説明

配線基板の製造方法、導体パターン形成用インクセットおよび配線基板

【課題】クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を提供すること。
【解決手段】本発明の配線基板の製造方法は、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状の仮成形体を用意する工程と、前記仮成形体に、多価アルコールの縮合物を含む組成物を付与することにより、表面付近に前記多価アルコールの縮合物を含む領域が形成されたセラミックス成形体を得る工程と、前記セラミックス成形体の前記多価アルコールの縮合物を含む領域に、金属粒子と前記金属粒子が分散する分散媒とを含む導体パターン形成用インクを液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体を形成する工程と、複数の前記セラミックス成形体を積層して積層体を得る工程と、前記積層体を焼結して、導体パターンおよびセラミックス基板とを有する配線基板を得る焼成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板の製造方法、導体パターン形成用インクセットおよび配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品が実装される回路基板(配線基板)として、セラミックスで構成された基板(セラミックス基板)上に、金属材料で構成された配線が形成されたセラミックス回路基板が、広く用いられている。このようなセラミックス回路基板では、基板(セラミックス基板)自体が、多機能性材料で構成されているため、多層化による内装部品の形成、寸法の安定性等の点で有利である。
そして、このようなセラミックス回路基板は、セラミックス粒子とバインダーとを含む材料で構成されたセラミックス成形体上に、形成すべき配線(導体パターン)に対応するパターンで、金属粒子を含む組成物を付与し、その後、当該組成物が付与されたセラミックス成形体に対し、脱脂、焼結処理を施すことにより製造されている。
【0003】
セラミックス成形体上へのパターン形成の方法としては、スクリーン印刷法が広く用いられている。その一方で、近年、配線の微細化(例えば、線幅:60μm以下の配線)、狭ピッチ化による回路基板の高密度化が求められているが、スクリーン印刷法では、配線の微細化、狭ピッチ化に不利であり、上記のような要求に応えるのが困難である。そこで、近年、セラミックス成形体上へのパターン形成の方法として、液体吐出ヘッドから金属粒子を含む液体材料(導体パターン形成用インク)を液滴状に吐出する液滴吐出法、いわゆるインクジェット法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、従来の導体パターン形成用インクでは、セラミックス成形体に、脱脂、焼結処理を施した際に、セラミックス成形体の熱膨張によって、形成した導体パターンの一部に断線が生じてしまうといった問題があった。特に、近年の配線の微細化、狭ピッチ化による回路基板の高密度化に伴い、このような問題の発生が顕著であった。とりわけ、表層のような最外層において、断線の発生が顕著であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−84387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を提供すること、前記配線基板を効率よく製造することのできる製造方法を提供すること、また、前記配線基板の製造に好適に用いることのできる導体パターン形成用インクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の配線基板の製造方法は、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状の仮成形体を用意する仮成形体用意工程と、
前記仮成形体に、多価アルコールの縮合物を含む組成物を付与することにより、表面付近に前記多価アルコールの縮合物を含む領域が形成されたセラミックス成形体を得る多価アルコール縮合物付与工程と、
前記セラミックス成形体の前記多価アルコールの縮合物を含む領域に、金属粒子と前記金属粒子が分散する分散媒とを含む導体パターン形成用インクを液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体を形成する導体パターン前駆体形成工程と、
複数の前記セラミックス成形体を積層して積層体を得る積層工程と、
前記積層体を焼結して、導体パターンおよびセラミックス基板とを有する配線基板を得る焼成工程とを有することを特徴とする。
これにより、内層、表層ともにクラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を効率よく製造することのできる配線基板の製造方法を提供することができる。また、多価アルコールの縮合物の使用量を抑制することができ、配線基板の生産コストを抑制することができる。
【0007】
本発明の配線基板の製造方法では、前記多価アルコールの縮合物を含む組成物は、前記導体パターン形成用インクが付与される領域に選択的に付与されるものであることが好ましい。
これにより、セラミックス成形体において、多価アルコールの縮合物を含む組成物が付与された領域と、それ以外の領域とでの、導体パターン形成用インクの親和性を異なるものとすることができ、セラミックス成形体上での、導体パターン形成用インクの過剰な濡れ広がり等を防止することができ、線幅がより小さい配線等をより好適に形成することができる。
【0008】
本発明の配線基板の製造方法では、前記多価アルコールの縮合物を含む組成物の付与は、液滴吐出法により行うことが好ましい。
これにより、多価アルコールの縮合物を含む組成物を付与する際の、位置選択性をより優れたものとすることができ、微細な導体パターンの形成をより好適に行うことができる。
本発明の配線基板の製造方法では、前記多価アルコールの縮合物の重量平均分子量は、4000以下であることが好ましい。
これにより、導体パターンの信頼性をより高いものとすることができる。
【0009】
本発明の配線基板の製造方法では、前記組成物は、前記多価アルコールの縮合物として、エチレングリコールおよび/またはグリセリンの縮合物を含むものであることが好ましい。
これにより、導体パターンの信頼性をより高いものとすることができる。
本発明の配線基板の製造方法では、前記組成物は、前記多価アルコールの縮合物として、ポリエチレングリコールおよびポリグリセリンを含むものであることが好ましい。
これにより、導体パターンの信頼性をさらに高いものとすることができる。
【0010】
本発明の配線基板の製造方法では、前記組成物中におけるポリエチレングリコールの含有率をXPEG[wt%]、前記組成物中におけるポリグリセリンの含有率をXPG[wt%]としたとき、0.10≦XPEG/XPG≦0.70の関係を満足することが好ましい。
これにより、導体パターンの信頼性をさらに高いものとすることができる。
【0011】
本発明の配線基板の製造方法では、前記セラミックス成形体は、前記バインダーとして、ポリビニルブチラールを含むものであることが好ましい。
これにより、導体パターンの信頼性をより高いものとすることができる。
本発明の配線基板の製造方法では、前記セラミックス成形体は、前記バインダーとして、アクリル系樹脂を含むものであることが好ましい。
これにより、導体パターンの信頼性をより高いものとすることができる。
【0012】
本発明の配線基板の製造方法では、前記導体パターン形成用インクは、ポリグリセリン化合物を含むものであることが好ましい。
これにより、導体パターンの信頼性をより高いものとすることができる。
本発明の配線基板の製造方法では、前記導体パターン形成用インクは、前記分散媒として、水系分散媒を含むものであることが好ましい。
これにより、導体パターンの信頼性をより高いものとすることができる。
【0013】
本発明の導体パターン形成用インクセットは、基材上に、パターニングにより導体パターンを形成するための導体パターン形成用インクセットであって、
金属粒子と前記金属粒子が分散する分散媒とを含む導体パターン形成用インクと、
多価アルコールの縮合物を含む多価アルコール縮合物含有インクとを備えることを特徴とする。
これにより、クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板の製造に好適に用いることのできる導体パターン形成用インクセットを提供することができる。
本発明の配線基板は、本発明の方法を用いて製造されたこと特徴とする。
これにより、クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法の好適な実施形態を示す断面図である。
【図2】インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
【図3】インクジェットヘッドの概略構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《配線基板の製造方法》
図1は、本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法の好適な実施形態を示す断面図、図2は、インクジェット装置(液滴吐出装置)の概略構成を示す斜視図、図3は、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)の概略構成を説明するための模式図である。
【0016】
本実施形態の配線基板の製造方法は、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状の仮成形体14を複数用意する工程(仮成形体用意工程)と、仮成形体14に、多価アルコールの縮合物(以下、「多価アルコール縮合物」ともいう)を含む組成物を付与することにより、表面付近に多価アルコール縮合物を含む領域(多価アルコール縮合物含有部13)が形成されたセラミックス成形体15を得る工程(多価アルコール縮合物付与工程)と、セラミックス成形体15のうち少なくとも1つの表面上に、金属粒子と前記金属粒子が分散する分散媒とを含む導体パターン形成用インク300を液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体10を形成する工程(導体パターン前駆体形成工程)と、複数のセラミックス成形体15を積層して積層体17を得る工程(積層工程)と、積層体17を加熱して、導体パターン20およびセラミックス基板31とを有する配線基板30を得る工程(焼成工程)とを有している。
【0017】
(仮成形体用意工程)
本工程では、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状の仮成形体14を複数用意する。
<仮成形体>
仮成形体14は、多価アルコール縮合物を付与されることにより、セラミックス成形体15となるものである。
【0018】
複数種の粉末を含む仮成形体14を得る場合、バインダー等との混合に先立ち、当該複数種の粉末を予め混合するのが好ましい。
平均粒径が0.1μm以上10μm以下のセラミックス粉末(セラミックス材料)と、平均粒径が0.1μm以上10μm以下のガラス粉末とを用意し、これらを適宜な混合比、例えば1:1の重量比で混合することができる。
【0019】
このようなセラミックス材料としては、Al、SiO、MgO、MgO・SiO、2MgO・SiOやTiO,BaTiO,BaSr1−xTiO,SrTiO,CaTiO,PbZrTi1−x,Pb1−xLaZrTi1−x,SrBiTaO等のペロブスカイト構造を持つ複合酸化物やその他の強誘電体材料、あるいは、MgTiO,Ba(Mg1/3Ta2/3)O,Ba(Zn1/3Ta2/3)O,Ba(Ni1/3Ta2/3),Ba(Co1/3Ta2/3),BaNdTi12,BaTi20,LaAlO,PrAlO,SmAlO,YAlO,GdAlO,DyAlO,ErAlO,Sr(Zn1/3Ta2/3)O,Sr(Ni1/3Ta2/3)O,Sr(Co1/3Ta2/3)O,Sr(Mg1/3Ta2/3)O,Sr(Ca1/3Ta2/3)O,BaTi20,Ba(Co1/3Nb2/3)Oなどを主成分とする材料が利用可能であるが、一般的なセラミックス材料であれば、使用可能である。
