説明

配管用耐火部材

【課題】熱膨張材の膨張方向を内側に指向させることができる配管用耐火部材を提供する。
【解決手段】配管用耐火部材1は、耐火性の集合継ぎ手3と流路Wを有する非耐火性の立て管4とを連結する下側連結部7における前記流路Wの外周に配置されるものであって、内部に所定温度により膨張する熱膨張材40を収容している。また、配管用耐火部材1は、径方向外側に配置される円筒状の外壁31と、径方向内側に配置される円筒状の内壁32と、外壁31と内壁32との両周縁部を閉塞する上壁33及び下壁34によって中空円環状に形成され、この内部に前記熱膨張材40を収容して流路Wの外周に配置可能な熱膨張材収容体30を有している。この内壁32多数の先端片44の集合によって構成されており、上壁33及び下壁34を支点として観音開き状態で開くことができ、内部の熱膨張材40の膨張方向を内周側へと指向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管用耐火部材に係り、詳しくは火災により非耐火性の管材が焼損或いは溶損した場合に同損傷部位を通して炎、ガス、煤煙等が流出することを防止する配管用耐火部材に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅やビルなどの建築物では、その最下階から最上階にわたって各階を貫く状態で上下水道、空調など流路を構成する配管が設置されている。この配管は中空筒状に形成されており内部が流体の流路となっている。これら配管の設置に当たっては、各階を仕切る床スラブに対して管継ぎ手などを貫通させて配置し、この管継ぎ手に縦方向或いは横方向に伸びる管材を接続するという構造を採用している。
【0003】
ところで、一般的に管継ぎ手は金属を鋳造等により形成した耐火性材料にて形成されている一方、これに連結される管材はコスト等の面から塩化ビニル等のいわゆる合成樹脂から形成されており、その材料が非耐火性であることが多い。かかる構造を備えた建築物にて火災等が発生した場合、管継ぎ手は耐火性材料ゆえに火災の炎や高温に耐えることができるのに対して、非耐火性材料にて形成された管材は災や高温に耐えることはできない。このため、火災等が発生すると管材が焼損又は溶損し管継ぎ手との連結が外れて抜け落ちたり、管材の焼損又は溶損部位から下部分がその自重を支えきれずに引きちぎれて欠損することがある。これら管材に焼損や溶損等が生ずるとこの流路を通じて火災発生階より上層階へと火炎、煤煙、ガスなどが流出する可能性がある。
【0004】
そこで、上記事態を防止すべく、管継ぎ手と管材との連結部位に配置する耐火部材が知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−121413号公報(段落0025〜0029、図1、図2、図3)
【特許文献2】特開2008−285854号公報(段落0010〜0016、図4、図5)
【特許文献3】特開2007−56536号公報(図1、図16〜図18)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9に示すように、耐火部材100は、管材101における管継ぎ手102との連結部分に装着される金属等の耐火性材料にて形成された外装部103と、管材101表面と外装部103の内周面との間に配置される熱膨張材104を備えている。熱膨張材104は火災等の外部加熱により所定の膨張開始温度に達すると自らの体積が数倍乃至数十倍に膨張し、その状態を維持する性質を有する。この耐火部材100が管材101の周囲を覆う形で外嵌され、管材101における管継ぎ手102との連結部分に装着されている。
【0007】
そして、建築物に火災等が発生して非耐火性材料の管材101が焼損或いは溶損すると、これに併せて管材101に外嵌されている熱膨張材104が膨張を開始する。ここで、熱膨張材104はその外周を覆っている外装部103により径方向外側への膨張が規制され、必然的に管材101側である径方向内側を中心とする方向へと膨張することとなる。そして、熱膨張材104は、焼損或いは溶損した管材101の周囲を覆い、管材101を押しつぶす形で内側へと膨張しながら流路Wを閉塞して火災発生階より上層階への火炎、煤煙、ガスなどの流出を防止している。
【0008】
