説明

酵素的活性化およびカップリングを使用したペプチド合成

(i)N−末端保護アミノ酸、N−末端保護アミノ酸C−末端エステル、N−末端保護ペプチド、またはN−末端保護ペプチドC−末端エステル、および(ii)それぞれ式HO−CX−Zで表されるアルコール、式HS−CX−Zで表されるチオールからエステルまたはチオエステルを酵素的に調製するステップであって、各Xが独立してハロゲン原子または水素原子を表し、Zがsp−混成炭素に直接付着するヘテロ原子を含んでなる少なくとも2個の置換基を含んでなるsp−混成炭素、およびsp−混成炭素に直接付着するヘテロ原子を含んでなる1または2個の置換基を含んでなるsp−混成炭素の群から選択され、エステルまたはチオエステルの調製が、反応媒体中の液体の重量を基準として2重量%以下の水を含んでなる反応媒体中で実施される、ステップと、調製されたエステルまたはチオエステルを、場合によりC−末端保護されていてもよいアミノ酸、または場合によりC−末端保護されていてもよいペプチドに酵素的にカップリングし、それによって反応媒体総重量を基準にして2重量%以下の水を含んでなる反応媒体中でペプチドを合成するステップとを含んでなる、ペプチドを酵素的に合成する方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ペプチドを酵素的に合成する方法に関する。
【0002】
ペプチド、特にオリゴペプチドは、例えば医薬品、食品または飼料成分、農薬または化粧品成分として、多数の用途を有する。
【0003】
本発明の目的では、ペプチドとは2個以上のアミノ酸のあらゆる鎖を意味する。本発明の目的では、「オリゴペプチド」とは2〜200個のアミノ酸ベースの、特に2〜100個のアミノ酸ベースの、より特には2〜50個のアミノ酸ベースの、好ましくは2〜200個のアミノ酸、より好ましくは2〜100個のまたは2〜50個のアミノ酸のあらゆる直鎖のペプチドを意味する。「ポリペプチド」という用語は、オリゴペプチドについて規定されるよりもさらに多数のアミノ酸をベースとするペプチドに対して使用される。
【0004】
本発明の目的では、その中で1つ以上のペプチド結合が酵素的カップリング反応によって形成されるペプチド合成と定義される化学酵素的ペプチド合成は、化学ペプチド合成に優るいくつかの利点を有する。例えばアミノ酸側鎖保護の必要性が皆無または限定的であるという事実のために、大規模生産した場合の原価がより低い。また方法は環境により優しい。例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)または1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドメチオジド(EDCl)などのいかなる理論量の有害試薬も不要である。さらにこのような方法は、より少ない有機溶剤を使用して実施してもよい。さらに酵素触媒カップリングにはラセミ化がなく(例えばSewaldおよびH.−D.Jakubke,「Peptides:Chemistry and Biology」,重版第1刷,Wiley−VCH Verlag GmbH,Weinheim 2002年,250頁を参照されたい)、より純粋な生成物および/またはより容易な単離がもたらされる。
【0005】
化学酵素的カップリング法に関して、ペプチド結合を作り出す2つの選択肢がある。いわゆる熱力学的(または平衡状態制御)アプローチでは、カルボキシ構成要素、すなわちそのC末端でカップリングされる構成要素が遊離カルボン酸官能基を有するのに対し、動力学的制御アプローチでは、一級n−アルキルエステルなどの反応性カルボキシ構成要素が使用される。
【0006】
熱力学的アプローチには、3つの主要な不都合がある。i)平衡状態はペプチド結合切断の側に通常あるためカップリング収率が不良であり、ii)大量の酵素が通常必要とされ、iii)反応速度が通常非常に遅い。動力学的制御アプローチでは、出発原料としてアルキルエステルが必要とされるが、はるかにより少ない酵素が必要とされ、反応時間は顕著により短く、とりわけ最大可能収率が通常大幅により高い。したがって産業上の利用のためには、動力学的アプローチに基づく、すなわち活性化カルボキシ構成要素を使用した、酵素的ペプチド合成構想が最も魅力的である。(例えばN.SewaldおよびH.−D.Jakubke,「Peptides: Chemistry and Biology」,重版第1刷,Wiley−VCH Verlag GmbH,Weinheim 2002年,セクション4.6.2を参照されたい)。
【0007】
化学酵素的ペプチド合成は、C→N末端方向またはN→C末端方向で段階的に実施し得るが、化学合成を使用して、または化学および化学酵素的カップリング工程の組み合わせによって、個々に合成された断片の酵素的カップリングもまた内含し得る。Chenらは、「低水性」有機溶剤と、有機溶剤中で活性で安定しているプロテアーゼとのカップリングについて記載する。(J.Org.Chem.1992年,57,6960〜65頁;Biomed.Biochim.Acta 1991年,50,181頁;Bioorg.Med.Chem.Lett.1991年,1,445頁)。そこで記載される方法の不都合は、これらの出版物に記載される方法では、わずかな酵素のみが低水性条件において活性で安定しており、酵素の基質範囲が限定的なことである。したがって長い反応時間と、多量の過剰なアミノ酸またはペプチド求核剤が通常必要とされる。さらにペプチド中の他の位置でいくらかの加水分解があり、また断片の1つにおいて既存のペプチド結合上でアミノ基転移が起きることが多い(=既存のペプチド結合の1つの上のアミノ酸またはペプチド求核剤の酵素触媒求核攻撃)。したがって収率が低いことがある。さらに生成物の精製が困難であることが多い。
【0008】
別のアプローチは、F.Bordusaら,Current Protein and Peptide Science 2002年,3,159〜180頁でレビューされたいわゆる「基質模倣剤」の使用である。このアプローチでは、C−活性化アミノ酸またはペプチドが特定アミノ酸と似ているエステル部分を有し、その類似性は、その特定アミノ酸に対して選択的な酵素が、そのエステル部分を有するあらゆるアミノ酸と迅速に反応するほどである。好個の一例はBordusaらによって発見された4−グアニジノフェニル(Gp)エステルの使用であり、それは、その加水分解特性においてArg−X(Xはあらゆるタンパク新生アミノ酸を表す)配列に対して特異的なトリプシンが、ほとんどあらゆるC末端(Gpエステルを有する)を様々なアミノ酸およびペプチド求核剤にカップリングし得る程度にまで、Argと似ている。例えばN−保護D−Ala−OGpは、M.Thormannら,Biochem.1999年,38,6056頁によって実証されたように、様々なアミノ酸およびペプチド求核剤とカップリングし得る。したがってD−アミノ酸および非タンパク新生アミノ酸もまた、高効率で酵素的に組み込み得て、さらにカップリング酵素がそれに対して特異的であるペプチド結合がある場合(例えばトリプシンの場合Arg−X結合)を除き、断片中のペプチド結合の加水分解が起きない。基質模倣剤アプローチの不都合は、基質模倣剤(Gpエステルなど)が、規模拡大が困難な、またそれによってアミノ酸のラセミ化が生じることが多い、骨の折れる多段階化学合成を要することである。基質模倣剤はまた不安定でもあり、したがって大規模な取り扱いが困難であり、水溶液に対するそれらの溶解度は低いことがある。
【0009】
「Organic Letters,2001年,第3巻,第26号,4157〜4159頁」で、LiuおよびTamは、1〜2.5%の水を含んでなる1,3−プロパンジオールおよび1,4−ブタンジオール中で、特定のN末端Boc−保護アミノ酸と非保護ペプチドのC末端3−ヒドロキシプロピルまたは4−ヒドロキシブチルエステルの形成を触媒するために、サブチリシンカールスバーグを使用する方法を報告する。さらに反応媒体(その中でエステル形成が起きた媒体とは異なる)中における、アミノ酸(ロイシン)またはペプチドと、得られたエステルとの酵素的カップリングについて記載している。その中でカップリングが起きる反応媒体は、相当量の水を含んでなる。
【0010】
「Biotechnology and Bioengineering,199年,第54巻,第3号,287〜290頁」でMitinらは、少なくとも10重量%の水を含有するグリセロール中において、N末端BocおよびN末端Cbz保護アミノ酸とペプチドとのC末端グリセリルエステル形成を触媒するために、パパインを使用して最大70%の収率でエステルを得る方法を報告する。10重量%未満の水を含有する溶液の使用は、パパイン変性のせいではるかにより低いエステル収率をもたらす。
【0011】
(例えばT.Miyazawaら,J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,2002年,390〜395頁で記載されるような)さらに別のアプローチは、カルバモイルメチル(Cam)エステル、または(A.Yanら,Tetrahedron,61,2005年,5933〜5941頁で記載されるような)2,2,2−トリフルオロエチルエステルなどの「活性化」エステルの使用である。これらのエステルは通常、「真正」基質模倣剤に比べてより容易に調製され、より安定しているが、なおも高価で環境に優しくない化学的工程を必要とする。さらにこれらのエステルの調製は、アミノ酸のいくらかのラセミ化をもたらすことが多い。例えばCamエステルは、アシル供与体のCs塩を2−クロロアセトアミドによって処理することで調製し得て、Tfeエステルはカルボジイミドの化学的性質を使用して調製し得る。CamおよびTfeエステルは、通常、パパインおよびサブチリシンなどの安価で容易に入手できるプロテアーゼを使用して、アミノ酸またはペプチド求核剤とカップリングされる。したがってD−アミノ酸もまた、ペプチドに組み込み得る(Proは未だに組み込まれていない)。
【0012】
ペプチドを合成するための、および/または一般にペプチド合成に使用し得る中間体化合物を調製するための、代案の方法に対する必要性が残されている。このような方法は、例えばペプチド合成における順応性を増大させる、および/または既知の方法を使用して得られない、または得ることが比較的困難である特定ペプチドの合成を可能にする、追加的方法を提供するかもしれない。例えば許容可能な時間内に、良好な収率で、様々なアミノ酸を酵素的にカップリングすることはなおも難題である。したがってタンパク新生アミノ酸だけでなく、D−α−アミノ酸、β−アミノ酸、フェニルグリシン、DOPA、α−アルキル化アミノ酸、またはN末端アミノ酸残基がこれらのアミノ酸のいずれかの残基であるペプチドなどの非タンパク新生アミノ酸をそれらのN末端アミン官能基を通じて別のアミノ酸またはペプチドのC末端カルボン酸官能基にカップリングする、改善された方法に対する必要性が依然として存在する。さらにタンパク新生アミノ酸だけでなく、D−α−アミノ酸、β−アミノ酸、フェニルグリシン、DOPA、α−アルキル化アミノ酸、またはC末端アミノ酸残基がこれらのアミノ酸のいずれかの残基であるペプチドなどの非タンパク新生アミノ酸をそれらのC末端カルボキシル官能基を通じて別のアミノ酸またはペプチドのN末端アミン官能基にカップリングする、改善された技術に対する必要性が依然として存在する。
【0013】
