説明

酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法

【課題】酵母を用いて生産した酵母発酵物の重要な香気成分である脂肪酸エステルの濃度を簡便且つ迅速に求める方法を提供する。
【解決手段】測定対象酵母発酵物と同一若しくは同質の対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を酵素法により測定し、対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を測定し、この両者を回帰分析して、対照試料酵母発酵物に関し脂肪酸エステルの濃度と遊離脂肪酸の濃度との対応関係を予め求めておくことで、測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を酵素法により測定し、対応関係を用いてこの測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を直ちに求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母を用いて生産した酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、酵母を用いて生産される酵母発酵物中の脂肪酸エステルは、清酒、アルコール飲料や食品の嗜好性に係る品質を決定する上で重要な香気成分である。
【0003】
この脂肪酸エステルには、例えば、清酒の吟醸香であるリンゴ様の香気を発するカプロン酸エチルや果実様の香りのカプリル酸エチル等があり、これらの脂肪酸エステルが増加することによって市場価値の高いアルコール飲料や食品の製造が可能になる。
【0004】
従って、酵母により生産されるアルコール飲料や食料の製造管理及び品質管理上、脂肪酸エステルの濃度の把握は極めて重要である。
【0005】
ところで、この脂肪酸エステルの測定には、従来、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(非特許文献1、2)や、ヘッドスペース固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ法(非特許文献3)が用いられていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】国税庁所定分析法(国税庁所定分析法,3清酒,国税庁訓令第6号別冊,平成19年6月22日,http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/sonota/070622/01.htm)
【非特許文献2】岩田博ら、J. Brew. Soc. Japan., Vol.83,p.411-415,1988
【非特許文献3】宇都宮仁、J. Brew. Soc. Japan., Vol.94,p.252-227,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらのガスクロマトグラフ法を用いた方法は極めて優れた分析方法であるが、測定に長時間かかること、多試料の同時測定が困難であること、分析装置が高価であること、さらに測定場所が制約されることなどの問題点があり、清酒やアルコール飲料や食品などを製造する製造工程で行う分析方法としては非常に煩雑で手間が掛かるため不適当である。
【0008】
従って、業界においては、酵母を用いて生産した酵母発酵物中の脂肪酸エステルの濃度を簡便かつ迅速に求めて製造管理及び品質管理を簡易に行う方法が強く望まれていた。
【0009】
本発明は、酵母を用いて生産した酵母発酵物の重要な香気成分である脂肪酸エステルの濃度を簡便且つ迅速に求める方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0011】
酵母を用いて生産した測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法であって、前記測定対象酵母発酵物と同一若しくは同質の対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を下記1により測定し、下記2により前記対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルとの対応関係を予め求めておき、前記測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を下記3により測定し、前記対応関係を用いてこの測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を求めることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
記1
アシル活性化酵素を用いた遊離脂肪酸発色剤を前記対照試料酵母発酵物に添加し、この添加により生ずる発色の濃淡度合によって該対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を測定する。
記2
前記対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を測定し、この脂肪酸エステルの濃度及びこの濃度に対応する前記遊離脂肪酸の濃度を回帰分析して、前記対照試料酵母発酵物に関し前記脂肪酸エステルの濃度と前記遊離脂肪酸の濃度との対応関係を求める。
記3
