酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー及びそのリンカーを用いた酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法
【課題】 cDNAディスプレイ法における、酵素様活性を有するタンパクを効率的にスクリーニングすることができる、進化用リンカーの創出を課題とする。
【解決手段】 3’末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーであって;mRNA結合部位と、前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位とを備える主鎖と;基質ユニット側架橋部位と、固相結合部位と、基質連結部位と、RNAリガーゼ認識配列とを備える前記基質ユニットと;タンパク結合部位を備える側鎖とを有し、前記基質連結部位は、前記基質側架橋部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にある、酵素様活性を有するタンパク質進化用リンカーを提供する。
【解決手段】 3’末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーであって;mRNA結合部位と、前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位とを備える主鎖と;基質ユニット側架橋部位と、固相結合部位と、基質連結部位と、RNAリガーゼ認識配列とを備える前記基質ユニットと;タンパク結合部位を備える側鎖とを有し、前記基質連結部位は、前記基質側架橋部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にある、酵素様活性を有するタンパク質進化用リンカーを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー及びそのリンカーを用いた酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素の進化工学では、例えば、遺伝子ライブラリから特定の遺伝子を選択し、これをクローニングし、クローニングした遺伝子を細胞に組み込んでその細胞を形質転換させ、アガロースゲルプレートを用いたスクリーニング、マイクロタイタープレートを用いたスクリーニング、cell-in-droplet、細胞表面ディスプレイ等の各種スクリーニング方法が、所望の機能を有するようなタンパクを選択し、さらに改良するために使用されてきた。
このような方法では、遺伝子を増幅させ、プラスミド等へ組込み、その組換えプラスミドをトランスフェクトした細胞を、特定の薬剤を含むプレート上で増殖させることで、特定の株を選択することになる。その後、得られた菌株を増殖させ、発現されたタンパクを得るために、さらに、細胞の破砕、電気泳動動による分離等、精製が必要となるため、膨大な時間と手間がかかる。
【0003】
一方、進化工学では、抗体のような親和性分子を取得する目的で、ライブラリサイズが108程度であれば扱えるようなファージディスプレイ等のディスプレイ技術が開発された。しかしながら、細胞を使用するファージディスプレイ技術では、細胞にとって毒となるペプチドを得ることができない等の制約があるため、必ずしも十分な多様性とサイズとをもつライブラリを扱えない。
こうした制約を克服するために、無細胞翻訳系のディスプレイ技術が開発され、リボソームディスプレイ技術(非特許文献1及び2参照)やmRNAディスプレイ(In vitro virus)技術(非特許文献3及び4参照)が開発された。これらは上述のように親和性分子の取得を主な目的としたが、近年になり酵素進化を目的として利用する例がでてきた。
具体的には、リボソームディスプレイ技術(非特許文献5参照、以下、「従来技術1」という。)、mRNAディスプレイ技術(非特許文献6参照、以下、「従来技術2」という。)、及びcDNAディスプレイ技術(特許文献1参照)等である。
【0004】
従来技術1のリボソームディスプレイ技術を用いたタンパクのスクリーニングは、以下の手順で行う。まず、活性型及び不活性型のT4DNAリガーゼ遺伝子およびスペーサーペプチドをコードするmRNAの混合液を準備し、コヒーシブ末端を有するcDNAとmRNAとをハイブリダイズさせ、in vitro翻訳を行って、mRNA-cDNA-リボソーム‐酵素複合体を形成させる。ディスプレイされた活性型T4 DNAリガーゼ酵素が、ビオチン修飾した他のdsDNAプローブを、この複合体中に結合させる。この複合体を解離させ、活性型T4 DNAリガーゼ遺伝子をコードするmRNAをビオチンでラベルする。磁性ビーズ上にビオチン修飾されたmRNAの選択を、ストレプトアビジンを使用して行う。得られたmRNAを集め、RT-PCRで増幅させ、in vitro翻訳を行って選択する。このサイクルを繰り返すというものが従来技術1である。
【0005】
従来技術2のmRNAディスプレイ技を用いたタンパクのスクリーニングは、あるDNAを転写してmRNAとし、これにピューロマイシンを結合させ、翻訳する。このピューロマイシンにタンパクを結合させてディスプレイし、これを修飾プライマーを用いて逆転写し、このプライマーに結合されたcDNAを選択し、PCRで増幅させる。これを繰り返すものが従来例2の技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4318721号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mattheakis et sl., Proc Natl Acad Sci U S A. (1994) 91, 9022-9026
【非特許文献2】Hanes J, Pluckthun A. Proc Natl Acad Sci U S A. (1997) 94, 4937-4942
【非特許文献3】Nemoto N, et al.FEBS Lett.(1997) 414, 405-408
【非特許文献4】Roberts RW, Szostak JW. Proc Natl Acad Sci U S A. (1997) 94, 12297-12302
【非特許文献5】Takahashi et ai., BBRC, 336(2005)987-993
【非特許文献6】Seeling, et al., Nature vol. 448, 16 Aug. 2007, 824-832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術1は、細胞を使用せず、濃縮効率を上げることができるという点では優れたものである。しかし、リボソームにスペーサーを介してT4 DNAリガーゼをディスプレイするという非共有結合を利用した連結体構造を用いることから、安定性に欠けるという問題点がある。
また、従来技術2は、共有結合を利用した連結体構造を用いディスプレイ技術であることから、安定性という点では従来技術1よりも優れている。しかし、タンパクと共有結合で連結されている核酸分子がcDNAではなくmRNAであることから、その安定性は不完全である。
【0009】
一方で、酵素様活性を有するタンパクを選択するスクリーニング方法では、細胞に対して毒性となるか否かによらず、使用できるものであることが、多様な活性を有するタンパクを選択する上では好ましい。
さらに、種々の活性を有するタンパクを効率的に選択するためには、より小さな系で、短時間に大量のサンプルを処理できるディスプレイ方法が求められている。そして、こうしたハイスループットに対する要請に応えるためには、ディスプレイされたタンパクを簡便な方法で安定的に回収・精製できることが好ましい。
以上から、cDNAディスプレイ法に適合するリンカーであって、結合させた所望のタンパクの活性を短時間で大量に評価し、選択することができる、こうしたタンパクが所望の機能を有するように進化させることができる、タンパク進化用のリンカーに対する高い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以上のような状況の下で完成されたものである。
本発明の第1の態様は、3'末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーであって;前記主鎖は、前記リンカーの3'末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位と、前記リンカーの5'端側に位置し、前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位と、を備え;前記基質ユニットは、前記主鎖との間の架橋を形成するための基質ユニット側架橋部位と、固相との結合を形成する所定の分子を有している固相結合部位と、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結された基質連結部位と、前記主鎖と間に架橋が形成された後に、一方の端部がRNAリガーゼ認識部位を形成し、他方の端部が前記基質連結部位と連結されるRNAリガーゼ認識配列と、を備え;前記基質連結部位は、前記基質側架橋部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にあり、前記側鎖は、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を備えている、酵素様活性を有するタンパク進化用リンカーである。
【0011】
ここで、前記主鎖は、前記側鎖結合部位よりも5'側に前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位を有することが好ましい。
前記基質ユニットは、前記主鎖の架橋形成部位と基質ユニット側架橋部位との間に架橋が結合されることによって主鎖と結合される。ここで形成される架橋は、光架橋、化学架橋、及び酵素的架橋からなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。
また、この基質ユニットは、前記主鎖と間に架橋が形成され二本鎖となった後に、RNAリガーゼ認識部位を形成するように、一方の端部が構成されている。
【0012】
本発明の第2の態様は、3'末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、基質ユニットとを有するリンカーであって;前記主鎖は、前記RNAリガーゼ認識部位よりも3'末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位と、前記RNAリガーゼ認識部位よりも5'側に位置し、基質ユニットとの間で架橋を形成する主鎖側架橋部位と、RNAリガーゼ認識部位と、前記RNAリガーゼ認識部位を形成するための二本鎖形成領域と、を備え;前記側鎖の他方の端部は、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を備え;前記基質ユニットは、固相との結合を形成する所定の分子を有している固相結合部位と、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結された基質連結部位と、一方の端部が前記主鎖との間で架橋を形成するとともに、他方の端部が前記基質連結部位と連結される架橋形成部位と、を備え;前記基質連結部位は、前記架橋形成部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にある、酵素様活性を有するタンパク進化用リンカーである。
【0013】
ここで、前記主鎖は、前記側鎖結合部位よりも5'側に前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位を有することが好ましい。
前記基質ユニットは、前記主鎖の架橋形成部位と基質ユニット側架橋部位との間に架橋が結合されることによって主鎖と結合される。ここで形成される架橋は、光架橋、化学架橋、及び酵素的架橋からなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。
第2の態様では、基質ユニットは、主鎖の3'側に形成されている二本鎖部分にある架橋形成部位と、架橋を形成する。
【0014】
なお、本発明の第1の態様及び第2の態様のリンカーを構成する前記基質ユニットはいずれも、3'末端側の固相結合部位は、ビオチン;アミノ基、チオール基、及びカルボキシル基からなる官能基;抗原抗体反応における抗原;ヒスチジンタグ、ストレプトタグ、GST(グルタチオン S-トランスフェラーゼ、以下、「GST」と略すことがある。)、及びポリデオキシアデノシンからなる精製タグからなる群から選ばれるいずれかのものであり、基質連結部位には、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結されていることが好ましい。
【0015】
ここで、前記側鎖の前記タンパク結合部位に結合された酵素様活性を有するタンパクと基質との組み合わせは、ペプチド分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;糖鎖分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の糖鎖;核酸分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;脂質分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の脂質;及び合成ポリマーを分解する活性を有するポリペプチドと任意の合成ポリマー;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることが好ましい。
【0016】
また、核酸リガーゼと同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;ペプチド連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ペプチド転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ポリペプチドまたはペプチドへ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意のペプチド配列及び任意の転移分子基質;核酸へ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列及び任意の転移分子基質;糖転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の糖鎖及び前記任意の糖鎖で修飾したい基質;及び新規な連結反応を触媒する活性を有するポリペプチドと任意の基質;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることが好ましい。
【0017】
本発明の第三の態様は、上述したタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAとを、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる、mRNA−リンカー連結体生成工程と;前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクを合成し、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合されたmRNA−リンカー−タンパク連結体を得る結合体生成工程と;前記mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖を合成するcDNA−リンカー−タンパク連結体精製工程と;前記酵素様活性を有するタンパクを基質連結部位に連結された基質と、前記固相上に結合された所望の基質とに作用させてこれらを連結し、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を固相に固定する固定化工程と;前記cDNA−リンカー−タンパク質連結体の結合した固相を第1の緩衝液にて洗浄する、第1洗浄工程と;前記固定された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する回収工程と;前記回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体を増幅させる増幅工程と;を備える、酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法である。
【0018】
また、本発明の第四の態様は、上述したタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAを、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる、mRNA−リンカー連結体生成工程と;前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクを合成し、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合されたmRNA−リンカー−タンパク結合体を得る連結体生成工程と;mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖を合成するcDNA−リンカー−タンパク連結体精製工程と;前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を、前記固相結合部位を介して固相に結合させる固相結合工程と;前記cDNA−リンカー−タンパク質連結体の結合した固相を第1の緩衝液にて洗浄する、第1洗浄工程と;前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合した酵素様活性を有するタンパクを基質連結部位に連結された基質に作用させて、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を前記固相から切り離す切断工程と;前記切り離された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する回収工程と;前記回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体のcDNAを増幅させる増幅工程と;を備える、酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、タンパク進化用のリンカーを効率的に生成することができる。また、このリンカーを使用することにより、所望の酵素様活性を有するタンパク質を効率的にスクリーニングすることができる。
さらに、酵素様活性を有するタンパク質と基質との組み合わせを変化させることにより、全く新規な活性を有するタンパク質を得ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】図1Aは、本発明のA型リンカーの構造を模式的に表わしたものである。
【図1B】図1Bは、本発明のB型リンカーの構造を模式的に表わしたものである。
【図2】図2は、本発明のリンカーを構成するピューロマイシンセグメントを模式的に表わした図である。
【図3】図2は、本発明のリンカーを構成するアミノセグメントを模式的に表わした図である。
【図4】図4は、アジドセグメントと架橋物(F)とのゲル電気泳動結果を示す図である。
【図5】図5は、本発明のリンカーを構成する基質ユニットを模式的に表わした図である。
【図6】図6は、ソラレン−アミノセグメント、ピューロマイシンセグメント及びそれらを架橋させた架橋物(E)のゲル電気泳動結果を示す図である。
【0021】
【図7】図7は、架橋物(E)と基質ユニットとを架橋させた発明のA型リンカー(架橋物(G))のゲル電気泳動結果を示す図である。
【図8】図8は、ソラレン−アミノセグメントとピューロマイシンセグメントを架橋した後、未反応のソラレン−アミノセグメントと架橋物(E)をHPLCで分離した際のクロマトグラムである。
【図9】図9は、架橋物(F)を、ピューロマイシンにディスプレイした酵素(スブチリシン)で切断したときのゲル電気泳動結果を示す図である。
【図10】図10は、架橋物(F)を、ピューロマイシンにディスプレイした酵素(RNase T1で)で、基質を切断したときのゲル電気泳動結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図1〜9を参照しつつ、本発明を、さらに詳細に説明する。
図1Aに示すように、本発明の第1の態様のタンパク進化用リンカー(以下、「A型」リンカーということがある。)は、(a)3'末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、(b)前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、(c)前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーである。
ここで、前記主鎖は、(a1)mRNA結合部位と、(a2)架橋形成部位とを備えている。そして、前記mRNA結合部位は、前記リンカーの3'末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能する。また、架橋形成部位には、架橋を形成するための化合物又は置換基が配置されており、この架橋形成部位は前記リンカーの5'端側に位置するようになっている。そして、後述する基質ユニット側架橋部位との間で架橋を形成し、主鎖と基質ユニットとを結合させる。
【0023】
また、前記側鎖は、(b1)一方の端部と、(b2)他方の端部とを備え、前記一方の端部で主鎖の側鎖連結部位に連結されており、他方の端部には、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を有している。
さらに、前記基質ユニットは、(c1)固相結合部位と、(c2)基質連結部位と、(c3)基質ユニット側架橋部位と、(c4)RNAリガーゼ認識配列と、を備えている。この基質ユニットは、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質を挟んで、一方側の端部にRNAリガーゼ認識配列が、また、他方側には固相結合部位が配置される構成となっている。
ここで、前記基質ユニット側架橋部位はこの基質ユニットの5'側に位置しているが、この架橋部位で主鎖との架橋が形成され、主鎖に結合される。上記一方側端部は、5'末端の数塩基を除いて主鎖と相補的な配列を有するため、この数塩基を除いて二本鎖を形成する。そして、二本鎖を形成しない5'末端の数塩基が、RNAリガーゼ認識部位となる。
【0024】
