説明

配向ポリエステルフィルム

【課題】寸法安定性、特に温度や湿度といった環境変化に対する寸法安定性に優れた配向ポリエステルフィルムの提供。
【解決手段】芳香族ポリエステルからなる配向ポリエステルフィルムであって、
(1)芳香族ポリエステルは、全酸成分の95モル%以上が、テレフタル酸成分およびナフタレンジカルボン酸成分からなる群より選ばれる1種であり、全グリコール成分の95モル%以上が、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分とエチレングリコール成分で、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分とエチレングリコール成分のモル比が、35:65〜5:95の範囲にあること、そして
(2)配向フィルムは、直交する2方向の105℃30分での熱収縮率が1%以下であることを同時に具備する配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなり、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分をグリコール成分として共重合した芳香族ポリエステルを用いた配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに代表される芳香族ポリエステルは優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、フィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などのベースフィルムなどに使用されている。しかしながら、近年の高密度磁気記録媒体などでの寸法安定性の要求はますます高くなってきており、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
そこで、特許文献1では、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合することで、湿度膨張係数を低減でき、寸法安定性を向上せしめた高密度磁気記録媒体のベースフィルムに適したフィルムが提案されている。しかしながら、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の製造には非常に多くの溶媒が必要など生産性の点で問題があった。
【0004】
一方、特許文献2には、ボトルなどに成形する際に、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートをブロー延伸して用いようとすると、成形加工性が乏しく、そのブロー延伸での成形加工性を向上させるために、ジヒドロキシナフタレン類のアルキレンオキサイド付加物やビフェノール類のアルキレンオキサイド付加物から誘導される構成単位を共重合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−189801号公報
【特許文献2】特開平10−204166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、寸法安定性、特に温度や湿度といった環境変化に対する寸法安定性に優れた配向ポリエステルフィルムの提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
配向ポリエステルフィルムにおいて、温度膨張係数および湿度膨張係数はヤング率と非常に密接な関係にあり、ヤング率が高いほど一般的に低くなる。しかしながら、ヤング率はいくらでも高められるというわけではなく、製膜性や直交する方向のヤング率確保の点から自ずと限界がある。そのため、同じヤング率なら温度や湿度に対してより低い膨張係数をもつフィルムが得られないか鋭意研究したところ、前述の4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分をポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに共重合し、もっとも配向させた方向の温度膨張係数と105℃での熱収縮率とを特定の範囲にすることで、極めて寸法安定性に優れた配向ポリエステルフィルムが得られることを見出した。
【0008】
かくして本発明によれば、芳香族ポリエステルからなる配向ポリエステルフィルムであって、
(1)芳香族ポリエステルは、全酸成分の95モル%以上が、テレフタル酸成分およびナフタレンジカルボン酸成分からなる群より選ばれる1種であり、全グリコール成分の95モル%以上が、下記式(1)
【化1】

(上記構造式(1)中の、R、Rは炭素数2〜10のアルキレン基もしくは炭素数8〜10のシクロアルキレン基を示す。)で表される4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分とエチレングリコール成分で、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコールール成分とエチレングリコール成分のモル比が、35:65〜5:95の範囲にあること、そして
(2)配向フィルムは、直交する2方向の105℃30分での熱収縮率が1%以下であること
を同時に具備する配向ポリエステルフィルムが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分が、RおよびRがエチレン基であること、フィルム厚みが10μm以下であること、DSCで測定したガラス転移温度が100℃以上であること、フィルム面方向における少なくとも一方向のヤング率が4.5GPa以上であること、フィルム面方向における少なくとも一方向の湿度膨張係数が1〜7.5(×10−6/%RH)の範囲にあること、配向ポリエステルフィルムが磁気記録媒体のベースフィルムに用いられることの少なくともいずれかを具備する配向ポリエステルフィルムも提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度や湿度変化に対する寸法安定性に優れた配向フィルムが提供される。したがって、本発明の配向フィルムを用いれば、優れた温度や湿度変化に対する寸法安定性を有する高密度磁気記録媒体なども提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<芳香族ポリエステル>
本発明の特徴の一つは、(1)全酸成分の95モル%以上が、テレフタル酸成分およびナフタレンジカルボン酸成分からなる群より選ばれる1種であること、(2)全グリコール成分の95モル%以上が、前記式(1)で示される4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分(以下、DPA成分と称することがある。)とエチレングリコール成分で、DPA成分とエチレングリコール成分のモル比が、35:65〜5:95の範囲にあること、を満足する芳香族ポリエステルである。全酸成分のうちテレフタル酸もしくはナフタレンジカルボン酸成分のいずれかの割合が、上記下限未満では、十分なヤング率および寸法安定性が確保されない。