アシル活性化酵素を用いた遊離脂肪酸発色剤を前記測定対象酵母発酵物に添加し、この添加により生ずる発色の濃淡度合によって該測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を測定する。
【0012】
また、請求項1記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記アシル活性化酵素は、アシルコエンザイムAシンテターゼであることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
【0013】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記遊離脂肪酸発色剤により測定される前記遊離脂肪酸の濃度は、前記対照試料酵母発酵物若しくは前記測定対象酵母発酵物に含まれる炭素数6以上の遊離脂肪酸の濃度の総和であることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
【0014】
また、請求項3記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記炭素数6以上の遊離脂肪酸は、カプロン酸、カプリル酸及びカプリン酸であることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記対応関係により求められる前記脂肪酸エステルは、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル若しくはカプリン酸エチルのいずれかであることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
【0016】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記遊離脂肪酸発色剤は、前記対照酵母発酵物若しくは前記測定対象酵母発酵物にアデノシン三リン酸、コエンザイムA、アシル活性化酵素及び二価金属イオンを混合し、この混合により生じた生成物に追随酵素としてアシルコエンザイムAオキシダーゼ、更に、ペルオキシダーゼ及び色原体を混合し、前記生成物と前記追随酵素とが反応して生じた過酸化水素が前記ペルオキシダーゼによって前記色原体を発色せしめるものであることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
【0017】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記発色の濃淡度合は、この発色の吸光度から求めることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
【0018】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度は、ガスクロマトグラフ法により測定することを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
【0019】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記測定対象酵母発酵物は、酵母の発酵により生産される清酒、アルコール飲料若しくは食品であることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法に係るものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上述のように、酵母を用いて生産した測定対象酵母発酵物と同一若しくは同質の対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を遊離脂肪酸発色剤による発色の濃淡から求め、この対照試料酵母発酵物の遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルの濃度の対応関係を予め求めておくことにより、測定対象酵母発酵物に遊離脂肪酸発色剤を添加し、発色の濃淡から遊離脂肪酸の濃度を求めるだけで、上述の対応関係から測定対象酵母発酵物の脂肪酸エステルの濃度を直ちに求めることができ、よって、酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を簡便且つ迅速に求めることができる簡易測定方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施例に係る対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度及び脂肪酸エステルの濃度に関する対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、例えばアシルコエンザイムAシンテターゼ等のアシル活性化酵素を用いた酵素反応を利用することによって、ガスクロマトグラフ等の高価な分析機器や煩雑な操作を必要とすることなく、製造現場で簡便且つ迅速に酵母発酵物中の脂肪酸エステルの濃度を求めることができる点に特徴がある。
【0023】
本発明者等は、酵母を用いて生産した酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度をこの酵母発酵物に遊離脂肪酸発色剤を添加して測定すると、この測定で得られた遊離脂肪酸の濃度と、この酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度との間に特定の対応関係があることを見出して本発明を完成したものである。
