説明

配管施工方法

【課題】架橋ポリエチレン管の成形時や施工時に発生するにおいを低減させ、また、給水給湯管として使用した場合、水ににおいの付着がほとんど無い架橋ポリエチレン管を用いる配管施工方法を提供する。
【解決手段】シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂とし、ポリエチレン100質量部に対し、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.0002〜0.5質量部存在下でシラン化合物0.2〜5質量部を反応させることにより生成するシラングラフトポリエチレン樹脂組成物を成形し、架橋した架橋ポリエチレン管であって、温度上昇遊離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置を用いた測定において、総溶出量の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比が、前記のベース樹脂としてのポリエチレンでMw/Mnが2.51〜8.80であり、前記の架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンでMw/Mnが1.52〜8.17である架橋ポリエチレン管を給水・給湯管として用いる管内滞留水のにおい付着を防止した配管施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形加工性、機械的特性に優れる架橋ポリエチレン管に関し、さらに詳しくは、管内を流す水が臭気を帯びることなく、給水・給湯管用として好適に使用し得る架橋ポリエチレン管を用いる配管施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、耐腐食性、施工性に優れたプラスチック配管材が給水・給湯用の配管として用いられており、特に耐圧性、高温度領域での耐クリープ性に優れている架橋ポリエチレン管を用いることが主流となっている。
ポリエチレンを架橋させる方法の1つとしては、該ポリエチレンに遊離ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフト反応させた後、シラノール縮合触媒と水分の存在下で架橋させるシラン架橋法がある。
【0003】
高密度ポリエチレンをベース樹脂とするシラン架橋ポリエチレン管は耐圧性に優れるため、より水圧が高い水道用配管への適用がなされるようになってきている。とりわけ、耐圧性能向上のため、密度の高いポリエチレンをベース樹脂として使用すると、得られた架橋ポリエチレン管が曲がり難くなり、配管施工がしにくくなる欠点が生じる。
そこで、耐圧性と施工性を兼ね備えた管を得るために、シングルサイト触媒を用いて重合したポリエチレンをベース樹脂として使用するポリエチレン管について多数の特許出願が公開されている(例えば、特許文献1、2参照)。
シングルサイト触媒を用いて重合したポリエチレンは、高分子量成分を多く含むため、マルチサイト触媒を用いて重合したポリエチレンと比較した場合に、同じ密度でも耐久性があり、耐塩素水性も向上する。
【0004】
しかし、前記文献等に記載の材料を用いて管を製造する場合、材料やその分解物に起因する特有のにおいが、成形時の作業環境の悪化をもたらす原因となっている。さらに、前記材料によって製造された管を給水給湯管として利用した場合、水ににおいがつき使用者に不快感を与えることがあった。特に、管内に長時間滞留した水などでは、そのにおいが顕著である。現在までに、においの低減対策が種々なされているが、未だこのにおい問題は解決していない(例えば、特許文献3、4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−277603号公報
【特許文献2】特開昭60−84332号公報
【特許文献3】特開平06−248089号公報
【特許文献4】特開平10−182757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、架橋ポリエチレン管の成形時や施工時に発生するにおいを低減させ、また、給水給湯管として使用した場合、水ににおいの付着がほとんど無い架橋ポリエチレン管を用いる配管施工方法を提供することを目的とする。
さらに、成形性や耐圧性にも優れ、配管施工性や生産性の良好な架橋ポリエチレン管を用いる配管施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み検討した結果、ベース樹脂としてシングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンを採用し、シラングラフト反応の開始剤として作用するラジカル発生剤のうち特定のものがその課題について良い結果をもたらすことが判明した。そこでこれらの知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂とし、ポリエチレン100質量部に対し、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.0002〜0.5質量部存在下でシラン化合物0.2〜5質量部を反応させることにより生成するシラングラフトポリエチレン樹脂組成物を成形し、架橋した架橋ポリエチレン管であって、温度上昇遊離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置を用いた測定において、総溶出量の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比が、前記のベース樹脂としてのポリエチレンでMw/Mnが2.51〜8.80であり、前記の架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンでMw/Mnが1.52〜8.17である架橋ポリエチレン管を給水・給湯管として用いる管内滞留水のにおい付着を防止した配管施工方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に用いられる架橋ポリエチレン管は、においが少なく、かつ、配管施工性や耐圧性に優れ耐久性があり、給水給湯用配管としても、水を管内に滞留させても水へのにおいの付着がほとんど無く、好適な配管施工方法とすることができる。
