説明

配線基板の製造方法および配線基板

【課題】クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を効率よく製造することのできる製造方法を提供すること。
【解決手段】セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体15を用意するセラミックス成形体用意工程と、前記セラミックス成形体15に、金属粒子と有機成分とを含む導体パターン形成用インク200を液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体10を形成する導体パターン前駆体形成工程と、前記セラミックス成形体15の前記導体パターン形成用インク200が付与された部位に、酸または塩基を含む組成物300を付与する酸塩基付与工程と、複数の前記セラミックス成形体15を積層して積層体17を得る積層工程と、前記積層体17を焼結して、導体パターン20およびセラミックス基板30とを有する配線基板32を得る焼成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板の製造方法および配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品が実装される回路基板(配線基板)として、セラミックスで構成された基板(セラミックス基板)上に、金属材料で構成された配線が形成されたセラミックス回路基板が、広く用いられている。このようなセラミックス回路基板では、基板(セラミックス基板)自体が、多機能性材料で構成されているため、多層化による内装部品の形成、寸法の安定性等の点で有利である。
【0003】
そして、このようなセラミックス回路基板は、セラミックス粒子とバインダーとを含む材料で構成されたセラミックス成形体上に、形成すべき配線(導体パターン)に対応するパターンで、金属粒子を含む組成物を付与し、その後、当該組成物が付与されたセラミックス成形体に対し、脱脂、焼結処理を施すことにより製造されている。
セラミックス成形体上へのパターン形成の方法としては、スクリーン印刷法が広く用いられている。その一方で、近年、配線の微細化(例えば、線幅:60μm以下の配線)、狭ピッチ化による回路基板の高密度化が求められているが、スクリーン印刷法では、配線の微細化、狭ピッチ化に不利であり、上記のような要求に応えるのが困難である。そこで、近年、セラミックス成形体上へのパターン形成の方法として、液体吐出ヘッドから金属粒子を含む液体材料(導体パターン形成用インク)を液滴状に吐出する液滴吐出法、いわゆるインクジェット法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、従来、インクジェット法を用いた方法では、導体パターンにクラックを生じ比抵抗が増大したり、断線や短絡を生じることがあり、形成される導電パターン(配線基板)の信頼性、歩留まりを十分に高いものとすることが困難であった。このような傾向は、形成すべき導体パターンの厚みの増大、配線密度の増大(配線の細線化)に伴って、顕著になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−084387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を提供すること、前記配線基板を効率よく製造することのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の配線基板の製造方法は、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体を用意するセラミックス成形体用意工程と、
前記セラミックス成形体に、金属粒子と有機成分とを含む導体パターン形成用インクを液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体を形成する導体パターン前駆体形成工程と、
少なくとも、前記セラミックス成形体の前記導体パターン形成用インクが付与された部位に、酸または塩基を含む組成物を付与する酸塩基付与工程と、
複数の前記セラミックス成形体を積層して積層体を得る積層工程と、
前記積層体を焼結して、導体パターンおよびセラミックス基板とを有する配線基板を得る焼成工程とを有することを特徴とする。
これにより、クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を効率よく製造することのできる配線基板の製造方法を提供することができる。
【0008】
本発明の配線基板の製造方法では、前記組成物は、前記導体パターン形成用インクが付与された領域に選択的に付与されるものであることが好ましい。
これにより、酸または塩基の使用量を抑制することができ、配線基板の生産コストを抑制することができる。
本発明の配線基板の製造方法では、前記組成物の付与は、液滴吐出法により行うことが好ましい。
これにより、酸または塩基を含む組成物を付与する際の、位置選択性をより優れたものとすることができ、微細な導体パターンの形成をより好適に行うことができる。
【0009】
本発明の配線基板の製造方法では、前記組成物は、水素イオン指数(pH)が2以上5以下のものであることが好ましい。
これにより、焼成工程において、導体パターン形成用インク中に含まれる有機成分をより確実に分解することができ、有機成分が不完全燃焼すること等による問題の発生をより確実に防止することができ、導体パターンの導電性を特に安定性の高いものとすることができ、配線基板の信頼性を特に優れたものとすることができる。また、酸塩基付与工程を液滴吐出法により行う場合においては、上記のような効果を得つつ、酸または塩基を含む組成物を吐出する液滴吐出ヘッドの腐食等の問題をより効果的に防止することができる。
【0010】
本発明の配線基板の製造方法では、前記導体パターン形成用インクは、重量平均分子量が1,000以上5,000以下である水溶性の多糖類と、ポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物とを、さらに含むものであることが好ましい。
これにより、導体パターン形成用インクの液滴の吐出安定性を特に優れたものとしつつ、形成される導体パターンの断線等をより効果的に防止することができ、製造される配線基板の信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0011】
本発明の配線基板の製造方法では、前記導体パターン形成用インクは、前記多糖類として、常温で固体のマルトデキストリンを含むものであることが好ましい。
これにより、液滴の吐出安定性、製造される配線基板の信頼性を特に優れたものとすることができる。
本発明の配線基板の製造方法では、前記導体パターン形成用インクは、前記多糖類として、カルボニル基が還元された多糖類を含むものであることが好ましい。
これにより、液滴の吐出安定性、製造される配線基板の信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0012】
本発明の配線基板の製造方法では、前記セラミックス成形体は、前記バインダーとして、ポリビニルブチラールを含むものであることが好ましい。
これにより、製造される配線基板の信頼性を特に優れたものとすることができる。
本発明の配線基板は、本発明の方法を用いて製造されたこと特徴とする。
これにより、クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法の好適な実施形態を示す断面図である。
【図2】インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
【図3】インクジェットヘッドの概略構成を説明するための模式図である。示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《配線基板の製造方法》
まず、本発明の配線基板の製造方法について説明する。
図1は、本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法の好適な実施形態を示す断面図、図2は、インクジェット装置(液滴吐出装置)の概略構成を示す斜視図、図3は、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)の概略構成を説明するための模式図である。
【0015】
本実施形態の配線基板の製造方法は、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体15を複数用意する工程(セラミックス成形体用意工程)と、セラミックス成形体15のうち少なくとも1つの表面上に、金属粒子と有機成分とを含む導体パターン形成用インク200を液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体10を形成する工程(導体パターン前駆体形成工程)と、少なくとも、セラミックス成形体15の導体パターン形成用インク200が付与された部位に、酸または塩基を含む組成物を付与する工程(酸塩基付与工程)と、複数のセラミックス成形体15を積層して積層体17を得る工程(積層工程)と、積層体17を加熱して、導体パターン20およびセラミックス基板31とを有する配線基板30を得る工程(焼成工程)とを有している。
【0016】
(セラミックス成形体用意工程)