【0024】
具体的には、遊離脂肪酸発色剤としてアシル活性化酵素であるアシルコエンザイムAシンテターゼを用いた、炭素数6以上の遊離脂肪酸を測定対象とする遊離脂肪酸発色剤を採用し、この遊離脂肪酸発色剤を試料としての酵母発酵物に添加して遊離脂肪酸の濃度を測定し、この試料の酵母発酵物に含まれる炭素数6以上の遊離脂肪酸の濃度の総和と、ガスクロマトグラフ法で測定したカプロン酸エチル等の脂肪酸エステルの濃度との間に特定の対応関係があることを確認した。
【0025】
更に、この対応関係は、酵母発酵物が同一の酵母の場合は勿論であるが、同質の酵母を用いて生産される場合であれば、生産場所や生産時期が異なっている場合であっても、成り立っていることも確認した。
【0026】
詳細には、この同一若しくは同質の酵母は、清酒酵母(きょうかい7号酵母、きょうかい9号酵母、きょうかい10号酵母や、高エステル生成酵母1701号、高エステル生成酵母1801号など)、ワイン酵母(日本醸造協会ブドウ酒1号酵母、同ブドウ酒3号酵母、同ブドウ酒4号酵母など)、ビール酵母、パン酵母などのアルコール飲料や食品の製造に常用される、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する酵母をいう。
【0027】
従って、まず、この測定対象酵母発酵物と同一若しくは同質の対照試料酵母発酵物に、例えばアシルコエンザイムAシンテターゼ等のアシル活性化酵素を用いた遊離脂肪酸発色剤を添加する。これにより、この対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度に応じた濃淡の発色が生じ、この発色の濃淡度合からこの対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を測定することができる。
【0028】
次いで、この対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を、例えば、ガスクロマトグラフ法により測定し、この脂肪酸エステルの濃度及びこの濃度に対応する前記遊離脂肪酸の濃度を、例えば最小二乗法により回帰分析すると、対照試料酵母発酵物に関し脂肪酸エステルの濃度と遊離脂肪酸の濃度との対応関係を求めることができる。
【0029】
次いで、測定対象酵母発酵物にアシルコエンザイムAシンテターゼ等のアシル活性化酵素を用いた遊離脂肪酸発色剤を添加すると、この測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度に応じた濃淡で発色が生じ、その発色の濃淡度合から測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を求めることができ、そこで、前記対応関係を用いると、この対応関係から測定対象酵母発酵物の遊離脂肪酸の濃度に対応する脂肪酸エステルの濃度を直ちに簡便且つ迅速に求めることができることになる。
【実施例】
【0030】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0031】
本実施例は、酵母を用いて生産した測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法であって、前記測定対象酵母発酵物と同一若しくは同質の対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を下記1により測定し、下記2により前記対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルとの対応関係を予め求めておき、前記測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を下記3により測定し、前記対応関係を用いてこの測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を求めることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法である。
記1
アシル活性化酵素を用いた遊離脂肪酸発色剤を前記対照試料酵母発酵物に添加し、この添加により生ずる発色の濃淡度合によって該対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を測定する(以下、この遊離脂肪酸発色剤を用いて遊離脂肪酸の濃度を測定する方法を「酵素法」という。下記3も同じ「酵素法」である。)。
記2
前記対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を測定し、この脂肪酸エステルの濃度及びこの濃度に対応する前記遊離脂肪酸の濃度を回帰分析して、前記対照試料酵母発酵物に関し前記脂肪酸エステルの濃度と前記遊離脂肪酸の濃度との対応関係を求める。
記3
アシル活性化酵素を用いた遊離脂肪酸発色剤を前記測定対象酵母発酵物に添加し、この添加により生ずる発色の濃淡度合によって該測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を測定する(以下、この方法も上記1同様「酵素法」という。)。
【0032】
本実施例は、この方法を用いて、上槽直後の清酒の遊離脂肪酸の濃度から清酒の香気成分である脂肪酸エステルの濃度を簡便に求めている。
【0033】
