説明

酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化する方法及び装置、酪農パーラー排水の浄化方法

【課題】高濃度の生乳が混入した酪農パーラー排水であっても、酪農パーラー排水に含まれる生乳由来の脂肪球を、後続の排水浄化設備で十分に浄化可能な状態に前処理する新たな方法及び装置を提供する。上記方法を利用した酪農パーラー排水の浄化方法を提供する。
【解決手段】生乳が混入した酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化する方法。前記脂肪球の微粒化を、表面に凹凸を有するセラミック部材が前記排水の流通が可能な状態で充填された処理室に、前記排水を循環流通させて、前記排水と前記セラミック部材とを衝突させることで行う。この方法を実施する装置。生乳が混入した酪農パーラー排水の浄化方法。生乳が混入した酪農パーラー排水を、上記方法または装置を用いて処理して、含まれる脂肪球を微粒化する工程、次いで、脂肪球の少なくとも一部を分解する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生乳が混入した酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化する方法及び装置、さらには、これら脂肪球微粒化方法及び装置で微粒化された脂肪球を含む排水を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酪農パーラー排水には作業形態から生乳が混入する場合が多く、この中には乳脂肪分等の浄化困難物質が含まれている。しかし、従来の浄化槽では、生乳(廃棄乳)の混入比率を0%以下とするように指導されている。そのため、酪農現場では生乳が混入しても浄化が可能なシステムの開発が望まれている。
【0003】
現在市場にある浄化槽は次の3つにタイプに分類できる。(i)化学的処理(オゾン処理、電気的分解)、(ii)膜処理、(iii)微生物処理。それぞれのタイプの課題は次のとおりである。(i)については、コスト的に高額である。(ii)メンテナンス費用がかかる。(iii)微生物相を安定的に運用することが難しい。
【0004】
株式会社アクトでは、(iii)に分類される浄化槽をこれまでに開発し(特許文献1〜3)特許を出願し公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-11946号公報
【特許文献2】特開2009-11945号公報
【特許文献3】特開2008-93650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜3に記載の方法または装置では、浄化困難物質である脂肪球の乳化を促進するために、界面活性能を有するセラミックを用いていた。この界面活性能を有するセラミックによる脂肪球の乳化促進には、一定の効果があるが、高濃度の生乳が混入した酪農パーラー排水を処理するには不十分であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高濃度の生乳が混入した酪農パーラー排水であっても、酪農パーラー排水に含まれる生乳由来の脂肪球を、後続の排水浄化設備で十分に浄化可能な状態に前処理する新たな方法及び装置を提供することにある。さらに本発明は、上記方法を利用した酪農パーラー排水の浄化方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明者らが種々の検討を行った結果、表面に凹凸を有するセラミック部材が、排水の流通が可能な状態で充填された処理室に、排水を循環流通させて、排水とセラミック部材とを衝突させることで、脂肪球を効果的に微粒化して、より細かい粒子の脂肪球として分散することが可能であり、このようにして得られた微粒化した脂肪球を含有する排水を、後続の排水浄化設備に供給することで、良好な浄化結果を得られることを見出して、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下のとおりである。
[1]
生乳が混入した酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化する方法であって、
前記脂肪球の微粒化を、表面に凹凸を有するセラミック部材が前記排水の流通が可能な状態で充填された処理室に、前記排水を循環流通させて、前記排水と前記セラミック部材とを衝突させることで行うことを特徴とする前記方法。
[2]
前記セラミック部材は、ゼオライト粒子、石炭粒子、ガラス粒子及び有機バインダーの混合物の成形品を前記石炭粒子及び有機バインダーは燃焼し、ガラス粒子の少なくとも一部が溶融し、表面に凹凸を有するセラミック部材が得られる温度で加熱することで得られたものである、[1]に記載の方法。
[3]
前記処理室中に充填されたセラミック部材の空間占有率が30〜70容量%である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