しかしながら、熱膨張材104が膨張する際には、熱膨張材104の膨張方向が必ずしも径方向内側に向かうとは限らない。すなわち、熱膨張材104の膨張開始時には管材101は焼損或いは溶損状態にあるため管材101自身が欠損或いは変形しており、耐火部材100と変形した管材101との間に隙間が生じている場合がある。このような場合には熱膨張材104の膨張方向が一定せず、径方向内側のみならず上下方向に向かって膨張する可能性もある。特に、耐火部材100の下方には熱膨張材104の膨張を妨げる存在は何もないため、径方向内側に向かっていた熱膨張材104が膨張方向を変更し、管材101の外表面に沿って下方に向けて膨張する場合がある(図10)。
【0009】
熱膨張材104の膨張方向が変更或いは拡散してしまうと径方向内側に向かう熱膨張材104の割合が減少し、結果として管材101内に形成されている流路Wを確実に閉塞することができない場合がある。このような問題は耐火部材100が管材101に外装されている場合だけでなく、管継ぎ手102内に耐火部材100が内装されているときにもいえることである。
【0010】
上記の事情に鑑み、本発明は、熱膨張材の膨張方向を内側に指向させることができる配管用耐火部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、流路を有する耐火性の継ぎ手と流路を有する非耐火性の管材とを連結する連結部における前記流路の外周に配置され、内部に所定温度により膨張する耐火性の熱膨張材を収容した配管用耐火部材であって、同配管用耐火部材は、前記熱膨張材と流路との間に、熱膨張材の膨張に伴って内側に向かって揺動する弁体を有することを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、前記配管用耐火部材は、径方向外側に配置される円筒状の外壁と、径方向内側に配置される円筒状の内壁と、外壁と内壁との両周縁部を閉塞する上壁及び下壁によって中空円環状に形成され、この内部に前記熱膨張材を収容して流路の外周に配置可能な熱膨張材収容体を有しており、前記弁体は、前記熱膨張材収容体の内壁を構成していることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、前記内壁は、前記熱膨張材収容体の上壁及び下壁から伸びる多数の弁体によって構成されており、前記各弁体は上壁及び下壁との境界部を支点として揺動するものである。
【0014】
請求項4の発明は、前記各弁体は一定幅の板状であり、上壁から周方向に並列して伸びる多数の弁体と、下壁から周方向に並列して伸びる多数の弁体とが対向して配置されて内壁を構成していることを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、前記配管用耐火部材は、前記継ぎ手と管材とを連結する連結部における継ぎ手の下端に、前記管材の外周を覆って配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱膨張材の膨張方向を内側に指向させることができる配管用耐火部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の配管用耐火部材を装着した集合継ぎ手周辺の部分断面図。
【図2】本実施形態の配管用耐火部材の斜視図。
【図3】本実施形態の配管用耐火部材の分解斜視図。
【図4】本実施形態の熱膨張材収容体の展開図と部分組み立て図。
【図5】(a)は本実施形態の配管用耐火部材を装着した状態の断面図、(b)は(a)の横断面図。
【図6】(a)は本実施形態の配管用耐火部材が膨張した状態の断面図、(b)は(a)の横断面図。
【図7】本実施形態の別の例を示す断面図。
【図8】本実施形態の別の例を示す斜視図。
【図9】(a)は従来技術の耐火部材の断面図、(b)はその横断面図。
【図10】(a)は従来技術の耐火部材が膨張したときの断面図、(b)はその横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した配管用耐火部材の一実施形態を図1〜図6にしたがって説明する。
