説明

配向膜の成膜方法

【課題】液滴吐出法により配向膜を成膜する成膜装置を用いることができ、基板上に吐出した液滴を濡れ拡がらせて均一な膜厚の配向膜を形成することができる配向膜の成膜方法を提供する。
【解決手段】基板P上に配向膜材料を溶解可能な処理液L2を塗布する処理液塗布工程と、基板P上に塗布した処理液L2上に材料液L1を塗布する材料液塗布工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配向膜の成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板の表面に均一な膜厚の薄膜を形成できる成膜方法が知られている。この成膜方法は、ヘッドに並設された複数のノズルから溶液を噴射して、その下側を搬送される基板の表面に上記溶液を塗布する塗布方法において、上記基板を搬送し、その表面に上記ノズルから溶液を噴射塗布する第1の塗布工程と、上記第1の塗布工程終了後、上記基板を所定の角度だけ回転し、その向きを上記ノズルの並設方向に対して相対的に変える回転工程と、上記回転工程終了後、上記基板を再び搬送し、その表面に上記ノズルから溶液を噴射塗布する第2の塗布工程と、を具備するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、各ノズルから基板に溶液をドッドで噴射する工程と、ヘッドと基板とを所定方向に相対的に移動させて所定間隔の一対のノズルから最初に基板に噴射された一対のドット間の部分を複数のドットによって塗り潰す工程とを具備し、最初に基板に所定間隔で噴射された一対のドット間の部分は、最初に噴射塗布されたドットに最後に噴射塗布されるドットが隣接することのない順序で、複数のドットによって塗り潰すものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、基板に溶液をインクジェット方式によって塗布する溶液の塗布方法において、上記基板の上記溶液が塗布される板面を励起処理する工程と、上記基板の励起処理された板面に上記溶液をインクジェット方式によって塗布する工程とを備えているものが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−193232号公報
【特許文献2】特開2005−721号公報
【特許文献3】特開2004−255316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の成膜方法では、液晶装置に用いられる配向膜を成膜するために、ポリイミドを溶解した溶液等、比較的粘度の高い液体を塗布する場合には、以下のような課題がある。
特許文献1及び2では、図14(a)に示すように、液滴吐出ヘッド34から基板P上に吐出した液滴D1が基板P上で十分に濡れ拡がらず、基板P上に配向膜の材料液L1がドット状に不連続に塗布されて配向膜の膜厚が不均一となるという課題がある。
また、塗布した材料液L1が基板P上で濡れ拡がらないため、例えば、図14(b)に示すように、液滴吐出ヘッド34の改行や複数の液滴吐出ヘッド34を用いることにより、液滴吐出ヘッド34の端部34eが重なる領域X2に液滴D1が重なって配置される領域X1が発生する。そのため、領域X1において材料液L1の膜厚が変動し、配向膜にスジ状のムラが発生するという課題がある。
特許文献3では、基板上に吐出した液滴は濡れ拡がるが、基板の励起処理が必要であり、チャンバ等、基板の励起処理のための特殊な装置が必要であるという課題がある。
【0006】
そこで、この発明は、液滴吐出法により配向膜を成膜する成膜装置を用いることができ、基板上に吐出した液滴を濡れ拡がらせて均一な膜厚の配向膜を形成することができる配向膜の成膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の配向膜の成膜方法は、溶媒に配向膜材料を溶解させた材料液の液滴を液滴吐出ヘッドのノズルから基板上に吐出して塗布し、配向膜を成膜する成膜方法であって、前記基板上に前記配向膜材料を溶解可能な処理液を塗布する処理液塗布工程と、前記基板上に塗布した前記処理液上に前記材料液を塗布する材料液塗布工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
