説明

酒粕抽出物および健康食品並びに化粧料

【課題】酒粕中に含有される成分を有効利用することであり、DNA合成酵素阻害剤およびDNAトポイソメラーゼ阻害剤、もしくはヒト血管新生抑制剤、またはヒト癌細胞増殖抑制剤、もしくは同様な作用がある健康食品や化粧料とすることである。
【解決手段】酒粕を濃度99.5%エチルアルコールで抽出してなり、DNA合成酵素阻害活性、DNAトポイソメラーゼ阻害活性及びヒト血管新生抑制活性の少なくともいずれかの活性を有する酒粕抽出物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酒粕に由来する有用成分を含有するDNA合成酵素阻害剤、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、ヒト血管新生抑制剤、ヒト癌細胞増殖抑制剤および健康食品並びに化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DNA合成酵素群およびDNAトポイソメラーゼ群が細胞の増殖、分裂、分化などに関与していることが知られている。
【0003】
そのようなDNA合成酵素阻害剤及びDNAトポイソメラーゼ阻害剤には、癌細胞抑制作用があり、エイズウィルスに対してはHIV由来逆転写酵素阻害作用があり、免疫抑制作用に関しては、抗原に対する特異的抗体産生の抑制作用があると考えられている。
【0004】
上記の作用により、DNA合成酵素阻害剤やDNAトポイソメラーゼ阻害剤を用いると、癌、エイズおよび免疫疾患に治療と予防効果のある医薬品が製造可能になると考えられる。
【0005】
DNA合成酵素阻害剤は、癌やエイズ等の疾病において、さらには免疫担当細胞による抗体産生等において重要な抑制効果をもたらす(特許文献1参照。)。
【0006】
また、DNA合成酵素阻害剤としては、ジデオキシTTP(ddTTP)、N・メチルマレイミド、ブチルフェニル・dGTPなどが知られている(非特許文献1参照。)。
【0007】
さらにまた、植物由来の糖脂質であるスルホキノボシルアシルグリセリドにも、DNA合成酵素阻害作用があるとの知見がある(特許文献2参照。)。
【0008】
DNAトポイソメラーゼは、DNAの複製、転写、組替えなどあらゆるDNA代謝に関わる重要な酵素であり、その阻害剤は、ヒトの癌治療においてイリノテカン、エトポシド等多くの重要な抗癌剤に使用されている。
【0009】
ところで、清酒酵母、米麹、米発酵物からなる酒粕は、清酒の製造工程で得られる副産物であり、これを有効利用しようとする試みは従来からなされている。
【0010】
酒粕を用いた液状の食品としては、1重量%以上のアルコール分を含有し、酒粕成分が30〜50重量%である多用途性のある液状酒粕が知られており、また酒粕成分には、人体の活性機能物質として、ガン細胞だけを殺す作用を持つ物質が含まれていることは公知である(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−106395号公報
【特許文献2】特開2000−143516号公報
【特許文献3】特開2002−223742号公報(請求項1、段落[0003]。)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Annual Review of Biochemistry誌、1991年、第60巻、第513〜552頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記した従来の酒粕の利用形態は、清酒の製造工程で清酒醪から酒粕を分取し、そのまま利用するか、または酒と混合した液体として利用するかに止まるものであった。
すなわち、エチルアルコール含有の発酵生産物である酒粕には、通常20度未満のエチルアルコールが含有されているが、それ以上に高濃度のエチルアルコールによる抽出物を酒類以外の分野で利用することについての知見はなかった。
