説明

酵素的に分解可能な連結を通じて生物活性因子が組み入れられている合成バイオマテリアル

本発明は、生物活性因子が酵素的に分解可能な連結によって、バイオマテリアルに共有結合している、生物活性因子が組み入れられている合成バイオマテリアルおよびその形成法を特徴とする。これらのバイオマテリアルは、薬学的活性成分、生物活性因子の局所化送達のため、組織修復および再生のため、そして特に、皮膚、骨、腱および軟骨などの軟組織または硬組織の再生のため、使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は、2004年12月22日に出願されたU.S.S.N.60/638,518に優先権を請求する。
発明の分野
本発明は、生物活性因子が組み入れられた合成バイオマテリアル、前記バイオマテリアルに生物活性因子を結合させ、そして前記バイオマテリアルから生物活性因子を放出させる方法、および生物活性因子を補充した前記バイオマテリアルを適用し、そして用いるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
フィブリン・マトリックスまたはポリエチレンに基づく合成ヒドロゲルのような、天然および合成バイオマテリアルは、薬学的適用および外科適用を含む、多様な適用において使用可能である。これらは、例えば、被験体に生物活性因子を送達するため、接着剤または密封剤、組織操作または創傷治癒の足場、あるいは細胞移植デバイスとして、使用可能である。
【0003】
ヒトおよび動物の体における適用のため、体内の必要な部位でのバイオマテリアルのin−situ形成は、バイオマテリアルが最小限に侵襲性の手術によって適用可能であるため、最適な技術である。しかし、体における適用は、(i)バイオマテリアルを形成する前駆体構成要素の性質、(ii)バイオマテリアルのin−situ形成のための架橋機構、および(iii)前駆体構成要素および/またはバイオマテリアルに生物活性因子を組み入れるための架橋機構に関して、化学的性質の選択を制限する。
【0004】
前駆体構成要素に関しては、多様なアプローチが使用されてきている。1つのアプローチでは、天然存在前駆体構成要素が利用され;別のアプローチは完全に合成の前駆体構成要素に重点を置き;そしてさらに別のアプローチでは、天然存在および合成前駆体構成要素あるいは一方または他方の修飾の組み合わせが用いられる。
【0005】
コラーゲン、変性コラーゲン(ゼラチン)および特にフィブリンのような、天然存在または化学的に修飾された天然存在タンパク質に基づくバイオマテリアルが、ヒトおよび動物の体において適用されてきている。特に、フィブリンおよびコラーゲンに基づくマトリックスで、優れた反応が達成されてきている。他の例には、セルロース、アルギン酸塩およびヒアルロン酸のような炭水化物が含まれる。
【0006】
天然または合成バイオマテリアルまたはその混合物における生物活性因子の組み入れは、例えば米国特許第6,117,425号および第6,197,325号ならびにWO02/085422に記載されているように、主に、物理的相互作用を通じた、生物活性因子の組み入れにより行われる。バイオマテリアルへの生物活性因子の共有結合は、より進歩した技術であり、バイオマテリアルからの生物活性因子の放出プロフィールの制御を可能にする。バイオマテリアルの形成中または形成後、前駆体構成要素またはバイオマテリアルの1以上の官能基と反応可能な官能基の組み入れを通じて、生物活性因子を修飾することによって、生物活性因子の共有架橋を行ってもよい。トランスグルタミナーゼの作用を通じた、フィブリン・マトリックスへの小さい合成または天然存在分子、ペプチドおよび/またはタンパク質の組み入れが、米国特許第6,331,422号;第6,468,731号および第6,960,452号ならびにWO03/052091に記載されてきている。合成バイオマテリアルに関しては、生物活性因子中のチオール基が、例えばWO00/44808に記載されるような適切な条件下で、合成前駆体構成要素またはバイオマテリアル中の多様な官能基と反応可能である、強力な基である。こうして形成されたチオエステル結合の加水分解を通じて、バイオマテリアルからの生物活性因子の放出機構を達成してもよい。
【0007】
生物活性因子が、野生型の修飾されていない型で、バイオマテリアルから放出されるように、共有組み入れを設計することも可能であるが、先行技術に記載される、合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアルへの生物活性因子の連結機構および生じるバイオマテリアルは、不都合な点を示す。例えば、ペプチドおよび特にタンパク質、例えば増殖因子におけるさらなるシステイン/チオール基の組み入れは、再フォールディング・プロセスにおいて誤って確立されたジスルフィド結合を導き、そしてその結果、ペプチドまたはタンパク質の不活性を導きうる。チオール基の代わりにアミン基を組み入れると、アミンの反応が、バイオマテリアル/前駆体構成要素の非常に活性な官能基に対してさえ、同じ官能基へのチオール基の反応よりはるかにより特異的でないため、前駆体構成要素および/またはバイオマテリアルへの生物活性因子の非特異的でそして制御不能な架橋を導きうる。
【0008】
さらに、前駆体構成要素および/またはバイオマテリアルの官能基に、チオールまたはアミンを反応させることによって形成される連結の性質は、加水分解に感受性である可能性もあり、そしてしたがって、バイオマテリアルからの生物活性因子の放出は、主に、加水分解環境に依存し、そしてほとんど制御不能である。
【0009】
本発明の目的は、加水分解以外の機構によってバイオマテリアルから放出される生物活性因子が組み入れられた合成バイオマテリアルを提供することである。
本発明のさらなる目的は、合成前駆体構成要素および/またはバイオマテリアルにおける特定の側に選択的に生物活性因子を連結するための機構を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、合成バイオマテリアルからの生物活性因子の徐放を改善することである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の概要
上記目的は、生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を含む合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアルであって、該生物活性因子または2ドメイン生物活性因子が、酵素的に分解可能な連結によって該前駆体構成要素またはバイオマテリアルに共有結合している、前記合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアルによって解決されるとともに、該合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアルを形成する方法によって解決され、そして共有結合している2ドメイン生物活性因子または生物活性因子を含む合成バイオマテリアルであって、該生物活性因子または2ドメイン生物活性因子が、酵素触媒作用によって該バイオマテリアルに共有結合している、前記合成バイオマテリアルによって解決される。
【0012】
本発明はまた、バイオマテリアルに対して架橋された生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を含み、該生物活性因子または2ドメイン生物活性因子が、架橋可能酵素の基質ドメインを含む、合成バイオマテリアルを形成するための方法であって、
(a)共役不飽和基を含む、第一の前駆体構成要素を提供し、
(b)少なくとも1つのチオール基および少なくとも1つのアミン基を含むリンカー分子を提供し、
(c)共役不飽和基の一部とチオール基を反応させて、アミンで修飾された前駆体構成要素を形成し;
(d)生物活性因子または2ドメイン生物活性因子の基質ドメインおよびアミンで修飾された前駆体構成要素のアミン基の間の架橋反応を触媒することが可能な酵素を提供し;
(e)アミンで修飾された前駆体構成要素のアミン基と、生物活性因子または2ドメイン生物活性因子の基質ドメインを反応させて、生物活性因子−前駆体構成要素を形成し;
(f)強い求核基を含む第二の前駆体構成要素を提供し、そして
(g)マイケル型付加反応において、第二の前駆体構成要素の強い求核基と、生物活性因子−前駆体構成要素の共役不飽和基を反応させて、バイオマテリアルを形成する
ことを含む、前記方法にも関する。
【0013】
本発明はまた、ポリエチレングリコールで修飾された生物活性因子を形成する方法であって
(a)少なくとも1つのアミン基を含むポリエチレングリコール分子を提供し;
(b)架橋可能酵素の基質ドメインを含む生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を提供し;
(c)生物活性因子または2ドメイン生物活性因子の基質ドメインおよびアミン基の間の架橋反応を触媒することが可能な酵素を提供し;そして
(d)生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を、ポリエチレングリコール分子上のアミン基に架橋する
ことを含む、前記方法にも関する。
【0014】
酵素的に分解可能な連結によって、合成前駆体構成要素および/またはバイオマテリアルに共有結合している生物活性因子または修飾生物活性因子を含有する合成バイオマテリアルを本明細書に記載する。酵素触媒作用によって、合成バイオマテリアルに生物活性因子を共有結合させる方法、該方法を用いて産生されるバイオマテリアル、およびこれらの方法を実施するために必要な生物活性因子をさらに記載する。生物活性因子は、架橋可能酵素の基質ドメインとして働きうるアミノ酸配列を含有する。該酵素は、生物活性因子の基質ドメイン、および酵素的に触媒される架橋反応に感受性であるバイオマテリアルおよび/または合成バイオマテリアルを形成可能な合成前駆体構成要素の官能基の間の架橋反応を触媒する。好ましい態様において、生物活性因子が、トランスグルタミナーゼの作用を通じて、好ましくは組織トランスグルタミナーゼによって、そしてさらにより好ましくは因子XIIIaの作用を通じて、バイオマテリアルおよび/または合成バイオマテリアルを形成可能な合成前駆体構成要素に架橋可能であるように、生物活性因子の基質ドメインを選択する。好ましくは、生物活性因子の基質ドメインは、トランスグルタミナーゼ基質ドメイン、さらにより好ましくは組織トランスグルタミナーゼ基質ドメイン、そして最も好ましくは因子XIIIa基質ドメインを含む。
【0015】
サイモシンβ4のようないくつかの生物活性因子は、ペプチドまたはタンパク質のアミノ酸配列の一部として、架橋可能酵素の基質ドメインを生得的に提供する。生物活性因子の一次構造が架橋酵素の基質ドメインを含まない場合、生物活性因子は、合成的に、すなわち化学合成によって、または組換え的に、2ドメインまたはキメラ分子として形成され、ここで、第一のドメインは、架橋酵素の基質ドメインを含み、そして第二のドメインは生物活性因子を含む。本明細書において、一般的に、「2ドメイン生物活性因子」は、酵素的に架橋可能な基質ドメインが、生物活性因子の配列、またはより一般的には分子構造に付着している、生物活性因子を意味する。酵素触媒作用による、バイオマテリアルおよび/または合成バイオマテリアルを形成可能な、適切な合成前駆体構成要素への、2ドメイン生物活性因子の共有架橋が、好ましい態様である。
