説明

配線基板およびはんだバンプ付き配線基板ならびに半導体装置

【課題】 エレクトロマイグレーションによる接続パッドの空隙を抑制することが可能な配線基板を提供すること。
【解決手段】 上面に半導体素子4の搭載部1aを有する絶縁基板1と、ガラス成分を含む銅の多結晶体からなり、搭載部1aから絶縁基板1の内部にかけて形成された貫通導体3と、貫通導体3を形成している銅の結晶よりも平均粒径が大きい銅の多結晶体からなり、搭載部1aにおける貫通導体3の端面を覆うように形成された接続層2とを備えており、接続層2を形成している銅の結晶配向性が無配向であり、半導体素子4の電極5が接続層2にはんだ6を介して電気的に接続される配線基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の電極がはんだを介して接合される接続層を備える配線基板、配線基板の接続層にはんだバンプが接合されてなるはんだバンプ付き配線基板および配線基板に半導体素子が実装されてなる半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路素子(IC)等の半導体素子は、通常、半導体素子搭載用の配線基板に搭載されて半導体装置となり、コンピュータや通信機器,センサ機器等の電子機器を構成する外部の電気回路(マザーボード等)に実装されて使用されている。
【0003】
半導体素子は、一般に、シリコン等の半導体基板の一主面に電子回路が形成され、この電子回路と電気的に接続された円形状等の電極が一主面に配置された構造である。電子回路は、その一端が電極の外周の一部に直接に接続することによって、電極と電気的に接続されている。
【0004】
配線基板は、例えば有機樹脂からなる絶縁基板の上面に、半導体素子等の電子部品素子の電極の配置に対応して接続パッドが形成された構造である。接続パッドは、通常、銅のめっき層により形成されている。
【0005】
半導体素子の電極と配線基板の接続パッドとを互いに対向させて、両者の間に介在させたはんだを介して両者を互いに接合させれば、半導体装置が形成される。はんだは、例えばスズ−銀やスズ−銀−ビスマス等のはんだ材料からなり、配線基板の接続パッドに凸状に、はんだバンプとして被着されて、接続パッドと電極との接合に用いられる。
【0006】
接続パッドは、一般に、搭載部から絶縁基板の内部にかけて形成された貫通導体(いわゆるビア導体)等を介して絶縁基板の下面等に電気的に導出され、この下面等に形成された外部接続用の端子に電気的に接続されている。外部接続用の端子を外部電気回路に接続することにより、半導体素子と外部電気回路とが電気的に接続される。
【0007】
半導体装置は、上記電子機器の基板に実装され、外部の電気回路から貫通導体、接続パッドおよびはんだバンプを通って半導体素子の電極に各種の信号としての電流が通電される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−103501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術の配線基板においては、接続パッドにはんだ(はんだバンプ)を介して半導体素子の電極を接合して通電したときに、接続パッドのはんだとの接合部分にボイド(空隙)が発生する可能性があるという問題点があった。
【0010】
これは、接続パッドの主成分である銅がエレクトロマイグレーションによってはんだバンプ内に拡散し、この拡散した跡が空隙となることによると考えられている。このような空隙が生じると、接続パッドとはんだバンプとの間で局部的な電気抵抗の増加や断線等の不具合を生じる。
【0011】
特に、近年、半導体素子の高速化に伴い、外部電気回路から貫通導体を通って接続パッドおよびはんだバンプに流れる電流がさらに大きくなる傾向にあるため、上記電流密度の増加が顕著であり、エレクトロマイグレーションによる空隙がさらに発生しやすくなってきている。
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み完成されたものであり、絶縁基板の搭載部に接続パッドが配置され、半導体素子の電極がはんだバンプを介して接続パッドに接合される配線基板において、接続パッドのエレクトロマイグレーションによる空隙を抑制することが可能な配線基板を提供することにある。