説明

酵母醗酵飼料及びその製造方法

【課題】おからを利用して、消化性吸収を高めた嗜好性良好な、特に、豚用に嗜好性を高めた高品質の酵母醗酵飼料を確立すること。
【解決手段】おからを酵母醗酵させてなる醗酵飼料を容易につくることは最適な生地ずくりをする事であり、異常発酵を起させない為には嫌気醗酵ではなく、準嫌気醗酵させることである。
更に、嗜好性を上げる為には生地に甘味を付与することにより確立出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大豆加工工場〈豆腐、油揚げ、豆乳製造等〉から大量に出るおからを有効な資源として利用せんとするもので、適正なる条件を設定する事によって、醗酵飼料とし、嗜好性と可消化養分総量をあげ、特に、嗜好性の高い豚用の飼料を容易に作る事が出来るおからの酵母醗酵飼料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場の生産規模は大規模化して来ており、おからも単位工場で大量に排出される様になってきた。それに伴い、大半のメーカーではおからの乾燥処理を進めて来たが、大型設備とランニングコストがかさみ、採算が取れない状態となって来ている。
一方小中規模メーカーの一部では、そのまま飼料にしたり、肥料としているが問題を抱えており、全体的にみて、今だに良い処理方法は見出せていない。
おからは水溶性成分の多くが抽出された残渣であり、粗蛋白、粗脂肪、可消化性養分に富むものの、繊維質が多く、消化吸収の点で良好であるとは言えない。
そして、おからは水分が多く、排出の温度が高いため、特に夏場は耐熱性菌や雑菌の繁殖しやすい環境にある。
これを直接飼料に向けた場合、異臭で、食いつきが悪いばかりか、家畜の消化器系の疾患を引き起こす事も稀ではない。
おからは日本国内では、凡そ年間50万トン程度の大量の食品残渣として排出されている。
【0003】
おからをそのまま家畜飼料として利用するのは次のような点で問題がある。
▲1▼含水率が75%乃至85%あり、日持ちしない。
▲2▼含水率が高いので、取扱が容易ではない。
▲3▼家畜の嗜好性が劣り、好んでは食べない、特に豚は最たるものがある。
▲4▼繊維を多く含むので、消化率が低い、従って、家畜は消化不良を起し易くなり、強いては消化器系の疾患を起しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
おからを有効利用しようとする試みは以前から行われている。例えば、特許文献1では、先ず醗酵飼料にし、之を堆肥化する事が提案されている。
【0005】
脱脂大豆、おからを乳酸菌で醗酵させたものを飼料とする試みも行なわれている。
特許文献2には、おからと大量のフイチン分解作用のある小麦破砕物との混合物を乳酸醗酵させることにより、醗酵飼料を製造する方法が提案されている。
【0006】
特許文献3に見るように、おからにビートパルプ等の糟糠類を加え水分調整した上で、繊維分解酵素を加えて、消化性及び嗜好性を上げた醗酵飼料を製造する方法が提案されている。
【0007】
豆腐を製造の際に出来る“ゆ”に、乳酸菌を静置培養し、それにおからを加え、24時間静置培養する。然る後、醗酵したおからを濾過する方法でつくる醗酵飼料を特許文献4で提案されている。
【0008】
おからをパン酵母とグルコースの混合物で覆い一方弁機能弁を取り付け、アルコール醗酵させて、おからを日持ちさせる方法が特許文献5で提案されている。
【0009】
おからを天然酵母で醗酵させ、醗酵期間が2日乃至10日を要する処理方法で、醗酵飼料をつくる方法が特許文献6で提案されている。
【0010】
PHを4〜5に調節し、水分を77%以下に脱水し、嫌気醗酵してサイレージ化する方法が特許文献7で提案されている。
【特許文献1】特開平8−217585
【特許文献2】特開平9−140334
【特許文献3】特開平9−51762
【特許文献4】特開2005−261390
【特許文献5】特開2006−197809
【特許文献6】特開平6−169700
【特許文献7】特開昭59−213366
【0011】
等々提案されている。しかしながら、これ等の方法は特別な装置が必要であったり、操作が複雑、面倒であったり、更に原料、材料を大量に使用するため高原価となったりして、いま一歩実用化されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
大量に出るおからをサイレージにすることは既に、低原価おからサイレージの製造方法、で提案しているが、しかしサイレージは乳酸醗酵させてなるもので、当然酸臭、酸味があり、反芻動物は好んで食べるが、単胃動物の豚は酸臭、酸味を忌避して食べない。
そこで、豚の嗜好性が高い、おからの酵母醗酵飼料を創出するものである。