【0016】
バイオマテリアルおよび/または合成バイオマテリアルを形成可能な合成前駆体構成要素の官能基は、(i)これらが、架橋酵素によって、好ましくは組織トランスグルタミナーゼによって、そしてさらにより好ましくは因子XIIIaによって、生物活性因子の基質ドメインに架橋可能であり、そして(ii)必要であれば、バイオマテリアルを形成するため、同じかまたは異なる前駆体構成要素に架橋可能であるように選択される。バイオマテリアルを形成可能な合成前駆体構成要素は、直鎖または分枝鎖であってもよく、好ましくは末端に、官能基を有する。好ましい態様において、生物活性因子の酵素的に架橋可能な基質ドメインと反応可能な合成前駆体構成要素および/または合成バイオマテリアルの官能基は、アミン基であり、そして特に一級アミン基である。生物活性因子の反応パートナーとして働く官能基に加えて、バイオマテリアルを形成するため、好ましくはバイオマテリアルをin situ形成するため、前駆体構成要素中にはさらなる官能基がある。バイオマテリアルの形成に関与する官能基は、生物活性因子の架橋に関与する官能基と同じであってもまた異なってもよい。局所薬剤送達の目的のため、任意の種類の硬組織または軟組織の組織修復および操作のため、例えば損傷を受け、そして罹患した皮膚、骨、腱および軟骨の修復および再生のため、バイオマテリアルを用いてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の詳細な説明
I.定義
「接着部位または細胞付着部位」は、本明細書において、一般的に、細胞表面上の分子、例えば接着促進受容体が結合する、ペプチド配列を指す。
【0018】
「バイオマテリアル」は、本明細書において、一般的に、マトリックスの性質に応じて、水で膨張可能であるが、水に溶解不能であり、すなわち特定の期間、体内に留まるヒドロゲルを形成可能である、ポリマー、好ましくは架橋された三次元ポリマー性ネットワークを指す。バイオマテリアルは、生物学的系と調和して、材料に応じて、永続的または一時的のいずれかで、体の任意の組織、臓器または機能を評価するか、治療するか、増大させるか、修復するか、再生するかまたは置換するよう意図される。
【0019】
「天然バイオマテリアル」は、本明細書において、天然に存在し、そしてそこから単離可能であるかまたは合成的に再操作可能である、バイオマテリアルを指す。
「合成バイオマテリアル」は、本明細書において、天然には存在しないバイオマテリアルを指す。
【0020】
用語「バイオマテリアル」および「マトリックス」は、本明細書において、同義的に用いられる。
「生体適合性」または「生体適合性がある」は、本明細書において、一般的に、物質が、特定の適用において、適切な宿主応答を伴って機能する能力を指す。最も広い意味において、「生体適合性」または「生体適合性がある」は、患者に対する物質および/または治療の利益を上回る方式での、体に対する不都合な影響を欠くことを意味する。
【0021】
「生物活性因子」は、本明細書において、一般的に、ヒトまたは動物の体に薬学的効果を有する、合成または天然存在分子、ヌクレオチド、ペプチドまたはタンパク質を指す。生物活性因子は、天然供給源から単離可能であるし、あるいは合成的にまたは組換え的に産生される。
【0022】
「2ドメイン生物活性因子」は、本明細書において、第一のドメインが酵素的に架橋可能な基質ドメインを含み、そして第二のドメインが生物活性因子を含む、生物活性因子を指す。したがって、基質ドメインは、生物活性因子の生得的な部分ではない。第一のドメインおよび第二のドメインの間に、酵素分解部位もまた存在してもよく、そしてこれは「pl」と略される。したがって、分解部位を含む2ドメイン生物活性因子が、分解部位で切断されたならば、生物活性因子が放出される。組織トランスグルタミナーゼおよび特に因子XIIIaのような架橋可能酵素は、生物活性因子の基質ドメインおよび前駆体構成要素またはバイオマテリアルの適切な官能基の間の共有結合の形成を触媒可能である。
【0023】
「生物学的活性」は、本明細書において、一般的に、関心対象の生物活性因子に仲介される機能的事象を指す。いくつかの態様において、生物学的活性は、ポリペプチドと別のポリペプチドの相互作用を測定することによって測定される。他の態様において、生物学的活性は、関心対象のタンパク質が、細胞増殖、分化、死、遊走、接着、他のタンパク質との相互作用、酵素活性、タンパク質リン酸化または脱リン酸化、転写、あるいは翻訳に対して有する影響をアッセイすることによって、測定される。
【0024】
「共役不飽和結合」は、本明細書において、一般的に、炭素−炭素、炭素−ヘテロ原子またはヘテロ原子−ヘテロ原子多重結合の単結合での改変を指す。こうした結合は、付加反応を経ることも可能である。共役不飽和結合は、合成ポリマーまたはタンパク質などの巨大分子に官能基を連結するための付加反応を経ることも可能である。
【0025】
「共役不飽和基」は、本明細書において、一般的に、炭素−炭素、炭素−ヘテロ原子またはヘテロ原子−ヘテロ原子多重結合の単結合での改変を含有する分子または分子領域であって、付加反応を経ることも可能な多重結合を有する、前記分子または分子領域を指す。共役不飽和基の例には、限定されるわけではないが、ビニルスルホン、アクリレート、アクリルアミド、キノン、およびビニルピリジニウム、例えば2−または4−ビニルピリジニウムおよびイタコネートが含まれる。
【0026】
「架橋」は、本明細書において、一般的に、分子内または分子間の、1より多い共有結合の形成を意味する。
「官能性を持たせる」は、本明細書において、一般的に、官能基または部分の付着を生じる方式で、分子を修飾することを指す。例えば、分子を強い求核剤または共役不飽和にする分子の導入によって、分子に官能性を持たせることも可能である。好ましくは、分子、例えばPEGに官能性を持たせて、チオール、アミン、アクリレート、またはキノン基を含ませる。タンパク質もまた、特に、未結合(free)チオールを生成する、ジスルフィド結合の部分的または完全還元によって、有効に官能性を持たされうる。
【0027】
「官能性」は、本明細書において、一般的に、分子上の反応性部位の数を指す。
「硬組織」は、骨、軟骨、腱または靭帯を意味する。
「ヒドロゲル」は、水性媒体中で膨張するが、水には溶解しない、ポリマー物質のクラスを意味する。
【0028】
「多官能性」は、本明細書において、一般的に、分子(すなわちモノマー、オリゴマーまたはポリマー)あたりの、1より多い求電子および/または求核官能基を指す。
「ポリマー性ネットワーク」は、本明細書において、一般的に、モノマー、オリゴマーまたはポリマーの実質的にすべてが、利用可能な官能基を通じた分子間共有結合によって結合されて、1つの巨大分子を生じ、これがバイオマテリアルとして作用する、プロセスの産物を意味する。
【0029】
「前駆体構成要素」は、本明細書において、一般的に、バイオマテリアルを形成するのに適した、モノマー、オリゴマーおよび/またはポリマーを意味する。
「生理学的」は、本明細書において、一般的に、生存する脊椎動物において見られうるような条件を意味する。特に、生理学的条件は、温度、pHなどのヒト体内の条件を指す。生理学的温度は、特に、35℃〜42℃の温度範囲、好ましくは37℃前後を意味する。
【0030】
「再生」は、本明細書において、一般的に、硬組織、例えば骨、または軟組織、例えば皮膚など、何かの一部またはすべてが再び成長することを意味する。
「感受性生物学的分子」は、本明細書において、一般的に、その存在下で、他の分子と反応可能である細胞において、または体において見られる分子を指す。感受性生物学的物質に不都合に影響を及ぼすことなく、感受性生物学的物質の存在下で、バイオマテリアルを作製してもよい。
【0031】
「自己選択性反応」は、本明細書において、一般的に、組成物の第一の前駆体構成要素が組成物の第二の前駆体構成要素と、そしてその逆で、混合物または反応部位に存在する他の化合物とよりも、はるかにより迅速に反応することを意味する。本明細書において、他の生物学的化合物に対してよりも、求核剤は、求電子剤に優先的に結合し、そして求電子剤は、強い求核剤に優先的に結合する。
【0032】
「軟組織」は、特に非骨格組織、すなわち骨、靭帯、腱および軟骨を除くすべての組織を意味し、そして脊椎円板および線維性組織を含む。
「強い求核剤」は、本明細書において、一般的に、極性結合形成反応において、電子対を求電子剤に供与可能な分子を指す。好ましくは、強い求核剤は、生理学的pHで、水よりも求核性である。強い求核剤の例は、チオールおよびアミンである。
【0033】
「補充されたバイオマテリアル」は、本明細書において、一般的に、生物活性因子を組み入れたバイオマテリアルを指す。
II.組成物
生物活性因子が組み入れられた合成バイオマテリアルおよびその産生法、ならびに特に皮膚、骨および軟骨再生のための、軟組織および硬組織修復、再生および/またはリモデリングにおける使用を本明細書に記載する。生物活性因子は、酵素相互作用を通じて、合成バイオマテリアル内に架橋され、そして該バイオマテリアルから放出されうる。合成バイオマテリアルは、生体適合性であり、そして生物分解性であり、そして移植部位で、in vitroまたはin vivoで、最小限に侵襲性に形成可能である。放出されたら、完全な生物活性を保持するように、バイオマテリアルにおいて、非常に特定のあらかじめ設計された部位で、生物活性因子をバイオマテリアルに組み入れることも可能である。バイオマテリアルを徐放ビヒクルとして使用可能であるように、生物活性因子が、どのように、いつ、そしてどのくらいの度合いまで放出されるかに関して制御を提供する技術を用いて、生物活性因子を放出可能に組み入れることも可能である。合成バイオマテリアルは、バイオマテリアルの機械的特性を増進する安定化物質をさらに含有してもよい。適切な安定化物質の例は、ヒドロキシアパタイト、骨セメント、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどである。
A.合成バイオマテリアル
多様な方式で、ヒトまたは動物の体に適用するためのバイオマテリアルを調製してもよい。いくつかのバイオマテリアルは、Hernら, J. Biomed. Mater. Res. 39:266−276, 1998に記載されるもののように、不飽和二重結合を含有する、2以上の前駆体構成要素間のフリーラジカル重合を通じて、調製される。他のバイオマテリアルは、2以上の求核基、Xを含有する第一の前駆体構成要素と、第一の前駆体構成要素上の求核基と架橋可能な、2以上の求電子基、Yを含有する少なくとも第二の前駆体構成要素を反応させることによって、調製される。関与する反応機構は、米国特許第5,874,500号に開示されるものなどの求核置換反応、縮合反応および/またはWO 00/044808に記載されるものなどのマイケル型付加反応であってもよい。適切な求核基、Xには:−NH、−SH、−OH、−PH、および−CO−NH−NHが含まれる。適切な求電子基、Yには:−CON(COCH、−COH、CHO、−CHOH、−N=C=O、−SOCH=CH、−N(COCH)、および−S−S−(CN)が含まれる。前駆体構成要素は、1以上の求核基を有してもよく、この場合、求核基は互いに同じであってもまた異なってもよい。第二の前駆体構成要素は、1以上の求電子基を有してもよく、この場合、求電子基は互いに同じであってもまた異なってもよい。したがって、前駆体構成要素は、2以上の異なる官能基を有してもよい。