また、本発明の目的は、そのような接続パッドのはんだバンプとの接合面における空隙を効果的に抑制することが可能なはんだバンプ付き配線基板および半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記エレクトロマイグレーションが銅の結晶の特定の方向(結晶面)において発生しやすいという新たな知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明の一つの態様による配線基板は、上面に半導体素子の搭載部を有する絶縁基板と、ガラス成分を含む銅の多結晶体からなり、前記搭載部から前記絶縁基板の内部にかけて形成された貫通導体と、前記貫通導体を形成している銅の結晶よりも平均粒径が大きく、かつ結晶配向性が無配向である銅の多結晶体からなり、前記搭載部における前記貫通導体の端面を覆うように形成された接続層とを備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明の一つの態様によるはんだバンプ付き配線基板は、上記構成の配線基板と、前記接続層に接合されたはんだバンプとを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の一つの態様による半導体装置は、上記構成の配線基板と、前記搭載部に搭載され、電極が前記接続パッドにはんだバンプを介して接続された半導体素子とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一つの態様による配線基板によれば、上記構成を備え、結晶の平均粒径が比較的大きく、結晶配向性が無配向である銅の多結晶体によって、接続パッドとして機能する接続層が形成されており、この接続層に半導体素子の電極がはんだを介して電気的に接続されることから、エレクトロマイグレーションによる接続層における空隙の発生を抑制することができる。
【0018】
すなわち、このような接続層によれば、銅の多結晶体が無配向であることから、マイグレーションを生じやすい特定の結晶面がはんだバンプに接することが低減される。また、銅の拡散の起点となりやすい、上記特定の結晶面を含む結晶界面がはんだバンプに接することが抑制される。そのため、銅のエレクトロマイグレーションによる接続層における空隙の発生を抑制することができる。したがって、接続層にはんだバンプを接続して、接続層からはんだバンプを介して半導体素子に通電したときに、接続層における空隙の発生を抑制することができる。
【0019】
本発明の一つの態様によるはんだバンプ付き配線基板によれば、上記構成の配線基板と、接続層に接合されたはんだバンプとを備えることから、はんだバンプに半導体素子の電極を接続した後、接続層からはんだバンプを介して半導体素子に通電したときに、接続層を形成している銅のエレクトロマイグレーションによる空隙の発生を抑制することができる。
【0020】
本発明の一つの態様に半導体装置によれば、上記構成の配線基板と、搭載部に搭載され、電極が接続パッドにはんだバンプを介して接続された半導体素子とを備えることから、接続パッドからはんだバンプを介して半導体素子に通電したときに、接続層を形成している銅のエレクトロマイグレーションによる空隙の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の配線基板における要部を示す断面図である。
【図2】(a)は、図1に要部を示す配線基板の全体の一例を示す平面図であり、(b)は(a)のA−A線における断面図である。
【図3】本発明の実施形態の配線基板における要部を拡大して模式的に示す断面図である。
【図4】図1に示す配線基板の変形例における要部を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態のはんだバンプ付き配線基板を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態の半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の配線基板、その配線基板を用いてなるはんだバンプ付き配線基板および半導体装置を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、配線基板に半導体素子が搭載される場合を例に挙げて説明する。配線基板には、半導体素子に限らず、半導体素子が中継基板等に搭載されてなる素子や圧電素子等の他の電子部品素子が搭載されても構わない。
【0023】
図1は本発明の実施形態の配線基板における要部を示す断面図である。また、図2(a)は、図1に示す配線基板の全体の一例を示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A線における断面図である。図1および図2において、1は絶縁基板,2は接続層,3は貫通導体,4は半導体素子,5は半導体素子4の電極である。絶縁基板1と、絶縁基板1の上面の搭載部1aに配置された接続層2と、端部に接続層2が被着された貫通導体3とによって、半導体素子4を搭載するための配線基板が基本的に構成されている。
