説明

配光パターン中心の検出方法

【課題】 水平カットライン、斜めカットラインを有する配光パターンの中心(エルボポイント)を高精度かつ簡易に検出することが可能な検出方法を提供する。
【解決手段】 上下中間領域A3を挟んで上下方向に対向配置された第1受光領域A1と第2受光領域A2を備えた撮像素子113を用い、撮像素子113を上下方向に位置変化させながら配光パターンLBPを受光し、第1受光領域A1と第2受光領域A2で検出した受光量の受光比が極値になるときの範囲の中間点を水平カットラインHCの上下方向の位置として検出する。水平カットラインHCにカットぼけによる波状部HWが生じている場合でもこれを解消し、水平カットラインHC、及びその上にあるエルボポイントEPを高い精度で検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の前照灯の光軸調整において必要とされる配光パターンの中心を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の前照灯(ヘッドランプ)として、対向車を眩惑することがないように光軸を下方に向けた所要の配光パターンを有するロービームランプがある。このロービームランプの光軸を所定の方向に向くように光軸調整する際には、ロービームランプで照射される光の配光パターンの中心を検出する必要がある。すなわち、日本のような左側通行におけるロービームパターンは配光パターンの右側領域は水平なカットラインを有し、左側領域には左上方に傾斜したカットラインを有しており、これら水平カットラインと斜めカットラインとの交点をエルボポイントと称して配光パターンの中心としている。そして、ロービームランプの光軸調整では、このエルボポイントが所定範囲内に方向付けされるように光軸調整を行っている。なお、配光パターンにおけるカットラインは、一般には配光パターン上の光度の勾配が最大となる点を結んだ線として定義している。
【0003】
このような光軸調整に際してエルボポイントを検出するには、実際にロービームランプを点灯して照射された光の配光パターンを検出し、検出した配光パターンの水平カットラインと斜めカットラインを検出し、これら水平カットラインと斜めカットラインの交点を求め、その交点をエルボポイントとして認識する。このようなエルボポイントを認識する手法として、例えば、特許文献1の技術が提案されている。特許文献1は、ヘッドランプの配光パターンを受光手段によって受光し、その受光した照度に基づいてエルボポイントを演算して求める技術であり、水平カットラインを含む一部領域で得られた照度から水平カットラインの座標軸上の近似線を演算し、また斜めカットラインを含む一部領域で得られた照度から斜めカットラインの座標軸上の近似線を演算し、これら水平カットラインと斜めカットラインの交点をエルボポイントとして検出する技術である。これにより、複数の光源ユニットで構成されるヘッドランプにおけるエルボポイントの検出が可能になり、ヘッドランプのテストが可能になる。
【特許文献1】特開2000−146761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、水平カットラインと斜めカットラインの各近似線を求める演算においては、各カットラインを含む領域内の複数の箇所での照度に基づいて演算を行うために演算が複雑であり、演算を行うための工程数が多く、コンピュータソフトが複雑になる。特に、ヘッドランプの種類によって斜めカットラインの傾斜角度が相違する場合や、配光パターンにおける照度分布が相違する場合等においては、これら傾斜角度や照度分布の相違を考慮してそれぞれに適した演算式のソフトを設計しなければならずソフトが複雑になるとともに、ソフトの設計も煩雑なものになる。また、演算工程数が多いため演算時間が長くなり、エルボポイントの検出に時間がかかる。さらに、水平カットラインと斜めカットラインの近似線はあくまでも近似値であるため、これらカットラインの交点であるエルボポイントの検出精度も低くならざるを得ない。特に、実際のランプの配光パターンではランプを構成するリフレクタやレンズ等の構成部品での製造誤差等によってカットラインにカットぼけと称する波状のパターン(以下、波状部と称する)が生じることが多く、この波状部によってカットラインの近似線に誤差が生じ、エルボポイントの検出誤差が顕著なものになるという問題も生じる。