本工程では、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体(セラミックスグリーンシート)15を複数用意する。
<セラミックス成形体>
また、セラミックス成形体15は、後述するように焼結処理されることにより、セラミックス基板31となるものである。
【0017】
複数種の粉末を含むセラミックス成形体(グリーンシート)15を得る場合、バインダー等との混合に先立ち、当該複数種の粉末を予め混合するのが好ましい。
平均粒径が0.1μm以上10μm以下のセラミックス粉末(セラミックス材料)と、平均粒径が0.1μm以上10μm以下のガラス粉末とを用意し、これらを適宜な混合比、例えば1:1の重量比で混合することができる。
【0018】
このようなセラミックス材料としては、Al、SiO、MgO、MgO・SiO、2MgO・SiOやTiO,BaTiO,BaSr1−xTiO,SrTiO,CaTiO,PbZrTi1−x,Pb1−xLaZrTi1−x,SrBiTaO等のペロブスカイト構造を持つ複合酸化物やその他の強誘電体材料、あるいは、MgTiO,Ba(Mg1/3Ta2/3)O,Ba(Zn1/3Ta2/3)O,Ba(Ni1/3Ta2/3),Ba(Co1/3Ta2/3),BaNdTi12,BaTi20,LaAlO,PrAlO,SmAlO,YAlO,GdAlO,DyAlO,ErAlO,Sr(Zn1/3Ta2/3)O,Sr(Ni1/3Ta2/3)O,Sr(Co1/3Ta2/3)O,Sr(Mg1/3Ta2/3)O,Sr(Ca1/3Ta2/3)O,BaTi20,Ba(Co1/3Nb2/3)Oなどを主成分とする材料が利用可能であるが、一般的なセラミックス材料であれば、使用可能である。
【0019】
また、ガラス成分としては、結晶化ガラスでも非晶質ガラスでも一般的なガラスであれば使用可能である。例えば、SiO,Al,RO(Rは、Mg,Ca,Sr,Ba)を含むものが挙げられ、具体的には、SiO−BaO系、SiO−Al−BaO系、SiO−Al−BaO−B系、SiO−Al−BaO−ZnO−B系のガラスやBi系のガラスおよびそれらを主成分とするガラスなどが利用可能である。
上記のような原料粉末をバインダー(結合剤)等と混合・撹拌することにより、スラリーを得る。
【0020】
バインダーとしては、ポリビニルブチラールを好適に用いることができる。ポリビニルブチラールは水に不溶であり、かつ、いわゆる油系の有機溶媒に溶解しあるいは膨潤し易いものである。また、バインダーとしてポリビニルブチラールを用いることにより、最終的に得られる配線基板30(形成される導体パターン20)の信頼性をより高いものとすることができる。
【0021】
また、バインダーとしては、アクリル系樹脂(アクリル酸、メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等)を好適に用いることができる。アクリル系樹脂は水に不溶であり、かつ、いわゆる油系の有機溶媒に溶解しあるいは膨潤し易いものである。また、バインダーとしてアクリル系樹脂を用いることにより、最終的に得られる配線基板30(形成される導体パターン20)の信頼性をより高いものとすることができる。その他、従来からセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えば、ポリビニルアルコール系、アクリル−スチレン系、ポリプロピレンカーボネート系、セルロース系等の単独重合体または共重合体等を用いることができる。
【0022】
スラリーの調製においては、可塑剤、有機溶剤(原料粉末を分散する分散媒として機能するもの)、分散剤等を用いてもよい。
上記のようなスラリーを、シート状に成形することによりセラミックス成形体(グリーンシート)15が得られる。
セラミックス成形体15は、例えば、ドクターブレード、リバースコーター等を用いてPETフィルム上にスラリーをシート状に成形することにより好適に得ることができる。
セラミックス成形体15の厚さは、数μm以上数百μm以下であるのが好ましい。
【0023】
上記のようにしてシート状に成形されたセラミックス成形体15は、通常、ロールに巻き取られ、製品の用途に合わせて切断、さらに所定寸法のシートに裁断され用いられる。本実施形態では、例えば1辺の長さを200mmとする正方形状に裁断する。
また、必要に応じて所定の位置に、COレーザー、YAGレーザー、機械式パンチ等によって孔開けを行うことでスルーホール(貫通孔)を形成する。
【0024】
そして、このスルーホールに、金属粒子が分散した厚膜導電ペーストを充填することにより、コンタクト33となるべき部位(導体ポスト16)を形成する。なお、厚膜導電ペーストとしては、後述するような導体パターン形成用インクを用いることができる。また、厚膜導電ペーストの充填は、本工程で行うものであってもよいし、後述する導体パターン前駆体形成工程で行うものであってもよく、また、導体パターン前駆体形成工程の後に行うものであってもよい。
【0025】
(導体パターン前駆体形成工程)
上記のようにして得られたセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)15の少なくとも一方の側の表面に、後に詳述するような導体パターン形成用インク200(以下単に「インク200」ともいう)を液滴吐出(インクジェット)法により付与し、前記回路20となる導体パターン前駆体10を形成する。これにより、前駆体10を備えたセラミックス成形体15が得られる。
そして、導体パターン前駆体10は、焼結されることにより金属粒子同士が融着して、後述する導体パターン20を形成するものである。
【0026】
以下、本工程で用いる導体パターン形成用インク200について詳細に説明する。
<導体パターン形成用インク>
導体パターン形成用インク200は、液滴吐出法によって導体パターン前駆体10を形成するのに用いるインクである。
なお、本実施形態では、導体パターン形成用インク200として、金属粒子としての銀粒子が水系分散媒に分散した分散液を用いた場合について代表的に説明する。
【0027】
以下、導体パターン形成用インク200の各構成成分について詳細に説明する。
〔水系分散媒〕
本実施形態では、導体パターン形成用インク200として、水系分散媒を含むものを用いる。このように、導体パターン形成用インク200が分散媒として水系分散媒を含むものであることにより、より好適に、セラミックス成形体15上に吐出された導体パターン形成用インク200から当該分散媒をセラミックス成形体15中に吸収させることができ、セラミックス成形体15上に、金属粒子が濃縮された層(導体パターン前駆体10)をより好適に形成することができる。その結果、形成される導体パターン20の信頼性をより高いものとすることができる。
【0028】
なお、本発明において、「水系分散媒」とは、水および/または水との相溶性に優れる液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体)で構成されたもののことを指す。このように、水系分散媒は、水および/または水との相溶性に優れる液体で構成されたものであるが、主として水で構成されたものであるのが好ましく、特に、水の含有率が70wt%以上のものであるのが好ましく、90wt%以上のものであるのがより好ましい。これにより、上述した効果がより顕著に発揮される。
【0029】
水系分散媒の具体例としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ピリジン、ピラジン、ピロール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、水が特に好ましい。
また、導体パターン形成用インク200中における水系分散媒の含有量は、20wt%以上80wt%以下であることが好ましく、25wt%以上70wt%以下であることがより好ましい。これにより、インク200の粘度を好適なものとしつつ、分散媒の揮発による粘度の変化を少ないものとすることができる。
【0030】
〔銀粒子〕
次に、銀粒子(金属粒子)について説明する。
銀粒子は、形成される導体パターン20の主成分であり、導体パターン20に導電性を付与する成分である。
また、銀粒子は、インク中において分散している。
【0031】
銀粒子の平均粒径は、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、10nm以上30nm以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性をより高いものとすることができるとともに、微細な導体パターンを容易に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
【0032】
また、インク200中において、銀粒子の平均粒子間距離は、1.7nm以上380nm以下であるのが好ましく、1.75nm以上300nm以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インク200の粘度をより適度なものとすることができ、吐出安定性に特に優れたものとなる。
また、インク200中に含まれる銀粒子(分散剤が表面に吸着していない銀粒子(金属粒子))の含有量は、0.5wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上45wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン20の断線をより効果的に防止することができ、より信頼性の高い導体パターン20を提供することができる。