図1Bに示すように、本発明の第2の態様のタンパク進化用リンカー(以下、「B型リンカー」ということがある。)は、(a')3'末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、(b)前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、(c')前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーである。
ここで、前記主鎖は、(a1)mRNA結合部位と、(a2')架橋部位と、(a3')RNAリガーゼ認識部位と、(a4')二本鎖形成領域とを備えている。この二本鎖形成領域は、主鎖の対応する領域と相補的な配列を有し、前記RNAリガーゼ認識部位を形成するが、その5'末端の位置する数塩基は、主鎖と相補的な配列を有していないため、主鎖と二本鎖を形成しない。そして、この部分が(a3')のRNAリガーゼ認識部位となる。
この後、RNAリガーゼが、以上のようにして形成されたRNAリガーゼ認識部位を認識して、mRNAと前記リンカーとを連結する。
【0025】
ここで、(a1)のmRNA結合領域は、前記リンカー上で逆転写が行われる場合に逆転写用のプライマーとして機能する領域である。この領域は、約1〜15塩基からなることが好ましく、特に3〜5塩基からなることが好ましい。15塩基を越えると、リンカーとしてのタンパク結合効率が悪くなるため、タンパクとの結合効率及びプライマーとしての反応効率という面から、上記の塩基数とすることが好ましい。
【0026】
また、第2の態様の基質ユニット(c')は、(c1)固相結合部位と、(c2)基質連結部位と、(c3')架橋形成部位と、を備えている。ここで、固相結合部位と基質連結部位とは、第1の態様の基質ユニットと同じである。
ここで、前記基質ユニットは、一方の端部に主鎖との架橋を形成する架橋形成部位(c')を有し、他方の端部には、固相との結合を形成する固相結合部位をそれぞれ有している。
そして、この架橋形成部位は、前記基質ユニットの任意の場所に位置しているが、この架橋形成部位で主鎖との架橋を形成し、主鎖と結合する。この架橋形成部位の位置は、基質の認識・切断部位に応じて、任意に設定することができる。
【0027】
本発明のリンカー中に含まれる固相結合部位は、固相に固定された特定の分子との間で結合を形成することができる部位をいう。例えば、固相にストレプトアビジンが固定されている場合にはビオチンがこれに当たる。また、固相にストレプトアビジンを介して基質が固定されており、連結酵素によって固相に固定された基質と基質ユニット中の基質連結部位に連結された基質とが結合される場合には、ストレプトアビジンを介して固定されたこうした基質を含むものとなる。
本発明のA型リンカー及びB型リンカーで使用する基質ユニットが有する固相結合部位は所定の分子又は官能基によって構成されている。
より具体的には、本発明の第1の態様及び第2の態様のリンカーを構成する前記基質ユニットは、いずれも、その3'末端側の固相結合部位に、ビオチン;アミノ基、チオール基、及びカルボキシル基からなる官能基;抗原抗体反応における抗原;ヒスチジンタグ、ストレプトタグ、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、及びポリデオキシアデノシンからなる精製タグからなる群から選ばれるいずれかのものであり、基質連結部位には、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結されていることが好ましい。
【0028】
本発明のA型リンカー及びB型リンカーで使用する基質ユニットが有する固相結合部位は所定の分子によって構成されている。こうした所定の分子としては、例えば、固相にアビジン及びストレプトアビジン等が結合されている場合にはビオチン、マルトース結合タンパク質が結合されている場合にはマルトース、Gタンパク質が結合されている場合にはグアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチドが結合されている場合にはNi又はCo等の金属、グルタチオン−S−トランスフェラーゼが結合されている場合にはグルタチオン、配列特異的なDNA又はRNA結合タンパク質が結合されている場合にはこれらに特異的な配列を有するDNA又はRNA、抗体又はアプタマーが結合されている場合には抗原又はエピトープペプチド、カルモジュリンが結合されている場合にはカルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質が結合されている場合にはATP、エストラジオール受容体タンパク質が結合されている場合にはエストラジオール等を挙げることができる。
これらの中でも、ビオチン、マルトース、Ni又はCo等の金属、グルタチオン、抗原分子又はエピトープペプチド等を使用することが好ましく、リンカー合成の容易さの面から、ビオチンを使用することが、さらに好ましい。
【0029】
また、A型リンカーでは主鎖に、B型リンカーでは基質ユニットにそれぞれ配置されている架橋形成部位は、光架橋、化学架橋、酵素的架橋等、リンカーの構造と機能に大きな影響を与えることのない条件で架橋を形成することができるものであれば特に制限されない。具体的には、例えば、架橋形成部位にソラレン(furo[3,2-g]chromen-7-one)を結合させておくことにより、光の照射によって主鎖側架橋部位と基質ユニットの架橋形成部位、又は主鎖の架橋形成部位と基質ユニット側架橋部位との間で架橋を形成させ、これらを結合させることができる。
本発明のA型リンカー及びB型リンカーの側鎖は、主鎖の側鎖連結部位が、例えば、Amino-Modifier C6 dTで構成されている場合には、例えば、以下のように表わすことができる。
【0030】
5'-(S)-TC(F)-(Spacer)n-CC-(Puro)-3'
【0031】
この式中、(S)はチオールモディファイヤ、(F)は蛍光色素を表わし、(Puro)は後述するピューロマイシン又はその類縁体を表す。nは1〜8の整数を表わす。
この場合、例えば、前記側鎖の5'末端を5'-Thiol-Modifier C6(S-Trityl-6-mercapto hexyl-1-[(2-cyano ethyl) -(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)として、EMCS(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide)を用いて架橋させ、主鎖と側鎖とを連結させることができる。
チオールモディファイヤとしては、Thiol-Modifier C6 S-S(1-O-Dimethoxytrityl-hexyl-disulfide,1'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)、T5'-Thiol-Modifier C6(S-Trityl-6-mercapto hexyl-1-[(2-cyano ethyl) -(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)等を挙げることができる。Thiol-Modifier C6 S-Sを使用することが、チオール基の脱保護の容易さの点から好ましい。
【0032】
前記側鎖が、前記タンパク質連結部位と、前記側鎖連結部位との間に蛍光基を有することで、後述するcDNAディスプレイ法の各工程において、リンカーの有無を容易に検出することが可能となる。ここで使用する蛍光基としては、例えば、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、ホスホロアミダイドに変換可能な水酸基、又はアミノ基等のフリーの官能基を有し、標識された塩基としてリンカーに連結することができる蛍光化合物を使用することが好ましい。このような蛍光化合物としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコビリタンパク質、希土類金属キレート、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、Fluorescein-dT(5'-Dimethoxytrityloxy-5-[N-((3',6'-di pivaloylfluoresceinyl) -aminohexyl)-3-acryimido]-2'-deoxyUridine-3'-succinoyl-long chainalkylamino))等を挙げることができる。これらの中でも、分子標識用の化合物として使用されるFluorescein-dTを使用することが、合成が容易であることから好ましい。
【0033】
(Spacer)には、スペーサーとして使用可能な市販品を使用することができ、例えば、Spacer Phosphoramidite 18 ((18-0-Dimethoxytritylhexaethyleneglycol,1-[(2-cyano ethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)、Spacer Phosphoramidite 9(9-O- Dimethoxytrityl-triethylene glycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)] -phosphoramidite)、Spacer C12 CE Phosphoramidite (12-(4,4'-Dimethoxytrityl oxy)dodecyl-1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)、Spacer Phosphoramidite 9 (9-O-Dimethoxytrityl-triethylene glycol,1-[(2-cyanoethyl)- (N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)等を使用することができる。これらのなかでも、Spacer Phosphoramidite 18を使用することが、柔軟性があり、立体障害性が低いことや親水性であることから好適に使用することができる。
【0034】
前記側鎖が短いと、ピューロマイシン類縁体がリボソームに取り込まれるときに立体障害が発生するため、Spacer Phosphoramidite 18(以下、「Spacer 18」又は「スぺーサー18」ということがある。)が1〜8個程度連なった構造(n=1〜8)を有するものであることが好ましい。リンカーの合成効率及び上述した各連結体の形成効率とのバランスの点から、こうしたPhosphoramidite分子が4個程度連なった構造(n=4)を有するものであることがさらに好ましい。
【0035】
ここで、上述した側鎖のタンパク結合部位を形成する(Puro)としては、ヌクレオチド配列の3'末端とアミノ酸がアミド結合を形成しているピューロマイシン、リボシチジルピューロマイシン(rCpPur)、デオキシジルピューロマイシン(dCpPur)、デオキシウリジルピューロマイシン(dUpPur)等のピューロマイシン類縁体の他、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(PANS-アミノ酸)、3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(AANS-アミノ酸)等を挙げることができる。
PANS-アミノ酸としては、例えば、PANS-Gly、PANS-Val、PANS-Ala等を挙げることができ、AANS-アミノ酸としては、AANS-Gly、AANS-Val、AANS-Ala等を挙げることができる。また、ヌクレオシドとアミノ酸とがエステル結合したものなども使用することができるが、ピューロマイシンを使用することが、前記タンパク質連結部位におけるタンパク質の連結の安定性が高いことから特に好ましい。
【0036】
逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位にmRNAが結合し、主鎖のDNAと相補的なmRNAの複合体が生成され、このmRNAから、対応するタンパクが生成され、上述した側鎖のタンパク結合部位に結合される。
本発明のリンカーではいずれも、側鎖のタンパク結合部位に結合したタンパクがうまく作用できる範囲内に、基質ユニットの基質連結部位に連結された基質が存在するように、側鎖及び主鎖の長さが調整されている。このため、タンパク結合部位に結合したこれらのタンパクが、基質ユニット中の基質に作用することによって、これらのタンパクがどのような活性を有するものであるのかを判定することができる。
【0037】
例えば、側鎖のタンパク結合部位に結合したこうしたタンパクが、基質を切断する活性を有するものである場合には、本発明のリンカーを固相に結合させておき、切断されたリンカーを回収し、リンカーに結合されているタンパクの量を測定する。測定された活性を、同様の活性を有する標準品の酵素と比較することによって、得られたタンパクの比活性を知ることができる。
逆に、こうしたタンパクが基質を結合させる活性を有するものである場合には、遊離状態のリンカーを固相に結合させ、遊離しているリンカーの量を測定する。測定された活性を、同様の活性を有する標準品の酵素と比較することによって、得られたタンパクの比活性を知ることができる。
特に、上述したようなフルオレセインイソチオシアネート(FITC)やFluorescein-dTを側鎖に組み込んでおけば、回収したリンカーの量を容易に測定することができるという利点がある。
【0038】
前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせは;ペプチド分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;糖鎖分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の糖鎖;核酸分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;脂質分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の脂質;及び合成ポリマーを分解する活性を有するポリペプチドと任意の合成ポリマー;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることが好ましい。
【0039】
こうした前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。
ペプチド分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列の例としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意のペプチド配列が挙げられる。
糖鎖分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の糖鎖の例としては、グリコシラーゼ、アミラーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意の糖鎖が挙げられる。
【0040】
核酸分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列の例としては、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、制限酵素等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意の一本鎖又は二本鎖の核酸配列が挙げられる。
脂質分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の脂質の例としては、リパーゼ、ホスホリパーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意の脂質が挙げられる。
合成ポリマーを分解する活性を有するポリペプチドの例としては、ナイロン分解酵素等、ポリエステル分解酵素、ポリウレタン分解酵素、ポリエチレン分解酵素、ポリビニルアルコール分解酵素等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意の合成ポリマーが挙げられる。
【0041】
前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせは、核酸リガーゼと同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;ペプチド連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ペプチド転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ポリペプチドペプチドへ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意のペプチド配列及び任意の転移分子基質;核酸へ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列及び任意の転移分子基質;糖転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の糖鎖及び前記任意の糖鎖で修飾したい基質;及び新規な連結反応を触媒する活性を有するポリペプチドと任意の基質;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることが好ましい。
【0042】
こうした前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。
核酸リガーゼと同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列の例としては、DNAリガーセ、RNAリガーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらがライゲーションできるDNA、RNA等の任意の核酸配列ペプチドが挙げられる。
ペプチド連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列の例としては、インテイン、sortase、トランスグルタミナーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと同等の活性を有するポリペプチドと、これらがライゲーションできる任意のペプチド配列が挙げられる。
ポリペプチドまたはペプチドへ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意のペプチド配列及び任意の転移分子基質の例としては、ビオチンリガーゼ、ユビキチンリガーゼ、グレリン-O-アシルトランスフェラーゼ等と同等の活性を持つポリぺプチド及び任意のペプチド配列、及びビオチン、ユビキチン、脂肪酸等の任意の転移分子基質が挙げられる。
【0043】
核酸へ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列及び任意の転移分子基質の例としては、アミノアシルトランスフェラーゼ、T4ポリヌクレオチドキナーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列、及びアミノ酸、リン酸等の任意の転移分子基質が挙げられる。
糖転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の糖鎖及び前記任意の糖鎖で修飾したい基質の例としては、α1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ-III、β1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ-II、β1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ-VI、α1,2-フコシルトランスフェラーゼ-II等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが作用できる任意の糖鎖または糖、その他糖鎖修飾を施したい任意の基質が挙げられる。
【0044】
以下に、本発明のリンカーの製造方法について説明する。本発明のリンカーは、A型リンカー及びB型リンカーともに、タンパク結合部位を有する側鎖を構成するセグメント、主鎖を構成するセグメント、基質ユニットを構成する2つのセグメントの4つのセグメントに分けて合成を行い、その後、それぞれを架橋させて製造する。
以下の説明では、側鎖のタンパク結合部位として、ピューロマイシンを、またスペーサーとしてスペーサー18をそれぞれ使用し、蛍光基としてFluorescein-dTを組み込もものとする。以下、この側鎖を構成するセグメントを、「ピューロマイシンセグメント」という。これらの試薬は、Glen Research社等から購入することができる。
また、主鎖を構成するセグメントには、架橋形成部位が設けられているが、架橋にはソラレンを使用するものとする。以下、これらを、「ソラレン−アミノセグメント」という。
【0045】
さらに、基質ユニットを構成する2つのセグメントは、アジドを有する「アジドセグメント」及び「アルキンを有するアルキンセグメント」である。これら2つのセグメントのうち、アジドセグメントは、架橋によって主鎖と結合されたときにRNAリガーゼ認識部位を形成するRNA認識配列に相当するグメントであり、アルキンセグメントは基質連結部位と固相結合部位を有するセグメントである。
また、ピューロマイシンに結合する酵素としては、スブチリシン(subtilicin)を使用し、基質連結部位に連結する基質は、任意の配列のペプチドとする。
本発明で使用する上記のセグメントは、常法に従って合成してもよく、次のような構造を有するピューロマイシンセグメントを合成する。Spacer18の数は、1〜8の間で適宜、増減させることができる。
【0046】
5'-(S)-TC(F)-(Spacer18)-(Spacer18)-(Spacer18)- (Spacer18)-CC-(Puro)-3'
【0047】
上述した試薬を使用して、自動核酸合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させることにより、ピューロマイシンセグメントを合成することができる。
ついで、ソラレン−アミノセグメントを合成する。アミノセグメントの設計に際しては、各種のmRNAのコード配列を参考にすることができる。例えば、配列が知られている各種のレセプタータンパク質をコードするmRNA、各種抗体又はその断片をコードするmRNA、各種酵素をコードするmRNA、各種遺伝子ライブラリ中のDNAから転写される配列未知のmRNA、有機合成によってランダムに合成された配列を有するDNAから転写されたランダムな配列を有するmRNA、PCR法を利用したランダム変異の挿入により配列未知のタンパク質をコードするようになったDNAから転写されるmRNAその他のmRNA等を挙げることができ、終始コドンを含まないものであれば、これらの中から選択することができる。