【0005】
本発明の目的は、簡易かつ迅速に、しかも高い精度で配光パターン中心(エルボポイント)を検出することを可能にした配光パターン中心の検出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、配光パターンの中心を通りほぼ水平方向に延びる水平カットラインと、当該中心を通り水平方向に対して所要の角度方向に延びる斜めカットラインとを有する配光パターンの中心を検出する検出方法であって、所要の上下幅寸法をした上下中間領域を挟んで上下方向に対向配置された第1受光領域と第2受光領域を備える受光手段を用い、当該受光手段を上下方向に位置変化させながら配光パターンを受光するとともに第1受光領域と第2受光領域で検出される受光量の受光比を求め、当該受光比に基づいて水平カットラインの上下方向の位置を検出する工程を含むことを特徴とする。特に、受光比の極値が得られたときの上下中間領域の上下方向の中間点を水平カットラインの上下方向の位置として検出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上下中間領域を挟んで対向配置された第1受光領域と第2受光領域の各受光量を検出し、これらの受光比に基づいて水平カットラインの上下方向の位置を検出しているので、水平カットラインにカットぼけによる波状部が生じている場合でも水平カットラインを高い精度で検出することができる。また、単純に第1受光領域と第2受光領域の受光量の受光比の変化に基づいて水平カットラインを検出するので、受光量を演算するための処理が簡略化でき、検出装置の簡易化、検出処理の高速化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、上下中間領域を第3受光領域として構成し、第1受光領域と第3受光領域の各受光量の和と、第2受光領域と第3受光領域の各受光量の和との受光比を求め、受光比の極値の上下方向の中間点を水平ラットラインの上下方向の位置として検出してもよい。水平カットラインに生じている波状部の波高の高低差が上下中間領域の上下幅よりも大きい場合でも、受光手段の位置変化に伴う受光比の変動を抑制し、当該波状部による影響を緩和してより高い精度の検出が可能になる。
【0009】
本発明において、受光手段を2次元撮像素子で構成し、この撮像素子を構成する多数の受光セルを各受光領域及び上下中間領域に区画し、各領域に属する受光セルの受光量を加算して前記各受光領域の受光量を検出するようにしてもよい。受光手段を位置変化させるための手段が不要になり、検出装置の簡略化、低コスト化が実現できる。
【実施例1】
【0010】
次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明の検出方法でエルボポイントを検出しようとするヘッドランプHL、ここでは自動車の前部右側に配設する右側のヘッドランプRHLの概略構成を示す斜視図である。ランプボディ11と、このランプボディ11の前面開口に取着された透明カバー12とで構成される灯室13内にハイビームランプHBLとロービームランプLBLが構成されている。ハイビームランプHBLはここでは放電バルブを光源とする単一のプロジェクタ型ランプで構成されており、この放電バルブを光源としたプロジェクタ型ランプは既に広く知られている。ロービームランプLBLは複数個、ここではそれぞれ半導体発光素子を光源とする4個の光源ユニットLU1〜LU4を配列した多光源型ランプとして構成されている。前記4つの光源ユニットLU1〜LU4は、3つのプロジェクタ型光源ユニットLU1〜LU3と、1つの拡散型光源ユニットLU4とで構成され、前記灯室13内の上段に3つのプロジェクタ型光源ユニットLU1〜LU3が水平方向に並んで配設され、その下段に拡散型光源ユニットLU4が配設されている。
【0011】
前記ロービームランプLBLにおいて、各光源ユニットLU1〜LU4の詳細な説明は省略するが、図2に示すように各光源ユニットLU1〜LU4の各配光パターンP1〜P4を重畳することでロービームパターンLBPが形成される。このロービームパターンLBPでは、水平方向に延びる水平カットラインHCと、この水平カットラインHCに対して所要の角度で交差する斜めカットラインDCとを有しており、配光パターンの基準となる水平基準線Hと鉛直基準線Vが交差する光軸点HVを含むその近傍において前記水平カットラインHCと斜めカットラインDCとが交差し、この交差点が配光パターン中心となり、いわゆるエルボポイントEPとなる。
