説明

酒さのマーカー及び診断方法

本発明は、インターロイキン8(IL-8)、CXCL1、CXCL2、CXCL3及びCXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択される、ケモカイン及びサイトカイン並びにこれらのレセプターうちの酒さのマーカーに関し、酒さの診断方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野、特に酒さのマーカーの分野に関し、酒さの診断方法にも関する。
【0002】
本発明は、特に、本発明者らが酒さにおけるケモカイン及びサイトカインとこれらのレセプターとの両方の過剰発現を最初に実証したという事実に基づいており、このことはこの病理状態の新規な特徴決定であり、この特徴決定は現在まで記載されたことはない。
【背景技術】
【0003】
酒さは、血管の弛緩に関連する一般的な慢性及び進行性の炎症性皮膚病である。これは、主に顔の中央部分に発病し、顔の発赤又は顔面潮紅、顔面紅斑、丘疹、膿疱、毛細血管拡張によって、時には、眼性酒さと呼ばれる眼病変によって特徴付けられる。重篤な症例では、特に男性において、鼻の軟組織が腫脹し、鼻瘤として知られている球状腫脹を生ずることがある。
【0004】
酒さは、一般に25歳から70歳の間に生じ、色白の人により多く見られる。酒さは、特に女性により多く発症するが、この状態は一般に男性においてより重篤である。酒さは慢性的であり、悪化及び再発の期間を伴って何年間も持続する。
【0005】
酒さは、その膿疱及び炎症性膿疱が尋常性座瘡のものと大きく類似しているので、初めは「酒さ性座瘡」と呼ばれた。
【0006】
この顔面血管異常の結果は、真皮の永久的浮腫であり、これは、患者の皮膚に存在する寄生虫ニキビダニ(Demodex folliculorum)のコロニー形成の増加を伴うことがある。
【0007】
このように、この状態を必ずしも誘発することなく、多くの要因が関わることがある。これらは、例えば、心理的要因、胃腸管障害、環境的要因(日光への曝露、温度、湿度)、感情的要因(ストレス)、食事要因(アルコール、スパイス)、ホルモン要因、血管要因又はさらにはヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pilori)感染である。
【0008】
国立酒さ協会(National Rosacea Society)によると、酒さを4つのサブタイプと1つの変種(紅斑毛細血管拡張性(erythematotelangiectatic)、丘疹膿疱性、腫瘤性(phymatous)及び眼性酒さ、並びに肉芽腫性酒さ(granulomatous rosacea)として知られている変種)とに分類することができる。
【0009】
多様な酒さのサブタイプを下記に取り上げる。
【0010】
第1サブタイプ-紅斑毛細血管拡張性酒さ:
これは、主に突発的な紅斑及び持続的な中枢性顔面紅斑により特徴付けられる。毛細血管拡張症の出現は一般的であるが、この第1サブタイプの診断にとって必須ではない。中枢性顔面浮腫、灼熱感及び鱗屑も、報告されている症状である。通常、患者は、顔の細動脈が急激な拡張に起因する紅色症発作を経験し、次にうっ血性の赤色外観になる。これらの発作は、特に、情動、食事及び温度変化によりもたらされる可能性がある。
【0011】
第2サブタイプ-丘疹膿疱性酒さ:
これは、中枢性顔面丘疹又は膿疱の外観を有する持続的な中枢性顔面紅斑により特徴付けられる。しかし、丘疹及び膿疱は、開口周辺領域、すなわち口周囲、鼻周囲又は眼周囲の領域においても生じる可能性がある。この第2サブタイプは、面皰がないという事実を除いて尋常性座瘡と類似している。灼熱感も出現することがある。このサブタイプは、多くの場合、第1サブタイプの後又はそれとの組合せで見られる。毛細血管拡張症は、多くの場合、第1サブタイプの酒さの後又はそれと共に観察される。これらの毛細血管拡張症は、紅斑、丘疹又は持続性膿疱により分かりにくいことがある。一部の患者は、頬及び前頭に浮腫も示す。
【0012】
第3サブタイプ-腫瘤性酒さ:
このサブタイプは、皮膚の肥厚及び不規則な表面小結節形成により特徴付けられる。鼻瘤が最も一般的に出現するが、腫瘤性酒さは、顎、前頭、頬及び耳などの他の部分にも出現する可能性がある。このサブタイプを罹患している患者は、拡大した顕著な濾胞開口部を示すこともある。またこのサブタイプは、多くの場合、サブタイプ1若しくは2の後又はこれらとの組合せで観察され、紅斑、毛細血管拡張症、丘疹及び持続性膿疱を含む。鼻瘤の場合では、これらの追加的な斑点は鼻領域において特に顕著なことがある。
【0013】
第4サブタイプ-眼性酒さ:
酒さの診断は、患者の眼が以下の徴候及び症状の1つ又は複数を示すときに考慮されるべきである:結膜の充血した外観、過剰な流涙、眼中の異物感、灼熱、乾燥、痒み、羞明、視朦、結膜毛細血管拡張症又は眼瞼周縁部毛細血管拡張症、眼周囲紅斑、眼瞼炎、結膜炎及びマイボーム腺機能不全。これらの徴候又は症状は、皮膚徴候の出現の前、間又は後に生じる。眼性酒さは、他の皮膚症状が存在するときに最も一般的に診断される。しかし、皮膚徴候は診断にとって必要ではなく、研究は、眼の徴候及び症状が、症例の20%において皮膚所見の前に生じうることを示唆している。