【0048】
(配列番号1)
5'-(psoralen)-TACGACGATCTCGAACGAACCACCCCCGCCGCCCCCCG-(T-NH2)-CCT-3'
【0049】
上記のソラレン−アミノセグメントを合成する場合には、側鎖結合部位である(T-NH2)には、例えば、Amino-Modifier C6 dT(5'-Dimethoxytrityl-5-[N-(trifluoro acetylaminohexyl)-3-acrylimido]-2'-deoxyUridine,3'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)を使用することができる。
次に、例えば、以下の構造を有するアジドセグメントを合成する。
【0050】
(配列番号2)
5'-CCCGTGGTTCGTTCGAGATCGTCGTAAA-(Spacer18)-(C6)-(Azide)-3'
【0051】
(C6)には、例えば、3'-Amino-Modifier C7 CPG 500(2-Dimethoxytrityloxymethyl -6-fluorenyl methoxycarbonylamino-hexane-1-succinoyl-long chain alkylamino -CPG)を使用してもよい。また、(Azide)には、Azidobutyrate NHS Ester(4-Azido-butan-1-oic acid N-hydroxy succinimide ester)を使用することができる。以上の試薬は、いずれもGlen Research社等の市販品を購入して使用することができ、自動核酸合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させ、アジドセグメントを合成することができる。
次に、例えば、以下の構造を有するアルキン−ペプチド−ビオチンセグメントを合成する。以下の配列は、N末からC末に向かう構造として示している。
【0052】
(配列番号3)
Gly(Propargyl)-EDHVAHALAQ-(K-Biotin)-NH2
【0053】
ここで、Gly(Propargyl)には、Fmoc-Gly(Propargyl)-OHを使用することができ、(K-biotin)-NH2には、リジン残基のC末端をアミド化し、リジン残基の側鎖にビオチンを結合させて修飾したものを使用することができる。
以上のようにして合成したアジドセグメント(I)とアルキンセグメント(II)とを、
【0054】
【化1】
【0055】
【化2】
アジドセグメントとアルキンセグメントとは、1:50〜1:200のモル比で混合し、CuSO4/Ascorbateを触媒として、20〜30℃にて60〜70時間、反応させることが好ましく、このように反応させることによって下記の反応生成物(III)を得ることができる。
【0056】
【化3】
【0057】
この反応産物をリン酸バッファー(pH 7〜7.5)で平衡化したカラムで脱塩し、架橋反応物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、DNAを染色して解析することにより、基質ユニットを得ることができる。
ついで、ピューロマイシンセグメントとソラレン−アミノセグメントとの架橋を行う。ピューロマイシンセグメント約5μLを約45μLの0.8〜1.2 Mリン酸バッファー(pH 8.5〜9.5)と混合し、5μLの1M DTTを加えて室温で0.5〜2時間放置し、ピューロマイシンセグメントのジスルフィド基をチオール基に還元する。
架橋反応を行う直前に、10〜30mMのリン酸バッファー(pH 7.0〜7.5)で平衡化したカラムを用いて、DTTの除去及び脱塩を行う。
【0058】
引き続き、リン酸バッファー(pH 7.0〜7.5)約100μLに、約10μLの約1mMのソラレン−アミノセグメント、及び約20μLの約100mMの架橋剤を加えてよく混合し、30〜40℃で約20〜40分間反応させる。架橋剤としては、例えば、EMCS(6-Maleimidohexanoic acid N-hydroxysuccinide ester)(株)同仁化学研究所製)を使用することができる。
その後、常法に従ってエタノール沈殿を行って反応産物を沈殿させ、未反応のEMCSを除去する。得られた沈殿を70%エタノールにて洗浄し、減圧下で乾燥させる。このようにして得られた反応産物を、上記のように還元したピューロマイシンセグメント溶液に速やかに溶解させて(約20nmol)、2〜6℃で一晩放置する。ここに、終濃度が約50mMになるようにDTTを加え、約37℃で20〜40分間放置し、チオール基の架橋反応を停止させる。以上の反応によって、上記2つのセグメントが架橋された架橋産物含む反応溶液を得ることができる。
以上のようにして得た2つの架橋物を、10〜30mMのTris-HCl(pH 7.5〜8.5)と80〜120mMのNaClとを含む溶液中で混合し、その後約60℃に加熱し、約10分かけて約25℃まで冷却する。次いで、この試料溶液に、例えば、キセノンランプを光源とする350〜400nm(約1〜3W/cm2)の光を約20分間照射し、試料を露光させる。この光の照射によって架橋産物を得ることができる。
【0059】
以上のようにして製造した、本発明のリンカーを用いて、種々の酵素様活性を有するタンパク質を得ることができる。以下に、連結型の酵素を使用した場合と、切断型の酵素を使用した場合とに分けて説明する。
まず、連結型の酵素を使用した場合について説明する。
mRNA−リンカー連結体生成工程では、上述したA型又はB型のタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAとを、前記リンカーの主鎖上に位置するmRNA結合部位で、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる。これによって、mRNA−リンカー連結体が生成される。ここで主鎖の設計に使用することができるmRNAは上述した通りである。
【0060】
ここで、mRNA−リンカー連結体生成工程では、リガーゼを用いたライゲーションに先立って、アニーリングを行い、その後ライゲーションを行う。RNA/DNA間ライゲーションを行うRNAリガーゼのほか、RNA間及びRNA/DNA間のライゲーションを行うDNAリガーゼを利用することもできる。例えば、ATP依存性DNAリガーゼ(EC6.5.1.1)、NAD+依存性DNAリガーゼ(EC6.5.1.2)、RNAリガーゼ(EC6.5.1.3)、T4 RNAリガーゼ、TS2126耐熱性ファージ由来DNAリガーゼ等を挙げることができる。
こうしたリガーゼのうち、T4 RNAリガーゼ又はTS2126耐熱性ファージ由来DNAリガーゼを使用することが好ましく、T4 RNAリガーゼを利用することが、連結効率の点からさらに好ましい。
【0061】
ライゲーション反応を行う反応系の体積は、4〜100μLであることが好ましく、反応効率の点から20〜40μLとすることがさらに好ましい。20〜25μLとすることが、最も反応効率が高いことからさらに好ましい。
この反応系中でのRNA:リンカーとの比は、モル比で3:1〜1:6の範囲とすることができるが、ほぼ1:(1〜6)、具体的には、5〜100pmolのリンカーに対し、5〜100pmolのmRNAとすることが好ましい。反応効率を上げ、残余を最少化するために、1:(1〜2)とすることがさらに好ましい。この場合には、10pmolのmRNAに対し、10〜20pmolのリンカーを反応させることになる。
【0062】
ライゲーション反応に先立つアニーリングは、以下のように行う。まず、ヒートブロック、アルミブロック、ウォーターバスその他の加温用器具を用いて、約60〜100℃にて約2〜約60分間、試料溶液を温めた後、室温で約2〜約60分間放置し、液温を穏やかに低下させる。その後、さらに、約−5℃〜約10℃まで冷却する。具体的には、例えば、90℃で5分間アルミブロック上にて試料溶液を温め、次に、70℃のアルミブロック上に移して5分間置き、その後上記mRNAと上記リンカーとのライゲーション反応を行う。
ライゲーションは、例えば、塩化マグネシウム、ジチオスレイトール(以下、「DTT」と略すことがある。)、ATP、T4ポリヌクレオチドキナーゼ及びT4 RNAリガーゼを含むTris-塩酸緩衝液(pH 7.0〜8.0)中にて、所望の温度で所望の時間、反応させることにより行う。
【0063】
例えば、約0.1〜約2.5U/μLのT4ポリヌクレオチドキナーゼ、約0.4〜約5U/μLのT4 RNAリガーゼ、約2〜約50mMの塩化マグネシウム、約2〜約50mMのDTT、約0.2〜約5mMのATPを含む10〜250mMのTris-塩酸緩衝液(pH 7.0〜8.0)中で行うことができ、約10℃〜約40℃で、約1分〜約60分間反応させることが好ましい。作業効率及び反応効率の面から、20℃〜30℃で5分〜30分間行うことが好ましく、25℃で15分間とすることがさらに好ましい。
この反応液には、必要に応じて、SUPERase RNase inhibitor(Ambion社)などのRNA分解酵素阻害剤を添加することもできる。
【0064】
次に、mRNA−リンカー−タンパク連結体生成工程は無細胞翻訳系であり、前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクが合成され、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合される。このとき、前記タンパク結合部位には、上述したピューロマイシン又はその類縁体が結合されている。これによって、mRNA−リンカー−タンパク連結体が得られる。
【0065】
上記無細胞翻訳系としては、動物由来細胞、植物由来細胞、菌類及び細菌類からなる群から選択したものを使用することができるが、部分的に又は全体として人工的に合成したものを使用することもできる。より具体的には、大腸菌、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽抽出物などを、無細胞系として使用することができる(Lamfrom H., Grunberg-Manago M., Biochem. Biophys. Res. Commun., 27, 1 (1967))。
上記の無細胞翻訳系では、それらが由来する生物種に依存して翻訳に利用されるコドンの種類が異なる。このため、対象となる遺伝子や遺伝子の由来に合わせて無細胞翻訳系を選択することが好ましい。また、利用したい翻訳系に合うように、mRNAの配列や構造を設計しておくことが好ましい。
【0066】
この工程では、前記無細胞翻訳系として哺乳類の網状赤血球細胞のライセートを利用することが好ましく、ウサギの血液から得られた網状赤血球細胞のライセートを利用することがさらに好ましい。また、血中の網状赤血球の割合を高めるため、前記哺乳動物に予めアセチルフェニルヒドラジンを投与して溶血性貧血等を誘導し、数日間経過した後に採血をすることが好ましい。
前記ライセートは、例えば、ヌクレアーゼによって細胞由来のmRNAを分解し、キレート剤によってカルシウムを除去した後に、ヌクレアーゼを不活化処理したものであることが好ましい。マイクロコッカルヌクレアーゼによって細胞由来のmRNAを分解し、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)を加えてカルシウムをキレートし、前記ヌクレアーゼを不活化処理したもの(以下、「マイクロコッカルヌクレアーゼ処理済」という。)を使用することが、より好ましい。
【0067】
例えば、約16〜約400mMの酢酸カリウム、約0.1〜約2.5mMの酢酸マグネシウム、約0.2〜約50mMのクレアチンリン酸、0〜約0.25mMのアミノ酸を含む反応液(濃度はいずれも終濃度)10〜100μL中に、マイクロコッカルヌクレアーゼ処理済のウサギ網状赤血球ライセートと上記連結体とを加えて、翻訳反応を行うことができる。
反応効率の点から、ウサギ網状赤血球ライセートの量を約8.5〜約17μL、上記連結体の量を約1.2〜約2pmolとし、反応系のサイズを約12.5〜約25μLとして、約20〜約40℃で約10〜約30分間行うことが好ましい。この場合に使用する反応液は、80mMの酢酸カリウム、0.5mMの酢酸マグネシウム、10mMのクレアチンリン酸、それぞれ0.025mMのメチオニン及びロイシン、0.05mMのメチオニン及びロイシン以外のアミノ酸を含むものであることが好ましい。生成効率と作業効率の点から、約30℃で約20分間、翻訳を行うことがさらに好ましい。
【0068】
なお、必要に応じて、この反応液に、SUPERase RNase inhibitor(Ambion社製)などのRNA分解酵素阻害剤を添加してもよい。
翻訳反応後、翻訳産物であるタンパク質とmRNA−リンカー連結体とを、高塩濃度条件下で結合させることが好ましい。例えば、0.3〜1.6Mの塩化カリウム及び40〜170mMの塩化マグネシウムの存在下(濃度はいずれも終濃度)、約27〜約47℃で、約30分〜約1.5時間反応させると、タンパク質を上記連結体と効率よく結合させることができる。
次いで、cDNA-リンカー−タンパク連結体生成工程では、前記mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖が合成される。この工程では、前記主鎖の3'末端を反応開始点とし、前記mRNAを鋳型として、所定の条件の下で、逆転写反応を行ってcDNA鎖を合成する。その結果、mRNA/cDNA−リンカー−タンパク質連結体が得られる。
逆転写反応系は任意に選択できるが、上記mRNA−リンカータンパク質連結体と、dNTP Mixと、DTTと、逆転写酵素と、標準溶液と、RNaseを除去した水(以下、「RNaseフリー水」という。)とを加えて反応系を調製し、この系中、5〜20分間、30〜50℃の条件で逆転写を行わせることが好ましい。
【0069】
引き続き、固定化工程では、前記酵素様活性を有するタンパクを、基質連結部位に連結された基質と、前記固相上に結合された所望の基質とに作用させてこれらを連結する。これによって、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体が固相に固定される。
本工程にて、使用する固相は特に限定されず、その連結体を使用する用途に応じて適宜選択することができる。こうした固相としては、生体分子を固定する担体となる各種の形状のものを用いることができる。例えば、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ等のビーズ;ガラス基板、シリコン(石英)基板、プラスチック基板、金属基板(例えば、金箔基板)等の基板;ガラス容器、プラスチック容器等の容器;ニトロセルロース、ポリビニリデンフロリド(PVDF)等の材料からなるメンブレンなどが挙げられる。
【0070】
上記のような固相に酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質を結合させる方法は特に限定されず、当業者に公知の種々の方法を使用することができる。例えば、上述したリンカーに設けた固相結合部に予め所定の分子を導入しておき、固相に前記分子と結合する受容体分子を予め結合させておくことによって、行うことができる。こうした結合に使用できる組み合わせは、上述した通りである。
固相がスチレンビーズ、スチレン基板などのプラスチック材料で構成されているのであれば、必要に応じて、公知の手法を用いてリンカーの一部を直接それらの固相に共有結合させることもできる(Qiagen社製、LiquiChip Applications Handbook等参照)。したがって、連結体にビオチン又はその類縁体が結合されている場合には、固相にアビジンを結合させておくことによって、上記連結体を容易に固相に結合させることができる。
【0071】
次に、第1洗浄工程で、固相に結合しなかった連結体を、緩衝液を用いて洗浄する。ここで使用する洗浄液としては、約0.1〜約10Mの塩化ナトリウム、約0.1〜約10mMのEDTA、約0.01〜約1%の界面活性剤を含む1〜100mMのTris-塩酸緩衝液(pH 7.0〜9.0)もしくはリン酸緩衝液(pH 7.0〜9.0)等を挙げることができ、1〜3Mの塩化ナトリウム、1〜3mMのEDTA、0.05〜0.02%のTriton X-100を含む10〜30mMのTris-塩酸緩衝液(pH 8.0)を使用することが、洗浄効率がよいことから好ましい。
【0072】
次いで、回収工程にて、前記固定された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する。その後、増幅工程で、以上のようにして回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体のcDNAを増幅させる。
上述したような工程を繰り返すことによって、酵素様活性を有するタンパクを効率的にスクリーニングすることができる。
【0073】
切断型酵素を使用する場合は、固相への固定化工程が相違する点を除き、上記と同様である。すなわち、上述したリンカーに設けた固相結合部に予め所定の分子を導入しておき、固相に前記分子と結合する受容体分子を予め結合させておくことによって、行うことができる。こうした結合に使用できる組み合わせは、上述した通りである。
その後、酵素様活性を有するタンパクが、固相に結合された基質ユニット中の基質に作用して、所定の配列部分で切断する。この切断反応は、Tris-HCl緩衝液を含む反応液中で、所定の温度で所定の時間行うことが好ましい。
例えば、スブチリシンを使用した場合には、約5〜20mMのTris-HCl、約2.5〜約10mMのEDTA、及び約0.1〜約0.4Mの酢酸ナトリウムの組成を有する反応液中で、約5〜約20分間、約30〜約45℃の温度範囲で反応させることができる。また、非常に高いイオン強度の反応液や有機溶媒を反応溶液として、種々の条件の下で反応させることもできる。
【0074】
以上のようにして、本発明のリンカーを用いて、種々酵素様活性を有するタンパク質を得るとともに、そのタンパク質に対応するcDNAをも得ることができる。
また、上述のようにして得られたタンパクのアフィニティー等を利用したカラムクロマトグラフィー等によって、mRNA/cDNA−リンカー−タンパク連結体を選別することができる。
また、本発明で得られたリンカーを使用することによって、ハイスループットの要請にこたえつつ、かつ高い精度でスクリーニングを行うことができる。
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
(実施例1)タンパク進化用A型リンカーの合成
本実施例で使用する、タンパク進化用A型リンカーを、(a)ピューロマイシンセグメント、(b)ソラレン−アミノセグメント、(c)アジドセグメント、及び(d)アルキン−ペプチド−ビオチンセグメントという4つのセグメントに分けて合成した。これらのうち、(a)と(b)とは主鎖の合成に使用し、(c)と(d)とは基質ユニットの合成に使用する。
上記(a)〜(c)のセグメントの合成に使用する特殊DNAの合成を、(株)ジーンワールドおよび(株)日本バイオサービスに委託した。(d)に使用するペプチド合成を(株)スクラムに委託した。
【0077】
(1)ピューロマイシンセグメントの合成
下記の構造を有するピューロマイシンセグメントを合成した。
【0078】
5'-(S)-TC(F)-(Spacer18)-(Spacer18)-(Spacer18)- (Spacer18)-CC-(Puro)-3'
【0079】
ここで、(S)には、Thiol-Modifier C6 S-S(1-O-Dimethoxytrityl-hexyl-disulfide,1'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)を使用した。
また、(F)にはFluorescein-dT (5'-Dimethoxytrityloxy-5-[N-((3',6'-dipivaloyl fluoresceinyl)-aminohexyl)-3-acryimido]-2'-deoxyUridine-3'-succinoyl-long chain alkylamino))を使用した。
(Puro)には、puromycin CPG (5'-Dimethoxytrityl-N-trifluoroacetyl-puromycin, 2'-succinoyl-long chain alkylamino-CPG)を使用した。
(Spacer18)にはSpacer Phosphoramidite 18 ((18-0-Dimethoxytritylhexaethylene glycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite))を使用した。
以上の試薬はすべてGlen Research社より購入した。これらの試薬を使用して、核酸自動合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させ、図2に模式的に示すピューロマイシンセグメントを合成した。
【0080】
(2)ソラレン−アミノセグメントの合成
以下の構造を有するソラレン−アミノセグメントを合成した。
【0081】
(配列番号4)
5'-(psoralen)-TACGACGATCTCGAACGAACCACCCCCGCCGCCCCCCG-(T-NH2)-CCT-3'
【0082】
ここで、(psoralen)には、Psoralen C6 Phosphoramidite((6-[4'-(Hydroxymethyl)-4,5',8-trimethylpsoralen]-hexyl-1-O-(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)-phosphoramidite))を使用した。
また、(T-NH2)には、Amino-Modifier C6 dT(5'-Dimethoxytrityl-5-[N-(trifluoro acetylaminohexyl)-3-acrylimido]-2'-deoxyUridine,3'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)を使用した。
以上の試薬は、いずれもGlen Research社より購入した。これらの試薬を使用して、核酸自動合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させ、図3に模式的に示すソラレン−アミノセグメントを合成した。
【0083】
(3)アジドセグメントの合成
以下の構造を有するアジドセグメントを合成した。
【0084】
(配列番号5)
5'-CCCGTGGTTCGTTCGAGATCGTCGTAAA-(Spacer18)-(C6)-(Azide)-3'
【0085】
