説明

酵素センサおよび当該酵素センサを用いた検出対象物質測定方法

【課題】検出対象物質が酵素活性を阻害することを利用して検出を行う、簡易な構成で高速かつ高感度な酵素センサ及び測定方法を提供する。
【解決手段】酵素センサ10は、複数のセンサ部Seと、複数のセンサ部Seのうち少なくとも一部のセンサ部Seを外部から遮断するために設けられた剥離可能なシール部16と、を備えている。複数のセンサ部Seを、シール部によって外部から遮断されているセンサ部と、外部から遮断されていないセンサ部とし、検出対象物質を含む液体に浸漬する。次に、シール部を剥がし、基質を含む液体に浸漬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素センサおよび当該酵素センサを用いた検出対象物質測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の検出対象物質を検出するバイオセンサが知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。具体的には、このようなセンサとしては、例えば、有機リン系農薬やカーバメート系農薬等がコリンエステラーゼ等の酵素の活性を阻害することを利用して、食品中の有機リン系農薬やカーバメート系農薬等の検出対象物質を検出する酵素センサが知られている。
【0003】
酵素センサは、感度や選択性には優れているものの、温度やpH等の外部環境の変化の影響を受け易い。また、酵素センサは、酵素活性の低下等の劣化が生じ易い。
そのため、例えば、検出結果に影響を与える雰囲気状態の変動を検知して補正用電気信号を出力する補正用電極(基質濃度検知電極、pH電極、温度センサ、電気伝導度計測用電極)を設けることにより検出結果を補正することのできる被検知物質測定装置が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
また、例えば、表面に固定化酵素膜が設けられた下地電極の活性低下を検出するため下地電極間に所定電圧波形を印加する電圧波形印加手段と、下地電極間に生ずる電気信号に基づいて所定の特徴データを生成する特徴データ生成手段と、下地電極の活性が十分に維持されている状態において前記所定電圧波形を印加したときの特徴データを保持する活性時特徴データ保持手段と、特徴データ生成手段によって生成された特徴データと活性時特徴データ保持手段に保持された活性時の特徴データとに基づいて下地電極の活性低下を判別する判別手段とを具備するバイオセンサの電極活性低下状態検出装置も提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−524021号公報
【特許文献2】特表2000−500380号公報
【特許文献3】特開2006−087303号公報
【特許文献4】特開2005−308720号公報
【特許文献5】特開2005−241537号公報
【特許文献6】特開平6−213856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献5に記載の装置において、検出結果をより正確に補正するためには、検出結果に影響を与える雰囲気状態の変動に関する情報として温度やpH等の複数種類の情報を得る必要がある。そして、そのためには、複数種類の補正用電極を備えなければならず、煩わしいという問題がある。
また、特許文献6に記載の装置では、下地電極の活性が十分に維持されている状態における特徴データを予め取得しておく必要があるため、煩わしいという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、簡易な構成で、高速かつ高感度な測定が可能な酵素センサおよび当該酵素センサを用いた検出対象物質測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
検出対象物質を検出する酵素センサにおいて、
複数のセンサ部と、
前記複数のセンサ部のうち少なくとも一部のセンサ部を外部から遮断するために設けられた剥離可能なシール部と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の酵素センサにおいて、
前記複数のセンサ部が形成された基板を備え、
前記センサ部は、前記基板の一方の面上と他方の面上との双方に形成されており、
前記シール部は、少なくとも前記基板の一方の面上に形成された前記センサ部を外部から遮断するように設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の酵素センサにおいて、
前記検出対象物質は、有機リン系の農薬またはカーバメート系の農薬であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、酵素の活性を阻害する物質を検出対象物質として、請求項1または2に記載の酵素センサを用いて当該検出対象物質の濃度を測定する検出対象物質測定方法において、
前記検出対象物質を含む液体に前記酵素センサを浸漬させることによって、前記シール部によって外部から遮断されている前記センサ部を当該検出対象物質に接触させずに、前記シール部によって外部から遮断されていない前記センサ部を当該検出対象物質に接触させる第1接触ステップと、
次いで、前記シール部を剥離する剥離ステップと、
次いで、前記酵素の基質を含む液体に前記酵素センサを浸漬させることによって、前記第1接触ステップで前記検出対象物質に接触した前記センサ部と、前記剥離ステップで外部に露出した前記センサ部と、を当該基質に接触させる第2接触ステップと、
次いで、前記剥離ステップで外部に露出した前記センサ部による検出値に対する、前記第1接触ステップで前記検出対象物質に接触した前記センサ部による検出値の比に基づいて、前記検出対象物質の濃度を算出する濃度算出ステップと、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のセンサ部のうち一部のセンサ部をシール部で被覆した状態で、検出対象物質を含む液体に酵素センサを浸漬させるだけの簡易な操作で、一の酵素センサに、検出対象物質に接触させていないセンサ部と、検出対象物質に接触させたセンサ部と、の両方を設けることができる。また、その後、シール部を剥離・除去して、酵素センサを所定の液体に浸漬させて当該液体に基質を添加したり、基質を含む液体に酵素センサを浸漬させたりするだけの簡易な操作で、検出対象物質に接触させていないセンサ部と検出対象物質に接触させたセンサ部とを同時に基質に接触させることが可能となる。