【0012】
このようなロービームランプLBLの配光パターンのエルボポイントEPを検出するためにエルボポイント検出装置100が設けられる。このエルボポイント検出装置100は、図3に概念構成を示すように、エルボポイントを検出するヘッドランプHLを装着した自動車CARを所定位置に停車させたときに、当該ヘッドランプHLの正面に対向配置され、自動車に対して水平左右方向及び鉛直上下方向に移動可能な撮像装置110を備えている。この撮像装置110を上下・左右に移動させるための機構としては、ここでは、水平左右方向に延長されて両端が支柱によって支持されたHバー101と、このHバー101上で左右方向に移動可能な左右移動体103と、この左右移動体103に上端部が連結されて鉛直上下方向に延長されたVバー102と、このVバー103上で上下方向に移動可能な上下移動体104とを備えており、この上下移動体104に前記撮像装置110が搭載されている。また、前記エルボポイント検出装置100にはヘッドランプHLの光を投射させるためのスクリーンSCも設けられている。
【0013】
前記撮像装置110は、ヘッドランプHLから照射される光を受光して配光パターンを顕像化させるための受光板111と、この受光板111に顕像化された配光パターンを撮像する撮像カメラ112を備えている。撮像カメラ112には図には表れないが、撮像した配光パターンに基づいて受光信号を出力するCCD等の半導体光電変換素子からなる撮像素子を備えている。図4(a)に概念構成を示すように、この撮像素子113は撮像面(受光面)113aに左右方向及び上下方向にマトリクス配列された多数のセル(受光素子)114を備えた二次元CCD撮像素子で構成されており、各セル114は撮像した配光パターンの明るさに応じた電気信号を受光信号として出力する。この撮像素子113から出力される受光信号は図3に示した信号処理部120に出力されており、信号処理部120は入力された受光信号に基づいて所要のアルゴリズムで信号処理を行い、エルボポイントの位置を演算するための演算を実行する。
【0014】
ここで、前記撮像素子113では、図4(b)に示すように、マトリクス配列された多数のセル114について、撮像素子113の撮像面113aの中心点(上下左右の中央点)Cを含んで上下方向に所要の幅寸法をした上下中間領域A3を定義し、この上下中間領域A3を挟んで上下に対称配置された上側の第1受光領域A1と下側の第2受光領域A2を定義する。実施例1では、これら第1受光領域A1と第2受光領域A2は撮像素子113の撮像面の左右方向の全幅にわたって形成されており、しかも第1受光領域A1と第2受光領域A2の上下方向の幅寸法は等しく設定されているので第1受光領域A1と第2受光領域A2のセル数は同じ数に、換言すれば第1受光領域A1と第2受光領域A2の各受光面積は等しくされている。また、前記上下中間領域A3は後述するように実施例2では第3受光領域として定義されることになるが、この上下中間領域A3の上下方向の幅寸法は、後述する説明から判るようにロービーム配光パターンLBPにおける水平カットラインHCに生じるカットぼけによる上下方向の波状部の高さ寸法と同程度の寸法に設定されている。
【0015】
また、図4(c)に示すように、前記撮像素子113では、撮像面113aの前記中心点Cを含んで左右方向に接して並列配置された左側の第4受光領域A4と右側の第5受光領域A5を定義する。これら第4受光領域A4と第5受光領域A5は撮像素子113の上下方向の全長にわたって形成されており、しかも第4受光領域A4と第5受光領域A5の左右方向の幅寸法は等しく設定されているので第4受光領域A4と第5受光領域A5のセル数は同じ数に、換言すれば第4受光領域A4と第5受光領域A5の受光面積は等しくされている。
【0016】
