説明

酵母システムにおけるフィターゼ遺伝子の過剰発現

【課題】酵母におけるフィターゼ製造法、異種フィターゼを発現する酵母菌株、および酵母により生産された異種フィターゼを提供する。
【解決手段】酵母システムにおいて、フィターゼ活性を有する異種タンパク質またはポリペプチドを生産する方法、さらに、増強された熱安定性を有するフィターゼ活性を持つタンパク質であり、異種フィターゼを酵母菌株において生産するためのベクター、並びに、該ベクターを用いて酵母菌株を形質添加した形質転換酵母菌株。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、酵母におけるフィターゼ製造法、異種フィターゼを発現する酵母菌株、および酵母により生産された異種フィターゼに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
モノエステルのホスファターゼの特定のグループであるフィターゼは、穀類の食品または飼料における主要P貯蔵型であるフィテート(ミオ-イノシトールヘキソリン酸)からのリン酸基(「P」)の放出を開始するために必要である(Reddy, N.R.ら、「豆類および穀類中のフィテート」、Advances in Food Research、28:1 (1982)(非特許文献1))。ブタおよび家禽、さらにはヒトのような単胃(simple-stomached)動物は、その胃腸管にフィターゼ活性をほとんど有さないので、摂取されたフィテートのPはほとんど全く消化できない。これは結果的に、これらの動物食餌の中に、高価で補充不可能な(non-renewable)な栄養素である無機Pを補給することを必要とする。より望ましくないことに、これらの動物の厩肥(manure)を通じて排泄される利用されないフィテート-Pは、環境のP汚染を招いている(Cromwell. G.L.ら、「P-重要な必須栄養素であるが、可能性のある主要汚染物質 -- その動物栄養における中心的役割」、Biotechnology In the Feed Industry;Proceedings Alltech 7th Annual Symposium、133頁(1991)(非特許文献2))。さらにフィテートは、亜鉛のような必須微量元素とキレート形成し、かつ主にフィテートを除去しない植物起源の食品を摂食する小児において、成長および精神発達の遅滞のような、栄養素欠損症を生じる。
【0003】
アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)NRRL3135由来の2種のフィターゼであるphyAおよびphyBがクローニングされ配列決定されている(Ehrlich, K.C.ら、「アスペルギルス・ニガー(ficuum)からの第二のフィターゼ遺伝子(phys)の同定およびクローニング」、Biochem. Biophys. Res. Commun.、195:53-57 (1993)(非特許文献3):Piddington, C.S.ら、「アスペルギルス・ニガー・アワモリ変種からのフィターゼ(phy)およびpH2.5-最適性酸性ホスファターゼ(aph)をコードしている遺伝子のクローニングおよび配列決定」、Gene、133:56-62 (1993)(非特許文献4))。最近、新規フィターゼ遺伝子が、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)およびミセリオフトラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila)(Mitchellら、「ヒスチジン酸性ホスファターゼのフィターゼサブファミリー:菌類アスペルギルス・テレウスおよびミセリオフトラ・サーモフィラからの2種の新規フィターゼ遺伝子の単離」、Microbiology、143:245-252 (1997)(非特許文献5))、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)(Pasamontesら、「菌類アスペルギルス・フミガーツス由来の熱安定性フィターゼの遺伝子クローニング、精製、および特徴決定」、Appl. Environ. Microbial.、63:1696-1700 (1997)(非特許文献6))、エメリセラ・ニデュランス(Emericella nidulans)およびタラロマイセス・サーモフィルス(Talaromyces thermophilus)(Pasamontesら、「エメリセラ・ニデュランスおよび好熱性菌類タラロマイセス・サーモフィルス由来のフィターゼのクローニング」、Biochim. Biophys. Acta.、1353:217-223 (1997)(非特許文献7))、ならびにトウモロコシ(Maugenestら、「トウモロコシ実生のフィターゼをコードしているcDNAのクローニングおよび特徴決定」、Biochem. J.、322:511-517 (1997)(非特許文献8))から単離された。
【0004】
様々な種類のフィターゼ酵素が、腸内細菌(Enterobacter)sp.4 (Yoonら、「フィターゼ産生性腸内細菌sp.4の単離および同定、ならびにフィターゼ酵素の酵素特性」、Enzyme and Microbial Technology、18:449-454 (1996)(非特許文献9))、クレブシエラ・テリジーナ(Klebsiella terrigena)(Greinerら、「クレブシエラ・テレジーナ由来のフィターゼの精製および特徴決定」、Arch. Biochem. Biophys.、341:201-206 (1997)(非特許文献10))、ならびにバチルス(Bacillus)sp. DS11 (Kimら、「バチルスsp. DS11由来の熱安定性フィターゼの精製および特性」、Enzyme and Microbial Technology、22:2-7 (1998)(非特許文献11))から単離および/または精製されている。これらの酵素の特性は研究中である。加えて、アスペルギルス・フィクウム(Aspergills ficuum)由来のphyAの結晶構造が報告されている(Kostrewaら、「アスペルギルス・フィクウム由来のフィターゼの結晶構造、2.5A解像度(Resolution)」、Nature Structure Biology、4:185-190 (1997)(非特許文献12))。
【0005】
Hartingsveldtらは、phyA遺伝子をA.ニガーに導入し、かつ野生型に比べて10倍のフィターゼ活性の増大を得た(「アスペルギルス・ニガーのフィターゼコード遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)(非特許文献13))。ブタおよび家禽の食餌中にこの起源となる微生物フィターゼを補給することが、フィテート-Pおよび亜鉛の利用性を改善することにおいて有効であることが示されている(Simonsら、「ブロイラーおよびブタにおける微生物フィターゼによるリン利用性の改善」、Br. J. Nutr.、64:525 (1990)(非特許文献14);Lei, X.G.ら、「微生物フィターゼのトウモロコシ-ダイズミール食餌への補給は、離乳直後のブタのフィテートP利用性を直線的に改善する」、J. Anim. Sci.、71:3359(1993)(非特許文献15):Lei. X.G.ら、「微生物フィターゼのトウモロコシ-ダイズミール食餌への補給は、離乳直後のブタのフィテートP利用性を最大化する」、J. Anim. Sci.、71:3368 (1993)(非特許文献16);Cromwell, G.L.ら、「P-重要な必須栄養素であるが、可能性のある主要汚染物質 -- その動物栄養における中心的役割」、Biotechnology In the Feed Industry:Proceedings Alltech 7th Annual Symposium.、133頁 (1991)(非特許文献2))。しかし、限定的に市販されているフィターゼ供給品の高価さおよび飼料ペレット化時の熱に対する酵素活性の不安定性は、動物産業におけるその実用化を妨げている(Jongbloed. A.W.ら、「フィターゼ活性に対する混合飼料ペレット化の作用ならびにブタにおけるリンおよびカルシウムの見かけの吸収能」、Animal Feed Science and Technology、28:233-242 (1990)(非特許文献17))。さらに、A.ニガーから生成されたフィターゼは、おそらくヒト用の食品産業にとっては安全な原料ではない。
【0006】
酵母は、単純かつ安価な培地において増殖する間に効果的に酵素を生産するために使用することができる。収集を簡便にするために、適当なシグナル配列により、酵素を培地へ分泌することができる。いくつかの酵母の発現システムは、食品産業において良く受け入れられている更なる利点を有し、かつ食品の安全かつ有効な生産者である。
【0007】
ピヒア・パストリス(Pichia pasroris)は、C1化合物資化性酵母であり、その唯一の炭素源としてのメタノールの代謝が可能である。このシステムは、異種タンパク質を高レベルで発現する能力が周知である。ピヒアは真核生物であるので、タンパク質のプロセシング、フォールディングおよび転写後修飾のような、より高等真核生物発現システムの多くの利点を有する。
【0008】
従って、食品および飼料産業での用途のためにフィターゼを経済的に産生する効果的かつ単純なシステムを開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Reddy, N.R.ら、「豆類および穀類中のフィテート」、Advances in Food Research、28:1 (1982)
【非特許文献2】Cromwell. G.L.ら、「P-重要な必須栄養素であるが、可能性のある主要汚染物質 -- その動物栄養における中心的役割」、Biotechnology In the Feed Industry;Proceedings Alltech 7th Annual Symposium、133頁(1991)
【非特許文献3】Ehrlich, K.C.ら、「アスペルギルス・ニガー(ficuum)からの第二のフィターゼ遺伝子(phys)の同定およびクローニング」、Biochem. Biophys. Res. Commun.、195:53-57 (1993)
【非特許文献4】Piddington, C.S.ら、「アスペルギルス・ニガー・アワモリ変種からのフィターゼ(phy)およびpH2.5-最適性酸性ホスファターゼ(aph)をコードしている遺伝子のクローニングおよび配列決定」、Gene、133:56-62 (1993)
【非特許文献5】Myceliophthora thermophila)(Mitchellら、「ヒスチジン酸性ホスファターゼのフィターゼサブファミリー:菌類アスペルギルス・テレウスおよびミセリオフトラ・サーモフィラからの2種の新規フィターゼ遺伝子の単離」、Microbiology、143:245-252 (1997)
【非特許文献6】Pasamontesら、「菌類アスペルギルス・フミガーツス由来の熱安定性フィターゼの遺伝子クローニング、精製、および特徴決定」、Appl. Environ. Microbial.、63:1696-1700 (1997)
【非特許文献7】Pasamontesら、「エメリセラ・ニデュランスおよび好熱性菌類タラロマイセス・サーモフィルス由来のフィターゼのクローニング」、Biochim. Biophys. Acta.、1353:217-223 (1997)
【非特許文献8】Maugenestら、「トウモロコシ実生のフィターゼをコードしているcDNAのクローニングおよび特徴決定」、Biochem. J.、322:511-517 (1997)
【非特許文献9】Yoonら、「フィターゼ産生性腸内細菌sp.4の単離および同定、ならびにフィターゼ酵素の酵素特性」、Enzyme and Microbial Technology、18:449-454 (1996)
【非特許文献10】Greinerら、「クレブシエラ・テレジーナ由来のフィターゼの精製および特徴決定」、Arch. Biochem. Biophys.、341:201-206 (1997)
【非特許文献11】Kimら、「バチルスsp. DS11由来の熱安定性フィターゼの精製および特性」、Enzyme and Microbial Technology、22:2-7 (1998)
【非特許文献12】Kostrewaら、「アスペルギルス・フィクウム由来のフィターゼの結晶構造、2.5A解像度(Resolution)」、Nature Structure Biology、4:185-190 (1997)
【非特許文献13】Hartingsveldtら、「アスペルギルス・ニガーのフィターゼコード遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)
【非特許文献14】Simonsら、「ブロイラーおよびブタにおける微生物フィターゼによるリン利用性の改善」、Br. J. Nutr.、64:525 (1990)
【非特許文献15】Lei, X.G.ら、「微生物フィターゼのトウモロコシ-ダイズミール食餌への補給は、離乳直後のブタのフィテートP利用性を直線的に改善する」、J. Anim. Sci.、71:3359(1993)
【非特許文献16】Lei. X.G.ら、「微生物フィターゼのトウモロコシ-ダイズミール食餌への補給は、離乳直後のブタのフィテートP利用性を最大化する」、J. Anim. Sci.、71:3368 (1993)
【非特許文献17】Jongbloed. A.W.ら、「フィターゼ活性に対する混合飼料ペレット化の作用ならびにブタにおけるリンおよびカルシウムの見かけの吸収能」、Animal Feed Science and Technology、28:233-242 (1990)
【発明の概要】
【0010】
本発明は、フィターゼ/酸性ホスファターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている異種遺伝子を酵母菌株に導入し、この遺伝子を発現することにより、酵母においてフィターゼを生産する方法に関する。
【0011】
本発明はさらに、温度範囲57〜65℃、pH2.5〜3.5または5.5で最適活性を示す、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドに関する。最適pH2.5〜3.5は、これが動物の胃のpHを示しているので、フィターゼにとって特に重要である。
【0012】
さらに本発明は、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードし且つ酵母においてフィターゼを発現することが可能なプロモーターに機能的に連結されるような異種遺伝子を保持している酵母細胞を提供する。
【0013】
さらに本発明の別の局面は、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている酵母以外の生物の遺伝子、フィターゼ活性を有するペプチドをコードしている遺伝子に機能的に連結された酵母において転写を開始することが可能なプロモーター、および酵母におけるベクターの維持が可能であるかまたは宿主ゲノムへの組込みが可能であるような複製起点を有するベクターである。
【0014】
本発明は、さらにフィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドを生産する方法を提供する。フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている単離されたappA遺伝子は、宿主細胞において発現される。
【0015】
さらに本発明は、フィテートをイノシトールおよび無機リン酸基(inorganic phosphate)に転換する方法も含む。前記appA遺伝子は、宿主細胞においてフィターゼ活性を有するポリペプチドのタンパク質を発現する。その後タンパク質またはポリペプチドが、フィテートと接触され、フィテートのイノシトールおよび無機リン酸基への転換を触媒する。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、酵母においてフィターゼを生産する方法を提供する。この方法では、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている異種遺伝子が酵母菌株において発現される。
【0017】
フィテートのイノシトールおよび無機リンへの転換を触媒する酵素類は、広くフィターゼとして知られている。フィターゼを生成する微生物は、細菌、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)(Paverら、J. Bacteriol.、151:1102 (1982)、これは本明細書に参照として組入れられている)およびシュードモナス(Pseudomonas) (Cosgrove、Austral. J. Biol. Sci.、23:1207 (1970)、これは本明細書に参照として組入れられている);酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(Nayiniら、Lebensmittel Wissenschaft und Technologie、17:24 (1984)、これは本明細書に参照として組入れられている);ならびに、菌類、例えばアスペルギルス・テレウス (Yamadaら、Agric. Biol. Chem.、32:1275 (1986)、これは本明細書に参照として組入れられている)およびアスペルギルス・フィクウム (van Gorcomら、欧州特許出願第89/202,436号、これは本明細書に参照として組入れられている)がある。
【0018】
フィターゼはさらに、多くの植物種に内在している。Loewusの「Plant Biology」第9巻の「植物におけるイノシトール代謝(D. J. Morre、W. F. Boss、F. A. Loewusの編集)、13 (1990);およびGellatlyら、Plant Physiology (前掲)、93:562 (1990)、これらは本明細書に参照として組入れられており、ジャガイモの塊茎から得られたフィターゼcDNAクローンの単離および特徴決定について言及している。Gibsonらの論文(J. Cell Biochem.、12C:L407 (1988))およびChristenらの論文(J. Cell Biochem.、12C:L402 (1988))は、ダイズ種子の発芽時の内因性フィターゼの合成について言及しており、これらは本明細書に参照として組入れられている。
【0019】
好ましくは、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドは、細胞により増殖培地中に分泌される。これにより、生成物の発現レベルが高くなり単離がより容易になる。フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドは、細胞の外側へのタンパク質の方向付けが可能なシグナル配列と組合わせられる。好ましくは、このシグナル配列は、該タンパク質から切断される。
【0020】
好ましい態様において、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている異種遺伝子は、転写エンハンサーエレメントによりインフレームでスプライシングされる。
【0021】
好ましいフィターゼ活性を有するタンパク質をコードしている異種遺伝子は、細菌細胞から単離される。より好ましい遺伝子はアスペルギルス・ニガーのphyA遺伝子である。アスペルギルス・ニガーNRRL3135由来のフィターゼをコードしている遺伝子phyAはクローニングされ配列決定されている(Piddington, C.S.ら、「アスペルギルス・ニガー・アワモリ変種由来のフィターゼ(phy)およびpH2.5-最適性の酸性ホスファターゼ(aph)をコードしている遺伝子のクローニングおよび配列決定」、Gene、133:56-62 (1993)、これらは本明細書に参照として組入れられている)。Hartingsveldtらは、phyA遺伝子をA.ニガーに導入し、野生型に比べて10倍多いフィターゼ活性を得た(Hartingsveldtら、「アスペルギルス・ニガーのフィターゼをコードしている遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0022】
別の好ましい異種遺伝子は、大腸菌のappA遺伝子である。この遺伝子は、当初大腸菌のペリプラズムのホスホアンヒドライド・ホスホヒドラーゼ(phosphoanhydride phosphohydrolase)(appA)遺伝子として定義され、1,298個のヌクレオチドを含んでいる(GeneBank受入番号:M58708)。この遺伝子は最初に、大腸菌において最適pH2.5の酸性ホスファターゼタンパク質(EcAP)コードすることが発見された。酸性ホスファターゼは、分子量44,644ダルトンを有するモノマーである。成熟EcAPは、アミノ酸410個を含む(Dassa, J.ら、「大腸菌の遺伝子AppAの完全なヌクレオチド配列は、pH2.5酸性ホスファターゼとグルコース-1-ホスファターゼとの間の有意な相同性を明らかにする」、J. Bacteriology、172:5497-5500 (1990)、これは本明細書に参照として組入れられている)。Ostaninらは、pT7ベクターを用い、大腸菌 BL21においてappAを過剰発現させ、その酸性ホスファターゼ活性をおよそ400倍増大した(440mU/mgタンパク質)(Ostanin. K.ら、「大腸菌酸性ホスファターゼの過剰発現、部位特異的変異誘発および機構」、J. Biol. Chem.、267:22830-36 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている)。このappA遺伝子産物がフィターゼ活性を有するかどうかは、現在の所分かっていない。
【0023】
このappAまたはphyA遺伝子は、原核発現システムまたは真核発現システムのいずれかにおいて発現させることができる。さまざまな宿主-ベクターシステムを使用して、タンパク質をコードしている配列を発現させることができる。好ましいベクターは、ウイルスベクター、プラスミド、コスミドまたはオリゴヌクレオチドを含む。主に、このベクターシステムは、使用した宿主細胞と適合性がなければならない。宿主-ベクターシステムは、以下を含むが、これらに限定されるものではない:バクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAで形質転換された細菌;酵母ベクターを含む酵母のような微生物;ウイルス(例えばワクシニアウイルス、アデノウイルスなど)に感染された哺乳類細胞システム;ウイルス(例えばバキュロウイルス)に感染された昆虫細胞システム;および、細菌に感染された植物細胞。これらのベクターの発現エレメントは、それらの強度および特異性が異なる。利用した宿主-ベクターシステムに応じて、多くの適当な転写および翻訳エレメントのいずれかを使用することができる。
【0024】
appAまたはphyAの発現に好ましい宿主は、菌類細胞であり、これは酵母または糸状菌を含み、本発明において宿主細胞として使用することができる。好ましい酵母宿主細胞は、サッカロマイセス・セレビシエのさまざまな株を含む。クリュイベロマイセス・トルラスポラ(Kluyveromyces、Torulaspora)、およびシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)のような他の酵母も使用することができる。好ましい態様において、タンパク質を過剰発現するために使用される酵母菌株は、サッカロマイセス・セレビシエである。好ましい糸状菌宿主細胞は、アスペルギルスおよびニューロスポラ(Neurospora)を含む。より好ましいアスペルギルス株は、アスペルギルス・ニガーである。
【0025】
別の好ましい本発明の態様において、酵母菌株は、C1化合物資化性酵母菌株である。C1化合物資化性酵母は、細胞機能を維持するために必要なエネルギー源を産生するための炭素源としてメタノールを利用し、アルコールオキシダーゼの発現のための遺伝子を含むことが可能である酵母属である。典型的C1化合物資化性酵母は、ピヒア属、ハンゼヌラ属(Hansenula)、トルロプシス属(Torulopsis)、カンジダ属(Candida)およびカルウィンスキア属(Karwinskia)のメンバーを含む。これらの酵母属は、単独の炭素源としてメタノールを使用することができる。より好ましい態様において、C1化合物資化性酵母菌株は、ピヒア・パストリスである。
【0026】
本発明はさらに、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドを提供する。PhyAはピヒアにおいて発現され、その結果得られる産生されたタンパク質は、非常に高い細胞外活性(〜65 mU/ml)を有する。このフィターゼ活性収量は、phyAで形質転換されたサッカロマイセス・セレビシエの収量のおよそ30倍であり、野生型アスペルギルス・ニガーの収量の21倍であり、かつ非形質転換のピヒアの収量の65,000倍である。発現されたフィターゼの最適pHは2.5および5.5であり、最適温度は60℃である。同様にappAは、ピヒアおよびサッカロマイセス・セレビシエにおいて発現され、得られるタンパク質はより高い細胞外活性および非常に好ましい最適pH2.5〜3.5を有した。