さらにあらゆるアミノ酸またはペプチドをそのN末端アミン官能基を通じて、バリンまたはイソロイシンなどの立体障害アミノ酸のC末端カルボン酸官能基に、またはそのC末端アミノ酸残基がバリンまたはイソロイシンなどの立体障害ヒンダードアミノ酸であるペプチドに、酵素的にカップリングすることに関する、改善された技術に対する必要性が特に存在する。
【0014】
さらに比較的環境に優しい、新しい比較的単純な方法に対する必要性が残されている。
【0015】
アミノ酸またはペプチドの活性化C末端エステルまたは活性化C末端チオエステルの酵素的調製を組み合わせ、この活性化エステルまたは活性化チオエステルを別のアミノ酸またはペプチドに特定のやり方で酵素的にカップリングすることによって、このような方法を提供できることが今や分かった。
【0016】
したがって本発明は、
(i)N−末端保護アミノ酸、N−末端保護アミノ酸C−末端エステル、N−末端保護ペプチド、またはN−末端保護ペプチドC−末端エステル、および
(ii)それぞれ式HO−CX−Zで表されるアルコール、式HS−CX−Zで表されるチオール
からエステルまたはチオエステルを酵素的に調製するステップであって、
各Xが独立してハロゲン原子または水素原子を表し、
Zがsp−混成炭素に直接付着するヘテロ原子を含んでなる少なくとも2個の置換基を含んでなるsp−混成炭素、およびsp−混成炭素に直接付着するヘテロ原子を含んでなる1または2個の置換基を含んでなるsp−混成炭素の群から選択され、
前記エステルまたはチオエステルの調製が、反応媒体中の液体の重量を基準として2重量%以下の水を含んでなる反応媒体中で実施される、ステップと、
前記調製されたエステルまたはチオエステルを、場合によりC−末端保護されていてもよいアミノ酸、または場合によりC−末端保護されていてもよいペプチドに酵素的にカップリングし、それによって反応媒体総重量を基準にして2重量%以下の水を含んでなる反応媒体中でペプチドを合成するステップと
を含んでなる、ペプチドを酵素的に合成する方法に関する。
【0017】
「C末端保護」という用語は、C末端カルボキシル基に保護基が付与されて、カルボキシル基が別の分子のアミン基とカップリングすることから一般に実質的に保護されることを示すために、本明細書で使用される。特にC末端保護基はC末端エステルであってもよく、それによって使用されるペプチド合成条件下で、C末端カルボキシル基がアミンとカップリングすることから少なくとも実質的に保護される。t−アルキル基が、一般に使用される保護基である。
【0018】
「N末端保護」という用語は、N末端アミン基に保護基が付与されて、N末端アミン基がC末端カルボキシル基とN末端アミン基とのカップリングに関与することから一般に少なくとも実質的に保護されることを示すために、本明細書で使用される。
【0019】
本発明の方法で調製されたエステルまたはチオエステルはカップリング反応に関与できるので、このようなエステルはそれぞれ「活性化エステル」または「活性化チオエステル」と称されてもよい。対照的に活性化エステルの調製のために使用してもよい遊離C末端カルボン酸またはエステルは、カップリングに参与できず、またはカップリング反応において少なくとも実質的により低い反応性を有し、例えば本発明の方法で酵素的に調製された活性化エステルの半分未満の反応性、10分の1未満の反応性または100分の1未満の反応性を有する。特にC末端アミノ酸残基またはN末端アミノ酸残基が従来法ではカップリング困難な(低カップリング速度を有する)アミノ酸では、アミノ酸またはC末端アミノ酸残基の活性化のおかげで、本発明の方法によってカップリング速度の大幅な増大を達成し得る。カップリングが困難なアミノ酸またはアミノ酸残基の典型的な例は、D−アミノ酸またはそのアミノ酸残基、およびその他の非タンパク新生アミノ酸またはそのアミノ酸残基である。さらなる例としては、例えばバリンおよびイソロイシンなどの立体障害アミノ酸、またはそのアミノ酸残基が挙げられる。
【0020】
各エステルまたはチオエステルの酵素的調製は、下文においてそれぞれエステル化またはチオエステル化と称されてもよい。この用語は、(チオ)エステルの調製が、N末端保護アミノ酸またはペプチドC末端エステルと(チオ)アルコールとの反応を伴う場合を含む。もっと正確に言えばこのような反応は、(チオ)エステル転移反応として知られている。
【0021】
一実施態様では、カップリングに参与するプロリンおよび非タンパク新生アミノ酸、またはプロリンまたは非タンパク新生末端アミノ酸残基を含有するペプチドをはじめとする、カップリング反応に参与する末端アミノ酸残基が異なる様々なアミノ酸または様々なペプチドのカップリングのために本発明の方法を使用する可能性を提供するという点において、本発明の方法は有利である。
【0022】
一実施態様では、活性化(チオ)エステルが、環境に優しいやり方で、すなわち理論量の廃棄化合物を生じることなく、ラセミ化またはその他の副反応なしに高収率で合成されるという点において、本発明の方法は有利である。
【0023】
一実施態様では、方法で使用される1つまたは複数の酵素に高い安定性および/または活性を提供するという点において、本発明の方法は有利である。
【0024】
一実施態様では、((チオ)エステルの調製とカップリングを達成するのに典型的な時間枠内で)酵素的に調製されたエステルの加水分解の程度が低いという点において、本発明の方法は有利であり、少なくともいくつかの実施態様では検出可能なエステルの加水分解は観察されていない。
【0025】
一実施態様では、酵素的に調製されたペプチドの加水分解の程度が低いという点において、本発明の方法は有利であり、少なくともいくつかの実施態様では、検出可能な酵素的に調製されたペプチドの加水分解は観察されていない。
【0026】
一実施態様では、高い全体的反応速度、すなわちN−保護アミノ酸またはペプチド開始化合物から合成ペプチドへの高い転換速度を提供するという点において、本発明の方法は有利であり、特定収率が比較的短い反応時間で達成される。
【0027】
特に本発明の方法は、大幅に過剰なカップリングパートナーの1つを必要とせずに、アミノ酸またはペプチドを別のアミノ酸またはペプチドにカップリングして、比較的短時間で他方のカップリングパートナーをベースとする合成ペプチドを許容可能な収率で得られるようにする。(活性化)(チオ)エステルがそれから調製される、N末端保護アミノ酸、N末端保護アミノ酸C末端エステル、N末端保護ペプチド、またはN末端保護ペプチドC末端エステルと、場合によりC末端保護されていてもよいアミノ酸またはペプチドとのモル比は、通常2:1〜1:3の範囲、特に1:1〜1:2の範囲、好ましくは1:1〜1:1.5の範囲で選択される。特に好ましい方法では、前記モル比は1:1〜1:1.1の範囲である。
【0028】
本発明の方法は、化学酵素的ペプチド合成の一環として、N末端保護アミノ酸またはN末端保護ペプチドの活性化C末端エステルまたはチオエステル、特にN末端保護アミノ酸またはN末端保護ペプチドのC末端カルバモイルメチル(Cam)エステルまたはC末端2,2,2−トリフルオロエチル(Tfe)エステルを酵素的に調製できることが判明したという点において、特に有利である。特にプロテアーゼまたはリパーゼを使用してCamおよびTfeエステルを高収率で酵素的に調製し得ること、さらに良いことには、カップリングされるアミノ酸またはペプチドの等モル量を使用した場合でさえ、すなわち過剰なアミノ酸またはペプチドが求核剤として作用する必要なしに、プロテアーゼを使用してペプチド結合形成工程と同時に、プロテアーゼまたはリパーゼによる活性化工程を実施して、顕著な副反応なしに90%を超える収率で縮合物(合成されるペプチド)を生じ得ることが意外にも分かった。
【0029】
さらにプロリン、または例えばD−アミノ酸のような非タンパク新生アミノ酸などの「困難な」アミノ酸が、アセンブルされるペプチド結合の片側または両側に存在する場合でも、顕著なラセミ化なしにペプチドを合成できることが分かった。
【0030】
本発明に従った方法は、特にいわゆる「ワンポット」法で(チオ)エステル化を実施できることから、比較的単純な方法を提供する。ワンポット法では、(チオ)エステル化およびカップリングの間で(調製されるエステルまたはチオエステルの)単離工程を実施することなく、反応が実施される。反応のはじめから全物質(カップリングするアミノ酸またはそのエステルおよび/またはペプチドまたはそのエステル、アルコール/チオール、溶剤および酵素など)を含めることで本発明に従った方法を実施することさえでき、それは合成されるペプチドを比較的短時間内に高収率で得ることに関して特に有益かもしれない。したがって本発明の特に適切なワンポット法では、調製されたエステルまたはチオエステルがそれにカップリングされる、場合によりC−末端保護されていてもよいアミノ酸または場合によりC−末端保護されていてもよいペプチドの存在下で、エステルまたはチオエステルの調製を実施する。
【0031】
本発明のさらに別のワンポット法では、(チオ)エステル化およびカップリングが逐次実施され、すなわちエステルまたはチオエステルを調製した後に、場合によりC−末端保護されていてもよいアミノ酸または場合によりC−末端保護されていてもよいペプチドを添加する。
【0032】
本発明のさらに別のワンポット法では、最初にリパーゼまたはエステラーゼを使用した(チオ)エステルの調製を実施して、その後カップリング反応を触媒するために酵素(通常プロテアーゼ)を添加する。このようなアプローチは、例えばカップリングを触媒する酵素が(チオ)エステルの調製を触媒する酵素の活性または安定性に悪影響を及ぼす場合など、(チオ)エステルの調製に有害である場合に特に採用される。
【0033】
最初は本発明の方法で使用される物質の1つ以上の一部のみを含めて残部を後から添加するような、これらのワンポット法の中間型もまた使用できる。特に調製されたエステルまたはチオエステルがそれにカップリングされる、場合によりC−末端保護されていてもよいアミノ酸または場合によりC−末端保護されていてもよいペプチドの一部を徐々にまたは段階的に添加してもよい。
【0034】
原則として、(チオ)エステル化を触媒する酵素およびカップリングを触媒する酵素は同一であってもよく、特に同一リパーゼ、エステラーゼ、またはプロテアーゼであってもよい。例えばサブチリシンカールスバーグまたはカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼBをこのような実施態様で使用してもよい。
【0035】
比較的短時間内に合成ペプチドを得ることに関して、少なくとも2つの酵素、すなわちリパーゼおよびエステラーゼの群から選択される少なくとも1つの酵素と、少なくとも1つのプロテアーゼとの使用が特に有利であることが分かった。発明のワンポット法では、リパーゼまたはエステラーゼが(主として)(チオ)エステル化を触媒し、およびプロテアーゼが(主として)カップリング反応を触媒することが考察される。
【0036】
(チオ)エステル化されるN末端保護アミノ酸またはN末端保護ペプチドは、原則としてあらゆるタンパク新生または非タンパク新生アミノ酸、またはタンパク新生および/または非タンパク新生アミノ酸をベースとするあらゆるペプチドであってもよい。
【0037】
好ましい実施態様では、本発明は、エステルまたはチオエステルの酵素的調製のために、(i)N末端保護アミノ酸またはN末端保護ペプチドと、(ii)それぞれ式HO−CX−Zで表されるアルコール、式HS−CX−Zで表されるチオールとを反応させる、本発明に従った方法に関する。
【0038】
特にN末端保護アミノ酸またはペプチドは、式Iの化合物によって表される。
【化1】