【0024】
なお、図1においては、配線基板に半導体素子4を搭載し、半導体素子4の電極5を接続層2に、はんだ(はんだバンプ)6を介して接合した(電気的および機械的に接続した)状態を示し、図2においては配線基板のみを示している。配線基板の接続層2に半導体素子4の電極5が、はんだ付け(リフロー)等の方法ではんだバンプ6を介して接合されて半導体装置が形成されている。
【0025】
配線基板は、半導体素子4を搭載して半導体装置を作製するための、いわゆるICパッケージ等である。配線基板は、例えば、ガラスセラミック焼結体や酸化アルミニウム質焼結体,ムライト質焼結体,窒化アルミニウム質焼結体等のセラミック材料や、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂等の樹脂材料、セラミック材料やガラス材料等と樹脂材料との複合材料等の絶縁材料によって形成された絶縁基板1の上面に半導体素子4の搭載部1aを有し、この搭載部1aに接続層2が配置されて形成されている。
【0026】
絶縁基板1は、例えば、ガラスセラミック焼結体からなる場合であれば、次のようにして製作することができる。すなわち、ホウケイ酸系ガラス等のガラス成分と酸化アルミニウム等のセラミック成分とを主成分し、焼結助剤等を添加して作製した原料粉末に適当な有機バインダおよび有機溶剤を添加混合して泥漿状とし、これをドクターブレード法やリップコータ法等のシート成形技術を採用してシート状に成形することにより複数枚のセラミックグリーンシートを得て、その後、セラミックグリーンシートを切断加工や打ち抜き加工により適当な形状とするとともにこれを複数枚積層し、最後にこの積層されたセラミ
ックグリーンシートを還元雰囲気中において約800〜1000℃の温度で焼成することによっ
て製作される。
【0027】
絶縁基板1は、例えば四角板状であり、その上面の中央部の四角形状等の領域が半導体素子4の搭載部1aとなっている。この搭載部1aに、半導体素子4の複数の電極5がそれぞれ電気的に接続される複数の接続層2が配置されている。
【0028】
接続層2は、絶縁基板1の上面の搭載部1aに、半導体素子4の主面(図1の例では下面)に配置された電極5と対向するように配置されている。接続層2と半導体素子4の電極5とがはんだバンプ6を介して互いに接合されることによって半導体素子4と配線基板とが電気的および機械的に接続され、半導体装置が形成される。
【0029】
接続層2は、例えば平面視で円形状や楕円形状,四角形状等であり、対向して接続される電極5の形状や寸法に応じて適宜、形状および寸法が設定されている。例えば電極5が直径約100〜300μm程度の円形状等の場合であれば、接続層2は、これよりも若干大きな円形状(直径が約200〜400μm程度)等に形成される。
【0030】
絶縁基板1には、搭載部1aから内部にかけて貫通導体3が形成されている。接続層2は、この貫通導体3の端面を被覆するようにして形成されている。すなわち、接続層2は、貫通導体3と電気的に接続され、貫通導体3を介して絶縁基板1の内部、または下面等の外面に形成された配線導体7等の他の導体と電気的に接続されている。接続層2および貫通導体3を介して、搭載部1aに搭載される半導体素子4の電極5が外部電気回路と電気的に接続される。
【0031】
貫通導体3は、ガラス成分を含む銅の多結晶体によって形成されている。ガラス成分を含む銅の多結晶体は、例えばガラス成分が添加された銅のペーストの焼結体である。ガラス成分が添加されていることによって、絶縁基板1(セラミックグリーンシート)との同時焼成の際の銅のペースト収縮率をセラミックグリーンシートに近づけることができる。これによって、貫通導体3の絶縁基板1(絶縁基板1に形成された貫通孔の内側面)に対する密着性が確保されている。
【0032】
貫通導体3となる銅のペーストは、例えば銅の粉末に適当なガラス材料の粉末を添加し、これらを有機溶剤およびバインダとともに混練することによって作製することができる。
【0033】
貫通導体3に含有させるガラス成分としては、例えば、絶縁基板1をガラスセラミック焼結体で形成するときに用いるガラス成分と同様のものが挙げられる。また、貫通導体3におけるガラス成分の含有量は、絶縁基板1を形成する材料や貫通導体3の寸法等に応じて、適宜設定すればよい。
【0034】
例えば、絶縁基板1がホウケイ酸ガラスを用いたガラスセラミック焼結体からなり、貫通導体3に添加するガラス成分がホウケイ酸ガラスであり、貫通導体3の寸法が、直径が100μmの円形状(円柱状)の場合であれば、貫通導体3におけるガラス成分の含有量は10〜20質量%程度に設定すればよい。
【0035】
