説明

酒粕酵素分解物及びその製造方法、並びに機能性物品

【課題】酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを、加圧加温下で複数の酵素で処理することにより、エストロゲン様作用、表皮角化細胞増殖作用、及び保湿作用の少なくともいずれかを有する酒粕酵素分解物及び酒粕酵素分解物の製造方法、並びに機能性物品の提供。
【解決手段】酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかに、加圧加温下で、2種以上の互いに基質特異性及び反応速度の異なる酵素を反応させて得られることを特徴とする酒粕酵素分解物である。該酵素が、糖質分解酵素及び蛋白質分解酵素の少なくともいずれかである態様が好ましい。及び、該酒粕酵素分解物を含有する機能性物品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを加圧加温下で複数種の酵素で処理することにより得られる酒粕酵素分解物及び酒粕酵素分解物の製造方法、並びに該酒粕酵素分解物を含有する機能性物品に関する。本発明において、前記機能性物品とは、飲食品、皮膚化粧料、頭髪化粧料、及び入浴剤などを幅広く含む概念を意味する。
【背景技術】
【0002】
酒粕中には、米、米麹、酵母に由来した成分である各種アミノ酸類、ビタミン類、有機酸類、蛋白質、各種糖類等の多くの栄養成分などが多量に含まれていることが知られている。また、酒粕を、酵母やリンゴ酸高産生酵母により発酵させた酒粕発酵物が、化粧料原料として用いられることが提案されている(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照)。しかし、これらの酒粕発酵物は、手間と時間のかかる発酵工程が必要であり、発酵により酒粕中の有効成分が変化してしまうおそれもあり、短時間で効率よく酒粕を分解できるものではない。
【0003】
従来より、食品などに圧力をかけて物性などを変化させることについては、例えば、米(非特許文献1参照)、果実(非特許文献2参照)などが知られ、既に実用化されている。また、圧力30MPa、温度25℃以上の加圧加熱条件で処理すると微生物は死滅し、殺菌作用を有することが開示されている(非特許文献3参照)。また、食品に高圧処理を行うことによりアレルゲンの低減化が図れることも開示されている(非特許文献4参照)。また、特許文献4には、大豆等の植物性タンパクをタンパク分解酵素で加水分解処理した部分加水分解物を配合してなる化粧料が提案されている。しかし、この提案の加水分解方法は、複数の工程からなり、非常に手間のかかる処理方法であり、実用的なものではない。
更に、蛋白質を含有する食品素材又は蛋白質を加圧低温下でプロテアーゼを作用させて得られるアンギオテンシン変換酵素阻害活性の高い分解物について提案されている(特許文献5参照)。
【0004】
しかしながら、現在までのところ、各種食品素材などを複数種類の酵素を用いて処理する方法では、例えば、プロテアーゼと他の酵素とを一緒に処理すると、プロテアーゼが他の酵素を失活させてしまうため、技術的に困難であり、未だ実用化されていないのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開平10−130121号公報
【特許文献2】特開2004−137235号公報
【特許文献3】特開2004−137236号公報
【特許文献4】特開昭58−10512号公報
【特許文献5】特開2002−247955号公報
【非特許文献1】「食品と開発」39巻、12号、9頁、2004年
【非特許文献2】「FFIジャーナル」210巻、1号、37頁、2005年
【非特許文献3】「FFIジャーナル」210巻、1号、4頁、2005年
【非特許文献4】「FFIジャーナル」210巻、1号、20頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを加圧加温下で複数種の酵素を作用させて低分子化することにより、有用なアミノ酸、単糖類、ビタミン、ミネラル、ペプチド、オリゴ糖などを多く含み、酵素の作用により分解されるため、安全かつ有用な酒粕酵素分解物及び該酒粕酵素分解物を含有する機能性物品を提供することを目的とする。
また、本発明は、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかに複数種の酵素を作用させて、短時間で効率よく酒粕酵素分解物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを、加圧加温下で複数種の酵素を作用させて、低分子化した酒粕酵素分解物が、エストロゲン様作用、表皮角化細胞増殖作用、及び保湿作用の少なくともいずれかを有し、飲食品、皮膚化粧料、頭髪化粧料及び入浴剤などの機能性物品に有用であるという知見を得た。