【0039】
式中、PはN末端保護基を表す。適切なN末端保護基は、(オリゴ)ペプチド合成のために使用し得るN保護基である。このような基は当業者に知られている。適切なN保護基の例としては、例えば「Cbz」(すなわちベンジルオキシカルボニル)、「Boc」(すなわちt−ブチルオキシカルボニル)、「For」(すなわちホルミル)、Fmoc(すなわち9−フルオレニルメトキシカルボニル)、および「PhAc」(すなわちフェナセチル)などのカルボニルタイプの保護基が挙げられる。ForまたはPhAc基は、それぞれ酵素ペプチドデホルミラーゼまたはPenGアシラーゼを使用して、酵素的に導入し切断してもよい。化学的切断法は、一般に当該技術分野で知られている。
【0040】
式中は、nは少なくとも1の整数である。nは特に少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10であってもよい。nは特に100以下、75以下、50以下、25以下、20以下15以下または10以下、例えば5以下であってもよい。
【0041】
各Rおよび各Rは、独立してH、または有機部分、好ましくはアミノ酸側鎖を表す。したがってn個のアミノ酸単位の全てでRが同一である必要はない。同様にn個のアミノ酸単位の全てでRが同一である必要もない。
【0042】
本発明の文脈で「アミノ酸側鎖」とは、あらゆるタンパク新生または非タンパク新生アミノ酸側鎖を意味する。アミノ酸側鎖中の反応性基は、アミノ酸側鎖保護基によって保護されていても、または保護されていなくてもよい。アミノ酸側鎖のための適切な保護基は当業者に知られている。特に所望ならば、アミノ酸またはペプチドの溶解性を改善するために、酸性またはアルカリ性側鎖基の全てまたは一部に保護基が備わっていてもよい。
【0043】
タンパク新生アミノ酸は、遺伝コードによってコードされるアミノ酸である。タンパク新生アミノ酸としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、メチオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アルギニン、プロリン、およびフェニルアラニンが挙げられる。
【0044】
非タンパク新生アミノ酸は、特にD−アミノ酸、フェニルグリシン、DOPA(3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン)、β−アミノ酸、4−フルオロ−フェニルアラニン、またはα−アルキル化アミノ酸から選択されてもよい。
【0045】
特定の実施態様では、カップリング反応に参与するエステルまたはチオエステルの調製に使用されるN末端保護アミノ酸またはペプチドは、例えば一般にペプチドを合成するための酵素的カップリング反応において実質的な活性を示さない、または少なくとも活性が調製された(チオ)エステルよりも低いようなt−アルキルエステルまたは別のエステルなど、調製される(チオ)エステルとは異なるC末端エステルである。このような場合、(チオ)エステルの調製は(チオ)エステル転移と称されてもよい。
【0046】
調製されるアルコールまたはチオールと反応させる化合物がエステルである実施態様では、それは典型的に上述のようにアミノ酸またはペプチドのエステルである。
【0047】
したがってエステルは、式IIによって表される。
【化2】