ここで、(Spacer18)には、Spacer Phosphoramidite 18((18-0-Dimethoxytrityl hexaethyleneglycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite))を使用した。
(C6)には、3'-Amino-Modifier C7 CPG 500(2-Dimethoxytrityloxymethyl-6-fluorenyl methoxycarbonylamino-hexane-1-succinoyl-long chain alkylamino-CPG)を使用した。
(Azide)には、Azidobutyrate NHS Ester(4-Azido-butan-1-oic acid N-hydroxy succinimide ester)を使用した。
以上の試薬は、いずれもGlen Research社より購入した。これらの試薬を使用して、核酸自動合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させ、アジドセグメントを合成した。
【0086】
(4)アルキン−ペプチド−ビオチンセグメントの合成
以下の構造を有するアルキン−ペプチド−ビオチンセグメントを合成した。以下の配列は、N末からC末に向かう構造として示した。
【0087】
(配列番号6)
Gly(Propargyl)-EDHVAHALAQ-(K-Biotin)-NH2
【0088】
ここで、Gly(Propargyl)には、Fmoc-Gly(Propargyl)-OHを使用した。(K-biotin)-NH2には、リジン残基のC末端をアミド化し、リジン残基の側鎖にビオチンを結合させて修飾したものである。
下記式(I)で表わされるアジド
【0089】
【化4】
【0090】
と、下記式(II)で表わされるアルキン
【0091】
【化5】
【0092】
とを、1:100のモル比で混合し、CuSO4/Ascorbateを触媒として、室温にて64時間反応させて、下記式(III)で表されるの反応生成物を得た。
【0093】
【化6】
【0094】
(5)アジドセグメントとアルキン−ペプチド−ビオチンセグメントとの架橋
25μMのアジドセグメント10μLと、1mMのアルキン−ペプチド−ビオチンセグメント25μLとを、t-ブタノール60μL、0.5mMのCuSO4 5μL、2.5mMのascorbate 5μLからなる溶液と混合し、室温で撹拌しながら64時間反応させた。
この反応産物をリン酸バッファー(pH 7.2)で平衡化したマイクロバイオスピンカラム6(Bio-rad社製)で脱塩した。この脱塩した架橋反応物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、DNAをSybrGold (invitrogen社製)で染色し解析した。
結果を図4に示す。レーン1は、10bp DNA step ladder(プロメガ社製)、レーン2はアジド−セグメント、レーン3は架橋反応物を示す。得られた反応生成物である架橋物(F:基質ユニット)を、図5に模式的に示す。
この結果から、約70%の収率で、目的である架橋物(F)が得られていることが確認された。
【0095】
(3)ピューロマイシンセグメントとソラレン−アミノセグメントとの架橋
4 mMのピューロマイシンセグメント5μLを、45μLの1Mリン酸バッファー(pH 9.0)と混合し、1M DTTを5μL加え、室温で1時間放置し、ピューロマイシンセグメントのジスルフィド基をチオール基に還元した。
架橋反応を行う直前に、20mMリン酸バッファー(pH 7.2)で平衡化したNAP-5 Columns(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を用いて、DTTの除去及び脱塩を行った。
0.2Mリン酸バッファー(pH 7.2)100μLに、10μLの1mMのソラレン−アミノセグメント、及び20μLの100mMの架橋剤EMCS(6-Maleimidohexanoic acid N-hydroxysuccinide ester)(株)同仁化学研究所製)を加えてよく攪拌し、37℃で30分間反応させた。
【0096】
その後、常法に従ってエタノール沈殿を行って反応産物を沈殿させ、未反応のEMCSを除去した。沈殿を200μLの70%エタノールにて洗浄し、減圧下で乾燥させた。
この反応産物を、上記のように還元したピューロマイシンセグメント溶液(約20nmol)に速やかに溶解させて、4℃で一晩放置した。
この試料溶液に、終濃度が50mMになるようにDTTを加え、37℃で30分間放置し、チオール基の架橋反応を停止させ、上記2つのセグメントが架橋された架橋産物含む反応溶液を得た。
得られた架橋産物を尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(12%アクリルアミドゲル、8M尿素、60℃)で分離し、DNAをSybrGold(invitrogen社製)で染色し解析した。レーン1は10bp DNA step ladder (プロメガ社製)、レーン2は架橋反応物の泳動結果である。
ピューロマイシンセグメント及びソラレン−アミノセグメントのバンド以外に、これらの分子量の合計に匹敵するバンドが検出され、目的の架橋物(E)が得られていることが確認された。結果を図6に示す。
【0097】
次いで、この架橋物(E)を、上記と同様にしてエタノールで沈殿させ、未反応のピューロマイシンセグメントを取り除き、さらに未反応のソラレン−アミノセグメント、及びそのEMCS架橋物を取り除くために、以下の条件でHPLCにより精製を行った。
【0098】
(HPLC条件)
カラム:Symmetry300 C18、5μm、4.6 x 250 mm(Waters社製)
バッファーA:0.1M TEAA(triethylammonium acetate、和光純薬工業(株)製)
バッファーB:80%アセトニトリル(和光純薬工業(株)製、超純水で希釈したもの)
流速:0.5ml/分
濃度勾配:A及びBの混合バッファー濃度は85:15→50:50(A:B)で変化させる(50分間)。
【0099】
HPLCにより分画された生成物を、再度、12%アクリルアミドゲル(8M尿素、60℃)の電気泳動にて検出し、目的の画分を減圧下で濃縮した後、上記と同様にしてエタノールで沈殿させた。この後、沈殿物を水で溶解して、50μMとした。
【0100】
(6)架橋物(E)と架橋物(F)との光架橋
1pmolの架橋物(E)と1.2pmolの架橋物(F)を、20mMのTris-HCl(pH 8.0)と100mMのNaClを含む溶液中で混合し、その後60℃に加熱し、10分かけて25℃まで冷却した。
次いで、試料にキセノンランプを光源とする365nm(2W/cm2)の光を20分間照射し、試料を露光させて露光試料とした。
この露光試料を、上記と同じ条件の下で、尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、SybrGold(invitrogen社製)でDNAを染色し解析した。結果を図7に示す。
図7に示すように、露光試料では長鎖長側に移動した電気泳動バンドが検出され、架橋物(G)が生成されたことを確認した。図8に示すHPLC分析の結果でも、保持時間31.819分の位置に架橋物が溶出されたことが確認された。
【0101】
(7)架橋物(F)中のペプチド基質のsubtilisinによる切断確認
0.1MのTris-HCl(pH8.0)、10mMのCaCl2、10mMのNaCl2を含むバッファー中で、5μLの架橋物(F)を0.1pmolのsubtilisin Carlsberg(Sigma社製)と混合し、50℃で30分間反応させた。
反応産物を、12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(8M尿素、60℃)で分離し、SybrGold(invitrogen社製)でDNAを染色し解析した。結果を、図9に示す。レーン1は10bp DNA step ladder(プロメガ社製)、レーン2は架橋物(F)、レーン3はsubtilisinで処理した反応液(処理物)、レーン4はスブチリシン(subtilisin)で処理していない反応液(陰性対照)を示す。
図9のレーン2とレーン4で検出された架橋物のバンドが、レーン3の処理物では検出されず、より短鎖長側でバンドが検出された。この結果、subtilisinによってペプチド基質が切断されたことが確認された。
【実施例2】
【0102】
(実施例2)タンパク進化用B型リンカーの合成
本実施例で使用する、タンパク進化用B型リンカーを、(a)ピューロマイシンセグメント、(b')アミノセグメント、(c')ソラレン−アジドセグメント、及び(d)アルキン−基質−ビオチンセグメントという4つのセグメントに分けて合成した。(a)〜(d)のセグメントの合成に使用する特殊DNAの合成を、(株)ジーンワールドおよび(株)日本バイオサービスに委託した。
上記(a)〜(d)で使用した試薬等は、実施例1の(a)〜(d)で使用したものと同じである。
(1)ピューロマイシンセグメントとアミノセグメントとの架橋
4 mMのピューロマイシンセグメント5μLを45μLの1Mリン酸バッファー(pH 9.0)と混合し、1M DTTを5μL加え、室温で1時間放置し、ピューロマイシンセグメントのジスルフィド基をチオール基に還元した。
架橋反応を行う直前に、20mMリン酸バッファー(pH 7.2)で平衡化したNAP-5Columns(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を用いて、DTTの除去及び脱塩を行った。
0.2Mリン酸バッファー(pH 7.2)100μLに、10μLの1mMのアミノセグメント、及び20μLの100mMの架橋剤EMCS(6-Maleimidohexanoic acid N-hydroxysuccinide ester)(株)同仁化学研究所製)を加えて良く攪拌し、37℃で30分間反応させた。
【0103】
その後、常法に従ってエタノール沈殿を行って反応産物を沈殿させ、未反応のEMCSを除去した。沈殿を200μLの70%エタノールにて洗浄し、減圧下で乾燥させた。
この反応産物を、上記のように還元したピューロマイシンセグメント溶液(約20nmol)に速やかに溶解させて、4℃で一晩放置した。
この試料溶液に、終濃度が50mMになるようにDTTを加え、37℃で30分間放置し、チオール基の架橋反応を停止させ、上記2つのセグメントが架橋された架橋産物含む反応溶液を得た。
得られた架橋産物を尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、DNAをSybrGold(invitrogen社製)で染色し解析した。尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動は、実施例1と同様の条件で行った。
【0104】
その結果、目的の架橋物(E)が得られていることを確認した。
次に、この架橋物(E)を、上記と同様にしてエタノールで沈殿させた。その後、未反応のピューロマイシン−セグメントを取り除き、実施例1と同様の条件でHPLCにより精製を行った。次いで、HPLCにより分画された生成物を、実施例1と同様の条件で尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動にて解析し、目的の画分を減圧下で濃縮した後、上記と同様にしてエタノールで沈殿させた。この後、沈殿物を水で溶解して、50μMとした。
【実施例3】
【0105】
(実施例3) タンパク進化用B型リンカーによる基質の切断
(1)mRNAの調製
T7プロモーター領域をもち、かつ、プロテインAのBドメインをコードした鋳型DNAを1μg用意し、転写用キット(RiboMAXTM Large Scale RNA Production Systems, プロメガ社)を用いて1時間反応させた後、精製した。
(2)RNase T1の阻害活性の測定
RNaseT1(1U/μL;アンビオン社)を1μL(1U)とり、これを17μLのRNaseT1用バッファーに加えて18μLとしたものを5本用意した。また、RNase T1を加えないものをリファレンス用に1本用意した。
【0106】
このうち1本をネガティブコントロールとしGMPを加えず、残りの4本に、最終濃度が0.2μM、2μM、20μM、200μMになるようにそれぞれGMPを加え、30分ほど37℃でインキューベションした。
それぞれのチューブに、すでに転写したmRNAを10pmolずつ加え、さらに30分、37℃でインキュベートした。その後、これらのサンプルを1μLずつ採取し、8M尿素5%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって解析した。電気泳動の結果を、図10に示す。
【0107】
図10に示したように、GMPを添加した試料では、いずれも濃度依存的にmRNAの分解が抑制され、200μMではほとんど分解が抑制されることがわかった。一方、GMPを添加していないネガティブコントロールでは、低分子量側にバンドが見られ、元のmRNAのほとんどが分解されていることが確認された。
(3)RNase T1による基質の分解
mRNAからのタンパク合成が終了した後に、高塩濃度溶液を加えさらに60分ほど、ピューロマイシンと伸長中ペプチドの連結反応を行わせた。その後バッファー交換を行い、逆転写反応を行ってmRNA/cDNA-タンパク質連結体を形成させた。次いで、さらに上記のRNase T1用バッファーとバッファー交換し、その後、GMPを自然に解離させることを目的に、30分ほど37℃でインキューベションした。この反応によって、基質よりも低分子側にバンドが現れたことから、RNase T1で基質ユニットに連結された基質が分解されたことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、新規タンパク質又はポリペプチド創出のための進化工学的手法の効率化に貢献し、ペプチド/タンパク医薬又は産業用酵素創出のための研究開発に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0109】
Psoralen-amino segment
Azide segment
Alkyne-peptide-biotin segment
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー及びそのリンカーを用いた酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素の進化工学では、例えば、遺伝子ライブラリから特定の遺伝子を選択し、これをクローニングし、クローニングした遺伝子を細胞に組み込んでその細胞を形質転換させ、アガロースゲルプレートを用いたスクリーニング、マイクロタイタープレートを用いたスクリーニング、cell-in-droplet、細胞表面ディスプレイ等の各種スクリーニング方法が、所望の機能を有するようなタンパクを選択し、さらに改良するために使用されてきた。
このような方法では、遺伝子を増幅させ、プラスミド等へ組込み、その組換えプラスミドをトランスフェクトした細胞を、特定の薬剤を含むプレート上で増殖させることで、特定の株を選択することになる。その後、得られた菌株を増殖させ、発現されたタンパクを得るために、さらに、細胞の破砕、電気泳動動による分離等、精製が必要となるため、膨大な時間と手間がかかる。
【0003】
一方、進化工学では、抗体のような親和性分子を取得する目的で、ライブラリサイズが108程度であれば扱えるようなファージディスプレイ等のディスプレイ技術が開発された。しかしながら、細胞を使用するファージディスプレイ技術では、細胞にとって毒となるペプチドを得ることができない等の制約があるため、必ずしも十分な多様性とサイズとをもつライブラリを扱えない。
こうした制約を克服するために、無細胞翻訳系のディスプレイ技術が開発され、リボソームディスプレイ技術(非特許文献1及び2参照)やmRNAディスプレイ(In vitro virus)技術(非特許文献3及び4参照)が開発された。これらは上述のように親和性分子の取得を主な目的としたが、近年になり酵素進化を目的として利用する例がでてきた。
具体的には、リボソームディスプレイ技術(非特許文献5参照、以下、「従来技術1」という。)、mRNAディスプレイ技術(非特許文献6参照、以下、「従来技術2」という。)、及びcDNAディスプレイ技術(特許文献1参照)等である。
【0004】
従来技術1のリボソームディスプレイ技術を用いたタンパクのスクリーニングは、以下の手順で行う。まず、活性型及び不活性型のT4DNAリガーゼ遺伝子およびスペーサーペプチドをコードするmRNAの混合液を準備し、コヒーシブ末端を有するcDNAとmRNAとをハイブリダイズさせ、in vitro翻訳を行って、mRNA-cDNA-リボソーム‐酵素複合体を形成させる。ディスプレイされた活性型T4 DNAリガーゼ酵素が、ビオチン修飾した他のdsDNAプローブを、この複合体中に結合させる。この複合体を解離させ、活性型T4 DNAリガーゼ遺伝子をコードするmRNAをビオチンでラベルする。磁性ビーズ上にビオチン修飾されたmRNAの選択を、ストレプトアビジンを使用して行う。得られたmRNAを集め、RT-PCRで増幅させ、in vitro翻訳を行って選択する。このサイクルを繰り返すというものが従来技術1である。
【0005】
従来技術2のmRNAディスプレイ技を用いたタンパクのスクリーニングは、あるDNAを転写してmRNAとし、これにピューロマイシンを結合させ、翻訳する。このピューロマイシンにタンパクを結合させてディスプレイし、これを修飾プライマーを用いて逆転写し、このプライマーに結合されたcDNAを選択し、PCRで増幅させる。これを繰り返すものが従来例2の技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4318721号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mattheakis et sl., Proc Natl Acad Sci U S A. (1994) 91, 9022-9026
【非特許文献2】Hanes J, Pluckthun A. Proc Natl Acad Sci U S A. (1997) 94, 4937-4942
【非特許文献3】Nemoto N, et al.FEBS Lett.(1997) 414, 405-408
【非特許文献4】Roberts RW, Szostak JW. Proc Natl Acad Sci U S A. (1997) 94, 12297-12302
【非特許文献5】Takahashi et ai., BBRC, 336(2005)987-993
【非特許文献6】Seeling, et al., Nature vol. 448, 16 Aug. 2007, 824-832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術1は、細胞を使用せず、濃縮効率を上げることができるという点では優れたものである。しかし、リボソームにスペーサーを介してT4 DNAリガーゼをディスプレイするという非共有結合を利用した連結体構造を用いることから、安定性に欠けるという問題点がある。
また、従来技術2は、共有結合を利用した連結体構造を用いディスプレイ技術であることから、安定性という点では従来技術1よりも優れている。しかし、タンパクと共有結合で連結されている核酸分子がcDNAではなくmRNAであることから、その安定性は不完全である。
【0009】
一方で、酵素様活性を有するタンパクを選択するスクリーニング方法では、細胞に対して毒性となるか否かによらず、使用できるものであることが、多様な活性を有するタンパクを選択する上では好ましい。
さらに、種々の活性を有するタンパクを効率的に選択するためには、より小さな系で、短時間に大量のサンプルを処理できるディスプレイ方法が求められている。そして、こうしたハイスループットに対する要請に応えるためには、ディスプレイされたタンパクを簡便な方法で安定的に回収・精製できることが好ましい。
以上から、cDNAディスプレイ法に適合するリンカーであって、結合させた所望のタンパクの活性を短時間で大量に評価し、選択することができる、こうしたタンパクが所望の機能を有するように進化させることができる、タンパク進化用のリンカーに対する高い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以上のような状況の下で完成されたものである。
本発明の第1の態様は、3'末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーであって;前記主鎖は、前記リンカーの3'末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位と、前記リンカーの5'端側に位置し、前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位と、を備え;前記基質ユニットは、前記主鎖との間の架橋を形成するための基質ユニット側架橋部位と、固相との結合を形成する所定の分子を有している固相結合部位と、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結された基質連結部位と、前記主鎖と間に架橋が形成された後に、一方の端部がRNAリガーゼ認識部位を形成し、他方の端部が前記基質連結部位と連結されるRNAリガーゼ認識配列と、を備え;前記基質連結部位は、前記基質側架橋部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にあり、前記側鎖は、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を備えている、酵素様活性を有するタンパク進化用リンカーである。
【0011】
ここで、前記主鎖は、前記側鎖結合部位よりも5'側に前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位を有することが好ましい。
前記基質ユニットは、前記主鎖の架橋形成部位と基質ユニット側架橋部位との間に架橋が結合されることによって主鎖と結合される。ここで形成される架橋は、光架橋、化学架橋、及び酵素的架橋からなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。
また、この基質ユニットは、前記主鎖と間に架橋が形成され二本鎖となった後に、RNAリガーゼ認識部位を形成するように、一方の端部が構成されている。
【0012】