【0012】
したがって、劣化等に伴うセンサ部間のばらつきの影響を吸収できるので、同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における検出値を取得する必要がなくなる。また、基準センサ部による検出値と検出センサ部による検出値とを同時に取得するので、測定時間を短縮することが可能となる。
また、温度やpH等の外部環境の変化の影響も吸収できるので、高価で複雑な機構やシステムを用いて外部環境を一定に保つ必要がなく、また、測定のための複雑な調整等も必要ないので、簡易な測定が可能となる。
したがって、簡易な構成で、高速かつ高感度な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の酵素センサの斜視図である。
【図2】(a)実施形態の酵素センサの構成の一例を示す模式図、(b)実施形態の酵素センサの要部の構成の一例を示す模式図である。
【図3】実施形態の酵素センサにおいて、シール部を剥離する前後における状態を説明するための図である。
【図4】実施形態の酵素センサによって、電気化学的計測法により検出対象物質(農薬)の濃度を測定する原理について説明するための図である。
【図5】実施形態の酵素センサを備える検出対象物質測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図6】応答電流値の測定について説明するための図である。
【図7】実施形態の検出対象物質測定方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図8】実施例での測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して、本発明の実施形態を説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0015】
[酵素センサ]
まず、本実施形態の酵素センサ10の構成について説明する。
酵素センサ10は、有機リン系農薬やカーバメート系農薬等の検出対象物質を、当該検出対象物質がコリンエステラーゼ等の酵素の活性を阻害することを利用して検出するためのセンサである。
図1は、把持部1aに装着された状態の酵素センサ10の斜視図である。また、図2(a)は、酵素センサ10の構成の一例を示す模式図であり、図2(b)は、酵素センサ10の要部(具体的には、液溜形成部14、絶縁膜15およびシール部16を除いた部分)の構成の一例を示す模式図である。
【0016】
酵素センサ10は、図1および図2(a),(b)に示すように、主に、基板11と、基板11上に形成された電極12(作用電極121、対電極122および参照電極123)と作用電極121上に形成された酵素含有部13とからなるセンサ部Seと、センサ部Seの酵素含有部13の周囲に液溜を形成するための液溜形成部14と、センサ部Seの電極12からの配線を保護するための絶縁膜15と、センサ部Seを外部から遮断するためのシール部16と、を備えて構成される。
本実施形態において、センサ部Seは、基板11の一方の面上と他方の面上との双方(すなわち、基板11の表面および裏面)に一つずつ形成されている。以下、基板11の一方の面上に形成されたセンサ部Seを「センサ部B」と称し、基板11の他方の面上に形成されたセンサ部Seを「センサ部A」と称する。
なお、同一基板の表面上及び裏面上に直接センサ部Se,Seを形成することで、基板11の一方の面上と他方の面上との双方にセンサ部Seを形成するようにしても良いし、表面上のみにセンサ部Seが形成された基板を2枚用意して、これら基板の裏面同士を貼り合せることで、基板11の一方の面上と他方の面上との双方にセンサ部Seを形成するようにしても良い。
【0017】
基板11は、例えば、シリコン、セラミックス、ガラス、プラスチック、紙、生分解性材料(例えば、微生物生産ポリエステル等)等からなる絶縁性基板である。
【0018】
センサ部Seの電極12は、例えば、スクリーン印刷によって基板11上に作製されたカーボン電極である。
なお、電極12は、カーボン電極に限定されるものではなく、電極12の材質は、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、さらには、白金、金、銀、ニッケル、バラジウム、鉄、銅等の金属、或いは、これらをカーボンや樹脂へ混ぜ込んだもの、多孔質にしたもの等、適宜任意に変更可能である。
また、酵素センサ10の電極方式は、作用電極と対電極と参照電極との三極方式に限定されるものではなく、作用電極と対電極との二極方式であっても良い。
また、電極12は、スクリーン印刷によって作製されたものに限定されるものではなく、電極12の作製方法は適宜任意に変更可能である。具体的には、電極12は、例えば、蒸着法、スパッタリング法等によって作製することも可能である。
【0019】
また、作用電極121、対電極122および参照電極123の大きさ、形状、構成には、センサ部Seがシール部16によって外部から遮断可能であれば、特に制限はない。
具体的には、例えば、これらの電極は、市販の電解セル、測定セル等で使用する大きな電極であっても良いし、ディスク電極、回転リングディスク電極、ファイバー電極等であっても良いし、例えば、フォトリソグラフィー等の公知の微細加工技術により作製した微小電極(円盤電極、円筒電極、帯状電極、配列帯状電極、配列円盤電極、リング電極、球状電極、櫛型電極、ペア電極等)であっても良い。また、作用電極121、対電極122および参照電極123はそれぞれ同じ大きさ、形状、構成であっても良いし、異なる大きさ、形状、構成であっても良い。
【0020】
センサ部Seの酵素含有部13は、有機リン系農薬やカーバメート系農薬等の検出対象物質によって活性が阻害される酵素として、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)やブチリルコリンエステラーゼ(BChE)等のコリンエステラーゼを含有している。
