説明

配電系統における需要家電圧安定化システム

【課題】 半導体素子の耐圧負担が小さい無効電力補償装置により配電系統の電圧の安定化を図り得る配電系統における需要家電圧安定化システムを提供する。
【解決手段】 配電系統の変圧器3の低圧側の各配電線4に接続される負荷群5毎に個別に無効電力補償を行う無効電力補償装置IIを分散配置するとともに、各無効電力補償装置IIは、その制御手段で無効電力の最大出力が出力されるまでの無効電力の補償を行うように制御するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配電系統の電圧の安定化システムに関し、特に需要家からの太陽電池発電等により得られた電力が余剰電力として供給される配電系統における需要家電圧の安定化に適用して有用なものである。また、電気自動車への充電による過負荷状態の配電系統における需要家電圧の安定化に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化抑制のため二酸化炭素排出を削減する手段の一つとして、太陽光発電システムの導入が積極的に推進されている。この太陽光発電システムの大量導入に伴い既存の電力系統の電圧変動が大きくなると予想される。これは、需要家からの太陽光発電により得られた電力が余剰電力として配電系統を介して供給され、その結果配電系統の電圧が上昇するからである。これに伴い、日中で軽負荷状態のときに太陽光発電の電力を系統へ供給できない場合が発生するという問題を生起する。需要家電圧の上限値が規程により決められており、上限値に達した系統においては電力を供給できないからである。また、電圧が日射量によって急激に変動して需要家電圧の安定性の維持に困難が生じるという問題も生起する。さらに、電気自動車への充電において夜間などに一斉充電が行われると、急激に負荷が大きくなる結果、需要家電圧が規程の下限値を下回る恐れがあり、前記と同様、需要家電圧の安定性の維持に困難が生じるという問題も生起する。
【0003】
かかる需要家電圧の変動を抑制するため、無効電力を活用して、電圧の変動を抑える無効電力補償装置(STATCOM)の導入が検討されている。かかるSTATCOMの導入計画は、系統全体に対する補償を考慮し、かつ電圧制御の容易さから、一般的に6600V以上の配電系統において検討が進んでいる。
【0004】
図15は無効電力補償装置を設置した配電系統を概念的に示す説明図である。同図に示すように、配電用変電所1の二次側にはフィーダ2が接続してあり、このフィーダ2に各変圧器3の二次側を介して低圧側の配電線4(引込み線を含む。以下同じ。)が接続されており、さらに各配電線4に最終需要家の負荷群5が接続されている。ここで、フィーダ2および変圧器3の一次側は通常、6600V程度の高電圧であり、これを二次側が200V程度の低圧となるように降圧している。負荷群5は一台の変圧器3から配電される、例えば4〜5軒分の家庭の負荷であり、例えばパワーコンディショナ(PCS)と対となった太陽電池(PV)等、余剰の電力を配電線4に供給する負荷も含む。
【0005】
かかる配電系統においてその電圧安定化を図る無効電力補償装置Iは一般的に6600Vのフィーダ2の末端側に接続されており、多くの配電線4のそれぞれで生起された電圧変動を一括して補償するようになっている。この場合の最終需要家は、例えば500軒程度と大きな規模になる。
【0006】
6600Vという高電圧系統において、この種の無効電力補償装置による補償システムを構築する場合には、補償対象の負荷の数が多いので大容量化するばかりでなく、無効電力補償装置を構成する半導体素子の信頼性、すなわち耐電圧や寿命の点で技術的な課題が残るものとなる。また、配電系統全体の補償の観点からは冗長性を持たせる必要があるが、高電圧系統の無効電力補償装置では、冗長性を考慮することにより必要以上の大容量化且つ大型化を生起することになる。その結果、コスト高騰の原因になり、電圧安定化システム普及の弊害となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−34168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、配電系統における需要家電圧安定化を図るためのシステムを構築するに当たり、半導体素子の耐電圧を低下させることができ、その分安価な半導体素子でも充分な信頼性を保証し得る安価な無効電力補償装置で冗長性を備えた電圧安定化システムの出現が待望されている。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、半導体素子の耐圧負担が小さい無効電力補償装置により配電系統の電圧の安定化を図り得るとともに冗長性も備えた配電系統における需要家電圧安定化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
配電系統における変圧器の低圧側の各配電線に接続される負荷群毎に、個別に無効電力補償を行う無効電力補償装置を分散配置するとともに、前記各無効電力補償装置は、装置の無効電力の最大出力が出力される範囲まで、設置された箇所における電圧値が規程値の範囲になるような制御手段で、無効電力補償を行うように制御するものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0011】
本態様によれば、発想を転換して電圧変動を引き起こす原因の箇所、すなわち負荷群の直近にて必要な分のみの補償を施すことを第一の手段としている。すなわち、低圧側で所定の無効電力補償を行い得るシステムを構築している。これにより、電圧安定化の問題となる箇所のみにスポット的に対応できる。また、無効電力補償装置が低圧側に分散配置されているので、定格電圧や定格電流が小さい部品でも使用が可能になり、民生用の部品を使用できることから、無効電力補償装置を構成する素子等に安価なものを使用することができる。また、装置が補償すべき容量は、装置の接続される負荷群が引き起こす電圧変動に対応する容量のみでよい。これらの結果、当該無効電力補償装置の小型化及びコストを低減させることだけでなく、配電系統における設備計画の柔軟性向上や配電系統への設置導入コストを低減させることができる。また、補償が必要な箇所へ多数の無効電力補償装置が分散配置されているので、需要家電圧の安定化のみならず、配電系統全体の冗長性が高まり当該配電系統全体のロバスト性向上にも寄与させることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、
配電系統における変圧器の低圧側の各配電線に接続される負荷群毎に、個別に無効電力補償を行う無効電力補償装置を分散配置するとともに、前記各無効電力補償装置は、前記各無効電力補償装置の前記配電線への接続位置での配電系統の状態である系統状態および各負荷群の状態である負荷状態を推定する制御手段で、前記各負荷群による電圧変動分である補償量を決定し、前記無効電力補償装置毎に前記補償量を補償するように制御されるものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0013】
本態様によれば、無効電力補償装置を低圧側に配置しているので、定格電圧や定格電流が小さい部品でも使用可能になり、民生用の半導体素子及び受動部品で無効電力補償装置を構成することができる。また、装置が補償すべき容量は、装置の接続される負荷群が引き起こす電圧変動に対応する容量のみでよい。これらの結果、当該無効電力補償装置の小型化及びコストを低減させることだけでなく、配電系統における設備計画の柔軟性向上や配電系統への設置導入コストを低減させることが実現可能である。同時に、負荷群毎に対応させて当該無効電力補償装置を分散配置するとともに、各無効電力補償装置の前記配電線への接続位置での系統状態および各負荷群の負荷状態を推定して前記各負荷群による電圧変動分である補償量を決定するので、負荷群毎に必要な補償量に合わせて無効電力補償装置による適確な自律制御を行うことができる。また、分散配置した複数の無効電力補償装置により需要家電圧安定化のみならず、配電系統全体の冗長性が高まり、当該配電系統全体のロバスト性向上にも寄与させることができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、
第2の態様に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記無効電力補償装置は前記補償量を決定する制御手段で制御され、
前記制御手段は、
前記接続位置から見た、前記無効電力補償装置を停止させた状態、および前記無効電力補償装置で既値の電流である固定電流値を供給した状態もしくは前記無効電力補償装置に既知の負荷インピーダンスを挿入した状態での前記配電系統の各インピーダンスに基づき前記負荷群が引き起こす電圧変動値を演算し、
演算した前記電圧変動値がキャンセルされるように前記無効電力補償装置の補償量を決定するものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0015】
本態様によれば、制御手段により無効電力補償装置の低圧側の配電線への接続位置での系統状態および負荷群の負荷状態を推定して無効電力補償を行う前記負荷群毎に適確な補償量を決定することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、
第3の態様に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記制御手段は、
前記接続位置から見た、前記無効電力補償装置を停止させた状態での前記配電系統を表わす等価回路に基づき第1の回路方程式を生成する停止状態演算部と、
前記接続位置から見た、前記無効電力補償装置で既値の電流である固定電流を供給した状態での前記配電系統を表わす等価回路に基づき第2の回路方程式を生成する接続状態演算部と、
前記第1および第2の回路方程式に基づき前記負荷群が引き起こした電圧変動値を演算するとともに、前記電圧変動値に基づき前記無効電力補償装置の補償量を演算する補償量演算部とを有し、
前記第1の回路方程式が、配電系統側の等価的な電圧源の電圧V、前記接続位置での実測電圧である電圧V、前記配電系統から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I、前記負荷群から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I、前記配電系統のインピーダンスZ、前記負荷群のインピーダンスZ、前記負荷群に設置された分散電源の等価的な電圧源の電圧Vpcsを用いて次式(1),(2),(3)で表わされ、
【0017】
【数1】

