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酵母タンパクの製法
説明

酵母タンパクの製法

【課題】酵母エキスの副産物として過剰に生成する酵母エキス残渣の有効利用、また酵母エキス残渣の減量を課題とする。また、蛋白質含量の高い酵母タンパクの取得を課題とする。
【解決手段】酵母エキス残渣に対し、プロテアーゼを含まない細胞壁溶解酵素を作用させた後に70〜80℃で10〜20分加熱処理を行い、細胞壁を主とする画分と蛋白質を主とする画分に分離し、蛋白質を主とする画分を乾燥させることで、蛋白質含量が60%以上の酵母タンパクを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、酵母エキス抽出後の酵母菌体 又は培養酵母菌体に特定の酵素を作用させて得られる、蛋白質含量の高い酵母タンパクに関する。
【背景技術】
【0002】
酵母には核酸、アミノ酸、ペプチドなど豊富な呈味性成分や栄養成分が含まれており、その抽出物である酵母エキスは天然の調味料や健康食品、微生物用の培地など幅広い分野で用いられている。
酵母エキスの製造方法としては、抽出する酵素や媒体などにより種々の方法が知られており、たとえば特許文献1が挙げられる。
【0003】
一方、酵母から酵母エキスを抽出した後の酵母菌体はグルカンやマンナンなどの細胞壁成分や蛋白質、脂質などが主要な成分であり、これらを有効利用する方法については複数の公知文献がある。たとえば、特許文献2には、酵母エキス抽出残渣を特定の酵素で可溶化して排水処理する方法が記載されている。特許文献3には酵母エキス抽出残渣の酵母菌体を微生物に資化させてマンノースを製造する方法、特許文献4には酵母エキス抽出後の酵母菌体残渣をアルカリ処理後洗浄して薬理用組成物を得る方法、特許文献5には酵母エキス抽出後の酵母菌体に細胞壁溶解酵素等を作用させて微生物培養基材を得る方法が記載されている。
【0004】
しかし、いずれの方法も、処理コストに対して生産物の付加価値が低いこと、あるいは各用途における酵母エキス抽出残渣の消費量が少ないことなどから、実用化に至っていないか、酵母エキス残渣の量を劇的に減少させるには至っていない。そのため、酵母エキスの生産に伴って生じる大量の酵母エキス抽出後の酵母菌体は利用価値が低く、肥飼料などとして用いられた残りは産業廃棄物となっているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−252894号公報、特開平6−113789号公報、特開平9−56361号公報
【特許文献2】特開平7−184640号公報
【特許文献3】特開平10−57091号公報
【特許文献4】特開2001−55338号公報
【特許文献5】特開2007−006838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題は、酵母エキスの副産物として過剰に生成する酵母エキス抽出後の酵母菌体又は酵母エキスにならない培養酵母菌体の有効利用である。また、蛋白質含量の高い酵母タンパクを取得することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、研究の結果、酵母エキス抽出後の酵母菌体に対してプロテアーゼを含まない細胞壁溶解酵素を作用させ、作用させた後に加熱処理を加えることで、酵母由来蛋白質含量の高い組成物(以下「酵母タンパク」と言う。)を製造できることを見出した。また、プロテアーゼを含む酵素であっても、そのプロテアーゼが作用しない温度又はpHで作用させることで、これに準じる品質の酵母タンパクを製造できることを見出した。
さらに、前記細胞壁溶解酵素は、酵母エキス抽出後の酵母菌体だけではなく未抽出の培養酵母に対しても作用させることができる。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)酵母菌体から得られた蛋白質含量60%以上の酵母タンパク、
(2)前記酵母菌体が、酵母エキス抽出後の酵母菌体又は酵母エキス未抽出の酵母菌体である上記(1)記載の酵母タンパク、
(3)前記酵母菌体がキャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエである上記(1)又は(2)に記載の酵母タンパク、
(4)酵母エキス抽出後の酵母菌体又は酵母エキス未抽出の酵母菌体に細胞壁溶解酵素を作用させた後に細胞壁構成成分を除去することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の酵母タンパクの製造方法、
(5)前記細胞壁溶解酵素がプロテアーゼを含まないグルカナーゼであることを特徴とする上記(4)に記載の製造方法、
(6)前記グルカナーゼがストレプトマイセス属由来のものである上記(5)に記載の製造方法、
(7)前記細胞壁溶解酵素を、プロテアーゼが作用しない温度又はプロテアーゼが作用しないpHで作用させることを特徴とする上記(4)に記載の製造方法、