【0012】
また、グリコール成分については、全グリコール成分中のDPA成分とエチレングリコール成分の割合が、上記下限未満である場合、寸法安定性が確保されない。またグリコール成分のうちDPA成分が上記下限以下では十分な寸法安定性が確保されず、上記上限以上では十分なヤング率を確保することが困難になる。グリコール成分の共重合量の比(DPA成分:エチレングリコール成分)は、35:65〜5:95の範囲で、好ましくは35:65〜6:94、さらに好ましくは30:70〜6:94の範囲である。
【0013】
また、前述の式(1)で示されるRおよびRの部分は炭素数2〜10のアルキレン基もしくは炭素数8〜10のシクロアルキレン基であり、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられ、これらの中でも本発明の効果の点からは、上記一般式(1)におけるRおよびRの炭素数が偶数のものが好ましく、特にエチレン基が好ましい。もちろん、本発明における芳香族ポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分を共重合しても良い。
【0014】
ところで、本発明における芳香族ポリエステルは、DSCで測定した融点が、200〜270℃の範囲、さらに210〜270℃の範囲、特に230〜265℃の範囲にあることが製膜性と得られるフィルムの機械的特性の点から好ましい。また、本発明における芳香族ポリエステルは、DSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)が、80〜120℃の範囲、さらに90〜118℃の範囲、特に95〜116℃の範囲にあることが、フィルムの延伸性、耐熱性や寸法安定性の点から好ましい。なお、このような融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。また、フィルムにした後の高温での加工、例えば磁性層の塗布などの加工性を向上させる観点からは、Tgはできる限り高いことが好ましく、本発明の目的を損なわない範囲で、ガラス転移温度を高くできる共重合成分を共重合したり、ポリエーテルイミドや液晶樹脂をブレンドしたりすること(例えば、特開2000−355631号公報、特開2000−141475号公報および特開平11−1568号公報などを参照)も好ましい態様である。なお、上記4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分の共重合量は、重合段階で所望の共重合量となるように原料の組成を調整するか、グリコール成分として上記4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分のみを用いたホモポリマーもしくはその共重合量が多いポリマーと、共重合していないポリマーまたは共重合量の少ないポリマーとを用意し、所望の共重合量となるようにこれらを溶融混練によってエステル交換させることで調整できる。
【0015】
<配向フィルム>
本発明の配向フィルムは、前述の樹脂組成物からなり、フィルム面方向の少なくとも一方向に延伸、すなわち分子鎖が配向されたフィルムである。
そして、フィルム面方向の直交する2方向、すなわち、分子鎖が最も配向された方向(以下、主配向方向と称する)とその方向に直交する方向は、105℃にて30分間無荷重下で測定したときの熱収縮率が1%以下である。熱収縮率がこれよりも大きいと、高温での加工時にフィルムが主配向方向に収縮し、高温加工時の伸びを抑制しても、変形が大きく、加工性が低下したり、また加工後の湿度膨張係数やヤング率などの特性が損なわれやすくなったりすることがある。そういった観点から、好ましい主配向方向の熱収縮率の上限は、1.0%以下、さらに0.9%以下、0.8%以下である。このような熱収縮率は延伸後に熱固定処理を行い、そのときの温度を高くすることや、熱収縮率を下げたい方向に弛緩させることなどで小さくできる。なお、熱収縮率の下限は特に制限されないが、通常の製膜条件では、膨張するような負の値にしようとすると、工程でシワな度が発生しやすくなることから0%以上、さらに0.1%以上が好ましい。
【0016】
本発明の配向フィルムは、磁気テープなどのベースフィルムとして用いたとき、ベースフィルムが伸びないようにフィルム面方向における少なくとも一方向は、ヤング率が4.5GPa以上という高いヤング率を有することが好ましい。しかも、このようにヤング率を高くすることで、より湿度膨張係数を小さくすることができる。ヤング率の上限は制限されないが、通常11GPaである。好ましいヤング率は、フィルムの長手方向が3〜11GPa、さらに3.5〜10GPa、特に4.0〜9GPaの範囲であり、フィルムの幅方向が4〜11GPa、さらに5〜11GPa、さらに6〜10GPa、特に7〜10GPaの範囲である。
【0017】
本発明の配向フィルムは、主配向方向の湿度膨張係数が7.5ppm/%RH以下、さらには7.4ppm/%RH以下、特に7.2ppm/%RH以下であることが好ましく、他方下限は特に制限されないが、1ppm/%RH以上、さらに2ppm/%RH以上、特に3ppm/%RHであることが、目的とする製品に湿度変化に対する優れた寸法安定性を付与できることから好ましい。特にリニア記録方式の磁気記録媒体のベースフィルムに用いる場合、上記湿度膨張係数を満足する方向が幅方向であることが、トラックずれなどを極めて抑制できることから好ましい。なお、本発明において、フィルムの幅方向とは、フィルムの製膜方向(長手方向、縦方向と称することもある。)に直交する方向であり、横方向と称することもある。
【0018】
本発明の配向フィルムは、主配向方向の温度膨張係数が−10〜+10ppm/℃、さらには−7〜+5ppm/℃の範囲、特に−5〜−1ppm/℃にあることが、特に磁気記録テープにしたときの寸法安定性の点で好ましい。特に、磁気記録テープにベースフィルムに用いる場合、上記温度膨張係数を満足する方向が幅方向であることが、トラックずれなどを極めて抑制できることから好ましい。
【0019】
本発明の配向フィルムの厚みは、用途に応じて適宜決めればよく、磁気記録テープのベースフィルムに用いる場合は、2〜10μm、さらに3〜7μm、特に4〜6μmの範囲が好ましい。
ところで、本発明の配向フィルムは、一方の表面粗さ(Ra)は1nm〜20nm、更に好ましくは2nm〜10nmであることが好ましい。
【0020】