特別な装置を必要とせず、操作は簡単であり、醗酵は早く、製品は長期に保管が出来る、おから酵母醗酵飼料の製造方法を提供するものであり、
畜産飼料として用いた場合、豚、牛の嗜好性は良く、特に豚の嗜好性は顕著なものがある、消化吸収は良く、栄養価も高く、増体効果が出る。
該飼料の畜産業、特に、養豚業への用途を提供しようとするものである。
【課題を解決する為の手段】
【0013】
上記の問題を解決する為には、おからに水分調整剤として、濃厚飼料又は糟糠類を加え、調整した上で、適量の有機酸とブドウ糖を加え、更に酵母菌を加えて、生地の調整を行なう。調整出来たものを準嫌気的雰囲気にして、醗酵させると上記課題が解決できる。
【0014】
本発明に用いるおからは、出来るだけ新鮮な物が好ましく、製造後数時間内のもとし、10時間以上経過した物は往々にして酸敗が起っており、PHも低下しておる、腐敗臭もする。この様なおからは目的の酵母醗酵には適さない。
【0015】
本発明に用いるPH調整はPHを下げる事によって雑菌繁殖を抑制するもので、PH調整剤は飼料添加物で認められているものであれば良い、PH調整が軽微であるので、液状有機酸でも差し支えない。
雑菌の繁殖を抑える為、生地のPHを6以下にする必要がある。一方4以下にすると酵母醗酵を阻害することになり、酸味酸臭を生じるので不適である。
【0016】
本発明で醗酵飼料の生地水分は60乃至70重量%にするのが望ましく、60重量%以下にすれば、原価コストが高くなり、70重量%以上にすれば、異常醗酵が起りやすくなって、往々にして、悪臭がするようになる。悪臭、酸臭は豚飼料としては避けなければならない。
【0017】
本発明に用いるおからの水分調整剤は糟糠類にはビートパルプ、ふすま、米糠、コーンコブミール等がある。一方濃厚飼料にはトウモロコシ、グレインソルガム、小麦、大麦、玄米、大豆等が有る。この中で、入手が容易で、安定的で、価格も低廉でなければ成らない。従って糟糠類ではコーンコブミール、ビートパルプミール、濃厚飼料では大麦ミールを用いるのが好適である。
【0018】
本発明に用いる糖類としてはブドウ糖、蔗糖があるが、中でも単糖類のブドウ糖が資源として有効に取り込まれるので好ましい。
【0019】
本発明に用いる酵母菌は取り扱いの煩雑を避けるために、ドライ酵母を使用する事が望ましい。
添加量は生地に対し、1重量%以上の添加ではコストが掛かり、また0.1%重量以下では少なくて酵母醗酵しない。
菌種は嗜好性が要求されるので、清酒酵母、ビール酵母ではなく、パン酵母を用いる。酵母菌種は次のものを用いる。
Saccharomyces cerevisiae
【0020】
以下、実施例を参照しながら、本発明をより詳しく説明するが、本発明が実施例に限定されない事は言うまでも無い。
【0021】
飼料では嗜好性も重要な要素で、特に豚では、腐敗や酸敗での酸臭、酸味は嫌い、食べない。乳酸醗酵させたおからサイレージも同様である。
一方、甘味、甘臭は嗜好性を多いに高めるもので、飼料の甘味甘臭は必須であって、そのウェイト大きい。しかし糖類等を大量に添加する事は醗酵に著しい影響を与えるばかりか、微生物の資源として利用され、甘味の付与には貢献しない場合がある。又コスト面でも経済的な負担は大きい。
従って、甘味を付与する為には、飼料添加物として許可されている呈味料のサッカリンナトリウムを使用し、生地に対し0.005重量%乃至0.05重量%添加することが最適である。
【0022】
おからを酵母醗酵させる際、酵母菌と同じ真菌類の黴が繁殖しやすい、之を防止する為には嫌気的状態にする事であるが、嫌気的にする事はサイレージを作る事になるので、完全嫌気状態には出来ない。
従って、準嫌気状態とし、一方防黴剤のプロピオン酸カルシウムを0.3重量%〜1.5重量%使用して、黴の発生を防ぐ事が必要である。しかし、大量に使用すると酵母菌の繁殖も阻害する。
準嫌気状態にするには、出来るだけ空気は取り除いた後、完全密封しないで封鎖するに止める。従って、系より発生したCO、エタノール等は醗酵容器より排出されされるが、空気の出入は無い状態とする事が望ましい。
【実施例1】
【0023】
防黴剤の必要性とその添加量について検討した。
おからを製造直後に4、000g採取した、そのおからの含水量は75.4%であった。
それに糟糠類のコーンコブミールを600g加え、良く混合して、水分調整した。
調整後の水分は66.4%であつた。
それに、87重量%の蟻酸を3.7ml、ブドウ糖46g、イースト菌25.5g加え均一に混合し、2Lポリ袋に各々900g入れ、それにプロピオン酸カルシウムを各、a;2.9g ,b;3.8g ,c;4.9g ,d;6.4g ,e;8.3g 、加え良く混合した。
きつく口を絞って、準嫌気状態(新しい空気は入らないが、発生した炭酸ガス、エチルアルコールは排出可能な状態とする)にし、8日間醗酵させた(醗酵温度20〜29℃)。
その結果はつぎの通であつた。
【表1】

