説明

配管機器の作動トルク低減方法と作動トルクを低減させた配管機器並びに作動トルク低減用皮膜形成剤

【課題】配管機器の作動部側と被作動部側との封止性を高めると共に作動部側の摺動性を向上させ、もってシール性とトルク性に優れた配管機器の作動トルク低減方法と作動トルクを低減させた配管機器並びに作動トルク低減用皮膜形成剤を提供することにある。
【解決手段】配管機器の作動部位に位置する作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に作動トルク低減用の形成皮膜を結合させた配管機器の作動トルク低減方法であり、配管機器は、バルブ又は給水栓であり、作動部側は、弁棒又はスピンドルであり、被作動部側はパッキンであり、形成皮膜は、脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブや給水栓などの配管機器の作動トルクの低減方法と作動トルクを低減させた配管機器並びに作動トルク低減用の皮膜形成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、例えば、バルブや給水栓などの配管機器には動力伝達用の弁棒やスピンドル(以下、これらを総称して弁棒という)が取付けられ、この弁棒に流路開閉用の弁体やコマ(以下、これらを総称して弁体という)が設けられ、外部から弁棒を操作して弁体を上下又は左右に動作させることにより、流体を通したり、止めたり、絞ったりできる構造になっている。その際、弁棒とバルブや給水栓を構成しているボデーとの間にはパッキンが装着され、弁棒を作動部側、パッキンをこの作動部側に対する被作動部側とした場合、作動部側の弁棒を被作動部側のパッキンに対して作動させた際にこのパッキンと弁棒とのシールによりバルブ・給水栓内を流れる流体の外部への漏れや、流体への外気の入り込みが阻止される。一般に、弁棒は、耐応力性能の確保のために鋼、ステンレス、銅合金などの金属からなっており、一方、パッキンは、内部流体を外気と遮断したり弁棒の回動の妨げになることを防ぐために、ゴム、高分子、炭素繊維などの有機物からなっていることが多い。
弁棒とパッキンとを組み付ける際には、例えば、弁棒に対してパッキンの締付けが強過ぎると、弁棒とパッキンとが相互に強く密着することで内部流体と外気とを遮断する封止性は向上するが、互いの摺動性が悪くなり操作力が大きくなる。このことから、弁棒とパッキンとを組み付ける場合には、これらの封止性を向上させつつ、摺動性を確保して弁棒から弁体に少ない力で動力を伝えるという矛盾した2つの機能を満たしながら操作性を高めることが要求されている。
【0003】
このような理由から、一般的には弁棒とパッキンとの間には潤滑油を塗布することが多く、この潤滑油としては、低重合ポリエチレン、パラフィン、ワックスと総称される一般式がC2n+2で表される脂肪族の鎖式炭化水素が主成分であることが多い。
更に、特許文献1の弁装置においては、弁軸の摺動箇所に潤滑油であるグリスを供給するための潤滑油供給部材、外部よりグリスを弁軸に注入するためのグリス注入孔が設けられ、これらを介して弁軸にグリスを補給するようになっている。
一方、特許文献2においては、樹脂と樹脂、樹脂と金属との間の潤滑性を向上するために設けられる樹脂潤滑用グリース組成物が開示されている。この潤滑油であるグリース組成物は、基油とグリース基材に飽和若しくは不飽和の脂肪酸が添加され、この飽和若しくは不飽和の脂肪酸により潤滑膜を形成維持しやすくすることで、摩擦を低減して良好な潤滑性を得ようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3294179号公報
【特許文献2】特開2010−37529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脂肪族の鎖式炭化水素を主成分とする潤滑油や特許文献2のグリース組成物などの潤滑油を用いることにより、作動部側の弁棒と被作動部側のパッキンとの潤滑性を維持しようとする場合には、これらの潤滑油が弁棒とパッキンとの摺動の繰り返しによって失われ、特に、バルブの使用環境が高温下であると、潤滑油の粘度が低下することでこれらの消耗がさらに激しくなる。潤滑油が不足すると作動トルクが増大し、バルブ開閉の負担が大きくなるため、これを防ぐために潤滑油の不足に応じた補給が必要になる。しかも、潤滑油を弁棒に直接塗布する場合には、バルブを分解する必要が生じ、摺動部分の表面全体に潤滑油を行き渡らせるように塗布する必要がある。一方、特許文献1の弁装置のように、グリス注入孔を介して弁棒に潤滑油を補給する場合には、この補給部分をバルブに予め形成する必要があるため構造が複雑化したり全体の大型化につながる。
上記の潤滑油による各種の問題は、配管機器がバルブや給水栓である場合に限らずこれら以外の作動部側と被作動部とを有する配管機器の場合にも同様に生じるおそれがある。
【0006】
ただし、いずれの場合も摺動部にC2n+2で表される脂肪族鎖式炭化水素が主成分であることには変わりはなく、従来から行ってきた摩擦や摩耗の低減にほかならない。
【0007】
一方、配管機器が給水栓や給水用途のバルブである場合、特許文献1に示された一般的な潤滑油や特許文献2に示された鉱物油、合成油及びこれらの混合油から成る基油であってはならない。これらは、水道水が油臭くなるだけでなく、摂取すると人体に有害な物質も含んでいるからである。
【0008】