前記排水の循環流通の速度が0.1〜10m/秒の範囲である、[1]〜3のいずれかに記載の方法。
[5]
前記排水に含まれる95%以上の脂肪球の粒子径が約0.3〜15μmの範囲であり、微粒化後の処理液に含まれる95%以上の脂肪球の粒子径が約0.3〜2μmの範囲である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記排水の循環流通は、1分〜10時間の範囲で行われる、[1] 〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
生乳が混入した酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化するための装置であって、
表面に凹凸を有するセラミック部材が前記排水の流通が可能な状態で充填された処理室、
前記排水を受入れ、貯蔵し、かつ処理室を流通した後の排水も受入れるための貯蔵容器、
前記貯蔵容器から処理室に前記排水を流通させるためのポンプ、並びに
前記貯蔵容器、ポンプ及び処理室を連絡して、前記排水を循環流通させるための配管
を含む、前記装置。
[8]
前記セラミック部材は、ゼオライト粒子、石炭粒子、ガラス粒子及び有機バインダーの混合物の成形品を前記石炭粒子及び有機バインダーは燃焼し、ガラス粒子の少なくとも一部が溶融し、表面に凹凸を有するセラミック部材が得られる温度で加熱することで得られたものである、[7]に記載の装置。
[9]
前記処理室中に充填されたセラミック部材の空間占有率が30〜70容量%である、[7]または[8]に記載の装置。
[10]
生乳が混入した酪農パーラー排水の浄化方法であって、
生乳が混入した酪農パーラー排水を、[1]〜[6]のいずれかの方法または[7]〜[9]のいずれかの装置を用いて処理して、含まれる脂肪球を微粒化する工程、次いで、脂肪球の少なくとも一部を分解する工程を含む、前記浄化方法。
[11]
脂肪球の少なくとも一部の分解は、好気性微生物、藍藻類、オゾン、凝集材又は膜を用いて行われる、[10]に記載の浄化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酪農パーラー排水に含まれる生乳由来の脂肪球を、効果的に微粒化して、より細かい粒子の脂肪球として分散することが可能である。さらに、このようにして得られた微粒化した脂肪球を含有する排水を、後続の排水浄化設備に供給することで、良好な浄化結果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)は筒状容器の概観図であり、(B)は筒状容器内部の球状セラミック部材の充填状態を示す説明図であり、(C)は球状セラミック部材の写真を示し、(D)は筒状容器に球状セラミック部材を充填した状態の写真を示す。
【図2】実施例2に用いた装置の写真を示す。
【図3】実施例1で得られた700℃焼成の球状セラミック部材の表面電子顕微鏡写真を示す。
【図4】実施例1で得られた900℃焼成の球状セラミック部材の表面電子顕微鏡写真を示す。
【図5】(A)に無処理区の顕微鏡写真を示し、(B)に微粒化処理区の顕微鏡写真を示す。
【図6】(A)に生乳を5倍に希釈した液体(無処理区)の脂肪球の粒度分布を示す。(B)に微粒化処理区の脂肪球の粒度分布を示す。
【図7】実施例3における浄化試験の開始前の状態の写真を(A)に、浄化後の状態の写真を(B)に示す。左が実施例2で調製した微粒化した脂肪球を含む処理液であり、右が生乳を5倍に希釈した液体である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[脂肪球微粒化方法]
本発明は、生乳が混入した酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化する方法に関する。この方法は、脂肪球の微粒化を、表面に凹凸を有するセラミック部材が排水の流通が可能な状態で充填された処理室に、前記排水を循環流通させて、前記排水と前記セラミック部材とを衝突させることで行うことを特徴とする。
【0013】
本発明で用いるセラミック部材は表面に凹凸を有し、セラミック部材が充填された処理室に排水を循環流通させることで、排水中の脂肪球が、セラミック部材の表面と直接または間接的に接触することで、脂肪球の微粒化が進行するものと考えられる。脂肪球のセラミック部材への直接または間接的な接触は、比較的高速で行われることが、脂肪球の微粒化には有効である。脂肪球が比較的高速でセラミック部材へ直接または間接的に接触することで、例えば、セラミック部材表面の研磨作用、セラミック部材表面への衝突、セラミック部材周辺におけるキャビテーション作用などによって、脂肪球の微粒化が進むものと考えられる。微粒化された脂肪球は、処理後一定期間は、微粒化後の微粒子の状態で乳化状態を維持できる。そのため、微粒化処理後速やかに後続の浄化装置に供給すれば、微粒化後の微粒子の状態で、例えば、微生物等による浄化作用を受けることができ、微粒化されることなく浄化装置に供給される場合に比べて、格段に分解処理が促進される。
【0014】
<セラミック部材>