【0014】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、酒粕中に含有されているが、従来は充分に利用されていなかった成分を有効利用することであり、特にDNA合成酵素およびDNAトポイソメラーゼを阻害することにより癌細胞を増殖抑制し、腫瘍および免疫疾患の領域で治療効果をもたらすようなDNA合成酵素阻害剤およびDNAトポイソメラーゼ阻害剤、ヒト血管新生抑制剤もしくはヒト癌細胞増殖抑制剤、または同様な作用がある健康食品や化粧料とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、DNA合成酵素阻害剤、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、またはヒト血管新生抑制剤に係る本願の発明では、それぞれ酒粕の極性溶媒抽出物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、またはヒト血管新生抑制剤としたのである。
【0016】
上記したように構成される本願の各請求項に係る発明は、酒粕に含まれている成分のうち、生成したエチルアルコール含有の発酵生成物である酒に溶出した成分ばかりでなく、抽出溶媒として用いる極性溶媒に溶出させた成分を有効成分として含有している。
【0017】
そして、後述の実験結果からも明らかなように、この成分により、DNA合成酵素阻害性、DNAトポイソメラーゼ阻害性およびヒト血管新生抑制性を発揮する。
【0018】
また、本願の他の請求項に係る発明では、酒粕から抽出された成分の有効利用を図り、癌細胞の増殖能の抑制という課題を解決するために、酒粕の極性溶媒抽出物を有効成分として含有するヒト癌細胞増殖抑制剤としたのである。
【0019】
上記の発明では、酒粕の極性溶媒抽出物が含有する有効成分により、DNA合成酵素阻害性、DNAトポイソメラーゼ阻害性およびヒト血管新生抑制性を発揮し、DNA合成酵素阻害性については、連続的かつ急激に細胞増殖を生じている癌細胞に対する増殖抑制能や転移の抑制性を有すると考えられる。
【0020】
また、DNAトポイソメラーゼ阻害性を有する有効成分は、細胞分裂の過程においてDNAの二本鎖を切断し、再結合させることによりねじれを解消する作用のあるDNAトポイソメラーゼを阻害するから、癌細胞のトポロジー変化を阻害し、これにより抗癌剤としての作用を奏する。
【0021】
このような各種作用を奏する酒粕の極性溶媒抽出物を用いて健康食品または化粧料を製造するためには、酒粕から極性溶媒を溶媒として抽出されるDNA合成酵素阻害性抽出物を含有する健康食品とし、または酒粕から極性溶媒を溶媒として抽出されるDNAトポイソメラーゼ阻害性抽出物を含有する健康食品とし、または酒粕から極性溶媒を溶媒として抽出されるヒト血管新生抑制性抽出物を含有する健康食品とし、または酒粕から極性溶媒を溶媒として抽出されるヒト癌細胞増殖抑制性抽出物を含有する健康食品とし、または酒粕から極性溶媒を溶媒として抽出されるヒト血管新生抑制性抽出物を含有する化粧料とする。
これらの場合において、濃度20%以上のエチルアルコールその他の極性溶媒を抽出溶媒として抽出された酒粕の極性溶媒抽出物を含有する健康食品または化粧料とすることが好ましい。
【0022】
なぜなら濃度20%以上のエチルアルコールその他の極性溶媒を抽出溶媒として抽出すると、通常エチルアルコールを20%未満含有する発酵生成物である酒の成分ばかりでなく、エチルアルコールその他の極性溶媒濃度20%以上で抽出された新たな成分が含有される。従って、できるだけ20%以上で高濃度のエチルアルコールその他の極性溶媒抽出物を含有する健康食品または化粧料とすれば、前述のようにDNA合成酵素阻害性、DNAトポイソメラーゼ阻害性、ヒト血管新生抑制性、およびヒト癌細胞増殖抑制性を発揮するヒトの健康増進に好ましい健康食品または化粧料になるのである。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、酒粕のエチルアルコールその他の極性溶媒抽出物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤、DNAトポイソメラーゼ阻害剤もしくはヒト血管新生抑制剤、またはこれらの有効成分を含有するヒト癌細胞増殖抑制剤としたので、酒粕から極性溶媒で抽出され、特にDNA合成酵素及びDNAトポイソメラーゼの阻害を介した癌細胞の増殖能の抑制機能によって腫瘍及び免疫疾患の領域において治療効果をもたらす酒粕成分の有効利用ができるという利点がある。
