説明

酵素応答性ゲル

【課題】ぺプチターゼに反応することで自己集合体を形成してヒドロゲルになりえる脂質ペプチドを生成する酵素応答性の脂質ペプチドを提供する。
【解決手段】


脂質ペプチドゲル化促進部位−スペーサー(1)−酵素切断部位−スペーサー(2)−親水性ペプチド部位で表される構造を有する脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩からなる。脂質ペプチドゲル化促進部位は特定のテトラペプチドで表される部位であり、スペーサー(1)又は(2)は0〜2個のアミノ酸から形成される部位であり、酵素切断部位はぺプチダーゼにより加水分解を受けるジペプチドを含む複数のアミノ酸から形成される部位であり、親水性ペプチド部位はアミノ酸から形成されるペプチドの末端に親水性基を有してなる部位である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素と反応することにより自己組織化素子へと変換する新規な脂質ペプチド、及び、酵素に応答してゾルからゲルに変換し形成されるゾル及びヒドロゲルに関する。
本発明の酵素応答性ヒドロゲルは、評価検体中の酵素の有無を確認するセンサー、その酵素活性の評価システム、患部の検査・診断、創傷部位の酵素と反応する創傷被覆材や薬物放出システム用の基材として好適に利用される。
【背景技術】
【0002】
近年、外部の刺激に応答して形状や物性を変化させる材料の開発研究が行なわれており、こうした材料を医薬品製剤や医療用システムに用いる基材として、例えば薬物速達システム、検査・診断用関連基材、バイオチップ、生化学や創薬研究用基材への応用が試みられている。こうした外部刺激応答性材料の具体例として、温度や光に反応して材料表面が親水性から疎水性に変化する温度応答性高分子(特許文献1)や光応答性高分子(特許文献2)などが提案されている。
また最近では、創傷部位に選択的に反応して該部位を被膜し保護・治療するシステム、組織選択的な薬剤徐放システム、そして簡便かつ効率の良い検査・診断法に利用できる新たな外部刺激応答性材料の開発が進められている。例えば、生体内で使用可能なコラーゲンなどの天然高分子、ポリグリコールやポリエチレングリコールなどを用いて、タンパク質や細胞との相互作用を構築すべく設計された高分子ゲル(ヒドロゲル)が検討されている。
しかしながら、これらの材料を創傷部位の被膜や徐放製剤に用いるためにヒドロゲル化させようとする場合、高分子鎖間に化学共有結合にて架橋構造を構築するなどの必要があり、これはゲルの調製を煩雑なものとし、また架橋剤や機能性の発現のために組入れられた機能性分子等の未反応の残存物質の安全性なども問題となる。また、機能性基の導入率に限界があることや精密な分子設計が難しいといった様々な課題を残している。
【0003】
こうした従来の「トップダウン型」の機能性材料の開発に対し、物質の最小単位である原子や分子を集合させ、その集合体である超分子に新たな機能を見出す「ボトムアップ型」の機能性材料の創製研究が着目されている。
ゲルの分野においても、低分子化合物の自己集合化による非共有結合性ゲルファイバー(所謂「超分子ポリマー」)によって形成される新たゲルの開発が進められている。この「自己集合化」とは、当初ランダムな状態にある物質(分子)群において、分子が適切な外部条件下で分子間の非共有結合性相互作用等により、自発的に会合することにより、マクロな機能性集合体に成長することを指す。
上記新たなゲルは、理論的にはモノマーの分子設計によって、分子間相互作用や分子集合体の弱い非共有結合を制御することで、巨視的なゲルの構造や機能制御が可能である点が注目されている。
但し、低分子化合物間の分子間相互作用や非共有結合を如何に制御するかについては明確な方法論が見出されていない。また得られる自己集合体の形状は、多くは球状の所謂ミセル型であるが、その他ベシクル型、ディスク型、ロッド型、チューブ型、ラメラ型と数種類あり、どのような形状の集合体を形成させるかを制御するモノマー分子設計は現状では困難である。さらに得られた巨視的なゲルの機能や物性の研究がほとんど行われていないのも現状である。
また分子設計に関しても、比較的ゲル形成が容易である有機溶媒中における水素結合を利用した自己集合体の研究は進められているものの、水溶液中での水素結合形成を推測することは困難であり、現状では偶発的な発見の域に留まっている。水溶液中における自己集合化化合物(すなわちヒドロゲル化剤など)の探索研究は、ケミカルライブラリーと自
動合成装置によって作製した多数のサンプル評価(非特許文献1)によって進められているなど、現状では予測不可能な状況にある。
【0004】
こうした中、光異性化による分子の極性変化により可逆的に自己組織体を形成・崩壊し、それによりゾル・ゲル相転移を示す光応答性低分子ヒドロゲル(オリゴペプチド誘導体)(非特許文献2)が報告されている。また、リン酸化酵素に反応してゾルからゲルに変換し、さらにフォスファターゼによりゲルからゾルへと変化するリン酸化酵素応答性ゲル(非特許文献3)なども見出されている。
しかしながら、前者の光応答性ゲルではアゾ基といった特殊な官能基を用い、また後者の酵素応答性ゲルでは生体内の至るところで起きるリン酸化又はリン酸加水分解を対象とすることから、創傷部位や患部選択的な応答性としては改良の余地を残すものであり、安全性にも課題を有するものであった。
【0005】
一方、ヒトの皮膚や組織において創傷などの何らかのダメージを受けると、その部位において、細胞は組織の再生や保護をするべく、特定のペプチド配列を加水分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(以下、MMPと略す)やコラゲナーゼといったタンパク質分解酵素を活発に合成することとなる。すなわち、組織損傷部位は正常組織と比べて高い酵素濃度を有することとなり、こうした酵素の濃度分布を利用することにより、正常組織と異常組織(損傷部位)の識別が可能であるとしてその応用が期待されている。
特に、体細胞組織の制御因子(細胞移動、創傷治癒)であって、癌の増殖、湿潤、転移能などに関係し、癌細胞の多くが強く発現させることとなるMMP(MMP−VII)は、癌細胞の識別、診断やそれを標的にした薬物伝達システム(DDS)への展開が図れるとして幅広く研究されており、例えばMMPに応答するヒドロゲルとして、MMPにより分解されるヒドロゲルが報告されている(非特許文献4)。
【特許文献1】特開2000−319335号公報
【特許文献2】特開平7−228639号広報
【非特許文献1】松本真治、濱地格、ドージンニュース No.118、1−16頁(2006年)
【非特許文献2】Y.マツザワら、アドバンスド ファンクショナル マテリアルズ、200、17、1507−1514(Y.Matsuzawa et al., Adv.Funct.Mater.,2007,17,1507-1514)
【非特許文献3】Z.ヤンら、ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティ、2006、123、3038−3043(Z.Yang et al.,J.Am.Chem.Soc.,2006,128,3038-3043)
【非特許文献4】Y.シャウら、バイオマテリアルズ、2008、29(11)、1713−1719(Y.Chau et al.,Biomaterials,2008,29(11),1713-1719)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、これまで提案された光応答性ヒドロゲルや酵素応答性ヒドロゲルは、損傷組織における応答(選択)性や安全性などにさらなる改善が求められるものであった。
またMMPの働きを利用したゲルにあっては、MMPによってその構造体が破壊されてしまうため、患部や癌組織に長時間滞留して薬剤の効果を保持することが困難であり、患部の被覆による保護や治療、またDDSとして活用できる新たなヒドロゲルに対する潜在的な要求があった。
【0007】
本発明は上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、新規な脂質ペプチド、詳細には、通常は水溶液に溶解又は分散した状態で安定化した状態におり、疾患部位より誘導されるぺプチダーゼによって加水分解を受け、それにより自己集
合化してファイバー、さらにはヒドロゲルを形成する新規な脂質ペプチドを提供することにある。
また本発明は、上記脂質ペプチドを用いて、創傷や癌細胞などの患部(非正常部位)を識別し、さらには被覆することが可能になる、ヒドロゾルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、ヒドロゲル化能を有する脂質ペプチド化促進部位に酵素切断部位並びに親水性部位をスペーサーを介して結合させることにより、そしてこれら各構成部位の組み合わせを詳細に検討した脂質ペプチドをなすことにより、該脂質ペプチドを含む溶液がMMPやコラゲナーゼなどの特定の酵素によってゲル化することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、第1観点として、脂質ペプチドゲル化促進部位にスペーサー(1)を介して酵素切断部位が結合し、さらに該酵素切断部位にスペーサー(2)を介して親水性ペプチド部位が結合した式(1)で表される構造を有する脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩であって、
【0009】
【化1】

【0010】
前記脂質ペプチドゲル化促進部位は、式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
(式(2)中、
1は不飽和結合を1又は2個有し得る炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族基を表し

2乃至R5は夫々互いに独立して、水素原子、炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、フェニルメチル基、又は−(CH2)n−A基を表し、
且つ、R2乃至R5のうちの一つ又は二つが−(CH2)n−A基を表し、
nは1乃至4の数を表し、
Aはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾー
ル基又はイミダゾール基を表す。)で表される部位であり、
前記スペーサー(1)は、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)からなる群から選択されるアミノ酸1〜2個から形成される部位であり、
前記酵素切断部位は、ぺプチダーゼにより加水分解を受けるジペプチドを含む、2〜6個のアミノ酸から形成される部位であり、
スペーサー(2)は、Gly、Ala、Valからなる群から選択されるアミノ酸0〜2個から形成される部位であり、
前記親水性ペプチド部位は、親水性アミノ酸2〜3個から形成されるペプチドの末端に−OH基、−OMe基、−NH基、−NHMe基又は−NMe2基(Meはメチル基を表す
。)を有してなる部位である、
脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第2観点として、前記酵素切断部位が、スペーサー(1)との結合側のアミノ酸がプロリン(Pro)である、第1観点記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第3観点として、前記親水性ペプチド部位が、リジン(Lys)、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)及びアルギニン(Arg)からなる群から選択される親水性アミノ酸2〜3個から形成されるペプチドの末端に、−NH基、−NHMe基、又は−NMe2基を有してなる部位である、第1観点又は第2観点記載の脂質ペプチド及びその薬
学的に使用可能な塩。
第4観点として、前記式(2)で表される脂質ペプチドゲル化促進部位において、
1は炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族基を表し、
2乃至R4は夫々互いに独立して、水素原子、炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基を表し、
