説明

酵母細胞の表面上にポリペプチドをディスプレイするための方法および組成物

酵母細胞の表面上にポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)をディスプレイするのに用いる方法および組成物が本明細書に提供される。本明細書に開示された様々な方法および組成物と共に用いることができる例示的な酵母には、Yarrowia属の酵母、例えば、Yarrowia lipolyticaが挙げられる。本発明で提供される組成物は、融合配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含み、その融合配列は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸配列にインフレームで融合した、アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸配列を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
酵母細胞の表面上にポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)をディスプレイするのに用いる方法および組成物が本明細書に提供される。本明細書に開示された様々な方法および組成物と共に用いることができる例示的な酵母には、Yarrowia属の酵母、例えば、Yarrowia lipolyticaが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
高親和性試薬、例えば、抗体またはその断片は、臨床的適用および研究的適用の両方にとって有用なツールである。いくつかのインビトロおよびインビボのプラットフォームが抗体の単離および特徴づけに用いられており、それらには、リボソームディスプレイ、ファージディスプレイ、および大腸菌(E.coli)におけるペリプラズム発現が挙げられる。用いられている別のプラットフォームは、酵母細胞表面ディスプレイ(YSD)である。
【0003】
Yarrowia株細胞表面上に抗体およびその断片をディスプレイするための組成物および方法は、有利であろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
酵母細胞の表面上にポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)をディスプレイするのに用いる方法および組成物が本明細書に提供される。本明細書に開示された様々な方法および組成物と共に用いることができる例示的な酵母には、Yarrowia属の酵母、例えば、Yarrowia lipolyticaが挙げられる。
【0005】
特定の実施形態において、本明細書に提供される組成物は、融合配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含み、その融合配列は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸配列にインフレームで融合した、アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸配列を含む。特定の実施形態において、本明細書に提供される組成物は、第1の核酸配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含み、その第1の核酸配列は、アンカーポリペプチドをコードするアンカーヌクレオチド配列を含み、第1の核酸配列は、第2の核酸配列によってコードされる目的の第2の融合パートナーを含む融合ポリペプチドにおける第1の融合パートナーとして発現することができる。特定の実施形態において、発現カセットは、目的の第2の融合パートナーをコードする第2の核酸配列、例えば、制限部位の全部または一部をさらに含む。特定の実施形態において、目的の第2の融合パートナーは、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む。特定の実施形態において、抗体ポリペプチド断片は、scFv断片、Fab断片の重鎖、またはFab断片の軽鎖である。
【0006】
特定の実施形態において、発現カセットの第1の核酸配列は、第2の核酸配列の3’に融合しており、その結果、その融合配列から産生される融合ポリペプチドは、N末端の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片、およびC末端のアンカーポリペプチドを含む。特定の実施形態において、発現カセットの第1の核酸配列は、第2の核酸配列の5’に融合しており、その結果、その融合配列から産生される融合ポリペプチドは、N末端のアンカーポリペプチド、およびC末端の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む。
【0007】
特定の実施形態において、発現カセットは、構成的プロモーターを含む。特定の実施形態において、発現カセットは、誘導性プロモーター、例えば、POX2またはLIP2プロモーターを含む。特定の実施形態において、発現カセットは、半誘導性(semi−inducible)プロモーター、例えば、ph4dプロモーターを含む。
【0008】
特定の実施形態において、発現カセットは、リーダーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むリーダー核酸配列を含み、リーダー核酸配列は、第1および第2の核酸配列の5’にインフレームで融合している。例示的なリーダー核酸配列には、非限定的に、LIP2 pre、LIP2 prepro、XPR2 pre、およびXPR2 preproが挙げられる。
【0009】
特定の実施形態において、発現カセットは、リンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むリンカー核酸配列を含む。例えば、リンカー核酸配列は、第1の核酸配列と第2の核酸配列との間にインフレームで融合することができる。特定の実施形態において、抗体ポリペプチドは、scFv抗体ポリペプチドを含み、リンカー核酸配列は、scFvポリペプチドの可変領域をコードする重鎖核酸配列と、scFvポリペプチドの可変領域をコードする軽鎖核酸配列との間にインフレームで融合している。リンカーポリペプチドの非限定的例には、(Gly4Ser)または(GlySer)が挙げられる。
【0010】
特定の実施形態において、発現カセットは、1つまたは複数のエピトープタグをコードするヌクレオチド配列を含む1つまたは複数の核酸配列を含む。例示的なエピトープタグには、非限定的に、c−Myc、V5、ヘキサヒスチジン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ストレプトアビジン、ビオチン、赤血球凝集素、Flag−タグ、およびE−タグが挙げられる。
【0011】
特定の実施形態において、発現カセットは、アンカーポリペプチドを含む。アンカーポリペプチドの非限定的例には、Aga1pポリペプチドまたはその断片、Aga2pポリペプチドまたはその断片、およびSag1pポリペプチドまたはその断片が挙げられる。
【0012】
特定の実施形態において、発現カセットは、Yarrowia細胞における発現のためにコドン最適化されている、抗体ポリペプチドもしくは抗体ポリペプチド断片、アンカーポリペプチド、または両方を含む。
【0013】
特定の実施形態において、本明細書に提供される組成物は、上記の発現カセットのいずれかを含むベクターを含む。特定の実施形態において、ベクターは、ゼータエレメントを含む。例示的なゼータエレメントには、非限定的に、例えば、Ylt1またはTyl6レトロトランスポゾンなどのレトロトランスポゾンの長い末端反復が挙げられる。特定の実施形態において、ベクターは、1つまたは複数の常染色体複製エレメント、例えば、セントロメア(CEN)および複製起点(ORI)を含む常染色体複製エレメントを含む。例示的なセントロメアには、非限定的に、CEN1およびCEN3が挙げられる。例示的な複製起点には、非限定的に、ORI1068またはORI3018が挙げられる。特定の実施形態において、ベクターは、セントロメアおよび複製起点を含む自律複製配列(ARS)を含む。例示的なARSには、非限定的に、ARS18およびARS68が挙げられる。特定の実施形態において、ベクターは、1つまたは複数の選択マーカーをコードするヌクレオチド配列を含む1つまたは複数の核酸配列を含む。選択マーカーの非限定的例には、LEU2、URA3d1、ADE2、Lys、Arg、Gut、Trp、G3p、およびhphが挙げられる。
【0014】
特定の実施形態において、本明細書に提供される方法は、Yarrowia細胞の表面上に抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をディスプレイするための方法を含む。例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片は、アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸配列にインフレームで融合した、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸配列を含む融合配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む第1のベクターを第1のYarrowia細胞へ導入し、ある期間、Yarrowia細胞作動条件下で第1のYarrowia細胞をインキュベートすることによって、Yarrowia細胞の表面上にディスプレイされてもよい。例示的な第1のベクターには、非限定的に、上記のベクターのいずれかが挙げられる。特定の実施形態において、抗体ポリペプチド断片は、scFv断片、Fab断片の重鎖、またはFab断片の軽鎖である。特定の実施形態において、方法は、Fab断片の軽鎖またはFab断片の重鎖をコードする核酸配列に作動可能に連結された第2のプロモーターを含む第2のベクターを第1のYarrowia細胞へ導入する工程を含んでもよい。特定の実施形態において、第1のYarrowia細胞は一倍体であり、第2のベクターを導入する工程は、第1のベクターを含む第1の一倍体Yarrowia細胞を、第2のベクターを含む第2の一倍体Yarrowia細胞と接合させることを含み、ここで、第1のYarrowia細胞と第2のYarrowia細胞は反対の接合型である。
【0015】
特定の実施形態において、第1の核酸配列は、第2の核酸配列の5’に融合しており、その結果、その融合配列から産生される融合ポリペプチドは、N末端の抗体ポリペプチドまたはその抗体ポリペプチド断片、およびC末端のアンカーポリペプチドを含む。特定の実施形態において、第1の核酸配列は、第2の核酸配列の3’に融合しており、その結果、その融合配列から産生される融合ポリペプチドは、N末端のアンカーポリペプチド、およびC末端の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む。
【0016】
特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、低い誘導温度、例えば、約摂氏15度から摂氏25度の温度を含む。非限定的な低い誘導温度は、約摂氏20度の温度を含む。特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、短い誘導時間、例えば、約24時間以下、約16時間以下、または約16時間を含む。特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、低いpH、例えば、約2から約4のpH、または約3のpHを含む。特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、高い通気条件、例えば、振盪フラスコ内でのインキュベーションを含む。特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、最少培地、例えば、酵母抽出物、Bactoペプトン、または両方を欠く培地中でのインキュベーションを含む。
【0017】
特定の実施形態において、第1のベクターは、Yarrowiaゲノムへ組み込まれる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞は、シャペロン、例えば、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼおよび/またはKar2/Bipを発現する。
【0018】
特定の実施形態において、本明細書に提供される組成物は、上記の方法のいずれかによって得られる抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む。特定の実施形態において、標的ポリペプチドを結合する抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含むYarrowia細胞を選択するための方法が提供される。例えば、標的ポリペプチドを結合する抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含むYarrowia細胞は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を表面上にディスプレイする親Yarrowia細胞(例えば、Yarrowia細胞は上記の方法のいずれかによって産生される)を供給し、親Yarrowia細胞を試験ポリペプチドと接触させ、ディスプレイされた抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片が標的ポリペプチドを結合する場合には、その親Yarrowia細胞を選択することによって、選択されてもよい。特定の実施形態において、そのような方法は、選択された親Yarrowia細胞から、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の第1の発現カセットを単離する工程、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列に1つまたは複数の変化を導入して、改変型発現カセットを作製する工程、第1の発現カセットを欠く第2のYarrowia細胞へ改変型発現カセットを導入して、改変型Yarrowia細胞を作製する工程、改変型Yarrowia細胞をある期間、Yarrowia細胞作動条件下でインキュベートする工程、改変型Yarrowia細胞を標的ポリペプチドと接触させる工程、およびその改変型Yarrowia細胞が親Yarrowia細胞より高い親和性またはアビディティで標的ポリペプチドを結合する場合には、それを選択する工程を含む。
【0019】
特定の実施形態において、キットが本明細書に提供される。特定の実施形態において、本明細書に提供されるキットは、上記の発現カセットのいずれかなどの発現カセットを含む。特定の実施形態において、本明細書に提供されるキットは、上記のベクターのいずれかなどのベクターを含む。特定の実施形態において、本明細書に提供されるキットは、Yarrowia細胞を含む。特定の実施形態において、本明細書に提供されるキットは、発現カセット、ベクター、または両方を用いるための書面による使用説明書を含む。
【0020】
他に定義がない限り、本明細書に用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明に用いるために、本明細書に記載されている;当技術分野において知られた他の適切な方法および材料もまた用いることができる。材料、方法、および例は、例証となるのみであり、限定することを意図されない。本明細書で言及された全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース登録、および他の参考文献は、全体として参照により組み入れられている。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先するものとする。
【0021】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、scFv断片およびFab断片のYarrowia lipolyticaディスプレイに用いられる発現プラスミドおよび発現カセットの概略図である。図1Aは、ランダムな組込みのためのYarrowia発現プラスミドの構成要素およびマップを示す。標的遺伝子の発現は、誘導性pPOX2プロモーターによって駆動される。完全に相補された株の作製を可能にするために異なる形質転換マーカーが利用可能である(Leu2、Ade2、Ura3)。このプラスミドを、異なる抗体断片をクローニングするための鋳型として用いた。図1Bは、AGA1、scFv断片、およびFab断片軽鎖ck1ドメインの可溶性発現のための発現カセットを示す。合成カセットを、Yarrowia発現プラスミドへ、示された制限部位を用いてクローニングした。軽鎖可変ドメインは、生じたプラスミドへ別個にクローニングされ、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域を含有する完全長Fab軽鎖断片(VL−Ck1)のディスプレイプラスミドを作製することができる。図1Cは、Yarrowia発現プラスミドへ、示された制限部位を用いてクローニングされたscFv抗体断片を示す。異なる融合様式、かつ異なるアンカー分子を用いてのアンカリングを可能にする、合計4個の合成構築物を作製した。図1Dは、Yarrowia発現プラスミドへ、示された制限部位を用いてクローニングされたFab CH1抗体断片(重鎖定常領域CH1ドメインを含有するFab断片)を示す。異なる融合様式、かつ異なるアンカー分子を用いてのアンカリングを可能にする、合計4個の合成構築物を作製した。重鎖可変ドメインは、生じたプラスミドへ別個にクローニングされ、VHおよび重鎖定常領域CH1ドメインで構成される完全長Fab重鎖(VH−CH1)のディスプレイプラスミドを作製することができる。図1Eは、Yarrowia lipolytica細胞の表面上で発現するように、適切なアンカーポリペプチドを伴ったscFv断片およびFab断片のそれぞれから発現する様々なポリペプチドの共形質転換ストラテジーおよび概略図を示す。
【図2】図2は、FALCON培養および振盪フラスコ(SF)培養(86%)の両方について、最少補充培地(MM)およびリッチな培地(RM)中、20℃で20時間、誘導されたYarrowia lipolytica細胞におけるc−Mycタグ付きscFv発現を示す、一連の1次元蛍光フローサイトメトリー(FFC)ヒストグラムである。細胞をまた、振盪フラスコ内、MM中、28℃で増殖させた。上部のパネルは、c−Mycタグ付きscFv断片についてのFFCヒストグラムを示し、一方、下部パネルは、完全なサイズのモノクローナルのHerceptin抗体を発現する株1T2についてのFFCヒストグラムを示す。蛍光を、下記の実施例1に記載されているように検出した。網掛けヒストグラムは、自己蛍光を示し(陰性対照)、一方、実線はc−myc発現を表す。
【図3】図3は、様々な時間量で誘導されたYarrowia lipolytica細胞におけるc−Mycタグ付きscFv発現を示す、一連の1次元FFCヒストグラムである。そのヒストグラムは、Yarrowia lipolytica細胞におけるc−Mycタグ付きscFvの表面ディスプレイレベルへの誘導時間の効果を示す。細胞を、16時間、20時間、24時間、32時間、および43時間、増殖させた。c−Mycを発現する細胞の相対的割合は、誘導時間が長くなるにつれて減少した(24時間後54%、32時間後19%、および43時間後7%)。蛍光を、実施例1に記載されているように検出した。網掛けヒストグラムは、自己蛍光を示し(陰性対照)、一方、実線はc−myc発現を表す。
【図4】図4は、Yarrowia lipolytica細胞におけるc−Mycタグ付きscFvの表面ディスプレイレベルへのpHの効果を示す、一連の1次元FFCヒストグラムである。細胞を、pH6.8、pH5、およびpH3で、24時間(上部パネル)および32時間(下部パネル)、増殖させた。左側のパネルは、表面上にscFvを発現していない細胞のバックグラウンド蛍光を示す。右側のパネルは、表面上にscFvを発現している細胞の蛍光を示す。蛍光を、実施例1に記載されているように検出した。
【図5】図5は、2つの異なるc−Mycタグ付きscFv断片:4−4−20 scFv(「4−4−20 scFv」表示の下のグラフ)およびherceptin scFv(「herceptin scFv」表示の下のグラフ)の表面発現を示す、一連の1次元FFCヒストグラムである。S.cerevisiae Sag1pのC末端部分(320個のC末端アミノ酸)へのN末端融合(「A1」と表示された行におけるヒストグラム)、S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合(「A2」と表示された行におけるヒストグラム)、Yarrowia lipolytica CwpIpのC末端部分(110個のC末端アミノ酸)へのN末端融合(「A3」と表示された行におけるヒストグラム)、およびAga2pへのC末端融合(「A4」と表示された行におけるヒストグラム)としてのscFv断片のディスプレイを可能にする、合計4個のディスプレイプラスミドを作製した。scFv断片は抗原を結合することができた(「リガンド結合」と表示された列におけるパネル)。リガンド結合検出について、ビオチン化抗原を、ストレプトアビジン−フィコエリトリンで検出した。蛍光を、実施例1に記載されているように検出した。各グラフについて、網掛けヒストグラムは、自己蛍光を示す(陰性対照)。実線は、各列の上に示されているように、c−myc発現またはリガンド結合を表す。
【図6】図6は、c−Mycタグ付き4−4−20 scFv融合タンパク質か(図6A)、またはc−Mycタグ付き4−4−20重鎖および軽鎖の融合タンパク質か(図6B)のいずれかを発現する細胞の一連の免疫蛍光顕微鏡写真である。発現を、抗c−Myc抗体で染色することによって検出した。
【図7】図7は、2つの異なるc−Mycタグ付きFab断片:4−4−20 Fab(「4−4−20 Fab」の見出しの下のヒストグラム)およびherceptin Fab(「herceptin Fab」の見出しの下のヒストグラム)の表面発現を示す、一連の1次元FFCヒストグラムである。S.cerevisiae Sag1pのC末端部分(320個のC末端アミノ酸)へのN末端融合(「A1」と表示された行におけるヒストグラム)、S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合(「A2」と表示された行におけるヒストグラム)、Yarrowia lipolytica CwpIpのC末端部分(110個のC末端アミノ酸)へのN末端融合(「A3」と表示された行におけるヒストグラム)、およびAga2pへのC末端融合(「A4」と表示された行におけるヒストグラム)としてのFab重鎖断片のディスプレイを可能にする、合計4個のディスプレイプラスミドを作製した。Fab軽鎖は、可溶性断片として発現した。重鎖(HC)および軽鎖(LC)発現を検出した。リガンド結合検出について、ビオチン化抗原を、ストレプトアビジン−フィコエリトリンで検出した。蛍光を、実施例1に記載されているように検出した。各グラフについて、網掛けヒストグラムは、自己蛍光を示す(陰性対照)。実線は、各列の上に示されているように、c−myc発現(アンカー型重鎖断片発現を示す)、V5発現(軽鎖発現を示す)、またはリガンド結合を表す。
【図8】図8は、Herceptin Fabの表面発現を示す、一連の1次元FFCヒストグラムである。重鎖は、S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合であった。軽鎖は、可溶性発現であった。重鎖(HC)および軽鎖(LC)を個々に検出した(それぞれ、「HC」および「LC」と表示された行におけるヒストグラム)。2色のFACS分析を用いたHCおよびLCの同時標識(「HC+LC」と表示された行におけるヒストグラム)により、個々の酵母細胞の表面上での両方の鎖の対形成が示された。蛍光を、実施例1に記載されているように検出した。網掛けヒストグラムは、自己蛍光を示し(陰性対照)、一方、実線は、示されているように、HC発現かまたはLC発現のいずれかを表す。
【図9】図9は、Her−scFv発現およびHer−Fab発現へのシャペロンの効果を示す1組の棒グラフである。WT=野生型。TEF PD=TEFプロモーターの調節下で発現したPDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)。POX2 HACI=POX2プロモーターの調節下で発現したHACI(UPR(小胞体ストレス応答)を誘導した転写因子)。
【図10】図10は、ディスプレイされたHerceptin scFvについての用量反応曲線を示す、一連の線グラフである。3つの独立した力価測定(titration)が示されている。preA1−Herceptin scFv=S.cerevisiae Sag1pのC末端の320個のアミノ酸へのN末端融合として融合し、かつLip2preリーダー配列と共に発現したHerceptin scFv。preproA1−Herceptin scFv=S.cerevisiae Sag1pのC末端の320個のアミノ酸へのN末端融合として融合し、かつLip2preproリーダー配列と共に発現したHerceptin scFv。preA2−Herceptin scFv=S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合として融合し、かつLip2preリーダー配列と共に発現したHerceptin scFv。「[Ag]」=HER2−Fcキメラタンパク質(抗原)濃度。Y軸は、結合割合を示し、その結合割合は、MFI/(MFImax−MFImin)として計算され、標準化され、パーセンテージとして表される。計算されたkDは、各力価測定曲線について示されている。
【図11】図11は、ディスプレイされたscFvのD1.3および変異体M3(それぞれ、鶏卵リゾチーム(HEL)を認識する)についての用量反応曲線を示す1組の線グラフである。M3は、D1.3より2倍高い、鶏卵リゾチームに対する親和性を有する。ディスプレイされたポリペプチドは、Sag1p融合ポリペプチド(「preA1 D1.3 対 M3」と表示された線グラフ)およびAga2p融合ポリペプチド(「preA2 D1.3 対 M3」と表示された線グラフ)として発現した。D1.3またはM3をディスプレイする細胞を、様々な濃度のビオチン化鶏卵リゾチーム(nMでの濃度を示すX軸)とインキュベートした。計算されたkDは各力価測定曲線に示されている。
