説明

配線回路基板、燃料電池および配線回路基板の製造方法

【課題】燃料電池の構造を簡単にすることを可能にする配線回路基板、燃料電池および配線回路基板の製造方法を提供する。
【解決手段】FPC基板1は、連続孔を有する多孔質材料からなるベース絶縁層2を備える。ベース絶縁層2の材料としては、例えば、連続孔を有する多孔質性のePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)が用いられる。ベース絶縁層2の一面に、接着剤パターン7を介して、例えば銅からなる導体パターン3が形成される。導体パターン3の表面を被覆するように、例えば銀からなる被覆層6が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線回路基板、燃料電池および配線回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等のモバイル機器には、小型でかつ高容量の電池が求められる。そこで、リチウム二次電池等の従来の電池に比べて、高エネルギー密度を得ることが可能な燃料電池の開発が進められている。燃料電池としては、例えば直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cells)がある。
【0003】
直接メタノール型燃料電池では、メタノールが触媒によって分解され、水素イオンが生成される。その水素イオンと空気中の酸素とを反応させることにより電力を発生させる。この場合、化学エネルギーを極めて効率良く電気エネルギーに変換することができ、非常に高いエネルギー密度を得ることができる。
【0004】
特許文献1には、気化膜、集電体、負極、電解質膜および正極がこの順に配置された液体燃料供給型燃料電池が記載されている。この液体燃料供給型燃料電池においては、気化膜に液体燃料が供給されることにより、気化膜と液体燃料との界面で蒸発した燃料気体が気化膜を通して負極に到達する。
【0005】
また、特許文献2には、カソード導電層、発電部、アノード導電層、気液分離膜および燃料収容室がこの順に配置された燃料電池が記載されている。この燃料電池においては、燃料収容室内で液体メタノールの一部が気化することにより、気化されたメタノールが気液分離膜を通して発電部に送られる。
【0006】
さらに、特許文献3には、フレキシブル配線回路基板の導体層を集電体として用いた燃料電池が記載されている。特許文献3の燃料電池の内部においては、屈曲されたフレキシブル配線回路基板間に、燃料極、空気極および電解質極からなる電極膜が配置される(例えば特許文献1参照)。このフレキシブル配線回路基板においては、ベース絶縁層上に集電体としての導体層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−140618号公報
【特許文献2】国際公開第2008/023634号
【特許文献3】特開2008−300238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3のフレキシブル配線回路基板には、ベース絶縁層に空気およびメタノールを供給するための開口が設けられる。さらに、電解質極に気化したメタノールを供給するためには、導体層の上面またはベース絶縁層の下面に、上記の気化膜または気液分離膜を配置する必要がある。
【0009】
本発明の目的は、燃料電池の構造を簡単にすることを可能にする配線回路基板、燃料電池および配線回路基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)第1の発明に係る配線回路基板は、燃料電池に用いられる配線回路基板であって、ベース絶縁層と、ベース絶縁層上に形成される導体層とを備え、ベース絶縁層は、連続孔を有する多孔質材料を含むものである。
【0011】
この配線回路基板においては、連続孔を有する多孔質材料を含むベース絶縁層上に導体層が形成される。この場合、ベース絶縁層が通気性を有する。そのため、この配線回路基板が燃料電池に用いられる場合、ベース絶縁層の連続孔を通して、気化された燃料および空気を電池要素に供給することができる。また、電池要素で発生される電力を導体層を介して燃料電池の外部に供給することができる。さらに、液体燃料から気化された燃料をベース絶縁層を介して分離することができる。このように、配線回路基板が集電作用と気液分離作用とを有するので、燃料電池の構造を簡単にすることができる。
【0012】
(2)導体層は、第1および第2の主面ならびに側面を有し、第2の主面がベース絶縁層に対向するようにベース絶縁層上に形成され、配線回路基板は、導体層の第1の主面および側面に形成される表面層をさらに備え、表面層は、ヤング率が105GPa以下でかつ標準電極電位が−1.5V以上であってもよい。
【0013】
この場合、燃料電池内におけるギ酸等の副生成物と導体層との接触が表面層により防止される。また、導体層と電池要素との導電性が表面層により確保される。その結果、簡単な構造で、導体層の集電効率を維持しつつ導体層の腐食を防止することができる。
【0014】
(3)表面層は、導体層と異なる材料からなってもよい。この場合、低コストかつ簡単な構造で、導体層の集電効率を維持しつつ導体層の腐食を防止することができる。
【0015】
(4)導体層は銅を含み、表面層は銀を含んでもよい。この場合、低コストかつ簡単な構造で、導体層の集電効率を維持しつつ導体層の腐食を防止することができる。
【0016】
(5)配線回路基板は、導体層と表面層との間に形成され、導体層および表面層と異なる材料からなるバリア層をさらに備えてもよい。
【0017】
この場合、導体層の成分が表面層上に移動することが防止される。それにより、簡単な構造で、導体層の腐食がより確実に防止されるとともに、導体層の集電効率の低下が十分に防止される。
【0018】
(6)バリア層はニッケルを含んでもよい。この場合、低コストで導体層の成分の移動を確実に防止することができる。
【0019】
(7)表面層は、導体層の第2の主面にさらに形成され、導体層は、第1の主面と絶縁層との間に表面層が介在するようにベース絶縁層上に設けられてもよい。
【0020】
この場合、燃料電池における副生成物がベース絶縁層の連続孔を通して導体層の第2の主面に接触することが防止される。それにより、簡単な構造で導体層の腐食がより確実に防止される。
【0021】
(8)導体層および表面層は同一の材料により一体的に形成されてもよい。
【0022】
この場合、より簡単な構造で、導体層の集電効率を維持しつつ導体層の腐食を防止することができる。
【0023】
(9)導体層および表面層は銀を含んでもよい。この場合、より簡単な構造で、導体層の集電効率を維持しつつ導体層の腐食を防止することができる。
【0024】
(10)配線回路基板は、ベース絶縁層と導体層との間に形成される接着剤層をさらに備えてもよい。
【0025】
この場合、導体層がベース絶縁層に確実に接着されるとともに、燃料電池における副生成物がベース絶縁層の連続孔を通して導体層に接触することが防止される。
【0026】
(11)第2の発明に係る燃料電池は、第1の発明係る配線回路基板と、電池要素と、配線回路基板および電池要素を収容する筺体とを備えるものである。
【0027】
この燃料電池においては、第1の発明に係る配線回路基板および電池要素が筺体内に収容される。電池要素の電力は、配線回路基板を通して筺体の外部に供給される。
【0028】
配線回路基板においては、連続孔を有する多孔質材料を含むベース絶縁層上に導体層が形成される。この場合、ベース絶縁層が通気性を有する。そのため、ベース絶縁層の連続孔を通して、気化された燃料および空気を電池要素に供給することができる。また、電池要素で発生される電力を導体層を介して燃料電池の外部に供給することができる。さらに、液体燃料から気化された燃料をベース絶縁層を介して分離することができる。このように、配線回路基板が集電作用と気液分離作用とを有するので、燃料電池の構造を簡単にすることができる。
【0029】
(12)第3の発明に係る配線回路基板の製造方法は、連続孔を有する多孔質材料を含むベース絶縁層を準備する工程と、ベース絶縁層上に導体層を形成する工程とを備えるものである。
【0030】
この製造方法においては、連続孔を有する多孔質材料を含むベース絶縁層上に導体層が形成される。この場合、ベース絶縁層が通気性を有する。そのため、ベース絶縁層の連続孔を通して、気化された燃料および空気を電池要素に供給することができる。また、電池要素で発生される電力を導体層を介して燃料電池の外部に供給することができる。さらに、液体燃料から気化された燃料をベース絶縁層を介して分離することができる。このように、配線回路基板が集電作用と気液分離作用とを有するので、燃料電池の構造を簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、燃料電池の構造を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は第1の実施の形態に係るFPC基板の平面図であり、(b)は(a)のFPC基板のA−A線断面図である。
【図2】FPC基板を用いた燃料電池の模式的斜視図である。