ベース樹脂とするポリエチレンのMw/Mnが2.51〜8.80及び架橋ポリエチレンのキシレン溶解分の乾燥ポリエチレンのMw/Mnが1.52〜8.17であり、耐圧性や耐久性がより優れ、においの点でも特に好適な架橋ポリエチレン管な配管施工方法とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる架橋ポリエチレン管の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。
本発明に用いられる架橋ポリエチレン管における樹脂組成物のベース樹脂としては、シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンが用いられる。シングルサイト触媒とは、活性点が均一のもので、メタロセン触媒に代表されるような、遷移金属(Ti、Zr、Hf、Ru、V、Cr等)が配位子としてシクロペンタジエニル等の不飽和の環状化合物を持つ構造の化合物である。助触媒としてトリメチルアルミニウムと水との化合物であるメチルアルモキサン(MAO)を用いても良い。
【0010】
ベース樹脂であるシングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンは、密度0.938〜0.950g/cm、メルトフローレート(以下、MFRという)1.0〜7.0g/10minが好適である。さらに好ましくは、密度0.940〜0.947g/cm、MFR2.0〜6.0g/10minが良い。
密度が低ければ得られる管は耐圧性能を満足せず、高すぎると管の施工性が悪くなる。MFRが低ければ、目標架橋度への到達は容易になるが粘度や樹脂圧が上昇し生産性が低下する。高くなり過ぎると、生産性は向上するが分子鎖の絡み合いが少ないため到達架橋度が低下する。
ここで、密度はJIS K7112のD法(試験温度23℃)、MFRはJIS K7210(試験温度190℃、試験荷重21.18N)に準じる方法で測定した値である。
【0011】
本発明に用いられる架橋ポリエチレン管のベース樹脂に用いる、シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンは、温度上昇遊離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置を用いた測定において、総溶出量の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比、Mw/Mnが2.51〜8.80である。本発明に用いられるベース樹脂に対して、その10質量%以下の範囲でマルチサイト触媒で重合されたポリエチレンを含んでいてもよい。
Mw/Mn比が低すぎると成形性が悪く、Mw/Mn比が高すぎると、低分子量成分が多く含まれるためシラングラフト化工程において樹脂臭がするし、また得られるポリエチレン管の衝撃強度が低下する。
【0012】
本発明において、温度上昇溶離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置を用いた測定は、市販の装置を用いて次のように行われる。すなわち、J.Appl.Polym.Sci.,26,4217(1981)に記載されている原理に基づき、まず対象とするポリエチレンを140℃で完全に溶解し、140℃から0℃まで−1℃/分で冷却後、0℃で30分間保持した後測定を行う。測定は、段階的に昇温して、各温度において溶出した成分を分取していき、各温度毎の溶出成分について個別にゲルパーミエーションクロマトグラフの測定を行い、溶出温度毎の分子量分布プロファイルを得る。得られた溶出温度毎の分子量分布プロファイルを全て加算することで、そのポリエチレン全体の分子量分布プロファイルを得ることができる。そのデータより、ポリエチレン全体のMn(数平均分子量)およびMw(重量平均分子量)が求められる。
【0013】
温度上昇溶離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置は、三菱化学製クロス分別クロマトグラフCFCT105Aを用いて、各温度での溶出成分の分子量分布を測定した。測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
カラム構成:Shodex AD−806M/S(昭和電工(株))
GPC測定温度:140℃溶媒:オルトージクロロベンゼン流速:1.0ml/分
試料濃度:0.4h/100m1(酸化防止剤のBHTを0.1%含む)
注入量:0.5ml検出器:赤外検出(3.42μ)
溶出温度:29フラクション
0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,49,52,55,58,61,64,67,70,73,
76,79,82,85,88,91,95,100,120,140℃
コーティング:プレカラムへのコーティング条件は次のとおり140℃から
0℃へ、140分かけて冷却(−1℃/分)
分子量の換算:汎用較正曲線を使用し、ポリエチレンとして分子量に換算した。
【0014】
シラン架橋ポリエチレンをJIS K 6796に従って架橋度を測定すると、未架橋成分がキシレンに溶解する。このキシレン溶解分を回収し、回収した溶液を室温まで冷却させた後、濾過して回収し、80℃で16時間乾燥させるとシラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分のポリエチレンが得られる。
このシラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンは、温度上昇遊離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置を用いた測定において、総溶出量の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比、Mw/Mnが1.52〜8.17である。
Mw/Mnが低すぎるとシラン架橋ポリエチレンの酸化防止剤などの添加物が析出されやすく、管の長期性能が劣る。一方、Mw/Mnが高すぎると樹脂臭がする。