本発明で用いるセラミック部材は表面に凹凸を有するものであれば特に制限はないが、例えば、ゼオライト粒子、石炭粒子、ガラス粒子及び有機バインダーの混合物の成形品を前記石炭粒子及び有機バインダーは燃焼し、ガラス粒子の少なくとも一部が溶融し、表面に凹凸を有するセラミック部材が得られる温度で加熱することで得られたものであることができる。
【0015】
ゼオライト粒子は、加熱後もセラミック部材の主成分となり、かつ表面の凹凸形成に寄与する。ゼオライト粒子は、例えば、天然ゼオライト粒子であって、例えば、粒子径は0.04〜2mm程度のものを適宜使用できる。但し、この粒子径の範囲に限定される意図ではない。石炭粒子は、加熱により燃焼し、燃焼後に微空隙を形成し、セラミック部材の表面の凹凸形成に寄与する。石炭粒子は、例えば、低品位の石炭でもよく、例えば、粒子径は0.05〜1mm程度のものを適宜使用できる。但し、この粒子径の範囲に限定される意図ではない。ガラス粒子は、少なくとも一部が加熱により溶融し、前記ゼオライト粒子を結合してセラミック部材に一定の強度を付与する。ガラス粒子は、例えば、空き瓶等を微粒化して作製したカレットであることができ、例えば、600℃以上の温度で溶融するものから使用出来る。ガラス粒子は、例えば、粒子径は0.05〜0.5mm程度のものを適宜使用できる。但し、この粒子径の範囲に限定される意図ではない。有機バインダーは、加熱前の混合物を成形品とするために用いられ、例えば、メチルセルロースを用いることができる。
【0016】
ゼオライト粒子、石炭粒子、ガラス粒子及び有機バインダーの混合割合は、前記セラミック部材が得られる条件であれば特に制限はない。例えば、質量比で、ゼオライト粒子100に対して、石炭粒子10〜100、ガラス粒子10〜50及び有機バインダー1〜5の範囲であることかできる。
【0017】
上記混合物の成形品を石炭粒子及び有機バインダーは燃焼し、ガラス粒子の少なくとも一部が溶融し、表面に凹凸を有するセラミック部材が得られる温度で加熱する。加熱温度は、例えば、800〜1000℃の範囲であることができる。温度が低すぎるとガラス粒子の溶融が不十分となり、セラミック部材の強度が不足する場合がある。温度が高すぎると焼結が起こるようになり、表面の凹凸が消滅してしまう傾向がある。
【0018】
セラミック部材の表面の凹凸は、例えば、実施例で調製したセラミック部材の電子顕微鏡写真(図4)を参照すると、50〜500μm程度の範囲の大きな凹凸と、50μm未満の微細な凹凸とが共存している。
【0019】
セラミック部材の形状や寸法には特に制限はなく、形状は、球状、長球状、方形、無定形、テトラポット形状、ハニカム形状などを挙げることができる。寸法は、処理室の寸法や形状と処理室に充填されるセラミック部材の空間占有率(またはセラミック部材が占有しない空間率)を考慮して適宜決定できる。セラミック部材が、例えば、球状の場合、直径が、例えば、1〜10cmであることができる。但し、処理室の寸法が大きい場合には、セラミック部材の寸法もより大きくすることも可能である。セラミック部材は、処理室に被処理液の流通の作用によって動かない、または動きにくいように充填することもできるが、被処理液の流通の作用によって動けるように充填することも可能である。
【0020】
処理室に充填されるセラミック部材の空間占有率は、処理室内での排水の流通性(抵抗)と脂肪球の微粒化効率等を考慮して、排水の流速も考慮した上で、適宜選択できる。上記空間占有率は、例えば、30〜70容量%の範囲とすることができる。しかし、この範囲に限定される意図ではない。
【0021】
排水は、上記セラミック部材が排水の流通が可能な状態で充填された処理室に循環流通させる。循環流通の速度は、処理室の容量や寸法、セラミック部材の表面の凹凸状態、セラミック部材の形状や寸法等を考慮し、さらに所望の脂肪球の微粒化効率を考慮して、適宜決定できる。例えば、0.1〜10m/秒の範囲とすることができるが、これに限定される意図ではない。
【0022】
本発明の方法では、図5及び6に示す粒度分布の結果から、排水に含まれる95%以上の脂肪球の粒子径が、例えば、約0.3〜15μmの範囲の場合、微粒化後の処理液に含まれる95%以上の脂肪球の粒子径が約0.3〜2μmの範囲になるように微粒化することができる。但し、排水に含まれる脂肪球の粒子径は生乳の種類により変動することがあり、また、微粒化後の処理液に含まれる脂肪球の粒子径は、処理条件により変動する。
【0023】
排水の循環流通のための時間は、所望の脂肪球の微粒化効率を考慮して、適宜決定できる。例えば、1分〜10時間の範囲で行われる。但し、これに限定される意図ではない。
【0024】
[脂肪球微粒化装置]
本発明は、生乳が混入した酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化するための装置を包含する。本発明の脂肪球微粒化装置は、(1)表面に凹凸を有するセラミック部材が前記排水の流通が可能な状態で充填された処理室、(2)前記排水を受入れ、貯蔵し、かつ処理室を流通した後の排水も受入れるための貯蔵容器、(3)前記貯蔵容器から処理室に前記排水を流通させるためのポンプ、並びに(4)前記貯蔵容器、ポンプ及び処理室を連絡して、前記排水を循環流通させるための配管を含む。