【0018】
前記接続状態演算部で生成される第2の回路方程式が、前記電圧V、前記接続位置での実測電圧である電圧V′、前記配電系統から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I′、前記負荷群から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I′、前記インピーダンスZ、前記インピーダンスZ、前記電圧Vpcs、前記固定電流である電流Istを用いて次式(4),(5),(6)で表わされ、
【0019】
【数2】

【0020】
前記補償量演算部が、前記第1および第2の回路方程式から前記配電系統のインピーダンスZおよび前記電圧Vを式(7),式(8)に基づき演算するとともに、前記電圧変動値Δ|V|を式(9)により演算し、
【0021】
【数3】

【0022】
さらに前接続位置から配電側および負荷側をまとめて見た合成インピーダンスZを式(10)に基づき演算するとともに、前記合成インピーダンスZを実部rと虚部xとに分けてr+jxと表わして、前記電圧変動値Δ|V|をキャンセルするよう前記無効電力補償装置が補償すべき補償量xstを式(11)もしくは式(12)で演算する
【0023】
【数4】

【0024】
ものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0025】
本態様によれば、停止状態演算部および電流源の挿入による接続状態演算部の所定の演算結果に基づき、さらに補償量演算部で前記低圧側の配電線への接続位置での系統状態および負荷群の負荷状態を具体的に推定して無効電力補償を行う前記負荷群毎に具体的な補償量を決定することができる。
【0026】
本発明の第5の態様は、
第3の態様に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記制御手段は、
前記第1の回路方程式を生成する停止状態演算部と、
前記接続位置から見た、前記無効電力補償装置で既値の負荷インピーダンスを挿入した状態での前記配電系統を表わす等価回路に基づき第3の回路方程式を生成する接続状態演算部と、
前記第1および第3の回路方程式に基づき前記負荷群が引き起こした電圧変動値を演算するとともに、前記電圧変動値に基づき前記無効電力補償装置の補償量を演算する補償量演算部とを有し、
前記第1の回路方程式が、請求項4と同様に、式(13),(14),(15)で表わされ、
【0027】
【数5】

【0028】
前記接続状態演算部で生成される第3の回路方程式が、前記電圧V、前記接続位置での実測電圧である電圧V′、前記配電系統から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I′、前記負荷群から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I′、前記インピーダンスZ、前記インピーダンスZ、前記電圧Vpcsを用いて次式(16),(17)で表わされ、
【0029】
【数6】

【0030】
前記補償量演算部が、前記第1および第3の回路方程式から前記配電系統のインピーダンスZおよび前記電圧Vを式(18),(19)に基づき演算するとともに、前記電圧変動値Δ|V|を式(20)により演算し、
【0031】
【数7】

【0032】
さらに前接続位置から配電側および負荷側をまとめて見た合成インピーダンスZを式(21)に基づき演算するとともに、前記合成インピーダンスZを実部rと虚部xとに分けてr+jxと表わして、前記電圧変動値Δ|V|をキャンセルするよう前記無効電力補償装置が補償すべき補償量xstを式(22)もしくは式(23)で演算する
【0033】
【数8】