【0008】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを、加圧加温下で、2種以上の互いに基質特異性及び反応速度の異なる酵素を反応させて得られることを特徴とする酒粕酵素分解物である。
<2> 酵素が、糖質分解酵素及び蛋白質分解酵素の少なくともいずれかである前記<1>に記載の酒粕酵素分解物である。
<3> 酵素が、アミラーゼ、グルコシダーゼ、プロテアーゼ、及びペプチダーゼから選択される少なくとも2種である前記<1>から<2>のいずれかに記載の酒粕酵素分解物である。
<4> 圧力40〜200MPa、温度40〜80℃で1〜36時間反応させる前記<1>から<3>のいずれかに記載の酒粕酵素分解物である。
<5> エストロゲン様作用、表皮角化細胞増殖作用、及び保湿作用の少なくともいずれかを有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の酒粕酵素分解物である。
<6> 酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかに糖質分解酵素及び蛋白質分解酵素の少なくともいずれかを加え、圧力40〜200MPa、温度40〜80℃で1〜36時間反応することを特徴とする酒粕酵素分解物の製造方法である。
<7> 酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかにプロテアーゼ及びアミラーゼを加え、圧力50〜150MPa、温度50〜70℃で3〜24時間反応する前記<6>に記載の酒粕酵素分解物の製造方法である。
<8> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の酒粕酵素分解物を含有することを特徴とする機能性物品である。
<9> 飲食品、皮膚化粧料、頭髪化粧料及び入浴剤から選択されるいずれかである前記<8>に記載の機能性物品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における諸問題を解決でき、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを加圧加温下で複数種の酵素を作用させて低分子化することにより、有用なアミノ酸、単糖類、ビタミン、ミネラル、ペプチド、オリゴ糖などを多く含み、エストロゲン様作用、表皮角化細胞増殖作用、及び保湿作用の少なくともいずれかを有し、酵素の作用により分解されるため、安全かつ有用な酒粕酵素分解物及び該酒粕酵素分解物を含む機能性物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(酒粕酵素分解物及びその製造方法)
本発明の酒粕酵素分解物は、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを、加圧加温下で、2種以上の互いに基質特異性及び反応速度の異なる酵素を反応させて得られる。
本発明の酒粕酵素分解物の製造方法は、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかに糖質分解酵素及び蛋白質分解酵素を加え、圧力40〜200MPa、温度40〜80℃で1〜36時間反応するものである。
以下、本発明の酒粕酵素分解物の説明を通じて、本発明の酒粕酵素分解物の製造方法の詳細についても明らかにする。
【0011】
−酒粕、焼酎蒸留粕−
前記酒粕としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常のもろみから清酒を絞った後に得られる清酒粕が好適である。なお、前記酒粕には、味醂粕、米糠のような副原料を適宜添加することも可能である。
前記焼酎蒸留粕は、米、麦、蕎麦、芋、酒粕等を原料として、焼酎を製造する際に得られるものである。なお、前記焼酎蒸留粕には、味醂粕、米糠のような副原料を適宜添加して構わない。
前記酒粕又は焼酎蒸留粕としては、新鮮なものが好ましいが、ある程度乾燥させたもの、乾燥保存したもの、冷凍保存させたものであっても構わない。
前記酒粕及び焼酎蒸留粕中には、原料由来の各種アミノ酸類;ビタミンB、B、B等のビタミン類;有機酸類、蛋白質、各種糖類、ミネラル類等の多くの栄養成分を含んでいる。
【0012】
−酵素−
前記酵素は、少なくとも2種の互いに基質特異性及び反応速度の異なるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、糖質分解酵素及び蛋白質分解酵素の少なくともいずれかが好ましい。