【0014】
肉芽腫性変種:
硬化した黄色、褐色又は赤色の丘疹又は小結節、さらに及び丘疹部位の単形性病変により特徴付けられる酒さの肉芽腫性変種も存在する。酒さの他の徴候も存在することがある。
【0015】
当然のことながら、酒さの病理的所見は疾患のサブタイプによって変わる。しかし、患者は、幾つかの異なるサブタイプの特徴を同時に有する場合があることに留意されたい。疾患が必ずしも1つのサブタイプから他に進行しないことも留意されたい(Wilkin et al.、2002、J. AM. Acad. Dermatol.第46巻、584〜587頁)。
【0016】
通常、酒さは、テトラサイクリン、エリスロマイシン若しくはクリンダマイシンなどの抗生物質によってだけでなく、さらにはサリチル酸、抗真菌剤、ステロイド若しくはメトロニダゾールにより又は重度の形態ではイソトレチノインにより又はアゼライン酸などの抗感染薬によって経口的又は局所的に治療される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO2009/068825
【特許文献2】WO2009/053493
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Wilkin et al.、2002、J. AM. Acad. Dermatol.第46巻、584〜587頁
【非特許文献2】Busch-Petersen J.; Curr Top Med Chem. 2006;6(13):1345〜52
【非特許文献3】Transactivation of Vascular Endothelial Growth Factor Receptor-2 by Interleukin-8 (IL-8/CXCL8) Is Required for IL-8/CXCL8-induced Endothelial Permeability. D Melissa L. et al (2007) Molecular Biology of the Cell 第18巻、5014〜5023
【非特許文献4】IL-8 Directly Enhanced Endothelial Cell Survival, Proliferation, and Matrix Metalloproteinases Production and Regulated Angiogenesis. Aihua Li et al、The Journal of Immunology、2003、170: 3369〜3376
【非特許文献5】Autocrine role of IL8 in induction of EC proliferation survival, migration and MMP2 production and angiogenesis Aihua Li et al、Angiogenesis、2005、8:63〜71
【非特許文献6】The CXC Chemokine Receptor 2, CXCR2, Is the Putative Receptor for ELR1 CXC Chemokine-Induced Angiogenic Activity. Christina L. Addison et al、The Journal of Immunology、2000、165: 5269〜5277
【非特許文献7】Wong R et al.、「Analysis of RNA recovery and gene expression in the epidermis using non-invasive tape stripping」; J Dermatol Sci.2006年11月; 44(2):81〜92
【非特許文献8】Benson NR, et al.、「An analysis of select pathogenic messages in lesional and non-lesional psoriatic skin using non-invasive tape harvesting.」J Invest Dermatol. 2006年10月; 126(10): 2234〜41
【非特許文献9】Wong R et al.、「Use of RT-PCR and DNA microarrays to characterize RNA recovered by non-invasive tape harvesting of normal and inflamed skin.」J Invest Dermatol. 2004年7月; 123(1):159〜67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明は、インターロイキン8(IL-8)、CXCL1、CXCL2、CXCL3及びCXCL5から選択されるケモカイン及びサイトカイン、CXCR1レセプター並びにCXCR2レセプターのうちの酒さマーカーに関し、酒さの診断方法にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の第1の主題は、それらを検出及び/又はアッセイできるように、したがって酒さマーカーとして使用できるように、インターロイキン8(IL-8)、CXCL1、CXCL2、CXCL3及びCXCL5から選択されるケモカイン及びサイトカイン、CXCR1レセプター並びにCXCR2レセプター、さらに並びに対応するタンパク質をコードするDNA又はmRNAの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