図1は、第1の実施形態に係る配管用耐火部材1を装着した排水用配管2の周辺図である。集合住宅やビルなどの建築物には各階の床面を構成する床スラブ60が形成されている。また、各階の床スラブ60には貫通孔が形成されており、この貫通孔を貫いて最上階から最下階まで縦方向に排水用配管2が配置されている。この排水用配管2は主として、流路Wを有する継ぎ手としての集合継ぎ手3、流路Wを有する管材としての立て管4及び横管5とから構成されており、立て管4が階毎に集合継ぎ手3にて連結され最上階から最下階へと至っている。
【0019】
集合継ぎ手3は基本形状として長筒状をなし、内部に流路Wが形成された中空状をなしている。集合継ぎ手3には上端、下端及び上部寄り側面にそれぞれ開口が形成されており、これらの開口部分は拡径されて立て管4或いは横管5を内嵌可能な連結部となっている。このうち、集合継ぎ手3の上端に形成されているのが集合継ぎ手3から上方へ伸びる立て管4を連結する上側連結部6であり、集合継ぎ手3の下端に形成されているのが集合継ぎ手3から下方へ伸びる立て管4を連結する下側連結部7である。集合継ぎ手3の側面に形成されているのが集合継ぎ手3の横方向へ伸びる横管5を連結する横側連結部8である。
【0020】
また、集合継ぎ手3は金属等の耐火性材料により製造されている。なお、ここでいう耐火性とは、火災の炎又は熱に一定時間さらされた場合であっても焼損又は溶損しないことを言い、この耐火性を有しない場合を非耐火性という。集合継ぎ手3は、上側連結部6及び横側連結部8が床スラブ60の上面に、また下側連結部7が床スラブ60の下面に開口する形で、中央付近が床スラブ60に形成された貫通孔内に埋設配置されている。集合継ぎ手3と床スラブ60に形成された貫通孔との間は耐火性モルタル61等によって隙間が生じないように埋められている。
【0021】
集合継ぎ手3のうち下側連結部7の外周面は拡径されてフランジ部9が形成され、フランジ部9を含む下側連結部7の内周面にはパッキン10が装着されている。このパッキン10は円筒形に形成されて集合継ぎ手3と立て管4とを水密状態で連結する。また、フランジ部9にはボルト穴11が穿設されており、このボルト穴11に挿通させたボルト12をナット13に固定することによりフランジ部9にてパッキン10を締め付けることができる。なお、ボルト穴11はフランジ部9上の3箇所に周方向等間隔に形成されている。
【0022】
立て管4は、塩化ビニル等の非耐火性材料にて形成され、内部に流路Wを有する中空性のストレート管からなる管材であり、集合継ぎ手3の上側連結部6及び下側連結部7にそれぞれ内嵌されて集合継ぎ手3の間を縦方向に連結している。また、横管5は床スラブ60上に横方向に配置される管材であり、立て管4と同様に塩化ビニル等の非耐火性材料にて形成され、内部には流路が形成された中空状である。横管5の一端は集合継ぎ手3の横側連結部8に連結され、他端は必要に応じて更に枝管に分岐され各階に設置された浴室、洗面台、キッチン設備等の排水口に接続されている(いずれも図示しない)。
【0023】
図1に示すように、集合継ぎ手3の下側連結部7に形成されているフランジ部9の下面には、同下側連結部7に連結されている立て管4を外嵌する形で、配管用耐火部材1が装着されている。この配管用耐火部材1は、図2に全体斜視図を示すように中央に立て管挿入部14を有する円筒状をなしており、また図3にその分解斜視図を示すように外装ケース20、熱膨張材収容体30及び熱膨張材40とから構成される。
【0024】
外装ケース20は、ステンレス鋼等の耐火性金属材料にて形成され、一枚の金属板材に絞り加工を施して円筒状に成形されている。外装ケース20は、一定高さを有する円筒状のケース本体21の上部3箇所に等間隔に形成された取り付け片22を有し、各取り付け片22には中央に円孔23が穿設されている。また、各取り付け片22はケース本体21から直角に折り曲げられている。取り付け片22に形成された円孔23は、集合継ぎ手3の下側連結部7に形成されたフランジ部9のボルト穴11の位置に対応しており、ボルト12の軸が遊嵌状態で挿入することができる径に形成されている。ケース本体21の下端全周には、ケース本体21から直角に絞り込まれて内周側に向かって一定幅を有する鍔部24が形成されている。この鍔部24の内径は、配管用耐火部材1を装着する立て管4の外径に対して余裕を持って形成されている。
【0025】