【0020】
また、ガラス成分としては、結晶化ガラスでも非晶質ガラスでも一般的なガラスであれば使用可能である。例えば、SiO,Al,RO(Rは、Mg,Ca,Sr,Ba)を含むものが挙げられ、具体的には、SiO−BaO系、SiO−Al−BaO系、SiO−Al−BaO−B系、SiO−Al−BaO−ZnO−B系のガラスやBi系のガラスおよびそれらを主成分とするガラスなどが利用可能である。
上記のような原料粉末をバインダー(結合剤)等と混合・撹拌することにより、スラリーを得る。
【0021】
バインダーとしては、ポリビニルブチラールを好適に用いることができる。ポリビニルブチラールは水に不溶であり、かつ、いわゆる油系の有機溶媒に溶解しあるいは膨潤し易いものである。また、バインダーとしてポリビニルブチラールを用いることにより、後述する工程において付与される多価アルコール縮合物を、セラミックス成形体15の表面付近に確実に保持することができ、後に詳述するような多価アルコール縮合物の機能をより効果的に発揮させることができる。その結果、最終的に得られる配線基板30(形成される導体パターン20)の信頼性をより高いものとすることができる。
【0022】
また、バインダーとしては、アクリル系樹脂(アクリル酸、メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等)を好適に用いることができる。アクリル系樹脂は水に不溶であり、かつ、いわゆる油系の有機溶媒に溶解しあるいは膨潤し易いものである。また、バインダーとしてアクリル系樹脂を用いることにより、後述する工程において付与される多価アルコール縮合物を、セラミックス成形体15の表面付近に確実に保持することができ、後に詳述するような多価アルコール縮合物の機能をより効果的に発揮させることができる。その結果、最終的に得られる配線基板30(形成される導体パターン20)の信頼性をより高いものとすることができる。その他、従来からセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えば、ポリビニルアルコール系、アクリル−スチレン系、ポリプロピレンカーボネート系、セルロース系等の単独重合体または共重合体等を用いることができる。
スラリーの調製においては、可塑剤、有機溶剤(原料粉末を分散する分散媒として機能するもの)、分散剤等を用いてもよい。
【0023】
上記のようなスラリーを、シート状に成形することにより仮成形体14が得られる。
仮成形体14は、例えば、ドクターブレード、リバースコーター等を用いてPETフィルム上にスラリーをシート状に成形することにより好適に得ることができる。
仮成形体14の厚さは、数μm以上数百μm以下であるのが好ましい。
上記のようにしてシート状に成形された仮成形体14は、通常、ロールに巻き取られ、製品の用途に合わせて切断、さらに所定寸法のシートに裁断され用いられる。本実施形態では、例えば1辺の長さを200mmとする正方形状に裁断する。
【0024】
また、必要に応じて所定の位置に、COレーザー、YAGレーザー、機械式パンチ等によって孔開けを行うことでスルーホール(貫通孔)を形成する。なお、スルーホールの形成は、今工程で行うものであってもよいし、後の工程(例えば、多価アルコール縮合物付与工程の後)で行うものであってもよい。
そして、このスルーホールに、金属粒子が分散した厚膜導電ペーストを充填することにより、コンタクト33となるべき部位(導体ポスト16)を形成する。なお、厚膜導電ペーストとしては、後述するような導体パターン形成用インクを用いることができる。また、厚膜導電ペーストの充填は、本工程で行うものであってもよいし、後述する導体パターン前駆体形成工程で行うものであってもよく、また、導体パターン前駆体形成工程の後に行うものであってもよい。
【0025】
(多価アルコール縮合物付与工程(セラミックス成形体製造工程))
本工程では、仮成形体14の少なくとも一方の側の表面に、多価アルコール縮合物を含む組成物(多価アルコール縮合物含有組成物)を付与して、セラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)15を得る。本工程で得られるセラミックス成形体(セラミックスグリーンシート)15は、その表面付近の一部に設けられ多価アルコール縮合物を含有する多価アルコール縮合物含有部13と、多価アルコール縮合物を含有しない多価アルコール縮合物不含部19とを有するものである。
【0026】
このように、セラミックス成形体15が、多価アルコール縮合物を含むものであることにより、後に詳述する工程(導体パターン前駆体形成工程)において、セラミックス成形体15上に吐出された導体パターン形成用インク300から、当該導体パターン形成用インクの構成成分である分散媒をセラミックス成形体15中に吸収させることができ、セラミックス成形体15上に、金属粒子が濃縮された層(導体パターン前駆体10)を形成することができる。その結果、セラミックス成形体15上に吐出された導体パターン形成用インク300に含まれる金属粒子についての、着弾位置から不本意な移動を効果的に防止することができ、最終的な配線基板30を、所望の形状の導体パターン20を備え、クラック、断線、短絡等の発生が確実に防止された、信頼性の高いものとして得ることができる。
【0027】
また、セラミックス成形体15上に吐出された導体パターン形成用インク300から、当該導体パターン形成用インク300の構成成分である分散媒をセラミックス成形体15中に吸収させることができるため、導体パターン形成用インク300中に含まれる分散媒の含有率が比較的高い場合であっても、セラミックス成形体15上に吐出された導体パターン形成用インク300に含まれる金属粒子についての、着弾位置から不本意な移動を確実に防止することができるとともに、導体パターン形成用インク中の過剰な溶剤が吸収され、導体パターン形成用インクの固体比率が上がり、硬くなることで、プレス等の加圧時に配線が潰れることを抑制することができる。その結果、最終的な配線基板30を、所望の形状の導体パターン20を備え、クラック、断線、ショート等の発生が確実に防止された、線幅の安定した信頼性の高いものとして得ることができる。
【0028】
また、セラミックス成形体15上に吐出された導体パターン形成用インク300に含まれる金属粒子についての、着弾位置から不本意な移動を確実に防止することができるため、吐出する導体パターン形成用インク300の低粘度化を図ることができ、導体パターン形成用インク300の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。これにより、配線基板30の生産性、歩留まりを特に優れたものとすることができる。
【0029】
また、仮成形体14に、多価アルコール縮合物含有組成物を付与して、セラミックス成形体15を得ることにより、多価アルコール縮合物の使用量を抑制することができ、配線基板30の生産コストを抑制することができる。
なお、上記のような優れた効果は、導体パターン形成用インクが付与されるセラミックス成形体を、多価アルコール縮合物含有組成物を用いて製造することにより得られるものであって、例えば、単に、導体パターン形成用インクに多価アルコール縮合物を含有させたような場合には得られない。
【0030】
また、セラミックス成形体15上に吐出された導体パターン形成用インク300の構成成分である有機バインダーと、セラミックス成形体(セラミックスグリーンシート)15に付与された多価アルコール縮合物を含む組成物(多価アルコール縮合物含有組成物)とは、焼成時の燃焼タイミングと収縮率を調整することができるとともに、互いにの親和性を高め、特に表層での焼成中の界面剥離を抑制することができる。その結果、最終的な配線基板30を、内層、表層ともに所望の形状の導体パターン20を備え、クラック、断線、ショート等の発生が確実に防止された、線幅の安定した信頼性の高いものとして得ることができる。
【0031】
仮成形体14に付与される多価アルコール縮合物含有組成物は、液状、固形状、気体状のいずれであってもよく、例えば、所定の形状に成形されたものであってもよいが、液状のものであるのが好ましい。これにより、多価アルコール縮合物含有組成物の保管が容易であるとともに、形成すべきセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)15に対応して、多価アルコール縮合物含有組成物の付与パターンを容易に調整することができる。また、多価アルコール縮合物含有組成物が液状のものである場合、その粘度は、特に限定されないが、2.0mPa・s以上12.0mPa・s以下であることが好ましく、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、多価アルコール縮合物含有組成物を、後述するような液滴吐出に好適に供することができる。
【0032】
以下の説明では、多価アルコール縮合物含有組成物が、液状の組成物(多価アルコール縮合物含有インク)である場合について代表的に説明する。
<多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク)>
〔多価アルコール縮合物〕
本発明において、多価アルコール縮合物としては、分子内に複数個の水酸基を有する化合物(モノマーとしての多価アルコール)の縮合物を用いることができる。
【0033】
多価アルコール縮合物の重量平均分子量は、4000以下であるのが好ましく、250以上3900以下であるのがより好ましく、300以上3800以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターンの信頼性をより高いものとすることができる。
多価アルコール縮合物を構成する多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコールや、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール等の還元多糖類等が挙げられる。
【0034】
多価アルコール縮合物としては、例えば、上記のような多価アルコールのうち1種または2種以上を縮合して得られる化合物を好適に用いることができる。
中でも、多価アルコール縮合物は、エチレングリコールおよび/またはグリセリンの縮合物であるのが好ましい。これにより、セラミックス成形体15が導体パターン形成用インク300を構成する分散媒を適度に吸収することができ、製造される配線基板30(形成される導体パターン20)の信頼性をより高いものとすることができる。
【0035】
また、多価アルコール縮合物含有組成物は、多価アルコール縮合物として、ポリエチレングリコールおよびポリグリセリンを含むものであるのが好ましい。これにより、セラミックス成形体15が導体パターン形成用インク300を構成する分散媒を適度に吸収することができ、製造される配線基板30(形成される導体パターン20)の信頼性をさらに高いものとすることができる。
【0036】
多価アルコール縮合物含有組成物が、多価アルコール縮合物として、ポリエチレングリコールおよびポリグリセリンを含むものである場合、多価アルコール縮合物含有組成物中におけるポリエチレングリコールの含有率をXPEG[wt%]、多価アルコール縮合物含有組成物中におけるポリグリセリンの含有率をXPG[wt%]としたとき、0.10≦XPEG/XPG≦0.70の関係を満足するのが好ましく、0.20≦XPEG/XPG≦0.60の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、セラミックス成形体15が導体パターン形成用インク300を構成する分散媒を適度に吸収することができ、製造される配線基板30(形成される導体パターン20)の信頼性をさらに高いものとすることができる。
