説明

酢酸−n−プロピルの製造方法

【課題】酢酸−n−プロピルを高純度にて製造する方法を提供すること。
【解決手段】n−プロピルアルコールと、n−プロピルアルコール100重量部に対して130〜1000重量部の酢酸とを、酸触媒の存在下に反応させること、および、該反応において副生する水と生成する酢酸−n−プロピルを含む留分を反応槽から留出させ回収すること、を含む酢酸−n−プロピルの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n−プロピルアルコールと酢酸とを反応させる、酢酸−n−プロピルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸−n−プロピルは、近年、塗料向けの用途などで需要が拡大しており、注目されている有機溶媒である。
【0003】
酢酸−n−プロピルの製造方法としては、実質的に等モルの酢酸とn−プロピルアルコールとを、アルキルベンゼンスルホン酸類などの酸触媒の存在下に反応させ、生成したエステル及び水を蒸留によって前記反応容器から蒸留塔へ移し、蒸留塔に水を添加して生成物エステル−水共沸混合物を生成させ、次いで、生成したエステル−水共沸混合物を相分離してエステルを得る方法が開示されている(特許文献1、実施例6を参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では、酢酸とn−プロピルアルコールとを酸触媒の存在下に反応させ、生成した酢酸−n−プロピル及び水を蒸留によって反応容器から蒸留塔へ移す際に、目的物である酢酸−n−プロピルとは分離しにくい、n−プロピルアルコールが酢酸−n−プロピル中に多量に同伴してしまう問題がある。
【0005】
このため、酢酸とn−プロピルアルコールとを酸触媒の存在下に反応させ、生成した酢酸−n−プロピル及び水を反応装置から留出させる酢酸−n−プロピルの製造方法において、酢酸−n−プロピルに同伴するn−プロピルアルコールの量を低減させる方法が求められている。
【特許文献1】特開平05−194318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、酢酸とn−プロピルアルコールとを酸触媒の存在下に反応させる酢酸−n−プロピルの製造方法において、生成した酢酸−n−プロピルに同伴するn−プロピルアルコールの量を低減させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
n−プロピルアルコールと、n−プロピルアルコール100重量部に対して130〜1000重量部の酢酸とを、酸触媒の存在下に反応させること、および、
該反応において副生する水と生成する酢酸−n−プロピルを含む留分を反応槽から留出させ回収すること、
を含む酢酸−n−プロピルの製造方法を提供する。
【0008】
なお、本発明の方法は、酢酸とn−プロピルアルコールとの反応の進行中に、酢酸−n−プロピルと副生する水を含む留分を反応槽から留出させて回収することを特徴とし、酢酸とn−プロピルアルコールとの反応工程が完了した後に、酢酸−n−プロピルと副生する水を含む留分を反応槽から留出させて回収する工程を行う方法に限定されるものではない。
【0009】
本発明において使用する、酢酸およびn−プロピルアルコールは、公知の何れの製法により製造されたものでもよく、工業的に入手可能なものを使用すればよい。
【0010】
本発明の酢酸−n−プロピルの製造方法は、酢酸とn−プロピルアルコールを反応させる際に、n−プロピルアルコール100重量部に対して、好ましくは130〜1000重量部、より好ましくは130〜800重量部、特に好ましくは130〜500重量部の酢酸を用いることを特徴とするものである。
【0011】
酢酸の使用量が、n−プロピルアルコール100重量部に対して130重量部よりも少ない場合には、酢酸とn−プロピルアルコールとを酸触媒の存在下に反応させ、生成した酢酸−n−プロピル及び水を反応装置から留出させる際に、生成した酢酸−n−プロピルに多量のn−プロピルアルコールが同伴するため好ましくない。酢酸の使用量が、n−プロピルアルコール100重量部に対して1000重量部を超える場合でも本発明を実施することはできるが、反応装置の利用効率などを考慮すると好ましくない。
【0012】
