である。図は、試験がなされた各同族体の親和性を示す(表5のデータに基づく)。
【図13】図12に示すようなCHOS同族体の生物活性および生物安定性を、配列と共に示す図であり、詳細は表5を参照されたい。
【図14】キチナーゼAに対するChOSロットG040823の遮断効果を示す図である。IC50は、70μg/mlとして計算された。
【図15】Bmaxを備えた、HC gp−39に結合するD6、D3A3、D2A2、A6、およびD5A6に関する結合等温線であって、結合部位飽和に関する相対蛍光強度を示す図である。
【図16】同族体/オリゴマーのFAを基にした、HC gp−30に結合するChOSの解離定数(Kdに関しては対数目盛りである)を示す図である。破線は、DP同族体のデータポイントを接続する。
【図17】FA(A単位の数)の関数として、DP6同族体の解離定数を示す図である。データを、非線形回帰によって双曲線型減衰に当てはめた。差し込み図は、A単位に対するDP6同族体の相対親和性のプロットを示す。
【図18】5%キトバイオマーを含有するキトサン/リン酸カルシウム複合体(40%DD)の破砕表面を示す図である。SEM写真を、37℃で7日間インキュベートした後に撮った。倍率1000×。
【図19】DDが結晶形成に及ぼす影響を示す図である。SEM写真は、37℃で7日間インキュベートした後に撮った。(a)キトバイオマー(40%DD)、倍率10K×、および(b)80%DDキトサン、倍率9.43K×。
【図20】37℃で7日間インキュベートした複合体のSEM分析を示す図である。(a)キトバイオマー40%DD、(b)キトバイオマー70%DD、および(c)キトサン80%DD、倍率100K×。
【図21】術後4週間の、未処理の動物を示す図である。この画像は、インプラントの側面を示し、脆弱な組織が骨の隙間を橋かけしており、この治癒状態を、癒着不能と特徴付けた。
【図22】術後4週間の、リン酸カルシウムで処理した動物を示す図である。この画像はインプラントの側面を示しており、リン酸カルシウム結晶の残遺物が、骨の隙間を橋かけする脆弱な組織内に埋め込まれている。この治癒状態を、癒着不能と特徴付けた。
【図23】術後2週間の、リン酸カルシウム−キトバイオマー複合体で処理した動物を示す図である。この画像はインプラントの側面を示し、皮質骨が、新しい皮質の下にある稠密な骨梁骨で、骨の隙間を覆っている。この治癒状態を、完全な癒合と特徴付けた。
【図24】術後4週間の、リン酸カルシウム−キトバイオマー複合体で処理した動物を示す図である。この画像は、健康な新しい骨梁骨を示す。
【図25】試験がなされたT−ChOS材料(ロットG051128)のHPLC分析を示す図である。図は、DP2から約15までの、種々の分子量の糖の相対量を示す。
【図26】炎症(関節炎スコア)の指標としての、足関節の直径の測定を示す図である。
【図27】AD(足関節直径)関節炎スコアを示す図である。第0日にコラーゲンが注入された10匹の個々のラットの足関節直径(左+右の足関節)(グループ2;関節炎+水)。
【図28】初期の足関節炎症率における、T−ChOS(全ての用量)の影響を示す図である(第10、11、および12日から得た左右の足関節直径の、平均増加としての初期炎症率)。平均および標準誤差が示されている。
【図29】後期足関節炎症率における、T−ChOS(全ての用量)の影響を示す図である(第12〜17日から得た左右の足関節直径の、平均増加としての初期炎症率)。平均および標準誤差が示されている。
【図30】組織学的検査によって判定された、骨吸収におけるT−ChOS(全ての用量)の影響。平均および標準誤差が示されている。
【図31】100μg/mlの固定化T−ChOSを含み、また含まない、ゼラチン層での線維芽細胞の増殖(密度対時間)を示す図である。平均(n=7〜8)、+/−標準誤差
【図32】3日間(d1〜3)のインキュベーション中の線維芽細胞増殖にT−ChOSが及ぼす影響の、統計的評価を示す図である。Cは未処理の、またOは処理した細胞を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度で完全溶解性の部分的脱アセチル化キチンポリマーを製造するための方法であって、
脱アセチル化後に、部分的脱アセチル化キチンを中和するステップと、
酸性溶液中に、部分的脱アセチル化キチンを溶解するステップと、
逐次的濾過ステップを通じて、溶解していない粒子を除去するステップと、
当該溶液を、8よりも高いpHに調節するステップと、
高温および塩の添加を通じて、完全に溶解し精製された部分的脱アセチル化キチンを析出物として析出させるステップと
を含み、
篩い分けを通じてまたは遠心分離によって、析出後に析出物が回収され洗浄され、洗浄水および析出物の温度が50℃よりも高い方法。
【請求項2】
部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が、25から70%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が、30から55%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
DDが、前記部分的脱アセチル化キチンの可溶性画分の平均DDを指す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
キトサンの分子量が10kDaよりも高い、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記部分的脱アセチル化キチン溶液の高温が、40〜100℃(範囲、沸騰)、45〜100、35〜100に温度を上昇させることを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記の部分的脱アセチル化キチン溶液の調節が、pH8〜13にpHを上昇させることを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
塩析が、塩の添加を通じて、または溶液の中和を通じて得られる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
塩析に使用される塩が、塩化ナトリウムなどの高カオトロピック性の任意の塩、またはポリマーを溶解するために使用される酸の任意の塩、好ましくは、クエン酸やリンゴ酸、酢酸などのトリカルボンまたはジカルボンまたはモノカルボン有機酸の塩であり、または硫酸アンモニウムや尿素、塩化グアニジニウムなどの任意の他の塩である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