【0027】
本発明の好ましい態様は、温度範囲57〜65℃に最適活性を伴うフィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドである。より好ましい態様は、その最適活性のための温度範囲が58〜62℃であるようなフィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドである。
【0028】
さらに別の好ましい態様は、タンパク質を80℃で15分間加熱した後にその活性の少なくとも40%を維持しているような、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドである。より好ましくは、タンパク質を60℃で15分間加熱した後にその活性の少なくとも60%を維持しているような、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドである。
【0029】
精製されたタンパク質はいくつかの方法で得ることができる。本発明のタンパク質またはポリペプチドは、おそらく通常の技術により精製された形(好ましくは純度が少なくとも約80%、より好ましくは90%)で生産される。典型的には、本発明のタンパク質またはポリペプチドは、組換え宿主細胞の増殖培地中に分泌される。あるいは本発明のタンパク質またはポリペプチドは生産されるが、増殖培地中には分泌されない。このような場合、タンパク質を単離するために、組換えプラスミドを保持する宿主細胞を増殖し、音波により溶解し、加熱または化学処理し、そのホモジネートを遠心し、細胞破片を取り除く。その後上清に、逐次硫酸アンモニウム沈殿を施す。本発明のポリペプチドまたはタンパク質を含有する画分を、適当なサイズのデキストランまたはポリアクリルアミドカラム中でゲル濾過し、タンパク質が分離される。必要に応じて、このタンパク質画分をさらに、HPLCにより精製する。
【0030】
本発明はさらに、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている異種遺伝子を有する酵母菌株を提供する。異種遺伝子は、酵母においてフィターゼの発現が可能なプロモーターに機能的に連結していなければならない。
【0031】
さらに別の本発明の局面は、酵母においてフィターゼを発現するためのベクターである。このベクターは、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている酵母以外の生物に由来する遺伝子を保持している。フィターゼ遺伝子は、自律複製するかまたは酵母のゲノムに組込まれるようないずれかのベクターにクローニングすることができる。例えばYEpプラスミドのような自立複製プラスミドのコピー数は大きくてもよいが、それらの有糸分裂の安定性は不十分なものであると思われる(Bitterら、「酵母のための発現および分泌ベクター」、Meth. Enzymol.、153:516-44 (1987)、これは本明細書に参照として組入れられている)。これらは、自律複製に寄与する2μ-プラスミド配列、および大腸菌における複製に寄与し得る大腸菌配列を保持し得る。これらのベクターは、酵母形質転換体の選択のための遺伝的マーカーおよび大腸菌における選択のための抗生物質耐性遺伝子を含むことが好ましい。ARSおよびCEN配列を含むエピソーム性ベクターは、1細胞当たり単一のコピーとして生じ、かつこれらはYEpベクターよりもより安定している。組込みベクターは、DNA断片が一個または複数のコピーとして酵母ゲノムに組込まれる場合に使用される。この場合、組換えDNAは安定しており、かつ選択は不要である(Struhlら、「酵母の高頻度形質転換:ハイブリッドDNA分子の自律複製」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、76:1035-39 (1979);Powelsら、Cloning Vectors、I-IV.、以下参照、Elsevier(1985);Sakaiら、「先進のδ-組込みシステムを用いるSaccharomyces Cerevisiaeからのヒト神経成長因子の増強された分泌」、Biotechnology、9:1382-85 (1991)、これらは本明細書に参照として組入れられている)。いくつかのベクターは、複製起点を有し、これは選択された宿主細胞において機能する。適当な複製起点には、2μ、ARS1、および25μMが含まれる。これらのベクターは、融合遺伝子およびプロモーター配列、ならびに選択マーカーの挿入のための制限エンドヌクレアーゼ部位を有する。これらのベクターは、制限部位の除去または追加、もしくは他の望ましくないヌクレオチドの除去により修飾することができる。
【0032】
フィターゼ遺伝子は、いずれかのプロモーターの制御下に配置することができる(Stetlerら、「サッカロマイセス・セレビシエによる活性のある完全長および半分長のヒト分泌白血球プロテアーゼ阻害剤の分泌」、Biotechnology、7:55-60 (1989)、これは本明細書に参照として組入れられている)。構成的または調節された酵母プロモーターを選択することができる。酵母ベクターに適したプロモーター配列は、とりわけ、メタロチオネイン、3-ホスホグリセレートキナーゼ(Hitzemanら、J. Biol. Chem.、255:2073 (1980)、これは本明細書に参照として組入れられている)または他の解糖系酵素(Hessら、J. Adv. Enzyme Reg.、7:149 (1968):およびHollandら、Biochem.、17:4900 (1978)、これらは本明細書に参照として組入れられている)、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、およびグルコキナーゼのためのプロモーターを含む。他の酵母における発現に使用するのに適したベクターおよびプロモーターは、さらにHitzemanの欧州特許出願EP A-73,657号に開示されており、これは本明細書に参照として組入れられている。別の代わりとなるものは、本明細書に参照として組入れられているいるRussellらの論文(J. Biol. Chem.、258:2674(1982))およびBeierらの論文(Nature、300:724 (1982))に記されている、グルコース-抑制可能なADH2プロモーターである。
【0033】
構成的または調節された酵母プロモーターを選択することができる。構成的であるのは、例えばホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)遺伝子、解糖系酵素をコードしている他の遺伝子、およびα-因子遺伝子のような強力なプロモーターである。構成的プロモーターが使用される場合は、この産物は細胞増殖時に合成される。ADH2プロモーターは、エタノールおよびグルコースにより調節され、GAL-1-10およびGAL7プロモーターはガラクトースおよびグルコースにより、PRO5プロモーターはリン酸により、ならびにメタロチオネインプロモーターは銅により調節される。HSP150プロモーターが属する熱ショックプロモーターは、温度により調節される。ハイブリッドプロモーターも使用することができる。所望の産物の連続発現が宿主細胞にとって有害である場合には、調節されたプロモーターが使用される。酵母プロモーターの代わりに、強力な原核プロモーター、例えばT7プロモーターなどを使用することができるが、しかしこの場合酵母菌株は、各ポリメラーゼをコードしている遺伝子により形質転換されなければならない。転写末端については、HSP150ターミネーター、またはいずれか他の機能的ターミネーターが使用される。ここでプロモーターおよびターミネーターは、制御エレメントと称される。本発明は、いずれか特定のベクター、プロモーター、またはターミネーターに限定されるものではない。
【0034】
前述のベクターは、選択マーカーも保持することができる。選択マーカーは、しばしば抗生物質耐性遺伝子、または例えばトリプトファンまたはヒスチジン欠損変異体のような十分に特徴付けられた代謝欠損を伴う酵母菌株を相補することが可能な遺伝子である。好ましい選択マーカーは、 URA3、LEU2、HIS3、TRP1、HIS4、ARG4、または他の抗生物質耐性遺伝子である。
【0035】
さらにベクターは、細菌細胞において複製が可能な複製起点を有することができる。ベクターの操作は、細菌株においてより効率的である。好ましい細菌の複製起点は、Co1E1、Ori、またはoriTである。
【0036】
酵母由来のまたはフィターゼ遺伝子もしくは他の起源由来のいずれかのリーダー配列を用いて、発現されたフィターゼ酵素の培地への分泌を補助することができる。本発明はいずれか特定の種類のリーダー配列またはシグナルペプチドに限定されるものではない。
【0037】
適当なリーダー配列は、酵母のα因子リーダー配列を含み、これはフィターゼの分泌を指示するために使用することができる。α因子リーダー配列は、しばしばプロモーター配列と構造遺伝子配列との間に挿入される(Kurjanら、Cell、30:933 (1982);Bitterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、81:5330 (1984);米国特許第4,546,082号;および、欧州特許出願公開第324,274号、これらは本明細書に参照として組入れられている)。別の適当なリーダー配列は、S.セレビシエ MFα1(α-因子)であり、これは、シグナルを含む165個のアミノ酸のプレプロ型、または19個のアミノ酸とそれに続く「リーダー」のプレペプチド、もしくは64個のアミノ酸のプロペプチドとして合成され、これは3個のアミノ酸が連結したグリコシル化部位、それに続く(LysArg(Asp/Glu, Ala)2-3α-因子)4を包含している (Kurjanら、Cell、30:933-43 (1982)、これは本明細書に参照として組入れられている)。プレプロMFα1のシグナル-リーダー部分は、S.セレビシエにおける異種タンパク質の合成および分泌を得るために広く使用されている。酵母と相同のシグナル/リーダーペプチドを使用することは、米国特許第4,546,082号、欧州特許出願第116,201号;第123,294号;第123,544号;第163,529号;および第123,289号、ならびに独国(DK)特許出願第3614/83号に開示されており、これらは本明細書に参照として組入れられている。本明細書に参照として組入れられている欧州特許出願第123,289号において、S.セレビシエ α-因子の前駆体の使用が開示されているのに対して、国際公開公報第84/01153号は、これも本明細書に参照として組入れられているが、サッカロマイセス・セレビシエインベルターゼシグナルペプチドの利用を開示し、独国特許出願第DK 3614/83号は、外来タンパク質の分泌のためのサッカロマイセス・セレビシエ PH05シグナルペプチドの利用を開示し、これも本明細書に参照として組入れられている。
【0038】
サッカロマイセス・セレビシエ由来のα-因子シグナル-リーダー(MFα1またはMFα2)も、酵母において発現された異種タンパク質の分泌過程において利用することができる(米国特許第4,546,082号、欧州特許出願第16,201号;第123,294号;第123,544号;および第163,529号、これらは本明細書に参照として組入れられている。)。S.セレビシエ MFα1シグナル/リーダー配列をコードしているDNA配列を、所望のタンパク質の遺伝子の5'末端に融合することにより、 所望のタンパク質の分泌およびプロセシングが説明される。酵母において発現された異種タンパク質の分泌を提供するマウスの唾液アミラーゼのシグナルペプチド(またはその変異体)の使用が、PCT公開出願の国際公開公報第89/02463号および第90/10075号に開示されており、これらは本明細書に参照として組入れられている。
【0039】
米国特許第5,726,038号は、酵母において発現されたタンパク質の改善された分泌を提供することが可能な、酵母のアスパラギン酸プロテアーゼ3のシグナルペプチドの使用を開示している。酵母宿主からの組換えポリペプチドの分泌を促進するのに適した他のリーダー配列は、当業者に公知である。リーダー配列は、一個以上の制限部位を含むようにその3'末端近傍が修飾され得る。このことはリーダー配列の構造遺伝子への融合を促進すると考えられる。
【0040】
酵母の形質転換プロトコールは、当業者には公知である。このようなプロトコールのひとつは、Hinnenらの論文(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、 75:1929 (1978))に記されたものであり、これは本明細書に参照として組入れられている。Hinnenらのプロトコールは、選択培地においてTrp形質転換体を選択しているが、この選択培地は、酵母の窒素ベース0.67%、カザアミノ酸0.5%、グルコース9%、アデニン10μg/mlおよびウラシル20μg/mlからなるものであった。
【0041】
この遺伝子は、安定した発現ベクター上、人工染色体上、または酵母宿主染色体に組入れることにより維持することができる。染色体への組入れは、酵母染色体に再結合するであろうベクターへのフィターゼ遺伝子のクローニングにより達成することができる。適したベクターは、酵母染色体のヌクレオチド配列と相同のヌクレオチド配列を含むことができる。あるいは、フィターゼ遺伝子は、遺伝子を染色体へ移動することができる転位性因子のように、組換え部位の間に位置することができる。
【0042】
本発明はさらに、フィターゼ活性のあるタンパク質またはポリペプチドをコードしている単離されたappA遺伝子を提供し、かつこの遺伝子を宿主細胞において発現することにより、フィターゼを生成する方法を提供する。好ましくは、appA遺伝子は、大腸菌から単離される。好ましい宿主細胞は、酵母または糸状菌を含む。好ましい糸状菌はアスペルギルス・ニガーであり、好ましい酵母はサッカロマイセス、クリュイベロマイセス、トルラスポラ、およびシゾサッカロマイセスであり、特に酵母菌株サッカロマイセス・セレビシエである。
【0043】
フィテートをイノシトールおよび無機リンに転換する方法も提供される。appA遺伝子は、当該技術分野において周知の技術を用いて、生物から単離される。その後フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドが、宿主細胞において該遺伝子から発現される。こうして得られるタンパク質またはポリペプチドは、フィテートと混合または接触される。この技術は、食品または動物飼料中のフィテートを処理するために特に有用である。
【0044】
好ましいappA遺伝子は、大腸菌から単離される。
【0045】
酵母システムにおいて産生されたフィターゼ酵素は、トウモロコシおよびダイズからフィテート-Pを、現在市販のフィターゼと同程度効果的に放出するが、これはより熱安定性であるように見える。この酵母におけるフィターゼの過剰発現システムは、食品および飼料産業において使用される熱安定性フィターゼを提供するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、IPTGで誘導されたフィターゼ遺伝子で形質転換された大腸菌から調製された可溶性タンパク質のSDS-PAGE分析を示す。細胞は、収集する前に4時間増殖させた。レーン1:マーカー;レーン2および3:pEP1の形質転換体(発現されたタンパク質はおよそ55kDaであった);レーン4:発現ベクターpET2Sb(+)のみの形質転換体。
【図2】図2は、大腸菌において発現されたフィターゼタンパク質のウェスタンブロット解析を示している。抗体は、A.ニガーの精製した天然フィターゼに対して生産した。各レーンは、総細胞内タンパク質を50μg含んだ。レーン1および2:誘導後および誘導前の組換え体。レーン3および4:誘導後および誘導前の対照(発現ベクターのみ)。
【図3】図3は、大腸菌におけるPhyAのmRNAのノーザンブロット解析のスキャン画像を示す。1.4kbのPhyAプローブを用いた。各レーンは、総RNAを20μg含んだ。レーン1および2:誘導前および誘導後の対照細胞(発現ベクターのみ)から単離されたRNA。レーン3および4:誘導前および誘導後のPhyAを含む組換え体から単離されたRNA。
【図4】図4は、大腸菌 BL21(DE3)において誘導されたフィターゼ(pEP1)発現の経時変化を示す。細胞は、0D600が0.5に達したときに誘導された。各時点で調製された可溶性タンパク質は、SDS-PAGE分析により定量した。
【図5】図5は、 72時間増殖した後にフィターゼにより形質転換されたS.リビダンスにより発現された細胞外フィターゼタンパク質のSDS-PAGE分析を示す。細胞は8,000 x gで15分間遠心し、上清をゲル電気泳動に供した。レーン1:マーカー;レーン2:発現ベクターのみの対照;レーン3:フィターゼを発現した陽性コロニーで、サイズはおよそ57kDa。
【図6】図6は、S.リビダンスにより発現されたフィターゼの、A.ニガーの精製した天然フィターゼに対して生じたフィターゼ抗体を用いた、ウェスタンブロット分析を示している。各レーンには、培地(上清)タンパク質20μgを負荷した。レーン1:ベクターで形質転換した対照細胞培養物の上清;レーン2:陽性コロニーを接種された培養物の上清。
【図7】図7は、S.セレビシエにより発現された細胞外フィターゼのSDS-PAGE分析を示している。各レーンには、培地(上清)タンパク質50μgを負荷した。レーン1〜3:各々、誘導の5、10、および25時間後に収集した陽性コロニーを接種した培養物の上清;レーン4〜6:各々、誘導の5、10、および25時間後に収集したベクターで形質転換した対照細胞培養物の上清;レーン7:マーカー(kDa)。発現されたフィターゼはおよそ110kDaであった(ウェスタンブロットで確認)。
【図8】図8は、ガラクトースで誘導後pYPP1構築物で形質転換されたS.セレビシエにより発現された、細胞外フィターゼ活性の経時変化を示す。活性は、収集した培地の上清において分析した。
【図9】図9は、S.セレビシエで発現された細胞外フィターゼの脱グリコシル化(Endo H)前および後の、A.ニガーの精製した天然フィターゼに対して生じたフィターゼ抗体を用いる、ウェスタンブロットを示す。レーン1:Bio-Rad社の染色前SDS-PAGE標準(kDa);レーン2および3:各々、脱グリコシル化された、10および20μgフィターゼタンパク質;レーン4:グリコシル化されたフィターゼ(20μgタンパク質)。
【図10】図10は、形質転換されたS.セレビシエ細胞から単離された総RNAに関するノーザンブロット解析のスキャン画像を示す。レーン1:対照(発現ベクターpYES2のみ);レーン2および3:pYPP1の形質転換体。
【図11】図11は、誘導後、Muts(KM71)およびMut+(X33)のピヒア・パストリス形質転換体により産生された細胞外phyAフィターゼ活性の経時変化を示す。
【図12】図12は、KM71(MUTs)において構築物pPICZαA-PhyAにより、ピヒアにおいて過剰発現されたフィターゼのSDS-PAGE分析を示す。レーン1:タンパク質ラダー;レーン2:誘導後108時間で収集したAK1の上清40μl(コロニーは、細胞外フィターゼ21,700mU/mlを示した);レーン3:ヒト血清アルブミンを過剰発現している対照株の上清40μl(HAS, 6.7kDa)、濃度1g/L;レーン4:KM71対照の上清40μl。
【図13】図13は、ピヒアにおいて発現されたフィターゼの熱安定性に対するEndo Hによる脱グリコシル化の作用を示す。フィターゼ活性は、酵素を0.2Mクエン酸緩衝液(pH5.5)中で37または80℃で15分間加熱した後に測定した。
【図14】図14は、形質転換されたピヒア・パストリス株(KM71およびX33)により発現されたphyA mRNAのノーザンブロット解析のスキャン画像を示す。1.3kbのphyAプローブを、ブロッティングに使用した。レーン1および2:誘導前および後のKM71の形質転換体;レーン3および4:誘導前および後のX33の形質転換体。
【図15】図15は、ピヒア(X33)により発現された細胞外フィターゼの最適pHを示す。0.2Mグリシン-HClの緩衝液のpH1.5、2.5、3.5;0.2Mクエン酸ナトリウムのpH4.5、5.5、6.5、および0.2M Tris-HClのpH7.5および8.5を用いた。
【図16】図16は、ピヒア(X33)により発現された細胞外フィターゼの最適温度を示す。解析は、0.2Mクエン酸緩衝液(pH5.5)で行った。
【図17】図17は、ピヒア(X33)において発現されたフィターゼによるダイズからの遊離リンの放出を示す。ダイズ5gを、0.2Mクエン酸緩衝液(pH5.5)25mlに、異なる量の酵素と共に懸濁した。インキュベーションは、37℃で4時間行い、上清に放出された遊離リンを測定した。
【図18】図18は、大腸菌 appA遺伝子を含む5種のピヒア・パストリス形質転換体からの細胞外フィターゼ活性の発現の経時変化を示す。
【図19】図19は、培地pHとピヒア・パストリスによるフィターゼ活性の発現との関係図を示す。
【図20】図20は、ピヒア・パストリスにおいて過剰発現された大腸菌フィターゼのSDS-PAGE分析である。レーン1:タンパク質ラダー;レーン2〜4:各々、誘導の118時間後に陽性コロニー23、22、および11の培養物から収集された上清。
【図21】図21は、ピヒア・パストリスにより過剰発現された大腸菌フィターゼの最適pHを示す。
【図22】図22は、ピヒア・パストリスにより過剰発現された大腸菌フィターゼの最適温度を示す。
【図23】図23は、4時間処理後に、ピヒア・パストリスにより過剰発現された大腸菌フィターゼによるダイズミールから放出された遊離リンの量を示す。
【実施例】
【0047】
実施例1 - 大腸菌、S.リビダンス(Lividans)、およびサッカロマイセス系におけるPhyAの過剰発現のための材料および方法
フィターゼ遺伝子、宿主株、および発現プラスミド:フィターゼ遺伝子phyAは、USDAのE.J. Mullaney博士のご厚意により得た。この遺伝子(GenBank受入番号M94550)は、大腸菌株HB1O1のプラスミドpMD4.21中に含まれた。A.ニガー DNAの2.7kb SphI断片は、脱グリコシル化されたフィターゼのコード領域ならびにその5'および3'フランキング配列を含んだ。アウレオバシダム・プルランス(Aureobasidum pullulans)(GenBank受入番号U10298)の活性キシラナーゼ遺伝子のシグナルペプチド配列Spxyを含むプラスミドは、ジョージア大学のX. L. Li博士のご厚意により入手された。大腸菌株DH5αを、全ての組換えプラスミドのための最初の宿主として使用した。大腸菌においてphyAを発現するために、発現ベクターpET25b(+) (Novagen社、マジソン、WI) および発現宿主BL21(DE3)pLysSを用いた。S.リビダンス TK24においてphyAを発現するためには、プラスミドpSES1 (Jung, E.D.ら、「ストレプトマイセス・リビダンソグルカナーゼ遺伝子およびサーモモノスポラ・フスカ由来エンドグルカナーゼ遺伝子のDNA配列および発現」、Appl. Environ. Microbiol.、59:3032-43 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている。)を用い、シャトルプラスミドを構築した(コーネル大学のDr. D.B. Wilsonから入手、博士はこれをDr. D. A. Hopwood(John Innes Institute, Norwich、英国)から入手)。酵母においてphyAを発現するためには、発現ベクターpYES2および宿主S.セレビシエ株INVSc1(Invitrogen社、サンディエゴ、CA)を使用した。
【0048】
プラスミドカセットの構築および形質転換:全ての構築されたプラスミドおよび対応する宿主を、表1に列挙した。phyA遺伝子の1.4kbのPCR断片を、下記の2種のプライマーを用いて、pMD4.21から増幅した:上流5'-CGG AAT TCG TCA CCT CCG GAC T-3' (配列番号:1)および下流5'-CCC AAG CTT CTA AGC AAA ACA CTC-3' (配列番号:2)。得られた断片は、A.ニガーの脱グリコシル化されたフィターゼPhyAをコードしている配列、ならびに各々上流および下流のEcoRIおよびHindIII制限部位を含んでいた。Geneclean IIキット(Bio101社、ラホヤ、CA)で精製した後、この断片を、pET25b(+)に挿入し、得られた構築物pEP1 (6893bp)を、DH5α細胞において最初に確認した後、BL21(DE3)pLysSに形質転換した。この発現は、T7プロモーターの制御下にあり、それに21個のアミノ酸をコードしているリード(lead)配列(pelB)、およびphyAが続いた。 pET25(+)ベクターのみで形質転換された宿主を対照として使用した。
【0049】
〔表1〕 本試験で使用した発現ベクター、構築物、およびそれらの宿主株

