説明

酵素触媒による大環状ポリエステルオリゴマーの製造方法

第3級アルコールおよび非アルコール溶媒を含む溶媒の存在下、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体とジオール、ヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステル、並びに/あるいは、鎖状エステルオリゴマーから、環状エステルオリゴマーを酵素触媒により製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、ジオール、ヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステル、並びに/あるいは、鎖状エステルオリゴマーから、第3級アルコールおよび非アルコール溶媒を含む反応溶媒混合物を用い、酵素を触媒として環状エステルオリゴマーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状エステルオリゴマー(CEO)は古くから知られている;例えば、米国特許公報(特許文献1)を参照されたい。それらは、多くの鎖状ポリエステル中に、様々な量で、通常は僅かな量で存在することが知られており、そのような鎖状ポリエステルから分離されてきた;例えば(非特許文献1)および(非特許文献2)を参照されたい。それらは、低粘度液体であることが多く、開環重合によって、より高分子量の鎖状ポリエステルに重合できることが以前から知られている;例えば、米国特許公報(特許文献2)および米国特許公報(特許文献3)並びにそれらの中で引用されている参考文献を参照されたい。CEOは、比較的低粘度の液体から高分子量のポリマーを容易に生成するというその特質により、低粘度の物質を型の中で高分子量のポリマーに転換し、最終的な成形品を得る製造プロセス用の材料として、魅力あるものとなっている。それらは、また、電気部品および電子デバイス用のコーティング材や封入材としても、魅力的な候補である。
【0003】
しかしながら、そのようなCEOは、例えば、非常に高い希釈条件を必要とすること、および/または、ジオールや生成するHClと反応させる塩基とともに、ハロゲン化ジアシルなどの比較的高価な出発材料を使用することから、製造は困難かつ高価であった;例えば、米国特許公報(特許文献2)を参照されたい。多くの場合、こうした製造コストの高さのためにCEOの商業的な使用が妨げられてきており、それ故、CEOを低コストで製造する方法が大きな関心事となっている。
【0004】
大環状ポリエステルオリゴマーは、殆ど立体障害のないアミンまたはその混合物と、トリエチルアミンなどの少なくとも1種の他の第3級アミンとの存在下で、ジカルボン酸塩化物と、ビス(4−ヒドロキシブチル)テレフタレートなどの少なくとも1種のビス(ヒドロキシアルキル)エステルとを縮合することによっても製造することができる。縮合反応は、メチレンクロライド、クロロベンゼンまたはこれらの混合物などの、実質的に不活性な有機溶媒中で行われる。例えば、ブルネル(Brunelle)らの米国特許公報(特許文献4)を参照されたい。
【0005】
これらの方法は、ジカルボン酸塩化物が比較的コスト高であること、およびプロセス中で生成する塩酸と反応させる塩基が必要であるという難点を有している。多くの場合、こうした製造コストの高さのために大環状エステルオリゴマーの商業的な使用が妨げられてきており、それ故、CEOを低コストで製造する方法が大きな関心事となっている。
【0006】
大環状ポリエステルオリゴマーまたは大環状コオリゴエステルを製造する他の方法として、有機スズまたはチタン酸塩化合物の存在下で、鎖状ポリエステルポリマーを解重合する方法がある。この方法では、鎖状ポリエステルと、有機溶媒と、スズまたはチタン化合物などのエステル交換触媒との混合物を加熱することによって、鎖状ポリエステルがマクロ鎖状ポリエステルオリゴマーに転換される。o−キシレンおよびo−ジクロロベンゼンなど、使用する溶媒は、通常、実質的に酸素および水を含まないが、チタン酸塩を触媒に使用するときは、細心の注意を払って、溶媒が水分を含まないようにしなければならない。例えば、ブルネル(Brunelle)らの米国特許公報(特許文献5)およびブルネル(Brunelle)らの米国特許公報(特許文献6)、並びに、(非特許文献3)を参照されたい。環と鎖の平衡特性により、出発ポリマーの濃度が増加するにしたがい、鎖状種に対する環状種のパーセント収率は大きく低下する。
【0007】
最近、エステル交換反応に触媒作用を有する酵素を使用して、ジカルボン酸またはそれらのジエステルとジオールとから、ポリエステルを製造できることが見出された;例えば(非特許文献4)、(非特許文献5)および(非特許文献6)を参照されたい。ある場合には、そうした反応で、少量のCEO副産物が生成されるという報告もある;例えば(非特許文献7)を参照されたい。そのような反応において存在するCEOの量に関して報告した研究もある;例えば(非特許文献8)を参照されたい。後者の研究では、酵素触媒反応におけるCEOの生成は、非酵素触媒反応においてCEOの生成を支配する規則と同タイプの規則に従い、また、そうした酵素反応を非常に低濃度の条件で行わないと、非常に僅かのCEOしか生成できないと結論付けている。これらの文献の全てで、重合生成物をさらに高分子量とするために、エステル交換/エステル化の副生物であるアルコールまたは水を除去(通常、不活性ガスの曝気により)している。