1.マイケル型付加反応
共役不飽和系上の求核基の1,4付加反応は、マイケル型付加反応と称される。バイオマテリアル形成のための好ましい架橋機構は、マイケル型付加反応を通じる。マイケル型付加反応は、感受性生物学的物質の存在下であってさえ、自己選択的方式で、生理学的条件下、体の必要な部位での、少なくとも第一および第二の前駆体構成要素のin situ架橋を可能にする。したがって、第一の前駆体構成要素は、感受性生物学的環境において、他の構成要素とよりも第二の前駆体構成要素と、はるかにより迅速に反応し、そして第二の前駆体構成要素は、体に存在する感受性生物学的環境において、他の構成要素とよりも第一の前駆体構成要素と、はるかにより迅速に反応する。前駆体構成要素の1つが、少なくとも2つの官能性を有し、そして他の前駆体構成要素の少なくとも1つが、2より多い官能性を有する場合、系は自己選択的に反応して、架橋された三次元バイオマテリアルを形成するであろう。
【0034】
マイケル型付加反応において、付加機構は純粋に極性であるか、またはラジカル様中間状態(単数または複数)を通じて進行することも可能である。ルイス酸または塩基、あるいは適切に設計された水素結合種が、触媒として作用しうる。用語「共役」は、炭素−炭素、炭素−ヘテロ原子またはヘテロ原子−ヘテロ原子多重結合の単結合での改変、あるいは合成ポリマーまたはタンパク質などの巨大分子への官能基の連結の両方を指すことも可能である。CHまたはCH単位によって区切られた二重結合は、「ホモ共役二重結合」と称される。バイオマテリアルを形成するための、共役不飽和基へのマイケル型付加は、生理学的温度、特に体温で、しかし体温よりより低い温度およびより高い温度でもまた、実質的に定量的な収率で起こることも可能である。これらの反応は、非常に多様な求核基を用いて、穏やかな条件下で起こる。バイオマテリアル形成動力学および機構、ならびにバイオマテリアルの輸送特性を、適用の必要性を持たすように仕立ててもよい。
a.マイケル型付加反応を実行するための求核基
マイケル型付加反応を実行するのに有用な前駆体構成要素(第一または第二の前駆体構成要素いずれか)の求核基は、共役不飽和基と反応可能である。求核基は、これらがヒトまたは動物の体に存在するような条件下で、共役不飽和基に対して反応性であるように選択される。求核基の反応性は、不飽和基の同一性に応じるが、不飽和基の同一性はまず、生理学的pHでの水との反応によって制限される。したがって、有用な求核基は、生理学的pHで、水よりも求核性である。好ましい求核基は、毒性学の理由から、生物学的系において一般的に見られるものであるが、細胞外部の生物学的系において、一般的に、未結合では見られないものである。したがって、好ましい求核基はチオールおよびアミンであり、そして最も好ましくはチオールである。
【0035】
チオールは、ジスルフィド連結として、対の形で細胞外の生物学的系に存在する。最高の度合いの自己選択性が望ましい場合(例えば架橋反応が組織の存在下で行われ、そしてその組織の化学的修飾が望ましくない場合)、チオールが、選択される強い求核基を代表するであろう。
【0036】
しかし、最高レベルの自己選択性が必要でない可能性もある、他の状況もある。これらの場合、アミンが適切な求核基として働きうる。ここで、脱プロトン化されたアミンがプロトン化されたアミンよりもはるかに強い求核剤であるため、pHに特に注意が払われる。したがって、例えば、典型的なアミノ酸上のアルファ・アミン(アスパラギンに関してpKは8.8というほど低く、プロリンを除くすべての20の一般的なアミノ酸に関しては平均9.0である)は、リジンの側鎖イプシロン・アミン(pK 10.80)より、はるかに低いpKを有する。こうしたものとして、強い求核剤として用いられるアミンのpKに特に注意を払うと、実質的な自己選択性が得られうる。低いpKを持つアミンを選択し、そして次いでpHがそのpKの近くであるように最終的な前駆体を配合することによって、系に存在する他のアミンでなく、提供されるアミンを用いた、不飽和の反応を優遇しうる。自己選択性がまったく望ましくない場合、求核剤として用いられるアミンのpKにはそれほど注意を払う必要はない。しかし、許容しうる迅速な反応速度を得るため、これらのアミンの適切な数が脱プロトン化されるように、最終的な前駆体溶液のpHを調整しなければならない。
【0037】
要約すると、特定の求核基の有用性は、想定される状況および望ましい自己選択性の量に応じる。チオールは、前駆体混合物中のpHのため、そして最大の自己選択性を得るため、一般的に、本発明の好ましい強い求核剤であるが、アミンもまた有用な強い求核基として働くであろう状況がある。
【0038】
求核基の概念は、この用語が、時に、官能基自体(例えばチオールまたはアミン)だけでなく、官能基を含有する分子も含むように用いられるように、本明細書においては拡張されている。
【0039】
求核基は、分子、典型的には前駆体構成要素の1つに含有されていてもよく、全体の構造に大きな柔軟性を伴う。例えば、二官能性求核剤は、X−P−Xの形で存在してもよく、式中、Pは前駆体構成要素、すなわちモノマー、オリゴマーまたはポリマーを指し、そしてXは求核基を指す。同様に、分枝ポリマー、Pが、いくつかの求核基で誘導体化されて、P−(X)を生成してもよい。XはPの鎖末端に示される必要はなく、例えば反復構造:(P−X)が想定可能である。こうした構造において、すべてのPまたはXが同一である必要はない。
b.マイケル型付加反応のための求電子基
マイケル型付加反応を実行するのに有用な前駆体構成要素(第一または第二の前駆体構成要素いずれか)の求電子基は、好ましくは、共役不飽和基である。
【0040】
前駆体構成要素、P、および共役不飽和基の構造は、求核基に関して上に詳述されるものと類似であってもよい。前駆体構成要素が、少なくとも2つのこうした共役不飽和基(すなわち2つより多いかまたは等しい、こうした共役不飽和基)を含有しさえすればよい。
【0041】
非常に多様な共役不飽和化合物に対して、求核性付加反応、特にマイケル型付加反応を行うことが可能である。以下に示す構造において、前駆体構成要素は、モノマー構造、オリゴマー構造またはポリマー構造であってもよく、そしてPと示される。Pの特定の同一性に関して、多様な好ましい可能性が、本明細書において、さらに論じられる。Pは、1〜20と番号付けられ、そして表1に列挙されるものなどの構造において、反応性の共役不飽和基にカップリング可能である。
【0042】
表1:選択される共役不飽和基
【0043】
【表1−1】

【0044】
【表1−2】

【0045】
【表1−3】

【0046】
反応性二重結合を、直鎖ケトン、エステルまたはアミド構造(1a、1b、2)の1以上のカルボニル基に共役させるか、あるいはマレイン酸またはパラキノイド誘導体におけるような環系(3、4、5、6、7、8、9、10)中の2つに共役させてもよい。後者の場合、環を融合させてナフトキノン(6、7、10)または4,7−ベンズイミダゾールジオン(8)を生じ、そしてカルボニル基をオキシム(9、10)に変換してもよい。二重結合をヘテロ原子−ヘテロ原子二重結合、例えばスルホン(11)、スルホキシド(12)、スルホネートまたはスルホンアミド(13)、ホスホネートまたはホスホンアミド(14)に共役させてもよい。最後に、二重結合を電子不足芳香族系、例えば4−ビニルピリジニウムイオン(15)に共役させてもよい。カルボニルまたはヘテロ原子に基づく多重結合との共役に、三重結合を用いてもよい(16、17、18、19、20)。
【0047】
1a、1bおよび2などの構造は、炭素−炭素二重結合と1つまたは2つの電子求引基の共役に基づく。これらの1つは常にカルボニルであり、アミドからエステル、次いでフェノン構造の順に、反応性が増加する。求核付加は、立体障害が減少すると、またはアルファ位での電子求引力が増加すると、より容易になる:CH<H<COOW<CN。
【0048】
求核攻撃が起こるベータ位の置換基のかさ高性を変化させることによって、最後の2つの構造を用いることによって得られる、より高い反応性を調節することも可能である:反応性はP<W<Ph<Hの順に減少する。したがって、Pの位置もまた、求核基に対する反応性を調整するのに使用可能である。このファミリーには、その毒性および薬剤における使用に関して非常に多くが知られる、いくつかの化合物が含まれる。例えば、末端にアクリレートおよびメタクリレートを伴う水溶性ポリマーがin vivoで重合される(フリーラジカル機構によって)。このように、アクリレートおよびメタクリレート含有ポリマーは、以前、臨床製品において、体において見られてきているが、劇的に異なる化学反応スキームで使用するためであった。
【0049】
構造3〜10は、二重結合のcis立体配置および2つの電子求引基の存在の両方のため、求核基に対する非常に高い反応性を示す。不飽和ケトンは、これらのカルボニル基のより強い電子陰性度のため、アミドまたはイミドより迅速に反応する。したがって、シクロペンタジオン誘導体は、マレイミド性のもの(3)より、より迅速に反応し、そしてパラキノンは、より拡張された共役のため、マレイン酸ヒドラジド(4)より、より迅速に反応し、そしてまたシクロヘキサノンより迅速に反応する。最高の反応性は、ナフトキノン(7)によって示される。Pは、不飽和基の反応性を減少させない位、すなわち環の反対側(3、5)に配置するか、別の環上(7、8)に配置するか、またはパラキノン・モノオキシムを通じてO連結してもよい(9、10)。Pはまた、求核付加速度を減少させようとする場合、反応性二重結合(6、8)に連結してもよい。
【0050】
また、ヘテロ原子に基づく電子求引基を用いることによって、求核付加に対する二重結合の活性化を得てもよい。実際、ケトン(11、12)、エステルおよびアミド(13、14)のヘテロ原子含有類似体は、類似の電子の振る舞いを提供する。求核付加に対する反応性は、基の電子陰性度とともに、すなわち11>12>13>14の順に増加し、そして芳香族環との連結によって増進される。芳香族環に基づく電子求引基を用いて、二重結合の強い活性化を得ることもまた可能である。ピリジニウム様陽イオンを含有する芳香族構造(例えばキノリン、イミダゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジンの誘導体、および類似のsp−窒素含有化合物)はいずれも、二重結合を強く極性化し、そして迅速なマイケル型付加を可能にする。
【0051】
炭素またはヘテロ原子に基づく電子求引基と共役した、炭素−炭素三重結合は、イオウ求核剤と容易に反応して、単純付加および二重付加からの産物を生じる。二重結合を含有する類似の化合物に関しては、反応性は、置換基によって影響を受ける。
【0052】
規則正しい凝集物(リポソーム、ミセル)の形成または水環境における単純な相分離は、不飽和基の局所濃度を増加させ、そしてしたがって反応速度を増加させる。この場合、後者はまた、親油特性が増進した分子に関して増加する、求核基の分配係数にも依存する。
B.前駆体構成要素、P