(8)前記細胞壁溶解酵素の作用に次いで50℃以上、好ましくは70〜80℃で、5分以上、好ましくは10〜20分の加熱処理を行った後に細胞壁構成成分を除去することを特徴とする上記(4)〜(7)のいずれか一つに記載の製造方法
に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来は産業廃棄物もしくは低価格の肥飼料になっていた酵母エキス抽出後の酵母菌体や、ビール製造工程から排出されるような酵母エキスにすることのできない酵母菌体を酵母タンパクとして有効利用できるようになり、廃棄物の大幅な減量が可能になった。
また、得られた酵母タンパクは、蛋白質含量が高く、アレルゲン性が低いため、小麦や大豆タンパクの代替としても使用でき、健康食品の素材のほか、食品製造や調味料製造の原料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明でいう酵母は、主に酵母エキスの原料として用いられる酵母であり、具体的にはサッカロマイセス・セレビシエやキャンディダ・ユティリスなどが挙げられる。
【0011】
本発明の酵母菌体としては、第一に酵母エキス抽出後の酵母菌体、すなわち酵母エキス抽出残渣が挙げられる。酵母エキス抽出後の酵母菌体とは具体的には、酵母に熱水、アルカリ性溶液、自己消化、機械的破砕、細胞壁溶解酵素、蛋白質分解酵素、リボヌクレアーゼ、またはデアミナーゼのいずれか一つ以上を用いて抽出処理することにより酵母エキスを抜いた後の残渣である。例として、(株)興人製の「KR酵母」が挙げられる。
このような残渣は一般的に、グルカン、マンナン、蛋白質、脂質を主要な成分とするものであるが、構造的にはグルカン、マンナンと他の成分が複合体となって強固に結合していることが推察され、これに直接プロテアーゼを接触させてもほとんど作用しない。
【0012】
また、本発明の酵母菌体として、酵母エキスにすることのできない酵母菌体も挙げられる。例えばビール製造工程から排出された肥飼料用の酵母菌体や廃棄物としての酵母菌体でも良い。なお、このような酵母エキス未抽出の酵母菌体から取得した酵母タンパクは、酵母エキス抽出後の酵母菌体から取得したものに比べると、相対的な蛋白質含量が低くなる。
【0013】
本発明の酵母タンパクを取得する工程として、まず上述の酵母菌体に水を加えて約5〜20%濃度に調整、懸濁した後に、細胞壁溶解酵素を添加し、30℃以上にて1〜6時間作用させる。
【0014】
ここで添加する細胞壁溶解酵素としてはグルカナーゼとマンナナーゼがあるが、本発明においては、細胞壁溶解酵素がプロテアーゼ活性をほとんど有さないことが重要である。具体的には、ストレプトマイセス属由来のβグルカナーゼ「デナチームGEL」(ナガセケムテックス社製)、Taloromyces属由来のβグルカナーゼ「Filtrase BRX」(DSMジャパン社製)等があり、中でも「デナチームGEL」が最も望ましい。
天野エンザイム社製「ツニカーゼFN」は、グルカナーゼとプロテアーゼの混合物の酵素製剤であり、このようなプロテアーゼを含有する酵素製剤を用いる場合には、酵素製剤中のプロテアーゼが作用しないような温度またはpHで作用させる必要がある。
【0015】
細胞壁溶解酵素による反応に次いで、50℃以上、望ましくは50〜100℃、より望ましくは70〜80℃の温度で、5分以上、望ましくは10〜20分の加熱処理を行った後、遠心分離機にて細胞壁構成成分を除去して、蛋白質を主とする画分を取得する。蛋白質を主とする画分をそのまま、又は乾燥して酵母タンパクとする。
なお、前述の加熱処理を行わない場合、原料菌体あたりの酵母タンパク収量が低くなるため、コスト的には望ましくない。
【0016】
本発明の酵母タンパクの原料としては、酵母エキス未抽出の酵母菌体でも、酵母エキス抽出後の酵母菌体でも用いることができる。酵母エキス未抽出の酵母菌体を原料として上記の方法により得られた酵母タンパクは、60%以上の蛋白質含量がある。一方、酵母エキス抽出後の酵母菌体を原料として上記の製法により得られた酵母タンパクは、80%以上の蛋白質含量があり、健康食品の素材、食品や調味料の製造原料などとしてより好適に用いることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本願発明を具体的に説明する。
<実施例1>
特開2002−101846号公報実施例3に記載のキャンディダ・ユティリス酵母エキス製造方法において、エキス抽出後、遠心分離により除去された菌体残渣を取得し、原料の酵母菌体として用いた。
この酵母菌体1kgを水に懸濁して10%濃度とした後、40℃、pH4.5に調整後、細胞壁溶解酵素(DSMジャパン社製「FiltraseBRX」)を30g加え、5時間作用させ、次いで70℃ 20分で加熱処理した後、遠心分離機にて細胞壁を主とする画分と蛋白質を主とする画分に分離、蛋白質を主とする画分を乾燥し、酵母タンパクを611g得た。この酵母タンパクにつき、ケルダール法により蛋白質含量を測定した結果、蛋白質含量72%であった。
【0018】
<実施例2>