【0024】
また、酒粕から極性溶媒を溶媒とする抽出物を含有する健康食品に係る発明では、前記抽出物中にDNA合成酵素阻害性、DNAトポイソメラーゼ阻害性、ヒト血管新生抑制性、およびヒト癌細胞増殖抑制性を発揮する成分を含有し、好ましくはエチルアルコールその他の極性溶媒を用い、より好ましくは濃度20%以上の抽出溶媒に溶出した成分を有効成分として含有するので、免疫向上性や癌疾患を予防して健康増進に役立つ新規な健康食品になるという利点がある。
【0025】
また、酒粕から抽出されるヒト血管新生抑制性抽出物を含有する化粧料に係る発明では、特に血管の新生抑制によるしわの抑制などの美容上の効果に優れた化粧料になる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】酒粕エチルアルコール抽出液濃度とDNAポリメラーゼα活性の関係を示す図表である。
【図2】酒粕エチルアルコール抽出液濃度とDNAポリメラーゼβ活性の関係を示す図表である。
【図3】酒粕エチルアルコール抽出液濃度とDNAトポイソメラーゼI型阻害活性の関係を示す平板アガロースゲル電気泳動図(写真)である。
【図4】酒粕エチルアルコール抽出液濃度とDNAトポイソメラーゼII型阻害活性の関係を示す平板アガロースゲル電気泳動図(写真)である。
【図5】酒粕エチルアルコール抽出液濃度とテロメラーゼ阻害活性の関係を示すポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真である。
【図6】抽出物とヒト胃癌細胞に対する増殖抑制活性との関係を示す図表である。
【図7】抽出物と微小血管の平均長さとの関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明に用いる清酒酵母としては、サッカロマイセス セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する株が代表的なものであるが、一般的に清酒会社で使用される清酒酵母であればよく、特に限定された変異体でなくても使用できるものである。例えば、協会清酒酵母7号、9号、10号などを用いた、所謂酒粕を用いて製造することができる。
【0028】
因みに酒粕は、洗米された白米を蒸して得られた蒸米を、タンク内に麹と酒母と水とを仕込み、攪拌されて得られるもろみを所定日数発酵させた後、圧搾機に入れてろ過し、清酒と酒粕をそれぞれ分取して取り出されたものである。
【0029】
この発明で抽出溶媒として用いる極性溶媒は、分子内部に固定的に電気双極子を持つ液体からなるものであり、その単独または混合物を用いることができる。好ましくは、エチルアルコール、メチルアルコール、酢酸エチル、グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0030】
この発明に用いるエチルアルコールなどの極性溶媒は、特にその濃度を限定して使用したものではないが、好ましくは通常の清酒のエチルアルコール濃度を超える濃い濃度のものを使用する。濃度20%以上のエチルアルコールなどの極性溶媒に溶出した新成分を有効成分として採用すると確実に免疫向上性がある。
【0031】
ここで、DNA合成酵素阻害活性について説明すると、DNA合成酵素には、α型の他にβ型、γ型、σ型及びε型のものがある。これらのDNA合成酵素のうち、σ型およびε型は、α型のものと生化学的類型にあると考えられている。
【0032】
ここでいう生化学的類型とは、次のような酵素機能としての共通性を有することを指す。
(1)特定の化合物に対する感受性の有無についての機能であり、例えばこれら3種のDNA合成酵素は、共にN-メチルマレイミドおよびブチルフェニル−dGTPに対する感受性を持つが、ジデオキシTTP(ddTTP)に対する感受性を持たない。
【0033】
(2)忠実度(fidelity)についての機能としては、鋳型DNAに対するDNA合成の高い正確さを持つ。
【0034】
(3)反応の場についての機能としては、これら3種のDNA合成酵素は共に細胞分裂と連動するDNA複製に直接的に関与している。DNA合成酵素α型(σ型及びε型も生化学的な類型として含む)は、一般に細胞周期に応じてDNA合成を司ると考えられている。
【0035】