【0033】
また、銀粒子(金属粒子)は、その表面に分散剤が付着した銀コロイド粒子(金属コロイド粒子)として、水系分散媒中に分散していることが好ましい。これにより、銀粒子の水系分散媒への分散性が特に優れたものとなり、インク200の吐出安定性が特に優れたものとなる。
インク200中における銀コロイド粒子の含有量は、1wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上50wt%以下であるのがより好ましい。銀コロイド粒子の含有量が前記下限値未満であると、銀の含有量が少なく、導体パターン20を形成した際、比較的厚い膜を形成する場合に、複数回重ね塗りする必要が生じる。一方、銀コロイド粒子の含有量が前記上限値を超えると、銀の含有量が多くなり、分散性が低下し、これを防ぐためには攪拌の頻度が高くなる。
【0034】
また、銀コロイド粒子の熱重量分析における500℃までの加熱減量は、1wt%以上25wt%以下が好ましい。コロイド粒子(固形分)を500℃まで加熱すると、表面に付着した分散剤、後述する還元剤(残留還元剤)等が酸化分解され、大部分のものはガス化されて消失する。残留還元剤の量は、僅かであると考えられるので、500℃までの加熱による減量は、銀コロイド粒子中の分散剤の量にほぼ相当すると考えられる。加熱減量が1wt%未満であると、銀粒子に対する分散剤の量が少なく、銀粒子の充分な分散性が低下する。一方、25wt%を超えると、銀粒子に対する残留分散剤の量が多くなり、導体パターンの比抵抗が高くなる。但し、比抵抗は、導体パターン20の形成後に加熱焼結して有機分を分解消失させることである程度改善することができる。そのため、より高温で焼結されるセラミックス基板等に有効である。
【0035】
導体パターン形成用インク200は、上述した銀粒子(金属粒子)とともに、有機成分を含むものである。このような有機成分を含むことにより、例えば、後に詳述する導体パターン前駆体10における銀粒子の凝集を防止したり、導体パターン前駆体10を構成する金属粒子の不本意な部位への流れ出しを確実に防止したり、導体パターン形成用インク200中の水系分散媒の不本意な揮発を防止したり、導体パターン形成用インク200の液滴の吐出安定性を優れたものとしたりすることができる。このような有機成分としては、以下に詳述するようなものが挙げられるが、従来においては、インクジェット法を用いた配線基板の製造方法では、導体パターンにクラックを生じ比抵抗が増大したり、断線や短絡を生じることがあり、形成される導電パターン(配線基板)の信頼性、歩留まりを十分に高いものとすることが困難であるという問題があり、本発明者は、鋭意研究の結果、このような問題は、当該有機成分が、配線基板の製造過程において、速やかにかつ確実に除去することが困難であることによるものであることを見出し、本発明に至った。
【0036】
以下、導体パターン形成用インク200を構成する有機成分について詳細に説明する。
〔多糖類〕
本発明に係る導体パターン形成用インクは、重量平均分子量が1,000以上5,000以下である水溶性の多糖類を含むものであるのが好ましい。このような多糖類を、後に詳述するようなポリグリセリン化合物とともに含むことにより、導体パターン形成用インクの液滴の吐出安定性を特に優れたものとしつつ、形成される導体パターンの断線等をより効果的に防止することができ、製造される配線基板の信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0037】
導体パターン形成用インクは、常温(25℃)で固体の多糖類を含むのが好ましい。これにより、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
多糖類の重量平均分子量は、1,000以上5,000以下であるが、1,200以上4,500以下であるであるのが好ましく、1,500以上4,000以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0038】
多糖類としては、例えば、セルロース、グアーガム、デンプン(アミロース、アミロペクチン)、プルラン、デキストリン、フルクタン、グルコマンナン、アガロース、アガロペクチン、カラギーナン、キチン、キトサン、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、マルトデキストリン、またはこれらの誘導体(例えば、カルボニル基が還元された多糖類等)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
導体パターン形成用インクは、上記の中でも、常温(25℃)で固体のマルトデキストリンを含むのが好ましい。これにより、液滴の吐出安定性、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
また、導体パターン形成用インクは、多糖類として、カルボニル基が還元された多糖類を含むのが好ましい。これにより、液滴の吐出安定性、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0040】
導体パターン形成用インク中における多糖類の含有率X(B)は、1.0重量%以上28重量%以下であるのが好ましく、1.1重量%以上14重量%以下であるのがより好ましく、2.2重量%以上10.5重量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの吐出安定性を特に優れたものとしつつ、クラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。
【0041】
〔ポリグリセリン化合物〕
導体パターン形成用インクは、ポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物を含むものであるのが好ましい。このようなポリグリセリン化合物を、前述したような多糖類とともに含むことにより、導体パターン形成用インクの液滴の吐出安定性を特に優れたものとしつつ、形成される導体パターンの断線等をより効果的に防止することができ、製造される配線基板の信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0042】
ポリグリセリン化合物は、ポリグリセリン骨格(複数個のグリセリン分子が縮合した構造)を有するものであればいかなるものであってもよいが、ポリグリセリン化合物としては、例えば、ポリグリセリンのほか、ポリグリセリンのモノステアレート、トリステアレート、テトラステアレート、モノオレエート、ペンタオレエート、モノラウレート、モノカプリレート、ポリシノレート、セスキステアレート、デカオレエート、セスキオレエート等のポリグリセリンエステル等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ポリグリセリン化合物としては、ポリグリセリンが好ましい。ポリグリセリンは、導体パターン形成用インクが付与されるセラミックス成形体の温度変化による膨張・収縮への追従性が特に優れるとともに、セラミックス成形体の焼結後には、導体パターン中からより確実に除去することができる成分である。その結果、導体パターンの電気的特性をより高いものとすることができる。さらに、ポリグリセリンは、水系分散媒への溶解度も高いので、好適に用いることができる。
【0043】
ポリグリセリン化合物の重量平均分子量は、300以上3000以下であるのが好ましく、400以上1000以下であるのがより好ましく、400以上600以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インクを用いて形成されたパターンを乾燥した際に、クラックの発生をより確実に防止することができる。これに対し、ポリグリセリン化合物の重量平均分子量が前記下限値未満であると、ポリグリセリン化合物の組成によっては、水系分散媒を除去する際にポリグリセリン化合物が分解しやすい傾向があり、クラックの発生を防止する効果が小さくなる。また、ポリグリセリン化合物の重量平均分子量が前記上限値を超えると、ポリグリセリン化合物の組成によっては、排除体積効果等により導体パターン形成用インク中への溶解性、分散性が低下する場合がある。
【0044】
導体パターン形成用インク中におけるポリグリセリン化合物の含有率X(A)は、1.0重量%以上28重量%以下である。これにより、導体パターン形成用インクの吐出安定性を特に優れたものとしつつ、クラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。これに対して、ポリグリセリン化合物の含有量が前記下限値未満であると、クラックの発生を確実に防止することが困難になる。一方、ポリグリセリン化合物の含有量が前記上限値を超えると、導体パターン形成用インクの粘度を十分に低いものとすることが困難となり、液滴の吐出安定性を十分に優れたものとすることが困難となる。
【0045】
上記のように、導体パターン形成用インク中におけるポリグリセリン化合物の含有率X(A)は、1.0重量%以上28重量%以下であるが、1.1重量%以上14重量%以下であるのが好ましく、2.0重量%以上9.3重量%以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。なお、導体パターン形成用インクがポリグリセリン化合物として2種以上の成分を含む場合には、これらの成分の含有率の和が上記範囲内の値であるのが好ましい。
