説明

配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法

【課題】ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなり、配向フィルムにおけるポリエチレンナフタレンジカルボキシレート結晶構造として、従来得られていなかった、高融点を示すβ晶構造を主たる結晶構造とする耐熱性に優れた配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分として形成される配向ポリエステルフィルムであって、フィルムの固有粘度が0.65dl/g以上1.50dl/g以下であり、かつ主たる結晶構造がβ晶構造である配向ポリエステルフィルムによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。更に詳しくは、高温下での耐熱寸法安定性に優れる、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートからなる配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルム、ガラスディスプレイ等の表面に貼るフィルム、各種部材の保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
近年、電気あるいは電子回路の小型化の要求に伴い、これら各種用途の構成部材についても小型化や実装化が進んでおり、更なる耐熱性が要求されるようになってきた。また、自動車用途においては、運転室内での使用のみならず、エンジンルーム内にまで使用範囲が拡大しており、より高温下での寸法安定性に適した構成部材が要求されている。
各種用途の中で、例えばフレキシブル回路基板に着目してみると、フレキシブル回路は可撓性を有する基板上に電気回路を配置してなるものであり、基板となるフィルムに金属箔を貼りあわせたり、メッキ等を施した後にエッチングを行い回路を形成し、加熱処理、回路部品の実装等が行われ作成されるものである。従来、フレキシブル回路基板用フィルムとしては、回路との密着性、回路部品実装時のハンダ付けでの耐熱性等が良好であるとの理由からポリイミド(以下「PI」と称する場合がある)フィルムが一般的に使用されてきた。
【0004】
フレキシブル回路の小型化、高密度化が要求される一方で、基板材料に対してより廉価な材料が求められている。ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と称することがある)フィルムは廉価であり、また耐薬品性、絶縁性等が良好であるとの理由から一部で使用されている。しかしながら、最近の高密度化した回路基板フィルムとしては耐熱性が十分でないことがあった。また、環境対応の点から、最近鉛フリーハンダが使用されつつあり、鉛フリーハンダリフロー工程では従来のフローハンダに比べてハンダ付け温度を高くすることがあり、PETフィルムでは依然として耐熱性が不足する。
このような背景から、PIフィルムやPETフィルムに代わるプラスチックフィルムの探索が行われており、耐熱性を有するプラスチックフィルムの中では比較的安価なポリエチレンナフタレート(以下「PEN」と称することがある)フィルムが検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1にはフレキシブル回路基板用フィルムをPENフィルムにすることが提案されている。しかしながら、最近の回路の高密度化に対して要求されている高温下での寸法安定性が不足するため、このままでは回路部品実装工程でのハンダ付け後にフィルムにシワが入ったり、回路の平面性が崩れ凹凸が発生することがある。
ポリエチレンナフタレートフィルムの耐熱寸法安定性を高める方法として、例えば特許文献2には、フィルムに熱弛緩処理を施すことによって200℃で10分間加熱処理したときの熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向共それぞれ1.5%以下であり、230℃で10分間加熱処理したときの熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向共それぞれ2.0%以下であるPENフィルムが得られることが記載されている。また特許文献3には、熱弛緩処理方法を特定の条件で行うことにより、200℃で10分間加熱処理した際にフィルム長手方向に0%以上1%以下収縮し、かつ幅方向に0%以上0.5%以下伸張するPENフィルムが得られることが記載されている。
【0006】
これらの先行技術は、いずれもポリエチレンナフタレートの融点自体を高くすることまでは着目しておらず、200℃、230℃といった温度域での寸法安定性を向上させる技術である。それに対し、ポリエチレンナフタレートフィルムの高融点化により、従来のポリエチレンナフタレートの融点を超える260℃の高温域でのフィルム寸法安定性を高める技術も検討されてきており、特許文献4では260℃、10分間熱処理したときの熱収縮率が1.5%以下である二軸配向PENフィルムが、また特許文献5では260℃、10分間熱処理したときの熱収縮率が1.5%を超えて5.0%以下である二軸配向PENフィルムが提案されている。また、特許文献4によれば融点近傍の温度で熱処理を行う方法で高融点化できること、また特許文献5によればフィルム製膜を通常より高い延伸温度域で行い、同時にフィルム延伸速度を通常よりも低速で行う方法で高融点化できることが提案されている。
【0007】
一方、特許文献4、5には、α晶(X線の26〜28°)とβ晶(X線の23〜25°)の比について記載されているが、その後の結晶面の詳細な解析の結果、23〜25°にみられるピークについては、いわゆるβ晶ではなく、α晶の結晶層が大幅に増加にしたことにより、結晶配向が変化したα晶の010面が確認されたものであることが判明した。
PENの融点を向上させる手段としては、このように一般に知られているα型結晶の存在を増加させる手法以外に、高融点を示すβ型結晶の存在も見出されている。β型結晶はPENの結晶面の配列が単斜晶構造であるが、その製造が困難であり、β型結晶を形成させる方法としては、一定の溶融温度以上からの急冷による結晶化(非特許文献1参照)や、高速紡糸繊維において特定の条件下で形成されること(非特許文献2参照)が報告されている。しかしながら配向フィルムにおいては、β晶構造を主たる結晶構造とする、β晶に由来した高融点を示す配向PENフィルムは未だ提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−93991号公報
【特許文献2】特開平11−168267号公報
【特許文献3】特開2001−191405号公報
【特許文献4】特開2006−316217号公報
【特許文献5】特開2006−316218号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Macromolecular Chemistry and Physics, vol 205, pp1644-1650 (2004)
