説明

酒粕由来の抗酸化成分の製造方法

【課題】優れた活性酸素抑制作用を有する抗酸化成分を提供すること。
【解決手段】酒粕からアルコール類にて抽出してアルコール類可溶性画分を得、得られたアルコール類可溶性画分を水洗して水不溶性画分を回収することを特徴とする抗酸化成分の製造方法及びその製造方法にて得られうる抗酸化剤又は抗酸化ストレス改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒粕由来の抗酸化成分の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗酸化成分は、生体内で産生される活性酸素の抑制に有効な成分として知られている。
この生体内で産生される活性酸素は、適当であれば生体調節、抗菌活性、抗ウイルス活性等の生体の恒常性維持に利用される一方で、ストレス、紫外線被爆等によって産生される活性酸素が過剰となると、核酸分解、タンパク質変性、脂質過酸化等を引き起こして細胞にダメージを与え、様々な病態の誘引の一因となってしまう。このような体内で過剰な活性酸素が産生されることによって、誘発又は助長される疾患としては、循環器疾患、脳神経系疾患、消化器系疾患、腎疾患、呼吸器系疾患、代謝・内分泌疾患、アレルギー疾患、眼疾患、老化・老人性疾患等が考えられている(非特許文献1)。
【0003】
この抗酸化成分を得る原料の一つとして酒粕(酒絞り粕とも云う)が知られており、この酒粕は、日本酒を製造する段階で副産物として大量に生じるものであるため、安価で安定的供給が可能な抗酸化成分の原料として、有望視されている。しかし、酒粕は十分に有効利用されておらず、廃棄されているのが現状であるので、更なる抗酸化成分を得る方法の検討が種々なされている。
酒粕からの抗酸化成分及びその製造方法としては、例えば、酒粕を70%以上のエタノール溶液で室温抽出して得られた抽出物を水に溶解し酢酸エチル等によって油分を除去して、水溶性活性画分を得る方法(特許文献1);酒粕を水に加えて45℃で10時間攪拌し、そこから90℃まで煮沸して温水抽出活性画分を得る方法及び酒粕を60%エタノール水溶液で室温抽出して含水エタノール抽出活性画分を得る方法(特許文献2);酒粕を疎水有機溶剤であるヘキサンで室温抽出してヘキサン抽出活性画分を得る方法(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−284632号公報
【特許文献2】特開平5−310590号公報
【特許文献3】特開2009−13110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3によると、酒粕由来の、水抽出画分、100容量%エタノール抽出画分及び50容量%エタノール水混液抽出画分は、活性酸素抑制作用が弱いとされている一方で、ヘキサン抽出画分は活性酸素抑制作用は強いものの、疎水性有機溶剤は溶剤除去等の取り扱い難いため工業的な大量生産には余り適していない。
本発明は、斯かる実情に鑑み、効率よく、活性酸素抑制作用を有する酒粕由来の抗酸化成分を製造する方法及びこれにより得られた抗酸化成分を有効成分とする抗酸化剤又は抗酸化ストレス改善剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、酒粕由来の抗酸化成分の製造方法等について種々検討を行なった結果、酒粕からアルコール類にて抽出して得られたアルコール類可溶性画分(以後、「酒粕のアルコール類抽出物」とも云う)には、活性酸素抑制作用が全く認められなかったにも拘らず、全く意外にも、この酒粕のアルコール類抽出物を水洗浄して得られた水不溶性画分には、活性酸素抑制作用が強く発現するようになったことから、斯かる水不溶性画分は抗酸化効果を発揮する医薬品、食品等として有効であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下に係る発明を提供するものである。
(1)酒粕からアルコール類にて抽出してアルコール類可溶性画分を得、得られたアルコール類可溶性画分を水洗して水不溶性画分を回収することを特徴とする抗酸化成分の製造方法。
(2)アルコール類抽出の際のアルコール濃度が、溶剤中、80容量%以上である上記(1)記載の抗酸化成分の製造方法。
(3)アルコール類抽出の際の液温が、4〜50℃である上記(1)又は(2)記載の抗酸化成分の製造方法。
(4)アルコール類抽出の際の処理時間が、10分間〜24時間である上記(1)〜(3)の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
(5)アルコール類が、エタノールである上記(1)〜(4)の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
(6)水洗浄の際の液温が、40〜110℃である上記(1)〜(5)の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
(7)水洗浄の際の処理時間が、3分間〜24時間である上記(1)〜(6)の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
