説明

配電線電圧降下補償システム

【課題】 負荷が自律的に相当量の無効電力を配電線に注入することで特別な機器の制御を必要とすることなく安価に構築し得る配電線電圧降下補償システムを提供する。
【解決手段】 交流電源1から配電線2を経由して供給される交流電力を、配電線2の受電点P2において連系用リアクトルXを介してコンバータ4で直流電力に変換し、直流負荷であるEV充電器5に電力を供給するとともに、この電力供給により生じた配電線2の電圧降下を補償する配電線電圧降下補償システムであって、受電点P2の電圧Vに応じて所定の式で与えられる振幅と位相の電圧Vをコンバータ4の入力側に発生させるようコンバータ4を制御する制御装置6を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配電線電圧降下補償システムに関し、特に電気自動車の充電器等の直流負荷を接続した場合の電圧降下を補償する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化抑制のため二酸化炭素排出量削減が喫緊の課題となっている。これに対応して自動車の電化が提案されている。ガソリンや軽油を燃料とする内燃機関のエネルギー効率は、モーターのそれに比べてかなり低いため、自動車の動力をモーターに置き換える(電化する)ことにより二酸化炭素排出量の削減が可能となるからである。
【0003】
従来の自動車では、エネルギー源であるガソリンや軽油をガソリンスタンドで補給するスタイルが一般的である。一方、電化された自動車、すなわち電気自動車(以下、EVと略称する)の場合、エネルギー源である電力は住居や事業所の駐車場でも手に入るため、自動車を使っていない夜間に駐車場で充電するスタイルが中心になると予想される。つまり、EVが普及すれば、夜間にこれらEVが一斉に充電される状況が容易に想定される。ここで、充電に必要な電力は配電用変電所から配電線を通じて供給されることになる。この場合、夜間の配電線の過負荷に伴う配電線受電端の電圧降下が懸念される。
【0004】
ちなみに、この点に関連する従来技術は,例えば特許文献1または非特許文献1に示すように、配電線にSVR、SVC、STATCOMなどの機器を設置し、これらを集中制御しようとするものが主流である。また、非特許文献2、3に示すように太陽光発電設備大量導入時の電圧上昇抑制策として配電線電圧の分散制御を行う手法も提案されている。ただ、これらは後に詳述する本願発明とは目的が異なり、その原理も大きく異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−065788号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】辻隆男ほか、「分散型電源の動特性を考慮した将来型配電系統の集中型電圧分布制御方式の検討」、電気学会論文誌B, 129巻, 4号, 2009年(pp. 507-516)
【非特許文献2】辻隆男ほか、「経済性を考慮した将来型配電系統の自律分散型電圧分布制御方式」、電気学会論文誌B, 128巻, 1号, 2008年(pp. 174-185)
【非特許文献3】辻隆男ほか、「優先度を考慮した将来型配電系統の自律分散型電圧分布制御方式」、電気学会論文誌B, 129巻, 12号, 2009年(pp. 1533-1544)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、負荷が自律的に相当量の無効電力を配電線に注入することで特別な機器の制御を必要とすることなく安価に構築し得る配電線電圧降下補償システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、配電用変電所から配電線経由で供給される交流電力を、前記配電線の受電点において連系用リアクトルを介してコンバータで直流電力に変換し、直流負荷に電力を供給するとともに、この電力供給により生じた前記配電線の電圧降下を補償する配電線電圧降下補償システムであって、前記受電点の電圧Vに応じて式(1)および式(2)で与えられる振幅と位相の電圧Vを前記コンバータの入力側に発生させるよう前記コンバータを制御する制御手段を有することを特徴とする配電線電圧降下補償システムにある。
【0009】
【数1】