通常フィルムの表面粗さを粗くするには、不活性粒子を含有させたりして、突起を形成すればよい。含有させる不活性粒子としては、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイアモンドなど)および粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子、さらに(3)異なる素材を例えばコアとシェルに用いたコアシェル型などの複合粒子など粒子の状態で添加する外部添加粒子や(4)触媒などの析出によって形成する内部析出粒子などを挙げることができる。これらの中で特に架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、カオリン及びクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましく、特に架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンおよび二酸化ケイ素(但し、多孔質シリカなどは除く)からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが、粒子の粒径のバラツキを小さくしやすいことから好ましい。もちろん、これらは2種以上を併用しても良い。
【0021】
走行性の観点からは、フィルム層に含有させる不活性粒子の平均粒径は、0.05〜1.0μm、さらに0.1〜0.8μmの範囲にあることが好ましく、特に磁気記録媒体として用いる場合は0.05〜0.5μm、さらに0.05〜0.3μmの範囲にあることが好ましい。また、フィルム層に含有させる不活性粒子の含有量は、該フィルム層の重量を基準として、0.005〜1.0重量%、さらに0.01〜0.5重量%の範囲にあることが好ましい。
もちろん、本発明の配向フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、他のフィルム層を積層したり、塗膜層を設けたりしても良い。
【0022】
<芳香族ポリエステル樹脂の製造方法>
つぎに、本発明における4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分を共重合している芳香族ポリエステルの製造方法について、詳述する。なお、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分を共重合していない芳香族ポリエステルは、それ自体公知の方法の製造されたものを好適に用いることができる。
【0023】
まず、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコールは、ビフェノールと目的とするRやRとなるアルキレングリコールとを反応させて、所望のビフェノールのアルキレンオキサイド付加物とすればよい。そして、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコールと、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸やテレフタル酸もしくはそれらのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールとを反応させ、ポリエステル前駆体を製造する。そして、このようにして得られたポリエステル前駆体を重合触媒の存在下で重合することで製造でき、必要に応じて固相重合などを施しても良い。このようにして得られる芳香族ポリエステルのP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度は、0.4〜1.5dl/g、さらに0.5〜1.3dl/gの範囲にあることが本発明の効果の点から好ましい。なお、前述のポリエステル前駆体を製造する工程でエチレングリコール成分は、全酸成分のモル数に対して、1.1〜6倍、さらに2〜5倍、特に3〜5倍用いることが生産性の点から好ましい。
【0024】
また、ポリエステルの前駆体を製造する際の反応温度としてはエチレングリコールの沸点以上で行うことが好ましく、特に190℃〜250℃の範囲で行うことが好ましい。190℃よりも低いと反応が十分に進行しにくく、250℃よりも高いと副反応物であるジエチレングリコールが生成しやすい。また、反応を常圧下で行うこともできるが、さらに生産性を高めるために加圧下で反応を行ってもよい。より詳しくは、反応圧力は絶対圧力で10kPa以上200kPa以下、反応温度は通常150℃以上250℃以下、好ましくは180℃以上230℃以下で、反応時間10分以上10時間以下、好ましくは30分以上7時間以下行われるのが好ましい。このようなエステル交換反応またはエステル化反応によってポリエステル前駆体としての反応物が得られる。
【0025】
ポリエステルの前駆体を製造する反応工程では、公知のエステル化もしくはエステル交換反応触媒を用いてもよい。例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、チタン化合物などが挙げられる。
【0026】
つぎに、重縮合反応について説明する。まず、重縮合温度は得られるポリマーの融点以上でかつ230〜280℃以下、より好ましくは融点より5℃以上高い温度から融点より30℃高い温度の範囲である。重縮合反応では通常30Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。30Paより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステル樹脂を得ることが困難になる。
【0027】
重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられる。なお、重縮合触媒はエステル交換反応やエステル化反応においても使用することができる。金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。より好ましい金属としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズなどであり、中でも、チタン化合物はエステル交換反応と重縮合反応の双方の反応で、高い活性を発揮するので特に好ましい。
【0028】
これらの触媒は単独でも、あるいは併用してもよい。かかる触媒量は、共重合芳香族ポリエステルの繰り返し単位のモル数に対して、0.001〜0.5モル%、さらには0.005〜0.2モル%が好ましい。
【0029】