前記信号処理部120は前記撮像素子113から出力される受光信号に基づいてエルボポイントEPの左右方向の位置(座標)と上下方向の位置(座標)を演算する。この演算を行うために、信号処理部120は前記撮像素子の第1ないし第5の各領域の各セルからの受光信号に基づいて各領域毎の受光量を演算し、さらに得られた受光量に基づいて所要の演算を行なうことが可能に構成されている。ここでは、撮像素子113はCCD素子で構成されているので、撮像素子113を構成しているセル114のそれぞれで受光して得られた受光信号としての電荷を順次転送して各セルの電荷を読み出し、読み出した各電荷の値を1ビットないし数ビットのデジタル信号として量子化した階調信号とする。この場合、信号処理部120の処理能力や要求される精度に応じてビット数を適宜に設定することが可能であり、特に1ないし数ビットの階調信号にすれば信号処理部120での信号処理速度が向上でき、反対にビット数を複数ビットの多階調信号とすることにより検出精度を高めることが可能になる。第1ないし第5の各領域A1〜A5に属するセルについてこの検出を行ない、各セルの受光量、すなわち多階調信号を加算することで各領域A1〜A5の受光量を得ている。
【0017】
以上のエルボポイント検出装置100を用いてヘッドランプHLのロービーム配光パターンLBPにおけるエルボポイントEPを検出する方法を説明する。まず、図3に示したように、撮像装置110に対向する位置に自動車CARを停車させる。次いで、ヘッドランプHLを点灯するとともに、ヘッドランプHLから出射された光を撮像装置110で撮像する。撮像装置110では受光板111にヘッドランプの配光パターンを顕像化し、これを撮像カメラ112で撮像する。撮像カメラ112内の撮像素子113では各セル114で受光した受光信号をセル毎に出力し、コントローラ120は各セルの受光信号に基づいて各領域、ここでは第1受光領域A1と第2受光領域A2の各受光量を演算する。この演算では、第1受光領域A1を構成する全てのセルの各受光信号としての階調信号、すなわち受光量を加算した第1受光量P1と、同様に第2受光領域A2を構成する全てのセルの各受光信号から得られる受光量を全て加算した第2受光量P2とを演算し、しかる上で第2受光量P2を第1受光量P1で除算して得られる値を上下EP(エルボポイント)値VEPxとする。すなわち、次式となる。
VEPx(上下EP値)=P2÷P1
【0018】
このようにして撮像装置110の所定の高さ位置において上下EP値VEPxを求めた後に、次いでVバー102に沿って上下移動体104を駆動して撮像装置110を上方向に向けて、あるいは下方向に向けて微小距離だけ移動し、その移動位置において同様にロービーム配光パターンLBPを撮像装置110で撮像し、撮像素子113から得られた受光信号に基づいてコントローラ120での演算を行ない、当該高さ位置での上下EP値VEPxを演算する。この処理を撮像装置110を上下方向に移動させながら多数の位置について行なう。得られた上下EP値VEPxについて、図5(a)に示すように、横軸に撮像装置110の上下方向の位置Vxをとり、縦軸に上下EP値VEPxをとったグラフを描く。ここで撮像装置110の上下方向の位置は撮像素子113の撮像面の中心点Cの上下方向の位置となる。
【0019】
図5(a)から、撮像素子113の上下方向の位置変化に伴って上下EP値VEPxが変化するので、その最大値のしかも上下方向の中間位置PVEPを求めると、この位置VEPがエルボポイントEPが含まれる水平カットラインHCの上下方向の位置となる。すなわち、図5(b)〜(e)はこれを説明するための模式図であり、同図(b)〜(e)は図5(a)の横座標位置における状態を示している。同図(b)のように水平カットラインHCが撮像素子113の第1受光領域A1よりも上側にあるときには、第2受光領域A2と第1受光領域A1のほぼ全部が水平カットラインHCの下側のロービーム配光パターンの領域LBPにあるため、上下EP値VEPxは低い値にある。(c)のように、撮像素子113を上方に移動して水平カットラインHCが第1受光領域A1の下部近傍にあるときには第1受光領域A1の受光量が低減するため上下EP値VEPxは増加し始める。(d)のように、撮像素子113をさらに上方に移動して水平カットラインHCが上下中間領域A3内にあるときには第1受光領域A1の受光量はほぼ0であり、第2受光領域A2の受光量は最大であるため、上下EP値VEPxは最大値を保持する。(e)のように、水平カットラインHCが第2受光領域A2に入ると第2受光領域A2の受光量が低減するため、上下EP値VEPxは低減し始める。これから、上下EP値VEPxが最大となるのは、水平カットラインHCが第1受光領域A1の下縁を越えた位置V1と第2受光領域A2の上縁を越えた位置V2との間であり、これら位置V1とV2の中間位置を水平カットラインHCの上下方向の位置として検出する。なお、図5(b)〜(e)においては水平カットラインHCよりも上側の領域に点描を示してないが、実際には若干の光は存在しており第1受光領域A1にも有限の受光量が存在するため上下EP値VEPxが無限値になることはない。