【非特許文献2】Polymer, vol41, pp4249-4266 (2000)
【非特許文献3】Journal of Rheology, Vol47(3) pp619-(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述の従来技術の課題を解決し、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなり、配向フィルムにおけるポリエチレンナフタレンジカルボキシレート結晶構造として、従来得られていなかった、高融点を示すβ晶構造を主たる結晶構造とする耐熱性に優れた配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【0011】
さらに本発明の他の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなり、配向フィルムにおけるポリエチレンナフタレンジカルボキシレート結晶構造として、従来得られていなかった、高融点を示すβ晶構造を主たる結晶構造とする耐熱性に優れたフレキシブル回路基板用途または太陽電池基板用途に適した配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする高分子量のポリマーを用い、押出機スリット状ダイを通して回転冷却ドラム上でキャストする過程におけるドラフト比を従来よりも高くして配向結晶化を促し、キャストフィルムを作成する方法を用いることで、高融点を示すβ晶を主たる結晶構造とする配向フィルムを初めて形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分として形成される配向ポリエステルフィルムであって、フィルムの固有粘度が0.65dl/g以上1.50dl/g以下であり、かつ主たる結晶構造がβ晶構造である配向ポリエステルフィルムによって達成される。
【0014】
また、本発明の配向エステルフィルムは、その好ましい態様として、20℃/minの昇温条件でのDSC測定における融点(Tm)が280℃以上であること、20℃/minの降温条件でのDSC測定における降温結晶化温度(Tcd)が215℃以上であること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
そして、本発明の配向ポリエステルフィルムは、フレキシブル回路基板または太陽電池のベースフィルムに用いられることを包含するものである。
【0015】
さらに、本発明はポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする固有粘度(IV)が0.75dl/g以上1.80dl/g以下のポリマーを溶融し、式(1)で示されるドラフト比(D)と該ポリマー固有粘度(IV)とが、式(2)で表わされる関係を満たす範囲でキャストフィルムを引き取る工程を含む配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
ドラフト比(D)=スリット状ダイの開度/キャストフィルムの厚み ・・・(1)
ポリマー固有粘度(IV)3.4×ドラフト比(D)>100 ・・・(2)
【0016】
また、本発明の配向ポリエステルフィルムの製造方法は、キャストフィルムを引き取る工程の後に、さらに140℃以上180℃以下の温度で少なくとも1方向に1.5倍以上5.0倍以下で延伸する工程を含む態様も好ましい態様として包含するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のPENフィルムに較べて融点が高いβ型結晶による高融点の配向ポリエステルフィルムを簡便な方法で提供でき、従来はポリイミドフィルムでなければ対応できなかった耐熱性が必要とされる用途にも好適に用いることができる。例えば260℃での十分なハンダ加工耐性を有することから、フレキシブル回路基板用に用いることで、回路部品実装後の回路の平面性が従来のポリイミドフィルムと比べて同等のフィルムをより安価に提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート>
本発明のフィルムを構成するポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、主たるジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸が用いられ、主たるグリコール成分としてエチレングリコールが用いられる。ナフタレンジカルボン酸としては、たとえば2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができ、これらの中で2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ここで「主たる」とは、本発明のフィルムの成分であるポリマーの構成成分において全繰返し単位の少なくとも90mol%、好ましくは少なくとも95mol%を意味する。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートがコポリマーである場合、コポリマーを構成する共重合成分としては、分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができ、かかる化合物としては例えば、蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等のごときジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸のごときオキシカルボン酸、あるいはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールのごとき2価アルコールを好ましく用いることができる。これらの化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を用いてもよい。またこれらの中で、好ましくは酸成分としてイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸またはp−オキシ安息香酸であり、グリコール成分としてはトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、またはビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0019】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに混合できる他のポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン−4,4’−テトラメチレンジフェニルジカルボキシレート、ポリエチレン−2,7−ナフタレンジカルボキシレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリネオペンチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等を挙げることができる。これらの中でも、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。これらの他のポリエステルをさらに混合する場合、1種であっても2種以上を併用してもよい。