【0046】
導体パターン形成用インク中におけるポリグリセリン化合物の含有率をX(A)[重量%]、導体パターン形成用インク中における多糖類の含有率をX(B)[重量%]としたとき、X(A)+X(B)≦28の関係を満足するのが好ましく、X(A)+X(B)≦20の関係を満足するのがより好ましく、X(A)+X(B)≦15の関係を満足するのがさらに好ましい。これにより、液滴の吐出安定性を特に優れたものとしつつ、形成される導体パターンの信頼性を十分に高いものとすることができる。また、過剰な有機物の存在によりプレス工程での配線の変形を抑制することができる。
【0047】
導体パターン形成用インク中におけるポリグリセリン化合物の含有率をX(A)[重量%]、導体パターン形成用インク中における多糖類の含有率をX(B)[重量%]としたとき、7.5≦X(A)+4X(B)の関係を満足するのが好ましく、12≦X(A)+4X(B)の関係を満足するのがより好ましい。これにより、液滴の吐出安定性を十分に優れたものとしつつ、形成される導体パターンの寸法精度、信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0048】
導体パターン形成用インク中におけるポリグリセリン化合物の含有率をX(A)[重量%]、導体パターン形成用インク中における多糖類の含有率をX(B)[重量%]としたとき、0.12≦X(A)/X(B)≦12の関係を満足するのが好ましく、0・20≦X(A)/X(B)≦6の関係を満足するのがより好ましい。これにより、液滴の吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、内層および表層での断線の発生をより効果的に抑制することができる。
【0049】
〔分散剤〕
導体パターン形成用インクは、分散剤を含むことが好ましい。
分散剤は、銀粒子に付着することにより、銀コロイド粒子を形成する。このような銀コロイド粒子は、分散安定性に優れるため、導体パターン形成用インクの液滴の吐出安定性は、より優れたものとなる。
【0050】
分散剤としては、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むことが好ましい。これらの分散剤は、銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(導体パターン前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とOH基の数が3個未満であったり、COOH基の数がOH基の数よりも少ないと、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
このような分散剤としては、例えば、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
また、分散剤は、COOH基とSH基とを合わせて2個以上有するメルカプト酸またはその塩を含んでいてもよい。これらの分散剤は、メルカプト基が銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によってコロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(導体パターン前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とSH基の数が2個未満すなわち片方のみであると、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
【0052】
このような分散剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
〔その他の成分〕
なお、導体パターン形成用インクの構成成分は、上記成分に限定されず、上記以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、導体パターン形成用インクは、ポリエチレングリコール#200(重量平均分子量200)、ポリエチレングリコール#300(重量平均分子量300)、ポリエチレングリコール#400(平均分子量400)、ポリエチレングリコール#600(重量平均分子量600)、ポリエチレングリコール#1000(重量平均分子量1000)、ポリエチレングリコール#1500(重量平均分子量1500)、ポリエチレングリコール#1540(重量平均分子量1540)、ポリエチレングリコール#2000(重量平均分子量2000)等のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール#200(重量平均分子量:200)、ポリビニルアルコール#300(重量平均分子量:300)、ポリビニルアルコール#400(平均分子量:400)、ポリビニルアルコール#600(重量平均分子量:600)、ポリビニルアルコール#1000(重量平均分子量:1000)、ポリビニルアルコール#1500(重量平均分子量:1500)、ポリビニルアルコール#1540(重量平均分子量:1540)、ポリビニルアルコール#2000(重量平均分子量:2000)等のポリビニルアルコール等の有機バインダーを含むものであってもよい。
【0054】
また、アセチレングリコール系化合物等の表面張力調整剤、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール、尿素、チオ尿素等を含むものであってもよい。
また、導体パターン形成用インク200の粘度は、特に限定されないが、2.0mPa・s以上12.0mPa・s以下であることが好ましく、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、液滴の吐出安定性を優れたものとすることができるとともに、セラミックス成形体15に着弾したインク200の不本意な濡れ広がりをより確実に防止することができ、微細な線幅の導体パターン前駆体10を形成することができる。
【0055】
本実施形態において、上述したような導体パターン形成用インク200の吐出は、例えば図2および図3に示すインクジェット装置(液滴吐出装置)100を用いることにより行うことができる。以下に、インクジェット装置100およびインクジェット装置100を用いた液滴吐出について説明する。
図2は、インクジェット装置100の斜視図である。図2において、X方向はベース130の左右方向であり、Y方向は前後方向であり、Z方向は上下方向である。
【0056】
インクジェット装置100は、図3に示すインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド。以下、単に「ヘッド」という)110と、ベース130と、テーブル140と、制御装置190と、テーブル位置決め手段170と、ヘッド位置決め手段180とを有している。
ベース130は、テーブル140、テーブル位置決め手段170、およびヘッド位置決め手段180等の液滴吐出装置100の各構成部材を支持する台である。
【0057】
テーブル140は、テーブル位置決め手段170を介してベース130に設置されている。また、テーブル140は、基材S(本実施形態ではセラミックスグリーンシート15)を載置するものである。
また、テーブル140の裏面には、ラバーヒーター(図示せず)が配設されている。テーブル140上に載置されたセラミックスグリーンシート15は、その上面全体がラバーヒーターにて所定の温度に加熱されるようになっている。
【0058】
セラミックスグリーンシート15に着弾したインク200は、上述したように、その構成成分である水系分散媒の少なくとも一部がセラミックス成形体15に吸収されるとともに、その表面側から水系分散媒の少なくとも一部が蒸発する。このとき、セラミックスグリーンシート15は加熱されているので、水系分散媒の蒸発が促進され、金属粒子が濃縮された層(導体パターン前駆体10)中の水系分散媒の含有率は効果的に低減される。
【0059】
セラミックスグリーンシート15の加熱温度としては、例えば、40℃以上100℃以下で行うのが好ましく、50℃以上70℃以下で行うのがより好ましい。このような条件とすることにより、水系分散媒が蒸発した際に、クラックが発生するのをより効果的に防止することができる。
テーブル位置決め手段170は、第1移動手段171と、モーター172とを有している。テーブル位置決め手段170は、ベース130におけるテーブル140の位置を決定し、これにより、ベース130におけるセラミックスグリーンシート15の位置を決定する。
【0060】
第1移動手段171は、Y方向と略平行に設けられた2本のレールと、当該レール上を移動する支持台とを有している。第1移動手段171の支持台は、モーター172を介してテーブル140を支持している。そして、支持台がレール上を移動することにより、基材Sを載置するテーブル140は、Y方向に移動および位置決めされる。
モーター172は、テーブル140を支持しており、θz方向にテーブル140を揺動および位置決めする。
【0061】
ヘッド位置決め手段180は、第2移動手段181と、リニアモーター182と、モーター183、184、185とを有している。ヘッド位置決め手段180は、ヘッド110の位置を決定する。