【図3】燃料電池内における作用を説明するための図である。
【図4】第1の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図5】第1の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図6】第1の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図7】第1の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第2の例を説明するための工程断面図である。
【図8】第1の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第2の例を説明するための工程断面図である。
【図9】第1の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第2の例を説明するための工程断面図である。
【図10】第1の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第4の例を説明するための工程断面図である。
【図11】第1の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第4の例を説明するための工程断面図である。
【図12】第2の実施の形態に係るFPC基板の断面図である。
【図13】第3の実施の形態に係るFPC基板の断面図である。
【図14】第4の実施の形態に係るFPC基板の断面図である。
【図15】第4の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図16】第4の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図17】第4の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図18】第4の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図19】第4の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図20】第4の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。
【図21】第4の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第2の例を説明するための工程断面図である。
【図22】第4の実施の形態に係るFPC基板の製造方法の第3の例を説明するための工程断面図である。
【図23】実施例1のサンプルの製造方法を示す工程断面図である。
【図24】実施例3のサンプルの製造方法を示す工程断面図である。
【図25】接触抵抗の測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(1)第1の実施の形態
以下、第1の実施の形態に係る配線回路基板、燃料電池および配線回路基板の製造方法について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態では、配線回路基板の例として、屈曲性を有するフレキシブル配線回路基板(以下、FPC基板と略記する)について説明する。このFPC基板は、燃料電池に用いられる。
【0034】
(1−1)FPC基板の構成
図1(a)は第1の実施の形態に係るFPC基板の平面図であり、図1(b)は図1(a)のFPC基板のA−A線断面図である。
【0035】
図1(a)および図1(b)に示すように、FPC基板1は、連続孔を有する多孔質材料からなるベース絶縁層2を備える。ベース絶縁層2の材料としては、例えば、連続孔を有する多孔質性のePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)が用いられる。これにより、ベース絶縁層2は通気性を有する。ベース絶縁層2は、第1絶縁部2a、第2絶縁部2b、第3絶縁部2cおよび第4絶縁部2dからなる。第1絶縁部2aおよび第2絶縁部2bは、それぞれ矩形形状を有し、互いに隣接するように一体的に形成される。以下、第1絶縁部2aと第2絶縁部2bとの境界線に平行な辺を側辺と称し、第1絶縁部2aおよび第2絶縁部2bの側辺に垂直な一対の辺を端辺と称する。
【0036】
第3絶縁部2cは、第1絶縁部2aの1つの角部における側辺の一部から外方へ延びるように形成される。第4絶縁部2dは、第1絶縁部2aの上記角部の対角に位置する第2絶縁部2bの角部における側辺の一部から外方へ延びるように形成される。
【0037】
第1絶縁部2aと第2絶縁部2bとの境界線上にベース絶縁層2をほぼ二等分するように屈曲部B1が設けられる。後述のように、ベース絶縁層2は、屈曲部B1に沿って折曲可能である。屈曲部B1は、例えば線状の浅い溝であってもよく、または、線状の印等でもよい。あるいは、屈曲部B1でベース絶縁層2を折曲可能であれば、屈曲部B1に特に何もなくてもよい。ベース絶縁層2を屈曲部B1に沿って折曲する場合、第1絶縁部2aと第2絶縁部2bとが対向する。この場合、第3絶縁部2cと第4絶縁部2dとは対向しない。
【0038】
ベース絶縁層2の一面に、図1(b)の接着剤パターン7を介して、例えば銅からなる導体パターン3が形成される。導体パターン3は、矩形の集電部3a,3b,3c,3d,3e,3f,3g,3h,3i,3j、接続導体部3k,3l,3m,3nおよび引き出し導体部3o,3pを含む。集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pは、ベース絶縁層2の一面に平行な一対の主面およびベース絶縁層2の一面に垂直な側面を有する。以下、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの一対の主面のうち、ベース絶縁層2に接着されない面を第1の主面と呼び、その反対側の面(ベース絶縁層2に接着される面)を第2の主面と呼ぶ。
【0039】
接着剤パターン7としては、例えばエポキシ樹脂系の接着剤、フェノール樹脂系の接着剤、ポリエステル樹脂系の接着剤、アクリル樹脂系の接着剤またはポリイミド系の接着剤等の任意の接着剤が用いられる。本実施の形態において、接着剤パターン7には光酸発生剤が添加される。これにより、接着剤パターン7は感光性を有する。
【0040】
集電部3a〜3eは、第1絶縁部2aの端辺に沿って平行に延びかつ第1絶縁部2aの側辺方向に沿って設けられる。同様に、集電部3f〜3jは、第2絶縁部2bの端辺に沿って平行に延びかつ第2絶縁部2bの側辺方向に沿って設けられる。この場合、集電部3a〜3eと集電部3f〜3jとは、屈曲部B1を中心として対称な位置に配置される。
【0041】
接続導体部3k〜3nは、屈曲部B1をまたぐように第1絶縁部2aおよび第2絶縁部2bにわたって形成される。接続導体部3kは集電部3bと集電部3fとを電気的に接続し、接続導体部3lは集電部3cと集電部3gとを電気的に接続し、接続導体部3mは集電部3dと集電部3hとを電気的に接続し、接続導体部3nは集電部3eと集電部3iとを電気的に接続する。
【0042】
集電部3a〜3eの各々には、端辺方向に沿って複数(本例では4個)の開口H11が形成される。また、集電部3f〜3jの各々には、端辺方向に沿って複数(本例では4個)の開口H12が形成される。
【0043】
引き出し導体部3oは、集電部3aの外側の短辺から第3絶縁部2c上に直線状に延びるように形成される。引き出し導体部3pは、集電部3jの外側の短辺から第4絶縁部2d上に直線状に延びるように形成される。
【0044】
導体パターン3の表面を被覆するように、被覆層6が形成される。この場合、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの各々の第1の主面および側面が導体パターン3の表面に相当する。被覆層6は、被覆部6a〜6nを含む。被覆部6aは、集電部3aおよび引き出し導体部3oの一部の表面を被覆するように形成される。引き出し導体部3oの先端部は被覆部6aに被覆されずに露出する。露出した引き出し導体部3oの部分を、引き出し電極5aと称する。被覆部6b,6c,6d,6eは、集電部3b〜3eの表面をそれぞれ被覆するように形成される。
【0045】
被覆部6jは、集電部3jおよび引き出し導体部3pの一部の表面を被覆するように形成される。引き出し導体部3pの先端部は被覆部6jに被覆されずに露出する。露出した引き出し導体部3pの部分を、引き出し電極5bと称する。被覆部6f,6g,6h,6iは、集電部3f〜3iの表面をそれぞれ被覆するように形成される。被覆部6k,6l,6m,6nは、接続導体部3k〜3nの表面をそれぞれ被覆するように形成される。
【0046】
本実施の形態において、被覆層6は、ヤング率が105Gpa以下でありかつ標準電極電位がー1.5V以上である材料からなる。被覆層6の材料としては、例えば、銀または金等が用いられる。ここで、標準電極電位とは、0価の単体が生成される際の標準電極電位をいう。
【0047】