具体的には、上述した遊離脂肪酸発色剤に含まれるアシル活性化酵素として、例えば主に短鎖脂肪酸に基質特異性を有するアセチルコエンザイムAシンテターゼ(EC6.2.1.1)、主に中鎖脂肪酸に基質特異性を有するブチリルコエンザイムAシンテターゼ(EC6.2.1.2)、主に長鎖脂肪酸に基質特異性を有するアシルコエンザイムAシンテターゼ(EC6.2.1.3)、炭素数22以上の極長鎖脂肪酸に基質特異性を示す極長鎖アシルコエンザイムAシンテターゼ等が挙げられるが、適当なアシル活性化酵素を選択し、酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を測定する。
【0034】
詳細には、遊離脂肪酸発色剤としてアシルコエンザイムAシンテターゼを用いた炭素数6以上の遊離脂肪酸を測定対象とする遊離脂肪酸発色剤を採用し、この遊離脂肪酸発色剤を試料の酵母発酵物(即ち、対照試料酵母発酵物若しくは測定対象酵母発酵物)に添加すると、この試料の酵母発酵物に含まれる炭素数6以上の遊離脂肪酸がこの遊離脂肪酸発色剤と発色反応することになる。即ち、この発色の濃淡度合を吸光度測定から求めた遊離脂肪酸の濃度は、この試料の酵母発酵物に含まれる炭素数6以上の遊離脂肪酸の濃度の総和となる。
【0035】
この酵素法により測定される遊離脂肪酸は、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルチミン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、リノール酸(cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸)若しくはリノレン酸(cis,cis,cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸)を含むものとし、少なくとも、カプロン酸、カプリル酸及びカプリン酸を必ず含むものとする。
【0036】
一方、この試料に含まれるカプロン酸エチル等の脂肪酸エステルの濃度をガスクロマトグラフ法などによって測定し、この脂肪酸エステルと、上述の酵素法によって求めた遊離脂肪酸の濃度と関係を求めると、両者の間に特定の対応関係を見出すことができる。
【0037】
なお、上述の酵素法による遊離脂肪酸の濃度の測定は、本実施例では、対照試料酵母発酵物及び測定対象酵母発酵物の双方に対して実施して極めて簡便且つ迅速に脂肪酸エステルの濃度を求めているが、対照試料酵母発酵物または測定対象酵母発酵物のいずれか一方の測定にのみ酵素法を適用し、他方の測定には、従来どおり例えばガスクロマトグラフ法を適用することでもよい。但し、その場合には、この酵素法とガスクロマトグラフ法との対応関係を明確にすることが必要であると共に、例えば、ガスクロマトグラフ等の併用が必要となるため、本実施例より大変に手間がかかることになる。
【0038】
また、この酵素法による遊離脂肪酸の濃度は、測定対象酵母発酵物及び対照試料酵母発酵物の夫々に遊離脂肪酸発色剤を添加して発色させた後、この発色の濃淡度合を吸光度から求めたものである。
【0039】
詳細には、この発色の濃淡が遊離脂肪酸の濃度に比例し、また、光に対する吸光度にもほぼ比例するため、分光光度計を用いて発色の吸光度を測定すると遊離脂肪酸の濃度を正確に求めることができる。
【0040】
また、複数の異なる発色度合いを備えた参照系を設けて、測定対象の発色度合をこの参照系の濃淡と視認比較して大雑把に遊離脂肪酸の濃度を求めることもできる。
【0041】
また、対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度は、本実施例では、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって測定したものであるが、他の方法でもよい。
【0042】
また、対照試料酵母発酵物に関する遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルの濃度との対応関係は、遊離脂肪酸の濃度と、この濃度に対応する脂肪酸エステルの濃度との相関関係を表す検量線であり、相関関係を示すグラフや式で表現される。
【0043】
具体的には、この検量線は、対照試料酵母発酵物に関する遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルの濃度を多数取得して最小二乗法で回帰分析して求めることができ、本実施例は、遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルの濃度とはほぼ比例関係にある一次式で簡単に表すことができた。
【0044】
本実施例の検量線は、遊離脂肪酸の濃度及び脂肪酸エステルの濃度の二量の間の相関関係を表すグラフ若しくは式であるが、同じことであるが、多数取得した遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルの濃度の値から適宜の曲線や直線に当てはめた、所謂、カーブフィッティングしたものでもよいし、また、非線形関数や多項式などで近似したものでもよく、得られる濃度データの性質によって適宜の方法を選択すればよい。
【0045】
また、この酵素法に用いる遊離脂肪酸発色剤は、アデノシン三リン酸、コエンザイムA、アシルコエンザイムAシンテターゼ、二価金属イオン、アシルコエンザイムAオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び色原体を含むものであり、例えば、Shimizuらの方法(S.Shimizu,et al.,Anal. Biochem.,Vol.107,p.193〜198,1980)を用いることによって、炭素数6以上の遊離脂肪酸を測定対象とすることができる。