5は−(CH2)n−A基を表し、nは1乃至4の数を表し、Aはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基又はイミダゾール基を
表す、第1観点乃至第3観点のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第5観点として、前記酵素切断部位は、スペーサー(1)との結合側からみて(Pro)−X−Y−又は(Pro)−Z−X−Y−のアミノ酸配列を含み、ここでX−Yは、マトリックスメタロプロテアーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン及びキモトリプシンから選択されるペプチダーゼによって加水分解されるジペプチドを表し、ZはGly、Ala、Val、Leu及びIleからなる群から選択されるアミノ酸を表す、第1観点乃至第4観点のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第6観点として、前記式(2)で表される脂質ペプチドゲル化促進部位において、
1は炭素原子数13乃至19の直鎖状脂肪族基を表し、
2乃至R4は夫々互いに独立して、水素原子、メチル基、i−プロピル基、i−ブチル基又は第二ブチル基を表し
5は4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、イミダ
ゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表す、
第1観点乃至第5観点のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第7観点として、前記式(2)で表される脂質ペプチドゲル化促進部位において、
1は炭素原子数13乃至19の直鎖状脂肪族基を表し、
2乃至R4は夫々互いに独立して、水素原子を表し
5は4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、イミダ
ゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表し、
前記スペーサー(1)が、1個のアミノ酸からなる部位である場合にはGly又はAlaであり、2個のアミノ酸から形成される部位である場合には、脂質ペプチドゲル化促進部位との結合側からみてGly−Gly、Gly−Ala、Ala−Gly、Ala−Ala、Val−Gly、Val−Ala、Leu−Gly、Leu−Ala、Ile−Gly及びIle−Alaからなる群から選択されるものであり、
前記スペーサー(2)は、直接結合又はGly若しくはAlaの1個のアミノ酸であり、であり、
前記親水性ペプチド部位が、Lys、Gln、Asn及びArgからなる群から選択される親水性アミノ酸2個から形成されるペプチドの末端に、−NH基、−NHMe基又は−NMe2基を有してなる部位である、第1観点乃至第6観点のうち何れか一項に記載の脂
質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第8観点として、前記親水性ペプチド部位が、スペーサー(2)との結合側からみて、Arg−Arg、Arg−Gln、Arg−Asn、Arg−Lys、Gly−Arg、Gln−Gln、Gln−Asn、Gln−Lys、Lys−Lys、Asn−Arg、Asn−Gln、Asn−Asn、Asn−Gln及びAsn−Lysからなる群から選
択されるペプチドの末端に、−NH基、−NHMe基又は−NMe2基を有してなる部位
である、第1観点乃至第7観点のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第9観点として、前記式(2)で表される脂質ペプチドゲル化促進部位において、
1は炭素原子数13乃至19の直鎖状脂肪族基を表し、
2乃至R4は夫々互いに独立して、水素原子を表し
5はイミダゾールメチル基を表す、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の脂
質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第10観点として、第2観点記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩をペプチダーゼによって加水分解することにより形成される脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第11観点として、式(3):
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1は不飽和結合を1又は2個有し得る炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族
基を表し、
2乃至R5は夫々互いに独立して、水素原子、炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、フェニルメチル基、若しくは−(CH2)n−A基を表
すか、又は隣接する−NH−基と一緒になって複素環を形成し、その際R2乃至R5のうちの一つ又は二つが−(CH2)n−A基を表し、且つR2乃至R5のうちの少なくとも一つ
は隣接する−NH−基と一緒になって複素環を形成し、
nは1乃至4の数を表し、
Aはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾー
ル基又はイミダゾール基を表し、
mは3乃至8を表す。)
で表される脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
第12観点として、水性媒体中で第1観点乃至第9観点のうちいずれか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩の自己集合化により形成される球状会合体。
第13観点として、第1観点乃至第9観点のうちいずれか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩、又は第12観点記載の球状会合体と水溶液又はアルコール水溶液より成るヒドロゾル。
第14観点として、第1観点乃至第9観点のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩よりなる酵素応答性ゲル化物質。
第15観点として、第1観点乃至第9観点のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩を水溶液又はアルコール水溶液に溶解または分散させて得られる溶液、分散液又はヒドロゾルが、ペプチダーゼの添加によって、前記脂質ペプチドの前記酵素切断部位が加水分解されて得られるヒドロゲル。
第16観点として、第10観点に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩、又は第11観点に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩の自己集合化により形成されるファイバー。
第17観点として、第10観点に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩、
第11観点に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩又は第16観点に記載のファイバーと水溶液又はアルコール水溶液より成るヒドロゲル。
【発明の効果】
【0015】
本発明の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩(以下、単に「本発明の脂質ペプチド」とも称する)は、水溶液やアルコール水溶液などに溶解し、又は水溶液中で球状の会合体を形成して分散し、安定したゾル状態を保つことができる。そしてこの溶液に特定の酵素を添加することにより、脂質ペプチドの酵素切断部位が加水分解を受け、新たに生じる脂質ペプチドが自己集合化することによりファイバーを形成して、容易にヒドロゲルを形成することができる。
【0016】
本発明の脂質ペプチドは、一般的に創傷部位において発現している酵素(コラゲナーゼやMMP)によって上述のヒドロゲルを形成するため、目視によるこれら酵素の簡易検出、すなわち患部(創傷部位)の識別を可能にする。
特に本発明の脂質ペプチドは、癌細胞の増殖に関与する酵素MMP−VIIにより切断される部位の組み込みが可能であるため、生体内で使用した場合に、癌組織の選択的な識別を可能にする。
【0017】
そして、本発明の脂質ペプチドの加水分解によって生じた上記ヒドロゲルは、従来型のヒドロゲル形成時に必要とされた架橋剤等を用いることなく、水溶液又はアルコール水溶液をゲル化させたヒドロゲルであるため、未反応の架橋剤等の残存がない。また加水分解後に新たに生じた脂質ペプチドは低分子化合物からなるため、従来のヒドロゲルのように機能性の発現のために組入れられた機能性分子等の未反応物質を含むことがない。
また本発明の脂質ペプチド並びに加水分解によって生じたヒドロゲルは、動物由来材料(コラーゲン、ゼラチンなど)を使用せず、脂質とペプチド(アミノ酸)のみから構成される人工低分子化合物であるため、生体内で使用した場合において感染等による問題が生じない。しかも製造においては極めて簡便な方法で調製可能である。さらに原料として生体内で産生又は吸収される脂質及びペプチドを選択することにより、生体吸収性の脂質ペプチド並びにヒドロゲルとして用いることが出来る。
【0018】
以上のように、本発明による脂質ペプチド並びに該脂質ペプチドの水溶液、さらには該脂質ペプチドの加水分解によって得られるヒドロゲルは、生体や環境に安全であり、患部や損傷部位認識能を有する創傷被覆剤、癒着防止膜、薬物速達システムなどに用いることでき、さらに疾患のマーカーとなる酵素を検出する検査・診断用の基材、創薬等の試験評価システムなど広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の脂質ペプチドとしては、水溶液中では溶解した状態にあるか、又は微細な球状の会合体を形成して分散した状態(ゾル状態)にあり、酵素(ペプチダーゼ)を添加することにより、酵素切断部位で切断され、生成した新たな脂質ペプチド(ゲル化剤)が自己集合化してファイバー状、さらにはゲルを形成するものが選択される。
すなわち、酸性領域からアルカリ性領域に亘る広い液性において、特に酵素反応を実施するpH7.4のリン酸緩衝溶液中で、酵素の活性化に必要とされることもある2価の金属イオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンなど)が存在していても、ペチダーゼ添加前にはゲル化や錯体を形成せず、ペプチダーゼ添加後には速やかにゲル形成が起こる脂質ペプチドを設計することが肝要である。
以下、上記条件を持たすべく設計された脂質ペプチドゲル化促進部位にスペーサー(1)を介して酵素切断部位が結合し、さらに該酵素切断部位にスペーサー(2)を介して親水性ペプチド部位が結合した前記式(1)で表される構造を有する本発明の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩について、また該ペプチドを構成する脂質ペプチドゲル化
促進部位、スペーサー(1)、酵素切断部位、スペーサー(2)、及び親水性ペプチド部位の夫々の部位について詳細に説明する。
【0020】
[脂質ペプチドゲル化促進部位]
脂質ペプチドゲル化促進部位(すなわちゲル化剤)は、ペプチダーゼ添加後に速やかに自己集合化し、ゲル形成をなす部位である。
脂質ペプチドゲル化促進部位は、下記式(2)で表される構造を有し、すなわち、脂溶性の高い長鎖を有する脂質部(アルキルカルボニル基)とペプチド部(テトラペプチド)より構成され、これらは自己集合化の妨げにならず、会合相手(別の脂質ペプチドゲル化促進部位)のペプチド部と水素結合を形成できるような構造から選択される。
具体的には、脂質ペプチドゲル化促進部位は、ある程度の鎖長の直線性の高い脂肪酸と嵩の小さいアミノ酸、さらに塩基性置換基を有するアミノ酸が結合した構造を有するものである。
【0021】
【化4】

【0022】
上記式(2)において、脂質部に含まれるR1は、不飽和結合を1又は2個有し得る炭