例えば、銀のヤング率は100GPaであり、標準電極電位は0.799Vであり、金のヤング率は80GPaであり、標準電極電位は1.520Vである。
【0048】
被覆層6のヤング率は、1GPa以上105Gpa以下であることが好ましく、10GPa以上105GPa以下であることがより好ましく、70GPa以上105GPa以下であることがさらに好ましい。
【0049】
導体パターン3の標準電極電位は、−1.5V以上2.0V以下であることが好ましく、−1.0V以上1.6V以下であることがより好ましく、0.7V以上1.6V以下であることがさらに好ましい。
【0050】
この場合、このFPC基板1を用いた燃料電池において、燃料として用いられるメタノール等の酸がFPC基板1に接触する状態であっても、集電効率を低下させることなく、導体パターン3の腐食を防止することができる。
【0051】
(1−2)FPC基板を用いた燃料電池
図2は、FPC基板1を用いた燃料電池100の模式的斜視図である。図3は、燃料電池100内における作用を説明するための図であり、図2の燃料電池100のB−B線断面図である。
【0052】
図2および図3に示すように、燃料電池100は直方体状のケーシング40を有する。図2では、ケーシング40を点線により示している。ケーシング40は、上面部41、下面部42、一方の側面部43および他方の側面部44を有する。
【0053】
FPC基板1は、被覆層6が形成された一面を内側にして図1の屈曲部B1に沿って折曲された状態でケーシング40の上面部41および下面部42により狭持される。図2には、被覆層6の図示が省略される。
【0054】
FPC基板1の引き出し電極5a,5bは、ケーシング40の一方の側面部43から外側に引き出される。引き出し電極5a,5bには、種々の外部回路の端子が電気的に接続される。
【0055】
ケーシング40内において、複数(本実施の形態では5個)の電極膜35が、折曲されたFPC基板1の被覆部6aと被覆部6fとの間、被覆部6bと被覆部6gとの間、被覆部6cと被覆部6hとの間、被覆部6dと被覆部6iとの間、および被覆部6eと被覆部6jとの間にそれぞれ配置される(図1(a)参照)。これにより、複数の電極膜35が直列接続される。
【0056】
各電極膜35は空気極35a、燃料極35bおよび電解質膜35cからなる。空気極35aは電解質膜35cの一面に形成され、燃料極35bは電解質膜35cの他面に形成される。複数の電極膜35の空気極35aはFPC基板1の被覆部6f〜6jにそれぞれ対向し、複数の電極膜35の燃料極35bはFPC基板1の被覆部6a〜6eにそれぞれ対向する。
【0057】
ケーシング40内の上面部41には、集電部3f〜3jの複数の開口H12に対応するように複数の開口H41が形成される。電極膜35の空気極35aには、ケーシング40の複数の開口H41、通気性を有するFPC基板1のベース絶縁層2および集電部3f〜3jの複数の開口H12を通して空気が供給される。
【0058】
ケーシング40の下面部42には、ベース絶縁層2の第1絶縁部2a(図1(a)参照)に接するように燃料収容室50が設けられる。燃料収容室50には、燃料供給管51の一端が接続される。燃料供給管51の他端は、ケーシング40の他方の側面部44を通って外部の図示しない燃料供給部に接続される。燃料供給部から燃料供給管51を通して燃料収容室50内に燃料が供給される。なお、本実施の形態では、燃料として液体状のメタノールを用いる。
【0059】
本実施の形態に係るFPC基板1は気液分離膜として機能する。これにより、燃料収容室50内でメタノールの一部が気化することにより、各電極膜35の燃料極35bには、通気性を有するFPC基板1のベース絶縁層2および集電部3a〜3eの複数の開口H11を通して気化されたメタノールが供給される。
【0060】
上記の構成においては、複数の燃料極35bにおいて、メタノールが水素イオンと二酸化炭素とに分解され、電子が生成される。生成された電子は、FPC基板1の集電部3a(図1参照)から引き出し電極5aに導かれる。メタノールから分解された水素イオンは、電解質膜35cを透過して空気極35aに達する。複数の空気極35aにおいて、引き出し電極5bから集電部3jに導かれた電子を消費しつつ水素イオンと酸素とが反応し、水が生成される。このようにして、引き出し電極5a,5bに接続された外部回路に電力が供給される。
【0061】
(1−3)FPC基板の製造方法
(1−3−1)第1の例
次に、図1に示したFPC基板1の製造方法の第1の例を説明する。図4、図5および図6は、FPC基板1の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。なお、図4〜図6は、図1のA−A線断面に相当する箇所における工程断面図である。
【0062】
まず、図4(a)に示すように、キャリア層8と導体層30とからなる二層基材を用意する。キャリア層8としては、粘着剤層を有するPET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂または粘着剤層を有するステンレス等の金属薄膜を用いることができる。また、導体層30は例えば銅からなる。キャリア層8と導体層30とは、ラミネータにより貼り付けられていてもよいし、プレス機により圧着されていてもよい。キャリア層8と導体層30との圧着は、加温された状態または真空の状態で行われてもよい。スパッタリング、蒸着またはめっき等の他の方法により、キャリア層8上に導体層30が形成されてもよい。
【0063】
次に、図4(b)に示すように、導体層30上に例えば、感光性ドライフィルムレジスト等によりレジスト膜22を形成する。図4(c)に示すように、レジスト膜22を所定のパターンで露光した後、現像することによりエッチングレジストパターン22aを形成する。
【0064】
次に、図4(d)に示すように、塩化第二鉄を用いてエッチングレジストパターン22aから露出する導体層30の領域をエッチングにより除去する。次に、図5(a)に示すように、エッチングレジストパターン22aを剥離液により除去する。これにより、キャリア層8上に集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p(図1(a)参照)を含む導体パターン3が形成される。集電部3a〜3eには複数の開口H11が形成され、集電部3f〜3jには複数の開口H12が形成される。
【0065】
スパッタリング、蒸着またはめっき等の他の方法によりキャリア層8上に導体パターン3を形成してもよい。
【0066】
続いて、図5(b)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの上面(第2の主面)を含む全面に接着剤層前駆体7pを塗布する。次に、図5(c)に示すように、所定のマスクパターンを介して接着剤層前駆体7pを露光した後、現像することにより、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p上に、所定のパターンを有する接着剤パターン7を形成する。
【0067】
ここで、接着剤層前駆体7pがネガ型の感光性を有する場合、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの反転形状を有するマスクパターンを介して接着剤層前駆体7pを露光する。接着剤層前駆体7pがポジ型の感光性を有する場合、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pと同一形状を有するマスクパターンを介して接着剤層前駆体7pを露光する。
【0068】
また、接着剤層前駆体7pがポジ型の感光性を有する場合、接着剤層前駆体7pの下面(集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pと接する面)側から露光を行ってもよい。この場合、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pをマスクパターンとして用いることができるので、別途マスクパターンを用いなくてよい。なお、PETからなるキャリア層8は露光光を透過するため、接着剤層前駆体7pの下面(集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pと接する面)側からの露光の妨げとならない。
【0069】
集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p上を除く部分に塗布された接着剤層前駆体7pの部分を、薬液、レーザ光またはプラズマ処理により除去してもよい。この場合、接着剤層前駆体7pの露光時にマスクパターンを用いなくてよい。同様に、スクリーン印刷またはペーストディスペンサにより、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p上のみに接着剤層前駆体7pを塗布してもよい。この場合も、接着剤層前駆体7pの露光時にマスクパターンを用いなくてよい。
【0070】