接続層2は、例えば図3に模式的に示すように、貫通導体3を形成している銅の結晶よりも平均粒径が大きい銅の結晶の多結晶体によって形成されている。この、接着層2を形成している銅の多結晶体は、例えばガラス成分が添加されていない銅のペーストの焼結体である。すなわち、接続層2にはガラス成分が添加されていない。接続層2は、主成分が銅であり、銅の電気抵抗(抵抗率)が低いため、電気抵抗が低く抑えられている。
【0036】
貫通導体3のガラス成分は銅の結晶同士の間に存在しているが、図3においてはガラス成分を省略している。なお、図3は、本発明の実施形態の配線基板における要部を拡大して示す断面図である。図3において図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。また、図3において銅の結晶は、図を見やすくするために、断面が円形状のもの(例えば球形状)として示しているが、多角形状や表面に多数の凹凸を有する球形状,不定形状等である場合もある。
【0037】
なお、銅の多結晶体における銅の結晶の粒径は、結晶が球形状の場合であれば直径であり、球形状以外であれば、結晶の断面における対向し合う外周間の距離である。
【0038】
接続層2となる銅のペーストは、例えば銅の粉末を有機溶剤およびバインダとともに混練することによって作製することができる。
【0039】
接続層2および貫通導体3は、それぞれ上記銅のペーストを絶縁基板1となるセラミックグリーンシートにスクリーン印刷法等の方法で所定パターンに印刷し、セラミックグリーンシートと同時焼成することによって形成することができる。この場合、例えば、絶縁基板1となるセラミックグリーンにあらかじめ貫通孔を形成しておいて、この貫通孔内に貫通導体3となる銅のペーストを充填し、同時焼成を行なうことによって貫通導体3を形成することができる。
【0040】
また、接続層2を形成している銅の結晶配向性が無配向であり、前述したように、半導体素子4の電極5が接続層2にはんだバンプ6を介して電気的に接続される。図3に示す例において(110)配向している部分以外は、他の方向に配向している。なお、銅の結晶のうち(110)配向している部分は、一つの結晶の中に、例えば断面視で帯状等の形態で、他の配向の部分とともに存在している。言い換えれば、一つの銅の結晶内に、互いに異なる配向の部分が含まれている。他の方向としては、例えば(111),(112),(200),(020),(100)・・・等の、約10種類程度の方向が挙げられる。
【0041】
このような配線基板によれば、結晶の平均粒径が比較的大きく、結晶配向性が無配向である銅の多結晶体によって接続層2が形成されており、この接続層2に半導体素子4の電極5がはんだバンプ6を介して電気的に接続されることから、エレクトロマイグレーションによる接続層2における空隙の発生を抑制することができる。
【0042】
すなわち、このような接続層2によれば、銅の多結晶体が無配向であることから、マイグレーションを生じやすい特定の結晶面がはんだバンプ6に接することが抑制される。また、銅の拡散の起点となりやすい、上記特定の結晶面を含む結晶界面がはんだバンプ6に接することが抑制される。そのため、銅のエレクトロマイグレーションによる接続層2における空隙の発生を抑制することができる。したがって、接続層2にはんだバンプ6を接続して、はんだバンプ6に通電したときに、接続層2における空隙の発生を抑制することができる。
【0043】
なお、前述した新たな知見によれば、銅を主成分とする接続層2(接続パッド)においてエレクトロマイグレーションが生じやすいのは、銅の結晶配向性が(110)配向である場合である。この原因については、結晶配向が(110)である場合、結晶粒は上下に連なった柱状の結晶であり、電子の流れが結晶配向に沿って流れやすいために、エレクトロマイグレーションによる銅原子の移動が起こりやすくなると考えられる。
【0044】
なお、銅の金属層を電解めっき等のめっき法で形成した場合には、結晶粒の成長方向が一つに揃いやすい。また、形成された柱状の結晶が(110)配向である確率が高い。そ
のため、めっき法で形成された接続層(図示せず)の場合には、エレクトロマイグレーションが発生しやすい傾向がある。
【0045】
これに対して、前述したように結晶配向性が無配向であることによって、接着層2のはんだバンプ6との界面における銅の結晶のうち(110)配向のものが相対的に少なくなるため、エレクトロマイグレーションが効果的に抑制される。また、結晶の平均粒径が粗い、言い換えれば結晶の界面が相対的に少ないこと、この結晶の界面が(特に(110)配向のものにおいて)エレクトロマイグレーションの起点になりやすことから、エレクトロマイグレーションが効果的に抑制され得る。