(8)水洗浄の際の水の使用量が、乾燥物換算でのアルコール類可溶性画分1質量部に対して、10〜200質量部である上記(1)〜(7)の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
【0008】
(9)上記製造方法にて得られうる抗酸化成分を有効成分とする抗酸化剤又は抗酸化ストレス改善剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗酸化成分の製造方法によれば、優れた活性酸素抑制作用を有する酒粕由来の抗酸化成分を効率よく得ることができる。得られた抗酸化成分を有効成分とする抗酸化剤又は抗酸化ストレス改善剤は、体内の過剰な活性酸素を抑制することができるので、循環器疾患、アレルギー疾患、老化・老人性疾患等の活性酸素過剰産生によって誘発又は助長される症状及び疾患の予防、治療及び/又は改善効果を発揮する医薬品、食品等として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、酒粕からアルコール類にて抽出してアルコール類可溶性画分を得る。
【0011】
酒粕は、日本酒(清酒)を製造するときに、圧搾して清澄した酒を得た際に残った副産物であり、絞り粕、残渣とも云われる。このときの日本酒(清酒)の製造方法は、一般的な製造方法であればよく、例えば、蒸した米と米麹とを水と酵母を加えて発酵させた清酒もろみを作り、熟成後、圧搾して清澄した酒を得、これを更にろ過、火入れする方法等が挙げられる。
ここで云う日本酒(清酒)は、一般的には原料や製法によって普通酒や特定名称酒(本醸造酒、吟醸酒、純米酒等)等に分けることもできるが、特に限定されず、これらを全て含むものである。
抽出に用いる酒粕の形態は、圧搾後のそのままの状態でもよいが、凍結乾燥、冷風乾燥、温風乾燥、熱風乾燥等の乾燥手段を用いて、水分含量を低減させた粉末状や固形状等が、抗酸化成分の回収率を向上させる点から、好ましい。当該乾燥手段は、凍結乾燥や4〜40℃の冷風若しくは温風乾燥が、抗酸化成分の変質を防止する点から、好ましい。
また、酒粕の水分含量は、特に限定されないが、0.1〜20質量%、更に0.5〜10質量%であるのが好ましい。
【0012】
酒粕抽出に用いるアルコール類としては、炭素数1〜5のアルコール類が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、このうち、製造工程にて取り扱いが容易で安全性が高い点から、エタノールが好ましい。これら溶剤は、1種で又は2種以上の混液で使用してもよい。また、アルコール類には、水やヘキサン等他の有機溶剤が含まれていてもよいが、用いるアルコール類の純度は、80容量%以上、より90〜100容量%、更に95〜100容量%、より更に99〜100容量%であるのが好ましい。
【0013】
酒粕のアルコール類抽出物の抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、バッチ式や連続バッチ式抽出器やソックスレー抽出器等を用いる抽出手段によって、酒粕を抽出溶剤であるアルコール類に接触させて、所定の条件にて抽出することによって得る方法等が挙げられる。
抽出手段としては、特に限定されず、例えば固液抽出、液液抽出、浸漬、浸出、煎出、還流抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、遠心抽出等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このときの抽出溶剤であるアルコール類の使用量は、酒粕1質量部(乾燥物換算)に対して、1/5〜10質量部であるのが好ましく、より1/2〜5質量部、更に1〜3質量部であるのが好ましい。
抽出の際に酒粕に接触させる又は接触させた抽出溶剤中のアルコール類の濃度は、80容量%以上、より90容量%以上、更に95容量%以上、より更に99〜100容量%であるのが更に好ましい。
この抽出の際の液温は、0〜溶剤の沸点であるのが好ましく、より5〜40℃、更に10〜30℃であるのが好ましい。
このときの抽出期間は、5分間〜1日間であるのが好ましく、より15分間〜5時間であるのが好ましい。
【0014】
斯様に酒粕にアルコール類を接触させた後、適宜遠心分離やろ過等によって酒粕を除去し、アルコール類に溶解した画分、すなわちアルコール類可溶性画分を得ることができる。
このときろ過等によって除去された酒粕を、上記と同様の抽出方法にて繰り返し抽出してもよい。繰り返しの回数は、1〜3回であるのが好ましく、1回であるのが、コストと所要時間の点から、より好ましい。
【0015】
得られたアルコール類可溶性画分の形態は、液状、半固形状、固形状の何れの形態でもよいが、作業性の点から、粉末状や顆粒状等の固形状であるのが好ましく、この際、エバポレータや乾燥機等の乾燥装置によってアルコール類可溶性画分からアルコール類を除去するのが望ましい。
【0016】
更に、本発明は、酒粕アルコール類可溶性画分を所定の条件にて水洗して水溶性画分と不溶性画分を得、水溶性画分を除去し、水不溶性画分を抗酸化成分として回収する。
【0017】