酵素含有部13は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂等の所定の樹脂に酵素を添加し、それを作用電極121上に塗布することによって形成される。
なお、作用電極121上に酵素を固定する手法は、酵素が添加された所定の樹脂を作用電極121上に塗布する手法に限定されるものではなく、適宜任意に変更可能である。具体的には、例えば、作用電極121上に配設された多孔体が有する細孔の内部に酵素を固定化する手法等であっても良い。
また、酵素含有部13は、酵素に加えて、酵素と電極(作用電極121)との間の電子の受け渡しを促進するための電子伝達物質や、酵素の活性の発現を触媒するための補酵素等を含有していても良い。
【0021】
液溜形成部14は、センサ部Seを露出するための開口部14aを有するカバー部材である。基板11上に液溜形成部14を配置した状態(すなわち、図2(a)の状態)において、開口部14aは、窪みとなるため、例えば、そこに液体(例えば、検出対象物質を含む試料液)を溜めることができる。
【0022】
シール部16は、センサ部Seを外部から遮断するために、当該センサ部Seを露出するための液溜形成部14の開口部14aを塞いでいる。したがって、例えば、図3に示すように、センサ部Seを被覆しているシール部16を剥がすと、当該センサ部Seが外部に露出する。
【0023】
なお、シール部16としては、シリコンテープ等の疎水性のシール部材を好ましく用いることができるが、シール部16の材質は適宜任意に変更可能である。
また、本実施形態では、基板11の一方の面上に形成されたセンサ部Se(すなわち、センサ部B)と、基板11の他方の面上に形成されたセンサ部Se(すなわち、センサ部A)との双方を、予めシール部16で被覆していることとして説明するが、少なくとも基板11の一方の面上に形成されたセンサ部Se(すなわち、センサ部B)がシール部16で被覆されていれば良い。すなわち、センサ部Aは、予めシール部16で被覆されていなくても良い。
【0024】
ここで、本実施形態の酵素センサ10によって、電気化学的計測法により検出対象物質の濃度を測定する原理について、図4を参照して説明する。
酵素センサ10を所定の液体に浸漬させた状態で当該液体に基質(アセチルチオコリン(或いは、ブチリルチオコリン))を添加したり、基質(アセチルチオコリン(或いは、ブチリルチオコリン))を含む液体に酵素センサ10を浸漬させたりして、センサ部Seを基質に接触させると、図4に示すように、センサ部Seの酵素(コリンエステラーゼ)は、選択的触媒作用により基質を分解して、チオコリンを生成する。なお、酵素センサ10の酵素含有部13がTCNQ(テトラシアノキノジメタン)等の電子伝達物質を含有していない場合には、例えば、酵素センサ10が浸漬している液体にTCNQ等の電子伝達物質を添加しても良い(酵素センサ10が浸漬する前に添加しても良いし、浸漬した後に添加しても良い)。
【0025】
次いで、作用電極121を正にして、作用電極121と参照電極123との間に電圧を印加することにより酵素センサ10が浸漬している液体に対して電圧を印加すると、チオコリンは、電子伝達物質を介して間接的に電子(e)を作用電極121に渡し、ジチオビスコリンになる。この際、作用電極121と対電極122との間には、還元型の電子伝達物質を再酸化する電流が流れる。当該電流の値(以下「応答電流値」と称する。)は、酵素の活性に比例するため、応答電流値を測定することにより、その測定された応答電流値から酵素の活性を求めることができる。
【0026】
有機リン系農薬は、コリンエステラーゼ等の酵素に不可逆的に、また、カーバメート系農薬は、コリンエステラーゼ等の酵素に可逆的に結合して、触媒作用(活性)を阻害する。
そのため、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seにおける酵素の活性と、検出対象物質に接触させたセンサ部Seにおける酵素の活性と、を比較して、検出対象物質によって酵素の活性が阻害されることに伴い生じる酵素の活性の低下度合いから、試料液中の検出対象物質の濃度を測定することができる。
【0027】
具体的には、例えば、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seの応答電流値と、検出対象物質に接触させたセンサ部Seの応答電流値と、を測定して、検出対象物質によって酵素の活性が阻害されることに伴い生じる応答電流値の低下度合いを求める。そして、検出対象物質の濃度と応答電流値の低下度合いとの関係を示す検量線等を参照して、当該求めた応答電流値の低下度合いから、試料液中の検出対象物質の濃度を算出することができる。
本実施形態の場合、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seおよび検出対象物質に接触させたセンサ部Seは、例えば、複数のセンサ部Seのうち一部のセンサ部Seがシール部16で被覆された状態で、検出対象物質を含む試料液に酵素センサ10を浸漬させることによって得ることができる。この場合、シール部16で被覆されたセンサ部Seが、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seとなり、シール部16で被覆されていないセンサ部Seが、検出対象物質に接触させたセンサ部Seとなる。
【0028】
ここで、酵素センサは、酵素活性の低下等の劣化が生じ易い。
したがって、従来は、劣化等に伴うセンサ部間のばらつきの影響を抑えるために、同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定することによって、検出対象物質に接触させていないセンサ部の応答電流値と、検出対象物質に接触させたセンサ部の応答電流値と、を測定していた。
しかしながら、センサ部間のばらつきの影響を抑えるために同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定すると、応答電流値の測定を続けて2回行う必要があるため、測定に時間がかかるという問題がある。
【0029】
また、酵素センサは、感度や選択性には優れているものの、温度やpH等の外部環境の変化の影響を受け易い。