【0020】
また、本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物によって、末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってよく、ごく少量の例えばグリセリン、ペンタエリスリトール等のごとき三官能以上のエステル形成性化合物で実質的に線状のポリマーが得られる範囲内で共重合したものであってもよい。
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、従来公知の方法、例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得るか、あるいはジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。
【0021】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリマーの固有粘度は0.75dl/g以上1.80dl/g以下であり、好ましくは0.80dl/g以上1.50dl/g以下、さらに好ましくは0.85dl/g以上1.30dl/g以下、特に好ましくは1.00dl/g以上1.30dl/g以下である。フィルム原料となるポリマーとして、かかる高粘度の高分子量ポリマーを用いることにより、β型結晶を主たる結晶構造とする配向ポリエステルフィルムを得る新たな手法として見出した、スリット状ダイから冷却ドラム上で冷却する過程のドラフト比を従来よりも高くするにあたり、実際に製造可能なドラフト比でβ型結晶を発現することができ、さらにかかる粘度範囲内で固有粘度が高いほどドラフト比を低くできる。一方、ポリマーの固有粘度が下限値に満たない場合、実際に製造可能なドラフト比の範囲内でドラフト比を高くしても、β型結晶が発現しない。また上限値を超える場合、押出時の負荷が大きくなり、発熱するために結果的に固有粘度が低下してしまう。
【0022】
かかる固有粘度のポリマーを得るためには、公知の方法で得られたポリエチレンナフタレンジカルボキシレートについて、さらに固相重合を施すことが好ましい。
固相重合を施す場合、固相重合工程は少なくとも1段からなり、温度が好ましくは190℃〜230℃、より好ましくは195℃〜225℃であり、圧力が好ましくは1kPa〜300kPa、より好ましくは5kPa〜200kPa、さらに好ましくは常圧〜200kPaの条件下で、窒素、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガスの存在下で行われる。これらの中でも、特に常圧〜200kPaの条件下で窒素ガス等の不活性ガスの存在下で行う方法が好ましい。
【0023】
固相重合時間は温度が高いほど短時間でよいが、通常1〜50時間、好ましくは5〜40時間、より好ましくは10〜30時間である。
このような固相重合工程を経て得られた固体状ポリエステルには、必要に応じて水処理を行ってもよく、この水処理は固体状ポリエステルを水、水蒸気、水蒸気含有不活性ガス、水蒸気含有空気などと接触させることにより行われる。ポリエステルの製造工程は、バッチ式、半連続式、連続式のいずれでも行うことができる。
【0024】
<結晶化促進剤>
本発明の配向ポリエステルフィルムにおいて、キャストする過程でドラフト比を高くして配向結晶化を促進させるにあたり、結晶化促進剤を添加することが好ましい。従来よりも高いドラフト比でキャストを行うに際し、結晶化促進剤を添加することによりβ型結晶の存在量が増加しやすくなる。また、結晶化促進剤を添加することにより、結晶化促進剤を配合しない場合より低めのドラフト比で高融点化できることがある。
【0025】
結晶化促進剤の例としては、重合触媒としても用いられるマグネシウム、マンガン、亜鉛、カルシウム、コバルトの中から選ばれた少なくとも一種の元素に特定のリン元素を添加するなどの方法がある。このようなリン化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ホスフィンオキシドおよびそれらの誘導体を挙げることができる。具体的にはリン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノあるいはジメチルエステル、ジメチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、トリブチルホスフィンオキシド等を挙げることができる。中でも、ポリエステルの溶融熱安定性に優れ、かつ結晶性を高め、得られるフィルムの寸法安定性を著しく向上させ、かつ透明性に優れる点で、ホスホン酸およびそれらの誘導体が好ましい。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0026】
添加するリン元素の添加量として、リン元素換算で50ppm以上1000ppm未満であることが好ましい。リン元素の添加量が50ppmに満たないと結晶化促進効果が十分に発現しないことがある。また、リン元素の添加量が1000ppm以上では、得られるポリエステルの溶融熱安定性が乏しくなることがある。
結晶化促進剤の含有量は、フィルムの重量を基準として0.005重量%以上0.5重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.01重量%以上0.1重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以上0.05重量%以下である。結晶化促進剤の含有量が下限値に満たないと結晶化促進効果が十分に発現しないことがある。また結晶化促進剤の含有量が上限値を超えると、ポリエステルの溶融熱安定性が乏しくなることがある。
【0027】
<添加剤>
本発明のフィルムには、添加剤として例えば安定剤、滑剤、または難燃剤等を含有してもよい。
フィルムに滑り性を付与するためには、不活性粒子を少量含有させることが好ましい。かかる不活性粒子としては、例えば球状シリカ、多孔質シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、二酸化チタン、カオリンクレー、硫酸バリウム、ゼオライトのごとき無機粒子、あるいはシリコン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子のごとき有機粒子を挙げることができる。無機粒子は粒径が均一であること等の理由で、天然品よりも合成品であることが好ましく、あらゆる結晶形態、硬度、比重、色の無機粒子を使用することができる。
【0028】
かかる不活性粒子の平均粒径は0.05〜5.0μmの範囲であることが好ましく、0.1〜3.0μmであることがさらに好ましい。また不活性粒子の含有量は、フィルム重量を基準として0.001〜1.0重量%であることが好ましく、0.03〜0.5重量%であることがさらに好ましい。フィルムに添加する不活性粒子は、上記に例示した中から選ばれた単一成分でもよく、あるいは二成分以上を含む多成分でもよい。
