説明

配管の内周面に亀裂を導入する方法

【課題】径に対して肉厚が薄い配管であっても配管や装置の大形化を避け、かつ、他の部分を損傷させないで、良好な試料を得ることができる配管の内周面に亀裂を導入する方法を提供する。
【解決手段】亀裂を有する配管の健全性評価に先立って、該健全性評価に試料として用いられる配管の内周面に亀裂を導入する方法において、機械加工により配管Aの内周面a1の一部に小傷部a2を形成する第一工程と、配管Aの軸心Pを挟んで小傷部a2を形成した部位の反対側の部位における外周面a3を平面支持又は多点支持すると共に、前記小傷部a2を形成した部位又はその近傍の外周面a3に支持方向とは反対方向の集中荷重W1を作用させて小傷部a2の深さ方向先端部に亀裂を発生させる第二工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亀裂を有する配管の健全性評価に先立って、試料として用いられる配管の内周面に亀裂を導入する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、発電プラント等の設備に用いられている金属配管には、引張り応力等により亀裂が発生する場合がある。このような亀裂が発生した配管については、亀裂の進展を予測して配管の健全性(安全性への影響)を科学的・合理的な根拠に基づいて評価して、使用継続可能か否かを判断している。そして、この健全性評価にあたっては、実際の配管と同等のもの又はこれに相似した形状のものに人工的に亀裂を導入した試料が用いられている。
【0003】
従来、上記のような試料に亀裂を導入する方法として、図5に示すように、所謂四点曲げを行う方法が採用されていた。この方法は、配管Bの長手方向の中央の位置における内周面b1の下側に機械加工で小傷部b2を形成して、両端部近傍を下側から二点R1,R2で支持すると共に配管Bの長手方向中央近傍の二点S1,S2で上側からそれぞれ集中荷重W3を繰り返し作用させるものである。つまり、小傷部b2近傍に曲げ応力を発生させることにより、小傷部先端に亀裂を生じさせ、また、この曲げ応力を繰り返し発生させることにより、小傷部のb2の深さ方向に亀裂を進展させて実際の配管と近似した亀裂を導入するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、径に対して肉厚が薄い配管の場合には荷重点近傍が潰れるように変形してしまうので、小傷部近傍に所望の曲げ応力を発生させるためには大きな荷重を作用させなければならない。この際、亀裂を進展させるために大きな荷重を繰返し作用させると荷重点から内部にかけて大きなせん断応力が繰返し発生して、荷重点又はその近傍の部位が疲労損傷してしまうという問題がある。
【0005】
また、小さな荷重で所望の曲げ応力を発生させるためには、配管の支持点と荷重点との長さを大きくしなければならず、長い配管が必要となると共に装置が大形化してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、径に対して肉厚が薄い配管であっても配管や装置の大形化を避け、かつ、他の部分を損傷させないで、良好な試料を得ることができる配管の内周面に亀裂を導入する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る配管の内周面に亀裂を導入する方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明に係る配管の内周面に亀裂を導入する方法は、亀裂を有する配管の健全性評価に先立って、該健全性評価に試料として用いられる配管の内周面に亀裂を導入する方法において、機械加工により前記配管の内周面の一部に小傷部を形成する第一工程と、前記配管の軸心を挟んで前記小傷部を形成した部位の反対側の部位における外周面を平面支持又は多点支持すると共に、前記小傷部を形成した部位又はその近傍の外周面に支持方向とは反対方向の集中荷重を作用させて前記小傷部の深さ方向先端部に亀裂を発生させる第二工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、前記第一工程は、前記小傷部を放電加工により形成することを特徴とする。
また、前記第二工程は、一つの集中荷重を作用させることを特徴とする。
また、前記第二工程は、前記小傷部を設けた部位を挟んで等間隔の位置に二つの集中荷重を作用させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る配管の内周面に亀裂を導入する方法によれば、小傷部を形成した部位の反対側の部位を平面又は多点支持すると共に、小傷部を形成した部位の外周面又はその近傍の外周面から集中荷重を作用させるので、小傷部近傍が大きく曲がり変形する。また、集中荷重が配管の潰れ変形のみに作用し、小さい荷重であっても大きい曲げ応力が小傷部近傍に発生する。これにより、亀裂を発生・進展させる曲げ応力を確保しつつ、この曲げ応力の発生に必要な集中荷重を小さくすることができる。また、小さい荷重で小傷部に亀裂を導入することができるので、配管の長さや装置を大形化させる必要がなく、荷重点に疲労損傷が生じることもない。従って、径に対して肉厚が薄い配管であっても配管や装置の大形化を避け、かつ、他の部分を損傷させないで、良好な試料を得ることができる。