従って、DNA合成酵素α型(σ型およびε型も生化学的類型として含む。)に対する阻害活性を有する酒粕の極性溶媒抽出物は、連続的かつ急激に細胞増殖を生じている癌細胞に対する増殖抑制能を有し得るものと考えることができる。
【0036】
本願の発明者らは、酒粕の極性溶媒抽出物が、α型のDNA合成酵素の他にもσ型及びε型のDNA合成酵素に対する阻害活性も有すると考える。
【0037】
一方、DNA合成酵素β型は、免疫反応のDNA再構成において抗原特異的に反応する抗体またはレセプター分子を作り出す根源に関与すると共に、変異による抗体の多様性に一定の役割を果たしているとも言われている。
【0038】
これらのことから、DNA合成酵素β型は、免疫反応に密接に関与し、DNA合成酵素β型を抑制することは、免疫反応の抑制につながると推測される。従って、酒粕極性溶媒抽出物は、免疫抑制剤としての作用を有することも期待される。
【0039】
次に、DNAトポイソメラーゼ阻害活性について説明する。
酒粕極性溶媒抽出物は、I型およびII型のDNAトポイソメラーゼを阻害した。DNAトポイソメラーゼは、DNAの二本鎖を切断・再結合させることによりねじれを解消させ、DNAのトポロジーを変化させる酵素である。
【0040】
細胞分裂の進行において、このトポロジー変化は必須であることから、ヒトDNAトポイソメラーゼに対する阻害物質は、抗癌剤としての応用が期待できる。
【0041】
この発明のDNA合成酵素阻害剤及びDNAトポイソメラーゼ阻害剤は、癌およびエイズの発症や進行を予防する作用または治癒、また臓器移植時の免疫抑制作用を目的として利用するものであれば、それを使用する上で何ら制限を受けることなく適用されるが、とりわけ抗癌剤、抗ウイルス剤および免疫抑制剤として有効である。また、これら疾患の予防剤として使用することも可能である。
【0042】
この発明のDNA合成酵素阻害剤、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、ヒト血管新生抑制剤、またはヒト癌細胞増殖抑制剤における酒粕の極性溶媒抽出物の含有量は、0.01〜99重量%、好ましくは1〜99重量%である。なお、ここでいう酒粕の極性溶媒抽出物は、後述する実施例で用いた酒粕AまたはBのエチルアルコール抽出液を基準としたものである。
この発明における上記したような各阻害剤の有効な投与量は、疾病の種類と病状の程度、患者の年齢、性別、体重、症状の程度または投与方法によって異なり、一律に限定する必要性はないが、例えば、通常の成人の1人当たり30〜3000mg程度、好ましくは30〜1000mg程度、より好ましくは100〜300mg程度を1日1〜4回程度にわけて経口的または非経口的に投与できる。
【0043】
この発明に用いる酒粕の極性溶媒抽出物は、溶媒の極性溶媒を分離した状態において急性毒性は勿論のこと、目立った慢性毒性も認められない安全なものであり、このことは、古くから酒粕が食品とされていることからも明らかである。
【0044】
この発明によれば、癌及びエイズの発症、進行を予防する作用もしくは治癒、または臓器移植時などの免疫抑制作用に極めて有用なDNA合成酵素阻害剤、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、ヒト血管新生抑制剤およびヒト癌細胞増殖抑制剤が提供される。
【0045】
各薬剤は酒粕抽出物のみからなるものであってもよく、用途等に応じた他の成分を含むものであってもよい。その他の成分の量は剤形により異なり特に限定されるものではないが、成分中に有効成分である酒粕抽出物の有効量が存在していれば任意の比率で含むことができる。例えば、液剤として用いる場合は、0.01〜99重量%、好ましくは0.01〜90重量%である。
【0046】
この発明の各薬剤製剤は、常法により、例えば、錠剤、舌下錠、丸剤、坐剤、散剤、粉剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、注射剤、乳剤、貼付剤などの形態に製剤化することができる。例えば、錠剤は薬理的に受容しうる担体と均一に混合して打錠することにより、また、散剤、粉剤、顆粒剤は薬剤と担体とを溶液又は懸濁液とし、常法により、例えば、噴霧乾燥法又は凍結乾燥法などにより乾燥することにより製造できる。