1. Spe2は、T.フスカのエンドグルカナーゼE2のシグナルペプチドである(Wilson. D. B.、「放線菌セルラーゼの生化学および遺伝学」、Crit. Rev. Biotechnol.、12:45-63 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている);Spxyは、A.プルランスのキシラナーゼのシグナルペプチドである(LiおよびLjungdahl、「菌類アウレオバシディウム・プルランスY-2331-1由来のキシラナーゼ遺伝子のクローニング、配列決定および調節」、Appl. Environ. Microbiol.、60:3160-66 (1994);LiおよびLjungdahl、「サッカロマイセス・セレビシエ中でのアウレオバシディウム・プルランスxynAの発現、およびそれからのキシラナーゼの分泌」、Appl. Environ. Microbiol.、62:209-13(1996)、これは本明細書に参照として組入れられている);ならびに、Sphyは、A.ニガーのphyAのシグナルペプチドである(Hartingsveldtら、「アスペルギルス・ニガーのフィターゼコード遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
2. Jung, E.D.ら、「ストレプトマイセス・リビダンソグルカナーゼ遺伝子およびサーモモノスポラ・フスカ由来エンドグルカナーゼ遺伝子のDNA配列および発現」、Appl. Environ. Microbiol.、59:3032-43 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0050】
S.リビダンスにおけるphyA発現のためのプラスミドの構築は、pLT1プロモーターおよびSpe2シグナルペプチドを含む断片のPCRによる合成により開始した(Lao, G.ら、「サーモモノスポラ・フスカ由来の3種のβ-1,4-エンドグルカナーゼ遺伝子のDNA配列」、J. Bacteriol.、173:3397-407 (1991)、これは本明細書に参照として組入れられている)。上流プライマー5'-CAG CTA TGA CCA TGA TTA CGC C-3' (配列番号:3)および下流プライマー5'-CCT AGA ACG GGA ATT CAT TGG CCG CC-3' (配列番号:4)は、各々、PstIおよびEcoRI制限部位を有した。断片はpBW2から増幅し(Jung, E.D.ら、「サーモモノスポラ・フスカ由来のエキソグルカナーゼ遺伝子およびエンドグルカナーゼ遺伝子のDNA配列ならびにストレプトマイセス・リビダンスにおける発現」、Appl. Environ. Microbiol.、59:3032-43 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)、その後PstIおよびEcoRIで消化する一方で、構築物pEP1およびプラスミドpBluescript SK+ (Strategene社、ラホヤ、CA)を、各々、EcoRIおよびHindIIIならびにPstIおよびHindIIIで消化した。3種の消化した断片をその後、Geneclean IIキットを用いて順次精製し、PstIおよびKpnI(pBluescript SK*由来)の所望の制限部位、エンドグルカナーゼE2のpLT1プロモーターおよびSpe2リーディングペプチド(551bp, Lao. G.ら、「サーモモノスポラ・フスカ由来の3種のβ-1,4-エンドグルカナーゼ遺伝子のDNA配列」、J. Bacteriol.、173:3397-407 (1991)、これは本明細書に参照として組入れられている)、ならびにphyA遺伝子(1365bp)を含む単一の組換え構築物へと連結した。この構築物を、PstIおよびKpnIで消化した後、得られた断片を、発現ベクターpSES1に挿入し、かつ形成されたシャトルプラスミド(pSPP1,9131bp)を、Hopwoodらの方法に従い(Hopwood, D.A.ら、Genetic Manipulation of Streptomyces-A Laboratory Manual、The John Innes Foundation、Norwich、英国(1985)、これは本明細書に参照として組入れられている)、宿主S.リビダンスのプロトプラストに形質転換した。同様に、発現ベクターpSES2によりS.リビダンスを形質転換して対照を調製した。
【0051】
3種の異なるシグナルペプチド配列を有する3種のシャトルプラスミドを構築し、酵母システムにおいてphyAを発現した(表2参照のこと)。第一のプラスミドは、pSPp1のHindIIIで消化した断片を起源とし、プロモーターpLT1、リード配列Spe2、およびphyAのコード領域配列を含んでいた。この断片を、ウシ小腸アルカリ性ホスファターゼで処理したpYES2のHindIII部位にライゲーションし、このプラスミドを、その適正な方向(right orientation)を確認した後pYEP1(7783bp)と称した。第二のプラスミドは、Spxy、A.プルランスのキシラナーゼ遺伝子のシグナルペプチド配列(Li, X.L.ら、「菌類アウレオバシディウム・プルランスY-2331-1由来のキシラナーゼ遺伝子のクローニング、配列決定および調節」、Appl. Environ. Microbiol.、60:3160-66 (1994);Li, X.L.ら、「サッカロマイセス・セレビシエ中でのアウレオバシディウム・プルランスxynAの発現、およびそれからのキシラナーゼの分泌」、Appl. Environ. Microbiol.、62:209-13(1996)、これは本明細書に参照として組入れられている)、およびphyA遺伝子を含んでいる。Spxyは、2回の連続するPCR工程により、オーバーラップ伸長により、phyAで切断された(Horton, R.M.、「DNAのインビトロ組換えおよび突然変異:寸法を合わせた(Tailor-Made)遺伝子によるSOEing」、PCR Protocols: Current Methods and Applications、251-61 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。一方は、pCE4由来のSpxy配列を、HindIII制限部位を伴う上流プライマー(5'-CCC AAG CTT GAT CAC ATC CAT TCA-3')(配列番号:5)(プライマー1)およびオーバーラップする下流プライマー(5' -CGG GGA CTG CTA GCG CAC GTT CGA T-3'、プライマー2)(配列番号:6)を用いて、増幅した(Li, X.L.ら、「サッカロマイセス・セレビシエ中でのアウレオバシディウム・プルランスxynAの発現、およびそれからのキシラナーゼの分泌」、Appl. Environ. Microbiol.、62:209-13 (1996)、これは本明細書に参照として組入れられている)。別のPCRは、オーバーラップしている上流プライマー(5'-ATC GAA CGT GCG CTA GCA GCA GTC CCC G-3'、プライマー3)(配列番号:7)およびXbaI制限部位を伴う下流プライマー(5'-GCT CTA GAC TAA GCA AAA CAC TCC-3'、プライマー4)(配列番号:8)を用い、pEP1からphyAコード領域を増幅した。PCRの第二工程は、鋳型として2種の精製された断片ならびにプライマー1および4を用いて、前述の2種のPCRにより作製された2種の断片を一緒にすることで行った。得られた断片は、HindIIIおよびXbaI制限部位を含み、かつpSES2にクローニングした。このプラスミドはpYXP1(7219bp)と命名した。第三のプラスミドは、phyAのシグナルペプチド(Sphy)配列およびphyAコード領域は含んでいたが、それらの間のイントロンは含まなかった(Hartingsveldt, W. van.ら、「アスペルギルス・ニガーのフィターゼコード遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。操作されたKpnI制限部位を伴うシグナルペプチドを含んだ70bpの上流プライマーおよびpYXP1構築物のために使用したものと同じ下流プライマー(プライマー4)を含む、2種のプライマーを用いて、pEP1から所望の断片を増幅した。このPCR産物を、KpnIおよびXbaIで消化し、かつpSES2にクローニングし、pYPP1(7176bp)と称するプラスミドを生じた。前述の3種の構築物は全て、Itoらの方法(「アルカリ陽イオンで処理した無傷の酵母細胞の形質転換」、J. Bacteriol.、153:163-68 (1983)、これは本明細書に参照として組入れられている)に従い、S.セレビシエに形質転換した。
【0052】
〔表2〕 S.セレビシエにおけるphyAの発現に使用したシグナルペプチド