なお、本発明においては、多価アルコール縮合物として、末端の水酸基の少なくとも一部が修飾(例えば、エステル化、エーテル化等)されたものを用いてもよいが、分子鎖の末端に水酸基を有するものであるのが好ましい。
【0037】
多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク)中に占める多価アルコール縮合物の含有率は、特に限定されないが、5wt%以上75wt%以下であるのが好ましく、7wt%以上70wt%以下であるのがより好ましい。これにより、仮成形体14の表面付近に多価アルコール縮合物を確実に浸入させることができ、上述したような機能をより効果的に発揮させることができる。
【0038】
〔その他の成分〕
多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク)は、多価アルコール縮合物以外の成分を含んでいてもよい。
このような成分としては、例えば、水、pH調整剤、浸透剤、界面活性剤、保湿剤等が挙げられる。
このような成分(以下「その他の成分」という)を含む場合、多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク)中に占めるその他の成分の含有率は、25wt%以上95wt%以下であるのが好ましい。
【0039】
多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク)は、仮成形体14の全面に付与されるものであってもよいし、仮成形体14の表面の一部に付与されるものであってもよいが、導体パターン形成用インク300が付与される領域に選択的に付与されるものであるのが好ましい。これにより、セラミックス成形体15において、多価アルコール縮合物を含む組成物が付与された領域と、それ以外の領域とでの、導体パターン形成用インク300の親和性(親液性)を異なるものとすることができ、セラミックス成形体15上での、導体パターン形成用インク300の過剰な濡れ広がり等を防止することができ、線幅がより小さい配線等をより好適に形成することができる。
【0040】
多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク)は、いかなる方法で仮成形体14に付与するものであってもよいが、液滴吐出法により付与するのが好ましい。これにより、多価アルコール縮合物を含む組成物を付与する際の、位置選択性をより優れたものとすることができ、微細な導体パターン20の形成をより好適に行うことができる。
【0041】
多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク)を液滴吐出(インクジェット)法により付与する場合、多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク)200の吐出は、例えば図2および図3に示すインクジェット装置(液滴吐出装置)100を用いることにより行うことができる。以下に、インクジェット装置100およびインクジェット装置100を用いた液滴吐出について説明する。
【0042】
図2は、インクジェット装置100の斜視図である。図2において、X方向はベース130の左右方向であり、Y方向は前後方向であり、Z方向は上下方向である。
インクジェット装置100は、図3に示すインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド。以下、単に「ヘッド」という)110と、ベース130と、テーブル140と、制御装置190と、テーブル位置決め手段170と、ヘッド位置決め手段180とを有している。
【0043】
ベース130は、テーブル140、テーブル位置決め手段170、およびヘッド位置決め手段180等の液滴吐出装置100の各構成部材を支持する台である。
テーブル140は、テーブル位置決め手段170を介してベース130に設置されている。また、テーブル140は、基材S(本工程では仮成形体14)を載置するものである。
【0044】
テーブル位置決め手段170は、第1移動手段171と、モーター172とを有している。テーブル位置決め手段170は、ベース130におけるテーブル140の位置を決定し、これにより、ベース130における仮成形体14の位置を決定する。
第1移動手段171は、Y方向と略平行に設けられた2本のレールと、当該レール上を移動する支持台とを有している。第1移動手段171の支持台は、モーター172を介してテーブル140を支持している。そして、支持台がレール上を移動することにより、基材Sを載置するテーブル140は、Y方向に移動および位置決めされる。
【0045】
モーター172は、テーブル140を支持しており、θz方向にテーブル140を揺動および位置決めする。
ヘッド位置決め手段180は、第2移動手段181と、リニアモーター182と、モーター183、184、185とを有している。ヘッド位置決め手段180は、ヘッド110の位置を決定する。
【0046】
第2移動手段181は、ベース130から立設する2本の支持柱と、当該支持柱同士の間に当該支持柱に支持されて設けられ、2本のレールを有するレール台と、レールに沿って移動可能でヘッド110を支持する支持部材(図示せず)とを有している。そして、支持部材がレールに沿って移動することにより、ヘッド110は、X方向に移動および位置決めされる。
【0047】
リニアモーター182は、支持部材付近に設けられており、ヘッド110のZ方向の移動および位置決めをすることができる。
モーター183、184、185は、ヘッド110を、それぞれα,β,γ方向に揺動および位置決めする。
以上のようなテーブル位置決め手段170およびヘッド位置決め手段180とにより、インクジェット装置100は、ヘッド110のインク吐出面115Pと、テーブル140上の基材Sとの相対的な位置および姿勢を、正確にコントロールできるようになっている。
【0048】
図3に示すように、ヘッド110は、インクジェット方式(液滴吐出方式)によって多価アルコール縮合物含有インク200(以下、単に、「インク200」ともいう)をノズル(突出部)118から吐出するものである。本実施形態では、ヘッド110は、圧電体素子としてのピエゾ素子113を用いてインクを吐出させるピエゾ方式を用いている。ピエゾ方式は、インク200に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えないなどの利点を有する。
【0049】
ヘッド110は、ヘッド本体111と、振動板112と、ピエゾ素子113とを有している。
ヘッド本体111は、本体114と、その下端面にノズルプレート115とを有している。そして、本体114を板状のノズルプレート115と振動板112とが挟み込むことにより、空間としてのリザーバー116およびリザーバー116から分岐した複数のインク室117が形成されている。
【0050】
リザーバー116には、図示せぬインクタンクよりインク200が供給される。リザーバー116は、各インク室117にインク200を供給するための流路を形成している。
また、ノズルプレート115は、本体114の下端面に装着されており、インク吐出面115Pを構成している。このノズルプレート115には、インク200を吐出する複数のノズル118が、各インク室117に対応して開口されている。そして、各インク室117から対応するノズル118に向かって、インク流路が形成されている。
【0051】
振動板112は、ヘッド本体111の上端面に装着されており、各インク室117の壁面を構成している。振動板112は、ピエゾ素子113の振動に応じて振動可能となっている。
ピエゾ素子113は、その振動板112のヘッド本体111と反対側に、各インク室117に対応して設けられている。ピエゾ素子113は、水晶等の圧電材料を一対の電極(不図示)で挟持したものである。その一対の電極は、駆動回路191に接続されている。
【0052】
そして、駆動回路191からピエゾ素子113に電気信号を入力すると、ピエゾ素子113が膨張変形または収縮変形する。ピエゾ素子113が収縮変形すると、インク室117の圧力が低下して、リザーバー116からインク室117にインク200が流入する。また、ピエゾ素子113が膨張変形すると、インク室117の圧力が増加して、ノズル118からインク200が吐出される。なお、印加電圧を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形量を制御することができる。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形速度を制御することができる。すなわち、ピエゾ素子113への印加電圧を制御することにより、インク200の吐出条件を制御し得るようになっている。
【0053】
制御装置190は、インクジェット装置100の各部位を制御する。例えば、駆動回路191で生成する印加電圧の波形を調節してインク200の吐出条件を制御したり、ヘッド位置決め手段180およびテーブル位置決め手段170を制御することにより基材Sへのインク200の吐出位置を制御する。
以上のようなインクジェット装置100を用いることにより、インク200を、仮成形体14(基材S)上の所望する場所に所望の量、精度良く吐出することができる。
【0054】
(導体パターン前駆体形成工程)
上記のようにして得られたセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)15の少なくとも一方の側の表面に、後に詳述するような導体パターン形成用インク300を液滴吐出(インクジェット)法により付与し、前記回路20となる導体パターン前駆体10を形成する。これにより、前駆体10を備えたセラミックス成形体15が得られる。
そして、導体パターン前駆体10は、焼結されることにより金属粒子同士が融着して、後述する導体パターン20を形成するものである。
【0055】
以下、本工程で用いる導体パターン形成用インク300について詳細に説明する。
<導体パターン形成用インク>
導体パターン形成用インク300は、液滴吐出法によって導体パターン前駆体10を形成するのに用いるインクである。
なお、本実施形態では、導体パターン形成用インク300として、金属粒子としての銀粒子が水系分散媒に分散した分散液を用いた場合について代表的に説明する。
【0056】
以下、導体パターン形成用インク300の各構成成分について詳細に説明する。
〔水系分散媒〕
本実施形態では、導体パターン形成用インク300として、水系分散媒を含むものを用いる。このように、導体パターン形成用インク300が分散媒として水系分散媒を含むものであることにより、より好適に、セラミックス成形体15上に吐出された導体パターン形成用インク300から当該分散媒をセラミックス成形体15中に吸収させることができ、セラミックス成形体15上に、金属粒子が濃縮された層(導体パターン前駆体10)をより好適に形成することができる。その結果、形成される導体パターン20の信頼性をより高いものとすることができる。
【0057】
なお、本発明において、「水系分散媒」とは、水および/または水との相溶性に優れる液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体)で構成されたもののことを指す。このように、水系分散媒は、水および/または水との相溶性に優れる液体で構成されたものであるが、主として水で構成されたものであるのが好ましく、特に、水の含有率が70wt%以上のものであるのが好ましく、90wt%以上のものであるのがより好ましい。これにより、上述した効果がより顕著に発揮される。
【0058】
