説明

酒類の製造方法

【課題】 発泡酒などの酒類の製造過程において、最終製品のカロリー値を増加させることなく、コク味や旨味を増強させた酒類を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 酒類を製造するにあたり、エリスリトールを酒類の製造工程のいずれかの工程で添加することを特徴とする酒類の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酒類の製造方法に関し、詳しくは発泡酒などの酒類の製造過程において、エリスリトールを添加することにより、最終製品のカロリー値を増加させることなく、コク味や旨味を増強させた酒類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、酒類においては消費者ニーズの多様化に伴い、様々な商品が開発され、市場に受け入れられている。また、食品や飲料水の分野では、低カロリー食品或いはノンカロリー飲料といった、カロリーの低いものに対する人気が高くなってきている。
【0003】発泡酒などの酒類のカロリー値は、主として最終製品中のアルコールとエキス分により計算される。一例として、ビールのカロリー値を算出するにあたり、以下に記載した計算方法が採用されている。
【0004】
【数1】・ビールカロリー(kcal/容量)={[ アルコール(重量)×6.9]+ [(真性エキス(重量)−灰分)×4 ]}×比重
【0005】この計算式では、ビール及び発泡酒のカロリーは、単位容量当たりの、アルコール及びエキスの重量によりほぼ支配されていることを示している。
【0006】ビールと同じ原材料から製造された発泡酒に関しては、エキス分を構成する物質がほぼ同じであることから、上記したビールカロリー計算法を採用してよいものと考えられる。
【0007】また、発泡酒を製造する場合、アルコールと残存するエキス分に影響する工程は、大きく分けると二つの工程がある。一つは麦芽やトウモロコシなどの副原料から麦汁を製造する仕込工程であり、もう一つは麦汁に酵母を加えて発酵させる発酵工程である。
【0008】一般に、生成したアルコールと残存するエキス分は、それぞれ特徴的な味を呈するが、旨味やコク味も呈し、最終製品の味に大きく関与している。
【0009】よって、従来の技術では、発泡酒のコク味や甘味を増強させる場合、濃度を高めた麦汁を発酵させることにより、アルコールや残存するエキス分の含量を高める方法や、コク味や旨味を呈する原料を直接添加する方法などが考えられる。
【0010】しかしながら、これらの方法では、カロリー値に直接関与するアルコール或いはエキス分が高くなるので、最終製品のカロリー値も高くなってしまう。つまり、従来技術で発泡酒のコク味や旨味を増強すると、それに伴って、最終製品のカロリー値は高くなってしまうという問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、発泡酒などの酒類の製造過程において、最終製品のカロリー値を増加させることなく、コク味や旨味を増強させた酒類を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】ところで、日本国内における食品のカロリーに関しては、厚生省の定める食品栄養表示基準(栄養改善法の規定に基づき、平成8年5月24日から適用、但し現行商品等に対しては平成10年4月1日より適用)により管理されている。
【0013】その中で、エリスリトールのカロリー値は、以下のように記載されている。
各種単糖及びオリゴ糖のエネルギー換算係数(kcal/g)
ぶどう糖等 :4エリスリトール:0
【0014】エリスリトールは、糖アルコールの一種で、ぶどう糖を原料として生産される四炭糖の糖アルコールである。それ自身では甘味を呈し、甘味の強さは砂糖の70〜80%といわれている。エリスリトールの水に対する溶解性は他の糖質と同レベルである。また、食品に使用するための安全性についても確認されており、既にいくつかの食品で使用されている(New Food Industry1996 Vol.38 No.12 p.8〜16)。さらに、エリスリトールは、ビール酵母によって資化されないことから、発酵工程の前後で、その含有量が変化しない。
