説明

部材剥離方法及び部材剥離装置

【課題】接着層を介して互いに接合された第1及び第2の剛性部材を互いに剥離する際に、より簡易な手法で迅速かつ安全に剥離できるようにする。
【解決手段】部材剥離方法は、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ弾性的に撓ませるステップと、弾性的に撓んだ第1の剛性部材14の少なくとも一部分と第2の剛性部材16との間で、接着層12の外縁領域12aを第1の剛性部材14又は第2の剛性部材16から部分的に剥離するステップとを含む。部材剥離装置10では、第1の剛性部材14の表面14aに当接される壁18を有する治具24を用いて、第2の剛性部材16を収容する室20を形成し、真空装置26により、室20を、第1の剛性部材14の裏面14bに加わる気圧P1よりも減圧する。この差圧により、第1の剛性部材14の略全体が、室20に押し込まれるように一様に撓曲する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着層を介して互いに接合された第1及び第2の剛性部材を互いに剥離するための、部材剥離方法及び部材剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの作製工程において、所定厚みのウエハの一表面に回路を形成した後、回路形成表面(以下、回路面と称する。)に保護用のフィルムやガラス板等の支持体を貼付した状態で、回路面の反対側の裏面を研削してウエハの厚みを一様に削減することが知られている。裏面研削により薄肉化されたウエハは、一般に、ダイシング等の後工程に送られる前に、支持体から剥離される。
【0003】
例えば特許文献1には、半導体装置に用いられる基板を裏面研削に際して支持体に固定するための固定方法が記載されている。この固定方法は、「フィルムを準備する準備工程と、前記基板と準備したフィルムの第1の主面とを、粘着剤によって貼着する第1の貼着工程と、前記フィルムの第2の主面と前記支持体とを、ワックスによって貼着する第2の貼着工程とを含む」と記載されている。また、「はじめに、(1)研磨する基板とフィルムシートの粘着剤塗布面とを貼着して、つぎに(2)フィルムシートの粘着剤非塗布面と支持体とをワックスにより貼着する。これにより、基板が支持体に強固に固定されることになる。そして、(3)支持体を固定して基板を所望の厚さになるまで研磨する。研磨が終了したら、(4)ワックスを溶融させることによって、支持体からフィルムシートを剥離させた後、(5)粘着剤の粘着性を低下させて、基板からフィルムシートを剥離する。そして、(6)基板を純水により洗浄し、乾燥させることにより研磨状態が良好な基板を得ることができる。」と記載されている。剥離工程の具体的構成として、「研磨後は、図3(a)に示される研磨が終了した基板10が固定された支持体40をホットプレートに載置する。支持体40を表面が80℃になるまで加熱して、ワックス30を溶融させた状態で、支持体40からフィルム20を剥離する(ステップS105)。」、「そして、図3(b)に示すように、紫外線を放射する1kWのメタルハライドランプによって積算光量300mJ/cmの条件で、フィルム21の第2の主面212側から紫外線を5秒間照射する。これにより、粘着剤22は硬化して、粘着力が低下する。基板10の研磨面側を真空吸着で固定した状態で、フィルムシート20を端から順にゆっくりと剥がす(ステップS106)。これにより、図3(c)に示すように、割れや欠けなしの基板10を得ることができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−303180号公報(段落0009、0018、0029、0030)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
裏面研削後のウエハを支持体から剥離する工程のように、接着層を介して互いに接合された第1及び第2の剛性部材を互いに剥離する際に、より簡易な手法で迅速かつ安全に剥離できることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、接着層を介して互いに接合された第1の剛性部材と第2の剛性部材とを、互いに剥離する部材剥離方法において、第1の剛性部材の少なくとも一部分を第2の剛性部材から離れる方向へ弾性的に撓ませるステップと、弾性的に撓んだ第1の剛性部材の少なくとも一部分と第2の剛性部材との間で、接着層の外縁領域を第1の剛性部材又は第2の剛性部材から部分的に剥離するステップと、を含む部材剥離方法である。
【0007】
本発明の他の態様は、接着層を介して互いに接合された第1の剛性部材と第2の剛性部材とを、互いに剥離する部材剥離装置において、第2の剛性部材を接合した第1の剛性部材の表面に加わる気圧と、表面の反対側の第1の剛性部材の裏面に加わる気圧との間に、差を与える差圧生成機構を具備し、差圧生成機構が、第1の剛性部材の少なくとも一部分を第2の剛性部材から離れる方向へ弾性的に撓ませて、弾性的に撓んだ第1の剛性部材の少なくとも一部分と第2の剛性部材との間で、接着層の外縁領域を第1の剛性部材又は第2の剛性部材から部分的に剥離する、部材剥離装置である。
【0008】
本発明のさらに他の態様は、接着層を介して互いに接合された第1の剛性部材と第2の剛性部材とを、互いに剥離する部材剥離装置において、第2の剛性部材を接合した第1の剛性部材の表面に、表面を第2の剛性部材から離隔させる方向への第1押付力を加えると同時に、表面の反対側の第1の剛性部材の裏面に、第1押付力とは反対の方向への第2押付力を加える加圧機構を具備し、加圧機構が、第1の剛性部材の少なくとも一部分を第2の剛性部材から離れる方向へ弾性的に撓ませて、弾性的に撓んだ第1の剛性部材の少なくとも一部分と第2の剛性部材との間で、接着層の外縁領域を第1の剛性部材又は第2の剛性部材から部分的に剥離する、部材剥離装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る部材剥離方法によれば、接着層を介して互いに接合された第1及び第2の剛性部材のうち、第1の剛性部材の少なくとも一部分を第2の剛性部材から離れる方向へ撓ませるだけで、全体の剥離の始点となる部分的な剥離を、接着層の外縁領域と第1又は第2の剛性部材との間に生じさせることができる。接着層の部分的な剥離が生じた後は、第1及び第2の剛性部材を、両者の表面を引き離す方向へ相対移動させるだけで、互いに完全に剥離することができる。したがって、接着層を溶融させたり接着力を低下させたりする処理が不要になり、第1及び第2の剛性部材を、より簡易な手法で迅速かつ安全に互いに剥離できる。