水系分散媒の具体例としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ピリジン、ピラジン、ピロール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、導体パターン形成用インク300中における水系分散媒の含有量は、20wt%以上80wt%以下であることが好ましく、25wt%以上70wt%以下であることがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300の粘度を好適なものとしつつ、分散媒の揮発による粘度の変化を少ないものとすることができる。
【0059】
〔銀粒子〕
次に、銀粒子(金属粒子)について説明する。
銀粒子は、形成される導体パターン20の主成分であり、導体パターン20に導電性を付与する成分である。
また、銀粒子は、導体パターン形成用インク300中において分散している。
【0060】
銀粒子の平均粒径は、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、10nm以上30nm以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300の吐出安定性をより高いものとすることができるとともに、微細な導体パターンを容易に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
【0061】
また、導体パターン形成用インク300中において、銀粒子の平均粒子間距離は、1.7nm以上380nm以下であるのが好ましく、1.75nm以上300nm以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300の粘度をより適度なものとすることができ、吐出安定性に特に優れたものとなる。
また、導体パターン形成用インク300中に含まれる銀粒子(分散剤が表面に吸着していない銀粒子(金属粒子))の含有量は、0.5wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上45wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン20の断線をより効果的に防止することができ、より信頼性の高い導体パターン20を提供することができる。
また、銀粒子(金属粒子)は、その表面に分散剤が付着した銀コロイド粒子(金属コロイド粒子)として、水系分散媒中に分散していることが好ましい。これにより、銀粒子の水系分散媒への分散性が特に優れたものとなり、導体パターン形成用インク300の吐出安定性が特に優れたものとなる。
【0062】
分散剤としては、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むことが好ましい。これらの分散剤は、銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定して導体パターン形成用インク300中に存在することにより、より容易に微細な導体パターン20を形成することができる。また、導体パターン形成用インク300によって形成されたパターン(前駆体10)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とOH基の数が3個未満であったり、COOH基の数がOH基の数よりも少ないと、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
このような分散剤としては、例えば、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
また、分散剤は、COOH基とSH基とを合わせて2個以上有するメルカプト酸またはその塩を含んでいてもよい。これらの分散剤は、メルカプト基が銀微粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によってコロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定して導体パターン形成用インク300中に存在することにより、より容易に微細な導体パターン20を形成することができる。また、導体パターン形成用インク300によって形成されたパターン(前駆体10)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とSH基の数が2個未満すなわち片方のみであると、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
【0064】
このような分散剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
導体パターン形成用インク300中における銀コロイド粒子の含有量は、1wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上50wt%以下であるのがより好ましい。銀コロイド粒子の含有量が前記下限値未満であると、銀の含有量が少なく、導体パターン20を形成した際、比較的厚い膜を形成する場合に、複数回重ね塗りする必要が生じる。一方、銀コロイド粒子の含有量が前記上限値を超えると、銀の含有量が多くなり、分散性が低下し、これを防ぐためには攪拌の頻度が高くなる。
【0066】
また、銀コロイド粒子の熱重量分析における500℃までの加熱減量は、1wt%以上25wt%以下が好ましい。コロイド粒子(固形分)を500℃まで加熱すると、表面に付着した分散剤、後述する還元剤(残留還元剤)等が酸化分解され、大部分のものはガス化されて消失する。残留還元剤の量は、僅かであると考えられるので、500℃までの加熱による減量は、銀コロイド粒子中の分散剤の量にほぼ相当すると考えられる。加熱減量が1wt%未満であると、銀粒子に対する分散剤の量が少なく、銀粒子の充分な分散性が低下する。一方、25wt%を超えると、銀粒子に対する残留分散剤の量が多なり、導体パターンの比抵抗が高くなる。但し、比抵抗は、導体パターン20の形成後に加熱焼結して有機分を分解消失させることである程度改善することができる。そのため、より高温で焼結されるセラミックス基板等に有効である。
【0067】
〔有機バインダー〕
また、導体パターン形成用インク300は、有機バインダーを含んでいてもよい。有機バインダーは、導体パターン形成用インク300を用いて形成された導体パターン前駆体10において、銀粒子の凝集を防止するものである。すなわち、形成された導体パターン前駆体10において、有機バインダーは、銀粒子同士の間に存在することで銀粒子同士が凝集して、パターンの一部に亀裂(クラック)が生じることを防止できる。また、焼結時においては、有機バインダーは、分解されて除去されることができ、導体パターン前駆体10中の銀粒子同士は、結合して導体パターン20を形成する。
【0068】
また、導体パターン形成用インク300が有機バインダーを含むものであることにより、セラミックス成形体15(多価アルコール縮合物を含むセラミックス成形体15)に対する導体パターン前駆体10の密着性を特に優れたものとすることができ、導体パターン前駆体10を構成する金属粒子の不本意な部位への流れ出しがより確実に防止される。その結果、クラック、断線、短絡等の発生をより効果的に防止し、導体パターン20をより高い精度で形成することができる。すなわち、最終的に得られる導体パターン20の信頼性を特に高いものとすることができる。
【0069】
有機バインダーとしては、特には限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール#200(重量平均分子量200)、ポリエチレングリコール#300(重量平均分子量300)、ポリエチレングリコール#400(平均分子量400)、ポリエチレングリコール#600(重量平均分子量600)、ポリエチレングリコール#1000(重量平均分子量1000)、ポリエチレングリコール#1500(重量平均分子量1500)、ポリエチレングリコール#1540(重量平均分子量1540)、ポリエチレングリコール#2000(重量平均分子量2000)等のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール#200(重量平均分子量:200)、ポリビニルアルコール#300(重量平均分子量:300)、ポリビニルアルコール#400(平均分子量:400)、ポリビニルアルコール#600(重量平均分子量:600)、ポリビニルアルコール#1000(重量平均分子量:1000)、ポリビニルアルコール#1500(重量平均分子量:1500)、ポリビニルアルコール#1540(重量平均分子量:1540)、ポリビニルアルコール#2000(重量平均分子量:2000)等のポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリグリセリンエステル等のポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリグリセリンエステルとしては、例えば、ポリグリセリンのモノステアレート、トリステアレート、テトラステアレート、モノオレエート、ペンタオレエート、モノラウレート、モノカプリレート、ポリシノレート、セスキステアレート、デカオレエート、セスキオレエート等が挙げられる。
【0070】
この中でも、有機バインダーとして、ポリグリセリン化合物を用いた場合、以下のような効果が得られる。
ポリグリセリン化合物は、導体パターン形成用インク300を用いて形成された導体パターン前駆体10を乾燥(脱分散媒)した際に、導体パターン前駆体10にクラックが発生するのを特に好適に防止することができる。これは、以下のように考えられる。導体パターン形成用インク300中にポリグリセリン化合物が含まれることにより、銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を適度なものとすることができる。さらに、ポリグリセリン化合物は比較的沸点が高いため、水系分散媒の除去時においては除去されず、銀粒子の周囲に付着する。以上により、水系分散媒除去時において、ポリグリセリン化合物が銀粒子を包み込んだ状態が長く続き、水系分散媒の揮発による急激な体積収縮が避けられるとともに銀の粒成長(凝集)が妨げられる結果、導体パターン前駆体10中のクラックの発生が抑制されると考えられる。
【0071】
また、ポリグリセリン化合物は、導体パターン20を形成する際の焼結時において、断線が発生するのをより確実に防止することができる。これは、以下のように考えられる。ポリグリセリン化合物は、比較的沸点あるいは分解温度が高い。このため、導体パターン前駆体10から導体パターン20を形成する過程において、水系分散媒が蒸発した後、比較的高い温度まで、ポリグリセリン化合物を、蒸発或いは熱(酸化)分解せずに、導体パターン前駆体10中に存在させることができる。したがって、ポリグリセリン化合物が蒸発或いは熱(酸化)分解するまでは、銀粒子の周囲にポリグリセリン化合物が存在し、銀粒子同士の接近と凝集とを抑制することができ、ポリグリセリン化合物が分解した後には、より均一に銀粒子同士を接合させることができる。さらに、焼結時においてパターン中の銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖(ポリグリセリン化合物)が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を保つことができる。また、このポリグリセリン化合物は、適度な流動性を有している。このため、ポリグリセリン化合物を含むことにより、導体パターン前駆体10は、セラミックス成形体15の温度変化による膨張・収縮への追従性が優れたものとなる。
【0072】
以上より、形成された導体パターン20に断線が生じることをより確実に防止することができると考えられる。
また、このようなポリグリセリン化合物を含むことにより、導体パターン形成用インク300の粘度をより適度なものとすることができ、インクジェットヘッド110からの吐出安定性をより効果的に向上させることができる。また、成膜性も向上させることができる。
【0073】