第2移動手段181は、ベース130から立設する2本の支持柱と、当該支持柱同士の間に当該支持柱に支持されて設けられ、2本のレールを有するレール台と、レールに沿って移動可能でヘッド110を支持する支持部材(図示せず)とを有している。そして、支持部材がレールに沿って移動することにより、ヘッド110は、X方向に移動および位置決めされる。
【0062】
リニアモーター182は、支持部材付近に設けられており、ヘッド110のZ方向の移動および位置決めをすることができる。
モーター183、184、185は、ヘッド110を、それぞれα,β,γ方向に揺動および位置決めする。
以上のようなテーブル位置決め手段170およびヘッド位置決め手段180とにより、インクジェット装置100は、ヘッド110のインク吐出面115Pと、テーブル140上の基材Sとの相対的な位置および姿勢を、正確にコントロールできるようになっている。
【0063】
図3に示すように、ヘッド110は、インクジェット方式(液滴吐出方式)によってインク200をノズル(突出部)118から吐出するものである。本実施形態では、ヘッド110は、圧電体素子としてのピエゾ素子113を用いてインクを吐出させるピエゾ方式を用いている。ピエゾ方式は、インク200に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えないなどの利点を有する。
【0064】
ヘッド110は、ヘッド本体111と、振動板112と、ピエゾ素子113とを有している。
ヘッド本体111は、本体114と、その下端面にノズルプレート115とを有している。そして、本体114を板状のノズルプレート115と振動板112とが挟み込むことにより、空間としてのリザーバー116およびリザーバー116から分岐した複数のインク室117が形成されている。
【0065】
リザーバー116には、図示せぬインクタンクよりインク200が供給される。リザーバー116は、各インク室117にインク200を供給するための流路を形成している。
また、ノズルプレート115は、本体114の下端面に装着されており、インク吐出面115Pを構成している。このノズルプレート115には、インク200を吐出する複数のノズル118が、各インク室117に対応して開口されている。そして、各インク室117から対応するノズル118に向かって、インク流路が形成されている。
【0066】
振動板112は、ヘッド本体111の上端面に装着されており、各インク室117の壁面を構成している。振動板112は、ピエゾ素子113の振動に応じて振動可能となっている。
ピエゾ素子113は、その振動板112のヘッド本体111と反対側に、各インク室117に対応して設けられている。ピエゾ素子113は、水晶等の圧電材料を一対の電極(不図示)で挟持したものである。その一対の電極は、駆動回路191に接続されている。
【0067】
そして、駆動回路191からピエゾ素子113に電気信号を入力すると、ピエゾ素子113が膨張変形または収縮変形する。ピエゾ素子113が収縮変形すると、インク室117の圧力が低下して、リザーバー116からインク室117にインク200が流入する。また、ピエゾ素子113が膨張変形すると、インク室117の圧力が増加して、ノズル118からインク200が吐出される。なお、印加電圧を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形量を制御することができる。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形速度を制御することができる。すなわち、ピエゾ素子113への印加電圧を制御することにより、インク200の吐出条件を制御し得るようになっている。
【0068】
制御装置190は、インクジェット装置100の各部位を制御する。例えば、駆動回路191で生成する印加電圧の波形を調節してインク200の吐出条件を制御したり、ヘッド位置決め手段180およびテーブル位置決め手段170を制御することにより基材Sへのインク200の吐出位置を制御する。
以上のようなインクジェット装置100を用いることにより、インク200を、セラミックスグリーンシート15(基材S)上の所望する場所に所望の量、精度良く吐出することができる。さらに、上述したようなセラミックス成形体(セラミックスグリーンシート)15、および、導体パターン形成用インク(インク)200を用いているため、セラミックスグリーンシート15上に吐出されたインク200に含まれる金属粒子についての、着弾位置から不本意な移動を効果的に防止することができ、所望の形状の導体パターン前駆体10を確実に形成することができる。
【0069】
なお、形成した導体パターン前駆体10について、さらに乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、上記の液滴吐出時におけるセラミックスグリーンシート15の加熱温度と同様の条件で行うことができる。
導体パターン前駆体10の厚さの調整は、インク200の吐出条件を設定することにより行うことができる。すなわち、導体パターン前駆体10の厚さが大きい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりのインク200の吐出量(または液滴数)を大きいものとし、一方で、導体パターン前駆体10の厚さが小さい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりのインク200の吐出量(または液滴数)を小さいものとすることで行うことができる。
【0070】
また、分散媒を蒸発させた後のインク200に乾燥抑制剤が含まれる場合、形成された前駆体10が完全に乾燥しない状態でもパターンが流失してしまうおそれがない。従って、一旦、インク200を付与して乾燥してから長時間放置し、その後、再度インク200を付与することが可能になる。
また、上述したような有機バインダーをインク200が含む場合、有機バインダー(特に、ポリグリセリン化合物)は、化学的、物理的に安定な化合物であるので、インク200を付与して乾燥してから長時間放置してもインク200が変質するおそれがなく、再度インク200を付与することが可能になり、より均質なパターンを形成できる。これにより、前駆体10自体が多層構造になるおそれがなく、この結果、層間同士の間の比抵抗が上昇して導体パターン20全体の比抵抗が増大するおそれがない。
上記の工程を経ることによって、本実施形態の導体パターン20は、従来のインクによって形成された導体パターンに比べて厚く形成することができる。より具体的には5.5μm以上の厚みのものを形成することができる。
【0071】
(酸塩基付与工程)
その後、導体パターン形成用インク200が付与されたセラミックス成形体15に、酸または塩基を含む組成物(酸塩基含有組成物)を付与する。
本工程では、少なくとも、セラミックス成形体15の導体パターン形成用インク200が付与された部位に酸塩基含有組成物を付与すればよい。
【0072】
導体パターン前駆体10が設けられたセラミックス成形体15に付与される酸塩基含有組成物は、液状、固形状、気体状のいずれであってもよく、例えば、所定の形状に成形されたものであってもよいが、液状のものであるのが好ましい。これにより、酸塩基含有組成物の保管が容易であるとともに、形成すべきセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)15に対応して、酸塩基含有組成物の付与パターンを容易に調整することができる。また、酸塩基含有組成物が液状のものである場合、その粘度は、特に限定されないが、2.0mPa・s以上12.0mPa・s以下であることが好ましく、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、酸塩基含有組成物を、後述するような液滴吐出に好適に供することができる。
【0073】
以下の説明では、酸塩基含有組成物が、液状の組成物(酸塩基含有インク300)である場合について代表的に説明する。
このように、酸または塩基を含む酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク300)を付与することにより、セラミックス成形体15に付与された導体パターン形成用インク200と、酸塩基含有インク300に含まれる酸または塩基とが接触することとなる。これにより、導体パターン形成用インク200中に含まれる有機成分が、その後の焼成工程において、分解しやすいものとなり、前記有機成分が不完全燃焼し、分子内脱水等の反応により炭化して難燃性のカーボンが形成されてしまうことを確実に防止することができる。その結果、焼成工程における導体パターン前駆体10の発泡等を防止し、最終的に形成される導体パターン20を確実に所望の形状を有するものとして形成することができるとともに、導体パターン20中にカーボンが残存することを確実に防止することができ、導体パターン20の導電性を安定したものとすることができる。その結果、最終的に製造される配線基板30の信頼性を十分に優れたものとすることができる。
【0074】
なお、上記のような優れた効果は、導体パターン形成用インクが付与されたセラミックス成形体に、酸塩基含有組成物を付与することにより得られるものであって、例えば、単に、導体パターン形成用インクに酸または塩基を含有させたような場合には得られない。すなわち、導体パターン形成用インクに酸または塩基を含有させたような場合には、導体パターン形成用インクの保存時等において、有機成分が変性・劣化してしまい、当該有機成分が本来有している機能を十分に発揮させることが困難となる。また、導体パターン形成用インクの液滴の吐出安定性が低下する等の問題も発生する。