また、食材としても取り扱われる特許文献2に示された動植物油を単に潤滑油として用いると、この潤滑油が水道水中に浸出し、例えば、水質基準で定められた全有機炭素であるTOC(Total Organic Carbon)の値が高まるリスクが生じる。
特に、食品関連で使用されるバルブにおいては、潤滑油が相応しくない場合が多いため潤滑油を使用しないことも考えられるが、この場合には上記のように作動トルクが増大し、バルブ開閉の負担が増加することになるため実用性が低下する。
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑み、鋭意検討の結果開発に至ったものであり、その目的とするところは、潤滑油を使用することなく配管機器の作動部側と被作動部側との封止性を高めると共に作動部側の摺動性を向上して優れた操作性を維持し、配管機器の複雑化・大型化や流体の水質への悪影響を防ぐことができる配管機器の作動トルク低減方法と作動トルクを低減させた配管機器並びに作動トルク低減用皮膜形成剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、配管機器の作動部位に位置する作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に作動トルク低減用の形成皮膜を結合させた配管機器の作動トルク低減方法である。
【0011】
請求項2に係る発明は、配管機器は、バルブ又は給水栓であり、作動部側は、弁棒又はスピンドルであり、被作動部側はパッキンである配管機器の作動トルク低減方法である。
【0012】
請求項3に係る発明は、形成皮膜は、脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成される配管機器の作動トルク低減方法である。
【0013】
請求項4に係る発明は、脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、或は直鎖不飽和脂肪酸である配管機器の作動トルク低減方法である。
【0014】
請求項5に係る発明は、形成皮膜は、配管機器の作動部位の作動トルク低減機能と、構成される成分の水道水への溶出防止機能とを有する配管機器の作動トルク低減方法である。
【0015】
請求項6に係る発明は、形成皮膜は、非水溶性である配管機器の作動トルク低減方法である。
【0016】
請求項7に係る発明は、作動部位に位置する作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に作動トルク低減用の形成皮膜を結合させた配管機器である。
【0017】
請求項8に係る発明は、作動部側は、弁棒又はスピンドルであり、被作動部側はパッキンであり、これらの作動部側と被作動部側とを有するバルブ又は給水栓からなる配管機器である。
【0018】
請求項9に係る発明は、形成皮膜は、脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成される配管機器である。
【0019】
請求項10に係る発明は、脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、或は、直鎖不飽和脂肪酸である配管機器である。
【0020】
請求項11に係る発明は、形成皮膜は、作動部位の作動トルク低減機能と、構成される成分の水道水への溶出防止機能とを有する配管機器である。
【0021】
請求項12に係る発明は、形成皮膜は、非水溶性である配管機器である。
【0022】
請求項13に係る発明は、配管機器の作動部位に位置する作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に結合させて作動トルクを低減させることを可能にした皮膜形成剤である。
【0023】
請求項14に係る発明は、配管機器は、バルブ又は給水栓であり、作動部側は、弁棒又はスピンドルであり、被作動部側はパッキンである皮膜形成剤である。
【0024】
請求項15に係る発明は、脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成される皮膜形成剤である。
【0025】
請求項16に係る発明は、脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、或は直鎖不飽和脂肪酸である皮膜形成剤である。
【0026】
請求項17に係る発明は、作動部位の作動トルク低減機能と、構成される成分の水道水への溶出防止機能とを有する皮膜形成剤である。
【0027】
請求項18に係る発明は、非水溶性である皮膜形成剤である。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に係る発明によると、作動トルク低減用の形成皮膜を結合することにより、配管機器の作動部側と被作動部側との封止性を高めると共に作動部側の摺動性を向上して優れた操作性を維持し、配管機器が複雑化したり大型化することを防ぎ、潤滑油を使用する必要がないため流体の水質に悪影響を及ぼす成分の浸出を防いで食品関連における使用にも適した配管機器を設けることができる。
【0029】
請求項2に係る発明によると、バルブの弁棒又は給水栓のスピンドルと、パッキンとを強く密着させて内部を流れる流体と外気とを遮断し、内部流体が外部に漏れたり内部流体への外気の浸入を防ぎつつ、弁棒やスピンドルとパッキンとの摺動性を高くしてこれらを介して弁体やコマに少ない力で動力を伝達して作動性を向上できる。
【0030】