【0047】
これらの阻害剤は、単独作用により、癌細胞を死滅させる機能を有し、酒粕極性溶媒抽出物を含有する健康食品は、癌、エイズ、免疫疾患に対する予防などに有用な健康食品になる。
【0048】
健康食品としては、例えば前記の製造工程で得られた酒粕を、通常の清酒アルコール濃度を超える高濃度エチルアルコール、すなわち20〜100(通常99.5%まで)%エチルアルコールと混合したものを、ろ過または遠心分離等で固液分離し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮したものが好ましい。さらに、抽出液中のアルコール分を蒸発させ、析出物からなる粉末その他の固形物またはゲル状などの半固形物であってもよい。
【0049】
抽出物は、特性別に分取して配合することも可能であり、例えば、酒粕からエチルアルコールなどを溶媒として抽出されるものを、カラムクロマトグラフィーなどにより分子量別に分取し、DNA合成酵素阻害性抽出物、DNAトポイソメラーゼ阻害性抽出物、ヒト血管新生抑制性抽出物またはヒト癌細胞増殖抑制性抽出物を含有する健康食品とすることができる。
【0050】
健康食品の実施形態としては、周知の食品または薬剤状の形態を採用することができ、例えば薬剤状として、粉末、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、液剤その他の経口薬剤の形態を採用することもできる。また、通常の食品の形態であるものとして、ゼリー、シロップ、飴、ガム、清涼飲料水、その他の周知の食品形態としたり、その他周知の食品に所定量を混合したものとすることもできる。
【0051】
また、この発明の化粧料は、上記の健康食品と同様に、酒粕からエチルアルコールを溶媒として抽出されるものをカラムクロマトグラフィーなどにより分子量別に画分を得て、特にヒト血管新生抑制性抽出物を分取し、これを各種化粧材料に配合したものである。
【0052】
この発明の化粧料における酒粕の極性溶媒抽出物の有効成分としての配合量は(極性溶媒抽出物として後述する実施例で用いた酒粕AまたはBのエチルアルコール抽出液を基準とした場合)、化粧料全量中に0.01〜20.0重量%、好ましくは0.1〜10.0重量%である。0.01重量%未満では効果に乏しく、20.0重量%を超えて配合しても効果の増加は望めない。
【0053】
この発明の化粧料の実施形態としては、有効成分としてヒト血管新生抑制性抽出物を配合することの他に限定されるものではなく、周知の化粧料の製造方法により製造することができる。
化粧料の発明に用いる血管新生抑制性抽出物は、紫外線によって誘導される新生血管が本来の血管の有益性よりも皮膚組織に与えるダメージが大きく、このような血管の新生がしわ形成の一因となる可能性もあるため、前記した皮膚組織のダメージとしわ形成の原因となる血管新生を阻害することによって、健康な皮膚状態を維持しようとするものである。
【0054】
その場合、化粧料の剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、油液系、ゲル系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系等、上記の任意配合成分の一種または二種以上と本発明の必須成分とを配合して常法により目的とする製品に応じて幅広い剤形を採ることができる。
【0055】
すなわち、この発明でいう化粧料は、外皮に適用される化粧料であり、この発明の効果を有する限り、その製品形態は任意であり、具体例としては、固形状、クリーム状、乳液状、液状、ゲル状、軟膏状、パック状、スティック状、パウダー状等の形態を選択的に採用することができ、より具体的な化粧品の例を挙げると、化粧水、乳液、クリーム、パック、ファンデーション等である。
【0056】
また、この発明の化粧料には、通常の化粧料に使用される周知の添加成分を必要に応じて適宜配合することができ、それらを挙げると、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル類、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子化合物、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、アミノ酸類、有機アミン類、合成樹脂エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等である。