【0008】
最近の論文の(非特許文献9)には、ジメチルテレフタレートとジ(エチレングリコール)またはビス(2−ヒドロキシエチル)チオエーテルとの酵素触媒反応により、2量体環状エステルを実質的に完全に生成することができる一方、1,5−ペンタンジオールの使用により、いくらかの鎖状ポリエステルとともに、比較的高い収率で2量体環状エステルを得ることができる方法が記載されている。ジ(エチレングリコール)とビス(2−ヒドロキシエチル)チオエーテルにより、高収率で環状体が得られるのは、2量体環状エステルの生成に有利なπ−スタッキングタイプの近接相互作用によるものである。
【0009】
米国特許公報(特許文献7)および米国特許公報(特許文献8)には、酵素触媒によるポリエステルの環状エステルオリゴマーの製造方法が開示されている。しかしながら、これまで、この分野において、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体とジオールとの反応から、あるいは、CEOの生成を促進する溶媒の混合物中の鎖状エステルオリゴマーから、CEOを製造する方法は知られていない。
【0010】
意外なことに、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体をジオールと、あるいは、鎖状エステルオリゴマーを、反応溶媒の最適混合物中でエステル化/エステル交換酵素触媒の存在下で反応させると、環状エステルオリゴマーが非常に高い収率で得られることがわかった。
【0011】
【特許文献1】米国特許第2,020,298号明細書
【特許文献2】米国特許第5,466,744号明細書
【特許文献3】米国特許第5,661,214号明細書
【特許文献4】米国特許第5,231,161号明細書
【特許文献5】米国特許第5,407,984号明細書
【特許文献6】米国特許第5,668,186号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/0019177号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0054809号明細書
【特許文献9】米国特許第5,039,783号明細書
【非特許文献1】エー・ジー・ハリソン(A.G.Harrison)、「アナリシス・オブ・サイクリック・オリゴマーズ・オブ・ポリ(エチレンテレフタレート)・バイ・リキッド・クロマトグラフィー/マス・スペクトロメトリー(Analysis of cyclic oligomers of poly(ethylene terephthalate) by liquid chromatography/mass spectrometry)」、ポリマー(Polymer)、1997年、第38巻、第10号、2549−2555頁
【非特許文献2】ジー・ウィック(G.Wick)、エッチ・ジートラー(H.Zeitler)、「サイクリック・オリゴマーズ・イン・ポリエステルズ・フロム・ジオールズ・アンド・アロマティック・ジカルボキシリック・アシッズ(Cyclic Oligomers in polyesters from diols and aromatic dicarboxylic acids)」、アンゲバンテ・マクロモレクラーレ・ケミー(Angewandte Makromolekulare Chemie)、1983年、第112巻、59−94頁
【非特許文献3】ディー・ジェイ・ブルネル(D.J.Brunelle)、「サイクリック・ポリマーズ(Cyclic Polymers)」、(オランダ国)、第2版、ジェイ・エー・セムリン(Semlyn)編、2000年、クルベール・アカデミック・パブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers)、185−228頁
【非特許文献4】エックス・ワイ・ウー(X.Y.Wu)ら、「ジャーナル・オブ・インダストリアル・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology)」、1998年、第20巻、328−332頁
【非特許文献5】イー・エム・アンダーソン(E.M.Anderson)ら、「バイオカタリシス・アンド・バイオトランスフォーメーション(Biocatalysis and Biotransformation)」、1998年、第16巻、181−204頁
【非特許文献6】エッチ・ジー・パーク(H.G.Park)ら、「バイオカタリシス(Biocatalysis)」、1994年、第11巻、263−271頁
【非特許文献7】ジー・メゾウル(G.Mezoul)ら、ポリマー・ビュレティン(Polymer Bulletin)、1996年、第36巻、541−548頁
【非特許文献8】シー・バーケーン(C.Berkane)ら、「マクロモルキュールズ(Macromolecules)」、1997年、第30巻、7729−7734頁
【非特許文献9】エイ・ラバレット(A.Lavalette)ら、「バイオマクロモルキュールズ(Biomacromolecules)」、2002年、第3巻、225−228頁