【0015】
本発明に用いられるシラン化合物は、後述するラジカル発生剤の存在下で前記ポリエチレンと反応し、一般式RR’SiY(式中、Rは例えばビニル基、アリル基などの不飽和炭化水素基、またはハイドロカーボンオキシ基、Yはメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基に代表されるアルコキシル基などの加水分解可能な有機基、R’はRまたはYと同様の置換基である)で表される。より具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランなどが挙げられる。シラン化合物の添加量はポリエチレン100質量部に対し、0.2〜5質量部である。
【0016】
本発明において、ラジカル発生剤としてはジ−tert−ブチルパーオキサイド(例えば、日本油脂(株)製、商品名パーブチルD)を用いる。
ラジカル発生剤としてシラン架橋に使用されている公知の2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド等を使用した場合は、架橋ポリエチレン管の作製中に不快な臭気が生じ、また、後記する比較例でも明らかなように管内に滞留する水ににおいが付着する。
これは、ジ−tert−ブチルパーオキサイド(パーブチルD)は、上記のラジカル発生剤と異なり、分子構造中に芳香環を含まないので衛生の点でも問題が少なく、また、反応性が高いので過剰に添加しなくても良く、かつ分解生成物が少ないことによるものと思われる。
ラジカル発生剤であるジ−tert−ブチルパーオキサイドの添加量はポリエチレン100質量部に対し、0.0002〜0.5質量部とする。
【0017】
本発明において、シラン化合物から得られるシラノール類を用いてシラン架橋する。そこで使用するシラノール縮合触媒としては、シラン架橋に用いられるものであれば特に限定されないが、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート、ジオクチルスズジラウレート、スズ(II)オクテート、ナフテン酸スズ、カプリル酸亜鉛、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジイソプロピルチタネート等が挙げられる。シラノール縮合触媒の添加量はポリエチレン100質量部に対し、0.0005〜1質量部が好ましい。
【0018】
本発明における樹脂組成物には以上の成分の他に酸化防止剤、難燃剤、架橋助剤、耐光剤、着色剤、滑剤、防カビ剤、防蟻剤、防鼠剤、充填剤、発泡剤、帯電防止剤、金属劣化防止剤、他の安定剤などの添加物を適量配合しても良い。酸化防止剤としては、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンやペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。酸化防止剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.05〜0.6質量部、さらに0.1〜0.5質量部とすると好ましい。
【0019】
この発明の架橋ポリエチレン管の製造には、一段製造法及び二段製造法のどちらでもよい。
一段製造法で架橋ポリエチレン管を製造する場合は、反応が可能な押出機等を用い、ベース樹脂にシラン化合物、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、シラノール縮合触媒、また必要に応じて酸化防止剤などの添加剤を配合し、押出機内で加熱しながら溶融・混練反応の工程を経て管状に押出し、成形・冷却することでシラングラフトポリエチレン組成物からなる成形管とし、その成形管に水の存在下で適当な熱を加えることでシラノール縮合反応を促進させる架橋処理を施すことで架橋ポリエチレン管を得ることができる。
【0020】
二段製造法で架橋ポリエチレン管を製造する場合は、第一工程で、反応が可能な押出機等の反応器を用いて、ベース樹脂にシラン化合物とジーt−ブチルパーオキサイド、また必要に応じて酸化防止剤などを配合し、ここではシラノール縮合触媒は配合せず、反応器内で加熱しながら溶融・混練・反応させ、ペレット状のシラングラフトポリエチレン組成物を得る。第二工程では、別途ポリエチレンをベース樹脂としたシラノール縮合触媒と必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を配合したマスターバッチを調製し、これと第一工程で得たシラングラフトポリエチレン組成物とを配合し、押出機内で加熱しながら溶融混練の工程を経て、管状に押出し、成形・冷却することでシラングラフトポリエチレン組成物からなる成形管とし、その成形管に水の存在下で適当な熱を加えることでシラノール縮合反応を促進させる架橋処理を施すことで架橋ポリエチレン管を得ることができる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明すると共に、比較例を示し本発明の効果を明瞭にする。
各実施例・比較例で、反応が可能な押出機はスクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機を用いた。製造方法は、シラングラフト工程でシラングラフトポリエチレン、及び触媒/酸化防止剤マスターバッチを各々個別に製造した後、これを押出成形機で混合・押出しし、管状に成形し、次いで水分環境下に曝し、架橋処理を行うことにより架橋ポリエチレン管を製造する二段製造法、及びシラングラフト工程と触媒混合及び管成形工程を一工程に統合した一段製造法の両方を行った。
【0022】
各実施例及び比較例で得られた架橋ポリエチレン管について、におい官能試験を次のように行った。
成形した管に精製水1リットルを入れ、40℃の恒温槽で72時間滞留した。この滞留水について、におい官能試験を3点比較フラスコ法で行った。3点比較フラスコ法とは、3個のフラスコのうち、任意の1個にのみ管内滞留水を入れ、においと味から管内滞留水を当てる方法である。パネラーは50人で行った。