このエステルは、典型的にカップリング反応において、本発明の方法で酵素的に調製されたエステルまたはチオエステルよりも反応性が低い。一般にこれは、R基が電子求引性基でなく、またはエステルまたはチオエステルの調製で使用されるアルコールまたはチオールのCX−Z基よりも電子求引性が低いことを意味する。Rは、通常は炭化水素基であり、またはエステルに対してγ位の、またはエステル部分からより離れた位置の炭素に置換基を含んでなる炭化水素基である。特にRは、アルキル基、特にC1〜C6アルキル基、とりわけメチル基、エチル基、一級プロピル基、二級プロピル基、一級ブチル基、二級ブチル基、または三級ブチル基であってもよい。
【0048】
P、R、R、およびnは、上で同定された通りである。
【0049】
(チオ)エステルの調製で使用されるアルコールHO−X−ZまたはチオールHS−X−Zは、一般に活性化アルコールまたはチオールである。活性化アルコールまたはチオールは、(チオ)エステル化後に活性化C末端カルボキシ(チオ)エステル基、すなわちカップリング反応に参与し得るカルボキシ(チオ)エステル基を提供するアルコールまたはチオールである。上述の通り、アルコールは式HO−CX−Zで表され、またはチオールは式HS−CX−Zで表される。
【0050】
式中、各Xは独立して、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または水素原子を表す。Xがハロゲン原子である場合、それは好ましくはFである。Xの双方が水素である本発明の方法で、良好な結果が得られている。
【0051】
通常Zは電子求引性基を表す。理論により拘束されることなく、これはカップリング反応速度に関して有利であると考えられる。
【0052】
Zは、ヘテロ原子を含んでなる1つ以上の置換基を含んでなるspまたはsp混成炭素原子を表す。N末端保護アミノ酸またはN末端保護ペプチドのC末端(チオ)エステル、およびこのようなアルコールまたはチオールを化学的に調製することは一般に困難であり、または少なくとも骨が折れる。したがって本発明はこのようなエステルを調製する比較的単純な方法を提供するという点において、さらに特に有利である。
【0053】
特定の実施態様では、Zはヘテロ原子を含んでなる1つの置換基を含んでなるsp−混成炭素の群から選択され、そのヘテロ原子はsp−混成炭素に直接結合する。
【0054】
好ましい実施態様では、Zは、ヘテロ原子を含んでなる2または3個の置換基、特に2または3個のハロゲン置換基、好ましくはFおよびClの群から選択される2または3個のハロゲン置換基を含んでなるsp−混成炭素の群から選択され、各置換基の前記ヘテロ原子はsp−混成炭素に直接結合し、例えばZはトリフルオロメチル基またはトリクロロメチル基を表してもよい。例えば2,2,2−トリフルオレチルアルコール(X=H、Z=CF)を用いて、特にリパーゼおよびプロテアーゼの双方を利用する方法で、良好な結果が達成された。N末端保護アミノ酸トリフルオロエチルエステルまたはN末端保護ペプチドC末端2,2,2−トリフルオロエチルエステルをN末端保護アミノ酸またはペプチドから酵素的に調製し、引き続いて酵素的カップリング法で使用し得ること、さらにはワンポット法において良好な収率でこれを達成できることは、特に驚くべきことである。
【0055】
さらなる好ましい実施態様では、Zはヘテロ原子を含んでなる少なくとも1つの置換基を含んでなるsp−混成炭素の群から選択され、そのヘテロ原子はsp−混成炭素に直接結合する。特にこのようなZは、−(C=O)Rまたは−(C=S)Rであってもよい。Rは、特に−NH、NHCHまたはN(CH、(場合により)C末端保護されていてもよいα−アミノ酸または(場合により)C末端保護されていてもよいペプチド、好ましくは−NHなどのアミン基;−OHまたはアルカリまたはアンモニウム塩などのその塩;アルキルまたはアリール基;置換されたアルキルまたはアリール基、特に1つ以上のハロゲン置換基を含んでなる置換されたアルキルまたはアリール基;−OR;−SRの群から選択されてもよい。R基は、通常、炭化水素または置換炭化水素、特にアルキル、(1つ以上のハロゲン置換基を含んでなるアルキルなどの)置換アルキル、非置換アリール基または(1つ以上のハロゲン置換基を含んでなるアリールなどの)置換アリール基である。RまたはR中のアルキルまたは置換されたアルキルは、特に1〜6個の炭素原子を含んでなってもよく;非置換または置換アリール基は、特に1つまたは複数の環中の5〜18個、とりわけ6〜12個の炭素原子を含んでなってもよい。
【0056】
例えばカルバモイルメチルアルコール(Z=−(C=O)NH、カルバモイル)を用いて、特にリパーゼおよびプロテアーゼの双方を利用する方法で、良好な結果が得られている。N末端保護アミノ酸C末端カルバモイルメチルエステルまたはN末端保護ペプチドC末端カルバモイルメチルエステルをN末端保護アミノ酸またはN末端保護ペプチドから酵素的に調製して、引き続いて酵素的カップリング方法で使用し得ること、さらにはワンポット法において良好な収率でこれを達成できることは、特に驚くべきことである。
【0057】
(チオ)エステルとカップリングされる場合によりC末端保護されていてもよいアミノ酸または場合によりC末端保護されていてもよいペプチドは、原則としてあらゆるタンパク新生または非タンパク新生アミノ酸、またはタンパク新生および/または非タンパク新生アミノ酸をベースとするあらゆるペプチドであってもよい。
【0058】
特に場合によりC末端保護されていてもよいアミノ酸またはペプチドは、式IIIの化合物によって表されてもよい。
【化3】