本発明の第2の態様は、3'末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、基質ユニットとを有するリンカーであって;前記主鎖は、前記RNAリガーゼ認識部位よりも3'末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位と、前記RNAリガーゼ認識部位よりも5'側に位置し、基質ユニットとの間で架橋を形成する主鎖側架橋部位と、RNAリガーゼ認識部位と、前記RNAリガーゼ認識部位を形成するための二本鎖形成領域と、を備え;前記側鎖の他方の端部は、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を備え;前記基質ユニットは、固相との結合を形成する所定の分子を有している固相結合部位と、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結された基質連結部位と、一方の端部が前記主鎖との間で架橋を形成するとともに、他方の端部が前記基質連結部位と連結される架橋形成部位と、を備え;前記基質連結部位は、前記架橋形成部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にある、酵素様活性を有するタンパク進化用リンカーである。
【0013】
ここで、前記主鎖は、前記側鎖結合部位よりも5'側に前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位を有することが好ましい。
前記基質ユニットは、前記主鎖の架橋形成部位と基質ユニット側架橋部位との間に架橋が結合されることによって主鎖と結合される。ここで形成される架橋は、光架橋、化学架橋、及び酵素的架橋からなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。
第2の態様では、基質ユニットは、主鎖の3'側に形成されている二本鎖部分にある架橋形成部位と、架橋を形成する。
【0014】
なお、本発明の第1の態様及び第2の態様のリンカーを構成する前記基質ユニットはいずれも、3'末端側の固相結合部位は、ビオチン;アミノ基、チオール基、及びカルボキシル基からなる官能基;抗原抗体反応における抗原;ヒスチジンタグ、ストレプトタグ、GST(グルタチオン S-トランスフェラーゼ、以下、「GST」と略すことがある。)、及びポリデオキシアデノシンからなる精製タグからなる群から選ばれるいずれかのものであり、基質連結部位には、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結されていることが好ましい。
【0015】
ここで、前記側鎖の前記タンパク結合部位に結合された酵素様活性を有するタンパクと基質との組み合わせは、ペプチド分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;糖鎖分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の糖鎖;核酸分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;脂質分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の脂質;及び合成ポリマーを分解する活性を有するポリペプチドと任意の合成ポリマー;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることが好ましい。
【0016】
また、核酸リガーゼと同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;ペプチド連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ペプチド転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ポリペプチドまたはペプチドへ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意のペプチド配列及び任意の転移分子基質;核酸へ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列及び任意の転移分子基質;糖転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の糖鎖及び前記任意の糖鎖で修飾したい基質;及び新規な連結反応を触媒する活性を有するポリペプチドと任意の基質;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることが好ましい。
【0017】
本発明の第三の態様は、上述したタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAとを、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる、mRNA−リンカー連結体生成工程と;前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクを合成し、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合されたmRNA−リンカー−タンパク連結体を得る結合体生成工程と;前記mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖を合成するcDNA−リンカー−タンパク連結体精製工程と;前記酵素様活性を有するタンパクを基質連結部位に連結された基質と、前記固相上に結合された所望の基質とに作用させてこれらを連結し、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を固相に固定する固定化工程と;前記cDNA−リンカー−タンパク質連結体の結合した固相を第1の緩衝液にて洗浄する、第1洗浄工程と;前記固定された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する回収工程と;前記回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体を増幅させる増幅工程と;を備える、酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法である。
【0018】
また、本発明の第四の態様は、上述したタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAを、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる、mRNA−リンカー連結体生成工程と;前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクを合成し、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合されたmRNA−リンカー−タンパク結合体を得る連結体生成工程と;mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖を合成するcDNA−リンカー−タンパク連結体精製工程と;前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を、前記固相結合部位を介して固相に結合させる固相結合工程と;前記cDNA−リンカー−タンパク質連結体の結合した固相を第1の緩衝液にて洗浄する、第1洗浄工程と;前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合した酵素様活性を有するタンパクを基質連結部位に連結された基質に作用させて、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を前記固相から切り離す切断工程と;前記切り離された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する回収工程と;前記回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体のcDNAを増幅させる増幅工程と;を備える、酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、タンパク進化用のリンカーを効率的に生成することができる。また、このリンカーを使用することにより、所望の酵素様活性を有するタンパク質を効率的にスクリーニングすることができる。
さらに、酵素様活性を有するタンパク質と基質との組み合わせを変化させることにより、全く新規な活性を有するタンパク質を得ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】図1Aは、本発明のA型リンカーの構造を模式的に表わしたものである。
【図1B】図1Bは、本発明のB型リンカーの構造を模式的に表わしたものである。
【図2】図2は、本発明のリンカーを構成するピューロマイシンセグメントを模式的に表わした図である。
【図3】図2は、本発明のリンカーを構成するアミノセグメントを模式的に表わした図である。
【図4】図4は、アジドセグメントと架橋物(F)とのゲル電気泳動結果を示す図である。
【図5】図5は、本発明のリンカーを構成する基質ユニットを模式的に表わした図である。
【図6】図6は、ソラレン−アミノセグメント、ピューロマイシンセグメント及びそれらを架橋させた架橋物(E)のゲル電気泳動結果を示す図である。
【0021】
【図7】図7は、架橋物(E)と基質ユニットとを架橋させた発明のA型リンカー(架橋物(G))のゲル電気泳動結果を示す図である。
【図8】図8は、ソラレン−アミノセグメントとピューロマイシンセグメントを架橋した後、未反応のソラレン−アミノセグメントと架橋物(E)をHPLCで分離した際のクロマトグラムである。
【図9】図9は、架橋物(F)を、ピューロマイシンにディスプレイした酵素(スブチリシン)で切断したときのゲル電気泳動結果を示す図である。
【図10】図10は、架橋物(F)を、ピューロマイシンにディスプレイした酵素(RNase T1で)で、基質を切断したときのゲル電気泳動結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図1〜9を参照しつつ、本発明を、さらに詳細に説明する。
図1Aに示すように、本発明の第1の態様のタンパク進化用リンカー(以下、「A型」リンカーということがある。)は、(a)3'末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、(b)前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、(c)前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーである。
ここで、前記主鎖は、(a1)mRNA結合部位と、(a2)架橋形成部位とを備えている。そして、前記mRNA結合部位は、前記リンカーの3'末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能する。また、架橋形成部位には、架橋を形成するための化合物又は置換基が配置されており、この架橋形成部位は前記リンカーの5'端側に位置するようになっている。そして、後述する基質ユニット側架橋部位との間で架橋を形成し、主鎖と基質ユニットとを結合させる。
【0023】
また、前記側鎖は、(b1)一方の端部と、(b2)他方の端部とを備え、前記一方の端部で主鎖の側鎖連結部位に連結されており、他方の端部には、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を有している。
さらに、前記基質ユニットは、(c1)固相結合部位と、(c2)基質連結部位と、(c3)基質ユニット側架橋部位と、(c4)RNAリガーゼ認識配列と、を備えている。この基質ユニットは、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質を挟んで、一方側の端部にRNAリガーゼ認識配列が、また、他方側には固相結合部位が配置される構成となっている。
ここで、前記基質ユニット側架橋部位はこの基質ユニットの5'側に位置しているが、この架橋部位で主鎖との架橋が形成され、主鎖に結合される。上記一方側端部は、5'末端の数塩基を除いて主鎖と相補的な配列を有するため、この数塩基を除いて二本鎖を形成する。そして、二本鎖を形成しない5'末端の数塩基が、RNAリガーゼ認識部位となる。
【0024】
図1Bに示すように、本発明の第2の態様のタンパク進化用リンカー(以下、「B型リンカー」ということがある。)は、(a')3'末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、(b)前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、(c')前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーである。
ここで、前記主鎖は、(a1)mRNA結合部位と、(a2')架橋部位と、(a3')RNAリガーゼ認識部位と、(a4')二本鎖形成領域とを備えている。この二本鎖形成領域は、主鎖の対応する領域と相補的な配列を有し、前記RNAリガーゼ認識部位を形成するが、その5'末端の位置する数塩基は、主鎖と相補的な配列を有していないため、主鎖と二本鎖を形成しない。そして、この部分が(a3')のRNAリガーゼ認識部位となる。
この後、RNAリガーゼが、以上のようにして形成されたRNAリガーゼ認識部位を認識して、mRNAと前記リンカーとを連結する。
【0025】
ここで、(a1)のmRNA結合領域は、前記リンカー上で逆転写が行われる場合に逆転写用のプライマーとして機能する領域である。この領域は、約1〜15塩基からなることが好ましく、特に3〜5塩基からなることが好ましい。15塩基を越えると、リンカーとしてのタンパク結合効率が悪くなるため、タンパクとの結合効率及びプライマーとしての反応効率という面から、上記の塩基数とすることが好ましい。
【0026】
また、第2の態様の基質ユニット(c')は、(c1)固相結合部位と、(c2)基質連結部位と、(c3')架橋形成部位と、を備えている。ここで、固相結合部位と基質連結部位とは、第1の態様の基質ユニットと同じである。
ここで、前記基質ユニットは、一方の端部に主鎖との架橋を形成する架橋形成部位(c')を有し、他方の端部には、固相との結合を形成する固相結合部位をそれぞれ有している。
そして、この架橋形成部位は、前記基質ユニットの任意の場所に位置しているが、この架橋形成部位で主鎖との架橋を形成し、主鎖と結合する。この架橋形成部位の位置は、基質の認識・切断部位に応じて、任意に設定することができる。
【0027】
本発明のリンカー中に含まれる固相結合部位は、固相に固定された特定の分子との間で結合を形成することができる部位をいう。例えば、固相にストレプトアビジンが固定されている場合にはビオチンがこれに当たる。また、固相にストレプトアビジンを介して基質が固定されており、連結酵素によって固相に固定された基質と基質ユニット中の基質連結部位に連結された基質とが結合される場合には、ストレプトアビジンを介して固定されたこうした基質を含むものとなる。
本発明のA型リンカー及びB型リンカーで使用する基質ユニットが有する固相結合部位は所定の分子又は官能基によって構成されている。
より具体的には、本発明の第1の態様及び第2の態様のリンカーを構成する前記基質ユニットは、いずれも、その3'末端側の固相結合部位に、ビオチン;アミノ基、チオール基、及びカルボキシル基からなる官能基;抗原抗体反応における抗原;ヒスチジンタグ、ストレプトタグ、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、及びポリデオキシアデノシンからなる精製タグからなる群から選ばれるいずれかのものであり、基質連結部位には、前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結されていることが好ましい。
【0028】
本発明のA型リンカー及びB型リンカーで使用する基質ユニットが有する固相結合部位は所定の分子によって構成されている。こうした所定の分子としては、例えば、固相にアビジン及びストレプトアビジン等が結合されている場合にはビオチン、マルトース結合タンパク質が結合されている場合にはマルトース、Gタンパク質が結合されている場合にはグアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチドが結合されている場合にはNi又はCo等の金属、グルタチオン−S−トランスフェラーゼが結合されている場合にはグルタチオン、配列特異的なDNA又はRNA結合タンパク質が結合されている場合にはこれらに特異的な配列を有するDNA又はRNA、抗体又はアプタマーが結合されている場合には抗原又はエピトープペプチド、カルモジュリンが結合されている場合にはカルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質が結合されている場合にはATP、エストラジオール受容体タンパク質が結合されている場合にはエストラジオール等を挙げることができる。
これらの中でも、ビオチン、マルトース、Ni又はCo等の金属、グルタチオン、抗原分子又はエピトープペプチド等を使用することが好ましく、リンカー合成の容易さの面から、ビオチンを使用することが、さらに好ましい。
【0029】
また、A型リンカーでは主鎖に、B型リンカーでは基質ユニットにそれぞれ配置されている架橋形成部位は、光架橋、化学架橋、酵素的架橋等、リンカーの構造と機能に大きな影響を与えることのない条件で架橋を形成することができるものであれば特に制限されない。具体的には、例えば、架橋形成部位にソラレン(furo[3,2-g]chromen-7-one)を結合させておくことにより、光の照射によって主鎖側架橋部位と基質ユニットの架橋形成部位、又は主鎖の架橋形成部位と基質ユニット側架橋部位との間で架橋を形成させ、これらを結合させることができる。
本発明のA型リンカー及びB型リンカーの側鎖は、主鎖の側鎖連結部位が、例えば、Amino-Modifier C6 dTで構成されている場合には、例えば、以下のように表わすことができる。
【0030】
5'-(S)-TC(F)-(Spacer)n-CC-(Puro)-3'
【0031】
この式中、(S)はチオールモディファイヤ、(F)は蛍光色素を表わし、(Puro)は後述するピューロマイシン又はその類縁体を表す。nは1〜8の整数を表わす。
この場合、例えば、前記側鎖の5'末端を5'-Thiol-Modifier C6(S-Trityl-6-mercapto hexyl-1-[(2-cyano ethyl) -(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)として、EMCS(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide)を用いて架橋させ、主鎖と側鎖とを連結させることができる。
チオールモディファイヤとしては、Thiol-Modifier C6 S-S(1-O-Dimethoxytrityl-hexyl-disulfide,1'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)、T5'-Thiol-Modifier C6(S-Trityl-6-mercapto hexyl-1-[(2-cyano ethyl) -(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)等を挙げることができる。Thiol-Modifier C6 S-Sを使用することが、チオール基の脱保護の容易さの点から好ましい。
【0032】
前記側鎖が、前記タンパク質連結部位と、前記側鎖連結部位との間に蛍光基を有することで、後述するcDNAディスプレイ法の各工程において、リンカーの有無を容易に検出することが可能となる。ここで使用する蛍光基としては、例えば、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、ホスホロアミダイドに変換可能な水酸基、又はアミノ基等のフリーの官能基を有し、標識された塩基としてリンカーに連結することができる蛍光化合物を使用することが好ましい。このような蛍光化合物としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコビリタンパク質、希土類金属キレート、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、Fluorescein-dT(5'-Dimethoxytrityloxy-5-[N-((3',6'-di pivaloylfluoresceinyl) -aminohexyl)-3-acryimido]-2'-deoxyUridine-3'-succinoyl-long chainalkylamino))等を挙げることができる。これらの中でも、分子標識用の化合物として使用されるFluorescein-dTを使用することが、合成が容易であることから好ましい。
【0033】
(Spacer)には、スペーサーとして使用可能な市販品を使用することができ、例えば、Spacer Phosphoramidite 18 ((18-0-Dimethoxytritylhexaethyleneglycol,1-[(2-cyano ethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)、Spacer Phosphoramidite 9(9-O- Dimethoxytrityl-triethylene glycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)] -phosphoramidite)、Spacer C12 CE Phosphoramidite (12-(4,4'-Dimethoxytrityl oxy)dodecyl-1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)、Spacer Phosphoramidite 9 (9-O-Dimethoxytrityl-triethylene glycol,1-[(2-cyanoethyl)- (N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)等を使用することができる。これらのなかでも、Spacer Phosphoramidite 18を使用することが、柔軟性があり、立体障害性が低いことや親水性であることから好適に使用することができる。
【0034】
前記側鎖が短いと、ピューロマイシン類縁体がリボソームに取り込まれるときに立体障害が発生するため、Spacer Phosphoramidite 18(以下、「Spacer 18」又は「スぺーサー18」ということがある。)が1〜8個程度連なった構造(n=1〜8)を有するものであることが好ましい。リンカーの合成効率及び上述した各連結体の形成効率とのバランスの点から、こうしたPhosphoramidite分子が4個程度連なった構造(n=4)を有するものであることがさらに好ましい。