【0034】
ものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0035】
本態様によれば、停止状態演算部および負荷インピーダンスの挿入による接続状態演算部の所定の演算結果に基づき、さらに補償量演算部で前記低圧側の配電線への接続位置での系統状態および負荷群の負荷状態を具体的に推定して無効電力補償を行う前記負荷群毎に具体的な補償量を決定することができる。
【0036】
本発明の第6の態様は、
第2の態様に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記無効電力補償装置は前記補償量を決定する制御手段で制御され、
前記制御手段は、
商用周波数の整数倍以外の周波数に相当する電流である次数間高調波電流Ist_nを前記無効電力補償装置より出力し、当該無効電力補償装置の両端で計測される次数間高調波電圧をV1_nおよび接続位置から配電系統側に向かって流れる次数間高調波電流をI1_n接続位置から負荷側に向かって流れる次数間高調波電流をIL_nとするとき、次数間高調波における配電系統側のインピーダンスZ1_nを式(24)で求め、次数間高調波における負荷側のインピーダンスを式(25)で求め、
【0037】
【数9】

【0038】
さらに前記接続位置から配電側および負荷側をまとめて見た次数間高調波における合成インピーダンスZi_nを式(26)で求め、さらに前記合成インピーダンスZi_nを商用周波数に対応する値へ変換することにより前記合成インピーダンスZを求め、該合成インピーダンスZを実部rと虚部xとに分けてr+jxと表わして、前記電圧変動値Δ|V|をキャンセルするよう前記無効電力補償装置が補償すべき補償量xstを式(27)もしくは式(28)で演算する
【0039】
【数10】

【0040】
ものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0041】
本態様によれば、次数間高調波注入方式を利用して、無効電力補償装置の低圧側の配電線への接続位置での系統状態および無効電力補償を行う負荷群の負荷状態を適確に推定して無効電力補償を行う前記負荷群毎に適確な補償量を決定することができる。
【0042】
本発明の第7の態様は、
配電系統における変圧器の低圧側の各配電線に接続される負荷群毎に、個別に無効電力補償を行う無効電力補償装置を分散配置するとともに、前記各無効電力補償装置は、前記各負荷群による電圧変動分に対する補償量を決定し、前記無効電力補償装置毎に前記補償量を補償するように制御手段により制御されるものである配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記制御手段は、
前記配電系統側への送り出し電圧V、前記配電系統のインピーダンス(R+jX)、前記各配電線における負荷群および前記無効電力補償装置の接続位置における前記無効電力補償装置を停止させた状態での電圧Vに基づき、前記無効電力補償装置が補償すべき補償量を前記電圧に対し90度の位相差を有する無効分電流ISTCとして次式(29)により算出し、
【0043】
【数11】

【0044】
上記無効分電流ISTCを出力するように前記無効電力補償装置を制御することにより、電圧変動をキャンセルするように構成したことを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0045】
本態様によれば、無効電力補償装置で補償すべき補償量を無効分電流ISTCとして正確に求めることができ、かかる無効分電流ISTCを供給するように制御することで、負荷群毎に適切な無効電力補償を行うことができる。
【0046】
本発明の第8の態様は、
第7の態様に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記電圧V、前記配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、既知のパラメータとしてメモリに記憶され上式(29)の演算には、前記メモリから読み出した各パラメータを表すデータと、実測した電圧Vを表すデータとを用いることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0047】
本態様によれば、式(29)の演算に必要な、電圧V、配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xに関するデータを容易に得ることができる。
【0048】
本発明の第9の態様は、
第7または第8の態様に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記電圧Vは、前記無効電力補償装置を停止させた状態における前記接続位置から前記負荷群に向かって流れる電流Iに基づき次式(30)
【0049】
【数12】