【0059】
式中、n、各Rおよび各Rは上で定義されるとおりである。
【0060】
式中、Qはアミド基またはOR部分を表す(下記参照)。
【0061】
Qがアミド基を表す場合、アミド基は、式NRによって表されてもよく、式中、RおよびRは、それぞれ個々にあらゆる(置換)アルキルまたは(置換)アリール基を表してもよい。特にRおよびRの片方はH原子であり、もう一方は(置換された)アルキル基である。好ましくはRおよびRはどちらもHである。
【0062】
QがOR部分を表す場合、Rは、C末端保護基、または例えば三置換または四置換アンモニウムイオンまたはアルカリ性金属カチオンのような一価のカチオンなどのカチオン、またはHを表わしてもよい。RがC末端保護基である場合、これは特に場合により置換されていてもよいアルキル基であってもよい。好ましくはこれはt−アルキル基であるが、原則としてそれはまた、当業者に知られているあらゆるその他の保護エステルであってもよい。t−アルキルは、原則としてあらゆる保護三級アルキル基であってもよい。好ましくはt−アルキルは、t−ブチル(2−メチル−2−プロピル)、t−ペンチル(2−メチル−2−ブチル)、およびt−ヘキシル(2,3−ジメチル−2−ブチル)の群から選択される。良好な結果が特にt−ブチルによって得られている。通常、望まれない副反応を避けるために、Qがアミド基またはOR部分を表すことが好ましく、式中、Rは保護基である。しかし少なくともいくつかの実施態様では、このような副反応は別のやり方で十分に回避される。
【0063】
上述の通り、本発明の方法ではアミノ酸またはペプチドの(チオ)エステル化が酵素によって触媒され、得られた(チオ)エステルの別のペプチドまたはアミノ酸へのカップリングについても同様である。原則として、これらの反応の片方または双方を触媒できる当該技術分野で知られているあらゆる酵素を使用し得る。特定起源からの酵素に言及する場合、第1の生物が起源であるが、事実上(遺伝子改変された)第2の生物中で生成される組み換え酵素は、明確に第1の生物からの酵素として含めることが意図される。
【0064】
発明の方法で使用される酵素が由来する生物の例としては、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)などのトリコデルマ(Trichoderma)種;リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)などのクモノスカビ(Rhizopus)種;バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、枯草菌(Bacillus subtilis)バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・クラウシイ(Bacillus clausii)、バチルス・レンツス(Bacillus lentus)、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alkalophilus)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)などのバチルス(Bacillus)種;コウジカビ(Aspergillus oryzae)またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)種;ストレプトミセス・カエスピトーサス(Streptomyces caespitosus)またはストレプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus)などのストレプトミセス(Streptomyces)種;カンジダ(Candida)種;真菌;フミコラ(Humicola)種;リゾクトニア(Rhizoctonia)種;サイトファガ属(Cytophagia);ケカビ(Mucor)種;および動物組織、特にブタ膵臓、ウシ膵臓またはヒツジ膵臓などの膵臓からの組織が挙げられる。
【0065】
本発明に従った方法で、天然(野性型)酵素の変異体もまた利用できることは、平均的当業者には明らかであろう。野生型酵素の変異体は、例えば当業者に知られている変異誘発技術(ランダム変異誘発、部位特異的変異誘発、定方向進化、遺伝子シャフリングなど)を使用して、DNAが野生型酵素と少なくとも1つのアミノ酸が異なる酵素をコードするように、またはそれが野生型と比較してより短い酵素をコードするように、野生型酵素をコードするDNAを改変することで、そしてこのように改変されたDNAを適切な(宿主)細胞内で発現させることで、作成し得る。酵素の変異体はまた、例えば基質範囲、活性、安定性、有機溶剤抵抗性、温度プロフィール、合成/加水分解比、および副反応プロフィールの1つ以上に関して、特性が改善されていてもよい。
【0066】
好ましい方法では、リパーゼおよび/またはプロテアーゼを使用して、前記反応の少なくとも1つを触媒する。
【0067】
適切なリパーゼまたはエステラーゼは、EC 3.1に分類できる酵素から選択される。特にカルボン酸エステルヒドロラーゼ(E.C.3.1.1)またはチオールエステルヒドロラーゼ(E.C.3.1.2)を使用してもよい。好ましい方法では、カンジダ(Candida)からのリパーゼの群から選択されるリパーゼが使用される。良好な結果が、特に(チオ)エステル化の触媒に関して、カンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼを用いて、特にカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼBを用いて得られている。
【0068】
適切なプロテアーゼは、EC 3.4に分類できる酵素から選択される。プロテアーゼは、ペプチド末端近くのみに作用するエキソペプチダーゼと、ペプチド中で内部的に作用するエンドペプチダーゼの2つのサブクラスにさらに分割し得る。
【0069】
本発明の実施態様では、エステルまたはチオエステルの酵素的調製はリパーゼまたはエステラーゼによって触媒され、酵素的カップリングはプロテアーゼによって触媒される。
【0070】
ペプチドN末端に作用するエキソペプチダーゼは、単一アミノ酸(アミノペプチダーゼE.C.3.4.11)またはジペプチド(ジペプチダーゼ、E.C.3.4.13)またはジペプチドとトリペプチド(ジペプチジル−ペプチダーゼまたはトリペプチジル−ペプチダーゼ、E.C.3.4.14)の双方を遊離させる。ペプチドC末端に作用するペプチダーゼはカルボキシペプチダーゼと称され、単一アミノ酸(カルボキシペプチダーゼ、E.C.3.4.16−18)またはジペプチド(ペプチジル−ジペプチダーゼ、E.C.3.4.15)を遊離させる。カルボキシペプチダーゼは、例えばセリン型カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.16)、メタロカルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.17)、システイン型カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.18)などそれらの触媒機序に従って、または置換され、環化され、またはイソペプチド結合(側鎖が関与するペプチド結合)を有する、切断末端アミノ酸に従って(ω−ペプチダーゼ、E.C.3.4.19)分類される。
【0071】
特にエンドペプチダーゼ、特にセリンエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.21)、システインエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.22)、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ(E.C.3.4.23)、およびメタロエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.24)の群から選択されるエンドペプチダーゼを使用してもよい。
【0072】
特に適切なのは、サブチリシンの群から選択されるセリンエンドペプチダーゼである。このような酵素は、特にカップリングを触媒するのに適することが分かっている。
【0073】
様々なサブチリシンが当該技術分野で知られており、例えば米国特許第5,316,935号明細書と、その中で引用される参考文献を参照されたい。
【0074】
サブチリシンAは、ノボザイムズ(Novozymes)から市販されるサブチリシンである。
【0075】
特に好ましいのはサブチリシンカールスバーグであり、それはカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼなどのリパーゼと組み合わせて使用すると、比較的短時間内に高収率でペプチドを合成するのに特に有利であることが分かっている。
【0076】
アルカラーゼ(Alcalase)(登録商標)は、サブチリシンカールスバーグの適切な原料である。この製品は、デンマーク国バウスベア(Bagsvaerd,Denmark)のノボザイムズから入手できる。アルカラーゼ(登録商標)は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)によって生成される安価で工業的に入手できるタンパク質分解酵素混合物である(主要酵素構成要素としてサブチリシンカールスバーグを含有する)。
【0077】
アルカラーゼ(登録商標)などの市販される酵素は、供給元によって液体、特に水性液として提供されてもよい。このような場合、酵素は好ましくは最初に、望まれない副反応を引き起こす望まれない液体、例えば過剰な水、またはアルコールから単離される。これは適切には沈殿と、通常それに続く液体からの固形分分離、および/または乾燥によって達成されてもよい。沈殿は、t−ブタノールなどのアルコール、または本発明の方法で使用されるアルコールまたはチオールを使用して達成してもよい。その他のアルコールまたはチオールを使用する場合、このようなアルコールまたはチオールが(チオ)エステル化反応またはカップリング反応を不利に妨げないように注意しなくてはならない。
【0078】
好ましい実施態様では、酵素の少なくとも1つが固体担体上に固定化される。少なくともいくつかの実施態様では、これは比較的短い反応時間後に、特に(チオ)エステル化の触媒作用のための酵素と、カップリングの触媒作用のための異なる酵素との双方が使用されるワンポット法で、合成ペプチドの収率増大をもたらすかもしれない。これを考慮すると、特にカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼなどのリパーゼ、およびサブチリシンカールスバーグなどのプロテアーゼが使用される場合、(チオ)エステル化を触媒する固定化酵素を少なくとも使用することが特に好ましい。アルカラーゼが、グルタルアルデヒドとの縮合によって固定化されているアルカラーゼ架橋酵素凝集体(アルカラーゼ−CLEA)を用いて、特に良好な結果が得られている。
【0079】
特定の実施態様では少なくとも2種の異なる酵素が使用され、少なくとも片方は(チオ)エステルの調製を触媒し、少なくとももう一方はカップリングを触媒し、異なる酵素が同一担体上に固定化される。