正解率が5%未満のものを「10」判定、5%以上10%未満を「9」判定、10%以上20%未満を「8」判定、20%以上30%未満を「7」判定、30%以上40%未満を「6」判定、40%以上50%未満を「5」判定、50%以上60%未満を「4」判定、60%以上70%未満を「3」判定、70%以上80%未満を「2」判定、80%以上を「1」判定とした。
【0023】
実施例1
シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂として用いた。このポリエチレンの密度は0.941g/cm、MFRは2.3g/10minで、Mw/Mn=2.53である。
【0024】
二段製造法で架橋ポリエチレン管を製造する場合は、上記ポリエチレン100質量部に対し、ビニルトリメトキシシラン1.70質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.01質量部、滑剤0.05質量部を、反応ゾーン温度210℃、ストランドダイ温度222℃に設定した押出機で混練して、ストランド形状に押出し、冷却、カッティングを経て、シラングラフトポリエチレン組成物のペレット状コンパウンドを得た。
次いで、シラングラフトポリエチレン組成物のベースに用いたのと同様のポリエチレン100質量部に対して、ジブチルスズジラウレートを1質量部、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを5質量部配合して、ストランドダイ温度を200℃に設定した押出機を用いて混練して、ストランド形状に押出し、冷却、カッティングを経て、ペレット状の酸化防止剤、及びシラノール縮合触媒マスターバッチを作製した。
シラングラフトポリエチレン組成物100質量部に対して、触媒マスターバッチ5質量部の割合で混練して、パイプダイ温度を222℃に設定した押出機にて管状に押出し、真空成形、冷却を経て、内径10mm、肉厚1.5mmの成形管を得た。得られた成形管を95℃の温水に12時間浸漬し、架橋ポリエチレン管を作製した。
【0025】
一段製造法で架橋ポリエチレン管を製造する場合は、上記ベース樹脂とするポリエチレン100質量部に対し、ビニルトリメトキシシラン1.70質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド(日本油脂(株)製、商品名パーブチルD)0.01質量部、滑剤0.05質量部、上記二段製造方法と同様の触媒マスターバッチ5.09質量部を配合して、反応ゾーン温度を210℃、パイプダイ温度を222℃に設定した押出機にて、加熱しながら溶融、混練、反応を経て、管状に押出し、真空成形、冷却を経て、内径10mm、肉厚1.5mmの成形管を得た。得られた成形管を95℃の温水に12時間浸漬し、架橋ポリエチレン管を作製した。
そして、シラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンが、密度は0.941g/cm、MFRは2.3g/10minで、Mw/Mn=2.04であった。
いずれの管作製工程においても、作業中架橋ポリエチレン特有の不快臭は認められなかった。
管内滞留水のにおい官能試験の結果は、表1に示すとおり「9」判定となった。
【0026】
実施例2
シングルサイト触媒を使用して重合されたポリエチレンをベース樹脂として用いた。この樹脂の密度は0.943g/cm、MFRは5.1g/10minで、Mw/Mn=8.80であり、ビニルトリメトキシシラン1.00質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.006質量部を添加した以外は、実施例1と同様に架橋ポリエチレン管を2種類の方法で作製した。
シラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンが、密度は0.944g/cm、MFRは5.2g/10minで、Mw/Mn=7.30であった。
管作製作業中架橋ポリエチレン特有の不快臭は認められなかった。管内滞留水のにおい官能試験の結果は、「9」判定となった。
【0027】
実施例3
シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂に用いた。この密度は0.938g/cm、MFRは3.8g/10minで、Mw/Mn=2.51であり、ビニルトリメトキシシラン1.40質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.09質量部を添加した以外は、実施例1と同様に管を作製した。
そして、シラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンが、密度は0.938g/cm、MFRは3.8g/10minで、Mw/Mn=1.52であった。
管作製作業中架橋ポリエチレン特有の不快臭は認められなかった。管内滞留水のにおい官能試験の結果は「9」判定となった。
【0028】
実施例4
シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂に用いた。この密度は0.941g/cm、MFRは2.1g/10minで、Mw/Mn=8.38であり、ビニルトリメトキシシラン1.50質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.01質量部を添加した以外は、実施例1と同様に管を作製した。
シラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンが、密度は0.942g/cm、MFRは2.3g/10minで、Mw/Mn=7.90であった。
管作製作業中架橋ポリエチレン特有の不快臭は認められなかった。管内滞留水のにおい官能試験の結果は「9」判定となった。
【0029】
実施例5
シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂に用いた。この密度は0.942g/cm、MFRは6.5g/10minで、Mw/Mn=8.50であり、ビニルトリメトキシシラン1.40質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.20質量部を添加した以外は、実施例1と同様に管を作製した。
シラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンが、密度は0.943g/cm、MFRは6.7g/10minで、Mw/Mn=8.17であった。
管作製作業中及び得られた管に架橋ポリエチレン特有の不快臭がやや認められた。管内滞留水のにおい官能試験の結果は「8」判定となった。
【0030】
実施例6
シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂に用いた。この密度は0.942g/cm、MFRは3.0g/10minで、Mw/Mn=2.57であり、ビニルトリメトキシシラン4.95質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.0002質量部を添加した以外は、実施例1と同様に管を作製した。
シラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンが、密度は0.942g/cm、MFRは4.2g/10minで、Mw/Mn=1.52であった。
管作製作業中架橋ポリエチレン特有の不快臭は認められなかった。管内滞留水のにおい官能試験の結果は「10」判定となった。
【0031】
比較例1〜3
実施例1と同じシングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂とし、ビニルトリメトキシシランの添加量を1.50質量部とした。
ラジカル発生剤を実施例1とは異なり、それぞれ2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂(株)製、商品名パーヘキサ25B)、t−ブチルクミルパーオキサイド(日本油脂(株)製、商品名パーブチルA)、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(日本油脂(株)製、商品名パーブチルP)とし、他は実施例1と同じである。
管内滞留水のにおい官能試験の結果は、それぞれ「5」判定となった。なお、管作製時にはラジカル発生剤の分解生成物特有の不快臭がした。
【0032】
比較例4
実施例1と異なり、マルチサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂として用いた。このポリエチレンの密度は0.941g/cm、MFRは3.5g/10minで、Mw/Mn=4.07である。ビニルトリメトキシシランの添加量を1.50質量部とし、その他については、実施例1と同じである。
得られたシラン架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンが、密度は0.942g/cm、MFRは4.7g/10minで、Mw/Mn=1.82であった。
管内滞留水のにおい官能試験の結果は「3」判定となった。なお、管作製時は、ポリエチレンの不快な樹脂臭が認められた。
【0033】
比較例5〜7
実施例1と異なり、比較例4と同様なマルチサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂とし、ビニルトリメトキシシランの添加量も比較例4と同じ1.50質量部とした。
ラジカル発生剤を実施例1とは異なり、それぞれ2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンとし、他は実施例1と同様にして管を作製した。
管内滞留水のにおい官能試験の結果は、それぞれ「1」、「1」、「2」判定となった。なお、管作製時は、ポリエチレンの樹脂臭に加えて、ラジカル発生剤の分解生成物特有の不快臭がした。
【0034】
前記実施例、比較例をまとめて表1〜3に示す。
シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂とし、ラジカル発生剤としてジ−tert−ブチルパーオキサイドを添加したものは、そのにおい官能試験の結果から、水へのにおいの付着がほとんど無いことが分かった。
たとえ、シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂としても、他のラジカル発生剤を使用した場合、管から水へのにおいの付着はまぬがれ得ない。また、マルチサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂とし、ラジカル発生剤としてジ−tert−ブチルパーオキサイドを添加しても同様ににおいの付着は甚だしい。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンをベース樹脂とし、ポリエチレン100質量部に対し、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.0002〜0.5質量部存在下でシラン化合物0.2〜5質量部を反応させることにより生成するシラングラフトポリエチレン樹脂組成物を成形し、架橋した架橋ポリエチレン管であって、温度上昇遊離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置を用いた測定において、総溶出量の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比が、前記のベース樹脂としてのポリエチレンでMw/Mnが2.51〜8.80であり、前記の架橋ポリエチレンのキシレン溶解分を乾燥させて得られるポリエチレンでMw/Mnが1.52〜8.17である架橋ポリエチレン管を給水・給湯管として用いる管内滞留水のにおい付着を防止した配管施工方法。

【公開番号】特開2008−163327(P2008−163327A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317430(P2007−317430)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【分割の表示】特願2003−25228(P2003−25228)の分割
【原出願日】平成15年1月31日(2003.1.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】