次に、図5(d)に示すように、接着剤パターン7を介して集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p上にベース絶縁層2を接合する。その後、図6(a)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pからキャリア層8を剥離する。
【0071】
次に、図6(b)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの表面を被覆するように、無電解めっきにより被覆部6a〜6nを含む被覆層6(図1(a)参照)を形成する。ここで、引き出し電極5a,5b(図1(a)参照)が被覆部6a,6jから露出する。スパッタリング、蒸着またはめっき等の他の方法により、導体パターン3の表面を被覆するように被覆層6を形成してもよい。なお、図6(b)および図6(c)の断面図は、図6(a)の断面図とは上下を逆にして示している。
【0072】
最後に、図6(c)に示すように、ベース絶縁層2を所定の形状に切断することにより、ベース絶縁層2、導体パターン3および被覆層6を備えるFPC基板1が完成する。
【0073】
なお、キャリア層8の厚みは1μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上200μm以下であることがより好ましく、25μm以上150μm以下であることがさらに好ましい。キャリア層8の厚みが10μm以上であるとキャリア層8の取り扱い性が向上し、キャリア層8の厚みが200μm以下であるとキャリア層8のフレキシブル性が向上しかつコストの増大が抑制される。
【0074】
導体パターン3の厚みは1μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上70μm以下であることがより好ましく、10μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。導体層30の厚みが1μm以上であると抵抗等の電気特性が向上し、導体層30の厚みが100μm以下であると導体層30の取り扱い性が向上する。
【0075】
被覆層6の厚みは0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.3μm以上8μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。被覆層6の厚みが0.1μm以上であると導体パターン3の腐食を十分に防止することができかつ集電効率を向上させることができる。被覆層6の厚みが10μm以下であると被覆層6の取り扱い性が向上しかつコストの増大が抑制される。
【0076】
接着剤パターン7の厚みは1μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上70μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。接着剤パターン7の厚みが5μm以上であると接着剤の接着力が向上し、接着剤パターン7の厚みが100μm以下であると接着剤パターン7の取り扱い性が向上する。
【0077】
ベース絶縁層2の厚みは1μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。ベース絶縁層2の厚みが1μm以上であるとベース絶縁層2の取り扱い性が向上し、ベース絶縁層2の厚みが100μm以下であるとベース絶縁層2のフレキシブル性が向上するとともに小型化が可能となる。上述のように、ベース絶縁層2は連続孔を有する多孔質性のePTFEからなる。
【0078】
ベース絶縁層2に含まれる複数の孔の直径(孔径)は、0.03μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0079】
図4〜図6では、サブトラクティブ法によるFPC基板1の製造方法を示したが、これに限定されず、セミアディティブ法等の他の製造方法を用いてもよい。
【0080】
(1−3−2)第2の例
FPC基板1の製造方法の第2の例について、上記第1の例と異なる点を説明する。図7および図8は、FPC基板1の製造方法の第2の例を説明するための工程断面図である。
【0081】
まず、図7(a)に示すように、キャリア層8と導体層30とからなる二層基材を用意する。次に、図7(b)に示すように、導体層30上に接着剤層前駆体7pを塗布する。続いて、図7(c)に示すように、図1(a)の集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pと同一の形状を有するマスクパターンを介して接着剤層前駆体7pを露光した後、現像することにより、導体層30上に所定のパターンを有する接着剤パターン7を形成する。
【0082】
次に、図7(d)に示すように、塩化第二鉄を用いて接着剤パターン7から露出する導体層30の領域をエッチングにより除去する。これにより、キャリア層8上に集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p(図1(a)参照)が形成される。また、集電部3a〜3eには複数の開口H11が形成され、集電部3f〜3jには複数の開口H12が形成される。
【0083】
次に、図8(a)に示すように、接着剤パターン7を介して集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p上にベース絶縁層2を接合する。その後、図8(b)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pからキャリア層8を剥離する。
【0084】
次に、図8(c)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの表面を被覆するように、被覆部6a〜6nを含む被覆層6(図1(a)参照)を形成する。なお、図8(c)および図8(d)の断面図は、図8(a)の断面図とは上下を逆にして示している。
【0085】
最後に、図8(d)に示すように、ベース絶縁層2を所定の形状に切断することにより、ベース絶縁層2、導体パターン3および被覆部6を備えるFPC基板1が完成する。
【0086】
FPC基板1の製造方法の第2の例においては、キャリア層8と導体層30との積層構造を有する基材の導体層30上に接着剤パターン7が形成される。また、接着剤パターン7をマスクとして用いて導体層30の露出した領域が除去される。これにより、別途マスクパターンを用意することなく集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pを形成することができる。その結果、FPC基板1の製造工程および製造コストを削減することができる。
【0087】
また、接着剤パターン7が感光性を有するので、露光処理および現像処理を行うことにより容易に接着剤パターン7を形成することができる。
【0088】
(1−3−3)第3の例
FPC基板1の製造方法の第3の例について、上記第1の例と異なる点を説明する。図9は、FPC基板1の製造方法の第3の例を説明するための工程断面図である。本例において、接着剤パターン7は感光性を有しない。
【0089】
図4(a)の工程から図5(b)の工程までは、上記第1の例と同じである。図5(b)の工程の次に、図9(a)に示すように、接着剤層前駆体7pを乾燥させることにより接着剤層7qを形成し、接着剤層7qを介して集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p上にベース絶縁層2を接合する。続いて、図9(b)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pからキャリア層8を剥離する。その後、図9(c)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pから露出する接着剤層7qの領域をプラズマ処理により除去する。このようにして、接着剤パターン7を形成する。
【0090】
次に、図9(d)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの表面を被覆するように、被覆部6a〜6nを含む被覆層6(図1(a)参照)を形成する。なお、図9(d)および図9(e)の断面図は、図9(c)の断面図とは上下を逆にして示している。
【0091】
最後に、図9(e)に示すように、ベース絶縁層2を所定の形状に切断することにより、ベース絶縁層2、ベース絶縁層2、導体パターン3および被覆部6を備えるFPC基板1が完成する。
【0092】
本実施の形態に係るFPC基板1の製造方法おいては、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pをマスクとして用いることができるので、別途マスクパターンを用意することなく接着剤パターン7を形成することができる。その結果、FPC基板1の製造工程および製造コストを削減することができる。
【0093】
また、接着剤パターン7がプラズマ処理により形成されるので、接着剤層前駆体7pが感光性であるか非感光性であるかにかかわらず、接着剤パターン7を容易に形成することができる。
【0094】
(1−3−4)第4の例