【非特許文献10】エフ・ダブリュー・ビルメイヤー(F.W.Billmeyer)、「テキストブック・オブ・ポリマー・サイエンス(Textbook of Polymer Science)」、第3版、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、1984年、25−48頁
【非特許文献11】柴田充弘ら、「デポリメリゼーション・オブ・ポリ(ブチレンズ・テレフタレート)・ユージング・ハイ−テンプリチャー・アンド・ハイ−プレッシャー・メタノール(Depolymerization of poly(butylenes terephthalate) using high−temperature and high−pressure methanol)」、ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J.Applied Polymer Science)、2000年、第77巻、第14号、3228−3233頁
【非特許文献12】クマー(Kumar)、ラジェシュ(Rajesh)ら、「エンザイマティック・シンセシス・オブ・マルチ−コンポーネント・コポリマーズ・アンド・ゼア・ストラクチュラル・キャラクタリゼーション(Enzymatic Synthesis of multi−component copolymers and their structural characterization)」、ポリマー・プレプリンツ(Polymer Preprints)、アメリカン・ケミカル・ソサエティ、ディビジョン・オブ・ポリマー・ケミストリー(American Chemical Society,Division of Polymer Chemistry)、2003年、第44巻、第1号、998−999頁
【非特許文献13】エッチ・ジェイコブソン(H.Jacobson)およびダブリュー・エッチ・ストックメイヤー(W.H.Stockmeyer)、「インターモルキュラー・リアクション・アンド・ポリコンデンセーション・I.ザ・セオリー・オブ・リニア・システムズ(Intermolecular Reaction and Polycondensation I.The Theory of Linear Systems)」、ザ・ジャーナル・オブ・ケミカル・フィジックス(The Journal of Chemical Physics)、1950年12月、第18巻、第12号
【非特許文献14】アール・ジェイ・カズラウカス(R.J.Kazlaukas)ら、「バイオテクノロジー(Biotechnology)」、「バイオトランスフォーメーション・ウィズ・リパーゼズ(Biotransformation with Lipases)」の章、(独国)、第2版、第8a巻、エッチ・ジェイ・レーム(H.J.Rehm)ら編、ウィリー−ブイシーエッチ(Wiley−VCH)、バインハイム(Weinheim)、1998年、40−191頁
【非特許文献15】ジー・イー・ビッカースタッフ(G.E.Bickerstaff)編、「イモビライゼーション・オブ・エンザイムズ・アンド・セルズ(Immobilization of Enzymes and Cells)」、フマーナ・プレス(Humana Press)、トトワ(Totowa)、ニュージャージー州(NJ)、1997年
【非特許文献16】ジェイ・アンダーソン(J.Anderson)、ティー・バイルン(T.Byrne)、ケイ・ジェイ・ウェルフェル(K.J.Woelfel)、ジェイ・イー・ミーニー(J.E.Meany)、ジー・ティー・スパイリディス(G.T.Spyridis)、ワイ・ポッカー(Y.Pocker)、「ジャーナル・オブ・ケミカル・エデュケーション(Journal of Chemical Education)」、1994年、第71巻、715−718頁
【非特許文献17】ティー・フルタニ(T.Furutani)、アール・シュ(R.Su)、エッチ・オオシマ(H.Ooshima)、ジェイ・カトウ(J.Kato)、「エンザイム・アンド・マイクロバイアル・テクノロジー(Enzyme and Microbial Technology)」、1995年、第17巻、1067−1072頁
【非特許文献18】ジェイ・ツォウ(J.Zhou)、アール・ジェイ・アイン(R.J.Ain)、シー・エム・リリー(C.M.Riley)、アール・エル・ショーウェン(R.L.Schowen)、「アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)」、1995年、第231巻、265−267頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
環状エステルオリゴマーの製造方法であって、
(a)(i)少なくとも1種のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、少なくとも1種のジオール、
(ii)少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステル、並びに、
(iii)少なくとも1種の鎖状エステルオリゴマー
の1つまたは複数から選択される第1の成分と、
(b)エステルのエステル交換反応、カルボン酸のエステル化反応および/またはエステルの加水分解反応を触媒することができる少なくとも1種の酵素を含む第2の成分と