【0025】
(1)の処理室は、前記脂肪球微粒化方法で説明した、表面に凹凸を有するセラミック部材を、排水の流通が可能な状態で充填された装置である。処理室は、例えば、円筒形であって、入口及び出口側にセラミック部材を保持でき、かつ排水の流通は可能な隔壁を有し、入口側と及び出口側の隔壁の間にセラミック部材を充填したものであることかできる。そして、入口側は、ポンプを介して貯蔵容器からの排水を供給する配管と連絡し、出口側は貯蔵容器へ戻る配管と連絡している。
【0026】
(2)の貯蔵容器は、排水を受入れ、貯蔵し、かつ処理室を流通した後の排水も受入れるためのものである。
【0027】
(3)のポンプは、前記貯蔵容器から処理室に前記排水を流通させるためのものであり、所望の流速で排水を処理室に連続的に供給できるものである。
【0028】
(1)〜(3)の間は適当な配管、例えば、樹脂製(例えば、塩化ビニル樹脂等)のパイプで連絡される。
【0029】
[酪農パーラー排水の浄化方法]
本発明は、生乳が混入した酪農パーラー排水の浄化方法を包含する。この浄化方法は、生乳が混入した酪農パーラー排水を、上記本発明の方法または装置を用いて処理して、含まれる脂肪球を微粒化する工程、次いで、脂肪球の少なくとも一部を分解する工程を含む。
【0030】
生乳が混入した酪農パーラー排水を、上記本発明の方法または装置を用いて処理することで、脂肪球の粒子径は、酪農パーラー排水中では、図5及び6に示す粒度分布の結果から、例えば、約0.3〜15μmの範囲であったものが、95%以上の脂肪球の粒子径が約0.3〜2μmの範囲になるように微粒化される。さらにこの状態は、数時間は維持される。従って、この微粒化後の排水を脂肪球の少なくとも一部が分解される浄化方法に適用することで、脂肪球をより効率よく分解できる。
【0031】
脂肪球の少なくとも一部を分解する方法は、特に制限はなく、例えば、好気性微生物、藍藻類、オゾン、凝集材、及び膜の少なくともいずれか1つを用いて行うことができる。これらの浄化方法は、特許文献1〜3に記載のいずれかの方法を適宜利用することかできる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定される意図ではない。
【0033】
実施例1
セラミック部材の調製
表1に示す成分を混練して、直径約3cmの球状とした後に、700℃または900℃で、5時間空気中で焼成して、直径約3cmの球状セラミック部材を得た。得られた700℃焼成の球状セラミック部材の表面電子顕微鏡写真を図3に、900℃焼成の球状セラミック部材の表面電子顕微鏡写真を図4に示す。図3に示す電子顕微鏡写真からは、ゼオライトおよびカレットの粒子が、そのままの形で有機バインダーにより成形され、溶融せずに付着しているのが見てとれる。700℃焼成の球状セラミック部材は、強度が不十分である。一方、図4に示す電子顕微鏡写真からは、50〜500μm程度の範囲の大きな凹凸と、50μm未満の微細な凹凸とが共存しているが分かる。また、900℃焼成の球状セラミック部材は、十分な強度を有していた。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2
脂肪球の微粒化実験
実施例1で調製した900℃焼成の球状セラミック部材30個を内容積4.4L(内径15cm×長さ25cm)の両端が解放された(球状セラミック部材は流出しない)筒状容器に充填して処理室とした。筒状容器の概観図を図1の(A)に、筒状容器内部の球状セラミック部材の充填状態を示す説明図を図1の(B)に示し、図1の(C)に球状セラミック部材の写真を示し、図1の(D)に筒状容器に球状セラミック部材を充填した状態の写真を示す。図2に装置全体の写真を示すように、この処理室(筒状容器)にチューブを介して、電動ポンプを用いて、脂肪球を含有する被処理水を充填した容器から、被処理水を1時間循環供給した。供給速度は35L/分とした。被処理水としては、生乳を5倍に希釈した液体を用いた。図2に筒状容器に球状セラミック部材を一部充填した状態の写真を示す。
【0036】
この処理を行った液体を微粒化処理区とし、生乳を5倍に希釈した液体を無処理区として、脂肪球の粒度分布を測定した(測定機 島津 SALD-2000J)。無処理区の顕微鏡写真を図5(A)に、微粒化処理区の顕微鏡写真を図5(B)に示す。さらに、無処理区の粒度分布測定結果を図6(A)に示し、微粒化処理区の粒度分布測定結果を図6(B)に示す。その結果、微粒化処理区の脂肪球の平均粒子径は0.852μmであり、無処理区の脂肪球の平均粒子径は1.900μmであった。上記微粒化処理により、脂肪球の平均粒子径が約1/2になった。さらに、微粒化処理区の脂肪球は、95%以上の脂肪球の粒子径が約0.3〜15μmの範囲であり、かつ粒子径が2〜15μmの範囲の脂肪球が半分以上であるのに対して、微粒化後の処理液に含まれる脂肪球は、95%以上が粒子径約0.3〜2μmの範囲であり、2μmを超える粒子はほとんど含まれなかった。