本発明において、酢酸とn−プロピルアルコールとを反応させる場合には、エステル化反応に不活性な反応媒体を用いることも可能であるが、酢酸およびn−プロピルアルコールが液体であって特に反応時の液性などに問題がないことから、通常、反応媒体を使用する必要は無い。
【0013】
本発明において、酢酸とn−プロピルアルコールの反応に使用する反応槽は、ジャケット等の熱媒体による加熱装置と生成した酢酸−n−プロピルおよび水を留出させるための留出管を備えるものであれば特に制限されない。
反応槽は撹拌装置を備えるものがより好ましい。反応槽が撹拌翼を備えるものである場合の撹拌翼の形状は、酢酸とn−プロピルアルコールの反応が良好に進行する限り特に制限されないが、パドル翼、アンカー翼、プロペラ翼、リボン翼、またはタービン翼などから選択されるものが好ましい。
反応槽の材質としては、グラスライニング、フッ素樹脂などの各種樹脂によりライニングされたものを用いるのが好ましい。
【0014】
本発明において、酢酸とn−プロピルアルコールとの反応に使用する酸触媒は、特に限定されず、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの鉱酸、ベンゼンスルホン酸 、p−トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸などのハロゲン化酢酸、強酸性のイオン交換樹脂などが用いられ、これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0015】
本発明における酸触媒の使用量は、酢酸とn−プロピルアルコールとが良好に反応する限り特に制限されない。酸触媒の使用量は、酸触媒の種類により異なるが、典型的には、酢酸100重量部に対して、1〜100重量部用いるのが好ましく、2〜80重量部用いるのがより好ましく、5〜50重量部用いるのが特に好ましい。
【0016】
本発明において、酢酸とn−プロピルアルコールとを反応させる温度は、酢酸−n−プロピルが良好に生成する限り特に制限されない。酢酸とn−プロピルアルコールとの反応は、典型的には60〜120℃で行われ、より好ましくは70〜100℃で行われる。
【0017】
本発明において、酢酸とn−プロピルアルコールを反応させる時間は、酢酸−n−プロピルが良好に生成する限り特に制限されないが、典型的には0.5〜50時間であるのが好ましく、1〜20時間であるのがより好ましい。
【0018】
酢酸とn−プロピルアルコールとの反応は、空気中で行うことも出来るが、窒素、ヘリウムなどの不活性カス雰囲気下に行うのが好ましい。
【0019】
酢酸とn−プロピルアルコールとの反応を行う際の圧力条件は、大気圧下、加圧下、減圧下のいずれの条件でもよいが、通常、大気圧下で行われる。減圧下で酢酸とn−プロピルアルコールとの反応を行う場合は、減圧度によっては留出管から未反応の酢酸およびn−プロピルアルコールが留出しやすくなるので注意を要する。
【0020】
本発明では、酢酸とn−プロピルアルコールとの反応と同時に、酢酸−n−プロピルと副生する水を含む留分を反応槽から留出させて回収する。かかる留分(以下、反応留分という)は、主成分としての目的の酢酸−n−プロピルと副生する水の他に、未反応の酢酸およびn−プロピルアルコールを含みうる。
【0021】
酢酸−n−プロピルと副生する水を含む反応留分は、通常、大気圧下もしくは減圧下に、反応液が沸騰している状態で、反応槽に接続されたラインより留出させられる。
反応槽として耐圧装置を用いる場合には、反応槽を密閉し、反応液の沸点以上の温度で反応を行っている状態で、反応槽に接続されたラインのバルブを間欠的もしくは連続的に開くことにより、酢酸n−プロピルおよび副生する水を含む反応留分を反応槽から留出させることができる。
【0022】
このようにして反応槽より留出させることにより回収された酢酸n−プロピルを主成分とする反応留分は、各種の精製方法により、酢酸、水、n−プロピルアルコールなどの成分を除去した後に各種用途に使用される。
【0023】
本発明の方法によれば、酢酸とn−プロピルアルコールを反応させることにより、反応槽から留出させる、酢酸n−プロピルアルコールを主成分とする反応留分に含まれるn−プロピルアルコールの量が極めて少なくなり、後の精製工程において高純度の酢酸−n−プロピルを容易に調製することが可能となる。
【0024】
酢酸とn−プロピルアルコールとの反応により生成した、酢酸n−プロピルを主成分とする反応留分を精製する好適な方法としては、以下に説明する、共沸蒸留による方法が挙げられる。