【0010】
本発明の他の態様に係る部材剥離装置によれば、第1の剛性部材の表面や裏面を損傷することなく、第1の剛性部材の略全体を、一様な所望曲率の湾曲形状を呈するように、迅速かつ安全に撓ませることができる。また、簡易構造の差圧生成機構を具備することにより、設備コストを削減できる。よって、第1及び第2の剛性部材を、より簡易な手法で迅速かつ安全に互いに剥離できる。
【0011】
本発明のさらに他の態様に係る部材剥離装置によれば、第1の剛性部材の所望部位を、所望量の湾曲形状を呈するように、迅速かつ安全に撓ませることができる。簡易構造の加圧機構を具備することにより、設備コストを削減できる。よって、第1及び第2の剛性部材を、より簡易な手法で迅速かつ安全に互いに剥離できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態による部材剥離方法及び部材剥離装置を模式図的に示す断面図で、(a)部材同士の剥離前の状態、(b)部材同士の部分剥離後の状態を示す。
【図2】図1の部材剥離装置を模式図的に示す平面図である。
【図3】本発明の他の実施形態による部材剥離方法及び部材剥離装置を模式図的に示す断面図で、(a)部材同士の剥離前の状態、(b)部材同士の部分剥離後の状態を示す。
【図4】図1〜図3の部材剥離方法を適用可能な部材の他の例を示す平面図である。
【図5】図1〜図3の部材剥離方法を適用可能な一対の部材の接合工程の一例を模式図的に示す正面図で、(a)部材同士の接合前の状態、(b)部材同士の接合後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、本発明の一実施形態による部材剥離方法、及びこの部材剥離方法を実施できる本発明の一実施形態による部材剥離装置10を示す。図示の部材剥離方法及び部材剥離装置10は、接着層12を介して互いに接合された第1の剛性部材14と第2の剛性部材16とを、互いに剥離するためのものであって、例えば、半導体チップの作製工程において裏面研削後のウエハを支持体から剥離する工程に適用できるものである。しかし、本発明の一態様に係る部材剥離方法、及び本発明の他の態様に係る部材剥離装置の用途は、これに限定されない。
【0014】
図示構成では、第1の剛性部材14は、互いに略平行に延びる平坦な表面14a及び裏面14b、並びに表面14aと裏面14bとの間に延びる環状の外周面14cを有する平板状要素である。第1の剛性部材14は、それ自体が変形することなく第2の剛性部材16を表面14a上に安定して支持できる一方で、少なくとも一部分が予め定めた範囲の外力により予め定めた程度まで弾性的に撓むことができる剛性を有する。第1の剛性部材14は、例えば、ガラス等のセラミックスやベークライト等のプラスチックからなる基板であることができる。
【0015】
図示構成では、第2の剛性部材16は、互いに略平行に延びる平坦な表面16a及び裏面16b、並びに表面16aと裏面16bとの間に延びる環状の外周面16cを有する平板状要素である。第2の剛性部材16は、第1の剛性部材14の表面14a上で、例えば裏面16bに対する研削、研磨等の加工力や、接着層12を介して第1の剛性部材14から伝達される曲げ力等の外力に抗して、平板状の形態を維持し得る十分な剛性を有する。第2の剛性部材16は、例えば、シリコン、ガリウムヒ素、水晶、ガラス等からなるウエハや基板であることができ、特に、サファイヤ、炭化ケイ素(SiC)、タンタル酸リチウム(LiTaO)等の、比較的高い硬度を有するウエハや基板であることができる。
【0016】
第1の剛性部材14が円板状の形状を有する場合、第1の剛性部材14の直径は、例えば約70mm以上、約300mm以下であることができる。また、第1の剛性部材14の厚みは、例えば約0.5mm以上、約5mm以下であることができ、また約1mm以上、約2mm以下であることができる。第2の剛性部材16が円板状の形状を有する場合、第2の剛性部材16の直径は、第1の剛性部材14の直径よりも小さく、例えば約50mm以上、約280mm以下であることができる。また、第2の剛性部材16の厚みは、例えば約0.3mm以上、約2.0mm以下であることができる。
【0017】
図示の部材剥離方法を、半導体チップの作製工程において裏面研削後のウエハを支持体から剥離する工程で実施する場合、第1の剛性部材14は、裏面研削工程に際してウエハの回路面を被覆するとともにウエハを安定支持する支持体であり、少なくとも表面14aは、ウエハの回路面に対する被研削面の平行度を改善可能な平滑面である。他方、第2の剛性部材16は、半導体チップの母材となる裏面研削後のウエハであり、表面16aは所要の回路パターンが形成された回路面、裏面16bは研削後の面(すなわち被研削面)である。ウエハの厚みは、例えば約0.5mm〜約1mm程度であり、直径と共に標準化されている。また、裏面研削後の半導体チップの厚みは、例えば約50μm〜約100μmであり、さらなる薄肉化が望まれている。
【0018】
図示の第2の剛性部材16は、ウエハとして一般的な円板状の形状を有しているが、例えば矩形平板状の形状を有していてもよい。同様に、図示の第1の剛性部材14は、第2の剛性部材16に相似する円板状の形状を有しているが、例えば矩形平板状の形状を有していてもよく、また第2の剛性部材16に相似しない形状であってもよい。第1及び第2の剛性部材14、16の素材、形状、寸法等は、第1の剛性部材14が少なくとも一部分に所要の弾性撓みを生じ得ること、及び第1の剛性部材14の表面14aが第2の剛性部材16の外周面16cの外側へ張り出し得る寸法を有する(円板状の場合、第1の剛性部材14の直径が第2の剛性部材16の直径よりも大きい)ことを要件とする以外は、特に限定されない。なお、接着層12として紫外線硬化型等の放射線硬化型の接着剤を使用する場合には、第1の剛性部材14は十分な透過性を有することが望ましい。この透過性は、例えば紫外線範囲のスペクトルのような、硬化性接着剤に適用できる電磁スペクトルの特定範囲での透過性を意味する。
