説明

酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物

本発明は、バインダー系の形態を有するバインダー相と顔料相を含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物を開示し、該顔料相は、(i)多糖および(ii)キャリア材料(例えば該多糖)に固定されて該多糖の加水分解を促進する酵素を含有する。酵素は、グルコアミラーゼであってもよく、多糖はデンプンであってもよい。該塗料組成物で被覆した海洋構造物;酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物の調製方法、多糖と酵素の使用であって、塗料組成物において該使用を行うことにより該塗料組成物に自己研磨性を付与する該使用;および塗料組成物の自己研磨効果をもたらすための方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現存する多くの自己研磨型防汚塗料組成物は、酸化第一銅の形態で存在する銅が主成分である。銅は高価な原料であると共に、銅の環境への影響は依然として討論されている。それ故に、銅の含有量を低減させるか、または製品が銅を含まないに等しい防汚塗料組成物への関心が高まっている。一の方法は、酸化第一銅を酸化亜鉛に置換えることである(例えば、国際特許出願公開第97/00919号明細書)。しかしながら、このやり方は以下のような制限を有している:例えば、大量の酸化亜鉛は、変色についての悪い影響を及ぼし得る。酸化第一銅および酸化亜鉛は共に、海水中で若干溶解するので、塗料被膜の研磨特性に強い影響を及ぼしている(Yebra, D.M., kiil,S., Weinell,C., Dam-Johansen,K.(2006年)、「防汚塗料に関する、海水に可溶な顔料の溶出速度の測定:酸化亜鉛」Prog.Org.Coat.第56巻(第4号)、第327頁〜第337頁)。一方、一般的に非水溶性の材料は、研磨特性について負の影響を有している。
【0003】
そのため、自己研磨特性を備えつつも、酸化第一銅および/または酸化亜鉛を他の「顔料/充填剤」成分と部分的または完全に置き換えた、自己研磨型塗料組成物が一般的に要求されている。
【0004】
欧州特許出願公開第866103号A1明細書(日本ペイント)は、マトリックスから抗菌性化合物を放出させる方法を開示する。酵素および酵素用の基質はマトリックス中に組み込まれる。
【0005】
米国特許際5770188号明細書(日本ペイント)は、酵素に感受性のある樹脂と、有機溶媒に可溶であり樹脂の分解を触媒することが可能な、脂質で被覆された酵素とを含有する防汚塗料組成物を開示する。該明細書によると、酵素に感受性のある樹脂にはデンプンを含むことができ、このような場合、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼなどを酵素として使用できる。
【0006】
米国特許出願公開第2002/01106361号明細書(Danisco)は、表面コーティング物質、酵素および酵素基質を含有する防汚組成物を開示する。酵素−基質の組合せの1つは、アミノグルコシダーゼ-デンプン/ヘキソースオキシダーゼ-グルコースにより表されている。該組成物は自己研磨性を有し得る。
【0007】
国際特許出願公開第2006/002630号A1明細書(Biolocus)は、加水分解性のポリマー組成物と、防汚活性を有する第1酵素とを含有する自己研磨型防汚塗料組成物を開示する。ある実施態様によると、加水分解性のポリマー組成物を加水分解できる第2酵素が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許出願公開第97/00919号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第866103号A1明細書
【特許文献3】米国特許際5770188号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2002/01106361号明細書
【特許文献5】国際特許出願公開第2006/002630号A1明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yebra、D.M.,kiil,S., Weinell,C.,Dam-Johansen,K.(2006年)、「防汚塗料に関する、海水に可溶な顔料の溶出速度の測定:酸化亜鉛」Prog.Org.Coat.第56巻(第4号)、第327頁〜第337頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記観点によると、代替的な自己研磨型塗料組成物が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
防汚塗料に関して酵素の使用を開示する先行文献とは対照的に、本発明は、塗料組成物の顔料相に酵素および対応する基質(多糖)を使用することを目的とする。機能的に無傷の状態で酵素を維持し、更に多糖に近接させるために、酵素をキャリアへ固定することが有利であることを見出した。一般的に、該キャリアは、顔料相の別成分であり、好ましい実施態様において、キャリアは多糖である。
【発明の効果】
【0012】
固定される酵素に対応して併用される多糖は、自己研磨型の防汚塗料組成物において使用される常套の顔料および充填剤、特に、水溶性顔料における酸化第一銅および酸化亜鉛の少なくとも一部と適切に置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、三段階の過程に分類される、防汚塗料の研磨に関するメカニズムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、例えば酸化第一銅などの海水に可溶性の顔料は、防汚塗料に対して適当な研磨速度を付与するのに重要であることを示す。海水に可溶性の顔料の崩壊は、海水で充填された多孔質バインダー材の溶脱相(バインダー相の残渣)をもたらす。溶脱相は、海水−塗料界面における表面積を著しく増加させるので、バインダー相残渣の崩壊につながる反応速度を加速させる。したがって、酸化第一銅と置き換わり得るものは、塗料の顔料相を部分的または完全に構成できる形態である必要がある。顔料の特性に加えて、酸化第一銅と置き換わるものは、水中で連続的に溶解する必要もある。
【0015】
本発明は、多糖(特に微粒子形態)が塗料向けの「顔料」に適しており、また、それらの加水分解を促進できる酵素を、多糖の分解を制御するのに使用できるという事柄に基づく。しかしながら、一般に、多糖分解酵素は、溶液でのみ得ることができ、酵素の水溶液を含有する塗料を配合することは、溶媒を基剤とする防汚塗料を製造する際に面倒である。塗料の製造に純粋な酵素を使用する場合であっても、酵素活性の激しい減少に起因して、酵素が乾燥防汚塗料のバインダー相に取り込まれることも影響を受け得る。これらの欠点は、キャリア材料、具体的には防汚塗料組成物の顔料相に含まれる材料に酵素を固定する本発明によって解消された。それ以外に、本発明方法において、水に不溶性の多糖は、例えば研磨型防汚塗料における酸化第一銅および酸化亜鉛に対する代替物として適用できる。
【0016】
したがって、驚くべきことに、本発明の発明者は、塗料組成物の顔料相中に、多糖と、キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進する酵素とを取り込むことを見出した。これによって、常套の自己研磨型の防汚塗料組成物に対する興味深い代替物が提供される。
【0017】
それ故に、第1の態様において、本発明は、バインダー系の形態を有するバインダー相と顔料相を含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物に関し、該顔料相は(i)多糖および(ii)キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進する酵素を含有する。
【0018】
別の態様において、本発明は、本明細書において定義したような塗料組成物から構成される1または複数の連続層で被覆された海洋構造物に関する。別の実施態様において、本発明は、本明細書において定義したような酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物を調製する方法に関する。別の実施態様において、本発明は、塗料組成物に自己研磨性を付与する際に、多糖と、キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進できる酵素とを使用すること関する。別の実施対応において、本発明は、塗料組成物の自己研磨効果を付与する方法に関し、該方法は、塗料組成物内に、多糖と、キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進できる酵素を配合する工程を含む。
【0019】
図面の説明
図1は、三段階の過程に分類される、防汚塗料の研磨に関するメカニズムを示す。
1:バインダー系を含むバインダー相と、顔料および/または充填剤を含む不連続相から構成される防汚塗料を示す。新たに浸漬された防汚塗料は、海水に溶解できる顔料を海水内へ浸出させる。
2:海水に可溶性の顔料により取り残された間隙を充填する海水は、塗料の溶脱層を形成する。水と塗料の界面の表面積は、水とバインダー相残渣の間で更なる相互作用をもたらし得る溶脱層の形成によって増加する。
3:その結果、塗料の最外層は、海水中に放出される。
【0020】
発明の詳細な説明
上述のように、本発明は、バインダー系の形態を有するバインダー相と顔料相を含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物に関し、該顔料相は(i)多糖および(ii)キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進する酵素を含有する。
【0021】
塗料組成物
一般的に、塗料組成物(ペイント、またはペイント組成物と称する場合もある)は、バインダー相(該相は、乾燥により塗膜を形成するので、最終的なペイント被膜の連続層に相当する)と、顔料相(最終的なペイント被膜の不連続相に相当する)から構成される。
【0022】
本明細書において、バインダー相はバインダー系の形態を有する。本明細書において使用される「バインダー系」は、当業者により理解できる常套の系である。更に、本発明の概念において使用される、現段階で好ましいバインダー系の例を以下に記載する。
【0023】
また、塗料組成物は、顔料相の一部として(i)多糖および(ii)該多糖の加水分解を促進できる酵素を含有する。多糖と酵素の組合せにおける具体的な特徴は、該酵素がキャリア材料に固定されることである。以下の記載から明らかなように(更に以下の説明を参照)、キャリア材料は、加水分解を促進する酵素に適する多糖、または別の多糖(すなわち、酵素によって加水分解が促進されない多糖)であってもよく、あるいは完全に異なる種類のキャリア材料であってもよい。しかしながら、キャリア材料は顔料相の構成成分であることが好ましい。
【0024】
最も好ましい実施態様において、バインダー相は塗料組成物の固形分体積の30〜80%を構成し、顔料相は塗料組成物の固形分体積の20〜70%を構成する。好ましい実施態様において、バインダー相は塗料組成物の固形分体積の50〜70%、例えば固形分体積の55〜65%を構成し、顔料相は塗料組成物の固形分体積の30〜65%、例えば固形分体積の35〜55%を構成する。
【0025】
湿重量で表される場合、一般的に、バインダー相は塗料組成物の湿重量の15〜70%、顔料相は塗料組成物の湿重量の30〜85%を構成する。好ましい実施態様において、バインダー相は塗料組成物の湿重量の20〜60%を構成し、顔料相は塗料組成物の湿重量の40〜80%を構成する。
【0026】
1つの理論に制限されるものではないが、(任意のバインダー相成分、顔料、充填剤、防汚剤などの効果に加えて)、多糖と、対応する固定された酵素の組み合わせが、十分で均一および長期に亘る自己研磨速度をもたらす特有の可能性を有していると考えられる。
【0027】
本明細書において使用する場合、「自己研磨」という用語は、塗装した被膜(すなわち、塗料組成物の乾燥膜)が、実施例において規定される「研磨速度試験」に従い測定される場合に、10000海里(18520km)あたり少なくとも1μmの研磨速度を有することを意味する。好ましい研磨速度は、10000海里(18520km)あたり1〜50μmの範囲、特に1〜30μmの範囲である。
【0028】
顔料相
多糖
顔料相は、(i)多糖を含有する。
【0029】
本明細書において使用する場合、「多糖」という用語は、グリコシド結合により相互に結合した複数の単糖で構成されたポリマーを意味する。多糖は、ホモ多糖(すなわち、本質的に同じ単糖で構成される)であってもよく、またはヘテロ多糖(すなわち、2種以上の異なる単糖で構成される)であってもよい。一般的に、多糖は極めて大きく、枝分かれする場合もある高分子である。適当な多糖の分子量は、一般に、少なくとも5000g/モル、特に、少なくとも500,000g/モル、例えば、1,000,000〜100,000,000g/モルまたは5,000,000〜20,000,000g/モルである。対象となる多糖は、好ましくはそれ自体が水に不溶性であるか、あるいは少なくとも95重量%よりも高い量で水に不溶性の成分を含有する。しかし、本発明による最終的なペイント被膜状態で存在する場合、該多糖は、酵素と水との相互作用によって徐々により水溶性へと変化する。
【0030】
適用できる多糖の実例には、デンプン、グリコーゲン、セルロース(例えば、微晶質のセルロース)、ヘミセルロース、グリコピラノース、アミロース、アミロペクチン、キシラン、グルカン、ペクチンが含まれ、これらを単独で用いてもよく、2種以上の多糖と混合して用いてもよい。
【0031】
使用される多糖における水溶性材料の含有量は、一般に、多糖の5重量%を超過すべきでない。
【0032】
好ましい実施態様において、多糖として、特に単一の多糖としてデンプンが使用される。
【0033】
好ましくは、デンプンは、3重量%未満、特に1重量%未満の水溶性成分を含有する。
【0034】
また、好ましくは、デンプンは、少なくとも1,000,000g/モル、例えば少なくとも5,000,000g/モル、例えば少なくとも8,000,000g/モルの重量平均分子量を有する。
【0035】
デンプンの適当な属性には、トウモロコシ、タピオカ、小麦、ジャガイモ、米、サゴ、エンドウ豆またはソテツ由来の「天然の」デンプンが含まれる(実施例1も参照)。
【0036】
別の実施態様において、多糖として、特に特に単一の多糖として、セルロース、特に微晶質のセルロースが使用される。
【0037】
好ましくは、多糖は、最終的なペイント被膜の顔料相中における顔料または充填剤の機能を模倣することができる、微粒子形態で存在する。好ましい実施態様において、平均等価体積粒径(実施例1参照)は、0.5〜50μm、例えば1〜25μmの範囲である。
【0038】
一般に、多糖は、塗料組成物の固形分体積の1〜50%の量、例えば固形分体積の1〜30%の量で存在し、例えば、固形分体積の1〜10%または固形分体積の20〜30%の量で存在する。
【0039】
ある実施態様において、多糖は顔料相の固形分体積の1〜70%の量、例えば1〜40%の量で存在し、例えば固形分体積の1〜15%、または固形分体積の25〜40%の量で存在する。
【0040】
湿重量で表される場合、一般的に、多糖は、塗料組成物の湿重量の1〜30%の量、例えば湿重量の1〜20%の量で存在し、例えば、湿重量の1〜10%または湿重量の15〜30%の量で存在する。
【0041】
ある実施態様において(湿重量で表される場合)、多糖は、顔料相の湿重量の1〜60%の量、例えば湿重量の1〜35%の量で存在し、例えば湿重量の1〜15%または湿重量の20〜35%の量で存在する。
【0042】
酵素
更に、顔料相は、前記多糖の加水分解を促進できる酵素を含有する。
【0043】
顔料相中に、1種以上の多糖が存在する場合、酵素は、該多糖のうちの少なくとも1種に対して加水分解を促進する。2種以上の多糖が存在する実施例の好ましい変形例においては、これらの多糖の加水分解を促進する複数の対応酵素が該顔料相中に存在する。
【0044】
「加水分解を促進できる」という表現は、酵素(または酵素類)が、その酵素作用を発現することにより、多糖内のグリコシド結合を切断できることを意味する。酵素作用に基づき、多糖は、単糖断片、若しくは二糖断片、若しくはオリゴ糖断片へと分解される。興味深い実施例において、酵素が多糖(例えばデンプン)の加水分解(分解)を促進し、対応する二糖またはオリゴ糖へとのみ変換させる場合、該酵素が多糖の加水分解(分解)を促進することによって対応する単糖へと変換させることは実質的に不可能である。
【0045】
一般に、酵素はグリコシダーゼ、すなわち、O-グリコシル化合物およびS-グリコシル化合物を加水分解する酵素(EC3.2.1.)から選択される。アミラーゼ、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびγ-アミラーゼが一般に適用される。
【0046】
酵素(類)の選択は、当業者にとって明らかなように、含まれる多糖(類)に依存する。
【0047】
好ましい実施態様において、デンプンが顔料相に含有される場合、酵素は、アミラーゼ、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびγ-アミラーゼなどから好ましく選択される。
【0048】
セルロース(例えば微晶質のセルロース)が顔料相に含まれる実施態様においては、酵素は、セルラーゼ、例えばエンド-1,4-β-グルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β-グルコシダーゼおよびグルコヒドロラーゼなどから好ましく選択される。
【0049】
酵素(例えば、多糖の加水分解を促進できる酵素(類))は、精製した酵素若しくは粗酵素であってもよく、酵素(類)の起源には微生物、植物および動物が含まれる。
【0050】
好ましい変形例において、顔料相は、多糖の加水分解からもたらされる単糖を酸化する酵素を含まない。酸化種は、多糖を分解する酵素に対して不可逆的な損傷を及ぼし得る。
【0051】
一般に、酵素は、前記酵素と前記多糖の比が、多糖1g当り0.05〜200,000ミリユニット(mu)の範囲の酵素量(例えば、多糖1g当り10〜200,000ミリユニット(mu)の範囲の酵素量、例えば、多糖1g当り10〜75000ミリユニット(mu)の範囲の酵素量)で存在し、より好ましくは多糖1g当り0.5〜20000ミリユニットの範囲の酵素量(例えば、多糖1g当り50〜20000ミリユニットの範囲の酵素量)、さらに好ましくは多糖1g当り0.1〜10000ミリユニットの範囲の酵素量(例えば多糖1g当り100〜10000ミリユニットの範囲の酵素量)で存在する。
【0052】
グルコアミラーゼ酵素の活性は、Mc.Cleary等による(1991年)Biotechnology Techniques,第5巻、第255頁〜第258頁に記載の方法に従って定義される。1U(1ユニット)の活性は、合成した可溶性のp-ニトロフェニルβ-マルトシド基質を用い、pH4.5および40℃の条件下にて、毎分1μモルのグルコースを放出するグルコアミラーゼの量に相当する。酵素の活性は、キャリアに対して酵素を固定する前に測定されるものと理解される。
【0053】
他の酵素に関しても、一般に、1U(1ユニット)の活性は、1分当りに1μモルの単糖ユニットを放出する酵素量に相当する。一般に、該活性は、温度40℃およびpH4.5の条件下で測定される。
【0054】