【図12】図12は、Yarrowia lipolyticaを形質転換するために用いられる複製型ベクターの概略図である。複製型ベクターを、pPOX2プロモーターによって駆動されるscFv−AGA2発現カセット、および複製増殖のためのARS18を含有するように構築した。
【図13】図13は、ゼータに基づいた組込み型プラスミド(図13A)または複製型プラスミド(図13B)で形質転換されたYarrowia lipolytica細胞におけるscFv−AGA2の細胞表面発現を示す1組のヒストグラムである。複製型プラスミドについてのデータは、10個のクローンの平均を表す。複製型ベクターで形質転換された細胞を、非選択条件下および選択条件下で増殖させた。(「FL2−H」と表示された)X軸は、フィコエリトリン連結型二次抗体を用いてチャネル2において記録されたc−myc蛍光シグナルを示す。(「カウント」と表示された)Y軸は、細胞の数を示す。
【図14A】図14は、単一のc−Mycタグ付き完全長トラスツズマブ(herceptin)IgGの表面発現を示す、一連の1次元FFCヒストグラムである。S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合としてのIgG重鎖(「A2」と表示された行におけるヒストグラム)、およびAga2pへのC末端融合としてのIgG重鎖(「A4」と表示された行におけるヒストグラム)のディスプレイを可能にする、合計2個のディスプレイプラスミドを作製した。IgG軽鎖は、可溶性断片として発現した。重鎖(HC)および軽鎖(LC)の発現を検出した。蛍光を、実施例1に記載されているように検出した。図14Aは、c−mycおよびV5の発現を示すドットブロットである。明らかに、全ての細胞が、AGA2へのN末端融合およびC末端融合の両方について、完全長重鎖および軽鎖の発現を同時に示している。非標識細胞は、そのエピトープタグの検出を示していない。図14B:網掛けヒストグラムは、両方の融合についてのc−mycおよびV5の発現を示す。herceptin Fabディスプレイについて観察されたことと類似して、重鎖がAGA2アンカーのC末端に融合している細胞について、N末端融合と比較して、ディスプレイ効率の劇的な向上を(点線によって示されているように)観察することができる。図14Cは、発現したHCおよびLCの概略図を示す。
【図14B】図14は、単一のc−Mycタグ付き完全長トラスツズマブ(herceptin)IgGの表面発現を示す、一連の1次元FFCヒストグラムである。S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合としてのIgG重鎖(「A2」と表示された行におけるヒストグラム)、およびAga2pへのC末端融合としてのIgG重鎖(「A4」と表示された行におけるヒストグラム)のディスプレイを可能にする、合計2個のディスプレイプラスミドを作製した。IgG軽鎖は、可溶性断片として発現した。重鎖(HC)および軽鎖(LC)の発現を検出した。蛍光を、実施例1に記載されているように検出した。図14Aは、c−mycおよびV5の発現を示すドットブロットである。明らかに、全ての細胞が、AGA2へのN末端融合およびC末端融合の両方について、完全長重鎖および軽鎖の発現を同時に示している。非標識細胞は、そのエピトープタグの検出を示していない。図14B:網掛けヒストグラムは、両方の融合についてのc−mycおよびV5の発現を示す。herceptin Fabディスプレイについて観察されたことと類似して、重鎖がAGA2アンカーのC末端に融合している細胞について、N末端融合と比較して、ディスプレイ効率の劇的な向上を(点線によって示されているように)観察することができる。図14Cは、発現したHCおよびLCの概略図を示す。
【図14C】図14は、単一のc−Mycタグ付き完全長トラスツズマブ(herceptin)IgGの表面発現を示す、一連の1次元FFCヒストグラムである。S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合としてのIgG重鎖(「A2」と表示された行におけるヒストグラム)、およびAga2pへのC末端融合としてのIgG重鎖(「A4」と表示された行におけるヒストグラム)のディスプレイを可能にする、合計2個のディスプレイプラスミドを作製した。IgG軽鎖は、可溶性断片として発現した。重鎖(HC)および軽鎖(LC)の発現を検出した。蛍光を、実施例1に記載されているように検出した。図14Aは、c−mycおよびV5の発現を示すドットブロットである。明らかに、全ての細胞が、AGA2へのN末端融合およびC末端融合の両方について、完全長重鎖および軽鎖の発現を同時に示している。非標識細胞は、そのエピトープタグの検出を示していない。図14B:網掛けヒストグラムは、両方の融合についてのc−mycおよびV5の発現を示す。herceptin Fabディスプレイについて観察されたことと類似して、重鎖がAGA2アンカーのC末端に融合している細胞について、N末端融合と比較して、ディスプレイ効率の劇的な向上を(点線によって示されているように)観察することができる。図14Cは、発現したHCおよびLCの概略図を示す。
【図15】図15は、scFv親和性成熟スクリーニングから単離されたクローンのうちの2個(クローン13およびクローン38)についての用量反応曲線を示す線グラフである。Kdを、平衡力価測定曲線から決定し、野生型D1.3のKdと比較した。Kd値は、クローン13およびクローン38について、それぞれ、2.2nMおよび1.8nMであることが決定された。これは、野生型Kd(4.0nM)と比較して、それぞれ、1.8倍および2.4倍の向上を表し、M3変異体についてと同じ範囲内にある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
特定の実施形態の説明
酵母細胞の表面上にポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)をディスプレイするのに用いる方法および組成物が本明細書に提供される。本明細書に開示された様々な方法および組成物と共に用いることができる例示的な酵母として、Yarrowia属の酵母、例えば、Yarrowia lipolytica(Yl)が挙げられる。
【0024】
抗体ポリペプチドおよび抗体ポリペプチド断片
様々な抗体ポリペプチドまたはその断片のいずれもを、本明細書に記載された方法および組成物に従って、酵母細胞の表面上に発現させることができる。
【0025】
「抗体ポリペプチド」とは、その用語が本明細書で用いられる場合、免疫グロブリン重鎖ポリペプチドおよび/または免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド、またはそれらに由来するポリペプチドを指す。当技術分野において知られているように、野生型IgG抗体は、一般的に、2つの同一の重鎖ポリペプチドおよび2つの同一の軽鎖ポリペプチドを含む。所定の抗体は、α、δ、ε、γ、およびμ(それらの分類は、重鎖定常領域のアミノ酸配列に基づいている)と呼ばれる5つの型の重鎖のうちの1つを含む。ヒトにおいては、α定常領域の2つのサブタイプおよびγ定常領域の4つのサブタイプがある。これらの異なる型の重鎖が、それぞれ、IgA(IgA1およびIgA2のサブクラスを含む)、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4のサブクラスを含む)、およびIgMという5つのクラスの抗体を生じる。所定の抗体はまた、κまたはλ(それらの分類は、軽鎖定常ドメインのアミノ酸配列に基づいている)と呼ばれる2つの型の軽鎖のうちの1つを含む。特定の実施形態において、本明細書に開示された方法は、酵母、例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia株の細胞表面上に抗体ポリペプチドの発現をもたらす。特定の実施形態において、完全長重鎖、完全長軽鎖、または両方が酵母において発現する。特定の実施形態において、完全長重鎖の断片、完全長軽鎖の断片、またはその両方が酵母において発現する。
【0026】
「抗体断片」または「抗体ポリペプチド断片」とは、その用語が本明細書で用いられる場合、上記で定義されているような完全長抗体ポリペプチドを含まないが、依然として完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部を含む、抗体ポリペプチド分子に由来するポリペプチドを指す。抗体ポリペプチド断片は、完全長抗体ポリペプチドの切断された部分を含むポリペプチドを含むことが多いが、その用語は、そのような切断された断片に限定されない。本明細書で用いられる場合、抗体ポリペプチド断片は、抗体ポリペプチド(例えば、重鎖抗体ポリペプチドまたは軽鎖抗体ポリペプチド)に由来する単一のポリペプチド鎖を含む断片を包含するので、抗体ポリペプチド断片がそれ自体では抗原を結合しない場合があることは理解されているであろう。例えば、抗体ポリペプチド断片は、Fab断片に含有される、重鎖抗体ポリペプチドの部分を含んでもよい;そのような抗体ポリペプチド断片は、典型的には、それが軽鎖抗体ポリペプチドに由来する別の抗体ポリペプチド断片(例えば、Fab断片に含有される、軽鎖抗体ポリペプチドの部分)と会合して、抗原結合部位が再構成されない限り、抗原を結合しないであろう。抗体ポリペプチド断片には、例えば、Fab断片、F(ab’)断片、scFv(一本鎖Fv)断片、Fv断片、ダイアボディ(diabody)、直鎖抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、および多重特異性抗体(例えば、ダイアボディ、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody))などの多重特異性抗体断片、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディ(tribody)またはバイボディ(bibody)、イントラボディ(intrabody)、ナノボディ(nanobody)、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を挙げることができる。「抗体断片」または「抗体ポリペプチド断片」は、「抗原結合性抗体断片」および「抗原結合性抗体ポリペプチド断片」を含むことは認識されているであろう。例えば、米国特許第7,422,890号、第7,422,742号、および第7,390,884号(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)を参照されたい。
【0027】
「ヒト化抗体ポリペプチド」とは、その用語が本明細書で用いられる場合、可変領域における重鎖ポリペプチドおよび/または軽鎖ポリペプチドの非ヒト(例えば、マウス、ラット、またはハムスター)相補性決定領域(CDR)と1つまたは複数のヒト可変領域(軽鎖および/または重鎖)フレームワーク領域、ならびにヒト重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域を含むように操作された抗体ポリペプチドを指す。特定の実施形態において、ヒト化抗体は、CDR領域を除いて、完全にヒトである配列を含む。ヒト化抗体は、典型的には、非ヒト化抗体と比べて、ヒトに対する免疫原性が低く、したがって、治療的適用においていくらかの利益をもたらす。当業者はヒト化抗体を知っているであろうし、ヒト化抗体ポリペプチドを作製するための適切な技術もまた知っているであろう。例えば、米国特許第7,442,772号、第7,431,927号、第6,872,392号、および第5,585,089号(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)を参照されたい。
【0028】
「キメラ抗体ポリペプチド」とは、その用語が本明細書で用いられる場合、少なくとも1つのヒト定常領域を含むように操作された抗体ポリペプチドを指す。重鎖および/または軽鎖は、ヒト定常領域を有し得る。キメラ抗体は、典型的には、非キメラ抗体と比べて、ヒトに対する免疫原性が低く、したがって、治療的適用においていくらかの利益をもたらす。当業者はキメラ抗体を知っているであろうし、キメラ抗体ポリペプチドを作製するための適切な技術もまた知っているであろう。例えば、米国特許第7,442,772号、第7,431,927号、第6,872,392号、および第5,585,089号(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)を参照されたい。
【0029】
特定の実施形態において、発現した抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片は、ヒト抗体ポリペプチドまたは断片である。特定の実施形態において、発現した抗体ポリペプチドまたはその断片は、非ヒト抗体ポリペプチドまたはその断片、例えば、マウスまたはラットの抗体ポリペプチドまたはその断片である。特定の実施形態において、発現した抗体ポリペプチドまたはその断片は、それがヒト重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域を含有する点においてキメラである。特定の実施形態において、発現した抗体ポリペプチドまたはその断片は、それが可変領域において、重鎖および/または軽鎖の非ヒト(例えば、マウス、ラット、またはハムスター)相補性決定領域(CDR)と共に、1つまたは複数のヒトフレームワーク領域を含有する点においてヒト化されている。
【0030】
特定の実施形態において、酵母細胞の表面上に発現する抗体ポリペプチドは、抗体の重鎖ポリペプチドを含む。特定の実施形態において、重鎖ポリペプチドの断片、例えば、Fab断片内(例えば、VH−CH1)、Fv断片内、またはscFv断片内に含有される重鎖ポリペプチドの部分が、酵母細胞の表面上に発現する。特定の実施形態において、酵母細胞の表面上に発現する抗体ポリペプチドは、重鎖定常領域の全部または一部、例えば、Fc領域、ヒンジ領域などを含む。特定の実施形態において、酵母細胞の表面上に発現する抗体ポリペプチドは、重鎖定常領域を欠く。特定の実施形態において、酵母細胞の表面上に発現する抗体ポリペプチドは、重鎖定常領域の一部、例えば、Fc領域を欠く。
【0031】
特定の実施形態において、酵母細胞の表面上に発現する抗体ポリペプチドは、抗体の軽鎖ポリペプチドを含む。特定の実施形態において、軽鎖ポリペプチドの断片、例えば、Fv断片またはscFv断片が、酵母細胞の表面上に発現する。特定の実施形態において、酵母細胞の表面上に発現する抗体ポリペプチドは、軽鎖定常領域を含む。特定の実施形態において、酵母細胞の表面上に発現する抗体ポリペプチドは、軽鎖定常領域を欠く。
【0032】
特定の実施形態において、抗体ポリペプチド断片は、Fab断片、F(ab’)断片、Fv断片、ダイアボディ、直鎖抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、もしくは多重特異性抗体(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの多重特異性抗体断片、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディもしくはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、またはVHH含有抗体の部分であるアミノ酸鎖を含むポリペプチドである。特定の実施形態において、抗体ポリペプチド断片は、scFv断片である。
【0033】
特定の実施形態において、重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片と軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の両方が、酵母細胞の表面上に発現する。例えば、完全な重鎖抗体ポリペプチドおよび完全な軽鎖抗体ポリペプチドが、本明細書に記載された酵母(例えば、Yarrowia lipolytica)のいずれかにおいて発現してもよい。別の例として、Fab断片内、Fv断片内、またはscFv断片内に含まれる重鎖抗体ポリペプチドの部分が、Fab断片内、Fv断片内、またはscFv断片内に含まれる軽鎖抗体ポリペプチドの部分と共に酵母において発現してもよい。当業者によって理解されているように、重鎖抗体ポリペプチドおよび軽鎖抗体ポリペプチド(またはそれらの抗体ポリペプチド断片)が酵母細胞の表面上に発現する場合、そのような抗体ポリペプチドまたは断片は、機能しうる抗原結合性分子を再構成するようにお互いに会合することができる。
【0034】
特定の実施形態において、重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片は、第1の接合型の第1の一倍体酵母細胞の表面上に発現し、軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片は、第2の接合型の第2の一倍体酵母細胞の表面上に発現し、第1の一倍体酵母細胞と第2の一倍体酵母細胞が接合して、二倍体酵母細胞を生じる。逆に、軽鎖抗体ポリペプチドまたはその断片は、第1の接合型の第1の一倍体酵母細胞の表面上に発現し、重鎖抗体ポリペプチドまたはその断片は、第2の接合型の第2の一倍体酵母細胞の表面上に発現し、第1の一倍体酵母細胞と第2の一倍体酵母細胞が接合して、二倍体酵母細胞を生じる。そのような接合の結果として生成されたそのような二倍体酵母細胞は、重鎖抗体ポリペプチドおよび軽鎖抗体ポリペプチド(またはそれらの抗体ポリペプチド断片)を発現するであろう。酵母接合型は当技術分野において知られている。例えば、一倍体の形をとる場合、S.cerevisiaeは、2つの接合型:MATAおよびMATBのうちの1つとして存在する。さらに、MATA接合型Yarrowia lipolytica細胞を、MATB接合型へと操作することができる。一倍体MATA酵母細胞およびMATB酵母細胞は、お互いに接合して、二倍体酵母細胞を形成することができる。当業者は、接合することができる酵母種を知っているであろうし、適切な接合型も知っているであろう。
【0035】
特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現する一倍体酵母細胞は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードする核酸配列を含むベクターまたは発現カセット(「発現カセットおよびベクター」と題するセクションを参照)で一倍体酵母細胞を形質転換することによって作製することができる。あるいは、抗体ポリペプチドまたはその断片を発現する一倍体酵母細胞は、抗体ポリペプチドまたはその断片をコードする核酸配列を含むベクターで二倍体酵母細胞を形質転換し、形質転換された二倍体酵母細胞を胞子形成させて、一倍体酵母細胞を生成させることにより、作製することができる。
【0036】
特定の実施形態において、重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片と軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の両方は、2つのベクターまたは発現カセット:重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードする核酸配列を含む第1のベクターまたは発現カセット、および軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードする核酸配列を含む第2のベクターまたは発現カセットで一倍体酵母細胞を形質転換することによって酵母細胞の表面上に発現する。特定の実施形態において、重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片と軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の両方は、単一のベクターで一倍体酵母細胞を形質転換することによって酵母細胞の表面上に発現し、そのベクターは、重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片および軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードする核酸配列を含む発現カセットを含む。そのような酵母細胞は一倍体かまたは二倍体のいずれでもあり得る。
【0037】
特定の実施形態において、酵母細胞の表面上に発現する重鎖抗体ポリペプチドもしくは抗体ポリペプチド断片および/または軽鎖抗体ポリペプチドもしくは抗体ポリペプチド断片は、アンカーポリペプチド(下記の「アンカーポリペプチド」と題するセクションを参照)を含む融合ポリペプチドである。抗体ポリペプチドまたは断片をそれの重鎖抗体ポリペプチドまたは断片を介してアンカリングすることが典型的であるが、軽鎖抗体ポリペプチドまたは断片を介してのアンカリングもまた可能である。例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられた、Linら、App.Microbiol Biotechol、2003、Aug;62(2−3):226−32を参照されたい。特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたはその断片の重鎖のみがアンカーポリペプチドに融合している。特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたはその断片の軽鎖のみがアンカーポリペプチドに融合している。特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたはその断片の重鎖と抗体ポリペプチドまたはその断片の軽鎖の両方がアンカーポリペプチドに融合している。特定の実施形態において、アンカーポリペプチドは、融合ポリペプチドのアミノ末端で融合している。特定の実施形態において、アンカーポリペプチドは、融合ポリペプチドのカルボキシ末端で融合している。
【0038】
特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片は、本明細書に開示された様々な方法のいずれかによって得られる。そのような抗体ポリペプチドまたはその断片は、細胞の一部として得られてもよい。あるいは、抗体ポリペプチドまたはその断片は、それが発現した後、細胞から精製されてもよい。ポリペプチドを精製するための標準技術を用いてもよい。
【0039】
目的のポリペプチドを発現する酵母細胞は、当業者に知られた様々な方法のいずれかによって検出およびスクリーニングすることができる。例えば、FACS(蛍光細胞分析分離装置)を用いることができる。FACSにおいて、酵母細胞を、目的のポリペプチドを結合する標識化作用物質(例えば、本開示の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片によって結合される抗原)と接触させる。検出可能である限り、いずれの標識も用いることができる。適切な標識として、非限定的に、蛍光部分、化学発光部分などが挙げられる。当業者は適切な標識を知っているであろう。特定の実施形態において、作用物質は、間接的標識で標識され、これは、間接的標識に結合する検出可能に標識された作用物質(例えば、蛍光部分または化学発光部分)との結合によって検出することができる。様々な間接的標識が当技術分野において知られており、それらには、ビオチン(アビジンまたはストレプトアビジンによって結合され得る)、エピトープタグ(例えば、本明細書に記載されたエピトープタグのいずれか)などが挙げられるが、それらに限定されない。エピトープタグは、特定のエピトープタグに特異的な標識抗体またはその断片を用いて検出することができる。あるいは、エピトープタグは、特定のエピトープタグに特異的な第1の抗体またはその断片と結合させ、標識された第2の抗体またはその断片で第1の抗体または断片を検出することによって検出することができる。その後、酵母細胞を細胞ソーターに通して、細胞を分離し、標識化作用物質が各個々の細胞と会合しているか否かを決定する。蛍光を示す細胞が、それらの表面上に目的のポリペプチドを発現している。あるいは、目的の抗体ポリペプチドまたは断片に結合する作用物質(例えば、抗原)でコーティングされたプレート上で細胞を「パニング」してもよい。あるいは、目的の抗体ポリペプチドまたは断片に結合する作用物質(例えば、抗原)に連結されている固体支持体(例えば、ビーズ)に細胞を結合させてもよい。その後、固体支持体を(例えば、遠心分離、支持体が常磁性である場合には磁気的取り出しなどにより)単離することができる;固体支持体に結合した任意の細胞がそれらの表面上に目的のポリペプチドを発現している。当業者は、表面上に目的のポリペプチドを発現する酵母細胞を同定および単離するための他の適切な方法を知っているであろう。例えば、YeungおよびWittrup、Biotechnol.Prog.、Mar−Apr;18(2):212−20、2002;Ackermanら、Biotechnol.Prog.、May−Jun;25(3):774−83、2009;Wangら、J.Immunol.Methods、Sep;304(1−2):30−42、2005;およびChaoら、Nat.Protoc.、1(2):755−68、2006(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)を参照。
【0040】
当業者は、本明細書に記載された方法および組成物に従って、酵母(例えば、Yarrowia lipolytica)細胞の表面上に発現させることができる他の抗体ポリペプチドおよび断片を知っているであろう。
【0041】
アンカーポリペプチド
本明細書に記載された方法および組成物に従って酵母細胞の表面上にポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)を発現させるために、様々なアンカーポリペプチドのいずれかを用いることができる。
【0042】