このように成膜することで、処理液塗布工程において基板上に処理液が塗布されると、処理液の一部が蒸発して、基板上が処理液の蒸気に覆われた状態となる。この状態で基板上に材料液の液滴を吐出すると、液滴は基板上に塗布された処理液上に着弾する。ここで、処理液は材料液中の配向膜材料を溶解可能であるため、処理液に接触した液滴の粘度を低下させる。また、基板上が処理液の蒸気に覆われているため、基板上に塗布された材料液の乾燥が防止される。これにより、基板上に着弾した液滴を容易に濡れ拡がらせ、均一な膜厚の材料液の膜を形成し、スジ状のムラの発生を防止して均一な膜厚の配向膜を形成することができる。また、液滴吐出法により配向膜を成膜する成膜装置を用いることができ、チャンバ等を用いる必要がない。
【0009】
また、本発明の配向膜の成膜方法は、前記処理液塗布工程において前記処理液が塗布される処理液塗布領域を、前記材料液塗布工程において前記材料液が塗布される材料液塗布領域と等しいかまたは少なくとも一部が重なることを特徴とする。
【0010】
このように成膜することで、基板上に塗布された材料液の周縁部が必要以上に濡れ拡がることを防止して、配向膜を所定の領域に形成することができる。
【0011】
また、本発明の配向膜の成膜方法は、前記処理液塗布領域を、前記液滴吐出ヘッドの走査方向と直交する方向の端部の前記ノズルが対向し通過する前記基板上のヘッド端部通過領域とすることを特徴とする。
【0012】
このように成膜することで、ヘッド端部通過領域に吐出した材料液の液滴を濡れ拡がらせて均一な膜厚の配向膜を形成することができる。
【0013】
また、本発明の配向膜の成膜方法は、前記ヘッド端部通過領域は、前記材料液塗布工程において前記液滴が重なって配置される領域を含むことを特徴とする。
【0014】
このように成膜することで、基板上に材料液の液滴が重なって配置された場合でも、材料液が基板上で容易に濡れ拡がる。これにより、液滴が重なって配置される領域の材料液の膜厚が増加することを防止して、配向膜の膜厚を均一にすることができる。
【0015】
また、本発明の配向膜の成膜方法は、前記処理液塗布工程において、前記溶媒よりも前記配向膜材料に対する溶解性が高い前記処理液を塗布することを特徴とする。
【0016】
このように成膜することで、基板上に着弾した液滴をより容易に濡れ拡がらせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0018】
<第一実施形態>
(成膜装置)
図1は、液滴吐出法により基板P上に膜を成膜する成膜装置10の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、成膜装置10は、ベース31と、基板移動手段32と、ヘッド移動手段33と、液滴吐出ヘッド34と、液体供給部35と、制御装置40とを備えて構成されている。ベース31の上には、基板移動手段32と、ヘッド移動手段33とが設置されている。また、成膜装置10は、不図示のクリーニングユニットと、キャッピングユニットとを備えている。
【0019】
基板移動手段32はベース31上に設けられ、Y軸方向に沿って配置されたガイドレール36を有している。この基板移動手段32は、例えばリニアモータ(図示せず)により、スライダ37をガイドレール36に沿って移動させるよう構成されている。
スライダ37上にはステージ39が固定されており、このステージ39は、基板Pを位置決めして保持するためのものである。即ち、このステージ39は、公知の吸着保持手段(図示せず)を有し、この吸着保持手段を作動させることにより、基板Pをステージ39の上に吸着保持するように構成されている。基板Pは、例えばステージ39の位置決めピン(図示せず)により、ステージ39上の所定位置に正確に位置決めされ、保持されるようになっている。
【0020】
ヘッド移動手段33は、ベース31の後部側に立てられた一対の架台33a、33aと、これら架台33a、33a上に設けられた走行路33bを備え、この走行路33bをX軸方向、即ち前記の基板移動手段32のY軸方向と直交する方向に沿って配置したものである。走行路33bは、架台33a、33a間に渡された保持板33cと、この保持板33c上に設けられた一対のガイドレール33d、33dとを備え、ガイドレール33d、33dの長さ方向に液滴吐出ヘッド34を搭載するキャリッジ42を移動可能に保持している。キャリッジ42は、リニアモータ(図示せず)等の作動によってガイドレール33d、33d上を走行し、これにより液滴吐出ヘッド34をX軸方向に移動させるように構成されている。
