説明

配管内部被覆層の剥離箇所検出方法

【課題】 内部をゴムライニングやグラスライニング等の被覆が施された配管等において、被覆層が剥離した箇所と剥離していない箇所とを感知して配管内部の被覆層の剥離箇所を検出する。
【解決手段】 腐食性媒体を通じる配管の検査において、内面に被覆層を有する配管の外表面側から赤外線サーモグラフィーにて配管内面の温度分布を感知することにより、剥離箇所を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部をゴムライニング等で被覆した被覆層を有する配管等の剥離検査に適用されるものであり、配管外表面側から赤外線サーモグラフィーにて被覆層の温度分布を感知することにより、剥離箇所と非剥離箇所の状態変化を検出することを特徴とする配管内部被覆層の剥離箇所検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場プラントでは、配管を通じて、種々の媒体を反応槽や貯蔵タンクに輸送している。その媒体には高濃度苛性やハロゲンガスを含む液体等の高い腐食性を有する媒体が数多く含まれ、直接配管を通して送液すると配管内部が腐食され、配管から漏液すると甚大なトラブルを生じることになる。このようなトラブルを防ぐため、配管内部をゴムライニングやグラスライニング等の耐食性を有する被覆材で覆うという方法が数多く採用されている。
【0003】
しかしながら、これらの被覆層も長時間腐食性の媒体に接触し続けると、劣化して剥離等を起こし、効力を失くすことがある。
【0004】
従って、ある一定期間毎に、被覆層の剥離状態を検査する必要がある。
【0005】
従来、配管内部の被覆層の剥離箇所を検出する方法としては、配管外面からの超音波探傷法、もしくは放射線による透過探傷法、またはファイバースコープなどを用いて、配管内部を直接観察する方法が一般的に採用されている。
【0006】
配管外面からの超音波探傷法は、表面の付着灰や酸化スケールを除去した後、探触子を管表面に当てて肉厚計測を行いながら、減肉部の探傷を行う。
【0007】
また、放射線透過探傷法は、管外面の一方向にフィルムを置き、他方向から放射線源を照射し、フィルムに映った陰影を現像後、観察して、減肉部を探傷する方法である。
【0008】
ファイバースコープなどによる配管内面直接観察法は、配管の一部を取り外し、当該部からファイバースコープやテレビカメラを入れ、連続的に内面を観察する方法である。
【0009】
上記従来の配管外面からの超音波探傷法では、超音波の大部分が異界面で反射すると云う特性をもっているため、表面(外面)に付着した灰や酸化スケールを強制的に除去しなければならない。また、配管に直接探触子を当てる必要があるため、ラック上では足場仮設等の安全対策が必要となり、労力、時間、費用が嵩むことになる。また、探傷範囲が付着灰や酸化スケールを除去した部位に限定される。さらに、局部的な減肉部を検出するためには精査が必要である。
【0010】
配管内面からの超音波探傷法では、配管内に探触子を入れるために、探傷する配管の一部を切断する必要がある。そのため、探傷終了後に当該部の溶接復旧作業が必要となる。また、探触子を配管内面に接触させる機構や移動機構、長尺のリード線などが必要であり、設備が複雑で大がかりとなる。
【0011】
放射線透過探傷法では、放射線による人体への悪影響が懸念されるため、人払いを行い、併行作業を禁止する措置や夜間の作業が要求され、作業者の待ち時間が増加したり、作業時間が制限されたりする。また、結果が得られるまでにフィルム現象・観察の時間を要し、作業、判定には特殊技能(非破壊試験技術者資格)を要する。さらに、1回の探傷範囲が狭く、配管全体を確認するには方向を変えて撮影する必要があるため、労力、時間、費用が嵩み、広範囲を探傷する場合には現実的な手段とは云えない。
【0012】
ファイバースコープによる内面直接観察法も、配管の一部を取り外したり、その後の復旧作業が必要となるため、記録、観察装置が大掛かりとなる。
【0013】
また、管内面からの減肉を同管外面側から非破壊的な手段によって検出する管の内面腐食検出方法において、上記管内面側に冷、温いずれかの媒体を通じあるいは封入し、上記管の外面側からサーモグラフィーモニターにて減肉部と非減肉部との温度差を感知することによって内面からの減肉部を検出することを特徴とする管の内面腐食検出方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
しかしながら、この方法では、配管内に冷、温いずれかの媒体を通じるか、あるいは封入して、配管の外部からサーモグラフィーモニターで減肉部と非減肉部との温度差を感知しなければならず、効率の良い方法とは云えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平7−218459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、内面がゴムライニングやグラスライニング等により被覆された配管をそのままの状態(運転状態)で検査し、被覆層の剥離箇所を検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明は、腐食性媒体を通じる配管の検査において、内面に被覆層を有する配管の外表面側から赤外線サーモグラフィーにて配管内面の温度分布を感知することにより、剥離箇所を特定することを特徴とする配管内部被覆層の剥離箇所検出方法。特に、腐食性媒体が30〜48重量%の苛性ソーダ水溶液であり、被覆層がゴムライニングであることを特徴とする配管内部被覆層の剥離箇所検出方法に関するものである。
【0018】