【0025】
まず、酢酸とn−プロピルアルコールの反応時に反応槽より留出した、酢酸−n−プロピルを主成分とする反応留分に、酢酸−n−プロピル100重量部に対して水量が70〜500重量部、より好ましくは70〜300重量部、特に好ましくは70〜200重量部となるように水を混合する。
【0026】
次いで、反応留分と水の混合物を加熱し、酢酸−n−プロピルおよび水を共沸させ、発生した共沸組成物を、好ましくは0〜80℃、より好ましくは0〜70℃に冷却して液化して回収する。液化した共沸組成物には、主に酢酸−n−プロピルおよび水が含まれ、反応留分に含まれていた酢酸のほとんどが除かれている。
【0027】
反応留分と水の混合物を加熱する際の温度は、特に制限されないが、典型的には60〜120℃で行うのが好ましく、70〜110℃で行うのがより好ましい。反応留分と水の混合物を加熱する際の圧力は特に制限されず、大気圧下、減圧下、加圧下の何れの条件で行ってもよいが、通常、大気圧下に行われる。
【0028】
本発明において、反応留分と水の混合物の加熱は空気中で行うことも出来るが、窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下に行うのが好ましい。
【0029】
反応留分と水の混合物を加熱する際の時間は、典型的には0.5〜50時間であるのが好ましく、1〜20時間であるのがより好ましい。
【0030】
以上のようにして回収された共沸組成物は、有機層(酢酸−n−プロピル層)と水層に分液させた後、水層を分離することによって、酢酸−n−プロピルとされる。
【0031】
共沸蒸留によって得られた、酢酸−n−プロピルが所望の純度に達していない場合には、さらに脱水剤による脱水や、精留を行うなどして、所望の純度に到達するまで精製を行えばよい。
【0032】
以上のようにして得られる、高純度の酢酸−n−プロピルは、インク、塗料などの溶剤や、化学合成における反応溶媒や抽出溶媒など種々の用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
実施例および比較例において用いる略号について以下に記す。
NPA:n−プロピルアルコール
AcOH:酢酸
NPAc:酢酸−n−プロピル
【0034】
酢酸とn−プロピルアルコールの反応時の反応留分および、共沸蒸留工程において留出させた共沸組成物の成分について、水分についてはカールフィッシャー法により分析し、酢酸、およびn−プロピルアルコールの含有量についてはガスクロマトグラフにより分析した。
酢酸−n−プロピルの含有量については、分析した試料中の全量を100%として、水分、酢酸およびn−プロパノールの含有量を差し引くことにより求めた。
各試料の分析は、サンプリングした試料に、試料の重量とほぼ同重量のメタノールを加えた後に行った。
【0035】
〔ガスクロマトグラフ分析条件〕
装置:株式会社日立製作所製 263−70
カラム:G−Column(財団法人化学物質評価研究機構製、G−950、1.2mm×40m)
カラム温度:120℃
インジェクション/検出器温度:170℃
ヘリウム:20ml/min
水素:1.0kg/cm
エアー:1.0kg/cm
内部標準:1−ブタノール
溶媒:メタノール(特級、和光純薬工業株式会社製)
注入量:1.0μL
【0036】
〈実施例1〜4、および比較例1〜4〉
温度計、攪拌装置、および、リービッヒ冷却器を接続した留出管を備えた、容量500mLのガラス製の四つ口コルベンに表1に記す量の、酢酸およびn−プロピルアルコールと、硫酸(濃度97重量%)30gを仕込んだ。
大気圧下に、80〜85℃に内容物を加熱し、酢酸とn−プロピルアルコールの反応を行い、生成物の留出が開始した時点から5時間反応を行い、その間の反応留分の組成を60分毎に測定した。反応留分の組成の分析結果を表1に記す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜4および比較例1〜4での、120〜180分の留出分における、反応留出液中の、(AcOH+NPA+NPAc)に対するNPAの比率を以下の表2および図1に示す。
【表2】

*NPA比率=NPA/(AcOH+NPA+NPAc)
【0039】
実施例5
〈反応工程〉
温度計、攪拌装置、および、リービッヒ冷却器を接続した留出管を備えた、容量2Lのガラス製の四つ口コルベンに、酢酸920g、n−プロピルアルコール280gおよび硫酸(濃度97重量%)120gを仕込んだ。