【0010】
また、小傷部を放電加工により形成するので、微細な小傷部を得ることができる。これにより、実際の配管と近似した所望の亀裂を導入することができる。
【0011】
また、一つの集中荷重を作用させるので、小さい荷重で効率よく大きい曲げ応力を発生させることができると共に、荷重を作用させる装置をコンパクトに構成することができる。
【0012】
また、二つの集中荷重を作用させるので、二つの集中荷重の荷重点を結んだ直線上に同一の軸方向応力が均等に作用する。これにより、内周面に均等に曲げ応力を作用させることができ、亀裂を安定して導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る配管の内周面に亀裂を導入する方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る配管Aを示す図であって、図1(a)は、一部断面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるI-I線断面図である。なお、配管Aの軸心をPとする。
【0014】
本実施形態では、発電プラントにおける水等の管路として使用され、内周面に亀裂が発生した配管(以下、「実機配管」とする。)の健全性評価に先立って、この健全性評価に試料として用いられる配管Aに亀裂を導入するものである。
【0015】
配管Aは、実機配管と外径D及び肉厚tが同一のものである。配管Aは、実機配管内に作用する圧力が高圧力ではないので、外径Dに対して肉厚tが薄いものとなっている。また、軸心Pの方向における長さLは、比較的に短いものとなっている。
【0016】
本実施形態では、配管Aの内周面a1に小傷部a2を形成した後に、外周面a3から一点押し機で集中荷重W1を作用させて、小傷部a2に亀裂を発生させる。
一点押し機(不図示)は、所望の集中荷重W1で部材を上側から一点で押すことができるものであり、平面に戴置された部材に対して集中荷重W1を作用させることができるものである。この一点押し機は、比較的に小型に構成されている。なお、集中荷重W1の値は、適宜選択される。
【0017】
以下、本発明に係る配管Aの内周面a1に亀裂を導入する方法について、図1から図3を用いて説明する。図2は、集中荷重W1により変形した配管Aを示す図であり、図3は、小傷部a2を拡大した図であって、亀裂Cの進行を示す図である。
【0018】
まず、図1に示すように、配管Aの内周面a1の一部に略円周方向に沿って小傷部a2を形成する。
小傷部a2は、放電加工によって形成し、内周面a1から深さd(図3(a)参照)を有するように、また、小傷部a2の幅長さ(配管Aの長手方向)が微小になるように形成する。
【0019】
次に、配管Aの軸心Pを挟んで小傷部a2を形成した部位と反対側の部位における外周面a3を平面支持する。具体的には、小傷部a2が形成された部位が上側に位置し、また、配管Aが転動しないように、一点押し機に配管Aをセットする。このとき、配管Aに対して小傷部a2が形成された部位の外周面a3側から集中荷重W1が作用するようにセットする。
【0020】
次に、小傷部a2を形成した部位の外周面a3から集中荷重W1を作用させる。
このとき、図2に示すように、配管Aが集中荷重W1の作用により潰れるように変形する。その変形量は、配管Aの上側半分が大きく、軸心Pの方向においては、集中荷重W1の荷重点を含む断面が一番大きくなっている。
【0021】
また、軸心Pの方向において、配管Aの外周面a3には(圧縮)曲げ応力σ1が発生すると共に、小傷部a2が形成された内周面には(引張り)曲げ応力σ2が発生する。この際、配管Aを平面支持しているので、集中荷重W1が配管A全体としての曲がり変形に作用することなく潰れ変形のみに作用する。
【0022】
図3(b)に示すように、この曲げ応力σ2が、小傷部a2の深さ方向の先端部に亀裂Cを発生させる。すなわち、配管Aの内周面a1に発生する曲げ応力σ2を小傷部a2の亀裂開口応力として利用し、小傷部a2の先端部に応力を集中させて亀裂Cを生じさせる。
さらに、図3(c)に示すように、この集中荷重Wを繰り返し作用させることで、小傷部a2に発生した亀裂Cが深さ方向に進展する。
【0023】
そして、集中荷重W1を繰り返し作用させて、亀裂Cが実機配管の亀裂と近似した所定の長さに達した後に一点押し機から配管Aを取り除いて、健全性評価が行われる。
【0024】