前記糖質分解酵素としては、例えば、アミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、リゾチーム、β−ガラクトシダーゼ、などが挙げられる。
前記蛋白質分解酵素は、蛋白質を加水分解する酵素の総称であり、例えば、パパイン、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン等のプロテアーゼ;各種微生物が産生するプロテアーゼなどが挙げられる。
前記酵素としては、例えば、アミラーゼ、グルコシダーゼ、プロテアーゼ、及びペプチダーゼから選択される少なくとも2種が好適であり、これらの中でも、アミラーゼとプロテアーゼとの組み合わせが特に好ましい。
前記酵素としては、酵素活性を有すれば特に制限はなく、精製された酵素だけではなく、粗酵素であっても構わない。
【0013】
−加圧加温−
前記加圧加温の分解条件としては、圧力40〜200MPa、温度40〜80℃で1〜36時間が好ましく、圧力50〜150MPa、温度50〜70℃で3〜24時間がより好ましい。
前記分解条件範囲内であれば、酵素の失活を起こすことなく酵素反応が速やかに進む温度を保つことができる。また、有害微生物の増殖を阻止できるので、腐敗の心配がなく、防腐剤等の添加やその他の腐敗防止措置を取る必要もないので好ましい。
なお、前記加圧加温条件は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する酵素発酵促進装置を用いて行うことが好ましい。
【0014】
本発明の酒粕酵素分解物の製造方法は、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかに糖質分解酵素及び蛋白質分解酵素を加え、圧力40〜200MPa、温度40〜80℃で1〜36時間反応する。
この場合、前記酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかにプロテアーゼ及びアミラーゼを加え、圧力50〜150MPa、温度50〜70℃で3〜24時間反応することが好ましい。
前記酒粕酵素分解物は、後述する実施例で示すように、エストロゲン様作用、表皮角化細胞増殖作用、及び保湿作用の少なくともいずれかを有し、飲食品、皮膚化粧料、頭髪化粧料及び入浴剤の有効成分として好適に用いられる。
【0015】
このような本発明の酒粕酵素分解物の製造方法に用いる装置としては、前記のような加圧加温条件を満足することができるものであるならば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図1に示すような酵素発酵促進装置が好適である。
図1は、本発明の酒粕酵素分解物の製造方法に使用する酵素発酵促進装置の概略断面図を示す。この酵素発酵促進装置1は、耐圧容器2と、ヒーター3と、加圧ポンプ4と、温度センサ5と、を備えている。
【0016】
前記耐圧容器2は、例えば、外径Lが100mm、深さLが200mmの円筒状の密閉容器であって壁厚寸法Lは150mmに設定されている。この耐圧容器2内に、柔軟性のある容器に酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを密封したものを入れる。次に、この耐圧容器2内に水を満たす。この耐圧容器2の外周面には加熱用のヒーター3が配置されている。このヒーター3は耐圧容器2内の温度を80℃まで上昇させることができると共に、操作パネル(不図示)を操作することによって、この耐圧容器2内を任意の温度に設定することができる。
【0017】
また、耐圧容器2には加圧ポンプ4が接続されており、操作パネルを操作することにより、この加圧ポンプ4により耐圧容器2内を0〜200MPaまでの任意の圧力に調節することができる。更に、この耐圧容器2には温度センサ5及び圧力計6が取り付けられている。温度センサ5は耐圧容器2内の温度を検出して表示する。圧力計6は耐圧容器2内の圧力を検出して表示する。
【0018】
この酵素発酵促進装置によれば、腐敗を防止でき、酵素分解条件(温度、圧力、時間)を自由に調整することができると共に、防腐剤等を添加する必要がないので、酵素以外のものを添加する必要がなく、機能性に優れ、安全な酒粕酵素分解物を効率よく製造することができる。
【0019】
(機能性物品)
本発明の機能性物品は、本発明の前記酒粕酵素分解物を含んでなり、更に必要に応じてその他の成分を含んでなる。前記機能性物品としては、例えば、飲食品、皮膚化粧料、頭髪化粧料、入浴剤、などが挙げられる。
【0020】
−飲食品−
前記飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品、などの区分に制限されるものではなく、例えば、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品などを幅広く含むものを意味する。
