説明

配位数4の金属及びビスフェナントロリン誘導体を含む有機/金属ハイブリッドポリマー、その配位子、及びその製造方法

【課題】
従来の6つの配位座ではなく、CuやPt等の4つの配位座を有する金属を使った有機/金属ハイブリッドポリマーを与える。
【解決手段】
スペーサー部位の両端に夫々フェナントロリン誘導体を設けた構造の配位子を使用する。夫々のフェナントロリンは配位数が2であるので、このような配位子と4つの配位座を有する金属とを1:1で錯体形成させることで、たとえば以下の構造式で表される所望の有機/金属ハイブリッドポリマーが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な有機/金属ハイブリッドポリマーに関し、更に詳細には配位数が4の金属を使用した有機/金属ハイブリッドポリマー、更にはその配位子及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機/金属ハイブリッドポリマーは、有機部位(有機モジュール)と金属種がナノスケールでハイブリッド化(複合化)したポリマーであり、従来の有機ポリマーにない電子・光・磁気・触媒機能の発現が期待されている。本願発明者らはある種の有機/金属ハイブリッドポリマーにおいては、電圧の印加によるその金属イオンの酸化/還元によって特定の色で発色/脱色するという優れたエレクトロクロミック特性を有することを見出し、これに基づき、このような特性を有する各種の有機/金属ハイブリッドポリマー、その配位子として使用されるビスターピリジン誘導体、及びその表示素子などへの各種応用について特許出願等を行ってきた(特許文献1〜10)。
【0003】
しかし、これまでに提案された何れの有機/金属ハイブリッドポリマーも、その配位子が両端に夫々3配位座を有することで、配位数が6の金属との間でキレートを形成するという構造を有していたため、配位数が6以外の金属を使用した有機/金属ハイブリッドポリマーは実現されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は配位数が4の金属を使用した有機/金属ハイブリッドポリマーを実現し、これによって有機/金属ハイブリッドポリマーの多様性を更に拡張することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、以下の構造式で表される配位数4の金属及びビスフェナントロリン誘導体を含む有機/金属ハイブリッドポリマーが与えられる。
【化1】


ただし、Mは配位数が4の金属、Xはカウンターアニオン、Aはスペーサーである。
ここにおいて、前記RとRは、水素、メチル基、t-ブチル基、フェニル基、チエニル基、ビチエニル基及びターチエニル基から成る群から選択され、前記RとRは、水素、フェニル基及びフェニルアセチル基から成る群から選択されてよい。
また、前記配位数が4の金属イオンは、白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)及びパラジウム(Pd)から成る群から選択されてよい。
また、前記スペーサーAは以下に記載の何れかの構造式で表されるものであってよい。
【化2】


また、前記カウンターアニオンは、過塩素酸イオン、トリフラートイオン、四フッ化ホウ素イオン、塩化物イオン及び六フッ化リン酸イオンから成る群から選択されてよい。
また、これらの有機/金属ハイブリッドポリマーはエレクトロクロミック特性を有してよい。
また、これらの有機/金属ハイブリッドポリマーは蛍光性を有してよい。
本発明の他の側面によれば、以下の構造式で表されるビスフェナントロリン誘導体から成る配位子が与えられる。
【化3】



ただし、Aはスペーサーである。
ここで、前記RとRは、水素、メチル基、t-ブチル基、フェニル基、チエニル基、ビチエニル基及びターチエニル基から成る群から選択され、前記RとRは、水素、フェニル基及びフェニルアセチル基から成る群から選択されてよい。
また、前記スペーサーAは以下に記載の何れかの構造式で表されるものであってよい。
【化4】