1. フィターゼ活性は、ガラクトース添加による誘導後15時間で、サブロー-ラフィノース(Sabouraud-raffinose)培地の細胞培養物の上清において測定した。フィターゼユニットの定義については本文を参照のこと。
2. 対照として使用した、S.セレビシエの発現ベクター。
【0053】
増殖培地および遺伝子発現の誘導:大腸菌システムにおいて、前述の形質転換体を、アンピシリン50μg/mlを含有するLB培地50ml中で、30℃で増殖した。培地のOD600値が0.5〜0.6に達した後に、IPTG(イソプロピルb-D-チオガラクトピラノシド)を培地に最終濃度1mMとなるよう添加することによって、フィターゼ遺伝子発現を誘導した。誘導の3時間後、細胞を8000 x gで15分間遠心し収集し、1 x PBSで洗浄し、かつリゾチームで溶解した。細胞の可溶性および不溶性画分を調製し、かつ総タンパク質500μgを含有する試料(Lowry, O.H.ら、「フォリンフェノール試薬によるタンパク質測定」、J. Biol. Chem.、193:265-75 (1951)、これは本明細書に参照として組入れられている)を、等量の2 x SDS緩衝液に懸濁し、SDS-PAGEにより分析した(Laemmli, U.K.、「バクテリオファージT4の頭部形成時の構造タンパク質の切断」、Nature(ロンドン)、227:680-85 (1970)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0054】
組換えS.リビダンスは、チオストレプトン5μg/mlを含有するTSBブロス中で、30℃で増殖した(Jung, E.D.ら、「サーモモノスポラ・フスカ由来のエキソグルカナーゼ遺伝子およびエンドグルカナーゼ遺伝子のDNA配列およびストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces Lividans)中の発現」、Appl. Environ. Microbiol.、59:3032-43 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。72時間インキュベーションした後、細胞および培地を収集し、かつSDS-PAGEのために調製した(Wilson, D.B.、「放線菌セルラーゼの生化学および遺伝学」、Crit. Rev. Biotechnol.、12:45-63 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0055】
S.セレビシエの形質転換体を、最初に、ウラシル非含有のサブロー-ラフィノース(4%)培地(100ml)で48時間増殖し、その後滅菌したガラクトースを培地に添加し(2%)、フィターゼ発現を誘導した。培地および細胞の試料を様々な時点で収集し、細胞外および細胞内試料を、LiおよびLjungdahlの論文に記された方法に従い調製した(「サッカロマイセス・セレビシエ中でのアウレオバシディウム・プルランスxynAの発現、およびそれからのキシラナーゼの分泌」、Appl. Environ. Microbiol.、62:209-13 (1996)、これは本明細書に参照として組入れられている)。必要に応じて、発現された細胞培養物画分の上清を、YM10膜(MWカットオフ値10,000)を用い、Amicon社(ビバリー、MA)のStirred Cellsを用いて濃縮した。他の培地も同様に試験した。
【0056】
酵素タンパク質および活性のアッセイ法:様々な条件下で発現されたフィターゼタンパク質の量を、IS-1000デジタル造影システム(Alpha Innotech社、San Leandro、CA)を用いて、SDS-PAGEの特定のバンドの相対濃度で定量化した。培地および細胞試料中のフィターゼ活性を、先に示されたように測定し(Piddington, C.S.ら、「アスペルギルス・ニガー・アワモリ変種由来のフィターゼ(phy)およびpH2.5-最適酸性ホスファターゼ(aph)をコードしている遺伝子のクローニングおよび配列決定」、Gene、133:56-62 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)、かつ放出された無機リン酸基を、Chen, P.S.らの方法(「Pの微量測定」、Anal. Chem.、28:1756-58 (1956)、これは本明細書に参照として組入れられている)によりアッセイした。1フィターゼユニット(PU)は、37℃で1分間にフィチン酸ナトリウムから無機リン酸基1μmolを放出する酵素の量と定義した。
【0057】
ウェスタンブロット(免疫ブロット)分析:フィターゼで形質転換した大腸菌の細胞塊の可溶性画分ならびにS.リビダンスおよびS.セレビシエ形質転換体の培地の上清を収集し、SDS-PAGEを行った。電気泳動後、タンパク質を、Protran(登録商標)ニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell, Keene, NH, USA)に、Mini Trans-Blotセル(Bio-Rad Laboratories社)を用いて、20mM Tris-HCl (pH8.3)、メタノール20%、およびSDS 0.1%中で転写した。これは、定圧50Vで一晩かけて転写し、最初の緩衝液の温度は4℃であった。その後膜に、ウェスタンブロット分析を施した。精製した天然のA.ニガーフィターゼに対するウサギのポリクローナルIgG(USDAのDr. A. H. J. Ullahのご厚意により入手、1:5,000希釈)を、一次抗体として用いた。ブロットは、ホースラディッシュペルオキシダーゼに複合した二次抗体を含むImmuno-Blot Assay Kit(Bio-Rad Laboratories社)を用いて完了した。
【0058】
総RNAの単離および分析:総RNAを、TRIzo1(登録商標)試薬(GIBCO BRL、ガイザースバーグ、MD)で、大腸菌およびS.セレビシエ形質転換体から、各々、誘導の3および15時間後に単離した。その後RNA試料(10μg/レーン)を、ホルムアルデヒドアガロース(1.5w/v%)ゲル電気泳動で分離し、Hyblot膜(National Labnet社、ウッドブリッジ、NJ)に転写した(Davisら、Basic Methods in Molecular Biology、第2版、Appleton and Lange編集、ノーウォール、Ct. (1994)、これは本明細書に参照として組入れられている)。プラスミドpEP1中の1.4kbのEcoRI-HindIII断片を調製し、かつDNA標識キットを用い32Pで標識しランダムプライミングし、引き続きG-50カラムで精製し(Pharmacia Biotech社、ピスカタウェイ、NJ)、その後ブロットしたRNA膜にハイブリダイゼーション炉(Hybaid、ミドルエセックス、英国)中でハイブリダイズした。ハイブリダイズした膜を、フジ造影板内のスクリーンに露光し、かつBio-Imaging Analyzer(Kohshin Graphic Systems、富士市、日本)により分析した。
【0059】
実施例2 - 大腸菌におけるPhyAの発現
誘導の4時間後、可溶性細胞画分のSDS-PAGE(12.5%)において、発現ベクターのみで形質転換された対照と比較して、特異的バンド(〜55kDa)が認められた(図1および2を参照のこと)。このバンドは、この画分の総可溶性タンパク質の3.8%を示していた。これに応じて、ノーザン解析は、これらのフィターゼ遺伝子形質転換体におけるphyA mRNAの過剰発現を示し、対照細胞ではシグナルは検出されなかった(図3参照のこと)。
【0060】
フィターゼタンパク質発現を最適化するために、時間経過および発現に対する一連の因子の作用を試験した。これらの因子は、インキュベーション温度(30および37℃)、培地のpH(4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、および9.0)、嫌気生活(増殖細胞表面への無菌鉱油の添加)、培地中の無機リン酸基レベル(Dassa. E.ら、「大腸菌の最適pHが2.5の酸性ホスファターゼ」、J. Bio. Chem.、257:6669-76 (1982)、これは本明細書に参照として組入れられている)、ならびにフィチン酸ナトリウム(0、0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5mM)であった。結果は、フィターゼタンパク質の発現は、誘導後最初の6時間は、時間経過と共に直線的に蓄積されたことを示した(図4参照)。その後は、細菌細胞は増殖を続けたが、発現は比較的変化しないままであった。わずかに培地のpHおよびフィチン酸ナトリウム濃度が、フィターゼのタンパク質発現に有意に作用を及ぼした。最大タンパク質は、pH6.0およびフィチン酸ナトリウム0.3mMで認められ、このときフィターゼタンパク質は、可溶性タンパク質総量が3.8%から9.6%に増大していた。
【0061】
細胞外または細胞内で、フィターゼ活性は検出されなかった。A.ニガー由来の天然のフィターゼはサイズ70〜80 kDaの糖タンパク質である(Hartingsveldtら、「アスペルギルス・ニガーのフィターゼをコードしている遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)ので、このことは完全に予想外ではなかった。本試験の大腸菌システムにおいて発現されるタンパク質は、サイズがおよそ55kDaであった。おそらく、分泌時のこのタンパク質のグリコシル化または必要な翻訳後修飾糖タンパク質の欠如は、フィターゼ活性を喪失させると考えられる。
【0062】
実施例3 - S.リビダンスにおけるPhyAの発現
異種遺伝子をS.リビダンスにおいて発現し、酵素活性を持つ得られた産物が培地に分泌された(Ghangas. G.S.ら、「ストレプトマイセス・リビダンスにおけるサーモモノスポラ・フスカエンドグルカナーゼE2遺伝子のクローニング:クローン化した遺伝子産物のアフィニティ精製および機能性ドメイン」、Appl. Environ. Microbiol.、54:2521-26 (1988);Wilson, D.B.、「放線菌セルラーゼの生化学および遺伝学」、Crit. Rev. Biotechnol.、12:45-63 (1992);Jung, E.D.ら、「サーモモノスポラ・フスカ由来のエキソグルカナーゼ遺伝子およびエンドグルカナーゼ遺伝子のDNA配列ならびにストレプトマイセス・リビダンスにおける発現」、Environ. Microbiol.、59:3032-43 (1993)、これらは本明細書に参照として組入れられている)。同様に、phyA遺伝子をS.リビダンスにおいて発現させ、SDS-PAGE分析した培地試料において特異的バンドとして示されるように(図5および6参照)、該タンパク質を培地へと導入した。このことは、T.フスカのエンドグルカナーゼE2遺伝子からのシグナルペプチドが、フィターゼタンパク質を細胞の外側へ導くことができることを示している。このタンパク質は、57kDaであり、培地中の総タンパク質の16.2%を占めている。培地のpHの6.0への変化および0.3mMフィチン酸ナトリウムの培地への添加は、該タンパク質の収率を総タンパク質の20.3%に改善した。フィターゼタンパク質は、このような高レベルで培地に分泌されるので、精製が容易であり、かつフィターゼ抗体の産生のような様々な目的のために効果的に使用することができるはずである。ここでも、培地および溶解した細胞のいずれにおいても、フィターゼ活性の上昇は認められなかった。タンパク質サイズは、大腸菌において発現されたものと比較してわずかに増大した(2〜3%)が、これはおそらくこの発現システムにおけるフィターゼタンパク質のグリコシル化によるものであり、依然フィターゼ活性は認められない。
【0063】
実施例4- S.セレビシエにおけるPhyAの発現
3種の異なるシグナルペプチドを用いて、発現されたタンパク質を細胞の外側に導く効率を比較した(表2参照)。フィターゼ活性は、pYEP1およびpYPP1の形質転換体が増殖しているサブロー-ラフィノース培地においては実質的に増加したが、pYXP1では増加しなかった。可視できるフィターゼタンパク質は、誘導後20時間でSDS-PAGEにより示された(図7)。
【0064】
pYEP1およびpYPP1の形質転換体の発現は、以下の3種の異なる種類の培地において測定した:サブロー-ラフィノース(Li, X.L.ら、「サッカロマイセス・セレビシエ中でのアウレオバシディウム・プルランスxynAの発現、およびそれからのキシラナーゼの分泌」、Appl. Environ. Microbiol.、62:209-13 (1996)、これは本明細書に参照として組入れられている)、およびサブロー-グリセロール、ならびに修飾された汎用YEPD培地。pYEP1形質転換体に関しては、サブロー-ラフィノースおよびサブロー培地において同様のフィターゼ活性が発現されたが、YEPD培地において活性は検出されなかった。対照的に、pYPP1形質転換体が培養された培地のフィターゼ活性は、異なる種類の培地の間で大きく変動した。この活性は、サブロー-グリセロール培地を使用した場合には、375mU/mlまで増強された。培地をYEPDに変更した場合は、さらに1675mU/mlまで増大した(表3参照)。YEPD培地は、サブロー-ラフィノース培地よりはるかに安価であるにもかかわらず、フィターゼ収量は10倍以上も増大した。従って、菌類フィターゼ遺伝子からの推定シグナルペプチドは、細胞外フィターゼ活性の最も効果的発現をもたらした。産生されたほぼ全てのタンパク質は、YEPD培地に分泌されており、その理由は、酵母細胞においてほとんど活性が検出されないからである。このシステムにおけるフィターゼ発現の時間経過を図8に示した。
【0065】
〔表3〕 異なる培地中でのpYPP1の形質転換体から発現されたフィターゼ活性
誘導後の時間(mPU/ml)1