【0010】
ここで、Xは前記連系用リアクトルのリアクタンス、Rは前記直流負荷が前記配電線から有効電力を得ることで生じる電圧降下を無効電力注入により補償している状態にあるときの前記直流負荷の等価的な抵抗、Bは同状態にあるときの無効電力分に相当する等価的なサセプタンスである。
【0011】
本態様によれば、配電線の受電点の電圧を、前記受電点の電圧Vに応じて式(1)および式(2)で与えられる振幅と位相の電圧Vとすることで、直流負荷が配電線から所定の有効電力を得ることにより生じた受電点の電圧降下を、コンバータからの無効電力の注入により補償することができる。すなわち、直流負荷が配電線から有効電力を得ることによって生じた電圧降下は、コンバータが相当量の無効電力を配電線に注入することで補償するという自律的な補償を実現し得る。
【0012】
特に、夜間電力を利用した各需要家におけるEV充電器を直流負荷とする場合の配電系統の電圧降下を低減する対策として有用なものとなる。
【0013】
本発明の第2の態様は、配電用変電所から配電線経由で供給される交流電力を交流負荷に供給するとともに、前記配電線の受電点において連係用リアクトルを介しコンバータで直流電力に変換して直流負荷に供給し、かかる電力供給により生じた前記配電線の電圧降下を補償する配電線電圧降下補償システムであって、前記受電点の電圧Vに応じて式(3)および式(4)で与えられる振幅と位相の電圧Vを前記コンバータの入力側に発生させるよう前記コンバータを制御する制御手段を有することを特徴とする配電線電圧降下補償システムにある。
【0014】
【数2】

【0015】
ここで、Xは前記連系用リアクトルのリアクタンス、Rは前記交流負荷および前記直流負荷が前記配電線から有効電力を得ることで生じる電圧降下を無効電力注入により補償している状態にあるときの前記交流負荷および前記直流負荷の等価的な抵抗、Bは同状態にあるときの無効電力分に相当する等価的なサセプタンスである。
【0016】
本態様は負荷としてEV充電器等の直流負荷とともに通常の電化製品等の交流負荷も接続されている場合である。この場合でも第1の態様と同様に、負荷(本形態では交流負荷および直流負荷)が配電線から所定の有効電力を得ることにより生じた受電点の電圧降下を、コンバータからの無効電力の注入により補償することができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載する配電線電圧降下補償システムにおいて、前記サセプタンスBは式(5)で与えられることを特徴とする配電線電圧降下補償システムにある。
【0018】
【数3】

ただし、m=R/R、m=X/R、|Z|=R+X
【0019】
ここで、Rは前記配電用変電所から前記受電点までの前記配電線の抵抗、Xは前記配電線のリアクタンスである。
【0020】
本態様によれば、前述の如き自律的な電圧降下の補償を行うための条件を充足する二つのサセプタンスのうち、小さい方の値を採用しているため、コンバータの機器容量をより小さいものとすることができる。
【0021】
なお、この場合のサセプタンスBの算出に必要な配電線の抵抗RとリアクタンスXは、これらの情報を電力会社から提供してもらうか、または例えば配電用変電所から前記受電点迄の距離lの情報を電力会社から提供してもらって概算することにより求めることができる。
【0022】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様の何れか一つに記載する配電線電圧降下補償システムにおいて、前記電圧Vは柱上変圧器の二次側の電圧VTr2および二次側の電流ITr2を測定し、式(6)により求めた一次側の電圧VTr1を用いることを特徴とする配電線電圧降下補償システムにある。
【0023】
【数4】