具体的な重縮合触媒としてのチタン化合物としては、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェエルチタネート、テトラベンジルチタネート、蓚酸チタン酸リチウム、蓚酸チタン酸カリウム、蓚酸チタン酸アンモニウム、酸化チタン、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステル、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルと少なくとも2個のヒドロキシル基を有する多価アルコール、2−ヒドロキシカルボン酸、又は塩基からなる反応生成物などが挙げられる。
【0030】
本発明におけるフィルム層を形成する芳香族ポリエステルには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合しても良い。他の熱可塑性ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0031】
<フィルムの製造方法>
本発明の配向フィルムは、製膜方向と幅方向に延伸してそれぞれの方向の分子配向を高めたものであり、例えば以下のような方法で製造することが、製膜性を維持しつつ、ヤング率を向上させやすいことから好ましい。まず、フィルムを形成する芳香族ポリエステルを原料とし、これらを乾燥後、溶融状態、好ましくはポリエステルの融点(Tm:℃)以上(Tm+70)℃以下の温度でダイよりフィルム状に押出して、未延伸フィルムを作成し、これを二軸延伸する。なお、前述のヤング率、αt、αhなどを満足させるには、その後の延伸を進行させやすくするために、冷却ドラムによる冷却を非常に速やかに行うことが好ましい。そのような観点から、冷却ドラムの温度は、20〜60℃という低温で行うことが好ましい。このような低温で行うことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行うことができる。二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸は芳香族ポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、2〜7倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温の(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜10倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒熱固定処理するのが好ましい。特に好ましい熱固定処理は、温度が180〜220℃、さらに190〜210℃の範囲で、時間は1〜15秒である。
【0032】
前述の説明は逐次二軸延伸について説明したが、本発明の配向フィルムは縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも製造でき、例えば先で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。なお、粒子を含有させる方法については、それ自体公知の方法を採用でき、例えばポリエステルの製造工程において、反応系に添加しても良いし、ポリエステルに溶融混練によって添加してもよい。粒子の分散性の点から、好ましくはポリエステルの反応系に添加して、粒子濃度の高いポリエステル組成物をマスターポリマーとして製造し、それを粒子を含まないか、粒子濃度低いポリエステル組成物と混ぜ合わせる方法が好ましい。本発明によれば、本発明の上記配向フィルムをベースフィルムとし、その一方の面、好ましくはより平坦な側の表面に非磁性層および磁性層をこの順で形成し、他方の面、好ましくはより平坦でない側の表面にバックコート層を形成することで、磁気記録テープとすることができる。また、高度な寸法安定性を発現できることから、リニア記録方式の磁気記録テープのベースフィルムとして、特に好適である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0034】
(1)固有粘度
得られた共重合芳香族ポリエステルおよびフィルムの固有粘度は、P−クロロフェノール/テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0035】
(2)ガラス転移点および融点
ガラス転移点、融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal Analyst2100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0036】
(3)共重合量
酸成分については、試料50mgをp−クロロフェノール:重テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに140℃で溶解し、400MHz 13C−NMR(日立電子製、JEOL A600)にて140℃で測定し、それぞれの酸成分量を測定した。なお、DPAがエチレンオキサイド付加物である場合、本発明におけるDPA成分とエチレングリコール成分とのモル比は、ビフェノールに付加したエチレングリコールは、DPA成分としてカウントし、DPAと対比するエチレングリコール量には加えない。
【0037】
(4)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0038】
(5)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムを、フィルムの面方向において、製膜方向を0°、幅方向を90°として、10°ピッチでアッベの屈折計を用いて、測定した。なお、測定は23℃にてナトリウムD線に対する値として行い、最も屈折率の高い方向を主配向方向とした。そして、主配向方向が、測定方向となるように長さ20mm、幅4mmに切り出し、SII製EXSTAR6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させる。その後30℃から70℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出する。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5は石英ガラスの温度膨張係数(×10−6ppm/℃)である。
【0039】
(6)湿度膨張係数(αh)
上記(5)で測定したもっとも屈折率の高い方向が測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、BRUKER製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数を算出する。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαh(ppm/%RH)とした。