このように、本実施形態によれば、小傷部a2を形成した部位の反対側の部位を平面支持すると共に、小傷部a2を形成した部位の外周面a3から集中荷重W1を作用させるので、小傷部a2近傍が大きく曲がり変形する。また、集中荷重W1が配管Aの潰れ変形のみに作用し、小さい荷重W1であっても大きい曲げ応力σ2が小傷部a2近傍に発生する。これにより、亀裂Cを発生・進展させる曲げ応力σ2を確保しつつ、この曲げ応力σ2の発生に必要な集中荷重W1を小さくすることができると共に、荷重点の疲労損傷を防止することができる。また、小さい荷重で小傷部a2に亀裂Cを導入することができるので、配管Aの長さLや一点押し機を大形化させる必要がない。従って、外径Dに対して肉厚tが薄い配管Aであっても配管Aや装置の大形化を避け、かつ、他の部分を損傷させないで、良好な試料を得ることができる。
【0025】
また、小傷部a2を放電加工により形成するので、微細な小傷部a2を形成することができる。これにより、実機配管と近似した所望の亀裂Cを導入することができる。
【0026】
また、小傷部a2を設けた部位の外周面a3側から集中荷重W1を作用させるので、小さい集中荷重W1で効率よく大きい曲げ応力σ2を発生させることができる。これにより、集中荷重W1を作用させる装置を一点押し機のようにコンパクトなものとすることができる。
【0027】
図4は、上記実施形態の変更例を示す図である。図において、図1〜3までと同一の構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する。
この変更例では、図4に示すように、軸心Pの平行線上において、小傷部a2を設けた部位を挟んで等間隔の位置Q1,Q2に二つの集中荷重W2を作用させている。これら二つの集中荷重W2の荷重点を結んだ直線上には同一の軸方向応力が均等に作用することとなる。
【0028】
これにより、上述した効果を得られるほか、小傷部a2が形成された内周面a1に安定して曲げ応力を作用させることができ、小傷部から亀裂Cを安定して導入していくことができる。
【0029】
なお、上述した実施形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0030】
例えば、上記実施形態では、放電加工により小傷部a2を形成したが、他の機械加工(例えば、切削加工)によって小傷部を形成しても亀裂Cを導入することが可能である。
【0031】
また、上述した実施形態では、小傷部a2を形成した部位の外周面a3又は小傷部a2を挟んで等間隔の位置を荷重点としたが、小傷部a2を形成した部位近傍の外周面a3から集中荷重を作用させてもよい。
【0032】
また、上述した実施形態では、軸心Pが水平となるように配管Aを固定したが、これに限られない。軸心Pが水平でなくても、軸心Pの直交方向に支持及び荷重を作用させれば、亀裂Cを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る配管Aを示す図であって、図1(a)は、一部断面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるI-I線断面図である。
【図2】本発明の一実施形態において、集中荷重W1により変形した配管Aを示す図である。
【図3】本発明の一実施形態において、亀裂Cの進行を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態の変更例を示す図である。
【図5】従来の四点曲げによる亀裂導入方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
A…配管
P…軸心
W1,W2…集中荷重
a1…内周面
a2…小傷部
a3…外周面
C…亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亀裂を有する配管の健全性評価に先立って、該健全性評価に試料として用いられる配管の内周面に亀裂を導入する方法において、
機械加工により前記配管の内周面の一部に小傷部を形成する第一工程と、
前記配管の軸心を挟んで前記小傷部を形成した部位の反対側の部位における外周面を平面支持又は多点支持すると共に、前記小傷部を形成した部位又はその近傍の外周面に支持方向とは反対方向の集中荷重を作用させて前記小傷部の深さ方向先端部に亀裂を発生させる第二工程と、
を有することを特徴とする配管の内周面に亀裂を導入する方法。
【請求項2】
前記第一工程は、前記小傷部を放電加工により形成することを特徴とする請求項1に記載の配管の内周面に亀裂を導入する方法。
【請求項3】
前記第二工程は、一つの集中荷重を作用させることを特徴とする請求項1又は2に記載の配管の内周面に亀裂を導入する方法。
【請求項4】
前記第二工程は、前記小傷部を設けた部位を挟んで等間隔の位置に二つの集中荷重を作用させることを特徴とする請求項1又は2に記載の配管の内周面に亀裂を導入する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−168608(P2009−168608A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6795(P2008−6795)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】