【0080】
(チオ)エステル化のためのアルコール、そして任意に例えばアセトニトリルなどの不活性有機溶剤、トルエンなどの炭化水素、またはメチル−t−ブチルエーテル(MTBE)などのエーテルを含んでなる混合物中で、反応を実施することが可能である。
【0081】
エステル化するアミノ酸またはペプチドと比較して、(チオ)エステルの調製のために使用されるチオールまたはアルコールが大幅に過剰でなくてもよいことが、本発明の利点である。例えば前記チオールまたはアルコールと前記アミノ酸またはペプチドとのモル比は、50:1以下、好ましくは25:1以下、特に20:1以下、とりわけ10:1以下であり得る。通常、比率は少なくとも1:1である。(チオ)エステル化を有利な速度で進行させるために、好ましくは前記モル比は少なくとも3:1、特に少なくとも5:1である。
【0082】
本発明の方法は、実質的に非水性条件の下で実施される。当業者は理解するであろうように、酵素が所望の触媒作用を適切に果たせるように、酵素によっては少量の水が所望されるかもしれない。良好な触媒活性のためには、例えば液相を基準にして少なくとも0.005重量%の微量の水の存在が所望されるかもしれない。特に水濃度は、少なくとも0.01重量%または少なくとも0.03重量%であってもよい。
【0083】
所望される水濃度の上限は、特定の酵素、使用されるアルコールまたはチオール、合成されるペプチドの性質(例えばサイズ、ペプチドがそれをベースとするアミノ酸)、所望の最終転換、および所望の反応速度に左右される。
【0084】
反応媒体は、通常、少なくとも活性化またはエステル化(エステル交換)の開始時に、反応媒体中の液体の重量を基準として2.0重量%未満の水を含有する。反応媒体が第2の液相中に分散していてもよく、または別の液相が反応媒体中に分散していてもよい。二相系または多相系の場合、指定される含水量は、エステル化(エステル交換)または活性化反応が(少なくともその大部分が)起きる相中の液体重量を基準とする。
【0085】
特に水濃度は、少なくとも(チオ)エステル化の開始時には1.0重量%未満であってもよい。有利には、方法は、所望の酵素活性と、低いまたは検出不能でさえある望まれない加水分解をなおも保ちながら、少なくとも反応開始時には、0.5重量%以下の水、特に0.2重量%以下の水、とりわけ0.1重量%以下の水を含有する媒体中で実施してもよい。実際には、少なくともいくつかの実施態様では、とりわけカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼおよび/またはサブチリシンカールスバーグを使用した実施態様では、1〜2.5%の水を含んでなる反応媒体中で実施される方法と比較して、非常に低い含水量を有する反応媒体中で、特に0.5重量%未満、または0.1重量%未満の含水量を有する反応媒体中において、改善されたペプチド合成速度が観察されている。
【0086】
有利な方法では、特に(チオ)エステル化中に形成された水を連続的にまたは断続的に除去してもよい。原則として除去は、当該技術分野で知られている様式で達成してもよい。特に分子ふるいを使用して、良好な結果が達成されている。また除去のためには、真空または蒸留を使用した共沸性除去などの蒸発が非常に適する。
【0087】
酵素が十分な活性を示すpHを選択しさえすれば、原則として、使用されるpHは(選択された反応媒体中に存在するpHの範囲で)広い制限内で選択してもよい。このようなpHは、通常、使用される酵素について知られており、水溶液中におけるその既知の加水分解活性に基づいてもよく、または既知の反応条件下における酵素の既知の基質を利用して慣例的に測定し得る。それは特にほぼ中性であるように選択されてもよい。所望ならば、酵素次第でアルカリ性または酸性条件を使用してもよい。所望ならば、酸および/または塩基を使用してpHを調節してもよく、または酸と塩基の適切な組み合わせによって緩衝してもよい。適切な酸および塩基は、特に例えばアンモニアと例えば酢酸およびギ酸などのアルコール可溶性酸との群からの反応媒体に可溶性のものである。
【0088】
使用される酵素が十分な活性と安定性を示す温度を選択しさえすれば、原則として使用する温度は重要でない。このような温度は、通常、使用される酵素について知られており、既知の反応条件下における酵素の既知の基質を利用して慣例的に測定し得る。一般に温度は、少なくとも0℃、特に少なくとも15℃または少なくとも25℃であってもよい。特に好熱性生物に由来する1つ以上の酵素を使用する場合、温度は好ましくは少なくとも40℃であってもよい。所望の最大温度は、酵素に左右される。一般にこのような最大温度は当該技術分野で知られており、例えば市販される酵素の場合は製品データシートに表示され、または一般常識および本明細書で開示される情報に基づいて慣例的に測定し得る。温度は通常70℃以下、特に60℃以下または45℃以下である。しかし特に好熱性生物からの1つ以上の酵素を使用する場合、例えば90℃までのより高い温度を選択してもよい。
【0089】
最適温度条件は、一般常識と本明細書で開示される情報に基づく通例の実験法を通じて、当業者によって特定の酵素について容易に同定され得る。例えばサブチリシン、特にサブチリシンカールスバーグ(例えばアルカラーゼ(登録商標)中の)では、温度は有利には25〜60℃の範囲であってもよい。アルカラーゼ(登録商標)とCal−Bの組み合わせを使用する場合、温度は有利には30〜55℃の範囲であってもよい。
【0090】
本発明は、本明細書に記載される本発明に従った方法に従った、異なる実施態様および/または好ましい徴群の全ての可能な組み合わせにさらに関する。
【0091】
ここで本発明を以下の実施例によって例証する。
【0092】
[実施例]
特に断りのない限り、化学薬品は商業的供給元から得て、さらに精製することなく使用した。H NMRスペクトルは、Bruker Avance 300 MHz NMR(300.1 MHz)分光計の上で記録し、化学シフトは特に断りのない限りCDCl(7.26ppm)に対するppm(δ)で示す。
【0093】
薄層クロマトグラフィー(TLC)はプレコートされたシリカゲル60 F254プレート(メルク(Merck))上で実施し、スポットはUV光またはニンヒドリンを使用して可視化した。
【0094】
3Å分子ふるい(8〜12メッシュ、アクロス(Acros))を200℃、減圧下で活性化し、これらの分子ふるい上でt−ブタノール(BuOH)を保存した。BuOHは使用前に予熱して液体(45℃)にした。
【0095】
カラムクロマトグラフィーは、シリカゲル(メルク等級9385 60Å)を使用して実施した。分析的HPLCは、40℃で逆相カラム(イナートシル(Inertsil)ODS−3、C18、5μm、150×4.6mm)を使用して、HP1090液体クロマトグラフ上で実施した。UV検出は、UV−VIS 204線形分光計を使用して220nmで実施した。勾配プログラムは次の通りであった。0〜25分は5%〜98%の溶出剤Bの直線濃度勾配、25.1〜30分は5%の溶出剤B(溶出剤Aは0.5mLメタンスルホン酸(MSA)/L HO、溶出剤Bは0.5mL MSA/Lアセトニトリル)。流量は0〜25.1分で1mL/分、25.2〜29.8分で2mL/分、次に30分で停止するまで1mL/分に戻した。注入量は20μLであった。
【0096】
アルカラーゼ−CLEAはCLEA−Technologiesから購入され、3.5重量%の水を含有し、活性はグラムあたり650 AGE単位であった(1 AGE単位は、40℃およびpH7.5でN−アセチル−グリシンエチルエステルから1μmolのN−アセチル−グリシンの形成を触媒する)。このアルカラーゼ−CLEAは、使用前に次のように処理した。1gのアルカラーゼ−CLEAを20mLのBuOHに懸濁し、スパチュラで粉砕した。濾過後、20mLのMTBEを用いてこの手順を繰り返した。
【0097】
Cal−B(ノボザイムズ;カンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)からのリパーゼであるノボザイム−435;バッチ番号LC200204)をいかなる前処理もなしに使用した。
【0098】
ジペプチド基準化合物は、次のように化学的に合成した。355μLジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、2.1mmol、2.1当量)を含有する10mLのCHClと30mLのEtOAcとの混合物に、1.0mmolのアミノ酸アミドHCl塩またはアミノ酸Bu−エステルHCl塩を溶解した。この溶液を20mLのCHCl中の1mmolのN−Cbz−保護アミノ酸(1当量)、207mgのN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド・HCl(EDCl・HCl、1.1mmol、1.1当量)、および150mgの7−アザ−N−ヒドロキシベンザトリアゾール(HOAt、1.2mmol、1.2当量)の溶液(0℃)に添加した。混合物を周囲温度で16時間撹拌した。溶液を真空内で濃縮し、残渣を25mLのEtOAcに再溶解して、20mLの水性HCl(pH3、3×)、20mLの鹹水、20mLの飽和水性NaHCO(3×)、20mLの鹹水で洗浄し、乾燥させ(NaSO)、真空内で濃縮した。必要ならばEtOAc/n−ヘプタン混合物を使用した追加的カラムクロマトグラフィーを実施して、純粋なジペプチドを得た。
【0099】
N−Cbz−保護アミノ酸メチルエステルは、次のように合成した。100mLのMeOHをアセトン中のドライアイス浴で−80℃に冷却し、続いて4mLのSOCl(5.5mmol、3.7当量)を滴下して添加した。引き続いて1.5mmolのCbz−保護アミノ酸を添加し、ドライアイス浴から取り出して、混合物を周囲温度で5時間撹拌した。揮発物を真空内で蒸発させ、残渣の残留揮発物をMeOH(3×)と共に同時蒸発させた。得られた残渣を真空内、周囲温度で一晩乾燥させ、純粋なN−Cbz−保護アミノ酸メチルエステルを得た。
【0100】
N−Cbz−保護アミノ酸カルバモイルメチル(Cam)またはトリフルオロエチル(Tfe)エステルの化学合成は次のように実施した。30mLのEtOAcと5mmolのカルバモイルメタノール(CamOH)または2,2,2−トリフルオロエタノール(TfeOH)(5当量)との混合物に、1mmolのN−Cbz−保護アミノ酸を溶解した。引き続いて207mgのEDCl・HCl(1.1mmol、1.1当量)、150mgのHOAt(1.2mmol、1.2当量)、292μlのトリエチルアミン(TEA、1.1mmol、1.1当量)を添加した。反応混合物を周囲温度で20時間撹拌した。引き続いて20mLのEtOAcを添加し、有機混合物を50mLの水性HCl(pH3、2×)、50mLの脱イオン水(2×)、50mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)、真空内で濃縮し、10mLのトルエン(2×)と共に同時蒸発させた。必要ならばEtOAc/n−ヘプタン混合物を使用した追加的カラムクロマトグラフィーを実施して、純粋なエステルを得た。
【0101】
【表1】