αh=(L80−L20)/(L80×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%
RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0040】
(7)105℃での熱収縮率
上記(5)で測定したもっとも屈折率の高い方向とそれに直交する方向とがそれぞれ測定方向となるように長さ300mm、幅300mmに切り出し、無荷重下で、105℃で30分間熱処理した。そして、熱処理後室温になるまで冷却し、熱処理前の寸法から、熱処理後の寸法を差し引き、熱処理前の寸法で割ったものを熱収縮率とした。
【0041】
(8)寸法安定性
フィルムとしての総合的な寸法安定性を評価するために、上記記載の(5)、(6)、(7)の測定値に対して、以下のA〜Cの基準で評価した。
・105℃における熱収縮率:主配向方向およびそれと直交する二方向のいずれか一方でも、1%を超えるか、0%未満のとき×、0.9%以上1.0%以下であれば△、0.8%以上0.9%未満であれば○、直交する二方向がいずれも0%以上0.8%未満で◎
・主配向方向の温度膨張係数:−5〜−1ppm/℃のとき◎、−7〜+5ppm/℃のとき○、−10〜−10ppm/℃のとき△、―10ppm/℃未満もしくは10ppm/℃を超えるとき×
・主配向方向の湿度膨張係数:7.2ppm/%RH以下のとき◎、7.4ppm/%RH以下のとき○、7.5ppm/%RH以下のとき△、7.5ppm/%RHを超えるとき×
そして、◎が3つのものをAAA、◎が2つと○がひとつのものをAA、◎がひとつと○が2つのものをA、×がなくて△がひとつでもあるものをB、×が一つでもあるものをCとした。上記判定がAAA、AAおよびAのものは、磁気記録テープとしたときの温度や湿度変化に対する寸法安定性にその順に優れるものであった。一方、上記判定がBのものは、上記判定Aのものより若干の劣るものの、磁気記録テープとして使用することが可能なものであった。しかし、上記判定がCのものは、磁気テープとして使用するには寸法安定性の点で問題があるものであった。
【0042】
[実施例1]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールと4,4’−ジフェニレンジエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、4,4’−ジフェニレンジエチレングリコール成分が5モル%である固有粘度1.2dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルの融点は265℃、ガラス転移温度は120℃であった。
このようにして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールと4,4’−ジフェニレンジエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、4,4’−ジフェニレンジエチレングリコール成分が10モル%である固有粘度1.2dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルの融点は264℃、ガラス転移温度は117℃であった。
こうして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールと4,4’−ジフェニレンジエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、4,4’−ジフェニレンジエチレングリコール成分が20モル%である固有粘度1.2dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルの融点は264℃、ガラス転移温度は116℃であった。
こうして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールと4,4’−ジフェニレンジエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、4,4’−ジフェニレンジエチレングリコール成分が30モル%である固有粘度1.2dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルの融点は260℃、ガラス転移温度は111℃であった。
こうして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0046】
[実施例5]
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールと4,4’−ジフェニレンジエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、4,4’−ジフェニレンジエチレングリコール成分が5モル%である固有粘度1.1dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルの融点は254℃、ガラス転移温度は78℃であった。
このようにして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して280℃でダイから溶融状態で回転中の温度30℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が95℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、110℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.6dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。この芳香族ポリエステルの融点は265℃、ガラス転移温度は121℃であった。
こうして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとジオール成分として4,4’−ジフェニレンジエチレングリコールを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度1.2dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルの融点は250℃、ガラス転移温度は114℃であった。
こうして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して280℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が120℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、130℃で横方向(幅方向)に延伸倍率3.0倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0049】