【0020】
このとき、水平カットラインHCにおいては、ヘッドランプHLを構成しているリフレクタやレンズ等の要因によってカットぼけによる上下方向の波状部HWが生じる。仮に、第1受光領域A1と第2受光領域A2との上下間に上下中間領域A3が存在していないとすると、水平カットラインHCの波状部HWのうち上波部の一部が第1受光領域A1で受光され、下波部の一部が第2受光領域A2で受光されない状況が生じ、これにより上下EP値VEPxに微小な変動が生じ、水平カットラインHCの位置検出の精度が低下するおそれがある。実施例1では、波状部HWの高さとほぼ同程度の寸法の上下中間領域A3が存在していることにより、波状部HWの上波部と下波部が上下中間領域A3で受光され、あるいは受光されなくても第1受光領域A1と第2受光領域A2の受光には影響を与えないため、波状部HWによる影響を解消することができ、水平カットラインHCの位置検出の精度を高めることができる。
【0021】
次いで、検出した水平カットラインHC上に撮像装置110の中心点Cが位置するように撮像装置110の上下方向の位置を固定した上で撮像装置110でのロービーム配光パターンLBPの撮像を行い、今度はコントローラ120は第4受光領域A4と第5受光領域A5の各セルで受光した受光信号をセル毎に出力し、各セルの受光信号に基づいて所要の演算を行う。この演算は、第4受光領域A4を構成する全てのセルの各受光信号から得られる受光量を加算した第4受光量P4と、第5受光領域A5を構成する全てのセルの各受光信号から得られる受光量を全て加算した第5受光量P5との除算を行い、得られた値を左右EP値HEPxとする。すなわち、次式となる。
HEPx(左右EP値)=P4÷P5
【0022】
このようにして撮像装置110の所定の左右位置において左右EP値HEPxを求めた後、次いでHバー101に沿ってVバー102と一体の左右移動体103を駆動して撮像装置110を右方向に向けて、あるいは左方向に向けて微小距離だけ移動して撮像装置110でロービーム配光パターンLBPの撮像を行い、得られた受光信号に基づいてコントローラ120での演算を行ない、当該移動位置での左右EP値HEPxを演算する。この処理を撮像装置110を左右方向に移動させながら多数の位置について行なう。得られた左右EP値HEPxについて、図6(a)に示すように、横軸に撮像装置の左右方向の位置Hxをとり、縦軸に左右EP値HEPxをとったグラフを描く。ここで撮像装置110の左右方向の位置は撮像素子113の中心点Cの左右方向の位置である。
【0023】
図6(a)から、撮像素子113の左右方向の位置変化に伴って左右EP値HEPxが変化するので、撮像素子113を右から左に位置変化させたときに最大値の位置H1が斜めカットラインDCが水平カットラインHCに交差している位置、すなわちエルボポイントEPの左右方向の位置となる。図6(b)〜(d)はこれを説明するための模式図であるが、配光パターンは水平カットラインHCと斜めカットラインDCが交差したエルボポイントEPの近傍の光度が最も高く、エルボイントEPから下方及び左方に向けて光度が徐々に低下する特性となっており、同図には光度等高線の一部を付記している。また、水平カットラインHC及び斜めカットラインDCよりも上側の領域には点描を示してないが、実際には若干の光は存在している。(b)のようにエルボポイントEPが撮像素子113の第4受光領域A4よりも左側にあるときには、第5受光領域A4の受光量と第4受光領域A4の受光量はほぼ等しくなるため、左右EP値HEPxはほぼ「1」となる。これから(c)のように撮像素子113が左に移動してエルボポイントEPが第4受光領域A4に入ってくると、第4受光領域A4の受光量が増大するため左右EP値HEPxは徐々に増加する。さらに、(d)のように撮像素子113が左に移動してエルボポイントEPが第4受光領域A4と第5受光領域A5の境界位置、すなわち撮像素子113の中心がエルボポイントEPに一致したH1のときに第4受光領域A4は配光パターンの最大光度の領域に入るため左右EP値HEPxは最大になる。