を含む成分を、溶媒中で反応させる工程を含み、
溶媒が、約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の第3級アルコールおよび約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の非アルコール溶媒を含み、重量パーセントは溶媒の全重量を基準にしていることを特徴とする方法を、ここに開示し、かつ、権利請求するものである。
【0013】
さらに、環状エステルオリゴマーからの、鎖状ポリエステルの製造方法および鎖状ポリエステルの成形品を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において、用語「ジカルボン酸」は、2個のカルボン酸基を有する有機化合物をいう。用語「ジカルボン酸誘導体」は、モノエステル、ジエステル、あるいは、2種以上のジエステル、2種以上のモノエステル、または、少なくとも1種のジエステルと少なくとも1種のモノエステルの混合物などの、ジカルボン酸から誘導される化合物をいう。ジカルボン酸またはジカルボン酸誘導体は、ここで示す方法に記載された各種反応を実質的に阻害することのない、アルキル、ハロゲン、エーテル、チオエーテルおよびオキソ(ケト)などの1つまたは複数の官能基で置換されていてもよい。ジカルボン酸またはジカルボン酸誘導体は、その構造の一部に芳香環を含んでいてもよい。ジカルボン酸またはジカルボン酸誘導体は、脂肪族ジカルボン酸であってもよい。用語「ヒドロキシカルボン酸エステル」は、ヒドロキシ基およびカルボン酸エステル基を有する有機化合物を意味する。
【0015】
「ジオール」は、2個のヒドロキシ基を有する有機化合物またはその簡単な誘導体を意味する。ジオールは、ここで示す方法に記載された各種の反応を実質的に阻害することのないハロゲン、エーテル、チオエーテルおよびオキソ(ケト)などの1つまたは複数の官能基で置換されていてもよい。ジオールは、その構造の一部に芳香環を含んでいてもよい。
【0016】
「モノマー」は、上で定義したようなジカルボン酸、ジカルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸エステルまたはジオールを意味する。
【0017】
「環状エステルオリゴマー」(CEO)は、少なくとも1種のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、少なくとも1種のジオールとから、少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルから、あるいは、少なくとも1種のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、少なくとも1種のジオールと、少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルとの組み合わせから誘導される環状化合物を意味する。ジオール、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体、並びに、ヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルから誘導されたCEO中の部分は、エステル基によって結合している。
【0018】
「二量体」CEOは、ここでは、少なくとも1種のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、少なくとも1種のジオールから誘導され、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体から誘導された2つの単位と、ジオールから誘導された2つの単位を有する環式化合物を意味するが、一方、二量体CEOがヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルから生成されるときは、それはそのような分子2つから誘導される。三量体、四量体などのCEOは同様に定義される。CEOは、2種以上の異なるジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体、2種以上の異なるジオール、並びに/あるいは、2種以上のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルから生成されてもよい。CEOは、約1〜約20、好ましくは約1〜約10、より好ましくは約1〜約5の重合度(DP)を有することが好ましい。
【0019】
「鎖状エステルオリゴマー」(LEO)は、ここでは、1種または複数のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、1種または複数のジオールから、1種または複数のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルから、あるいは、1種または複数のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、1種または複数のジオールと、1種または複数のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルとの組み合わせから誘導される鎖状化合物を意味する。LEOは、約1〜約20、好ましくは約1〜約10、より好ましくは約1〜約5の重合度(DP)を有することが好ましい。