【0102】
【表2】



【0103】
【表3】



【0104】
【表4】



【0105】
【表5】



【0106】
[実施例1:アルカラーゼ−CLEAを使用してMe、Cam、およびTfeエステルから出発するジペプチドの酵素的合成]
【化4】



3mLのMTBEと200mgの3Å分子ふるいの混合物に、300mgのアルカラーゼ−CLEAを添加した。引き続いて100mgのN−Cbz−保護アミノ酸エステルと1.0当量のC末端保護アミノ酸を添加した。混合物を50℃、150rpmで16時間振盪した。濾過後、固形物を10mLのEtOAc(3×)で洗浄した。合わせた有機層を25mLの飽和水性NaHCO溶液(3×)、25mLの水性HCl溶液(pH3、3×)、25mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)、真空内で濃縮し、20mLのトルエン(2×)および20mLのCHCl(2×)と共に同時蒸発させた。必要ならばEtOAc/n−ヘプタン混合物を使用した追加的カラムクロマトグラフィーを実施して、純粋なジペプチドを得た。得られた全てのジペプチドのHPLC滞留時間およびH NMRスペクトルは、基準化合物と完全に一致した。得られた収率を下の表に示す。
【0107】
【表6】



【0108】
[実施例2:CamおよびTfeエステルの酵素的合成]
【化5】



以下に示すプロトコル1、2または3の1つを使用して、数種のCamおよびTfeエステルを合成した。
【0109】
[プロトコル1:アルカラーゼ−CLEAを使用したCamまたはTfeエステルの合成]
3mLのMTBE、200mgの3Å分子ふるい、200mgのカルバモイルメタノールまたは2,2,2−トリフルオロエタノール、および50mgのN−Cbz−保護アミノ酸の混合物に、300mgのアルカラーゼ−CLEAを添加した。混合物を50℃、150rpmで72時間振盪した。濾過後、固形物を10mLのEtOAc(3×)で洗浄した。合わせた有機層を25mLの脱イオン水(3×)、25mLの水性HCl溶液(pH=3、3×)、25mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)、真空内で濃縮し、20mLトルエン(2×)および2OmL CHCl(2×)と共に同時蒸発した。
【0110】
[プロトコル2:Cal−Bを使用したCamまたはTfeエステルの合成]
3mLのアセトニトリル、100mgの3Å分子ふるい、200mgのカルバモイルメタノールまたは2,2,2−トリフルオロエタノール、および50mgのN−Cbz−保護アミノ酸の混合物に、100mgのCal−Bを添加した。混合物を50℃、150rpmで16時間振盪した。濾過後、固形物を10mLのEtOAc(3×)で洗浄した。合わせた有機層を25mL脱イオン水(3×)、25mLの水性HCl溶液(pH3、3×)、25mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)、真空内で濃縮し、20mLのトルエン(2×)および20mLのCHCl(2×)と共に同時蒸発させた。必要ならばEtOAc/n−ヘプタン混合物を使用した追加的カラムクロマトグラフィーを実施して、純粋なエステルを得た。
【0111】
【表7】



【0112】
[プロトコル3:Cal−Bを使用したTfeエステルの合成]
3mLのMBTE、100mgの3Å分子ふるい、200mgの2,2,2−トリフルオロエタノール、および50mgのN−Cbz−保護アミノ酸の混合物に、100mgのCal−Bを添加した。混合物を50℃、150rpmで54時間振盪した。対応するTfeエステルへの転換は、HPLC分析によって判定した。
【0113】
【表8】



