説明

酵素処理イソクエルシトリンの保存安定性向上方法

【課題】弱酸性〜中性付近の水含有組成物中における酵素処理イソクエルシトリンの保存安定性方法を提供する。
【解決手段】pH5〜6.6の水含有組成物中における酵素処理イソクエルシトリンの保存安定性を向上させる方法であって、上記水含有組成物において酵素処理イソクエルシトリンとカテキンまたはカテキン含有組成物とを共存させることを特徴とする上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱酸性〜中性付近の水含有組成物中における酵素処理イソクエルシトリンの保存安定性方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルチンのアグリコンであるクエルセチン(Quercetin:3,3’,4’,5,7-pentahydroxyflavone)は、強力な抗酸化活性(非特許文献1参照)の他、血小板の凝集抑制および接着抑制作用、血管拡張作用、抗ガン作用等、多彩な生理機能をもつことが知られている。このクエルセチンについても、タマネギに多く含まれるクエルセチン配糖体(Quercetin-4’-β-D-glucoside、Quercetin-3,4’-β-D-glucoside)の方が吸収性に優れていることが報告されている(非特許文献2参照)。また同様に、クエルセチンの3位にグルコースがβ結合したイソクエルシトリン(Quercetin-3-β-D-glucoside)は、クエルセチンやルチンよりも吸収性が高いことが報告されている(非特許文献3参照)。
【0003】
このようにイソクエルシトリンは、クエルセチンやルチンより吸収性に優れた成分であるものの、水に難溶であるため食品や飲料等の水系の組成物に対して利用が制限されるという問題を有している。そこで、この問題を解消する方法として、糖転移酵素を用いて、基質のグルコース残基をイソクエルシトリンのグルコース残基部位に転移させてα−グリコシルイソクエルシトリンを調製する方法が提案されている(特許文献1参照)。斯くして調製されるα−グリコシルイソクエルシトリン(本発明では、「酵素処理イソクエルシトリン」と称する)は、イソクエルシトリンの作用はそのままに、水への溶解性が改善された水易溶性物質であり、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から食品用の酸化防止剤(食品添加物)として「サンメリン(登録商標)AO−3000」や「サンメリン(登録商標)パウダーC−10」の名称で上市されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−213293号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Middlton EJ. et al., Pharmacol Rev., 52, 673-751, 2000
【非特許文献2】Hollman PC et al., Arch Toxicol Suppl., 20, 237-248, 1998
【非特許文献3】Morand C et al., Free Rad Res., 33, 667-676, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように強力な抗酸化作用や種々の生理活性を有し、生体の健康維持に有用な機能性素材である酵素処理イソクエルシトリン(以下、「EMIQ」ともいう)は、pH2.5〜5の酸性条件下では比較的安定であるものの、pH5以上、特にpH6以上の条件下になると、水含有組成物中では、EMIQが経時的に開環して重合し、EMIQよりも抗酸化作用や生理活性の劣るEMIQ開環重合物等になると考えられる。
【0007】
このため、pH5以上pH7未満の条件下にある水を含む飲食品、医薬品または医薬部外品、特に飲料に対してEMIQを添加しても、保存中に経時的にEMIQ開環重合物等が生成してEMIQ含有量が低下し(後述する実験例1および2参照)、EMIQの抗酸化作用や生理活性といった所期の効果を発揮させて、これを享受することができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記EMIQについて、pH5以上pH7未満の条件、具体的にはpH5〜6.6の条件にある水含有組成物中での保存安定性を向上させる方法を提供すること、そして当該pH条件にある水を含む飲食品、医薬品または医薬部外品、特に飲料に対してEMIQを添加した場合でも、保存中にEMIQ含有量が経時的に低下することを有意に抑制し、EMIQの所期の効果を発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねたところ、EMIQを含有するpH5以上pH7未満の条件、より具体的にはpH5〜6.6の条件にある水含有組成物中に、カテキンを共存させることにより、当該pH条件下でのEMIQの経時的な含有量の低下が抑制できることを見出した(後述する実験例1および2参照)。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を含有するものである:
(1)pH5〜6.6の水含有組成物中におけるEMIQの保存安定性を向上させる方法であって、上記水含有組成物においてEMIQをカテキンまたはカテキン含有組成物と共存させることを特徴とする、上記方法。
(2)カテキンが緑茶カテキンである(1)記載の方法。
(3)カテキン含有組成物が茶抽出物である(1)記載の方法。
(4)水含有組成物のEMIQ濃度が0.01〜0.1質量%である、(1)乃至(3)のいずれかに記載する方法。
(5)水含有組成物のカテキンまたはカテキン含有組成物の含有量が、カテキンの総量に換算して、0.0028〜0.04質量%である、(1)乃至(4)のいずれかに記載する方法。
(6)水含有組成物中のEMIQ含有量100質量部に対するカテキンまたはカテキン含有組成物の割合が、カテキンの総量に換算して、2.8〜400質量部である、(1)乃至(5)のいずれかに記載する方法。
(7)pH5〜6.6の水含有組成物が、水を含む飲食品、医薬品または医薬部外品である(1)乃至(6)のいずれかに記載する方法。
(8)pH5〜6.6の水含有組成物が飲料である、(1)乃至(6)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、pH5〜6.6の条件にある水含有組成物中でのEMIQの保存安定性を向上させる方法を提供することができる。その結果、本発明によれば、当該pH条件にある水を含む飲食品、医薬品または医薬部外品、特に飲料に対してEMIQを添加した場合でも、保存中にEMIQ含有量が経時的に低下することを有意に抑制し、EMIQの所期の効果を発揮させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、pH5〜6.6の水含有組成物中における酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)の保存安定性を向上させる方法である。当該方法は、上記水含有組成物中において、EMIQをカテキンと共存させることによって実施することができる。
【0013】
(1)酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)
本発明の酵素処理イソクエルシトリンとは、ルチンを、酵素(ナリンジナーゼ、ヘスペリジナーゼまたはラムノシダーゼ)処理した後、精製して得られた主成分がイソクエルシトリンである「ルチン酵素分解物」と、でん粉またはデキストリンの混合物に、シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼを用いてグルコースを付加して得られたものであり、主成分はα-グルコシルイソクエルシトリンである(食品衛生法及び栄養改善法の一部を改正する法律(平成7年法律第101号)附則第2条第4項に規定する既存添加物名簿(平成8年4月16日厚生省告示第120号)参照)。例えば市販品としてサンメリン(登録商標)AO−3000、サンメリン(登録商標)パウダーC−10(以上、三栄源エフ・エフ・アイ社製)等を挙げることができる。
【0014】
(2)カテキン
本発明で用いる「カテキン」はフラボノイドの一種で、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート(GCg)等の非エピ体カテキン類;およびエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート(EGCg)等のエピ体カテキン類をあわせた総称である。好ましくは茶由来のカテキンであり、より好ましくは緑茶に由来するカテキンである。
【0015】
かかるカテキンとしては、カテキンを含有する植物組織から熱水若しくは水溶性有機溶媒により抽出された抽出物、またはこれを濃縮して固体、水溶液若しくはスラリー状の形態としたものを利用してもよく、また上記抽出物をさらに精製したものであってもよい。本発明では、これを「カテキン含有組成物」と称する。本発明では、化学合成されたカテキンも利用可能である。なお、茶の抽出液中ではカテキンは非重合体として存在しており、本発明におけるカテキンはこの非重合体も含めて意味するものとする。