IL-8(CXCL-8)は、CXCケモカインのファミリーのメンバーであり、これは炎症部位への好中球及び他の炎症性細胞の動員において必須の役割を果たす(総説は、Busch-Petersen J.; Curr Top Med Chem. 2006;6(13):1345〜52を参照されたい)。IL-8は、また、i)内皮細胞の活性化(接着分子の増殖の誘発及び発現の増加:Transactivation of Vascular Endothelial Growth Factor Receptor-2 by Interleukin-8 (IL-8/CXCL8) Is Required for IL-8/CXCL8-induced Endothelial Permeability. D Melissa L. et al (2007) Molecular Biology of the Cell 第18巻、5014〜5023);ii)血管透過性の増加(Transactivation of Vascular Endothelial Growth Factor Receptor-2 by Interleukin-8 (IL-8/CXCL8) Is Required for IL-8/CXCL8-induced Endothelial Permeability. D Melissa L. et al (2007) Molecular Biology of the Cell 第18巻、5014〜5023);並びにiii)血管新生(IL-8 Directly Enhanced Endothelial Cell Survival, Proliferation, and Matrix Metalloproteinases Production and Regulated Angiogenesis. Aihua Li et al、The Journal of Immunology、2003、170: 3369〜3376; Autocrine role of IL8 in induction of EC proliferation survival, migration and MMP2 production and angiogenesis Aihua Li et al、Angiogenesis、2005、8:63〜71; The CXC Chemokine Receptor 2, CXCR2, Is the Putative Receptor for ELR1 CXC Chemokine-Induced Angiogenic Activity. Christina L. Addison et al、The Journal of Immunology、2000、165: 5269〜5277)において役割を果たすことが記載されている。
【0022】
7-膜貫通ドメインGタンパク質共役レセプターファミリーの2つのケモカインレセプター(CXCR1及びCXCR2)は、IL-8により特異的に活性化されることが知られている。CXCR2はIL-8に、並びにCXCL6、CXCL1、CXCL2、CXCL3及びCXCL5などの関連するケモカインに強い親和性で結合するが、CXCR1はIL-8のみに結合する。
【0023】
本出願の例は、2つのレセプターCXCR2及びCXCR1を標的にするサイトカイン(IL8、CXCL2、CXCL3、CXCL5)の発現において少なくとも2倍の増加を示し、それによって、ケモカイン及びサイトカインと記述されたレセプターとの両方の過剰発現を全体的に実証し、したがって酒さに特徴的な生物学的マーカーを表している。
【0024】
本発明の目的において、用語「マーカー」又は「生物学的マーカー」は、特定の病理学的状態の存在又は不在と関連する生物学的マーカーを意味する。生物学的マーカーは、特に、タンパク質、mRNA又はDNAである。
【0025】
当業者は、目的の遺伝子のmRNAを分析及び/又は検出する方法、特に定量的又は半定量的に検出する技術について熟知している。
【0026】
用語「分析及び/又は検出する方法」は、遺伝子発現のレベルを測定することを可能にする任意の方法を意味することが意図される。これらの方法は、一般に当業者にはよく知られており、転写速度又は翻訳速度に応じて選択される。
【0027】
用語「転写速度」は、mRNAのレベルを意味することが意図される。用語「翻訳速度」は、タンパク質発現のレベルを意味することが意図される。
【0028】