【0021】
前記飲食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料、アルコール飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;種々の形態の健康栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ等の医薬品や医薬部外品、などが挙げられる。
【0022】
前記飲食品における本発明の前記酒粕酵素分解物の添加量は、対象となる飲食品の種類に応じて異なり一概には規定することができないが、飲食品本来の味を損なわない範囲で添加すればよく、各種対象飲食品に対し、通常0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜20質量%がより好ましい。また、顆粒、錠剤又はカプセル形態の飲食品の場合には、通常0.01〜100質量%が好ましく、5〜100質量%がより好ましい。なお、酒粕酵素分解物の摂取量は、成人1日当たり約1〜1000mgが好適である。
【0023】
−皮膚化粧料及び頭皮化粧料−
前記皮膚化粧料及び頭皮化粧料は、本発明の前記酒粕酵素分解物を含んでなり、更に必要に応じてその他の成分を含んでなる。
前記その他の成分としては、例えば、美白剤、収斂剤、殺菌剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、細胞賦活剤、消炎剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料、などが挙げられる。
【0024】
前記皮膚化粧料としては、特に制限はなく、各種用途から適宜選択することができ、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤、アストリンゼント、などが挙げられる。
前記頭皮化粧料としては、特に制限はなく、各種用途から適宜選択することができ、例えば、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンス、などが挙げられる。
【0025】
前記酒粕酵素分解物の前記皮膚化粧料又は頭皮化粧料に対する配合量は、前記皮膚化粧料又は頭皮化粧料の種類などに応じて適宜調整することができるが、0.01〜100質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましい。
【0026】
なお、本発明の酒粕酵素分解物、及び機能性物品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(製造例1)
−酒粕酵素分解物の製造−
酒粕100gに水200mL、プロテアーゼ1g、及びアミラーゼ0.3gを加え、50℃、60MPaで24時間、図1に示す酵素発酵促進装置(ヤンマー株式会社製)を用い、反応させた。得られた反応液に500mLの水を加え、珪藻土で濾過を行った。得られた濾液を減圧濃縮し、36gの酒粕酵素分解物を得た。
【0029】
(製造例2)
−酒粕酵素分解物の製造−
米焼酎蒸留粕100gに水200mL、プロテアーゼ1g、及びアミラーゼ0.3gを加え、50℃、60MPaで24時間、図1に示す酵素発酵促進装置(ヤンマー株式会社製)を用い、反応させた。得られた反応液に500mLの50質量%エタノールを加え、珪藻土で濾過を行った。得られた濾液を減圧濃縮し、28gの酒粕酵素分解物を得た。
【0030】
(実施例1及び比較例1)
−エストロゲン様作用試験−
被験試料として、製造例1及び2の酒粕分解物、並びに比較例1として製造例1で用いた酒粕を用い、エストロゲン依存性細胞の増殖に対する影響を調べるThomasらの方法(In vitro cell.Dev.Biol.28A,595−602,1992)に準拠して試験を行った。
まず、ヒト乳ガン由来のMCF−7細胞を75cmのフラスコでコンフルエント様になるまで培養し、トリプシン処理により該MCF−7細胞を集め、10質量%FBS(活性炭処理済み)、1質量%の非必須アミノ酸溶液(NEAA)及び1mMのピルビン酸ナトリウムを含みフェノールレッドを含まないMEM培地(以下、「MEM培地」と略記する)を用いて、3×10cells/mLに調製した。
次に、調製したMCF−7細胞を23穴プレートに0.9mLずつ播種し、これを定着させるために37℃、5%CO−95%airの下で培養した。6時間後(0日日)、MEM培地で終濃度の10倍の濃度(12.5ppm、3.1ppm)に調製した各被験試料溶液100μLを上記プレートに添加し、培養を続けた。