塩濃度が、ポリマーの析出をもたらすことのできる任意の濃度を指す、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
塩濃度が2%〜飽和状態である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
脱アセチル化ステップの前に、キチンを無機または有機酸で処理する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
部分的脱アセチル化キチンポリマーを、ファミリー18エンドキチナーゼでさらに大規模に処理する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
均質脱アセチル化の前に、アルカリ溶液中に前記キチン原材料を実質的に溶解することによって、エンドキチナーゼまたはファミリー18キチナーゼによる処理中に形成される治療的に活性なヘテロポリマー類およびヘテロオリゴマー類の相対収量を制御する、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
最終的な複合体の物理化学的、機械的、および生物学的性質を調節するために、脱アセチル化度が30〜100%DDである部分的脱アセチル化キチンおよび/またはキトサンをリン酸カルシウム複合体と混合する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から12のいずれか1項に記載の方法にしたがって生成される、部分的脱アセチル化キチンポリマー組成物。
【請求項17】
N−アセチルグルコサミン(A)とグルコサミン(D)との治療的に活性なキトオリゴマー類をさらに含み、ヘテロキトオリゴマー類であって、下記の基準、即ち
当該オリゴマー類が、5〜20モノマー残基の範囲内の鎖長を有し、
各オリゴマー鎖が、オリゴマー鎖の一方または両方の端部に2個のN−アセチルグルコサミン残基(AA)を有することができ、
当該オリゴマーの残存する内部部分が、最大量のA残基を有し、
前記内部鎖の配列は、N−アセチルグルコサミン残基(A)が別のN−アセチルグルコサミン残基に隣接(AAなど)しないようになされている
基準を満たさなければならないヘテロキトオリゴマー類を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が25から60%である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が30から55%である、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
部分的脱アセチル化キチンポリマー組成物が、キチナーゼまたはファミリー18キチナーゼでさらに処理される、請求項18または19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
薬剤として使用される、請求項17から20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項22】
請求項15から20のいずれか1項に記載の部分的脱アセチル化キチンポリマーを含む、医薬組成物。
【請求項23】
粉末、懸濁液、ゲル、ゾル、エアロゾル、ペースト、フィルム、フォーム、丸薬、およびカプセルからなる群から選択された形をとる、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項25】
生体材料/薬剤の製造のための、請求項17から20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項26】
組織再生を強化する生体材料/薬剤を製造するための、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
生体材料が、哺乳動物の骨折骨または切断された骨の治癒において骨再生および止血を増強する、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
生体材料が、下記のいずれか、即ちヒドロキシアパタイトを含めたリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ナトリウムトリポリホスフェート、アルギネート、コラーゲン、およびヒアルロン酸などのいずれかから選択される更なる成分を含む、請求項26に記載の使用。
【請求項29】
医療デバイス中での使用中に、生体材料および/または組織に曝された表面を処置するための、請求項17から20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項1】
高純度で完全溶解性の部分的脱アセチル化キチンポリマーを製造するための方法であって、
脱アセチル化後に、部分的脱アセチル化キチンを中和するステップと、
酸性溶液中に、部分的脱アセチル化キチンを溶解するステップと、
逐次的濾過ステップを通じて、溶解していない粒子を除去するステップと、
当該溶液を、8よりも高いpHに調節するステップと、
高温および塩の添加を通じて、完全に溶解し精製された部分的脱アセチル化キチンを析出物として析出させるステップと
を含み、
篩い分けを通じてまたは遠心分離によって、析出後に析出物が回収され洗浄され、洗浄水および析出物の温度が50℃よりも高い方法。
【請求項2】
部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が、25から70%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が、30から55%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
DDが、前記部分的脱アセチル化キチンの可溶性画分の平均DDを指す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
キトサンの分子量が10kDaよりも高い、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記部分的脱アセチル化キチン溶液の高温が、40〜100℃(範囲、沸騰)、45〜100、35〜100に温度を上昇させることを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記の部分的脱アセチル化キチン溶液の調節が、pH8〜13にpHを上昇させることを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
塩析が、塩の添加を通じて、または溶液の中和を通じて得られる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