1. フィターゼ活性は、ガラクトース添加により誘導後、0、10、および15時間の3種の培地の細胞培養物の上清において検出された。フィターゼユニットについては、本文の定義を参照のこと。
【0066】
細菌、酵母および糸状菌を含む様々な微生物がフィターゼ活性を有するが、A.ニガー NRRL3135株が最大の活性を生じる(340mU/ml、Shieh, T.R.ら、「細胞外フィターゼ産生に関する微生物の調査」、Appl. Environ. Microbiol.、16:1348-51 (1968)、これは本明細書に参照として組入れられている)。シュバニオマイセス・カステリイ(Schwanniomyces castellii)CBS2863は、21種の酵母菌株の中で最高のフィターゼ活性を有する(140mU/ml、Lambrechts, C.ら、「いくつかの酵母によるフィテートの利用」、Biotechnology Letters、14:61-6 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている)。明らかに、本発明においてpYPP1で形質転換された組換え酵母菌株は、A.ニガー(4倍)およびS.カステリイCBS2863(11倍)よりもはるかに高いフィターゼ活性(1675mU/ml)を生じた。最大のフィターゼ産生は、インキュベーション条件を最適化しかつプラスミドカセットを修飾することによって得ることができる(Demolder, J.W.ら、「サッカロマイセス・セレビシエにより分泌されたマウスインターロイキン-2の効率的合成:3'-非翻訳領域の影響およびコドン使用」、Gene、111:207-13 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0067】
S.セレビシエにおける高レベルのフィターゼ活性の発現は、おそらく酵母によるフィターゼタンパク質の十分なグリコシル化および他の翻訳後修飾に起因すると考えられる。培地の上清を濃縮しSDS-PAGE分析を行ったところ、バンドはおよそ110kDaに存在し(図7および9を参照のこと)、これはA.ニガー由来の天然のタンパク質のサイズよりも大きかった(Hartingsveldt. W. van.ら、「アスペルギルス・ニガーのフィターゼをコードしている遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。ノーザン解析では、phyA mRNAの特異的過剰発現が確認された(図10参照)。これらの結果は、酵母システムがフィターゼ酵素の細胞外活性を過剰発現するのに十分であることを示している。酵母システムには、A.ニガーのような細菌または他のシステムに勝るいくつかの利点がある(Hartingsveldt. W. vanら、「アスペルギルス・ニガーのフィターゼをコードしている遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。これは、小胞体および細胞膜を通じてのタンパク質輸送(translocation)の間に、適当なフォールディング、グリコシル化、ジスルフィド結合形成、およびタンパク質分解を含む、翻訳後修飾を行う。タンパク質の分泌は、タンパク質前駆体のN末端領域に位置する疎水性の短いシグナルペプチドによって促進される(Li, X.L.ら、「サッカロマイセス・セレビシエ中でのアウレオバシディウム・プルランスxynAの発現、およびそれからのキシラナーゼの分泌」、Appl. Environ. Microbiol.、62:209-13 (1996)、これは本明細書に参照として組入れられている)。酵母細胞によって分泌されたタンパク質は、凝集およびプロテアーゼ分解から保護される。最も重要なことは、S.セレビシエによって産生された酵素タンパク質は、これがわずかに2、3のタンパク質を分泌するのみであるので、容易に精製されることである。酵母産物のヒトおよび動物の両方に対する周知の安全性を考慮すると、このシステムは、ヒトの食品および動物の飼料産業にとって大きい可能性がある。
【0068】
実施例5-サッカロマイセス・セレビシエで過剰発現されたPhyAフィターゼの特性
pYPP1プラスミドの形質転換体から過剰発現されたフィターゼを濃縮し、その特性試験に使用した(表4参照)。この酵素は、ふたつの最適pH範囲:2〜2.5および5.0〜5.5を示した。しかしpH2〜2.5での酵素活性は、pH5〜5.5での活性のわずかに60%であった。pH1または8のいずれでも活性は検出されなかった。この最適pHは、事実上A.ニガー由来のフィターゼのものと同じであり(Simonsら、「ブロイラーおよびブタにおける微生物フィターゼによるリン利用性の改善」、Br. J. Nutr.、64:525 (1990)、これは本明細書に参照として組入れられている)、従って胃腸管におけるフィテート-Pの加水分解における活性機能は確実に予想できると考えられる。この酵素の最適温度は60℃であるが、現在Gist-Brocades社により製造販売されているものは55℃である(BASF, 1996)。50〜55℃で活性の80%以上が残留しているが、75℃または80℃ではほとんど活性は検出されない。該酵素の37℃および80℃で15分間の加熱により、本発明の発現された酵母フィターゼの残留活性は、各々、100および63%であり、かつBASF Gist-Brocades社のフィターゼについては、各々、100および52%であった。いずれか特定の温度でのこれら2種の酵素源の間の差異は、有意であった(表5参照)。従って、酵母フィターゼは、現在市販されているフィターゼ製品よりも熱安定性であるように見える。
【0069】
〔表4〕 酵母において過剰発現されたフィターゼの特徴1