【0016】
上記カテキンを含有する植物組織としては茶葉の他、バラ科、ツバキ科、ブドウ科、シソ科、アカネ科、アオギリ科、タデ科に属する植物の果実や種子等を挙げることができる。好ましくは、茶葉、ブドウ、リンゴ、および大豆等の果実または種子である。
【0017】
カテキンを得るための茶としては、Camellia属(例えばC.sinensisおよびC.assamica)またはやぶきた種またはそれらの雑種等の樹木の茶葉から製茶された不発酵茶(煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜炒り茶等の緑茶類)、半発酵茶(烏龍茶等)、発酵茶(紅茶等)を挙げることができる。好ましくは不発酵茶であり、より好ましくは緑茶である。
【0018】
茶を抽出する方法については、攪拌抽出、カラム法、ドリップ抽出など従来の方法により行う。簡便な方法としては、上記の茶葉を、例えば40〜140℃の水に浸漬し、0.1分〜120時間加熱処理して抽出物を得る方法である。また抽出時の水にあらかじめアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸または有機酸塩類を添加してもよい。また煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法も併用してもよい。このようにして得られた茶抽出液は、そのままでも、乾燥または濃縮してもよく、液体、スラリー、半固体、固体(粉末または顆粒状)の状態で、本発明に用いるカテキン含有組成物として使用することができる。
【0019】
カテキン含有組成物として、茶葉から抽出した抽出液を使用する代わりに、茶抽出物の濃縮物を用いても、茶葉からの抽出液と茶抽出物の濃縮物とを併用してもよい。ここで、茶抽出物の濃縮物とは、茶葉から熱水または水溶性有機溶媒により抽出された抽出物を濃縮したものであり、例えば、特開昭59−219384号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平5−306279号公報等に記載されている方法により調製したものをいう。具体的には、茶抽出物の濃縮物として、市販の三井農林社製「ポリフェノン」、伊藤園社製「テアフラン」、太陽化学社製「サンフェノン」等のカテキン含有製剤を用いることもできる。
【0020】
カテキン含有組成物の形態は、水含有組成物に添加配合し、溶解または分散させることができるものであればよく、例えば液体、スラリー、半固体、固体(粉末または顆粒状)の形態が挙げられる。
【0021】
(3)水含有組成物
本発明が対象とする水含有組成物は、pHが5〜6.6の範囲にあり、水を含有する組成物である。好ましいpH条件としてはpH5.5〜6.6、pH6〜6.6を挙げることができる。かかる水含有組成物としては、上記pH条件にある水を含む飲食品または医薬品若しくは医薬部外品を挙げることができる。ここで水の含有割合は特に制限されず、好ましくは90〜99.9質量%の範囲から適宜選択することができる。
【0022】
水を含む飲食品として、好ましくは飲料である。かかる飲料には、pHが5〜6.6の範囲にある各種飲料、例えば、野菜ジュース、野菜入り飲料、果汁系ニアウォーター、茶系飲料(緑茶飲料、烏龍茶飲料、紅茶飲料、麦茶飲料、ブレンド茶飲料、その他の茶飲料(杜仲茶、ジャスミン茶、甜茶、はと麦茶、玄米茶など)、スポーツ飲料(スポートドリンク)、乳性飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料やコーヒー入り清涼飲料などが含まれる。好ましくは、茶系飲料である。
【0023】
(4)EMIQとカテキンまたはカテキン含有組成物との共存
EMIQとカテキンまたはカテキン含有組成物との共存は、上記水含有組成物、つまりpHが5〜6.6の範囲にある水含有組成物に、EMIQとカテキンまたはカテキン含有組成物を添加配合し、両成分を共存させることで実施することができる。
【0024】
水含有組成物中のEMIQの含有割合としては、制限されず、通常0.01〜0.1質量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.03〜0.09質量%であり、より好ましくは0.06〜0.085質量%である。
【0025】
EMIQと共存させる水含有組成物中のカテキンまたはカテキン含有組成物の含有割合としては、制限されず、カテキンの総量に換算して、通常0.0028〜0.04質量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.004〜0.03質量%であり、より好ましくは0.01〜0.02質量%である。
