説明

酒石酸修飾ニッケル触媒とその製造方法および(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの製造方法

【課題】光学活性な物質を得るための触媒として、酒石酸修飾ラネーニッケル触媒が有効であることが知られているが、この触媒は保存性に乏しく、修飾操作を行ったら、直ちにケト酸などの合成に利用しなければならないという課題があった。
【解決手段】触媒の基材としてラネーニッケルではなく、平均粒径3μm程度のニッケル粒子を用い、酒石酸で修飾した後、乾燥させ粉末状態にすることで、低酸素雰囲気中での保存特性が飛躍的に向上し、およそ3ヶ月の保存後であっても、立体選択性が70%以上残っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルを製造する際に利用する酒石酸修飾ニッケル触媒とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(R)−3−ヒドロキシ酸類は、脂肪酸生合成及び代謝での重要な中間体である。生体内にも広く分布している。また、マクロライド系の抗生物質やプロスタグランジンといった医薬品をはじめ、農薬や成長ホルモンといった生理活性物質の出発原料となる。
【0003】
この光学活性な(R)−3−ヒドロキシ酸類の合成には、様々な化学的、生物化学的な手法が存在する。その中でも特許文献1などに示される不均一系キラル修飾ニッケル触媒を用いる方法は、工業的な大量生産の観点から非常に有望である。なぜならば、不均一系キラル修飾ニッケル触媒は容易に調製が可能であり、回収再使用が可能であり、しかも安価であるため、環境にもやさしい技術であるからである。
【0004】
酒石酸修飾ニッケル触媒は、立体選択的水素化反応において高い立体選択性を有する不均一系キラル触媒の1つである。不均一系のキラル修飾触媒を実用的な水素化反応に応用するためには、次の点が重要と考えられる。すなわち、第1に、高い立体選択性を有することである。また、第2に、回収再使用における高い耐久性を有することである。また、第3に、修飾触媒調製後の水素化活性および立体選択性の高い保存耐久性を有することである。
【0005】
立体選択性については、多くの報告がなされている。しかし、回収し再使用する際の耐久性や保存耐久性についての知見は少ない。特許文献2は、β−ケト酸エステルからβ−ヒドロキシ酸エステルを製造するために有用な、立体区別還元用修飾触媒を開示している。ここで酒石酸修飾ニッケルの課題としてあげているのが、少数回の繰り返し使用によって触媒活性が急速に低下することである。
【0006】
特許文献2では、この課題を解決する方法として、ニッケル触媒を、少なくとも1種の光学活性オキシ酸と、少なくとも1種の無機塩類とを含む第1水溶液に浸漬し、さらに少なくとも1種のアミン化合物を含む第2溶液に浸漬する。
【0007】
このようにニッケル触媒を2種類の溶液に浸漬することで、複数回の使用によっても触媒活性は低下しないとされた。
【0008】
一方、特許文献3では、酒石酸で修飾したラネーニッケル触媒は、触媒活性は高いものの、立体区別還元反応の直前に修飾の操作を行い、空気との接触を避けて、ただちに反応を行わなければならない点を課題としている。すなわち、あらかじめ修飾触媒組成物を調製して保存しておくことが不可能であった。
【0009】
この課題に対して、特許文献3では、修飾された触媒と通気性を有するシリコーン樹脂とを混練して、所望の形状に固化させることで、保存性を発揮するとしている。これによると、固化して2カ月後でも触媒活性が確認されたとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭39−022943号公報
【特許文献2】特開昭61−028458号公報
【特許文献3】特開昭58−043236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2の方法による修飾ニッケル触媒は、繰り返し使用による触媒活性の低下は改善していると認められるが、長期の保存性に関しては、なんらの言及もない。一方、特許文献3では、触媒を修飾後通気性を有するシリコーン樹脂で固化することで、2カ月の保存に耐えるようにはされている。
【0012】
しかし、シリコーン樹脂は反応中に反応溶液を吸収し膨潤するため、反応溶液の一部が回収できなくなってしまう欠点を有している。そのため、シリコンポリマーなどを用いない保存耐久性の高い触媒の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の課題に鑑み想到されたものであり、シリコーン樹脂などで固化することなく、長期保存が可能な触媒を提供することである。
【0014】
より具体的には、本発明の触媒は、