水洗に用いる水は、特に限定されず、例えば、蒸留水、イオン交換水、水道水及び井戸水等が挙げられる。用いる水に少量の無機物や有機物が含まれていてもよいが、水洗に用いる水のうち、蒸留水、イオン交換水が好ましい。
また、このとき酒粕のアルコール類可溶性画分に加える水は、冷水(0〜10℃未満)、温水(10〜40℃未満)、熱水(40〜110℃)等の何れのものでもよいが、熱水が好ましい。この熱水の水温は、40〜110℃、より70〜100℃であるのが好ましい。
また、水洗に使用する水の使用量は、酒粕のアルコール類可溶性画分(乾燥物換算)1質量部に対して、10〜100質量部であるのが好ましく、より20〜80質量部、更に40〜60質量部であるのが好ましい。
【0018】
水洗の手段は、特に限定されないが、上記抽出手段を適宜用いることができ、例えば、酒粕のアルコール抽出物と水の混合物を、放置した状態でもよく、また混合、振とう、遠心、攪拌、超音波、加圧等の物理的手段を単独で又はこれらを組み合わせて行なってもよい。このうち、混合、振とう及び攪拌が好ましい。このときの攪拌速度は、50〜200r/minであるのが好ましい。また、圧力条件は、0.5〜2気圧であるのが好ましく、常圧(約1気圧)が好ましい。
また、水洗の際の液温は、特に限定されないが、4〜121℃であるのが好ましい。水洗の際、加熱にて液温を調整するのが好ましく、具体的には、液温が40〜110℃、より50〜100℃、更に70〜100℃であるのが、抗酸化成分の薬理活性を向上させる点から、好ましい。
水洗の際の処理時間は、3分間〜24時間であるのが好ましく、より10分間〜10時間、更に0.5〜2時間、より更に0.5〜1.5時間であるのが好ましい。
また水洗の際の水のpHは、特に調整しなくてもよいが、6〜8に調整するのが好ましい。適宜一般的なpH調整剤を用いればよい。
【0019】
そして、水洗後、適宜遠心分離やろ過等によって水溶性画分と水不溶性画分とに分けて、水溶性画分を除去し、水不溶性画分を回収することができる。両画分に分ける際、作業性の点から、遠心分離が好ましい。
なお、水溶性画分は、アルコール類可溶性画分を上述のような条件にて水洗した後、水に溶解している画分、すなわち、アルコール類可溶性画分から水で抽出された画分である。また、水不溶性画分とは、水洗した後、水に溶解していない画分である。
このとき遠心分離等によって回収された水不溶性画分を、上記と同様の水洗にて繰り返し洗浄してもよい。繰り返しの回数は、1〜3回であるのが好ましく、1回であるのが、コストと所要時間の点から、より好ましい。
【0020】
得られた水不溶性画分は、原液、希釈液や濃縮液、懸濁液等の液状;乾燥物、粉砕物や粉末等の個体状;ペースト等の半固体状等の状態に適宜調製してもよい。なお、当該水不溶性画分は、アルコール類等に溶解させることができるので、適宜アルコール類等に溶解させた後、他の溶剤(例えば水等)を混合してもよい。
また、得られた水不溶性画分は、適宜公知の分離・精製技術、例えば液液分配、ろ過、活性炭処理、吸着樹脂等の方法によって不活性な不純物を除去し、更に精製してもよい。
【0021】
そして、後記実施例に示すように、酒粕由来の100容量%エタノール抽出物及びこの抽出物を加温条件で水洗して得られた水溶性画分;50容量%エタノール抽出物から室温条件で50容量%エタノールで洗浄して得られた不溶性画分及び可溶性画分では白血球から産生される活性酸素を抑制する作用が全く認められなかったのに対し、100容量%エタノール抽出物を加温条件で水洗して得られた水不溶性画分、すなわち本発明の製造方法で得られた水不溶性画分(以下、「本発明の水不溶性画分」とも云う。)には優れた活性酸素抑制作用が認められた。よって、本発明の水不溶性画分は、優れた薬理活性を有する酒粕由来の抗酸化成分であって、抗酸化剤又は酸化ストレス改善剤(以下、「抗酸化剤等」とする。)として使用することができ、更にこの製剤を製造するために使用することができる。
当該抗酸化剤等は、生体内において活性酸素によって誘発又は助長される疾患、例えば動脈硬化、糖尿病、高脂血症及び癌等の生活習慣病を予防、改善又は治療するための食品、医薬部外品、医薬品、飼料等として使用可能である。また、抗酸化剤等は、ベッドレス者、生活習慣病予備軍(生活習慣病には至っていないがその状態に近い(境界領域)の集団)に対しても有用である。また、当該食品は、抗酸化、生活習慣病等の予防、改善や治療をコンセプトとして、その旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。
ここで、「生体内において活性酸素によって誘発又は助長される疾患」としては、循環器疾患、脳神経系疾患、消化器系疾患、腎疾患、呼吸器系疾患、代謝・内分泌疾患、アレルギー疾患、眼疾患、老化・老人性疾患等が挙げられる(非特許文献1)。
また、「酸化ストレス」とは、生体内の活性酸素産生系と消去系とのバランスが崩れ、過剰な活性酸素が産生されるようになった、生体にとって好ましくない状態を云う。「酸化ストレスを改善する」と云うのは、この崩れたバランスを正常の状態に戻すことを主として云う。
【0022】