【0075】
<酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)>
〔酸または塩基〕
本発明において、酸または塩基としては、塩化水素、硝酸、硫酸、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アジピン酸、サリチル酸、没食子酸、フタル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基、アニリン、トリメチルアミン、トルエチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノプロパノール、エチレンジアミン、ヒスチジン、リシン、アルギニン、ポリエチレンイミン、ポリアミノピリジン等の有機塩基等を用いることができる。中でも、分子量が150以下の酸・塩基であるのが好ましく、分子量が110以下の酸・塩基であるのがより好ましい。また、酸としては、塩化水素および/または酢酸がさらに好ましく、塩基としては、アンモニア、トリメチルアミン、トルエチルアミンおよびジエチルアミンよりなる群から選択される1種または2種以上であるのがより好ましい。これにより、配線基板の製造過程において上述したような酸・塩基の機能をより効果的に発揮させつつ、最終的に得られる配線基板中に酸または塩基が残存することを確実に防止することができる。
【0076】
〔その他の成分〕
酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)300は、酸または塩基以外の成分を含んでいてもよい。
このような成分としては、例えば、水、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、グリコールアセテート類、pH調整剤、浸透剤、界面活性剤、保湿剤等が挙げられる。
このような成分(以下「その他の成分」という)を含む場合、酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)中に占めるその他の成分の含有率は、0.25wt%以上95wt%以下であるのが好ましい。
【0077】
酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)300は、導体パターン前駆体10が設けられたセラミックス成形体15の全面に付与されるものであってもよいし、導体パターン前駆体10が設けられたセラミックス成形体15の表面の一部に付与されるものであってもよいが、導体パターン形成用インク200が付与された領域に選択的に付与されるものであるのが好ましい。これにより、酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)300の使用量を抑制することができ、配線基板30の生産コストを抑制することができる。
【0078】
酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)300は、いかなる方法で付与するものであってもよいが、液滴吐出法により付与するのが好ましい。これにより、酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)300を付与する際の、位置選択性をより優れたものとすることができ、微細な導体パターン20の形成をより好適に行うことができる。
酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)300を液滴吐出法により付与する場合、本工程は、前記導体パターン前駆体形成工程で説明したのと同様のインクジェット装置を用いて同様の条件で行うことができる。
【0079】
上記のように、本発明では、導体パターンの形成(配線基板の製造)に、上述したような酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)と、導体パターン形成用インクとを備えた導体パターン形成用インクセットを用いることにより、酸・塩基の使用量を抑制し、配線基板の生産コストを抑制しつつ、クラック、断線、短絡等の発生が防止された、信頼性の高い導体パターンを備えた信頼性の高い配線基板を提供することができる。
【0080】
上記の工程を経ることによって、本実施形態の導体パターン20は、従来のインクによって形成された導体パターンに比べて厚く形成することができる。より具体的には5μm以上の厚みのものを形成することができる。
酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)300のpH(水素イオン指数)は、1.5以上5以下、または、9以上12以下であるのが好ましく、2.2以上4.8以下、または、9.2以上11.8以下であるのがより好ましい。これにより、後の焼成工程において、導体パターン形成用インク200中に含まれる有機成分をより確実に分解することができ、有機成分が不完全燃焼すること等による問題の発生をより確実に防止することができ、導体パターン20の導電性を特に安定性の高いものとすることができ、配線基板30の信頼性を特に優れたものとすることができる。また、本実施形態のように、本工程を液滴吐出法により行う場合においては、上記のような効果を得つつ、酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク)300を吐出する液滴吐出ヘッド110の腐食等の問題をより効果的に防止することができる。
【0081】
(積層工程)
次いで、これらセラミックスグリーンシート15からPETフィルムを剥がし、これらを積層することにより、積層体17を得る。
この際に、積層するセラミックスグリーンシート15については、上下に重ねられるセラミックスグリーンシート15間で、それぞれの前駆体10が必要に応じて導体ポスト16を介して接続するように配置する。
その後、セラミックスグリーンシート15を構成するバインダーのガラス転移点以上に加熱しつつ、各セラミックスグリーンシート15同士を圧着する。これにより、積層体17を得る。
【0082】
(焼成工程)
このようにして積層体17を形成したら、例えば、ベルト炉などによって加熱処理(焼成処理)する。これにより、各セラミックスグリーンシート15は焼結されることで、セラミックス基板31となり、また、前駆体10は、これを構成する銀粒子(金属粒子)が焼結して配線パターンや電極パターンからなる回路(導体パターン)20となる。そして、このように積層体17が加熱処理されることで、この積層体17は積層基板32となる。
【0083】
特に、本工程に供されるセラミックスグリーンシート15は、酸または塩基を含むものであるため、本工程での加熱処理において、有機成分が不完全燃焼し、難燃性のカーボンを形成する等の問題の発生が確実に防止される。
ここで、積層体17の加熱温度(焼成温度)としては、セラミックスグリーンシート15中に含まれるガラスの軟化点以上とするのが好ましく、具体的には、600℃以上900℃以下とするのが好ましい。また、加熱条件としては、適宜な速度で温度を上昇させ、かつ下降させるようにし、さらに、最大加熱温度、すなわち前記の600℃以上900℃以下の温度では、その温度に応じて適宜な時間保持するようにする。
【0084】
このようにガラスの軟化点以上の温度、すなわち前記温度範囲にまで加熱温度を上げることにより、得られるセラミックス基板31のガラス成分を軟化させることができる。したがって、その後常温にまで冷却し、ガラス成分を硬化させることにより、積層基板32を構成する各セラミックス基板31と回路(導体パターン)20との間がより強固に固着するようになる。
【0085】
特に、900℃以下の温度で加熱することにより、得られるセラミックス基板31は、低温焼成セラミックス(LTCC)となる。
ここで、セラミックスグリーンシート15上に設けられた導体パターン前駆体10を構成する金属粒子は、加熱処理によって互いに融着し、連続することによって導電性を示すようになる。
【0086】
このような加熱処理によって回路20は、セラミックス基板31中のコンタクト33に直接接続させられ、導通させられて形成されたものとなる。ここで、この回路20が単にセラミックス基板31上に載っているだけでは、セラミックス基板31に対する機械的な接続強度が確保されず、したがって衝撃等によって破損してしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態では、前述したようにセラミックスグリーンシート15中のガラスを一旦軟化させ、その後硬化させることにより、回路20をセラミックス基板31に対し強固に固着させている。したがって、形成された回路20は、機械的にも高い強度を有するものとなる。
【0087】
このようなセラミックス回路基板30の製造方法にあっては、特に積層基板32を構成する各セラミックス基板31の製造に際して、上述したようなセラミックスグリーンシート15に対して前記の導体パターン形成用インク200を付与しているので、所望の形状の導体パターン20を高精度で確実に形成することができる。
よって、本発明によれば、電子機器の構成要素となる電子部品について、その小型化の要求に応えることができるのはもちろん、多品種少量生産についてのニーズにも十分に対応可能となる。
【0088】