ニッケル粒子を酒石酸で修飾し、乾燥させたことを特徴とする乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒である。
【0015】
また、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、
前記ニッケル粒子は平均粒径が2乃至5μmであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、減酸素雰囲気中での2週間以上の保存後に、(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルに対する立体選択性が70%以上あることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒の製造方法は、
ニッケル粒子を水素により活性化させた、活性化ニッケル粒子を得る工程と、
前記活性させたニッケル粒子を酒石酸で修飾し、修飾されたニッケル粒子を得る修飾工程と、
前記修飾されたニッケル粒子を減圧環境中で乾燥し、乾燥した酒石酸修飾ニッケル触媒を得る乾燥工程を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒の製造方法において、
前記乾燥工程は、30℃〜100℃の昇温雰囲気で行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケルを用いた(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、乾燥した粉末状のまま、窒素パージされた容器など低酸素雰囲気中で保存すれば、およそ3ヵ月の保存後であっても、立体選択性が70%程度までしか低下しない。そのため、従来のように酒石酸で修飾したら直ちに使用しなくて良い。従って、(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの工業的な製造の設備および工程の融通性を高くすることができる。その結果、(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの製造コストを大幅にダウンさせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、ニッケル粒子を酒石酸で修飾したものである。本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、以下のようにして作製される。
【0022】
まずニッケル粒子を用意する。ニッケル粒子は、固相反応若しくは液相反応のどちらで作製されたものでもよい。例えば、固相反応としては、塩化ニッケルの化学気相蒸着やギ酸ニッケル塩の熱分解などが知られている。また、液相反応としては、塩化ニッケルなどのニッケル塩を水素化ホウ素ナトリウムなどの強力な還元剤で直接還元する方法や、NaOH存在下ヒドラジンなどの還元剤を添加して前駆体[Ni(HNNH]SO・2HOを形成した後に熱分解する方法若しくは、塩化ニッケルなどのニッケル塩や有機配位子を含有するニッケル錯体を溶媒とともに圧力容器に入れて水熱合成する方法などが知られている。
【0023】
ニッケル粒子の大きさは、平均粒子径で10μm以下、好ましくは2〜5μm程度であるのがよい。粒径が大きくなると表面積が減り、触媒としての活性が低下するからである。ニッケル粒子の例としては、SIGMA−ALDRICH Nickel powder 3μm が挙げられる。
【0024】
なお、このようなニッケル触媒では、ニッケル・アルミニウム合金から、多孔質に形成されたラネーニッケルが良く知られている。しかし、後述する実施例が示すように、ラネーニッケルでは、本発明の特徴である高い保存性が向上しない。つまり、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、ラネーニッケルではないニッケル粒子を基材として用いる。
【0025】
次にニッケル粒子を水素処理する。ニッケル粒子の表面を活性化させるためである。水素処理の方法は特に限定されるものではない。ニッケル触媒を調製する際によく用いられるのは、50℃乃至250℃の温度環境で、ニッケル粒子を水素気流に曝すことで行われる。本発明の場合もこの方法でよい。なお、水素処理されたニッケル粒子を「活性化されたニッケル粒子」と呼ぶ。
【0026】
次に活性化されたニッケル粒子を酒石酸で修飾する。これは、pHを酸性に調整した酒石酸を含む溶液中に活性化されたニッケル粒子を浸漬することで行う。酒石酸を含む溶液中にはNaBr等を投入しておいてもよい。また、浸漬している間は溶液の温度を高くしておいてもよい。酒石酸の修飾が終了したものを「酒石酸修飾ニッケル触媒」と呼ぶ。