本発明によれば、例えばゴムライニングが施された配管内面において、ゴムライニングが剥離した箇所は、配管内を流れる媒体により、局所加熱を受けるため、剥離箇所の感知が容易に行われる。ゴムライニングが施されている配管内面は、ゴムライニングの温度伝達性が悪いために、媒体の温度が配管表面に届く前に冷却され、温度の上昇が少ないのに対し、ゴムライニングが剥離した箇所は、媒体が直接配管と接触するために、媒体の温度が直接配管に伝達され、媒体の温度が低下することなく配管表面の温度を上昇させ、配管外表面を外側から赤外線サーモグラフィーで観察すると、温度差による色の変化を感知でき、配管内におけるゴムライニング等の被覆層の剥離箇所が容易に検知できる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、ゴムライニング等の被覆が施された配管において、配管内部に媒体が流れる運転状態において、配管外側面の温度を外側から赤外線サーモグラフィーで測定することにより、温度差による色の変化を感知でき、配管内部における被覆層の剥離箇所を容易に検知することができる。
【0020】
このため、簡単な作業で、広範囲を短時間で検査でき、配管内部のゴムライニング等の被覆層が剥離した箇所を容易に精度よく検出することができ、高温である30重量%以上の苛性ソーダ水溶液のような腐食性媒体が直接的に配管内部に接触して腐食することを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】食塩電解槽の陰極室から生成した温度88℃、32重量%濃度の苛性ソーダ水溶液を取り出す配管の一部を示す図である。
【図2】イオン交換膜電解槽の陰極室から取り出された32重量%濃度の苛性ソーダ水溶液を貯蔵タンクへ送る配管の全体図である。
【図3】温度変化が存在しない配管において、赤外線サーモグラフィー装置を用いて温度を測定した際の色の分布を示す図である。
【図4】温度変化が存在する配管において、赤外線サーモグラフィー装置を用いて温度を測定した際の色の分布を示す図である。
【図5】上記の温度変化が見られた場所の配管を実際に切り取り、その配管内部の残存厚みを示す図である。
【実施例】
【0022】
本発明の一実施例を図1〜図5により説明する。図1は食塩電解槽の陰極室から生成した温度88℃、32重量%濃度の苛性ソーダ水溶液を取り出す配管の横断面を示す図であり、1の配管の材質はSGP(配管用炭素鋼鋼管)であり、内径254.2mm、厚さ6.6mmの配管を使用し、配管内は2のゴムライニング(天然硬質ゴム)が施されている。
【0023】
赤外線サーモグラフィー装置(株式会社チノー製、形式:携帯用小形熱画像カメラ サーモビジョン 型式:CPA−2200)で、配管の温度を測定する。
【0024】
図2は、上記配管の全体を示す図であり、イオン交換膜法電解槽の陰極室(3)から取り出された32重量%濃度の苛性ソーダ水溶液は、その配管内を通って、苛性ソーダ貯蔵タンク(25)へ送られる。
【0025】
その配管の各所4〜24において、配管の上面及び下面から赤外線サーモグラフィー装置で温度を測定した。
【0026】
各所の温度を測定したところ、配管の下面からの温度測定結果は、8〜14の箇所で示される矩形部を除いて、56〜63℃の温度範囲であり、特に温度分布がなかったのに対し、配管の上面からの温度測定結果は、上記矩形部を除いて、51〜60℃の温度範囲であるが、ある特定の場所(17)は温度が高くなり、特に局所的に71℃と非常に高い温度を示した。
【0027】
高い温度の箇所が存在しない場所を赤外線サーモグラフィー装置により温度を測定した際の色の分布を図3に示す。その図によると、上部は低い温度の緑色となり、温度の高い下部は黄緑色となった。
【0028】
一方、71℃と高い温度が測定された箇所を赤外線サーモグラフィー装置により温度を測定した際の色の分布を図4に示す。その図によると、低い温度の緑色と高い温度の黄緑色の他に、更に高い温度の赤色の箇所(26)が横160mm×縦90mmの範囲で出現した。
【0029】
その場所の配管を実際に切り取って、配管内部の残存厚みを超音波探傷法で測定したところ、図5に示されるように、図4の高温箇所に対応する箇所(27)において、配管内部のゴムライニングが剥離しており、高温である32重量%濃度の苛性ソーダ水溶液が配管の内面に直接接触して配管が減肉し、5.5mm以下の厚みの箇所(28)が長さ360mm、幅35mmの範囲で存在し、最も薄い箇所では4.2mmの厚みしかなかった。
【0030】
以上のことから、配管の外表面から赤外線サーモグラフィー装置を用いて温度を測定すれば、温度分布を容易に検知することが可能であり、その箇所の配管の内部では、ゴムライニングが剥離して、高温である32重量%濃度の苛性ソーダ水溶液のような腐食性媒体が直接的に配管内部に接触して腐食させるという現象が起きていることを前もって検知して防止することが、可能となることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の配管内部被覆層の剥離箇所検出方法は、常温より比較的温度が高い腐食性の媒体を送液し、配管内部をゴムライニングやグラスライニング等の被覆層により腐食等が防止されている配管であれば、如何なる配管にも適用可能であり、広範な使用可能性を有している。
【符号の説明】
【0032】
1:配管
2:ゴムライニング
3:イオン交換膜法電解槽の陰極室
4〜24:苛性ソーダ水溶液送液用配管の各部
8〜14:苛性ソーダ水溶液送液用配管の矩形部
25:苛性ソーダ貯蔵タンク
26:サーモグラフィーで高温が観測された箇所
27:高温が観測された箇所
28:厚みが5.5mm以下の箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食性媒体を通じる配管の検査において、内面に被覆層を有する配管の外表面側から赤外線サーモグラフィーにて配管内面の温度分布を感知することにより、剥離箇所を特定することを特徴とする配管内部被覆層の剥離箇所検出方法。
【請求項2】
腐食性媒体が30〜48重量%の苛性ソーダ水溶液であり、被覆層がゴムライニングであることを特徴とする請求項1に記載の配管内部被覆層の剥離箇所検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−36811(P2013−36811A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171892(P2011−171892)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】