【0035】
ここで、上述した側鎖のタンパク結合部位を形成する(Puro)としては、ヌクレオチド配列の3'末端とアミノ酸がアミド結合を形成しているピューロマイシン、リボシチジルピューロマイシン(rCpPur)、デオキシジルピューロマイシン(dCpPur)、デオキシウリジルピューロマイシン(dUpPur)等のピューロマイシン類縁体の他、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(PANS-アミノ酸)、3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(AANS-アミノ酸)等を挙げることができる。
PANS-アミノ酸としては、例えば、PANS-Gly、PANS-Val、PANS-Ala等を挙げることができ、AANS-アミノ酸としては、AANS-Gly、AANS-Val、AANS-Ala等を挙げることができる。また、ヌクレオシドとアミノ酸とがエステル結合したものなども使用することができるが、ピューロマイシンを使用することが、前記タンパク質連結部位におけるタンパク質の連結の安定性が高いことから特に好ましい。
【0036】
逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位にmRNAが結合し、主鎖のDNAと相補的なmRNAの複合体が生成され、このmRNAから、対応するタンパクが生成され、上述した側鎖のタンパク結合部位に結合される。
本発明のリンカーではいずれも、側鎖のタンパク結合部位に結合したタンパクがうまく作用できる範囲内に、基質ユニットの基質連結部位に連結された基質が存在するように、側鎖及び主鎖の長さが調整されている。このため、タンパク結合部位に結合したこれらのタンパクが、基質ユニット中の基質に作用することによって、これらのタンパクがどのような活性を有するものであるのかを判定することができる。
【0037】
例えば、側鎖のタンパク結合部位に結合したこうしたタンパクが、基質を切断する活性を有するものである場合には、本発明のリンカーを固相に結合させておき、切断されたリンカーを回収し、リンカーに結合されているタンパクの量を測定する。測定された活性を、同様の活性を有する標準品の酵素と比較することによって、得られたタンパクの比活性を知ることができる。
逆に、こうしたタンパクが基質を結合させる活性を有するものである場合には、遊離状態のリンカーを固相に結合させ、遊離しているリンカーの量を測定する。測定された活性を、同様の活性を有する標準品の酵素と比較することによって、得られたタンパクの比活性を知ることができる。
特に、上述したようなフルオレセインイソチオシアネート(FITC)やFluorescein-dTを側鎖に組み込んでおけば、回収したリンカーの量を容易に測定することができるという利点がある。
【0038】
前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせは;ペプチド分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;糖鎖分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の糖鎖;核酸分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;脂質分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の脂質;及び合成ポリマーを分解する活性を有するポリペプチドと任意の合成ポリマー;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることが好ましい。
【0039】
こうした前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。
ペプチド分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列の例としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意のペプチド配列が挙げられる。
糖鎖分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の糖鎖の例としては、グリコシラーゼ、アミラーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意の糖鎖が挙げられる。
【0040】
核酸分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列の例としては、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、制限酵素等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意の一本鎖又は二本鎖の核酸配列が挙げられる。
脂質分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の脂質の例としては、リパーゼ、ホスホリパーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意の脂質が挙げられる。
合成ポリマーを分解する活性を有するポリペプチドの例としては、ナイロン分解酵素等、ポリエステル分解酵素、ポリウレタン分解酵素、ポリエチレン分解酵素、ポリビニルアルコール分解酵素等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが切断できる任意の合成ポリマーが挙げられる。
【0041】
前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせは、核酸リガーゼと同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;ペプチド連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ペプチド転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ポリペプチドペプチドへ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意のペプチド配列及び任意の転移分子基質;核酸へ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列及び任意の転移分子基質;糖転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の糖鎖及び前記任意の糖鎖で修飾したい基質;及び新規な連結反応を触媒する活性を有するポリペプチドと任意の基質;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることが好ましい。
【0042】
こうした前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。
核酸リガーゼと同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列の例としては、DNAリガーセ、RNAリガーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらがライゲーションできるDNA、RNA等の任意の核酸配列ペプチドが挙げられる。
ペプチド連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列の例としては、インテイン、sortase、トランスグルタミナーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと同等の活性を有するポリペプチドと、これらがライゲーションできる任意のペプチド配列が挙げられる。
ポリペプチドまたはペプチドへ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意のペプチド配列及び任意の転移分子基質の例としては、ビオチンリガーゼ、ユビキチンリガーゼ、グレリン-O-アシルトランスフェラーゼ等と同等の活性を持つポリぺプチド及び任意のペプチド配列、及びビオチン、ユビキチン、脂肪酸等の任意の転移分子基質が挙げられる。
【0043】
核酸へ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列及び任意の転移分子基質の例としては、アミノアシルトランスフェラーゼ、T4ポリヌクレオチドキナーゼ等と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列、及びアミノ酸、リン酸等の任意の転移分子基質が挙げられる。
糖転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の糖鎖及び前記任意の糖鎖で修飾したい基質の例としては、α1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ-III、β1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ-II、β1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ-VI、α1,2-フコシルトランスフェラーゼ-II等と同等の活性を有するポリペプチドと、これらが作用できる任意の糖鎖または糖、その他糖鎖修飾を施したい任意の基質が挙げられる。
【0044】
以下に、本発明のリンカーの製造方法について説明する。本発明のリンカーは、A型リンカー及びB型リンカーともに、タンパク結合部位を有する側鎖を構成するセグメント、主鎖を構成するセグメント、基質ユニットを構成する2つのセグメントの4つのセグメントに分けて合成を行い、その後、それぞれを架橋させて製造する。
以下の説明では、側鎖のタンパク結合部位として、ピューロマイシンを、またスペーサーとしてスペーサー18をそれぞれ使用し、蛍光基としてFluorescein-dTを組み込もものとする。以下、この側鎖を構成するセグメントを、「ピューロマイシンセグメント」という。これらの試薬は、Glen Research社等から購入することができる。
また、主鎖を構成するセグメントには、架橋形成部位が設けられているが、架橋にはソラレンを使用するものとする。以下、これらを、「ソラレン−アミノセグメント」という。
【0045】
さらに、基質ユニットを構成する2つのセグメントは、アジドを有する「アジドセグメント」及び「アルキンを有するアルキンセグメント」である。これら2つのセグメントのうち、アジドセグメントは、架橋によって主鎖と結合されたときにRNAリガーゼ認識部位を形成するRNA認識配列に相当するグメントであり、アルキンセグメントは基質連結部位と固相結合部位を有するセグメントである。
また、ピューロマイシンに結合する酵素としては、スブチリシン(subtilicin)を使用し、基質連結部位に連結する基質は、任意の配列のペプチドとする。
本発明で使用する上記のセグメントは、常法に従って合成してもよく、次のような構造を有するピューロマイシンセグメントを合成する。Spacer18の数は、1〜8の間で適宜、増減させることができる。
【0046】
5'-(S)-TC(F)-(Spacer18)-(Spacer18)-(Spacer18)- (Spacer18)-CC-(Puro)-3'
【0047】
上述した試薬を使用して、自動核酸合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させることにより、ピューロマイシンセグメントを合成することができる。
ついで、ソラレン−アミノセグメントを合成する。アミノセグメントの設計に際しては、各種のmRNAのコード配列を参考にすることができる。例えば、配列が知られている各種のレセプタータンパク質をコードするmRNA、各種抗体又はその断片をコードするmRNA、各種酵素をコードするmRNA、各種遺伝子ライブラリ中のDNAから転写される配列未知のmRNA、有機合成によってランダムに合成された配列を有するDNAから転写されたランダムな配列を有するmRNA、PCR法を利用したランダム変異の挿入により配列未知のタンパク質をコードするようになったDNAから転写されるmRNAその他のmRNA等を挙げることができ、終始コドンを含まないものであれば、これらの中から選択することができる。
【0048】
(配列番号1)
5'-(psoralen)-TACGACGATCTCGAACGAACCACCCCCGCCGCCCCCCG-(T-NH2)-CCT-3'
【0049】
上記のソラレン−アミノセグメントを合成する場合には、側鎖結合部位である(T-NH2)には、例えば、Amino-Modifier C6 dT(5'-Dimethoxytrityl-5-[N-(trifluoro acetylaminohexyl)-3-acrylimido]-2'-deoxyUridine,3'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)を使用することができる。
次に、例えば、以下の構造を有するアジドセグメントを合成する。
【0050】
(配列番号2)
5'-CCCGTGGTTCGTTCGAGATCGTCGTAAA-(Spacer18)-(C6)-(Azide)-3'
【0051】
(C6)には、例えば、3'-Amino-Modifier C7 CPG 500(2-Dimethoxytrityloxymethyl -6-fluorenyl methoxycarbonylamino-hexane-1-succinoyl-long chain alkylamino -CPG)を使用してもよい。また、(Azide)には、Azidobutyrate NHS Ester(4-Azido-butan-1-oic acid N-hydroxy succinimide ester)を使用することができる。以上の試薬は、いずれもGlen Research社等の市販品を購入して使用することができ、自動核酸合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させ、アジドセグメントを合成することができる。
次に、例えば、以下の構造を有するアルキン−ペプチド−ビオチンセグメントを合成する。以下の配列は、N末からC末に向かう構造として示している。
【0052】
(配列番号3)
Gly(Propargyl)-EDHVAHALAQ-(K-Biotin)-NH2
【0053】
ここで、Gly(Propargyl)には、Fmoc-Gly(Propargyl)-OHを使用することができ、(K-biotin)-NH2には、リジン残基のC末端をアミド化し、リジン残基の側鎖にビオチンを結合させて修飾したものを使用することができる。
以上のようにして合成したアジドセグメント(I)とアルキンセグメント(II)とを、
【0054】
【化1】
【0055】
【化2】
アジドセグメントとアルキンセグメントとは、1:50〜1:200のモル比で混合し、CuSO4/Ascorbateを触媒として、20〜30℃にて60〜70時間、反応させることが好ましく、このように反応させることによって下記の反応生成物(III)を得ることができる。
【0056】
【化3】
【0057】
この反応産物をリン酸バッファー(pH 7〜7.5)で平衡化したカラムで脱塩し、架橋反応物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、DNAを染色して解析することにより、基質ユニットを得ることができる。
ついで、ピューロマイシンセグメントとソラレン−アミノセグメントとの架橋を行う。ピューロマイシンセグメント約5μLを約45μLの0.8〜1.2 Mリン酸バッファー(pH 8.5〜9.5)と混合し、5μLの1M DTTを加えて室温で0.5〜2時間放置し、ピューロマイシンセグメントのジスルフィド基をチオール基に還元する。
架橋反応を行う直前に、10〜30mMのリン酸バッファー(pH 7.0〜7.5)で平衡化したカラムを用いて、DTTの除去及び脱塩を行う。
【0058】
引き続き、リン酸バッファー(pH 7.0〜7.5)約100μLに、約10μLの約1mMのソラレン−アミノセグメント、及び約20μLの約100mMの架橋剤を加えてよく混合し、30〜40℃で約20〜40分間反応させる。架橋剤としては、例えば、EMCS(6-Maleimidohexanoic acid N-hydroxysuccinide ester)(株)同仁化学研究所製)を使用することができる。
その後、常法に従ってエタノール沈殿を行って反応産物を沈殿させ、未反応のEMCSを除去する。得られた沈殿を70%エタノールにて洗浄し、減圧下で乾燥させる。このようにして得られた反応産物を、上記のように還元したピューロマイシンセグメント溶液に速やかに溶解させて(約20nmol)、2〜6℃で一晩放置する。ここに、終濃度が約50mMになるようにDTTを加え、約37℃で20〜40分間放置し、チオール基の架橋反応を停止させる。以上の反応によって、上記2つのセグメントが架橋された架橋産物含む反応溶液を得ることができる。
以上のようにして得た2つの架橋物を、10〜30mMのTris-HCl(pH 7.5〜8.5)と80〜120mMのNaClとを含む溶液中で混合し、その後約60℃に加熱し、約10分かけて約25℃まで冷却する。次いで、この試料溶液に、例えば、キセノンランプを光源とする350〜400nm(約1〜3W/cm2)の光を約20分間照射し、試料を露光させる。この光の照射によって架橋産物を得ることができる。
【0059】
以上のようにして製造した、本発明のリンカーを用いて、種々の酵素様活性を有するタンパク質を得ることができる。以下に、連結型の酵素を使用した場合と、切断型の酵素を使用した場合とに分けて説明する。
まず、連結型の酵素を使用した場合について説明する。
mRNA−リンカー連結体生成工程では、上述したA型又はB型のタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAとを、前記リンカーの主鎖上に位置するmRNA結合部位で、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる。これによって、mRNA−リンカー連結体が生成される。ここで主鎖の設計に使用することができるmRNAは上述した通りである。
【0060】
ここで、mRNA−リンカー連結体生成工程では、リガーゼを用いたライゲーションに先立って、アニーリングを行い、その後ライゲーションを行う。RNA/DNA間ライゲーションを行うRNAリガーゼのほか、RNA間及びRNA/DNA間のライゲーションを行うDNAリガーゼを利用することもできる。例えば、ATP依存性DNAリガーゼ(EC6.5.1.1)、NAD+依存性DNAリガーゼ(EC6.5.1.2)、RNAリガーゼ(EC6.5.1.3)、T4 RNAリガーゼ、TS2126耐熱性ファージ由来DNAリガーゼ等を挙げることができる。
こうしたリガーゼのうち、T4 RNAリガーゼ又はTS2126耐熱性ファージ由来DNAリガーゼを使用することが好ましく、T4 RNAリガーゼを利用することが、連結効率の点からさらに好ましい。
【0061】
ライゲーション反応を行う反応系の体積は、4〜100μLであることが好ましく、反応効率の点から20〜40μLとすることがさらに好ましい。20〜25μLとすることが、最も反応効率が高いことからさらに好ましい。
この反応系中でのRNA:リンカーとの比は、モル比で3:1〜1:6の範囲とすることができるが、ほぼ1:(1〜6)、具体的には、5〜100pmolのリンカーに対し、5〜100pmolのmRNAとすることが好ましい。反応効率を上げ、残余を最少化するために、1:(1〜2)とすることがさらに好ましい。この場合には、10pmolのmRNAに対し、10〜20pmolのリンカーを反応させることになる。
【0062】
ライゲーション反応に先立つアニーリングは、以下のように行う。まず、ヒートブロック、アルミブロック、ウォーターバスその他の加温用器具を用いて、約60〜100℃にて約2〜約60分間、試料溶液を温めた後、室温で約2〜約60分間放置し、液温を穏やかに低下させる。その後、さらに、約−5℃〜約10℃まで冷却する。具体的には、例えば、90℃で5分間アルミブロック上にて試料溶液を温め、次に、70℃のアルミブロック上に移して5分間置き、その後上記mRNAと上記リンカーとのライゲーション反応を行う。
ライゲーションは、例えば、塩化マグネシウム、ジチオスレイトール(以下、「DTT」と略すことがある。)、ATP、T4ポリヌクレオチドキナーゼ及びT4 RNAリガーゼを含むTris-塩酸緩衝液(pH 7.0〜8.0)中にて、所望の温度で所望の時間、反応させることにより行う。
【0063】
例えば、約0.1〜約2.5U/μLのT4ポリヌクレオチドキナーゼ、約0.4〜約5U/μLのT4 RNAリガーゼ、約2〜約50mMの塩化マグネシウム、約2〜約50mMのDTT、約0.2〜約5mMのATPを含む10〜250mMのTris-塩酸緩衝液(pH 7.0〜8.0)中で行うことができ、約10℃〜約40℃で、約1分〜約60分間反応させることが好ましい。作業効率及び反応効率の面から、20℃〜30℃で5分〜30分間行うことが好ましく、25℃で15分間とすることがさらに好ましい。
この反応液には、必要に応じて、SUPERase RNase inhibitor(Ambion社)などのRNA分解酵素阻害剤を添加することもできる。
【0064】
次に、mRNA−リンカー−タンパク連結体生成工程は無細胞翻訳系であり、前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクが合成され、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合される。このとき、前記タンパク結合部位には、上述したピューロマイシン又はその類縁体が結合されている。これによって、mRNA−リンカー−タンパク連結体が得られる。
【0065】
上記無細胞翻訳系としては、動物由来細胞、植物由来細胞、菌類及び細菌類からなる群から選択したものを使用することができるが、部分的に又は全体として人工的に合成したものを使用することもできる。より具体的には、大腸菌、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽抽出物などを、無細胞系として使用することができる(Lamfrom H., Grunberg-Manago M., Biochem. Biophys. Res. Commun., 27, 1 (1967))。
上記の無細胞翻訳系では、それらが由来する生物種に依存して翻訳に利用されるコドンの種類が異なる。このため、対象となる遺伝子や遺伝子の由来に合わせて無細胞翻訳系を選択することが好ましい。また、利用したい翻訳系に合うように、mRNAの配列や構造を設計しておくことが好ましい。