不活性粒子の添加時期は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを製膜するまでの段階であれば特に制限はなく、例えば重合段階で添加してもよく、また製膜の際に添加してもよい。
【0029】
<フィルムの固有粘度>
本発明の配向ポリエステルフィルムの固有粘度は、0.65dl/g以上1.50dl/g以下であり、好ましくは0.65dl/g以上1.30dl/g以下、より好ましくは0.68dl/g以上1.00dl/g以下、さらに好ましくは0.75dl/g以上1.00dl/g以下、特に好ましくは0.80dl/g以上1.00dl/g以下である。フィルムの固有粘度が下限値に満たない場合、フィルム製造に用いる原料ポリマーの固有粘度が前述の下限値を満たさないため、実際に製造可能なドラフト比の範囲内でドラフト比を高くしても、β型結晶が発現しない。また、フィルム製造に用いる原料ポリマーの固有粘度が前述の上限値を超えると押出時の負荷が大きくなり、発熱により固有粘度が低下するため、上限値を超えるフィルムの固有粘度は得難い。
【0030】
<X線回折>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、主たる結晶構造がβ晶構造を有するフィルムである。ここでβ晶構造とは、X線回折による26°〜28°の領域において、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのβ晶の200面に起因するピークが26.5±0.3度に存在する結晶構造で定義される。
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのα晶のピークである−110面に起因するピークは、同じく26°〜28°の領域に存在するものの、27.1±0.3度に存在し、β晶とは区別される。また、26°〜28°の領域においてβ晶とα晶が並存する場合、26°〜28°の領域のピークのみでβ晶とα晶との区別が難しいことがあり、その場合はX線回折による16°〜20°の領域のピークも含めて結晶構造を特定することができる。X線回折による16°〜20°の領域においては、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのβ晶の120面に起因するピークが18.5±0.3度に存在するのに対し、α晶に起因するピークはこの範囲に存在しない。
【0031】
本発明において、26.5±0.3度におけるピークはβ晶構造の結晶におけるナフタレン面に起因するピークを指し、27.1±0.3度におけるピークはα晶構造の結晶におけるナフタレン面に起因するピークを指す。また、18.5±0.3度におけるピークとはβ晶構造の結晶における120面に起因するピークを指す。
また、「主たる」とはX線回折チャートで観察されるピークのうちのメインピークがβ晶構造であることを指す。本発明の配向ポリエステルフィルムは、従たる結晶構造としてα晶が存在していてもよい。フィルム中にα晶が並存する場合、β晶のピークである26.5±0.3度におけるピーク強度が、α晶のピークである27.1±0.3度におけるピーク強度よりも大きいことが必要である。
従来は、β晶構造を主たる結晶構造とする、β晶に由来した高融点を示す配向ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムは得られていなかったところ、本発明は高固有粘度ポリマーを用い、ドラフト比を従来よりも高くする新規なフィルム製造方法を用いることにより、かかる結晶構造を有する新規なフィルムを見出したものである。
【0032】
<融点>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、サンプル量10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入し、示差熱量計を用いた20℃/minの昇温条件でのDSC測定において、融点(Tmと称することがある)が280℃以上であることが好ましい。フィルムの融点は、より好ましくは285℃以上である。融点の上限値は特に限定されないが、β型結晶の平衡融点から高々315℃である。
本発明の配向ポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムでは得られなかったβ晶構造が発現する結果、高融点化が可能となり、例えば260℃でのハンダ加工時に熱収縮などによるフィルム変形が生じにくいため、260℃でのハンダ加工を含む用途に好適に用いることができる。融点が下限値に満たない場合、例えば260℃でのハンダ加工時に変形やふくれを生ずることがある。
【0033】
<降温結晶化温度(Tcd)>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、サンプル量10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入し、示差熱量計を用いて20℃/minの昇温条件で320℃まで昇温し、320℃で3分保持後、20℃/minの降温条件でDSC測定した際の降温結晶化温度(Tcd)が215℃以上であることが好ましい。降温結晶化温度が215℃未満の場合は、キャスト工程においてさらにβ晶構造の存在量を増やすのが難しいことがある。一方、降温結晶化温度の上限値は特に限定されないが、ポリマーの性質上、高々225℃である。
本発明では、キャストする過程でドラフト比を高くして配向結晶化を促進するといった観点から、降温時の結晶化速度が速いことが好ましく、特有な熱的性質としてあらわすことができる。すなわち、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートにおいて、示差走査熱量計を用いた降温結晶化温度が、より高いほど結晶化速度が速いといえる。
かかる降温結晶化温度を得る具体的手段として、上述のような結晶化促進剤を添加することが挙げられる。
【0034】
<配向ポリエステルフィルム>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、一軸配向されたポリエステルフィルム、二軸配向されたポリエステルフィルムのいずれであってもよい。また、本発明の一軸配向フィルムには、フィルム製造方法の説明において詳述するように、スリット状ダイから回転冷却ドラム上でキャストする過程を経たキャストフィルム、またはキャストフィルムを引き取る工程の後にさらに一定条件で縦方向に延伸させた一軸延伸フィルムの両方が好ましく含まれる。
【0035】
<フィルム厚み>
本発明の配向ポリエステルフィルムの厚みは、好ましくは3〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは10〜75μm、特に好ましくは12〜75μmである。