外装ケース20の内周側には鍔部24に着座する形で熱膨張材収容体30が配置されている。この熱膨張材収容体30は外装ケース20と同様にSUSステンレス鋼等の耐火性金属材料により形成されている。また、熱膨張材収容体30は全体として略円環状に形成されている。熱膨張材収容体30は、外周側に配置される円筒状の外壁31、外壁31と略同心にて径方向に一定距離だけ離間して内周側に配置される円筒状の内壁32、外壁31と内壁32の上側周縁部同士を結ぶ円盤状の上壁33、及び外壁31と内壁32の下側周縁部同士を結ぶ円盤状の下壁34によって構成されている。その径方向断面は図1に示すように略矩形枠状をなし内部が中空となっている。この内部は熱膨張材収容部(以下、単に「収容部」という)35となって、ここに熱膨張材40が収容されている。熱膨張材収容体30は、図4左側に展開図を示す板材36を立体的に組み立てることにより構成される。
【0026】
熱膨張材収容体30を形成することとなる板材36(なお、説明の便宜上、図4に示す組み立て前の熱膨張材収容体30を板材36ともいう。)は、矩形長尺上の背面板41と、この背面板41の上下の長辺(図4中の左右方向に伸びる辺)に並列して形成され、長辺と垂直方向に向けて伸びる多数の舌片42とから構成されている。板材36は、一枚の金属板をプレスにより打ち抜き成形して背面板41と多数の舌片42とを一体形成したものである。このうち、背面板41は、その長辺が外装ケース20の内周より少し長く形成されており、短辺が外装ケース20の高さと略同じ長さに形成されている。
【0027】
また、各舌片42は、背面板41から連続して伸び、背面板41から離間するに従ってその幅が短くなる台形状の基端片43と、基端片43に連続して一定幅で伸びる弁体としての先端片44とから構成されている。基端片43は外装ケース20の内径と配管用耐火部材1を装着する立て管4の直径との差より少し短い長さに形成されており、また、先端片44は背面板41の短辺長の2/3程度の長さを有する板状に形成されている。
【0028】
背面板41の上下にそれぞれ形成されている舌片42の位置は、上部側と下部側とで幅方向に半分ずつずれて形成されているが、個々の舌片42はいずれも同一形状にて形成されている。また、各舌片42の一方の面(図4にて示している側の面)には、基端片43と先端片44との境界部に、舌片42の幅方向(背面板41長辺の延設方向)に伸びる線状の凹みからなる折り曲げ部45が形成されている。この折り曲げ部45はプレスにより板材36を打ち抜く際に同時に形成している。なお、舌片42のうち台形をなす基端片43の背面板41からの傾斜角度は、背面板41の一方の辺に形成される舌片42の数をnとした場合、(90n−180)/nにて計算される角度以下とする必要がある。
【0029】
図4左側の状態に形成された板材36の舌片42を折り曲げて図4右側の状態にまで組み立て、さらに円環状に巻くことにより図3に示す熱膨張材収容体30が形成される。すなわち、まず上下の各舌片42に形成された折り曲げ部45に沿って先端片44を図4中手前側に折り曲げ、基端片43に対して先端片44が垂直となるようにする。次に、そのまま基端片43を背面板41との境界部分(図4左側の破線部分)に沿って背面板41に対して垂直に折り曲げる。先端片44は背面板41に対して2度垂直に折り曲げられる結果、約180度折り曲げられたこととなり、背面板41と先端片44とは基端片43の長さ分だけ離間して略平行に位置することとなる。
【0030】
この作業を背面板41の上下一方の辺に形成された舌片42すべてに対して行ってから、他方の辺に形成された舌片42についても同様の作業を行うと、板材36は図4右側に図示されている状態となる。なお、上下両側の各舌片42は、先端片44の長さが背面板41の短辺長の2/3程度であるから、上下の先端片44をそれぞれ同様に折り曲げることにより上下の先端片44同士が対向して配置され、対向配置された先端片44同士が部分的に重なり合うこととなる。このとき、下側の先端片44が上側の先端片44の上に重なるように配置すると、配管用耐火部材1を立て管4に外嵌させるときに立て管4の外周に先端片44の先端が引っ掛からずに立て管4に装着させることができる。
【0031】