大気圧下に、94℃に内容物を加熱し、酢酸とn−プロピルアルコールの反応を行い、生成物の留出が開始した時点から4時間10分後までの反応留分460gを回収した。得られた反応留分の組成は、酢酸37.3重量%、n−プロピルアルコール0.53重量%、酢酸−n−プロピル54.63重量%、および水7.11重量%であった。
【0040】
〈共沸蒸留工程〉
温度計、攪拌装置、およびリービッヒ冷却器を接続した留出管を備えた、容量500mLのガラス製の四つ口コルベンに、反応工程で得られた反応留分200gと水140gを仕込んだ。混合物中の酢酸−n−プロピルの重量は109.3gであり、水の重量は154.2gであった。
混合物を81〜83℃に加熱し、共沸組成物の留出が開始した時点から1時間20分後までに留出した共沸組成物123.8gを回収した。回収された共沸組成物の組成は、酢酸1.0重量%、n−プロピルアルコール1.2重量%、酢酸−n−プロピル85.2重量%、および水12.6重量%であり、酢酸の大部分を除去され、高濃度の酢酸−n−プロピルを含むものであった。
【0041】
比較例5
〈反応工程〉
温度計、攪拌装置、および、リービッヒ冷却器を接続した留出管を備えた、容量500mLのガラス製の四つ口コルベンに、酢酸100g、n−プロピルアルコール200gおよび硫酸(濃度97重量%)30gを仕込んだ。
大気圧下に、82℃に内容物を加熱し、酢酸とn−プロピルアルコールの反応を行い、生成物の留出が開始した時点から5時間までの反応留分178.6gを回収した。得られた反応留分の組成は、酢酸0重量%、n−プロピルアルコール20.0重量%、酢酸−n−プロピル66.7重量%、および水13.3重量%であった。
【0042】
〈共沸蒸留工程〉
温度計、攪拌装置、およびリービッヒ冷却器を接続した留出管を備えた、容量500mLのガラス製の四つ口コルベンに、反応工程で得られた反応留分178.6gと水80gを仕込んだ。混合物中の酢酸−n−プロピルの重量は119.09gであり、水の重量は106.3gであった。
混合物を77〜78℃に加熱し、共沸組成物の留出が開始した時点から5時間後までに留出した共沸組成物165.20gを回収した。回収された共沸組成物の組成は、酢酸0重量%、n−プロピルアルコール20.3重量%、酢酸−n−プロピル59.6重量%、および水20.1重量%であり、大量のn−プロピルアルコールを含有するものであって、酢酸−n−プロピル純度の低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1〜4および比較例1〜4での、120〜180分の留出分における、反応留出液中の、(AcOH+NPA+NPAc)に対するNPAの比率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n−プロピルアルコールと、n−プロピルアルコール100重量部に対して130〜1000重量部の酢酸とを、酸触媒の存在下に反応させること、および、
該反応において副生する水と生成する酢酸−n−プロピルを含む留分を反応槽から留出させ回収すること、
を含む酢酸−n−プロピルの製造方法。
【請求項2】
n−プロピルアルコールと、n−プロピルアルコール100重量部に対して130〜500重量部の酢酸とを反応させる、請求項1に記載の酢酸−n−プロピルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法において回収された留分に、留分中に含まれる酢酸−n−プロピル100重量部に対する水量が70〜500重量部となるように水を混合すること、
該留分と水の混合物を加熱し、酢酸−n−プロピルおよび水を共沸させ、発生した共沸組成物を液化して回収すること、および、
得られた液状の共沸組成物を有機相と水相に分液して有機相を回収すること、
を含む請求項1または2に記載の酢酸−n−プロピルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−37286(P2010−37286A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203051(P2008−203051)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】