遺伝子/マーカー(例えば、タンパク質)を発現する産物を、ウエスタンブロッティング、IHC、質量分析(Maldi-TOF及びLC/MS分析)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、Elisa又は当業者に既知の他の任意の方法などのあらゆる適切な方法により、或いは当業者に慣用的に知られている方法に従ってmRNAをアッセイすることにより分析することができる。mRNAと特定のヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションに基づいた技術は、最も慣用的である(ノーザンブロッティング、RT-PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)、定量的RT-PCR(qRT-PCR)、RNアーゼ保護)。
【0029】
したがって、本発明の別の態様は、以下の工程:
a)本明細書下記に記載されているように個体から生物学的試料を採取する工程、
b)IL-8、CXCL2、CXCL3及びCXCL5から選択されるケモカイン又はサイトカイン、CXCR1レセプター、CXCR2レセプターの発現レベルを分析する工程であって、これらの因子のうちの少なくとも1つの過剰発現が酒さの指標であり、したがって酒さを診断する、工程
を含む酒さの診断方法に関する。
【0030】
本発明の代替的実施態様において、酒さの診断方法は以下の工程:
a)本明細書下記に記載されているように個体から採取された試料において、IL-8、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択されるマーカーの発現レベルを検出する工程、
b)健康な個体から採取された試料、好ましくは同等の試料において、IL-8、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択される少なくとも1つのマーカーの発現レベルを検出する工程、
c)発現レベルが健康な個体の発現レベルより有意に高い少なくとも1つのマーカーの発現レベルの差を比較する工程、
d)前記マーカーのうちの少なくとも1つの過剰発現が酒さの指標であり、したがって酒さの診断を可能にする、工程
を含む。
【0031】
表現「因子又はマーカーのうちの1つの過剰発現」は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%、さらにより好ましくは少なくとも200%増加した発現レベル、又は異なる表現であるが同等の意味で、少なくとも2倍増加した発現レベル若しくは正常な個体のレベルの少なくとも2倍高い発現レベルを意味することが意図され、このことは、ケモカイン、サイトカイン及び上記に記述されたレセプターの過剰発現を全体的に実証し、したがって酒さに特徴的なマーカーを表す。
【0032】
本発明の別の態様によると、後者は酒さの進行をモニタリングする方法に関し、したがって酒さの進行を予測する方法に関する。この方法は、以下の工程:
a)個体から生物学的試料を採取する工程;
b)採取された試料において、IL-8、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択されるマーカーの発現レベルを分析する工程であって、これらのマーカーのうちの少なくとも1つの発現の変化が、その場合酒さの進行の指標である、工程
を含む。
【0033】
本発明の文脈において、生物学的試料は個体から採取されるあらゆる種類の試料に相当し、組織試料又は血液、リンパ液若しくは間質液などの体液試料でありうる。
【0034】
1つの特定及び好ましい実施態様によると、試料は、多様な大きさ(好ましくは、直径1〜6mm)の生検材料又はWong R et al.、「Analysis of RNA recovery and gene expression in the epidermis using non-invasive tape stripping」; J Dermatol Sci.2006年11月; 44(2):81〜92;若しくはBenson NR, et al.、「An analysis of select pathogenic messages in lesional and non-lesional psoriatic skin using non-invasive tape harvesting.」J Invest Dermatol. 2006年10月; 126(10): 2234〜41;或いはWong R et al.、「Use of RT-PCR and DNA microarrays to characterize RNA recovered by non-invasive tape harvesting of normal and inflamed skin.」J Invest Dermatol. 2004年7月; 123(1):159〜67に記載された方法に従ってD-Squameを用いるなどの、テープストリッピングにより採取された皮膚試料である。テープストリッピングの原理によると、使用される製品は、軟質半透明ポリマー支持体及び接着剤を含む。製品は、好ましくは接着力が失われるまで患者の皮膚に繰り返し適用される。得られた試料は、表皮の最外層の含有物のみに関する。特にこの試料採取方法により得られたタンパク質含有物を分析する方法は、病理学的な皮膚の状態に特異的なマーカーをモニタリングすること及び診断を方向付けることを目的として特許出願WO2009/068825(Galderma R&D)に記載されている。