FPC基板1の製造方法の第4の例について、上記第1の例と異なる点を説明する。図10および図11は、FPC基板1の製造方法の第4の例を説明するための工程断面図である。本例において、接着剤パターン7は感光性を有しない。
【0095】
まず、図10(a)に示すように、粘着剤層を有するキャリア層8、導体層30、および接着剤層前駆体7pを用意する。接着剤層前駆体7pはセパレータ23上に形成されている。
【0096】
次に、図10(b)に示すように、キャリア層8上に導体層30を貼り合わせるとともに導体層30上に接着剤層前駆体7pを貼り合わせる。キャリア層8、導体層30および接着剤層前駆体7pは、ラミネータにより貼り合わせてもよく、またはプレス機によって圧着することにより貼り合わせてもよい。その後、接着剤層前駆体7pからセパレータ23を剥離する。接着剤層前駆体7pは、上記第1〜第3の実施の形態と同様に、塗布により導体層30上に形成されてもよい。
【0097】
次に、図10(c)に示すように、金型を用いて接着剤層前駆体7p、導体層30およびキャリア層8の複数箇所を打ち抜くことにより、複数の貫通孔HAを形成する。これにより、導体層30に開口H11,H12が形成される。また、金型を用いて集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p(図1(a)参照)の形状に沿った切り込みTHを接着剤層前駆体7pおよび導体層30に形成する。この場合、共通の金型を用いて貫通孔HAの形成と切り込みTHの形成とを同時に行ってもよく、または異なる金型を用いて貫通孔HAの形成と切り込みTHの形成とを順に行ってもよい。切り込みTHは、キャリア層8の粘着剤層に達するように形成されることが好ましい。
【0098】
次に、図10(d)に示すように、切り込みTHによって分離された不要な接着剤層前駆体7pおよび導体層30の部分を除去する。これにより、キャリア層8上に集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3n、引き出し導体部3o,3p(図1(a)参照)および接着剤パターン7が形成される。なお、図10(c)の工程において、切り込みTHがキャリア層8の粘着剤層に達するように形成されることにより、不要な接着剤層前駆体7pおよび導体層30の部分を除去しやすくなる。
【0099】
次に、図11(a)に示すように、接着剤パターン7を介して集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3p上にベース絶縁層2を接合する。その後、図11(b)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pからキャリア層8を剥離する。
【0100】
次に、図11(c)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの表面を被覆するように、無電解めっきにより被覆部6a〜6n(図1(a)参照)を含む被覆層6を形成する。最後に、図11(d)に示すように、ベース絶縁層2を所定の形状に切断することにより、ベース絶縁層2、導体パターン3および被覆層6を備えるFPC基板1が完成する。
【0101】
本例においては、金型による貫通孔HAおよび切り込みTHの形成により、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3n、引き出し導体部3o,3pおよび接着剤パターン7が形成される。この場合、露光、現像またはエッチング等の処理が行われないので、FPC基板1の製造が容易となる。その結果、製造工程および製造コストの削減が可能となる。
【0102】
また、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3n、引き出し導体部3o,3pおよび接着剤パターン7が形成された後に、ベース絶縁層2が集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pに接合されるので、金型による貫通孔HAおよび切り込みTHの形成時に、ベース絶縁層2が損傷することがない。したがって、歩留まりの低下が防止される。
【0103】
なお、図10(c)の工程で接着剤層前駆体7p、導体層30およびキャリア層8を打ち抜いて貫通孔HAを形成する代わりに、図10(c)の工程で接着剤層前駆体7pおよび導体層30の対応箇所に円環状の切り込みを形成し、図10(d)の工程でその円環状の切り込みの内側における接着剤層前駆体7pおよび導体層30の部分を除去してもよい。ただし、この場合には、複数の対応箇所において、接着剤層前駆体7pおよび導体層30の除去処理が必要になる。製造工程の簡略化のためには、接着剤層前駆体7p、導体層30およびキャリア層8を打ち抜いて貫通孔HAを形成することが好ましい。
【0104】
一方、図10(c)の工程で集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの形状に沿うように接着剤層前駆体7pおよび導体層30に切り込みTHを形成し、図10(d)の工程で不要な接着剤層前駆体7pおよび導体層30の部分を除去する代わりに、図10(c)の工程で集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの形状に沿うように接着剤層前駆体7p、導体層30およびキャリア層8を打ち抜いてもよい。ただし、この場合には、接着剤層前駆体7p、導体層30およびキャリア層8が複数に分離する。取り扱いを容易にするためには、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの形状に沿うように接着剤層前駆体7pおよび導体層30に切り込みTHを形成し、次工程で不要部分を除去することが好ましい。
【0105】
(1−3−5)第5の例
FPC基板1の製造方法の第5の例について、上記第4の例と異なる点を説明する。
【0106】
本実施の形態においては、図10(c)の工程において、金型を用いて貫通孔HAおよび切り込みTHを形成する代わりに、レーザにより貫通孔HAおよび切り込みTHを形成する。その後、図10(d)に示すように、切り込みTHによって分離された不要な接着剤層前駆体7pおよび導体層30の部分を除去することにより、キャリア層8上に集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3n、引き出し導体部3o,3p(図1(a)参照)および接着剤パターン7が形成される。
【0107】
本例においても、露光、現像またはエッチング等の処理が行われないので、FPC基板1の製造が容易となる。その結果、製造工程および製造コストの削減が可能となる。
【0108】
また、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3n、引き出し導体部3o,3pおよび接着剤パターン7が形成された後に、ベース絶縁層2が集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pに接合されるので、レーザによる貫通孔HAの形成および切り込みTHの形成時に、ベース絶縁層2が損傷することがない。したがって、歩留まりの低下が防止される。
【0109】
(1−4)効果
本実施の形態に係るFPC基板1においては、ベース絶縁層2が、連続孔を有する多孔質材料からなる。それにより、燃料電池100内において、ベース絶縁層2の連続孔を通して、複数の電極膜35に燃料および空気を供給することができる。また、電極膜35で発生される電力を導体パターン3を介して燃料電池100の外部に供給することができる。
【0110】
また、液体状のメタノールから気化されたメタノールをベース絶縁層2を介して分離することができる。したがって、別途気液分離膜を配置することなく、気化されたメタノールを電極膜35に供給することが可能となる。
【0111】
このように、FPC基板1が集電作用と気液分離作用とを有するので、燃料電池100の構造を簡単にすることができる。
【0112】
また、本実施の形態に係るFPC基板1においては、導体パターン3の第1の主面および側面を被覆するように被覆層6が形成される。被覆層6においては、ヤング率が105Gpa以下でかつ標準電極電位が−1.5V以上である。そのため、被覆層6は高い耐腐食性を有するとともに、高い導電性を有する。
【0113】
これにより、燃料電池100内において、副生成物のギ酸が被覆層6に接触する状態であっても、被覆層6および導体パターン3の腐食が防止される。また、被覆層6を介して導体パターン3と複数の電極膜35との導電性が十分に確保される。その結果、導体パターン3の集電効率を維持しつつ導体パターン3の腐食を防止することができる。
【0114】
また、導体パターン3の第2の主面が接着剤パターン7を介してベース絶縁層2に接着されるので、導体パターン3の第2の主面にギ酸が接触することが防止される。それにより、導体パターン3の腐食がより確実に防止される。
【0115】
(2)第2の実施の形態
本発明の第2の実施の形態に係る配線回路基板について、上記第1の実施の形態と異なる点を説明する。
【0116】
(2−1)構成