【0027】
酒石酸修飾ニッケル触媒は、洗浄され、乾燥されて「乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒」となる。洗浄は水、エタノール、メタノール等の極性溶媒やテトラヒドロフタン(THF)などの溶剤を用いる事ができる。乾燥は酸素に触れないように、減圧環境中(30mmHg以下の減圧下で1〜48時間静置)で行うのがよい。酸素に接触することで触媒活性が低減するからである。またこの時、昇温環境下で乾燥させるとより好適である。この時の乾燥環境の温度は30℃乃至100℃が好適であり、40℃から60℃であればより好ましい。100℃以上であると、立体選択性が低下してしまうからである。減圧環境中での乾燥を乾燥工程と呼ぶ。
【0028】
なお、触媒が乾燥した状態とは、実質的に触媒が粉末状態になっていればよく、例えば、通常取り扱う室温環境中の湿度によって付着する程度の水分が残っている状態をも含むものである。その程度であれば、長期保存で触媒活性が失活することはないからである。
【0029】
本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、低酸素雰囲気中であれば、長期間の保存を行っても、触媒活性がほとんど低下しない。乾燥後の粉状態で窒素やアルゴン等の不活性ガスパージなどで、低酸素雰囲気とした容器中に保存しておくことができる。
【0030】
次に本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒の実施例で用いた評価方法について説明する。以下の実施例においては、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒と、乾燥していない酒石酸修飾ニッケル触媒と、触媒の基材としてラネーニッケルを用いた酒石酸修飾ラネーニッケル触媒の比較を示す。比較は、これらの触媒を用いてアセト酢酸メチルのエナンチオ面区別水素化を行い、反応生成物の還元率および立体選択性を比較することで行った。
【0031】
アセト酢酸メチルのエナンチオ面区別水素化は、以下のようにして行った。アセト酢酸メチル5.0g、酢酸0.1g、THF10cmを混合した反応液と触媒をオートクレーブに入れ、初期水素圧9MPa、反応温度100℃で20時間水素化反応を行った。
【0032】
反応生成物の還元率は、日立製作所製263−30型ガスクロマトグラフを使用した。カラムは5%Thermon 1000 on Chromosorb W(AM−DMCS)2mを用いた。カラム温度は100℃で、インジェクター温度は200℃で測定を行った。
【0033】
立体選択性は、反応生成物の旋光度を測定して比旋光率を求め、光学的に純水な化合物の比旋光度と比較することで測定した。比旋光度は日本分光株式会社製DIP−1000型デジタル旋光度計を用い、測定にはナトリウムD線を用いた。また、測定温度は20℃で測定した。
【0034】
立体選択性(%)は以下の(1)式で求めた。
立体選択性(%)={[α]20/[α]20DMAX}×100 ・・・(1)
ここで、[α]20DMAXは光学的に純粋な化合物の比旋光度である。より具体的には(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの比旋光度を用いた。(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの比旋光度は[α]20DMAX=−22.95である。
【0035】
また、[α]20は、測定した反応生成物の比旋光度である。測定した反応生成物の比旋光度は(2)式によって求めた。
[α]20=α/(ρ×l) ・・・・・(2)
ここで、αは測定した反応生成物の旋光度であり、ρは反応生成物の密度(g/cm)である。(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの密度は1.058g/cmである。また、lは、測定する旋光度計のセルの光路長(dm)である。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒についての実施例を示す。
【0037】
<ニッケル基材の調製>
本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒の基材として、市販のニッケル微粉を用いた。平均粒径が3μmのものである。このニッケル微粉0.5gを水素気流を流した200℃の環境で30分保持した。この処理によってニッケル微粉は活性化され、「活性化されたニッケル粒子」を得た。
【0038】