キャンディダ・ユティリス酵母エキス抽出後の酵母菌体「KR酵母」(興人製)1kgを水に懸濁して10%濃度とした後、40℃、pH6.0に調整後、細胞壁溶解酵素(ナガセケムテックス社製「デナチームGEL」)を3g加え、5時間作用させ、次いで70℃ 20分で加熱処理した後、遠心分離機にて細胞壁を主とする画分と蛋白質を主とする画分に分離、蛋白質を主とする画分を乾燥し、酵母タンパクを706g得た。この酵母タンパクにつき、ケルダール法により蛋白質含量を測定した結果、蛋白質含量84%であった。
【0019】
<実施例3>
キャンディダ・ユティリス培養酵母菌体「酵母MG」(興人製)1kgを水に懸濁して10%濃度とした後、40℃、pH6.0に調整後、細胞壁溶解酵素(ナガセケムテックス社製「デナチームGEL」)を3g加え、5時間作用させ、次いで70℃ 20分で加熱処理した後、遠心分離機にて細胞壁を主とする画分と蛋白質を主とする画分に分離、蛋白質を主とする画分を乾燥し、酵母タンパクを320g得た。この酵母タンパクにつき、ケルダール法により蛋白質含量を測定した結果、蛋白質含量72%であった。
【0020】
<実施例4>
サッカロマイセス・セレビシエ培養酵母由来のビール酵母乾燥菌体1kgを水にて10%濃度とした後、40℃、pH6.0に調整後、細胞壁溶解酵素(ナガセケムテックス社製:デナチームGEL)を3g加え、5時間作用させ、次いで70℃ 20分で加熱処理した後、遠心分離機にて細胞壁を主とする画分とタンパク質を主とする画分に分離、タンパク質を主とする成分を乾燥し、酵母タンパクを388g得た。この酵母タンパクにつき、ケルダール法により蛋白質含量を測定した結果、蛋白質含量62%であった。
【0021】
<実施例5>
実施例2において、細胞壁溶解酵素を作用させた後の70℃、20分の加熱処理を行わない以外は実施例2と同様にして、酵母タンパクを215g得た。この酵母タンパクにつき、ケルダール法により蛋白質含量を測定した結果、蛋白質含量83%であった。
【0022】
<比較例1>
実施例1において、細胞壁溶解酵素「FiltraseBRX」30gとプロテアーゼ5gを同時に作用させた以外は実施例1と同様の処理を行った。酵母エキス抽出残渣1kgから酵母タンパクを479g取得できたが、この酵母タンパクにつき、ケルダール法により蛋白質含量を測定した結果、蛋白質含量48%であった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の製造方法により得られた酵母タンパクは、アレルゲンフリーのタンパク質として小麦や大豆タンパク質の代替として用いることができ、たとえばハム・ソーセージやハンバーグなどの畜肉加工食品、蒲鉾などの水産加工食品、クッキーなどの菓子類、パン、麺、餃子の皮などの原料として、また、塩酸や酵素による加水分解調味料として利用できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母菌体から得られた蛋白質含量60%以上の酵母タンパク。
【請求項2】
前記酵母菌体が、酵母エキス抽出後の酵母菌体又は酵母エキス未抽出の酵母菌体である請求項1に記載の酵母タンパク。
【請求項3】
前記酵母菌体がキャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエである請求項1又は2に記載の酵母タンパク。
【請求項4】
酵母エキス抽出後の酵母菌体又は酵母エキス未抽出の酵母菌体に細胞壁溶解酵素を作用させた後に細胞壁構成成分を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酵母タンパクの製造方法。
【請求項5】
前記細胞壁溶解酵素がプロテアーゼを含まないグルカナーゼであることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記グルカナーゼがストレプトマイセス属由来のものである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記細胞壁溶解酵素を、プロテアーゼが作用しない温度又はプロテアーゼが作用しないpHで作用させることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記細胞壁溶解酵素の作用に次いで50℃以上、好ましくは70〜80℃で、5分以上、好ましくは10〜20分の加熱処理を行った後に細胞壁構成成分を除去することを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の製造方法。


【公開番号】特開2013−53083(P2013−53083A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190942(P2011−190942)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(312015749)興人ライフサイエンス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】