説明

部材の固定構造

【課題】 蝶ナットのボルトへの噛み込み等によるボルトのナットに対する貫通を防ぎ、ボルトに起因する部材への悪影響を防止する固定構造を提供する。
【解決手段】 第1部材と第2部材とを、第1部材に埋設されるナット、第2部材を貫通し前記ナットに螺合されるボルト及び該ボルトに螺合される蝶ナットとを用いて固定する構造であって、前記第1部材に埋設されるナットは、前記ボルトの貫通を防止するストッパー部を有することを特徴とする部材の固定構造

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧材、住宅用内外装材、枠材等の他の材料と固定されて用いられる部材の固定構造に関し、特に部材に埋設されたナット、ボルト及び蝶ナットを用いて固定される構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧材、住宅用内外装材、枠材等の部材と他の部材との固定構造については種々の構造が見られる。例えば、木質製又は樹脂製部材の固定構造について、化粧材、住宅用内外装材、枠材等の部材にナットを埋設しておき、他の部材を貫通するボルトを前記ナットに螺合し、両部材を固定する技術が見られる(特許文献1)。また、同様に2以上の部材を固定する技術として、図2に示すように化粧材、住宅用内外装材、枠材等の部材5にナット1を埋設しておき、他の部材4を貫通するボルト2を前記ナット1に螺合し、さらに蝶ナット3をボルト2に螺合することで固定する方法も開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】実開平02−30511号公報
【特許文献2】実用新案登録第3118212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載される方法は、固定自体は確実に行えるのであるが、ボルトを締め付けるためのドライバーが必要であり、さらに、ドライバーを使用することができる程度の隙間がなければ螺合自体ができないこととなる。また、例えば化粧材を固定する場合には、外観側が化粧材となるため、締め付けボルトが作業者から見えないような部分に位置することとなるのであるが、そのような場合ボルト締め付け作業は、作業者の手を裏側に回す必要があり、かなりの困難を伴うこととなる。
【0004】
また、図2に示すような上記特許文献2に記載される方法は、固定自体も確実であり、ドライバーのような工具も必要としないため、固定作業は非常に容易となる。しかも作業者の手が届くところであれば、螺合は可能でありスペース的な問題も生じない。
【0005】
しかし、本発明者は、従来技術には、図3に示すような問題点が存在することを新たに見出した。すなわち、化粧材等の部材5に埋設されたナット1には、ボルト2が螺合され、該ボルト2は通常ナット1の大略下端部分まで位置するように螺合されている。このような状態で蝶ナット3をまっすぐ螺合すれば問題は生じないのであるが、蝶ナット3が若干斜めに挿入された場合など、ボルト2のネジ山に蝶ナット3が噛み込み、蝶ナット3を回転させるとボルト2自体も同様に回転してしまう場合が生じてしまうのである。このような場合、ボルト2が、その回転によって埋設されたナット1を貫通し、さらに化粧材等の部材5自身を押圧し、部材を変形させてしまう。またひどい場合には部材5を突き破ることもあり得る。特に前記外観側が化粧材となるため、締め付けボルトが作業者から見えないような部分に位置する場合、このような不具合は生じやすくなるのである。さらに、部材5が外観上重要な役割を有する化粧材である場合、表面の微妙な変形であっても好ましくない。
【0006】
本発明は、上記新たに見出した問題点に鑑み、固定作業は非常に容易であり、しかも作業者の手が届くところであれば、螺合は可能でありスペース的な問題も生じない固定構造であって、蝶ナットの締め付け不具合に伴う、ボルトに起因する部材表面の不具合を防止する、部材の固定構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
1.第1部材と第2部材とを、第1部材に埋設されるナット、第2部材を貫通し前記ナットに螺合されるボルト及び該ボルトに螺合される蝶ナットとを用いて固定する構造であって、前記第1部材に埋設されるナットは、前記ボルトの貫通を防止するストッパー部を有することを特徴とする部材の固定構造
2.前記第1部材は、木質製又は樹脂製であることを特徴とする上記1記載の部材の固定構造
3.前記樹脂製第1部材は、比重0.2〜1.3の樹脂成形品であることを特徴とする上記2記載の部材の固定構造