【0015】本発明は、エリスリトールが、カロリー0で、かつ甘味を呈する物質であることに着目し、最終製品のカロリーを増加させることなく、味をコントロールする発泡酒の製造方法を発明したものである。
【0016】すなわち、本発明は、酒類を製造するにあたり、エリスリトールを酒類の製造工程のいずれかの工程で添加することを特徴とする酒類の製造方法を提供するものである。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明は、発泡酒などの酒類製造の一環としてエリスリトールを添加するものであって、エリスリトールの添加によって従来の製造法を特別に変更する必要はない。
【0018】本発明に使用するエリスリトールは、エネルギー換算係数(kcal/g)が0である四炭糖アルコールであり、砂糖の70〜80%の甘味をもつ。エリスリトールは、醸造用酵母によって殆ど資化されない非発酵性の四炭糖アルコールである。また、麦汁や発酵液に対する溶解性も高く、ビール濾過器での濾過によっても殆ど捕捉されることはない。従って、発泡酒などの酒類の製造過程において積極的に添加したエリスリトールは、その含有量を殆ど変化させることなく最終製品に移行されることになる。
【0019】本発明において、エリスリトールは、最終製品中の該エリスリトールの含有量が、通常、0.1〜5.0重量%、好ましくは0.5〜4.5重量%、より好ましくは0.7〜4.0重量%となるように添加する。最終製品中のエリスリトールの含有量が0.1重量%未満であると、エリスリトールを添加した効果を得ることができない。すなわち、製品にコク味や旨味が付与されない。一方、最終製品中のエリスリトールの含有量が5.0重量%を超えると、製品にコク味を付与することはできるが、コク味よりも甘味が強くなってしまうため、好ましくない。
【0020】エリスリトールの添加時期は、発泡酒の製造工程において、特に制限はなく、仕込工程、発酵工程、後発酵工程、容器詰め工程等のいずれでもよいが、仕込工程中に添加することが好ましい。特に請求項3に記載したように、仕込工程におけるマイシェ形成からマイシェ糖化処理までの間、或いは請求項4に記載したように、仕込工程における麦汁煮沸開始前若しくは麦汁煮沸時に添加することが好ましい。
【0021】すなわち、マイシェ形成からマイシェ糖化処理までの間と、麦汁煮沸時とは、液温が100℃で、1〜2時間の処理であり、これによって殺菌が行われ、エリスリトール投入に関連する雑菌の混入を阻止することができるため、その後、雑菌による汚染がない条件下で製造工程を行えば、特に個別に殺菌工程を設ける必要が無いからである。
【0022】さらに、麦汁濾過によるエリスリトールの損失、或いはエリスリトール添加による麦汁濾過渋滞の可能性を考慮すると、仕込工程における麦汁煮沸前若しくは麦汁煮沸時の添加がより好ましい。
【0023】ここで、本発明の方法により発泡酒を作成する製造する場合の一例を示す。図1は、後記実施例1で用いた試験醸造設備を示すものであり、図2は、本発明の方法における仕込工程の仕込ダイアグラムの一例を示すものである。この仕込工程の仕込ダイアグラムは、一例を示したものであって、本発明がこれに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0024】まず、仕込釜において、原料及びコーンスターチ等の副原料と温水とを混合してマイシェとし、昇温して液化する。仕込釜での液化と平行して、仕込槽において、麦芽を温水と混ぜて、マイシェを形成する。
【0025】次に、仕込釜のマイシェを仕込槽に移し、仕込槽のマイシェと混合する。混合後のマイシェについて糖化処理を行う。糖化処理後のマイシェは、濾過槽に送られ、濾過される。
【0026】エリスリトールの添加は、この時点、即ち、仕込工程におけるマイシェ形成からマイシェ糖化処理の間に行っても良いし、或いは次に述べる仕込工程における麦汁煮沸開始前若しくは麦汁煮沸時に行っても良い。
【0027】濾過後、得られた麦汁にホップを添加し、煮沸釜で煮沸する。エリスリトールの添加は、この濾過後、麦汁煮沸開始前若しくは麦汁煮沸時に行うことができる。この麦汁煮沸処理によって、仕込工程を完了する。