フィルム厚みが下限値に満たない場合、例えばフレキシブル回路基板や太陽電池のベースフィルムとして用いる際にフィルムの絶縁性能が不足することがある。一方、フィルム厚みが上限値を超える場合、フィルムの耐屈曲性が不足することがあり、外力を加えられた場合にフィルムに割れが発生したり、折れた状態のまま戻らなくなることがある。
【0036】
<用途>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムに較べ、主たる結晶構造がβ晶構造であることにより、280℃以上の高融点を有するため、従来ポリイミドフィルムでなければ対応できなかった耐熱性が必要とされる用途に好適に用いることができる。例えばフレキシブル回路基板のベースフィルムとして用いることで、回路部品実装後の回路の平面性が従来のポリイミドフィルムと比べて同等のフィルムをより安価に提供できる。また、太陽電池のベースフィルムとして有用である。
【0037】
<フィルム製造方法>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、高分子量のポリエチレンナフタレンジカルボキシレート樹脂を溶融押出する際、スリット状ダイを通して回転冷却ドラム上でキャストする過程で高いドラフト比で配向結晶化を促し、β晶構造を形成させる点に特徴を有する。
すなわち、本発明はポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする配向ポリエステルフィルムの製造方法に係る発明も包含するものであり、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする固有粘度(IV)が0.75dl/g以上1.80dl/g以下のポリマーを溶融し、下記式(1)で示されるドラフト比(D)と該ポリマー固有粘度(IV)とが、下記式(2)で表わされる関係を満たす範囲でキャストフィルムを引き取る工程を含む配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
ドラフト比(D)=スリット状ダイの開度/キャストフィルムの厚み ・・・(1)
ポリマー固有粘度(IV)3.4×ドラフト比(D)>100 ・・・(2)
【0038】
かかる配向ポリエステルフィルムの製造方法を用いることにより、フィルムの固有粘度が0.65dl/g以上1.50dl/g以下であり、主たる結晶構造がβ晶構造である配向ポリエステルフィルムを得ることができる。
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリマーの固有粘度の好ましい範囲は樹脂の説明に準じる。
フィルム原料ポリマーとしてかかる高粘度の高分子量ポリマーを用いることにより、スリット状ダイから冷却ドラムでの冷却に至る過程でのドラフト比を従来よりも高くするにあたり、実際に製造可能なドラフト比の範囲でβ型結晶を発現することができる。一方、ポリマーの固有粘度が下限値に満たない場合、実際に製造可能なドラフト比の範囲内でドラフト比を高くしてもβ型結晶を形成することができない。またポリマーの固有粘度が上限値を超える場合、押出時の負荷が大きくなり発熱するため、結果的にフィルム固有粘度が低下してしまう。
【0039】
本発明においてキャストフィルムとは、押出機のスリット状ダイを通じて吐出された溶融樹脂を回転冷却ドラム上で冷却して得られた段階のフィルムを指す。またドラフト比とは、通常はスリット状ダイを通して回転冷却ドラム上でキャストする工程において、樹脂の吐出速度に対するドラムの引き取り速度の比を指すが、キャストフィルムの形状は板状体であるため、本発明におけるドラフト比は、近似的に式(1)で表わされる、キャストフィルムの厚みに対するスリット状ダイの開度幅の比で定義することができる。
ドラフト比(D)=スリット状ダイの開度/キャストフィルムの厚み ・・・(1)
【0040】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの溶融状態からの配向結晶化を促進するために、本発明においては通常20程度であるドラフト比を通常よりも大きくすることが肝要であるが、β晶構造を主たる結晶構造とするフィルムを得るためには、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートポリマーの固有粘度とドラフト比とが下記式(2)で表わされる一定の関係を満たす必要がある。
ポリマー固有粘度(IV)3.4×ドラフト比(D)>100 ・・・(2)
ここで、式(2)はポリマーの固有粘度とドラフト比との関係を表わしたものである。例えば、C Gabriel, H.Munstedt, J.Rheol., 47(3), 619(2003)にもあるように、重量平均分子量(Mw)に対してゼロせん断粘度[η0(P)]を両対数プロットしたとき、長鎖分岐の無い直鎖状のエチレン系重合体のように伸長粘度がひずみ硬化性を示さない樹脂は、傾きが3.4のべき乗則に則ることが知られている。また、固有粘度は重量平均分子量と比例関係にあることから、ゼロせん断粘度は固有粘度の3.4乗に比例する。本発明では、キャスト工程での溶融粘度に相当するゼロせん断粘度、すなわちポリマー固有粘度を3.4乗した値とドラフト比との積を一定以上に保持することで、β晶構造を形成できることを見出したものである。
【0041】
式(2)の関係を満たす具体例として、ポリマーの固有粘度を満たす範囲内で該固有粘度が高い程、β晶構造を発現させるために必要なドラフト比は低くてよいことを表わしている。例えば、ポリマーの固有粘度が0.85dl/g程度である場合、β晶構造を発現させるために最低限必要なドラフト比は200程度である必要があるのに対し、ポリマーの固有粘度が1.25dl/g程度である場合はドラフト比が60程度でもβ晶構造を発現させることができる。
式(2)で表わされる関係は、より好ましくは105以上、さらに好ましくは110以上、特に好ましくは120以上である。
【0042】
スリット状ダイを通して回転冷却ドラム上でキャストする工程において、樹脂は溶融状態にあり、ポリマーの固有粘度に応じて適度な高ドラフト比でキャストフィルムを引き取ることにより、分子が高速で引き伸ばされて配向結晶化が促進され、β晶構造が発現する。ポリマーの固有粘度が高い程、必要とされるドラフト比が低くてもβ晶構造が発現する理由として、ポリマーの固有粘度が高い方が分子鎖の絡み合い密度が高いため、より固有粘度の低いポリマーと比べて低いドラフト比であっても配向結晶化を促進しやすいことが考えられる。
【0043】
式(2)で表わされるポリマーの固有粘度とドラフト比との関係が下限値に満たない場合は、用いたポリマーの固有粘度に比して施したドラフト比が低く、配向結晶化が十分促進されないため、α晶構造が主たる結晶構造となり、β晶構造は発現しないか、発現してもその存在量が少なく、β晶構造に基いて高融点化することができない。一方、式(2)で表わされるポリマーの固有粘度とドラフト比との関係の上限値は装置の能力との関係で制限されることがあり、ドラフト比として400以下、式(2)の上限値としては2000以下、さらには1000以下に制限されることがある。