【0026】
なお、水含有組成物中のEMIQ100質量部に対するカテキンまたはカテキン含有組成物の配合割合としては、カテキンの総量に換算して、通常2.8〜400質量部、好ましくは4.4〜100質量部、より好ましくは11.8〜23.5質量部を挙げることができる。
【0027】
(5)EMIQの保存安定性の向上
上記の本発明の方法により、pH5〜6.6の水含有組成物中において、EMIQの保存安定性を向上させることができ、その結果、当該水含有組成物中におけるEMIQの含有量の低下を抑制することができる(EMIQ残存量の増加)。
【0028】
EMIQの保存安定性は、後述する実験例で示すように、EMIQを含有するpH5〜6.6の水含有組成物を所定の条件で保存する前後で、水含有組成物中のEMIQの含有量を測定し、両者を対比することにより実施することができる。具体的には、保存前のEMIQ含有量に対する保存後のEMIQ含有量の百分率を「EMIQ残存率(%)」として算出する。この場合、カテキンを含有するEMIQを含む水含有組成物の「EMIQ残存率(%)」が、比較対照とするカテキンを含有しないEMIQを含む水含有組成物の「EMIQ残存率(%)」よりも高い場合に、カテキンを併用することによってEMIQの保存安定性が向上したと判断することができる。
【0029】
なお、水含有組成物のEMIQの定量分析は、高速液体クロマトグラフィーを用いて行うことができ、具体的には、実験例1に記載する方法に従って(または準じて)行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の内容を実験例および実施例を用いて具体的に説明する。但し、これらの実施例などは本発明の一態様に過ぎず、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。なお、特に記載のない限り「%」は「質量%」意味するものとする。また、EMIQは酵素処理イソクエルシトリンを意味するものとする。また、文中の「*」印を付した製品は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品であることを、文中の「※」印を付した名称は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0031】
調製例1:イソクエルシトリン、酵素処理イソクエルシトリンの調製
水100L(温度55℃)にルチン500gを分散し、これにナリンギナーゼ(天野製薬株式会社、商品名ナリンギナーゼ「アマノ」)を50g添加した。この系はpH7であった。これを5時間50℃に保持したのち、濃縮し、50Lとした。冷却したところイソクエルシトリンが沈殿した。沈殿物を濾別して集め、乾燥することによりイソクエルシトリン320gを得た。
【0032】
このイソクエルシトリン300gに100Lの水を加え、コーンスターチ800gを添加し、均質にし、これにCGTase(天野製薬株式会社、商品名コンチザイム)200mLを添加し、温度55℃、pH6.8にて12時間保持した。この溶液を吸着樹脂カラム(三菱化成(株)製ダイヤイオンHP−21)に通してクエルセチン3−O−配糖体を吸着させ、ついで50vol%メタノール水溶液で脱着させた。脱着液を濃縮乾固して、糖転移イソクエルシトリン515gを得た(ルチン換算として約70%)。この固形物は、未反応のイソクエルシトリンおよびグルコース残基数の異なる配糖体を含むクエルセチン−3−O−配糖体混合物であった。この固形物を酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)とした。
【0033】
実験例1 pH5.5〜6.5条件での安定性試験
pH5.5〜6.5条件におけるEMIQの安定性を調べるとともに、当該条件でのEMIQの安定性に対するカテキンの影響を評価した。
【0034】
(1)試験方法
リン酸二水素ナトリウム−クエン酸緩衝液を用いてpH5.5、pH6、およびpH6.5の水溶液をそれぞれ調製し、これらの各々に調製例1で得たEMIQを最終濃度がルチン換算として0.085%になるように添加した。次いで、斯くして調製した各pHのEMIQ含有水溶液に、表1に記載する割合で、SD緑茶エキスパウダーNO.16714(28%カテキン含量製剤、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を最終濃度が100〜1430ppm(カテキンとしては28〜400ppm)になるように添加した(被験試料1〜5)。なお、当該緑茶エキスパウダー1430ppmは、通常の緑茶に含まれるカテキン濃度に相当する。また対照試料として、緑茶エキスパウダーを添加しない各pHのEMIQ含有水溶液を用意した。