第一および第二の前駆体構成要素は、モノマー性、オリゴマー性またはポリマー性であってもよく、そして本明細書において、「P」と略される。適切な前駆体構成要素には、タンパク質、ペプチド、ポリオキシアルキレン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン−コ−アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン−コ−ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン−コ−マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)、またはポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(酸化プロピレン)ブロックコポリマーが含まれる。第一および第二の前駆体構成要素に特に好ましいのは、ポリエチレングリコール(PEG)である。別の好ましい態様において、第二の前駆体構成要素は合成ペプチドである。
【0053】
官能化PEGは、合成バイオマテリアルの形成において、特に好ましい特性を結集させることが示されてきている。親水性が高く、そして哺乳動物酵素による分解可能性が低く、そして毒性が低いことから、PEGは、体における適用に特に有用となっている。直鎖(2つの端を持つことを意味する)または分枝鎖(2より多い端を持つことを意味する)PEGは容易に購入または合成可能であり、そして次いで、選択した反応機構にしたがって、PEG端基を官能化することも可能である。
【0054】
1つの好ましい態様において、第一の構成要素は、三官能性の3アームの15kDaポリマーであり、すなわち各アームが5kDaの分子量を有し、そして第二の前駆体構成要素は、0.5〜1.5kDaの間の範囲の、さらにより好ましくは1kDa前後の分子量の二官能性直鎖分子である。好ましくは、第一および第二の前駆体構成要素は、ポリエチレングリコール分子である。
【0055】
別の好ましい態様において、第一の前駆体構成要素は、各アームの末端に官能基を有する4アームの15kDa〜20kDaポリマーであり、そして第二の前駆体構成要素は、1〜4kDaの間の範囲、好ましくは3〜4kDa前後、そして最も好ましくは3.4kDaの分子量を持つ二官能性直鎖分子である。好ましくは、第一の前駆体構成要素は、共役不飽和基または結合、好ましくはアクリレートまたはビニルスルホン、そして最も好ましくはアクリレートを含み、そして第二の前駆体構成要素は求核基、好ましくはチオールまたはアミン基を含む。
【0056】
好ましくは第一の前駆体構成要素はポリエチレングリコールであり、そして第二の前駆体構成要素はペプチドまたはやはりポリエチレングリコールである。最も好ましい態様において、どちらの前駆体構成要素もポリエチレングリコール分子である。1つの好ましい態様は、4アームの15kDのPEGアクリレートおよび3.4kDの直鎖PEGチオールの組み合わせで作製されるバイオマテリアルである。
C.細胞付着部位
さらに好ましい態様において、細胞付着のためのペプチド部位がバイオマテリアルに組み入れられる。細胞付着部位は、細胞表面上の接着促進受容体に結合するペプチドである。付着部位の例には、限定されるわけではないが、RGD配列およびYIGSR(配列番号1)が含まれる。特に好ましいのは、フィブロネクチン由来のRGD配列、ラミニン由来のYIGSR(配列番号1)配列である。組み入れは、例えば、チオール含有前駆体構成要素などの、求核基を含む残りの前駆体構成要素と混合する数分前に、システイン含有細胞付着ペプチドを、PEGアクリレート、PEGアクリルアミドまたはPEGビニルスルホン酸などの、共役不飽和基を含む前駆体構成要素と混合することによって、単純に実行可能である。細胞付着部位がシステインを含まない場合、システインを含むように化学的に合成してもよい。この最初の工程中に、接着促進ペプチドは、共役不飽和で多重に官能化された前駆体の一端に組み入れられ;残りのマルチチオールが系に添加されると、バイオマテリアルが形成されるであろう。
D.生物活性因子
広い範囲の生物活性因子が合成バイオマテリアルに組み入れ可能である。適切な生物活性因子には、軟組織および硬組織、特に皮膚、骨および軟骨の治癒、修復および再生を誘導しそして援助することが可能な、ヌクレオチド、ペプチドまたはタンパク質が含まれる。好ましい生物活性因子には、副甲状腺ホルモン(PTH)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)、骨形成タンパク質(BMP)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、およびヒトまたは動物の体内で同じ効果を有する変異体が含まれる。最も好ましい生物活性因子には、PDGF AB、PTH1−34、BMP 2、BMP 7、TGF βl、TGF β3、VEGF 121、およびVEGF 110が含まれる。他の適切な生物活性因子には、抗生物質、抗癌薬剤、疼痛減少薬剤、抗増殖剤等が含まれる。
【0057】
1つの態様において、生物活性因子は、2ドメイン生物活性因子であり、第一のドメインが酵素的に架橋可能な基質ドメインを含み、そして第二のドメインが生物活性因子を含む。場合によって、2ドメイン生物活性因子は、第一のドメインおよび第二のドメインの間に酵素分解部位(「pl」と略される)を含有する。これによって、生物活性因子の徐放が可能になる。合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアルに組み入れられる、最も好ましい2ドメイン生物活性因子は、プラスミン分解可能部位を含む因子XIIIa基質ドメイン(「TG配列」)および上に列挙する好ましいまたは最も好ましい生物活性因子の1つの組み合わせである。しかし、抗生物質、抗癌薬剤、疼痛減少薬剤等の任意の他の生物活性因子が2ドメイン生物活性因子に含まれ、そしてバイオマテリアルに組み入れられてもよいことが理解される。
1.生物活性因子の酵素的に架橋可能な基質ドメイン
生物活性因子、および特に2ドメイン生物活性因子を、生物活性因子および/または2ドメイン生物活性因子の架橋可能基質ドメインを通じて、前駆体構成要素および/またはバイオマテリアルの適切な官能基に架橋してもよい。基質ドメインは、酵素に関するドメインであり、好ましくはトランスグルタミナーゼ、より好ましくは組織トランスグルタミナーゼ(「TR−ドメイン」)、そしてさらにより好ましくは因子XIIIaの基質ドメインである。
【0058】
哺乳動物トランスグルタミナーゼは、構造的にそして機能的に関連する遺伝子のファミリーによってコードされる。9つのトランスグルタミナーゼ遺伝子が同定されてきており、このうち8個が活性酵素をコードする。トランスグルタミナーゼ酵素ファミリーには:(a)大部分、上皮組織中で発現される、細胞内トランスグルタミナーゼ1、3および5アイソフォーム;(b)多様な組織種で発現され、そして細胞内型および細胞外型で存在する、トランスグルタミナーゼ2;(c)前立腺中で発現される、トランスグルタミナーゼ4;(d)血液中で発現される因子XIIIa(「FXIIIa」と略される);(e)組織分布が未知のトランスグルタミナーゼ6および7、ならびに(f)酵素活性を失っており、そして赤血球膜完全性を維持するように働く、膜の構成要素タンパク質である、バンド4.2が含まれる。大部分の場合、トランスグルタミナーゼは、タンパク質に結合したグルタミニル残基のガンマ−カルボキサミド基およびリジン残基のイプシロン−アミノ基の間のアシル−トランスファー反応を触媒し、N−イプシロン−(ガンマ−グルタミル)リジン・イソペプチド側鎖架橋の形成を生じる。酵素的に架橋可能な基質ドメインのアミノ酸配列は、切断部位をさらに含有するように設計可能であり、一次構造がほとんどまたはまったく修飾されずに、生物活性因子が放出されることも可能であり、これは、生物活性因子のより高い活性を生じうる。切断部位が酵素的に分解可能である場合、生物活性因子の放出は、細胞特異的プロセス、例えば局在化タンパク質分解によって制御される。生物活性因子の保存は、特に増殖因子およびその生物学的利用能の場合は、特徴として、最初の爆発的な放出で生物活性因子のかなりの量の損失を生じる、拡散徐放デバイスの使用に勝る、細胞特異的タンパク質分解活性を利用する、注目すべき利点である。これらの分解可能部位によって、合成バイオマテリアルからの、生物活性因子のより特異的な放出の操作が可能になる。トランスグルタミナーゼ基質ドメインおよびそのアミノ酸配列を表2に列挙する。
表2:トランスグルタミナーゼ基質ドメイン
【0059】
【表2】

【0060】
本明細書において、一般的に、組織トランスグルタミナーゼ基質ドメインは、「TR−ドメイン」と略され、そしてトランスグルタミナーゼ基質ドメインによって修飾される生物活性因子は、「TR−生物活性因子」と略される。TR−ドメインには、GAKDV(配列番号2)およびKKKK(配列番号3)が含まれてもよい。2ドメイン生物活性因子の産生は、生物活性因子の性質に応じ;化学合成または組換え技術によって実行可能である。例えばTR−PTHは化学合成によって産生可能であり、一方、TR−PDGFまたはTR−BMP、TR−IGFのようなTR−増殖因子は、細菌または哺乳動物組換え発現系によって産生され、続いて再フォールディングおよび精製工程を伴う。
【0061】
最も好ましい因子XIIIa基質ドメインは、NQEQVSPL(配列番号4)のアミノ酸配列を有し、そして本明細書において、「TG」およびTG−生物活性因子と称される。トランスグルタミナーゼが認識する他のタンパク質、例えばフィブロネクチンを生物活性因子にカップリングしてもよい。
a.生物活性因子の酵素的に架橋可能な基質ドメインにおける分解部位
生物活性因子が、実質的に修飾されていない型で、酵素によってバイオマテリアルから切断可能であるように、好ましくは、2ドメイン生物活性因子の架橋可能基質ドメインには、酵素的に分解可能なアミノ酸配列が含まれる。特に、生物活性因子および酵素的に架橋可能な基質ドメインの間のリンカーとして、プラスミン分解可能配列が付着される。2ドメイン生物活性因子の第一のドメインおよび第二のドメインの間の配列GYKNR(配列番号6)は、連結をプラスミン分解可能にする。したがって、最も好ましい2ドメイン生物活性因子は、TGplPDGF AB、TG−plPTH1−34、TGplBMP2、TGplTGFβ3、TGplVEGF 121、およびTGplVEGF 110である。
【0062】
酵素活性に基づく分解によって、バイオマテリアルを通じた因子の拡散によるのではなく、細胞プロセスによって、生物活性因子の放出が制御されることが可能になる。分解可能部位または連結は、細胞から放出される酵素がマトリックス内に侵入し、これを分解し、そしてそこに留まるのにつれて、切断される。これによって、バイオマテリアル内の細胞の位置に応じて、同じバイオマテリアル内で、生物活性因子が異なる速度で放出されることが可能になる。これはまた、放出が長期間に渡り、そして細胞プロセスによって制御されるため、必要とされる生物活性因子の総量も減少させる。生物活性因子の保存およびその生物学的利用能が、拡散徐放デバイスの使用に勝る、細胞特異的タンパク質分解活性を利用する、注目すべき利点である。合成バイオマテリアルに共有結合したTGplPTH1−34またはTGplBMP2が骨欠損を強く治癒させることの1つのありうる説明において、PTHまたはBMP2が長期間に渡って局所投与され、そしてPTHの場合、単一のパルス用量としてだけではないことが重要であるようである。合成バイオマテリアルに対して架橋されたTGplPDGF ABに関しても同じことが当てはまる。最後に、生物活性因子の療法効果が欠陥領域に局在し、そして続いて増幅される。
【0063】