本発明の抗酸化剤等を、医薬品として使用する場合、任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、例えば、経口、経腸、経粘膜、経皮、注射等が挙げられる。経口投与のための製剤の剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。また非経口投与のものとしては、例えば、静脈内注射剤、筋肉注射剤、座剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。
【0023】
また、斯かる製剤では、本発明の水不溶性画分単独で、またはこれと薬学的に許容され得る担体とを適宜組み合わせて使用してもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、香料、被膜剤等が挙げられる。
【0024】
これらの投与形態のうち、経口投与が好ましく、経口投与剤として用いる場合の該製剤中の本発明の水不溶性画分の含有量は、通常乾燥物換算で、製剤全質量の0.0001〜20質量%であるのが好ましく、0.0002〜5質量%であるのがより好ましく、0.001〜1質量%であるのが更に好ましい。
【0025】
上記製剤の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人当りの1日の投与量は、通常乾燥物換算で、有効成分水不溶性画分として60〜60000mgであるのが好ましい。また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与させ得るが、1日1回〜数回投与するのが好ましく、その投与間隔は4〜24時間が好ましく、6〜12時間がより好ましい。
【0026】
本発明の抗酸化剤等を、食品として使用する場合、その形態は、固形、半固形又は液状でもよい。食品の例としては、パン類、麺類、菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、澱粉加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品等、及びそれらの原料が挙げられる。また、上記経口投与製剤と同様のように、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。
【0027】
種々の形態の食品を調製するには、本発明の水不溶性画分単独で、またはこれと食品に許容され得るもの、例えば他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油脂、乳化剤、防腐剤、香料、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0028】
また、食品中の本発明の水不溶性画分の含有量は、通常乾燥物として、飲料等の液状形態の場合、飲料中0.0001〜20質量%であるのが好ましく、0.0002〜5質量%であるのがより好ましく、0.001〜2質量%であるのが更に好ましい。また、錠剤や加工食品等の固形又は半固形形態の場合、全組成物中、0.0001〜20質量%であるのが好ましく、0.0002〜5質量%であるのがより好ましく、0.001〜2質量%であるのが更に好ましい。
【0029】
また、本発明の抗酸化剤等を飼料として使用する場合には、例えば牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
尚、飼料を製造する場合には、水不溶性画分の含有量の他に、牛、豚、羊等の肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料、更に一般的に飼料に使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等を必要に応じて配合し、常法により当該飼料を加工製造することがきできる。
また、飼料中における水不溶性画分の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、通常0.0001〜20質量%であり、0.0002〜5質量%が好ましく、0.001〜2質量%がより好ましい。
【0030】
本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
製造例1
市販の酒粕(小林酒造)を室温(20〜30℃)にて風乾し、水分含量10%未満の乾燥酒粕を得た。
この乾燥酒粕50gに100mLのエタノール(純度100容量%)を添加し、液中のアルコール濃度が95容量%になるように調整した後、室温(液温20〜30℃)で30分間、酒粕エタノール混合物を攪拌した。攪拌後、濾過にてエタノール抽出物が含まれる濾液(以下、「エタノール抽出物濾液」とする)及び残渣を得、この残渣に再び100Lエタノールを添加し、上述と同様にして攪拌、ろ過してエタノール抽出濾液を得た。これらエタノール抽出濾液を混合し、エタノールをエバポレーターで除去し、酒粕由来のエタノール抽出物の乾燥物(試料No.1)を得た(0.4g)。
この酒粕由来のエタノール抽出物(乾燥物)1.2gに80℃のイオン交換水50mLを添加した後、加熱にて液温80℃で1時間攪拌(60r/min)し、酒粕由来のエタノール抽出物を水洗した(pH約7)。