このように、各基端片43及び先端片44を折り曲げた状態(図4右側の状態)で、基端片43及び先端片44側が内側に、また背面板41が外周側となるように板材36を丸めていくと、図3に示すような略円環状(多角形環状)の熱膨張材収容体30を形成することができる。板材36を丸めて熱膨張材収容体30を形成すると、隣接する基端片43同士及び先端片44同士の隙間はほぼなくなり、また隣接する先端片44同士の間に対向する先端片44が部分的に重なることとなる。なお、熱膨張材収容体30は、背面板41の長辺の両端が一部重なる状態で円環状に巻いた後、重なり部分をテープ等により再び開かない程度に固定しておけばよい。
【0032】
背面板41と多数の舌片42とからなる板材36を組み立てて熱膨張材収容体30を形成した状態では、背面板41が熱膨張材収容体30の外壁31を、背面板41の上側に形成された多数の舌片42の基端片43が熱膨張材収容体30の上壁33を構成する。また、背面板41の下側に形成された多数の舌片42の基端片43が熱膨張材収容体30の下壁34を、また、背面板41の上下に形成された多数の舌片42の先端片44同士が熱膨張材収容体30の内壁32をそれぞれ構成することとなる。
【0033】
熱膨張材収容体30の内部に形成された収容部35には、板状の熱膨張材40が円環状に丸められて収容されている。熱膨張材40は熱膨張性耐火材や熱膨張性耐熱材などの名称が付されており、天然ゴム又は合成ゴム等の熱可塑性エラストマーに無機充填材及び熱膨張材を添加、混練して形成された変形容易な形態となっている。この熱膨張材40は所定温度以上の外部加熱を受けると内在する膨張材が膨張し、数倍から数十倍に体積を増加することができる耐火材料であり、また膨張部分は物理的な遮蔽効果とともに断熱効果を発揮するものである。なお、熱膨張材40は、その組成や、膨張開始温度、耐熱温度、膨張倍率、形状等が異なる製品が種々市販されており、使用する箇所や環境等の諸条件に応じてその種類を適宜決定すればよい。また、配管用耐火部材1は建築物に長期間にわたって設置されるものであるため、これに使用される熱膨張材40も時間の経過や環境(温度、湿度等)の変化を受けても本来の機能を発揮することができる材質が好ましい。さらに、配管用耐火部材1は立て管4等の周囲に配置されることから、熱膨張材40も管損壊時に立て管4等内部の流路Wを通る水等を浴びて濡れる可能性がある。このため、水に濡れた状態でも膨張可能な耐水性の熱膨張材40や、或いは熱膨張材40の周囲に耐水性コーティングを施すことが有効となる。
【0034】
熱膨張材40の装着にあたっては、材料を収容部に収容可能な大きさに成形した上で収容部35に内装すればよい。なお、内装のタイミングは、展開状態にある板材36(図4左側に示す状態)の背面板41上に板状に成形した熱膨張材40を載置してその後に熱膨張材40を覆うように上下の舌片42を折り曲げて内装させる方式がある。他に先に板材36の上下の各舌片42を折り曲げて図4右側に示す状態とし、背面板41と舌片42との間に熱膨張材40を挿入して内装させる方式もある。いずれにしても略円環状の熱膨張材収容体30に形成する前に内装すると作業が容易である。そして、熱膨張材40を内装した熱膨張材収容体30を外装ケース20に内嵌させることにより、図2に示す形態で本実施形態の配管用耐火部材1が完成する。なお、外装ケース20の下部には鍔部24が形成されているため、外装ケース20に内嵌させた熱膨張材収容体30はこの鍔部24に着座して抜け落ちが防止される。
【0035】
この配管用耐火部材1は、以下のように立て管4に装着される。まず、集合継ぎ手3の下側連結部7と立て管4とを連結するに先立ち、配管用耐火部材1をフランジ部9の下面にあてがい、取り付け片22に形成された円孔23とフランジ部9のボルト穴11とを位置合わせした上で、両者間にボルト12を挿通しナット13を軽く止める。これにより、配管用耐火部材1と集合継ぎ手3の下側連結部7とは位置合わせされた状態で仮止めされたこととなる。次に、立て管4の先端を配管用耐火部材1の立て管挿入部14に挿入する。配管用耐火部材1と集合継ぎ手3の下側連結部7とは既に位置合わせされているため、立て管4は立て管挿入部14への挿入に続いて集合継ぎ手3の下側連結部7へと案内される。立て管4が突き当たるまで下側連結部7に挿入した後に、フランジ部9のボルト12とナット13を締め付けると、フランジ部9では狭圧されたパッキン10が内側へ膨らみ、集合継ぎ手3と立て管4とを水密状態で連結する。また、配管用耐火部材1は集合継ぎ手3と立て管4との連結部にて立て管4の周囲を覆う形で装着されることとなる。