また、セラミックスグリーンシート15を加熱処理する際の加熱温度を、セラミックスグリーンシート15中に含まれるガラスの軟化点以上としているので、加熱処理によってセラミックスグリーンシート15をセラミックス基板31にした際、形成した導体パターン20が軟化したガラスによってセラミックス基板31(セラミックスグリーンシート15)上に強固に固着するようになり、したがって導体パターン20の機械的強度を高めることができる。
【0089】
《導体パターンおよび配線基板》
次に、上述したような方法を用いて得られる導体パターンおよび配線基板について説明する。
配線基板(セラミックス回路基板)30は、セラミックス基板31が多数(例えば10枚から20枚程度)積層されてなる積層基板32と、この積層基板32の最外層、すなわち一方の側の表面に形成された、微細配線等からなる回路20とを有して形成されたものである。
【0090】
積層基板32は、積層されたセラミックス基板31、31間に、導体パターン前駆体10により形成された導体パターン(回路)20を備えている。
導体パターン20は、上述したような導体パターン前駆体10を加熱する(焼結する)ことにより形成された薄膜状の導体パターンであって、銀粒子が相互に結合されてなり、少なくとも導体パターン20表面において前記銀粒子同士が隙間なく結合している。
【0091】
導体パターン20の比抵抗は、20μΩcm未満であることが好ましく、15μΩcm以下であることがより好ましい。このときの比抵抗は、インクの付与後、160℃で加熱、乾燥した後の比抵抗をいう。上記比抵抗が20μΩcm以上になると、導電性が要求される用途、すなわち回路基板上に形成する電極等に用いることが困難となる。
なお、上記のような導体パターン20は、携帯電話やPDA等の移動通話機器の高周波モジュール、インターポーザー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、加速度センサー、弾性表面波素子、アンテナや櫛歯電極等の異形電極、その他各種計測装置等の電子部品等に適用することができる。
【0092】
また、セラミックス基板31には、回路20に接続するコンタクト(ビア)33が形成されている。このような構成によって回路20は、上下に配置された回路20、20間が、コンタクト33によって導通したものとなっている。
また、上述したような配線基板30は、各種の電子機器に用いられる電子部品となるものであり、各種配線や電極等からなる回路パターン、積層セラミックスコンデンサー、積層インダクター、LCフィルタ、複合高周波部品等を基板に形成してなるものである。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
例えば、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクとして、コロイド液を用いる場合について代表的に説明したが、コロイド液でなくてもよい。
また、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクは、銀粒子が分散したものとして説明したが、銀以外のものであってもよい。金属粒子を構成する金属としては、例えば、銀、銅、パラジウム、白金、金、または、これらの合金等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。金属粒子が合金である場合、前記金属が主とするもので、他の金属を含む合金であってもよい。また、上記金属同士が任意の割合で混ざった合金であってもよい。また、混合粒子(例えば、銀粒子と銅粒子とパラジウム粒子とが任意の比率で存在するもの)が液中に分散したものであってもよい。これら金属は、抵抗率が小さく、かつ、加熱処理によって酸化されない安定なものであるから、これらの金属を用いることにより、低抵抗で安定な導体パターンを形成することが可能になる。
【0094】
また、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクが、金属粒子を分散する分散媒として、水系分散媒を含む場合について代表的に説明したが、分散媒として、水および/または水との相溶性に劣る液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g未満の液体)である非水系分散媒(油系分散媒(有機系分散媒))を含むものであってもよい。
また、例えば、前述した実施形態では、液滴吐出方式としてピエゾ方式を用いたが、これに限定されず、例えば、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。
【実施例】
【0095】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
[1]導体パターン形成用インクセットの調製
[1−1]導体パターン形成用インクの調製
10N−NaOH水溶液を3mL添加してアルカリ性にした水50mLに、クエン酸3ナトリウム2水和物17g、タンニン酸0.36gを溶解した。得られた溶液に対して3.87mol/L硝酸銀水溶液3mLを添加し、2時間攪拌を行い銀コロイド液を得た。得られた銀コロイド液に対し、導電率が30μS/cm以下になるまで透析することで脱塩を行った。透析後、3000rpm、10分の条件で遠心分離を行うことで、粗大金属コロイド粒子を除去した。
【0096】
この銀コロイド液に、ポリグリセリン化合物としてのポリグリセリン(重量平均分子量:500)と、多糖類としてのマルトデキストリン(重量平均分子量:4100)と、表面張力調整剤としてのサーフィノール104PG−50(日信化学工業社製)およびオルフィンEXP4036(日信化学工業社製)とを添加し、さらに濃度調整用のイオン交換水を添加して調整し、導体パターン形成用インクとした。なお、導体パターン形成用インクの調製に用いた多糖類としてのマルトデキストリンは、常温(25℃)で固体のものであった。
【0097】
[1−2]酸塩基含有インクの調製
一方、酸としての硫酸と、水と、界面活性剤としてのオレフィンE1010とを混合し、酸塩基含有インクを得た。
これにより、導体パターン形成用インクと酸塩基含有インクとからなる導体パターン形成用インクセットを得た。
【0098】
[2]セラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)の製造
まず、セラミックス粉末としての平均粒径が1.5μmのアルミナ(Al)粉末と、セラミックス粉末としての平均粒径が1.5μmの酸化チタン(TiO)粉末と、ガラス粉末としての平均粒径が1.5μmのホウ珪酸ガラス粉末とを、1:1:2の重量比で混合し、混合粉末とし、さらに、この混合粉末に、分散媒としての水と、分散剤としてのポイズ520(花王社製)とを加え、ミルミキサーで分散し、水系分散体を得た。
【0099】
次に、上記水系分散体に、バインダー(結合剤)としてポリビニルブチラール(クラレ社製、モビタールB30T)と、可塑剤としてフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(新日本理化社製)と、追加の分散媒としての水、エタノールおよびメチルエチルケトンとを加え、混合・撹拌することによりスラリーを得た。得られたスラリー中における水とエタノールとメチルエチルケトンとの含有比率は、重量比で、3:3:4であった。
次に、上記スラリーを、乾燥後の塗布量が35g/mとなるように、ドクターブレードでPETフィルム上にシート状に塗布し、乾燥により、分散媒を除去した後に、これを、1辺の長さを200mmとする正方形状に裁断することにより、セラミックス成形体を得た。
【0100】
[3]セラミックス回路基板の作製
次に、導体パターン形成用インクを、それぞれ図2、図3に示すようなインクジェット装置に投入した。
次に、インクジェット装置のテーブル上に載置されたセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)を60℃に昇温保持した。その後、各吐出ノズルからそれぞれ1滴当り15ngの液滴を順次吐出し、線幅が25μm、厚み20μm、長さが10.0cmのライン(導体パターン前駆体)を20本描画した。各ライン間の距離は、5mmとした。そして、このラインが形成されたセラミックスグリーンシートを乾燥炉に入れ、60℃で15分間加熱して乾燥した(導体パターン前駆体形成工程)。
上記のようにして、ラインが形成されたセラミックスグリーンシートを第1のセラミックスグリーンシートとした。
【0101】
次に、別のセラミックスグリーンシートに上記の金属配線の両端位置に機械式パンチ等によって孔開けを行うことで計40箇所に直径100μmのスルーホールを形成し、導体パターン形成用インクを充填することでコンタクト(ビア)を形成した。さらに、このコンタクト(ビア)上に2mm角のパターンを、上記液滴吐出装置を用いた導体パターン形成用インクの吐出により、端子部として形成した。
この端子部が形成されたセラミックスグリーンシートを第2のセラミックスグリーンシートとした。
【0102】
次に、上記酸塩基含有インクを、図2、図3に示すような液滴吐出装置に搭載した。次に、第1のセラミックスグリーンシートに向けて、液滴吐出装置の各吐出ノズルから酸塩基含有インクの液滴を順次吐出した(酸塩基付与工程)。第1のセラミックスグリーンシートへの酸塩基含有インクの付与は、導体パターン形成用インクを用いて形成された導体パターン前駆体に対応するパターンで行った。そして、このラインが形成されたセラミックスグリーンシートを乾燥炉に入れ、60℃で15分間加熱して乾燥した。
【0103】