デンプンを含有する好ましい実施態様において、酵素は、該酵素と該デンプンの比が、1gのデンプン当り0.05〜200,000ミリユニットの酵素量(例えば、1gのデンプン当り10〜200,000ミリユニットの酵素量、例えば1gのデンプン当り10〜75,000ミリユニットの酵素量)、より好ましくは1gのデンプン当り0.5〜20,000ミリユニットの酵素量(例えば、1gのデンプン当り50〜20,000ミリユニットの酵素量)、さらに好ましくは1gのデンプン当り0.1〜10,000ミリユニットの酵素量(例えば、1gのデンプン当り100〜10,000ミリユニットの酵素量)で存在する。
【0055】
多糖分解酵素用のキャリア
酵素(類)は、キャリア上に固定される。
【0056】
固定化は、酵素とキャリアの間で共有結合を介して行われてもよく、または非共有結合、例えば親和結合、水素結合、イオン結合などを介しておこなわれてもよい。ある実施態様の場合、酵素(例えば、多糖がデンプンである場合アミラーゼ)は、多糖(基質)と結合するために特に適合した部位を含んでもよい。すなわち、多糖が適当なキャリアであってもよい。酵素に促進される加水分解は早い段階で生じるので、酵素は、通常それらの基質上に処方されないが、考えられていることに反して、後の変形例は特に興味深いことを見出した。
【0057】
好ましい実施態様において、固定化は非共有結合を介して行われる。
【0058】
本発明による好ましい実施態様において、酵素は多糖(具体的には、それに対応する基質)上に固定される。したがって、多糖がデンプンである変形例において、酵素(好ましくはアミラーゼ)は、デンプンの上に固定される。多糖がセルロース(例えば微晶質のセルロース)である変形例において、酵素(好ましくはセルラーゼ)はセルロース上に固定される。
【0059】
別の実施態様において、酵素は、該酵素が加水分解を促進できる多糖とは異なるキャリア材料上に固定される。この実施態様において、キャリア材料は、防汚塗料の顔料相に通常存在する材料の一覧から好ましく選択される。該材料は、例えば多糖(すなわち、酵素に対する非基質)、オリゴ糖類、糖類、ケイ酸塩類、例えばシリカ(例えば、ヒュームドシリカ)、金属酸化物(例えば二酸化チタン、アルミナ、酸化第一鉄および酸化鉄など)、並びにグラファイトから選択できる。
【0060】
キャリア材料上へ酵素を固定化することは、塗料組成物中に更なる材料の増加をもたらし、このことは、塗料の性能に悪影響を及ぼし得る。したがって、酵素の基質は、幾つかの実施態様において記載したようなキャリア材料が好ましい。しかしながら、キャリアとしての基質に対して特有の酵素を使用することは、材料が塗装膜に含まれる前に、多糖が分解される可能性があり、そのため、別の実施態様においては、酵素用のキャリアとして、防汚塗料において適用される常套の顔料および充填材を使用することが好ましい場合もある。
【0061】
反応を生じさせる前に水を必要とするので、加水分解酵素が好ましい。したがって、水分活性が制限される限り、または、材料中に残留する水がなくなるまで、酵素活性を他の手段(pH、温度、塩分濃度、阻害剤)によって制御することにより、反応を生じさせることなく、酵素をそれ自身の基質上に固定できる。
【0062】
顔料相の他の成分
顔料相(すなわち最終的な(乾燥)ペイント被膜の不連続相に対応する相)も、もちろん、顔料、充填材、繊維および防汚剤を含んでもよく、並びに塗料組成物の顔料相に含まれる他の適当な成分を含有してもよい。
【0063】
顔料相の他の成分(即ち、多糖、酵素および任意のキャリア以外の成分)は、厳密に必要な成分ではない。しかしながら、一般に、このような他の成分は、塗料組成物の固形分体積の60%以下、例えば固形分体積の50%以下(例えば、塗料組成物の固形分体積の20〜50%の量、または固形分体積の35〜50%)の合計量で導入される。全組成物量が湿重量で表される場合、一般に、このような他の成分は、塗装組成物の湿重量の60%以下、例えば湿重量の50%以下(例えば湿重量の0.1〜40%、または0.1〜30%)の合計量で導入される。
【0064】
顔料の例には、以下のものが含まれる:金属酸化物、例えば酸化第一銅(Cu2O)および酸化銅(CuO)(例えば、酸化第一銅および酸化銅は防汚剤としての特性を有し得るが、本明細書において、このような金属酸化物は「顔料」としてのみ考慮されるものと理解される)、二酸化チタン、赤色酸化鉄、酸化亜鉛、カーボンブラック、グラファイト、黄色酸化鉄、赤色モリブデン酸塩、黄色モリブデン酸塩、硫化亜鉛、酸化アンチモン、スルホシリケートアルミニウムナトリウム、キナクリドン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、二酸化チタン、黒色酸化鉄、グラファイト、インダンスロンブルー、酸化コバルトアルミニウム、カルバゾールジオキサジン、酸化クロム、イソインドリンオレンジ、ビス−アセトアセト−o−トリジオール、ベンズイミダゾロン、キナフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、テトラクロロイソインドリノン、キノフタロンイエロー。
このような物質は、最終的なペイント被膜を非透明および非半透明にする。
【0065】
塗料組成物中に酸化第一銅が存在する場合、Cu2Oの含有量は、好ましくは、塗料組成物の固形分体積の1〜40%、例えば、塗料組成物の固形分体積の5〜35%の範囲である。塗料組成物の湿重量で表され、酸化第一銅が存在する場合、Cu2Oの含有量は、好ましくは、塗料組成物の湿重量の少なくとも5%、例えば、塗料組成物の湿重量の10〜75%の範囲である。
【0066】
顔料相は、顔料様の成分、例えば充填剤などをさらに含有してもよい。
【0067】
充填剤の例には以下のものが含まれる:炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、マイカ、硫酸バリウム、カオリン、シリカ(焼成シリカ、コロイドシリカ、ヒュームドシリカ等も含む)、パーライト、酸化マグネシウム、カルサイト及び石英粉、分子篩、合成ゼオライト、カルシウムシリコホスフェート、水和ケイ酸アルミニウム(ベントナイト)、オルガノ変性クレー、無水石こうなど。
【0068】
これらの物質は、最終的なペイント被膜を非半透明にしないので、最終的なペイント被膜の下にある材料を遮蔽することに対して、実質的に寄与しない。
【0069】
充填剤(および顔料)のいくつかは、バインダー相の添加剤(例えば、防湿性の安定剤、脱水剤、水捕捉剤、増粘剤、および凝結防止剤(anti-setting agent)など)によりもたらされる類型の、若干有利な特性をもたらすことができるが、本明細書および請求項の目的によると、このような粒状物質は、顔料相の一部として解釈されるものと理解される。
【0070】
繊維の例には、例えば国際特許出願公開第00/077102号明細書において記載されている一般的および具体的な繊維が含まれ、これらの言及によって本明細書に組み込まれる。
【0071】
本明細書において、特定の粒子を繊維として考えるためには、縦軸(長さ寸法−最長寸法)に沿う実質的に全ての位置において、長さ寸法に対して垂直な最長寸法と最短寸法の間の比が2.5:1を越えないようにすべきであり、好ましくは2:1を越えないようにすべきである。さらに、最も長い寸法と、2つのより短い寸法の平均との間の比は、少なくとも5:1にすべきである。従って、繊維は、1つの長い寸法と2つの短い寸法によって特徴付けられる。この場合、長い寸法は、2つの短い寸法よりも長く(一般的には1桁又はそれよりも長い)、2つの短い寸法は実質上等しい(同じ桁の寸法を有する)。完全に規則的な繊維(即ち、円筒状の形態を有する繊維)に関しては、「長さ」(最長の寸法)及び2つの(同じ)最短寸法の決定法は明確である。より不規則な繊維に関しては、寸法間の関係は、次の仮説に基づく実験によって評価できる:繊維の周囲に規則的な直角の箱を構築する。この箱は、繊維を完全に収容するような、最小の体積で構築される。繊維が曲がっている場合には、次のように仮定される(再び仮定に基づく):繊維は可撓性であるので、繊維を「屈曲」させることにより、仮説に基づく箱の体積を最小限にできる。本明細書において、「繊維」を許容するためには、箱の2つの最小の寸法の比を最大で2.5:1(好ましくは2:1)にすべきである。また、箱の最も長い寸法と、箱の2つのより短い寸法の平均との間の比は、少なくとも5:1にすべきである。
【0072】
現段階で特に好ましくは、鉱物繊維、例えば、鉱物ガラス繊維、珪灰石繊維、モンモリロナイト繊維、トバモライト繊維、アタパルジャイト繊維、焼成ボーキサイト繊維、火山岩繊維、ボーキサイト繊維、ロックウール繊維、ミネラルウール製の加工鉱物繊維などである。
【0073】
現段階で、繊維の濃度は、通常、塗料組成物の固形分体積の0.5〜15%の範囲、例えば1〜10%である。
【0074】
全組成物で表され(湿重量で表され)、該繊維が存在する場合、繊維の濃度は、通常、塗料組成物の湿重量の0.1〜20%、例えば0.5〜10%である。
【0075】
したがって、繊維の総量に関する上記範囲に関して、2種以上の繊維を使用する場合、混合量は上記範囲内を示すべきであると理解される。
【0076】
塗料組成物は、当該技術分野において常套の防汚剤を1種または複数種含有できる。防汚剤例には以下のものが含まれる:メタロ−ジチオカルバメート、例えば、ビス(ジメチルジチオカルバマト)亜鉛、エチレン−ビス(ジチオカルバマト)亜鉛、エチレン−ビス(ジチオカルバマト)マンガン、及びこれらの間で生じる錯体;ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオナト−O,S)−銅;銅アクリレート;ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオナト−O,S)−亜鉛;フェニル(ビスピリジル)−ビスマスジクロライド;金属殺生剤、例えば、銅、銅金属合金、例えば銅−ニッケル合金など;金属塩、例えばチオシアン酸第一銅、塩基性炭酸銅、水酸化銅、メタホウ酸バリウム及び硫化銅等;複素環式窒素化合物、例えば、3a,4,7,7a−テトラヒドロ−2−((トリクロロメチル)−チオ)−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン、ピリジン−トリフェニルボラン、1−(2,4,6−トリクロロフェニル)−1H−ピロール−2,5−ジオン、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)−ピリジン、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミン−s−トリアジン及びキノリン誘導体等;
【0077】
複素環式硫黄化合物、例えば、2−(4−チアゾイル)ベンズイミダゾール、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−オクチル−3(2H)−イソチアゾリン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンおよび2−(チオシアナトメチルチオ)−ベンゾチアゾール等;
【0078】
ウレア誘導体、例えば、N−(1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−2,5−ジオキソ−4−イミダゾリジニル)−N,N‘−ビス(ヒドロキシメチル)ウレア、およびN−(3,4−ジクロロフェニル)−N,N−ジメチルウレア、N,N−ジメチル−クロロフェニルウレア等;
【0079】
カルボン酸アミド又はイミド;スルホン酸又はスルフェン酸のアミド又はイミド、例えば、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、1,1−ジクロロ−N−((ジメチルアミノ)スルホニル)−1−フルオロ−N−(4−メチルフェニル)−メタンスルフェンアミド、2,2−ジブロモ−3−ニトリロ−プロピオンアミド、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミド、N,N−ジメチル−N’−フェニル−N‘−(フルオロジクロロメチルチオ)−スルファミド及びN−メチロールホルムアミド;
【0080】
カルボン酸の塩又はエステル、例えば、2−((3−ヨード−2−プロピニル)オキシ)−エタノールフェニルカルバメート及びN,N−ジデシル−N−メチル−ポリ(オキシエチル)アンモニウムプロピオネート;アミン、例えば、デヒドロアビエチルアミン及びココジメチルアミン等;置換メタン、例えば、ジ(2−ヒドロキシ−エトキシ)メタン、5,5'−ジクロロ−2,2'−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、及びメチレン−ビスチオシアネート等;置換ベンゼン、例えば、2,4,5,6−テトラクロロ−1,3−ベンゼンジカルボニトリル、1,1−ジクロロ−N−((ジメチルアミノ)−スルホニル)−1−フルオロ−N−フェニルメタンスルフェンアミド、及び1−((ジヨードメチル)スルホニル)−4−メチル−ベンゼン等;テトラアルキルホスホニウムハロゲニド、例えば、トリ−n−ブチルテトラデシルホスホニウムクロライド;グアニジン誘導体、例えば、n−ドデシルグアニジン塩化水素;ジスルフィド、例えば、ビス−(ジメチルチオカルバモイル)−ジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド;イミダゾール含有化合物、例えばメデトミジンなど;2‐(p‐クロロフェニル)‐3‐シアノ‐4‐ブロモ‐5‐トリフルオロメチルピロール、およびこれらの混合物。
【0081】
現段階では、防汚剤は、スズを含有しないものが好ましい。
【0082】
好ましい実施態様において、塗料組成物は、以下のものからなる群から選択される防汚剤を含有する:ピリジン−トリフェニルボラン、2‐(p‐クロロフェニル)‐3‐シアノ‐4‐ブロモ‐5‐トリフルオロメチルピロール、およびイミダゾール含有化合物、例えばメデトミジンなど。
【0083】
防汚剤が存在する場合、該防汚剤の総量は、一般に、塗料組成物の固形分体積の30%以下、例えば0.05〜25%など、例えば塗料組成物の固形分体積の0.05〜20%である。
【0084】
防汚剤が存在する場合、塗料組成物の総重量で表される場合、防汚剤の総量は、一般に、塗料組成物の湿重量の0〜40%の範囲、例えば0.05〜30%、例えば0.05〜20%である。
【0085】
バインダー相
塗料組成物のバインダー相は、乾燥により塗膜を形成するので、最終的な(乾燥した)塗膜の連続相に対応する。
【0086】
自己研磨型塗料組成物において使用される、実質的に全ての、常套のバインダー系は、本発明の塗料組成物のバインダー相として使用できる。バインダー系に対する顔料/充填剤/等の相対量に関しては、適当な研磨速度を得るために若干の改良(最適化)が必要である。
【0087】
バインダー系の可能な類型に関する本発明の範囲を説明するために、海洋用途および船舶用途それぞれに対するバインダー系の数例を以下に記載する。
【0088】
船舶用途の場合、バインダー系内に、以下の種類の成分を含有させることが特に興味深いと考えられる:(天然の)ロジン、ロジン誘導体、不均化ロジン、部分重合ロジン、水素化ロジン、ゴムロジン、不均化ゴムロジン、アクリル樹脂、ポリビニルメチルエーテル、およびビニルアセテート‐塩化ビニル‐エチレンターポリマー。このような成分は、海洋用途向けのバインダー系にも存在できる。
【0089】
海洋用途の場合、非水分散形バインダー系、シリル化アクリレートバインダー系および金属アクリレートバインダー系が特に興味深い。これらのバインダー系は、理由を説明するために、以下の更なる詳細において記載される。
【0090】
「非水分散形バインダー系」、「NAD」ならびに同様の表現は、高極性で高分子量の樹脂微粒子成分(コア成分)を、高分子量成分(シェル成分)を用いる低極性溶媒の非水液体媒体内へ安定的に分散させることにより得られる樹脂を含む、シェル−コア構造体を意味する。
【0091】
非水分散形樹脂は、重合性エチレン性不飽和モノマー(それは炭化水素系溶媒に溶解し、重合させることにより炭化水素系溶媒に不溶となるポリマー(コア成分)を形成する)を、溶媒中で溶解もしくは膨潤するポリマーから構成されるシェル成分(分散安定剤)の存在下、炭化水素系溶媒を用いて常套の方法に従い分散重合させる方法によって調製できる。
【0092】
本発明において使用される非水分散形樹脂は、既知の樹脂であってもよく、または既知の樹脂と同様に調製できる。このような非水分散形樹脂およびそれらの調製方法は、例えば、米国特許第3607821号明細書、同第4147688号明細書、同第4493914号明細書および同第4960828号明細書、特公昭48(1973)−29551号公報、特開昭57(1982)−177068号公報に記載されている。特に、非水分散形樹脂を構成するシェル成分として、例えば米国特許第4960828号明細書(特開H01(1989)43374号公報)に記載されている、低極性溶媒に溶解する種々の高分子物質を使用できる。
【0093】
最終的なペイント被膜の防汚性能の観点から、シェル成分には、例えばアクリル樹脂またはビニル樹脂を使用できる。
【0094】
コア成分としては、高い極性を有するエチレン性不飽和モノマーのコポリマーが一般に適切である。
【0095】
好ましくは、非水分散形樹脂のコア成分は、海水中での加水分解によって酸基に変換できるシリルエステル基または遊離酸基、あるいはそれらの組合せを有する。好ましくはコアポリマーのモノマーは、5〜75重量%、例えば5〜60重量%若しくは7〜50重量%の、遊離酸基若しくはシリルエステル基若しくはそれらの組合せを有する。遊離酸基は、ペイント配合物の特性に直接的な影響を及ぼし、一方、シリルエステル基は海水中での加水分解後においてのみ影響を及ぼす。現段階では、超過重量の遊離酸基を有することが好ましい。
【0096】
シリルエステルモノマーの例には、アクリル酸またはメタクリル酸のシリルエステルが含まれる。
【0097】
所望により、より小さな比率の遊離酸基またはシリルエステル基を、シェル成分中に含有させてもよい。
【0098】
「遊離酸基」という用語は、酸性型に酸基を含むことを意図する。このような酸基は、組成物中または環境中に適当な対イオンが存在する場合、一時的に塩の形態で存在してもよい。説明に役立つ実施例によると、このような基が海水に曝される場合、幾つかの遊離酸がナトリウム塩形態で存在し得ることが想定される。
【0099】
好ましくは、非水分散形樹脂は、通常15〜400mgKOH/g、好ましくは15〜300mgKOH/g、例えば18〜300mgKOH/gの樹脂酸価を有する。NAD樹脂の全酸価が15mgKOH/gを下回る場合、ペイント被膜の研磨速度が極めて小さくなり、防汚特性が十分でない場合がある。一方、全酸価が400mgKOH/gよりも高い場合、研磨速度が極めて高くなり、その結果、耐水性(海水中でのペイント被膜の耐久性)に関する問題が生じる。コア成分および/またはシェル成分が酸前駆基を含有する場合、該樹脂酸価は、該基が加水分解によって酸基に変換された後にもたらされる価である。本明細書において、「樹脂酸価」という用語は、樹脂(固形分)1gを中和するのに消費されるKOH量(mg)を表し、樹脂(固形分)における酸基の含有量(酸前駆基が存在する場合、加水分解により形成される酸基の含有量)を示す。
【0100】
酸基および/または酸前駆体をコア成分中に含有させる場合、それらの含有量は、樹脂酸価として、非水分散形樹脂の全樹脂酸価の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%である。
【0101】
上述のように、通常、シェル成分は疎水性であることが好ましい。
【0102】
NAD樹脂におけるシェル成分に対するコア成分の乾燥重量比は特に限定されないが、通常90/10〜10/90の範囲であり、好ましくは80/20〜25/75、例えば60/40〜25/75の範囲である。
【0103】
シリル化アクリレートバインダー系
本発明の興味深い実施態様において、本発明による塗料組成物中に使用されるバインダー系は、一般式(I)で表される少なくとも1種の末端基を備える少なくとも1種の側鎖を有するシリル化アクリレートコポリマーを含有する。
【0104】
【化1】