さらに左に移動すると、図示は省略するが、第4受光領域A4の受光量は飽和し、第5受光領域A5の受光量さらに増加するため左右EP値HEPxは徐々に低下する。このとき、波状部によって両受光領域A4,A5の受光量に若干の変動はあるが、両受光領域A4,A5の変動はほぼ同じであるので相殺され、ほとんど無視できる状態にある。さらに左に移動し、(e)のように第5受光領域A5も斜めカットラインDCの下側に入ると第4受光領域A4と第5受光領域A5との受光量はほぼ等しくなり、左右EP値HEPx値はほぼ「1」になる。したがって、得られた受光比の特性において受光比が最大値となる位置H1における撮像素子113の中心位置CをエルボポイントEPの左右方向の位置HEPxとして検出する。
【0024】
以上のように、実施例1では、上下中間領域A3を挟んで対向配置された第1受光領域A1と第2受光領域A2の各受光量P1,P2を検出し、これらの受光比に基づいて水平カットラインHCの上下方向の位置を検出しているので、水平カットラインHCにカットぼけによる波状部HWが生じている場合でも水平カットラインHCを高い精度で検出できる。また、左右方向に接して並列配置された第4受光領域A4と第5受光領域A5との受光比に基づいて水平カットラインHCと斜めカットラインDCとが交差する点、すなわち、エルボポイントEPを検出することができる。結果としてカットラインに波状部が生じている場合でも高い精度でエルボポイントEPが検出できる。このように、実施例1では単純に各領域の受光比に基づいてエルボポイントを検出するので、信号処理部120における演算処理が簡略化でき、エルボポイント検出装置の構成の簡易化、検出処理の高速化が実現できる。
【0025】
ここで、実施例1の変形例として上下中間領域で構成されている第3受光領域A3の受光量を加えて水平カットラインHCの上下方向の位置を検出するようにしてもよい。この場合には、信号処理部120においては第2受光領域A2と第3受光領域A3の受光量P2とP3を加算した第2+3受光量(P2+P3)と、第1受光領域A1と第3受光領域A3の受光量P1とP3を加算した第1+3受光量(P1+P3)の比を上下EP値VEPyとする。
VEPy(上下EP値)=(P2+P3)÷(P1+P3)
【0026】
この変形例では、撮像素子113の上下方向の位置変化に伴って図5に示した場合とほぼ同様に上下EP値VEPyが変化するので、その最大値が得られる上下方向の範囲を求め、この範囲の中間位置が水平カットラインHCの上下方向の位置となる。水平カットラインHCが撮像素子113の第3受光領域A3よりも上側にあるときには、第2受光領域A2と第1受光領域A1の一部と第3受光領域A3が水平カットラインHCの下側の配光パターンの領域にあるため、第1+3受光量P1+P3は少なく、第2+3受光量P2+P3は多く、したがって上下EP値VEPyは低い値にある。また、反対に、水平カットラインHCが撮像素子113の第3受光領域A3よりも下側にあるときには、第1受光領域A1と第2受光領域A2の一部と第3受光領域A3が水平カットラインの上側の配光パターン以外の領域にあるため、第1+3受光量P1+P3は少なく、第2+3受光量P2+P3はやや少ないため上下EP値VEPyは低い値にある。水平カットラインHCが撮像素子113の第3受光領域A3にあるときには、第1受光領域A1は配光パターン以外の領域にあり、第2受光領域A2は配光パターンの領域にあり、第3受光領域A3は下部が配光パターンの領域にあり上部が配光パターン以外の領域にあるため、上下EP値VEPyが大きな値となる。そして、演算された上下EP値のうち最大の値が得られる位置の撮像素子113の中心点Cを水平カットラインHCの上下方向の位置として検出する。
【0027】
水平カットラインHCの上下方向の位置を検出した後は、実施例1と同様にエルボポイントEPの左右方向の位置を検出することが可能である。この変形例の場合においても、第3受光領域A3を挟んで上下に対向配置された第1受光領域A1と第2受光領A2域の各受光量を検出し、これらの受光比に基づいて水平カットラインHCの上下方向の位置を検出しているので、水平カットラインHCにカットぼけによる波状部HWが生じている場合でも、受光比を演算する際の分子と分母に第3受光領域A3で受光した同じ波状部HWの受光量が加えられるので、波状部でHWの受光が相殺されることになり、水平カットラインHCを高い精度で検出することができる。また、信号処理部120においては単純に各領域の受光量の比に基づいて水平カットラインHCを検出するので演算処理が簡略化でき、エルボポイント検出装置の構成の簡易化、検出処理の高速化が実現できることも同じである。