培養開始から6日目、培地を0.97mmol/Lの臭化3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム(MTT)を含むMEM培地に交換し、2時間培養後、培地をイソプロパノールに交換して細胞内に生成したブルーホルマザンを抽出した。溶出したブルーホルマザンを含有するイソプロパノールについて、ブルーホルマザンの吸収極大点がある570nmの吸光度を測定した。
なお、付着細胞の影響を補正するため、同時に650nmの吸光度も測定し、両吸光度の差をもってブルーホルマザンの生成量に比例する値とした(下記の数式1における吸光度はこの補正済み吸光度である)。また、陽性対照として、0.02ppmのエチニルエストラジオールを使用した。
エストロゲン様作用(エストロゲン依存性増殖作用)の強さは、被験試料無添加時の吸光度を100%として、下記数式1に基づき算出した。結果を表1に示す。
<数式1>
エストロゲン様作用(%)=(A/B)×100
ただし、前記数式1中、Aは、被験試料添加の場合の吸光度、Bは、被験試料無添加の場合の吸光度を表す。
【0031】
【表1】

【0032】
(実施例2及び比較例2)
−表皮角化細胞増殖試験−
被験試料として、製造例1及び2の酒粕分解物、並びに比較例2として製造例1で用いた酒粕を用い、以下のようにして、表皮角化細胞増殖試験を行った。
まず、正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.5×10細胞/mLの濃度に正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地で希釈した後、コラーゲンコートした96穴プレートに1穴当たり100μLずつ播種し、一晩培養した。培養終了後、正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地で溶解した各被験試料を各穴に100μL添加し、3日間培養した。
次に、表皮角化細胞増殖作用は、MTTアッセイ法を用いて測定した。培養終了後、培地を抜き、終濃度0.4mg/mLでPBS(−)に溶解した臭化3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム(MTT)を各穴に100μLずつ添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2−プロパノール100μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。
前記表皮角化細胞増殖促進率の計算方法は、以下の数式2に示す通りである。
以上のようにして求めた、被験試料濃度50ppm及び12.5ppmにおける表皮角化細胞増殖促進率(%)の結果を表2に示す。
【0033】
<数式2>
表皮角化細胞増殖促進率(%)=(St/Ct)×100
ただし、前記数式2中、Stは、被験試料を添加した細胞での吸光度を表す。Ctは、被験試料を添加しない細胞での吸光度を表す。
【0034】
【表2】

【0035】
(実施例3)
−保湿試験−
まず、(1)製造例1の酒粕酵素分解物1gを30質量%の1,3−ブチレングリコール100mLに溶解した試料、(2)精製水、(3)1質量%グリセリン、を用意した。
次に、前記(1)〜(3)の試料溶液を、それぞれ直径8ミリメートルのペーパーディスク(東洋製作所製、質量0.017g)に各10μLを滴下した。これを試験室内(温度24℃、相対湿度50%RH)に放置し、1分ごとに0〜8分後の質量を測定した。0分の質量を100%として各試料溶液の水分残存率を求めた。結果を表3に示す。なお、製造例2の酒粕酵素分解物についても同様の結果が得られた。
【0036】
【表3】

【0037】
表1〜表3の結果から、製造例1及び2の酒粕酵素分解物が、優れたエストロゲン様作用、及び表皮角化細胞増殖作用を有し、製造例1の酒粕酵素分解物が優れた保湿作用を有することが確認できた。
【0038】
(配合実施例1)
−クリーム−
下記組成のクリームを常法により製造した。
酒粕酵素分解物(製造例1) 0.01g
ローズマリー抽出物 0.1g
ハマメリス抽出物 0.1g
縮合リシノレイン酸ポリグリセリル 3.0g
スクワラン 8.0g
マカダミアナッツ油 3.0g
トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 5.0g
メチルフェニルポリシロキサン 4.0g
塩化ナトリウム 0.5g
防腐剤(パラオキシ安息香酸プロピル) 0.1g
香料 適量
1,3−ブチレングリコール 5.0g
グリセリン 3.0g
精製水 残部
全量 100g
【0039】
(配合実施例2)
−美容液−
下記組成の美容液を常法により製造した。
酒粕酵素分解物(製造例2) 0.02g
ニンジン抽出物 0.1g
油溶性甘草エキス 0.1g
ローヤルゼリー抽出物 0.1g