請求項3又は4に係る発明によると、作動部側や被作動部側の損耗を防ぎつつ、互いの封止性と摺動性とを高め、内部流体への悪影響を最小限に抑えて内部流体の水質を維持できる。
【0031】
請求項5に係る発明によると、作動トルク低減機能により少ない動力で配管機器の作動部側を容易に操作可能にしつつ、溶出防止機能により形成皮膜の水道水への溶出を防いで水質を維持できる。
【0032】
請求項6に係る発明によると、形成皮膜が非水溶性であることにより、スケールやミネラル分などの流体の含有物の形成皮膜への付着を防いで封止性と摺動性を維持できる。
【0033】
請求項7に係る発明によると、作動トルク低減用の形成皮膜を結合することにより作動部側と被作動部側との封止性を高めると共に作動部側の摺動性を向上して優れた操作性を維持し、構造の複雑化や大型化を防ぎ、潤滑油を使用する必要がないため流体の水質に悪影響を及ぼす成分の浸出を防ぐことができ、食品関連における使用にも適している。
【0034】
請求項8に係る発明によると、弁棒又はスピンドルとパッキンとを強く密着させて内部流体と外気とを遮断し、内部流体が外部に漏れたり内部流体への外気の浸入を防ぎつつ、弁体やスピンドルとパッキンとの摺動性を高くしてこれらを介して弁体やコマに少ない力で動力を伝達して作動性を向上できる。
【0035】
請求項9又は10に係る発明によると、作動部側や被作動部側の損耗を防ぎつつ、互いの封止性と摺動性とを高め、内部流体への悪影響を最小限に抑えて内部流体の水質を維持できる。
【0036】
請求項11に係る発明によると、作動トルク低減機能により少ない動力で作動部側を容易に操作可能にしつつ、溶出防止機能により形成皮膜の水道水への溶出を防いで水質を維持できる。
【0037】
請求項12に係る発明によると、形成皮膜が非水溶性であることにより、スケールやミネラル分などの流体の含有物の形成皮膜への付着を防いで封止性と摺動性を維持できる。
【0038】
請求項13に係る発明によると、配管機器の作動部側と被作動部側との封止性を高めると共に作動部側の摺動性を向上させて優れた操作性を維持し、配管機器の構造が複雑化したり大型化することを防ぎ、潤滑油を使用する必要がないため流体の水質に悪影響を及ぼす成分の浸出を防ぐことができ、食品関連における使用にも適している。
【0039】
請求項14に係る発明によると、バルブの弁棒又は給水栓のスピンドルとパッキンとを強く密着させて内部流体と外気とを遮断し、内部流体が外部に漏れたり内部流体への外気の浸入を防ぎつつ、弁棒やスピンドルとパッキンとの摺動性を高くしてこれらを介して弁体やコマに少ない力で動力を伝達して作動性を向上できる。
【0040】
請求項15又は16に係る発明によると、配管機器の作動部側や被作動部側の損耗を防ぎつつ、互いの封止性と摺動性とを高め、配管機器の内部流体への悪影響を最小限に抑えて内部流体の水質を維持できる。
【0041】
請求項17に係る発明によると、作動トルク低減機能により少ない動力で配管機器の作動部側を容易に操作可能にしつつ、溶出防止機能により水道水への溶出を防いで水質を維持できる。
【0042】
請求項18に係る発明によると、非水溶性であることによりスケールやミネラル分などの流体の含有物の付着を防いで封止性と摺動性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】FT−IRによる銅とオレイン酸の結合結果を示したグラフである。
【図2】FT−IRによる銅とリノール酸の結合結果を示したグラフである。
【図3】ボールを取り除いたボールバルブを示す一部切欠き正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に、本発明における配管機器の作動トルク低減方法と作動トルクを低減させた配管機器並びに作動トルク低減用皮膜形成剤の実施形態を詳細に説明する。
本発明の配管機器の作動トルク低減方法は、配管機器の作動部位に位置する作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に作動トルク低減用の形成皮膜を結合させ、これにより設けた配管機器の作動トルクを低減するものである。
【0045】
配管機器は、例えば、バルブ又は給水栓であり、この場合には作動部側がバルブの弁棒又は給水栓のスピンドルであり、被作動部側がパッキンとなる。そして、作動部側である弁棒又はスピンドルを上下動や回転操作することにより、これらが被作動部側であるパッキンに対して摺動しながら動作するようになっている。配管機器は、作動部側が被作動部側に対して作動する作動部位を有する構成であれば、バルブや給水栓に限ることはなく、これら以外の水栓機器やその他の各種の配管機器であってもよく、当該配管機器の作動部、この作動部側に対する被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に形成皮膜を設けるようにすればよい。
【0046】
また、形成皮膜は、オレイン酸等の脂肪酸、或はテレフタル酸又はテレフタル酸誘導体等の芳香族カルボン酸を含む成分により構成される。
このうち、脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、或は直鎖不飽和脂肪酸からなっている。
【0047】
形成皮膜は、バルブ又は給水栓の作動部位である弁棒又はスピンドルの作動トルク低減機能と、構成される成分の水道水への溶出防止機能とを有している。