式中、nは1以上の整数であり、X、R1、R2、R3、R4及びR5は上述のとおりである。
【0105】
nは1、2、3、4又はそれ以上の整数であるのだが、nが約5000以下、例えば1〜50、例えば2〜15であることが好ましい。R1-R5は、それぞれC1-20-アルキル、C1-20-アルコキシ、フェニル、任意に置換されたフェニル、フェノキシ及び任意に置換されたフェノキシからなる群から選択される基である。上記の(式I)に関しては、アルキル及びアルコキシ基はそれぞれ約5個以下の炭素原子(C1-5-アルキル)を有することが一般的には好ましい。置換フェニル及びフェノキシ基に関する置換基の具体例には、ハロゲン、C1-5-アルキル、C1-5-アルコキシ又はC1-10-アルキルカルボニルが含まれる。上述のように、R1-R5は同じ基であってもよく、異なる基であってもよい。
【0106】
上記一般式(I)で表される末端基を含有するモノマーは、欧州特許第0297505号B1明細書に記載されるようにして合成できる。
【0107】
コポリマーを得るために、このようなモノマーとビニル重合性モノマーAとを共重合させてもよい。適当なビニル重合性モノマーの例には、以下のものが含まれる:メタクリレートエステル、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルメタクリレート;アクリレートエステル、例えばエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2 エチルヘキシルアクリレート及び2-ヒドロキシエチルアクリレート; マレイン酸エステル、例えばマレイン酸ジメチル及びマレイン酸ジエチル; フマル酸エステル、例えばフマル酸ジメチル及びフマル酸ジエチル;スチレン、ビニルトルエン、α-メチル-スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸、アクリル酸、イソボルニルメタクリレート及びマレイン酸。
【0108】
ビニル重合性モノマーの量は、生成されるコポリマーの総重量の95重量%以下、好ましくは90重量%以下である。したがって、上記の一般式(I)の末端基を含有するモノマーの量は、少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%である。
【0109】
好ましくは、コポリマーは、1000〜1,500,000の範囲、例えば5,000〜1,500,000(例えば5,000〜1,000,000の範囲、5,000〜500,000の範囲、5,000〜250,000の範囲、または5,000〜100,000の範囲)に重量平均分子量を有する。
【0110】
本発明の別の興味深い実施態様において、本発明による塗料組成物において使用されるバインダー系は、一般式(II)で表される少なくとも1種の末端基を備える少なくとも1種の側鎖を有するシリル化アクリレートコポリマーを含有する。
【0111】
【化2】