素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族基を表し、好ましくは炭素原子数13乃至19の直鎖状脂肪族基を表す。
1及び隣接するカルボニル基で構成される脂質部の好ましい構造の具体例としては、
ミリストイル基、ペンタデカノイル基、パルミトイル基、マルガロイル基、オレオイル基、エライドイル基、リノレオイル基、ステアロイル基、バクセノイル基、オクタデシルカルボニル基、アラキドイル基、イコサノイル基等を挙げることができ、さらに好ましくは、ミリストイル基、ペンタデカノイル基、パルミトイル基、マルガロイル基、ステアロイル基、ノナデカノイル基、イコサノイル基が挙げられる。
【0023】
上記式(2)において、ペプチド部に含まれるR2乃至R5は、夫々互いに独立して、水素原子、炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、フェニルメチル基、又は−(CH2)n−A基を表し、且つ、R2乃至R5のうちの一つ又は二
つが−(CH2)n−A基を表す。
上記式−(CH2)n−A基において、nは1乃至4の数を表し、Aはアミノ基、グア
ニジノ基、−CONH2基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基又はイミダゾー
ル基を表す。
【0024】
上記炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、第二ブチル基又は第三ブチル基を表し、好ましくはメチル基、i−プロピル基、i−ブチル基又は第二ブチル基である。
【0025】
上記−(CH2)n−A基は、具体的にはアミノメチル基、2−アミノエチル基、3−
アミノプロピル基、4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチ
ル基、3−カルバモイルプロピル基、2−グアニジノエチル基、3−グアニジノプロピル基、ピロールメチル基、イミダゾールメチル基、ピラゾールメチル基又は3−インドールメチル基等であり、好ましくは4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、イミダゾールメチル基又は3−インドールメチル基、特にイミダゾールメチル基が好ましい。
【0026】
また上述したように、自己集合化の妨げにならず、会合相手(別の脂質ペプチドゲル化促進部位)のペプチド部と水素結合を形成できるように、R2乃至R4は水素又は炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、特にメチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、第二ブチル基から選択され、特に水素原子であることが好ましく、R5は4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、イ
ミダゾールメチル基又は3−インドールメチル基から選択され、特にイミダゾールメチル基であることが好ましい。
なお、これら好ましいR2乃至R5を有するアミノ酸は以下の通りである;
2乃至R4:Gly、Ala、Val、Leu、Ile、特にGly;
5:His、Lys、Arg、Asn、Gln、特にHis。
【0027】
[スペーサー(1)]
スペーサー(1)は、脂質ペプチドゲル化促進部位の塩基性アミノ酸が、酵素切断部位の酵素との反応を妨げないように、脂質ペプチドゲル化促進部位と酵素切断部位との距離を一定に保つ役割を担う部位であり、但し、酵素が酵素切断部位に接触するのを妨げるような構成であってはならない。
【0028】
このような条件を担うスペーサー(1)としては、嵩の小さいアミノ酸、具体的にはグリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)からなる群から選択されるアミノ酸1〜2個で構成される。
好ましいスペーサー(1)としては、アミノ酸が1個で構成される場合にはGly又はAlaの何れかであり、アミノ酸が2個で構成される場合には、脂質ペプチドゲル化促進部位との結合側からみてGly−Gly、Gly−Ala、Ala−Gly、Ala−Ala、Val−Gly、Val−Ala、Leu−Gly、Leu−Ala、Ile−Gly及びIle−Alaからなる群から選択される。
より好ましいスペーサー(1)は、Gly、又はLeu−Glyである。
【0029】
[酵素切断部位]
前述の通り、本発明の脂質ペプチドは、水溶液中では溶解した状態にあるか、又は微細な球状の会合体を形成して分散した状態(ゾル状態)にあるものが選択される。脂質ペプチドが球状会合体を形成している場合、脂質ペプチドの酵素切断部位とペプチダーゼが接触するには、会合体の外側表面に酵素切断部位が突出するような形状を脂質ペプチドが有していることが望ましい。
このような要件を満たす脂質ペプチドの形状として酵素切断部位で屈曲した形状が挙げられる。こうした形状にすることにより、脂質ペプチドが会合した場合に、酵素が酵素切断部位に接触することができ、しかも会合体の過剰なパッキングを抑制できることから、脂質ペプチドが筒状の二次集合体(ファイバー)やさらに三次元の網目構造(ゲル)を形成することをも防止できる。
【0030】
上記条件を満たす酵素切断部位は、ペプチダーゼにより加水分解を受けるジペプチドを含む、2〜6個のアミノ酸から形成される部位であり、より具体的にはスペーサー(1)との結合側のアミノ酸がプロリン(Pro)であり、望ましくは(Pro)−X−Y−又は(Pro)−Z−X−Y−のアミノ酸配列を含む部位である。
ここでX−Yはマトリックスメタロプロテアーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン及びキモ
トリプシンから選択されるペプチダーゼによって加水分解されるジペプチドを表し、例えばGly−Leu,Phe−Gly、Ala−Ser及びLeu−Glyからなる群から選択されるジペプチドである。
またZはX−Yにペプチダーゼが接近しやすいように嵩の小さいアミノ酸から選択され、例えばGly、Ala、Val、Leu及びIleからなる群から選択されるアミノ酸である。
【0031】
好ましい酵素切断部位としては、スペーサー(1)との結合側からみて、Pro−Gly−Leu、Pro−Phe−Gly、Pro−Ala−Ser、Pro−Leu−Gly、Pro−Gly−Gly−Leu、Pro−Gly−Phe−Gly、Pro−Gly−Ala−Ser、Pro−Gly−Leu−Gly、Pro−Ala−Gly−Leu、Pro−Ala−Phe−Gly、Pro−Ala−Ala−Ser、Pro−Ala−Leu−Gly、Pro−Val−Gly−Leu、Pro−Val−Phe−Gly、Pro−Val−Ala−Ser、Pro−Val−Leu−Gly、Pro−Leu−Gly−Leu、Pro−Leu−Phe−Gly、Pro−Leu−Ala−Ser、Pro−Leu−Leu−Gly、Pro−Ile−Gly−Leu、Pro−Ile−Phe−Gly、Pro−Ile−Ala−Ser又はPro−Ile−Leu−Glyが挙げられ、Pro−Ala−Ser、Pro−Gly−Gly−Leu、Pro−Ala−Gly−Leu、Pro−Val−Gly−Leu、Pro−Leu−Gly−Leu又はPro−Ile−Gly−Leuがより好ましく、Pro−Ala−Ser又はPro−Leu−Gly−Leuが最も好ましい。
【0032】
[スペーサー(2)]
スペーサー(2)は、酵素切断部位と親水性ペプチド部位とを接続する部位であり、且つ、親水性ペプチド部位による本発明の脂質ペプチドに対する水溶性機能の付加を妨げないような部位である。前述のスペーサー(1)と同様に、スペーサー(2)も酵素が酵素切断部位に接触するのを妨げるような構成であってはならない。
また場合によってはスペーサー(2)を介することなく、酵素切断部位と親水性ペプチド部位が直接接続していてもよく、すなわちスペーサー(2)は直接結合を表すものであってもよい。
【0033】
このような条件を担うスペーサー(2)としては、嵩の小さいアミノ酸、具体的にはグリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val)からなる群から選択されるアミノ酸0〜2個で構成され、特に直接結合又はGly若しくはAlaの1個のアミノ酸であることが好ましい。
【0034】
[親水性ペプチド部位]
親水性ペプチド部位は、本発明の脂質ペプチドが酵素と反応するまでの間、水溶液中で該脂質ペプチドを溶解させた状態とするか又は球状会合体を形成して均一に分散させる状態にする機能を担う部位である。
親水性ペプチド部位は、親水性を発現すると共に、ペプチダーゼの活性化に必要な場合もあるカルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンなどの2価の金属イオンの存在下であっても、これらイオンと錯体を形成せず、ゲル化、固化、析出などを生じさせないような構成が選択される。
【0035】
このような要件を満たす親水性ペプチド部位として、特に2価の金属イオンによる錯体形成を避けるには、カルボキシル基や水酸基を有するアミノ酸の使用を避け、アミノ基、アミノカルバモイル基、グアニジノ基を持つ親水性アミノ酸を2〜3個組み合わせて構成するのが好ましく、具体的にはリジン(Lys)、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)及びアルギニン(Arg)から選択されるアミノ酸2〜3個、好ましくは前記
アミノ酸2個から構成されることが望ましい。
具体的には、親水性ペプチド部位のスペーサー(2)との結合側からみて、Arg−Arg、Arg−Gln、Arg−Asn、Arg−Lys、Gln−Arg、Gln−Gln、Gln−Asn、Gln−Lys、Lys−Lys、Asp−Arg、Asn−Gln、Asn−Asn、Asn−Gln又はAsn−Lysが好ましく、Arg−Arg又はArg−Lysがより好ましい。
【0036】
また、親水性ペプチド部位の末端部(C末端)としては−OH基、−OMe基、−NH2基、−NHMe基、−NMe2基が挙げられるが、前述の通り、ぺプチダーゼの活性化に金属イオンの添加が必要である場合に、これらイオンとの錯体形成を避けるためには、末端が−NH2基、−NHMe基、−NMe2基であることが好ましく、−NH2基であるこ
とがより好ましい。
【0037】
[脂質ペプチドの一例]
上記式(1)で表される脂質ペプチドとして好適なものの一例を以下に示す。なお、アミノ酸の略称としては、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)、バリン(Val)を表す。:N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Gly−Arg−Lys−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gl
y−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Arg−Lys−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Pro−Leu−G
ly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−
Gly−His−Val−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu
−Gly−Leu−Ala−Gln−Lys−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gl
y−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Lys−Lys−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−L
eu−Gly−Leu−Ala−Alg−Gln−NH2、N−ミリストイル−Gly−
Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Pro
−Leu−Gly−Leu−Gly−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gl
