説明

酵素による乳酸エステルの合成法

【課題】乳酸から乳酸エステルを合成する反応を、酵素触媒を用いて行うことにより、合成エネルギーの削減および副反応の抑制を実現し、乳酸エステルの合成コストを削減する。
【解決手段】乳酸の酸性による酵素の失活を抑制する効果のある極性溶媒、エーテル、ケトン類を反応溶媒として用いることによって、乳酸による酵素の失活を抑制し、その結果、乳酸濃度が1.0M〜2.5Mという高い条件および長期間連続の反応においても、酵素を触媒とした乳酸エステルの合成を可能とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素による乳酸エステルの合成法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より乳酸エステルの合成には、2つの目的がある。その第1は、製品としての乳酸エステルの合成であり、第2は、乳酸を精製する手段のひとつとして重要である。前者の製品として合成された乳酸エステルは、香料・保温剤・発泡剤などとして食品・医薬品・化粧品への添加剤として広く利用されているだけでな<、近年の環境意識の高まりに伴い、生分解性の溶剤として塗料や接着剤などにも用いられ、さらには精密機械製造工程における洗浄剤としても注目されている。後者の乳酸の精製手段というのは、乳酸はエステル形態にすることで乳酸発酵液由来の水や不純物と蒸留によって容易に分離できるためである。
【0003】
いずれの目的においても従来、乳酸エステルは、高温の化学合成法により製造されるのが普通である。具体例としては、乳酸とアルコールを混合し、硫酸などの酸触媒を加え、120℃程度で加熱・還流することによって脱水縮合を進行させるという合成法である。
【0004】
しかし、この従来の化学合成法は、(1)合成に必要な熱エネルギーが多いこと、(2)高温、低水分環境において乳酸の自己重合が起こること、(3)反応選択性が低いこと、(4)原料・生成物が熱に不安定である場合これらが熱分解する危険性があること、などの問題点が存在していた。
【0005】
そこで、発明者らは、常温でも可能な酵素法による乳酸エステルの合成法の確立を試みた。なぜならこの酵素法によるエステル合成法には、
(イ)反応が常温でも進行するため合成エネルギーが大幅に削減できること、
(ロ)反応温度が低いので乳酸の自己重合を抑制できること、
(ハ)また反応温度が低いので原料の熱分解を防止することができること、
(二)反応選択性が高いこと、
などといった利点があるからである。
【0006】
発明者らはこの酵素による乳酸エステル合成法について鋭意研究を行った結果、この酵素合成法と乳酸の溶媒抽出とを組み合わせることによって、乳酸発酵液または粗製乳酸溶液から有機溶媒を用いて乳酸を収出した後、得られた乳酸を含む抽出液に低級アルコール類を加えて、エステル合成反応を触媒する酵素を固定化したカラムによって、乳酸エステルを製造する方法を開発した(特願2007−043287号)。この発明は、乳酸発酵液からエステル化工程までの操作手順を単純化し、且つ必要な熱エネルギーを削減することにより、乳酸エステルの製造コストを大きく低減することができるという利点があった。
しかしながら、酵素による乳酸のエステル化反応の仕組みについてはまだまだ不明瞭な点が多く、反応条件のさらなる最適化が望まれた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乳酸のエステル化の方法として、乳酸を酵素反応へ適用するには、多くの解決すべき、問題点が存在する。
【0008】
第一は、乳酸は酸性の強い物質であるため、酵素の失活を引き起こす。そのため、従来の乳酸を酵素反応へ適用する試みにおいて、その濃度は非常に低く限定されてきた。
【0009】
第二に、エステル合成反応は脱水縮合反応であるため、水を溶媒として使うことが出来ず、(1)溶媒を使用せずに原料の「カルボン酸とアルコールのみ」の反応系、若しくは(2)反応溶媒として有機溶媒を使用した反応系、のいずれかの非水系で反応を行わなくてはならない。
【0010】
そこで発明者らは、まず(1)溶媒を使用せずに「乳酸とエタノールのみ」の反応液における酵素合成反応を試みたが、この場合には乳酸濃度1.0Mを超えると酵素の失活のためエステル合成量は低下した(実験例1参照)。しかも乳酸濃度1.OMでも長期間の反応では酵素は失活して(実施例6参照)エステル合成が進まないので、実用化は難しいと判断した。
【0011】
他方、(2)有機溶媒を使用した系の場合、条件として反応に直接影響を与える反応溶媒の選択が非常に重要な問題となる。まず、乳酸は非常に極性が高い物質であるため、反応溶媒にはこの乳酸との混和性に優れた極性溶媒が適していると判断できる。しかしながら、非水系の酵素反応において、極性溶媒は、その高い水との親和性によって酵素の活性維持に必須な水和水を奪い、その結果酵素を失活させる傾向が見られる。更に、たとえ極性溶媒中で酵素が失活を免れた場合でも、その活性は概して疎水性溶媒中の方が高くなる。したがって一般的に非水系の酵素反応における反応溶媒には、極性溶媒は望ましくないと考えられ、酵素の安定性・活性の高い疎水性溶媒が用いられてきている。
【0012】