図12(a)は、第2の実施の形態に係るFPC基板の平面図であり、図12(b)は図12(a)のFPC基板のA−A線断面図である。図12のFPC基板1においては、被覆層6が形成されず、導体パターン3の全体が露出する。導体パターン3は、ヤング率が105Gpa以下でありかつ標準電極電位がー1.5V以上である材料からなる。すなわち、導体パターン3は、上記第1の実施の形態における被覆層6と同様の材料(例えば銀)からなる。図12のFPC基板1は、導体層および表面層が同一材料により一体的に形成された例である。
【0117】
図12のFPC基板1の製造時には、被覆層6が形成されない。また、導体パターン3が、ヤング率が105Gpa以下でありかつ標準電極電位がー1.5V以上である材料から形成される。図12のFPC基板1の製造方法の他の点は、上記第1の実施の形態におけるFPC基板1の製造方法と同様である。
【0118】
(2−2)効果
本実施の形態に係るFPC基板1においても、ベース絶縁層2が、連続孔を有する多孔質材料からなる。それにより、FPC基板1が集電作用と気液分離作用とを有するので、燃料電池100の構造を簡単にすることができる。
【0119】
また、導体パターン3のヤング率が105Gpa以下でかつ導体パターン3の標準電極電位が−1.5V以上である。そのため、導体パターン3は高い耐腐食性を有するとともに、高い導電性を有する。
【0120】
これにより、燃料電池100内において、副生成物のギ酸が導体パターン3に接触する状態であっても、導体パターン3の腐食が防止される。また、導体パターン3と複数の電極膜35との導電性が十分に確保される。その結果、導体パターン3の集電効率を維持しつつ導体パターン3の腐食を防止することができる。
【0121】
(3)第3の実施の形態
本発明の第3の実施の形態に係る配線回路基板について、上記第1の実施の形態と異なる点を説明する。
【0122】
(3−1)構成
図13は、第3の実施の形態に係るFPC基板の断面図である。図13の断面は、図1のA−A線断面に対応する。図13のFPC基板1においては、導体パターン3と被覆層6との間に、例えばニッケルからなるバリア層11が形成される。
【0123】
図13のFPC基板1の製造時には、ベース絶縁層2に集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pが接合された後(図11(b)参照)、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの表面(第1の主面および側面)を被覆するように、例えば無電解めっきによりバリア層11が形成される。続いて、バリア層11を被覆するように、例えば無電解めっきにより被覆層6が形成される。図13のFPC基板1の製造方法の他の点は、上記第1の実施の形態におけるFPC基板1の製造方法と同様である。
【0124】
バリア層11の厚みは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.3μm以上8μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。バリア層11の厚みが0.1μm以上であると導体層30と被覆層6との間の密着性が向上し、バリア層11の厚みが10μm以下であると導体パターン3と被覆層6との間の電気伝導率が向上する。バリア層11の材料はニッケルに限らず、ニッケル銅等の他の導電性材料が用いられてもよい。
【0125】
(3−2)効果
本実施の形態に係るFPC基板1においても、ベース絶縁層2が、連続孔を有する多孔質材料からなる。それにより、FPC基板1が集電作用と気液分離作用とを有するので、燃料電池100の構造を簡単にすることができる。
【0126】
また、導体パターン3と被覆層6との間にバリア層11が形成される。それにより、導体パターン3の成分が被覆層6上に移動することが防止される。したがって、導体パターン3の腐食がより十分に防止される。
【0127】
(4)第4の実施の形態
本発明の第4の実施の形態に係る配線回路基板について、上記第1の実施の形態と異なる点を説明する。
【0128】
(4−1)構成
図14は、第4の実施の形態に係るFPC基板の断面図である。図14の断面は、図1のA−A線断面に相当する。
【0129】
図14のFPC基板1においては、接着剤パターン7と導体パターン3との間にも被覆層6が形成される。この場合、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3n、引き出し導体部3o,3pの各々の第1の主面、第2の主面および側面を被覆するように被覆層6が形成される。
【0130】
(4−2)製造方法
(4−2−1)第1の例
図14に示したFPC基板1の製造方法を説明する。図15、図16、図17および図18は、図14のFPC基板1の製造方法の第1の例を説明するための工程断面図である。なお、図15〜図18は、図14のFPC基板1のA−A線断面に対応する箇所における工程断面図である。
【0131】
まず、図15(a)に示すように、例えば銅からなる導体層30が用意される。導体層30の厚みは例えば35μmである。次に、図15(b)に示すように、レーザ加工により、導体層30から集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pを含む導体パターン3(図1(a)参照)が形成される。レーザ加工に代えて、エッチングまたは金型を用いた打ち抜きにより集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pが形成されてもよい。
【0132】
続いて、図15(c)に示すように、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの第1の主面E1、第2の主面E2および側面E3を被覆するように、被覆部6a〜6nを含む被覆層6(図1(a)参照)を形成する。このようにして形成された導体パターン3および被覆層6からなる積層体を第1の積層体L1と呼ぶ。
【0133】
図15(a)〜図15(c)の第1の積層体L1の形成工程と並行して、図16(a)に示すように、接着剤層前駆体7pおよびキャリア層9が用意される。接着剤層前駆体7pの一面および他面には、それぞれ剥離層7a,7bが設けられている。剥離層7a,7bの材料としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)が用いられる。キャリア層9の一面には粘着層9aが設けられている。キャリア層9の材料としては、例えばPETが用いられる。粘着層9aの材料としては、例えばアクリル系の接着剤が用いられる。
【0134】
次に、図16(b)に示すように、剥離層7aおよび粘着層9aを介して、接着剤層前駆体7pとキャリア層9とが貼り合わされる。続いて、図16(c)に示すように、剥離層7bが接着剤層前駆体7pから剥離される。
【0135】
その後、図16(d)に示すように、レーザ加工により、接着剤層前駆体7pおよび剥離層7aに所定のパターンが形成される。これにより、接着剤パターン7が形成される。レーザ加工に代えて、エッチングまたは金型を用いた打ち抜きにより接着剤層前駆体7pおよび剥離層7aに所定のパターンが形成されてもよい。このようにして形成された接着剤パターン7、剥離層7a、粘着層9aおよびキャリア層9からなる積層体を第2の積層体L2と呼ぶ。接着剤パターン7は、図15(c)の第1の積層体L1に形成されるパターンと同様である。
【0136】
次に、図17(a)に示すように、図15(c)の第1の積層体L1および図16(d)の第2の積層体L2に加え、キャリア層8が用意される。キャリア層8の一面には粘着層8aが設けられている。キャリア層8の材料としては、例えばPETが用いられる。粘着層8aの材料としては、例えばアクリル系の接着剤が用いられる。
【0137】
続いて、図17(b)に示すように、第1の積層体L1の一面(導体パターン3の第1の主面E1側の面)が粘着層8aを介してキャリア層8と貼り合わされるとともに、第1の積層体L1の他面(導体パターン3の第2の主面E2側の面)が接着剤パターン7を介して第2の積層体L2と貼り合わされる。その後、図17(c)に示すように、第2の積層体L2から粘着層9aおよびキャリア層9とともに剥離層7aが剥離される。これにより、第1の積層体L1の他面に接着剤パターン7が残存する。
【0138】
次に、図18(a)に示すように、図14のベース絶縁層2が用意される。続いて、図18(b)に示すように、接着剤パターン7を介して第1の積層体L1の他面にベース絶縁層2が貼り合わされる。その後、図18(c)に示すように、第1の積層体L1から粘着層8aおよびキャリア層8が除去される。これにより、FPC基板1が完成する。
【0139】
導体層30(図2(a)参照)の厚みは500μm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。導体層30の厚みが500μm以下であると導体層30の取り扱い性が向上する。本例において導体層30の材料として銅が用いられるが、これに代えてニッケル、アルミニウム、銀もしくは金またはこれらの合金が用いられてもよい。
【0140】