【0046】
無配向の銅の多結晶体において、(110)配向の確率は約8〜12%程度である。なお、銅の結晶配向性は、例えばX線回折やEBSD(electron backscatter diffraction:電子後方散乱回折)分析といった、回折現象を利用した測定手段によって検知することができる。また、銅の多結晶体における(110)配向のものの割合は、例えばEBSDのマッピングによって算出することができる。
【0047】
また、銅の平均粒径は、例えば接着層2厚み方向の断面において、一定の範囲を電子顕微鏡(走査型電子顕微鏡等)で観察して、個々の結晶粒の粒径を測定し、その算術平均を計算することによって知ることができる。
【0048】
接続層2を形成している銅の結晶の平均粒径を、貫通導体3を形成している銅の結晶の平均粒径よりも大きなものとするには、例えば、接続層2となる銅のペースト用の銅粉末の平均粒径を、貫通導体3となる銅のペースト用の銅粉末の平均粒径よりも大きくすればよい。この場合、例えば所定の粒径未満の小径の銅粉末をふるい落とす操作(いわゆる分級)によって銅粉末中の小径のものを除去するようにすれば、平均粒径の大きな銅粉末を準備することができる。
【0049】
すなわち、アトマイズ法や粉砕法等の方法で作製された銅の粉末は、互いに大きさが異なるものが混在しており、1μm程度以下の小さいものも、10μm程度の大きいものも含んでいる。これに対して、上記のように比較的小径のものを除去することによって、接続層2を形成するための、平均粒径が比較的大きい銅の粉末が得られる。
【0050】
言い換えれば、接続層2を形成している銅の多結晶体においては、焼成の際に比較的小径の銅粉末が含まれていないために小径の結晶が生成されず、これによって平均粒径が大きくなっている。
【0051】
なお、接続層2にはガラス成分が添加されていないが、接続層2と絶縁基板1との間の焼成時の収縮は互いに同じ程度に合わせることが可能であり、接続層2と絶縁基板1との間の密着性は良好に確保されている。これは、接続層2を形成している銅の多結晶体における銅の結晶の平均粒径が比較的大きいことによる。すなわち、結晶の平均粒径が比較的大きいことによって、焼成時の銅の粉末間の焼結に伴う体積収縮が比較的小さく抑えられることによる。この場合、接続層2にガラス成分が添加されていない(言い換えれば銅のみによって形成されている)ことから、接続層2における電気抵抗は低く抑えることができる。
【0052】
貫通導体3における銅の結晶の平均粒径は、例えば貫通導体3が、直径が約50〜150μ
m程度の円柱状のものであり、ガラス成分が40〜60体積%程度の場合であれば、約1〜3μm程度である。この場合であれば、接続層2における銅の結晶の平均粒径は、貫通導体3における銅の結晶の平均粒径に比べて約1.5〜10倍程度とすればよく、具体的には、約
4〜10μm程度にすればよい。
【0053】
接続層2を形成している銅の多結晶体における銅の結晶の平均粒径は、結晶同士の界面(粒界)を少なくするという観点からは大きいほど好ましい。ただし、この結晶の平均粒径が大きくなりすぎると、焼成時の銅粉末同士の焼結が抑制されて、接続層2の絶縁基板1および貫通導体3に対する接合の強度が低くなる可能性がある。そのため、接続層2を形成している前記銅の多結晶体は、銅の結晶の平均粒径が4〜10μmであることが好ましい。
【0054】
接続層2を形成している銅の多結晶体は、銅の結晶の平均粒径が4〜10μmである場合には、前述したように結晶の粒界を少なく抑えて、エレクトロマイグレーションに起因する空隙の発生を効果的に抑制することができる。また、接続層2の絶縁基板1および欄貫通導体3に対する接合の強度を十分に強固なものとすることができる。
【0055】
なお、接続層2と半導体素子4の電極5とを接合する(電気的および機械的に接続する)はんだバンプ6を形成するはんだ材料としては、例えばスズ−鉛やスズ−銀,スズ−銀−銅,スズ−銀−ビスマス等を用いることができる。はんだバンプ6は、環境への悪影響を避ける上では、鉛等の有害物質を含有しない、いわゆる鉛フリーはんだであることが好ましい。これらのはんだ材料は、スズを約90質量%以上含んでいるため、はんだバンプ6の電気抵抗(抵抗率)は、スズの電気抵抗(抵抗率)と同じ程度である。
【0056】
はんだバンプ6は、例えば上記のはんだ材料を用いて作製したはんだボールを接続層2上に位置合わせしてセットしておいて、電気炉中で一体的に加熱する(リフロー)によって形成することができる。この方法で形成されたはんだバンプ6は、接続層2との接合部分が平らに潰れた球形状になる。なお、半導体素子4の電極5との接続を容易とするために、複数のはんだバンプ6をまとめて上側から平坦な面(プレス用の金型等)で加圧した場合には、はんだバンプ6の上面側も平坦になる。