「アンカーポリペプチド」とは、その用語が本明細書で用いられる場合、細胞の表面に繋ぎ止められているポリペプチドであって、したがって、他のポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)を細胞の表面に繋ぎ止めるために用いることができるポリペプチドを指す。例えば、アンカーポリペプチドは、膜貫通タンパク質、または例えば、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)細胞壁タンパク質などの細胞壁タンパク質であってもよい。様々なアンカーポリペプチドが当技術分野において知られており、酵母の表面上にポリペプチドを発現させるための本明細書に開示された組成物および方法に従って用いることができる。そのようなアンカーペプチドには、S.cerevisiae Aga1−Aga2(接合型A凝集素遺伝子)ヘテロダイマー、S.cerevisiae α−凝集素(Sag1p)、Pir1p、Pir2p、Pir4p、Flo1p、Yarrowia CWPI、およびその断片が挙げられるが、それらに限定されない(例えば、Uedaら、J.Biosci.Bioeng.90:125−36、2000;Abe,H.、Shimmaら、Pir.Glycobiology 13、87−95、2003;Andres,I.ら、Biotechnol Bioeng 89、690−7、2005;Wang,Q.ら、Curr.Microbiol.56、352−7、2008;Tanino,Tら、Biotechnol.Prog.22、989−93、2006;Yueら、J.Microbiol.Methods.2008 Feb;72(2):116−23参照;それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。
【0043】
特定の実施形態において、アンカーポリペプチドは、酵母細胞の表面、例えば、Yarrowia lipolytica細胞の表面に、目的のポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)を繋ぎ止めるために用いられる。例えば、アンカーポリペプチドと目的のポリペプチドの両方が細胞表面上に発現するように、アンカーポリペプチドは、目的のポリペプチドに融合していてもよい。
【0044】
特定の実施形態において、目的のポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)を発現する酵母細胞は、アンカーポリペプチドをコードする第2の核酸配列にインフレームで融合した、目的のポリペプチドをコードする第1の核酸配列を含むベクターまたは発現カセット(「発現カセットおよびベクター」と題するセクションを参照)で酵母細胞を形質転換することによって作製することができる。特定の実施形態において、第1の核酸配列は、第2の核酸配列の5’に融合しており、その結果、その融合配列から産生される融合ポリペプチドは、N末端の目的のポリペプチドおよびC末端のアンカーポリペプチドを含む。特定の実施形態において、第1の核酸配列は、第2の核酸配列の3’に融合しており、その結果、その融合配列から産生される融合ポリペプチドは、N末端のアンカーポリペプチドおよびC末端の目的のポリペプチドを含む。特定の実施形態において、第1の核酸配列は、第2の核酸配列にインフレームで直接、融合している。特定の実施形態において、第1の核酸配列は、リンカー配列に融合しており、そのリンカー配列が、第2の核酸配列に融合している。「発現カセットおよびベクター」と題するセクションにおいてより詳細に記載されているように、リンカー配列は、典型的には、非限定的に、GlySerリンカーポリペプチド、例えば、(Gly4Ser)または(GlySer)などのリンカーポリペプチドをコードする。
【0045】
発現カセットおよびベクター
特定の実施形態において、ポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)は、そのポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現カセットで酵母を形質転換することによって、酵母細胞の表面上に発現する。本明細書で用いられる場合、用語「発現カセット」は、(1)目的のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および(2)目的のポリペプチドの発現を駆動するヌクレオチド配列(例えば、プロモーター)を含む最小限の核酸配列を指す。
【0046】
特定の実施形態において、発現カセットのヌクレオチド配列によってコードされる目的のポリペプチドは、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む。発現カセットは、本明細書に記載された任意の抗体ポリペプチドまたは断片、例えば、抗体ポリペプチド、またはFab断片、Fv断片、もしくはscFv断片に由来する断片をコードするヌクレオチド配列を含んでもよい。特定の実施形態において、目的のポリペプチドは、Fab断片の重鎖である。特定の実施形態において、目的のポリペプチドは、Fab断片の軽鎖である。
【0047】
特定の実施形態において、発現カセットのヌクレオチド配列によってコードされる目的のポリペプチドは、アンカーポリペプチドを含む。発現カセットは、本明細書に記載された任意のアンカーポリペプチド、例えば、S.cerevisiae Aga1−Aga2ヘテロダイマー、S.cerevisiae α−凝集素(Sag1p)、Pir1p、Pir2p、Pir4p、Flo1p、Yarrowia CWPI、およびその断片をコードするヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0048】
特定の実施形態において、発現カセットのヌクレオチド配列によってコードされる目的のポリペプチドは、アンカーポリペプチドにインフレームで融合した抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む。例えば、発現カセットは、抗体ポリペプチドまたは断片をコードする第1のヌクレオチド配列を含むことができ、その第1のヌクレオチド配列は、アンカーポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列にインフレームで融合している。特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたは断片をコードする第1のヌクレオチド配列は、アンカーポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列の5’にインフレームで融合しており、その結果、そのヌクレオチド配列が発現した場合、抗体ポリペプチドまたは断片は、アンカーポリペプチドのN末端側である。特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたは断片をコードする第1のヌクレオチド配列は、アンカーポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列の3’にインフレームで融合しており、その結果、そのヌクレオチド配列が発現した場合、抗体ポリペプチドまたは断片は、アンカーポリペプチドのC末端側である。
【0049】
特定の実施形態において、発現カセットは、介在ヌクレオチド残基がないように、アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列にインフレームで融合している抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む。そのような実施形態において、発現カセットから発現したポリペプチドは、介在アミノ酸残基なしで、アンカーポリペプチドに直接融合した抗体ポリペプチドまたは断片を含むであろう。特定の実施形態において、発現カセットは、リンカーポリペプチドをコードするリンカー配列にインフレームで融合している抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含み、そのリンカー配列は、アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列にインフレームで融合しており、その結果、リンカー配列は、抗体ポリペプチドまたは断片をコードする第1のヌクレオチド配列と、アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列との間にインフレームで融合している。そのような実施形態において、発現カセットから発現するポリペプチドは、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片、リンカーポリペプチド、およびアンカーポリペプチドを含むであろう。この段落に記載された実施形態のいずれにおいても、抗体ポリペプチドまたは断片をコードするヌクレオチド配列は、アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の5’と3’のどちらに融合してもよい。
【0050】
ここに記載されている組成物および方法に従って、様々なリンカーポリペプチドのいずれを用いてもよい。リンカーポリペプチドは、融合ポリペプチド内に含まれる2つの目的のポリペプチドの間のスペーサーとしての役割を果たす。リンカーポリペプチドは、有利には、2つの目的のポリペプチドの機能に干渉しないか、または最小の程度でのみ干渉する。特定の実施形態において、リンカーポリペプチドは、2つの目的のポリペプチドに有意なコンフォメーションの自由をもたらし、その結果、2つの目的のポリペプチドは、お互いに対して様々な空間的位置および配向をとることができる。リンカーポリペプチドの非限定的例は、GlySerリンカーポリペプチド、例えば、(Gly4Ser)(配列番号14)または(GlySer)(配列番号15)である。特定の実施形態において、リンカーポリペプチドは、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の2つの部分の間に位置することができる。例えば、リンカーポリペプチドをコードするリンカー配列は、1)scFv断片の重鎖可変領域をコードする重鎖核酸配列と、2)scFv断片の軽鎖可変領域をコードする軽鎖核酸配列との間にインフレームで融合することができる。特定の実施形態において、目的のポリペプチドは、1つより多いリンカー配列を含む。例えば、融合ポリペプチドは、1)scFv断片の重鎖可変領域ポリペプチドと軽鎖可変領域ポリペプチドとの間に第1のリンカーポリペプチドを含むscFv抗体ポリペプチド断片、2)アンカーポリペプチド、および3)scFv抗体ポリペプチドとアンカーポリペプチドとの間の第2のリンカーポリペプチドを含むことができる。当業者は、他の適切なリンカーポリペプチドおよびそれらをコードするヌクレオチド配列を知っているであろう。
【0051】
特定の実施形態において、発現カセットは、リーダーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むリーダー核酸配列を含む。ここに記載されている組成物および方法に従って、様々なリーダーポリペプチドのいずれでも用いることができる。リーダーポリペプチドは、分泌装置を介したポリペプチドのプロセシングを駆動するのを助ける機能を果たし、最終的には、正しくプロセシングされた、表面にディスプレイされるポリペプチドを生じる。リーダー配列は、プロセシング中にポリペプチドから切断され、完全にプロセシングされたポリペプチドの部分をなさない。当業者によって理解されているように、リーダー核酸配列は、典型的には、目的のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の5’にインフレームで融合しており、その結果、リーダーポリペプチドは、発現した融合ポリペプチドのN末端にある。リーダーポリペプチドの非限定的例には、LIP2 pre、LIP2 prepro、XPR2 pre、およびXPR2 preproが挙げられる。例えば、Pignedeら、J. Bacteriol.、May;182(10):2802−10、2000;Davidowら、J.Bacteriol.、Oct;169(10):4621−9、1987;およびMadzakら、J.Biotechnol.、Apr 8;109(1−2):63−81、2004(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)を参照。当業者は、他の適切なリーダーポリペプチド、およびそれらをコードするヌクレオチド配列を知っているであろう。
【0052】
特定の実施形態において、発現カセットは、エピトープタグをコードするヌクレオチド配列を含むエピトープ核酸配列を含む。ここに記載されている組成物および方法に従って、様々なエピトープタグのいずれを用いてもよい。エピトープタグは、典型的には、発現したポリペプチドの検出、測定、定量化、および/または精製(もしくは単離)を容易にする短いポリペプチド配列である。エピトープタグは、所定のポリペプチド内のどこにでも、例えば、N末端に、C末端に、または内部に、位置してもよい。エピトープタグの非限定的例には、c−Myc(骨髄球腫症細胞性がん遺伝子)、V5(サルウイルス5のPタンパク質およびVタンパク質のC末端配列由来)、ポリヒスチジン(例えば、6−hisまたはヘキサヒスチジン)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ストレプトアビジン、ビオチン、赤血球凝集素、Flag−タグ(FLAGオクタペプチド)、およびE−タグ[GAPVPYPDPLEPR、配列番号13]が挙げられる。当業者は、他の適切なエピトープタグ、およびそれらをコードするヌクレオチド配列を知っているであろう。
【0053】
特定の実施形態において、発現カセットはプロモーターを含む。当技術分野において知られているように、プロモーターは、下流のヌクレオチド配列のリボ核酸(RNA)への転写を駆動するヌクレオチド配列であり、その転写は、様々な転写因子のいずれかを介して媒介される。特定の実施形態において、転写されたRNAは、目的のポリペプチドをコードする。特定の実施形態において、発現カセットは、(2)アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を含む第2の核酸配列にインフレームで融合した、(1)抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸配列を含む融合配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む。
【0054】
有利なプロモーターは、典型的には目的の細胞において機能するものである。例えば、酵母、例えば、非限定的にYarrowia lipolyticaなどのYarrowia種において機能するいくつかのプロモーターが知られている。特定の実施形態において、Yarrowia lipolyticaにおいて機能するプロモーターは、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするRNAの発現を駆動するために用いられる。特定の実施形態において、Yarrowia lipolyticaにおいて機能するプロモーターは、アンカーポリペプチドをコードするRNAの発現を駆動するために用いられる。特定の実施形態において、Yarrowia lipolyticaにおいて機能するプロモーターは、アンカーポリペプチドに融合した抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするRNAの発現を駆動するために用いられる。
【0055】
酵母細胞の表面上に目的のポリペプチドを発現させるために、ここに記載されている組成物および方法に従って、様々なプロモーターのいずれでも用いることができる。特定の実施形態において、ポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)を発現させるために用いられるプロモーターは構成的である。いくつかの構成的プロモーターが当技術分野において知られており、それらには、非限定的に、TEF1プロモーターおよびグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼプロモーターが挙げられる。特定の実施形態において、ポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)を発現させるために用いられるプロモーターは誘導性である。誘導性プロモーターは、実施者が、目的のポリペプチドがいつ発現するかを制御したい場合、有用である。いくつかの誘導性プロモーターが当技術分野において知られており、それらには、非限定的に、POX3プロモーターおよびLIP2プロモーターが挙げられる。特定の実施形態において、ポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)を発現させるために用いられるプロモーターは半構成的(semi−constitutive)である。「半構成的プロモーター」とは、その用語が本明細書に用いられる場合、完全に構成的というわけではないプロモーターであって、特定の遺伝子の発現を、主として特定の条件下で、または特定の条件下でのみ、駆動するプロモーターを指す。例えば、半構成的プロモーターは、増殖相依存性様式で遺伝子発現を駆動する場合がある。いくつかの半構成的プロモーターが当技術分野において知られており、それらには、非限定的に、hp4dプロモーターが挙げられる。当業者は、目的の細胞、例えば、非限定的にYarrowia lipolyticaなどのYarrowia種において機能する、適切な構成的、誘導性、および半構成的プロモーターを知っているであろう。
【0056】
特定の実施形態において、ポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)は、発現カセット、例えば、本明細書に記載された発現カセットのいずれかを含むベクターで酵母を形質転換することによって、酵母細胞の表面上に発現する。「ベクター」とは、その用語が本明細書で用いられる場合、発現カセットを含み、さらに1つまたは複数の追加のエレメントを含む核酸を指す。特定の実施形態において、ベクターは、選択条件下で、ベクターの複製、相同もしくは非相同組込み、および/または維持を促進するエレメントを含む。
【0057】
酵母細胞の表面上に目的のポリペプチドを発現させるために、ここに記載されている組成物および方法に従って、様々なベクターのいずれでも用いることができる。用いることができるベクターの非限定的例には、全体として参照により本明細書に組み入れられた、米国特許公開第2008−0171359号に開示されたものが挙げられる。当業者は、目的の所定の細胞(例えば、酵母細胞)に用いる他の適切なベクターを知っているであろう。さらに、酵母細胞の表面上に目的のポリペプチドを発現させることに用いるために、様々なベクターのいずれでも改変することができる。例えば、市販のベクターまたは他のベクターが所定の酵母種において用いるのに適している場合があるが、そのようなベクターは、(2)アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を含む第2の核酸配列にインフレームで融合した、(1)抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸配列を含む融合配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含まない場合がある。そのようなベクターは、プロモーター、ならびに抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片およびアンカーポリペプチドをコードする核酸配列を含むように改変されてもよい。いくつかの分子技術がベクターを改変するのに適しており、それらの多くは、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.、およびManiatis,T. Molecular Cloning:A Laboratory Manual.第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989(その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられている)に見出すことができる。当業者は、酵母(例えば、Yarrowia lipolytica)細胞の表面上に目的のポリペプチドを発現するのに用いるためにベクターを改変する様々な他の適切な分子技術を知っているであろう。
【0058】
特定の実施形態において、ベクターは、選択マーカーをコードするヌクレオチド配列を含む。「選択マーカー」とは、その用語が本明細書で用いられる場合、選択マーカーを欠く細胞が生存および/または増殖することができない条件下で、選択マーカーを含有する細胞が生存および/または増殖することを可能にするポリペプチドを指す。選択マーカーの用語および概念は、当業者にとって周知である。選択マーカーの非限定的例には、ロイシン(例えば、LEU2)、ウラシル(例えば、URA3d1)、アデニン(例えば、ADE2)、リシン(Lys)、アルギニン(Arg)、グリセロール利用(Gut)、トリプトファン(Trp)、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(G3p)、およびハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hph)についてのマーカーが挙げられる。当業者は、本明細書に開示された組成物および方法に従って用いることができる他の適切なマーカーを知っているであろう。
【0059】
特定の実施形態において、ベクターは、細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)のゲノムへ組み込まれる。ベクターを細胞のゲノムへ組み込むための様々な技術は、当技術分野において知られている。特定の実施形態において、ベクターはゼータエレメントを含む。ゼータエレメントは、Ylt1レトロトランスポゾンを有するY.lipolytica株のゲノムへの相同組換えにより、またはYlt1レトロトランスポゾンを欠く酵母における非相同組換えにより、ベクターが組み込まれるのを可能にする配列である。特定の実施形態において、ゼータエレメントは、非限定的にYlt1またはTyl6レトロトランスポゾンなどの、レトロトランスポゾンの長い末端反復を含む。当業者は、他のエレメントを知っているであろうし、本明細書に開示された組成物および方法に従って、それらをベクターにおいて用いることができるであろう。
【0060】
特定の実施形態において、ベクターは、細胞のゲノムへ組み込まれない。例えば、複製型ベクターを、酵母細胞へ、例えば、形質転換により、導入してもよい。複製型ベクターは、宿主細胞における維持、複製、および/または他の機能のための適切なエレメントを含有する。例えば、ベクターは、1つまたは複数の常染色体複製エレメントを含有してもよい。そのような常染色体複製エレメントの非限定的例には、セントロメア(CEN)および複製起点(ORI)が挙げられる。特定の実施形態において、セントロメアは、CEN1またはCEN3を含む(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Vernis,L.ら、Mol.Cell Biol.17、1995−2004、2007)。特定の実施形態において、複製起点は、ORI1068またはORI3018を含む(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Fournierら、Yeast、Jan;7(1):25−36、1991)。特定の実施形態において、細胞のゲノムへ組み込まれないベクターは、自律複製配列(ARS)を含有してもよい。例えば、Fournierら、Yeast 7、25−36、1991およびMatsuokaら、Mol.Gen.Genet.237、327−333、1993(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)を参照。特定の実施形態において、ARSは、セントロメアおよび複製起点を含む。ARSの非限定的例には、ARS18およびARS18が挙げられる。
【0061】
特定の実施形態において、発現カセットは、アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むアンカー核酸配列に作動可能に連結されたプロモーターを含み、アンカー核酸配列は、目的の第2の融合パートナーを含む融合タンパク質における第1の融合パートナーとして発現することができる。そのような特定の実施形態において、発現カセットは、目的の第2の融合パートナーをコードするヌクレオチド配列を含む別の核酸配列を含む。目的の第2の融合パートナーは、様々なポリペプチドのいずれかであり得る。例えば、目的の第2の融合パートナーは、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片であってもよいが、第2の融合パートナーはそのような抗体ポリペプチドまたは断片に限定されない。第2の融合パートナーはアンカーポリペプチドに融合しているので、第2の融合パートナーもまた細胞の表面上に発現するであろう。特定の実施形態において、この段落で具体化された発現カセットは、目的の第2の融合パートナーの融合を容易にするために制限部位を含む核酸配列を含む。様々な制限部位のいずれでも発現カセットに含むことができる。当業者は、適切な制限部位を知っているであろうし、それらを含む発現カセットを操作することができるであろう。
【0062】
特定の実施形態において、目的のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、そのポリペプチドが発現する生物体(例えば、酵母細胞)において用いるためにコドン最適化されている。コドン最適化は、目的のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が改変されるプロセスであり、ここで、そのヌクレオチド配列は、特定の生物体における発現のために最適化されるが、そのポリペプチドのアミノ酸配列は同じままである。コドンは、細胞により所定のアミノ酸へ翻訳される、3ヌクレオチド配列である。20個の天然にコードされたアミノ酸があるが、3ヌクレオチド配列の64個の可能な組み合わせがあるので、たいていのアミノ酸は、複数のコドンによってコードされている。所定の種において、特定のコドンが同じアミノ酸をコードする他のコドンよりも良好に翻訳される場合が多く、種ごとにそのコドン優先度が異なる。そのため、1つの種由来の遺伝子は、別の種へ導入された場合、あまり発現しない場合がある。この問題を克服する1つの方法は、遺伝暗号の縮重を利用し、目的のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を改変して、そのヌクレオチド配列が目的の種において効率的に用いられるコドンを含有するが、なお同じポリペプチドをコードするようにすることである。どのコドンが、目的の生物体において最も広く用いられているかを決定することは可能である。実際、これは、Yarrowia lipolyticaを含む様々な生物体についてすでに行われている。2,945,919個のコドンに基づいたY.lipolyticaについてのサンプルのコドン最適化チャートは、下記の表1に示されている。当業者は、他の生物体についてのコドン出現頻度を知っているであろうし、それを決定することができるであろう。
【0063】
【表1】