ポリグリセリン化合物としては、上述した中でも、ポリグリセリンを用いるのが好ましい。ポリグリセリンは、セラミックス成形体15の温度変化による膨張・収縮への追従性が特に優れるとともに、セラミックス成形体15の焼結後には、導体パターン20中からより確実に除去することができる成分である。その結果、導体パターン20の電気的特性をより高いものとすることができる。さらに、ポリグリセリンは、水系分散媒への溶解度も高いので、好適に用いることができる。
【0074】
有機バインダーは、その重量平均分子量が300以上3000以下であるのが好ましく、400以上1000以下であるのがより好ましく、400以上600以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300を用いて形成されたパターンを乾燥した際に、クラックの発生をより確実に防止することができる。これに対し、有機バインダーの重量平均分子量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、水系分散媒を除去する際に有機バインダーが分解しやすい傾向があり、クラックの発生を防止する効果が小さくなる。また、有機バインダーの重量平均分子量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、排除体積効果等により導体パターン形成用インク300中への溶解性、分散性が低下する場合がある。
【0075】
また、導体パターン形成用インク300中に有機バインダーの含有量は、1wt%以上30wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上20wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300の吐出安定性を特に優れたものとしつつ、クラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。これに対して、有機バインダーの含有量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、クラックの発生を防止する効果が小さくなる場合がある。また、有機バインダーの含有量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、導体パターン形成用インク300の粘度を十分に低いものとすることが困難な場合がある。
【0076】
〔乾燥抑制剤〕
また、導体パターン形成用インク300は、乾燥抑制剤を含んでいてもよい。乾燥抑制剤は、導体パターン形成用インク300中の水系分散媒の不本意な揮発を防止するものである。その結果、インクジェット装置の吐出部付近において水系分散媒が揮発することを防止でき、導体パターン形成用インク300の粘度の上昇、乾燥が抑えられる。導体パターン形成用インク300は、このような乾燥抑制剤を含む結果、導体パターン形成用インク300の液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。すなわち、導体パターン形成用インク300の液滴の重量のばらつきが小さいものとなり、目詰まり、飛行曲がり等が少ないものとなる。また、特に、インクジェット装置に導体パターン形成用インク300を充填した後に、長期間(例えば、5日間)運転を行わずにインクジェット装置を待機状態とした場合であっても、導体パターン形成用インク300を、均一な量で、目的とする位置に精度よく吐出することができる。
このような乾燥抑制剤としては、下記式(I)で示される化合物、アルカノールアミン、糖アルコール、多糖類等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
【化1】

(ただし、R、R’は、それぞれ、Hまたはアルキル基である。)
【0078】
上記式(I)で表される化合物は、水素結合性の高い成分である。このため、水との親和性が高く、適度な水分を保持することができ、導体パターン形成用インク300の水系分散媒の不本意な揮発を防止することができる。
また、上記化合物は、比較的燃焼しやすく、導体パターン20を形成する際には導体パターン形成用インク300内からより容易に除去(酸化分解)することができる。
また、上述したような化合物は、金属粒子(銀粒子)が前述したように表面に分散剤が付着したコロイド粒子である場合、表面の分散剤と水素結合により結合し、金属粒子の分散安定性を向上させる効果を有している。これにより、導体パターン形成用インク300の吐出安定性に優れるとともに、保存安定性にも優れたものとなる。
【0079】
上述したように、本発明で用いる上記式(I)で表される化合物中における、R、R’は、それぞれ、水素またはアルキル基であるが、R、R’は、ともに水素であるのが好ましい。すなわち、尿素であるのが好ましい。これにより、上述したような保湿性を特に高いものとすることができ、特に優れた吐出安定性を得ることができる。また、金属粒子が上述したようなコロイド粒子として存在する場合に、特に優れた分散安定性を示すものとなる。
【0080】
このような上記式(I)で表される化合物の導体パターン形成用インク300中における含有量は、5wt%以上25wt%以下であるのが好ましく、8wt%以上20wt%以下であるのがより好ましく、10wt%以上18wt%以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300の不本意な乾燥をより効率よく防止することができる。その結果、導体パターン形成用インク300の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0081】
アルカノールアミンは、保湿性の高い成分であるとともに、金属粒子が前述したようなコロイド粒子である場合に、コロイド粒子表面の分散剤の官能基を活性化させることができ、金属粒子の分散安定性をより高いものとすることができる。
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等各種のものを挙げることができる。
【0082】
また、アルカノールアミンは、第3級アミンであるのが好ましい。第3級アミンは、アルカノールアミンの中でも、特に保湿性が高く、上記効果をより顕著なものとすることができる。
また、第3級アミンの中でも、取り扱いやすさや、保湿性の高さ等の観点から、特に、トリエタノールアミンを用いるのが好ましい。
導体パターン形成用インク300中におけるアルカノールアミンの含有量は、1wt%以上10wt%以下であるのが好ましく、3wt%以上7wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300の吐出安定性をより効果的に優れたものとすることができる。
【0083】
糖アルコールは、糖類のアルデヒド基およびケトン基を還元して得られるものである。
また、糖アルコールは、高い保湿性を有する化合物である。また、糖アルコールは、分子量あたりの酸素数が多いため、雰囲気が糖アルコールの分解温度に達すると、容易に分解して除去される。このため、導体パターン20を形成する際には、導体パターン前駆体10の温度を糖アルコールの分解温度よりも高くすることで、形成される導体パターン20内から糖アルコールを確実に除去(酸化分解)することができる。
【0084】
糖アルコールとしては、例えば、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、スレイトール、グリトール、タリトール、ガラクチトール、アリトール、アルトリトール、ドルシトール、イディトール、グリセリン(グリセロール)、イノシトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、ツラニトール等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
上述したような糖アルコールの、導体パターン形成用インク300中における含有量は、3wt%以上20wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上15wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300の水系分散媒の揮発をより確実に抑制することができ、導体パターン形成用インク300は、より長期にわたって液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。
【0086】
多糖類は、保湿性の高い成分であるとともに、特に、上述したようなポリグリセリン化合物とともに含むことにより、導体パターン形成用インクを用いて形成される導電パターンにおいて、不本意なクラック、断線等が発生するのをより確実に防止することができ、形成される導体パターンの信頼性を特に高いものとすることができる。
導体パターン形成用インクは、常温(25℃)で固体の多糖類を含むのが好ましい。これにより、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
多糖類の重量平均分子量は、1,000以上5,000以下であるが、1,200以上4,500以下であるであるのが好ましく、1,500以上4,000以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0087】
多糖類としては、例えば、セルロース、グアーガム、デンプン(アミロース、アミロペクチン)、プルラン、デキストリン、フルクタン、グルコマンナン、アガロース、アガロペクチン、カラギーナン、キチン、キトサン、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、マルトデキストリン、またはこれらの誘導体(例えば、カルボニル基が還元された多糖類等)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。導体パターン形成用インクは、上記の中でも、常温(25℃)で固体のマルトデキストリンを含むのが好ましい。これにより、液滴の吐出安定性、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
また、導体パターン形成用インクは、多糖類として、カルボニル基が還元された多糖類を含むのが好ましい。これにより、液滴の吐出安定性、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0088】
上述したような多糖類の、導体パターン形成用インク300中における含有量は、1wt%以上28wt%以下であるのが好ましく、2.2wt%以上10.5wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300の水系分散媒の揮発をより確実に抑制することができ、導体パターン形成用インク300は、より長期にわたって液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。
【0089】
〔表面張力調整剤〕
また、導体パターン形成用インク300は、表面張力調整剤を含んでいてもよい。
表面張力調整剤は、導体パターン形成用インク300とセラミックス成形体15との接触角を所定の角度に調整する機能を有している。
表面張力調整剤としては、各種界面活性剤を用いることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、アセチレングリコール系化合物を含むことが好ましい。
【0090】
アセチレングリコール系化合物は、少ない添加量で、導体パターン形成用インク300とセラミックス成形体15との接触角を所定の範囲に調整することができる。このように、導体パターン形成用インク300とセラミックス成形体15との接触角を所定の範囲に調整することにより、より微細な導体パターン20を形成することができる。また、吐出した液滴内に気泡が混入した場合であっても、速やかに気泡を除去することができる。その結果、形成される導体パターン20でのクラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。