本例において、導体パターン3と被覆層6との間にバリア層11が形成されてもよい。この場合、集電部3a〜3j、接続導体部3k〜3nおよび引き出し導体部3o,3pの第1の主面E1、第2の主面E2および側面を被覆するようにバリア層11が形成される。
【0141】
接着剤パターン7(図16〜図18参照)の厚みは1μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。接着剤パターン7の厚みが1μm以上であると接着剤の接着力が向上し、接着剤パターン7の厚みが100μm以下であると接着剤パターン7の取り扱い性が向上する。
【0142】
キャリア層8,9(図17参照)の厚みは1μm以上500μm以下であることが好ましく、25μm以上250μm以下であることがより好ましい。キャリア層8,9の厚みが1μm以上であるとキャリア層8,9の取り扱い性が向上し、キャリア層8,9の厚みが500μm以下であるとキャリア層8,9のフレキシブル性が向上する。
【0143】
図17(b)の第1の積層体L1をキャリア層8および第2の積層体L2に貼り合わせる工程において、位置合わせ部材および固定部材を用いて第1の積層体L1がキャリア層8と第2の積層体L2との間で位置決めされてもよい。図19は、キャリア層8、第1の積層体L1、位置合わせ部材20aおよび第2の積層体L2の斜視図である。図20は、キャリア層8、第1の積層体L1、位置合わせ部材20a、第2の積層体L2および固定部材20bの断面図である。
【0144】
図19に示すように、位置合わせ部材20aは、開口H11,H12(図17参照)の部分を除いて第1の積層体L1の反転パターンを有する板状部材である。これにより、第1の積層体L1は、位置合わせ部材20aに嵌合可能である。位置合わせ部材20aの厚みは、第1の積層体L1の厚みと略等しい。これにより、第1の積層体L1が位置合わせ部材20aに嵌合された場合、第1の積層体L1の一面(導体パターン3の第1の主面E1側の面)と位置合わせ部材20aの一面とは同一平面上にあり、第1の積層体L1の他面(導体層パターン3の第2の主面E2側の面)と位置合わせ部材20aの他面とは同一平面上にある。
【0145】
図20(a)に示すように、図17(a)のキャリア層8、第1の積層体L1および第2の積層体L2に加え、位置合わせ部材20aおよび固定部材20bが配置される。キャリア層8の一面には粘着層8aが設けられている。続いて、図20(b)に示すように、位置合わせ部材20aが固定部材20bにより第2の積層体L2上に固定される。固定部材20bは、例えばピンである。これにより、第2の積層体L2の接着剤パターン7が位置合わせ部材20aのパターンから露出する。
【0146】
次に、図20(c)に示すように、第1の積層体L1が第2の積層体L2上の位置合わせ部材20aに嵌合されるとともに、第1の積層体L1の他面(導体パターン3の第2の主面E2側の面)が位置合わせ部材20aから露出する接着剤パターン7を介して第2の積層体L2に貼り合わされる。これにより、第1の積層体L1が第2の積層体L2上で位置決めされる。続いて、粘着層8aを介してキャリア層8が第1の積層体L1の一面(導体パターン3の第1の主面E1側の面)に貼り合わされる。
【0147】
その後、固定部材20bが除去され、FPC基板1の製造工程は図17(b)の工程に続く。なお、位置合わせ部材20aは、例えば図17(c)の工程の後に除去される。
【0148】
(4−2−2)第2の例
図14のFPC基板1の製造方法の第2の例について、上記第1の例と異なる点を説明する。図21は、FPC基板1の製造方法の第2の例を説明するための工程断面図である。
【0149】
まず、図21(a)に示すように、図16(d)の第2の積層体L2および図1のベース絶縁層2が用意される。続いて、図21(b)に示すように、ベース絶縁層2が接着剤パターン7を介して第2の積層体L2と貼り合わされる。その後、図21(c)に示すように、第2の積層体L2から粘着層9aおよびキャリア層9とともに剥離層7aが剥離される。これにより、ベース絶縁層2に接着剤パターン7が残存する。
【0150】
次に、図21(d)に示すように、図15(c)の第1の積層体L1が用意される。続いて、図21(e)に示すように、接着剤パターン7を介して第1の積層体L1にベース絶縁層2が貼り合わされる。このとき、図19および図20の位置合わせ部材20aを用いて第1の積層体L1がベース絶縁層2上で位置決めされてもよい。この場合、第1の積層体L1がベース絶縁層2に貼り合わされた後、位置合わせ部材20aが除去される。これにより、FPC基板1が完成する。
【0151】
(4−2−3)第3の例
FPC基板1の製造方法の第3の例について、上記第1の例と異なる点を説明する。図22は、FPC基板1の製造方法の第3の例を説明するための工程断面図である。
【0152】
まず、図22(a)に示すように、図15(c)の第1の積層体L1および図1のベース絶縁層2が用意される。続いて、図22(b)に示すように、ベース絶縁層2の融点よりも高い温度でかつ所定の圧力で所定時間第1の積層体L1をベース絶縁層2にプレス(押圧)することにより、第1の積層体L1がベース絶縁層2に貼り合わされる。
【0153】
第1の積層体L1がベース絶縁層2にプレスされる前に、図19および図20の位置合わせ部材20aを用いて第1の積層体L1がベース絶縁層2上で位置決めされてもよい。この場合、第1の積層体L1がベース絶縁層2上に位置決めされた後、位置合わせ部材20aが除去される。その後、第1の積層体L1がベース絶縁層2にプレスされる。これにより、FPC基板1が完成する。
【0154】
(4−3)効果
本実施の形態に係るFPC基板1においても、ベース絶縁層2が、連続孔を有する多孔質材料からなる。それにより、FPC基板1が集電作用と気液分離作用とを有するので、燃料電池100の構造を簡単にすることができる。
【0155】
また、導体パターン3の第1の主面、第2の主面および側面を被覆するように被覆層6が形成される。この場合、燃料電池100内において、導体パターン3の全面が被覆層6により一体的に被覆されるので、ギ酸が導体パターン3に接触することが確実に防止される。したがって、導体パターン3の腐食がより確実に防止される。
【0156】
(5)他の実施の形態
上記実施の形態において、ベース絶縁層2の材料として多孔質性のePTFEが用いられたが、これに限定されない。例えば、ベース絶縁層2の材料として、ePTFEに代えて、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリメチルメタクリレートポリマー樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂のうちの少なくとも1つを含む樹脂が多孔質化されたフィルムが用いられてもよい。
【0157】
上記第1、第3および第4の実施の形態においては、導体パターン3の材料として銅が用いられたが、これに限定されない。例えば、銅に代えて金(Au)もしくはアルミニウム等の他の金属、または銅合金、金合金、銀合金もしくはアルミニウム合金等の合金を用いてもよい。
【0158】
上記第1、第3および第4の実施の形態においては被覆層6の材料として、また、上記第2の実施の形態においては導体パターン3の材料として、ヤング率が105Gpa以下でありかつ表面層の標準電極電位がー1.5V以上である材料(例えば、銀)が用いられたが、これに限定されない。例えば、第1、第3および第4の実施の形態の被覆層6ならびに第2の実施の形態の導体パターン3の材料として、銅もしくはアルミニウム等の他の金属、または銅合金、金合金、銀合金もしくはアルミニウム合金等の合金を用いてもよい。または、第1、第3および第4の実施の形態の被覆層6の材料として、カーボンブラック等の導電性材料を含む樹脂組成物が用いられてもよい。
【0159】
上記実施の形態では、ベース絶縁層2と導体パターン3との間に接着剤パターン7が形成されるが、ベース絶縁層2と導体パターン3との接合性を確保することができ、かつ導体パターン3の腐食を防止することができるのであれば、ベース絶縁層2上に導体パターン3が直接形成されてもよい。
【0160】
上記実施の形態において、FPC基板1は5対の集電部(集電部3a,3f、集電部3b,3g、集電部3c,3h、集電部3d,3iおよび集電部3e,3j)を有するが、これに限定されない。FPC基板1の集電部の数は4対以下であってもよいし、6対以上であってもよい。これにより、任意の数の電極膜35を直列接続することができる。また、FPC基板1が1対の集電部を有してもよい。この場合、接続導体部3k〜3nは設けられない。
【0161】
(6)実施例
実施例1〜7として、FPC基板1のサンプルを作製した。
【0162】
(6−1−1)実施例1
図23は、実施例1のサンプルの製造方法を示す工程断面図である。図23(a)に示すように、キャリア層8上に銅からなる導体層30を貼り合わせるとともに、導体層30上にエポキシ樹脂からなる接着剤層前駆体7pを貼り合わせた。次に、図23(b)に示すように、金型を用いて接着剤層前駆体7p、導体層30およびキャリア層8を所定の形状に打ち抜き、接着剤パターン7および導体パターン3を形成した。