【0019】
接着層12は、硬化又は固化することで第1の剛性部材14の表面14aに第2の剛性部材16の表面16aを強固に固定した状態に保持する接着力を発揮できるものであって、例えば、硬化性接着剤、溶剤系接着剤、ホットメルト型接着剤を含む熱可塑性樹脂、水分散型接着剤等からなることができる。ここで、硬化性接着剤は、熱や紫外線等のエネルギー線によって硬化される液状接着剤であり、溶剤系接着剤は、溶剤の蒸発により固化する液状接着剤であり、ホットメルト型接着剤は、加熱により溶融し、冷却により固化される接着剤である。また、水分散型接着剤は水中に接着剤成分が分散したものであって、水の蒸発により、固化する接着剤である。硬化性接着剤としては、特に限定されないが、エポキシ、ウレタン又はアクリルをベースとする一液熱硬化型接着剤、エポキシ、ウレタン、アクリルをベースとする二液混合反応型接着剤、アクリル、エポキシをベースとする紫外線硬化型、電子線硬化型接着剤が挙げられる。また、溶剤系接着剤としては、特に限定されないが、ゴム、エラストマー等を溶剤に溶解したゴム系接着剤が挙げられる。
【0020】
接着層12は、例えば後述する第1及び第2の剛性部材14、16の接合方法により、第1の剛性部材14の表面14aと第2の剛性部材16の表面16aとの間で全体に略一様な厚みに形成され、気泡を排除した状態で両表面14a、16aに密着する。接着層12の厚みは、例えば約0.001mm以上、約0.2mm以下であることができる。接着層12の外縁領域12aは、図示のように、第2の剛性部材16の外周面16cよりも外側に食み出して位置することができる。この場合、接着層12の外縁領域12aを、第2の剛性部材16の厚みの約半分に至るまで外周面16cを被覆する程度に、食み出させることができる。或いは、接着層12の外縁領域12aを、両表面14a、16aの間(すなわち第2の剛性部材16の外周面16cよりも内側)に位置させてもよい。
【0021】
第2の剛性部材16がウエハである場合、接着層12に用いられる接着剤は、ウエハの裏面研削工程に際して回路面(表面16a)に保護及び支持用の支持板(第1の剛性部材14)を接合するために用いられる接着剤と同様のものであることができる。例えば、住友スリーエム株式会社(東京)から入手可能な紫外線硬化型液体接着剤LC−3200を用いることができる。
【0022】
図示構成では、円板状の第1の剛性部材14と、第1の剛性部材14よりも小さな直径を有する円板状の第2の剛性部材16とが、それぞれの表面14a、16aを互いに略平行に対向させて略同軸配置で重ね合わされ、それら表面14a、16aの間に介在する接着層12により互いに接合されている(図1(a))。図示の部材剥離方法は、これら構成要素群に対し、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ弾性的に撓ませるステップと、弾性的に撓んだ第1の剛性部材14の少なくとも一部分と第2の剛性部材16との間で、接着層12の外縁領域12aを第1の剛性部材14又は第2の剛性部材16から部分的に剥離するステップとを含んで構成される。
【0023】
第1の剛性部材14の少なくとも一部分を弾性的に撓ませるステップでは、第1の剛性部材14の所要部位に気圧、水圧、機械的押圧力等の外力を加えることにより、第2の剛性部材16を実質的に撓ませることなく、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ撓ませる(図1(b))。第1の剛性部材14の表面14aは、その大部分が接着層12を介して第2の剛性部材16の表面16aに対面接合されているので、第2の剛性部材16を実質的に撓ませることなく、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ撓ませるためには、事実上、第2の剛性部材16の外周面16cよりも外側に位置する第1の剛性部材14の外周領域に外力を加えることになる。その結果、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ撓ませることで、弾性的に撓んだ第1の剛性部材14の少なくとも一部分と第2の剛性部材16との間に存在する接着層12の外縁領域12aに、応力が集中するようになる。
【0024】
接着層12の外縁領域12aに応力が集中することにより、次ステップで、接着層12の外縁領域12aは、表面14a又は16aとの接着界面の最外縁12bにおいて、第1の剛性部材14又は第2の剛性部材16からの部分的な剥離を開始する(図1(b))。接着層12の外縁領域12aの剥離は、第1の剛性部材14の撓み量の増加に伴い、表面14a又は16aとの接着界面の最外縁12bから内方へ向かって徐々に進行する。第1又は第2の剛性部材14、16からの接着層12の外縁領域12aの剥離が接着界面に沿って内方へ所望距離だけ進行した段階で、第1の剛性部材14の撓みを解除し、第1の剛性部材14を平板状の形態に弾性的に復元させる。
【0025】
剥離が進行した後は、第1の剛性部材14を平板形状に復元させても、既に剥離している接着層12の一部分(すなわち剥離部分)が第1の剛性部材14に再度接着することはない。接着層12として、前述したような一般に再接着しない接着剤を使用しているからである。そこで、剥離部分において、第1の剛性部材14と第2の剛性部材16とを、両者の表面14a、16aを引き離す方向へ相対移動させることにより、接着層12の剥離を剥離部分から接着界面の全体に行き渡らせて、第1の剛性部材14と第2の剛性部材16とを互いに剥離することができる。この相対移動時には、第1及び第2の剛性部材14、16を互いに平行な状態で移動させることができる。
【0026】