式中、X、R3、R4及びR5は上述のとおりである。
【0112】
上記の一般式(II)で表される末端基を有するモノマーの例には、酸官能性ビニル重合性モノマー、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸(好ましくは1〜6個の炭素原子を有するモノアルキルエステル形態)又はフマル酸(好ましくは1〜6個の炭素原子を有するモノアルキルエステル形態)から誘導されるモノマーである。
【0113】
上記式(I)または(II)で表されるトリオルガノシリル基、すなわち、-Si(R3)(R4)(R5)基に関して、R3、R4およびR5は同じであってもよく異なっていてもよく、例えば、C1-20-アルキル(例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、シクロアルキル、例えばシクロヘキシル及び置換シクロヘキシルなど);アリール(例えばフェニル及びナフチル)又は置換アリール(例えば置換フェニル及び置換ナフチル)などが含まれる。アリールに対する置換基の例は、ハロゲン、C1-18-アルキル、C1-10-アシル、スルホニル、ニトロ又はアミノである。
【0114】
従って、式(I)または(II)で表される適当なトリオルガノシリル基(すなわち、-Si(R3)(R4)(R5)基)の具体例には、以下のものが含まれる:トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリ-n-プロピルシリル、トリ-n-ブチルシリル、トリ-イソ-プロピルシリル、トリ-n-ペンチルシリル、トリ-n-ヘキシルシリル、トリ-n-オクチルシリル、トリ-n-ドデシルシリル、トリフェニルシリル、トリ-p-メチルフェニルシリル、トリベンジルシリル、トリ-2-メチルイソプロピルシリル、トリ-tert-ブチル-シリル、エチルジメチルシリル、n-ブチルジメチルシリル、ジ-イソ-プロピル-n-ブチルシリル、n-オクチル-ジ-n-ブチルシリル、ジ-イソ-プロプリルオクタデシルシリル、ジシクロヘキシルフェニルシリル、tert-ブチルジフェニルシリル、ドデシルジフェニルシリル及びジフェニルメチルシリル。
【0115】
一般式(I)または(II)で表される少なくとも1種の末端基を備える適当なメタクリル酸由来モノマーの具体例には、以下のものが含まれる:トリメチルシリル(メタ)アクリレート、トリエチル-シリル(メタ)アクリレート、トリ-n-プロピルシリル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-tert-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-アミルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ヘキシルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-オクチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ドデシルシリル(メタ)アクリレート、トリフェニルシリル(メタ)アクリレート、トリ-p-メチルフェニルシリル(メタ)-アクリレート、トリベンジルシリル(メタ)アクリレート、エチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n-ブチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、ジイソプロピル-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート、n-オクチルジ-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルステアリルシリル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルフェニルシリル(メタ)アクリレート、t-ブチルジ-フェニルシリル(メタ)アクリレート及びラウリルジフェニルシリル(メタ)アクリレート。
【0116】
一般式(I)または(II)で表される少なくとも1種の末端基を備える適当なマレイン酸由来モノマーおよびフマル酸由来モノマーの具体例には、以下のものが含まれる:トリイソプロピルシリルメチルマレエート、トリイソプロピルシリルアミルマレエート、トリ-n-ブチルシリル n-ブチルマレエート、tert-ブチルジフェニルシリルメチルマレエート、t-ブチルジフェニルシリル n-ブチルマレエート、トリイソピロピルシリルメチルフマレート、トリイソプロピルシリルアミルフマレート、トリ-n-ブチルシリル n-ブチルフマレート、tert-ブチルジフェニルシリルメチルフマレート及びtert-ブチルジフェニルシリル n-ブチルフマレート。
【0117】
本発明による興味深い実施態様において、バインダー系において使用されるコポリマーは、
以下の一般式(III)で表される第2モノマーBと併用される、上述の一般式(II)で表される末端基を備えるモノマー単位を含有する。
【0118】
【化3】