【0091】
アセチレングリコール系化合物としては、例えば、サーフィノール104シリーズ(104E、104H、104PG−50、104PA等)、サーフィノール400シリーズ(420、465、485等)、オルフィンシリーズ(EXP4036、EXP4001、E1010等)(「サーフィノール」および「オルフィン」は、日信化学工業株式会社の商品名)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
また、導体パターン形成用インク300中には、HLB値が異なる2種以上のアセチレングリコール系化合物を含んでいるのが好ましい。導体パターン形成用インク300とセラミックス成形体15との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
特に、導体パターン形成用インク300中に含まれる2種以上のアセチレングリコール系化合物のうち、最もHLB値が高いアセチレングリコール系化合物のHLB値と、最もHLB値が低いアセチレングリコール系化合物のHLB値との差が、4以上12以下であるのが好ましく、5以上10以下であるのがより好ましい。これにより、より少ないアセチレングリコール系化合物の添加量で、導体パターン形成用インク300とセラミックス成形体15との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
【0093】
導体パターン形成用インク300中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の高いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、8以上16以下であるのが好ましく、9以上14以下であるのがより好ましい。
また、導体パターン形成用インク300中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の低いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、2以上7以下であるのが好ましく、3以上5以下であるのがより好ましい。
導体パターン形成用インク300中に含まれる表面張力調整剤の含有量は、0.001wt%以上1wt%以下であるのが好ましく、0.01wt%以上0.5wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク300とセラミックス成形体15との接触角をより効果的に所定の範囲に調整することができる。
【0094】
〔その他の成分〕
なお、導体パターン形成用インク300の構成成分は、上記成分に限定されず、上記以外の成分を含んでいてもよい。
このような成分としては、例えば、チオ尿素等が挙げられる。
また、導体パターン形成用インク300の粘度は、特に限定されないが、2.0mPa・s以上12.0mPa・s以下であることが好ましく、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、液滴の吐出安定性を優れたものとすることができるとともに、セラミックス成形体15に着弾した導体パターン形成用インク300の不本意な濡れ広がりをより確実に防止することができ、微細な線幅の導体パターン前駆体10を形成することができる。
【0095】
導体パターン形成用インク300の吐出は、多価アルコール縮合物付与工程で説明したような液滴吐出装置100を用いて同様の条件で行うことができる。
このような場合、液滴吐出装置100は、テーブル140の裏面に、図示しないラバーヒーターが配設されたものであり、本工程において、テーブル140上に載置されたセラミックスグリーンシート15は、その上面全体がラバーヒーターにて所定の温度に加熱されるのが好ましい。これにより、セラミックス成形体15に着弾した導体パターン形成用インク300は、上述したように、その構成成分である水系分散媒の少なくとも一部がセラミックス成形体15に吸収されるとともに、その表面側から水系分散媒の少なくとも一部が蒸発する。このとき、セラミックスグリーンシート15は加熱されているので、水系分散媒の蒸発が促進され、金属粒子が濃縮された層(導体パターン前駆体10)中の水系分散媒の含有率は効果的に低減される。
セラミックスグリーンシート15の加熱温度としては、例えば、40℃以上100℃以下で行うのが好ましく、50℃以上70℃以下で行うのがより好ましい。このような条件とすることにより、水系分散媒が蒸発した際に、クラックが発生するのをより効果的に防止することができる。
【0096】
本工程を、前述したようなインクジェット装置100を用いて行うことにより、導体パターン形成用インク300を、セラミックスグリーンシート15(基材S)上の所望する場所に所望の量、精度良く吐出することができる。さらに、上述したようなセラミックスグリーンシート15、および、導体パターン形成用インク300を用いているため、セラミックスグリーンシート15上に吐出された導体パターン形成用インク300に含まれる金属粒子についての、着弾位置から不本意な移動を効果的に防止することができ、所望の形状の導体パターン前駆体10を確実に形成することができる。
なお、形成した導体パターン前駆体10について、さらに乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、上記の液滴吐出時におけるセラミックスグリーンシート15の加熱温度と同様の条件で行うことができる。
【0097】
導体パターン前駆体10の厚さの調整は、導体パターン形成用インク300の吐出条件を設定することにより行うことができる。すなわち、導体パターン前駆体10の厚さが大きい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりの導体パターン形成用インク300の吐出量(または液滴数)を大きいものとし、一方で、導体パターン前駆体10の厚さが小さい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりの導体パターン形成用インク300の吐出量(または液滴数)を小さいものとすることで行うことができる。
【0098】
なお、上述したように、セラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)15は、多価アルコール縮合物を含むものであるため、セラミックスグリーンシート15に着弾した導体パターン形成用インク300からは、その構成成分である水系分散媒(分散媒)が速やかにセラミックスグリーンシート15に吸収される。このため、形成すべき導体パターン前駆体10の厚さが比較的大きく、同一の領域に吐出する導体パターン形成用インク300の量が比較的多い場合であっても、導体パターン形成用インク300の過剰な濡れ広がり等を防止することができ、線幅がより小さい導体パターン前駆体10をより好適に形成することができる。
【0099】
また、分散媒を蒸発させた後の導体パターン形成用インク300に乾燥抑制剤が含まれる場合、形成された前駆体10が完全に乾燥しない状態でもパターンが流失してしまうおそれがない。従って、一旦、導体パターン形成用インク300を付与して乾燥してから長時間放置し、その後、再度導体パターン形成用インク300を付与することが可能になる。
【0100】
また、上述したような有機バインダーを導体パターン形成用インク300が含む場合、有機バインダー(特に、ポリグリセリン化合物)は、化学的、物理的に安定な化合物であるので、導体パターン形成用インク300を付与して乾燥してから長時間放置しても導体パターン形成用インク300が変質するおそれがなく、再度導体パターン形成用インク300を付与することが可能になり、より均質なパターンを形成できる。これにより、前駆体10自体が多層構造になるおそれがなく、この結果、層間同士の間の比抵抗が上昇して導体パターン20全体の比抵抗が増大するおそれがない。
上記の工程を経ることによって、本実施形態の導体パターン20は、従来のインクによって形成された導体パターンに比べて厚く形成することができる。より具体的には5.5μm以上の厚みのものを形成することができる。
【0101】
(積層工程)
次いで、これらセラミックスグリーンシート15からPETフィルムを剥がし、これらを積層することにより、積層体17を得る。
この際に、積層するセラミックスグリーンシート15については、上下に重ねられるセラミックスグリーンシート15間で、それぞれの前駆体10が必要に応じて導体ポスト16を介して接続するように配置する。
その後、積層したセラミックスグリーンシート15をポリエチレンパックで包装、封入した後、静水圧プレス機にてセラミックスグリーンシート15を構成するバインダーのガラス転移点以上に加熱しつつ、各セラミックスグリーンシート15同士を圧着する。これにより、積層体17を得る。
【0102】
(焼成工程)
このようにして積層体17を形成したら、ポリエチレンパックから開封した後、例えば、ベルト炉などによって加熱処理(焼成処理)する。これにより、各セラミックスグリーンシート15は焼結されることで、セラミックス基板31となり、また、前駆体10は、これを構成する銀粒子(金属粒子)が焼結して配線パターンや電極パターンからなる回路(導体パターン)20となる。そして、このように積層体17が加熱処理されることで、この積層体17は積層基板32となる。
【0103】
特に、本工程に供されるセラミックスグリーンシート15は、多価アルコール縮合物を含み、かつ、水系分散媒(分散媒)を吸収したものであるため、本工程での加熱処理において、多価アルコール縮合物および吸収していた水系分散媒(分散媒)は周囲に徐放されることとなる。これにより、セラミックスグリーンシート15上に設けられた導体パターン前駆体10が急激に乾燥してしまうことが防止され、本工程において形成される導体パターン20にクラック等が生じることが確実に防止される。このような効果は、導体パターン形成用インク300が乾燥抑制剤を含む場合に、より顕著に発揮される。
【0104】
ここで、積層体17の加熱温度(焼成温度)としては、セラミックスグリーンシート15中に含まれるガラスの軟化点以上とするのが好ましく、具体的には、600℃以上900℃以下とするのが好ましい。また、加熱条件としては、適宜な速度で温度を上昇させ、かつ下降させるようにし、さらに、最大加熱温度、すなわち前記の600℃以上900℃以下の温度では、その温度に応じて適宜な時間保持するようにする。
【0105】
このようにガラスの軟化点以上の温度、すなわち前記温度範囲にまで加熱温度を上げることにより、得られるセラミックス基板31のガラス成分を軟化させることができる。したがって、その後常温にまで冷却し、ガラス成分を硬化させることにより、積層基板32を構成する各セラミックス基板31と回路(導体パターン)20との間がより強固に固着するようになる。
【0106】
特に、900℃以下の温度で加熱することにより、得られるセラミックス基板31は、低温焼成セラミックス(LTCC)となる。
ここで、セラミックスグリーンシート15上に設けられた導体パターン前駆体10を構成する金属粒子は、加熱処理によって互いに融着し、連続することによって導電性を示すようになる。
【0107】
このような加熱処理によって回路20は、セラミックス基板31中のコンタクト33に直接接続させられ、導通させられて形成されたものとなる。ここで、この回路20が単にセラミックス基板31上に載っているだけでは、セラミックス基板31に対する機械的な接続強度が確保されず、したがって衝撃等によって破損してしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態では、前述したようにセラミックスグリーンシート15中のガラスを一旦軟化させ、その後硬化させることにより、回路20をセラミックス基板31に対し強固に固着させている。したがって、形成された回路20は、機械的にも高い強度を有するものとなる。
【0108】