【0028】
実施例1においては、第1ないし第5の各領域A1〜A5の光量を検出することができるものであれば、撮像素子としてフォトダイオード等の受光センサを用いた構成としてもよい。例えば、図7に示すように、複数の受光センサをそれぞれ第1ないし第5受光領域A1〜A5に対応する6個の受光センサS1〜S6で構成し、これら6個の各受光センサS1〜S6の受光量を選択的に加算することで第1ないし第5の各領域A1〜A5の受光量を得ることができる。例えば、第1の受光領域A1は受光センサS1+S2となり、第2の受光領域A2は受光センサS3+S4となる。同様に第4の受光領域A4は受光センサS1+S3+S5となり、第5の受光領域A5は受光センサS2+S4+S6となる。あるいは、図示は省略するが、第1ないし第5の各領域A1〜A5内にそれぞれ複数個の受光センサを配置し、各受光センサの受光出力に基づいて受光量を得るようにすればよい。この場合には、受光センサの前面に乳白色フィルタ等の拡散フィルタを配設することが好ましく、拡散フィルタを配設することで、各領域における平均的な受光量を得ることができる。
【0029】
また、実施例1では第1受光領域A1と第2受光領域A2を同じ形状及び面積に形成しているが、必ずしもこのようにする必要はない。両受光領域A1,A2の受光比を予め任意の値に設定しておけば、図5(a)における特性において、上下EP値VEPxの値は実施例1とは異なる値となるものの、上下EP値の特性自体は同様な傾向を示すので、実施例1と同様にして水平カットラインHCを求めることができる。したがって、第1受光領域A1と第2受光領域A2は必ずしも実施例1のように同一面積、あるいは対称形に形成する必要はない。
【実施例2】
【0030】
図8は実施例2の撮像素子を示す図である。実施例2では、図3に示したエルボポイント検出装置100のように撮像装置110を上下、左右に移動させる必要はなく、撮像装置110を固定配置した構成としている。すなわち、図8のように撮像素子113ではロービーム配光パターンLBPのエルポボイントEPを含む水平カットラインHCと斜めカットラインDCの比較的に広い領域を一括して撮像できるように構成する。しかる上で、信号処理部120において撮像素子113の各セル114から出力される受光信号を処理するに際し、当該信号処理部120でのソフト処理によって、セル114の一部を選択し、選択したセルの受光信号を取り込むことによって実施例1の図5及び図6に示したと同様に第1ないし第5の各受光領域A1〜A5に相当する受光量を得るようにしている。
【0031】
例えば、図8において、撮像素子113を構成している全てのセル114のうち、所定の矩形領域に含まれるセル群C1を選択し、このセル群C1を構成しているセルを上、中、下に区画してそれぞれの受光量を取り込むことにより、各区画したセルの受光量の合計を図5の第1ないし第3の各受光領域A1〜A3の受光量P1〜P3として得ることができる。信号処理部120において選択するセル群を変更することにより、図8のセル群C2を選択することができ、ロービーム配光パターンLBPに対して受光領域A1〜A3を位置変化させたと同等な受光量P1〜P3を得ることができる。このようにして、信号処理部120では撮像素子113を移動することなくロービーム配光パターンLBPに対して任意の領域の受光量を得ることができるので、得られた受光量に基づいて実施例1と同様な演算を行うことで撮像素子113上での水平カットラインHCの上下方向の位置を検出することができる。
【0032】
同様にして、図示は省略するが信号処理部120において選択するセル114を変更することにより、図6に示したと同様に左右方向での受光差を求めることができ、エルボポイントの左右方向の位置を検出することが可能である。このとき、先に求めた水平カットラインHC上に選択するセル群の上下方向の中心を設定させて左右方向に変更させることは言うまでもない。実施例2ではエルボポイント検出装置に移動機構が不要であるので装置の構成及び制御の簡略化が可能になる。また、信号処理部120でのソフト処理によって演算が可能であるので、高速な検出が可能になる。