式中、ZはC1-20-アルキル基又はアリール基であり;Yはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基又はフマロイルオキシ基であり; RA及びRBは相互に独立して、水素、C1-20-アルキル及びアリールからなる群から選択され;並びにpは1〜25の整数である。
【0119】
p>2であれば、RAとRBは水素又はCH3であることが好ましい。すなわち、p>2であれば、好ましくは、モノマーBはポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールから誘導される。
【0120】
p=1であれば、RAとRBがより大きな基、例えばC1-20-アルキル又はアリールであるモノマーは、本明細書に記載される目的に対して有用であると考えられる。
【0121】
式(III)に示すように、モノマーBはその分子内に、不飽和基(Y)としてアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基(好ましくはモノ-C1-6-アルキルエステル形態)、又はフマロイルオキシ基(好ましくはモノ-C1-6-アルキルエステル形態)を有し、また、アルコキシ-又はアリールオキシポリエチレングリコールを有する。アルコキシ-又はアリールオキシポリエチレングリコール基の場合、ポリエチレングリコールの重合度(p)は1〜25である。
【0122】
分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーB具体例には、以下のものが含まれる:メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヘキソキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート及びエトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート。
【0123】
分子中にマレイノイルオキシ又はフマロイルオキシ基を有するモノマーBの具体例には、以下のものが含まれる:メトキシエチル n-ブチルマレエート、エトキシジエチレングリコールメチルマレエート、エトキシトリエチレングリコールメチルマレエート、プロポキシジエチレングリコールメチルマレエート、ブトキシ-エチルメチルマレエート、ヘキソキシエチルメチルマレエート、メトキシエチル n-ブチルフマレート、エトキシジエチレングリコールメチルフマレート、エトキシトリエチレングリコールメチルフマレート、プロポキシジエチレングリコールメチルフマレート、ブトキシエチルメチルフマレート及びヘキソキシエチルメチルフマレート。
【0124】
当業者によって理解されるように、他のビニルモノマーを上述の一般式(II)で表される末端基を有するモノマー単位を含有する生成コポリマー、または上述の一般式(III)で表される第2モノマーBと併用される、上述の一般式(II)で表される末端基を有するモノマー単位を含有する生成コポリマーに組み込んでもよい。
【0125】
上述のモノマーと共重合可能な別のモノマーに関して、種々のビニルモノマー、例えば上記のビニル重合性モノマー(A)などから構成されるものを使用しても良い。
【0126】
一般式(II)で表される末端基を有するモノマーの割合は、モノマーの総重量に基づき、1〜95重量%、モノマーBの割合は、モノマーの総重量に基づき1〜95重量%、それらと共重合可能な別のモノマーの割合は、モノマーの総重量に基づき0〜95重量%であることが好ましい。
【0127】
このようにして得られる生成コポリマーの分子量は、重量平均分子量の観点では、望ましくは1,000〜150,000の範囲、例えば3,000〜100,000の範囲、例えば5,000〜100,000の範囲である。
【0128】
本発明の更に興味深い実施態様において、本発明による塗料組成物において使用されるバインダー系は、一般式(IV)で表される第2モノマーCと併用される、上述の一般式(II)で表される末端基を備えるモノマー単位を有するコポリマーを含有する。
【0129】
【化4】

式中、Yはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基又はフマロイルオキシ基を示し、RおよびRは共にC1-12-アルキルを示す。
【0130】
式(IV)に示されるように、モノマーCは、その分子中に、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基(好ましくは、モノ-C1-6-アルキルエステル形態)、又はフマロイルオキシ基(好ましくは、モノ-C1-6-アルキルエステル形態)を不飽和基(Y)として有し、また、ヘミ-アセタール基を有する。
【0131】
モノマーCは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸(又はそのモノエステル)及びフマル酸(又はそのモノエステル)から選択されるカルボキシ基含有ビニルモノマーと、アルキルビニルエーテル(例えばエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル及び2-エチルヘキシルビニルエーテル)又はシクロアルキルビニルエーテル(例えばシクロヘキシルビニルエーテル)との通常の付加反応によって調製できる。
【0132】
当業者によって理解されるように、他のビニルモノマーを、上述の一般式(IV)で表される第2モノマーCと併用される、上述の一般式(II)で表される末端基を有するモノマー単位を含有する生成コポリマーに組み込んでもよい。
【0133】
上述のモノマーと共重合可能な別のモノマーに関して、種々のビニルモノマー、例えば上記のビニル重合性モノマー(A)などから構成されるものを使用しても良い。
【0134】
一般式(II)で表される末端基を有するモノマーの割合は、モノマーの総重量に基づき、1〜95重量%(好ましくは1〜80重量%)、モノマーCの割合は、モノマーの総重量に基づき1〜95重量%(好ましくは1〜80重量%)、およびそれらと共重合可能な別のモノマーの割合は、モノマーの総重量に基づき98重量%以下であることが好ましい。
【0135】
コポリマーの分子量は、重量平均分子量の観点では、望ましくは1,000〜150,000の範囲、好ましくは3,000〜100,000の範囲、例えば5,000〜100,000の範囲である。
【0136】
金属アクリレートのバインダー系
本発明の興味深い実施態様において、本発明による塗料組成物において使用されるバインダー系は、一般式(V)で表される少なくとも1種の末端基を備える少なくとも1種の側鎖を有する金属アクリレートコポリマーを含有する:
【0137】
【化5】

式中、Xは-C(=O)-、S(=O)2-,-P(=O)(OH)-を示し、Mは2以上の価数を有する金属を示し、nは1以上の整数(ただし、n+1は金属の価数に等しい)であり、Lは、有機酸残基であり、Lは相互に独立して、以下のものから成る群から選択され(式中、Rは、一価の有機残基である)、またはLは-OHであり、あるいはそれらの組合せであり、Rは水素または1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基である。
【0138】
【化6】

【0139】
上記一般式(V)で表される末端基を有するモノマーの例には、以下のものが含まれる:酸官能性のビニル重合性モノマー、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、p-スチレンスルホン酸、2-メチル-2-アクリルアミドプロパンスルホン酸、メタクリル酸ホスホオキシプロピル、メタクリル3-クロロ-2-酸ホスホオキシプロピル、メタクリル酸ホスホオキシエチル、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、モノアルキルイタコン酸(例えば、メチル、エチル、ブチル、2-エチルヘキシル)、モノアルキルマレイン酸(例えば、メチル、エチル、ブチル、2-エチルヘキシル);重合性不飽和モノマーを含有するヒドロキシル基を備える酸無水物の半エステル(例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを備える無水コハク酸、無水マレイン酸、または無水フタル酸の半エステル)。
【0140】
コポリマーを得るために、上述のモノマーを、1種以上のビニル重合性モノマーと共重合させてもよい。このようなビニル重合性モノマーの例には、以下のものが含まれる:
メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、スチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジ-2-エチル-ヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジ(2-エチルヘキシル)、エチレン、プロピレンおよび塩化ビニル。
【0141】
リガンド(L)に関して、各リガンドは、以下のものから成る群から好ましく選択される:
【0142】
【化7】

式中、Rは、1価の有機残基である。
【0143】
好ましくは、Rは、以下のものから成る群から選択される
【0144】
【化8】

式中、Rは、水素または1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示し、RおよびRは、相互に独立して、1〜12個の炭素原子を有する炭化水素基を示し、Rは1〜4個の炭素原子を有する炭化水素基を示し、
は、5〜20個の炭素原子を有する環状炭化水素基、例えばアビエチン酸、パルストリック(pallustric)酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸、デヒドロアビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸およびΔ8,9-イソピマル酸などである。
【0145】
リガンドとして使用できる化合物の例には以下のものが含まれる:
(1)以下の基を含有する化合物
【0146】
【化9】

例えば、脂肪酸、例えばレブリン酸など;脂環式の酸、例えばナフテン酸、ショールムーグリン酸、ヒドノカルプス酸、neo-アビエチン酸、レボピマル酸、パルストリン酸、2-メチル-ビシクロ-2,2,1-ヘプタン-2-カルボン酸など;芳香族カルボン酸、例えば、サリチル酸、クレソト(cresotic)酸、α-ナフトエ酸、β-ナフトエ酸、p-オキシ安息香酸、;ハロゲン含有脂肪酸、例えばモノクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸など;ハロゲン含有芳香族酸、例えば、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、3,5-ジクロロ安息香酸など;窒素含有有機酸、例えば、キノリンカルボン酸、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロナフタレンカルボン酸など;ラクトンカルボン酸、例えば、プルビン酸、ブルピン酸など;ウラシル誘導体、例えば、ウラシル-4-カルボン酸、5-フルオロウラシル-4-カルボン酸、ウラシル-5-カルボン酸など;ペニシリン由来カルボン酸、例えば、ペニシリンV、アンピシリン、ペニシリンBT、ペニシラン酸、ペニシリンG、ペニシリンOなど;リファマイシンB、ルセンソマイシン、サルコミシン(Salcomycin)、クロロアンフェニコル、バリオチン、トリパシジン;および種々の合成脂肪酸。
【0147】
(2)以下の基を含有する化合物
【0148】
【化10】

例えば、ジメチルジチオカルバメートおよび他のジチオカルバメート類。
【0149】
(3)以下の基を含有する化合物
【0150】
【化11】

例えば、硫黄含有芳香族化合物、例えば、1-ナフトール-4-スルホン酸、p-フェニルベンゼンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸、およびキノリンスルホン酸など。
【0151】
(4)以下の基を含有する化合物
【0152】
【化12】