さらに、形成皮膜は非水溶性であり(撥水機能を有しており)、この非水溶性であることにより、流体である水道中に含有されるスケールやミネラル分などの含有物が、弁棒又はスピンドル、パッキンの表面などに付着することを防止する。
【0048】
ここで、特にバルブや給水栓などの配管機器は、流体を通したり、止めたり、絞ったりするために流体の流路を開閉可能であり、例えば、エンジンピストンのような速い摺動速度での激しい動きに伴う摩擦を抑制するために潤滑油を用いる場合とは異なる働きが求められている。バルブや給水栓は、遅い摺動速度により内部流体と外気とを遮断する必要がある独特の機能を有する配管機器であるため、本発明においては潤滑油と同様の潤滑性能を持ち、かつ他の物質と結合可能である特性を有している形成皮膜を施すことにより、封止性と摺動性の双方を満足した。
【0049】
形成皮膜を配管機器の作動部位の作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に施すことにより、形成皮膜が作動部位の表面に結合し、これらの結合部位による摺動部位が作動部位、被作動部位に一体に構成される。これによって、潤滑油を塗布する場合のように表面接触部位のムラが発生することがなく、潤滑油の場合に比較して高い潤滑性を発揮しつつ封止性を高めることが可能になる。しかも、潤滑油のように補給することなく作動部位の潤滑性と封止性とを形成皮膜の接触により維持できるため、潤滑油の場合に発生する著しい損耗を確実に防ぐことができる。
【0050】
潤滑油を使用することなく作動トルクを低減できるため、潤滑油が水道水中に浸出することがなく、水質基準で定められたTOCの値を低減できる。このため、配管機器であるバルブや給水栓を食品関連で使用する場合にも、高い水質を維持して安全な水道水等の流体を供給できる。
【0051】
配管機器として、例えば、作動部側をバルブの弁棒又は給水栓のスピンドルとしたときにこの作動部側は鋼、ステンレス、銅合金などの金属製からなり、被作動部側をパッキンとしたときにこの被作動部側はゴム製或は樹脂製などからなるが、これらの作動部側、被作動部側を構成する材料の種類や組み合わせ、作動部位の位置が限定されることはない。このため、主に低速で摺動する配管機器の作動部位を構成していれば、配管機器の各部を構成する作動部側、被作動部側に形成皮膜を設けることが可能である。
【0052】
これにより、配管機器がバルブである場合には、弁棒、パッキン以外にも、ジスクとボデーとを作動部位としてこれらのバルブ部品に形成皮膜を施したり、或はその他のバルブ部品の作動部位に形成皮膜を施すこともできる。例えば、配管機器をゲートバルブとした場合、このゲートバルブのジスクとボデーと何れか一方、或は双方の表面に形成皮膜を施すことができる。
また、配管機器をストレーナとし、このストレーナのスクリーンやボデーなどに形成皮膜を結合すれば、これらに付着するスケールやミネラル分を除去することもできる。
【0053】
更には、配管機器が上記の水道用途のバルブや給水栓の場合、例えば、銅合金製の場合には銅、亜鉛、鉛、ニッケル、カドミウムが、鋳鉄製の場合には鉄、マンガンに形成皮膜が設けられることで弁棒やスピンドル、パッキンに含有される成分の水道水中への浸出を防止する能力も発揮される。
【0054】
形成皮膜を設けるにあたっては、この形成皮膜の成分を水に溶解させるために有機溶剤を用いるとよい。有機溶剤としては、例えば、グリコールエーテル類、アルコール類、アミン類などがあり、グリコールエーテル類としては、例えば、3−メチル3−メトキシブタノール、ブチルセロソルブ等が挙げられ、アルコール類としてはベンジルアルコールなど、アミン類としては、モルホリン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンのようなISO形状を有するアルカノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンのようなシクロ形状を有するアミン、長鎖のアルコールアミンなどが挙げられる。これらのうちの適宜の有機溶剤を用いればよい。
【0055】
上記の形成皮膜を構成する成分として、例えば、脂肪酸を用いた場合には、この脂肪酸は、一般的な潤滑油の場合と同様に鎖式の脂肪側鎖を有し、かつ他の物質と結合しうるカルボキシル基側鎖を合わせ持つことが可能になる。これにより、例えば、弁棒又はスピンドル、パッキンのいずれか一方又は双方の表面に脂肪酸を結合させることで潤滑油のような著しい損耗を防ぎ、一方で、互いが摺動する部分において鎖式の脂肪側鎖により封止性を高めることができる。このため、長期に渡って封止性と摺動性を維持できる。さらには、水質基準で定められたTOCも配慮した場合、非水溶性である脂肪酸は、水質向上の点からも好ましい。
【0056】
なお、後述するように、芳香族カルボン酸を用いて形成皮膜を設ける場合にも、カルボキシル基側鎖が設けられる。
これらのように形成皮膜を脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成することで、カルボン酸であるカルボキシル基が存在することになる。カルボン酸分子は極性が高く、アルコール分子のように互いに、また多種の分子と水素結合を形成する物理的性質を有している。
【0057】