説明:表欄は、[トリプレット][頻度:千個あたり]([数])として示されている。データは、5,967個のコード配列に存在する2,945,919個のコドンから導き出された。表の内容は、URL www.kazusa.or.jp/codon/cgi−bin/showcodon.cgi?species=284591に見出されるCodon Usage Databaseから入手された。
【0064】
特定の実施形態において、下記に示された配列番号1〜12のYarrowia lipolyticaコドン最適化核酸配列のうちの1つまたは複数を含むベクターまたは発現カセットで、発現のためにYarrowia lipolyticaを形質転換することができる。下記のコドン最適化核酸配列のそれぞれの中における関連するコード配列は、太字で、下線を引かれたテキストによって示されている。
【0065】
配列番号1:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化C末端S.cerevisiae SAG1p(320個のC末端アミノ酸)(側面にSfiI/NotI)
【0066】
【数1】

【0067】
【数2】

配列番号2:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化C末端S.cerevisiae AGA2p(側面にSfiI/NotI)
【0068】
【数3】

配列番号3:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化C末端Yarrowia lipolytica CWPI(側面にSfiI/NotI)
【0069】
【数4】

配列番号4:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化N末端Yarrowia lipolytica AGA2(側面にSfiI/NotI)
【0070】
【数5】

【0071】
【数6】

配列番号5:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化Herceptin scFv(側面にSfiI/NotI)
【0072】
【数7】

配列番号6:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化4−4−20 scFv(側面にSfiI/NotI)
【0073】
【数8】

配列番号7:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化抗HEL D1.3 scFv(側面にSfiI/NotI)
【0074】
【数9】

【0075】
【数10】

配列番号8:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化抗HEL M3 scFv(側面にSfiI/NotI)
【0076】
【数11】

配列番号9:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化4−4−20 Fab重鎖(側面にSfiI/NotI)
【0077】
【数12】

配列番号10:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化4−4−20 Fab軽鎖(側面にSfiI/NotI)
【0078】
【数13】

【0079】
【数14】

配列番号11:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化Herceptin Fab重鎖(側面にSfiI/NotI)
【0080】
【数15】

配列番号12:合成Yarrowia lipolyticaコドン最適化Herceptin Fab軽鎖(側面にSfiI/NotI)
【0081】
【数16】

酵母
様々な酵母のいずれも、本明細書に記載された方法および組成物に従って用いることができる。酵母は、真菌の真核生物の微生物である。酵母は主として、単細胞の形で存在するが、いくつかの種、例えば、Yarrowia種は、二相性であり、すなわち、それらは、単細胞または菌糸の形でも存在することができる。さらに、いくつかの種は、「偽性菌糸」として知られた、一続きの連結した出芽細胞の形成を通して多細胞になる。
【0082】
いくつかの酵母は、当業者に知られている。ここに開示されている組成物および方法に従って用いることができる例示的な酵母には、以下が挙げられるが、それらに限定されない:
【0083】
【数17】