本発明の更に他の側面によれば、フェナントロリン誘導体を臭素化し、ボロン酸を有するスペーサーとクロスカップリングさせることにより上記何れかの配位子を製造する方法が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、上記何れかの配位子を配位数が4の金属のイオンと錯形成させることにより上記何れかの有機/金属ハイブリッドポリマーを製造する方法が与えられる。
ここで、前記錯形成はアセトニトリルとハロゲン系溶剤の混合液中で行われてよい。
また、前記ハロゲン化溶剤はジクロロメタン、テトラクロロエタン及びクロロホルムから成る群から選択されてよい。
【発明の効果】
【0006】
上述のように、本発明では白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等の配位数が4の金属を使った金属/有機ハイブリッドポリマーを実現することができたので、従来の配位数が6の金属を使用したものでは見られない新たな物性を有する有機/金属ハイブリッドポリマーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例の配位子の製造方法を説明する図。
【図2】本発明の一実施例のCuを使用した有機/金属ハイブリッドポリマーの製造方法を説明する図。
【図3】本発明の一実施例のCu(II)ベースの有機/金属ハイブリッドポリマーの形成過程における紫外・可視分光分析結果の紫外領域における変化を示す図。
【図4】本発明の一実施例のCuを使用した有機/金属ハイブリッドポリマーのAFM像。
【図5】本発明の一実施例のCuを使用した有機/金属ハイブリッドポリマーのCV特性を示す図。
【図6】本発明の一実施例のCuを使用した有機/金属ハイブリッドポリマーのエレクトロクロミック特性を示す図。
【図7】本発明の一実施例のCuを使用した有機/金属ハイブリッドポリマーのエレクトロクロミック特性を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0008】
従来の有機/金属ハイブリッドポリマーの有機物側の原料である配位子は、スペーサー部位を挟んで両端にターピリジン誘導体を有する構造を取っていた。それに対して本発明ではターピリジン誘導体の代わりに、2つの配位座を有するビス(フェナントロリン)誘導体を使用する。この構造により、一つの配位子上の2つのフェナントロリン誘導体のうちの一方と別の配位子上の2つのフェナントロリン誘導体のうちの一方との間に配位数が4の金属イオンが入るという形態で、金属−配位子の繰り返しが形成されることにより、新規な構造の有機/金属ハイブリッドポリマーが得られる。
【0009】
このような配位子の一般的な構造は以下の通りである。
【0010】
【化5】

【0011】
フェナントロリン誘導体を臭素化し、ボロン酸を有するスペーサー部位Aとクロスカップリングさせることで、目的とするビス(フェナントロリン)誘導体、すなわち上述の構造を持った配位子を合成することができる。
【0012】
なお、フェナントロリン誘導体の置換基RとRは、水素、メチル基、t-ブチル基、フェニル基、チエニル基、ビチエニル基、ターチエニル基が挙げられる。置換基RとRは、水素、フェニル基、フェニルアセチル基が挙げられる。これらの置換基の構造式を以下に示す。
【0013】
【化6】

【0014】
また、スペーサー部位Aとしては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、チエニル基、ビチエニル基、ターチエニル基が代表例として挙げられる。また、ビス(フェナントロリン)誘導体の溶解性を高めるために、アルキル基(炭素数1から16)やアルコキシ基(炭素数1から16)で修飾したスペーサーを用いることも望ましい。さらに、ジオキソアルキル基(炭素数2から16)でフェニル基間が連結されたスペーサーを用いることもできる。このようなスペーサー部位Aの構造式を以下に示す。
【0015】
【化7】

【0016】
このようにして得られた配位子を配位数が4の金属イオンを含む金属塩及び溶媒などとともに錯体形成することにより、以下に一般的な構造を示す有機/金属ハイブリッドポリマーを得ることができる。
【0017】
【化8】

【0018】
ここで、Mは白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等の配位数が4の金属イオン、Xはカウンターアニオンを示す。カウンターアニオンとしては過塩素酸イオン、トリフラートイオン、四フッ化ホウ素イオン、塩化物イオン、六フッ化リン酸イオンが挙げられる。
このようにして合成された金属/有機ハイブリッドポリマーは、使用される金属M等によってエレクトロクロミック特性や蛍光性などの種々の特徴を有する。
【実施例】
【0019】
以下では、配位数が4の金属としてCuを使用した本発明の一実施例を説明する。
【0020】
先ず、配位子を図1に示すようにして合成した。
【0021】
フェナントロリンを発煙硫酸の存在下で臭素と135℃で23時間反応させることにより、5−ブロモフェナントロリン(5-bromophenanthroline)を合成した。収率は15%であった。これをジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(PdCl(PPh)、炭酸カリウム、DMSOの存在下で9,9−ジオクチルフルオレン2,7−ジボン酸ビス(1,3−プロパンジオール)エステル(9,9-dioctylfluorene-2,7-diboronic acid bis(1,3-propanediol)ester)と100℃24時間クロスカップリング反応させることにより、以下の構造式で表される配位子を得た(収率35%)。
【0022】
【化9】