上記した部材剥離方法によれば、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ撓ませるだけで、全体の剥離の始点となる部分的な剥離を、接着層12の外縁領域12aと第1又は第2の剛性部材14、16との間に生じさせることができる。接着層12の部分的な剥離が生じた後は、第1及び第2の剛性部材14、16を、両者の表面14a、16aを引き離す方向へ相対移動させるだけで、互いに完全に剥離することができる。したがって、接着層12を溶融させたり接着力を低下させたりする処理が不要になり、第1及び第2の剛性部材14、16を、より簡易な手法で迅速かつ安全に互いに剥離できる。
【0027】
上記した部材剥離方法において、第1及び第2の剛性部材14、16の相互の剥離が完了した後は、接着層12は、好ましくはその全体が、第1の剛性部材14の表面14a又は第2の剛性部材16の表面16aに接着した状態で残留する。或いは、接着層12が適当に分断されて、第1及び第2の剛性部材14、16の表面14a、16aに部分的に残留する構成とすることもできる。
【0028】
図示の部材剥離方法を、半導体チップの作製工程において裏面研削後のウエハを支持体から剥離する工程で実施する場合、接着層12の全体を、ウエハ(第2の剛性部材16)を支持する支持体(第1の剛性部材14)に残留させることが、ウエハに対する後工程を円滑に遂行する観点で有効である。したがって、接着層12の外縁領域12aを第1又は第2の剛性部材14、16から部分的に剥離する上記ステップは、接着層12の外縁領域12aを、第1の剛性部材14に接着させたまま第2の剛性部材16から部分的に剥離するようにして実施することができる。
【0029】
図示のように、接着層12の外縁領域12aを、第2の剛性部材16の外周面16cよりも外側に食み出させることにより、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ撓ませることで接着層12の外縁領域12aに集中する応力が、面積の比較的大きい接着界面(つまり接着層12の外縁領域12aと第1の剛性部材14の表面14aとの接着界面)よりも、面積の比較的小さい接着界面(つまり接着層12の外縁領域12aと第2の剛性部材16の外周面16cとの接着界面)に支配的に作用して、外縁領域12aを外周面16cから引き剥がす。接着層12の外縁領域12aと第2の剛性部材16の外周面16cとの接着界面から開始された剥離は、接着層12と第2の剛性部材16の表面16aとの間に円滑に進行する(図1(b))。その結果、接着層12の全体を第1の剛性部材14の表面14aに残留させた状態で、第1及び第2の剛性部材14、16を互いに剥離することができる。
【0030】
接着層12の外縁領域12aを、第1の剛性部材14に接着させたまま第2の剛性部材16から部分的に剥離できるようにするために、第1の剛性部材14の表面14aに対する接着層12の接着強度を、第2の剛性部材16の表面16aに対する接着層12の接着強度よりも大きくする種々の手段を採用することもできる。この種の手段の一例として、第1及び第2の剛性部材14、16の素材の選択を挙げることができ、例えば、第1の剛性部材14をベークライト等のプラスチックから形成し、第2の剛性部材16をサファイヤ等のウエハ材料から形成することができる。また、上記手段の他の例として、第1の剛性部材14の表面14aに対する接着層12の接着強度を増大させるための表面処理を予め表面14aに施したり、第2の剛性部材16の表面16aに対する接着層12の接着強度を低下させるための表面処理を予め表面16aに施したりすることができる。
【0031】
上記した部材剥離方法において、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ弾性的に撓ませる上記ステップは、第2の剛性部材16を接合した第1の剛性部材14の表面14aに加わる気圧と、表面14aの反対側の第1の剛性部材14の裏面14bに加わる気圧との間に、差を与えるようにして実施することができる。例えば、図1に示すように、上記ステップは、第2の剛性部材16を収容するとともに第1の剛性部材14の表面14aに当接される壁18を有する室20を設けるステップと、室20を、第1の剛性部材14の裏面14bに加わる気圧P1よりも減圧する(すなわち気圧P2(<P1)にする)ステップとを含むことができる。
【0032】
図1及び図2に示す部材剥離装置10は、第2の剛性部材16を接合した第1の剛性部材14の表面14aに加わる気圧と、表面14aの反対側の第1の剛性部材14の裏面14bに加わる気圧との間に、差を与える差圧生成機構22を具備する。差圧生成機構22は、壁18を有する治具24と、室20に接続される真空装置(例えば真空ポンプ)26とを備える。治具24は、平板状の端壁28と、端壁28の外周縁に沿って一表面に立設される筒状の壁18とを備える。壁18は、端壁28から均一な高さまで延長され、その末端18aの全体で、第1の剛性部材14の表面14aに一様に接触できるようになっている。また、壁18及び端壁28は、第2の剛性部材16に接触することなく、両壁18、28の間に形成される凹所に第2の剛性部材16を受容可能な寸法を有する。壁18の末端18aが第1の剛性部材14の表面14aに一様に接触した状態で、治具24と第1の剛性部材14との間に、第2の剛性部材16を収容する気密封止された室20が画定される(図1(a))。
【0033】
治具24は、室20の減圧に抗して自己形状を保持し得る十分な剛性を有する。図示の治具24は、第1及び第2の剛性部材14、16が円板状の形状を有していることを前提として、第1及び第2の剛性部材14、16に相似する円板状の端壁28と、第2の剛性部材16の外周面16cから一様な距離に配置可能な円筒状の壁18とを有して構成されている(図2)。或いは治具24は、第1及び第2の剛性部材14、16の形状に対応しない形状を有していてもよい。治具24は、金属、プラスチック等の一般的な構造材料から、壁18と端壁28とが一体成形されたものであってもよいし、別体に形成した壁18と端壁28とを互いに連結したものであってもよい。治具24の素材、形状、寸法等は、壁18と端壁28との間に形成される凹所に第2の剛性部材16を非接触に受容できること、及び第1の剛性部材14の弾性的撓曲時に表面14aと壁18の末端18aとの気密接触を維持できることを要件とする以外は、特に限定されない。
【0034】