【0021】
ここで、このキャリッジ42は、ガイドレール33d、33dの長さ方向、即ちX軸方向に、例えば、1μm単位で移動可能になっている。キャリッジ42のこのような移動はコンピュータ等からなる制御装置40によって制御可能に構成されている。
制御装置40は、液滴吐出ヘッド34の位置情報、即ち液滴吐出ヘッド34のガイドレール33d、33d上での位置(X座標)とそのときの各ノズルの位置(X座標)とを検知して記憶するものである。
【0022】
液滴吐出ヘッド34は、キャリッジ42に取付部43を介して回動可能に取り付けられたものである。取付部43にはモータ44が設けられており、液滴吐出ヘッド34はその支持軸(図示せず)がモータ44に連結している。このような構成のもとに、液滴吐出ヘッド34はその周方向に回動可能となっている。また、モータ44も制御装置40に接続されており、これによって液滴吐出ヘッド34はその周方向への回動が、制御装置40に制御されるようになっている。
【0023】
液体供給部35は、インク(材料液)L1が充填されたインク供給容器45Aと、処理液L2が充填された処理液供給容器45Bと、これらインク供給容器45A及び処理液供給容器45Bから液滴吐出ヘッド34にインクL1及び処理液L2を送るためのインク供給チューブ46A及び処理液供給チューブ46Bとを備えたものである。
【0024】
ここで、本実施形態では、インクL1として、例えば、溶媒に液晶分子の配向を規制する配向膜の材料を溶解させたものを用いている。配向膜の材料としては、例えば、ポリイミドが用いられ、この配向膜の材料を溶解可能な溶媒として、ブチルセロソルブ等の有機溶剤を用いることができる。
また、処理液L2としては、配向膜の材料を溶解可能であり、かつインクL1の溶媒よりも配向膜の材料に対する溶解性の高い液体を用いる。本実施形態では、処理液L2として、ブチルセロソルブよりもポリイミドに対する溶解性が高いN−メチル−2−ピロリドン(N-methylpyrrolidone:NMP)を用いる。
【0025】
図2は液滴吐出ヘッド34の構成を説明する断面図、図3は液滴吐出ヘッド34の要部断面図である。
本実施形態における液滴吐出ヘッド34は、導入針ユニット117、ヘッドケース118、流路ユニット119及びアクチュエータユニット120A,120Bを主な構成要素としている。
導入針ユニット117の上面にはフィルタ121A,121Bを介在させた状態で2本の液体導入針122A,122Bが横並びで取り付けられている。これらの液体導入針122A,122Bには、サブタンク102A,102Bがそれぞれ装着される。また、導入針ユニット117の内部には、各液体導入針122A,122Bに対応した液体導入路123A,123Bが形成されている。
この液体導入路123A,123Bの上端はフィルタ121A,121Bを介して液体導入針122A,122Bに連通し、下端はパッキン124を介してヘッドケース118内部に形成されたケース流路125A,125Bと連通する。
【0026】
フィルタ121A,121Bは、インクL1及び処理液L2に含まれる異物を除去するために配設され、その材質は、例えば、ステンレス鋼であって、メッシュ状に形成されている。
【0027】
サブタンク102A,102Bは、ポリプロピレン等の樹脂製材料によって成型されている。このサブタンク102A、102Bには、液室127A,127Bとなる凹部が形成され、この凹部の開口面に弾性シート126A,126Bを貼設して液室127A,127Bが区画されている。
また、サブタンク102A,102Bの下部には液体導入針122A,122Bが挿入される針接続部128A,128Bが下方に向けて突設されている。サブタンク102A,102Bにおける液室127A,127Bは、底の浅いすり鉢形状をしている。液室127A,127Bの側面における上下中央よりも少し下の位置には、針接続部128A,128Bとの間を連通する接続流路129A,129Bの上流側開口が臨んでおり、この上流側開口にはインクL1及び処理液L2を濾過するタンク部フィルタ130A,130Bがそれぞれ取り付けられている。
【0028】