y−Gly−Gly−His−Val−Pro−Leu−Gly−Leu−Gly−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−P
ro−Leu−Gly−Leu−Gly−Gln−Lys−NH2、N−パルミトイル−
Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Gly−Lys−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly
−Pro−Leu−Gly−Leu−Gly−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイ
ル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Gly−Arg−Arg−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−G
ly−Pro−Leu−Gly−Leu−Gly−Arg−Lys−NH2、N−パルミ
トイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His
−Val−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Arg−Lys−NH2、N−パ
ルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Gln−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−H
is−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Lys−Lys−NH2、N
−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly
−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Arg−Arg−NH2
、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−G
ly−His−Ala−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Gln−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Pro−Leu−
Gly−Leu−Ala−Lys−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly
−Gly−His−Ala−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Pro−Le
u−Gly−Leu−Ala−Arg−Arg−NH2、N−ステアロイル−Gly−G
ly−Gly−His−Ala−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−Pro−
Leu−Gly−Leu−Ala−Gln−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly
−Gly−Gly−His−Val−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Lys−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−Pr
o−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−G
ly−Gly−Gly−His−Val−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Arg−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−
Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−ステアロイル
−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Gln−Lys−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Gl
y−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Lys−Lys−NH2、N−ステアロ
イル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−
Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Arg−NH2、N−ミリ
ストイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−Hi
s−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Gly−Arg−Lys−NH2、N−
パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−
His−Ala−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2
N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gl
y−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−G
ly−Leu−Ala−Gln−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−
Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Lys−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu
−Gly−Leu−Ala−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gl
y−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Arg−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−L
eu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−ミリストイル−Gly−
Gly−Gly−His−Gly−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−Gly−Pro
−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gl
y−His−Ala−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−
ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Ile−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−
Leu−Ala−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−ミリストイル
−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gl
y−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−ミリストイル−Gly−G
ly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−
Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly
−His−Gly−Ala−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パ
ルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−G
ly−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−パルミトイル−
Gly−Gly−Gly−His−Gly−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Gly
−Pro−Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gl
y−Gly−His−Gly−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−Ala−Pro−A
la−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−
His−Val−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パル
ミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Va
l−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−G
ly−Gly−Gly−His−Val−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−Gly−
Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly
−Gly−His−Ala−Ala−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2
、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−H
is−Ala−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−パルミ
トイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala
−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gl
y−Gly−Gly−His−Ala−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ile−Gly−P
ro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−
Gly−His−Ile−Ala−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2
N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ile−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−Hi
s−Ile−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−パルミト
イル−Gly−Gly−Gly−His−Ile−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2
N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ile−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−Hi
s−Ile−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミト
イル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Ala−Pro−Ala−Ser−GlnArg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−A