部材剥離装置10では、準備作業として、治具24を、壁18及び端壁28の間に形成される凹所に第2の剛性部材16を非接触に受容するとともに、壁18の末端18aが第1の剛性部材14の表面14aに一様に接触する状態に設置して、治具24と第1の剛性部材14との間に、第2の剛性部材16を収容する気密封止された室20を形成する。このとき、壁18の末端18aは、第1の剛性部材14の表面14aの、外周面14cの全体に近接する位置に当接される(図1(a))。この状態で、真空装置26を起動させて、前述した部材剥離方法を開始する。
【0035】
真空装置26の作動により室20を減圧すると、治具24は、壁18が変形することなく第1の剛性部材14の所要部分を安定支持し、第1の剛性部材14の略全体が、室20の外部の気圧P1と内部の気圧P2との差圧により、室20に押し込まれるように一様に撓曲する。この間、第2の剛性部材16は、治具24により直接的には支持されないので、差圧によって撓むことなく自己形状を保持する。その結果、第1の剛性部材14は、特に壁18の内側に位置する部分が一様に、第2の剛性部材16から離れる方向へ弾性的に撓むことになる。そして、第1の剛性部材14の弾性的に撓んだ部分と第2の剛性部材16との間で、接着層12の外縁領域12aが第2の剛性部材16から部分的に剥離する。接着層12の剥離の開始及び進行の形態は、前述した通りである。
【0036】
気圧差により第1の剛性部材14の少なくとも一部分を弾性的に撓ませる上記した部材剥離方法及び部材剥離装置10によれば、第1の剛性部材14の表面14aや裏面14bを損傷することなく、第1の剛性部材14の略全体を、一様な所望曲率の湾曲形状を呈するように、迅速かつ安全に撓ませることができる。また、差圧生成機構22を具備する部材剥離装置10は、簡易構造の治具24と一般的な真空装置26とを具備するものであるから、設備コストを削減することができる。よって部材剥離装置10によれば、第1及び第2の剛性部材14、16を、より簡易な手法で迅速かつ安全に互いに剥離できる。
【0037】
気圧差により第1の剛性部材14の少なくとも一部分を弾性的に撓ませる上記した部材剥離方法は、第2の剛性部材16を収容する室20の内圧を、第1の剛性部材14の裏面14bに加わる気圧P1よりも減圧する上記手法に加えて、或いはその代わりに、第1の剛性部材14の裏面14bを壁の一部とする第2室(図示せず)を設け、第2室に圧縮空気を送給して、第2室の内圧を室20の内圧、或いは第1の剛性部材14の表面14aに加わる気圧よりも増加させる手法を採用することもできる。この構成によっても、第1の剛性部材14の表面14aや裏面14bを損傷することなく、第1の剛性部材14の略全体を、一様な湾曲形状を呈するように撓ませることができる。
【0038】
図3は、本発明の他の実施形態による部材剥離方法、及びこの部材剥離方法を実施できる本発明の他の実施形態による部材剥離装置30を示す。部材剥離方法及び部材剥離装置30は、図1に示す部材剥離方法及び部材剥離装置10と同様に、接着層12を介して互いに接合された第1の剛性部材14と第2の剛性部材16とを、互いに剥離するためのものであって、例えば、半導体チップの作製工程において裏面研削後のウエハを支持体から剥離する工程に適用できるものである。
【0039】
図3に示す部材剥離方法は、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ弾性的に撓ませるステップと、弾性的に撓んだ第1の剛性部材14の少なくとも一部分と第2の剛性部材16との間で、接着層12の外縁領域12aを第1の剛性部材14又は第2の剛性部材16から部分的に剥離するステップとを含んで構成される。これら基本ステップの原理、作用等は、図1に示す部材剥離方法と同様である。
【0040】
図3に示す部材剥離方法において、第1の剛性部材14の少なくとも一部分を第2の剛性部材16から離れる方向へ弾性的に撓ませるステップは、第2の剛性部材16を接合した第1の剛性部材14の表面14aに、表面14aを第2の剛性部材16から離隔させる方向への第1押付力F1を加えると同時に、表面14aの反対側の第1の剛性部材14の裏面14bに、第1押付力F1とは反対の方向への第2押付力F2を加えるステップを含むことができる。
【0041】
図3に示す部材剥離装置30は、第2の剛性部材16を接合した第1の剛性部材14の表面14aに、表面14aを第2の剛性部材16から離隔させる方向への第1押付力F1を加えると同時に、表面14aの反対側の第1の剛性部材14の裏面14bに、第1押付力F1とは反対の方向への第2押付力F2を加える加圧機構32を具備する。加圧機構32は、第1の剛性部材14の表面14aに当接される押圧部材34と、押圧部材34を駆動して押圧部材34から表面14aに第1押付力F1を加えさせる駆動部36と、第1の剛性部材14の裏面14bを第2押付力F2で支持する可動支持部材38と、可動支持部材38を駆動して裏面14bに加わる第2押付力F2の位置を変化させる駆動部40と、第1の剛性部材14の表面14aを第3押付力F3で支持する固定支持部材42とを備える(図3(a))。
【0042】
押圧部材34は、第2の剛性部材16に接触しない位置であって、第1の剛性部材14の表面14aの、第2の剛性部材16の外周面16cよりも外側の領域の所望位置に当接される。特に押圧部材34は、図示のように、第1の剛性部材14の外周面14cに近接する位置に当接されることが有効である。押圧部材34は、それ自体が駆動部36の駆動により、第1の剛性部材14を第2の剛性部材16から引き離す方向へ移動して、表面14aの当接位置に第1押付力F1を加えるように作用する(図3(b))。なお駆動部36は、電力や油空圧を用いる一般的な駆動装置から構成できる。
【0043】
可動支持部材38は、第2の剛性部材16に接触しない位置であって、第1の剛性部材14の裏面14bの、表面14a側に第2の剛性部材16を接合している領域内の所望位置に当接される。可動支持部材38は、押圧部材34が第1の剛性部材14の表面14aに加える第1押付力F1に抗して、第1の剛性部材14の裏面14bを第2押付力F2で支持することで、第1押付力F1の印加位置と第2押付力F2の印加位置との間に延びる第1の剛性部材14の一部分に、所要の撓みを生じさせるように作用する(図3(b))。また可動支持部材38は、それ自体が駆動部40の駆動により、第1の剛性部材14の裏面14bに沿って移動して、第1押付力F1の印加位置と第2押付力F2の印加位置との間隔を変化させる(図3(b))。なお駆動部40は、電力や油空圧を用いる一般的な駆動装置から構成できる。