【実施例】
【0057】
発酵生産物の風味等が異なる2種類の酵母でそれぞれ清酒醪を発酵させ、各清酒醪から得られた酒粕Aおよび酒粕Bのそれぞれに4倍量の99.5%エチルアルコールに加え、ミキサーで20秒程度攪拌し、これを遠心分離して上清を分取し、ロータリーエバポレータで濃縮した。これにより1kgの酒粕から約500mlの酒粕A、Bのエチルアルコール抽出液を得た。
【0058】
得られた抽出液について、以下の試験により、DNAポリメラーゼ阻害性、DNAトポイソメラーゼ阻害性、テロメラーゼ阻害性、および血管新生抑制性を調べた。また、前記抽出液から、さらにヘキサンで抽出された残渣中の酢酸エチル抽出液を得て、このうちヘキサンとジエチルエーテルの所定濃度混液で抽出されたものについて、ヒト胃癌細胞増殖抑制性を調べた。
【0059】
(1)DNAポリメラーゼ阻害活性測定試験
DNAポリメラーゼとして、哺乳類由来のDNAポリメラーゼα(複製型)およびβ(修復型)について試験を行なった。DNAポリメラーゼαは、牛胸腺から常法により抽出精製した標品を、DNAポリメラーゼβは、ラット由来の該当遺伝子を用いた。
【0060】
これらのDNAポリメラーゼに対する阻害作用の測定には、一般的なDNAポリメラーゼ反応系(日本生化学会編、新生化学実験講座2、核酸IV、東京化学同人、63−66頁)を用いた。すなわち、放射性同位元素で標識した[3H]−TTPを含む系においてDNA合成反応を行ない、放射比活性を生成物(合成DNA鎖)量の指標とするものである。
【0061】
阻害率は、(a)コントロールでの合成DNA量、(b)被検物質存在下での合成DNA量について、(a−b)/a×100=阻害率(%)として評価した。
【0062】
図1および図2の結果からも明らかなように、酒粕A、Bのエチルアルコール抽出液は、DNAポリメラーゼαまたはDNAポリメラーゼβを阻害したことがわかる。50%阻害濃度は、酒粕Aエチルアルコール抽出液がα=205μg/ml、β=67μg/mlであり、酒粕Bエチルアルコール抽出液がα=560μg/ml、β=203μg/mlであった。
【0063】
(2)DNAトポイソメラーゼ阻害活性測定試験
DNAトポイソメラーゼ群に対する活性を以下の方法で測定した。I型およびII型DNAトポイソメラーゼは、組換えヒト由来の市販標品(TopoGEN Inc.,USA)を用いた。文献(Mizushima他,Biochem.J.誌,2002年、第350巻,757-763頁)に記載された方法に従ってI型DNAトポイソメラーゼ活性は、カンプトテシンを、II型DNAトポイソメラーゼは、エトポシド(etoposide,VP−16)を陽性対照として、スーパーコイル(超ラセン、フォームI)を持った環状プラスミドDNAの弛緩(relaxation,フォームII)反応で酵素活性を測定した。反応後、反応液を平板アガロースゲル電気泳動を行い、ゲルを臭化エチジウム染色後、反応生成物のDNA量の変化から、50%阻害濃度(IC50)を求めた。
【0064】
図3に示すDNAトポイソメラーゼI型に対する結果、および図4に示すDNAトポイソメラーゼII型に対する結果からも明らかなように、DNAトポイソメラーゼによって基質である環状二本鎖DNAにニックが入ると、フォームI型からフォームII型へ移行する。図3においては、レーン1は、酵素存在下のポジティブ・コントロール、レーン2は酵素非存在下のネガティブ・コントロールである。DNAトポイソメラーゼIは、酒粕Bエチルアルコール抽出液では150μg/mlで、酒粕Aエチルアルコール抽出液では15μg/mlおよび150μg/mlで阻害が認められた。これにより、酒粕Aエチルアルコール抽出液の方が酒粕Bエチルアルコール抽出液よりも強い阻害性があるといえる。
【0065】
また、図4においては、レーン1は、酵素非存在下のネガティブ・コントロール、レーン2は酵素存在下のポジティブ・コントロールであり、清酒酵母エチルアルコール抽出液の酒粕A、Bのエチルアルコール抽出液は共に、DNAトポイソメラーゼIIを150μg/mlの濃度で完全に阻害した。