【0044】
キャストする際には、結晶化を促進する観点から、エアーナイフなどの装置で急冷することが望ましい。
また、配向結晶化の促進といった観点から結晶化促進剤を添加することが好ましい。結晶化促進剤を含む場合は、β晶構造の存在量が増加しやすくなる。
当該方法で得られたキャストフィルムは、β晶構造が発現し、かつ結晶化が進んでいる状態であり、かつ連続製膜方向(以下、縦方向、機械方向、長手方向、またはMD方向と称することがある)に配向した一軸配向状態となっている。一方、通常の20程度のドラフト比で作成されたキャストフィルムでは縦方向への一軸配向は観察されず、未配向フィルムの状態である。
【0045】
また本発明において、キャストフィルムを引き取る工程の後に、さらに140℃以上180℃以下の温度で少なくとも1方向に倍率1.5倍以上5.0倍以下で延伸する工程を含むことが好ましく、さらに好ましくは2.0倍以上4.0倍以下、特に好ましくは2.2倍以上3.5倍以下である。
かかる延伸方向が横方向(以下、幅方向またはTD方向と称することがある)である場合には、キャスト過程での一軸延伸に加え、さらにフィルムの延伸工程で少なくとも横方向に延伸を施すことにより、二軸配向フィルムを得ることができる。また、かかる延伸を横方向に行う場合に、その工程の前、あるいは後に縦延伸工程を含んでいてもよい。
【0046】
また、キャストフィルムを引き取る工程の後の該延伸方向は縦方向であってもよい。縦方向の場合は、キャスト過程での一軸延伸に加え、同方向に延伸させることにより、一軸配向フィルムを得ることができる。
かかる延伸工程は、一般に用いられる方法、例えばロールによる方法やステンターを用いる方法で行うことができ、縦方向、横方向を同時に延伸してもよく、また逐次延伸してもよい。
【0047】
また、本発明の配向ポリエステルフィルムの製造方法は、さらに延伸工程の後に180℃以上260℃以下の温度で熱処理を行う工程を有していてもよく、熱処理時間は通常行われる1〜100秒程度でよい。さらに熱処理工程を含むことにより結晶化が促進され、β晶構造の存在量を増やすことができる。熱処理温度は好ましくは190℃以上240℃以下、さらに好ましくは200℃以上220℃以下である。また熱処理時間は、より好ましくは1〜50秒、さらに好ましくは1〜10秒、特に好ましくは1〜5秒である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0049】
(1)固有粘度
ポリマーチップおよびフィルムサンプルの固有粘度([η]dl/g)を、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。o−クロロフェノール溶媒に不溶の場合は、重量比が6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に溶解後、35℃の温度にて測定して求めることができる。
【0050】
(2)X線回折ピーク角度
リガク(株)製のX線回折装置RINT2500HLを使用し、管電圧30KV,管電流45mA、スキャン速度で2θ/θスキャンを実施し、キャストフィルムおよび延伸フィルムのサンプルを測定した時に、26°〜28°の範囲および16°〜20°の範囲に出てくるピーク角度をそれぞれ測定した。26°〜28°の範囲において、α晶は27.1±0.3、β晶は26.5±0.3度にピーク角度を有し、16〜20°の範囲においてはα晶のピークは存在せず、β晶のピークは、18.5±0.3度にピーク角度を有することから、ピーク角度を測定することにより、結晶形態を判別することができる。
【0051】
(3)融点、降温結晶化温度
セイコーインスツルメント社製DSC SSC5200を使用して、サンプル量10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入し、20℃/minの昇温条件でDSC測定を行い、融解ピーク温度を求めてピーク温度を融点とした。
また上記条件で測定したのち、320℃にて3分間保持し、降温速度20℃/minで測定し、降温時の結晶化ピーク温度(結晶化温度)を求めた。
【0052】
(4)フィルム厚み
アンリツ(株)製の打点式厚み計を用いて、打点法でのフィルム厚み測定を行った。
【0053】
(5)銅張積層板のハンダ耐熱評価
JIS規格C6481に準じ、延伸フィルムを用いて作成した銅張積層板の25mm×25mmの試験片を作成し、前処理(105℃、75分)を行い、銅箔面を下にして溶融はんだ浴上に浮かせ、246℃×10秒間処理を行い、その外観を下記の基準で評価した。同様の手順で、260℃×20秒間で処理を行った場合についても、その外観を下記の基準で評価した。
○:銅張積層板に変形が見られず、外観に変化なし
△:フィルム基材と銅箔の間にふくれが見られるが、試験前の形態は保持している。
×:フィルム基材が部分融解し、試験前の形態は保持していない。
【0054】
[実施例1]
ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチル100部およびエチレングリコール60部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、150℃から238℃に徐々に昇温させながら120分間エステル交換反応を行った。途中、反応温度が170℃に達した時点でリン酸トリメチル(エチレングリコール中で135℃、5時間、0.11〜0.16MPaの加圧下で加熱処理した溶液として添加:リン酸トリメチル換算量で0.023部)を添加し、エステル交換反応終了後、三酸化アンチモン0.024部を添加した。その後反応生成物を重合反応器に移し、290℃まで昇温し、27Pa以下の高真空下にて重縮合反応を行い、固有粘度が0.61dl/gの、実質的に粒子を含有しない、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
次いで、得られたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを真空乾燥機を用いて減圧下、220℃で30時間固相重合を行った。乾燥機内の真空度は133Pa以下に保った。固相重合後のポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は1.05dl/gであった。
このポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度305℃で溶融し、平均目開きが17μmのステンレス鋼細線フィルターで濾過し、開度幅3mmのスリット状ダイを通じて表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、ドラフト比が100になるようドラム速度を調整し、厚み30μmのキャストフィルムを得た。
このようにして得られたキャストフィルムをテンターに供給し、165℃にて横方向に2.2倍に延伸した。得られた二軸配向ポリエステルフィルムを200℃の温度で40秒間熱固定し、厚み13.6μmのポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、26.5°にメインピークが観察され、β晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は287℃であり、ハンダ耐熱評価において260℃で良好な結果が得られた。