脂肪酸は、通常、天然に豊富に存在する動植物から採集されることが多いため、いくつかの脂肪酸が混在して存在する場合がほとんどである。但し、脂肪酸は、潤滑性を高めるための鎖式の脂肪側鎖と、他の物質と結合しうるカルボキシル基側鎖を有していればよいため、例えば、代表として以下の表1〜表7に示した物質を単体で使用したり、或は表中の任意の物資を混合した混合物を使用することができる。本発明における脂肪酸の例として、表1に直鎖飽和脂肪酸の例、表2〜表7に直鎖不飽和脂肪酸の例を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
【表7】

【0065】
ここにいう表2〜表7の直鎖不飽和脂肪酸とは、1つ以上の不飽和の炭素結合をもつ脂肪酸である。これらの不飽和脂肪酸は天然に多く見られ、不飽和の数によって分けられる。不飽和の炭素結合が炭化水素鎖中に1つあるものは、モノエン酸、1価不飽和脂肪酸、あるいはモノ不飽和脂肪酸と言う。複数の不飽和の炭素結合が炭化水素鎖中にあるものは、非共役ポリエン酸、多価不飽和脂肪酸といい、具体的には表に示したように、2つあるものはジ不飽和脂肪酸、3つあるものはトリ不飽和脂肪酸、4つあるものはテトラ不飽和脂肪酸、5つあるものはペンタ不飽和脂肪酸、6つあるものはヘキサ不飽和脂肪酸という。
【0066】
この場合、不飽和の炭素結合の数が多いほど融点が低くなる。このことは、寒冷地に生息する魚類など変温動物にとって有利に働くことから、イワシに由来するイワシ酸やニシンに由来するニシン酸などがある。しかし、一方で不飽和炭素結合の数が多いほど自動酸化されやすく油脂の劣化が早く、工業化として皮膜剤の安定管理が難しくなる。しかも、天然での存在量が少ないため高額で、量産化に向けては皮膜が高コスト化してしまい不向きである。このため、形成皮膜の成分として用いる場合、モノ不飽和脂肪酸やジ不飽和脂肪酸が適しているといえる。
【0067】
上記表1〜表7において、脂肪酸は、IUPAC命名法によるIUPAC名と、それ以前より名前があるものは慣用名として2つが併用されているため、このIUPAC名と慣用名とを併記した。天然物より産出されることの多い不飽和脂肪酸は、一般的に飽和脂肪酸や異なる不飽和脂肪酸が不可避不純物として混入することもあるが、作用に大きな悪影響を及ぼすことはない。表1においては直鎖飽和脂肪酸、表2においてはモノ不飽和脂肪酸、表3においてはジ不飽和脂肪酸、表4においてはトリ不飽和脂肪酸、表5においてはテトラ不飽和脂肪酸、表6においてはペンタ不飽和脂肪酸、表7においてはヘキサ不飽和脂肪酸の例をそれぞれ示した。
【0068】
続いて、脂肪酸、芳香族カルボン酸を含む成分により、それぞれ形成皮膜を構成した場合のカルボキシル基側鎖による結合について説明する。
バルブ部品の弁棒である金属部分に脂肪酸による形成皮膜を設ける際には、以下のような反応が加わることとなる。

R−COOH+Me→R−COO−Me

ここで、Rは鎖式の脂肪側鎖、COOHはカルボキシル基側鎖、Meは任意金属である。
また、結合反応には、貴な金属元素ほど熱エネルギーが必要であるが、アルミニウムやクロム、又はステンレス合金のように、酸素によって不動態酸化皮膜が形成される金属元素、並びに合金には結合しない。
【0069】
これは、単に脂肪酸、芳香族カルボン酸を含む成分を潤滑油として添加することとは異なる。この違いはFT−IRで確認することができる。FT−IRとは、フーリエ変換赤外分光光度計でフーリエ変換を利用して赤外光の各波長における強度分布を調べる装置である。赤外分光法とは、測定物質に赤外線を照射し透過光を分光することでスペクトルを得て対象物を見分けるものである。この赤外分光法において、スペクトルは分子固有の形を示す。
【0070】
たとえば、銅上のオレイン酸について図1に示した。単にオレイン酸が銅上に存在しているだけであれば、FT−IRによりカルボキシル基の特徴を示す1750cm−1付近の独立峰ピークがはっきりと現れる。しかし、本発明では結合反応により形成皮膜を構成するため、FT−IRにより1750cm−1の独立峰ピークは全く見られず、新たな場所に別のピークが現れる。合わせて図1より、オレイン酸による形成皮膜の場合、FT−IRピークの変形度合の比較より200℃まで耐熱性があることがわかる。
【0071】
また、銅上のリノール酸について図2に示した。オレイン酸と同様に結合反応により形成皮膜を確認することができた。なお、リノール酸の形成皮膜の場合、100℃まで耐熱性があることがわかる。
【0072】
一方、バルブ部品のパッキンである有機物部分に対しては、添加剤や主成分として加えられる有機物内にあるアミノ基のようなカルボキシル基と反応しやすい部分と結合する。

R−COOH+NH−X→R−COO−NH−X

ここで、NHは有機物内にあるアミノ基、Xは任意有機物である。
【0073】
このように、摺動し合う弁棒、パッキンのいずれか一方又は双方の表面に脂肪酸を結合させることで、鎖式の脂肪側鎖で覆うことにより潤滑油と同様に潤滑性を高めると共に、内部流体の封止性を高めることができる。
【0074】
上記の脂肪側鎖を有する脂肪酸に対して、ベンゼン骨格を有する芳香族カルボン酸を含む成分により形成皮膜を構成する場合には、例えば、安息香酸を用いて設けることができる。さらに、安息香酸に代えて表面分子にさらに分子を結合させて高分子化させる方法も有効である。芳香族カルボン酸は、脂肪酸に対して平面性が高い特性を有しているため、バルブ部品表面への形成皮膜の結合密度を高めることができ、かつ、ベンゼン骨格が空気中の酸素との反応を拒むため、より酸化により劣化のしにくい形成皮膜を施すことができる。
【0075】
芳香族カルボン酸として、ベンゼン骨格にカルボキシル基の付いた安息香酸を基本に、表8にその例を示す。
【0076】
【表8】