la−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−
Gly−Gly−His−Leu−Ala−Pro−Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Ala−Pro
−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gl
y−His−Leu−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−
パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Val−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−
Leu−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル
−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Val−Pro−Ala−Ser−Gln
−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Va
l−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−ステアロイル−Gly−G
ly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−
Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly
−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−パ
ルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−L
eu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−
Gly−Gly−Gly−His−Gly−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Val−Gly
−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gl
y−Gly−His−Ala−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ile−Gly−Pro−A
la−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−
His−Leu−Ala−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パル
ミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Le
u−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−パルミトイル−G
ly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−
Pro−Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly
−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2

【0038】
上記脂質ペプチドにおいてより好適なものとしては、N−ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−L
eu−Gly−Leu−Gly−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−
Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Val−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Pro
−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gl
y−Gly−Gly−His−Val−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−P
ro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−
Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Gln−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly
−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Lys−Lys−NH2、N−パルミトイ
ル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Ar−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gl
y−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Gln−NH2、N−ステアロ
イル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−
Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−ミリストイル
−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Gl
y−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−G
ly−Gly−His−Val−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Ala−Gly−Pro−
Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly
−His−Ile−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パ
ルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Ala−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−L
eu−Val−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、N−パルミトイル−
Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Arg−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly
−Pro−Ala−Ser−Arg−Gln−NH2、N−パルミトイル−Gly−Gl
y−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Gln−Gln−NH2、N−ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−A
la−Ser−Arg−Arg−NH2が挙げられる。
【0039】
また最も好ましいものとして、N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2、N−パル
ミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2、が挙げられる。
【0040】
[ペプチダーゼによる加水分解により形成される新たな脂質ペプチド]
本発明の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩は、ペプヂダーゼによって加水分解され、新たな脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩(以下、「酵素処理された脂質ペプチド」と称する)を形成する。
この酵素処理された脂質ペプチドは、具体的には以下の式(3)で表される構造を有する。
【0041】
【化5】

【0042】
上記式(3)中、R1は不飽和結合を1又は2個有し得る炭素原子数11乃至23の直
鎖状脂肪族基を表し、R2乃至R5は夫々互いに独立して、水素原子、炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、フェニルメチル基、若しくは−(CH2)n−A基を表すか、又は隣接する−NH−基と一緒になって複素環を形成し、そ
の際R2乃至R5のうちの一つ又は二つが−(CH2)n−A基を表し、且つR2乃至R5
うちの少なくとも一つは隣接する−NH−基と一緒になって複素環を形成し、nは1乃至4の数を表し、Aはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、ピロール基、イミダゾー
ル基、ピラゾール基又はイミダゾール基を表し、mは3乃至8を表す。
なお、R1、R2乃至R5における炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1
乃至4のアルキル基、−(CH2)n−A基の具体例は前述した通りである。
【0043】
[脂質ペプチドの水溶液、球状会合体ならびにヒドロゾル]
本発明の脂質ペプチドは、水溶液やアルコール水溶液中に投入されると、溶解した状態となる。
あるいは、本発明の脂質ペプチドは、水溶液やアルコール水溶液などの水性媒体中で、前記式(1)における脂質ペプチドゲル化促進部位におけるペプチド部が水素結合により分子間非共有結合を形成し、一方、該促進部位における脂質部が疎水的にパッキングする
ように自己集合化し、酵素切断部位を外側表面に向けた球状の二次集合体、すなわち球状会合体が形成される。
そして本発明の脂質ペプチド及び/又はこれより形成された球状会合体は、媒体の水溶液又はアルコール水溶液と共にヒドロゾルを形成する。
【0044】
[本発明の脂質ペプチドよりなる酵素応答性ゲル化物質]
これまで述べてきたように、本発明の脂質ペプチドはペプチダーゼによって切断される部位を有することから、本発明の脂質ペプチドを用いて酵素応答性ゲル化物質をなすことができる。
すなわち、本発明の脂質ペプチド及び/又はこれより形成された球状会合体を含む水溶液或いはヒドロゲルに、マトリックスメタロプロテアーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン及びキモトリプシンから選択されるペプチダーゼを添加すると、脂質ペプチド中の酵素切断部位が加水分解によって切断され、前述の酵素処理された脂質ペプチドが形成される。
【0045】
[酵素処理された脂質ペプチドより形成されるファイバー又はヒドロゲル]
この酵素処理された脂質ペプチドは、前述の本発明の脂質ペプチド同様、前記式(1)における脂質ペプチドゲル化促進部位におけるペプチド部が水素結合により分子間非共有結合を形成し、そして脂質部が疎水的にパッキングするように自己集合化し、筒状の集合体、すなわちファイバーが形成される。
上記ファイバーが水溶液中で形成されると、このファイバーが三次元網目構造を形成し、さらに、ファイバー表面の親水性部分と水性溶媒間で非共有結合を形成して膨潤することにより、水溶液全体がゲル化し、ヒドロゲルが形成される。
【0046】
以上のように、本発明の脂質ペプチドは水溶液中ではゾル状態にあり、ペプチダーゼと反応することにより、低分子ヒドロゲル化剤として機能する脂質ペプチドとなり、ヒドロゲルに変換させることができる。
加えて本発明の脂質ペプチドは、酸性領域からアルカリ性領域に亘る広い液性において、特に酵素反応を実施する中世領域においても安定なゾル状態を保ち、ペプチダーゼ添加後には速やかにゲルを形成することができる。
そして本発明の脂質ペプチド、酵素反応後の脂質ペプチド及びヒドロゲルともに低分子化合物であることから、これらはともに環境・生体内において分解可能であり、生体適合性の高い材料として活用することができる。