このようにエタノール抽出物を熱水で水洗した後、遠心分離(3000rpm、室温、10分間)にて沈殿画分(以下「水不溶性画分」とする)と水可溶性画分とに分け、これらをそれぞれ凍結乾燥し、回収さられた水不溶性画分(試料No.2)は0.56g、水可溶性画分(試料No.3)は0.74gであった。
【0032】
製造例2
製造例1の乾燥酒粕100gに100mLの50容量%エタノール水混液を添加した後、室温(液温20〜30℃)で30分間、酒粕エタノール混合物を攪拌し、1時間放置した後、これをろ過してエタノール抽出濾液を得、更にエタノール水混液をエバポレーターで除去し、この50容量%エタノール水抽出物の乾燥物(試料No.4)を得た。
酒粕由来の50容量%エタノール水抽出物(乾燥物)に、50容量%エタノール水溶液100mLを添加し、攪拌した後、遠心分離(3000rpm、室温、10分間)にて不溶性画分と可溶性画分とに分け。これらをそれぞれ凍結乾燥し、回収された不溶性画分(試料No.5)は0.48g、可溶性画分(試料No.6)は0.32gであった。
【0033】
試験例1
上記で得られた各試料(No.1〜No.6)10mgをエタノール1mLに溶解し、以下のようにして抗酸化活性を測定した。
動物は、SDラット(10〜16週齢、雄)を使用した。当該SDラットから、フォーレン(アボットジャパン社製)麻酔下で、頚動脈採血を行った。この血液サンプルを、血球分離用試薬(SIGMA社製)に重層して遠心分離した後、白血球画分を回収した。
回収した白血球画分に、各試料を0.01mg/mLとなるよう加え、室温で1時間反応させた後、蛍光試薬10μM 5,6-CM-H2DCFDA(Invitrogen社製)を、10容量%(v/v)固定試薬(BECKMAN COULTER社製)を添加し、室温で20分放置した。その後、白血球の細胞内の活性酸素を、Flowcytemetory(フローサイトメーター:Becton Dickinson社製)にて測定した。
試料無添加にて上記と同様にして細胞内の活性酸素を測定し、無添加(コントロール)における活性酸素産生量を、活性酸素産生抑制率0%とした。
【0034】
これらの結果を表1に示した。
酒粕由来の100%EtOH抽出物(試料No.1)では、活性酸素抑制作用が全く認められなかったにも拘らず、これを熱水にて水洗した水不溶性画分、すなわち100%EtOH抽出物−水不溶性画分(試料No.2)には、活性酸素抑制作用が新たに発現することが認められた。一方で、熱水にて水洗し、水洗水に溶解した画分(水溶性画分)、すなわち100%EtOH抽出物−水可溶性画分(試料No.3)では、活性酸素抑制作用は発現しなかった。
また、50%EtOH抽出物(試料No.4)、これを同じ50%EtOH水混液で洗浄し、これに溶解した可溶性画分である50%EtOH抽出物-50%EtOH可溶性画分(試料No.6)、これに溶解しなかった不溶性画分、すなわち50%EtOH抽出物-50%EtOH不溶性画分(試料NO.5)の何れにも、活性酸素抑制作用は認められなかった。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕からアルコール類にて抽出してアルコール類可溶性画分を得、得られたアルコール類可溶性画分を水洗して水不溶性画分を回収することを特徴とする抗酸化成分の製造方法。
【請求項2】
アルコール類抽出の際のアルコール濃度が、溶剤中、80容量%以上である請求項1記載の抗酸化成分の製造方法。
【請求項3】
アルコール類抽出の際の液温が、4〜50℃である請求項1又は2記載の抗酸化成分の製造方法。
【請求項4】
アルコール類抽出の際の処理時間が、10分間〜24時間である請求項1〜3の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
【請求項5】
アルコール類が、エタノールである請求項1〜4の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
【請求項6】
水洗浄の際の液温が、40〜110℃である請求項1〜5の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
【請求項7】
水洗浄の際の処理時間が、3分間〜24時間である請求項1〜6の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
【請求項8】
水洗浄の際の水の使用量が、乾燥物換算でのアルコール類可溶性画分1質量部に対して、10〜200質量部である請求項1〜7の何れか1記載の抗酸化成分の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項記載の抗酸化成分の製造方法にて得られうる抗酸化成分を有効成分とする抗酸化剤又は抗酸化ストレス改善剤。

【公開番号】特開2010−285357(P2010−285357A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138205(P2009−138205)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】