ところが、一般的な疎水性有機溶媒への乳酸の溶解性は非常に低く、両者を混合しても分離してしまう。その結果、たとえ乳酸濃度が低い条件でも反応溶媒と分離し、濃縮された乳酸によって酵素の失活が容易に引き起こされる。さらに、仮に酵素の失活が免れたとしても、この反応液の分離によって、反応液中における触媒の酵素と原料の乳酸とアルコールまたはカルポン酸同士の移動・接触頻度が限定され、反応効率は低下すると考えられる。
【0013】
実際に、一般的な疎水性溶媒の代表としてn−ヘキサンを用いて、等モル量の乳酸とエタノールからの酵素による乳酸エチル合成反応を試みた結果、乳酸はやはり反応液中で分離し、酵素によるエステルの合成は乳酸濃度0.2Mが限界であった(実験例1参照)。
【0014】
従って、酵素触媒による乳酸を原料とした乳酸エステルの合成における技術的課題をまとめると、次のようになる。
(a)乳酸は酸性が高いため、酵素が失活する。
(b)乳酸は極性が高いため「酵素が安定な」疎水性溶媒への溶解性が低い。
(c)「乳酸の溶解する」極性溶媒中では、酵素が失活する傾向がある。
【0015】
上記の「乳酸の酸性による酵素の失活」という課題を解決するため、従来は、(イ)原料に酸をそのまま用いるのではなく、酸エステルや酸無水物を用いるか、(ロ)無機塩による緩衝液を加えて酸の中和を図る、等の手法が試みられてきた。
【0016】
しかしこれらの手法を用いた場合、原料のエステルや無水物を製造する工程、または緩衝液を除去する工程が必要となり、エステル合成工程が全体で複雑になってしまう難点がある。
【0017】
以上のような問題点から、従来は、乳酸のような極性・酸性の強い物質を高濃度で非水系の酵素反応へ適用することは困難と考えられてきた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、このような技術的課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の溶媒には「乳酸の酸性による酵素の失活を抑制する効果」があることを発見し、この溶媒の効果を利用することによって、乳酸濃度が高い条件下においても酵素の失活を防止し、酵素を触媒として乳酸エステルを合成することが可能であるという新たな技術的知見を見出した。
【0019】
本発明は、この新たな技術的知見に基づいて酵素の失活を引き起こすほど酸性が高く、しかも一般的な非水系の酵素反応に用いられる疎水性溶媒への溶解性の低い乳酸を高濃度条件下においても酵素の活性を維持しながら酵素反応へ適用して、酵素を触媒として用いた合成反応により乳酸エステルを合成する方法を開発したものである。
【0020】
特許を受けようとする第1発明は、乳酸の酸性による酵素の失活を抑制する効果の有る反応溶媒として、乳酸と混和し、酵素反応を阻害せず、合成反応において酵素活性の維持安定性が高い、という3つの性質を兼ね備えた極性溶媒若しくは疎水性のエーテル類またはケトン類からなる群から選ばれるものを用いることによって、原料の乳酸濃度が1.0M〜2.5Mという高濃度の条件においても、乳酸による酵素の失活を抑制して、酵素を触媒としたエステル合成反応により乳酸エステルの合成を可能としたことを特徴とする乳酸エステルの合成法である。
【0021】
当該第1発明は、極性が高く、酸性の強い乳酸を原料として、高濃度条件下で非水系の酵素によるエステル合成反応をさせて乳酸エステルを合成する方法である。
その第1条件は、適切な反応溶媒として3つの性質を有していることが求められている。それはまず(イ)乳酸を溶解・混和する性質を有することである。なぜなら、乳酸が反応液中へ溶解すれば、その分だけ乳酸の酸性も反応液中へ分散・希釈されるためである。さらに反応液中における酵素と原料との移動・接触頻度の改善も期待されるからである。次に、当該反応溶媒は、酵素の活性・安定性へ悪影響を与えないことである。具体的には(ロ)酵素を失活させないこと、そして(ハ)酵素の触媒するエステル合成反応を阻害しない性質を有することである。
【0022】
第2条件は、酵素に求められる条件である。それはまず(イ)「乳酸を原料とした乳酸エステル合成反応」を触媒する能力を備えていることである。次に、(ロ)酵素は、反応溶媒に耐性を有すること、(ハ)酵素は、乳酸の酸性に対して耐性を有し安定であることが求められる。
【0023】
そこで発明者らは、様々な酵素と溶媒の中から上記の前提を満たす酵素と溶媒との組合せを探索した。その結果、適切な酵素と溶媒とを組み合わせることにより、乳酸濃度が1.0M〜2.5Mと高い条件においてもエステルの酵素合成が可能であることを確認した。
【0024】
すなわち、本発明は、特定の溶媒には、乳酸の酸性による酵素の失活を防ぎ、乳酸濃度が高い条件においても酵素によるエステル合成を可能にする効果があることを明らかにしたものである。
【0025】
また同時に、溶媒の種類によっては、乳酸自身の酸性によって起こる非酵素的エステル生成反応を抑制する効果も確認した。すなわち、特定の溶媒が酵素の失活を防止するのは、その溶媒によって乳酸の酸が緩和されるためと考えられる。
更に、溶媒の種類によっては、酵素によるエステル合成速度を促進する効果があることも新たに見出した。
【0026】
特許を受けようとする第2発明は、前記乳酸の酸性による酵素の失活を抑制する効果の有る反応溶媒が、アセトン、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランからなる極性溶媒の群、炭素数6までのエーテル類からなる群、および炭素数7までのケトン類からなる群の中から選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載する乳酸エステルの合成法である。