【0046】
具体的には、試料たる酵母発酵物(即ち、対照試料酵母発酵物及び測定対象酵母発酵物)にアデノシン三リン酸、コエンザイムA、アシルコエンザイムAシンテターゼ及び二価金属イオンを混合し、この混合により生じた生成物に追随酵素としてアシルコエンザイムAオキシダーゼを添加し、更に、ペルオキシダーゼ及び色原体を混合して、前記生成物と前記追随酵素とが反応して生じた過酸化水素が前記ペルオキシダーゼによって前記色原体を発色せしめるものである。
【0047】
なお、この遊離脂肪酸発色剤に用いられるアシルコエンザイムAシンテターゼ、アシルコエンザイムAオキシダーゼ、ペルオキシダーゼは、その由来等は問うところではなく、この酵素法に適用できるものを選択すればよい。
【0048】
また、二価金属イオンは、二価カルシウムイオン若しくは二価マグネシウムイオンであり、例えば塩化塩として、MgCl、CaClを用いる。
【0049】
本実施例の追随酵素はアシルコエンザイムAオキシダーゼであり、詳細には、アシルコエンザイムAオキシダーゼを混合したことによって生じた過酸化水素と、ペルオキシダーゼとの作用によって青紫色の色素が生成する。
【0050】
また、本実施例の色原体は、4-アミノアンチピリン、3-メチル-N-エチル-N-(β-ヒドロキシエチル)-アニリンを含むものであり、ペルオキシダーゼの作用の下に上記過酸化水素とこの色原体とが酸化縮合して青紫色に発色する色素を生成するものである。なお、この4-アミノアンチピリン、3-メチル-N-エチル-N-(β-ヒドロキシエチル)-アニリンに代えて、例えば、赤色色素が生成される2,4-ジブロモフェノール等、この酵素法に適用可能な色原体であれば採用することができる。
【0051】
更に、この追随酵素は、本実施例では(ア)アシルコエンザイムAオキシダーゼを採用したが、(イ)ピロフォスファターゼ及びピルビン酸オキシダーゼを用いる方法でも、(ウ)ミオキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシナーゼを用いる方法でもよく、これら(ア)〜(ウ)いずれにおいても、過酸化水素と色原体とが酸化縮合して発色色素が生成される。
【0052】
この酵素法による遊離脂肪酸の測定をより簡便に行うために本実施例では、遊離脂肪酸測定キットであるNEFA C-テストワコー(和光純薬工業(株)製)を用いている。
【0053】
なお、酵母発酵物中に夾雑物が存在する場合には、この夾雑物を遠心分離等で除去したり、或いは、例えば、Sep-Pak Plus Silica、Sep-Pak Plus C18、Sep-Pak AC2(ウォ−タ−ズ コーポレーション社製)等を用いた固相抽出などで前処理を行った後、上述の酵素法による測定を行えばよい。
【0054】
また、脂肪酸エステルは、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチルのいずれかであるが、本実施例が対象とする脂肪酸エステルは、カプロン酸エチルである。
【0055】
また、酵母発酵物は、酵母を用いて生産される清酒、アルコール飲料若しくは食品である。本実施例は、清酒の中でも大吟醸酒に適用したものであるが、他のアルコール飲料や食品、または、これらの製造工程管理及び製品品質管理に適用できる。
【0056】
本実施例の酵母は、清酒酵母(きょうかい7号酵母、きょうかい9号酵母、きょうかい10号酵母や、高エステル生成酵母1701号、高エステル生成酵母1801号など)、ワイン酵母(日本醸造協会ブドウ酒1号酵母、同ブドウ酒3号酵母、同ブドウ酒4号酵母など)、ビール酵母、パン酵母などのアルコール飲料や食品の製造に常用される、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する酵母であれば、いずれの酵母でもよい。
【0057】
また、本実施例の酵母発酵物は液状であるが、固形状、ペースト状、ゲル状等いずれの形状でも良く、酵母による発酵中または発酵後の原料、中間産物、半製品および最終製品でもよく、具体的には、清酒、果実酒、その他の醸造酒、ビール、発泡酒、単式蒸留焼酎、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ、リキュール、甘味果実酒、雑酒、その他の発泡性酒類の酒母や醪とその製品、パンやクッキー等の酵母添加後の生地およびその製品、醤油や味噌の醪とその製品等に適用できるものである。
【0058】
以上、本実施例は、酵母を用いて生産した測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の測定にあたり、まず、この測定対象酵母発酵物と同一若しくは同質の対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を酵素法により測定する一方、この対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度をガスクロマトグラフ法で測定する。次いで、この遊離脂肪酸の濃度及びこの濃度に対応する脂肪酸エステルの濃度を多数の対照試料酵母発酵物から取得して最小二乗法で回帰分析すると、対照試料酵母発酵物に関し脂肪酸エステルの濃度と遊離脂肪酸の濃度との対応関係を線形な検量線として求めることができる。