【0047】
このため、本発明の脂質ペプチド及びその水溶液は、損傷部位、疾患部位、癌組織を認識してゲル化する創傷被覆材、癒着防止膜、薬物速達システムに、また疾患部位や癌組織特異的でマーカーとなるぺプチターゼと反応するシステムとして検査・診断薬として、さらには、疾患の発病原因や癌組織の成長の原因となるぺプチターゼ阻害剤を探索する創薬研究用の試剤として幅広く利用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例で用いる略記号]
以下の実施例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。
Gly:グリシン
His:ヒスチジン
Leu:ロイシン
Ala:アラニン
Pro:プロリン
Phe:フェニルアラニン
Arg:アルギニン
Lys:リジン
Ser:セリン
Asp:アスパランギン
HBTU:2−(1−H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム−ヘキサフルオロホスフェート (渡辺化学工業(株))
HOBt:1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール (和光純薬工業(株))
DMF:ジメチルホルムアミド
DCM:ジクロロメタン
DIC:ジイソプロピルカルボジイミド
DIEA:N,N−ジイソプロピルエチルアミン (東京化成工業(株))
TFA:トリフルオロ酢酸(渡辺化学工業(株))
TIS:トリイソプロピルシラン(渡辺化学工業(株))
MMP−VII:ヒト由来(和光純薬工業(株))
コラゲナーゼ:clostridium histolyticum由来(シグマ アルドリッチ社)
【0050】
[脂質ペプチドの合成]
脂質ペプチドは以下に示すFmoc固相ペプチド合成法の手順に従って合成した。樹脂としてMBHA−rink Amide Resin 0.3mmolを用いて合成を行なった。
【0051】
実施例1:N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2の製造
MBHA−rink Amide Resin(渡辺化学工業(株))0.3mmolをPD−10カラムに添加し、DCM5mlを添加して樹脂を1時間膨潤させた。次にDCM5mlにて3回、DMF5mlにて3回、それぞれ洗浄した。
次にFmocの脱保護を行うため、カラムに20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加え、1分間攪拌した後溶液を捨て、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加え、45分間攪拌した。
【0052】
次に上記カラムにFmoc−Lys(Boc)−OH(渡辺化学工業(株))を約703mg、HOBtを約41mg加え、5mlのDMFを添加して溶解させた後、DICを約189mg加えて縮合反応を進行させた。
これらを2時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回洗浄した。
以下、反応の進行状態はカイザー試験で評価し、未反応の樹脂が残存している場合は再び縮合反応およびDMF5mlによる洗浄操作を行った。
続いてDCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、それぞれ洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0053】
次に上記カラムにFmoc−Arg(Pbf)−OH(渡辺化学工業(株))を584
mg、縮合剤溶液1(HBTU3.05g、HOBt1.25gをDMF16mlに溶解したもの)2.1mlを添加した。
さらに縮合剤溶液2(DIEA2.75mlをDMF14.25mlに溶解したもの)2.1mlを加えた。
これらを1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再
び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0054】
次に上記カラムにFmoc−Ala−OH・H2O(渡辺化学工業(株))を296m
g、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0055】
次に上記カラムにFmoc−Leu−OH(渡辺化学工業(株))を318mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0056】
次に上記カラムにFmoc−Gly−OHを(渡辺化学工業(株))270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0057】
次に上記カラムにFmoc−Leu−OH(渡辺化学工業(株))を318mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0058】
次に上記カラムにFmoc−Pro−OH(渡辺化学工業(株))を304mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0059】
次に上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0060】
次に上記カラムにFmoc−His(Trt)−OH(渡辺化学工業(株))を558mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0061】
次に上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0062】
さらに上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0063】
再度上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0064】
パルミチン酸(東京化成工業(株)製)約230mgをカラムに添加し、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、90分間バイブレーターにて攪拌した。
反応後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて5回、メタノール5mlにて5回、夫々洗浄した後、樹脂を一晩真空乾燥させた。
乾燥後、TFA3.8ml、蒸留水0.1ml及びTIS0.1mlをカラムに添加し1時間攪拌した。
回収した混合溶液にジエチルエーテルを添加し、固形物を析出させた後、遠心及びデカント操作を行い、生成物を洗浄、回収し、凍結乾燥を行い、目的化合物を得た。得られた生成物をHPLCにより分取・精製した。化合物の同定はMALDI−TOF−MS(アプライドバイオシステムズ社のVoyagerSystem 2065装置)を用いて行った。
MS(EI)m/z:1356.1(M+,bp)[理論値: 1356.7]
【0065】
実施例2:N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2の製造
MBHA−rink Amide Resin(渡辺化学工業(株))0.3mmolをPD−10カラムに添加し、DCM5mlを添加して樹脂を1時間膨潤させた。次にDCM5mlにて3回、DMF5mlにて3回、それぞれ洗浄した。
次にFmocの脱保護を行うため、カラムに20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加え、1分間攪拌した後溶液を捨て、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加え、45分間攪拌した。
【0066】
次に上記カラムに、Fmoc−Arg(Pbf)−OH(渡辺化学工業(株))を約9
73mg、HOBtを約41mg加え、5mlのDMFを添加して溶解させた後、DIC
を約189mg加えて縮合反応を進行させた。
これらを2時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回洗浄した。
以下、反応の進行状態はカイザー試験で評価し、未反応の樹脂が残存している場合は再び縮合反応およびDMF 5mlによる洗浄操作を行った。
続いてDCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、それぞれ洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0067】
次に上記カラムにFmoc−Arg(Pbf)−OH(渡辺化学工業(株))を584
mg、縮合剤溶液1(HBTU3.05g、HOBt1.25gをDMF16mlに溶解したもの)2.1mlを添加した。
さらに縮合剤溶液2(DIEA2.75mlをDMF14.25mlに溶解したもの)2.1mlを加えた。
これを1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0068】
次に上記カラムにFmoc−Ser(Trt)−OH(渡辺化学工業(株))を513mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0069】
次に上記カラムにFmoc−Ala−OH・H2Oを296mg、前記縮合剤1及び2
を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0070】
次に上記カラムにFmoc−Pro−OH(渡辺化学工業(株))を304mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0071】
次に上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0072】
次に上記カラムにFmoc−Leu−OH(渡辺化学工業(株))を318mg、前記
縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0073】
次に上記カラムにFmoc−His(Trt)−OH(渡辺化学工業(株))を558mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0074】
次に上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0075】
さらに上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0076】
再度上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、1時間バイブレーターにて攪拌した後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて3回、さらにDMF5mlにて3回、夫々洗浄した。
20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌し、該溶液を除去した後、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF5mlにて5回洗浄した。
【0077】
パルミチン酸(東京化成工業(株)製)約230mgをカラムに添加し、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、90分間バイブレーターにて攪拌した。
反応後、DMF5mlにて5回、DCM5mlにて5回、メタノール5mlにて5回、夫々洗浄した後、樹脂を一晩真空乾燥させた。
乾燥後、TFA3.8ml、蒸留水0.1ml及びTIS0.1mlをカラムに添加し1時間攪拌した。
回収した混合溶液にジエチルエーテルを添加し、固形物を析出させた後、遠心及びデカント操作を行い、生成物を洗浄、回収した。凍結乾燥を行なった後、アセトニトリル4mlにて3回洗浄を行い、目的化合物を得た。
MS(EI)m/z:1301.0(M+)[理論値:1301.6]
【0078】
実施例3:パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2を用いたマトリックスメタロプロテア