【0114】
[実施例3:添加剤としてCamまたはTfeアルコールを使用したジペプチドの酵素的合成]
【化6】



以下に示す1〜3のプロトコルの1つを使用して、数種のジペプチドを合成した。
【0115】
[プロトコル1:アルカラーゼ−CLEAと共に添加剤としてCamまたはTfeアルコールを使用したジペプチドの合成]
3mLのMTBE、200mgの3Å分子ふるい、および200mgの適切なアルコールの混合物に、300mgのアルカラーゼ−CLEAを添加した。引き続いて、50mgのN−Cbz−保護アミノ酸と1当量のアミノ酸アミドを添加した。混合物を50℃、150rpmで16時間振盪した。
【0116】
[プロトコル2:Cal−Bと共に添加剤としてCamまたはTfeアルコールを使用したジペプチドの合成]
3mLのアセトニトリル、200mgの3Å分子ふるい、および200mgの適切なアルコールの混合物に、100mgのCal−Bを添加した。引き続いて、50mgのN−Cbz−保護アミノ酸と1当量のアミノ酸アミドを添加した。混合物を50℃、150rpmで16時間振盪した。
【0117】
[プロトコル3:アルカラーゼ−CLEAおよびCal−Bと共に添加剤としてCamまたはTfeアルコールを使用したジペプチドの合成]
3mLのアセトニトリル、200mgの3Å分子ふるい、および200mgの適切なアルコールの混合物に、300mgのアルカラーゼ−CLEAと100mgのCal−Bを添加した。引き続いて50mgのN−Cbz−保護アミノ酸と1当量のアミノ酸アミドを添加した。混合物を50℃、150rpmで16時間振盪した。濾過後、酵素を10mLのEtOAc(3×)で洗浄した。合わせた有機層を25mLの脱イオン水(3×)、25mLの水性HCl溶液(pH3、3×)、25mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)、真空内で濃縮し、20mLのトルエン(2×)および20mLのCHCl(2×)と共に同時蒸発させた。
【0118】
[実施例4:Cal−Bを使用したジ−およびトリペプチドのTfeエステルの酵素的合成]
3mLのメチルtert−ブチルエーテル、100mgの3Å分子ふるい、200mgの2,2,2−トリフルオロエタノール、および50mgのN−Cbz−保護ジ−またはトリペプチドの混合物に、100mgのCal−Bを添加した。混合物を50℃、150rpmで振盪した。対応するC末端Tfeエステルへの転換をHPLC分析によってモニターした。いかなる場合でも、出発化合物は対応するC末端Tfeエステルのみに変換された。出発化合物およびTfeエステル生成物(P)のHPLC滞留時間を下の表に示す。
【0119】
【表9】



【0120】
1および/または2および/または3および/または7日後に、反応混合物からサンプルを取り出した。下の表に示す%Tfeエステル生成物(%P)値は、次式によって計算した。
%P=Tfeエステル生成物の面積%/(出発化合物の面積%+Tfeエステル生成物の面積%)
【0121】
【表10】



【0122】
Cbz−Ala−AlaからCbz−Ala−Ala−OTfeへのエステル化の反応混合物は、次のように精製した。7日後に得られた反応混合物を濾過し、固形物を10mLのEtOAc(3×)で洗浄した。合わせた有機層を25mLの脱イオン水(3×)、25mLの水性HCl溶液(pH3、3×)、25mLの鹹水で洗浄し、乾燥させて(NaSO)、真空内で濃縮した。得られた残渣中の揮発物を20mLのトルエン(2×)と20mLのCHCl(2×)との同時蒸発によって除去した。生成物のクロマトグラフィー精製によって、純粋なCbz−Ala−Ala−OTfeを85%の収率で得た。
H NMR(300MHz,CDCl)δ=1.32(d,J=7.4Hz,3H,CH)、1.37(d,J=7.3Hz,3H,CH)、4.13−4.24(m,1H,CαH)、4.29−4.40(m,1H,CαH)、4.49−4.61(m,2H,OCHCF)、5.05(s,2H,CHOCO)、5.18(bs,1H,NH)、6.41(bs,1H,NH)、7.28(m,5H,CArH);
13CNMR(75MHz,CDCl)δ=16.7、16.8、46.9、49.4、60.0、66.1、119.8、123.5、127.1、127.3、127.6、138.3、170.2、170.9。
【0123】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)N−末端保護アミノ酸、N−末端保護アミノ酸C−末端エステル、N−末端保護ペプチド、またはN−末端保護ペプチドC−末端エステル、および
(ii)それぞれ式HO−CX−Zで表されるアルコール、式HS−CX−Zで表されるチオール
からエステルまたはチオエステルを酵素的に調製するステップであって、
各Xが独立してハロゲン原子または水素原子を表し、
Zがsp−混成炭素に直接付着するヘテロ原子を含んでなる少なくとも2個の置換基を含んでなるsp−混成炭素、およびsp−混成炭素に直接付着するヘテロ原子を含んでなる1または2個の置換基を含んでなるsp−混成炭素の群から選択され、
前記エステルまたはチオエステルの調製が、反応媒体中の液体の重量を基準として2重量%以下の水を含んでなる反応媒体中で実施される、ステップと、
前記調製されたエステルまたはチオエステルを、場合によりC−末端保護されていてもよいアミノ酸、または場合によりC−末端保護されていてもよいペプチドに酵素的にカップリングし、それによって反応媒体総重量を基準にして2重量%以下の水を含んでなる反応媒体中でペプチドを合成するステップと
を含んでなる、ペプチドを酵素的に合成する方法。
【請求項2】
前記カップリングが、前記エステルまたはチオエステルの調製を触媒するために使用される酵素の存在下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記各エステルまたはチオエステルの調製前記カップリングがリパーゼ、エステラーゼ、およびプロテアーゼの群から選択される少なくとも1つの酵素によって触媒される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
プロテアーゼと、リパーゼおよびエステラーゼの群から選択される酵素とが使用され、これらの酵素の少なくとも1つが前記エステルまたはチオエステルの調製を触媒し、他方が少なくとも前記カップリングを触媒する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記エステルまたはチオエステルの調製および前記カップリングの双方が、リパーゼ、エステラーゼ、およびプロテアーゼの群から選択される単一酵素によって触媒される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
カンジダ(Candida)からの、好ましくはカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)からのリパーゼ、特にカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼBの群から選択されるリパーゼが使用される、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記プロテアーゼが、セリン型カルボキシペプチダーゼ、メタロカルボキシペプチダーゼ、システイン型カルボキシペプチダーゼ、セリンエンドペプチダーゼ、システインエンドペプチダーゼ、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ、およびメタロエンドペプチダーゼの群から選択される、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プロテアーゼが、サブチリシンの群から選択されるセリンエンドペプチダーゼ、好ましくはサブチリシンカールスバーグである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの固定化酵素が使用される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エステルの調製および前記カップリングが、1.0重量%以下の水、特に0.5重量%以下の水、とりわけ0.1重量%以下の水を含んでなる反応媒体中で実施される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
Zが、カルバモイル基、トリフルオロメチル基またはトリクロロメチル基である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
双方のXが水素を表す、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記エステルまたはチオエステルの調製が、調製されたエステルまたはチオエステルがそれにカップリングされる前記場合によりC−末端保護されていてもよいアミノ酸または前記場合によりC−末端保護されていてもよいペプチドの存在下において、かつ、前記カップリング反応触媒酵素の存在下において実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記エステルまたはチオエステルが調製された後に、前記場合によりC−末端保護されていてもよいアミノ酸または前記場合によりC−末端保護されていてもよいペプチドが添加される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
調製されたエステルまたはチオエステルを最初に前記反応媒体から単離することなく、前記カップリングが実施される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−509089(P2012−509089A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543777(P2011−543777)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065512
【国際公開番号】WO2010/057961
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】