【0059】
次に、測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を酵素法によって測定した後、この検量線を用いるとこの測定対象酵母発酵物の遊離脂肪酸の濃度に対応する脂肪酸エステルの濃度を直ちに求めることができる。
【0060】
従って、本実施例は、酵母を用いて生産した測定対象酵母発酵物と同一若しくは同質の対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度と遊離脂肪酸の濃度との検量線を求めておくと、測定対象酵母発酵物の遊離脂肪酸の濃度を酵素法で測定するだけで、検量線から測定対象酵母発酵物の脂肪酸エステルの濃度を直ちに求めることができる点に特徴があり、よって、測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を簡便且つ迅速求めることができることになる。
【0061】
また、本実施例は、上述の酵素法による遊離脂肪酸の濃度の測定と、ガスクロマトグラフ法による脂肪酸エステルの濃度の測定との双方を行って充分な相関を確認して検量線を求めた後は、酵素法によって遊離脂肪酸の濃度の測定を行うだけで、検量線から酵母を用いて生産した発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を直ちに求めることができるため、酵母を用いて生産した発酵物の製造工程の管理や製品管理が極めて容易に行えることになる。
【0062】
以上の方法に基づき、清酒製造において清酒中の脂肪酸エステルの濃度を求めるために試薬を調製した後、実験1及び実験2を行った。
【0063】
尚、この実験1及び2では、酵素法を和光純薬工業(株)製のNEFA C-テストワコーの遊離脂肪酸測定キットを用いた。当該キットは次の試薬で構成されている。
【0064】
発色剤A:コエンザイムA、アデノシン-5'-三リン酸二ナトリウム、アシルコ
エンザイムAシンテターゼ、4-アミノアンチピリン、アスコルビン
酸オキシダーゼ
発色剤A溶解用試液:リン酸緩衝液
発色剤B:アシルコエンザイムAオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ
発色剤B溶解用試液:3-メチル-N-エチル-N-(β-ヒドロキシエチル)-アニ
リン
【0065】
1 試薬の準備
(1)発色試液A
発色剤A(10mL用)1びんを発色剤A溶解用試液10mLで溶解し、発色試
液Aとした。調製後、25℃以下保存で当日中、2〜10℃保存で5日間使用でき
る。
【0066】
(2)発色試液B
発色剤B(20mL用)1びんを発色剤B溶解用試液20mLで溶解し、発色試
液Bとした。調製後、25℃以下保存で当日中、2〜10℃保存で5日間使用でき
る。
【0067】
(3)基準液
カプロン酸(分子量116.13)1mMの溶液を調製して、これを遊離脂肪酸
の濃度が1mEq/Lの基準液とした。
【0068】
(4)基準液に関する濃度と吸光度との検量線作成
調製したカプロン酸基準液を超純水で0.05mEq/Lから1mEq/Lの濃
度になるように希釈して調製し、後述の実験1(4)記載の(ア)〜(ウ)と同様
に、550nmにおける吸光度を測定し、次いで、基準液の希釈した濃度と吸光度
の検量線を作成した。
【0069】
この基準液に関する濃度と吸光度の検量線は、下記実験1の吸光度から遊離脂肪
酸の濃度を求める際に用いた。
【0070】
なお、この検量線の作成にあたっても下記の検量線の作成と同様、最小二乗法で
回帰分析を行った。
【0071】
2 実験1
2−1 目的
遊離脂肪酸及び脂肪酸エステルに関する検量線を作成する。
【0072】
2−2 実験方法
(1)試料
新潟県内の清酒製造場において製造された大吟醸酒19点を試料として用いて、
この19点の試料の夫々について、次の(2),(3)によって遊離脂肪酸及び脂
肪酸エステルの濃度の測定を行った。
【0073】
(2)脂肪酸エステルの濃度測定
カプロン酸エチル濃度を国税庁所定分析法(非特許文献1)を参考にしてヘッド
スペースガスクロマトグラフ法(非特許文献2)を参考にしてヘッドスペースガス
クロマトグラフ法(非特許文献2)により測定した。
【0074】
ヘッドスペースガスサンプラ条件は、(ア)ヘッドスペースガスサンプラー;H
SS-2B((株)島津製作所製)、(イ)バイアル保持温度;50℃、(ウ)バ
イアル保持時間;25分、である。ガスクロマトグラフ条件は、(ア)ガスクロマ
トグラフ;GC-14A((株)島津製作所製)(イ)カラム;DB-WAX(J&W
Scientific Inc. 製、30m×内径0.25mm、フィルム厚0.5μm)(ウ
)検出器;FID、(エ)キャリアガス;ヘリウム、(オ)キャリアガス流速;2
.95mL/分、(カ)試料導入部温度;210℃、(キ)検出器温度;230℃
、(ク)カラム槽温度;80℃、(ケ)スプリット比;1:40、である。
【0075】
(3)遊離脂肪酸の濃度測定
NEFA C-テストワコー(和光純薬工業(株)製)を用いた酵素法で次の(ア
)〜(エ)の手順によって遊離脂肪酸の濃度測定を行った。この際、試料とする清
酒を適量とり、17,000Gの遠心力による遠心を10分間行い、得られた上清
を測定試料とした。なお、遠心分離に替えてミクロフィルタによるろ過でもよい。
【0076】
(ア)試料10μLを80μLの発色試薬Aに混合し、37℃で10分間加温し
た。
【0077】
(イ)160μLの発色試薬Bを(ア)の反応液中に混合し、37℃で1分間加