【0044】
固定支持部材42は、第2の剛性部材16に接触しない位置であって、第2の剛性部材16を挟んで第1押付力F1の印加位置とは反対側で、第1の剛性部材14の表面14aの、第2の剛性部材16の外周面16cよりも外側の領域の所望位置に当接される。固定支持部材42は、第2押付力F2の印加位置を支点とした梃子の作用による第1押付力F1の出力に抗して、第1の剛性部材14の表面14aを第3押付力F3で支持することで、第1押付力F1の印加位置と第2押付力F2の印加位置との間に延びる第1の剛性部材14の一部分に、所要の撓みを確実に生じさせるように作用する(図3(b))。
【0045】
押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42は、それぞれ、第1押付力F1、第2押付力F2及び第3押付力F3に抗して自己形状を保持し得る剛性を有する。図示構成では、押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42はいずれも、第1の剛性部材14の表面14a又は裏面14bに局所的に第1押付力F1、第2押付力F2及び第3押付力F3を加えることが可能なテーパ状の先端34a、38a、42aを有している。押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42の先端34a、38a、42aはいずれも、図3の紙面に直交する方向へ所望長さに渡って延びるエッジを構成することもできる。或いは、押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42は、エッジの代りに平坦な端面で第1の剛性部材14の表面14a又は裏面14bに当接される構成を有してもよい。特に、第1の剛性部材14の裏面14bに当接される可動支持部材38は、第2押付力F2を生ずる平坦な支持面を有するテーブル状部材として構成されてもよい。押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42は、金属、プラスチック等の一般的な構造材料から作製でき、第1の剛性部材14の損傷を回避するべく、例えばテフロン(登録商標)等の比較的軟質のプラスチックから作製できる。押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42の素材、形状、寸法等は、第1の剛性部材14の表面14a又は裏面14bの所望位置に第1押付力F1、第2押付力F2及び第3押付力F3を確実に印加できることを要件とする以外は、特に限定されない。
【0046】
部材剥離装置30では、準備作業として、押圧部材34を、第1の剛性部材14の表面14aの、外周面14cの一部に近接する位置に当接し、可動支持部材38を、第1の剛性部材14の裏面14bの、表面14a側にある第2の剛性部材16の外周面16cの一部(押圧部材34に対向する部位)に近接する位置に当接し、固定支持部材42を、第1の剛性部材14の表面14aの、押圧部材34とは反対側の位置に当接する(図3(a))。この状態で、駆動部36、40を起動させて、前述した部材剥離方法を開始する。
【0047】
駆動部36の駆動により、押圧部材34を、第1の剛性部材14を第2の剛性部材16から引き離す方向(図で下方)へ速度V1で移動させて表面14aに第1押付力F1を加えると、可動支持部材38及び固定支持部材42により第2押付力F2及び第3押付力F3で支持された第1の剛性部材14は、第1押付力F1の印加位置と第2押付力F2の印加位置との間に延びる一部分が撓曲する。この間、第2の剛性部材16は、可動支持部材38及び固定支持部材42により直接的には支持されないので、第1押付力F1〜第3押付力F3によって撓むことなく自己形状を保持する。その結果、第1の剛性部材14は、特にそれ自体の外周面14c及び第2の剛性部材16の外周面16cに近接する部分が、第2の剛性部材16から離れる方向へ弾性的に撓むことになる。そして、第1の剛性部材14の弾性的に撓んだ部分と第2の剛性部材16との間で、接着層12の外縁領域12aが第2の剛性部材16から部分的に剥離する。接着層12の剥離の開始及び進行の形態は、前述した通りである。
【0048】
部材剥離装置30では、押圧部材34の速度V1での移動に同期して(或いはやや遅れて)、駆動部40の駆動により、可動支持部材38を、押圧部材34から離れる方向(図で左方)へ速度V2で移動させることができる。これにより、第1押付力F1の印加位置と第2押付力F2の印加位置との間隔を徐々に増加させて、接着層12の剥離を所望位置まで円滑に進行させることができる。
【0049】
機械的押圧力により第1の剛性部材14の少なくとも一部分を弾性的に撓ませる上記した部材剥離方法及び部材剥離装置30によれば、第1の剛性部材14の所望部位を、所望量の湾曲形状を呈するように、迅速かつ安全に撓ませることができる。気圧差を利用する部材剥離方法及び部材剥離装置10では、室20を気密状態に維持しながら第1の剛性部材14を撓ませる必要があるが、第1の剛性部材14の形状等に起因して室20を維持することが困難な場合であっても、機械的押圧力を利用する部材剥離方法及び部材剥離装置30は、第1及び第2の剛性部材14、16を互いに確実に剥離することができる。また、加圧機構32を具備する部材剥離装置30は、簡易構造の押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42と一般的な駆動部36、40とを具備するものであるから、設備コストを削減することができる。よって部材剥離装置30によれば、第1及び第2の剛性部材14、16を、より簡易な手法で迅速かつ安全に互いに剥離できる。
【0050】