【0020】
LEOは、溶融重合;溶液重合;酵素触媒重合;ポリエステルの熱解重合、ポリエステルのアルコール分解(例えば、メタノール分解)およびポリエステルの加水分解などのポリエステルの解重合;または当業者に知られた他の方法によって生成することができる。溶融重合の使用例としては、(非特許文献10)を参照されたい。解重合の使用例としては、(非特許文献11)を参照されたい。酵素触媒の使用例としては、(非特許文献12)を参照されたい。
【0021】
用語「鎖状エステルオリゴマー」(LEO)は、1種または複数のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、1種または複数のジオールとから、1種または複数のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルから、あるいは、1種または複数のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、1種または複数のジオールと、1種または複数のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステルとの組み合わせから誘導される少なくとも1種の鎖状化合物と、LEOをエステル交換触媒の存在下の重合または解重合により生成するときに自然に含まれてくるCEOの両者を含む混合物も包含するものである。自然に含まれてくるCEOの量は、(非特許文献13)に示されているように、熱力学的平衡から予測される。
【0022】
本発明の方法で使用されるか、または、本発明の方法で使用されるLEOの生成に使用されるジオールの好ましい1つのタイプは、各ヒドロキシル基が異なるアルキル炭素原子と結合している脂肪族ジオールである。他の好ましいジオールとしては、一般式HOCH(CRCHOH(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはアルキル基であり、nは0〜10の整数である。RおよびRが全て水素であることが好ましく、特にnが0または1〜4の整数であることが好ましく、nが1または2であることがより好ましい)で示されるジオールが挙げられる。一般式HO((CHO)Hで示されるジオールもまた好ましく、pは2〜15、rは1〜10である。同じ一般式で、pが2〜10、rが1〜5であるジオールがより好ましい。好ましいジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジ(エチレングリコール)、ジ(ブチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、トリ(ブチレングリコール)またはこれらの混合物;エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジ(エチレングリコール)、ジ(ブチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、トリ(ブチレングリコール)を併用するジメチルイソフタレートが挙げられる。シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオールもまた好ましい。ハイドロキノンなどの芳香族ジオールも、チオエーテルと同様に使用することができる。
【0023】
本発明の方法で使用されるか、または、本発明の方法で使用されるLEOの生成に使用される好ましいジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体としては、イソフタル酸、置換イソフタル酸、テレフタル酸、置換テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、およびこれらの組み合わせ、並びにこれらのジカルボン酸誘導体などの、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。より好ましいカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸およびこれらのジカルボン酸誘導体であり、テレフタル酸およびそのジカルボン酸誘導体が特に好ましい。好ましい脂肪族ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体は、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、セバシン酸、マレイン酸、およびこれらのジカルボン酸誘導体である。使用するジカルボン酸誘導体はジエステルの形態であることが特に好ましい。本発明においては、好ましいジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、上記一般式で示したジオールのいかなる組み合わせも使用することができる。
【0024】