したがって、従来は、温度やpH等の外部環境の変化の影響を抑えるために、ペルチェ素子等を用いて周囲の温度を一定に保ったり緩衝液等でpHを一定に保ったりしながら応答電流値を測定していた。
しかしながら、ペルチェ素子等を用いて周囲の温度を一定に保ったり緩衝液等でpHを一定に保ったりしながら応答電流値を測定するには、高価で複雑な機構やシステムが必要であり、また、測定のための複雑な調整等が必要であるという問題がある。
【0030】
そこで、本実施形態では、基板11に複数のセンサ部Seを形成し、当該複数のセンサ部Seのうち一部のセンサ部Seを基準センサ部、すなわち検出対象物質に接触させていないセンサ部Seとするとともに、他の一部のセンサ部Seを検出センサ部、すなわち検出対象物質に接触させたセンサ部Seとして、基準センサ部の応答電流値と検出センサ部の応答電流値とを同一環境下で同時に測定する。そして、基準センサ部の応答電流値に対する検出センサ部の応答電流値の比を応答比として算出し、検出対象物質の濃度と応答比との関係を示す検量線を参照して、当該算出した応答比から検出対象物質の濃度を算出することとする。
【0031】
これにより、劣化等に伴うセンサ部間のばらつきの影響を吸収できるので、同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定する必要がなくなる。また、基準センサ部の応答電流値と検出センサ部の応答電流値とを同時に測定するので、従来の場合(すなわち、同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定する場合)と比較して、測定時間を約半分に短縮することが可能となる。
また、温度やpH等の外部環境の変化の影響も吸収できるので、高価で複雑な機構やシステムを用いて外部環境を一定に保つ必要がなく、また、測定のための複雑な調整等も必要ないので、簡易な測定が可能となる。
【0032】
さらに、複数のセンサ部Seのうち一部のセンサ部Seをシール部16で被覆した状態で、検出対象物質を含む試料液に酵素センサ10を浸漬させるだけの簡易な操作で、一の基板11上に、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seと、検出対象物質に接触させたセンサ部Seと、の両方を設けることができる。その後、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seを被覆するシール部16を剥離・除去して、酵素センサ10を所定の液体に浸漬させて当該液体に基質を添加したり、基質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させたりするだけの簡易な操作で、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seと検出対象物質に接触させたセンサ部Seとを同時に基質に接触させることが可能となる。
また、特に、本実施形態の場合、基板11の表面および裏面に1つずつセンサ部Seを設けることによって、基板11に複数のセンサ部Seを形成しているので、本実施形態のセンサ部Seと同サイズのセンサ部Seを基板11の表面のみに2個設けることによって基板11に複数のセンサ部Seを形成する場合等と比較して、酵素センサ10のコンパクト化が可能となる。
【0033】
[検出対象物質測定装置]
本実施形態の酵素センサ10は、例えば、検出対象物質測定装置1に備えられている。
検出対象物質測定装置1は、有機リン系農薬やカーバメート系農薬等の検出対象物質を、当該検出対象物質がコリンエステラーゼ等の酵素の活性を阻害することを利用して電気化学的計測法により検出し、当該検出結果に基づいて検出対象物質の濃度を測定する装置である。
【0034】
図5は、検出対象物質測定装置1の構成の一例を示すブロック図である。
検出対象物質測定装置1は、図5に示すように、主に、酵素センサ10と、酵素センサ10と接続する取得手段20と、取得手段20と接続する濃度算出手段30と、を備えて構成される。
【0035】
検出対象物質測定装置1が備える取得手段20は、図5に示すように、複数の取得部(本実施形態の場合、第1取得部21および第2取得部22)を備えている。
取得部(第1取得部21、第2取得部22)は、センサ部Seの電極12(作用電極121、対電極122、参照電極123)からの配線と接続する接続部20a(本実施形態の場合、第1接続部21aおよび第2接続部22a)を有しており、接続部20aを介して酵素センサ10が備える各センサ部Seと接続している。
【0036】
具体的には、第1取得部21および第2取得部22は、例えば、センサ部Seの応答電流値を取得するためのマルチチャンネルポテンショスタット等からなり、定電圧計や電流計測器等を有している。そして、例えば、酵素をコリンエステラーゼとし、基質をアセチルチオコリン(或いは、ブチリルチオコリン)とした場合、第1取得部21および第2取得部22はそれぞれ、酵素反応により生成されるチオコリンを、電子伝達物質を用いて電極(作用電極121)上で酸化することによる酸化電流を検出する。
また、センサ部Seの電極12からの配線と接続する接続部20aは、例えば、図1に示すように、棒状の把持部1aの先端に設けられている。接続部20aの第1接続部21aおよび第2接続部22aは、例えば、所定の間隔(例えば、酵素センサ10の厚みよりも若干小さい間隔)をあけて互いに対向するように設けられている。これにより、酵素センサ10を第1接続部21aと第2接続部22aとの間に差し込むだけで、酵素センサ10を把持部1aに装着できるように構成されている。
【0037】
ここで、本実施形態において、取得手段20は、例えば図6に示すように、複数の取得部を用いて、基質との接触前から基質との接触後までの間の基準センサ部の応答電流値と、基質との接触前から基質との接触後までの間の検出センサ部の応答電流値と、を同時に取得するように構成されている。
以下、基質との接触直前の応答電流値をベースライン値と称し、基質に接触してから所定時間(例えば、300秒)が経過した後の応答電流値を検出値と称する。
なお、取得手段20は、把持部1a内に備えられていても良いし、把持部1a外に備えられていても良い。
また、取得手段20が備える取得部の個数は、複数であれば適宜任意に変更可能である。