【0028】このようにして得られた麦汁を冷却後、酵母を加えて発酵させる。さらに、発酵終了後の熟成工程を経た後、濾過器により、発酵液中の酵母を分離して、最終製品を得ることができる。以上のようにして、目的とする発泡酒などの酒類を製造することができる。
【0029】
【実施例】以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例で使用したエリスリトールは、日研化学(株)製のエリスリトール(商品名)である。
【0030】実施例1(1)発泡酒の製造図1に示した試験醸造設備を用いて発泡酒を製造した。図1中に示した数値は、各容器の最大許容量である。この試験醸造設備を構成する各容器は、配管で連結されており、各容器中の液体は、ポンプ等により、連接する容器に移すことができる。仕込釜、仕込槽、煮沸釜は、それぞれ攪拌器と蒸気ジャケットを装備しており、種々の温度パターンを採ることができるようになっているものである。
【0031】濾過槽の下部にはステンレス製の網が付けてあり、その網の上部に麦芽の穀皮が堆積し、穀皮及び麦芽粕を麦汁から分離することができる。分離された麦汁が送られる煮沸釜では、麦汁にホップを加えた上で煮沸を行う。沈殿槽では、煮沸後、沈殿してくる熱凝固物を分離する。プレートクーラーは、熱凝固物の除かれた麦汁を、発酵温度にまで冷却し、次の発酵タンクへと送る。発酵タンクは、冷媒のコントロールにより、温度制御が可能となっている。
【0032】上記のような試験醸造設備を用いて、まず、仕込工程を行った。仕込工程は、図2に示した仕込ダイアグラムに従った。すなわち、まず仕込釜において、コーンスターチ36kgと粉砕麦芽8kgを約30%のマイシェとし、1℃/分で100℃まで昇温して液化した。一方、仕込槽では、仕込釜での液化と平行して、粉砕麦芽約26kgを約20%のマイシェとし、50℃で20分間保持した。その後、仕込釜のマイシェを仕込槽に移して、仕込釜のマイシェと混合した。混合後のマイシェは、65℃で60分間保持し、その後、さらに1℃/分で昇温して75℃とし、5分間保持して糖化を行った。糖化後のマイシェを、濾過槽で濾過した。
【0033】こうして得られた麦汁に対して、各々異なる量(A:0kg,B:5kg,C:10kg,D:15kg,E:20kg,F:25kg,G:30kg)のエリスリトールを添加し、各々500LのサンプルA〜Gを製造した。
【0034】各サンプルに、ホップを400g加え、100℃で90分間煮沸した。煮沸後、それぞれのサンプルについて、麦汁濃度がA:10%,B:11%、C:12%,D:13%,E:14%,F:15%,G:16%となるように調整し、7種類の麦汁とした。
【0035】このように、調整後の麦汁濃度が各サンプルで異なるのは、エリスリトールの添加量を加算したためである。すなわち、エリスリトール無添加のサンプルAは、麦汁濃度10%の麦汁500Lであり、サンプルBは、エリスリトールの添加により麦汁濃度が11%となった麦汁500Lであって、エリスリトールの添加で麦汁濃度がサンプルAに比べて1%高くなる。以下、同様に、サンプルCでは2%、サンプルDでは3%、サンプルEでは4%、サンプルFでは5%、サンプルGでは6%、それぞれ麦汁濃度がサンプルAに比べて高くなっている。
【0036】また、これらの麦汁を冷却後、酵母を加え、5〜12℃で10日程度発酵させた。続いて、0℃〜マイナス1℃で約1ヶ月間熟成を行った。しかる後、ビール濾過器により、酵母を取り除き、7種類の発泡酒(それぞれ製品A〜Gとなる)を得た。各製品のエリスリトール含有量を、第1表に示す。
【0037】(2)発泡酒のエキス分の測定上記(1)で得た発泡酒である製品A〜Gについてエキス分を測定した。エキス分の測定は、京都電子(株)製の密度計により、液体の振動数から比重を測定することにより算出した。結果を第1表に示す。ここで、エリスリトール無添加の製品Aのエキス分は、主として麦芽とコーンスターチ由来の非発酵性の成分からなる。この製品Aのエキス分は、製品Aと同じ原料を使用し、同じ糖化工程を経た製品B〜G中にも、そのまま存在するものである。また、前述した通り、製造工程中においてエリスリトールの含有量は殆ど変化しないため、理論上、B〜Gの最終製品中のエリスリトールの含有量は、下記の第1表に示したように、それぞれ製品Aとのエキス分の差で表せる。