【0024】
ここで、nは柱上変圧器の巻数比、Zは柱上変圧器の漏れインピーダンスの二次側換算値である。
【0025】
通常配電線の前記受電点の電圧Vは高電圧(例えば6.6kV)である。一方、コンバータや負荷には、通常柱上変圧器で降圧した電圧(例えば200V)が印加される。したがって、本態様によれば、柱上変圧器二次側の低圧の電圧とその電流を測定することで、配電線の受電点の電圧Vを検出することができる。すなわち、低圧(例えば200V)の電圧とその電流を計測することで所定の電圧Vの検出を行うことが可能になる。この結果、電圧Vの計測を安全且つ容易に行うことができる。
【0026】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載する配電線電圧降下補償システムにおいて、前記柱上変圧器の二次側の電圧VTr2および二次側の電流ITr2の測定情報は電力線通信を利用して前記制御手段に送出すように構成したことを特徴とする配電線電圧降下補償システムにある。
【0027】
本態様によれば、電力線通信を利用してコンバータの制御のための電圧Vの情報を制御手段に供給することができるので、電圧Vの情報を送信するための別途の配線が不要となり、その分構成を簡素化することができる。
【0028】
本発明の第6の態様は、第1ないし第5の態様の何れか一つに記載する配電線電圧降下補償システムにおいて、前記連系用リアクトルの全部または一部として前記柱上変圧器の漏れインピーダンスと低圧配線のインピーダンスを利用したことを特徴とする配電線電圧降下補償システムにある。
【0029】
本態様によれば、連系用リアクトルの全部または一部を柱上変圧器の漏れインピーダンスと低圧配線のインピーダンスで代替することができるので、その分構成を簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、受電点から直流負荷側を見た場合、抵抗とキャパシタとが並列に接続されているのと等価な状態を形成することができる。すなわち、コンバータを制御することで直流負荷が消費する有効電力に見合う所定の無効電力を配電線の受電点に注入することができる。この結果、直流負荷が配電線から有効電力を得ることによって生じた電圧降下は、その直流負荷が相当量の無効電力を配電線に注入することで補償するという自律的な補償手法を構築することができ、配電設備のコストアップを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係る配電線電圧降下補償システムを示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る配電線電圧降下補償システムにおいて、配電線の受電点の電圧Vを与える柱上変圧器の等価回路図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る配電線電圧降下補償システムを適用する配電系統を示す図で、(a)はその単線結線図、(b)はその等価回路図、(c)はEV充電器が有効電力を消費する部分を抵抗Rで、無効電力を注入する部分をサセプタンスBで模擬した場合の等価回路図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る配電線電圧降下補償システムにおいて、EV充電器の交直変換部分で構成するVSC(Voltage Source Converter)が発生すべき電圧について説明するための単線結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。本形態は電気自動車充電器(以下、EV充電器と略称する)を直流負荷とした場合であるが、勿論これに限定するものではない。直流負荷であれば、それ以上の限定はない。
【0033】
図1は本発明の実施の形態に係る配電線電圧降下補償システムを示すブロック図である。同図に示すように、本形態を適用する配電系統では、配電用変電所等の交流電源1から配電線2を介して供給した電力を、柱上変圧器3で所定の低電圧に降圧するとともに連系用リアクトル(そのリアクタンスをXとする)が接続されたコンバータ4で所定の直流電力に変換してEV充電器5に供給している。ここで、配電線2における電力の送出点をP1、受電点をP2として図1に示している。コンバータ4はPWM制御のMOSFETやIGBTのブリッジで好適に構成することができる。
【0034】
制御装置6は受電点P2の電圧Vに応じて次式(7)および(8)で与えられる振幅と位相の電圧Vをコンバータ4の入力側に発生させるようコンバータ4を制御する。すなわち、コンバータ4がPWM制御により発生する電圧Vが次式(7)および(8)で与えられる所期の振幅と位相を持つように制御する。
【0035】
【数5】

【0036】
ここで、Xは前記連系用リアクトルのリアクタンス、Rは前記交流負荷および前記直流負荷が前記配電線から有効電力を得ることで生じる電圧降下を無効電力注入により補償している状態にあるときの前記交流負荷および前記直流負荷の等価的な抵抗、Bは同状態にあるときの無効電力分に相当する等価的なサセプタンスである。
【0037】
本形態においては、上式(7)および(8)のサセプタンスBは次式(9)で求めている。
【0038】
【数6】