【0066】
(3)テロメラーゼ阻害活性測定試験
ヒト子宮癌細胞(HeLa cell)抽出液を用いて、ストレッチPCR法により、東洋紡績社製のTeloChaserキットを使用してテロメラーゼを測定し、テロメラーゼによる6塩基の繰り返し配列(テロメア配列)の生成を検出して、その結果を図5のポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真に示した。
【0067】
図5に示すレーン1は、酵素存在下のポジティブ・コントロールであり、レーン2は、酵素非存在下のネガティブ・コントロールである。また、酒粕A、Bのエチルアルコール抽出液は共に、250μg/mlにおいてテロメラーゼ阻害活性が見られるが、レーン3の方は若干テロメラーゼ阻害活性が見られるが、レーン7は完全に阻害活性が見られないことから、酒粕Aエチルアルコール抽出液の方が酒粕Bエチルアルコール抽出液よりも若干強い阻害活性が認められた。
【0068】
(4)ヒト癌細胞増殖抑制活性測定試験
酒粕Bの99.5%エチルアルコール抽出液からヘキサンで抽出された残渣中の酢酸エチル抽出液のうち、ヘキサンとジエチルエーテルの所定濃度混液で抽出されたもの[ジエチエーテル配合量%(残部ノルマルヘキサン)をNo.1〜6の順に示す。15%、20%、30〜50%、50%、100%、0%(アセトン100%)]についてのヒト血管新生抑制性およびヒト胃癌細胞増殖抑制性を調べた。
【0069】
この試験に用いた細胞は、ヒト胃癌由来のNUGC−3細胞であり、培地としてはRPMI1640培地(日水製薬社製)に牛胎児血清10%(v/v)を添加したものを用いた。培養は、5%CO2インキュベーターにて37℃で行なった。
【0070】
上記に示した培地に、最終濃度が100μMになるように画分を溶解した。ただし、これらは水に難溶であるため、一度ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、そのものを上記の培地に溶かした。なお、培地中の培地内に存在するDMSOの終濃度は、全ての試験区で1%以下になっており、本測定例で用いたNUGC−3細胞の増殖抑制にDMSOが関わる可能性は否定できる状態である。
【0071】
この試験のための培養は、96穴マイクロプレートで行なった。各ウェルに3.0×10個の細胞を植え込み、1つの試験濃度に対し、3ウェルずつ与えた。また、ポジティブ・コントロールとして培地に1%のDMSOを含むものを用いた。
【0072】
化合物を添加した後は、5%CO2インキュベーター内、37℃で24時間培養し、各試験区の細胞生存率の判定を行なった。生存率の判定は、文献[「Rapid Colorimetric Assay for Cellular Growth and Survival:Application to Proliferation and Cytotoxicity Assay」、Tim Mosmann, J.Immunol.Methods、65巻、55頁(1983)]に記載されているMTTアッセイ法を用いた。すなわち、上記24時間後、テトラゾリウム塩MTTを添加し、さらに4時間培養した。生細胞による還元を経て生産するホルマザン量を生細胞に比例するとみなし、570nmの光学密度(O.D.)で定量した。細胞生存率は次式により算出した。
【0073】
細胞生存率(%)=試験区のO.D.[570nm]/対照区のO.D.[570nm]
図6の結果からも明らかなように、エチルアルコール、酢酸エチルおよびジエチルエーテルで抽出されたものには、150μg/mlでヒト胃癌細胞に対する増殖抑制活性が認められた。特に、ジエチルエーテル30〜50%とヘキサン70〜50%の混液で抽出されたNo.3については、75〜150μg/mlで強い増殖抑制活性が認められた。
【0074】
(5)血管新生抑制性試験
酒粕Aおよび酒粕Bの99.5%エチルアルコール抽出液についてのラット動脈片を用いた血管新生抑制性を調べた。
【0075】
すなわち、酒粕抽出物に5倍容のエチルアルコールを加え撹拌後の上清を試験用サンプルに用いた。ラットはWistar系の雄で、6〜8週齢のものを使用した。以下に示すコラーゲン原液(Cellmatrix type Ia)及び再構成緩衝液は、新田ゼラチン社製、培養液10×Eagle's MEM及びRPMI 1640はGibco社製、ITS+はBecton Dickinson Bioscience社製である。