【0027】
当該第2発明は、第1発明に係る乳酸エステルの合成法に適した反応溶媒を具体的に特定したものである。乳酸と混和する極性溶媒のうち、アセトン、アセトニトリル、1,4‐ジオキサン、テトラヒドロフラン等は、後述する酵素を失活させずに本反応へ使用できることを確認した。
【0028】
また反応溶媒として、疎水性であっても乳酸と混和するエーテル・ケトン類も同様に反応に適していることを確認した。具体的にエーテル類とは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert‐ブチルメチルエーテルなどの炭素数6までのエーテル類であり、具体的にケトン類とは、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、ジ‐n‐プロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどの炭素数7までのケトン類が挙げられる。
【0029】
特許を受けようとする第3発明は、前記酵素触媒が、乳酸と反応溶媒に対する耐性を有し、乳酸を原料とした乳酸エステル合成反応を触媒する能力を持ち、固定化又は非固定化の形態をしたリパーゼ又はエステラーゼであることを特徴とする請求項1記載の乳酸エステルの合成法である。
【0030】
当該第3発明は、第1発明に係る乳酸エステルの合成法に適した酵素触媒の条件を特定したものである。酵素に求められる条件は、前述したように、(イ)「乳酸を原料とした乳酸エステル合成反応」を触媒する能力を備えており、(ロ)反応溶媒に耐性を有しており、(ハ)乳酸の酸性に対して耐性を有し安定である、固定化又は非固定化の形態をしたリパーゼ又はエステラーゼであることが求められる。
【0031】
当該条件を備えた酵素触媒として好適な市販品は、例えば次のものについては、アセトン、アセトニトリル、1,4‐ジオキサン、テトラヒドロフランという4種類の溶媒中でエステル合成反応を触媒することを確認した。
LipaseA:Aspergillus niger由来リパーゼ(非固定化品、粉末)
LipozymeRM IM(商標):Rhizomucor miehei由来リパーゼ(担体固定化品)
Novozyme435(商標):Candida Antarctica由来リパーゼ(担体固定化品)
中でも、ノボザイム社製の固定化リパーゼで商標名「Novozyme435」が最も好適であることを確認した。しかし、上記条件を満足させるリパーゼ又はエステラーゼであれば、これに限る必要のないこと勿論である。
【0032】
以上のことから、本発明は、原料と混和し、酵素反応を阻害せず、合成反応において酵素活性の維持安定性が高いという3つ性質を兼ね備えた極性溶媒若しくは疎水性のエーテル類または疎水性のケトン類からなる群から選ばれる反応溶媒を用いることにより、極性が高く、酸性の強い化学物質を原料として、高濃度条件下で非水系の酵素によるエステル合成反応をさせるようにしたことを特徴とする酵素によるエステル合成法を提供したものである。
【発明の効果】
【0033】
乳酸の酸性による酵素の失活を抑制する効果のある反応溶媒を使用することによって、その高い極性・酸性が原因で酵素反応への適用が困難であった乳酸を、1.0〜2.5Mという高濃度の条件においても酵素の活性を維持しながら酵素反応へ適用し、酵素を触媒とした乳酸エステルの合成が可能となった。
しかも、酵素反応は常温でも進行するため、従来の化学法に比べて製造エネルギーは大幅に削減される。
また高温条件下で起こる原料の熱分解や副反応の恐れがなくなること、更に酵素の反応選択性によっても副反応を抑制できるため、製品収率の向上や精製コストの低減も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
乳酸とエタノールを原料とした酵素によるエステル合成反応において、乳酸による酵素の失活を抑制する効果の有る反応溶媒、最適な溶媒としてはtert-ブチルメチルエーテルを用い、エステル合成反応を触媒する酵素、最適な酵素としてノボザイム社製の固定化リパーゼ「Novozyme435」(商標)を用いることにより、乳酸濃度が高い条件でも酵素による乳酸エステル合成を可能とし、乳酸濃度2.5Mで乳酸エチルの合成量が最大となる乳酸エステルの合成法である。
【実施例1】
【0035】
まず、溶媒を使用せずに「乳酸とエタノールのみ」の反応液組成において乳酸濃度が酵素によるエステル合成反応へ及ぼす影響について検討を行った。また対照として、一般的な疎水性溶媒の代表として乳酸と混和しないn−ヘキサンを用いて、等モル量の乳酸とエタノールからの酵素による乳酸エチル合成反応を試み、乳酸とエタノール濃度が酵素反応へ及ぼす影響について検討した。
試験方法は、ノボサイムズ社製の固定化酵素であるNovozyme435(商標)を10mg とり、溶媒・原料濃度等をそれぞれ調整した反応原液1mlを加えて、30℃で100rpm の振とう反応を24時間行い、乳酸エチルの生成量を分析定量した。その結果、これらの条件における酵素によるエステル合成反応では、溶媒無では乳酸濃度が1.0Mを超えるとエステル生成量が減少すること、そしてn−ヘキサンでは乳酸濃度0.2Mが限界であることが分かった。
【0036】
【表1】