【0055】
[実施例2]
ドラム速度を調整してドラフト比を250に変更した以外は実施例1と同様にして、厚み12μmのキャストフィルム、および厚み5.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、26.5°にメインピークが観察され、β晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は290℃であり、ハンダ耐熱評価において260℃で良好な結果が得られた。
【0056】
[実施例3]
実施例1で用いた固有粘度0.61dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、固相重合時間を変更して固相重合後の固有粘度が0.86dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。この固有粘度0.86dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、さらにドラム速度を調整してドラフト比を200に変更した以外は実施例1と同様にして、厚み15μmのキャストフィルム、および厚み6.8μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、26.5°にメインピークが観察され、β晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は282℃であり、ハンダ耐熱評価において260℃で良好な結果が得られた。
【0057】
[実施例4]
結晶化促進剤としてフェニルホスホン酸ジメチルエステルをフィルム重量基準で0.03重量%となるよう、重合段階で添加した以外は実施例3と同様の条件で固有粘度0.89dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
この固有粘度0.89dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、さらに表1に記載したようにドラフト比および延伸倍率を変更した以外は実施例1と同様にして、厚み18.8μmのキャストフィルム、および厚み7.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、26.5°にメインピークが観察され、β晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は281℃であり、ハンダ耐熱評価において260℃で良好な結果が得られた。
【0058】
[実施例5]
実施例4と同じ固有粘度0.89dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、表1に記載したようにドラフト比を変更した以外は実施例1と同様にして、厚み15μmのキャストフィルム、および厚み6.8μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、26.5°にメインピークが観察され、β晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は284℃であり、ハンダ耐熱評価において260℃で良好な結果が得られた。
【0059】
[実施例6]
実施例1で用いた固有粘度0.61dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、結晶化促進剤としてフェニルホスホン酸ジメチルエステルをフィルム重量を基準として0.03重量%となるよう重合段階で添加し、さらに固相重合時間を変更して固相重合後の固有粘度が1.26dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
この固有粘度1.26dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、さらに表1に記載したようにドラフト比および延伸倍率を変更した以外は実施例1と同様にして、厚み50.0μmのキャストフィルム、および厚み16.7μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、26.5°にメインピークが観察され、β晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は285℃であり、ハンダ耐熱評価において260℃で良好な結果が得られた。
【0060】
[実施例7]
実施例1で用いた固有粘度0.61dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、結晶化促進剤としてフェニルホスホン酸ジメチルエステルをフィルム重量を基準として0.03重量%となるよう重合段階で添加し、さらに固相重合時間を変更して固相重合後の固有粘度が0.78dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
この固有粘度0.78dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、さらに表1に記載したようにドラフト比を変更した以外は実施例1と同様にして、厚み11.1μmのキャストフィルム、および厚み5.1μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、26.5°にメインピークが観察され、β晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は280℃であり、ハンダ耐熱評価において260℃で良好な結果が得られた。
【0061】
[比較例1]
実施例1で用いた固有粘度0.61dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、固相重合時間を変更して固相重合後の固有粘度が0.70dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
この固有粘度0.70dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用いた以外は実施例1と同様にして、厚み30.0μmのキャストフィルム、および厚み13.6μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、27.1°にメインピークが観察され、α晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は268℃で高融点化しておらず、260℃でのハンダ耐熱評価では試験前の形態は保持できなかった。
【0062】
[比較例2]