モモ葉抽出物 0.1g
酵母抽出物 0.1g
キサンタンガム 0.3g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.1g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
グリセリン 2.0g
水酸化カリウム 0.25g
香料 適量
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
エタノール 2.0g
精製水 残部
全量 100g
【0040】
(配合実施例3)
−パック−
下記組成のパックを常法により製造した。
酒粕酵素分解物(製造例1) 0.001g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
ポリビニルアルコール 15.0g
カルボメキシメチルセルロース 5.0g
グリセリン 3.0g
エタノール 10.0g
香料 0.5g
防腐剤(パラオキシ安息香酸ブチル) 適量
酸化防止剤(酢酸トコフェロール) 適量
精製水 残部
全量 100g
【0041】
(配合実施例4)
−ヘアトニック−
下記の原料Aを60℃の精製水70gに溶解した。それに、下記の原料Bの混合液を加え、攪拌し、冷却してヘアトニックを製造した。
<原料A>
酒粕酵素分解物(製造例1) 0.5g
レゾルシン 0.01g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
ニンジンエキス 0.5g
<原料B>
塩酸ピリドキシン 0.1g
D−パントテニルアルキール 0.1g
L−メントール 0.05g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
香料 適量
エタノール 25.0g
【0042】
(配合実施例5)
−ヘアローション−
製造例2の酒粕酵素分解物を1,3−ブチレングリコールに溶解してから、残りの原料は直接、精製水70gに投入して、原料Aの水溶液を調製した。そこに、下記の原料Bの混合液を加え、攪拌して、ヘアローションを製造した。
<原料A>
酒粕酵素分解物(製造例2) 0.5g
ジャマネマンドロエキス 0.5g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.2g
オレイルアルコール 4.0g
防腐剤 適量
<原料B>
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20EO) 1.5g
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(20EO) 0.5g
香料 適量
エタノール 15.0g
【0043】
(配合実施例6)
−ヘアクリーム−
下記の原料Bを精製水40gに加えて70℃に加熱し、溶解した。そこに、70℃に加熱した下記の原料Aの混合物を加え、ホモジナイザーを用いて乳化し、ヘアクリームを製造した。
<原料A>
酒粕酵素分解物(製造例1) 0.5g
ステアリルグリチルレチネート 0.1g
ビーズワックス 10.0g
セタノール 5.0g
親水ラウリン 8.0g
スクワラン 37.5g
グリセルモノステアレート 2.0g
γ−オリザノール 0.05g
<原料B>
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20EO) 2.0g
ポリエチレングリコール 5.0g
防腐剤 適量
香料 適量
【0044】
(配合実施例7)
−シャンプー−
下記組成のシャンプーを常法により製造した。
酒粕酵素分解物(製造例1) 0.1g
ラウリル硫酸トリエタノールアミン 5.0g
ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム 12.0g
ラウリル酸ジエタノールアミド 2.0g
エデト酸二ナトリウム 0.1g
1.3−ブチレングリコール 4.0g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
香料 0.05g
精製水 残部
全量 100g
【0045】
(配合実施例8)
−リンス−
下記組成のリンスを常法により製造した。
酒粕酵素分解物(製造例2) 0.1g
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 2.0g
セトステアリルアルコール 2.0g
ポリオキシエチレンラノリンエーテル 3.0g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
プロピレングリコール 5.0g
香料 0.05g
精製水 残部
全量 100g
【0046】
(配合実施例9)