【0050】
により算出することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0051】
本態様によれば、式(29)の演算に必要な電圧Vを、実測した電流Iに基づき算出することができる。
【0052】
本発明の第10の態様は、
第7〜第9の態様の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、前記式(7)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を利用することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0053】
本態様によれば、式(7)に基づき推定したインピーダンスを利用して所望の抵抗分Rおよびリアクタンス分Xの情報を得ることができる。
【0054】
本発明の第11の態様は、
第7〜第9の態様の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、前記式(18)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を利用することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0055】
本態様によれば、式(18)に基づき推定したインピーダンスを利用して所望の抵抗分Rおよびリアクタンス分Xの情報を得ることができる。
【0056】
本発明の第12の態様は、
第7〜第9の態様の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、前記式(24)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を商用周波数に換算した値を利用することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0057】
本態様によれば、式(24)に基づき推定したインピーダンスを利用して所望の抵抗分Rおよびリアクタンス分Xの情報を得ることができる。
【0058】
本発明の第13の態様は、
第1〜第12の態様の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システにおいて、
前記負荷群には分散電源が発電した直流電力を所定の交流電力に変換するパワーコンディショナーが接続されている負荷を有することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0059】
本態様によれば、系統電圧の不安定要素が存在する配電系統においても適確な無効電力補償により需要家電圧の安定化を実現する事ができる。
【0060】
本発明の第14の態様は、
第1〜第13の態様の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記各無効電力補償装置における連系用リアクトルの全部または一部として各変圧器の漏れリアクタンスや低圧配電線のリアクタンス、引込線のリアクタンスなどを利用したことを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システムにある。
【0061】
本態様によれば、無効電力補償装置の所定の機能を発揮させるために必要な連系用リアクトルを変圧器の二次側の漏れリアクタンスを利用しているので、その分装置構成が合理的なものとなる。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、電圧変動を引き起こす原因の箇所の直近にて対策を施すことが可能であるから、問題のある箇所にスポット的に対応することが実現される。また、無効電力補償装置を低圧側の配電線に負荷群毎に分散させて配置することで、無効電力補償装置の構成する半導体素子の耐圧性能等を軽減して全体的なコストを低減することができ、配電系統における設備計画の柔軟性向上や配電系統への設置導入コストを低減させることができる。また分散配置による効果から、配電系統全体の充分な冗長性も持たせることができる。さらに分散配置した無効電力補償装置で負荷群毎に自律制御を行うことができるので、所定の補償も適確に行うことができる。この結果、負荷側に電圧変動の原因となる太陽電池システム等の分散電源が接続されている場合であっても、低廉なコストで配電系統における需要家電圧の安定化を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態に係る無効電力補償装置を設置した配電系統を概念的に示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る無効電力補償装置の制御装置を示すブロック図である。
【図3】電流源挿入方式における等価回路を示す回路図である。
【図4】電流源挿入方式における等価回路を示す回路図である。
【図5】電流源挿入方式における等価回路を示す回路図である。
【図6】電流源挿入方式における等価回路を示す回路図である。
【図7】電流源挿入方式における等価回路を示す回路図である。
【図8】負荷インピーダンス挿入方式における配電系統の等価回路を示す回路図である。
【図9】負荷インピーダンス挿入方式における配電系統の等価回路を示す回路図である。
【図10】負荷インピーダンス挿入方式における配電系統の等価回路を示す回路図である。
【図11】負荷インピーダンス挿入方式における配電系統の等価回路を示す回路図である。
【図12】次数間高調波注入方式における配電系統の等価回路を示す回路図である。
【図13】本発明の第4の実施例に係る無効電力補償装置で補償すべき無効分電流の算出原理を説明するための説明図である。
【図14】上記第4の実施例に係る無効電力補償装置の制御装置を示すブロック図である。
【図15】従来技術に係る無効電力補償装置を設置した配電系統を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0065】
図1は本形態に係る無効電力補償装置を設置した配電系統を概念的に示す説明図である。同図に示すように、配電用変電所1の二次側にはフィーダ2が接続してあり、このフィーダ2に各変圧器3を介して低圧側の配電線4が接続され、さらに各配電線4に最終需要家の負荷群5が接続されている。この点は図13に示す従来システムと同様である。
【0066】
本形態では、無効電力補償装置IIが変圧器3の二次側(200V)で各負荷群5に対応させて配設されている。すなわち無効電力補償装置IIは各配電線4に接続位置6で接続することにより各配電線4毎に分散して配設されている。かくして各無効電力補償装置IIは低電圧(200V)側の各配電線4を介して一台の変圧器3からそれぞれ配電される各負荷群5を対象として分散配置した無効電力補償装置II毎に所定の補償制御を行うように構成してある。ここで、負荷群5は、例えば4〜5軒分の家庭の負荷であり、本形態の場合には太陽電池PVおよびその出力を所定の交流電力に変換するパワーコンディショナーPCSを有している。
【0067】
このように、本形態における無効電力補償装置IIは各変圧器3の二次側に独立させて分散配置されているので、定格電圧や定格電流が小さい部品でも使用が可能になり、無効電力補償装置IIを構成する素子等に安価なものを使用することができる。この結果、無効電力補償装置IIの小型化やコストを低減させることができる。また、PCSを有する負荷群5の箇所に当該無効電力補償装置を挿入することにより需要家電圧を安定化させることができるので、問題となる負荷群5にスポット的に対応することが可能である。これにより配電系統における設備計画の柔軟性向上や配電系統への設置導入コストを低減させることができる。さらに、多数の無効電力補償装置が分散配置されているので、冗長性が高まり当該配電系統全体のロバスト性向上にも寄与させることができる。
【0068】
ここで、各無効電力補償装置IIは制御装置を内蔵している。かかる制御装置は、各配電線4の電圧が規程範囲を外れた場合には当該制御装置が内蔵されている無効電力補償装置IIにより所定の無効電力を配電線4に供給して無効電力を補償する。ここで、最も原始的には、接続位置の電圧が規程範囲内に収まるように、当該無効電力補償装置IIの供給能力の範囲内において無効電力補償を行わせ、供給能力の限界に達した時点でリミッタをかけるという制御を行わせれば良い。
【0069】
一方、各無効電力補償装置IIを適切に自律制御することにより、より適確な補償動作を行わせることができる。この場合には、補償電力を供給しようとする配電線4への接続位置での系統状態および負荷群5の負荷状態を推定して負荷群5毎に補償量を決定する機能が必要になる。
【0070】
かかる自律制御を行う場合のいくつかの具体例を実施例として説明する。以下に示す各実施例では負荷群5毎に分散配置された各無効電力補償装置IIは自己に対応する負荷群5の状態のみに応じて必要になる補償量を自律的に補償して総合的な系統電圧の安定化を図るようになっている。
【0071】
<第1の実施例>
図2は第1の実施例に係る無効電力補償装置の制御装置を示すブロック図である。同図に示すように、本例における制御装置は、検出回路11、停止状態演算部12、接続状態演算部13および補償量演算部14を有している。
【0072】
検出回路11は、実測した所定の電圧V、V′、電流I、I′、電流I、I′の値を検出する。
【0073】
停止状態演算部12は、検出回路11における電圧V、電流I、電流Iの実測値を参照して、等価回路(図3参照)に基づき後に詳述する第1の回路方程式を生成する。図3に示す等価回路は、無効電力補償装置IIの配電線4に対する接続位置6から見た、無効電力補償装置IIを停止させた状態での配電系統を表わしている。当該等価回路については後に詳述する。
【0074】
接続状態演算部13は、検出回路11における電圧V′、電流I′、I′の実測値を参照して、等価回路(図4参照)に基づき後に詳述する第2の回路方程式を生成する。図4に示す等価回路は、無効電力補償装置IIの配電線4に対する接続位置6から見た、無効電力補償装置IIで既値の電流Istを供給した状態での配電系統を表わしている。当該等価回路については後に詳述する。
【0075】
補償量演算部14は、前記第1および第2の回路方程式に基づき負荷群5が引き起こした電圧変動値Δ|V|(本例の場合は電圧上昇値)を演算するとともに、電圧変動値Δ|V|に基づき無効電力補償装置IIによる補償量xstを演算する。本例の場合は、所定の電圧降下をもたらすべきリアクトルの値を求め、このリアクトルと等価な電流成分が無効電力発生回路から出力されるようにPWM生成回路15を介して主回路制御信号16を制御する。
【0076】
次に、本実施に係る無効電力補償装置IIを自律分散で制御する際における配電系統の系統状態の推定および負荷群5の負荷状態の推定に基づく補償量xstの決定方法についてさらに詳説する。本例では無効電力補償装置IIを配電線4への接続位置から見た系統状態を、負荷側と配電側とに分けたテブナンの等価回路としておき、この状態におけるパラメータを算出することにより等価的な配電系統状態を推定する。
【0077】
まず、無効電力補償装置IIを停止させる。停止させた状態における系統状態の等価回路が図3である。図3中、Vは配電系統側の等価的電圧源の電圧、Vは無効電力補償装置II(図1参照;以下同じ)の配電線4(図1参照;以下同じ)への接続位置6での実測した電圧、Iは配電線4から接続位置6に向かって流れる実測した電流、Iは負荷群5(図1参照;以下同じ)から接続位置6に向かって流れる実測した電流、Zは前記配電系統のインピーダンス、Zは負荷群5のインピーダンス、Vpcsは負荷群5に設置された分散電源である等価電圧源の電圧である。
【0078】
上述の如く電圧V、電流I、電流Iを実測すると式(1−1)〜(1−3)の第1の回路方程式が成立する。
【0079】
【数13】