【0023】
このようにして得られた配位子を、図2に示すように、直ちにジクロロメタン(DCM)及びアセトニトリルに溶解した等モルの過塩素酸銅水和物と窒素雰囲気中で室温で24時間反応させることで、以下の構造式で示される有機/金属ハイブリッドポリマーを得た。
【0024】
【化10】

【0025】
こうして得られた金属/有機ハイブリッドポリマーは緑色の固体で、アセトニトリルにはやや溶けにくく、ジメチルスルホキシド(DMSO)には高い溶解度を示した。
【0026】
本実施例のCu(II)ベースの有機/金属ハイブリッドポリマーの形成過程を紫外・可視分光分析によってモニターした。その結果を図3に示す。図3に示すように、過塩素酸銅水和物溶液を配位子溶液に加えていくと、錯形成に基づくスペクトル変化が確認された。配位子に対して等量の銅塩を加えるまでスペクトルは変化するが、それ以上銅塩を加えてもスペクトルは変化しなくなった。この結果から、配位子であるビス(フェナントロリン)誘導体と銅イオンは1対1で錯形成していることが確認された。
【0027】
このようにして合成された有機/金属ハイブリッドポリマーのAFM像を図4に示す。画面の右上から左下にかけてほぼ平行な多数の線が見えるが、これらの線のそれぞれが合成された有機/金属ハイブリッドポリマーのチェーンである。
【0028】
なお、この有機/金属ハイブリッドポリマー合成の際の溶媒としてはDCMとアセトニトリルに限定されるわけではなく、例えばDCMの代わりにテトラクロロエタン(CCl)やクロロホルムなどのハロゲン系溶剤を使用することもできる。
【0029】
また、有機/金属ハイブリッドポリマーの合成の際、Pt、Ni、Ag、PdなどのCu以外の配位数が4の金属イオンを使用することにより、Cu以外の金属ベースの本発明の有機/金属ハイブリッドポリマーを得ることもできる。
有機/金属ハイブリッドポリマーは、含まれる金属イオンの種類に応じた電気化学特性を示す。例として、銅イオンとビス(フェナントロリン)誘導体からなる有機/金属ハイブリッドポリマーのサイクリックボルタモグラムを図5に示す。この測定条件は以下の通りであった。作用電極:グラッシーカーボン電極、対極:Ptワイヤー電極、参照電極:Ag/Ag+、電解質溶液:0.1MTBAP、溶媒:アセトニトリル、ハイブリッドポリマーを作用電極にキャストして測定した。ポリマー中の銅イオンの酸化還元(Cu(I)/Cu(II))に対応する酸化還元波が約1.0V(vs.Ag/Ag)に観測された。
【0030】
非特許文献1〜10で詳細に説明され、また当業者周知の通り、従来の配位数が6の金属を使用した有機/金属ハイブリッドポリマーは電圧を印加してハイブリッドポリマーを構成する金属イオンを還元・酸化することによって着色・脱色するというエレクトロクロミック特性を有している。本発明においても、上述のようにして合成したCu(II)ベースの有機/金属ハイブリッドポリマーは、以下に示すように、従来と同様なエレクトロクロミック特性を有していることが確認された。
【0031】
合成されたCu(II)ベースの有機/金属ハイブリッドポリマーで薄膜を作成し、これに電圧を印加してCuを還元していくと、図6(a)に示すように、30分ほどかけて徐々に可視光線域の吸光度、特に400nm〜500nmを中心として、更に600nmまでの吸光度が増大した。視覚的には、薄膜は当初ほぼ無色に見えたものが、次第に黄色に着色した。この変化は可逆的であった。すなわち、図6(b)に示すように、逆方向の電圧を薄膜に印加することにより、有機/金属ハイブリッドポリマーは酸化され、約1時間かけて元の低濃度かつほぼ無色の状態に復帰した。
【0032】
このような薄膜の濃度変化の写真を図7に示す。図7(a)はまだ電圧を印加する前の状態の写真である。また、図7(b)は図6(a)で電圧を印加してから十分時間が経過した後の状態、図7(c)は図6(b)で逆方向の電圧を印加して十分時間が経過した後の状態の写真である。図7はモノクローム写真なので、図7(b)が他のものよりも若干濃度が高く見えるだけであるが、実際には図7(b)を撮影したときには薄膜が黄色に着色しているのが明瞭に観測された。
【0033】
更に、Cu(II)ベースの有機/金属ハイブリッドポリマーと同様にして合成したPt(IV)ベースの有機/金属ハイブリッドポリマーも同様にエレクトロクロミック特性を示すことが確認された。
【0034】
また、Pt(IV)ベースの有機/金属ハイブリッドポリマーでは、紫外線で励起することによって蛍光を発することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上詳細に説明したように、本発明により従来技術では得られなかった新しいタイプの有機/金属ハイブリッドポリマーを提供することができるようになったため、有機/金属ハイブリッドポリマーの応答を検討する際に従来とは異なる性質を有する有機/金属ハイブリッドポリマーが新たな選択肢として加わることは大いに有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】国際公開公報2007/049371
【特許文献2】特開2007−112769
【特許文献3】特開2007−112957
【特許文献4】国際公開公報2008/081762
【特許文献5】特開2008−162967
【特許文献6】特開2008−162976
【特許文献7】特開2008−162979
【特許文献8】国際公開公報2008/143324
【特許文献9】特開2009−223159
【特許文献10】特開2009−265437