温した。
【0078】
(ウ)室温に戻し、分光光度計(UV-2200、(株)島津製作所製)により
550nmの吸光度を測定した。
【0079】
(エ)基準液の希釈した濃度と吸光度の検量線を用い、前項(ウ)で得られた吸
光度から遊離脂肪酸の濃度を算出した。
【0080】
(4)検量線の作成
19点の対応関係のある遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルの濃度とを最小二乗
法によって回帰分析して検量線のグラフを作成した。
【0081】
2−3 結果
(1)測定結果
図1のドットは、19点の大吟醸酒の試料について、ヘッドスペースガスクロマ
トグラフ法によるカプロン酸エチルの濃度と、酵素法による遊離脂肪酸の濃度をプ
ロットしたものである。
【0082】
(2)検量線作成
前項データを最小二乗法によりフィッテングした結果、回帰式は、清酒中のカプ
ロン酸エチルの濃度をy、酵素法による清酒中の遊離脂肪酸の濃度をxとして、
【0083】
【数1】

【0084】
(但し、rは相関係数、pは危険率を表す。)
を得た。
【0085】
2−4 結論
(1)ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって測定した清酒中のカプロン酸エチ
ルの濃度と、酵素法によって測定した清酒中の遊離脂肪酸の濃度とはほぼ比例し、
両者は良好な線形な相関があり、回帰式を決定できた。
【0086】
(2)従って、酵素法によって遊離脂肪酸濃度を測定できれば、カプロン酸エチルの濃
度をガスクロマトガラフ法に依らないで良好に求めることが可能である。
【0087】
3 実験2
3−1 目的
実験1により作成した検量線をもちいて、酵素法による清酒中の遊離脂肪酸の濃
度からカプロン酸エチルの濃度を決定し、本測定法の妥当性を検証した。
【0088】
3−2 実験方法
(1)小仕込試験法による清酒の製造
清酒の小仕込を難波らの方法(難波康之祐ら、J. Brew. Soc. Japan. ,Vol. 73,
p.295-300,1978)を一部改変し、表1に示す仕込配合によって一段仕込で行った。
【0089】
この仕込みの際、新潟県醸造試験場保有の清酒酵母を使用し、表1の酵母懸濁液
として、各仕込み毎にボーメ度6の麹汁培地300mLに1白金耳の清酒酵母の菌
体を植菌し、25℃で7日間静置培養したものを懸濁し使用した。
【0090】
なお、品温は10℃一定とし、炭酸ガス減量により経過を測定し、醪の炭酸ガス
減量が約60gに達した時点で上槽した。
【0091】
【表1】

【0092】
(2)脂肪酸エステルの濃度測定
実験1と同様のヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって製成酒中の香気成
分を分析した。
【0093】
(3)遊離脂肪酸の濃度測定と検量線から求めた脂肪酸エステルの濃度
実験1と同様に酵素法による製成酒中の遊離脂肪酸の濃度を測定し、実験1で得
られた式1の回帰式に試料中の遊離脂肪酸の濃度xを代入して試料中のカプロン酸
エチルの濃度yを算出した。
【0094】
3−3 結果
(1)測定結果
表2に、製成酒中の酵素法による遊離脂肪酸の濃度、実験1で得られた検量線に
より求められたカプロン酸エチルの濃度と、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法
で得られたカプロン酸エチルの濃度を示す。
【0095】
この試験結果から、本実施例の酵素法で求めたカプロン酸エチルの濃度は、ヘッ
ドスペースガスクロマトグラフ法で測定したカプロン酸エチルの濃度と良好に一致
しているといえる。
【0096】
【表2】

【0097】
3−4 結論
酵母発酵物である清酒を用いて、本測定法の妥当性を検証した結果、酵素法によ
る遊離脂肪酸の濃度からカプロン酸エチルの濃度を求めることが可能であった。
【0098】
以上、実験1及び実験2の結果から、本実施例の酵素法によって測定した清酒中の炭素数6以上の遊離脂肪酸の濃度の総和から、清酒中のカプロン酸エチルの濃度を求めることが可能であるといえる。
【0099】
本実施例は、酵母を用いて生産した酵母発酵物に清酒を採用し、脂肪酸エステルとしてカプロン酸エチルを測定対象としたが、上述の酵素法に用いる酵素剤(アシルコエンザイムAシンテターゼ及びアシルコエンザイムAオキシダーゼ等)を異なる基質特異性を有するものに変更し、酵素法による遊離脂肪酸の測定範囲を短鎖側や長鎖側に変更したり、或いは遊離脂肪酸の測定範囲を制限若しくは拡大することによって、酵母を用いて生産した様々な酵母発酵物(清酒、ワイン又は焼酎醪等)に含まれるカプロン酸エチル、カプリル酸エチル又はカプリン酸エチル等を、その測定対象とする遊離脂肪酸の濃度から測定することもできる。
【0100】
従って、本実施例によって、煩雑な操作を要さず、清酒等の酵母を用いて生産した酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステル濃度を製造現場で簡便かつ迅速に測定することが可能となった。
【0101】
また、本実施例は、従来の脂肪酸エステルの測定法と比べて大幅に測定時間が短縮される。
【0102】
具体的には、従来法であるヘッドスペースガスクロマトグラフ法では、1検体あたり、内部標準の添加や試料の加温などの前処理に1時間、ガスクロマトグラフ法による分析に30分間の合計で最低1.5時間を要するのに対し、本実施例では、酵素反応に20分間と、吸光度の測定に10分間を要するが、1検体あたり僅か30分間で測定できた。