【0080】
次に、無効電力補償装置IIより、電流Istを出力させる。このときの状態の等価回路が図4である。図4中、V′は無効電力補償装置IIの配電線4への接続位置6での実測した電圧、I′は配電線4から接続位置6に向かって流れる実測した電流、I′は負荷群5から接続位置6に向かって流れる実測した電流、Istは無効電力補償装置IIが供給する固定値の電流である。なお、V、Z、Z、Vpcsは図3と同様のパラメータである。
【0081】
ここで、図4の等価回路に基づき式(1−4)〜(1−6)が導出される。
【0082】
【数14】

【0083】
上記式(1−1)〜(1−6)を用いると4つのパラメータ(V、Z、Z、Vpcs)を求めることができるが、ここで必要なのはインピーダンスZと電圧Vである。これらは次式(1−7),(1−8)で与えられる。
【0084】
【数15】

【0085】
したがって、負荷群5による電圧変動値Δ|V|は、次式(1−9)のように表わされる。
【0086】
【数16】

【0087】
この電圧変動値Δ|V|が、無効電力補償装置IIで補償すべき電圧となる。ここで、電圧変動値Δ|V|を抑制するために必要な無効電力の注入量をテブナンの等価回路を用いて演算する。
【0088】
図5および図6は、無効電力補償装置IIの接続位置6から見た、負荷側と配電側とのすべてまとめた等価回路であり、図5が無効電力補償装置IIを停止した状態、図6が無効電力補償装置IIより所定の電流Istを供給した状態をそれぞれ示している。
【0089】
ここで、E=Vであるので、接続位置6から配電側および負荷側をまとめて見た合成インピーダンスZは次式(1−10)で表わされる。
【0090】
【数17】

【0091】
上式(1−10)で与えられる合成インピーダンスZを図7に示すように、Z=r(実部)+jx(虚部)とおく。そして、無効電力補償装置IIが出力する無効電力の算出を簡単にするために、無効電力補償装置IIをリアクトル(jxst)として模擬し、リアクトルに流れる電流を求める。リアクトル(jxst)の挿入により、電圧V′が、電圧Vより電圧変動値Δ|V|の分だけ低下すれば所定の無効電力補償を行うことができるからである。
【0092】
ここで、電圧V、V′および電圧変動値Δ|V|の間には式(1−11)の関係があり、電圧V′は式(1−12)に表される。
【0093】
【数18】

【0094】
したがって、電圧変動値Δ|V|は式(1−13)のように表すことができる。
【0095】
【数19】

【0096】
この結果、本例の場合にはリアクタンスとして表される補償量xstは式(1−14)に示す通りとなる。
【0097】
【数20】

【0098】
あるいは、補償量xstを求める場合、式(1−15)が近似的に成り立つ。
【0099】
【数21】

【0100】
これによってリアクタンスとして表される補償量xstは式(1−16)に示す通りとなる。
【0101】
【数22】

【0102】
上式(1―14)もしくは(1−16)に基づき所定の電圧変動(本例の場合には降下)をもたらすべき、リアクトルの値が求まった。したがって、無効電力補償装置IIが、このリアクトルと等価な電流成分を出力するよう、無効電力補償装置IIの主回路制御信号16(図2参照)を制御することにより、所定の電圧変動の抑制を実現することができる。
【0103】
なお、上述の説明では負荷が配電線4の電圧を上昇させる場合であるが、逆に降下させる場合には、上述の如き無効電力の補償においてリアクトルの代わりにキャパシタを適用することにより同様の適切な補償を行わせることができる。
【0104】
<第2の実施例>
第1の実施例では、無効電力補償装置IIを停止させたままの状態において電圧V、電流I、電流Iを計測するとともに、無効電力補償装置IIより所定の電流Istを出力させた状態において電圧V′、電流I′、電流I′を計測することにより所定のパラメータを求めるようにした。これに対し、本実施例においては、前者の状態は同様であるが、後者の状態は無効電力補償装置IIを停止させたまま既知のインピーダンスZを接続位置6に挿入し、このときの電圧V′、電流I′、電流I′を計測している。このことにより、前者と後者との電圧および電流の変化分に基づき所定のパラメータを求める。
【0105】
さらに詳言すると、図8は本実施例における、接続位置6での電圧V、低圧側の配電線4から接続位置6に向かって流れる電流Iおよび負荷群5から接続位置6に向かって流れる電流Iを計測する場合の等価回路(図3と同様の回路となり、第1の回路方程式を与える)、図9は電力補償装置IIを停止させたまま所定のインピーダンスZを挿入して接続位置6での電圧V′、低圧側の配電線4から接続位置6に向かって流れる電流I′および負荷群5から接続位置6に向かって流れる電流I′を計測する場合の等価回路である。第3の回路方程式は図9に示す等価回路に基づき生成される。
【0106】
図8を参照すれば明らかな通り、第1の回路方程式を構成する式は、第1の実施例における式(1−1)〜(1−3)と同様である。
【0107】
【数23】