針接続部128A,128Bの内部空間には液体導入針122A,122Bが液密に嵌入されるシール部材131A,131Bが嵌め込まれている。このサブタンク102A,102Bには、それぞれインク供給チューブ46A及び処理液供給チューブ46Bが接続される。インク供給チューブ46Aは、液体供給部35のインク供給容器45Aに貯留されたインクL1を供給する。また、処理液供給チューブ46Bは、液体供給部35の処理液供給容器45Bに貯留された処理液L2を供給する。従って、インク供給チューブ46A及び処理液供給チューブ46Bを通ってきたインクL1及び処理液L2は、それぞれ液室127A及び液室127Bに流入する。
【0029】
上記の弾性シート126A,126Bは、液室127A,127Bを収縮させる方向と膨張させる方向とに変形可能である。そして、この弾性シート126A,126Bの変形によるダンパ機能によって、インクL1及び処理液L2の圧力変動が吸収される。即ち、弾性シート126A,126Bの作用によってサブタンク102A,102Bが圧力ダンパとして機能する。従って、インクL1及び処理液L2は、サブタンク102A,102B内で圧力変動が吸収された状態で液滴吐出ヘッド34側に供給される。
【0030】
ヘッドケース118は、合成樹脂製の中空箱体状部材であり、下端面に接着剤を介して流路ユニット119を接合し、内部に形成された収容空部137A,137B内にアクチュエータユニット120A,120Bを収容し、流路ユニット119側とは反対側の上端面にパッキン124を介在した状態で導入針ユニット117を取り付けるようになっている。
このヘッドケース118の内部には、高さ方向を貫通してケース流路125A,125Bが設けられている。このケース流路125A,125Bの上端は、パッキン124を介して導入針ユニット117の液体導入路123A,123Bとそれぞれ連通するようになっている。
また、ケース流路125A,125Bの下端は、流路ユニット119内の共通インク室144A及び共通処理液室144Bに連通するようになっている。従って、液体導入針122A,122Bから導入されたインクL1及び処理液L2は、液体導入路123A,123B及びケース流路125A,125Bを通じて共通インク室144A及び共通処理液室144B側にそれぞれ供給される。
【0031】
ヘッドケース118の収容空部137A,137B内に収容されるアクチュエータユニット120A,120Bは、図3に示すように、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子138A,138Bと、この圧電振動子138A,138Bが接合される固定板139A,139Bと、制御装置40からの駆動信号を圧電振動子138A,138Bに供給する配線部材としてのフレキシブルケーブル140A,140Bとから構成される。各圧電振動子138A,138Bは、固定端部側が固定板139A,139B上に接合され、自由端部側が固定板139A,139Bの先端面よりも外側に突出している。即ち、各圧電振動子138A,138Bは、所謂片持ち梁の状態で固定板139A,139B上にそれぞれ取り付けられている。
【0032】
また、各圧電振動子138A,138Bを支持する固定板139A,139Bは、例えば、厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。そして、アクチュエータユニット120A,120Bは、固定板139A,139Bの背面を、収容空部137A,137Bを区画するケース内壁面に接着することで収容空部137A,137B内にそれぞれ収納・固定されている。
【0033】
流路ユニット119は、振動板141、流路基板142及びノズル基板143からなる流路ユニット構成部材を積層した状態で接着剤を介して接合して一体化することにより作製されている。これらは、共通インク室144Aからインク供給口145A及び圧力室146Aを通りノズル147Aに至るまでの一連のインク流路と、共通処理液室144Bから処理液供給口145B及び圧力室146Bを通りノズル147Bに至るまでの一連の処理液流路とを形成する部材である。
【0034】
圧力室146A,146Bは、ノズル147A,147Bの列設方向に対して直交する方向に細長い室として形成されている。
また、共通インク室144A,共通処理液室144Bは、ケース流路125A,125Bと連通し、液体導入針122A,122B側からのインクL1、処理液L2がそれぞれ導入される室である。そして、この共通インク室144A及び共通処理液室144Bに導入されたインクL1及び処理液L2は、インク供給口145A及び処理液供給口145Bを通じてそれぞれ圧力室146A,146Bに分配供給される。