【0038】
本実施形態の検出対象物質測定装置1が備える濃度算出手段30は、図5に示すように、取得手段20が備える複数の取得部と接続している。
濃度算出手段30は、取得手段20による取得結果に基づき検出対象物質の濃度を算出するように構成されている。
【0039】
具体的には、濃度算出手段30は、取得手段20(具体的には、取得手段20が備える取得部)により取得された基準センサ部によるベースライン値と、検出センサ部によるベースライン値と、を比較する。
そして、濃度算出手段30は、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が所定の許容範囲内である場合には、取得手段20(具体的には、取得手段20が備える取得部)により取得された基準センサ部による検出値に対する検出センサ部による検出値の比を応答比として算出し、当該応答比に基づいて、濃度算出手段30に予め記憶されている検量線(具体的には、例えば、検出対象物質の濃度と応答比との関係を示す検量線)等を参照して、検出対象物質の濃度を算出する。
【0040】
一方、濃度算出手段30は、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が所定の許容範囲外である場合には、取得手段20(具体的には、取得手段20が備える取得部)により取得された基準センサ部によるベースライン値に対する基準センサ部による検出値の増加分、すなわち基準センサ部によるベースライン値と基準センサ部による検出値との差を算出するとともに、検出センサ部によるベースライン値に対する検出センサ部による検出値の増加分、すなわち検出センサ部によるベースライン値と検出センサ部による検出値との差を算出する。そして、基準センサ部における差(ベースライン値と検出値との差)に対する検出センサ部における差(ベースライン値と検出値との差)の比を応答比として算出し、当該応答比に基づいて、濃度算出手段30に予め記憶されている検量線(具体的には、例えば、検出対象物質の濃度と応答比との関係を示す検量線)等を参照して、検出対象物質の濃度を算出する。
【0041】
ここで、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が所定の許容範囲外となる場合とは、例えば、基準センサ部となったセンサ部Seと検出センサ部となったセンサ部Seとの間の応答出力の大きさ、或いは、ばらつきが大きい場合である。センサ部間のばらつきは、劣化の度合い、酵素の種類や固定化法、酵素含有部13の厚み等が異なることで生じる。
検出値にはベースライン値が含まれているので、検出センサ部によるベースライン値が基準センサ部によるベースライン値と大きく異なる場合、検出値をそのまま使用して応答比を算出しても、正確な応答比を算出することはできない。そこで、本実施形態では、前述したように、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が所定の許容範囲外である場合には、検出センサ部におけるベースライン値からの応答電流増加分と、基準センサ部におけるベースライン値からの応答電流増加分と、を算出して、これらの比を応答比として算出することで、正確な応答比の算出を可能としている。
【0042】
したがって、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が、検出値をそのまま使用して応答比を算出しても正確な応答比を算出できない程度の差である場合を、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が所定の許容範囲外となる場合とする。また、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値とが同一である場合や、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が検出値をそのまま使用して応答比を算出しても正確な応答比を算出できる程度の差である場合を、基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が所定の許容範囲内となる場合とする。
【0043】
[検出対象物質測定方法]
次に、酵素センサ10を用いた、試料液中の検出対象物質の濃度を測定する測定方法の一例について、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0044】
まず、基板11の一方の面側および他方の面側に貼り付けられたシール部16のうち、基板11の他方の面側に貼り付けられたシール部16、すなわち基板11の他方の面上に形成されたセンサ部Seであるセンサ部Aを被覆するシール部16を除去する(ステップS1)。なお、酵素センサ10が、センサ部Aを被覆するシール部16を備えていない場合には、当該ステップS1を省略する。
次いで、検出対象物質を含む試料液に酵素センサ10を所定時間(例えば、5分間)浸漬させる(ステップS2)。すなわち、ステップS2で、検出対象物質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させることによって、シール部16によって外部から遮断されているセンサ部Se(すなわち、センサ部B)を当該検出対象物質に接触させずに、シール部16によって外部から遮断されていないセンサ部Se(すなわち、センサ部A)を当該検出対象物質に接触させる第1接触ステップを行う。
【0045】
次いで、基板11の一方の面側に貼り付けられたシール部16、すなわち基板11の一方の面上に形成されたセンサ部Seであるセンサ部Bを被覆するシール部16を除去する(ステップS3)。すなわち、ステップS3で、シール部16を剥離する剥離ステップを行う。
次いで、センサ部A、すなわち検出対象物質に接触させたセンサ部Se(検出センサ部)と、センサ部B、すなわち検出対象物質に接触させていないセンサ部Se(基準センサ部)と、を洗浄する(ステップS4)。なお、センサ部Aを洗浄した後に、剥離ステップ(ステップS3)を行い、その後、センサ部Bを洗浄して、センサ部Bを濡らしておくように構成することも可能である。
【0046】
次いで、緩衝液等の電解液に酵素センサ10を浸漬させる(ステップS5)。