【0035】
この方法は特定のプロテオミックマーカーの存在、不在又は変化を検出するのに素早く非侵襲的であり比較的安価であるので、特に好ましい。
【0036】
この方法は、その存在、不在又は量若しくは基準値と比較した濃度の変化が、特定の病理学的な皮膚の状態の存在、進行又は不在と関連する少なくとも1つのタンパク質を検出するための、軟質接着性支持体より得られた皮膚試料の質量分析による検出により特に特徴付けられる。
【0037】
別の特定の実施態様によると、試料は、特許出願WO2009/053493(Galderma R&D)に記載された方法により試料採取された毛嚢でありうる。この方法は、特に、毛嚢の非侵襲的試料採取さらに及び遺伝子又はマーカーの発現プロフィールを確認するために後者を分析する方法を記載する。
【0038】
別の態様によると、本発明は、酒さを治療するための治療の有効性をモニタリングする方法に関し、この方法は以下の工程:
a)酒さの症状の1つ又は複数を有することが確認されている個体に所望の治療を投与する工程、
b)本明細書上記に記載されているように個体から生物学的試料を採取する工程、
c)b)で採取された試料において、IL-8、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択されるマーカーの発現レベルを、当業者に既知の任意の適切な技術により分析する工程であって、マーカーのうちの少なくとも1つの発現の変化が、酒さの治療における指標である、工程
を含む。好ましくは、上記のマーカーのうちの少なくとも1つの発現は、正常な個体において知られている発現レベルまで減少し、又はそれに近づく。
【0039】
以下の実施例は、本発明をその範囲を限定することなく説明する。
【実施例】
【0040】
良好な健康状態の志願者と比較した第I度 (紅斑毛細血管拡張性)、第II度(丘疹膿疱性)及び第III度(腫瘤性)の酒さに罹患している患者の皮膚におけるIL-8、及び関連するケモカイン並びにこれらのレセプターの発現及び調節
この実施例の目的は、酒さ(第I〜III度)に罹患している患者におけるケモカインのmRNA、特にIL-8のmRNAの量を測定すること及びこれらの発現データを健康な個体のものと比較することである。
【0041】
良好な健康状態の患者の皮膚を成形術の後で得た(n=6;顔)。4mmの生検を、良好な臨床試験実施基準に従い、生検パンチ技術を使用して、第I度(n=10)、第II度(n=10)及び第III度(n=5)を表す酒さに罹患している患者に実施した(各度の臨床記載は、Wilkin et al.、2002、J. AM. Acad. Dermatol.第46巻、584〜587頁の分類に従って実施した)。多様な試料に由来するメッセンジャーRNAは、製造会社の方法に従って、Qiagen(商標)のRneasy protect Microkit(商標)を使用して調製した。
【0042】
mRNAの品質は、製造会社の使用説明書に従ってAgilent RNA 6000 NanoKitを使用して評価した。
【0043】
ケモカインのmRNA、並びにCXCR1及びCXCR2レセプターのmRNAの発現は、半定量的PCR技術(qRT-PCR - Taqman Low Density Arrays)を使用して評価した。PCR分析は、Cycler 7900 HT装置(Applied Biosystem)を使用して実施した。PCR条件は、以下であった:40サイクル、7900回のエミュレーション。
【0044】
Ctは、全ての試料において同じ蛍光レベルを達成することを可能にするPCRサイクルの数に相当する。発現レベルは、群毎の全ての試料で得られるCtの平均及び標準偏差により、各群において表される(算術平均+/-標準偏差)。
【0045】
「健康な志願者」群と比較したサブタイプ間の発現差異を、3つのハウスキーピング遺伝子(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、ベータ-アクチン(ACTB)及びヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1))の発現によりCtを標準化した後、平均誘導係数(I.F.)により測定する。
【0046】
結果を解釈すると、以下の原則が当てはまる:Ctの平均数は各遺伝子におけるmRNAの豊富さと逆相関する。
【0047】
低い値を有する平均Ctは、強力に発現した遺伝子を反映している。逆に、高い値を有する平均Ctは、遺伝子が弱く発現していることを示している。平均Ctの値が35を超えると、研究した遺伝子に対応するmRNAが試料に不在であると考えられる。研究した遺伝子に対応するmRNAにおいて、35〜30の間の平均Ctは弱いが検出可能な発現を示し、25〜30の平均Ctは中程度の発現を示し、最後に、25未満の平均Ctは強い発現を示す。
【0048】