【0077】
また、ベンゼン環上に2つのカルボキシル基を持つ芳香族ジカルボン酸誘導体の1つであるテレフタル酸を含む成分により形成皮膜を設ける場合には、このテレフタル酸の分子は、2つのカルボキシル基が対角線上に存在するので、バルブ部品表面と180度反対側の外に向けて高分子化を図ることができる。テレフタル酸を含む成分の一例として、エチレングリコールとテレフタル酸とを用いて脱水縮合反応をおこなうようにすれば、PET皮膜による形成皮膜を設けることができる。PETは、例えば、食器や飲料容器に幅広く用いられているものであるため、PET皮膜による形成皮膜は、水道用途のバルブや給水栓にとって非常に有効である。バルブ部品表面に結合した状態のテレフタル酸の化学式を化1、バルブ部品表面に結合した状態のPET皮膜の化学式を化2に示す。
【0078】
【化1】

【0079】
【化2】

【0080】
上記のテレフタル酸による脱水縮合反応に対して、アミド結合反応を用いて形成皮膜を設けることも可能である。この場合、例えば、アミノ基を有するベンゾトリアゾールを用いてアミド結合反応をおこなうようにすれば、このベンゾトリアゾール分子内のベンゼン骨格に覆われた形成皮膜を設けることできる。ベンゾトリアゾールは、非水溶性であって水を弾く効果(撥水性)を持ったベンゼン環が外側、親水性の基がテレフタル酸と結合した上で内側(バルブ部品表面側)に向きながらバルブ部品に結合する。このため、バルブ部品との密な結合が実現される結果、強固な形成皮膜の形成が可能になる。テレフタル酸と結合する物質としてベンゾトリアゾールを用いた場合は、2つのベンゼン環も含めた分子全体の非局在化によって形成皮膜が得られる。すなわち、バルブ部品表面との結合力が高く非局在化される分子構造を有する皮膜形成剤により形成皮膜を設けることにより密な結合をおこなうことができる。
これにより、バルブ部品表面との結合力の強化の点で、ベンゾトリアゾールを含有する皮膜形成剤を用いることが望ましい。さらには、バルブ部品表面とより密に結合可能であれば、ベンゾトリアゾール誘導体などの複素環式化合物等を皮膜形成剤に含有させることも可能である。
【0081】
更に、ベンゾトリアゾールは、紫外線吸収能力に優れていることから、屋外に設置されたバルブに対して耐候性に富んだ性能を持つテレフタル酸誘導体皮膜による形成皮膜を設けることが可能になる。バルブ部品表面に結合したテレフタル酸とベンゾトリアゾールの状態の化学式を化3に示す。
【0082】
【化3】

【0083】
前記において、脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分により形成皮膜を設ける場合、非水溶性のカルボキシル基を外側に向けた状態で、親水性の基が内側であるバルブ部品表面に結合するため、このバルブ部品表面に対して形成皮膜が密に結合される。このように、形成皮膜を脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成することにより、何れの場合にもバルブ部品表面に非水溶性の形成皮膜が強固な結合状態で設けられる。
【0084】
このうち、上記した芳香族カルボン酸であるテレフタル酸を用い、ベンゾトリアゾールを用いてアミド結合反応により形成皮膜を設けた場合の皮膜形成過程を詳述する。ベンゾトリアゾール、テレフタル酸、有機溶剤、及び水からなる成分により形成皮膜を設ける場合、先ず、溶剤成分が蒸発し、水に溶けないテレフタル酸が水から分離する。次いで、テレフタル酸のカルボキシル基がバルブ部品表面に結合して結晶列を作る。その後、ベンゾトリアゾールは、もう一方のテレフタル酸のカルボキシル基とアミド結合反応するか、テレフタル酸の結晶列間に入り込んでバルブ部品表面と結合する。
【0085】
ベンゾトリアゾールのみからなる形成皮膜は、平面分子であるベンゾトリアゾールが単にバルブ部品表面に平行に積層される構造であるため剥がれやすくなるが、テレフタル酸のような芳香族カルボン酸とベンゾトリアゾールとをアミド結合させた形成皮膜は、バルブ表面に対してより起立状態となり凝縮するので形成皮膜自身がより強固なものになる。
【0086】
上記に示したように、バルブ部品に対して、脂肪酸や芳香族カルボン酸、さらには芳香族カルボン酸であるテレフタル酸又はテレフタル酸にメチル基やクロロ基、ブロモ基、ニトロ基、アミノ基、メトキシ基等を付加したテレフタル酸誘導体などを含む成分のカルボキシル基側鎖を結合することにより、例えば摺動し合う関係である弁棒又はスピンドル、パッキンのいずれか一方又は双方の表面に形成皮膜を構成して互いの潤滑性を高めると共に内部流体の封止性を高めている。
【0087】
なお、配管機器に形成皮膜を結合させる前には、図示しないが、脱脂工程、水洗工程を経るようにし、その後、浸漬工程により皮膜形成剤により形成皮膜を施すことが好ましい。脱脂工程、水洗工程を経た場合、配管機器の表層に対して形成皮膜が形成されやすくなる。
【0088】
脱脂工程とは、例えば、錆止めのための防錆油や切削用の切削油、長期保存により付着した埃、塵などの成分を配管機器の表面から除去するためにおこなわれる。脱脂工程を実施する場合、例えば、アルカリ性キレート脱脂剤等に配管機器を浸漬すればよく、これにより、前記成分を表面から浮き上がらせて除去することができる。
【0089】