当業者は、ここに開示されている組成物および方法に従って用いることができる他の適切な酵母を知っているであろう。
【0084】
特定の実施形態において、本明細書に開示された抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をディスプレイするための組成物および方法に従って用いられる酵母種は、Yarrowia属の酵母である。例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片、例えば、本明細書に記載された抗体ポリペプチドまたは断片のいずれかを、Yarrowia lipolytica酵母細胞の表面上にディスプレイしてもよい。
【0085】
Yarrowia lipolyticaは、好気条件下で、炭化水素を同化し、n−アルカン、植物油、またはグルコースからクエン酸を生成することが知られている、半子嚢菌の酵母の商業的に有用な種である。例えば、Yarrowia lipolyticaは、パーム油工場廃水、TNT、ならびにアルカン、脂肪酸、脂肪、および油などの他の炭化水素を分解することが知られている。Yarrowia lipolyticaは、ほとんどの他の酵母種と遠縁であり、糸状真菌といくつかの共通した性質を共有する。Yarrowia lipolyticaは、一倍体相と二倍体相とを交互にとるという点において単複世代交代型(haplo−diplontic)の周期を有する。
【0086】
特定の実施形態において、酵母細胞は、目的のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むベクターまたは発現カセットで形質転換される。様々な酵母形質転換方法のいずれも、本明細書に開示された組成物および方法に従って用いてもよい。形質転換方法の非限定的例には、熱ショック、エレクトロポレーション、および酢酸リチウム媒介型形質転換が挙げられる。当業者は、酵母を形質転換するのに適した酵母形質転換方法を知っているであろう。
【0087】
増殖条件
特定の実施形態において、酵母細胞(例えば、本明細書に記載された酵母細胞のいずれか)を、培養で増殖または成長させる。例えば、本明細書で「発現カセットまたはベクター」と題するセクションにおいて記載されているような1つまたは複数の発現カセットまたはベクターで形質転換された酵母細胞を、培養で増殖または成長させてもよい。特定の実施形態において、Yarrowia属の酵母、例えば、Yarrowia lipolyticaを培養で増殖または成長させる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、Yarrowia細胞作動条件下で培養する。本明細書で用いられる場合、用語「Yarrowia細胞作動条件」とは、そのYarrowia細胞作動条件下で増殖していないYarrowia細胞と比較して、Yarrowia細胞がその表面上のポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)のディスプレイの向上を示す、増殖条件または培養条件を指す。例えば、Yarrowia細胞作動条件下で増殖したYarrowia細胞は、表面上のポリペプチドのレベルの増加、発現したポリペプチドの安定性、コンフォメーション、もしくは機能の向上、またはポリペプチドの発現が維持する時間の長さの増加を示し得る。
【0088】
特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、低い誘導温度を含む。例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現するためのベクターまたは発現カセットを含むYarrowia細胞を、その細胞培養の一期間または全期間、低い誘導温度で増殖させてもよい。下記の実施例3に記載されているように、フォールディングストレスは、一般的に、低い培養温度で減少する。したがって、フォールディングストレスおよび他の有害なプロセスは、そのようなYarrowia細胞を低い誘導温度で増殖させることによって、減少または排除される可能性がある。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、摂氏約15度から約25度の範囲、例えば、摂氏約15度から約24度、摂氏約15度から約23度、摂氏約15度から約22度、摂氏約15度から約21度、摂氏約15度から約20度、摂氏約16度から約25度、摂氏約17度から約25度、摂氏約18度から約25度、摂氏約19度から約25度、摂氏約20度から約25度、およびその間にある任意の範囲の誘導温度で増殖させる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、摂氏約15度、摂氏約16度、摂氏約17度、摂氏約18度、摂氏約19度、摂氏約20度、摂氏約21度、摂氏約22度、摂氏約23度、摂氏約24度、または摂氏約25度の誘導温度で増殖させる。「約」とは、その用語が温度に関して本明細書で用いられる場合、所定の温度の値付近の範囲を指す。一般的に、所定の温度の値に関して用いられる場合、用語「約」とは、その値の+/−10%内、例えば、その値の+/−9%内、その値の+/−8%内、その値の+/−7%内、その値の+/−6%内、その値の5%内、その値の+/−4%内、その値の+/−3%内、その値の+/−2%内、その値の+/−1%内、またはその値の+/−1%以下内の値の範囲を指す。所定の温度の値に関して用いられる場合、用語「約」は、例えば、実験誤差内で決定されたような、その正確な値を包含する。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、細胞培養の一期間(例えば、初期)中、高い誘導温度または温度範囲で増殖させるが、細胞培養の異なる一期間(例えば、終期)中、低い誘導温度または温度範囲で増殖させる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、目的のポリペプチドが発現しているとき、細胞培養のその一期間中、低い誘導温度または温度範囲で増殖させる。例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列は、誘導性プロモーターに作動可能に連結されてもよく、プロモーターが抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現するように誘導されるとき、細胞培養のその一期間中、Yarrowia細胞を低い誘導温度または温度範囲で増殖させてもよい。
【0089】
特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、短い誘導時間を含む。例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現させるためのベクターまたは発現カセットを含むYarrowia細胞を、短い誘導時間の間、細胞培養で増殖させてもよい。下記の実施例4に記載されているように、短い誘導時間によって、抗体ポリペプチド断片の発現レベルの増加がもたらされた。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間の誘導時間の間、またはこれらの値の間の任意の誘導時間の間、増殖させる。「約」とは、その用語が誘導時間の値に関して本明細書で用いられる場合、所定の値付近の範囲を指す。一般的に、所定の誘導時間の値に関して用いられる場合、用語「約」とは、その値の+/−10%内、例えば、その値の+/−9%内、その値の+/−8%内、その値の+/−7%内、その値の+/−6%内、その値の5%内、その値の+/−4%内、その値の+/−3%内、その値の+/−2%内、その値の+/−1%内、またはその値の+/−1%以下内の値の範囲を指す。所定の誘導時間の値に関して用いられる場合、用語「約」は、例えば、実験誤差内で決定されたような、その正確な値を包含する。
【0090】
特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、低いpHを含む。例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現させるためのベクターまたは発現カセットを含むYarrowia細胞を、その細胞培養の一期間または全期間、低いpHで増殖させてもよい。下記の実施例5に記載されているように、pHは、Yarrowiaの二相性転移を制御する1つの因子であり、増殖培地のpHである;菌糸体形成は、中性近くのpHにおいて最大であり、pHが低下するにつれて減少し、pH3でほとんどゼロになる。したがって、低いpH培養でYarrowia細胞を増殖させることによって、菌糸体形成を減少または排除することができる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、約2から約4、例えば、約2.1から約4、約2.2から約4、約2.3から約4、約2.4から約4、約2.5から約4、約2.6から約4、約2.7から約4、約2.8から約4、約2.9から約4、約3から約4、約2から約3.9、約2から約3.8、約2から約3.7、約2から約3.6、約2から約3.5、約2から約3.4、約2から約3.3、約2から約3.2、約2から約3.1、約2から約3、約2.5から約3.5、約2.5から約3、約3から約3.5のpH範囲、またはその間にある任意のpH範囲で、増殖させる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、約2、約2.1、約2、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9、約3、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、または約4のpHで増殖させる。「約」とは、その用語がpHに関して本明細書で用いられる場合、所定の値付近の範囲を指す。一般的に、所定のpHの値に関して用いられる場合、用語「約」とは、その値の+/−10%内、例えば、その値の+/−9%内、その値の+/−8%内、その値の+/−7%内、その値の+/−6%内、その値の5%内、その値の+/−4%内、その値の+/−3%内、その値の+/−2%内、その値の+/−1%内、またはその値の+/−1%以下内の値の範囲を指す。所定のpH値に関して用いられる場合、用語「約」は、例えば、実験誤差内で決定されたような、その正確な値を包含する。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、細胞培養の一期間(例えば、初期)中、高いpHまたはpH範囲で増殖させるが、細胞培養の異なる一期間(例えば、終期)中、低いpHまたはpH範囲で増殖させる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、目的のポリペプチドが発現しているとき、細胞培養のその一期間中、低いpHまたはpH範囲で増殖させる。例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列は、誘導性プロモーターに作動可能に連結されてもよく、プロモーターが抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現するように誘導されるとき、細胞培養のその一期間中、Yarrowia細胞を低いpHまたはpH範囲で増殖させてもよい。
【0091】
特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、高い通気性を含む。例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現させるためのベクターまたは発現カセットを含むYarrowia細胞を、その細胞培養の一期間または全期間、高い通気条件下で増殖させてもよい。下記の実施例3に記載されているように、細胞培養の通気の増加は、発現した抗体ポリペプチド断片の細胞表面ディスプレイを向上させる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、通気を向上させるために振盪フラスコ内で増殖させる。特定の実施形態において、培養のパーセント酸素飽和が測定され、培養物が十分な高通気条件下で増殖することを確実にするように所定のレベルより上に保持される。例えば、発酵槽条件下、高通気条件は、30〜50%の酸素飽和で達成することができ、例えば、少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれ以上の酸素飽和である。細胞培養通気を向上させるのに有用な他の容器は、当業者に知られているであろう。
【0092】
特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、培養物を最少培地中で増殖させることを含む。下記の実施例3に記載されているように、細胞培養物を最少培地中でインキュベートすることによって、発現した抗体ポリペプチド断片の細胞表面ディスプレイが向上する。「最少培地」とは、その用語が本明細書に用いられる場合、細胞培養物(例えば、Yarrowia細胞培養物)の増殖を支持するのに必要とされる最少の要素を含む培地を指す。最少培地は、典型的には、増殖のための炭素源(例えば、グルコース)、塩の形をとった様々な微量元素(例えば、マグネシウム、窒素、リン、および/または硫黄)、窒素源、および水を含有する。最少培地は、酵母抽出物、Bactoペプトン、またはその両方を欠く。所定の生物体を、ある最少培地中で増殖させた場合、増殖することができる可能性があるが、別の最少培地中で増殖させた場合、増殖することができない可能性がある。特定の実施形態において、Yarrowia細胞作動条件は、最少補充培地中で培養物を増殖させることを含む。「最少補充培地」とは、その用語が本明細書で用いられる場合、アミノ酸を補充している最少培地を指す。最少補充培地は、1個もしくは2、3個のアミノ酸を補充されていてもよいし、またはたいていの生物体によって用いられる全20個のアミノ酸の完全なセットを補充されていてもよい。当業者は、様々な最少培地を知っているであろうし、本明細書に開示された組成物および方法に従って所定の生物体の増殖を支持するためにどの最少培地を用いることができるかを決定することができるであろう。
【0093】
特定の実施形態において、Yarrowia細胞を、同時に2つ以上のYarrowia細胞作動条件下で、増殖させる。例えば、Yarrowia細胞を、低い誘導温度、短い誘導時間、低いpH、高い通気性、最少培地中での増殖、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される2つ以上のYarrowia細胞作動条件下で増殖させる。
【0094】
ポリペプチドの表面ディスプレイのためのベクターで形質転換されたSaccharomyces cerevisiae細胞の60〜80%が、実際にその表面上にポリペプチドを発現することが一般的に報告されている。対照的に、本明細書に記載された方法および組成物を用いて、1つまたは複数のYarrowia作動条件下で増殖したYarrowia細胞のもっと高いパーセンテージの細胞が、その表面上に抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を示す。例えば、1つまたは複数のYarrowia作動条件下で増殖したYarrowia細胞の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%が、その表面上に抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を示す。「約」とは、表面上に抗体ポリペプチドまたは断片を示すYarrowia細胞の数に関して用いられる場合、その値から5%以内の値を指し、正確な値も含む。特定の実施形態において、1つまたは複数のYarrowia作動条件下で増殖したYarrowia細胞の約99%より多く(例えば、100%)がその表面上に抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を示す。
【0095】
特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現するためのベクターまたは発現カセットを含むYarrowia細胞は、シャペロンポリペプチドをさらに含む。当技術分野において知られているように、シャペロンポリペプチドは、他のポリペプチドの非共有結合性フォールディングおよび/またはアッセンブリを援助する。実施例7に記載されているように、S.cerevisiaeおよびP.pastorisにおけるタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)および免疫グロブリン結合タンパク質(Kar2/BiP)などの分子シャペロンの過剰発現は、scFv断片およびFab断片の発現を向上させた。酵母において、BiP/GRP78は、KAR2遺伝子によってコードされる。したがって、特定の実施形態において、Yarrowia細胞は、シャペロンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸で形質転換される。本明細書で開示された組成物および方法に従って有利に用いることができるシャペロンポリペプチドの非限定的例には、PDI、Kar2/Bip、およびHACIが挙げられる。特定の実施形態において、Yarrowia細胞は、プロモーターの調節下のシャペロンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸で形質転換される。例えば、シャペロンは、構成的、半構成的、または誘導性プロモーターの調節下であってもよい。特定の実施形態において、シャペロンポリペプチドは、目的のポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片)と同じ細胞培養の一期間中に発現する。当業者は、他のシャペロンポリペプチドを知っているであろうし、それらを用いることも、ここに開示されている組成物および方法と共に用いる場合、それらの効力を評価することもできるであろう。
【0096】
適用
本明細書に開示された組成物および方法は、様々な適用において用いることができる。1つの非限定的例として、本明細書に開示された組成物および方法は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片のライブラリーを、所定の抗原を結合する能力についてスクリーニングするために用いることができる。
【0097】
特定の実施形態において、酵母細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をその表面上にディスプレイし、所定の抗原を結合する能力について、その細胞は試験される。特定の実施形態において、酵母細胞は、2つの抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を発現し、その抗体ポリペプチドまたはその断片は、一緒になって抗原を結合することができるように、お互いに会合する。例えば、重鎖Fab断片および軽鎖Fab断片を、酵母の細胞表面上にディスプレイすることができ、それらのFab断片は、お互いに会合して、機能しうる抗原結合部分を形成する。特定の実施形態において、scFv抗体ポリペプチド断片は、酵母の細胞表面上にディスプレイされ、そのscFv断片は所定の抗原を結合することができる。特定の実施形態において、酵母細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を含むベクターまたは発現カセットで形質転換される。特定の実施形態において、酵母細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)は、2つ以上のベクターおよび/または発現カセットで形質転換され、それぞれは、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を含む。特定の実施形態において、酵母細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)は、2つ以上の核酸配列を含むベクターまたは発現カセットで形質転換され、それぞれは、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0098】
特定の実施形態において、抗体ポリペプチド酵母ライブラリーを作製するために、複数の酵母細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)は、ベクターまたは発現カセットのライブラリーで形質転換され、そのライブラリーは、複数の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む複数の核酸配列を含む。本明細書で用いられる場合、用語「抗体ポリペプチド酵母ライブラリー」は、複数の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を表面上にディスプレイする複数の酵母細胞を指す。そのような抗体ポリペプチド酵母ライブラリーは、1つまたは複数の特定の抗原を結合する抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片について、ライブラリーにおいてスクリーニングするために用いることができる。
【0099】
特定の実施形態において、複数の酵母細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)は、ベクターまたは発現カセットのライブラリーで形質転換され、そのライブラリーは、複数の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む複数の核酸配列を含む。例えば、ベクターまたは発現カセットのライブラリーは、複数のscFv抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む複数の核酸配列を含んでもよい。そのような複数の形質転換された酵母細胞を、1つまたは複数の特定抗原を結合するscFv抗体ポリペプチド断片についてスクリーニングするために用いてもよい。
【0100】
特定の実施形態において、第1の複数の一倍体酵母細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)は、ベクターまたは発現カセットのライブラリーで形質転換され、そのライブラリーは、複数の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む複数の核酸配列を含み、第2の複数の一倍体酵母細胞(例えば、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia細胞)は、ベクターまたは発現カセットのライブラリーで形質転換され、そのライブラリーは、複数の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む複数の核酸配列を含む。特定の実施形態において、第1および第2の複数の一倍体酵母細胞は、同じライブラリーで形質転換される。例えば、第1および第2の複数の一倍体酵母細胞は、重鎖抗体ポリペプチドまたは断片と軽鎖抗体ポリペプチドまたは断片の両方をコードするヌクレオチド配列を含むライブラリーで形質転換されてもよい。特定の実施形態において、第1および第2の複数の一倍体酵母細胞は、異なるライブラリーで形質転換される。例えば、第1の複数の一倍体酵母細胞は、重鎖抗体ポリペプチドまたは断片をコードするヌクレオチド配列を含むライブラリーで形質転換されてもよく、一方、第2の複数の一倍体酵母細胞は、軽鎖抗体ポリペプチドまたは断片をコードするヌクレオチド配列を含むライブラリーで形質転換されてもよい。