図示実施形態による部材剥離方法及び部材剥離装置10、30は、例えば図4に示すように、1つの第1の剛性部材14´と、1つの第1の剛性部材14´に個別に接着層12を介して接合された複数の第2の剛性部材16とを、互いに剥離することができる。機械的押圧力を利用する部材剥離方法及び部材剥離装置30は、隣り合う第2の剛性部材16の間隔が狭く、治具24の使用が困難な場合であっても、第1の剛性部材14´と個々の第2の剛性部材16とを互いに確実に剥離することができる。
【0051】
図5は、図示実施形態による部材剥離方法及び部材剥離装置10、30を適用可能な第1及び第2の剛性部材14、16を、接着層12を介して互いに接合する接合工程の一例を示す。図示の接合工程は、以下のステップを有する。
【0052】
第1の剛性部材14を、表面14aを露出させた姿勢で、静止基台40の平坦な支持面40aに載置し、例えば図示しない治具により支持面40aの所定位置に固定する。第2の剛性部材16を、表面16aを露出させた姿勢で、加圧盤44の平坦な支持面44aに、例えば真空吸着により固定して支持する。第1の剛性部材14と第2の剛性部材16とを、両者の表面14a、16aが互いに平行に対面かつ離隔する位置に配置する。第1の剛性部材14の表面14a上の、第2の剛性部材16の表面16aの略中央に対向する領域に、所定量の液状の接着剤(紫外線硬化型)12´を供給する(以上、図5(a))。加圧盤44を静止基台40に向けて移動させ、第2の剛性部材16の表面16aを第1の剛性部材14の表面14aに押し付けて、接着剤12´をそれら表面14a、16aの間に行き渡らせながら、第1及び第2の剛性部材14、16を重ね合わせる。接着剤12´が第2の剛性部材16の外周面16cから適量だけ食み出して所定厚みの層になるまで、加圧盤44から圧力を加える(図5(b))。接着剤12´が所定厚みの層になった時点で、第2の剛性部材16を加圧盤44から解放して、加圧盤44を静止基台40から離隔させる。接着剤12´を介して重なり合った第1及び第2の剛性部材14、16に、紫外線を照射して接着剤12´を硬化させ、接着層12(図1)を形成する。
【0053】
図1〜図3に記載した部材剥離方法及び部材剥離装置10、30の有効性を検証するために、以下の実験を行った。
【0054】
(実験1)
厚み1mm、直径300mmのガラス円板(ガラスのヤング率:7.10×1010Pa)からなる第1の剛性部材14に、厚み1mm、直径100mmのサファイアウエハからなる第2の剛性部材16を、紫外線硬化型液状接着剤LC−3200(住友スリーエム株式会社(東京都世田谷区)より提供)からなる接着剤12´を用いて、図5に示す接合方法により互いに接合し、厚み30μmの接着層12を介して互いに接合された第1及び第2の剛性部材14、16を得た。第1の剛性部材14を固定した状態で、第2の剛性部材16に対し裏面研削を実施して、第2の剛性部材16の厚みを0.5mmまで削減した。裏面研削後、部材剥離装置10の治具24を、前述した準備作業の相対位置関係で第1の剛性部材14の上に配置した。これにより第2の剛性部材16は、治具24と第1の剛性部材14との間に形成された室20に収容された。続いて、真空装置26を起動させて室20を減圧した。治具24は、壁18の内面の直径が122mmのものを使用した。第1の剛性部材14を、その最外縁が平坦時から0.5mm移動するまで撓曲させた時点で、接着層12の外縁領域12aにおいて、第2の剛性部材16からの剥離が開始された。室20の減圧を継続し、第1の剛性部材14を、その最外縁が平坦時から約1.0mm移動するまで撓曲させた時点で、接着層12の剥離が第2の剛性部材16の外周面16cから径方向内側へ30mmまで進行していた。この時点で、真空装置26を停止して室20の圧力を大気圧に戻し、治具24を第1及び第2の剛性部材14、16から取り外した。直径30mmの吸盤を有する吸着装置を用いて、第2の剛性部材16を第1の剛性部材14から引き離し、第1及び第2の剛性部材14、16を互いに剥離した。
【0055】
(実験2)
厚み2mm、直径300mmのベークライト円板(ベークライトのヤング率:0.47×1010Pa(住友ベークライト株式会社(東京都品川区)より提供))からなる第1の剛性部材14に、厚み1mm、直径100mmのサファイアウエハからなる第2の剛性部材16を、紫外線硬化型液状接着剤LC−3200からなる接着剤12´を用いて、図5に示す接合方法により互いに接合し、厚み30μmの接着層12を介して互いに接合された第1及び第2の剛性部材14、16を得た。第1の剛性部材14を固定した状態で、第2の剛性部材16に対し裏面研削を実施して、第2の剛性部材16の厚みを0.5mmまで削減した。裏面研削後、部材剥離装置10の治具24を、前述した準備作業の相対位置関係で第1の剛性部材14の上に配置した。これにより第2の剛性部材16は、治具24と第1の剛性部材14との間に形成された室20に収容された。続いて、真空装置26を起動させて室20を減圧した。治具24は、壁18の内面の直径が122mmのものを使用した。第1の剛性部材14を、その最外縁が平坦時から0.5mm移動するまで撓曲させた時点で、接着層12の外縁領域12aにおいて、第2の剛性部材16からの剥離が開始された。室20の減圧を継続し、第1の剛性部材14を、その最外縁が平坦時から約1.0mm移動するまで撓曲させた時点で、接着層12の剥離が第2の剛性部材16の外周面16cから径方向内側へ30mmまで進行していた。この時点で、真空装置26を停止して室20の圧力を大気圧に戻し、治具24を第1及び第2の剛性部材14、16から取り外した。直径30mmの吸盤を有する吸着装置を用いて、第2の剛性部材16を第1の剛性部材14から引き離し、第1及び第2の剛性部材14、16を互いに剥離した。
【0056】
(実験3)