1. データは、相対活性の平均±標準偏差(n=4)である。異なる上付き文字のついた同列の平均には差がある(P<0.05)。統計学的解析システムの一般線形モデル(1988)を用いて、完全無作為配置として、主な処理作用を解析し、かつボンフェロニのt-検定を処理平均の多重比較に使用した。有意レベルはP<0.05とした。
2. 活性は、37℃でアッセイした。(本文のフィターゼユニットの定義を参照のこと)。様々な緩衝液を使用した:0.2mMグリシン-HCl緩衝液、pH1.0〜3.5;0.2mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH4.0〜6.5;および0.2mM Tris-HCl緩衝液、pH7.O以上。
3. 最適温度は、pH5.5で決定した(0.2mMクエン酸ナトリウム緩衝液)。
【0070】
〔表5〕 酵母において過剰発現されたフィターゼおよびA.ニガーにより製造されたGist-Brocadesフィターゼの熱安定性の比較1,2

1. データは、相対活性の平均±標準偏差(n=3)である。異なる上付き文字のついた同列の平均には差がある(P<0.05)。統計学的解析システムの一般線形モデル(1988)を用いて、完全無作為配置として、主な処理作用を解析し、かつボンフェロニのt-検定を処理平均の多重比較に使用した。有意レベルはP<0.05とした。
2. 酵素は、様々な温度で15分間加熱し、その後37℃およびpH5.5で反応させた。
3. 2種のフィターゼ活性間のt-検定の有意性(P値)は各温度設定で設定した。
【0071】
このような熱安定性の改善が、様々な翻訳後修飾にどのように関連しているかは不明であるが(フォールディング、切断、グリコシル化など)(Li, X.L.ら、「サッカロマイセス・セレビシエ中でのアウレオバシディウム・プルランスxynAの発現、およびそれからのキシラナーゼの分泌」、Appl. Environ. Microbiol.、62:209-13 (1996)、これは本明細書に参照として組入れられている)、現在のGist-Brocadesフィターゼでは問題点がある飼料のペレット化工程時に熱に対する抵抗性を持つことが期待できるようなより熱安定なフィターゼ酵素を有することは確かに利点である。
【0072】
実施例6- 発現された酵母フィターゼによるトウモロコシ、ダイズ、および粗挽きコムギ粉由来のフィテート-Pのインビトロ加水分解
発現された酵母フィターゼは、トウモロコシおよびダイズミールからフィテート-Pを、Gist-Brocadesフィターゼとユニット活性あたりを基に同じ効率で放出した(表6参照)。予想されるように、フィテート-Pの加水分解は、時間および活性量(activity dosage)の関数であった。発現された酵母フィターゼは、同様に粗挽きコムギ粉からのフィテート-Pの放出においても有効であり、このことはパン発酵におけるその大きな可能性を示唆している。本試験で使用した粗挽きコムギ粉は、通常使用されるコムギ粉よりも、非常に多量の固有のフィターゼ活性を有し、発現された酵母フィターゼは、パン製造に使用した場合には、コムギのフィテート-Pの加水分解の改善により大きく作用し、かつ微量元素の放出が予想される(Hall, M.N.ら、「初期の酵母遺伝学」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0073】
〔表6〕 インビトロにおける過剰発現された酵母フィターゼおよび菌類A.ニガーフィターゼによる、トウモロコシ、ダイズミール(SBM)、および粗挽きコムギ粉から放出される遊離リン

1. 各試料5gを、0.2mMクエン酸ナトリウム緩衝液20ml中で、37℃で1〜4時間攪拌した。8000gで15分間遠心し、上清を得た。試料は、ワットマン濾紙541を通した後、Chen, P.S.らの方法(「リンの微量測定」、Anal. Chem.、28:1756-58 (1956)、これは本明細書に参照として組入れられている)による遊離Pアッセイ法に使用した。表のデータは、相対活性の平均±標準偏差で示した(n=4)。統計学的解析システムの一般線形モデル(1988)を用いて、完全無作為配置として、主な処理作用を解析し、かつボンフェロニのt-検定を処理平均の多重比較に使用した。有意レベルはP<0.05とした。t-検定で解析した場合、各酵素投与量で各飼料について、1〜4時間の間有意差が存在した。異なる上付き文字のついた同列の平均は差がある(P<0.05)。
2. n=2
【0074】
大腸菌、ストレプトマイセス・リビダンス、およびサッカロマイセス・セレビシエにおけるアスペルギルス・ニガー・フィターゼ(phyA)の過剰発現を比較し、フィターゼを経済的に作製する効率的かつ簡便なシステムを開発した。55kDaの可溶性細胞内タンパク質は、総可溶性タンパク質の9.6%を占めているが、これはpET2Sb(+)システムを用いることによって大腸菌において発現された。57kDa細胞外タンパク質は、培地の総タンパク質の20.3%を占めているが、これは、エンドグルカナーゼE2のpLT1プロモーターおよびSpeIIのリーディングペプチドを含むシャトルプラスミドを用いることによって、S.リビダンスにおいて発現された。いずれの発現システムにおいても、フィターゼ活性は増加せず、これはおそらくグリコシル化および他の必要な翻訳後修飾の欠如に起因すると考えられる。対照的に、高い細胞外フィターゼ活性が、phyA遺伝子で形質転換されたS.セレビシエにおいて生じた。3種の異なるシグナルペプチドおよび3種の異なる種類の培地を、最良の発現ベクターおよび条件を確定するために比較した。phyA遺伝子からのシグナルペプチドSphyおよびYEPD培地の使用は、最高の細胞外フィターゼ活性を生じた。酵母において過剰発現されたフィターゼは、およそ110kDaであり、ふたつの最適pH:2.0〜2.5および5.5〜6.0、ならびに最適温度60℃を有した。
【0075】
実施例7 - ピヒアにおけるphyA発現の方法および材料
宿主およびベクター:Invitrogen社(サンディエゴ、CA)よりEasySelect(登録商標)ピヒア発現キットを購入した。このキットは、Mut+またはMutS(メタノール利用が正常型または遅延型)のいずれかの株において、細胞内または細胞外のいずれかで、遺伝子を発現するための宿主およびベクターを提供するものである。Mut+株としてX33を、MutS株としてKM71を利用した。2種のベクターpPICZ B(3.3kb)およびpPICZαA(3.6kb)を用い、両方ともプロモーターAOX1を用いた。
【0076】
発現ベクターの構築:異なるシグナルペプチドのピヒアシステムにおけるPhyA発現に対する作用を比較するために、2種の構築物を作出した。第一の、成熟フィターゼタンパク質をコードしているPhyA配列を含む1.4kbのEcoRI-KpnI断片は、pPICZαAに連結した。このプラスミド(pPICZα-phyA)において、PhyAは、サッカロマイセス・セレビシエ由来の非常に汎用されるシグナルペプチドであるα因子により導かれた。第二のpYPP1の1.4kb KpnI-XbaI断片は、ベクターに連結された(phyAのコード領域は、サッカロマイセス・セレビシエにおいて発現されたフィターゼの分泌において非常に効果的なそれ自身のシグナルペプチドによって導かれた。)。
形質転換および発現:確認された構築物を、PmeIにより線状化し、該キットにより供されたEasyComp(登録商標)により、GS115およびKM71へと形質転換した。Neocin(登録商標)を用いて、陽性コロニーを選択した。単一のコロニーをMGY培地10mlに接種し、かつ0D600が30℃で2〜6になるまで増殖した後、細胞を遠心により収集し、MMY培地10ml(メタノール0.5%含有)に再懸濁した。試料を、誘導後12または24時間毎に収集した。細胞を上清から分離し、切断緩衝液(breaking buffer)中で、ガラスビーズにより溶解した。上清および細胞中のフィターゼ活性を前述のように測定した。SDS-PAGEおよびウェスタンブロットを行い、発現されたタンパク質のサイズおよび相対量を決定した。
【0077】
実施例8 - ピヒアにおけるPhyAフィターゼ活性
α-因子をphyAのためのシグナルペプチドとして用いる発現構築物を、2種ピヒア株に形質転換した。KM71はメタノール利用遅延型株である一方で、X33はメタノールを効率的に使用するピヒア野生型である。スクリーニングおよびインキュベーションは、10mlの振盪フラスコにおいて29〜30℃で行った。KM71の形質転換に関して、採取したコロニー20個中の19個が、24時間誘導した後の培養物上清に6ユニット/mlより大きい細胞外フィターゼ活性を有していた。コロニーNo.13は、108時間インキュベーションした後、26ユニット/mlの最高の活性を示した。X33の形質転換体に関して、全てのコロニー(20/20)が、24時間誘導した後10ユニット/mlより大きかった。これらのコロニー中の1個(#101)は、上清に65ユニット/mlのフィターゼ活性を生じた。KM71およびX33におけるフィターゼ発現の時間経過試験を、図11にまとめた。これら2種の株のメタノール利用の差異、従ってフィターゼ発現能の差異にも拘らず、α-因子は酵母細胞により正確にプロセシングされたことが分かった。その上、発現された総活性のわずかに5%が細胞内に認められたので、発現されたタンパク質のほとんどは培地に分泌されていた。
【0078】
フィターゼ発現に対する無機リンおよび培地のpHの影響を、培地(BMGYおよびBMMY)において、X33のphyA組換え体(#101)を用いて試験した。50mMリン酸を含有する培地は、最高のフィターゼ活性を生じ、誘導後168時間で66ユニット/mlであった。培地に50mMリン酸を含有することによって、この緩衝液の様々なpH(3、4、5、6、7および8)の発現に対する作用も試験した。pH6で、このX33形質転換体は、75ユニットフィターゼ/ml上清を産生した。タンパク質濃度およびSDS-PAGE分析を基に、この発現フィターゼタンパク質の収量は、3〜4mg/mlであると推定した。
【0079】
実施例9- ピヒアにおいて発現されたPhyAフィターゼの特性
発現されたフィターゼの分子サイズおよび脱グリコシル化:phyA形質転換体を接種した培地の上清をSDS-PAGE分析した結果、強力なバンドがほぼ95kDaに認められた(図12)。これはほとんど上清においてのみ認められたタンパク質であった。発現されたフィターゼは、精製された天然のA.ニガーフィターゼに対して生じたウサギのポリクローナル抗体に効果的に反応した。このことは、発現されたフィターゼの免疫応答が、A.ニガー由来の天然のフィターゼのものと本質的に同じであることを示している。サイズは、Endo Hを用いた脱グリコシル化により50kDa小さかった。前記phyA抗体は、さらに脱グリコシル化されたフィターゼとも反応した。加えて、天然の条件下で行われる脱グリコシル化は、フィターゼ活性を約15%低下し、このことは、グリコシル化がフィターゼ活性にとって重要であることを示している。さらに、グリコシル化はこれらの酵素の熱安定性にも影響を及ぼした(図13)。
【0080】
ノーザン解析:図14に示したように、1.3kb phyA DNAプローブを、KM71(#13)およびX33(#101)の両方から誘導された形質転換体のmRNAとハイブリダイズした。誘導前の形質転換体からも、反応が認められた。おそらく、このシステムにおけるphyAの発現が、転写レベルで厳密に制御されることは無いと考えられる。
【0081】
最適pHおよび温度ならびにフィテート-リンの加水分解:A.ニガーのフィターゼと同様に、発現されたフィターゼは、ふたつの最適pH、2.5および5.5を有した(図15)。発現されたフィターゼの最適温度は60℃であった(図16)。発現されたフィターゼ100、200、400、800mU/gをダイズ試料と共に37℃でインキュベーションした場合、リンの放出はフィターゼ投与量と直線関係であった(図17)。
【0082】
実施例10 - サッカロマイセス・セレビシエにおける大腸菌 appA遺伝子の過剰発現の方法および材料
遺伝子およびタンパク質:この遺伝子は、当初大腸菌ペリプラズムに存在するホスホアンヒドライド・ホスホヒドラーゼ(appA)遺伝子として定義され、これは1,298個のヌクレオチドを含む(GeneBank受入番号:M58708)。この遺伝子は最初に、大腸菌において、最適pH2.5の酸性ホスファターゼタンパク質(EcAP)をコードすることが見出された。酸性ホスファターゼは、分子量44,644ダルトンのモノマーである。成熟EcAPは、410個のアミノ酸を含む(Dassa, J.ら、「大腸菌の遺伝子appAの完全なヌクレオチド配列は、pH2.5酸性ホスファターゼとグルコース-1-ホスファターゼの間の有意な相同性を明らかにする」、J. Bacteriology、172:5497-5500 (1990)、これは本明細書に参照として組入れられている)。Ostanin, K.らは(「大腸菌酸性ホスファターゼの過剰発現、部位特異的変異誘発および機構」、J. Biol. Chem.、267:22830-36 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている)、大腸菌 BL21において、pT7ベクターを用いてappAを過剰発現させ、かつその酸性ホスファターゼ活性をおよそ400倍増大した(440mU/mgタンパク質)。
【0083】
この遺伝子および宿主大腸菌株CU 1869(No.47092)は、ATCCから購入した。遺伝子の1.3kbの挿入断片を、大腸菌株BL21(No.87441)に、発現ベクターpAPPA1を用いて形質転換した(Ostanin, K.ら、「大腸菌酸性ホスファターゼの過剰発現、部位特異的変異誘発および機構」、J. Biol. Chem.、267:22830-36 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0084】
宿主およびベクター:サッカロマイセス・セレビシエにおけるappA遺伝子の過剰発現のためのベクターはpYES2であり、かつ宿主はINVScI(Invitrogen社、サンディエゴ、CA)であった。
【0085】
発現ベクターの構築:最初に、1.3kb XbaL断片を、pAPPA1から単離した。この断片は、appA遺伝子を、それ自身のシグナルペプチドと共に含んだ。pYES2のXbaI部位に連結した後、構築物(PYES2-appA)をサッカロマイセス・セレビシエに形質転換した。しかし、対照と比べて、細胞外または細胞内のいずれの部分においても、フィターゼ活性の増加はなかった。酵母菌株に、pAPPA1およびpYPP1(pYES2のPhyAおよびそのシグナルペプチド)を同時形質転換した。再度、培地または酵母細胞において、pAPPA1に起因したフィターゼ活性の増加は認められなかった。
【0086】
appA遺伝子のコード領域を伴うPhyA遺伝子のシグナルペプチドを構築するために、2種のプライマーを合成した。一方は、PhyAシグナルペプチドおよびKpnI部位を5'末端に含み長さ80bpであった:GGG GTA CCA TGG GCG TCT CTG CTG TTC TAC TTC CTT TGT ATC TCC TGT CTG GAG TCA CCT CCG GAC AGA GTG AGC CGG AG (配列番号:9)。他方のプライマーは、EcoRI部位をその3'末端に有し長さ24bpであった:GGG AAT TCA TTA CAA ACT GCA GGC (配列番号:10)。PCRを、95℃1分間の変性、58℃1分間のアニーリング、および72℃1分間の鎖伸長の25サイクルで行った。1.3kb断片を、増幅、消化し、pYES2に連結した。挿入断片を制限地図により確認した後、構築物(pYES2-SphyA-appA)を、酢酸リチウム法により、INVScIに形質転換した。
【0087】
発現:選択された形質転換体を、YEPD培地に接種した。発現は、先に示したように、0D600が2に達した培地にガラクトースを添加することによって誘導した。誘導の15または20時間後に、細胞を収集した。
【0088】
活性アッセイ法:酸性ホスファターゼ活性を、25mMグリシン-HCl緩衝液(pH2.5)中で、基質としてp-ニトロフェニルリン酸(ストック液250mM)を用いて37℃でアッセイした。反応緩衝液1.7mlを、試料0.1mlに添加した。これらを37℃の水浴で5分間インキュベーションした後、予め加温していた基質0.2mlを添加し、混合した。反応溶液を、予熱したキュベットに移し、分光光度計の37℃の区画内で2分間インキュベーションした。放出されたp-ニトロフェノールを、405nmで5分間連続して測定し、酵素活性を算出した。
【0089】
インビトロ試験:ダイズミール(5.0g)を、20mMクエン酸緩衝液(pH5.5)20ml中に懸濁し、フィターゼ200mUと混合し、37℃で4時間連続振盪しインキュベーションした。氷上で10分間冷却した後、スラリーを遠心管に写し、15,000 x gで15分間遠心した。上清を用いて、遊離リンを測定した。
【0090】
実施例11 - サッカロマイセス・セレビシエにおける大腸菌 appA遺伝子の過剰発現によるフィターゼ活性の定量
appAが過剰発現された大腸菌(pAPPA1)における細胞内酸性ホスファターゼ活性は、440mU/mgタンパク質であった。前例のない4900mU/mgタンパク質を越える細胞内フィターゼ活性が、この形質転換された株において認められた。しかし対照(BL21)では、少量のフィターゼ活性のみであった。従って、この酸性ホスファターゼ遺伝子は、フィターゼもコードしている。appA遺伝子配列を、PhyAの配列と並べたところ、これら2種の遺伝子は23%の同一性を有することが分かった。
【0091】
INVScIのpYES2-Sphy-appA(PhyAのシグナルペプチドによって導かれる)の構築物との形質転換は、上清中に細胞外フィターゼ活性を生じ、これは野生型またはappA遺伝子+それ自身のシグナルペプチドを含む形質転換体のものよりも、2,000倍大きかった(表7参照)。
【0092】
〔表7〕 appA遺伝子と様々なシグナルペプチドとの形質転換体における細胞外フィターゼ活性