【0035】
流路ユニット119の底部に配置されるノズル基板143は、図4に示すように、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル147A,147Bを列状に開設した金属製の薄い板材である。本実施形態のノズル基板143は、ステンレス鋼の板材によって作製され、本実施形態においてはノズル147Aの列及びノズル147Bの列が、それぞれサブタンク102A及び102Bに対応して複数形成されている(図4では図示省略)。
ノズル基板143と振動板141との間に配置される流路基板142は、インク流路及び処理液流路となる流路部、具体的には、共通インク室144A、共通処理液室144B、インク供給口145A、処理液供給口145B及び圧力室146A,146Bとなる空部が区画形成された板状の部材である。
【0036】
本実施形態において、流路基板142は、結晶性を有する基材であるSiウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。振動板141は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工した二重構造の複合板材である。この振動板141の圧力室146A,146Bに対応する部分には、エッチングなどによって支持板を環状に除去することで、圧電振動子138A,138Bの先端面が接合される島部148A,148Bが形成されており、この部分はダイヤフラム部として機能する。即ち、この振動板141は、圧電振動子138A,138Bの作動に応じて島部148A,148Bの周囲の弾性フィルムが弾性変形するように構成されている。また、振動板141は、流路基板142の一方の開口面を封止し、コンプライアンス部149A,149Bとしても機能する。このコンプライアンス部149A,149Bに相当する部分についてはダイヤフラム部と同様にエッチングなどにより支持板を除去して弾性フィルムだけにしている。
【0037】
そして、上記の液滴吐出ヘッド34において、フレキシブルケーブル140A,140Bを通じて駆動信号が圧電振動子138A,138Bに供給されると、この圧電振動子138A,138Bが素子長手方向に伸縮し、これに伴い島部148A,148Bが圧力室146A,146Bに近接する方向或いは離隔する方向に移動する。これにより、圧力室146A,146Bの容積が変化し、圧力室146A,146B内のインクL1及び処理液L2に圧力変動が生じる。この圧力変動によってノズル147A,147Bからそれぞれ液滴状となったインクL1及び処理液L2が吐出される。
【0038】
(配向膜の成膜方法)
次に、本実施形態の成膜方法について説明する。本実施形態では、基板Pとして透明基板上に絶縁膜、TFT、電極及び配線等が形成された液晶装置の素子基板を用意し、成膜装置10を用いて基板P上に上述のインクL1を吐出して配向膜を成膜する方法について説明する。
【0039】
まず、図1に示すように、ステージ39上に基板Pを位置決めピンにより位置決めして配置し、吸着保持手段により基板Pをステージ39の上に吸着保持する。これにより、基板Pは、ステージ39上に正確に位置決めされた状態で保持される。
次に、基板移動手段32及びヘッド移動手段33により液滴吐出ヘッド34を移動させると共に、取付部43のモータ44を作動させて、図5に示すように、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対する初期位置に配置する。
【0040】
次に、基板移動手段32によりステージ39を図5に示すY軸正方向に移動させることで、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対してY軸負方向(図の矢印方向)に移動させながら、液滴吐出ヘッド34のノズル147Bから基板P上に上述の処理液L2を吐出して塗布する。ここで、処理液L2を塗布する処理液塗布領域C2は、基板P上に成膜する配向膜の形成領域と略等しくなるようする。このとき、図4に示すように、配列方向の末端に位置するノズル147Bは、液滴吐出ヘッド34の端部34eの端縁よりも内側(液滴吐出ヘッド34の中央側)に形成されている。そのため、図5に破線で示す処理液L2が塗布される領域は、二点鎖線で示す液滴吐出ヘッド34が通過する領域の内側となる。
【0041】