[比較例3]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールと4,4’−ジフェニレンジエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、4,4’−ジフェニレンジエチレングリコール成分が40モル%である固有粘度1.2dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルは融点が観測されず、ガラス転移温度は110℃であった。非晶ポリマーであったため、フィルム評価は行なっていない。
【0050】
[比較例4]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールと4,4’−ジフェニレンジエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、4,4’−ジフェニレンジエチレングリコール成分が95モル%である固有粘度1.2dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルの融点は245℃、ガラス転移温度は114℃であった。
こうして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して280℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向には延伸を行なわず、そのままステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.5倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0051】
[比較例5]
実施例1において、フィルムの熱固定を行なわずに、その他の条件は同じにして厚さ5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1示す。
【0052】
[比較例6]
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチルとジオール成分としてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.65dl/gの芳香族ポリエステルを得た。この芳香族ポリエステルの融点は254℃、ガラス転移温度は76℃であった。
このようにして得られた芳香族ポリエステルを、押出機に供給して280℃でダイから溶融状態で回転中の温度30℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が95℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、110℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後200℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1中の、DPDEは4,4’−ジフェニレンジエチレングリコール成分、融点およびガラス転移温度はフィルムの状態での共重合芳香族ポリエステルの値、MDはフィルムの製膜方向、TDはフィルムの幅方向を示す。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の共重合芳香族ポリエステルから得られる二軸配向ポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートやポリアルキレン−6、6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートでは達成できなかったような優れた寸法安定性を有し、寸法安定性が求められる用途、特に高密度磁気記録媒体のベースフィルムとして、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルからなる配向ポリエステルフィルムであって、
(1)芳香族ポリエステルは、全酸成分の95モル%以上が、テレフタル酸成分およびナフタレンジカルボン酸成分からなる群より選ばれる1種であり、全グリコール成分の95モル%以上が、下記式(1)で表される4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分とエチレングリコール成分で、4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分とエチレングリコール成分のモル比が、35:65〜5:95の範囲にあること、そして
(2)配向フィルムは、直交する2方向の105℃30分での熱収縮率が1%以下であること
を同時に具備することを特徴とする配向ポリエステルフィルム。
【化1】

(上記構造式(1)中の、R、Rは炭素数2〜10のアルキレン基もしくは炭素数8〜10のシクロアルキレン基を示す。)
【請求項2】
4,4’−ジフェニレンジアルキレングリコール成分が、RおよびRがエチレン基である請求項1記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルム厚みが10μm以下である請求項1記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
DSCで測定したガラス転移温度が100℃以上である請求項1記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
フィルム面方向における少なくとも一方向のヤング率が4.5GPa以上である請求項1記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
フィルム面方向における少なくとも一方向の湿度膨張係数が1〜7.5(×10−6/%RH)の範囲にある請求項1記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
配向ポリエステルフィルムが、磁気記録媒体のベースフィルムに用いられる請求項1記載の配向ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2013−23623(P2013−23623A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161008(P2011−161008)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】