水栓工程とは、脱脂工程により防錆油や切削油、及び、埃や塵などの成分を表面から浮き上がらせた後の脱脂剤を除去するためにおこなわれる。水洗工程を実施する場合、例えば、配管機器を図示しない槽内に投入し、手動にて揺動させた後に浸漬すればよい。水洗工程を施すことにより、油のような比重の軽いものは水面に浮遊し、比重の重いものは底に沈むことになり、浮遊した油を所定時間内に水のオーバーフローにより除去することが可能になる。
特に、対象とする配管機器の鋳肌表面の凹凸が激しく除去が十分でない場合、表面にこびりついた埃、塵等が以降の浸漬処理で変色を引き起こす原因となる。このため、必要に応じて、再度水栓工程を実施すればよい。
【0090】
一方、形成皮膜の処理後には、エアブロー工程により、配管機器の表面にエアブローを施して表面に付着している皮膜形成剤を除去し、配管機器表面の形成皮膜を均一にする。エアブロー処理を施す際には、このエアブローを強くして均一な状態で斑ムラを防ぐようにすることがよい。
その後、乾燥工程により、例えば、恒温乾燥炉等の炉に配管機器を入れ、所定温度にて所定時間乾燥させるようにしてもよく、この場合、配管機器の表面により均一な皮膜を形成できる。このように、上記エアブロー工程、及び乾燥工程により、さらに強固な形成皮膜の結合を得ることができる。
【実施例1】
【0091】
次いで、本発明における配管機器の作動トルク低減方法により配管機器に形成皮膜を設けた場合の実施例を述べる。
実施例1において、JIS B2011 青銅弁 10Kねじ込み型仕切弁呼び径25A(以下、供試品という)を用い、本発明の配管機器の作動トルク低減方法により皮膜形成処理を施した場合のトルク低減効果を確認した。その際、先ず、皮膜形成処理前の供試品の作動トルクを確認した。作動トルクの負荷は、一般的に弁体の開封直後と閉塞直前が大きくなることが知られているため、弁体が中間開度にある際のトルクの数値を測定した。この作動トルクの測定の後、供試品を分解して弁棒のみに形成皮膜を施し、同様にして皮膜形成処理後の弁体の作動トルク測定を実施した。
【0092】
この場合、オレイン酸を含む成分により形成皮膜を施した。オレイン酸を用いた理由としては、脂肪酸の中で非常に安価であり経済的に入手しやすいこと、同じく安価で調達できるが常温では固定であるステアリン酸のような直鎖飽和脂肪酸に対し、オレイン酸は直鎖不飽和脂肪酸で常温にて扱いやすい液体で存在すること、そして、同じ常温液体で存在する不飽和脂肪酸の中においては高温域での安定性に優れているためである。さらに、水道用途のバルブや給水栓は、120℃付近で使用されることもあるが、オレイン酸は実験により200℃まで安定した性質を有しているためである。
【0093】
この実施例における供試品1〜5において、皮膜形成処理前の作動トルクと弁棒のみに形成皮膜を施した処理後の作動トルクの測定結果を表9に示す。表9の結果より、処理前よりも処理後の作動トルクが低減されたことが確認された。
【0094】
【表9】

【実施例2】
【0095】
次に、電動自動操作ボール弁25Aを用い、本発明の作動トルク低減方法により形成皮膜を施した処理品の長期的なトルク低減効果を確認した。ボール弁に搭載される電動自動操作器は、短時間に一定のトルクで運動エネルギーを弁棒に与えることができるため、形成皮膜の耐久性能も合わせて調べた。
【0096】
但し、ボールバルブのトルクは、弁棒とパッキンとの摺動と、弁体のボールとシール部材であるボールシートの摺動との合算になる。なお、通常ボール表面は、Ni−Crめっき、又はハードCrめっきで覆われているため、上述のとおりクロムは酸素によっても不動態酸化皮膜が形成さているため形成皮膜は施されない。また、通常ボールシートもPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製でできているため形成皮膜は施されない。そこで、形成皮膜による弁棒とパッキンとの摺動低減を確認するため、図3に示すように、処理品のボールバルブ1からボールを取り除き、この状態でアクチュエータ2により形成皮膜を施した弁棒3を回転したときの作動トルクを測定した。なお、図中4はパッキン、5はボールシートである。その測定結果を表10に示す。
【0097】
【表10】

【実施例3】
【0098】
続いて、実施例1と同様にJIS B2011 青銅弁 10Kねじ込み型仕切弁呼び径25Aを供試品とし、この供試品に実施例1とは別の形成皮膜を設けた場合の作動トルク低減効果を確認した。このとき、実施例1の場合と同様に、弁体が中間開度にある際の作動トルクの数値を測定し、処理前の作動トルクを測定した後に供試品を分解して弁棒のみに形成皮膜を施し、皮膜形成処理後の弁体の作動トルクの測定をおこなった。
【0099】
この実施例では、テレフタル酸を用いて形成皮膜を結合させるようにし、さらにエタノールを用いて脱水縮合反応をおこなって形成皮膜を設けた。このようにテレフタル酸を弁棒に結合させ、さらにエタノールを用いて脱水縮合反応させた理由としては、処理後の形成皮膜の構造がPET樹脂と同じ基礎的な構造を持ち、かつ簡素な環境において形成皮膜を設けることができるためである。
【0100】
ここで、処理後において実際に供試品の表面に形成皮膜が存在することをFT−IR分析により確認した。FT−IRとは、フーリエ変換赤外分光光度計でフーリエ変換を利用して赤外分光法により赤外光の各波長における強度分布を調べる装置である。赤外分光法とは、測定物質に赤外線を照射し透過光を分光することでスペクトルを得て対象物を見分けるものである。
【0101】