【0035】
これらの各試料を200mL容量の透明なPETボトルに満タン充填し、遮光条件下60℃で10日および20日間保存した。
【0036】
試験開始前、保存10日後および保存20日後の各試料について、EMIQの含有量を、EMIQ標品を用いた検量線法により下記条件のHPLCにて定量分析し、保存10日後および保存20日後の試料中のEMIQの残存率(%)を算出した。
【0037】
<HPLC条件>
カラム :Imtakt社製 CD−C18(φ4.6×150mm)
移動相 :0.1%リン酸水溶液/アセトニトリル
〔アセトニトリル18%(0−8分)、18→74%(8−15分)、18%(15−22分)〕
カラム温度:40℃
検出波長:351nm
流速:1.0mL/min
注入量:20μL。
【0038】
(2)試験結果
結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
対照試料の結果からわかるように、pHが5.5から6.5に上がるにつれてEMIQの残存率(EMIQ含有量)が有意に低下した。これから、EMIQは酸性条件よりも中性条件にすることで、安定性がpH依存的に低下することがわかった。
【0041】
これに対して、被験試料の結果からわかるように、EMIQにカテキンを添加し、カテキンとの共存状態にすることによって、EMIQの残存率(EMIQ含有量)が格段に上昇した。このことから、少なくともpH5.5〜6.5条件下におけるEMIQの安定性は、カテキンを共存させることで、格別に増大することが判明した。
【0042】
実験例2 EMIQ含有緑茶飲料のpH5〜6.6条件下での安定性評価
EMIQ含有緑茶飲料について、pH5〜6.6条件におけるEMIQの安定性を評価した。
【0043】
(1)試験方法
(1-1)EMIQ含有緑茶飲料の調製
緑茶葉10gを50℃のイオン交換水1kgに投入し、茶葉を完全に浸して30分間50±1℃にて保持した。抽出液を、30メッシュの濾過膜、および200メッシュの濾過膜を用いて順次ろ過を行い、最後にNo.2ろ紙にてろ過した。斯くして調製したろ液を、耐圧容器に移して121℃で20分間、加熱殺菌し、緑茶エキスを調製した。
【0044】
次いで、得られた緑茶エキスを、Brixが0.17になるようにイオン交換水にて希釈し、L−アスコルビン酸ナトリウムを最終濃度300ppmに、またEMIQ(調製例1で得た酵素処理イソクエルシトリン)を最終濃度がルチン換算として0.085%になるように各々添加し、EMIQ含有緑茶飲料を調製した。当該EMIQ含有緑茶飲料には、EMIQが0.085%、カテキンが0.01%含まれていた。
【0045】
(1-2)EMIQ含有緑茶飲料の安定性評価
各EMIQ含有緑茶飲料のpHを、L−アスコルビン酸および重曹を用いてpH5〜6.6(0.2刻み)になるように調整し、200mL容量の透明PETボトルに93℃達温にてホットパック充填した。なお、対照飲料として、イオン交換水にL−アスコルビン酸ナトリウムを最終濃度300ppm、またEMIQ(調製例1で得た酵素処理イソクエルシトリン)を最終濃度がルチン換算として0.085%になるように各々添加し、EMIQ含有飲料(緑茶エキス非添加)を調製した。
【0046】
斯くして調製したこれらの飲料を60℃まで冷却した後、遮光条件下、60℃で10日間および3週間保存した。
【0047】
試験開始前、保存10日後および保存3週間後の各飲料について、EMIQの含有量を、実験例1と同一の条件でHPLCにて定量分析し、保存10日後および保存3週間後の飲料中のEMIQの残存率(%)を算出した。
【0048】
(2)試験結果
結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
EMIQ含有飲料(緑茶エキス非添加)の結果からわかるように、pHが5.0から6.6に上がるにつれてEMIQの残存率(EMIQ含有量)が有意に低下した。これに対して、EMIQ含有緑茶飲料の結果からわかるように、緑茶飲料にEMIQを添加し、EMIQをカテキンとの共存状態にすることによって、pH5〜6.6でのEMIQ残存率の低下(安定性の低下)が格段に抑制され、EMIQの残存率(EMIQ含有量)が顕著に上昇した。
【0051】
EMIQは、通常pHが6付近で安定性が悪くなるフラボノイドであるが、以上の実験から、少なくともpH5〜6.6条件下におけるEMIQの安定性は、カテキン、特に緑茶中のカテキンにより、格別に増大することが判明した。
【0052】
実施例1 緑茶飲料