初期位置側の処理液塗布領域C2の縁から初期位置とは反対側の処理液塗布領域C2の縁まで処理液L2を塗布したら、ヘッド移動手段33により液滴吐出ヘッド34をX軸正方向に移動させて改行する。このとき、液滴吐出ヘッド34が通過した領域に、端部34eが重なるように移動させ、最初に処理液L2が塗布された領域の縁と、次に処理液L2が塗布される領域の縁が重なるようにする。そして、基板移動手段32によりステージ39をY軸負方向に移動させ、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対してY軸正方向に移動させながら、液滴吐出ヘッド34のノズル147Bから基板P上に処理液L2を吐出して塗布する。そして、X軸正方向に改行を繰り返しながら液滴吐出ヘッド34をY軸方向に往復させ、処理液塗布領域C2の全域に処理液L2を塗布する(処理液塗布工程)。
これにより、図6に示すように、基板P上に処理液L2が薄く塗布された状態となる。そして、基板P上で処理液L2の蒸気が発生し、基板P上が処理液L2の蒸気によって覆われた状態となる。
【0042】
次に、図7に示すように、液滴吐出ヘッド34を再び初期位置に移動させる。そして、上述のように、基板移動手段32によりステージ39をY軸正方向に移動させることで、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対してY軸負方向(図の矢印方向)に移動させながら、図8に示すように、液滴吐出ヘッド34のノズル147Aから基板P上の処理液L2上にインクL1を液滴D1として吐出して塗布する。ここで、インクL1を塗布する材料液塗布領域C1は、処理液塗布領域C2と略等しい領域とする。
【0043】
このとき、上述のように、基板P上には処理液L2が塗布されている。そのため、吐出された液滴D1は基板P上に塗布された処理液L2上に着弾する。ここで、処理液L2はインクL1中のポリイミドを溶解可能であるため、液滴D1が処理液L2に接触すると液滴D1の粘度が低下する。また、基板P上が処理液L2の蒸気に覆われているため、基板P上に塗布されたインクL1の乾燥が防止される。これにより、基板P上に着弾したインクL1の液滴D1を容易に濡れ拡がらせることができ、基板P上に連続的でかつ従来よりも均一な膜厚のインクL1の膜が形成される。
【0044】
次に、図9に示すように、ヘッド移動手段33により液滴吐出ヘッド34をX軸正方向に移動させて改行する。このとき、上述のように、液滴吐出ヘッド34が通過した領域に、端部34eが重なるように移動させ、最初にインクL1が塗布された領域の縁と、図9の破線で示す次に処理液L1が塗布される領域の縁が重なるようにする。そして、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対してY軸正方向に移動させながら、液滴吐出ヘッド34のノズル147Aから、図10に示すように、基板P上にインクL1の液滴D1を吐出して塗布する。
これにより、液滴吐出ヘッド34の走査方向(Y軸方向)と直交する方向の端部34eのノズル147Aが対向し繰り返し通過する基板P上の領域(ヘッド端部通過領域)X2において、液滴D1が重なって配置される領域X1が発生する。
【0045】
しかし、本実施形態では、上述のように基板P上に着弾した液滴D2を容易に濡れ拡がらせることができ、処理液L2の蒸気により基板P上に塗布されたインクL1の乾燥が防止される。このため、図10に示すように、領域X1においても重なって配置された液滴D1を容易に濡れ拡がらせ、従来よりも均一な膜厚のインクL1の膜を形成することができる。
【0046】
次いで、X軸正方向に改行を繰り返しながら液滴吐出ヘッド34をY軸方向に往復させ、処理液塗布領域C2の全域にインクL1を塗布する(材料液塗布工程)。これにより、図11に示すように材料液塗布領域C1の全域に均一な膜厚のインクL1の膜が塗布される。そして、このインクL1の膜を加熱乾燥させることで、基板P上に均一な膜厚の配向膜が成膜される。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、基板P上にポリイミドを溶解可能な処理液L2を塗布し、その上にポリイミドを溶解させたインクL1を吐出することで、液滴吐出法により成膜する成膜装置10を用い、基板P上に着弾したインクL1の液滴D2を基板P上で濡れ拡がらせ、乾燥を防止することができる。これにより、基板P上に連続的かつ均一な膜厚のインクL1の膜を形成し、連続的でかつ均一な膜厚の配向膜を形成することができる。