次いで、電解液に酵素センサ10を浸漬させた状態のまま、センサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)への電圧の印加を開始して、取得手段20によるセンサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)の応答電流値の測定を開始する(ステップS6)。
【0047】
次いで、センサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)に電圧を印加した状態のまま、所定のタイミング(具体的には、例えば、センサ部B(基準センサ部)の応答電流値とセンサ部A(検出センサ部)の応答電流値とが安定したタイミング)で、酵素センサ10を電解液から引き上げて、基質を含む溶液に当該酵素センサ10を浸漬させる(ステップS7)。すなわち、ステップS7で、酵素の基質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させることによって、第1接触ステップ(ステップS2)で検出対象物質に接触したセンサ部Se(すなわち、センサ部A)と、剥離ステップ(ステップS3)で外部に露出したセンサ部Se(すなわち、センサ部B)と、を当該基質に接触させる第2接触ステップを行う。
ここで、基質に接触させる直前、具体的には酵素センサ10を電解液から引き上げる直前におけるセンサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)の応答電流値が、それぞれセンサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)によるベースライン値になる。
なお、酵素センサ10を電解液から一度引き上げて、引き続き、基質を含む溶液に浸漬させているが(ステップS7)、電解液中に基質を直接滴下して応答を測定してもよい。
【0048】
そして、所定のタイミング(具体的には、例えば、基質に接触させてから所定時間(例えば、300秒)が経過するよりも後のタイミング)で、センサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)への電圧の印加を終了して、取得手段20によるセンサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)の応答電流値の測定を終了する(ステップS8)。
なお、基質に接触させてから所定時間(例えば、300秒)が経過した後のセンサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)の応答電流値が、それぞれセンサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)による検出値になる。
【0049】
次いで、濃度算出手段30によって、応答比を算出する(ステップS9)
具体的には、濃度算出手段30によって、センサ部B(基準センサ部)によるベースライン値とセンサ部A(検出センサ部)によるベースライン値とを比較する。
そして、濃度算出手段30は、センサ部B(基準センサ部)によるベースライン値とセンサ部A(検出センサ部)によるベースライン値との差が所定の許容範囲内である場合には、センサ部B(基準センサ部)による検出値に対するセンサ部A(検出センサ部)による検出値の比を応答比として算出する。
一方、濃度算出手段30は、センサ部B(基準センサ部)によるベースライン値とセンサ部A(検出センサ部)によるベースライン値との差が所定の許容範囲外である場合には、センサ部B(基準センサ部)による検出値とセンサ部B(基準センサ部)によるベースライン値との差を算出するとともに、センサ部A(検出センサ部)による検出値とセンサ部A(検出センサ部)によるベースライン値との差を算出して、基準センサ部(センサ部B)における差に対する検出センサ部(センサ部A)における差の比を応答比として算出する。
【0050】
次いで、濃度算出手段30によって、算出した応答比に基づき濃度検出対象物質の濃度を算出する(ステップS10)。すなわち、ステップS10で、剥離ステップ(ステップS3)で外部に露出したセンサ部Se(すなわち、センサ部B)による検出値に対する、第1接触ステップ(ステップS2)で検出対象物質に接触したセンサ部Se(すなわち、センサ部A)による検出値の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する濃度算出ステップを行う。
これにより、酵素センサ10を用いて、試料液中の検出対象物質の濃度を測定することができる。
ここで、検出対象物質測定装置1によるセンシング方法としては、電気化学的計測法を用いることができる。すなわち、酸化電流又は還元電流を測定するクロノアンペロメトリー法、クーロメトリー法、サイクリックボルタンメトリー法等の公知の計測法を適用することが可能である。測定方式としては、デスポーザブル方式、バッチ方式、フローインジェクション方式等、何れであっても良い。
【0051】
以下、具体的な実施例によって本発明を説明するが、発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
本実施例では、検出対象物質として、アルジカルブ(カーバメート系農薬)を用いた。
まず、複数の酵素センサ10を用意した。
酵素センサ10は、基板11の一方の面上および他方の面上に電極12としてスクリーン印刷によりカーボン電極を作製し、その上に液溜形成部14と絶縁膜15とを配設し、液溜形成部14の開口部14aから露出している作用電極121上に酵素(コリンエステラーゼ)を含む架橋型ポリビニルアルコール樹脂を塗布し、そして、基板11の一方の面上に形成されたセンサ部Seと基板11の他方の面上に形成されたセンサ部Seとをシール部16によって被覆することによって作製した。
【0053】
次いで、用意した酵素センサ10を把持部1aに装着して、図7に示す手順で、センサ部B(基準センサ部)およびセンサ部A(検出センサ部)による検出値(具体的には、基質に接触させてから300秒後の応答電流値)を取得するとともに、応答比を算出した。また、検出対象物質である農薬(アルジカルブ)の酵素活性の阻害率も算出した。その結果を、図8に示す。