(処方)
緑茶抽出液(Brix 0.2〜0.3) 適量 (%)
酵素処理イソクエルシトリン(調製例1) 0.08
SD緑茶エキスパウダーNO.16714* 0.05
L−アスコルビン酸ナトリウム 0.03
重曹 0.0025
水にて合計100%(Brix 0.17)に調整した。
【0053】
(緑茶抽出液の調製)
緑茶葉を、茶葉1に対して100倍量の50℃の湯に30分間浸漬し抽出した。抽出液をろ過して固液分離を行い、ろ液を緑茶抽出液として取得した。
【0054】
(緑茶飲料の調製)
調製した緑茶抽出液に、カテキン類の濃度を上げるためにSD緑茶エキスパウダーNO.16714を添加し、L−アスコルビン酸ナトリウム、重曹、酵素処理イソクエルシトリンを加えてBrix 0.17になるよう水にて希釈して緑茶飲料を得た。カテキンとしては約140ppmを含んでいた。
【0055】
実施例2 ニアウォーター(グレープフルーツ)
(処方)
砂糖 5 (%)
クエン酸 0.15
クエン酸三ナトリウム 0.05
L−アスコルビン酸 0.02
塩化ナトリウム 0.04
塩化カリウム 0.03
塩化マグネシウム 0.004
乳酸カルシウム 0.03
グルタミン酸ナトリウム 0.005
オレンジ香料 0.02
グレープフルーツ香料 0.15
テアフラン90S(茶カテキン85%以上、伊藤園社製) 0.02
酵素処理イソクエルシトリン(調整例1) 0.08
水にて合計 100%とした。
【0056】
砂糖、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、L−アスコルビン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、乳酸カルシウム、およびグルタミン酸ナトリウムを混合し、これを水に、加熱攪拌しながら溶解した。溶解後93℃まで加熱し、オレンジ香料、およびグレープフルーツ香料を加えて水にて全量調製し、ニアウォーター(グレープフルーツ味)を得た。カテキンとしては約170ppmを含んでいた。
【0057】
実施例3 ブレンド茶1
(処方)
SD緑茶エキスパウダーNO.18555* 0.02 (%)
FD紅茶エキスパウダーNO.16600* 0.02
FDウーロン茶エキスパウダーNO.16297* 0.01
L−アスコルビン酸ナトリウム 0.003
炭酸水素ナトリウム 0.007
酵素処理イソクエルシトリン(調製例1) 0.08
テアフラン90S(茶カテキン85%以上、伊藤園社製) 0.03
水にて合計 100%とした。
【0058】
少量の熱湯に各種エキスパウダーを溶解し、これにL−アスコルビン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酵素処理イソクエルシトリン(調製例1)、およびテアフラン90Sを加えて溶解し、ブレンド茶を得た。カテキンとしては約260ppmを含んでいた。
【0059】
実施例4 ブレンド茶2
(処方)
ブレンド茶抽出液(下記参照) 99.88 部
酵素処理イソクエルシトリン(調製例1) 0.08
テアフラン90S(茶カテキン85%以上、伊藤園社製) 0.04
合計 100部。
【0060】
ブレンド茶葉(小川生薬社「国産ブレンド茶」:はと麦、玄米、大麦、ハブ茶、柿の葉、ドクダミ、ビワ茶のブレンド品)を3gあたり1Lの熱湯にて5分間煮出し、茶葉をろ過して除いてブレンド茶抽出液を得た。
【0061】
このブレンド茶抽出液に酵素処理イソクエルシトリン(調製例1)、テアフラン90Sを添加して溶解し、ブレンド茶を得た。カテキンとして約340ppmを含んでいた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH5〜6.6の水含有組成物中における酵素処理イソクエルシトリンの保存安定性を向上させる方法であって、上記水含有組成物において酵素処理イソクエルシトリンとカテキンまたはカテキン含有組成物とを共存させることを特徴とする上記方法。
【請求項2】
カテキンが緑茶カテキンである請求項1記載の方法。
【請求項3】
pH5〜6.6の水含有組成物が、水を含む飲食品、医薬品または医薬部外品である請求項1または2に記載する方法。
【請求項4】
pH5〜6.6の水含有組成物が飲料である、請求項1または2に記載する方法。

【公開番号】特開2013−106590(P2013−106590A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256200(P2011−256200)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】