【0108】
一方、図9に示す等価回路からは、式(2−4),(2−5)に示す第3の回路方程式が導出される。
【0109】
【数24】

【0110】
かくして式(2−1)〜(2−5)の関係からインピーダンスZ、電圧Vが導出され、次式(2−6),(2−7)で与えられる。
【0111】
【数25】

【0112】
この結果、接続位置6から配電側および負荷側をまとめて見た合成インピーダンスZは、図10および図11に示すように、式(2−8)の関係を利用して式(2−9)で与えられる。
【0113】
【数26】

【0114】
したがって、本例の方法によっても式(2−9)に基づき所定の電圧変動(電圧降下)をもたらすべき、補償量xstを式(2−10)もしくは式(2−11)によりリアクトルの値として求めることができる。
【0115】
【数27】

【0116】
したがって、本例においても、第1の実施例と同様に、無効電力補償装置IIが、前記リアクトルと等価な電流成分を出力するよう、無効電力補償装置IIの主回路制御信号16(図2参照)を制御することにより、同様に、所定の電圧変動の抑制を実現し得る。
【0117】
<第3の実施例>
第1および第2の実施例と同様の系統状態、負荷状態の推定および補償量の算出は次数間高調波注入方式を適用することによっても実現することができる。すなわち、商用周波数の整数倍以外の周波数に相当する電流である次数間高調波電流を無効電力補償装置IIより注入し、前記次数間高調波電流の変動分に基づき配電系統および負荷のインピーダンスを推定し、かかる推定に基づき系統状態および負荷状態を推定する。
【0118】
図12は次数間高調波注入方式を適用した場合の等価回路を示す。同図に示す等価回路はテブナンの等価回路であり、周波数が異なる電源は無視されるため、無効電力補償装置IIが出力する次数間高調波電流の電流源、配電インピーダンスおよび負荷インピーダンスとなる。
【0119】
次数間高調波電流が無効電力補償装置IIから出力する電流源をIst_n、無効電力補償装置IIの両端で計測される次数間高調波成分の電圧をV1_n、系統側で検出される次数間高調波電流をI1_n、負荷側で検出される次数間高調波電流をIL_nとすると次式(3−1),(3−2)により次数間高調波における配電線インピーダンスZ1_nおよび次数間高調波における負荷インピーダンスZL_nが求まる。
【0120】
【数28】

【0121】
また、接続位置から配電側および負荷側をまとめて見た次数間高調波における合成インピーダンスZi_nは、式(3−3)で与えられる。
【0122】
【数29】

【0123】
ここで、商用周波数における合成インピーダンスZは換算して求める。
【0124】
かくして、本例の方法によっても式(3−3)に基づき所定の電圧(電圧降下)をもたらすべき、補償量xstの値を式(3−4)もしくは式(3−5)により求めることができる。
【0125】
【数30】

【0126】
したがって、無効電力補償装置IIが、上記補償量xstを与えるこのリアクトルと等価な電流成分を出力するよう、無効電力補償装置IIの主回路制御信号16(図2参照)を制御することにより、第1および第2の実施例と同様に所定の電圧変動の抑制を実現し得る。
【0127】
上記第1〜第3の実施例に示す系統状態の推定および負荷状態の推定を利用する代わりにこれらに関するパラメータを上位の指令センターから取得することによっても同様の補償制御を行うことができる。
【0128】
<第4の実施例>
図13は本発明の第4の実施例に係る無効電力補償装置で補償すべき無効分電流の算出原理を説明するための説明図である。同図に示す配電系統は、配電用変電所1と需要家IIIとの間の配電線IVは、フィーダ(高圧配電線)2,(柱上)変圧器3,(低圧側)配電線4,引込線4Aからなり、引込線4Aの末端である接続位置6に無効電力発生装置IIが負荷群5とともに接続されている。本形態における負荷群5は、通常負荷5A、PV(太陽電池)5BおよびEV(電気自動車)5Cからなる。ここで、通常負荷5Aは需要家IIIにおける照明、冷蔵庫等の電気製品であり、EV5Cとともに、系統から電流が流れ込む装置である。これに対し、PV5Cは系統に電流を供給する装置である。
【0129】
ここで、配電線IVのインピーダンスをR+jXとし、配電用変電所1からの送り出し電圧を電圧V、接続位置6の電圧を電圧V、接続位置6から需要家IIIに向かって流れる電流を電流Iとする。また、電流Iについて、電圧Vと同相の成分をI1d、直交成分をI1qとすると、通常負荷5A、EV5Cは有効電力の消費、PV5Bの出力も有効電力であることから、無効電力補償装置IIが設置される前の状態(停止した状態)における電流Iは次式(4−1)で与えられる。
【0130】
【数31】

【0131】
このことから、電圧Vと電圧Vとの関係は次式(4−2)のように表される。
【0132】
【数32】

【0133】
次に、無効電力補償装置IIが設置された状態(動作している状態)を考える。無効電力補償装置IIは無効電力を出力するので、無効電力補償装置IIは無効分電流I1qのみを出力すると考えてよい。このことから、電圧Vと電圧V′(無効電力補償装置IIの動作時の接続位置6の電圧)の関係は次式(4−3)のように表される。
【0134】
【数33】