【0066】
この工程では、前記無細胞翻訳系として哺乳類の網状赤血球細胞のライセートを利用することが好ましく、ウサギの血液から得られた網状赤血球細胞のライセートを利用することがさらに好ましい。また、血中の網状赤血球の割合を高めるため、前記哺乳動物に予めアセチルフェニルヒドラジンを投与して溶血性貧血等を誘導し、数日間経過した後に採血をすることが好ましい。
前記ライセートは、例えば、ヌクレアーゼによって細胞由来のmRNAを分解し、キレート剤によってカルシウムを除去した後に、ヌクレアーゼを不活化処理したものであることが好ましい。マイクロコッカルヌクレアーゼによって細胞由来のmRNAを分解し、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)を加えてカルシウムをキレートし、前記ヌクレアーゼを不活化処理したもの(以下、「マイクロコッカルヌクレアーゼ処理済」という。)を使用することが、より好ましい。
【0067】
例えば、約16〜約400mMの酢酸カリウム、約0.1〜約2.5mMの酢酸マグネシウム、約0.2〜約50mMのクレアチンリン酸、0〜約0.25mMのアミノ酸を含む反応液(濃度はいずれも終濃度)10〜100μL中に、マイクロコッカルヌクレアーゼ処理済のウサギ網状赤血球ライセートと上記連結体とを加えて、翻訳反応を行うことができる。
反応効率の点から、ウサギ網状赤血球ライセートの量を約8.5〜約17μL、上記連結体の量を約1.2〜約2pmolとし、反応系のサイズを約12.5〜約25μLとして、約20〜約40℃で約10〜約30分間行うことが好ましい。この場合に使用する反応液は、80mMの酢酸カリウム、0.5mMの酢酸マグネシウム、10mMのクレアチンリン酸、それぞれ0.025mMのメチオニン及びロイシン、0.05mMのメチオニン及びロイシン以外のアミノ酸を含むものであることが好ましい。生成効率と作業効率の点から、約30℃で約20分間、翻訳を行うことがさらに好ましい。
【0068】
なお、必要に応じて、この反応液に、SUPERase RNase inhibitor(Ambion社製)などのRNA分解酵素阻害剤を添加してもよい。
翻訳反応後、翻訳産物であるタンパク質とmRNA−リンカー連結体とを、高塩濃度条件下で結合させることが好ましい。例えば、0.3〜1.6Mの塩化カリウム及び40〜170mMの塩化マグネシウムの存在下(濃度はいずれも終濃度)、約27〜約47℃で、約30分〜約1.5時間反応させると、タンパク質を上記連結体と効率よく結合させることができる。
次いで、cDNA-リンカー−タンパク連結体生成工程では、前記mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖が合成される。この工程では、前記主鎖の3'末端を反応開始点とし、前記mRNAを鋳型として、所定の条件の下で、逆転写反応を行ってcDNA鎖を合成する。その結果、mRNA/cDNA−リンカー−タンパク質連結体が得られる。
逆転写反応系は任意に選択できるが、上記mRNA−リンカータンパク質連結体と、dNTP Mixと、DTTと、逆転写酵素と、標準溶液と、RNaseを除去した水(以下、「RNaseフリー水」という。)とを加えて反応系を調製し、この系中、5〜20分間、30〜50℃の条件で逆転写を行わせることが好ましい。
【0069】
引き続き、固定化工程では、前記酵素様活性を有するタンパクを、基質連結部位に連結された基質と、前記固相上に結合された所望の基質とに作用させてこれらを連結する。これによって、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体が固相に固定される。
本工程にて、使用する固相は特に限定されず、その連結体を使用する用途に応じて適宜選択することができる。こうした固相としては、生体分子を固定する担体となる各種の形状のものを用いることができる。例えば、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ等のビーズ;ガラス基板、シリコン(石英)基板、プラスチック基板、金属基板(例えば、金箔基板)等の基板;ガラス容器、プラスチック容器等の容器;ニトロセルロース、ポリビニリデンフロリド(PVDF)等の材料からなるメンブレンなどが挙げられる。
【0070】
上記のような固相に酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質を結合させる方法は特に限定されず、当業者に公知の種々の方法を使用することができる。例えば、上述したリンカーに設けた固相結合部に予め所定の分子を導入しておき、固相に前記分子と結合する受容体分子を予め結合させておくことによって、行うことができる。こうした結合に使用できる組み合わせは、上述した通りである。
固相がスチレンビーズ、スチレン基板などのプラスチック材料で構成されているのであれば、必要に応じて、公知の手法を用いてリンカーの一部を直接それらの固相に共有結合させることもできる(Qiagen社製、LiquiChip Applications Handbook等参照)。したがって、連結体にビオチン又はその類縁体が結合されている場合には、固相にアビジンを結合させておくことによって、上記連結体を容易に固相に結合させることができる。
【0071】
次に、第1洗浄工程で、固相に結合しなかった連結体を、緩衝液を用いて洗浄する。ここで使用する洗浄液としては、約0.1〜約10Mの塩化ナトリウム、約0.1〜約10mMのEDTA、約0.01〜約1%の界面活性剤を含む1〜100mMのTris-塩酸緩衝液(pH 7.0〜9.0)もしくはリン酸緩衝液(pH 7.0〜9.0)等を挙げることができ、1〜3Mの塩化ナトリウム、1〜3mMのEDTA、0.05〜0.02%のTriton X-100を含む10〜30mMのTris-塩酸緩衝液(pH 8.0)を使用することが、洗浄効率がよいことから好ましい。
【0072】
次いで、回収工程にて、前記固定された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する。その後、増幅工程で、以上のようにして回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体のcDNAを増幅させる。
上述したような工程を繰り返すことによって、酵素様活性を有するタンパクを効率的にスクリーニングすることができる。
【0073】
切断型酵素を使用する場合は、固相への固定化工程が相違する点を除き、上記と同様である。すなわち、上述したリンカーに設けた固相結合部に予め所定の分子を導入しておき、固相に前記分子と結合する受容体分子を予め結合させておくことによって、行うことができる。こうした結合に使用できる組み合わせは、上述した通りである。
その後、酵素様活性を有するタンパクが、固相に結合された基質ユニット中の基質に作用して、所定の配列部分で切断する。この切断反応は、Tris-HCl緩衝液を含む反応液中で、所定の温度で所定の時間行うことが好ましい。
例えば、スブチリシンを使用した場合には、約5〜20mMのTris-HCl、約2.5〜約10mMのEDTA、及び約0.1〜約0.4Mの酢酸ナトリウムの組成を有する反応液中で、約5〜約20分間、約30〜約45℃の温度範囲で反応させることができる。また、非常に高いイオン強度の反応液や有機溶媒を反応溶液として、種々の条件の下で反応させることもできる。
【0074】
以上のようにして、本発明のリンカーを用いて、種々酵素様活性を有するタンパク質を得るとともに、そのタンパク質に対応するcDNAをも得ることができる。
また、上述のようにして得られたタンパクのアフィニティー等を利用したカラムクロマトグラフィー等によって、mRNA/cDNA−リンカー−タンパク連結体を選別することができる。
また、本発明で得られたリンカーを使用することによって、ハイスループットの要請にこたえつつ、かつ高い精度でスクリーニングを行うことができる。
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
(実施例1)タンパク進化用A型リンカーの合成
本実施例で使用する、タンパク進化用A型リンカーを、(a)ピューロマイシンセグメント、(b)ソラレン−アミノセグメント、(c)アジドセグメント、及び(d)アルキン−ペプチド−ビオチンセグメントという4つのセグメントに分けて合成した。これらのうち、(a)と(b)とは主鎖の合成に使用し、(c)と(d)とは基質ユニットの合成に使用する。
上記(a)〜(c)のセグメントの合成に使用する特殊DNAの合成を、(株)ジーンワールドおよび(株)日本バイオサービスに委託した。(d)に使用するペプチド合成を(株)スクラムに委託した。
【0077】
(1)ピューロマイシンセグメントの合成
下記の構造を有するピューロマイシンセグメントを合成した。
【0078】
5'-(S)-TC(F)-(Spacer18)-(Spacer18)-(Spacer18)- (Spacer18)-CC-(Puro)-3'
【0079】
ここで、(S)には、Thiol-Modifier C6 S-S(1-O-Dimethoxytrityl-hexyl-disulfide,1'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)を使用した。
また、(F)にはFluorescein-dT (5'-Dimethoxytrityloxy-5-[N-((3',6'-dipivaloyl fluoresceinyl)-aminohexyl)-3-acryimido]-2'-deoxyUridine-3'-succinoyl-long chain alkylamino))を使用した。
(Puro)には、puromycin CPG (5'-Dimethoxytrityl-N-trifluoroacetyl-puromycin, 2'-succinoyl-long chain alkylamino-CPG)を使用した。
(Spacer18)にはSpacer Phosphoramidite 18 ((18-0-Dimethoxytritylhexaethylene glycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite))を使用した。
以上の試薬はすべてGlen Research社より購入した。これらの試薬を使用して、核酸自動合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させ、図2に模式的に示すピューロマイシンセグメントを合成した。
【0080】
(2)ソラレン−アミノセグメントの合成
以下の構造を有するソラレン−アミノセグメントを合成した。
【0081】
(配列番号4)
5'-(psoralen)-TACGACGATCTCGAACGAACCACCCCCGCCGCCCCCCG-(T-NH2)-CCT-3'
【0082】
ここで、(psoralen)には、Psoralen C6 Phosphoramidite((6-[4'-(Hydroxymethyl)-4,5',8-trimethylpsoralen]-hexyl-1-O-(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)-phosphoramidite))を使用した。
また、(T-NH2)には、Amino-Modifier C6 dT(5'-Dimethoxytrityl-5-[N-(trifluoro acetylaminohexyl)-3-acrylimido]-2'-deoxyUridine,3'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)を使用した。
以上の試薬は、いずれもGlen Research社より購入した。これらの試薬を使用して、核酸自動合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させ、図3に模式的に示すソラレン−アミノセグメントを合成した。
【0083】
(3)アジドセグメントの合成
以下の構造を有するアジドセグメントを合成した。
【0084】
(配列番号5)
5'-CCCGTGGTTCGTTCGAGATCGTCGTAAA-(Spacer18)-(C6)-(Azide)-3'
【0085】
ここで、(Spacer18)には、Spacer Phosphoramidite 18((18-0-Dimethoxytrityl hexaethyleneglycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite))を使用した。
(C6)には、3'-Amino-Modifier C7 CPG 500(2-Dimethoxytrityloxymethyl-6-fluorenyl methoxycarbonylamino-hexane-1-succinoyl-long chain alkylamino-CPG)を使用した。
(Azide)には、Azidobutyrate NHS Ester(4-Azido-butan-1-oic acid N-hydroxy succinimide ester)を使用した。
以上の試薬は、いずれもGlen Research社より購入した。これらの試薬を使用して、核酸自動合成機を用いてホスホロアミダイト法に従って反応させ、アジドセグメントを合成した。
【0086】
(4)アルキン−ペプチド−ビオチンセグメントの合成
以下の構造を有するアルキン−ペプチド−ビオチンセグメントを合成した。以下の配列は、N末からC末に向かう構造として示した。
【0087】
(配列番号6)
Gly(Propargyl)-EDHVAHALAQ-(K-Biotin)-NH2
【0088】
ここで、Gly(Propargyl)には、Fmoc-Gly(Propargyl)-OHを使用した。(K-biotin)-NH2には、リジン残基のC末端をアミド化し、リジン残基の側鎖にビオチンを結合させて修飾したものである。
下記式(I)で表わされるアジド
【0089】
【化4】
【0090】
と、下記式(II)で表わされるアルキン
【0091】
【化5】
【0092】
とを、1:100のモル比で混合し、CuSO4/Ascorbateを触媒として、室温にて64時間反応させて、下記式(III)で表されるの反応生成物を得た。
【0093】
【化6】
【0094】
(5)アジドセグメントとアルキン−ペプチド−ビオチンセグメントとの架橋
25μMのアジドセグメント10μLと、1mMのアルキン−ペプチド−ビオチンセグメント25μLとを、t-ブタノール60μL、0.5mMのCuSO4 5μL、2.5mMのascorbate 5μLからなる溶液と混合し、室温で撹拌しながら64時間反応させた。
この反応産物をリン酸バッファー(pH 7.2)で平衡化したマイクロバイオスピンカラム6(Bio-rad社製)で脱塩した。この脱塩した架橋反応物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、DNAをSybrGold (invitrogen社製)で染色し解析した。
結果を図4に示す。レーン1は、10bp DNA step ladder(プロメガ社製)、レーン2はアジド−セグメント、レーン3は架橋反応物を示す。得られた反応生成物である架橋物(F:基質ユニット)を、図5に模式的に示す。
この結果から、約70%の収率で、目的である架橋物(F)が得られていることが確認された。
【0095】
(3)ピューロマイシンセグメントとソラレン−アミノセグメントとの架橋
4 mMのピューロマイシンセグメント5μLを、45μLの1Mリン酸バッファー(pH 9.0)と混合し、1M DTTを5μL加え、室温で1時間放置し、ピューロマイシンセグメントのジスルフィド基をチオール基に還元した。
架橋反応を行う直前に、20mMリン酸バッファー(pH 7.2)で平衡化したNAP-5 Columns(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を用いて、DTTの除去及び脱塩を行った。
0.2Mリン酸バッファー(pH 7.2)100μLに、10μLの1mMのソラレン−アミノセグメント、及び20μLの100mMの架橋剤EMCS(6-Maleimidohexanoic acid N-hydroxysuccinide ester)(株)同仁化学研究所製)を加えてよく攪拌し、37℃で30分間反応させた。
【0096】
その後、常法に従ってエタノール沈殿を行って反応産物を沈殿させ、未反応のEMCSを除去した。沈殿を200μLの70%エタノールにて洗浄し、減圧下で乾燥させた。
この反応産物を、上記のように還元したピューロマイシンセグメント溶液(約20nmol)に速やかに溶解させて、4℃で一晩放置した。
この試料溶液に、終濃度が50mMになるようにDTTを加え、37℃で30分間放置し、チオール基の架橋反応を停止させ、上記2つのセグメントが架橋された架橋産物含む反応溶液を得た。
得られた架橋産物を尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(12%アクリルアミドゲル、8M尿素、60℃)で分離し、DNAをSybrGold(invitrogen社製)で染色し解析した。レーン1は10bp DNA step ladder (プロメガ社製)、レーン2は架橋反応物の泳動結果である。
ピューロマイシンセグメント及びソラレン−アミノセグメントのバンド以外に、これらの分子量の合計に匹敵するバンドが検出され、目的の架橋物(E)が得られていることが確認された。結果を図6に示す。
【0097】
次いで、この架橋物(E)を、上記と同様にしてエタノールで沈殿させ、未反応のピューロマイシンセグメントを取り除き、さらに未反応のソラレン−アミノセグメント、及びそのEMCS架橋物を取り除くために、以下の条件でHPLCにより精製を行った。
【0098】
(HPLC条件)
カラム:Symmetry300 C18、5μm、4.6 x 250 mm(Waters社製)
バッファーA:0.1M TEAA(triethylammonium acetate、和光純薬工業(株)製)
バッファーB:80%アセトニトリル(和光純薬工業(株)製、超純水で希釈したもの)
流速:0.5ml/分
濃度勾配:A及びBの混合バッファー濃度は85:15→50:50(A:B)で変化させる(50分間)。
【0099】
HPLCにより分画された生成物を、再度、12%アクリルアミドゲル(8M尿素、60℃)の電気泳動にて検出し、目的の画分を減圧下で濃縮した後、上記と同様にしてエタノールで沈殿させた。この後、沈殿物を水で溶解して、50μMとした。
【0100】
(6)架橋物(E)と架橋物(F)との光架橋
1pmolの架橋物(E)と1.2pmolの架橋物(F)を、20mMのTris-HCl(pH 8.0)と100mMのNaClを含む溶液中で混合し、その後60℃に加熱し、10分かけて25℃まで冷却した。
次いで、試料にキセノンランプを光源とする365nm(2W/cm2)の光を20分間照射し、試料を露光させて露光試料とした。
この露光試料を、上記と同じ条件の下で、尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、SybrGold(invitrogen社製)でDNAを染色し解析した。結果を図7に示す。
図7に示すように、露光試料では長鎖長側に移動した電気泳動バンドが検出され、架橋物(G)が生成されたことを確認した。図8に示すHPLC分析の結果でも、保持時間31.819分の位置に架橋物が溶出されたことが確認された。
【0101】
(7)架橋物(F)中のペプチド基質のsubtilisinによる切断確認
0.1MのTris-HCl(pH8.0)、10mMのCaCl2、10mMのNaCl2を含むバッファー中で、5μLの架橋物(F)を0.1pmolのsubtilisin Carlsberg(Sigma社製)と混合し、50℃で30分間反応させた。
反応産物を、12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(8M尿素、60℃)で分離し、SybrGold(invitrogen社製)でDNAを染色し解析した。結果を、図9に示す。レーン1は10bp DNA step ladder(プロメガ社製)、レーン2は架橋物(F)、レーン3はsubtilisinで処理した反応液(処理物)、レーン4はスブチリシン(subtilisin)で処理していない反応液(陰性対照)を示す。
図9のレーン2とレーン4で検出された架橋物のバンドが、レーン3の処理物では検出されず、より短鎖長側でバンドが検出された。この結果、subtilisinによってペプチド基質が切断されたことが確認された。
【実施例2】
【0102】
(実施例2)タンパク進化用B型リンカーの合成
本実施例で使用する、タンパク進化用B型リンカーを、(a)ピューロマイシンセグメント、(b')アミノセグメント、(c')ソラレン−アジドセグメント、及び(d)アルキン−基質−ビオチンセグメントという4つのセグメントに分けて合成した。(a)〜(d)のセグメントの合成に使用する特殊DNAの合成を、(株)ジーンワールドおよび(株)日本バイオサービスに委託した。
上記(a)〜(d)で使用した試薬等は、実施例1の(a)〜(d)で使用したものと同じである。
(1)ピューロマイシンセグメントとアミノセグメントとの架橋
4 mMのピューロマイシンセグメント5μLを45μLの1Mリン酸バッファー(pH 9.0)と混合し、1M DTTを5μL加え、室温で1時間放置し、ピューロマイシンセグメントのジスルフィド基をチオール基に還元した。
架橋反応を行う直前に、20mMリン酸バッファー(pH 7.2)で平衡化したNAP-5Columns(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を用いて、DTTの除去及び脱塩を行った。
0.2Mリン酸バッファー(pH 7.2)100μLに、10μLの1mMのアミノセグメント、及び20μLの100mMの架橋剤EMCS(6-Maleimidohexanoic acid N-hydroxysuccinide ester)(株)同仁化学研究所製)を加えて良く攪拌し、37℃で30分間反応させた。
【0103】
その後、常法に従ってエタノール沈殿を行って反応産物を沈殿させ、未反応のEMCSを除去した。沈殿を200μLの70%エタノールにて洗浄し、減圧下で乾燥させた。
この反応産物を、上記のように還元したピューロマイシンセグメント溶液(約20nmol)に速やかに溶解させて、4℃で一晩放置した。
この試料溶液に、終濃度が50mMになるようにDTTを加え、37℃で30分間放置し、チオール基の架橋反応を停止させ、上記2つのセグメントが架橋された架橋産物含む反応溶液を得た。
得られた架橋産物を尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、DNAをSybrGold(invitrogen社製)で染色し解析した。尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動は、実施例1と同様の条件で行った。