【0093】
培地(YEPD)の無機リン、フィテート、pHおよび温度の、pYES2-Sphy-A-appAによるフィターゼ活性の発現に対する作用を表8に示した。最適条件での最高のフィターゼ活性は2,286mU/ml(633mU/mgタンパク質)であった。
【0094】
〔表8〕 YEPD培地の様々な条件の酵母におけるpYES2-SphyA-appAフィターゼ活性発現に対する作用

酵母形質転換体によって産生された過剰発現された細胞外フィターゼ活性の熱安定性は、pAPPA1で形質転換された大腸菌によって産生された細胞内フィターゼよりも大きかった(表9参照)。細胞外フィターゼの80℃15分間の加熱は、そのフィターゼ活性の30%の失活をもたらす一方で、大腸菌のフィターゼ活性は同じ条件下でほとんど全て失活した。
【0095】
〔表9〕 様々なフィターゼ供給源の80℃15分間加熱のフィターゼ活性に対する作用

【0096】
大腸菌、酵母において過剰発現されたAppA、およびBASFのフィターゼ(200mU)によるダイズミールからのリンの放出に対する作用を比較し、表10に示した。結果は、3種のフィターゼ供給源全てが、ダイズミールからフィテート-リンを効果的に放出した。
【0097】
〔表10〕 様々なフィターゼ供給源によりダイズミールから放出された遊離リン

【0098】
サッカロマイセス・セレビシエにおいて発現された大腸菌 appA(酸性ホスファターゼ)遺伝子は、対照よりも2,000倍以上大きい培地中の細胞外フィターゼ活性を生じた。過剰発現されたフィターゼは、ダイズミールからフィテート-リンを効果的に放出し、現在入手できる市販のフィターゼまたは同じ遺伝子(appA)により大腸菌において産生された細胞内フィターゼよりも、より熱安定性であるように思われた。
【0099】
実施例12 - ピヒア・パストリスにおける酸性ホスファターゼ/フィターゼをコードしている大腸菌 appA遺伝子の過剰発現のための方法および材料
遺伝子およびタンパク質:appA遺伝子および宿主大腸菌株CU1867(No.47092)はATCCから入手した。この遺伝子の挿入断片13kbを、大腸菌株BL21(No.87441)に、発現ベクターpAPPA1を用いて形質転換した(Ostanin, K.ら、「大腸菌酸性ホスファターゼの過剰発現、部位特異的変異誘発および機構」、J. Biol. Chem.、267:22830-36 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0100】
宿主およびベクター:EasySelect(登録商標)ピヒア発現キットはInvitrogen社(サンディエゴ、CA)から入手した。このキットは、野生株(X-33)において、細胞内または細胞外のいずれかで、遺伝子を発現するための宿主およびベクターを提供する。2種のベクターpPICZ B(3.3kb)およびpPICZαA(3.6kb)を使用し、両方ともプロモーターはAOX1であった。
【0101】
発現ベクターの構築:2種のプライマーを用いて、pAPPA1からのaapA遺伝子を増幅し、ふたつの制限部位EcoRIおよびKpnIを、各々、5'末端および3'末端に作成した。

鋳型:ATCC 87441から単離されたpAPPA1 DNA
【0102】
PCRを、94℃1分間の変性、55℃1分間のアニーリング、および72℃1分間の鎖伸長の30サイクルで行った。塩基対1,245個の断片を増幅し、EcoRIおよびKpnIで消化し、pPICZ B(3.3kb)およびpPICZαA(3.6kb)へと連結した(16℃で一晩)。連結は、この構築物をDH5αへ形質転換した後、制限地図により確認した。
【0103】
構築物のピヒア(X33)への形質転換:各形質転換のために、プラスミドDNA 100μgを調製し、PmeIで消化することにより線状化した。線状化した後、このDNAを精製し、滅菌した脱イオン水10μL中に再懸濁した。DNAの半量を、各形質転換に実際に使用した。電気穿孔およびEasyComp化学キット(Invitrogen社)の両方を用いて、DNAをX33に形質転換した。電気穿孔の場合、エレクトロセルマニピュレーター(Electro Cell Manipulator)(ECM 600、Gentromics、BTX Instrument Division、サンディエゴ、CA 92121)および2mmのキュベットを用いた。電気抵抗は186Ωであり、荷電した電圧は1.5kVであり、かつ実際の荷電時間はおよそ7ミリ秒であった。電気穿孔された細胞を、100mg Zeocin/mLを含有するYPD寒天プレート上で、30℃で2〜4日間インキュベーションし、コロニーを増殖させた。化学的形質転換の場合、細胞を100mg Zeocin/mLを含有するYPDS寒天プレート上で増殖した。電気穿孔と比較して、化学的方法のほうが形質転換効率が低かった。
【0104】
発現:単一のコロニーを、10mlのMGY培地(30ml試験管)に接種し、かつ0D600が5〜6になるまで28〜30℃で振盪インキュベータ(200rpm)内で増殖した(16〜18時間)。細胞を遠心(2,000rpm)により収集し、BMMY培地(メタノール0.5%を含有)10mlに再懸濁し、発現を誘導した。試料(200μL)を、誘導後12または24時間毎に収集した。メタノール(100%)を100μLで、24時間毎に添加し、培地中の濃度を0.5〜1%に維持した。
【0105】
アッセイ法:細胞を培地(上清)から分離し、切断緩衝液中でガラスビーズを用いて溶解した。上清の細胞外フィターゼ活性および溶解細胞中の細胞内フィターゼ活性を前述のようにアッセイした(0.2Mクエン酸緩衝液、pH5.5、37℃で、10mMフィチン酸ナトリウムを用いて)。酸性ホスファターゼ活性は、25mMグリシン-HCl緩衝液(pH2.5)中で、基質としてp-ニトロフェニルリン酸(ストック液250mM)を用いて37℃でアッセイした。反応緩衝液1.7mlに試料0.1mlを添加した。放出されたp-ニトロフェノールを、405nmで連続5分間測定し、酵素活性を算出した。SDS-PAGE(12%)を行い、発現されたタンパク質のサイズおよび相対量を決定した。発現されたフィターゼの最適pHおよび温度を決定し、結果として示した。
【0106】
インビトロ試験:ダイズミール(5.0g)は、20mMクエン酸緩衝液(pH5.5)20ml中に懸濁し、様々な濃度のフィターゼと混合し、かつ連続振盪しながら37℃で4時間インキュベーションした。氷上で10分間冷却した後、スラリーを遠心管に移し、15,000 x gで15分間遠心した。上清を用いて、遊離リンを測定した。
【0107】
実施例13 - 大腸菌 appA遺伝子を過剰発現しているピヒア・パストリスのコロニーフィターゼ活性スクリーニング
野生型ピヒアX33は、細胞内(<0.03U/mgタンパク質)または細胞外(<0.05U/mL)で最小のフィターゼ活性を生じた。pPICZBへと挿入されたappA遺伝子で形質転換されたX33細胞(α-因子なしで、おそらく細胞内フィターゼを生じる)は、なんらフィターゼ活性の上昇を示さなかった(細胞外0.2U/mLおよび細胞内0.05U/mgタンパク質)。
【0108】
X33細胞の構築物pPIZαA-appAの形質転換(α-因子のシグナルペプチドにより導かれる)は、培地内に細胞外フィターゼ活性を生じた。最初に、72コロニーをスクリーニングした。誘導の40時間後に、わずかに2個のコロニーが活性<1U/mLを示した。ほとんどのコロニーの活性は誘導の40時間後に、10〜20U/mLの範囲であった。70個のコロニー全てが、誘導の118時間後には、フィターゼ活性>80U/mLを有していた。これまでに測定された最高のフィターゼ活性は、誘導の192時間後の215U/mLであった(表11参照)。
【0109】
〔表11〕 誘導の40および118 時間後のpPIZαA-appAによって形質転換されたX33コロニーにおける細胞外フィターゼ活性の範囲

【0110】
215Uフィターゼ活性/mLを発現している形質転換体におけるフィターゼ活性および酸性ホスファターゼ活性を、野生型X33の活性と比較した(誘導の192時間後)(表12参照)。ほとんど全ての発現されたフィターゼタンパク質が、細胞から分泌され、このことは、α-因子がフィターゼ分泌に関する非常に効果的なシグナルペプチドであることを示している。
【0111】
〔表12〕 pPIZαA-appA形質転換体および野生型X33における誘導の192時間後のフィターゼ活性および酸性ホスファターゼ活性