このようなセラミックス回路基板30の製造方法にあっては、特に積層基板32を構成する各セラミックス基板31の製造に際して、上述したようなセラミックスグリーンシート15に対して前記の導体パターン形成用インク300を付与しているので、所望の形状の導体パターン20を高精度で確実に形成することができる。
よって、本発明によれば、電子機器の構成要素となる電子部品について、その小型化の要求に応えることができるのはもちろん、多品種少量生産についてのニーズにも十分に対応可能となる。
【0109】
また、セラミックスグリーンシート15を加熱処理する際の加熱温度を、セラミックスグリーンシート15中に含まれるガラスの軟化点以上としているので、加熱処理によってセラミックスグリーンシート15をセラミックス基板31にした際、形成した導体パターン20が軟化したガラスによってセラミックス基板31(セラミックスグリーンシート15)上に強固に固着するようになり、したがって導体パターン20の機械的強度を高めることができる。
【0110】
上記のように、本発明では、導体パターンの形成(配線基板の製造)に、上述したような多価アルコール縮合物含有インクと、導体パターン形成用インクとを備えた導体パターン形成用インクセットを用いることにより、多価アルコール縮合物の使用量を抑制し、配線基板の生産コストを抑制しつつ、クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を提供することができる。
【0111】
《導体パターンおよび配線基板》
次に、上述したような方法を用いて得られる導体パターンおよび配線基板について説明する。
配線基板(セラミックス回路基板)30は、セラミックス基板31が多数(例えば10枚から20枚程度)積層されてなる積層基板32と、この積層基板32の最外層、すなわち一方の側の表面に形成された、微細配線等からなる回路20とを有して形成されたものである。
【0112】
積層基板32は、積層されたセラミックス基板31、31間に、導体パターン前駆体10により形成された導体パターン(回路)20を備えている。
導体パターン20は、上述したような導体パターン前駆体10を加熱する(焼結する)ことにより形成された薄膜状の導体パターンであって、銀粒子が相互に結合されてなり、少なくとも導体パターン20表面において前記銀粒子同士が隙間なく結合している。
【0113】
導体パターン20の比抵抗は、20μΩcm未満であることが好ましく、15μΩcm以下であることがより好ましい。このときの比抵抗は、インクの付与後、600℃以上900℃以下で加熱、焼結した後の比抵抗をいう。上記比抵抗が20μΩcm以上になると、導電性が要求される用途、すなわち回路基板上に形成する電極等に用いることが困難となる。
【0114】
なお、上記のような導体パターン20は、携帯電話やPDA等の移動通話機器の高周波モジュール、インターポーザー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、加速度センサー、弾性表面波素子、アンテナや櫛歯電極等の異形電極、その他各種計測装置等の電子部品等に適用することができる。
また、セラミックス基板31には、回路20に接続するコンタクト(ビア)33が形成されている。このような構成によって回路20は、上下に配置された回路20、20間が、コンタクト33によって導通したものとなっている。
また、上述したような配線基板30は、各種の電子機器に用いられる電子部品となるものであり、各種配線や電極等からなる回路パターン、積層セラミックスコンデンサー、積層インダクター、LCフィルタ、複合高周波部品等を基板に形成してなるものである。
【0115】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクとして、コロイド液を用いる場合について代表的に説明したが、コロイド液でなくてもよい。
また、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクは、銀粒子が分散したものとして説明したが、銀以外のものであってもよい。金属粒子を構成する金属としては、例えば、銀、銅、パラジウム、白金、金、または、これらの合金等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。金属粒子が合金である場合、前記金属が主とするもので、他の金属を含む合金であってもよい。また、上記金属同士が任意の割合で混ざった合金であってもよい。また、混合粒子(例えば、銀粒子と銅粒子とパラジウム粒子とが任意の比率で存在するもの)が液中に分散したものであってもよい。これら金属は、抵抗率が小さく、かつ、加熱処理によって酸化されない安定なものであるから、これらの金属を用いることにより、低抵抗で安定な導体パターンを形成することが可能になる。
【0116】
また、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクが、金属粒子を分散する分散媒として、水系分散媒を含む場合について代表的に説明したが、分散媒として、水および/または水との相溶性に劣る液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g未満の液体)である非水系分散媒(油系分散媒)を含むものであってもよい。
また、例えば、前述した実施形態では、液滴吐出方式としてピエゾ方式を用いたが、これに限定されず、例えば、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。
【実施例】
【0117】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
[1]仮成形体の製造
まず、セラミックス粉末としての平均粒径が1.5μmのアルミナ(Al)粉末と、セラミックス粉末としての平均粒径が1.5μmの酸化チタン(TiO)粉末と、ガラス粉末としての平均粒径が1.5μmのホウ珪酸ガラス粉末とを混合し、混合粉末を得た。
【0118】
次に、上記混合粉末に、バインダー(結合剤)としてポリビニルブチラールと、可塑剤としてジブチルフタレートとを加え、混合・撹拌することによりスラリーを得た。
次に、上記スラリーを、ドクターブレードでPETフィルム上にシート状に形成し、これを、1辺の長さを200mmとする正方形状に裁断することにより、多数の仮成形体を得た。
【0119】
[2]導体パターン形成用インクセットの調製
[2−1]多価アルコール縮合物含有インクの調製
多価アルコール縮合物としてのポリグリセリン(重量平均分子量:500)およびポリエチレングリコール(重量平均分子量:400)と、水と、界面活性剤としてのオルフィンE1010とを混合し、多価アルコール縮合物含有インクを得た。
【0120】
[2−2]導体パターン形成用インクの調製
10N−NaOH水溶液を3mL添加してアルカリ性にした水50mLに、クエン酸3ナトリウム2水和物17g、タンニン酸0.36gを溶解した。得られた溶液に対して3.87mol/L硝酸銀水溶液3mLを添加し、2時間攪拌を行い銀コロイド液を得た。得られた銀コロイド液に対し、導電率が30μS/cm以下になるまで透析することで脱塩を行った。透析後、3000rpm、10分の条件で遠心分離を行うことで、粗大金属コロイド粒子を除去した。
【0121】
この銀コロイド液に、乾燥抑制剤としてのトリエタノールアミンと、尿素と、キシリトールと、有機バインダーとしてのポリグリセリンと、表面張力調整剤としてのサーフィノール104PG−50(日信化学工業社製)およびオルフィンEXP4036(日信化学工業社製)とを添加し、さらに濃度調整用のイオン交換水を添加することにより、導体パターン形成用インクとした。
これにより、多価アルコール縮合物含有インクと導体パターン形成用インクとからなる導体パターン形成用インクセットを得た。
【0122】
[3]セラミックス回路基板の製造(内層評価用)
上記のようにして得られた導体パターン形成用インクセットおよび仮成形体を用いて、以下のようにして、セラミックス回路基板を作製した。
まず、上記多価アルコール縮合物含有インクを、図2、図3に示すような液滴吐出装置に搭載した。次に、上記仮成形体に向けて、液滴吐出装置の各吐出ノズルから多価アルコール縮合物含有インクの液滴を順次吐出し、セラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)を得た(多価アルコール縮合物付与工程)。仮成形体への多価アルコール縮合物含有インクの付与は、導体パターン形成用インクを用いて形成すべき導体パターン前駆体に対応するパターンで行った。
【0123】
次に、導体パターン形成用インクを搭載した図2、図3に示すようなインクジェット装置のテーブル上に載置されたセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)を60℃に昇温保持した。その後、各吐出ノズルからそれぞれ1滴当り15ngの液滴を順次吐出し、線幅が25μm、厚み20μm、長さが10.0cmのライン(前駆体)を20本描画した。各ライン間の距離は、5mmとした。そして、このラインが形成されたセラミックスグリーンシートを乾燥炉に入れ、60℃で30分間加熱して乾燥した(導体パターン前駆体形成工程)。
上記のようにして、ラインが形成されたセラミックスグリーンシートを第1のセラミックスグリーンシートとした。
【0124】
次に、別のセラミックスグリーンシートに上記の金属配線の両端位置に機械式パンチ等によって孔開けを行うことで計40箇所に直径100μmのスルーホールを形成し、導体パターン形成用インクを充填することでコンタクト(ビア)を形成した。さらに、このコンタクト(ビア)上に2mm角のパターンを、上記液滴吐出装置を用いた導体パターン形成用インクの吐出により、端子部として形成した。
この端子部が形成されたセラミックスグリーンシートを第2のセラミックスグリーンシートとした。
【0125】
次に、第2のセラミックスグリーンシートの下に第1のセラミックスグリーンシートを積層し、さらに無加工のセラミックスグリーンシートを補強層として2枚積層し、次に、95℃の温度において、260kg/cmの圧力で30分間プレスして、生の積層体を得た(積層工程)。このような生の積層体を、20個作製した。
次に、大気中において、昇温速度66℃/時間で約6時間、昇温速度10℃/時間で約5時間、昇温速度85℃/時間で約4時間といった連続的に昇温する昇温過程を経て、最高温度890℃で30分間保持するといった焼結プロファイルに従って焼結し、セラミックス回路基板を得た(焼成工程)。
【0126】
[4]セラミックス回路基板の製造(表層評価用)
また、内層評価用のセラミックス回路基板(上記[3]参照)とは別に、上記[1]で製造した仮成形体、および、上記[2]で調製した導体パターン形成用インクセットを用いて、以下のようにして、セラミックス回路基板を作製した。
まず、上記多価アルコール縮合物含有インクを、図2、図3に示すような液滴吐出装置に搭載した。次に、上記仮成形体に向けて、液滴吐出装置の各吐出ノズルから多価アルコール縮合物含有インクの液滴を順次吐出し、セラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)を得た(多価アルコール縮合物付与工程)。仮成形体への多価アルコール縮合物含有インクの付与は、導体パターン形成用インクを用いて形成すべき導体パターン前駆体を配置するエリア全域に行った。
【0127】
次に、導体パターン形成用インクを搭載した図2、図3に示すようなインクジェット装置のテーブル上に載置されたセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)を60℃に昇温保持した。その後、各吐出ノズルからそれぞれ1滴当り15ngの液滴を順次吐出し、線幅が30μm、厚み17μm、長さが10.0cmのライン(前駆体)を20本描画した。各ライン間の距離は、5mmとした。それぞれのラインの両端部には、1.5mm角のパターンを形成し、端子部とした。そして、このラインが形成されたセラミックスグリーンシートを乾燥炉に入れ、60℃で30分間加熱して乾燥した。(導体パターン前駆体形成工程)。