ただし、m=R/R、m=X/R、|Z|=R+X
【0039】
ここで、Rは前記配電用変電所から前記受電点までの前記配電線2の抵抗、Xは配電線2のリアクタンスである。
【0040】
上述の如く制御装置6は受電点P2の電圧Vに応じて所定の制御を行うものであるため、電圧Vの情報を制御装置6に供給する必要がある。本形態では変圧器3の二次側の電圧VTr2および電流ITr2を測定して、これらを表す信号を制御装置6に供給することによりコンバータ4の所定の制御に利用している。すなわち、制御装置6は、柱上変圧器3の等価回路である図2に示すように電圧VTr2および電流ITr2の情報に基づき次式(10)により求めた一次側の電圧VTr1を受電点P2の電圧Vとして用いている。
【0041】
【数7】

【0042】
ここで、nは柱上変圧器3の巻数比、Zは柱上変圧器3の漏れインピーダンスの二次側換算値である。
【0043】
上述の如く受電点P2の電圧Vの情報を得るのに柱上変圧器3の二次側の電圧VTr2および電流ITr2の情報を利用することは本発明にとって必須ではないが、電圧VTr2および電流ITr2の情報を利用することにより次のような効果を得る。通常、配電線2における受電点P2の電圧Vは高電圧(例えば6.6kV)である。一方、コンバータや直流負荷には、通常柱上変圧器3で降圧した電圧(例えば200V)が印加される。したがって、本態様によれば、柱上変圧器3の二次側の低圧の電圧とその電流を測定することで、所定の受電点P2の電圧Vを検出することができるので、電圧Vの検出が容易になる。検出した電圧VTr2および電流ITr2の測定情報は電力線通信(PLC)を利用して制御装置6に送出するように構成することができる。この場合には、一次側の電圧Vもしくは二次側の電圧VTr2と電流ITr2の情報を送信するための別途の配線等が不要となり、その分構成を簡素化することができる。
【0044】
また、連系用リアクトルには柱上変圧器3の漏れインピーダンスと低圧配線のインピーダンスを利用することもできる。この場合には、連系用リアクトルの全部または一部を柱上変圧器3の漏れインピーダンスと低圧配線のインピーダンスで代替することができるので、その分構成を簡単にすることができる。
【0045】
かかる本形態においてコンバータ4は受電点P2の電圧Vに応じて前式(7)および(8)で与えられる振幅と位相の電圧Vをその入力側に発生させる。すなわち、コンバータ4は電圧Vを発生するVSC(Voltage Source Converter)として機能し、EV充電器5が配電線2から有効電力を得ることによって生じた電圧降下は、当該EV充電器5が相当量の無効電力を配電線2に注入することで補償するという自律分散的な補償システムを構築することができる。
【0046】
次に、上記実施の形態の基本原理を図3および図4に基づき説明しておく。図3は本形態に係る配電線電圧降下補償システムを適用する配電系統を示す図で、(a)はその単線結線図、(b)はその等価回路図、(c)はEV充電器が有効電力を消費する部分を抵抗Rで、無効電力を注入する部分をサセプタンスBで模擬した場合の等価回路図である。図3(a)に示すように、配電用変電所等の交流電源1からl〔m〕の位置に1台のEV充電器5が接続されている状況を考える。
【0047】
EVのバッテリーを充電するため、EV充電器5が配電線2から力率1で電流Idを取っているとする。図3(b)はこの状況を示す等価回路である。同図に示すように、配電線2のインピーダンスをR+jXとすれば、電流Idに起因する電圧降下により受電点P2の電圧Vは配電線2の送出点P1の電圧Vよりも(R+jX)・Idだけ低くなる。すなわち