−栄養補助食品(錠剤)−
下記の混合物を打錠して、錠剤状の栄養補助食品を製造した。
酒粕酵素分解物(製造例1) 50g
粉糖(ショ糖) 188g
グリセリン脂肪酸エステル 12g
【0047】
(配合実施例10)
−栄養補助食品(錠剤)−
下記の混合物を打錠して、錠剤状の栄養補助食品を製造した。
酒粕酵素分解物(製造例2) 50g
粉糖(ショ糖) 188g
グリセリン脂肪酸エステル 12g
【0048】
(配合実施例11)
−栄養補助食品(顆粒)−
下記の混合物を顆粒状に形成して、顆粒状栄養補助食品を製造した。
酒粕酵素分解物(製造例1) 34g
ビートオリゴ糖 1000g
ビタミンC 167g
ステビア抽出物 10g
【0049】
(配合実施例12)
−栄養補助食品(顆粒)−
下記の混合物を顆粒状に形成して、顆粒状栄養補助食品を製造した。
酒粕酵素分解物(製造例2) 34g
ビートオリゴ糖 1000g
ビタミンC 167g
ステビア抽出物 10g
【0050】
(配合実施例13)
−ドリンク−
下記処方に従い、常法によりドリンクを製造した。
酒粕酵素分解物(製造例1) 3g
ブドウ糖ショ糖果糖 10g
クエン酸 1g
クエン酸ソーダ 0.5g
香料 0.01g
色素 0.01g
精製水 残部
全量 100g
【0051】
(配合実施例14)
−ドリンク−
下記処方に従い、常法によりドリンクを製造した。
酒粕酵素分解物(製造例2) 3g
ブドウ糖ショ糖果糖 10g
クエン酸 1g
クエン酸ソーダ 0.5g
香料 0.01g
色素 0.01g
精製水 残部
全量 100g
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の酒粕酸素分解物は、酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを、加圧加温下で複数の酵素で処理してなり、エストロゲン様作用、表皮角化細胞増殖作用、及び保湿作用の少なくともいずれかの有用な作用を有しているので、例えば、飲食品、皮膚化粧料、頭髪化粧料、入浴剤などに有効成分として添加して用いられ、酒粕及び焼酎蒸留粕の有効利用が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明の酵素発酵促進装置の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 酵素発酵促進装置
2 耐圧容器
3 ヒーター
4 加圧ポンプ
5 温度センサ
6 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかを、加圧加温下で、2種以上の互いに基質特異性及び反応速度の異なる酵素を反応させて得られることを特徴とする酒粕酵素分解物。
【請求項2】
酵素が、糖質分解酵素及び蛋白質分解酵素の少なくともいずれかである請求項1に記載の酒粕酵素分解物。
【請求項3】
酵素が、アミラーゼ、グルコシダーゼ、プロテアーゼ、及びペプチダーゼから選択される少なくとも2種である請求項1から2のいずれかに記載の酒粕酵素分解物。
【請求項4】
圧力40〜200MPa、温度40〜80℃で1〜36時間反応させる請求項1から3のいずれかに記載の酒粕酵素分解物。
【請求項5】
エストロゲン様作用、表皮角化細胞増殖作用、及び保湿作用の少なくともいずれかを有する請求項1から4のいずれかに記載の酒粕酵素分解物。
【請求項6】
酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかに糖質分解酵素及び蛋白質分解酵素の少なくともいずれかを加え、圧力40〜200MPa、温度40〜80℃で1〜36時間反応することを特徴とする酒粕酵素分解物の製造方法。
【請求項7】
酒粕及び焼酎蒸留粕の少なくともいずれかにプロテアーゼ及びアミラーゼを加え、圧力50〜150MPa、温度50〜70℃で3〜24時間反応する請求項6に記載の酒粕酵素分解物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載の酒粕酵素分解物を含有することを特徴とする機能性物品。
【請求項9】
飲食品、皮膚化粧料、頭髪化粧料及び入浴剤から選択されるいずれかである請求項8に記載の機能性物品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−99718(P2007−99718A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293650(P2005−293650)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(591118775)白鶴酒造株式会社 (16)
【Fターム(参考)】