【0101】
特定の実施形態において、ライブラリーで形質転換された第1および第2の複数の一倍体酵母細胞は、お互いに接合して、各ライブラリー由来のベクターまたは発現カセットを含む複数の二倍体酵母を形成する。例えば、重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含むライブラリーで形質転換された第1の複数の一倍体酵母細胞は、軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含むライブラリーで形質転換された第2の複数の一倍体酵母細胞に接合して、重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片と軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の両方を含む複数の二倍体酵母細胞を生成してもよい。そのような複数の二倍体酵母細胞は、1つまたは複数の特定抗原を結合する抗体ポリペプチドまたは断片についてスクリーニングするために用いられてもよい。そのような実施形態は、重鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片と軽鎖抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の多くの種類の異なる組み合わせのスクリーニングを可能にする点において、有利である。
【0102】
特定の実施形態において、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の特定の抗原に対する結合特異性は、向上または最適化される。抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の結合特異性を向上または最適化するために定方向進化(directed evolution)または親和性成熟を用いることができる。例えば、Fujii(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Antibody Engineering、248巻、345−359ページ、2004)は、抗体についての親和性成熟のプロセスを記載する。同様に、Boderら(参照により本明細書に組み入れられた、Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A. Sep 26;97(20):10701−5、2000)は、scFv断片の定方向進化を記載する。これらおよび他の技術は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の結合特異性を向上または最適化するのに用いることができる。
【0103】
特定の実施形態において、特定の抗原を結合するか、または結合するのではないかと思われる抗体ポリペプチドまたは断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を単離することができる。その後、そのような核酸配列を、1つまたは複数のヌクレオチド残基を変化させることによって改変してもよい。特定の実施形態において、核酸配列は、ベクターまたは発現カセットの一部である。その後、改変型核酸(複数可)を、抗原(例えば、最初の抗原または別の異なる抗原)を結合する能力について試験してもよい。例えば、改変型核酸を酵母細胞に(例えば、形質転換によって)導入してもよく、その酵母細胞を、抗体ポリペプチドまたはその抗体ポリペプチド断片がその細胞表面上に発現するような増殖条件(例えば、Yarrowia作動条件)下でインキュベートする。その後、その酵母を、目的の抗原と接触させてもよく、結合を試験してもよい。
【0104】
核酸配列を改変するための様々な技術は、当技術分野において知られており、それらのいずれも、ここに開示されている方法および組成物に従って用いることができる。例えば、放射線照射、化学変異原、エラープローン(error−prone)PCR、または飽和変異誘発を用いてもよい。他の技術は、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.、およびManiatis,T. Molecular Cloning:A Laboratory Manual. 2.sup.nd ed.、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989(その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられている)に見出すことができる。当業者は、核酸配列を改変するための適切な技術を知っているであろう。
【0105】
抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をディスプレイする細胞の所定の抗原への結合を試験するための様々な技術は、当技術分野において知られており、それらのいずれも、ここに開示されている方法および組成物に従って用いることができる。1つの非限定的例として、ELISAアッセイを用いてもよい。
【0106】
特定の実施形態において、Yarrowia細胞は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードする親ベクターまたは親発現カセットを含み、その抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片は、細胞表面上にディスプレイされ、特定の抗原(例えば、標的ポリペプチド)を結合する。特定の実施形態において、親ベクターまたは親発現カセットは、単離され、上記のような改変に供され、1つまたは複数の改変型ベクターまたは発現構築物を生じる。特定の実施形態において、そのような改変は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列内に生じる。その後、1つまたは複数の改変型ベクターまたは発現構築物は、親ベクターまたは親発現カセットを欠く、1つまたは複数の第2のYarrowia細胞へ形質転換されてもよい。例えば、1つまたは複数の改変型ベクターまたは発現構築物は、その後、Yarrowia細胞作動条件下で増殖する複数のYarrowia細胞へ形質転換され、Yarrowia抗体ポリペプチド酵母ライブラリーを生じることができ、そのライブラリーのメンバーは、複数の改変型抗体ポリペプチドまたはその抗体ポリペプチド断片をそれらの表面上にディスプレイする。その後、Yarrowia抗体ポリペプチド酵母ライブラリーのメンバーは、特定の抗原、例えば、親ベクターまたは親発現カセットによってコードされる抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片によって結合された抗原を結合するそれらの能力について試験されてもよい。抗原への結合の向上を示す(例えば、より高い、またはより特異的な親和性またはアビディティを示す)Yarrowia抗体ポリペプチド酵母ライブラリーのメンバー由来の改変型ベクターまたは発現カセットを単離してもよい。特定の実施形態において、この一連の工程が、1回または複数回、繰り返される。特定の実施形態において、所望のレベルの結合を示す抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片が得られるまで、この一連の工程が繰り返される。
【0107】
特定の実施形態において、改変型抗体ポリペプチドまたは断片が、親ベクターまたは親発現カセットによってコードされる抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片によって結合される同じ抗原への結合の向上または最適化を示すように、親ベクターまたは親発現カセットにおけるヌクレオチド配列によってコードされる抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片は改変される。特定の実施形態において、改変型抗体ポリペプチドまたは断片が、親ベクターまたは親発現カセットによってコードされる抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片によって結合されるのとは異なる抗原への結合の向上または最適化を示すように、親ベクターまたは親発現カセットにおけるヌクレオチド配列によってコードされる抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片は改変される。例えば、第1の抗原を結合することが知られた抗体ポリペプチドまたは断片は、その抗原特異性が変化するように改変されてもよい。
【0108】
当業者は、他の適用を知っているであろうし、そのような適用において使用するために本明細書に開示された組成物および方法を用いることができるであろう。
【0109】
キット
特定の実施形態において、本明細書に記載された1つまたは複数の組成物を含むキットが提供される。特定の実施形態において、本明細書に記載された1つまたは複数の方法を実施するためのキットが提供される。特定の実施形態において、キットは、目的のポリペプチド、例えば、抗体ポリペプチドもしくは抗体ポリペプチド断片、アンカーポリペプチド、またはその両方を酵母細胞の表面上に発現するための構成要素を含む。例えば、キットは、酵母を形質転換または培養するための1つまたは複数の発現カセット、ベクター、酵母、および/または構成要素を含んでもよい。特定の実施形態において、酵母を形質転換または培養するための発現カセット、ベクター、酵母、および/または構成要素は、本明細書に記載されているようなものである。
【0110】
特定の実施形態において、キットは、抗体ポリペプチドもしくは抗体ポリペプチド断片、アンカーポリペプチド、またはその両方をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を含む発現カセットまたはベクターを含む。特定の実施形態において、キットは、Yarrowia細胞、例えば、Yarrowia lipolytica細胞などの酵母を含む。特定の実施形態において、キットのYarrowia細胞は、形質転換受容性である。特定の実施形態において、キットのYarrowia細胞は、Yarrowia細胞を形質転換受容性にするために用いることができる1つまたは複数の構成要素と共にパッケージングされる。
【0111】
特定の実施形態において、キットは、キットの発現カセット、ベクター、または他の構成要素を用いるための書面による使用説明書、例えば、目的のポリペプチド(例えば、抗体ポリペプチドもしくは抗体ポリペプチド断片、アンカーポリペプチド、またはその両方)を酵母細胞の表面上に発現するためにキットの発現カセット、ベクター、または他の構成要素を用いるための書面による使用説明書を含む。
【実施例】
【0112】
実施例1:材料および方法
用いられる菌株:大腸菌(E.coli)MC1061を、標準DNA増幅およびクローニングのために用いた。Yarrowia lipolytica PO1d(MatA、leu2−270、xpr2−322)、PO1d(MatA、ura3−302、leu2−270、xpr2−322)、およびPO1d(MatA、ura3−302、leu2−270、Ade2−844、xpr2−322)を、ベクター形質転換のレシピエントとして用いた。
【0113】
scFv発現プラスミド:分子アンカー配列の上流のscFv断片のSfiI/NotIクローニングを可能にするように4つの合成構築物を作製した。SfiI制限部位のN末端に、最終発現プラスミドでのLIP2preまたはLIP2preproのいずれかのC末端における融合のためにBsmI制限部位を付加した。NotI制限部位の下流に、c−Mycタグを付加し、続いて、(Gly4Ser)3リンカー、およびアンカリングドメインを交換するためにNdeI & AvrII制限部位を付加した。アンカリングのために、以下のYarrowiaコドン最適化配列を、合成構築物へNheI部位とAvrII部位との間に挿入した:1)S.cerevisiae SAG1(ID 853460)のC末端(960bp)、2)S.cerevisiae AGA2(ID 852851)、または3)Yarrowia lipolytica CWPI(アクセション番号AY084077)のC末端(333bp)。AGA2分子アンカーがscFvのN末端に位置している第2の合成構築物を作製した。ここにおいて、コドン最適化成熟S.cerevisiae AGA2の前に、BsmI部位があり、後に、(Gly4Ser)3リンカー、SfiI/NotIに囲まれたscFvコード配列、c−mycおよび6−hisエピトープタグ、ならびにAvrII制限部位が続いた。完全な合成構築物を、BsmI(T4)およびAvrIIで消化し、SacII(T4)/AvrII消化pYLPLXL2preへクローニングした。AGA1の発現のために、前にBsmI、後にAvrIIが続くコドン最適化成熟S.cerevisiae AGA1を、BsmI(T4)およびAvrIIで消化し、SacII(T4)/AvrII消化pYLPUXL2preへクローニングした。
【0114】
scFv断片の可溶性発現を可能にするために、Yarrowiaコドン最適化分泌構築物を合成的に作製した。この構築物は、V5および6−hisエピトープタグを含有し、その5’末端で、scFvクローニングのためのSfiI/NotI制限部位が先行した。この構築物をBsmI(T4)およびAvrIIで消化し、SacII(T4)/AvrII消化pYLPUXL2preへクローニングした。コドン最適化トラスツズマブscFvおよび4−4−20 scFv、ならびに抗HEL scFvのD1.3およびM3を合成し、記載されたプラスミドへSfiI制限部位とNotI制限部位との間にクローニングした。抗フルオレセイン4−4−20抗体が、S.cerevisiae表面ディスプレイプラットフォームの開発のためのモデルタンパク質としての役割を果たした(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Boder,E.T. & Wittrup,K.D.、Nat.Biotechnol. 15、553−7、1997)。細胞表面抗原HER−2/neuがん原遺伝子に結合するトラスツズマブ(Herceptin(登録商標))は、乳がんの処置として臨床的に認可されている(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Choら、Nature、421、756−760、2003)。
【0115】
Fab発現構築物:重鎖発現プラスミドのために、scFvクローニングについて記載されているように、Yarrowiaコドン最適化重鎖定常領域CH1ドメインを、SfiIおよびNotIを用いて、4つの合成構築物へクローニングした。その後、VHについてのcDNAを、SfiIおよびNheIを用いて、これらのプラスミドへクローニングした。最後に、Fab発現カセットを、scFvについて行ったことと同様に、pYLPLXL2preへクローニングした。
【0116】
軽鎖発現プラスミドを、scFv発現プラスミド上で構築した。したがって、Yarrowiaコドン最適化Cκ1(軽鎖定常領域カッパ)を、SfiIおよびNotIを用いてこのベクターへ挿入した。その後、VLについてのcDNAを、SfiIおよびBsiWIを用いてこのプラスミドへクローニングした。
【0117】
scFv発現プラスミドからPCRにより、トラスツズマブおよび4−4−20の可変ドメインを増幅し、開発されたFab発現プラスミドへのクローニングのために必要とされる制限部位を付加した。最終プラスミドを、上記のような適切なYarrowia lipolytica株へ形質転換して、完全に相補された最終株を作製した。
【0118】
増殖条件:Yarrowia lipolytica株を、リッチなYPD培地(1%酵母抽出物、1%Bactoペプトン、1%グルコース)上か、またはCSMを補充され(MSM;アミノ酸および硫酸アンモニウムを含まない、0.67%イーストニトロゲンベース、0.4%NH4Cl、0.079%CSM)、かつ50mMリン酸緩衝液、pH6.8中、炭素源としてのグルコース2%もしくはオレイン酸2%を補充された最少培地上かのいずれかで、28℃で培養した。pH試験に関する実験については、50mMリン酸−クエン酸緩衝液を、pH5またはpH3で用いた。
【0119】
細胞表面ディスプレイを誘導するために、酵母細胞を、最少グルコース培地中、28℃、180rpmで、24時間、増殖させた。次の日、培養物のOD600を測定した;細胞をdHOで2回、洗浄し、最少オレイン酸培地中に0.1のOD600で再懸濁し、20℃、180rpmで16時間、増殖させた。細胞を、50mLのFALCONチューブ中5mLの培養物としてか、または250mLのバッフル付き振盪フラスコ中20mLの培養物としてかのいずれかで増殖させた。
【0120】
フローサイトメトリー:c−MycまたはV5エピトープに対する抗体での間接的免疫染色により、表面発現を実証した。したがって、誘導後、0.1%BSAを補充された1mlのPBS(pH7.2)(PBS/BSA)中の2×10個の細胞を、1μg/mlの抗c−Myc抗体(Sigma)または抗V5抗体(Invitrogen)と共に30分間、インキュベートした。必要に応じて、ビオチン化HEL(Sigma)または組換えHER2−Fcキメラタンパク質(R&D Systems)を用いた。HELのビオチン化のために、Pierce製のEZ−Link Micro Biotinylation Kitsを用いた。その後、細胞を、氷冷PBS/BSAで洗浄し、二次検出試薬と共に30分間、インキュベートした。ヤギ抗マウスAlexa−488またはフィコエリトリン連結型抗体を用いて、結合した抗c−Mycまたは抗V5抗体を検出した。ビオチン化抗原の検出について、検出は、ストレプトアビジン−フィコエリトリンを用いた。FACSCaliburフローサイトメトリー上での分析の前に、細胞を氷冷PBS/BSAで2回、洗浄した。
【0121】
Kd決定:前に記載されているように、細胞を増殖させ、誘導した。200μl PBS/BSA中1×10個の細胞のアリコートを、0.01nMから1μMまでの濃度範囲での適切な抗原とインキュベートし、60分間のインキュベーションにより25℃において平衡に近づくようにさせた。次に、細胞を遠心分離によりペレット化し、氷冷PBS/BSA中で洗浄し、FACSCaliburフローサイトメーターでの分析のために1mlの氷冷PBS/BSA中に再懸濁した。細胞の平均蛍光強度を記録した。非線形最小二乗曲線当てはめを用いて、蛍光データから平衡解離定数(Kd)を決定した。
【0122】
エラープローンPCRを用いる多様化したレパートリーの構築:抗HEL scFv断片D1.3を、以前に記載されているように(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Chaoら、Nat.Protoc. 1、755−68、2006参照)、エラープローンPCRを用いてランダムに変異させた。簡単に述べれば、scFV ORFを、プライマーpPOX2FwおよびzetaRvを用いて、pYLPUXL2preA2D1.3から増幅した(Chaoら、Nat.Protoc. 1、755−68、2006)。精製後、PCR産物をSfiIおよびNotIで消化した。消化された産物を、ゲル精製し、同様に処理された(SfiIおよびNotIで消化された)、野生型D1.3を含有するベクターへクローニングした。これらのライブラリーからQiagenプラスミド精製キットを用いてプラスミドDNAを調製し、その後、上記のようにYarrowia株pO1dへ形質転換した。
【0123】
ライブラリー選択:変異体D1.3レパートリーを増殖させ、抗体発現を、上記のように16時間、誘導した。そのレパートリーを抗c−Myc(1μg/ml)および300nMビオチン化HELで平衡に達するまで(3時間)、標識し、その後、非標識HELと20分間、競合させた。次に、細胞を、二次Alexa−488標識ヤギ抗マウスIgG(1μg/ml)およびストレプトアビジン−フィコエリトリン(1μg/ml)で標識した。全てのインキュベーション工程後、細胞を、1ml PBS/BSAで2回、洗浄した。最後の洗浄後、細胞を、抗原解離を防ぐために氷上で保持した。試料を、Epics Altraフローサイトメーター上、約2000細胞/秒のソーティング速度でソーティングした。最も高い抗原結合性集団のより小さなパーセンテージをゲーティングすることにより、ストリンジェンシーを増加させながら、3回の連続したラウンドにおいて細胞をソーティングした。選択されたクローンの配列分析により、2つのクローン(クローン13およびクローン38)が変異[I160V](クローン13)および[I160V;T228A](クローン38)を含有することが明らかにされた。これらのクローンを、平衡力価測定によって抗原結合について評価し、1.8倍および2.4倍の親和性の向上が示され、それは、M3変異体についてと同じ範囲にある(図18参照)。
【0124】
実施例2:scFv、Fab、および完全長IgGディスプレイプラスミドのセットの構築
異なるアンカリング分子を用いてscFv断片のディスプレイを可能にするように、一般的な表面ディスプレイプラットフォームを作製した。1)S.cerevisiae Sag1pのC末端部分(320個のC末端アミノ酸)へのN末端融合(A1)、2)S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合(A2)、3)Yarrowia lipolytica CwpIpのC末端部分(110個のC末端アミノ酸)へのN末端融合(A3)、および4)Aga2pへのC末端融合(A4)としてscFv断片のディスプレイを可能にする合計4つのディスプレイプラスミドを作製した。発現は誘導性pPOX2プロモーターによって駆動される。LIP2preリーダー配列をscFvのN末端に付加して、分泌装置を介した各ポリペプチドのプロセシングを駆動し、最終的に正しくプロセシングされた表面ディスプレイ化タンパク質を生じるようにする。変形として、ディスプレイレベルの比較を可能にするために、LIP2preproもまた、α−凝集素(aggltinin)融合体(A1)におけるトラスツズマブscFvについてのリーダーとして用いた。この実験ストラテジーは、複数のディスプレイ型式を用いることにより、成功の機会が増加するだけでなく、アンカーがscFvまたはFab断片のN末端に融合したかC末端に融合したかに依存して、遊離カルボキシ末端かまたは遊離アミノ末端のいずれかを有する抗体断片のディスプレイ(その特徴は、ディスプレイされたscFvの結合特性に影響することが以前に示された(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Wang,Z.ら、Protein Eng.Des.Sel. 18、337−43、2005))も可能にするであろうという推論に基づいた。エピトープタグ(c−Myc)の付加によって、各ポリペプチドのディスプレイがモニターでき、選択の標準化が可能になった。