【0153】
例えば、以下の基を含有する化合物
【0154】
【化13】

【0155】
(5)以下の基を含有する化合物
【0156】
【化14】

例えば、種々のチオカルボン酸化合物。
【0157】
(6)-O-基または-OH基を含有する化合物
例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、チモール、カルバコール、オイゲノール、イソオイゲノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、グアジャコル(guajacol)、ブチルスチルベン、(ジ)ニトロフェノール、ニトロクレゾール、メチルサリチレート、ベンジルサリチレート、モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-およびペンタ-クロロフェノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クロロチモール、p-クロロ-o-シクロ-ヘキシルフェノール、p-クロロ-o-シクロペンチルフェノール、p-クロロ-o-n-ヘキシルフェノール、p-クロロ-o-ベンジルフェノール、p-クロロ-o-ベンジル-m-クレゾールおよび他のフェノール類;β-ナフトール、8-ヒドロキシキノリン。
【0158】
金属(M)に関しては、2以上の価数を有する任意の金属を使用できる。適当な金属の具体例には以下のものが含まれる:Ca,Mg,Zn,Cu,Ba,Te,Pb,Fe,Co,Ni,Bi,Si,Ti,Mn,AlおよびSn。好ましい例は、Co,Ni,Cu,Zn,Mn,およびTeであり、特にCuおよびZnである。金属含有コポリマーを合成する場合、金属は、その酸化物、水酸化物、または塩化物の形態で使用できる。本発明による塗料組成物におけるバインダー系において使用されるコポリマーは、例えば、欧州特許第0471204号B1明細書、同0342276号B1明細書または同0204456号B1明細書において記載されるようにして調製できる。
【0159】
上記一般式(V)で表される末端基を含有するモノマーは、
コ-ポリマーを得るために、他の重合性不飽和モノマーと重合させることができ、任意の習慣的に使用されるエチレン性不飽和モノマーを使用できる。このようなモノマーの例には以下のものが含まれる:メチルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、スチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジ-2-エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジ(2-エチルヘキシル)、エチレン、プロピレンおよび塩化ビニル。コ-モノマーの具体例は、アルコール残基が嵩高い炭化水素基またはソフトセグメントを有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであり、例えば、4個以上の炭素原子有する分岐アルキルエステル、または6個以上の原子を有するシクロアルキルエステル、2-ヒドロキシエチルアクリレートの付加物または末端アルキルエーテル基を所望により有するポリアルキレングリコールモノアクリレート若しくはモノメタクリレート、または、例えば、欧州特許出願公開第0779304号A1明細書において記載されるような、カプロラクトンを備えるメタクリレートである。
【0160】
所望により、水酸基含有モノマー、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートなどを使用できる。
【0161】
生成するコ-ポリマーにおいて、有機酸側鎖は必ずしも金属エステル基を含有する必要はなく、所望により、有機酸側鎖の幾つかは、未反応の遊離酸形態で残存してもよい。
【0162】
金属含有コ-ポリマーの重量平均分子量は、一般に1,000〜150,000の範囲、例えば3,000〜100,000の範囲、好ましくは5,000〜60,000の範囲である。
【0163】
本発明による別の興味深い実施態様において塗料組成物は、1:1のリガンド-金属配位比に少なくとも等しい量の有機リガンドを更に含有する。該有機リガンドが、芳香族ニトロ化合物、ニトリル、ウレア化合物、アルコール、フェノール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、および有機硫黄化合物から成る群から選択されることにより、上記定義のコ-ポリマーは、その場(in-situ)に有機リガンドを有するポリマー錯体を形成する。
【0164】
混成塩を形成するために有用な一塩基性有機酸の例には、以下のものが含まれる:モノカルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、ステアリン酸、リノール酸、オレイン酸、ナフテン酸、クロロ酢酸、フルオロ酢酸、アビエチン酸、フェノキシ酢酸、バレリアン酸、ジクロロフェノキシ酢酸、安息香酸、ナフトエ酸など;およびモノスルホン酸、例えば、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、またはp-フェニルベンゼンスルホン酸。
【0165】
高分子混成塩を調製するための好ましい方法は、特開H01(1989)-16809号公報に開示されている。
【0166】
更なるバインダー成分
上述のバインダー系(例えば、非水分散形バインダー系およびシリル化アクリレートバインダー系)は、バインダー系の一部として、1種または複数種の更なるバインダー成分をそれらの中に含有できる。以下に記載のバインダー成分は、バインダー系を構成できる(バインダー系の一般的な組成を参照)。
【0167】
このような更なるバインダー成分の例には、以下のものが含まれる:ロジン、ロジン誘導体、例えば、ロジンの金属塩、すなわち樹脂酸塩など、オイル、例えば、亜麻仁油およびそれらの誘導体、ヒマシ油およびそれらの誘導体、大豆油およびそれらの誘導体など;他の高分子バインダー成分、例えば飽和ポリエステル樹脂;ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチレート、ポリ塩化ビニル‐酢酸ビニル、酢酸ビニルとビニルイソブチルエーテルのコポリマー;塩化ビニル;塩化ビニルとビニルイソブチルエーテルのコポリマー;アルキド樹脂若しくは変性アルキド樹脂;炭化水素樹脂、例えば石油フラクション凝縮物など;塩素化ポリオレフィン、例えば、塩素化ゴム、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなど;スチレンコポリマー、例えばスチレン/ブタジエンコポリマー、スチレン/メタクリレートコポリマーおよびスチレン/アクリレートコポリマーなど;アクリル樹脂、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレートおよびイソブチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマーなど;ヒドロキシ-アクリレートコポリマー;ポリアミド樹脂、例えば二量化脂肪酸(例えば二量化トール油脂肪酸)に基づくポリアミドなど;環化ゴム;エポキシエステル、エポキシウレタン;ポリウレタン;エポキシポリマー;ヒドロキシ-ポリエーテル樹脂;ポリアミン樹脂など、並びにそれらのコポリマー。
【0168】
「ロジン」、「樹脂酸塩」などの用語は、ガムロジン;B、C、D、E、F、FF、G、H、I、3、K、L、M、N、W−G、W−W(ASTM 0509標準により定義されている)の等級のウッドロジン;バージンロジン;硬質ロジン;イエローディップロジン(yellow dip rosin);NFウッドロジン;トール油ロジン;又はコロホニー(colophony)若しくはコロホニウム(colophonium)を意味することを目的とする。また、「ロジン」、「樹脂酸塩」などの用語は、適当な形態の変性ロジン、具体的には、非芳香族性の共役二重結合の量を減少させる、オリゴマー化;水素化;脱水素化−水素化/再分配/不均化などの変性ロジンも含まれる。
【0169】
更なるバインダー成分の群は、高分子軟化剤、例えば常套の軟化剤および国際特許出願公開第97/44401号明細書において定義される具体的な軟化剤を含むことができ、これらを参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0170】
このような更なるバインダー成分の乾物量は、一般に、湿重量の0〜10%である。
【0171】
バインダー相の更なる成分
もちろん、バインダー相(すなわち、最終的な(乾燥)ペイント被膜の連続層に対応する相)は、バインダー系(更なるバインダー成分を含む)に加えて、染料、添加剤および溶媒、並びに塗料組成物のバインダー相に含まれる他の適当な成分を含有できる。
【0172】
染料の例は、1,4-ビス(ブチルアミノ)アントラキノンおよび他のアントラキノン誘導体;トルイジン染料などである。
【0173】
添加剤の例には、以下のものが含まれる:可塑剤、例えば、塩素化パラフィンなど;フタレート、例えば、ジブチルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレートおよびジイソデシルフタレートなど;ホスフェートエステル、例えば、トリクレシルホスフェート、ノニルフェノールホスフェート、オクチル-オキシポリ(エチレンオキシ)エチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、イソオクチルホスフェートおよび2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートなど;スルホンアミド、例えば、N−エチル−p−トルエンスルホンアミド、アルキル−p−トリエンスルホンアミドなど;アジペート、例えば、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート)、ジイソブチルアジペートおよびジ-オクチルアジペートなど;ホスホン酸トリエチルエステル;ブチルステアレート;ソルビン酸トリフォリエート(sorbitan trifoliate);及びエポキシ化大豆油。界面活性剤、例えば、アルキルフェノール−エチレンオキサイド縮合物などのプロピレンオキサイド又はエチレンオキサイドの誘導体など;リノール酸のエトキシル化モノエタノールアミドなどの不飽和脂肪酸のエトキシル化モノエタノールアミド;ドデシル硫酸ナトリウム;アルキルフェノールエトキシレート;及び大豆レシチン。
【0174】
湿潤剤及び分散剤;消泡剤、例えば、シリコーン油;安定剤、例えば、光および熱に対する安定剤など、例えば、例えば、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(5−クロロ−(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(テトラブチル)フェノール、および2,4−ジtert-ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール。耐湿安定剤または水捕捉剤、置換イソシアネート、置換シラン及びオルト蟻酸トリエチルエステル;酸化に対する安定剤、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール;ブチル化ヒドロキシトルエン;プロピルガレート;トコフェロール;2,5−ジ−tert−ブチル−ヒドロキノン;L−アスコルビルパルミテート;カロテン;ビタミンAなど。腐蝕に対する抑制剤、例えば、アミノカルボキシレート、アンモニウムベンゾエート、アルキルナフタレンスルホン酸のバリウム/カルシウム/亜鉛/マグネシウム塩、リン酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛。凝集剤、例えば、グリコール、2−ブトキシエタノール、及び2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートなど。ならびに、増粘剤及び凝集防止剤、例えば、アルミニウムトリステアレート、アルミニウムモノステアレート、ヒマシ油、キサンタンガム、サリチル酸、水素化ヒマシ油、ポリアミドワックスおよびポリエチレンワックス。脱水剤、例えばオルトプロピオン酸エステル、オルトギ酸エステル、オルト酢酸エステル、アルコキシシラン、テトラエチルオルトシリケートなどのアルキルシリケート、またはイソシアネート。
【0175】
塗料組成物は、塗料組成物の固形分体積の0〜20%、例えば1〜20%の累積量で染料および添加剤を含有することが好ましい。
【0176】
塗料組成物の総重量で表される場合、塗料組成物は、該塗料組成物の湿重量の0〜10%、例えば1〜10%の累積量で染料および添加剤を含有することが好ましい。
【0177】
溶媒の例には、以下のものが含まれる:アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール及びベンジルアルコール;脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素、例えば、ホワイトスピリット、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、及びナフサ溶剤など;ケトン、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、ジアセトンアルコール及びシクロヘキサノンなど;エーテルアルコール、例えば、2−ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチルエーテルおよびブチルジグリコールなど;エステル、例えば酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸メトキシプロピル、n-ブチルアセテート、および2-エトキシエチルアセテートなど;塩素化炭化水素、例えば、塩化メチレン、テトラクロロエタン及びトリクロロエチレン;並びにこれらの混合物。
【0178】
塗料組成物の総重量で表される場合、塗料組成物は、該塗料組成物の湿重量の0〜60%、例えば10〜60%の累積量で1種以上の溶媒を含有することが好ましい。
【0179】
本明細書において「湿重量%」という用語は、塗料組成物の湿物量の重量/重量パーセンテージを意味することを目的とする。このことは溶媒が含まれることを意味する。
【0180】
本明細書において「固形分体積%」という用語は、塗料組成物の固形物(非揮発性物)の体積/体積パーセンテージを意味する。このことは、任意の溶媒(すなわち、揮発性物質)を無視することを意味する。
【0181】
好ましい実施態様
本発明の、現段階で好ましい実施態様は、以下の塗料組成物である:
A.バインダー系の形態を有するバインダー相を固形分体積の50〜75%と、顔料相を固形分体積の25〜50%含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物であって、該顔料相は、乾燥被膜の固形分体積の20〜49%の量で(i)デンプンおよび(ii)アミラーゼから選択される酵素を含有し、該酵素は該デンプンに固定される該塗料組成物。
【0182】
B.バインダー系の形態を有するバインダー相を固形分体積の50〜75%と、顔料相を固形分体積の25〜50%含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物であって、該顔料相は、乾燥被膜の固形分体積の1〜10%の量で(i)デンプンおよび(ii)アミラーゼから選択される酵素を含有し、該酵素は該デンプンに固定される該塗料組成物。
【0183】
C.バインダー系の形態を有するバインダー相を固形分体積の50〜75%と、顔料相を固形分体積の25〜50%含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物であって、該顔料相は、乾燥被膜の固形分体積の1〜10%の量で(i)デンプンおよび(ii)アミラーゼから選択される酵素を含有し、該酵素は該デンプンに固定され、酸化第一銅および酸化亜鉛から成る群から選択される1種以上の顔料を固形分体積の10〜41%の量で含有する該塗料組成物。
【0184】
D.バインダー系の形態を有するバインダー相を固形分体積の50〜75%と、顔料相を固形分体積の25〜50%含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物であって、該顔料相は、乾燥被膜の固形分体積の20〜49%の量で(i)デンプンおよび(ii)アミラーゼから選択される酵素を含有し、該酵素は該デンプンに固定され、乾燥被膜の固形分体積の0.05〜20%の量の防汚剤を含有する該塗料組成物。
【0185】
E.バインダー系の形態を有するバインダー相を固形分体積の50〜75%と、顔料相を固形分体積の25〜50%含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物であって、該顔料相は、乾燥被膜の固形分体積の20〜49%の量で(i)デンプンおよび(ii)アミラーゼから選択される酵素を含有し、該酵素は該デンプンに固定され、乾燥被膜の固形分体積の0.05〜20%の量で防汚剤を含有し、該防汚剤が、ピリジン−トリフェニルボラン、2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロールおよびイミダゾール含有化合物(例えばメデトミジン)から成る群から選択される該塗料組成物。
【0186】
F.バインダー系の形態を有するバインダー相を固形分体積の50〜75%と、顔料相を固形分体積の25〜50%含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物であって、該顔料相は、乾燥被膜の固形分体積の1〜10%の量で(i)デンプンおよび(ii)アミラーゼから選択される酵素を含有し、該酵素は該デンプンに固定され、乾燥被膜の固形分体積の1〜20%の量の防汚剤を含有する該塗料組成物。
【0187】
G.バインダー系の形態を有するバインダー相を固形分体積の50〜75%と、顔料相を固形分体積の25〜50%含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物であって、該顔料相は、乾燥被膜の固形分体積の1〜10%の量で(i)デンプンおよび(ii)アミラーゼから選択される酵素を含有し、該酵素は該デンプンに固定され、乾燥被膜の固形分体積の0.05〜20%の量の防汚剤を含有し、該防汚剤が、ピリジン−トリフェニルボラン、2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロールおよびイミダゾール含有化合物(例えばメデトミジン)から成る群から選択される該塗料組成物。
【0188】
塗料組成物の調製
また、本発明は、請求項1〜9のいずれかに定義されるような酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物を調製するための方法を提供する。該方法は、(i)多糖と、(ii)キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進できる酵素を、バインダー系並びに、染料、添加剤、溶媒、顔料、充填剤、繊維および防汚剤、および塗料組成物のバインダー相または顔料相に含まれる他の適当な成分から選択される1種以上の成分と混合させた状態にする工程を含む。
【0189】
通常、本発明による塗料組成物は、塗料組成物(ペイント)を調製する常套の装置、例えばボールミル、パールミル、三本ロールミル、高速分散機などを用いて、一度にまたは分割したやり方で、上記成分を混合および分散させることにより調製される。所望により繊維を含有する、本発明による塗料組成物は、バックフィルター、パートンフィルター、ワイヤーギャップフィルター、くさび形ワイヤーフィルター、キンゾクエッジフィルター、EGLMターノクリーン(turnoclean)フィルター(クノ(Cuno)製)、DELTAストレインフィルター(クノ製)及びジェナグストレイナー(Jenag Strainer)フィルター(ジェナグ製)、またはバイブレーションフィルターを用いて濾過できる。このようにして調製された本発明による塗料組成物は、例えば、エアレススプレー塗装や、エアスプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗りなどにより、さび止めコーティング剤を塗布した船舶若しくは海洋構造物にそのまま塗布してもよく、または、希釈溶剤により粘度を調整した後に塗布してもよい。選択される正確な技術は、保護される対象物、および具体的な組成(例えば、その粘度等)、並びに具体的な状況に依存する。好ましい塗布技術は、スプレー及び刷毛又はローラーによるものである。
【0190】
好ましくは、固定される酵素およびそれらの基質は、粉末として塗料組成物に添加され、本発明による好ましい実施態様において、多糖分解酵素の固定は、酵素およびキャリア材の水性スラリーを噴霧乾燥させることにより行われる。
【0191】
塗布技術にもよるが、固形分体積比(solids volume ratio: SVR)が30〜100%、例えば30〜70%の範囲となるように、塗料組成物は(1または複数の)溶媒を含有することが好ましい。
【0192】
本発明は、更に、上述のような塗料組成物の1または複数の層(特に連続層)で被覆した海洋構造物に関する。
【0193】
本発明による塗料組成物は、1以上の連続層、一般に1〜5層、好ましくは1〜3層の形態で、保護される海洋構造物に施すことができる。1層当りに施されるコーティングの乾燥膜厚(DFT)は、一般に10〜300μm、好ましくは20〜250μm、例えば40〜200μmである。従って、塗料の乾燥膜厚は、一般に10〜900μm、好ましくは20〜750μm、特に40〜600μm、例えば、80〜400μmである。
【0194】
本発明による塗料組成物が施され得る海洋構造物は、水と接触する任意の多種多様な固体構造物であることができ、例えば、以下のものが含まれる:船舶(これらに限定されないが、ボート、ヨット、モーターボート、モーター艇(motor launche)、遠洋定期船、タグボート、タンカー、コンテナ船および他の貨物船、潜水艦(原子力潜水艦および常套の潜水艦)、およびあらゆる種類の海軍艦艇);パイプ、海岸および沖合で使用する機械、建造物、およびあらゆる種類の物体、例えば、パイプ、杭、橋梁構造物、救命具、水中の油井構造物など、ネットおよび他の海洋牧場設備;冷却プラント;およびブイ。また、海洋構造物は、特に、船舶およびボートの船体、並びにパイプに適用できる
【0195】
海洋構造物に対する塗料組成物の塗布に先立ち、まず、海洋構造物は、複数の層を含み、海洋構造物に対する塗料組成物の塗布に関連して使用される任意で常套のプライマー系で被覆されてもよい。したがって、プライマー系は、所望により、防錆プライマーに続けて、密着を促進するプライマー層を含んでもよい。
【0196】
上述のプライマー系は、例えば、160〜600のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂と、それの硬化剤(例えばアミノ型、カルボン酸型または酸無水物型など)の組合せであってもよく、ポリオール樹脂と、ポリイソシアネート型の硬化剤の組合せであってもよく、あるいはビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等をバインダー系として含有し、および、所望により、代表的な例として、熱可塑性樹脂(例えば塩素化ゴム、アクリル樹脂または塩化ビニル樹脂など)、硬化促進剤、さび止め顔料、着色顔料、体質顔料、溶媒、トリアルコキシシラン化合物、可塑剤、添加剤(例えばアンチサッギング剤、または沈殿防止剤など)、またはタールを含有するエポキシ樹脂型のコーティングを更に含有するコーティング材であってもよい。
【0197】
使用および方法
さらに、本発明は、塗料組成物において、多糖と、該多糖の加水分解を促進できキャリア材に固定される酵素の使用に関し、該使用により該塗料組成物へ自己研磨性がもたらされる。特に、酵素は該多糖に固定される。
【0198】
さらに、本発明は、塗料組成物の自己研磨効果を付与する方法を提供し、該方法は、多糖と、該多糖の加水分解を促進できキャリア材に固定される酵素とを塗料組成物内へ導入する工程を含む。特に、該酵素は該多糖に固定される。
【0199】
上記明細書は、多糖と酵素、および上述の使用および方法に関する適用についての詳細な説明を含む。
【0200】
上記特定の使用および方法のそれぞれにおける、好ましい実施態様において、酵素はグルコアミラーゼであり、多糖はデンプンである。具体的な変形例において、例えば、噴霧乾燥法によって、グルコアミラーゼはデンプンに固定される。
【実施例】
【0201】
多糖の水溶性含量に関する試験
多糖の水溶性含量は、重量測定法で測定した。多糖を脱イオン水中で混合させ、効果的に攪拌させた。次いで、スラリーを15000rpmの速度条件下10分で遠心分離し、上澄みの乾物含量を重量測定法で測定した。
【0202】
研磨速度試験
研磨および浸出特性は、キール等により開示された回転機構と同様の回転機構を用いて測定する(kiil,S,Weinell, CE Yebra, DM,Dam-Johansen,K,「海洋生物付着からの保護、防汚ペイントの放出制御の設計;ケーススタディーを用いる全体像の把握」23IDBN-13:978-0-444-52217-7.第II巻(7)、エルセビア社(2006年)参照)。該機構は回転運動可能な内部シリンダー(回転子、直径0.3m、高さ0.17m)を具有する、2つの同心シリンダーを有する回転リングから構成される。シリンダー対は、約400〜500リットルの人工海水(表1参照)を含有するタンク内に浸漬される。
【0203】
【表1】