【0163】
次に、図23(c)に示すように、接着剤パターン7を介して導体パターン3を多孔質性のePTFE(日東電工株式会社製;TEMISHNTF−1121)からなるベース絶縁層2に接合した。次に、図23(d)に示すように、導体パターン3からキャリア層8を剥離し、ベース絶縁層2、接着剤パターン7および導体パターン3を150℃で3時間加熱することにより接着剤パターン7を硬化させた。
【0164】
最後に、図23(e)に示すように、導体パターン3の表面を被覆するように銀からなる被覆層6を形成し、実施例1のサンプルを得た。
【0165】
(6−1−2)実施例2
導体パターン3の材料として銅の代わりに銀を用い、かつ被覆層6を形成しない点を除いて、上記実施例1と同様にサンプルを作製した。
【0166】
(6−1−3)実施例3
図24は、実施例3のサンプルの製造方法を示す断面図である。図24(a)に示すように、実施例1の図23(a)〜図23(d)と同様に、ベース絶縁層2上に接着剤パターン7および銅からなる導体パターン3を形成した。次に、図24(b)に示すように、無電解ニッケルめっきにより、導体パターン3の表面を被覆するようにニッケルからなるバリア層11を形成した。次に、図24(c)に示すように、無電解銀めっきにより、バリア層11の表面を被覆するように銀からなる被覆層6を形成し、実施例3のサンプルを得た。
【0167】
(6−1−4)実施例4
被覆層6を形成しない点を除いて、上記実施例1と同様にサンプルを作製した。
【0168】
(6−1−5)実施例5
導体パターン3の材料として銀の代わりにアルミニウムを用いた点を除いて、実施例4と同様にサンプルを作製した。
【0169】
(6−1−6)実施例6
導体パターン3の材料として銅の代わりにニッケルを用いた点を除いて、実施例4と同様にサンプルを作製した。
【0170】
(6−1−7)実施例7
導体パターン3の材料として銅の代わりにジルコニウムを用いた点を除いて、実施例4と同様にサンプルを作製した。
【0171】
(6−2)評価
実施例1〜7のサンプルにおいて、以下の評価を行った。以下の説明では、ベース絶縁層2上に接着剤パターン7を介して形成される層のうち、最表面となる層を表面層と呼ぶ。実施例1,3では、被覆層6が表面層となり、実施例2,4〜7では、導体パターン3が表面層となる。
【0172】
(6−2−1)接触抵抗
次のようにして実施例1〜7のサンプルの接触抵抗を測定した。図25は、実施例1のサンプルにおける接触抵抗の測定方法を示す模式図である。実施例2〜7におけるのサンプルにおける接触抵抗の測定方法は、図25に示す方法と同様である。
【0173】
図25に示すように、実施例1のサンプルをそれぞれ一対用意した。導体パターン3が形成されたベース絶縁層2の面が互いに向き合うように一対のサンプルを配置するとともに、一対のサンプルの被覆層6の間にカーボンペーパーCPを配置した。25℃の環境下において、一対のサンプルをカーボンペーパーCPの一面および他面に1Mpaの圧力でそれぞれ押し当てた。その状態で、一対のサンプルの導体パターン3間の抵抗値をAC mΩ HITESTER(日置電機株式会社製)を用いて測定した。
【0174】
(6−2−2)腐食性
ギ酸が1000ppmの濃度で含まれる水溶液に、実施例1〜7のサンプルを50℃の環境下で7日間浸漬させ、導体パターン3、被覆層6およびバリア層11の腐食を観察した。
【0175】
表1には、実施例1〜7における表面層の材料、ならびに表面層のヤング率(参考文献:日本金属学会編 金属データブック)および表面層の標準電極電位(参考文献:日本化学会編 化学便覧(基礎編II))が示される。表2には、実施例1〜7における接触抵抗の測定値および腐食の観察結果が示される。
【0176】
【表1】

【0177】
【表2】

【0178】
表1および表2に示すように、実施例1〜3のサンプルにおいては、接触抵抗値が2.4〜3.3mΩと低かった。また、実施例1〜3,7のサンプルにおいては、導体パターン3、被覆層6およびバリア層11に腐食が生じなかった。一方、実施例4〜7のサンプルにおいては、接触抵抗値が35.1〜720mΩと高かった。また、実施例4〜6のサンプルにおいては、導体パターン3に腐食が生じた。
【0179】
これにより、表面層のヤング率が105Gpa以下でありかつ表面層の標準電極電位がー1.5V以上であることにより、導体パターン3の集電効率を維持しつつ導体パターン3の腐食を防止することができることがわかった。
【0180】
他の方法により、導体パターン3の集電効率を維持しつつ導体パターン3の腐食を防止することができるのであれば、実施例4〜7のように、表面層のヤング率および標準電極電位が上記範囲内でなくてもよい。
【0181】
(7)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0182】
上記実施の形態においては、ベース絶縁層2がベース絶縁層の例であり、導体パターン3が導体層または被覆層の例であり、被覆層6が被覆層の例であり、バリア層11がバリア層の例であり、接着剤パターン7が接着剤層の例であり、電極膜35が電池要素の例であり、ケーシング40が筐体の例である。
【0183】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明は、燃料電池に用いられる配線回路基板の製造に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0185】
1 FPC基板
2 ベース絶縁層
2a 第1絶縁部
2b 第2絶縁部
2c 第3絶縁部
2d 第4絶縁部
3 導体パターン
3a〜3j 集電部
3k〜3n 接続導体部
3o,3p 引き出し導体部
5a,5b 引き出し電極
6 被覆層
6a〜6n 被覆部
7 接着剤パターン
7p 接着剤層前駆体
7q 接着剤層
8,9 キャリア層
11 バリア層
22 レジスト膜
22a エッチングレジストパターン
30 導体層
35 電極膜
35a 空気極
35b 燃料極
35c 電解質膜
40 ケーシング
41 上面部
42 下面部
43,44 側面部
50 燃料収容室
B1 屈曲部
H11,H12,H41 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられる配線回路基板であって、
ベース絶縁層と、
前記ベース絶縁層上に形成される導体層とを備え、
前記ベース絶縁層は、連続孔を有する多孔質材料を含むことを特徴とする配線回路基板。
【請求項2】
前記導体層は、第1および第2の主面ならびに側面を有し、前記第2の主面が前記ベース絶縁層に対向するように前記ベース絶縁層上に形成され、
前記導体層の前記第1の主面および前記側面に形成される表面層をさらに備え、
前記表面層は、ヤング率が105GPa以下でかつ標準電極電位が−1.5V以上であることを特徴とする請求項1記載の配線回路基板。
【請求項3】
前記表面層は、前記導体層と異なる材料からなることを特徴とする請求項2記載の配線回路基板。
【請求項4】
前記導体層は銅を含み、前記表面層は銀を含むことを特徴とする請求項3記載の配線回路基板。
【請求項5】
前記導体層と前記表面層との間に形成され、前記導体層および前記表面層と異なる材料からなるバリア層をさらに備えることを特徴とする請求項3または4記載の配線回路基板。
【請求項6】
前記バリア層はニッケルを含むことを特徴とする請求項5載の配線回路基板。
【請求項7】
前記表面層は、前記導体層の前記第2の主面にさらに形成され、
前記導体層は、前記第1の主面と前記絶縁層との間に前記表面層が介在するように前記ベース絶縁層上に設けられることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の配線回路基板。
【請求項8】
前記導体層および前記表面層は同一の材料により一体的に形成されることを特徴とする請求項2記載の配線回路基板。
【請求項9】
前記導体層および前記表面層は銀を含むことを特徴とする請求項8記載の配線回路基板。
【請求項10】
前記ベース絶縁層と前記導体層との間に形成される接着剤層をさらに備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の配線回路基板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線回路基板と、
電池要素と、
前記配線回路基板および前記電池要素を収容する筺体とを備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項12】
連続孔を有する多孔質材料を含むベース絶縁層を準備する工程と、
前記ベース絶縁層上に導体層を形成する工程とを備えることを特徴とする配線回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−104383(P2012−104383A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252125(P2010−252125)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】