【0036】
配管用耐火部材1の集合継ぎ手3及び立て管4への装着状態の断面図を図5(a)及び(b)に示す。配管用耐火部材1がフランジ部9の下部に連結された状態では、外装ケース20に内嵌された熱膨張材収容体30の外壁31の外側は全周囲に亘って外装ケース20のケース本体21によって囲まれている。また、熱膨張材収容体30の下壁34は外装ケース20の鍔部24に着座した状態となっており、熱膨張材収容体30の上壁33はフランジ部9の下面が直上に位置している。そして、熱膨張材収容体30の内壁32の外側は全周囲に立て管4の外周が位置している。立て管4の内部には流路Wが形成されているため、配管用耐火部材1はこの流路Wを囲ってその周囲に位置していることとなる。
【0037】
次に、排水用配管2に装着した配管用耐火部材1の作用について説明する。
通常の状態の配管用耐火部材1は、図5(a)に示すように熱膨張材収容体30が断面矩形枠状に形成されており、内壁32を構成する上下の先端片44はいずれも立て管4の外周面と略平行となる向きに配置されている。このため、配管用耐火部材1としてのサイズも熱膨張材収容体30を装着していないものに比してあまり変わらない。一方、建物の火災等が発生して立て管4が焼損或いは溶損する状態になり、配管用耐火部材1が火災による熱を受けて熱膨張材40の膨張開始温度に至ると熱膨張材40が膨張を開始する。熱膨張材40は周囲が熱膨張材収容体30にて覆われた収容部35に収容されているため、熱膨張材40が膨張するときには収容部35を内側から外側に押し広げようとする力が作用することとなる。
【0038】
ここで、収容部35の内外上下方向はいずれも熱膨張材収容体30により覆われている。また、熱膨張材収容体30は、図5(a)(b)に示すように外壁31の外は外装ケース20のケース本体21で囲われており、下壁34は外装ケース20の鍔部24に着座している。一方、上壁33の直上には集合継ぎ手3のフランジ部9が配置されている。したがって、収容部35に収容されている熱膨張材40の膨張力は、熱膨張材収容体30のうち立て管4の焼損或いは溶損により空間的に余裕ある内壁32に集中して作用することとなる。この結果、熱膨張材収容体30の内壁32を構成し、上壁33及び下壁34からそれぞれ伸びる各先端片44には、収容部35の内側から外側へ向けて押す力が作用することとなる。このため、各先端片44はこの力を受けてそれぞれが折り曲げ部45を支点として熱膨張材収容体30の内周側へと揺動し、上下の先端片44は観音開きの状態で上下方向に開いていくこととなる(図6(a)(b))。
【0039】
熱膨張材40の膨張力を受けた各先端片44が折り曲げ部45を支点として揺動することにより、収容部35は径方向内側に開放され、熱膨張材40は径方向内側に向けての膨張が可能となる。また、開放された先端片44は、熱膨張材収容体30の上壁33及び下壁34を径方向内側に向かって延長するものともなり、熱膨張材40が径方向内側に向けて移動する際の案内路としても機能する。したがって、熱膨張材40はこの揺動した上下の先端片44によって形成された空間内を径方向内側へと移動し、焼損或いは溶損した立て管4内の流路Wを閉塞することができる。
【0040】
上記実施形態の配管用耐火部材1によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、熱膨張材40と流路Wを有する立て管4との間に熱膨張材40の膨張に伴って内側に向かって揺動する先端片44を設けた。このため、先端片44の揺動により熱膨張材40の膨張方向を内側に指向させて焼損或いは溶損した立て管4内の流路Wを閉塞することができる。
【0041】
(2)具体的には、熱膨張材収容体30内の収容部35に収容された熱膨張材40の膨張力を受けて、熱膨張材収容体30の内壁32を構成する先端片44が径方向内側に向けて開放されるため、熱膨張材40の膨張方向を内側に指向させることができる。
【0042】