ーゼ−VII(MMP−VII)応答性の評価
[試験手順]
実施例1で製造したパルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2の0.2質量%(1.5m
M)の脂質ペプチド濃度の溶液となるように、50mM トリス塩酸バッファー緩衝液(Tris−HCl buffer saline、pH7.4:150mM NaCl、2mM CaCl2)を加え、60℃以上に加熱して脂質ペプチドを溶解し、その後30
分放冷し脂質ペプチド溶液(1)を調製した。
この溶液(1)に、1μg/ml以上の任意の濃度でMMP−VII(分子量:20kDa)を添加し、軽く攪拌した。ゲル形成の評価は目視により行なった。
同様に、MMP−VIIに替えて標準タンパク質としてウシ血清アルブミン(BSA、分子量:67kDa、pI=約4.9)、又は他の酵素としてトロンビン(分子量:36kDa、pI=7.0〜7.5)を用い、それぞれ2μg/mlの濃度で脂質ペプチド溶液(1)に添加し、ゲル形成の評価を行なった。
また脂質ペプチド溶液(1)、MMP−VII添加試料及びトロンビン添加試料について、それぞれ逆相HPLCを用いて分析した。なお、使用したHPLC条件を以下に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
[MMP−VII応答性:目視評価結果]
酵素添加による溶液の挙動変化を図1(脂質ペプチド溶液(1)のみ、BSA添加、MMP−VII添加)、図2(トロンビン添加)に示す。
図1に示すように、BSAを添加した試料(図1:B)は12時間経過後も透明な溶液を維持し、ゲル形成は認められなかった。
一方、MMP−VIIを添加した試料は、1μg/ml以上のMMP−VII濃度でゲル形成が確認された。また図1に示すように、5μg/mlの添加では90分後(図1:C)、2μg/ml(図1:D)の添加では2時間後に、ぞれぞれゲル形成が確認された。
また、MMP−VIIの代わりにトロンビンを添加した試料は24時間後も変化は見られず、ゲル形成は認められなかった(図2)。
【0081】
[MMP−VII応答性:逆相HPLCによる評価結果]
上述の、MMP−VIIを2μg/ml添加した後、2時間経過後の試料について測定したHPLCチャートを図3に、及びトロンビン添加後24時間経過後の試料について測定したHPLCチャートを図4にそれぞれ示す。
図3に示すように、脂質ペプチド溶液(1)においては保持時間13.7分にピークが観測されたが、MMP−VII添加後の試料においては、さらに保持時間16.7分に新たなピークが観測された。
この新たに確認された16.7分の画分を分取し、MALDI−TOF−MSを用いて分析したところ、889.2にピークが観測された(図5)。この結果は、実施例1で合成した脂質ペプチドが、MMP−VIIによりGly−Leu間で加水分解されていることを示すもの、すなわち、パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Glyが存在していることを示すものであった。
一方、図4に示すように、トロンビンを添加した試料は、脂質ペプチド溶液(1)における保持時間13.7分のピークの他にピークが確認されず、加水分解が進行していないことを示すことがHPLCにおいても確認された。
以上のとおり、実施例1で合成した脂質ペプチドは、MMP−VIIに対して選択的に応答することが確認された。
【0082】
[MMP−VII応答性:モルフォロジー観察結果]
上述の[試験手順]に倣い、脂質ペプチド溶液(1)にMMP−VIIを1μg/ml添加して5時間経過後、カーボングリッドをディップし、少量の脱イオン水で表面を洗浄した。その後、酸化ウラニルによる後染め処理を行なった。一晩以上真空乾燥させた後、透過型電子顕微鏡観察を行った。
また、MMP−VIIを添加していない脂質ペプチド溶液(1)をカーボングリッド上にキャストし、一分間放置した後、少量の脱イオン水で表面を洗浄した。同様に酸化ウラニルによる後染め処理を行ない、一晩以上真空乾燥させた後、透過型電子顕微鏡観察を行った。
得られた結果を図6に示す。これによると、脂質ペプチド溶液(1)(図6:A)では球状の構造体が観察され、液中で球状会合体形成していることが示唆される結果となった。その大きさは約10mm弱であった。
一方、MMP−VII添加後においては(図6:B)、ファイバー構造とそのバンドル化が観察された。この結果はMMP−VII添加後に形成されるゲルが、ファイバーの形成とバンドル化による架橋点の形成におって引き起こされることを示唆するものであった。
【0083】
実施例4:酵素阻害条件下におけるMMP−VII応答性の評価
実施例1で製造したパルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Gly−Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Arg−Lys−NH2の0.2質量%(1.5m
M)の脂質ペプチド濃度の溶液となるように、0.2mMのMMPインヒビター−II(N−ヒドロキシ−1,3−ジ−(4−メトキシ−ベンゼンスルホニル)−5,5−ジメチル−[1,3]−ピペラジン−2−カルボキサミド)を含む50mM トリス塩酸バッファー緩衝液(Tris−HCl buffer saline、pH7.4:150mM
NaCl)を加え、60℃以上に加熱して脂質ペプチドを溶解し、その後30分放冷し脂質ペプチド溶液(2)を調製した。阻害剤を溶解させるために4%DMSOを添加した。
また、0.2mMのMMPインヒビター−IIを含まない脂質ペプチド溶液(3)(DMSOは含む)も同様に調製した。
この溶液(2)及び(3)に、2μg/ml(約0.1μM)の濃度でMMP−VIIを添加し、軽く攪拌した。ゲル形成の評価は目視により行なった。
また各溶液について、前記表1の条件にて逆相HPLCを用い、分析した。
【0084】
[酵素阻害条件下におけるMMP−VII応答性:目視評価結果]
酵素添加による溶液の挙動変化を図7に示す。
図7に示すように、DMSO存在下においてもMMP−VIIの添加によるゲル形成が確認された(図7:B)
一方、MMPインヒビター−IIを添加した試料(図7:A)はMMP−VIIの添加12時間経過後も透明な溶液を維持し、ゲル形成は認められなかった。
【0085】
[酵素阻害条件下におけるMMP−VII応答性:逆相HPLCによる評価結果]
上述の、脂質ペプチド溶液(2)及び(3)に、MMP−VIIを2μg/ml添加した各試料について測定したHPLCチャートを図8に示す。
図7に示すように、MMPインヒビター−IIを添加後12時間経過した試料(図8:A)においては、脂質ペプチド由来のピークに加えて、保持時間16.0分及び17.1分にピークが観測されたが、実施例3で確認された16.7分のピークは観測されなかった。なお、保持時間16.0分及び17.1分にピークはMMPインヒビター−II由来のピークである。
すなわち、酵素阻害剤の添加により、実施例1で合成した脂質ペプチドの加水分解反応が抑制されることが確認された。
【0086】
実施例5:N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2を用いたコラゲナーゼ応答性の評価
[試験手順]
実施例2で製造したN−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His−Leu−Gly−Pro−Ala−Ser−Arg−Arg−NH2の0.2質量%(1.5mM)
の脂質ペプチド濃度の溶液となるように、50mM トリス塩酸バッファー緩衝液(Tris−HCl buffer saline、pH7.4:150mM NaCl、2mM CaCl2)を加え、60℃以上に加熱して脂質ペプチドを溶解し、その後30分放
冷し脂質ペプチド溶液(4)を調製した。
この溶液(4)に、0.5μg/ml濃度でコラゲナーゼ(分子量:68kD〜125kD)を添加し、軽く攪拌した。ゲル形成の評価は目視により行なった。
また、コラゲナーゼ添加前後の各溶液について、MALDI−TOF−MSを測定した。
【0087】
[コラゲナーゼ応答性評価結果]
酵素添加による溶液の挙動変化を図9に、MALDI−TOF−MSのスペクトル測定結果を図10に示す。
図9に示すように、コラゲナーゼを添加し、30分間経過した試料(図9:B)においてゲル形成が確認された。
また図10に示すように、コラゲナーゼ添加前(図10:A)のスペクトルでは、1301.0にピークが観測されたが、コラゲナーゼ添加後30分間経過後(図10:B)には、さらに924.9にピークが観測された。この結果は、実施例2で合成した脂質ペプチドが、コラゲナーゼによってAla−Ser間で加水分解されていることを示すものであった。
以上のとおり、実施例2で合成した脂質ペプチドは、コラゲナーゼに対して応答することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の脂質ペプチドは、水溶液中では溶解状態にあるか、或いは球状会合体を形成して分散して安定したゾル状態となる。この溶液中にペプチダーゼを添加すると、本発明の脂質ペプチドはペプチダーゼにより加水分解を受ける。加水分解を受けた脂質ペプチドは自己集合化して二次元のファイバー状、更には三次元網目構造のヒドロゲルを形成する。
従って本発明の脂質ペプチドは、患部や創傷部位のぺプチダーゼに選択的に反応して、ヒドロゲルを形成することにより、患部の外気や雑菌からの保護や保湿が可能となり、即ち創傷被覆剤や癒着防止膜として使用することができる。
【0089】
さらに本発明の脂質ペプチドを含む溶液に薬剤を添加し、この薬剤入り溶液を患部に塗布(或いは噴霧)すると、患部で薬剤を取り込んだゲルを形成することが可能となるため
、長時間薬剤を患部に滞留させ、ゲルから患部へ薬剤を徐放することが可能になる。すなわち本発明の脂質ペプチドは薬物伝達システムの基材としての使用が期待できる。
特に、本発明の脂質ペプチド内に、癌細胞によって多く誘導されるMMP−VIIに選択的に応答する部位(例えばGly−Leu)を組み込むことにより、癌組織を認識して癌組織にのみ薬剤を長時間滞留させて徐放させるゲルの形成が可能となることから、安全かつ高い癌組織選択的な薬物伝達システムを構築することが可能になる。
【0090】
さらに本発明の脂質ペプチドは、疾患部位や癌組織のマーカーとなるぺプチダーゼに反応してゾルからゲルへ変換することから、高価な測定・分析機器を必要としない、簡便且つ視的に判断できる検査・診断用試薬の基材としての用途に好適である。
すなわち、特定疾患のマーカーとなり得るプロテアーゼによって切断されるペプチド結合を組み込んだ脂質ペプチドを調製することにより、この脂質ペプチドのゾル/ゲル状態を判断するだけで、疾患マーカーとなるプロテアーゼの有無が目視で確認できる検査・診断のシステムが構築できる。
【0091】
さらに本発明の脂質ペプチドの酵素切断部位に、創薬研究においてターゲットとなるぺプチダーゼによって加水分解されるペプチドを導入しておくことにより、ゾル/ゲル変換を目視で評価できるぺプチダーゼ阻害剤又は活性剤の探索システムとして、すなわち、創薬研究用試薬の基材としての活用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は脂質ペプチド溶液(1)(図1A)、並びに該溶液(1)にBSAを添加した試料(2μg/ml添加、12時間経過後、図1B)、MMP−VIIを添加した試料(5μg/ml添加、90分経過後、図1C;2μg/ml添加、2時間経過後、図1D)における、溶液/ゲル状態を示す図である。
【図2】図2は脂質ペプチド溶液(1)にトロンビンを添加した試料(2μg/ml添加、24時間経過後)における溶液/ゲル状態を示す図である。
【図3】図3は脂質ペプチド溶液(1)(図3A)及び該溶液(1)にMMP−VIIを添加した試料(2μg/ml添加、2時間経過後、図3B)を用いて測定したHPLCチャートを示す図である。
【図4】図4は脂質ペプチド溶液(1)(図4A)及び該溶液(1)にトロンビンを添加した試料(2μg/ml添加、24時間経過後、図4B)を用いて測定したHPLCチャートを示す図である。
【図5】図5は脂質ペプチド溶液(1)にMMP−VIIを添加した試料におけるHPLCの16.7分の画分を用いて測定したMALDI−TOF−MSスペクトルを示す図である。