4.前記樹脂製第1部材は、発泡倍率1.1〜5.0からなる低発泡合成樹脂成形品であることを特徴とする上記2記載の部材の固定構造
5.前記ストッパー部は、前記ナット内周面側に設けられた突起部からなることを特徴とする上記1〜4記載の部材の固定構造
【発明の効果】
【0008】
本発明の固定構造は、埋設ナット、ボルト及び蝶ナットで部材を固定する構造であり、ナットにボルトの貫通を防止するストッパー部を付与したので、蝶ナットのボルトへの噛み込み等によるボルトのナットに対する貫通を防ぎ、ボルトに起因する部材への悪影響を防止することができる。特に、化粧材のような外観が重要である部材や蝶ナットの螺合状態が見えないような固定状況において、より固定作業を容易にすることが可能となる。さらに、比重0.2〜1.3の樹脂成形品や発泡倍率が1.1〜5倍のような、いわゆる合成木材は、ボルトに起因する表面変形が非常に生じやすい部材であるため、本ストッパーを付与したナットを用いることは、合成木材の表面外観を維持するうえで、また破損を防止するうえで極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の固定構造について、以下に図1を用いながら説明する
本発明の部材の固定構造は、第1部材5と第2部材4とを、第1部材に埋設されるナット1、第2部材を貫通し前記ナットに螺合されるボルト2及び該ボルトに螺合される蝶ナット3とを用いて固定する構造である。
【0010】
第1部材5は、ナット1が埋設可能な部材であり、主として木質製部材、樹脂製部材が用いられる。通常は射出成形、押出成形などにより成形された樹脂成形品が用いられ、軽量性及び加工性を鑑み、比重0.2〜1.3または発泡倍率1.1〜5.0倍程度の樹脂成形品が好ましく用いられる。比重0.2未満または発泡倍率5倍を越えるものであれば、埋設するナットの保持性能が低下してしまうためであり、比重1.3を越え又は発泡倍率1.1倍未満では、部材の加工性が低下するためである。なお、第1部材5は化粧材として製品外観を構成することが通常であり、2層成形品、多層成形品のような共押出成形品も多用される。第2部材は、材質、形態等特に限定されるものではなく、ボルト2が貫通可能なものであれば、いかなる種類の部材であっても良い。また、本発明においては、少なくとも第1部材と第2部材とを有すればよいのであり、当然ながら、例えば第1部材と第2部材との間に第3部材、第4部材を設けるような、3種以上の部材の固定であっても何ら差し支えない。
【0011】
第1部材5に埋設されるナット1は、いわゆる鬼目ナット、インサートナット又はカレイナット等が用いられる。それぞれ大略筒状のナットであり、内周面にボルト2が螺合するネジ山を有している。材質は特に限定されるものではないが、通常金属製を用いる。埋設用ナットには、部材からの抜け防止のために突起部をナット外周に設けることが好ましい。
【0012】
前記ナット1には、ボルト2の貫通を防止するストッパー部6を設ける。このストッパー部6を設けることにより、蝶ナット3がボルト2に噛み込み、ボルト2が蝶ナット3と共に回転し埋設ナット1を貫通し、当該貫通したボルト2が第1部材を押圧し、第1部材が変形・破損する、という不具合(図3参照)を防止するのである。当該ストッパー部6は、ボルト2の貫通を防止するための構造であり、ナット内周面の突起を付与する構造、ナット底面部分に蓋材を付与する構造、ナット底面部分の開口部をボルト径よりも小さくする構造等が用いられる。またいわゆる市販の鬼目ナットを用い、内周面のネジ山部分を底面側から棒状部材を用いてプレスし、ネジ山をつぶし、内周面が突き出る突起状としたものでもよい。ナット底面部分に蓋材を付与するのは、埋め込み用ナットとしては製造が難しく、蓋が外れてしまうことがあり得るため、ナット内周面の突起を付与する構造が好ましく、特に市販の鬼目ナット、インサートナットを用いることができる点で、上記ネジ山をプレスするような方法にてナット内周面に突起状を付与するのが好ましい。
【0013】
前記ナット1は第1部材5に埋設される。埋設は通常第1部材5に下穴を空けておき、当該部分にナット1を圧入又はナット1を高温状態とし樹脂を溶かすようにして挿入することにより埋設される。このときナット外周に突起を設けることにより、強固に埋設されることが可能となる。通常樹脂成形品の厚みは5〜20mm程度、好ましくは8〜15mmであり、ナットの埋設深さTは成形品の厚みにより設定されるが、部材の保持力を鑑みれば、通常5〜15mm程度、好ましくは10mm程度のものが用いられる。したがって、ナット底面から部材表面の距離tは、0.5〜15mm程度、好ましくは1〜7mmである。ナット底面から部材表面までの距離が0.5mmより短ければ、ナット1を埋設する段階で部材表面に変形等の悪影響が出るおそれがあり好ましくない。また、15mmを越えるものであれば、当該部分の強度が強くなるため、ストッパー部6を設ける効果が少なくなる。