タンパク質分解に使用可能な酵素は数多くある。タンパク質分解可能部位には、コラゲナーゼ、プラスミン、エラスターゼ、ストロメリシン、またはプラスミノーゲン活性化因子の基質が含まれうる。例示的な基質を以下の表3に列挙する。N1〜N5は、タンパク質分解が起こる部位から、タンパク質のアミノ末端に向かうアミノ酸1〜5位を示す。N1’〜N4’は、タンパク質分解が起こる部位から、タンパク質のカルボキシ末端に向かうアミノ酸1〜4位を示す。
表3:プロテアーゼの実例の基質配列
【0064】
【表3】

【0065】
III.バイオマテリアルおよび/または前駆体構成要素(単数または複数)への生物活性因子の組み入れ法
バイオマテリアルまたは合成バイオマテリアルを形成可能な合成前駆体構成要素に、生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を連結させる、いくつかの方法がある。
A.アミンで修飾された前駆体構成要素
1.第一の方法:アミンで修飾された前駆体構成要素
一般的に、第一の工程において、アミンまたはマルチアミンで修飾された前駆体構成要素を形成する。この前駆体構成要素は、本明細書に先に記載するように、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよい。例えば、直鎖または分枝鎖PEGアミン、ポリアミン、ポリイミド、ポリイミンのような、アミノが末端である前駆体構成要素が、例えばNektar Therapeutics、USから提供可能であるし、または既知の合成によって形成可能である。
2.第二の方法:2ドメインリンカーを用いた、アミンで修飾された前駆体構成要素の形成
別の方法において、共役不飽和基を含む前駆体構成要素を提供し、好ましくは、共役不飽和基は、前駆体構成要素の末端に位置する。これらの分子は、本明細書に先に記載されている。
【0066】
次の工程において、前駆体構成要素は多官能性リンカー分子と反応し、該リンカー分子は、少なくとも1つのチオール、ならびに少なくとも1つのアミン基を含み、アミン基は好ましくは一級アミン基である。好ましいリンカー分子は、一般的に、HS−(X)−NHまたはHS−(X)n−NHと表される。Xは、−HSおよび−NHの反応を妨害しない限り、いかなる適切な基または原子であることも可能であり、そして分枝鎖でもまた直鎖でもよい。HS−(X)−NHまたはHS−(X)n−NHは、システイン含有天然ペプチド、ホルモンまたはタンパク質、CRDG(配列番号15)のようにシステインを含む任意の合成ペプチドのような多様な分子から選択可能である。さらに、例えばメルカプトエチルアミンなどのメルカプトアミンが適切である。好ましくは、Xはメチレン基(−CH2−)であり;nは好ましくは2より大きい数から選択される。
【0067】
好ましい態様において、リンカー分子は、CGKG(配列番号16)のような、式(CXKX)の合成または天然ペプチドからなる群より選択される。アミノ酸リジンKは、因子XIIIaによって実行される架橋に関与し、Cは、マイケル型付加反応において、前駆体構成要素の共役不飽和基と反応するチオール基を提供し、そしてXは、架橋反応に有害な影響を及ぼさないいかなる分子または原子であってもよい。別の好ましい態様において、リンカー分子は、アミノ酸配列CRGD(配列番号15)を有し、ここで、細胞付着部位として働くRGDの官能性が、チオールおよびアミン官能性と組み合わされる。別の好ましい態様において、Xはメチレン基であり、そしてnは2より大きい。メルカプトエチルアミンは、優れた性能を示している。
【0068】
リンカーのチオール基は、マイケル型付加反応において、前駆体構成要素の末端にある共役不飽和基と反応し、これが、生じるアミン前駆体構成要素の末端に未結合一級アミノ基を導く。
B.生物活性因子およびアミン前駆体構成要素の間の酵素的に触媒される架橋反応
アミン前駆体構成要素またはマルチアミン前駆体構成要素が形成されたならば、該構成要素は、次の工程で、酵素的に触媒される、生物活性因子または2ドメイン生物活性因子およびアミン(またはマルチアミン)前駆体構成要素の間の架橋反応において、反応パートナーとして働く。好ましくは架橋反応はトランスグルタミナーゼによって触媒される。TG−生物活性因子の場合、TG−生物活性因子は、カルシウムおよび活性化された因子XIIIaの存在下で、アミン前駆体構成要素と混合される。生理学的条件下で、因子XIIIaは、TG−生物活性因子をアミン前駆体構成要素のアミン基に連結しはじめ、生物活性因子およびアミン前駆体構成要素の間の共有結合を生成する。
【0069】
例えば、(a)少なくとも1つのアミン基を含むポリエチレングリコール分子を提供し;(b)架橋可能酵素のための基質ドメインを含む生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を提供し;(c)生物活性因子または2ドメイン生物活性因子の基質ドメインおよびアミン基の間の架橋反応を触媒可能な酵素を提供し;そして(d)ポリエチレングリコール分子上のアミン基に生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を架橋することによって、ポリエチレングリコールで修飾された生物活性因子を形成してもよい。
C.生物活性因子−前駆体構成要素、および強い求核基を含む前駆体構成要素の間の反応
第二の方法における、生物活性因子−前駆体構成要素の形成後、この構成要素は、最後の工程において、強い求核基を含む少なくとも第二の前駆体構成要素と反応する。第二の前駆体構成要素の強い求核基は、マイケル型付加反応において、生物活性因子−前駆体構成要素の共役不飽和基(生物活性因子との反応によって消費されて(consummated)いなかったもの)と反応し、したがって、生物活性因子を補充した合成バイオマテリアルを形成するであろう。第一の方法の場合、共役不飽和基を含有する第一の前駆体構成要素を添加し、そして前駆体構成要素の未結合アミン基(生物活性因子との反応によって消費されていなかったもの)は、他の前駆体構成要素の共役不飽和基と反応する。好ましくは、第一および第二の前駆体分子の官能基の当量の比は、2ドメイン生物活性因子または生物活性因子との反応を考慮に入れずに、0.9〜1.1の間である。官能基の当量の比を好ましい範囲に維持するため、使用する生物活性因子の濃度に応じて、第一および第二の前駆体構成要素の濃度を調整する。
【0070】
例えば、バイオマテリアルに対して架橋された生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を含む合成バイオマテリアルであって、該生物活性因子または2ドメイン生物活性因子が架橋可能酵素の基質ドメインを含む、前記バイオマテリアルは、(a)共役不飽和基を含む第一の前駆体構成要素を提供し、(b)少なくとも1つのチオール基および少なくとも1つのアミン基を含むリンカー分子を提供し、(c)共役不飽和基の一部(すなわちすべてではない)とチオール基を反応させて、アミンで修飾された前駆体構成要素を形成し、(d)生物活性因子または2ドメイン生物活性因子の基質ドメインおよびアミンで修飾された前駆体構成要素のアミン基の間の架橋反応を触媒することが可能な酵素(例えばトランスグルタミナーゼ)を提供し;(e)アミンで修飾された前駆体構成要素のアミン基と、生物活性因子または2ドメイン生物活性因子の基質ドメインを反応させて、生物活性因子−前駆体構成要素を形成し;(f)強い求核基を含む第二の前駆体構成要素を提供し、そして(g)マイケル型付加反応において、第二の前駆体構成要素の強い求核基と、生物活性因子−前駆体構成要素の共役不飽和基を反応させて、バイオマテリアルを形成することによって形成可能である。
IV.補充されたバイオマテリアルを適用しそして用いる方法
熱可逆性バイオマテリアルの場合のように、バイオマテリアルの形成が容易に逆転可能ではない場合、第一および第二の前駆体構成要素は、バイオマテリアルの形成が望ましい時期以前に、前駆体構成要素の重合を可能にする条件下で、互いに混合されるかまたは接触するようにすべきではない。これは、一般的に、少なくとも第一および第二の前駆体構成要素を、互いに分離して含む系によって達成される。生物活性因子または2ドメイン生物活性因子および/または二官能性リンカー分子は、前駆体構成要素と別個に保存されるか、または適切な条件下で、前駆体構成要素の1つと混合され、そして保存されるかいずれかである。好ましくは、酸素および光を排除し、そして低温、例えば+4℃前後で、第一の前駆体構成要素、第二の前駆体構成要素、リンカー分子および/または生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を保存して、使用前の官能基の分解を回避する。
【0071】
1つの態様において、酵素、2ドメイン生物活性因子および/またはリンカー分子を一緒に保存する。適用時、これらを溶解し、そして生物活性因子または2ドメイン生物活性因子との酵素的架橋に対して反応性である、溶解された前駆体構成要素と混合する。生物活性因子または2ドメイン生物活性因子の前駆体構成要素への架橋が完了した後、生物活性因子−前駆体構成要素を第二の前駆体構成要素と混合して、バイオマテリアルを形成する。
【0072】
生物活性因子の局在化または全身性送達のため、組織修復および再生のため、そして特に皮膚、骨、腱および軟骨などの軟組織および硬組織の再生のため、バイオマテリアルを用いてもよい。
【0073】
本発明の範囲は、共有的に組み入れられた生物活性因子を有するin situ形成性の合成バイオマテリアルの形成であるが、2ドメイン生物活性因子または生物活性因子の合成前駆体分子への酵素架橋反応を用いて、例えば、体への全身性適用のため、生物活性因子をPEG化してもよいことが理解されるべきである。
【0074】
本発明は、以下の限定されない実施例を参照することによってさらに理解されるであろう。
【実施例】
【0075】
実施例
材料および方法
表4は、実施例1および2に用いる材料の説明および略語を提供する。
【0076】
表4.材料および略語
【0077】
【表4】

【0078】
(実施例1)
LysおよびCysを含有する二官能性ペプチドリンカー分子、PepI(Ac−FKGG−GPQGIWGQ−ERCG(配列番号17)の一次構造を持つ;中央の配列は、分解可能配列に相当する)を、8アーム末端官能化ポリエチレングリコール(PEG)マクロマーのビニルスルホン端基に共役させて、前駆体構成要素を形成した。このペプチドリンカー修飾前駆体PEG構成要素は、PEG化された生物活性因子を形成する、TG−plPTHおよびTG−pl−PDGF(TG配列:NQEQVSPL;配列番号4)の続く架橋のためのアミン構成要素として働いた。
1.マイケル型付加を介した8アームPEG−VSへのPepIのカップリング
0.3Mトリエタノールアミン(pH8.0)中、ビニルスルホン基より1.2倍モル過剰で、PepIを8アームPEG−VSに、37℃で2時間添加した。続いて、反応溶液を、超純水に対して、4℃で3日間透析した(Slide−A−Lyzer(登録商標)7K、MWCO:7000、PIERCE、イリノイ州ロックフォード)。透析後、産物(本明細書において、8PEG−PepIと称する)を凍結乾燥して、白色粉末を得た。
【0079】
2. 8PEG−VS−PepIへのTG−plPTHおよびTG−plPDGFの、因子XIIIaが触媒するカップリング
a)トロンビンによる、FXIIIaの活性化