【0204】
タンクは、乱流を強め、ペイントから放出される種の混合をより早くでき、サーモスタッド装置からの熱伝導を向上させるバッフルを装着し、液体流を分断させる。2つのシリンダーを用いる目的は、クエット流(1方の壁が一定速度で動く場合における、2枚の平行な壁の間の流れ)に極めて近似した流れを作るためである。回転子は、(特別の定めのない限り)25℃、20ノットの条件で操作され、pHは、1M水酸化ナトリウム、または1M塩酸を用いて、8.2へと頻繁に調整される。
【0205】
サンプルは、200μmのギャップサイズを有するドクターブレード塗布器を用いて塗布した2成分塗料(Hempadur 4518 ex;ヘンペルマリンペイントA/S社)を用いて準備される、オーバーヘッドプロジェクター用透明フィルム(3M PP2410)を用いて調製する。コーティングサンプルは、250μmの間隙を有するドクターブレード塗布器を用いて、相互に隣接させて塗布される。1日かけて乾燥させたのち、長さ21cmのストリップにおいて、1.5×2cmの8個のサンプルを得られるよう、被覆した透明フィルムを2cmのストリップ状に切断する。このストリップを回転子に取り付け、残りを、1週間かけて乾燥させる。
【0206】
1週間後、試験を開始し、この試験の間、研磨および浸出深さを調査するために、サンプルを35、65および140日後に取り出す。サンプルを、周囲条件で3日間乾燥させ、その後、それらを半分の大きさに切断し、パラフィンに投入する。光学顕微鏡を用いて全膜厚と溶脱層厚を算出する前に、サンプルの内面を平坦化する(コーティングの横断面調査)。
【0207】
防汚性能試験
1側面をサンドブラストして塗料の密着を促進した、アクリル製の試験パネル(15×20cm)を、まず、エアスプレー法によって施される、80μm(DFT)の、市販のタール含有ビニルポリマー(Hempanyl 16280 ex;ヘンペルマリンペイントA/S社製)で被覆する。室温条件下、実験室において、最低24時間乾燥させた後、試験塗料を、塗膜幅が80mmであり4つの間隙を備えるドクターブレード型の塗布器で塗布する。1つのコートは90〜100μmのDFTで塗布した。少なくとも72時間乾燥させた後、試験パネルをラックに固定し、海水中に浸漬させる。
【0208】
この試験においては、29〜31℃の範囲の温度で、29〜31ppth(parts per thousand)の範囲に塩分濃度を有する海水中に該パネルを浸漬させる。4〜12週間毎に、パネルの検査をおこない、防汚性能を、表2において示される基準に従い評価する。付着物の種類(藻類および動物)ごとに評価する。
【0209】
【表2】