【0048】
この電圧降下が、夜間のEV充電時の配電線2の電圧低下を引き起こす。そこで、EV充電器5から無効電力を注入することにより、Vの絶対値をVの絶対値と等しくする。すなわち、受電点P2の電圧と配電線2の送出点P1の電圧を等しくすることを考える。EV充電器5の交直変換器部分はVSCであることが多いため、このVSCが発生する電圧の絶対値と位相を制御することにより、所望の無効電力を配電線2に対して注入することができる。
【0049】
ここで、EV充電器5が有効電力を消費する部分を抵抗Rで、無効電力を注入する部分をサセプタンスBで模擬すると、図3(c)に示す等価回路を得る。ただし、CをキャパシタンスとしたときサセプタンスはB=ωCで与えられる(ω=2πf、fは系統周波数)。
【0050】
いま、EV充電器5が充電のため有効電力Pを消費し、無効電力Qを注入することによりVの絶対値がVの絶対値と等しくなった状態を考えると、P,QとR,Bの間には次式(12),(13)の関係がある。
【0051】
【数8】

【0052】
すなわち、Pの値が与えられると直ちにRの値を算出することができる。一方、サセプタンスBの値は電圧Vの絶対値が電圧Vの絶対値と等しくなるように決める。このとき上式(13)の関係が満たされる(ただし、式(13)を使用してサセプタンスBの値を決めるのではない)。
【0053】
次に、電圧Vの絶対値が電圧Vの絶対値と等しくなる条件を導き、これによりサセプタンスBの値を決定する。まず、電圧Vを電圧Vで表すと、
【0054】
【数9】

となるから、
【0055】
【数10】

と書くことができる。ただし、Kは次式(16)で与えられる。
【0056】
【数11】

【0057】
上式(15)よりK=1となれば、電圧Vの絶対値と電圧Vの絶対値が等しくなるから、式(16)より次の条件式(17)を得る。
【0058】
【数12】

【0059】
上式(17)をBについて解くと次式(18)を得る。
【0060】
【数13】

ただし、m=R/R、m=X/R、|Z|=R+X
【0061】
上式(18)は、電圧Vの絶対値が電圧Vの絶対値と等しくなる条件を満たすようにEV充電器5が無効電力を注入するとき、この無効電力注入を等価的に模擬するサセプタンスの値を与える。ここで、式(18)は2つの解をもつが、注入する無効電力は小さい方がEV充電器5の機器容量を小さくでき有利であるため、±は負号の方を採用するとサセプタンスBは式(9)となる。
【0062】
かくして、EV充電器5が配電線2から有効電力Pを得ることで生じる電圧降下を無効電力注入により補償している状態にあるとき、EV充電器5の等価回路は 式(12)で与えられる抵抗Rと式(13)で与えられるサセプタンスBの並列接続で与えられることになる。
【0063】
ここで、EV充電器5のVSCが発生すべき電圧について説明する。図4は当該VSCが発生すべき電圧について説明するための単線結線図である。同図に示すように、VSC(EV充電器5)が連系用リアクトル(リアクタンスX)を介して配電線2に接続されているとき、VSCが発生する電圧をVとすると、配電線2からEV充電器5に流れ込む電流は次式(19)で表すことができる。
【0064】
【数14】

【0065】
いま、位相の基準を電圧Vにとり(電圧Vの位相を0°とする)、Vを2軸分解してV=V+jVと表すと、上式(19)は、
【0066】
【数15】

と書ける。
【0067】
一方、EV充電器5は、電圧降下を補償している状態において、抵抗RとサセプタンスBの並列接続で表されるから、電流Iは、
【0068】
【数16】