100μlの因子XIIIa(170〜200U/ml)を50μlのトロンビン(20U/ml)で、37℃で30分間活性化した。さらなる使用のため、FXIIIaの少量のアリコットを−20℃で保存した。
b)8PEG−VS−PepIへのTG−plPTHおよびTG−plPDGFの共役
一般的に、FXIIIaが仲介するPEG化には、以下のあらかじめ最適化された条件を用いた:4μlのTG−plPTH(0.8mg/ml、PBS、pH7.4中に溶解)またはTG−plPDGF(0.73mg/ml、PBS、pH7.4中に溶解)を、それぞれ、10.8μlの8PEG−VS−PepI溶液(TG−PlPTHの場合、Glnアクセプターよりもおよそ7倍過剰のLysドナーに相当する、0.37mg/ml;50mM Tris、50mM CaCl、pH7.6中)に添加した。
【0080】
第二の工程において、0.7μlの活性化されたFXIIIa(反応中、10U/ml)を上記溶液に添加した。
最終溶液をボルテックスし、そして室温で10、30、および60分間反応させた。試料を液体窒素に浸すことによって反応を停止し、そして−20℃で保存した。反応直後、製造者のプロトコルにしたがって、NuPAGETM12%(MES中、PTH用)および4〜12%(MES中、PDGF)Bis−Tris Gels SDS−PAGEゲル(Invitrogen)上で試料を分離し、そして銀染色した(Silver Stain Plus、BIO−RAD)。
【0081】
結果および考察
PEG−VS−PepIへのTG−PTHの、因子XIIIaが触媒する共役
銀染色したSDS−PAGEは、FXIIIaがTGのN末端のグルタミン・アクセプターペプチドおよびPEGに共役されたリジン・ドナーペプチドの間の反応を触媒し、こうしてPEGで修飾されたTG−plPTHを生じうることを立証した。SDS−PAGE中、4.5kDaのTGplPTHのバンドが消失し、そして反応産物に相当するバンドが、49kDa、62kDaおよび85kDa前後に現れることが観察可能である。この変化は、4.5kDaのみでバンドを示す、TGplPTHのみを泳動したものと比較される。架橋反応に必要な3つの構成要素(TGplPTH、修飾されたPEGおよび因子XIIIa)の1つが欠けている場合、4.5kDaのバンドは変化しない。TGplPTHが、因子XIIIaの作用を通じて、修飾されたPEGと迅速にそして特異的に反応することがわかる。
【0082】
8PEG−VS−PepIのみではTG−PTHに影響を及ぼさないようであるため、反応は、FXIIIが存在することによる。
TG−plPTHバンド(6kDaマーカーの下)およびPEG共役後の同じバンドを比較すると、PTHの大部分(>90%と概算される)が反応したようである。さらに、8PEG−VS−PepI(かなり広い分子量分布を示し、主なバンドは49kDa、62kDa前後であり、そしていくつかのバンドは62〜98kDaの間である)およびFXIIIaの強い染色のため、反応産物(PEG化されたPTH、理論的分子量は54kDa前後である)は同定が困難である。にもかかわらず、49kDa、62kDaおよび98kDaのすぐ下にあるバンドは、PEG共役PTHに相当するようである。
【0083】
ポリアクリルアミドゲルは、活性化された因子XIIIaの存在下で、組織トランスグルタミナーゼ基質ドメインを形成するためにリジン基質とあらかじめ反応させた、ビニルスルホンを末端とするPEGと、TGplPTHを反応させると、4.5kDaのTGplPTHのバンドが消失し、そして反応産物に相当するバンドが、49kDa、62kDaおよび85kDa前後に現れることを示した。この変化は、4.5kDaのみでバンドを示した、TGplPTHのみを泳動したものと比較される。架橋反応に必要な3つの構成要素(TGplPTH、修飾されたPEGおよび因子XIIIa)の1つが欠けている場合(すなわちTGplPTH+FXIIIまたはTGplPTH+修飾されたPEG)、4.5kDaのバンドは変化しない。このゲルは、TGplPTHが、因子XIIIaの作用を通じて、修飾されたPEGと迅速にそして特異的に反応することを示した。
【0084】
因子XIIIaが触媒するPEG化は迅速である
TG−PTHバンドから判断すると、反応時間(10、30および60分間)の間の有意な相違は観察不能である。しかし、おそらく、より高い分子量のPEG修飾PTHに対応するバンドが、長時間に渡って増加する強度を示し、60分の時点まで、反応が連続することを強く示唆した。
【0085】
因子XIIIaは、PEG−VS−PepIへのTG−PDGFの共役を触媒する
TG−PDGFの組み入れに関して、類似の図が浮かび上がる。SDS−PAGEおよび銀染色は、FXIIIaがTG−PDGFおよび8PEG−VS−PepIの共役を触媒可能であることを明らかに示した。TG−PDGFの染色がはるかにより強いため、銀染色反応をより早い時点で停止して、PEGおよびFXIIIaのより少ないバックグラウンド染色を生じた。ここでも、因子XIIIa触媒作用によって反応が可能になり、そして8PEG−VS−PepIまたは因子XIIIaのみが関与する副反応はなかった。
【0086】
ポリアクリルアミドゲルにおいて、35kDa前後のTG−PDGFバンドは、因子XIIIaの存在下での8PEG−VS−PepIとの反応に際してほぼ完全に消失し、カップリングが高い効率であることが示唆され、そして反応産物に相当するバンドが、85kDa前後およびゲルの最上部に現れる。この変化は、35kDaのみでバンドを示す、TGplPDGFのみを泳動したもの(レーンTGplPDGF)と比較される。酵素、因子XIIIaが欠けている場合、35kDaのバンドは変化しない。このゲルから、TGplPDGFが、因子XIIIaの作用を通じて、修飾されたPEGと迅速にそして特異的に反応することがわかる。
【0087】
この反応の時間依存性は、10分の反応時点で可視であり、より遅い時点より、より高いバンド強度が示された。
興味深いことに、別個の反応産物(PEG化PDGF)は、染色されたSDSゲル上で明らかに見えるようではなかった。しかし、対照レーンには存在しない、98〜188kDaの間の明らかに可視のスメアが見えた。8PEG−VS−PepI自体の広い分子量分布を考慮すると、これは、PEGで修飾された増殖因子に対応しうる。Lysドナーは、PDGF上のGlnアクセプターよりおよそ7倍過剰で用いられたのみであるため、結合した1より多いPEGを伴うPDGFの形成がありうる。これらのマルチマー共役は、非常に高い分子量で現れるであろう。実際、染色されたゲルは、分子量があまりにも大きいため、外見上、ゲル中をまったく泳動しないいくつかのバンドを示す。
【0088】
(実施例2)
2つのリンカー分子、メルカプトエチルアミン(MEA)および一次配列AcFKGGERCG(Pep II)(配列番号18)を、第一の工程で、4アームの末端官能化ポリエチレングリコール四アクリレート(15kDa)に共役させて、2つの前駆体構成要素を形成した。第二の工程において、メルカプトエチルアミンまたはペプチドで修飾された前駆体PEG構成要素を、TGplPTH 1−34(NQEQVSPLYKNR−PTH1−34)(配列番号19)およびTGplPDGF.AB(MNQEQVSPLPVELPLIKMPH−PDGF.AB)(配列番号20)に共役させて、PEG化された生物活性因子を形成した。SDS−PAGEの銀染色によって、共役を視覚化した。
【0089】
次に、PEG化された生物活性因子を、第二の前駆体構成要素、3.4kDaポリエチレングリコール直鎖末端官能化ジチオールおよび15kDaポリエチレングリコール四アクリレートと反応させて、共有結合した生物活性因子を含有する3次元ヒドロゲルマトリックスを形成した。次いで、PEGマトリックスからの生物活性因子の放出をin vitroで研究した。
【0090】
1.マイケル型付加を介した4アームPEG−AcrへのMEAおよびPepIIのカップリング
PepIIおよびMEAを、脱気した0.3M TEA中、アクリレート基より0.6または1.2倍モル過剰で、PEG−Acrと反応させた(pH8.0、37℃で1時間)。構成要素の濃度を表4に列挙し、反応のさらなる詳細を表5に提供する。
【0091】
すべてのアクリレート基が、MEAまたはPepIIによって誘導体化されているはずであるならば、生じる分子は、本明細書において、それぞれ、「PEG−Acr−4MEA」または「PEG−Acr−4PepII」と称される。4つのアクリレート基のうち2つのみがMEAまたはPepIIによって誘導体化されている場合、生じる分子は、本明細書において、それぞれ、「PEG−Acr−2MEA」または「PEG−Acr−2Pep II」と称される。
表5.PEG−Acr−MEAおよびPEG−Acr−PepIIPを産生するための反応スキーム
【0092】
【表5】

【0093】
反応におけるチオール含量をEllmanアッセイで監視した。したがって、すべてのストック溶液、ならびに反応を混合した直後および完了した後の反応物の5μlを、ショック凍結した。チオール検出のため、20μlのDNTBストック溶液(0.8mg/ml)を200μlの反応緩衝液(30mM Tris−HCl、3mM EDTA、pH8.0)と混合し、そして20μlの標準または20μlの未知のものを添加し(最終的におよそ0.1〜1mMに希釈される)、そして簡単にボルテックスした。200μlを96ウェルプレートにピペッティングし、そしてUV読取装置(LMR1、Lab Exim International)を用いて、405nmで吸光度を読み取った。0.0675〜1mMの範囲のシステイン標準で得られた直線回帰に基づいて、チオール含量を計算した。
【0094】
続いて、生じた産物を、超純水に対して、4℃で3日間透析した(Slide−A−Lyzer、Perbio、MWCO 7000)。透析後、産物を凍結乾燥して、白色粉末を得た。
【0095】
2. 4PEG−Acr−PepIIおよび4PEG−Acr−MEAへの、TG−plPTHおよびplTG−plPDGFの、因子XIIIaが触媒するカップリング、ならびにその結果生じるPEG−マトリックスへの共役
a)トロンビンによるFXIIIaの活性化
40mM CaCl溶液にトロンビンを可溶化し(500U/mg最終濃度)、そして20μlのトロンビンを46.5μlのCaCl溶液でさらに希釈した。13.3μlを200μlのFXIIIa(173U/ml)に添加し、そして37℃で30分間活性化した。少量のアリコット(20μl)のFXIIIa(2.5mM CaCl中、163U/ml、4U/mgトロンビン)を、さらに使用するまで−20℃で保存した。
【0096】
b)TG−plPTH−ダンシルへのPEG−Acr−4MEAおよびPeg−Acr−4PepIIの共役
TG−plPTH−ダンシルに関しては、以下の連結法にしたがった:10μlのPEG−Acr−4MEAまたはPEG−Acr−4PepII(50mM CaCl、50mM Tris、pH7.6中、3mg/ml)を3.5μlのTG−plPTH−ダンシル(PBS、pH7.4中、1mg/ml)と混合して、7:1のリンカー対TG比を生じた。混合後、1.9μlの活性化FXIIIa(Tris中で80U/mlに希釈)を添加した(反応中、10U/ml)。37℃で反応を行い、そしてショック凍結によって、10、30、および60分後に反応を停止した。PEG、PTH、FXIIIa、および各々の組み合わせの対照を、対応する緩衝液で希釈して、試料と同じ濃度を生じた。すべての試料を蒸留水で1:3に希釈した。製造者のプロトコルにしたがって、10〜20%のプレキャスト・トリシンゲル(Invitrogen)上のSDS−PAGEおよび銀染色を行った。ゲル上のPTH−ダンシルの位置を確実にするため、ダンシル標識ペプチドを用いて、そしてUV光によってゲルを視覚化した。