【0037】
実施例3
排水浄化試験
実施例2で調製した微粒化した脂肪球を含む処理液を、微生物を植菌した特殊石炭を加え水温を20℃に保ちながら60時間曝気させた。その結果、CODは295.0mg/Lであった。それに対して、生乳を5倍に希釈した液体を処理することなく微生物を植菌した特殊石炭を加え水温を20℃に保ちながら60時間曝気させた結果、CODは544.7mg/Lであった。曝気処理開始前の状態を示す写真を図6の(A)に示し、曝気処理後の状態を示す写真を図6の(B)に示す。左が実施例2で調製した微粒化した脂肪球を含む処理液であり、右が生乳を5倍に希釈した液体である。実施例2で調製した微粒化した脂肪球を含む処理液は、曝気処理により生乳の白色が消失した。このことから、本発明の方法でセラミックス部材に循環供給して、含有される脂肪球を微粒化した後に、曝気による脂肪球の分解を行うことで、浄化が促進されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、酪農パーラー排水等の排水浄化の分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生乳が混入した酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化する方法であって、
前記脂肪球の微粒化を、表面に凹凸を有するセラミック部材が前記排水の流通が可能な状態で充填された処理室に、前記排水を循環流通させて、前記排水と前記セラミック部材とを衝突させることで行うことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記セラミック部材は、ゼオライト粒子、石炭粒子、ガラス粒子及び有機バインダーの混合物の成形品を前記石炭粒子及び有機バインダーは燃焼し、ガラス粒子の少なくとも一部が溶融し、表面に凹凸を有するセラミック部材が得られる温度で加熱することで得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理室中に充填されたセラミック部材の空間占有率が30〜70容量%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記排水の循環流通の速度が0.1〜10m/秒の範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記排水に含まれる95%以上の脂肪球の粒子径が約0.3〜15μmの範囲であり、微粒化後の処理液に含まれる95%以上の脂肪球の粒子径が約0.3〜2μmの範囲である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記排水の循環流通は、1分〜10時間の範囲で行われる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
生乳が混入した酪農パーラー排水に含まれる脂肪球を微粒化するための装置であって、
表面に凹凸を有するセラミック部材が前記排水の流通が可能な状態で充填された処理室、
前記排水を受入れ、貯蔵し、かつ処理室を流通した後の排水も受入れるための貯蔵容器、
前記貯蔵容器から処理室に前記排水を流通させるためのポンプ、並びに
前記貯蔵容器、ポンプ及び処理室を連絡して、前記排水を循環流通させるための配管
を含む、前記装置。
【請求項8】
前記セラミック部材は、ゼオライト粒子、石炭粒子、ガラス粒子及び有機バインダーの混合物の成形品を前記石炭粒子及び有機バインダーは燃焼し、ガラス粒子の少なくとも一部が溶融し、表面に凹凸を有するセラミック部材が得られる温度で加熱することで得られたものである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記処理室中に充填されたセラミック部材の空間占有率が30〜70容量%である、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
生乳が混入した酪農パーラー排水の浄化方法であって、
生乳が混入した酪農パーラー排水を、請求項1〜6のいずれかの方法または請求項7〜9のいずれかの装置を用いて処理して、含まれる脂肪球を微粒化する工程、次いで、脂肪球の少なくとも一部を分解する工程を含む、前記浄化方法。
【請求項11】
脂肪球の少なくとも一部の分解は、好気性微生物、藍藻類、オゾン、凝集材又は膜を用いて行われる、請求項10に記載の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−189301(P2011−189301A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58683(P2010−58683)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(506310050)株式会社アクト (16)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】