表1:Microfluidic Card技術(Applied Biosystems)の使用を介した、良好な健康状態の志願者と比較した第I度(紅斑毛細血管拡張性)、第II度(丘疹膿疱性)及び第III度(腫瘤性)の酒さに罹患している患者の皮膚におけるIL-8、及び関連するケモカイン並びにこれらのレセプターの発現のqRT-PCR測定
【0049】
【表1】

【0050】
表2:「健康な志願者」群と比較したmRNAの発現の相対的平均誘導
【0051】
【表2】

【0052】
表1及び2に示された結果は、ケモカインが健康な志願者の皮膚において不在であることを実証している(35PCRサイクルを超えた平均Ct)。逆に、多様な酒さサブタイプにおいて、ケモカインの発現は強く誘導されている。CXCR1及びCXCR2レセプターのmRNAは、低レベルの発現及び中程度のレベルの発現がそれぞれ検出されている。僅かな誘導を酒さ患者において観察することができる。
【0053】
表2の結果は、2つのレセプターCXCR2及びCXCR1を標的にするサイトカイン(IL8、CXCL2、CXCL3、CXCL5)の過剰発現を実証しており、これは、酒さにおけるサイトカインとレセプターとの両方の過剰発現を全体的に実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒さのマーカーとしての、インターロイキン8(IL-8)、CXCL1、CXCL2、CXCL3及びCXCL5から選択されるケモカイン及びサイトカイン、CXCR1レセプター並びにCXCR2レセプター、さらに並びに対応するタンパク質をコードするDNA又はmRNAの使用。
【請求項2】
以下の工程:
a)個体から生物学的試料を採取する工程、
b)IL-8、CXCL2、CXCL3及びCXCL5から選択されるケモカイン又はサイトカイン、CXCR1レセプター、CXCR2レセプターの発現レベルを分析する工程であって、これらの因子のうちの少なくとも1つの過剰発現が酒さの指標であり、したがって酒さを診断する、工程
を含む酒さの診断方法。
【請求項3】
以下の工程:
a)個体から採取された試料において、IL-8、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択されるマーカーの発現レベルを検出する工程、
b)通常の個体から採取された試料において、IL-8、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択されるマーカーの発現レベルを検出する工程、
c)発現レベルが健康な個体の発現レベルより有意に高い少なくとも1つのマーカーの発現レベルの差を比較する工程、
d)前記マーカーのうちの少なくとも1つの過剰発現が酒さの指標であり、したがって酒さを診断する、工程
を含む酒さの診断方法。
【請求項4】
レセプター又はサイトカインの過剰発現が通常の個体のレベルの少なくとも2倍高いレベルでの発現である、請求項2に記載の診断方法。
【請求項5】
以下の工程:
a)個体から生物学的試料を採取する工程、
b)採取された試料において、IL-8、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択されるマーカーの発現レベルを分析する工程であって、前記マーカーのうちの少なくとも1つの発現の変化が、酒さの進行の指標である、工程
を含む、酒さの進行をモニタリングする方法。
【請求項6】
以下の工程:
a)酒さの症状の1つ又は複数を有することが確認されている個体に所望の治療を投与する工程、
b)前記個体から生物学的試料を採取する工程、
c)b)で採取された試料において、IL-8、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCR1レセプター及びCXCR2レセプターから選択されるマーカーの発現レベルを分析する工程であって、前記マーカーのうちの少なくとも1つの発現の変化が、酒さの治療における指標である、工程
を含む、酒さを治療するための治療の有効性をモニタリングする方法。
【請求項7】
前記生物学的試料が、組織試料又は血液、リンパ液若しくは間質液などの体液試料、多様な大きさ、好ましくは直径1〜6mmの生検材料、テープストリッピング又は軟質半透明ポリマー支持体及び接着剤により採取された皮膚試料、並びに毛嚢から選択される、請求項2から6に記載の診断及びモニタリング方法。

【公表番号】特表2013−514070(P2013−514070A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543751(P2012−543751)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069896
【国際公開番号】WO2011/073321
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(599045604)ガルデルマ・リサーチ・アンド・デヴェロップメント (117)
【出願人】(512157944)ウニヴェルシテート・ミュンスター (1)
【Fターム(参考)】