なお、センサ部B(基準センサ部)によるベースライン値とセンサ部A(検出センサ部)によるベースライン値との差は、所定の許容範囲内であった。
応答比は、応答比=(検出センサ部による検出値)/(基準センサ部による検出値)により算出できる。
また、阻害率は、阻害率(%)=100×((1−応答比)/(検出対象物質濃度0ppbにおける応答比))により算出できる。
【0054】
図8に示す結果から、濃度10ppbの低濃度な農薬(アルジカルブ)でも、精度よく検出できることが分かった。
また、図8に示す結果から、センサ部間のばらつきを修正することなく作製した酵素センサ10を用いて、外部環境を一定に保つことなく測定を行ったにもかかわらず、基準センサ部と検出センサ部とを同一基板11に形成して当該基準センサ部の応答電流値と当該検出センサ部の応答電流値とを同時に測定し、それに基づく応答比を求めるだけで、センサ部間のばらつきの影響や外部環境の変化の影響等を吸収でき、信頼性のある高感度な測定が可能であることが分かった。また、異なる酵素センサ10を用いて、同様の測定を行ったところ、再現性も良好であることが分かった。
【0055】
以上説明した本実施形態の酵素センサ10によれば、複数のセンサ部Seと、複数のセンサ部Seのうち少なくとも一部のセンサ部Seを外部から遮断するために設けられた剥離可能なシール部16と、を備えている。
【0056】
したがって、複数のセンサ部Seのうち一部のセンサ部Seをシール部16で被覆した状態で、検出対象物質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させるだけの簡易な操作で、一の酵素センサ10に、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seと、検出対象物質に接触させたセンサ部Seと、の両方を設けることができる。また、その後、シール部16を剥離・除去して、酵素センサ10を所定の液体に浸漬させて当該液体に基質を添加したり、基質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させたりするだけの簡易な操作で、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seと検出対象物質に接触させたセンサ部Seとを同時に基質に接触させることが可能となる。
【0057】
これにより、劣化等に伴うセンサ部間のばらつきの影響を吸収できるので、同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定、すなわち同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における検出値を取得する必要がなくなる。また、基準センサ部の応答電流値と検出センサ部の応答電流値とを同時に測定、すなわち基準センサ部による検出値と検出センサ部による検出値とを同時に取得するので、測定時間を短縮することが可能となる。
また、温度やpH等の外部環境の変化の影響も吸収できるので、高価で複雑な機構やシステムを用いて外部環境を一定に保つ必要がなく、また、測定のための複雑な調整等も必要ないので、簡易な測定が可能となる。
したがって、簡易な構成で、高速、高感度で再現性の良い測定が可能となる。
【0058】
また、以上説明した本実施形態の酵素センサ10によれば、複数のセンサ部Seが形成された基板11を備え、センサ部Seは、基板11の一方の面上と他方の面上との双方に形成されており、シール部16は、少なくとも基板11の一方の面上に形成されたセンサ部Seを外部から遮断するように設けられている。
【0059】
したがって、基板11の一方の面上と他方の面上との双方にセンサ部Seが形成されているので、基板11の一方の面上のみに複数のセンサ部Seを設ける場合と比較して、酵素センサ10のコンパクト化が可能となる。
【0060】
また、以上説明した本実施形態の酵素センサ10によれば、検出対象物質は、有機リン系の農薬またはカーバメート系の農薬である。
したがって、有機リン系の農薬またはカーバメート系の農薬の濃度を、簡易な構成で、高速かつ高感度に測定することが可能である。
【0061】
また、以上説明した本実施形態の検出対象物質測定方法によれば、酵素の活性を阻害する物質を検出対象物質として、酵素センサ10を用いて当該検出対象物質の濃度を測定する検出対象物質測定方法において、検出対象物質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させることによって、シール部16によって外部から遮断されているセンサ部Seを当該検出対象物質に接触させずに、シール部16によって外部から遮断されていないセンサ部Seを当該検出対象物質に接触させる第1接触ステップと、次いで、シール部16を剥離する剥離ステップと、次いで、酵素の基質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させることによって、第1接触ステップで検出対象物質に接触したセンサ部Seと、剥離ステップで外部に露出したセンサ部Seと、を当該基質に接触させる第2接触ステップと、次いで、剥離ステップで外部に露出したセンサ部Seによる検出値に対する、第1接触ステップで検出対象物質に接触したセンサ部Seによる検出値の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する濃度算出ステップと、を有している。
【0062】
したがって、複数のセンサ部Seのうち一部のセンサ部Seをシール部16で被覆した状態で、検出対象物質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させるだけの簡易な操作で、一の酵素センサ10に、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seと、検出対象物質に接触させたセンサ部Seと、の両方を設けることができる。また、その後、シール部16を剥離・除去して、酵素センサ10を所定の液体に浸漬させて当該液体に基質を添加したり、基質を含む液体に酵素センサ10を浸漬させたりするだけの簡易な操作で、検出対象物質に接触させていないセンサ部Seと検出対象物質に接触させたセンサ部Seとを同時に基質に接触させることが可能となる。