【0048】
また、処理液塗布領域C2を配向膜の形成領域と略等しい領域とし、材料液塗布領域C1を処理液塗布領域C2とを略等しい領域とすることで、塗布されたインクL1の周縁部が配向膜の形成領域の外側に濡れ拡がることが防止される、いわゆるピンニング効果を得ることができ、配向膜を基板P上の所定の領域に正確に成膜することができる。
【0049】
また、基板P上に処理液L2を塗布し、その上にインクL1を吐出することで、液滴D1が重なって配置される領域X1においても、基板P上に吐出されたインクL1の液滴D1を容易に濡れ拡がらせ、乾燥を防止して、領域X1においてインクL1の膜厚が大きくなることを防止して膜厚を均一にすることができる。したがって、配向膜の膜厚を均一にすることができる。
【0050】
また、処理液L2として、配向膜の材料であるポリイミドを溶解可能であり、かつインクL1の溶媒であるブチルセロソルブよりもポリイミドに対する溶解性の高いNMPを用いることで、基板P上に吐出されたインクL1の液滴D1をより容易に濡れ拡がらせることができ、基板P上に連続的でかつ均一な膜厚の配向膜を形成することができる。
【0051】
また、基板P上に吐出された液滴D1を処理液と接触させて粘度を低下させることができるので、インクL1のポリイミドの濃度を上昇させて、インクL1の粘度を上昇させることができる。これにより、インクL1の乾燥時における周縁部へのインクL1の移動を防止して、配向膜の周縁部の膜厚の上昇(所謂、しみ上がり)を防止することができる。
【0052】
また、図12に示すように、上述の処理液塗布工程において処理液L2が塗布される処理液塗布領域C2の周縁部が、配向膜の形成領域の周縁部のやや内側となるように処理液L2を塗布し、材料液塗布工程において処理液塗布領域C2をインクL1が塗布される材料液塗布領域C1内としてもよい。これにより、塗布されたインクL1の周縁部が配向膜の形成領域の外側に濡れ拡がることが、より効果的に防止できる。
【0053】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について、図1〜図4を援用し、図13を用いて説明する。本実施形態の配向膜の成膜方法は処理液塗布領域C2を、材料液塗布工程においてインクL1の液滴D1が重なって配置される領域X1を含み、液滴吐出ヘッド34の端部34eが上方を通過する基板P上のヘッド端部通過領域X2のみとする点で上述の第一実施形態で説明した成膜方法と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0054】
まず、第一実施形態と同様に基板Pをステージ39上に正確に位置決した状態で保持する。次に、基板移動手段32及びにヘッド移動手段33より液滴吐出ヘッド34を移動させると共に、取付部43のモータ44により回動させて、図13に示すように、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対する初期位置に配置する。
【0055】
次に、第一実施形態と同様に液滴吐出ヘッド34を基板Pに対してY軸負方向(図の矢印方向)に移動させながら、液滴吐出ヘッド34のノズル147Bから基板P上に処理液L2を吐出して塗布する。ここで、処理液L2を塗布する処理液塗布領域C2は、材料液塗布工程においてインクL1の液滴D1が重なって配置される領域X1を含み、液滴吐出ヘッド34の端部34eが上方を通過する基板P上のヘッド端部通過領域X2のみとする。
【0056】
次に、第一実施形態と同様に、X軸正方向に改行を繰り返しながら液滴吐出ヘッド34をY軸方向に往復させ、配向膜の形成領域と略等しい領域を材料液塗布領域C1として、インクL1を塗布する(材料液塗布工程)。
【0057】
本実施形態によれば、液滴D1が重なって配置される領域X1を含む処理液塗布領域C2に処理液L2が塗布されているので、第一実施形態と同様に、領域X1において重なって配置された液滴D1を容易に濡れ拡がらせ、従来よりも均一な膜厚のインクL1の膜を形成することができる。したがって、基板P上に均一な膜厚の配向膜を成膜することができる。
また、処理液L2を塗布する処理液塗布領域C2をヘッド端部通過領域X2のみとすることで、処理液L2の使用量を減少させて環境負荷を低減すると共に材料コストを低下させることができる。