【0097】
より高い濃度のPEG−Acr−PepIIおよびTG−plPTHもまた試した。反応中、FXIIIa濃度を10U/mlに維持したが、PEG−Acr−4PepIIおよびTG−plPTH濃度を2倍、3倍にし、そして10倍に増加させた。
【0098】
c)PEG−Acr−4MEAおよびPEG−Acr−4PepIIとTG−plPDGFの共役
TG−plPDGFに関しては、10μlのPEG−Acr−4MEAおよびPEG−Acr−4PepII(3mM CaCl、50mM Tris、pH7.6中、0.580mg/ml)を、4.3μlのTG−plPDGF(PBS、pH7.4中、2.8mg/ml)と混合して、7:1のリンカー対TG比を生じた。混合後、2.0μlの活性化FXIIIa(Tris中で80U/mlに希釈)を添加した(反応中、10U/ml)。37℃で反応を行い、そしてショック凍結によって、10、30、および60分後に反応を停止した。PEG、TG−plPDGF、FXIIIa、および各々の組み合わせの対照を、対応する緩衝液で希釈して、試料と同じ濃度を生じた。すべての試料を蒸留水で1:7に希釈した。製造者のプロトコルにしたがって、10〜20%のプレキャスト・トリシンゲル(Invitrogen)上のSDS−PAGEおよび銀染色を行った。銀染色の代わりに、PDGF特異的ウェスタンブロットによって、TG−plPDGFおよびTG−plPDGFを検出した。
【0099】
d)マトリックスの形成
TG−plPTH−ダンシル含有マトリックスを2工程反応で作製した。PEG−Acr−4PepIIは、最も優れた連結性能を示したため(以下を参照されたい)、このリンカーのみを用いて放出研究を行った。
【0100】
まず、TG−plPTHのPEG−Acr−4PepIIへの連結に関して上述するものと同じ反応を行い、それによって、50%のアクリレート基が未反応で残るようにPEG−Acr−4およびPepIIの比を選択した(PEG−Acr−2PepIIと称する)。0.1mg/mlマトリックス体積の最終TG−plPTH−ダンシル濃度を目指した。したがって、42.2μlのTG−plPTH−ダンシル(PBS、pH7.4中、1mg/ml)を、7倍過剰のPEG−Acr−2−PepII(121μl、50mM Tris、50mM CaCl中、3.51mg/ml)および11μl FXIIIa(上記を参照されたい、反応中、10U/mlのFXIIIa)と混合した。あるいは、2倍濃いPEG−Acr−2−PepIIを用いて、TG−残基より14倍過剰のリジンを達成した。1時間反応させた後、後のゲル電気泳動用に、6μlをショック凍結した。その結果の第二工程において、残りの168μlを150μlのPEG−Acr(0.3TEA、pH7.4中、277mg/ml)および150μlのPEG−チオール(0.3M TEA、pH7.4中、141mg/ml)と混合して、1:1のアクリレート−チオール比を、そしてPEGによる10%体積増加を考慮して、7.5%(w/v)PEG−Acrマトリックスを生じた。溶液を30秒間ボルテックスして、そしてカットした1mlシリンジに100μlをピペッティングした。マトリックスの重量を測定し、そして37℃で1時間置いた後、放出緩衝液に移した。
【0101】
FXIIIaを含まない対照マトリックスもまた産生した。
TG−plPDGFに関して、上述のようなTG−plPTH−ダンシル含有マトリックスと同様にマトリックスを作製したが、0.01mgの2ドメイン生物活性因子/mlマトリックス体積しか組み入れなかったことが異なった。典型的なレシピでは、18.7μlのPEG−Acr−2PepII(50mM Tris、3mM CaCl中、1.03mg/ml)を、8.1μlのTG−plPDGF(PBS中、0.7mg/ml)と混合し、そして第二の工程において、3.8μlのFXIIIa(最終反応において10U/ml)を添加した。あるいは、2倍濃いPEG−Acr−2PepIIを用いて、TG−残基より14倍過剰のリジンを達成した。37℃で1時間、反応を行った。SDS−PAGE用に7.6μlを取り除いた。その結果の第二工程において、残りを200μlのPEG−Acr(0.3M TEA、pH7.4中、174.4mg/ml)および200μlのPEG−チオール(0.3M TEA、pH7.4中、106.1mg/ml)と混合した。これらの2工程後、PTH−マトリックスに用いたものと同じ方法(上述)にしたがった。
【0102】
e)放出研究
TG−plPTH−ダンシル含有マトリックスを1.5mlのPBSに入れ、そして4時間後、ならびに1、2、3、5および7日後に試料を抜き取り、そして分析まで−20℃で保存した。サンプリング後、緩衝液を完全に交換した。330/543nmの励起/発光の波長で、Perkin Elmer LS50B発光分光測定装置を用いた、ダンシル蛍光検出によって、放出されたペプチドを測定した。0.75〜10μg/l TG−plPTH−ダンシルの範囲で、試料からの直線回帰によって、TG−plPTH−ダンシルの較正曲線を得た。
【0103】
TG−plPDGF含有マトリックスを10μl PBS(0.1%ウシ血清アルブミンを含有する、10mM、pH7.4)に37℃で入れ、そして4時間後、そして1、2、3および5日後に150μlの試料を抜き取り、そして分析まで−20℃で保存した。試料をTBS、0.1%BSAで40倍に希釈し、そしてTG−plPDGF−ABに特異的なELISAによって分析した。
【0104】
結果および考察
PEG−Acr−2MEAおよびPEG−Acr−2PepII、PEG−Acr−4MEAおよびPEG−Acr−4PepIIの産生
4アームPEG−Acrを官能化して、完全にアミン誘導体化されたPEG−Acr、ならびに平均して2つのアミン基および2つのアクリレート基を持つ4アームPEGの両方を得た。マイケル型付加による、MEAまたはPepIIのチオール残基とPEG−Acrの反応は、pH8.0で非常に迅速に進行した(数分程度)。理論的な出発および終了チオール濃度は、MEAの場合、測定値とよく一致した。ペプチドの場合、1.2のチオール−アクリレート比を使用すると、チオールの完全な消失が見られ、ジスルフィド形成が、少ない度合いで生じていた(おそらくすでに出発材料中にあった)ことを示した。にもかかわらず、それぞれ50%および100%に近い官能化が達成されたと仮定された(表6)。
【0105】
表6.PEG−Acr−リンカー産生:チオール濃度の期待値および測定値
【0106】
【表6】

【0107】
TG−plPTH−ダンシルのPEG化およびマトリックス形成
PEG−Acr−4PepII。蛍光検出を伴うSDS−PAGEおよびその結果の銀染色によって、ゲル上のTG−plPTH−ダンシルの明らかな位置決定およびそのMWの決定が可能になった。PEG−Acr−PepII、TG−plPTH−ダンシルおよびFXIIIaを反応させると、5kDaのバンドがより弱くなり、そしておよそ40kDaに蛍光性の新たな広いバンドが出現した。PEGは、タンパク質よりも大きい旋回半径を有するため、15kDaより大きいMWに出現すると期待されうる。したがって、40kDaの蛍光バンドは、PEG−TG−PLPTH−ダンシルと決定された。このバンドは、FXIIIaを添加しないと出現せず、反応がFXIIIaに依存していることが立証された。しかし、連結の定量化は困難であった。バンド強度を比較することによって、50〜80%のTG−plPTHが反応したと概算された。PEG−VS−PepIで得た結果に比較して、誘導体化はより完全でなく、システインおよびリジン基の間にスペーサーがあることが反応に有益でありうることが示された。
【0108】
メルカプトエチルアミン・リンカー
PEG−Acr−PepII同様、PEG−Acr−MEAを、FXIIIaの存在下で、TG−plPTH−ダンシルと反応させると、およそ40kDaにバンドが現れた。しかし、このバンドははるかにより弱かった(PEG−Acr−PepIIに関して見られるものの10〜20%)。したがって、エチルアミンに対するFXIIIaの親和性は、リジンに存在する場合のブチルアミンに対するものより低いようであった。
【0109】
マトリックス形成およびPTH−ダンシルの保持
高いTG−plPTH−ダンシル濃度(1mg/mlマトリックス)を達成するため、先の実験より3倍および10倍高い濃度のTG−plPTH−ダンシルで連結実験を行った。しかし、既に3倍濃度で、そして特に10倍濃度では、PEGの存在下でTG−plPTH−ダンシルの沈殿が生じ、そしてその結果の連結は成功しなかった。
【0110】
したがって、元来の共役レシピをわずかに適応させて、そして1mlのマトリックスあたり0.1mgのTG−plPTH−ダンシルを含有するマトリックスを産生した。SDS−PAGE、ならびに蛍光および銀染色によるペプチドの検出によって、TG−plPTH−ダンシルが、PEG−Acr−2PepIIに連結されていたことが確認された。PEG−Pep−TG−plPTH−共役の2つの残りのアクリレート基を、PEG−ジチオールのマイケル型付加によって、PEG−マトリックス中に共有結合させてもよい。
【0111】
TG−plPTH−ダンシルの放出プロフィールによって、連結およびその結果のマトリックスへの架橋が成功したことが明らかに確認された。TG−plPTHより7倍過剰のPEG−ペプチド基が使用された場合、TG−plPTH−ダンシルがマトリックスに63%保持され、そして14倍過剰の場合、88%が保持されたのに比較して、FXIIIaの非存在下では、5日(168時間)を超えると、7%のTG−plPTH−ダンシルしか保持されなかった(表7を参照されたい)。
【0112】
表7.ダンシル−蛍光によって測定した際のPEGマトリックスからの%でのTG−plPTH−ダンシルの保持
【0113】
【表7】

【0114】
TG−plPDGFのPEG−Acr−PepIIへのPEG化およびマトリックス形成
PEG−Acr−PepII−リンカーがTG−plPTHに関して最も成功したため、TG−plPDGFに関しては、このリンカーのみを試験した。SDS−PAGEおよび銀染色は、TG−plPDGF(35kDaに泳動する2量体)の部分的消失を示した。ウェスタンブロットによって、50〜90kDaの間の範囲のスメアの形で新たなバンドが同定可能であり、50、60および70kDa前後により強いバンドが見られ、これらはFXIIIaが反応中で欠けているかまたはFXIIIaがTG−plPDGFのみと混合されている場合には現れなかった。TG−plPDGFが2つのTG部位を有するため、2つのPEGに連結したタンパク質が形成可能であり、または各PEGが平均2つのリジンを所持するため、多数のTG−plPDGFを持つPEGが形成可能である。これらの反応はすべて、異なるMWを生じ、これがおそらくいくつかのバンドが存在する理由である。35kDaのTG−plPDGFのバンド強度を、100%、33%および10%のTG−plPDGFの標準と比較すると、70%を超えるTG−plPDGFがPEG−Acr−4PepIIに連結されたと概算される。
【0115】