比較例としてニッケル基材をラネーニッケルとしたものを作製した。ラネーニッケル合金(川研ファインケミカル(株)製、Ni:Al=41:59)1.24gを20%水酸化ナトリウム水溶液13cmに加え100℃で1時間展開を行った。展開後、イオン交換水15cmで15回洗浄を行った。この結果、アルミニウムが除去され多孔質のニッケルだけが残ったラネーニッケル触媒が0.5g得られた。
【0039】
<修飾ニッケル触媒の調製>
上記のようにして得た活性化されたニッケル粒子とラネーニッケル触媒を以下のようにして酒石酸で修飾した。なお、修飾の手順は、活性化されたニッケル粒子とラネーニッケル触媒とも同じ手順で行った。
【0040】
イオン交換水50cmに酒石酸0.5gとNaBrを加えて溶解させた。この溶液を1mol・dm−の水酸化ナトリウム水溶液でpH3.2とし、100℃の湯浴で15分温めたものを修飾液とした。この修飾液にニッケル触媒基材(ラネーニッケル触媒または活性化されたニッケル粒子)0.5gを浸漬し100℃の湯浴中で1時間保った。これを修飾工程と呼ぶ。その後、水10cmで1回、メタノール25cmで2回、最後にテトラヒドロフラン(THF)12.5cmで2回洗浄した。
【0041】
この結果、基材が「活性化されたニッケル粒子」としたものからは、酒石酸修飾ニッケル触媒を得、ラネーニッケル触媒としたものからは、酒石酸修飾ラネーニッケル触媒を得た。
【0042】
(実施例1)
上記のようにして得た酒石酸修飾ニッケル触媒を水10cmで1回、さらにエタノール25cmで2回洗浄し、真空乾燥機(石井理化機器製作所製)を用いて、真空度30mmHg、温度50℃で18.5時間乾燥させ、乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒を得た。乾燥後の保存は、窒素パージしたガラス瓶中で保存した。なお、以下の実施例、比較例を含め窒素パージしたガラス瓶は、低酸素雰囲気中での保存である。
【0043】
(実施例2)
実施例1において、乾燥温度を80℃とした以外は実施例1と同じ操作を行った。
【0044】
(比較例1)
上記で得た酒石酸修飾ラネーニッケル触媒を水10cmで1回、さらにエタノール25cmで2回洗浄し、真空乾燥機(石井理化機器製作所製)を用いて、真空度30mmHg、温度50℃で18.5時間乾燥させ、乾燥された酒石酸修飾ラネーニッケル触媒を得た。乾燥後の保存は、窒素パージしたガラス瓶中で保存した。
【0045】
(比較例2)
比較例1において、乾燥温度を80℃とした以外は比較例1と同じ操作を行った。
【0046】
(比較例3)
上記で得た酒石酸修飾ニッケル触媒を水10cmで1回洗浄し、デカンテーションで水を除いた。保存は、デカンテーションで水を除いただけの状態のまま窒素パージしたガラス瓶中で保存した。すなわち、触媒は乾燥されておらず、水分を含んだまま窒素中で保存された。
【0047】
(比較例4)
比較例3で酒石酸修飾ニッケル触媒を酒石酸修飾ラネーニッケル触媒に置き換えただけで、比較例3と同じ操作を繰り返した。
【0048】
表1に実施例1(実施例2)と比較例1(比較例2)の修飾工程直後、および修飾工程後1日、7日、21日、84日経過後の還元率と立体選択性の測定値を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
比較例1(乾燥した酒石酸修飾ラネーニッケル触媒)は、修飾工程直後は立体選択性75%であったが,保存1日後に63%まで低下した。さらに修飾後7日経過後では、立体選択性が61%まで低下した。一方,実施例1(乾燥した酒石酸修飾ニッケル触媒)は、修飾工程直後の立体選択性が84%であり、修飾84日後でも79%と70%以上の立体選択性を維持した。
【0051】
また、乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒で乾燥温度を80℃とした実施例2では、保存後1日後の立体選択性が78%と、乾燥温度が50℃のときより幾分低めではあったが、高い立体選択性を維持した。一方、乾燥された酒石酸修飾ラネーニッケル触媒を80℃で乾燥した比較例2は、保存1日後の立体選択性が53%まで低下した。
【0052】
以上のことより、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、粉末状態で窒素中で保存されることで高い保存耐久性を有することがわかった。表1より修飾工程後約3ヶ月までは、どの2週間をとっても、立体選択性が70%以上ある。これは従来用いられていたラネーニッケルを基材として作製された酒石酸修飾ラネーニッケル触媒では達成し得ない特性である。
【0053】
次に本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒の効果をさらに確認するために比較例3および比較例4の結果を表2に示す。比較例3は酒石酸修飾ニッケル触媒を用いてはいるものの、乾燥を行わず、水分を含有させたまま保存されるサンプルであった。修飾工程直後は立体選択性が84%と高い値を示すものの、保存21日目には、69%まで立体選択性が低下してしまった。