上記のようにして、ラインが形成されたセラミックスグリーンシートを第1のセラミックスグリーンシートとした。
【0128】
次に、第1のセラミックスグリーンシートの下に無加工のセラミックスグリーンシートを補強層として4枚積層し、次に、95℃の温度において、260kg/cmの圧力で30分間プレスして、生の積層体を得た(積層工程)。このような生の積層体を、20個作製した。
次に、大気中において、昇温速度66℃/時間で約6時間、昇温速度10℃/時間で約5時間、昇温速度85℃/時間で約4時間といった連続的に昇温する昇温過程を経て、最高温度890℃で30分間保持するといった焼結プロファイルに従って焼結し、セラミックス回路基板を得た(焼成工程)。
【0129】
(実施例2〜12)
多価アルコール縮合物含有インクとして表1に示すような組成のものを用い、導体パターン形成用インクとして表1に示すようなものを用い、仮成形体として表1に示すような組成のものを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてセラミックス回路基板(内層評価用および表層評価用)を製造した。
【0130】
(比較例1)
多価アルコール縮合物付与工程を省略した以外は、前記実施例と同様にしてセラミックス回路基板(内層評価用および表層評価用)を製造した。
(比較例2)
多価アルコール縮合物含有インクの代わりに、多価アルコール縮合物を含まずグリセリンを含むインクを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてセラミックス回路基板(内層評価用および表層評価用)を製造した。
【0131】
前記各実施例および比較例について、多価アルコール縮合物含有インクの各構成材料の配合量を表1に示し、仮成形体の各構成材料の配合量を表2に示し、導体パターン形成用インクの各構成材料の配合量を表3に示した。なお、比較例2については、多価アルコール縮合物含有インクの代わりに用いたインクの条件を表1に示した。なお、表中、ポリグリセリンをPG、ポリエチレングリコールをPEG、トリエタノールアミンをTEA、モノエタノールアミンをMEA、ジエタノールアミンをDEA、尿素をUr、キシリトールをXyl、マルトデキストリンをMds、還元マルトデキストリンをRmdで示した。また、前記各実施例についての多価アルコール縮合物含有インクの粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下の範囲内の値であった。また、前記各実施例についての導体パターン形成インクの粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】

【0134】
【表3】

【0135】
[5]セラミックス回路基板についての評価(導通信頼性)
前記各実施例および比較例で得られた内層評価用および表層評価用のセラミックス回路基板について、20本の導体パターン上に形成された端子部間にテスタをあて、それぞれ導通の有無を確認し、20本の導体パターンについて全て導通が確認されたものを、導通率が100%であったものとして良品とした。各セラミックス回路基板についての導通率を、導通のあった導体パターンの数(X本)を、形成した導体パターンの数(20本)で除したもの((X/20)×100[%])として求め、下記評価基準により焼結安定性を評価した。
【0136】
A:20個のセラミックス回路基板全てにおいて導通率が100%であった。
B:導通率が100%のセラミックス回路基板が15個以上あり、他のセラミックス回路基板も導通率が95%以上であった。
C:導通率が100%のセラミックス回路基板が10〜14個あり、他のセラミックス回路基板も導通率が95%以上であった。
D:導通率が100%のセラミックス回路基板が5〜9個あり、他のセラミックス回路基板も導通率が95%以上であった。
E:導通率が100%のセラミックス回路基板が1〜4個あり、他のセラミックス回路基板も導通率が95%以上であった。
F:20個のセラミックス回路基板全てにおいて導通率が95%以上100%未満であった。
G:20個のセラミックス回路基板全てにおいて導通率が95%未満であった。
【0137】
[6]導体パターンの線幅安定性
前記各実施例に係る多価アルコール縮合物含有インク、導体パターン形成用インクおよび仮成形体を用いて、以下のようにして、導体パターンの線幅安定性の評価を行った。
まず、多価アルコール縮合物含有インクを用いて、仮成形体上に、液滴吐出法により、描画後の設計値で線幅が90μm、長さが10.0cmのラインを45μm間隔をおいて5本描画し、多価アルコール縮合物含有部を形成し、セラミックスグリーンシートを得た。
【0138】
次に、導体パターン形成用インクを用いて、セラミックスグリーンシートの多価アルコール縮合物含有部に重なるように、液滴吐出法により、描画後の設計値で線幅が90μm、厚み20μm、長さが10.0cmのライン(導体パターン前駆体)を45μm間隔をおいて5本描画し、膜を形成し、各ラインの線幅(Yμm)をレーザー顕微鏡にて測長した。
その後、上記と同様の条件で、膜を形成したセラミックスグリーンシートを積層し、焼結前の積層体を得た。
上記積層体を液体窒素中に1分間浸漬して凍結した後、ラインと垂直方向にガラス切りにて破断し、SEM観察を行い、ショートの有無を確認すると共に、線幅(Zμm)を測長した。各ラインにおいて線幅の変形率を((Z−Y)/Y[%])として求め、下記評価基準により線幅安定性を評価した。
【0139】
比較例1については、多価アルコール縮合物含有インクを付与する工程を省略した以外は、前記と同様にして積層体を得、前記と同様にして評価を行った。
また、比較例2については、多価アルコール縮合物含有インクの代わりに、上述した多価アルコール縮合物を含まずグリセリンを含むインクを用いた以外は、前記と同様にして積層体を得、前記と同様にして評価を行った。
【0140】
A:最も潰れている配線の変形率が10%未満であった。
B:最も潰れている配線の変形率が20%未満であった。
C:最も潰れている配線の変形率が40%未満であった。
D:一部でも隣接間で接触(ショート)している。
これらの結果を表4に示した。
【0141】
【表4】

【0142】
表4から明らかなように、本発明では、セラミックス回路基板において、優れた導通率を示していた。また、導体パターンは、線幅の安定性が高く、信頼性が特に高いものであった。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0143】
10…導体パターン前駆体(前駆体) 13…多価アルコール縮合物含有部 14…仮成形体 15…セラミックスグリーンシート(セラミックス成形体) 16…導体ポスト(コンタクト前駆体) 17…積層体 19…多価アルコール縮合物不含部 20…導体パターン(回路) 30…セラミックス回路基板(配線基板) 31…セラミックス基板 32…積層基板 33…コンタクト 100…インクジェット装置(液滴吐出装置) 110…インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド、ヘッド) 111…ヘッド本体 112…振動板 113…ピエゾ素子 114…本体 115…ノズルプレート 115P…インク吐出面 116…リザーバー 117…インク室 118…ノズル(突出部) 130…ベース 140…テーブル 170…テーブル位置決め手段 171…第1移動手段 172…モーター 180…ヘッド位置決め手段 181…第2移動手段 182…リニアモーター 183、184、185…モーター 190…制御装置 191…駆動回路 200…多価アルコール縮合物含有組成物(多価アルコール縮合物含有インク) 300…導体パターン形成用インク S…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状の仮成形体を用意する仮成形体用意工程と、
前記仮成形体に、多価アルコールの縮合物を含む組成物を付与することにより、表面付近に前記多価アルコールの縮合物を含む領域が形成されたセラミックス成形体を得る多価アルコール縮合物付与工程と、
前記セラミックス成形体の前記多価アルコールの縮合物を含む領域に、金属粒子と前記金属粒子が分散する分散媒とを含む導体パターン形成用インクを液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体を形成する導体パターン前駆体形成工程と、
複数の前記セラミックス成形体を積層して積層体を得る積層工程と、
前記積層体を焼結して、導体パターンおよびセラミックス基板とを有する配線基板を得る焼成工程とを有することを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記多価アルコールの縮合物を含む組成物は、前記導体パターン形成用インクが付与される領域に選択的に付与されるものである請求項1に記載の配線基板の製造方法。
【請求項3】
前記多価アルコールの縮合物を含む組成物の付与は、液滴吐出法により行う請求項1または2に記載の配線基板の製造方法。
【請求項4】
前記多価アルコールの縮合物の重量平均分子量は、4000以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項5】
前記組成物は、前記多価アルコールの縮合物として、エチレングリコールおよび/またはグリセリンの縮合物を含むものである請求項1ないし4のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項6】
前記組成物は、前記多価アルコールの縮合物として、ポリエチレングリコールおよびポリグリセリンを含むものである請求項5に記載の配線基板の製造方法。
【請求項7】
前記組成物中におけるポリエチレングリコールの含有率をXPEG[wt%]、前記組成物中におけるポリグリセリンの含有率をXPG[wt%]としたとき、0.10≦XPEG/XPG≦0.70の関係を満足する請求項6に記載の配線基板の製造方法。
【請求項8】
前記セラミックス成形体は、前記バインダーとして、ポリビニルブチラールを含むものである請求項1ないし7のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックス成形体は、前記バインダーとして、アクリル系樹脂を含むものである請求項1ないし8のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項10】
前記導体パターン形成用インクは、ポリグリセリン化合物を含むものである請求項1ないし9のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項11】
前記導体パターン形成用インクは、前記分散媒として、水系分散媒を含むものである請求項1ないし10のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項12】
基材上に、パターニングにより導体パターンを形成するための導体パターン形成用インクセットであって、
金属粒子と前記金属粒子が分散する分散媒とを含む導体パターン形成用インクと、
多価アルコールの縮合物を含む多価アルコール縮合物含有インクとを備えることを特徴とする導体パターン形成用インクセット。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法を用いて製造されたこと特徴とする配線基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−175082(P2012−175082A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38878(P2011−38878)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】