テレフタル酸は、カルボキシル基を2つもつ物質であるが、このカルボキシル基がベンゼン骨格中の対照的な部位に存在するため、FT−IRではカルボキシル基の特徴的なピークを一つ確認するようにした。しかし、一方のカルボキシル基が弁棒の金属と結合した場合、今までのカルボキシル基のピークと、金属と結合したピークの2つが現れる。さらにエタノールの脱水縮合反応を終えたものは、金属と結合したピークと、エタノールと反応したピークの2つが現れ、もともとのテレフタル酸のカルボキシル基のピークは失われるため、PET樹脂と同じ構造をもつ基礎的な皮膜が形成したことを確認できた。この場合のバルブ部品表面に結合した状態のテレフタル酸の化学式を化4に示す。
【0102】
【化4】

【0103】
この実施例における供試品6〜10において、形成皮膜処理前の作動トルクと、弁棒のみに形成皮膜を施した処理後の作動トルクの測定結果を表11に示す。表11の結果より、処理前よりも処理後の作動トルクが低減されたことが確認された。
【0104】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の配管機器の作動トルク低減方法と作動トルクを低減させた配管機器並びに作動トルク低減用皮膜形成剤は、主にバルブや給水栓などの配管機器の作動トルクを対象としているが、これに限定されるものではなく、作動部側と被作動部側とからなる作動部位を有し、この作動部位で作動トルクが発生するものであれば、例えば、清涼飲料水自動販売機に用いられる給水部品や電磁弁、製氷機に用いられる給水部品や電磁弁、そして食品加工機に用いられる給水部品などのあらゆる分野に広く適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管機器の作動部位に位置する作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に作動トルク低減用の形成皮膜を結合させたことを特徴とする配管機器の作動トルク低減方法。
【請求項2】
前記配管機器は、バルブ又は給水栓であり、前記作動部側は、弁棒又はスピンドルであり、前記被作動部側はパッキンである請求項1に記載の配管機器の作動トルク低減方法。
【請求項3】
前記形成皮膜は、脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成される請求項1又は2に記載の配管機器の作動トルク低減方法。
【請求項4】
前記脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、或は直鎖不飽和脂肪酸である請求項3に記載の配管機器の作動トルク低減方法。
【請求項5】
前記形成皮膜は、前記配管機器の作動部位の作動トルク低減機能と、構成される成分の水道水への溶出防止機能とを有する請求項1乃至4の何れか1項に記載の配管機器の作動トルク低減方法。
【請求項6】
前記形成皮膜は、非水溶性である請求項1乃至5の何れか1項に記載の配管機器の作動トルク低減方法。
【請求項7】
作動部位に位置する作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に作動トルク低減用の形成皮膜を結合させたことを特徴とする配管機器。
【請求項8】
前記作動部側は、弁棒又はスピンドルであり、前記被作動部側はパッキンであり、これらの作動部側と被作動部側とを有するバルブ又は給水栓からなる請求項7に記載の配管機器。
【請求項9】
前記形成皮膜は、脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成される請求項7又は8に記載の配管機器。
【請求項10】
前記脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、或は、直鎖不飽和脂肪酸である請求項9に記載の配管機器。
【請求項11】
前記形成皮膜は、前記作動部位の作動トルク低減機能と、構成される成分の水道水への溶出防止機能とを有する請求項7乃至10の何れか1項に記載の配管機器。
【請求項12】
前記形成皮膜は、非水溶性である請求項7乃至11の何れか1項に記載の配管機器。
【請求項13】
配管機器の作動部位に位置する作動部側と被作動部側のいずれか一方又は双方の表面に結合させて作動トルクを低減させることを可能にしたことを特徴とする皮膜形成剤。
【請求項14】
前記配管機器は、バルブ又は給水栓であり、前記作動部側は、弁棒又はスピンドルであり、前記被作動部側はパッキンである請求項13に記載の皮膜形成剤。
【請求項15】
請求項13又は14において、脂肪酸、或は芳香族カルボン酸を含む成分で構成される皮膜形成剤。
【請求項16】
前記脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、或は直鎖不飽和脂肪酸である請求項15に記載の皮膜形成剤。
【請求項17】
請求項13乃至16の何れか1項において、前記作動部位の作動トルク低減機能と、構成される成分の水道水への溶出防止機能とを有する皮膜形成剤。
【請求項18】
請求項13乃至17の何れか1項において、非水溶性である皮膜形成剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−64437(P2013−64437A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203000(P2011−203000)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(390002381)株式会社キッツ (223)
【Fターム(参考)】