【0063】
これにより、劣化等に伴うセンサ部間のばらつきの影響を吸収できるので、同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における応答電流値を測定、すなわち同一のセンサ部を用いて検出対象物質との接触前後における検出値を取得する必要がなくなる。また、基準センサ部の応答電流値と検出センサ部の応答電流値とを同時に測定、すなわち基準センサ部による検出値と検出センサ部による検出値とを同時に取得するので、測定時間を短縮することが可能となる。
また、温度やpH等の外部環境の変化の影響も吸収できるので、高価で複雑な機構やシステムを用いて外部環境を一定に保つ必要がなく、また、測定のための複雑な調整等も必要ないので、簡易な測定が可能となる。
したがって、簡易な構成で、高速、高感度で再現性の良い測定が可能となる。
【0064】
なお、本発明は、上記した実施の形態のものに限るものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0065】
上記実施形態では、酵素センサ10に2個のセンサ部Seを備えたが、酵素センサ10が備えるセンサ部Seの個数は、複数であれば適宜任意に変更可能である。酵素センサ10が備えるセンサ部Seの個数が3個以上である場合、そのうちの少なくとも1個のセンサ部Seがシール部16によって外部から遮断されていればよい。
また、上記実施形態では、基板11の一方の面上と他方の面上との双方にセンサ部Seを形成したが、基板11の一方の面上のみに複数のセンサ部Seを形成することも可能である。
また、シール部16のサイズは、図示例に限定されず、センサ部Seを外部から遮断できるサイズであれば適宜任意に変更可能である。
【0066】
取得手段20により取得された基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が所定の許容範囲内であるか否かにかかわらず、取得手段20により取得された基準センサ部による検出値に対する、取得手段20により取得された検出センサ部による検出値の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するように構成することも可能である。
また、取得手段20により取得された基準センサ部によるベースライン値と検出センサ部によるベースライン値との差が所定の許容範囲内であるか否かにかかわらず、取得手段20により取得された基準センサ部による検出値とベースライン値との差に対する、取得手段20により取得された検出センサ部による検出値とベースライン値との差の比に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するように構成することも可能である。
【0067】
酵素センサ10による電気化学的計測は、一つの基板上に形成した二極構造(作用電極121と対電極122)又は三極構造(作用電極121と対電極122と参照電極123)の電極を用いても良いし、独立した各電極(作用電極121、対電極122、参照電極123)を組み合わせて用いても良い。
【0068】
なお、検出対象物質は、有機リン系の農薬やカーバメート系の農薬等の酵素の活性を阻害する物質に限ることはなく、適宜任意に変更可能である。また、酵素も、検出対象物質に合わせて適宜任意に変更可能である。また、検出対象物質や酵素に合わせて、基質等も適宜任意に変更可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 酵素センサ
11 基板
16 シール部
Se センサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物質を検出する酵素センサにおいて、
複数のセンサ部と、
前記複数のセンサ部のうち少なくとも一部のセンサ部を外部から遮断するために設けられた剥離可能なシール部と、
を備えることを特徴とする酵素センサ。
【請求項2】
前記複数のセンサ部が形成された基板を備え、
前記センサ部は、前記基板の一方の面上と他方の面上との双方に形成されており、
前記シール部は、少なくとも前記基板の一方の面上に形成された前記センサ部を外部から遮断するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の酵素センサ。
【請求項3】
前記検出対象物質は、有機リン系の農薬またはカーバメート系の農薬であることを特徴とする請求項1または2に記載の酵素センサ。
【請求項4】
酵素の活性を阻害する物質を検出対象物質として、請求項1または2に記載の酵素センサを用いて当該検出対象物質の濃度を測定する検出対象物質測定方法において、
前記検出対象物質を含む液体に前記酵素センサを浸漬させることによって、前記シール部によって外部から遮断されている前記センサ部を当該検出対象物質に接触させずに、前記シール部によって外部から遮断されていない前記センサ部を当該検出対象物質に接触させる第1接触ステップと、
次いで、前記シール部を剥離する剥離ステップと、
次いで、前記酵素の基質を含む液体に前記酵素センサを浸漬させることによって、前記第1接触ステップで前記検出対象物質に接触した前記センサ部と、前記剥離ステップで外部に露出した前記センサ部と、を当該基質に接触させる第2接触ステップと、
次いで、前記剥離ステップで外部に露出した前記センサ部による検出値に対する、前記第1接触ステップで前記検出対象物質に接触した前記センサ部による検出値の比に基づいて、前記検出対象物質の濃度を算出する濃度算出ステップと、
を有することを特徴とする検出対象物質測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53927(P2013−53927A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192320(P2011−192320)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム委託研究に基づく特許出願
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)