【0054】
【表2】

【0055】
つまり、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒のように、活性されたニッケル粒子に酒石酸の修飾工程を行った後、乾燥工程を行わなければ、高い保存性は発揮できないのがわかる。
【0056】
また、表2の比較例4は酒石酸修飾ラネーニッケル触媒を用いて、なおかつ水分を含有させたまま保存されたサンプルであった。修飾工程直後の立体選択率は75%と高い値を示したが、保存1日後で立体選択性は36%まで低下し、その後7日後もその値のままであった。
【0057】
これは、従来ラネーニッケル触媒は修飾後すぐに使用しないといけないという理由となった現象の再現であると考えられる。
【0058】
以上の実施例および比較例でわかるように、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒は、乾燥した粉末状態のまま、例えば窒素パージした容器などの、低酸素雰囲気中で保存すれば、2週間の保存期間を経ても、70%以上の立体選択性を有している。この保存期間は必ずしも修飾工程直後からの保存期間である必要はない。より具体的には修飾工程直後から1週間経過後から、さらに2週間を経た場合でも立体選択性が70%以上であれば、本発明の乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は従来ラネーニッケルを基材として作製されていた触媒の置き換えとして利用できる可能性があり、特に基材表面を修飾する物質は酒石酸だけに限定されるものではなく、他の光学活性を有する物質を修飾させた触媒にも利用することができる。また、(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの合成だけでなく、(R)−3−ヒドロキシ酪酸エステルを初めとするβケト酸の合成触媒として広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル粒子を酒石酸で修飾し、乾燥させたことを特徴とする乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒。
【請求項2】
前記ニッケル粒子は平均粒径が2乃至5μmである請求項1に記載された乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒。
【請求項3】
低酸素雰囲気中での2週間以上の保存後に、(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルに対する立体選択性が70%以上あることを特徴とする請求項1または2の何れかの請求項に記載された乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒。
【請求項4】
ニッケル粒子を水素により活性化させた、活性化ニッケル粒子を得る修飾工程と、
前記活性させたニッケル粒子を酒石酸で修飾し、修飾されたニッケル粒子を得る工程と、
前記修飾されたニッケル粒子を減圧環境中で乾燥し、乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒を得る乾燥工程を含む
乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程は、30℃〜100℃の昇温条件で行う請求項4に記載された乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒の製造方法。
【請求項6】
アセト酢酸メチルに請求項1乃至3の何れか1項の請求項に記載された乾燥された酒石酸修飾ニッケル触媒を作用させて(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルを得る(R)−3−ヒドロキシ酪酸メチルの製造方法。

【公開番号】特開2012−250213(P2012−250213A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126770(P2011−126770)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:平成22年度 富山大学富山大学大学院理工学教育部 修士課程(理学系)化学専攻 修士論文発表会 主催者名 :国立大学法人富山大学 学長 西頭 徳三 開催日 :平成23年2月14日
【出願人】(593032167)メテック北村株式会社 (2)
【Fターム(参考)】