塩析に使用される塩が、塩化ナトリウムなどの高カオトロピック性の任意の塩、またはポリマーを溶解するために使用される酸の任意の塩、好ましくは、クエン酸やリンゴ酸、酢酸などのトリカルボンまたはジカルボンまたはモノカルボン有機酸の塩であり、または硫酸アンモニウムや尿素、塩化グアニジニウムなどの任意の他の塩である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
塩濃度が、ポリマーの析出をもたらすことのできる任意の濃度を指す、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
塩濃度が2%〜飽和状態である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
脱アセチル化ステップの前に、キチンを無機または有機酸で処理する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
部分的脱アセチル化キチンポリマーを、ファミリー18エンドキチナーゼでさらに大規模に処理する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
均質脱アセチル化の前に、アルカリ溶液中に前記キチン原材料を実質的に溶解することによって、エンドキチナーゼまたはファミリー18キチナーゼによる処理中に形成される治療的に活性なヘテロポリマー類およびヘテロオリゴマー類の相対収量を制御する、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
最終的な複合体の物理化学的、機械的、および生物学的性質を調節するために、脱アセチル化度が30〜100%DDである部分的脱アセチル化キチンおよび/またはキトサンをリン酸カルシウム複合体と混合する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から12のいずれか1項に記載の方法にしたがって生成される、部分的脱アセチル化キチンポリマー組成物。
【請求項17】
N−アセチルグルコサミン(A)とグルコサミン(D)との治療的に活性なキトオリゴマー類をさらに含み、ヘテロキトオリゴマー類であって、下記の基準、即ち
当該オリゴマー類が、5〜20モノマー残基の範囲内の鎖長を有し、
各オリゴマー鎖が、オリゴマー鎖の一方または両方の端部に2個のN−アセチルグルコサミン残基(AA)を有することができ、
当該オリゴマーの残存する内部部分が、最大量のA残基を有し、
前記内部鎖の配列は、N−アセチルグルコサミン残基(A)が別のN−アセチルグルコサミン残基に隣接(AAなど)しないようになされている
基準を満たさなければならないヘテロキトオリゴマー類を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が25から60%である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
部分的脱アセチル化キチンポリマーの脱アセチル化度(DD)が30から55%である、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
部分的脱アセチル化キチンポリマー組成物が、キチナーゼまたはファミリー18キチナーゼでさらに処理される、請求項18または19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
薬剤として使用される、請求項17から20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項22】
請求項15から20のいずれか1項に記載の部分的脱アセチル化キチンポリマーを含む、医薬組成物。
【請求項23】
粉末、懸濁液、ゲル、ゾル、エアロゾル、ペースト、フィルム、フォーム、丸薬、およびカプセルからなる群から選択された形をとる、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項25】
生体材料/薬剤の製造のための、請求項17から20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項26】
組織再生を強化する生体材料/薬剤を製造するための、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
生体材料が、哺乳動物の骨折骨または切断された骨の治癒において骨再生および止血を増強する、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
生体材料が、下記のいずれか、即ちヒドロキシアパタイトを含めたリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ナトリウムトリポリホスフェート、アルギネート、コラーゲン、およびヒアルロン酸などのいずれかから選択される更なる成分を含む、請求項26に記載の使用。
【請求項29】
医療デバイス中での使用中に、生体材料および/または組織に曝された表面を処置するための、請求項17から20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公表番号】特表2008−544014(P2008−544014A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516507(P2008−516507)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/IS2006/000013
【国際公開番号】WO2006/134614
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(505432555)
【氏名又は名称原語表記】Genis ehf.
【住所又は居所原語表記】Myrargotu 2,101 Reykjavik,Iceland
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/IS2006/000013
【国際公開番号】WO2006/134614
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(505432555)
【氏名又は名称原語表記】Genis ehf.
【住所又は居所原語表記】Myrargotu 2,101 Reykjavik,Iceland
【Fターム(参考)】
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