2工程反応において、マトリックスを作製し、第一の工程は、先の連結実験に相当するが、二官能性PEGを用いた点が異なった(2つのペプチドおよび2つのアクリレート基を含有、PEG−Acr−2PepIIと称する)。この反応から試料を抜き取り、そしてさらなる標準とともに、SDS−ゲル上を泳動させた。PEG−Acr−2PepIIを、FXIIIaの存在下でTG−plPDGFと反応させた場合、TG−plPDGFより7倍過剰のPEG−Acr−2PepIIを使用すると、35kDaのバンド強度がおよそ50〜60%減少したことが、銀染色によって示された(TG−plPDGF標準との視覚的比較によって判断した際)。14倍過剰を使用しても、バンド強度減少は、わずかにより顕著になるのみであった。PEG濃度が高ければ、反応を妨害するPEGがより多いことによって、より好ましいアミン−ドナー比が横ばい状態になる(out leveled)可能性がある。
【0116】
FXIIIaが欠けている場合には、バンドシフトがまったく見られないため、反応は明らかにFXIIIa依存性であった。
放出緩衝液中に現れるTG−plPDGFをELISAアッセイによって測定する放出実験によって、連結の成功を確認した。FXIIIaの非存在下では、5日を超えると、4%のTG−plPDGFしかマトリックス中に保持されなかったが、TG部位より7倍過剰のリジン基を用いた反応中でFXIIIaが使用されると、47%が保持され、そして14倍過剰では、実に54%が保持された。
【0117】
表8.ELISAよって測定した際のPEGマトリックスからの%でのTG−plPDGFの保持
【0118】
【表8】

【0119】
当業者は、本明細書に記載する本発明の特定の態様の多くの同等物を認識するか、または日常的な実験を超えたものを用いずに、こうした同等物を確かめることが可能であろう。こうした同等物は、請求項に含まれると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性因子または2ドメイン生物活性因子を含む合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアルであって、該生物活性因子または2ドメイン生物活性因子が、酵素的に分解可能な連結によって該前駆体構成要素またはバイオマテリアルに共有結合している、前記合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアル。
【請求項2】
2ドメイン生物活性因子が第一のドメインおよび第二のドメインを含み、第一のドメインが架橋可能な酵素の基質ドメインを含み、そして第二のドメインが生物活性因子を含む、請求項1記載の合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアル。
【請求項3】
架橋可能な酵素の基質ドメインが組織トランスグルタミナーゼ基質ドメインである、請求項2記載の合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアル。
【請求項4】
組織トランスグルタミナーゼ基質ドメインが因子XIIIa基質ドメインである、請求項3記載の合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアル。
【請求項5】
生物活性因子が、小分子、ホルモン、ヌクレオチド、ペプチド、およびタンパク質で構成される群から選択される、請求項2〜4のいずれかに記載の合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアル。
【請求項6】
生物活性因子が、副甲状腺ホルモン(PTH)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)、骨形成タンパク質(BMP)、インスリン様増殖因子(IGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)からなる群より選択される、請求項5記載の合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアル。
【請求項7】
ポリエチレングリコールを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の合成前駆体構成要素または合成バイオマテリアル。
【請求項8】
バイオマテリアルに共有結合した少なくとも1つの生物活性因子を含む、合成バイオマテリアルを形成する方法であって、少なくとも1つの酵素を用いて、共有結合の形成を触媒することを含む、前記方法。
【請求項9】
酵素が組織トランスグルタミナーゼである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
組織トランスグルタミナーゼが因子XIIIaである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
生物活性因子が第一のドメインおよび第二のドメインを含む2ドメイン生物活性因子であり、第一のドメインが架橋酵素の基質ドメインを含み、そして第二のドメインが生物活性因子を含む、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
第一のドメインが因子XIIIa基質ドメインである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
マイケル型付加反応を用いて、少なくとも2つの前駆体構成要素からバイオマテリアルを形成する工程をさらに含み、第一の前駆体構成要素がn個の求核基を含み、そして第二の前駆体構成要素がm個の求電子基を含み、nおよびmが少なくとも2であり、そしてn+mの合計が少なくとも5である、請求項8〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
求核基がチオール基を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
求電子基が共役不飽和基を含む、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
生物活性因子が第一のドメインおよび第二のドメインを含む2ドメイン生物活性因子であり、第一のドメインが架橋酵素の基質ドメインを含み、そして第二のドメインが生物活性因子を含み、そして前駆体構成要素の少なくとも1つが少なくとも1つのアミン基をさらに含む、請求項13〜15のいずれかに記載の方法であって、前駆体構成要素の少なくとも1つの上の少なくとも1つのアミン基で、酵素触媒作用を介して、2ドメイン生物活性因子の第一のドメインと反応する工程をさらに含む、前記方法。
【請求項17】
第二の前駆体構成要素が少なくとも1つのアミン基を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
HS−(X)−NHおよびHS−(X)n−NH、式中、Xは任意の適切な基である、からなる群より選択される式を有するリンカー分子と、前駆体構成要素を反応させることによって、第二の前駆体構成要素を形成する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
HS−(X)−NHがメルカプトエチルアミンである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの前駆体構成要素がポリエチレングリコールを含む、請求項13〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
生物活性因子が、小分子、ホルモン、ヌクレオチド、ペプチド、およびタンパク質からなる群より選択される、請求項8〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
生物活性因子が、副甲状腺ホルモン(PTH)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)、骨形成タンパク質(BMP)、インスリン様増殖因子(IGF)、線維芽細胞増殖因子からなる群より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
共有結合した2ドメイン生物活性因子または生物活性因子を含む合成バイオマテリアルであって、該生物活性因子または2ドメイン生物活性因子が、酵素触媒作用によってバイオマテリアルに共有結合している、前記合成バイオマテリアル。
【請求項24】
バイオマテリアルが少なくとも2つの前駆体構成要素から形成され、第一の前駆体構成要素がn個の求核基を含み、そして第二の前駆体構成要素がm個の求電子基を含み、nおよびmが少なくとも2であり、そしてn+mの合計が少なくとも5であり、そして第一の前駆体および第二の前駆体がマイケル型付加反応を経ることが可能である、請求項23記載のバイオマテリアル。
【請求項25】
求核基がチオール基を含む、請求項24記載のバイオマテリアル。
【請求項26】
求電子基が共役不飽和基を含む、請求項24または25記載のバイオマテリアル。
【請求項27】
2ドメイン生物活性因子が第一のドメインおよび第二のドメインを含み、第一のドメインが架橋可能な酵素の基質ドメインを含み、そして第二のドメインが生物活性因子を含む、請求項24〜26のいずれかに記載のバイオマテリアル。
【請求項28】
第一のドメインが因子XIIIa基質ドメインである、請求項27記載のバイオマテリアル。
【請求項29】
前駆体構成要素の少なくとも1つが、酵素触媒作用下で、2ドメイン生物活性因子の第一のドメインまたは生物活性因子と反応可能な少なくとも1つのアミン基をさらに含む、請求項24〜28のいずれかに記載のバイオマテリアル。
【請求項30】
第二の前駆体構成要素が少なくとも1つのアミン基を含む、請求項29記載のバイオマテリアル。
【請求項31】
生物活性因子が、小分子、ホルモン、ヌクレオチド、ペプチド、およびタンパク質からなる群から選択される、請求項23〜30のいずれかに記載のバイオマテリアル。
【請求項32】
生物活性因子が、副甲状腺ホルモン(PTH)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)、骨形成タンパク質(BMP)、インスリン様増殖因子(IGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)からなる群より選択される、請求項31記載のバイオマテリアル。
【請求項33】
前駆体構成要素がポリエチレングリコールを含む、請求項24〜32のいずれかに記載のバイオマテリアル。
【請求項34】
組織修復および再生のための、生物活性因子の局在化送達または全身性送達用の剤の製造のための、先行する請求項のいずれかに記載のバイオマテリアルの使用。
【請求項35】
前記再生が、皮膚、骨、腱および軟骨などの軟組織および硬組織の再生である、請求項34記載の使用。

【公表番号】特表2008−529972(P2008−529972A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547538(P2007−547538)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/057122
【国際公開番号】WO2006/067221
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(507207144)クロス・バイオサージェリー・アクチェンゲゼルシャフト (7)
【Fターム(参考)】