厚み1mm、直径300mmのガラス円板(ガラスのヤング率:7.10×1010Pa)からなる第1の剛性部材14に、厚み1mm、直径100mmのサファイアウエハからなる第2の剛性部材16を、紫外線硬化型液状接着剤LC−3200からなる接着剤12´を用いて、図5に示す接合方法により互いに接合し、厚み30μmの接着層12を介して互いに接合された第1及び第2の剛性部材14、16を得た。第1の剛性部材14を固定した状態で、第2の剛性部材16に対し裏面研削を実施して、第2の剛性部材16の厚みを0.5mmまで削減した。裏面研削後の第1及び第2の剛性部材14、16に対し、部材剥離装置30の押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42を、前述した準備作業の相対位置関係で設置し、駆動部36、40を起動させて押圧部材34及び可動支持部材38を移動させた。20mmのエッジ長を有する押圧部材34と、100mmのエッジ長を有する可動支持部材38及び固定支持部材42とを使用した。第1の剛性部材14を、その最外縁が平坦時から0.5mm移動するまで撓曲させた時点で、接着層12の外縁領域12aにおいて、第2の剛性部材16からの剥離が開始された。押圧部材34及び可動支持部材38の移動を継続し、第1の剛性部材14を、その最外縁が平坦時から約1.0mm移動するまで撓曲させた時点で、接着層12の剥離が第2の剛性部材16の外周面16cから径方向内側へ30mmまで進行していた。この時点で、駆動部36、40を停止して押圧部材34及び可動支持部材38を停止させ、押圧部材34、可動支持部材38及び固定支持部材42を第1及び第2の剛性部材14、16から取り外した。直径30mmの吸盤を有する吸着装置を用いて、第2の剛性部材16を第1の剛性部材14から引き離し、第1及び第2の剛性部材14、16を互いに剥離した。
【0057】
(実験結果)
実験1〜3のいずれにおいても、真空装置26又は駆動部36、40の起動から第1及び第2の剛性部材14、16の完全剥離までに要した時間は、1分以内であった。また、実験1〜3のいずれにおいても、剥離後の接着層12は、第1の剛性部材14の表面14aにのみ残留していた。残留した接着層12は、任意の手工具を用いて容易に除去できた。必要に応じて溶剤等を用いることにより、第1の剛性部材14の表面14aを清浄化することができた。第2の剛性部材16がサファイアウエハ等のウエハである場合に、極めて有利な効果が奏されることが検証された。
【符号の説明】
【0058】
10、30 部材剥離装置
12 接着層
14 第1の剛性部材
14a 表面
14b 裏面
16 第2の剛性部材
16a 表面
16b 裏面
18 壁
20 室
22 差圧生成機構
24 治具
26 真空装置
32 加圧機構
34 押圧部材
36、40 駆動部
38 可動支持部材
42 固定支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層を介して互いに接合された第1の剛性部材と第2の剛性部材とを、互いに剥離する部材剥離方法において、
前記第1の剛性部材の少なくとも一部分を前記第2の剛性部材から離れる方向へ弾性的に撓ませるステップと、
弾性的に撓んだ前記第1の剛性部材の少なくとも一部分と前記第2の剛性部材との間で、前記接着層の外縁領域を前記第1の剛性部材又は前記第2の剛性部材から部分的に剥離するステップと、
を含む部材剥離方法。
【請求項2】
前記弾性的に撓ませるステップは、前記第2の剛性部材を接合した前記第1の剛性部材の表面に加わる気圧と、該表面の反対側の前記第1の剛性部材の裏面に加わる気圧との間に、差を与えるステップを含む、請求項1に記載の部材剥離方法。
【請求項3】
前記弾性的に撓ませるステップは、前記第2の剛性部材を収容するとともに前記第1の剛性部材の前記表面に当接される壁を有する室を設けるステップと、該室を、前記第1の剛性部材の前記裏面に加わる気圧よりも減圧するステップとを含む、請求項2に記載の部材剥離方法。
【請求項4】
前記弾性的に撓ませるステップは、前記第2の剛性部材を接合した前記第1の剛性部材の表面に、該表面を前記第2の剛性部材から離隔させる方向への第1押付力を加えると同時に、該表面の反対側の前記第1の剛性部材の裏面に、該第1押付力とは反対の方向への第2押付力を加えるステップを含む、請求項1に記載の部材剥離方法。
【請求項5】
前記部分的に剥離するステップは、前記接着層の前記外縁領域を、前記第1の剛性部材に接着させたまま前記第2の剛性部材から部分的に剥離するステップを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の部材剥離方法。
【請求項6】
1つの前記第1の剛性部材と、1つの前記第1の剛性部材に個別に前記接着層を介して接合された複数の前記第2の剛性部材とを、互いに剥離する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の部材剥離方法。
【請求項7】
接着層を介して互いに接合された第1の剛性部材と第2の剛性部材とを、互いに剥離する部材剥離装置において、
前記第2の剛性部材を接合した前記第1の剛性部材の表面に加わる気圧と、該表面の反対側の前記第1の剛性部材の裏面に加わる気圧との間に、差を与える差圧生成機構を具備し、
前記差圧生成機構が、前記第1の剛性部材の少なくとも一部分を前記第2の剛性部材から離れる方向へ弾性的に撓ませて、弾性的に撓んだ前記第1の剛性部材の少なくとも一部分と前記第2の剛性部材との間で、前記接着層の外縁領域を前記第1の剛性部材又は前記第2の剛性部材から部分的に剥離する、
部材剥離装置。
【請求項8】
接着層を介して互いに接合された第1の剛性部材と第2の剛性部材とを、互いに剥離する部材剥離装置において、
前記第2の剛性部材を接合した前記第1の剛性部材の表面に、該表面を前記第2の剛性部材から離隔させる方向への第1押付力を加えると同時に、該表面の反対側の前記第1の剛性部材の裏面に、該第1押付力とは反対の方向への第2押付力を加える加圧機構を具備し、
前記加圧機構が、前記第1の剛性部材の少なくとも一部分を前記第2の剛性部材から離れる方向へ弾性的に撓ませて、弾性的に撓んだ前記第1の剛性部材の少なくとも一部分と前記第2の剛性部材との間で、前記接着層の外縁領域を前記第1の剛性部材又は前記第2の剛性部材から部分的に剥離する、
部材剥離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60489(P2013−60489A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198379(P2011−198379)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】