【0033】
実施例1,2では、各領域のセルで受光した信号を多階調のデジタル信号として得ているので、信号処理部120をマイクロコンピュータで構成した場合に受光比や受光差をそのまま演算することができ、処理の高速化に有利である。特に、デジタル信号の階調数を許す限り大きくすることで極めて高い精度の検出が可能になる。また、各セルで受光した受光量をアナログ量として出力し、これらのアナログ量を加算して受光量を得るようにしてもよい。このように受光量をアナログ量で取り扱う場合には、各領域を受光センサで構成した場合には有利である。
【0034】
本発明の検出方法は実施例1で示したような多光源型ヘッドランプでの配光パターン中心の検出にのみ適用できるのではなく、従来の単一光源のヘッドランプについても同様に適用できることは言うまでもない。また、本発明では、ヘッドランプから出射した光を直接受光する場合に限られるものではなく、図3に示したようにヘッドランプHLから出射した光をスクリーンSCに投射したものを撮像することによっても同様に配光パターンの中心を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1で検出を行うヘッドランプの外観斜視図である。
【図2】ヘッドランプのロービームパターンを示す図である。
【図3】エルボポイント検出装置の概念図である。
【図4】撮像素子の概念構成図である。
【図5】水平カットラインの上下方向位置を検出する方法を説明する図である。
【図6】エルボポイントの左右方向位置を検出する方法を説明する図である。
【図7】撮像素子の変形例の概念図である。
【図8】実施例2の撮像素子の概念構成図である。
【符号の説明】
【0036】
100 エルボポイント検出装置
110 撮像装置
112 撮像カメラ
113 撮像素子
114 受光セル
HL ヘッドランプ
LBP ロービーム配光パターン
EP エルボポイント
HC 水平カットライン
DC 斜めカットライン
HW,DW 波状部
A1〜A6 受光領域
P1〜P5 受光量
VEPx,VEPy 上下EP値
HEPx 左右EP値



【特許請求の範囲】
【請求項1】
配光パターンの中心を通りほぼ水平方向に延びる水平カットラインと、前記中心を通り水平方向に対して所要の角度方向に延びる斜めカットラインとを有する当該配光パターンの前記中心を検出する検出方法であって、所要の上下幅寸法をした上下中間領域を挟んで上下方向に対向配置された第1受光領域と第2受光領域を備える受光手段を用い、当該受光手段を上下方向に位置変化させながら前記配光パターンを受光するとともに前記第1受光領域と第2受光領域で検出される受光量の受光比を求め、前記受光比に基づいて前記水平カットラインの上下方向の位置を検出する工程を含むことを特徴とする配光パターン中心の検出方法。
【請求項2】
前記受光比の極値が得られたときの前記上下中間領域の上下方向の中間点を前記水平カットラインの上下方向の位置として検出することを特徴とする請求項1に記載の配光パターン中心の検出方法。
【請求項3】
前記上下中間領域は第3受光領域として構成され、前記第1受光領域と第3受光領域の各受光量の和と、前記第2受光領域と第3受光領域の各受光量の和との受光比を求め、前記受光比の極値が得られたときの上下中間領域の中間点を前記水平ラットラインの上下方向の位置として検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の配光パターン中心の検出方法。
【請求項4】
前記受光手段は2次元撮像素子であり、前記撮像素子を構成する多数の受光セルを前記各受光領域及び各中間領域に区画し、各領域に属する受光セルの受光量を加算して前記各受光領域の受光量を検出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の配光パターン中心の検出方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−89525(P2008−89525A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273538(P2006−273538)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】