(3)熱膨張材収容体30の内壁32は、熱膨張材収容体30の上壁33及び下壁34からそれぞれ上下方向に伸びている先端片44によって構成されている。このため、収容部35に収容された熱膨張材40の膨張力を受けて先端片44が揺動すると、熱膨張材収容体30の上壁33及び下壁34が径方向内側に向かって延長した状態となって熱膨張材40を内側に指向させることができる。
【0043】
(4)熱膨張材収容体30の内壁32を構成する先端片44の基端には折り曲げ部45が形成されている。このため、内壁32が熱膨張材40の膨張力を受けた場合には、折り曲げ部45に沿って先端片44が揺動しやすいものとなる。
【0044】
(5)熱膨張材収容体30は一枚の金属板を打ちぬいた板材36を折り曲げた上で円環状に巻いて組み立てている。このため、熱膨張材収容体30の製造が容易である。
(6)熱膨張材40を内装した熱膨張材収容体30を外装ケース20に内嵌させればよいため、外装ケース20及び熱膨張材40は既存の部材を使用することができる。
【0045】
(7)装着状態において、熱膨張材収容体30の外周側及び上下部は他の部材が位置しているため、熱膨張材収容体30の強度を高くする必要はなく、コスト、製造作業が容易となる。
【0046】
(8)上下から対向して配置された先端片44同士は部分的に重なって配置されている。このため、一方の先端片44が内側に向けて揺動されると対向する側の先端片44にもその動きが伝わり、同じ動きを生じさせやすくなる。
【0047】
(9)上壁33から伸びる先端片44と下壁34から伸びる先端片44は周方向に半分ずつずれて位置している。このため、隣接する先端片44同士に隙間が生じた場合でも、対向する側から伸びる先端片44がこの上に重なるによって隙間を塞ぐことができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 上記実施形態の配管用耐火部材1は、集合継ぎ手3と立て管4との連結部分に装着するものとしたが、集合継ぎ手3と横管5との連結部分である横側連結部8に装着してもよい。また、配管用耐火部材1を集合継ぎ手3の上側連結部6に装着してもよい。
【0049】
○ 上記実施形態の集合継ぎ手3に限らず、横側連結部等の分岐部を有しない継ぎ手、或いは複数の横側連結部を有する継ぎ手に使用してもよい。
○ 上記実施形態の配管用耐火部材1は、排水用配管2に装着するものとしたが、排水用途以外の配管に使用してもよい。
【0050】
○ 外装ケース20を集合継ぎ手3のフランジ部9に固定することとしたが、これに限らず床スラブ60或いは耐火性モルタル61の下面に固定するものとしてもよい。
○ 配管用耐火部材1を集合継ぎ手3に内嵌させてもよい。すなわち、集合継ぎ手3の下側連結部7の内周面に拡径部分を長く取り、その内側に配管用耐火部材1を内装してから立て管4を装着すると流路Wの外周に配管用耐火部材1が装着される(図7)。この場合でも、火災等により立て管4が焼損等した時、或いは集合継ぎ手3が火災等により熱せられた場合に、熱膨張材40の膨張力にて先端片44が揺動し、熱膨張材40を内側に向けて指向させることができる。この場合には配管用耐火部材1の外周は集合継ぎ手3にて覆われているため、外装ケース20を省略することができる。
【0051】
○ 上記実施形態では、先端片44は背面板41の短辺長の2/3程度の長さとしたが上下から伸びる先端片44の一方或いは双方をこれよりも長くしてもよい。特に、上下の先端片44をそれぞれ折り曲げた場合に上に重なる側の先端片44は背面板41の短辺長を超える長さであってもよい。
【0052】
○ また、上下から伸びる先端片44の一方或いは双方を背面板41の短辺長の2/3程度よりも短くしてもよい。少なくとも上下の先端片44同士を折り曲げた際に先端片44同士によって内壁32が隙間なく形成されると、膨張した熱膨張材40は先端片44を内側から押し広げることとなる。
【0053】
○ 上下の舌片42は、上下で交互になるよう幅方向に半分ずつずれて形成されているが、上下の舌片42が幅方向に同じ位置となるように形成してもよい。また、舌片42の数を変更してもよい。
【0054】