【0057】
図4(a)および(b)は、それぞれ図1に示す配線基板の変形例における要部を示す断面図である。図4において図1と同様の部位には同様の符号を付している。図4(a)および(b)に示す例において、配線基板は、接続層2の厚みが、接続層2の外周部において中央部よりも厚い。このように、接続層2の外周部における厚みが、接続層2の中央部に比べて厚い場合には、銅のエレクトロマイグレーションによる接続層2における空隙の発生をより効果的に抑制することができる。
【0058】
すなわち、銅のエレクトロマイグレーションは、接続パッドにおける電流密度の大きさに応じて発生しやすい傾向がある。この傾向は、接続層2を形成している銅が、結晶配向性が無配向の多結晶体である場合にも同様である。接続層2のうち外周部における電流密度は中央部における電流密度に比べて大きくなる傾向がある。これに対して、上記の場合には、エレクトロマイグレーションを促進する要因である電流密度の大きさが比較的大きい部分である外周部において接続層2の厚みが厚い。そのため、エレクトロマイグレーションによる銅の移動が多少生じたとしても、比較的厚い外周部の銅によって補うことができる。したがって、エレクトロマイグレーションによる空隙の発生をより効果的に抑制することができる。
【0059】
接続層2の厚みを、接続層2の外周部において中央部よりも厚くする場合、接続層2の外周部の厚みは、例えば、中央部の高さに比べて約5μm〜15μm程度厚く設定する。ま
た、接続層2のうち厚みが比較的厚い外周部は、例えば平面視において円形状の接続層2の半径のうち約20〜50%に設定する。
【0060】
接続層2の厚みを、接続層2の外周部において中央部よりも厚くするには、例えば、ま
ず接続層2となる銅のペーストを中央部の厚みと同じ程度の厚みで絶縁基板1となるセラミックグリーンシートに、接続層2全体のパターンで印刷する。次に、この印刷した銅のペースト上に、接続層2の外周部と中央部との厚みの差に対応した厚さで、接続層2の外周部に対応したパターンで銅のペーストを印刷する。つまり、接続層2の外周部においては銅のペーストを2回に分けて印刷し、2回目の印刷は外周部のみとする。その後、これらの銅のペーストとセラミックグリーンシートとを同時焼成すれば、外周部における厚みが中央部における厚みよりも厚い接続層2を形成することができる。
【0061】
銅の多結晶体からなる接続層2の厚みは、エレクトロマイグレーションによる銅の拡散に起因した空隙の発生を抑制する上では、厚い方が好ましい。しかし、接続層2の厚みが厚くなり過ぎると、例えば接続層2と絶縁基板1の間で生じる熱応力が大きくなって、接続層2の絶縁基板1に対する付着の強度が低くなる可能性がある。また、はんだバンプ6に余計に銅成分が拡散して、はんだバンプ6の溶融温度が高くなる可能性がある。はんだバンプ6の溶融温度が高くなると、後述するようにはんだバンプ6を介して接続層2に半導体素子4の電極5を接合するときの作業性が低くなる可能性がある。このような可能性および経済性等を考慮すると、接続層2の外周部における厚みを中央部における厚みよりも厚くするときの、外周部における厚みは、上記の範囲が適当である。
【0062】
なお、図4(a)に示す例は、接続層2の外周部における厚みを、接続層2の全周にわたって同じ程度の厚みになるように厚くした例である。この例の場合には、接続層2の全周にわたって偏りなく、空隙をより効果的に抑制する効果を得ることができる。また、上記のように銅のペーストを2回に分けて印刷するような方法で接続層2を設けることが容易である。
【0063】
また、図4(b)に示す例は、接続層2の外周部における厚みを部分的に異ならせている例である。この例の場合には、外周部における接続層2とはんだバンプ6との接合面積がより大きくなるため、互いの接合強度を高める上で有利である。
【0064】
接続層2の外周部における厚みを部分的に異ならせるには、例えば上記のように同じ程度の厚さで接続層2の外周部となる銅のペーストを印刷した後、この外周部に相当する銅のペーストの表面を部分的に加圧して凹凸を設け、その後に焼成する。
【0065】
上記配線基板について、接続層2にはんだバンプ6が接合されて、例えば図5に示すようなはんだバンプ付き配線基板が形成されている。図5は、本発明の実施形態のはんだバンプ付き配線基板を示す断面図である。図5において図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。
【0066】