次に、第2のセラミックスグリーンシートの下に第1のセラミックスグリーンシートを積層し、さらに無加工のセラミックスグリーンシートを補強層として2枚積層し、生の積層体を得た(積層工程)。このような生の積層体を20個作製した。
次に、これらの生の積層体を、95℃の温度において、250kg/cmの圧力で30秒間プレスした後、大気中において、昇温速度66℃/時間で約6時間、昇温速度10℃/時間で約5時間、昇温速度85℃/時間で約4時間といった連続的に昇温する昇温過程を経て、最高温度890℃で30分間保持するといった焼結プロファイルに従って焼結し、セラミックス回路基板を得た(焼成工程)。
【0104】
(実施例2〜6)
導体パターン形成用インクの調製に用いる材料の種類・使用量を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして導体パターン形成用インクを調製し、セラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)の製造に用いる材料の種類・使用量を表2に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にしてセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)を製造し、酸塩基含有インクの調製に用いる材料の種類・使用量を表3に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして酸塩基含有インクを調製し、これら導体パターン形成用インク、酸塩基含有インク、セラミックスグリーンシートを用いて、前記実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を製造した。
【0105】
(比較例1)
酸塩基付与工程を省略した以外は、前記実施例と同様にしてセラミックス回路基板を製造した。
前記各実施例および比較例について、導体パターン形成用インクの各構成材料の配合量を表1に示し、セラミックスグリーンシートの各構成材料の配合量を表2に示し、酸塩基含有インクの各構成材料の配合量を表3に示した。なお、表中、ポリグリセリンをPG、マルトデキストリンをMds、還元マルトデキストリンをRmd、トリメチロールプロパンをTMP、硫酸をSuA、酢酸をAcA、モノエタノールアミンをMEAで示した。また、前記各実施例についての導体パターン形成用インクの粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下での範囲内の値であった。また、前記各実施例についての酸塩基含有インクの粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下での範囲内の値であった。また、表3中の「pH」の欄には、酸塩基含有インクの水素イオン指数(pH)の値を示した。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
[4]セラミックス回路基板の評価(導通信頼性)
前記各実施例および比較例で得られた各セラミックス回路基板について、20本の導体パターン上に形成された端子部間にテスタをあて、それぞれ導通の有無を確認し、20本の導体パターンについて全て導通が確認されたものを、導通率が100%であったものとして良品とした。各セラミックス回路基板についての導通率を、導通のあった導体パターンの数(X本)を、形成した導体パターンの数(20本)で除したもの((X/20)×100[%])として求め、下記評価基準により焼結安定性を評価した。
【0110】
A:20個のセラミックス回路基板全てにおいて導通率が100%であった。
B:導通率が100%のセラミックス回路基板が15個以上あり、他のセラミックス回路基板も導通率が95%以上であった。
C:導通率が100%のセラミックス回路基板が10〜14個あり、他のセラミックス回路基板も導通率が95%以上であった。
D:導通率が100%のセラミックス回路基板が5〜9個あり、他のセラミックス回路基板も導通率が95%以上であった。
E:導通率が100%のセラミックス回路基板が1〜4個あり、他のセラミックス回路基板も導通率が95%以上であった。
F:20個のセラミックス回路基板全てにおいて導通率が95%以上100%未満であった。
G:20個のセラミックス回路基板全てにおいて導通率が95%未満であった。
【0111】
[5]導体パターンのセラミックス基板に対する密着性
各実施例および比較例について、それぞれ、導体パターン前駆体の形成パターン(描画パターン)を以下のように変更するとともに積層工程を省略した以外は前記と同様の処理を施し、前述した第1のセラミックスグリーンシート(導体パターンを有する)に対応するセラミックス基板を得た。
【0112】
導体パターン前駆体は、線幅が25μm、厚み20μm、長さが10.0cmのラインを間隔0で順次200本描画することにより、膜として形成した。
JIS K5600に準拠し、クロスカット法により、以下の4段階の基準に従い評価し、導体パターンと基板との密着性の評価とした。
A:剥離が無い。
B:刃を入れた部分がギザギザしている。
C:極僅かに剥離が生じる。
D:剥離した。
これらの結果を表4に示した。
【0113】
【表4】

【0114】
表4から明らかなように、本発明では、セラミックス回路基板において、優れた導通率を示していた。また、導体パターンは、セラミックス基板に対する密着性が高く、信頼性が特に高いものであった。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0115】
10…導体パターン前駆体(前駆体) 15…セラミックスグリーンシート(セラミックス成形体) 16…導体ポスト(コンタクト前駆体) 17…積層体 20…導体パターン(回路) 30…セラミックス回路基板(配線基板) 31…セラミックス基板 32…積層基板 33…コンタクト 100…インクジェット装置(液滴吐出装置) 110…インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド、ヘッド) 111…ヘッド本体 112…振動板 113…ピエゾ素子 114…本体 115…ノズルプレート 115P…インク吐出面 116…リザーバー 117…インク室 118…ノズル(突出部) 130…ベース 140…テーブル 170…テーブル位置決め手段 171…第1移動手段 172…モーター 180…ヘッド位置決め手段 181…第2移動手段 182…リニアモーター 183、184、185…モーター 190…制御装置 191…駆動回路 200…導体パターン形成用インク(インク) 300…酸塩基含有組成物(酸塩基含有インク) S…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体を用意するセラミックス成形体用意工程と、
前記セラミックス成形体に、金属粒子と有機成分とを含む導体パターン形成用インクを液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体を形成する導体パターン前駆体形成工程と、
少なくとも、前記セラミックス成形体の前記導体パターン形成用インクが付与された部位に、酸または塩基を含む組成物を付与する酸塩基付与工程と、
複数の前記セラミックス成形体を積層して積層体を得る積層工程と、
前記積層体を焼結して、導体パターンおよびセラミックス基板とを有する配線基板を得る焼成工程とを有することを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記組成物は、前記導体パターン形成用インクが付与された領域に選択的に付与されるものである請求項1に記載の配線基板の製造方法。
【請求項3】
前記組成物の付与は、液滴吐出法により行う請求項1または2に記載の配線基板の製造方法。
【請求項4】
前記組成物は、水素イオン指数(pH)が2以上5以下のものである請求項1ないし3のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項5】
前記導体パターン形成用インクは、重量平均分子量が1,000以上5,000以下である水溶性の多糖類と、ポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物とを、さらに含むものである請求項1ないし4のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項6】
前記導体パターン形成用インクは、前記多糖類として、常温で固体のマルトデキストリンを含むものである請求項5に記載の配線基板の製造方法。
【請求項7】
前記導体パターン形成用インクは、前記多糖類として、カルボニル基が還元された多糖類を含むものである請求項5または6に記載の配線基板の製造方法。
【請求項8】
前記セラミックス成形体は、前記バインダーとして、ポリビニルブチラールを含むものである請求項1ないし7のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法を用いて製造されたこと特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−160561(P2012−160561A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18880(P2011−18880)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】