○ 配管用耐火部材1の外装ケース20を省略してもよい。この場合、熱膨張材収容体30を直接取り付けることとなるが、外装ケース20の3箇所に形成されていた取り付け片22を熱膨張材収容体30に溶接等により取り付ければよい(図8)。外装ケース20の省略により熱膨張材収容体30の外周側及び下側において熱膨張材40の膨張時の強度が低下するが、熱膨張材収容体30に使用する材料の板厚を増やすなど強化すればよい。また、強化に伴う膨張時の先端片44の開き具合については折り曲げ部45の凹み量を大きくする等により調整すればよい。
【0055】
○ 外装ケース20を用いる場合には、熱膨張材収容体30の外壁31は熱膨張材40を完全に覆う必要はなく、外壁31に肉抜き等の穴を形成してもよい。この場合でも外壁31の外周側は外装ケース20によって周囲が覆われるため、熱膨張材40が外側に膨張しようとしても外装ケース20によって規制される。
【0056】
○ 逆に、熱膨張材収容体30の外壁31に肉抜き等の穴を形成しない場合には、外装ケース20に肉抜き等の穴を設けてもよい。この場合は熱膨張材40の外周が外壁31にて覆われるため、熱膨張材40が外側に膨張しようとしても外壁31によって規制される。
【0057】
○ 熱膨張材収容体30に形成した先端片44に、熱を受けたときに径方向内側へ揺動する形状記憶性を持たせてもよい。こうすれば、火災等の熱を受けたときに先端片44自体にも揺動する力が生じるため、先端片が揺動しやすくなる。
【0058】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a).弁体の基端部には折り曲げ部が形成されている請求項1乃至5に記載の配管用耐火部材。この(a)に記載の発明によれば、熱膨張材の膨張力により弁体が内側に向かって揺動し易くなる。
【0059】
(b).上壁から伸びる各弁体と下壁から伸びる各弁体とは、周方向に弁体の半分ずつずれて配置されて対向する弁体同士が部分的に重なっている請求項4に記載の配管用耐火部材。並列して形成された弁体同士に隙間がある場合でも、この隙間の上に対向する弁体が部分的に重なるため隙間を塞ぎやすくなる。
【符号の説明】
【0060】
W…流路、1…配管用耐火部材、3…継ぎ手としての集合継ぎ手、7…連結部、4…管材としての立て管、30…熱膨張材収容体、31…外壁、32…内壁、33…上壁、34…下壁、40…熱膨張材、44…弁体としての先端片、45…境界部としての折り曲げ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を有する耐火性の継ぎ手と流路を有する非耐火性の管材とを連結する連結部における前記流路の外周に配置され、内部に所定温度により膨張する耐火性の熱膨張材を収容した配管用耐火部材であって、
同配管用耐火部材は、前記熱膨張材と流路との間に、熱膨張材の膨張に伴って内側に向かって揺動する弁体を有することを特徴とする配管用耐火部材。
【請求項2】
前記配管用耐火部材は、径方向外側に配置される円筒状の外壁と、径方向内側に配置される円筒状の内壁と、外壁と内壁との両周縁部を閉塞する上壁及び下壁によって中空円環状に形成され、この内部に前記熱膨張材を収容して流路の外周に配置可能な熱膨張材収容体を有しており、
前記弁体は、前記熱膨張材収容体の内壁を構成していることを特徴とする請求項1に記載の配管用耐火部材。
【請求項3】
前記内壁は、前記熱膨張材収容体の上壁及び下壁から伸びる多数の弁体によって構成されており、前記各弁体は上壁及び下壁との境界部を支点として揺動するものである請求項2に記載の配管用耐火部材。
【請求項4】
前記各弁体は一定幅の板状であり、上壁から周方向に並列して伸びる多数の弁体と、下壁から周方向に並列して伸びる多数の弁体とが対向して配置されて内壁を構成していることを特徴とする請求項3に記載の配管用耐火部材。
【請求項5】
前記配管用耐火部材は、前記継ぎ手と管材とを連結する連結部における継ぎ手の下端に、前記管材の外周を覆って配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の配管用耐火部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−236677(P2010−236677A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87949(P2009−87949)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】