ドラム速度を調整してドラフト比を400に変更した以外は比較例1と同様にして、厚み7.5μmのキャストフィルム、および厚み3.4μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、固有粘度が低い場合はドラフト比を高めてもメインピークは27.1°であり、α晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は268℃で高融点化しておらず、260℃でのハンダ耐熱評価では試験前の形態は保持できなかった。
【0063】
[比較例3]
実施例3と同じ固有粘度0.86dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、ドラフト比を150に変更した以外は実施例3と同様にして、厚み20μmのキャストフィルム、および厚み9.1μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、27.1°にメインピークが観察され、α晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は270℃で若干の高融点化は見られるものの、260℃でのハンダ耐熱評価では試験前の形態は保持できなかった。
【0064】
[比較例4]
実施例1と同じ固有粘度1.05dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、ドラフト比を80に変更した以外は実施例1と同様にして、厚み37.5μmのキャストフィルム、および厚み17.0μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、27.1°にメインピークが観察され、α晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は273℃で若干の高融点化は見られるものの、260℃でのハンダ耐熱評価でフィルム基材と銅箔の間にふくれが見られた。
【0065】
[比較例5]
実施例4と同じ固有粘度0.89dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、ドラフト比を100に変更した以外は実施例4と同様にして、厚み30.0μmのキャストフィルム、および厚み13.6μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、27.1°にメインピークが観察され、α晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は270℃で若干の高融点化は見られるものの、260℃でのハンダ耐熱評価では試験前の形態は保持できなかった。
【0066】
[比較例6]
実施例6と同じ固有粘度1.26dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、ドラフト比を40に変更した以外は実施例6と同様にして、厚み75μmのキャストフィルム、および厚み34.1μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、27.1°にメインピークが観察され、α晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は268℃で高融点化しておらず、260℃でのハンダ耐熱評価では試験前の形態は保持できなかった。
【0067】
[比較例7]
実施例7と同じ固有粘度0.78dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用い、さらに表1に記載したようにドラフト比および延伸倍率を変更した以外は実施例7と同様にして、厚み15μmのキャストフィルム、および厚み6.0μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。キャストフィルム、延伸フィルムについてそれぞれX線回折ピーク角度を測定したところ、27.1°にメインピークが観察され、α晶構造を主とする結晶構造のフィルムであることが確認された。また横方向に延伸したフィルムの融点は267℃で高融点化しておらず、260℃でのハンダ耐熱評価では試験前の形態は保持できなかった。
【0068】
【表1】

添加剤A: フェニルホスホン酸ジメチルエステル
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、従来のPENフィルムに較べて融点が高いβ型結晶による高融点の配向ポリエステルフィルムを簡便な方法で提供でき、従来はポリイミドフィルムでなければ対応できなかった耐熱性が必要とされる用途にも好適に用いることができる。例えば260℃での十分なハンダ加工耐性を有することから、フレキシブル回路基板用に用いることで、回路部品実装後の回路の平面性が従来のポリイミドフィルムと比べて同等のフィルムをより安価に提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分として形成される配向ポリエステルフィルムであって、フィルムの固有粘度が0.65dl/g以上1.50dl/g以下であり、かつ主たる結晶構造がβ晶構造であることを特徴する配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
20℃/minの昇温条件でのDSC測定における融点(Tm)が280℃以上である請求項1に記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
20℃/minの降温条件でのDSC測定における降温結晶化温度(Tcd)が215℃以上である請求項1または2のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
フレキシブル回路基板または太陽電池のベースフィルムとして用いる請求項1〜3のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする固有粘度(IV)が0.75dl/g以上1.80dl/g以下のポリマーを溶融し、式(1)で示されるドラフト比(D)と該ポリマー固有粘度(IV)とが、式(2)で表わされる関係を満たす範囲でキャストフィルムを引き取る工程を含むことを特徴とする配向ポリエステルフィルムの製造方法。
ドラフト比(D)=スリット状ダイの開度/キャストフィルムの厚み ・・・(1)
ポリマー固有粘度(IV)3.4×ドラフト比(D)>100 ・・・(2)
【請求項6】
キャストフィルムを引き取る工程の後に、さらに140℃以上180℃以下の温度で少なくとも1方向に1.5倍以上5.0倍以下で延伸する工程を含んでなる請求項5に記載の配向ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−157442(P2011−157442A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18831(P2010−18831)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】