【0058】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上述の実施形態では単一の液滴吐出ヘッドを備えた成膜装置について説明したが、液滴吐出ヘッドを複数備えた成膜装置を用いてもよい。
また、処理液は配向膜の材料を溶解可能であれば、特に限定されない。また、処理液として、配向膜の材料を溶解させたインクの溶媒を用いてもよい。
また、本発明の成膜方法は、配向膜以外の膜の成膜にも適用可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの構成を説明する断面図である。
【図3】同液滴吐出ヘッドの要部断面図である。
【図4】同液滴吐出ヘッドの底面図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する平面図である。
【図6】本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する断面図である。
【図7】本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する平面図である。
【図8】本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する断面図である。
【図9】本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する平面図である。
【図10】本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する断面図である。
【図11】本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する平面図である。
【図12】本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する平面図である。
【図13】本発明の第二実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する平面図である。
【図14】(a)および(b)は従来の配向膜の成膜工程を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0060】
34 液滴吐出ヘッド、34e 端部、C1 材料液塗布領域、C2 処理液塗布領域、D1 液滴、L1 インク(材料液)、L2 処理液、P 基板、X1 領域、X2 ヘッド端部通過領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に配向膜材料を溶解させた材料液の液滴を液滴吐出ヘッドのノズルから基板上に吐出して塗布し、配向膜を成膜する成膜方法であって、
前記基板上に前記配向膜材料を溶解可能な処理液を塗布する処理液塗布工程と、
前記基板上に塗布した前記処理液上に前記材料液を塗布する材料液塗布工程と、
を有することを特徴とする配向膜の成膜方法。
【請求項2】
前記処理液塗布工程において前記処理液が塗布される処理液塗布領域を、前記材料液塗布工程において前記材料液が塗布される材料液塗布領域と等しいかまたは少なくとも一部が重なることを特徴とする請求項1記載の配向膜の成膜方法。
【請求項3】
前記処理液塗布工程において前記処理液が塗布される処理液塗布領域を、前記液滴吐出ヘッドの走査方向と直交する方向の端部の前記ノズルが対向し通過する前記基板上のヘッド端部通過領域とすることを特徴とする請求項1記載の配向膜の成膜方法。
【請求項4】
前記ヘッド端部通過領域は、前記材料液塗布工程において前記液滴が重なって配置される領域を含むことを特徴とする請求項3記載の配向膜の成膜方法。
【請求項5】
前記処理液塗布工程において、前記溶媒よりも前記配向膜材料に対する溶解性が高い前記処理液を塗布することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の配向膜の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−142736(P2009−142736A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321658(P2007−321658)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】