【実施例2】
【0037】

各種の極性溶媒について、原料である乳酸とエタノール濃度が酵素反応へ及ぼす影響についての検討を行った。エタノール濃度は乳酸等モル量に設定した。
試験方法は、ノボザイムズ社製の固定化酵素であるNovozyme435(商標)を10mg とり、各溶媒・濃度条件に調整した反応原液1mlを加えて、30℃で100rpmの振とう反応を24時間行い、乳酸エチルの生成量を分析定量した。
その結果、これらの極性溶媒を使用することによって、溶媒無やn−ヘキサンに比べて、乳酸濃度が高い条件においても、酵素によるエステル合成が可能となり、特に1,4-ジオキサンとテトラヒドロフランを使用した場合には、酵素によるエステル生成量が最大となる乳酸濃度は2.5Mまで上昇した。
【0038】
【表2】

【実施例3】
【0039】
次に、各種のエーテル・ケトン類について、原料である乳酸とエタノール濃度が酵素反応へ及ぼす影響についての検討を行った。エタノール濃度は乳酸の2倍量(モル比)に設定した。
試験方法は、ノボザイムズ社製の固定化酵素であるNovozyme435(商標)を10mg とり、各溶媒・濃度条件に調整した反応原液1mlを加えて、30℃で100rpmの振とう反応を24時間行い、乳酸エチルの生成量を分析定量した。
その結果、これらの溶媒を使用した場合も、乳酸濃度が高い条件において酵素によるエステル合成が可能となった。これらエーテル・ケトン類の中で酵素によるエステル合成が可能な乳酸濃度が最も高いのは、tert-ブチルメチルエーテル、次いでメチルイソブチルケトンおよびジエチルエーテルであり、酵素によるエステル生成量が最大となる乳酸濃度は2.5Mまで達した。
【0040】
【表3】