【0125】
Fabディスプレイについて、重鎖Fab断片を、scFv断片について記載されたものと同じアンカリング分子(A1〜4)を用いて、酵母表面へアンカリングさせたが、軽鎖Fabについては、可溶性断片として発現させた(FabLC)。両方の鎖が化学量論的(stochiometric)量で存在することを可能にするために、両方の発現カセットを誘導性pPOX2プロモーターによって駆動し、リーダー配列としてLIP2preを用いた。Fab重鎖(CH1−VH)(c−Myc)および軽鎖(C末端のV5および6−hisエピトープタグ)についての異なるエピトープタグの存在により、各ポリペプチドの同時的かつ非依存的可視化を可能にした。
【0126】
完全長IgGディスプレイについて、完全長トラスツズマブ重鎖を、scFvおよびFabについて記載されているようなアンカリング分子のうちの2つ:A2およびA4(それぞれ、AGA2のN末端およびC末端繋ぎ止め)を用いて酵母細胞表面へアンカリングさせた。両方の鎖が化学量論的量で存在することを可能にするために、両方の発現カセットを誘導性pPOX2プロモーターによって駆動し、リーダー配列としてLIP2preを用いた。重鎖(HC)(c−Myc)および軽鎖(LC)(C末端のV5および6−hisエピトープタグ)についての異なるエピトープタグの存在により、各ポリペプチドの同時的かつ非依存的可視化を可能にした。
【0127】
コドン最適化は、一般的に、結果として、異種タンパク質の発現レベルの2倍の向上を生じることが示されたため、全てのディスプレイカセットを、Yarrowia lipolyticaについてコドン最適化した。ディスプレイ系を、以下の2つの十分特徴づけられた抗体のパネルを用いて分析した:抗フルオレセイン4−4−20抗体(S.cerevisiae表面ディスプレイプラットフォームの開発のためのモデルタンパク質としての役割を果たしている(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Boder,E.T. & Wittrup,K.D.、Nat.Biotechnol. 15、553−7、1997))、およびトラスツズマブ(Herceptin(登録商標))(細胞表面抗原HER−2/neuがん原遺伝子に結合し、乳がんの処置として臨床的に認可されている)。
【0128】
全てのベクターは、ゼータエレメント(Ylt1レトロトランスポゾン由来の長い末端反復(LTR))を有し、これにより、Ylt1を有するY.lipolytica株における相同組換えによるか、またはこのレトロトランスポゾンを欠く株における非相同組換えによるかのいずれかによって、ベクターが組み込まれるのを可能にした。全てのscFv発現構築物、およびFab重鎖(CH1−VH)発現構築物は、LEU2栄養要求性マーカーを有した。Fab軽鎖断片発現プラスミドは、URA3d1マーカーを有した。Aga2p融合体のディスプレイのために、S.cerevisiae AGA1を発現する追加の発現構築物が存在した。AGA1は、AGA2のヘテロダイマー化のパートナーである。したがって、pPOX2プロモーター下で、成熟Aga1pについてのリーダーとしてLIP2preを用いて、AGA1の発現を可能にするように、2つの構築物(栄養要求性マーカーURA3およびADE2を含む)を作製した。発現構築物の形質転換により、どの場合においても、完全に相補された株が生じた。図1は、scFvおよびFab断片のディスプレイのために構築された発現プラスミドについての概略図を示す。
【0129】
実施例3:細胞ディスプレイの向上
最初の実験として、ディスプレイ株の陽性形質転換体を、250mlフラスコ内の50mlのYPD培地中、28℃で一晩、増殖させた。その後、細胞を、dHO中で洗浄し、オレイン酸リッチな培地中に再懸濁し、250mlフラスコ内、28℃で48時間、増殖させた。最初の実験において、c−Mycエピトープタグにおける免疫学的染色およびFACS分析を用いて、表面発現は検出することができなかった(データは示していない)。したがって、異なる増殖条件を試験した。
【0130】
ストレス応答およびタンパク質フォールディングを含む多くの重要な細胞プロセスは、増殖温度を変化させることによって影響される。フォールディングストレスは、一般的に、低い培養温度で減少し、これにより、より効率的な異種タンパク質分泌/表面ディスプレイのレベルを可能にする。例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられた、Dragosits,M.ら、J.Proteome Res.、2009を参照。したがって、scFvおよびFab断片の表面発現レベルを、20℃および28℃の誘導温度で比較した。
【0131】
細胞壁は、非常に多様なタンパク質集団を含有する高度に適応可能な小器官である。新しい巨大分子(例えば、GPIアンカー型タンパク質)の既存のポリマーネットワークへの挿入は、主として、活発な細胞壁生合成の部位、すなわち、増殖中の娘細胞の部位で起こることがS.cerevisiaeにおいて示されている(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Klis,F.M.ら、Yeast 23、185−202、2006)。Yarrowia lipolyticaの細胞壁の分子構成は、S.cerevisiaeの分子構成と類似していると考えられている。20℃での増殖が、細胞壁形成を減速させ、それによって、異種タンパク質のより多くが細胞壁生合成の部位に蓄積することを可能にするか否かを試験した。また、通気の効果を研究するために、細胞を、通気がない50ml FALCONチューブ内、および250ml振盪フラスコ内で増殖させた。最後に、最少補充培地(MM)中での増殖を試験した。4−4−20 α−凝集素(Sag1p)をディスプレイする株をこの実験に用いた。対照株として、フルサイズのモノクローナルのトラスツズマブ抗体産生株を選択した(表面発現カセットを含有しない株1T2)。
【0132】
図2に示されているように、FALCON培養(76%)および振盪フラスコ培養(86%)の両方について、細胞が最少補充培地中、20℃で20時間、誘導された場合、FACS分析により、大きなc−Myc陽性集団が現れ、振盪フラスコ培養がわずかにより高いディスプレイレベルを示した(MFI(平均蛍光強度)が2倍、異なる)。細胞をMM中、28℃で増殖させた場合、わずかな割合の細胞だけが、抗体断片をディスプレイした。また、細胞をRM中、20℃で増殖させた場合、表面ディスプレイは、はっきりとは見えなかった。40時間の誘導における分析により、試験された全ての増殖条件について、全てのc−Myc検出が消滅した(データは示していない)。理論に縛られるつもりはないが、これは、ディスプレイされたタンパク質のタンパク質分解、または細胞壁構造における形態変化(複数可)によってc−Mycエピトープが隠されることによって説明することができると思われる。
【0133】
実施例4:誘導時間の表面ディスプレイレベルへの効果
c−Myc陽性細胞が長い誘導時間で消失したため、様々な誘導時間においてディスプレイレベルを測定する時間動態学実験を行った。したがって、16時間、20時間、24時間、32時間、および43時間の誘導時点において、株n1(4−4−20 scFv Sag1を形質転換されたpO1d)のFACS分析を行った。
【0134】
図3の最初のパネルに示されているように、最大発現レベルは、16時間の誘導時点で達せられ、細胞の95%が中程度の発現レベルを示した(バックグラウンドより10倍高い)。c−Mycを発現する細胞の相対的割合は、誘導時間が長くなるにつれて減少した(16時間後95%、20時間後86%、24時間後53%、32時間後19%、および43時間後7%)。また、自己蛍光の減少(5分の1)、および陽性細胞の平均蛍光の減少(20分の1)が、誘導中観察された。理論に縛られるつもりはないが、自己蛍光の減少は、細胞サイズの減少の結果である可能性が高い。FSC/SSC(前方−側方散乱:これらの測定はそれぞれ、細胞サイズおよび細胞の顆粒性を示している)について、有意な変化が観察され、それは、形態学的発生における劇的な変化を反映した。理論に縛られるつもりはないが、これらの変化についての1つの説明は、細胞が誘導中に酵母−菌糸転移を起こすことである。顕微鏡法で立証されているように、細胞は、より長い誘導によってより伸長した構造を形成し、この仮説を支持する。重要なことに、菌糸の形をとる場合、細胞壁タンパク質含量は減少することが以前に示されており、このこともまた、表面ディスプレイレベルの低下を説明することができると思われる。
【0135】
実施例5:pHの表面ディスプレイレベルへの効果
Y.lipolyticaは、酵母様細胞および短い菌糸型細胞の混合物として増殖する。二相性転移を制御する1つの因子は、増殖培地のpHである(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Ruiz−Herrera,J. & Sentandreu,R.、Arch.Microbiol.178、477−83、2002)。菌糸体形成は、中性近くのpHで最大であり、pHが低下するにつれて減少し、pH3でほとんどゼロになることが記載されている(同上)。
【0136】
誘導の初期相中に酵母−菌糸転移を避ける試みにおいて、scFvディスプレイ株を、異なるpH値:pH6.8、pH5、およびpH3で増殖させた。図4に示されているように、誘導の24時間目において、pH5およびpH6.8で増殖した培養物についてシフトが起こり、ディスプレイ細胞の50%損失があった。一方、pH3においては、100%の細胞が、細胞ディスプレイを保持した。pH3における全体的なディスプレイレベルは、pH6.8と比較して増加しなかった。誘導の32時間目において、pH5およびpH6.8でc−Mycシグナルの完全な喪失が観察され、一方、pH3で全ての細胞がscFvディスプレイを保持した。pH3において、より長い誘導時間について、最大発現レベルのほんのわずかな減少が観察された。同様の変化は、表面ディスプレイされたFab断片について見られた(データは示していない)。異なるpHで増殖した培養物間で、FSC/SSCプロフィールに劇的な違いが観察され、形態学的変化を反映した。pH3において、ごく少数の菌糸型細胞を含む酵母集団が、より長い誘導時間の時点で、保持されたが、pH5およびpH6.8において、より分散した細胞集団が観察され、おそらく、それは、偽性菌糸増殖への転移を反映していると思われる。
【0137】
要約すれば、この実施例は、低いpHでの増殖が、表面ディスプレイタンパク質の検出を長く持続させるが、全体的なディスプレイレベルを増加させないことを実証している。
【0138】
実施例6:開発されたscFv株、Fab株、および完全長IgG株の発現分析
2つの異なるscFv断片融合タンパク質:4−4−20 scFvおよびトラスツズマブ(Herceptin)scFvを用いて、新しいディスプレイ系をFACSで確認した。c−Mycタグの免疫蛍光顕微鏡法およびフローサイトメトリー検出によって、scFv発現を検証し、scFv産物の発現および正しいフォールディングが示された。図5は、異なるディスプレイ型式における両方のscFv断片についての発現およびリガンド結合データを示す。示されているように、Sag1pへのN末端融合(図5、「A1」と表示された行におけるヒストグラム)およびAga2pへのN末端融合(図5、「A2」と表示された行におけるヒストグラム)としての両方のscFv断片に関して、発現が見られ、最高レベルは、Aga2p融合体について達成された(MFIはバックグラウンドより30倍高かった)。重要なことには、S.cerevisiaeにおいて、存在する細胞のうち、表面タンパク質を発現しない陰性集団(40〜80%)が常にあるが、いずれの融合体を用いたYarrowia lipolyticaにおいても、scFvをディスプレイする場合、この現象は観察されなかった。理論に縛られるつもりはないが、これについての一つの可能性のある説明とは、エピソームプラスミドが用いられるS.cerevisiaeと対照的に、その発現カセットは、Y.lipolyticaのゲノムへ安定的に組み込まれることである。リガンド結合検出について、ビオチン化抗原をストレプトアビジン−フィコエリトリンで検出した。scFvもまた、抗原に結合することができ、それらの正しいプロセシングおよびフォールディングが確認された(図5の「リガンド結合」と表示された列を参照)。CwpIpへのN末端融合(図5、「A3」と表示された行におけるヒストグラム)およびAga2pへのC末端融合(図5、「A4」と表示された行におけるヒストグラム)について、複数のクローンを試験した場合でも、発現を検出することができなかった。これらの場合においてc−Mycが検出されなかったことについて、いくつかの理由で説明することができると思われる。第1に、CWPIを用いたYarrowiaにおける、成功したタンパク質のディスプレイは、今までのところ、hp4dプロモーターおよびリーダー配列としてXpr2 preを用いている。1つの可能性は、発現構築物の違いが、観察された発現の欠如の原因であることである。第2に、ディスプレイされたタンパク質を検出不可能にさせ得る、エピトープタグのタンパク質分解に起因する可能性がある。LIP2 preproをリーダーとして用いた場合、トラスツズマブ(Herceptin)Sag1p融合体について約3倍の増加が見られた(データは示していない)。免疫蛍光顕微鏡法により、ディスプレイされたscFvの細胞表面局在化が明らかに示されている(図6A参照)。
【0139】
Yarrowia細胞がそれらの表面上でヘテロダイマーFab断片を機能的にアッセンブルすることができるか否かを評価するために、2つの異なるFab断片(4−4−20抗体由来およびトラスツズマブ(Herceptin)抗体由来)の発現を誘導し、その後、免疫蛍光顕微鏡法およびフローサイトメトリーによって発現を分析した。Yarrowia株pO1dを、AGA1(ADE2マーカーを用いる)、重鎖断片(URA3マーカーを用いる)、および軽鎖断片(LEU2マーカーを用いる)についての発現カセットで連続的に形質転換して、最終的に、完全に相補された株が生じた。実施例1に記載されているように、細胞を増殖させ、誘導した。融合したエピトープタグ(HC Fab断片についてのc−myc、およびLC断片についてのV5)に対する免疫学的染色によって、重鎖および軽鎖の発現についてYarrowia細胞を標識し、抗原結合を評価した(図7参照)。CwpIpへの融合体を除く全ての構築物について、Fab重鎖(CH1−VH)および軽鎖の両方のディスプレイが確認された。全ての場合において、細胞集団の100%が、機能し得るヘテロダイマーFab断片を発現し、上記のscFv断片で得られた結果(図7参照;2つのピーク(1つの陰性(自己蛍光)ピークおよび1つの陽性ピーク)の出現ではなく、完全ピークのシフトが観察された)が確認された。2色のFACS分析を用いるHCおよびLCトラスツズマブ(Herceptin)Fab断片の同時標識により、個々の酵母細胞の表面上での両方の鎖の対形成が示された(図8、「HC+LC」と表示された行におけるヒストグラム参照)。さらに、Herceptin HC Fab断片の非存在下において、トラスツズマブ(Herceptin)LC断片を、酵母細胞の表面上で検出することができず、その複合体のヘテロダイマー構成が実証された(図8、中央行のヒストグラム参照)。両方の抗体について、抗原結合が確認された(図7、「リガンド結合」と表示された列のヒストグラム)。しかしながら、抗原が結合した程度は、抗体融合体の分子構成によって異なった。また、その2つの抗体クローンについて異なるディスプレイ様式を比較した場合、ディスプレイ効率の変化が観察された(図7、点線)。免疫蛍光顕微鏡法により、重鎖と軽鎖の両方の共局在が示された(図6B参照)。図6において、Fab断片およびscFv 4−4−20抗体断片が発現した。検出は、アンカー型重鎖断片についてc−myc染色、および軽鎖断片についてV5染色によって行った。
【0140】
Yarrowia細胞がそれらの表面上で完全長IgGを機能的にアッセンブルすることができるか否かを評価するために、単一のIgG Herceptin(トラスツズマブ)の発現を誘導し、その後、免疫蛍光顕微鏡法およびフローサイトメトリーによって発現を分析した。したがって、Fabについて行ったのと同様に、両方の鎖の発現カセットで単一のYarrowia pO1d株を形質転換して、完全に相補された株を作製した。重鎖および軽鎖を同時に染色することにより(それぞれ、c−myc染色およびV5染色)、FACSを用いて、ディスプレイを確認した。図17は、2つの様式A2およびA4(それぞれ、AGA2へのN末端融合およびC末端融合)における完全長トラスツズマブ(Herceptin)ディスプレイのフローサイトメトリー分析を示す。図に示されているように、全ての細胞が、完全長重鎖および軽鎖の発現を同時に示している。トラスツズマブ(Herceptin)Fabディスプレイについて観察されたのと同様に、N末端融合と比較して、重鎖がAGA2アンカーのC末端に融合している場合について、ディスプレイ効率の劇的な向上が観察された。
【0141】
実施例7:抗体断片の発現の向上のためのディスプレイ株の操作
抗体断片(scFvおよびFab)の産生における律速工程は、タンパク質フォールディング、ジスルフィド架橋形成、および小胞体(ER)における機能的アッセンブリである場合が多い。S.cerevisiaeにおけるPDIおよびKar2/Bipなどの分子シャペロンの過剰発現は、scFv産生にプラスの効果を生じることが示されている(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Shusta,E.V.ら、Nat.Biotechnol.16、773−7、1998)。また、PDIの共発現が、Fab過剰発現でのフォールディングストレスを軽減し、その結果として、産生レベルの中程度の増加を生じることが、P.pastorisにおいて示されている(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Gasser,B.ら、Biotechnol.Bioeng.94、353−61、2006)。しかしながら、いくつかの場合、シャペロンの共発現によって、結果として、発現レベルに変化が生じず、さらには減少さえ生じた。抗体分泌を向上させる別の可能性は、HACI転写因子の過剰発現により小胞体ストレス応答(unfolded protein response)(UPR)を誘導することである;Fab分泌の中程度の向上が以前に報告されている(同上)。
【0142】
表面にディスプレイされるタンパク質および分泌されるタンパク質の両方が、同じ分泌経路を介して移動するため、細胞表面ディスプレイが、分泌能力とよく相関することは知られている(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Shusta,E.V.ら、J.Mol.Biol.292、949−56、1999)。このように、表面ディスプレイレベルは、個々の細胞を発現レベルに関連づける容易な読み取りとしての役割を果たす。
【0143】
ここで、YarrowiaのPDIおよびHACI発現のscFvおよびFab産生への効果を、上記で開発されたディスプレイプラットフォームを用いてYarrowia lipolyticaにおいて初めて試験した。Yarrowia PDIは、TEFプロモーターの調節下で構成的に発現し、Yarrowia HACI転写因子は、pPOX2プロモーターの調節下で誘導性に発現した。両方のカセットで、(上記の)トラスツズマブ(Herceptin)scFvディスプレイ株およびFabディスプレイ株を共形質転換し、正しいゲノム組込みをPCRによって確認した。図9に示されているように、構成的PDI共発現は、結果として、c−myc MFIによって測定した場合、トラスツズマブ(Herceptin)scFv−Sag1pディスプレイの2倍の増加、およびトラスツズマブ(Herceptin)Fab−Aga2ディスプレイの1.2倍の増加を生じた。これとは反対に、誘導性HACI共発現は、結果として、scFv断片およびFab断片の両方の減少を生じた。これらの結果は、ジスルフィド結合が、scFv断片およびFab断片の分泌における律速工程であることを示している。しかしながら、UPR(小胞体ストレス応答)経路の誘導が、劇的なマイナスの影響を生じた。これは、以前に、scFvのディスプレイについて観察されており(全体として参照により本明細書に組み入れられた、Rakestraw,A. & Wittrup,K.D.、Biotechnol.Bioeng.93、896−905、2006)、正しくフォールディングされていないタンパク質がER分解経路(ERAD)へ送られるという事実(このこともまた、UPR誘導中に上方制御される)によって説明することができると思われる。
【0144】
実施例8:ディスプレイされるトラスツズマブ(Herceptin)scFvについての用量反応曲線
トラスツズマブ(Herceptin)の表面ディスプレイされたscFv融合タンパク質の結合親和性を、平衡結合力価測定曲線から決定した。いずれかの抗体融合体をディスプレイする細胞を、様々な濃度のHER2−Fcキメラタンパク質中、25℃で3時間、インキュベートした。細胞集団の平均蛍光を、フローサイトメトリーによって測定した。図10は、3つの独立した力価測定の結果を示す。「preA1−Herceptin scFv」と表示された線グラフは、S.cerevisiae Sag1pのC末端の320個のアミノ酸へのN末端融合として融合し、かつLip2preリーダー配列と共に発現したトラスツズマブ(Herceptin)scFvについての用量反応曲線を示す。「preproA1−Herceptin scFv」と表示された線グラフは、S.cerevisiae Sag1pのC末端の320個のアミノ酸へのN末端融合として融合し、かつLip2preproリーダー配列と共に発現したトラスツズマブ(Herceptin)scFvについての用量反応曲線を示す。「preA2−Herceptin scFv」と表示された線グラフは、S.cerevisiae Aga2pへのN末端融合として融合し、かつLip2preリーダー配列と共に発現したトラスツズマブ(Herceptin)scFvについての用量反応曲線を示す。Y軸は、結合割合を示し、その結合割合は、MFI/(MFImax−MFImin)として計算され、標準化され、パーセンテージとして表される。非線形最小二乗によって平衡解離定数、Kdを当てはめた。HER2−Fcに対する酵母ディスプレイされたトラスツズマブ(Herceptin)−Sag1p融合体の親和性(Kd=1.9nM)は、トラスツズマブ(Herceptin)−Aga2p融合体についての親和性(Kd=0.7nM)より2.7倍高かった。
【0145】
実施例9:定方向進化のための足場としてのYarrowiaディスプレイプラットフォームの実証