【0038】
【表1】


【0039】第1表より、以下のことが分かる。エリスリトール無添加の製品Aと比較して、エリスリトールを添加した製品B〜Gには、エキス分が多量に含まれている。すなわち、製品B〜Gのエキス分の含有量は、エリスリトールの含有量を製品Aのエキス分に加算したものとなっている。この結果から、本発明の製造方法において、製造過程で添加されたエリスリトールは、製品においてそのままエキス分となることが明らかとなった。
【0040】(3)官能検査上記1で得られた発泡酒を、パネラー10名による官能検査に供した。この官能検査においては、各製品の味について、評価を行うと共に、総合評価として、おいしいと感じたプラス(+)の評価を行ったパネラーの人数と、まずいと感じたマイナス(−)の評価を行ったパネラーの人数をそれぞれ数えた。結果を第2表に示す。
【0041】
【表2】


【0042】第2表より、以下のことが明らかである。まず、エリスリトールを含まない製品Aは、すっきりしているが、旨味が乏しい。これに対して、エリスリトールを添加したB〜Gはコク味が付与されていることが明らかである。特に、製品C(エリスリトール1.9重量%含有)では、コク味と旨味のバランスが良く、最も高い評価を得ている。
【0043】また、製品DとEでは、コク味が増すと同時に甘味も増し、パネラーによってはマイナス評価をする者もいた。さらに、製品G(エリスリトール5.8重量%含有)では、最終製品中のエリスリトール含量(重量%)が5.0重量%を超えているため、甘味が過剰となり、その甘味が旨味の増加を相殺してしまった。
【0044】この官能検査の結果から、最終製品中のエリスリトール含量が5.0重量%を超えると、甘味が過剰となり、その甘味が旨味の増加を相殺してしまうため、5.0重量%を超えるエリスリトールの添加は効果が無いことが分かった。また、エリスリトール含量が最低限どの程度あれば、旨味の向上が図れるかについては、エリスリトール含量0.07重量%の製品Hと、エリスリトール含量0.1重量%の製品Iとを官能検査に供したところ、第3表に示す通り、少なくとも0.1重量%あれば、旨味の向上につながることが明らかになった。
【0045】
【表3】


【0046】以上のように、エリスリトールを添加することにより、無添加の製品と比較して、明らかにコク味や質の良い旨味が付与された発泡酒が得られ、その添加量によって、発泡酒の味をコントロールすることが可能となる。
【0047】
【発明の効果】本発明の方法によれば、発泡酒などの酒類を製造するに当たり、その製造工程中において、エリスリトールを、最終製品中の含有量が特定の値となるように添加することにより、カロリー値を全く増加させることなく、味においてコク味や旨味が付与された新しいタイプの酒類を製造することができる。しかも、本発明の方法は、従来の製造法を特別に変更する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1で用いた試験醸造設備を示す説明図である。
【図2】図2は、実施例における仕込工程の仕込ダイアグラムを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 酒類を製造するにあたり、エリスリトールを発泡酒の製造工程のいずれかの工程で添加することを特徴とする酒類の製造方法。
【請求項2】 エリスリトールを、最終製品中の該エリスリトールの含有量が0.1〜5.0重量%となるように添加する請求項1記載の方法。
【請求項3】エリスリトールの添加時期が、仕込工程におけるマイシェ形成からマイシェ糖化処理の間である請求項1記載の方法。
【請求項4】エリスリトールの添加時期が、仕込工程における麦汁煮沸開始前若しくは麦汁煮沸時である請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平11−127839
【公開日】平成11年(1999)5月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−311610
【出願日】平成9年(1997)10月29日
【出願人】(000002196)サッポロビール株式会社 (7)