【0135】
ここで、無効電力補償装置IIは、無効分電流I1qにより電圧Vの大きさを電圧Vの大きさと等しくすれば良い。
【0136】
したがって、本形態における無効電力補償装置IIは、次式(4−4)で与えられる無効分電流ISTCを流すように制御すればよい。
【0137】
【数34】

【0138】
式(4−4)を参照すれば、電圧V、配電線IVのインピーダンス(R+jX)、無効電力補償装置IIの接続位置6における無効電力補償装置IIを停止させた状態での電圧Vに基づき無効電力補償装置IIが補償すべき補償量である無効分電流ISTCが正確に求まることが分かる。
【0139】
式(4−4)に基づき、補償すべき無効分電流ISTCを発生させる本実施例を図14に示す。同図に示すように、本実施例における補償量演算部24はメモリ24Aおよび無効分電流演算部24Bを有する。ここで、メモリ24Aには、配電系統のフィーダ2への送り出し電圧Vと配電線IVのインピーダンス(R+jX)の値が予め記憶されている。一方、電圧検出器25が、無効電力補償装置IIを停止させた状態での接続位置6における電圧Vを計測している。
【0140】
補償量演算部24はメモリ24Aの記憶内容および電圧検出器25が検出した電圧Vの情報に基づき上式(4−4)の演算を行い、無効分電流ISTCを求める。
【0141】
この結果、無効分電流ISTCが供給されるようにPWM生成回路15を介して主回路制御信号16が形成される。
【0142】
かくして、本実施例によれば、無効電力補償装置IIで補償すべき無効分電流ISTCを正確に求めることができ、かかる無効分電流ISTCを供給するように制御することで、負荷群5毎に適切な無効分電流補償を行うことができる。
【0143】
上記第4の実施例では、式(4−4)の演算に電圧検出器25で検出した電圧Vを直接利用したが、無効電力補償装置IIを停止させた状態での接続位置6から負荷群5に流入する電流Iを計測することによっても電圧Vを検出することができる。すなわち、メモリ24Aに記憶している電圧V、インピーダンス(R+jX)および電流I(=I)の値を前式(4−2)に代入して所定の演算を行えばよい。
【0144】
さらに、上記第4の実施例では、予めメモリ24Aに記憶しておいたインピーダンス(R+jX)および電圧Vの情報を利用して式(4−4)の演算を行うようにしたが、これらの情報は、例えば上位の制御所から通信により供給するようにしても良いし、また第1〜第3の実施例で詳細に説明した推定手法により求めたインピーダンス(R+jX)情報、またはインピーダンス(R+jX)および電圧Vの情報を利用しても良い。
【0145】
さらに詳言すると次の通りである。
1)インピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、式(1−7)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を利用する。
【0146】
電圧Vは式(1−8)の推定値を利用する。
2)インピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、式(2−6)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を利用する。
【0147】
電圧Vは式(2−7)の推定値を利用する。
3)インピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、式(3−3)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を商用周波数に換算した値を利用する。ここで、電圧Vは前記インピーダンスを利用して式(13)により求めた値を利用する。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は電力の配電系統を運用、保守管理する産業分野や当該産業分野で使用する電気器を製造販売する産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0149】
II 無効電力補償装置
1 配電用変電所
2 フィーダ
3 変圧器
4 配電線(低圧側)
5 負荷群
6 接続位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統における変圧器の低圧側の各配電線に接続される負荷群毎に、個別に無効電力補償を行う無効電力補償装置を分散配置するとともに、前記各無効電力補償装置は、装置の無効電力の最大出力が出力される範囲まで、設置された箇所における電圧値が規程値の範囲になるような制御手段で、無効電力補償を行うように制御するものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項2】
配電系統における変圧器の低圧側の各配電線に接続される負荷群毎に、個別に無効電力補償を行う無効電力補償装置を分散配置するとともに、前記各無効電力補償装置は、前記各無効電力補償装置の前記配電線への接続位置での配電系統の状態である系統状態および各負荷群の状態である負荷状態を推定する制御手段で、前記各負荷群による電圧変動分である補償量を決定し、前記無効電力補償装置毎に前記補償量を補償するように制御されるものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項3】
請求項2に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記無効電力補償装置は前記補償量を決定する制御手段で制御され、
前記制御手段は、
前記接続位置から見た、前記無効電力補償装置を停止させた状態、および前記無効電力補償装置で既値の電流である固定電流値を供給した状態もしくは前記無効電力補償装置に既知の負荷インピーダンスを挿入した状態での前記配電系統の各インピーダンスに基づき前記負荷群が引き起こす電圧変動値を演算し、
演算した前記電圧変動値がキャンセルされるように前記無効電力補償装置の補償量を決定するものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項4】
請求項3に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記制御手段は、
前記接続位置から見た、前記無効電力補償装置を停止させた状態での前記配電系統を表わす等価回路に基づき第1の回路方程式を生成する停止状態演算部と、
前記接続位置から見た、前記無効電力補償装置で既値の電流である固定電流を供給した状態での前記配電系統を表わす等価回路に基づき第2の回路方程式を生成する接続状態演算部と、
前記第1および第2の回路方程式に基づき前記負荷群が引き起こした電圧変動値を演算するとともに、前記電圧変動値に基づき前記無効電力補償装置の補償量を演算する補償量演算部とを有し、
前記第1の回路方程式が、配電系統側の等価的な電圧源の電圧V、前記接続位置での実測電圧である電圧V、前記配電系統から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I、前記負荷群から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I、前記配電系統のインピーダンスZ、前記負荷群のインピーダンスZ、前記負荷群に設置された分散電源の等価的な電圧源の電圧Vpcsを用いて次式(1),(2),(3)で表わされ、
【数1】