また、上記配線基板について、接続層2に半導体素子4の電極5がはんだバンプ6を介して接続されて、例えば図6に示すような半導体装置が形成されている。図6は、本発明の実施形態の半導体装置を示す断面図である。図6において図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。
【0067】
はんだバンプ6には、半導体素子4と外部電気回路との間での信号の授受のために電流が流れる。この場合の電流密度は、例えば近年のいわゆるスーパーコンピュータの演算用の半導体素子4の場合であれば、約5000〜6000A/cmである。このような高い電流密度で接続層2からはんだバンプ6に通電される場合であっても、上記配線基板、はんだバンプ付き配線基板および半導体装置であれば、接続層2における銅のエレクトロマイグレーションが抑制され、エレクトロマイグレーションに起因する空隙の発生が効果的に抑制され得る。
【0068】
はんだバンプ6を介した電極5と接続層2との接合は、例えば、上記はんだバンプ付き配線基板のはんだバンプ6上に半導体素子4の電極5を位置合わせして載せ、リフローする方法で行なうことができる。
【0069】
また、上記半導体装置は、半導体素子4の電極5にはんだを凸状に接合しておいて(電極5側にはんだバンプ6を形成しておいて)、その後、電極5に接合したはんだバンプ6を介して、配線基板の接続層2に半導体素子4の電極5を接合するようにして製作することもできる。
【0070】
半導体素子4は、シリコンやガリウム砒素リン,ゲルマニウム,ヒ化ガリウム,窒化ガリウム,炭化珪素等の半導体材料からなる半導体基板によって形成されている。半導体素子4は、例えば、1辺の長さが約3〜10mm程度の四角板状のシリコン基板であり、その主面に銅やアルミニウム等からなる電極5が形成されている。
【0071】
電極5は、半導体素子4の電子回路(集積回路)(図示せず)を配線基板に電気的に接続させ、配線基板を介して半導体素子4と外部の電気回路とを電気的に接続させるためのものである。電極5は、例えば銅やアルミニウム,銀,パラジウム,ニッケル等の金属材料によって形成されている。これらの金属材料のうち銅およびアルミニウムが、電気抵抗が低いことや経済性等を考慮して電極5を形成する金属材料の主成分として多く用いられる。
【0072】
なお、電極5の形状および寸法は、電子回路の配置位置等に応じて適宜設定され、例えば、直径が約100〜300μmの円形状等に形成されている。
【0073】
上記半導体装置は、例えばコンピュータや通信機器,検査装置等の各種の電子機器に部品として実装される。電子機器が備えるマザーボード等の回路が外部の電気回路に相当する。
【0074】
なお、上記配線基板、はんだバンプ付き配線基板および半導体装置においては、接続層2および貫通導体3以外に、例えば受動素子の電気的な接続用や封止用等の他の導体(図示せず)が形成されていてもよい。また、この他の導体は、その露出表面にニッケルおよび金等のめっき層が被着されていても構わない。
【実施例】
【0075】
下記の半導体素子および配線基板を準備し、半導体素子の電極と配線基板の接続層とをスズ−銀はんだからなるはんだバンプを介して互いに電気的および機械的に接続して、実施例の半導体装置(本発明の配線基板を用いた半導体装置の一例)および比較例(比較例1,2)の半導体装置を作製した。
【0076】
配線基板:ガラスセラミック焼結体を用いて作製した、各辺の長さが約10×10×1mmの正方形板状の絶縁基板の上面に、分級させた銅粉末を用いたペーストを用いて接続層を形成した。なお、接続層は直径が約150μmの円形状に形成した。接続層の個数は後述す
る半導体素子の電極の個数と同じ64個であり、各接続層は、半導体素子の電極に対応する位置に形成した。貫通導体は、接続層と同様に銅を用いて、直径が約100μmの円形状(
円柱状)に形成し、その端部を接続層の中央部に直接に接続した。なお、貫通導体を形成するために用いた銅ペーストは、銅粉末を分級せずに用いたものであり、ガラス成分としてホウケイ酸系ガラス成分を約10質量%程度添加した。実施例の半導体装置に用いた配線基板において、貫通導体の銅の結晶の平均粒径は約2μmであった。接続層の銅の結晶の平均粒径は、表1に示す。
【0077】
比較例1の半導体装置に用いた配線基板:接続層を、上記貫通導体の形成に用いたのと同じ銅ペーストを用いて作製した。接続層以外は、上記実施例の半導体装置に用いた配線基板と同様にして作製した。比較例の半導体装置に用いた配線基板においても貫通導体の銅の結晶の平均粒径は約2μmであった。
【0078】
比較例2の半導体装置に用いた配線基板:接続層を、銅を電解めっきする方法で形成した。接続層以外は、上記実施例の半導体装置に用いた配線基板と同様にして作製した。比較例の半導体装置に用いた配線基板において、貫通導体および接続層のいずれも銅の結晶の平均粒径は約2μmであった。