【0112】
同じ酸性ホスファターゼappA遺伝子による大腸菌の形質転換体は、細胞内フィターゼ活性5U/mgタンパク質を有していた(Ostaninら、「大腸菌酸性ホスファターゼの過剰発現、部位特異的変異誘発および機構」、J. Biol. Chem.、267:22830-36 (1992)、これは本明細書に参照として組入れられている)。A.ニガーにおけるPhyA遺伝子の形質転換は、細胞外活性7.6U/mlを生じた(Hartingsveldtら、「アスペルギルス・ニガーのフィターゼをコードしている遺伝子(phyA)のクローニング、特徴決定および過剰発現」、Gene、127:87-94 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。これらの結果を比較したところ、このピヒアのフィターゼ発現システムは非常に効率的な発現システムであった。
【0113】
実施例14- フィターゼ発現の時間経過
誘導後192時間までは、選択されたコロニーのほとんど全てにおいて、培地中の細胞外フィターゼ活性は直線状に増加した。図18は、選択された5コロニーについての、誘導後24から163時間までの活性の変化をまとめている。
【0114】
実施例15- フィターゼの発現に対する培地pHの作用(コロニー#23、186時間後の活性136U/mL)
0.1Mリン酸緩衝した培地を用いて、様々なpHの形質転換体における細胞外フィターゼ産生に対する作用を、緩衝液を含まない対照培地(pH7.0)に対して試験した。pH6に緩衝した培地は、最高のフィターゼ活性を生じた(図19参照)。
【0115】
実施例16- 発現された細胞外フィターゼのサイズ
SDS-PAGE(12%ゲル)分析を用いたところ、3個の異なるコロニーを接種した培養物の培地上清中に明確なバンドが認められた(図20参照)。サイズは、ほぼ55kDaであり、おそらく部分的にグリコシル化されていると考えられる。発現されたタンパク質は上清の中の目視可能なバンドにのみ存在したため、煩雑な精製工程を必要とせずに酵素産物を収集するには都合がよい。
【0116】
実施例17 - 発現された細胞外フィターゼの最適pHおよび温度(コロニー#23)
発現されたフィターゼの最適pHは、2.5〜3.5であった(図21参照)。これは、A.ニガー(BASF)または本発明者らの他の発現システムから得たphyAフィターゼのものとは著しく異なっている。理想的なフィターゼ機能は、胃のpHにおけるものである。
【0117】
発現された酵素の最適温度は、60℃であった(図22参照)。
【0118】
実施例18 - 発現されたフィターゼのダイズミールのフィテート-リン加水分解に対する作用
前述の過剰発現された大腸菌フィターゼ(コロニー#23)は、効果的にダイズミールのフィテート-リンを加水分解した(図23参照)。混合物中の遊離リンの放出は、0〜800mUフィターゼ/g飼料の間は直線関係であった。
【0119】
実施例19 - 離乳直後のブタに対するフィテート-リンの生体利用能に対するピヒア・パストリスにより発現された大腸菌 AppAフィターゼの作用
ブタの食餌中のピヒアにより発現された大腸菌フィターゼの栄養価を調べるために、この新規フィターゼの効能を、無機リンまたは市販の微生物フィターゼ(Natuphos(登録商標)、BASF社、マウントオリーブ、NJ)のものと比較した。48匹の離乳したばかりのブタを、Cornell Swine Research Farmの多産ブタから選択した。ブタは、21日齢で離乳させ、かつ28日目まで市販のクリープ飼料を摂食させた。その後、1個の檻毎に2匹ずつ入れ、6個の檻を、無作為に処置に割り当てた。ブタには、馴化(adjust)のために、トウモロコシ-ダイズミール基本食餌を2週間与えた(表13)。
【0120】
〔表13〕 ブタの実験食餌の配合

注:全ての予備混合剤は、担体としてトウモロコシを使用した。
ビタミンおよびミネラル予備混合剤:2,540 IU ビタミンA、660 IU ビタミンD、15 IU ビタミンE、2.2mg ビタミンK、3.3mg リボフラビン、13.2mg パントテン酸、17.6mgナイアシン、110.1mgコリン、1.98ug B-12、37.4mg Mn、0.6mg I、10mg Cu、0.3mg Se、100mg Zn、および100mg Fe/Kg食餌
【0121】
その後檻毎に、4種の処置食餌の中の1種を受取った。陽性対照群(+C)は、リン酸二カルシウムを補給した基本食餌を受取った。陰性対照群(-C)は、基本食餌のみを受取った。酵母フィターゼ群(YP)は、発現された大腸菌フィターゼを1,200 U/kg飼料で補給した基本食餌を受取った。微生物フィターゼ群(MP)は、BASFフィターゼを1,200 U/kg飼料で補給した基本食餌を受取った。ブタは、自由に摂食および摂水させた。個々のブタの体重の増加を、毎週記録した。個々の檻の毎日の食餌摂取量を、毎日記録した。毎週各ブタから血液検体を採取し、血漿無機リン濃度を測定した。体重(BW)、毎日の体重増加の平均(ADG)、食餌摂取量の平均(ADFI)および飼料/体重増加の比(F:G)、ならびに血漿無機リン(PP)の結果を、表14に示した。
【0122】
〔表14〕 食餌中のフィターゼによる作用としてのブタのPP、BW、ADG、ADFI、およびF:Gの概要

1 共通の文字をつけていない同列の数値は、有意差を示している。差の解析は、ボンフェロニ(Dunn) T-検定を用いて行った。
α=0.05、df=20
【0123】
加えて、陰性対照群には、4週間の実験終了時には、重度のリン欠損症が生じていた。しかし、他の3群においては、リン欠損症の徴候は認められなかった。明らかに、離乳したばかりのブタにとって、トウモロコシ-ダイズミールからのフィテート-リンの生体利用能の改善の上で、ピヒアにより発現された大腸菌フィターゼは、多くはなくとも、少なくとも効果があった。これは、離乳直後のブタへの無機リン補給に代用することができる。
【0124】
実施例20 - ピヒア・パストリスにより発現された大腸菌 AppAフィターゼの離乳直後のブタの鉄(Fe)およびフィテートリンの生体利用能に対する作用
離乳直後のブタへの食餌中のフィテート結合した鉄の生体利用能に対するピヒアにより過剰発現された大腸菌フィターゼの作用を決定するために、20匹の貧血ブタ(21日齢およびヘモグロビン7.3g(Hb)/dL血液)を選別した。これらのブタに、鉄欠損クリープ飼料を7日間摂食させ、28日齢の時点で代謝測定用ケージ中に収容した。その後ブタに、実験食餌を、35日齢から5週間摂食させた。処理食餌は以下のようなものであった:Fe-欠損基本食餌(-C、無機リンを添加)、Fe-補給食餌(+C)、ならびにFe-およびリン-欠損食餌に、発現された大腸菌フィターゼ(YP)、または市販の微生物フィターゼ(BASF、MP)を1,200 U/kg食餌で補給したもの。体重(BW)、赤血球沈層容積(PCV)、Hb、および血漿無機リン(PP)を、毎週測定した。結果を表15に示した。
【0125】
〔表15〕 食餌中のフィターゼによる作用としてのブタのPCV、Hb、BW、およびPPの概要

1 値は平均である(n=5)。共通の上付き文字をもたない同列の平均は、有意差が有る(P<0.10)。
【0126】
結論として、離乳したばかりのブタにとって、ピヒアによって過剰発現された大腸菌フィターゼは、トウモロコシ-ダイズ飼料中のフィテート-リンおよびFe利用の改善において、少なくともBASFフィターゼと同程度効果的である。
【0127】
本明細書において好ましい態様を説明し記載してきたが、本発明の精神から逸脱することなくこれに様々な修飾、追加、置き換えなどを行うことができ、従って添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内であるとみなされることが当業者には明らかであると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の段階を含む、酵母におけるフィターゼの製造法:
フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている異種遺伝子を提供する段階;および
該遺伝子を酵母菌株において発現させる段階。
【請求項2】
シグナルペプチドによって導かれるタンパク質またはポリペプチドが、細胞によって増殖培地中に分泌されるか、または細胞内に発現されるのみである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
タンパク質またはポリペプチドが、増殖培地中に分泌され、かつ濃度300ユニット/ml以上を有する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている異種遺伝子が、転写エンハンサーエレメントによりインフレームでスプライシングされる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
異種遺伝子が安定したベクターに保持されている、請求項1記載の方法。
【請求項6】
異種遺伝子が人工染色体に保持されている、請求項1記載の方法。
【請求項7】
異種遺伝子が酵母菌株の染色体に組込まれている、請求項1記載の方法。
【請求項8】
異種遺伝子が植物細胞から単離される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
異種遺伝子が菌類細胞から単離される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
異種遺伝子がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のphyA遺伝子である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
酵母菌株がサッカロマイセス(Saccharomyces)、クリュイベロマイセス(Kluyveromyces)、トルラスポラ(Torulaspora)、およびシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
酵母菌株がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
酵母菌株がメタノール資化酵母菌株である、請求項10記載の方法。
【請求項14】
メタノール資化酵母菌株がピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項9記載の方法。
【請求項15】
異種遺伝子が細菌細胞から単離される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
異種遺伝子が大腸菌のappA遺伝子である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
酵母菌株がサッカロマイセス(Saccharomyces)、クリュイベロマイセス(Kluyveromyces)、トルラスポラ(Torulaspora)、およびシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
酵母菌株がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
酵母菌株がメタノール資化酵母菌株である、請求項15記載の方法。
【請求項20】
メタノール資化酵母菌株がピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
請求項1記載の方法により製造されるタンパク質またはポリペプチド。
【請求項22】
シグナルペプチドを含む、請求項21記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項23】
異種遺伝子がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のphyA遺伝子である、請求項21記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項24】
異種遺伝子が大腸菌のappA遺伝子である、請求項21記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項25】
温度範囲57〜65℃、pH2.5〜3.5または5〜5.5で最適活性を示すフィターゼ活性を有する、請求項21記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項26】
最適活性のための温度範囲が58〜62℃である、請求項25記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項27】
タンパク質を90℃で15分間加熱した後、タンパク質が少なくとも40%の活性を保持するフィターゼ活性を有する、請求項21記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項28】
タンパク質を90℃で15分間加熱した後、タンパク質が40%〜60%の間の活性を保持する、請求項27記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項29】
タンパク質を60℃で15分間加熱した後、タンパク質が少なくとも60%の活性を保持するフィターゼ活性を有する、請求項21記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項30】
フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしており、かつ酵母においてフィターゼを発現することが可能なプロモーターに機能的に連結される異種遺伝子を含む酵母菌株。
【請求項31】
異種遺伝子がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のphyA遺伝子である、請求項30記載の酵母菌株。
【請求項32】
酵母菌株がサッカロマイセス(Saccharomyces)、クリュイベロマイセス(Kluyveromyces)、トルラスポラ(Torulaspora)、およびシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)からなる群より選択される、請求項31記載の酵母菌株。
【請求項33】
酵母菌株がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項32記載の酵母菌株。
【請求項34】
酵母菌株がメタノール資化酵母菌株である、請求項31記載の酵母菌株。
【請求項35】
メタノール資化酵母菌株がピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項34記載の酵母菌株。
【請求項36】
異種遺伝子が大腸菌のappA遺伝子である、請求項30記載の酵母菌株。
【請求項37】
酵母菌株がサッカロマイセス(Saccharomyces)、クリュイベロマイセス(Kluyveromyces)、トルラスポラ(Torulaspora)、およびシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)からなる群より選択される、請求項36記載の酵母菌株。
【請求項38】
酵母菌株がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項37記載の酵母菌株。
【請求項39】
酵母菌株がメタノール資化酵母菌株である、請求項36記載の酵母菌株。
【請求項40】
メタノール資化酵母菌株がピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項39記載の酵母菌株。
【請求項41】
下記を含むベクター:
フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている酵母以外の生物の遺伝子;
フィターゼ活性を有するペプチドをコードしている遺伝子に機能的に連結された、酵母において転写を開始することが可能なプロモーター;および
酵母におけるベクターの維持が可能である複製起点。
【請求項42】
選択マーカーをさらに含む、請求項41記載のベクター。
【請求項43】
選択マーカーが、URA3、LEU2、TRP1、HIS3、HIS4、ARG4、および抗生物質耐性遺伝子からなる群より選択される、請求項42記載のベクター。
【請求項44】
細菌細胞における複製が可能である複製起点をさらに含む、請求項41記載のベクター。
【請求項45】
複製起点が、ColE1、Ori、およびoriTからなる群より選択される、請求項44記載のベクター。
【請求項46】
異種遺伝子が細菌細胞から単離される、請求項41記載のベクター。
【請求項47】
異種遺伝子がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のphyA遺伝子である、請求項46記載のベクター。
【請求項48】
異種遺伝子が大腸菌のappA遺伝子である、請求項46記載のベクター。
【請求項49】
下記の段階を含む、フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドの製造法:
フィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードしている単離appA遺伝子を提供する段階、および
該遺伝子を宿主細胞において発現させる段階。
【請求項50】
appA遺伝子が大腸菌から単離される、請求項49記載の方法。
【請求項51】
宿主細胞が酵母菌株または糸状菌である、請求項49記載の方法。
【請求項52】
糸状菌がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)である、請求項51記載の方法。
【請求項53】
酵母菌株がサッカロマイセス(Saccharomyces)、クリュイベロマイセス(Kluyveromyces)、トルラスポラ(Torulaspora)、およびシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)からなる群より選択される、請求項51記載の方法。
【請求項54】
酵母菌株がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
シグナルペプチドによって導かれるタンパク質またはポリペプチドが、細胞によって増殖培地中に分泌されるか、または細胞内に発現されるのみである、請求項49記載の方法。
【請求項56】
下記の段階を含む、フィテート(phytate)をイノシトールおよび無機リンに転換する方法:
appA遺伝子を提供する段階;
宿主細胞において該遺伝子からのフィターゼ活性を有するタンパク質またはポリペプチドを発現する段階;および
タンパク質またはポリペプチドをフィテートと接触させ、フィテートのイノシトールおよび無機リンへの転換を触媒する段階。
【請求項57】
フィテートが食品または飼料に含まれる、請求項56記載の方法。
【請求項58】
appA遺伝子が大腸菌から単離される、請求項56記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−46085(P2010−46085A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243724(P2009−243724)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【分割の表示】特願2000−556038(P2000−556038)の分割
【原出願日】平成11年6月23日(1999.6.23)
【出願人】(500056220)コーネル リサーチ ファンデーション インク. (7)
【Fターム(参考)】