最大定方向進化効率を得るために、足場は、クローン間を親和性におけるわずかな差だけで効果的に識別することができるべきである。以前に、酵母ディスプレイが、親和性における2倍の差での抗体クローン間の微細な識別を可能にすることが示された。全体として参照により本明細書に組み入れられた、VanAntwerp,J.J. & Wittrup,K.D.、Biotechnol.Prog.16、31−7、2000を参照。抗鶏卵リゾチーム(HEL)scFv M3は、抗HEL scFv D1.3が有するより、HELに対して2倍高い親和性を有する。ディスプレイされたポリペプチドは、Sag1p融合ポリペプチド(「preA1 D1.3 対 M3」と表示された線グラフ)およびAga2p融合ポリペプチド(「preA2 D1.3 対 M3」と表示された線グラフ)として発現した。D1.3またはM3をディスプレイする細胞を、様々な濃度のビオチン化HELとインキュベートした。次に、平均蛍光を、フローサイトメトリーによって測定した。それぞれの表面ディスプレイされた抗体の結合親和性を、平衡結合力価測定曲線によって決定した。図11は、3つの独立した力価測定の平均結果を示し、それに曲線を非線形最小二乗によって当てはめた。D1.3のHELに対する親和性は、M3のHELに対する親和性と比較して、Sag1p融合体およびAga2p融合体、それぞれについて、2.9分の1および2.7分の1であることが決定された。
【0146】
この実施例は、開発されたYarrowiaディスプレイ足場が、親和性におけるわずかな差だけでクローン間を効果的に識別することを示し、この系のスクリーニングの潜在能力を確認した。
【0147】
実施例10:FACSを用いるモデル濃縮実験
D1.3をディスプレイする酵母細胞および向上した変異体M3をディスプレイする酵母細胞の混合物を用いる単一パス濃縮を実施した。M3変異体scFvをディスプレイする細胞を、さらに、ハイグロマイシン発現カセットで形質転換した。発現レベルへの有意な効果は観察されなかった。M3細胞を、1/1000の比率でバックグラウンドD1.3細胞へ混合し、最適な識別のために、0.3nMの抗原濃度において平衡に達するまで、インキュベートした。約0.1%のソーティングウィンドウでの高純度モードで細胞をソーティングした(示していない)。濃縮係数を、選択プレート上での力価測定により決定し、800の最大濃縮が得られた。濃縮は、濃縮前および後の選択プレート上でのレプリカプレーティング(replica plating)によって計算することができる。
【0148】
実施例11:Yarrowia lipolyticaにおける複製型ベクターを用いた表面ディスプレイ
pPOX2プロモーターにより駆動されるscFv−AGA2発現カセット、およびYarrowia lipolyticaにおける複製増殖のためのARS18を含有するように、複製型ベクターを構築した(図15)。(AGA1−AGA2ヘテロダイマー化のための)AGA1発現カセットを含有するYarrowia lipolytica株への形質転換により、1.2×10/μgの形質転換効率が得られた。この効率は、ゼータに基づいた組込みを用いるランダム組込みについて観察することができたものと比較して、20倍高かった。ライブラリー構築について、高い形質転換効率は、所望の複雑度を得るのに有利である。プラスミド増殖を保つために、細胞を、ロイシンの非存在での選択条件下で増殖させた。
【0149】
選択条件(CSM−ロイシンを補充した最少培地)下および非選択条件(CSMを補充したMM)下の両方に関して、増殖した10個のクローンについて発現研究を、FACSを用いて実施した。組込み型プラスミドについて観察されたこと(図16A)とは違って、複製型ベクターで形質転換された細胞の誘導により、scFvを発現しなかった細胞集団が存在する。この陰性集団は、細胞が選択圧下で増殖した場合でさえも存在し(図16B)、プラスミド喪失がこの観察の根拠ではなかったことを示した。この現象は、表面ディスプレイのために複製型プラスミドを用いたS.cerevisiaeにおいて観察することができることと類似している。10個のクローンの分析により、細胞の平均43%がscFvの表面発現に関して陽性であることが明らかにされた(図16B参照)。平均蛍光強度は、組込み型プラスミドを用いて得られた結果と異ならなかった(すなわち、平均蛍光は同じ範囲内であった)。
【0150】
実施例12:FACSを用いる濃縮実験
D1.3の多様化ライブラリーをディスプレイする酵母細胞の混合物を用いる濃縮を、1nMの抗原濃度で実施した。約0.1%のソーティングウィンドウでの高純度モードで細胞をソーティングした(示していない)。連続した3ラウンドのソーティングを実行した。以下の2個のより高い親和性のクローンを単離した:1.7nMの親和性を示すクローン1(Ile160Val、Thr228Ala)、および2.2nMの親和性を示すクローン2(Ile160Val)。
【0151】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明と共に記載されているが、前記の説明は例示を意図し、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲の範囲によって定義されることは理解されているはずである。他の態様、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットであって、該融合配列は、
アンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸配列、および
該第1の核酸配列にインフレームで融合した抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸配列
を含む、発現カセット。
【請求項2】
アンカーポリペプチドをコードするアンカーヌクレオチド配列を含む第1の核酸配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットであって、該第1の核酸配列は、第2の核酸配列によってコードされる目的の第2の融合パートナーを含む融合ポリペプチドにおける第1の融合パートナーとして発現され得る、発現カセット。
【請求項3】
前記目的の第2の融合パートナーをコードする第2の核酸配列をさらに含む、請求項2に記載の発現カセット。
【請求項4】
制限部位の全部または一部をさらに含む、請求項3に記載の発現カセット。
【請求項5】
前記目的の第2の融合パートナーが抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む、請求項3に記載の発現カセット。
【請求項6】
前記抗体ポリペプチド断片がscFv断片である、請求項1または請求項5に記載の発現カセット。
【請求項7】
前記抗体ポリペプチド断片がFab断片の重鎖である、請求項1または請求項5に記載の発現カセット。
【請求項8】
前記抗体ポリペプチド断片がFab断片の軽鎖である、請求項1に記載の発現カセットベクター。
【請求項9】
前記第1の核酸配列が前記第2の核酸配列の3’に融合しており、ここで、前記融合配列から産生される融合ポリペプチドが、N末端の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片およびC末端のアンカーポリペプチドを含む、請求項1または3〜8のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項10】
前記第1の核酸配列が前記第2の核酸配列の5’に融合しており、ここで、前記融合配列から産生される融合ポリペプチドが、N末端のアンカーポリペプチドおよびC末端の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む、請求項1〜8に記載の発現カセット。
【請求項11】
前記プロモーターが構成的である、前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項12】
前記プロモーターが誘導性である、前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項13】
前記プロモーターがPOX2またはLIP2プロモーターである、請求項12に記載の発現カセット。
【請求項14】
前記プロモーターが半構成的である、前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項15】
前記プロモーターがhp4dプロモーターである、請求項14に記載の発現カセット。
【請求項16】
リーダーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むリーダー核酸配列をさらに含む前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセットであって、該リーダー核酸配列が、前記第1の核酸配列および前記第2の核酸配列の5’にインフレームで融合している、発現カセット。
【請求項17】
前記リーダーポリペプチドが、LIP2 pre、LIP2 prepro、XPR2 pre、およびXPR2 preproからなる群より選択される、請求項16に記載の発現カセット。
【請求項18】
リンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むリンカー核酸配列をさらに含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項19】
前記リンカー核酸配列が、前記第1の核酸配列と前記第2の核酸配列との間にインフレームで融合している、請求項18に記載の発現カセット。
【請求項20】
前記抗体ポリペプチドがscFv抗体ポリペプチドを含み、前記リンカー核酸配列が、該scFvポリペプチドの可変領域をコードする重鎖核酸配列と可変領域をコードする軽鎖核酸配列との間にインフレームで融合している、請求項18に記載の発現カセット。
【請求項21】
前記リンカーポリペプチドが、(Gly4Ser)(配列番号14)または(GlySer)(配列番号15)を含む、請求項18〜20のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項22】
1つまたは複数のエピトープタグをコードするヌクレオチド配列を含む1つまたは複数の核酸配列をさらに含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項23】
前記1つまたは複数のエピトープタグが、c−Myc、V5、ヘキサヒスチジン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ストレプトアビジン、ビオチン、赤血球凝集素、Flag−タグ、およびE−タグからなる群より選択される、請求項22に記載の発現カセット。
【請求項24】
前記アンカーポリペプチドが、Aga1pポリペプチドまたはその断片、Aga2pポリペプチドまたはその断片、およびSag1pポリペプチドまたはその断片からなる群より選択される、前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項25】
前記抗体ポリペプチドもしくは抗体ポリペプチド断片、前記アンカーポリペプチド、またはその両方が、Yarrowia細胞における発現のためにコドン最適化されている、前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項26】
前述の請求項のいずれか一項に記載の発現カセットを含むベクター。
【請求項27】
ゼータエレメントをさらに含む、請求項26に記載のベクター。
【請求項28】
前記ゼータエレメントがレトロトランスポゾンの長い末端反復である、請求項27に記載のベクター。
【請求項29】
前記ゼータエレメントがYlt1またはTyl6レトロトランスポゾンの長い末端反復である、請求項28に記載の発現カセット。
【請求項30】
1つまたは複数の常染色体複製エレメントをさらに含む、請求項26に記載のベクター。
【請求項31】
少なくとも1つの常染色体複製エレメントがセントロメア(CEN)および複製起点(ORI)を含む、請求項30に記載のベクター。
【請求項32】
前記セントロメアがCEN1またはCEN3であり、前記複製起点がORI1068またはORI3018である、請求項31に記載のベクター。
【請求項33】
自律複製配列(ARS)をさらに含む請求項26に記載のベクターであって、該ARSがセントロメアおよび複製起点を含む、ベクター。
【請求項34】
前記ARSがARS18を含む、請求項33に記載のベクター。
【請求項35】
前記ARSがARS68を含む、請求項33に記載のベクター。
【請求項36】
1つまたは複数の選択マーカーをコードするヌクレオチド配列を含む1つまたは複数の核酸配列をさらに含む、請求項26〜35のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項37】
前記1つまたは複数の選択マーカーが、LEU2、URA3d1、ADE2、Lys、Arg、Gut、Trp、G3p、およびhphからなる群より選択される、請求項30に記載のベクター。
【請求項38】
Yarrowia細胞の表面上に抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をディスプレイする方法であって、
融合配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む第1のベクターであって、該融合配列は、抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸配列、および該第1の核酸配列にインフレームで融合したアンカーポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸配列を含む、第1のベクターを、第1のYarrowia細胞へ導入する工程、および
ある期間、Yarrowia細胞作動条件下で該第1のYarrowia細胞をインキュベートする工程
を含む、方法。
【請求項39】
前記第1のベクターが請求項20〜25のいずれか一項に記載のベクターである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記抗体ポリペプチド断片がscFv断片である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体ポリペプチド断片がFab断片の重鎖である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項42】
Fab断片の軽鎖をコードする核酸配列に作動可能に連結された第2のプロモーターを含む第2のベクターを、前記第1のYarrowia細胞へ導入する工程をさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記抗体ポリペプチド断片がFab断片の軽鎖である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項44】
Fab断片の重鎖をコードする核酸配列に作動可能に連結された第2のプロモーターを含む第2のベクターを、前記第1のYarrowia細胞へ導入する工程をさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記第1のYarrowia細胞が一倍体であり、前記第2のベクターを導入する工程が、前記第1のベクターを含む該第1の一倍体Yarrowia細胞を、該第2のベクターを含む第2の一倍体Yarrowia細胞と接合させる工程を含み、該第1のYarrowia細胞と該第2のYarrowia細胞とが反対の接合型である、請求項42または44に記載の方法。
【請求項46】
第1の核酸配列が第2の核酸配列の5’に融合しており、ここで、前記融合配列から産生される融合ポリペプチドが、N末端の抗体ポリペプチドまたはその抗体ポリペプチド断片およびC末端のアンカーポリペプチドを含む、請求項38〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
第1の核酸配列が第2の核酸配列の3’に融合しており、ここで、前記融合配列から産生される融合ポリペプチドが、N末端のアンカーポリペプチドおよびC末端の抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含む、請求項38〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記Yarrowia細胞作動条件が低い誘導温度を含む、請求項38〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記低い誘導温度が、約摂氏15度から摂氏25度の温度を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記低い誘導温度が、約摂氏20度の温度を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記Yarrowia細胞作動条件が短い誘導時間を含む、請求項38〜50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記短い誘導時間が約24時間以下を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記短い誘導時間が約16時間以下を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記短い誘導時間が約16時間を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記Yarrowia細胞作動条件が低いpHを含む、請求項38〜54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記低いpHが約2から約4のpHを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記低いpHが約3のpHを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
Yarrowia細胞作動条件が高い通気条件を含む、請求項38〜57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記高い通気条件が振盪フラスコ内でのインキュベーションを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
Yarrowia細胞作動条件が、前記第1のYarrowia細胞を最少培地中でインキュベートすることを含む、請求項38〜59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記最少培地が、酵母抽出物、Bactoペプトン、またはその両方を欠く培地である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記第1のベクターがYarrowiaゲノムへ組み込まれる、請求項38〜61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記Yarrowia細胞がシャペロンを発現する、請求項38〜62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記シャペロンが、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ、Kar2/Bip、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記アンカーポリペプチドが、Aga1pポリペプチドもしくはその断片、Aga2pポリペプチドもしくはその断片、またはSag1pポリペプチドもしくはその断片からなる群より選択される、請求項38〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
請求項38〜65のいずれか一項に記載の方法によって得られる抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片。
【請求項67】
標的ポリペプチドを結合する抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を含むYarrowia細胞を選択する方法であって、
抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片を表面上にディスプレイする親Yarrowia細胞を供給する工程、
該親Yarrowia細胞を試験ポリペプチドと接触させる工程、および
該ディスプレイされた抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片が該標的ポリペプチドを結合する場合に、該親Yarrowia細胞を選択する工程
を含む、方法。
【請求項68】
前記親Yarrowia細胞が、請求項38〜65のいずれか一項に記載の方法によって産生される、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記選択された親Yarrowia細胞から、前記抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片の第1の発現カセットを単離する工程、
該抗体ポリペプチドまたは抗体ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列に1つまたは複数の変化を導入して、改変型発現カセットを作製する工程、
該第1の発現カセットを欠く第2のYarrowia細胞へ該改変型発現カセットを導入して、改変型Yarrowia細胞を作製する工程、
該改変型Yarrowia細胞をある期間、Yarrowia細胞作動条件下でインキュベートする工程、
該改変型Yarrowia細胞を前記標的ポリペプチドと接触させる工程、および
該改変型Yarrowia細胞が、該親Yarrowia細胞より高い親和性またはアビディティで該標的ポリペプチドを結合する場合に、該改変型Yarrowia細胞を選択する工程
をさらに含む、請求項67または68に記載の方法。
【請求項70】
請求項1〜25のいずれか一項に記載の発現カセットを含むキット。
【請求項71】
請求項26〜37のいずれか一項に記載のベクターを含むキット。
【請求項72】
Yarrowia細胞をさらに含む、請求項70または71に記載のキット。
【請求項73】
前記発現カセットを用いるための書面による使用説明書をさらに含む、請求項70または72に記載のキット。
【請求項74】
前記ベクターを用いるための書面による使用説明書をさらに含む、請求項71または72に記載のキット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【公表番号】特表2013−517761(P2013−517761A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549441(P2012−549441)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/IB2011/000227
【国際公開番号】WO2011/089527
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509275507)オキシレイン ユーケー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】