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式で表される配位数4の金属及びビスフェナントロリン誘導体を含む有機/金属ハイブリッドポリマー。
【化1】


ただし、Mは配位数が4の金属、Xはカウンターアニオン、Aはスペーサーである。
【請求項2】
前記RとRは、水素、メチル基、t-ブチル基、フェニル基、チエニル基、ビチエニル基及びターチエニル基から成る群から選択され、前記RとRは、水素、フェニル基及びフェニルアセチル基から成る群から選択される、請求項1に記載の有機/金属ハイブリッドポリマー。
【請求項3】
前記配位数が4の金属イオンは、白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)及びパラジウム(Pd)から成る群から選択される、請求項1または2に記載の有機/金属ハイブリッドポリマー。
【請求項4】
前記スペーサーAは以下に記載の何れかの構造式で表される、請求項1から3の何れかに記載の有機/金属ハイブリッドポリマー。
【化2】

【請求項5】
前記カウンターアニオンは、過塩素酸イオン、トリフラートイオン、四フッ化ホウ素イオン、塩化物イオン及び六フッ化リン酸イオンから成る群から選択される、請求項1から4の何れかに記載の有機/金属ハイブリッドポリマー。
【請求項6】
エレクトロクロミック特性を有する、請求項1から5の何れかに記載の有機/金属ハイブリッドポリマー。
【請求項7】
蛍光性を有する、請求項1から5の何れかに記載の有機/金属ハイブリッドポリマー。
【請求項8】
以下の構造式で表されるビスフェナントロリン誘導体から成る配位子。
【化3】



ただし、Aはスペーサーである。
【請求項9】
前記RとRは、水素、メチル基、t-ブチル基、フェニル基、チエニル基、ビチエニル基及びターチエニル基から成る群から選択され、前記RとRは、水素、フェニル基及びフェニルアセチル基から成る群から選択される、請求項8に記載の配位子。
【請求項10】
前記スペーサーAは以下に記載の何れかの構造式で表される、請求項8または9に記載の配位子。
【化4】

【請求項11】
フェナントロリン誘導体を臭素化し、ボロン酸を有するスペーサーとクロスカップリングさせることにより請求項8から10の何れかに記載の配位子を製造する方法。
【請求項12】
請求項8から10の何れかに記載の配位子を配位数が4の金属のイオンと錯形成させることにより請求項1から7の何れかに記載の有機/金属ハイブリッドポリマーを製造する方法。
【請求項13】
前記錯形成はアセトニトリルとハロゲン系溶剤の混合液中で行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ハロゲン化溶剤はジクロロメタン、テトラクロロエタン及びクロロホルムから成る群から選択される、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−188517(P2012−188517A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52269(P2011−52269)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】