【0069】
と表すことができる。式(20)と式(21)との比較より、
【0070】
【数17】

を得る。
【0071】
以上より、EV充電器5のVSCが式(7)および式(8)で与えられる振幅と位相の電圧を発生することにより、配電線2から有効電力Pを得ることで生じる電圧降下を無効電力注入により補償できることになる。
【0072】
なお、上記実施の形態では、負荷がEV充電器5、すなわち直流負荷である場合について説明したが、これに限定するものではない。直流負荷と並列に交流負荷、例えば、白熱電球による照明等の電化製品が接続されている場合にも同様に適用でき、同様の電圧降下の補償を実現できる。この場合には、式(7)、(8)におけるRを、交流負荷および直流負荷が配電線2から有効電力を得ることで生じる電圧降下を無効電力注入により補償している状態にあるときの前記交流負荷および前記直流負荷の等価的な抵抗で置換してやれば良い。
【0073】
また、上記実施の形態では最も単純化した一本の配電線2に関して所定の電圧降下の補償を行う場合を示したが、勿論これに限定するものではない。現存する通常の配電網に適用した場合でも各受電点P2で近似的に同様の電圧降下の補償を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は配電網を介して負荷、特にEV充電器等の直流負荷に電力を供給する配電業務を行う産業分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 交流電源
2 配電線
3 柱上変圧器
4 コンバータ
5 EV充電器
6 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電用変電所から配電線経由で供給される交流電力を、前記配電線の受電点において連系用リアクトルを介してコンバータで直流電力に変換し、直流負荷に電力を供給するとともに、この電力供給により生じた前記配電線の電圧降下を補償する配電線電圧降下補償システムであって、
前記受電点の電圧Vに応じて式(1)および式(2)で与えられる振幅と位相の電圧Vを前記コンバータの入力側に発生させるよう前記コンバータを制御する制御手段を有することを特徴とする配電線電圧降下補償システム。
【数1】

ここで、Xは前記連系用リアクトルのリアクタンス、Rは前記直流負荷が前記配電線から有効電力を得ることで生じる電圧降下を無効電力注入により補償している状態にあるときの前記直流負荷の等価的な抵抗、Bは同状態にあるときの無効電力分に相当する等価的なサセプタンスである。
【請求項2】
配電用変電所から配電線経由で供給される交流電力を交流負荷に供給するとともに、前記配電線の受電点において連系用リアクトルを介しコンバータで直流電力に変換して直流負荷に供給し、かかる電力供給により生じた前記配電線の電圧降下を補償する配電線電圧降下補償システムであって、
前記受電点の電圧Vに応じて式(3)および式(4)で与えられる振幅と位相の電圧Vを前記コンバータの入力側に発生させるよう前記コンバータを制御する制御手段を有することを特徴とする配電線電圧降下補償システム。
【数2】

ここで、Xは前記連系用リアクトルのリアクタンス、Rは前記交流負荷および前記直流負荷が前記配電線から有効電力を得ることで生じる電圧降下を無効電力注入により補償している状態にあるときの前記交流負荷および前記直流負荷の等価的な抵抗、Bは同状態にあるときの無効電力分に相当する等価的なサセプタンスである。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する配電線電圧降下補償システムにおいて、
前記サセプタンスBは式(5)で与えられることを特徴とする配電線電圧降下補償システム。
【数3】

ただし、m=R/R、m=X/R、|Z|=R+X
ここで、Rは前記配電用変電所から前記受電点までの前記配電線の抵抗、Xは前記配電線のリアクタンスである。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一つに記載する配電線電圧降下補償システムにおいて、
前記電圧Vには柱上変圧器の二次側の電圧VTr2および二次側の電流ITr2を測定し、式(6)により求めた一次側の電圧VTr1を用いることを特徴とする配電線電圧降下補償システム。
【数4】

ここで、nは柱上変圧器の巻数比、Zは柱上変圧器の漏れインピーダンスの二次側換算値である。
【請求項5】
請求項4に記載する配電線電圧降下補償システムにおいて、
前記柱上変圧器の二次側の電圧VTr2および二次側の電流ITr2の測定情報は電力線通信を利用して前記制御手段に送出すように構成したことを特徴とする配電線電圧降下補償システム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか一つに記載する配電線電圧降下補償システムにおいて、
前記連系用リアクトルの全部または一部として前記柱上変圧器の漏れインピーダンスと低圧配線のインピーダンスを利用したことを特徴とする配電線電圧降下補償システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−39834(P2012−39834A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180635(P2010−180635)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】