【0210】
最も関連する付着種は動物である。点数1の動物付着は良好と考えられる。藻類の付着に関しては、2以下の点数が許容できる。
【0211】
海水に長期間暴露した後、残留する酵素活性を試験する。
【0212】
回転子試験から得られる塗膜片を、6穴のELISAプラスチックプレートを用いて人工的な海水(表1参照)に浸漬させ、20〜25℃で、3日間培養させたグルコースの増加量について分析した。溶媒の穏やかな流れは、100rpmの速度で連続的に運転した攪拌ボード(IKA KS130コントロール)を用いて施した。溶媒相におけるグルコース濃度を、標準的なグルコースアッセイ(以下参照)により分析した。活性は、SGU-P(塗料におけるデンプン−グルコアミラーゼ単位)として算出されたものであり、1SGU-Pは、1時間あたり1mgのグルコースを放出するのに必要な表面積として定義される。
【0213】
グルコースアッセイ:グルコースサンプル(10μl)を、過剰量のHOX(ヘキソースオキシダーゼ)、セイヨウワサビペルオキシダーゼおよびABTS(2,2'-アジノビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)を有する基質ブレンド(290μl)と混合させた。グルコースの完全なHOX-分解は、グルコラクトンおよびH2O2を生成し、それは(オキシダーゼ)ABTSと反応し、サンプルグルコース濃度に相関する分光検知による比色応答性を誘導する。グルコース濃度は、405nmでの吸収を測定し、0〜0.4mg D-グルコース/mlの標準曲線を用いることにより定量化される。使用した基質ブレンドは、以下のものを含有する:4.6ml 100mM K2HPO4 -pH6.3; 200μl ABTS溶液 (100mlの水に対し、500mg ABTS シグマA-1888); 200μl ペルオキシダーゼ溶液(100mlの100mM K2HPO4-pH6.3 に対して10mg シグマ P-6782);および20μl 精製HOX(カラーギナン(chondrus crispus)由来のHOXを、欧州特許出願公開第0832245号A明細書に吉舎逸されるようにして調製し、Rand等による(T.Rand, K.B.Qvist, C.P.Walter & C.H.Poulsen. FEBS Journal,2006年、第273巻、第2693頁〜第2703頁)に従い精製した発酵ブロスとして使用した)。
【0214】
グルコアミラーゼを有する噴霧乾燥デンプンの調製(実験室規模)
コーンスターチ(カーギル社製のC*gel 03401)、およびグルコアミラーゼ(Danisco A/S社製)を水性スラリーから噴霧乾燥させる。75gのデンプンと、56ユニット/g濃度のグルコアミラーゼのスラリーを、500ml体積の水から噴霧乾燥させる。空気吸入口の温度を135℃に保持し、空気および粉末吹き出し口の温度は80℃である。噴霧ノズルにて、0℃の水を用い水冷する。装置は、Mini Spray Dryer B-191(ビュッヒ・ラボラトリー・エクイプメント社製)である。
【0215】
グルコアミラーゼを有する噴霧乾燥デンプンの調製(パイロット規模)
トウモロコシ由来のデンプン(カーギル社製のC*gel 03401)、およびグルコアミラーゼ(Danisco A/S社製)を水中で混合させ、(他に特に規定がなければ)7.5kgのデンプンと、15kgの水と、3325mU/gデンプンの濃度のグルコアミラーゼを含有するスラリーを調製し、噴霧乾燥させた。活性は、デンプンスラリーへ添加する前に調製した純粋な酵素を基に測定した。アトマイザーの回転数15000rpm、および40〜50kgスラリー/時の供給量で、Niro NP 6.3 スプレーユニットを用いて噴霧乾燥させた。乾燥空気の吸入口および排出口の温度を、それぞれ190〜200℃および95〜110℃にした。気流速度は480〜520m/時とした。
【0216】
デンプンに固定されたグルコアミラーゼの酵素活性に関する試験
噴霧乾燥させたデンプン−グルコアミラーゼ粉末の活性を測定した結果、10〜15SGU/gであった。1SGU(デンプン-グルコアミラーゼユニット)は、2w/w%のデンプン-グルコアミラーゼ分散液において、pH4.5、25℃の条件下で1時間当り1mgのグルコースを放出するデンプン-グルコアミラーゼ粉末の量に相当し、培養初期の1〜3時間を通じる平均グルコース放出量で算出される。増加したグルコースを、遠心分離により上澄み液から分離し、定量化用のグルコース標準曲線を用いる標準グルコースアッセイで分析した。
【0217】
【表3】

【0218】
【表4】

【0219】
【表5】

【0220】
【表6】

【0221】
【表7】

【0222】
【表8】

【0223】
【表9】

【0224】
コーティングを、2段変速のDiaf 37-33Vミキサーを用いて調製した。成分を混合し、次いで30μm未満の粉末度まで粉砕する。粉砕工程における高剪断力および温度に影響を受ける成分を、レットダウンで添加してもよい。
【0225】
実験1-塗料成分としての種々のデンプン質の特性評価
上述の実験を用いて、表10に示すデンプンの水溶性不純物量に関する試験を行った。結果を表11に示す。
【0226】
【表10】

【0227】
一般的なデンプンは高分岐アミロペクチンを約3/4含有し、モチ(waxy)状のデンプンは100%アミロペクチンから構成される。表10における糊化温度は、デンプンがゲルを構成する温度を意味する。
【0228】
【表11】

【0229】
表11によると、水溶性物質を最も少なく含有するデンプン型は、カーギル社製のC*gel 03401(表10の「C1」)であることが判る。したがって、後の実施例においては、この種のデンプンが好ましい。
【0230】
実験2-グルコアミラーゼを有するデンプンを含有するか、または含有しないシリル化アクリルバインダーに基づく試験ペイントに関する、研磨速度および溶脱層深さ
シリル化アクリルバインダー系に基づく試験ペイント(表3および4参照)を、研磨速度試験に用いた。表12は、コーティングに関する研磨速度および溶脱層深さの結果を示す。140日後の溶脱層厚について、定常状態の溶脱層厚を測定することにより導く。
【0231】
【表12】

【0232】
この例によると、デンプンに固定されたグルコアミラーゼから構成される粉末は、研磨速度を低下させることなく、シリル化アクリルバンダーシステムに基づく塗料組成物における酸化第一銅の代わりに使用できることが判る。長石(比較例ペイント3)と比較した場合、研磨速度は若干近似しているが、溶脱層厚は、モデルペイントの厚さよりも比較例ペイントの方がより厚くなっている。このことは、防汚活性成分の拡散抵抗が増加することを意味し、その結果、防汚効果が低下する。
【0233】
実験3-グルコアミラーゼを有するデンプンを含有するか、または含有しないシリル化アクリルバインダーに基づく試験ペイントに関する、防汚性能の比較
シリル化アクリルバインダー系に基づく試験ペイント(表3および4参照)を、シンガポールにおいて、防汚性能試験に付した。8週間の浸漬後、パネルを検査した。検査による格付けを表13に示す。
【0234】
【表13】

【0235】
この表によると、デンプンに固定されたグルコアミラーゼを含有するコーティングの防汚性能は低下しないことが判る(モデルペイント1および2)。充填剤として長石を含有するコーティング(比較例ペイント2および3)と比較して、デンプンに固定されたグルコアミラーゼに基づく塗料の防汚効果は良好であることが判る。
【0236】
実験4-グルコアミラーゼを有するデンプンを含有するか、または含有しないNADバインダー系に基づく試験ペイントに関する、研磨速度および溶脱層深さ
NADバインダー系に基づく試験ペイント(表5および6参照)を、研磨速度試験に付した。結果を表14に示す。140日後の溶脱層厚について、定常状態の溶脱層厚を測定することにより導く。
【0237】
【表14】

【0238】
新規なコーティング成分を添加するペイント(モデルペイント4、6および7)は、研磨特性および溶脱層にもたらす影響を低減させないことが判った。さらに、充填剤としてデンプンを固定したグルコアミラーゼを使用することにより(モデルペイント5,6および7)、比較例のコーティング(比較例ペイント5および6)と比べて、一般に、溶脱層厚はより小さくなることが判る。
【0239】
実験5-グルコアミラーゼを有するデンプンを含有するか、または含有しないNADバインダー系に基づく試験ペイントに関する、防汚性能の比較
NADバインダー系に基づく試験ペイント(表5および6参照)を、防汚性能試験に付した。8週間の浸漬後、パネルを検査した。検査による格付けを表15に示す。
【0240】
【表15】

【0241】
この表によると、デンプンに固定されたグルコアミラーゼを含有するコーティングの防汚性能は低下しないことが判る(モデルペイント4〜7)。藻類の付着に関しては、2以下の点数が許容できる。
【0242】
実験6-顔料相の水溶性部分として、グルコアミラーゼを有するデンプンに完全に基づく試験ペイントに関する研磨速度
比較例ペイント7およびモデルペイント8(表7参照)を研磨速度試験に付した。得られた結果を表16に示す。
【0243】
【表16】

【0244】
この結果によると、活性顔料にのみ、デンプンに固定されたグルコアミラーゼを含有させる場合(モデルペイント8)、ヨットを基盤とする防汚コーティングへ、研磨性を付与できる。相対的に、固定したグルコアミラーゼを含有しないデンプンを含有するコーティングは、研磨性を有さない(比較例7)。
【0245】
実験7-グルコアミラーゼを有するデンプンを含有するか、または含有しない塗料組成物に基づくNADバインダー系に基づく試験ペイントの防汚性能に関する比較。
NADバインダー系に基づく試験ペイント(表8および9参照)を、研磨速度試験に付した。結果を表17に示す。25℃の条件下、35日後の溶脱層厚について、定常状態の溶脱層厚を測定することにより導く。残存する酵素活性を21日後に測定した。
【0246】
【表17】

【0247】
酵素活性が増加するにつれ、研磨速度が増加する傾向があることが判る。さらに、噴霧乾燥前の酵素活性が増加するにつれ、残存する酵素活性も増加することが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー系の形態を有するバインダー相と顔料相を含有する、酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物であって、
該顔料相が、(i)多糖および(ii)キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進する酵素を含有する該塗料組成物。
【請求項2】
多糖がデンプンである請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
酵素が、アミラーゼ、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、およびグルコアミラーゼから選択される請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
酵素が多糖に固定される請求項1から3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
多糖が、塗料組成物の固形分体積の1〜30%を構成する請求項1から4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
多糖が、顔料相の固形分体積の1〜40%を構成する請求項1から5のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項7】
酵素と多糖の量比が、多糖1gあたり酵素0.05〜200000ミリユニットである請求項1から6のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項8】
バインダー相が、塗料組成物の固形分体積の30〜80%を構成し、顔料相が該塗料組成物の固形分体積の20〜70%を構成する請求項1から7のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項9】
塗料組成物が、固形分体積で0.05〜20%の1種または複数種の防汚剤を含有する請求項1から8のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の塗料組成物の1層または複数層で被覆された海洋構造物。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載された酵素を基剤とする自己研磨型塗料組成物の調製方法であって、
(i)多糖および(ii)キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進する酵素を、バインダー系並びに染料、添加剤、溶媒、顔料、充填剤、繊維および防汚剤から成る群から選択される1種以上の成分と混合させる工程を含む該方法。
【請求項12】
多糖およびキャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進する酵素の塗料組成物における使用であって、該塗料組成物へ自己研磨性を付与する該使用。
【請求項13】
酵素が多糖に固定される請求項12に記載の使用。
【請求項14】
塗料組成物の自己研磨効果をもたらすための方法であって、多糖と、キャリア材料に固定されて該多糖の加水分解を促進する酵素とを、該塗料組成物内に配合する工程を含む該方法。
【請求項15】
酵素が多糖に固定される請求項14に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−516923(P2012−516923A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548695(P2011−548695)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051437
【国際公開番号】WO2010/089378
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(501477945)
【住所又は居所原語表記】Lundtoftevej 150,DK−2800 Kongens Lyngby,DENMARK
【Fターム(参考)】