【0014】
ボルト2は、特に限定されるものではなく、前記ナット1及び蝶ナット3が螺合可能なものであれば良い。材質的には、金属製のものが好ましく使用される。また、蝶ナット3についても特に限定されるものではなく、ドライバーを用いることなく、ボルト2に螺合可能なものを用いるのであればよい。材質的には、ボルトと同様金属製のものが好ましく使用される。また、蝶ナットについては、ワッシャー等を付与して螺合しても差し支えない。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
実施例
第1部材として、いわゆるセルカ押出プロセスを用いた板状合成樹脂製低発泡共押出成形品(基材層:厚み12mmのABS樹脂、表面層:厚み0.5mmのPMMA樹脂)を用いる。なお、発泡倍率は2.0倍、比重は0.5である。
第2部材として、厚み3mmのFRP板材を用いる。
ボルトは、市販M6タイプで、金属製であり長さ30mmのものを用いる。
蝶ナットは、市販M6タイプで金属製のものを用いる。
第1部材に埋設するナットは、市販M6タイプの金属製円筒状鬼目ナットを用いる。長さは10mmであり、外周面に抜け防止用の突起部が設けられている。なお、当該鬼目ナットの底面側からネジ山に対して棒状部材を用いてプレスを行い、ネジ山をつぶすことによりナット内周側に突起状部分を付与する。したがって、当該突起状部分がストッパー部となる。
【0016】
まず、上記ストッパー部を付与したナットを第1部材に埋設する。第1部材には直径約9mmの下穴を付与しておき、ナットを半田ごてにより高温状態とし、そのまま第1部材の下穴部分に挿入し、ナットを埋設する。このときの埋設深さTは約10mmであり、ナット底面と第1部材表面との距離tは約3mmである。つづいて、ボルトを第1部材に螺合する。ボルトはナットのストッパー部に接する程度まで螺合しておく。さらに、あらかじめ第2部材に設けた直径10mm程度の下穴に対し、前記第1部材に螺合したボルトを挿入する。この挿入したボルトについて第2部材の裏面側から蝶ナットを螺合し、第1部材と第2部材とを固定する。なお、蝶ナットを斜めに挿入し、ボルトのネジ山に噛み込ませ、蝶ナットの回転と共にボルトが回転するような状態にしても、ストッパー部分でボルトの貫通を抑止するため、第1部材表面側外観には、変化は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】:本発明の部材の固定構造の断面構造を示す模式図
【図2】:従来の部材の固定構造の断面構造を示す模式図
【図3】:従来の部材の固定構造においてボルトが埋設ナットを貫通している状態を示す模式図
【符号の説明】
【0018】
1:ナット
2:ボルト
3:蝶ナット
4:第2部材
5:第1部材
6:ストッパー部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とを、第1部材に埋設されるナット、第2部材を貫通し前記ナットに螺合されるボルト及び該ボルトに螺合される蝶ナットとを用いて固定する構造であって、前記第1部材に埋設されるナットは、前記ボルトの貫通を防止するストッパー部を有することを特徴とする部材の固定構造
【請求項2】
前記第1部材は、木質製又は樹脂製であることを特徴とする請求項1記載の部材の固定構造
【請求項3】
前記樹脂製第1部材は、比重0.2〜1.3の合成樹脂成形品であることを特徴とする請求項2記載の部材の固定構造
【請求項4】
前記樹脂製第1部材は、発泡倍率1.1〜5.0の低発泡合成樹脂成形品であることを特徴とする請求項2記載の部材の固定構造
【請求項5】
前記ストッパー部は、前記ナット内周面側に設けられた突起部からなることを特徴とする請求項1〜4記載の部材の固定構造



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−270897(P2007−270897A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95153(P2006−95153)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】