【0103】
従って、本実施例によると、ガスクロマトグラフ法に比べ1検体あたり最低1時間の測定時間を短縮できることになる。
【0104】
本実施例は、更に、マイクロプレートリーダー等を使用することができため、多検体の同時分析が可能であり、これを用いると、100乃至500検体であっても2時間以内に測定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母を用いて生産した測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法であって、前記測定対象酵母発酵物と同一若しくは同質の対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を下記1により測定し、下記2により前記対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度と脂肪酸エステルとの対応関係を予め求めておき、前記測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を下記3により測定し、前記対応関係を用いてこの測定対象酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を求めることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。
記1
アシル活性化酵素を用いた遊離脂肪酸発色剤を前記対照試料酵母発酵物に添加し、この添加により生ずる発色の濃淡度合によって該対照試料酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を測定する。
記2
前記対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度を測定し、この脂肪酸エステルの濃度及びこの濃度に対応する前記遊離脂肪酸の濃度を回帰分析して、前記対照試料酵母発酵物に関し前記脂肪酸エステルの濃度と前記遊離脂肪酸の濃度との対応関係を求める。
記3
アシル活性化酵素を用いた遊離脂肪酸発色剤を前記測定対象酵母発酵物に添加し、この添加により生ずる発色の濃淡度合によって該測定対象酵母発酵物に含まれる遊離脂肪酸の濃度を測定する。
【請求項2】
請求項1記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記アシル活性化酵素は、アシルコエンザイムAシンテターゼであることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記遊離脂肪酸発色剤により測定される前記遊離脂肪酸の濃度は、前記対照試料酵母発酵物若しくは前記測定対象酵母発酵物に含まれる炭素数6以上の遊離脂肪酸の濃度の総和であることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。
【請求項4】
請求項3記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記炭素数6以上の遊離脂肪酸は、カプロン酸、カプリル酸及びカプリン酸であることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記対応関係により求められる前記脂肪酸エステルは、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル若しくはカプリン酸エチルのいずれかであることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記遊離脂肪酸発色剤は、前記対照酵母発酵物若しくは前記測定対象酵母発酵物にアデノシン三リン酸、コエンザイムA、アシル活性化酵素及び二価金属イオンを混合し、この混合により生じた生成物に追随酵素としてアシルコエンザイムAオキシダーゼ、更に、ペルオキシダーゼ及び色原体を混合し、前記生成物と前記追随酵素とが反応して生じた過酸化水素が前記ペルオキシダーゼによって前記色原体を発色せしめるものであることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記発色の濃淡度合は、この発色の吸光度から求めることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記対照試料酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度は、ガスクロマトグラフ法により測定することを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法において、前記測定対象酵母発酵物は、酵母の発酵により生産される清酒、アルコール飲料若しくは食品であることを特徴とする酵母発酵物に含まれる脂肪酸エステルの濃度の簡易測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−157349(P2012−157349A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176693(P2011−176693)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(592102940)新潟県 (41)
【Fターム(参考)】