【0076】
血管新生は、ラット動脈片をコラーゲンゲル中で培養する方法を用いた。まず、コラーゲン原液、10×Eagle's MEM、そして再構成緩衝液を8:1:1で混合したコラーゲン液を調製し、4℃で保存した。次にWistarラットをジエチルエーテルにより麻酔し、右大腿動脈切断により出血死させた後、このラットの胸部大動脈を取り出し1〜1.5mmの長さに切断した。
【0077】
この動脈片を6ウェル培養プレートに移し、コラーゲンゲル溶液で包埋し、37℃でゲル化させた。ゲル化後、1%ITS+を含むRPMI 1640培地を2ml加えた。サンプル溶液は培養液に加えた。培養はCOインキュベーター中で行い、7日目に動脈片より生じる微小血管毛を倒立顕微鏡下で撮影し、画像をコンピューターに取り込んだ後、微小血管の長さを測定した。
【0078】
図7の結果からも明らかなように、酒粕Aおよび酒粕B共に100μg/mlにおいて微小血管の平均長さが310μm以下であり、対照物に比べて血管新生抑制性が認められた。
【0079】
以下に酒粕のエチルアルコール抽出物(酒粕抽出物に5倍容のエチルアルコール(99.5%濃度)を加えて撹拌した後の上清)をヒト血管新生抑制性抽出物として含有する実施例の化粧品の処方例を挙げる。
【0080】
「化粧クリーム」
ステアリルアルコール 6.0%
ステアリン酸 2.0
水添ラノリン 4.0
スクワラン 9.0
オクチルドデカノール 10.0
1,3ブチレングリコール 6.0
PEG1500 4.0
POE(25)セチルアルコールエーテル 3.0
モノステアリン酸グリセリン 2.0
酒粕抽出物 表1記載の量
防腐剤 適量
酸化防止剤 適量
香料 適量
精製水 残量
【0081】
【表1】

【0082】
[化粧クリームの効果の確認試験]
化粧クリームを実際に使用した場合の効果を確認するため、40名のパネラーを10名4群に分け、処方例1〜4のクリームの適量を顔面左半分に、比較例のクリームを顔面右半分に適用した。1ヶ月後、パネラーが肌の状態を顔の両面で比較し、下記の5段階で評価し、結果を表2に示した。なお、この化粧料は、使用期間中に劣化が生じることはなく、皮膚の異常を訴えた者はいなかった。
【0083】
◎…処方例のほうが比較例よりも肌の状態が良いように感じる。
○…処方例のほうが比較例よりも肌の状態がやや良いように感じる。
□…処方例と比較例のどちらでも肌の状態に違いはないように感じる。
△…処方例のほうが比較例よりも肌の状態がやや悪いように感じる。
×…処方例のほうが比較例よりも肌の状態が悪いように感じる。
【0084】
【表2】

【0085】
表2に示す結果からも明らかなように、処方例1〜4の化粧クリームは、いずれも比較例に比べて肌の状態が格段に優れているとの評価が大多数のパネラーから得られた。そして、具体的な肌の改良状態として、皮膚のはりがよく、しわが減少していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕を濃度99.5%エチルアルコールで抽出してなり、DNA合成酵素阻害活性、DNAトポイソメラーゼ阻害活性及びヒト血管新生抑制活性の少なくともいずれかの活性を有することを特徴とする酒粕抽出物。
【請求項2】
請求項1に記載の酒粕抽出物を含有してなることを特徴とする化粧料。
【請求項3】
請求項1に記載の酒粕抽出物を含有してなることを特徴とする健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−97103(P2012−97103A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277202(P2011−277202)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【分割の表示】特願2005−113329(P2005−113329)の分割
【原出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(591118775)白鶴酒造株式会社 (16)
【Fターム(参考)】