前記接続状態演算部で生成される第2の回路方程式が、前記電圧V、前記接続位置での実測電圧である電圧V′、前記配電系統から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I′、前記負荷群から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I′、前記インピーダンスZ、前記インピーダンスZ、前記電圧Vpcs、前記固定電流である電流Istを用いて次式(4),(5),(6)で表わされ、
【数2】

前記補償量演算部が、前記第1および第2の回路方程式から前記配電系統のインピーダンスZおよび前記電圧Vを式(7),式(8)に基づき演算するとともに、前記電圧変動値Δ|V|を式(9)により演算し、
【数3】

さらに前接続位置から配電側および負荷側をまとめて見た合成インピーダンスZを式(10)に基づき演算するとともに、前記合成インピーダンスZを実部rと虚部xとに分けてr+jxと表わして、前記電圧変動値Δ|V|をキャンセルするよう前記無効電力補償装置が補償すべき補償量xstを式(11)もしくは式(12)で演算する
【数4】

ものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項5】
請求項3に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記制御手段は、
前記第1の回路方程式を生成する停止状態演算部と、
前記接続位置から見た、前記無効電力補償装置で既値の負荷インピーダンスを挿入した状態での前記配電系統を表わす等価回路に基づき第3の回路方程式を生成する接続状態演算部と、
前記第1および第3の回路方程式に基づき前記負荷群が引き起こした電圧変動値を演算するとともに、前記電圧変動値に基づき前記無効電力補償装置の補償量を演算する補償量演算部とを有し、
前記第1の回路方程式が、請求項4と同様に、式(13),(14),(15)で表わされ、
【数5】

前記接続状態演算部で生成される第3の回路方程式が、前記電圧V、前記接続位置での実測電圧である電圧V′、前記配電系統から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I′、前記負荷群から前記接続位置に向かって流れる実測電流である電流I′、前記インピーダンスZ、前記インピーダンスZ、前記電圧Vpcsを用いて次式(16),(17)で表わされ、
【数6】

前記補償量演算部が、前記第1および第3の回路方程式から前記配電系統のインピーダンスZおよび前記電圧Vを式(18),(19)に基づき演算するとともに、前記電圧変動値Δ|V|を式(20)により演算し、
【数7】

さらに前接続位置から配電側および負荷側をまとめて見た合成インピーダンスZを式(21)に基づき演算するとともに、前記合成インピーダンスZを実部rと虚部xとに分けてr+jxと表わして、前記電圧変動値Δ|V|をキャンセルするよう前記無効電力補償装置が補償すべき補償量xstを式(22)もしくは式(23)で演算する
【数8】

ものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項6】
請求項2に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記無効電力補償装置は前記補償量を決定する制御手段で制御され、
前記制御手段は、
商用周波数の整数倍以外の周波数に相当する電流である次数間高調波電流Ist_nを前記無効電力補償装置より出力し、当該無効電力補償装置の両端で計測される次数間高調波電圧をV1_nおよび接続位置から配電系統側に向かって流れる次数間高調波電流をI1_n接続位置から負荷側に向かって流れる次数間高調波電流をIL_nとするとき、次数間高調波における配電系統側のインピーダンスZ1_nを式(24)で求め、次数間高調波における負荷側のインピーダンスZL_nを式(25)で求め、
【数9】

さらに前記接続位置から配電側および負荷側をまとめて見た次数間高調波における合成インピーダンスZi_nを式(26)で求め、さらに前記合成インピーダンスZi_nを商用周波数に対応する値へ変換することにより前記合成インピーダンスZを求め、該合成インピーダンスZを実部rと虚部xとに分けてr+jxと表わして、前記電圧変動値Δ|V|をキャンセルするよう前記無効電力補償装置が補償すべき補償量xstを式(27)もしくは式(28)で演算する
【数10】

ものであることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項7】
配電系統における変圧器の低圧側の各配電線に接続される負荷群毎に、個別に無効電力補償を行う無効電力補償装置を分散配置するとともに、前記各無効電力補償装置は、前記各負荷群による電圧変動分に対する補償量を決定し、前記無効電力補償装置毎に前記補償量を補償するように制御手段により制御されるものである配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記制御手段は、
前記配電系統側への送り出し電圧V、前記配電系統のインピーダンス(R+jX)、前記各配電線における負荷群および前記無効電力補償装置の接続位置における前記無効電力補償装置を停止させた状態での電圧Vに基づき、前記無効電力補償装置が補償すべき補償量を前記電圧に対し90度の位相差を有する無効分電流ISTCとして次式(29)により算出し、
【数11】

上記無効分電流ISTCを出力するように前記無効電力補償装置を制御することにより、電圧変動をキャンセルするように構成したことを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項8】
請求項7に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記電圧V、前記配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、既知のパラメータとしてメモリに記憶され上式(29)の演算には、前記メモリから読み出した各パラメータを表すデータと、実測した電圧Vを表すデータとを用いることを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記電圧Vは、前記無効電力補償装置を停止させた状態における前記接続位置から前記負荷群に向かって流れる電流Iに基づき次式(30)
【数12】

により算出することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項10】
請求項7〜請求項9の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、前記式(7)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を利用することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項11】
請求項7〜請求項9の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、前記式(18)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を利用することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項12】
請求項7〜請求項9の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記配電系統のインピーダンスの抵抗分Rおよびリアクタンス分Xは、前記式(24)により推定したインピーダンスの実数部および虚数部の値を商用周波数に換算した値を利用することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項13】
請求項1〜請求項12の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化シスムにおいて、
前記負荷群には分散電源が発電した直流電力を所定の交流電力に変換するパワーコンディショナーが接続されている負荷を有することを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。
【請求項14】
請求項1〜請求項13の何れか一つに記載する配電系統における需要家電圧安定化システムにおいて、
前記各無効電力補償装置における連系用リアクトルの全部または一部として各変圧器の漏れリアクタンスや低圧配電線のリアクタンス、引込線のリアクタンスなどを利用したことを特徴とする配電系統における需要家電圧安定化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−31362(P2013−31362A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140250(P2012−140250)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】