【図6】図6は脂質ペプチド溶液(1)(図6A)及び該溶液(1)にMMP−VIIを添加した試料(1μg/ml添加、5時間経過後、図6B)を用いて撮影した透過型電子顕微鏡観察結果を示す図である。
【図7】図7は脂質ペプチド溶液(2)(DMSO+MMPインヒビター−II存在下)にMMP−VIIを添加した試料(MMPインヒビター:0.2mM、MMP−VII:2μg/ml添加、12時間経過後、図7A)、並びに、脂質ペプチド溶液(3)(DMSO存在下)にMMP−VIIを添加した試料(2μg/ml添加、2時間経過後、図7B)における、溶液/ゲル状態を示す図である。
【図8】図8は脂質ペプチド溶液(2)(DMSO+MMPインヒビター−II存在下)にMMP−VIIを添加した試料(MMPインヒビター:0.2mM、MMP−VII:2μg/ml添加、12時間経過後、図8A)、並びに、脂質ペプチド溶液(3)(DMSO存在下)にMMP−VIIを添加した試料(2μg/ml添加、2時間経過後、図8B)を用いて測定したHPLCチャートを示す図である。
【図9】図9は脂質ペプチド溶液(4)(図9A)及び該溶液(4)にコラゲナーゼを添加した試料(0.5μg/ml、30分間経過後)における、溶液/ゲル状態を示す図である。
【図10】図10は脂質ペプチド溶液(4)(図10A)及び該溶液(4)にコラゲナーゼを添加した試料(0.5μg/ml添加、30分間経過後、図10B)を用いて測定測定したMALDI−TOF−MSスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質ペプチドゲル化促進部位にスペーサー(1)を介して酵素切断部位が結合し、さらに該酵素切断部位にスペーサー(2)を介して親水性ペプチド部位が結合した式(1)で表される構造を有する脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩であって、
【化1】

前記脂質ペプチドゲル化促進部位は、式(2):
【化2】

(式(2)中、
1は不飽和結合を1又は2個有し得る炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族基を表し

2乃至R5は夫々互いに独立して、水素原子、炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、フェニルメチル基、又は−(CH2)n−A基を表し、
且つ、R2乃至R5のうちの一つ又は二つが−(CH2)n−A基を表し、
nは1乃至4の数を表し、
Aはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾー
ル基又はイミダゾール基を表す。)で表される部位であり、
前記スペーサー(1)は、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)からなる群から選択されるアミノ酸1〜2個から形成される部位であり、
前記酵素切断部位は、ぺプチダーゼにより加水分解を受けるジペプチドを含む、2〜6個のアミノ酸から形成される部位であり、
スペーサー(2)は、Gly、Ala、Valからなる群から選択されるアミノ酸0〜2個から形成される部位であり、
前記親水性ペプチド部位は、親水性アミノ酸2〜3個から形成されるペプチドの末端に−OH基、−OMe基、−NH基、−NHMe基又は−NMe2基(Meはメチル基を表す
。)を有してなる部位である、
脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項2】
前記酵素切断部位が、スペーサー(1)との結合側のアミノ酸がプロリン(Pro)である、請求項1記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項3】
前記親水性ペプチド部位が、リジン(Lys)、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)及びアルギニン(Arg)からなる群から選択される親水性アミノ酸2〜3個から形成されるペプチドの末端に、−NH基、−NHMe基、又は−NMe2基を有してな
る部位である、請求項1又は2記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項4】
前記式(2)で表される脂質ペプチドゲル化促進部位において、
1は炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族基を表し、
2乃至R4は夫々互いに独立して、水素原子、炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基を表し、
5は−(CH2)n−A基を表し、nは1乃至4の数を表し、Aはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基又はイミダゾール基を
表す、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項5】
前記酵素切断部位は、スペーサー(1)との結合側からみて(Pro)−X−Y−又は(Pro)−Z−X−Y−のアミノ酸配列を含み、ここでX−Yは、マトリックスメタロプロテアーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン及びキモトリプシンから選択されるペプチダーゼによって加水分解されるジペプチドを表し、ZはGly、Ala、Val、Leu及びIleからなる群から選択されるアミノ酸を表す、請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項6】
前記式(2)で表される脂質ペプチドゲル化促進部位において、
1は炭素原子数13乃至19の直鎖状脂肪族基を表し、
2乃至R4は夫々互いに独立して、水素原子、メチル基、i−プロピル基、i−ブチル基又は第二ブチル基を表し
5は4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、イミダ
ゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表す、
請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項7】
前記式(2)で表される脂質ペプチドゲル化促進部位において、
1は炭素原子数13乃至19の直鎖状脂肪族基を表し、
2乃至R4は夫々互いに独立して、水素原子を表し
5は4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、イミダ
ゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表し、
前記スペーサー(1)が、1個のアミノ酸からなる部位である場合にはGly又はAlaであり、2個のアミノ酸から形成される部位である場合には、脂質ペプチドゲル化促進部位との結合側からみてGly−Gly、Gly−Ala、Ala−Gly、Ala−Ala、Val−Gly、Val−Ala、Leu−Gly、Leu−Ala、Ile−Gly及びIle−Alaからなる群から選択されるものであり、
前記スペーサー(2)は、直接結合又はGly若しくはAlaの1個のアミノ酸であり、であり、
前記親水性ペプチド部位が、Lys、Gln、Asn及びArgからなる群から選択される親水性アミノ酸2個から形成されるペプチドの末端に、−NH基、−NHMe基又は−NMe2基を有してなる部位である、請求項1乃至6のうち何れか一項に記載の脂質ペプ
チド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項8】
前記親水性ペプチド部位が、スペーサー(2)との結合側からみて、Arg−Arg、Arg−Gln、Arg−Asn、Arg−Lys、Gly−Arg、Gln−Gln、Gln−Asn、Gln−Lys、Lys−Lys、Asn−Arg、Asn−Gln、Asn−Asn、Asn−Gln及びAsn−Lysからなる群から選択されるペプチドの末端に、−NH基、−NHMe基又は−NMe2基を有してなる部位である、請求項1乃
至7のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項9】
前記式(2)で表される脂質ペプチドゲル化促進部位において、
1は炭素原子数13乃至19の直鎖状脂肪族基を表し、
2乃至R4は夫々互いに独立して、水素原子を表し
5はイミダゾールメチル基を表す、請求項1乃至8のうち何れか一項に記載の脂質ペプ
チド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項10】
請求項2記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩をペプチダーゼによって加水分解することにより形成される脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項11】
式(3):
【化3】

(式中、R1は不飽和結合を1又は2個有し得る炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族
基を表し、
2乃至R5は夫々互いに独立して、水素原子、炭素原子数1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、フェニルメチル基、若しくは−(CH2)n−A基を表
すか、又は隣接する−NH−基と一緒になって複素環を形成し、その際R2乃至R5のうちの一つ又は二つが−(CH2)n−A基を表し、且つR2乃至R5のうちの少なくとも一つ
は隣接する−NH−基と一緒になって複素環を形成し、
nは1乃至4の数を表し、
Aはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾー
ル基又はイミダゾール基を表し、
mは3乃至8を表す。)
で表される脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩。
【請求項12】
水性媒体中で請求項1乃至請求項9のうちいずれか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩の自己集合化により形成される球状会合体。
【請求項13】
請求項1乃至請求項9のうちいずれか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩、又は請求項12の球状会合体と水溶液又はアルコール水溶液より成るヒドロゾル。
【請求項14】
請求項1乃至9のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩よりなる酵素応答性ゲル化物質。
【請求項15】
請求項1乃至9のうち何れか一項に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩を水溶液又はアルコール水溶液に溶解または分散させて得られる溶液、分散液又はヒドロゾルが、ペプチダーゼの添加によって、前記脂質ペプチドの前記酵素切断部位が加水分解されて得られるヒドロゲル。
【請求項16】
請求項10に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩、又は請求項11に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩の自己集合化により形成されるファイバー。
【請求項17】
請求項10に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩、請求項11に記載の脂質ペプチド及びその薬学的に使用可能な塩又は請求項16に記載のファイバーと水溶液又はアルコール水溶液より成るヒドロゲル。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−47534(P2010−47534A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214239(P2008−214239)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】