【実施例4】
【0041】
各反応溶媒・乳酸濃度において、乳酸の酸性によって非酵素的に生成するエステルの量の比較を行った。反応液組成が乳酸とエタノールのみの溶媒無の条件を除き、乳酸とエタノール濃度は等量(モル比)に設定した。
試験方法は、各溶媒・濃度条件に調整した反応原液について30℃で100rpm の振とう反応を24時間行い、乳酸エチルの生成量を分析定量した。
その結果、表4,5に示すように、非酵素的エステル生成量はヘキサンの場合に最も多くなり、これは乳酸が反応液において分離し、局所的に乳酸濃度すなわち酸性が高くなった結果と推測できる。それ以外の乳酸と混和する極性溶媒・エーテル・ケトン類の場合は、溶媒の分だけ原料であるエタノールが減っているため、その非酵素的エステル生成量が溶媒無の条件よりも少ないことは当然の結果といえるが、その値は溶媒によって異なる。すなわち、この値が小さいほど、非酵素的エステル生成を抑制する効果が強いことを意味し、この抑制効果が最も強いのは1,4-ジオキサンであり、次がテトラヒドロフランであった。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【実施例5】
【0044】
各溶媒が酵素による乳酸エチル合成反応の速度へ及ぼす影響を検討した。乳酸濃度は1.0、2.0および2.5M、エタノール濃度は、反応液組成が乳酸とエタノールのみの溶媒無の条件を除き、乳酸の2倍量(モル比)に設定した。
試験方法は、ノボザイムズ社製の固定化酵素であるNovozyme435(商標)を10mg とり、各溶媒・濃度条件に調整した反応原液1mlを加えて、30℃で100rpm の振とう反応を2時間行い、乳酸エチルの生成量を分析定量した。
その結果、表6に示すように、乳酸濃度1.0Mではエーテルと炭素数5以上のケトンにおいて、2.0Mでは上記エーテル・ケトンに加えてジオキサンにおいて、2.5Mでは検討した全ての溶媒において、溶媒無よりも酵素による乳酸エチル合成速度が向上することを確認した。
【0045】
【表6】

【実施例6】
【0046】
酵素を繰り返し使用し、4週間連続で乳酸エチル合成反応を行い、その間の酵素の活性へ溶媒が与える影響について検討を行った。
乳酸濃度は1.0Mと2.0M、エタノール濃度は反応液組成が乳酸とエタノールのみの溶媒無の条件を除き、乳酸の2倍量(モル比)に設定した。10mg の酵素Novozyme435(商標)に反応液1mlを添加し、30℃で100rpm の振とう反応を行った。反応開始から最初の一週間は、24時間毎に生成物を分析し、その都度反応液の90V/V%を未反応のものと交換した。それ以降は一週間毎に同様に反応液の交換を行い、この交換の24時間後の生成物を分析した。
その結果、溶媒無ではいずれの条件においても酵素の失活によるエステル生成量の低下が見られたが、乳酸濃度1.0Mでは全ての溶媒において、乳酸濃度2.0Mでもtert-ブチルメチルエーテルを使用した場合には4週間もの間エステル生成量はほとんど変化せず、これらの溶媒が長期間のエステル合成反応においても酵素の失活を防止できることを確認した。
【0047】
【表7】

【0048】
本発明は、乳酸のように極性・酸性の強い物質を原料として、非水系の酵素反応におけるエステル合成反応を可能とする。したがって、従来の化学合成法に比べて合成に必要なエネルギーの削減や副反応の抑制などが実現されるため、工業的エステル合成法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸の酸性による酵素の失活を抑制する効果の有る反応溶媒として、乳酸と混和し、酵素反応を阻害せず、合成反応において酵素活性の維持安定性が高い、という3つの性質を兼ね備えた極性溶媒若しくは疎水性のエーテル類またはケトン類からなる群から選ばれるものを用いることによって、原料の乳酸濃度が1.0M〜2.5Mという高濃度の条件においても、乳酸による酵素の失活を抑制して、酵素を触媒としたエステル合成反応により乳酸エステルを合成するようにしたことを特徴とする乳酸エステルの合成法。
【請求項2】
前記乳酸の酸性による酵素の失活を抑制する効果の有る反応溶媒が、アセトン、アセトニトリル、1,4‐ジオキサン、テトラヒドロフランからなる極性溶媒の群、若しくは炭素数6までのエーテル類からなる群、および炭素数7までのケトン類からなる群の中から選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載する乳酸エステルの合成法。
【請求項3】
前記酵素触媒が、乳酸と反応溶媒に対する耐性を有し、乳酸を原料とした乳酸エステル合成反応を触媒する能力を持ち、固定化又は非固定化の形態をしたリパーゼ又はエステラーゼであることを特徴とする請求項1記載の乳酸エステルの合成法。


【公開番号】特開2009−142217(P2009−142217A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323584(P2007−323584)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 第59回日本生物工学会大会講演要旨集 発行日 平成19年8月2日 発行所 社団法人日本生物工学会 研究集会名 第59回日本生物工学会大会 主催者名 社団法人日本生物工学会 開催日 平成19年9月25・26・27日
【出願人】(303036326)株式会社東北バイオマス技研 (7)
【Fターム(参考)】