【0024】
実験結果の評価
プロピオン酸カルシウムの黴発生防止効果は何れの添加量のもでも、あつたが腐敗臭、異臭が全く感じられないものとなると調整生地に対し0.7%以上の添加量のものでなければ成らない事が分った。
【実施例2】
【0025】
飼料の嗜好性を上げるため、特に豚用の嗜好性を上げるため、甘味料の添加が不可欠であり、飼料添加物で認められている甘味料(サツカリンナトリウム)の添加の有意性について検討した。
おからを製造直後に4、600g採取した、そのおからの含水量は74.4%であった。
それに濃厚飼料の大麦ミールを700g加え、良く混合して、水分調整した。
調整後の水分は67.6%であつた。
それに、87重量%の蟻酸を4.2ml、ブドウ糖53g、イースト菌29.2gプロピオン酸カルシウム37.1g加え均一に混合し、2Lポリ袋に各々800g入れ、それにサッカリンナトリウムを各、イ;0 ,ロ;0.04g ,ハ;0.08g ,ニ;0.27g ,ホ;0.54g 、ヘ;0.8g 加え良く混合した。
きつく口を絞って、準嫌気状態(新しい空気は入らないが、発生した炭酸ガス、エチルアルコールは排出可能な状態とする)にし、14日間醗酵させた(醗酵温度18〜29℃)。
その結果は次の通であつた。
【表2】

【0026】
実験結果の評価
豚の嗜好性を示すものは、甘味料(サツカリン酸ナトリウム)の若干の添加量でも示すが、競って食べるのは調整生地に対し0.03%以上の添加量である必要がある事が分かつた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
おからを水分、PH、糖類等の調整をし、準嫌気的雰囲気下で酵母醗酵させて作る醗酵飼料の製造方法。
【請求項2】
おからに濃厚飼料又は糟糠類のミールを加える事により、醗酵生地の水分調整を行い生地の含水率を60〜70%に調整する事を特徴とする[請求項1]に記載の醗酵飼料の製造方法。
【請求項3】
調整生地のPHを蟻酸又はフマル酸を用いて4.0〜6.0に調整する[請求項1]に記載の醗酵飼料の製造方法。
【請求項4】
ブドウ糖を調整生地に対して0.1〜2重量%添加し、酵母菌の資源とする[請求項1]に記載の醗酵飼料の製造方法。
【請求項5】
ドライイースト菌を調整生地に対し0.1〜2重量%用いてなる[請求項1]に記載の醗酵飼料の製造方法。
【請求項6】
高感度甘味料のサツカリンを調整生地に対し0.005〜0.05重量%加えてなる[請求項1]に記載の醗酵飼料の製造方法。
【請求項7】
防黴剤のプロピオン酸カルシウムを調整生地に対し、0.1〜1.5重量%加えてなる[請求項1]に記載の醗酵飼料の製造方法。
【請求項8】
醗酵装置は内装容器入りのフレコンバック又はビニール袋を使用する事を特徴とする請求項1記載の醗酵飼料の製造方法。
【請求項9】
醗酵期間は醗酵温度が25℃〜35℃で4日、5℃〜25℃で、凡そ14日であることを特徴とする[請求項1]に記載の醗酵飼料の製造方法。

【公開番号】特開2013−102762(P2013−102762A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260958(P2011−260958)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(593154300)株式会社ビーテイン研究所 (8)
【Fターム(参考)】