【0079】
なお、接続層を形成する銅の多結晶体について、実施例および比較例1では無配向であり、実施例2では(110)配向が約80%の割合で含まれた配向であった。
【0080】
半導体素子:半導体基板として、辺の長さが5×5mmの正方形板状のシリコン基板を用い、この半導体基板の主面にシリコンの酸化膜を介してアルミニウムからなる電子回路と銅および銅を被覆するニッケル層からなる電極を配置したものを用いた。電極は、直径が約100μmの円形状であり、半導体基板の主面に縦横の並びに64個(8×8)配列させ
た。半導体素子は、実施例、比較例1および比較例2のいずれの半導体装置においても同様のものを用いた。
【0081】
はんだバンプ:スズ−銀−銅(Sn−3Ag−0.5Cu)はんだを用いた。はんだバン
プの形成は、上記組成のはんだボールを半導体素子の電極上に載せて、約260℃でリフロ
ーして凸状に接合させることによって行なった。はんだバンプについても、実施例、比較例1および比較例2のいずれの半導体装置においても同様のものを用いた。
【0082】
以上の実施例および比較例1,2、それぞれの半導体装置について、プリント回路基板に実装した後、配線基板と半導体素子との間で通電を2000時間行なった後、接続層と電極との間における通電前後の抵抗値の上昇率を算出し、上昇率20%以上で故障と判定した。各接続層における通電量(配線基板の各貫通導体から接続層を通ってはんだバンプ、さらに電極にかけて流れる電流の、それぞれの接続層における大きさ)は約0.8Aとした。半
導体素子の電極においても同様に約0.8Aの電流を通電させた。接続層における電流密度
は約4527A/cmであり、電極における電流密度は約10185A/cmであった。
【0083】
以上の結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
これによれば、本発明の実施例の半導体装置では故障発生が見られなかったのに対し、比較例1の半導体装置では20%の接続層において故障が発生していた。また、比較例2の半導体装置においては約60%の接続層において故障が発生していた。これにより、本発明の配線基板を用いて作製した半導体装置における、接続層および電極での空隙の発生を抑制する効果を確認することができた。なお、実施例の半導体装置においては、接続層の銅の粒径が4μmよりも大きい場合に、抵抗値の上昇を抑制する効果がより顕著であった。銅の粒径が大きくなると、接続層の端部分において微細な剥離の発生が見られた。
【符号の説明】
【0086】
1・・・絶縁基板
1a・・搭載部
2・・・接続層
3・・・貫通導体
4・・・半導体素子
5・・・電極
6・・・はんだ(はんだバンプ)
7・・・配線導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に半導体素子の搭載部を有する絶縁基板と、
ガラス成分を含む銅の多結晶体からなり、前記搭載部から前記絶縁基板の内部にかけて形成された貫通導体と、
前記貫通導体を形成している銅の結晶よりも平均粒径が大きく、かつ結晶配向性が無配向である銅の多結晶体からなり、前記搭載部における前記貫通導体の端面を覆うように形成された接続層とを備えていることを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記接続層を形成している前記銅の多結晶体は、結晶の平均粒径が4〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記接続層の厚みが、該接続層の外周部において中央部よりも厚いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配線基板。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の配線基板と、前記接続層に接合されたはんだバンプとを備えることを特徴とするはんだバンプ付き配線基板。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の配線基板と、前記搭載部に搭載され、電極が前記接続パッドにはんだバンプを介して接続された半導体素子とを備えることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−65807(P2013−65807A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8114(P2012−8114)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】