【0104】
その結果、目的の架橋物(E)が得られていることを確認した。
次に、この架橋物(E)を、上記と同様にしてエタノールで沈殿させた。その後、未反応のピューロマイシン−セグメントを取り除き、実施例1と同様の条件でHPLCにより精製を行った。次いで、HPLCにより分画された生成物を、実施例1と同様の条件で尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動にて解析し、目的の画分を減圧下で濃縮した後、上記と同様にしてエタノールで沈殿させた。この後、沈殿物を水で溶解して、50μMとした。
【実施例3】
【0105】
(実施例3) タンパク進化用B型リンカーによる基質の切断
(1)mRNAの調製
T7プロモーター領域をもち、かつ、プロテインAのBドメインをコードした鋳型DNAを1μg用意し、転写用キット(RiboMAXTM Large Scale RNA Production Systems, プロメガ社)を用いて1時間反応させた後、精製した。
(2)RNase T1の阻害活性の測定
RNaseT1(1U/μL;アンビオン社)を1μL(1U)とり、これを17μLのRNaseT1用バッファーに加えて18μLとしたものを5本用意した。また、RNase T1を加えないものをリファレンス用に1本用意した。
【0106】
このうち1本をネガティブコントロールとしGMPを加えず、残りの4本に、最終濃度が0.2μM、2μM、20μM、200μMになるようにそれぞれGMPを加え、30分ほど37℃でインキューベションした。
それぞれのチューブに、すでに転写したmRNAを10pmolずつ加え、さらに30分、37℃でインキュベートした。その後、これらのサンプルを1μLずつ採取し、8M尿素5%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって解析した。電気泳動の結果を、図10に示す。
【0107】
図10に示したように、GMPを添加した試料では、いずれも濃度依存的にmRNAの分解が抑制され、200μMではほとんど分解が抑制されることがわかった。一方、GMPを添加していないネガティブコントロールでは、低分子量側にバンドが見られ、元のmRNAのほとんどが分解されていることが確認された。
(3)RNase T1による基質の分解
mRNAからのタンパク合成が終了した後に、高塩濃度溶液を加えさらに60分ほど、ピューロマイシンと伸長中ペプチドの連結反応を行わせた。その後バッファー交換を行い、逆転写反応を行ってmRNA/cDNA-タンパク質連結体を形成させた。次いで、さらに上記のRNase T1用バッファーとバッファー交換し、その後、GMPを自然に解離させることを目的に、30分ほど37℃でインキューベションした。この反応によって、基質よりも低分子側にバンドが現れたことから、RNase T1で基質ユニットに連結された基質が分解されたことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、新規タンパク質又はポリペプチド創出のための進化工学的手法の効率化に貢献し、ペプチド/タンパク医薬又は産業用酵素創出のための研究開発に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0109】
Psoralen-amino segment
Azide segment
Alkyne-peptide-biotin segment
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3’末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーであって;
前記主鎖は、
前記リンカーの3’末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位と、
前記リンカーの5’端側に位置し、前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位と、を備え;
前記基質ユニットは、
前記主鎖との間の架橋を形成するための基質ユニット側架橋部位と、
固相との結合を形成する所定の分子を有している固相結合部位と、
前記リンカーに結合した酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結された基質連結部位と、
前記主鎖と間に架橋が形成された後に、一方の端部がRNAリガーゼ認識部位を形成し、他方の端部が前記基質連結部位と連結されるRNAリガーゼ認識配列と、を備え;
前記基質連結部位は、前記基質側架橋部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にあり、
前記側鎖は、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を備えている、
酵素様活性を有するタンパク質進化用リンカー。
【請求項2】
3’末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、基質ユニットとを有するリンカーであって;
前記主鎖は、
RNAリガーゼ認識部位と
前記RNAリガーゼ認識部位よりも3’末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位と、
前記RNAリガーゼ認識部位よりも5’側に位置し、基質ユニットとの間で架橋を形成する主鎖側架橋部位と、
、
前記RNAリガーゼ認識部位を形成するための二本鎖形成領域と、
を備え;
前記側鎖の他方の端部は、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を備え;
前記基質ユニットは、
固相との結合を形成する所定の分子を有している固相結合部位と、
前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結された基質連結部位と、
一方の端部が前記主鎖との間で架橋を形成するとともに、他方の端部が前記基質連結部位と連結される架橋形成部位と、
を備え;
前記基質連結部位は、前記架橋形成部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にある、
酵素様活性を有するタンパク質進化用リンカー。
【請求項3】
前記基質ユニットは、光架橋、化学架橋、及び酵素的架橋からなる群から選ばれるいずれかの架橋を形成することによって前記主鎖に結合されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー。
【請求項4】
前記タンパク結合部位は、ピューロマイシン、3’−N−アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド、及び3’−N−アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシドからなる群から選ばれるピューロマイシン又はその誘導体で構成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー。
【請求項5】
前記基質連結部位は、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクにより、複数の基質が結合されて形成される、ことを特徴とする、請求項4に記載の酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー。
【請求項6】
前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせは;ペプチド分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;糖鎖分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の糖鎖;核酸分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;脂質分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の脂質;及び合成ポリマーを分解する活性を有するポリペプチドと任意の合成ポリマー;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク進化用リンカー。
【請求項7】
前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせは、核酸リガーゼと同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;ペプチド連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ペプチド転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ポリペプチドまたはペプチドへ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意のペプチド配列及び任意の転移分子基質、核酸へ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列及び任意の転移分子基質;糖転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の糖鎖及び前記任意の糖鎖で修飾したい基質;及び新規な連結反応を触媒する活性を有するポリペプチドと任意の基質;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク進化用リンカー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAとを、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる、mRNA−リンカー連結体生成工程と;
前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクを合成し、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合されたmRNA−リンカー−タンパク連結体を得る連結体生成工程と;
前記mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖を合成するcDNA-リンカー−タンパク連結体生成工程と;
前記酵素様活性を有するタンパクを基質連結部位に連結された基質と、前記固相上に結合された所望の基質とに作用させてこれらを連結し、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を固相に固定する固定化工程と;
前記cDNA−リンカー−タンパク質連結体の結合した固相を第1の緩衝液にて洗浄する、第1洗浄工程と;
前記固定された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する回収工程と;
前記回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体のcDNAを増幅させる増幅工程と;を備える、
酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAを、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる、mRNA−リンカー連結体生成工程と;
前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクを合成し、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合されたmRNA−リンカー−タンパク連結体を得る連結体生成工程と;
前記mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖を合成するcDNA-リンカー−タンパク連結体生成工程と;
前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を、前記固相結合部位を介して固相に結合させる固相結合工程と;
前記cDNA−リンカー−タンパク質連結体の結合した固相を第1の緩衝液にて洗浄する、第1洗浄工程と;
前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合した酵素様活性を有するタンパクを基質連結部位に連結された基質に作用させて、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を前記固相から切り離す切断工程と;
前記切り離された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する回収工程と;
前記回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体のcDNAを増幅させる増幅工程と;を備える、
酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法。
【請求項1】
3’末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、前記主鎖に架橋を介して結合された基質ユニットとを有するリンカーであって;
前記主鎖は、
前記リンカーの3’末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位と、
前記リンカーの5’端側に位置し、前記基質ユニットとの間の架橋を形成する架橋形成部位と、を備え;
前記基質ユニットは、
前記主鎖との間の架橋を形成するための基質ユニット側架橋部位と、
固相との結合を形成する所定の分子を有している固相結合部位と、
前記リンカーに結合した酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結された基質連結部位と、
前記主鎖と間に架橋が形成された後に、一方の端部がRNAリガーゼ認識部位を形成し、他方の端部が前記基質連結部位と連結されるRNAリガーゼ認識配列と、を備え;
前記基質連結部位は、前記基質側架橋部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にあり、
前記側鎖は、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を備えている、
酵素様活性を有するタンパク質進化用リンカー。
【請求項2】
3’末端側近傍に側鎖連結部位を備える主鎖と、前記側鎖連結部位に一方の端部が連結された側鎖と、基質ユニットとを有するリンカーであって;
前記主鎖は、
RNAリガーゼ認識部位と
前記RNAリガーゼ認識部位よりも3’末端側に位置し、逆転写用のプライマーとして機能するmRNA結合部位と、
前記RNAリガーゼ認識部位よりも5’側に位置し、基質ユニットとの間で架橋を形成する主鎖側架橋部位と、
、
前記RNAリガーゼ認識部位を形成するための二本鎖形成領域と、
を備え;
前記側鎖の他方の端部は、酵素様活性を有するタンパクを結合するためのタンパク結合部位を備え;
前記基質ユニットは、
固相との結合を形成する所定の分子を有している固相結合部位と、
前記酵素様活性を有するタンパクが作用可能な基質が連結された基質連結部位と、
一方の端部が前記主鎖との間で架橋を形成するとともに、他方の端部が前記基質連結部位と連結される架橋形成部位と、
を備え;
前記基質連結部位は、前記架橋形成部位と前記固相結合部位との間、かつ、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクが結合できる位置にある、
酵素様活性を有するタンパク質進化用リンカー。
【請求項3】
前記基質ユニットは、光架橋、化学架橋、及び酵素的架橋からなる群から選ばれるいずれかの架橋を形成することによって前記主鎖に結合されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー。
【請求項4】
前記タンパク結合部位は、ピューロマイシン、3’−N−アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド、及び3’−N−アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシドからなる群から選ばれるピューロマイシン又はその誘導体で構成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー。
【請求項5】
前記基質連結部位は、前記側鎖に結合された酵素様活性を有するタンパクにより、複数の基質が結合されて形成される、ことを特徴とする、請求項4に記載の酵素様活性を有するタンパク進化用リンカー。
【請求項6】
前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせは;ペプチド分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;糖鎖分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の糖鎖;核酸分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;脂質分解酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意の脂質;及び合成ポリマーを分解する活性を有するポリペプチドと任意の合成ポリマー;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク進化用リンカー。
【請求項7】
前記酵素様活性を有するタンパクと前記基質との組み合わせは、核酸リガーゼと同等の活性を有するポリペプチドと任意の核酸配列;ペプチド連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ペプチド転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと任意のペプチド配列;ポリペプチドまたはペプチドへ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意のペプチド配列及び任意の転移分子基質、核酸へ分子を連結する分子連結酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の核酸配列及び任意の転移分子基質;糖転移酵素と同等の活性を有するポリペプチドと、任意の糖鎖及び前記任意の糖鎖で修飾したい基質;及び新規な連結反応を触媒する活性を有するポリペプチドと任意の基質;からなる群から選ばれる、いずれかのものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク進化用リンカー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAとを、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる、mRNA−リンカー連結体生成工程と;
前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクを合成し、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合されたmRNA−リンカー−タンパク連結体を得る連結体生成工程と;
前記mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖を合成するcDNA-リンカー−タンパク連結体生成工程と;
前記酵素様活性を有するタンパクを基質連結部位に連結された基質と、前記固相上に結合された所望の基質とに作用させてこれらを連結し、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を固相に固定する固定化工程と;
前記cDNA−リンカー−タンパク質連結体の結合した固相を第1の緩衝液にて洗浄する、第1洗浄工程と;
前記固定された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する回収工程と;
前記回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体のcDNAを増幅させる増幅工程と;を備える、
酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク進化用リンカーと、前記リンカーの主鎖の一部と相補的な配列を有するmRNAを、前記mRNA結合部位でRNAリガーゼによって結合させる、mRNA−リンカー連結体生成工程と;
前記mRNAを鋳型として、酵素様活性を有するタンパクを合成し、前記タンパクが前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合されたmRNA−リンカー−タンパク連結体を得る連結体生成工程と;
前記mRNAを鋳型として、逆転写反応によってcDNA鎖を合成するcDNA-リンカー−タンパク連結体生成工程と;
前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を、前記固相結合部位を介して固相に結合させる固相結合工程と;
前記cDNA−リンカー−タンパク質連結体の結合した固相を第1の緩衝液にて洗浄する、第1洗浄工程と;
前記リンカーの側鎖上のタンパク結合部位に結合した酵素様活性を有するタンパクを基質連結部位に連結された基質に作用させて、前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を前記固相から切り離す切断工程と;
前記切り離された前記cDNA−リンカー−タンパク連結体を回収する回収工程と;
前記回収されたcDNA−リンカー−タンパク連結体のcDNAを増幅させる増幅工程と;を備える、
酵素様活性を有するタンパクのスクリーニング方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−39060(P2013−39060A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177076(P2011−177076)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける出願
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける出願
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
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