本発明の方法で使用されるか、または、本発明の方法で使用されるLEOの生成に使用される、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体とジオールとの好ましい組み合わせとしては、ジメチルテレフタレートと、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジ(エチレングリコール)、ジ(ブチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、トリ(ブチレングリコール)またはこれらの混合物との組み合わせ;ジメチルイソフタレートと、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジ(エチレングリコール)、ジ(ブチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、トリ(ブチレングリコール)またはこれらの混合物との組み合わせ、ジメチルテレフタレートとシクロヘキサンジメタノールとの組み合わせ;および、ジメチル2,6−ナフタレンジカルボキシレートと、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジ(エチレングリコール)、ジ(ブチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、トリ(ブチレングリコール)またはこれらの混合物との組み合わせが挙げられる。
【0025】
p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸およびこれらのエステルなどの、ヒドロキシカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸エステルを使用するときは、ジオールと、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体の、コモノマーとして使用することが好ましい。
【0026】
本発明の方法においては、反応物質を溶媒に溶解し、少なくとも1種の酵素の存在下で反応させて、環状エステルオリゴマーを生成する。本発明の反応物質は、少なくとも1種のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、少なくとも1種のジオール;少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/または少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸エステル;並びに、少なくとも1種の鎖状エステルオリゴマーからなる群より選択される1つまたは複数である。
【0027】
本発明の方法で使用される溶媒は、溶媒の全重量基準で、約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の第3級アルコールおよび約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の非アルコール溶媒、または、好ましくは約40〜約60重量パーセントの少なくとも1種の第3級アルコールおよび約40〜約60重量パーセントの少なくとも1種の非アルコール溶媒を含む。
【0028】
第3級アルコール溶媒は、約4〜約8個の炭素原子を有し、かつ、一般式(R)(R)(R)COHで示されることが好ましく、R、RおよびRは、独立して、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチルおよび他のペンチル異性体から選択されることが好ましい。好ましい第3級アルコールは、tert−アミルアルコール、2,3−ジメチル−2−ブタノールおよび3−エチル−3−ペンタノールである。
【0029】
非アルコール溶媒は、水酸基を有さず、第3級アルコールに溶解し、かつ、反応物質を溶解する全ての溶媒である。芳香族溶媒および/または塩素化溶媒が特に好ましい。好ましい非アルコール溶媒としては、トルエン、べンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、メチレンクロライド、メチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、メチルイソブチルケトンおよびクロロホルムが挙げられる。
【0030】
本発明で使用される酵素は、カルボン酸のエステル化反応、エステルのエステル交換反応および/またはエステルの加水分解に対して触媒作用を有する少なくとも1種の酵素である。使用することができる酵素の代表的なタイプとしては、リパーゼ、プロテアーゼおよびエステラーゼが挙げられる。例えば、(非特許文献14)を参照されたい。酵素は反応混合物に溶解せず、固体物質に付着(担持ないし固定化する)させてもよい;例えば、(非特許文献15)を参照されたい。担体としては、珪藻土、多糖類(例えば、キトサン、アルギン酸塩またはカラゲナン)、チタニア、シリカ、アルミナ、ポリアクリレート、ポリメタクリレートおよびイオン交換樹脂が挙げられ、酵素は、吸着させてもよく、共有結合で結合させてもよく、イオン的に結合させてもよく、あるいは架橋化酵素結晶(CLECS)の形態としてもよい。酵素は、また、予め担体に固定化せずに使用してもよく、攪拌した反応混合物に懸濁させてもよい。固定化酵素の比活性は、約0.1IU/g固定化酵素〜約2000IU/g固定化酵素であることが好ましく、約10IU/g固定化酵素〜約500IU/g固定化酵素であることがより好ましい。
【0031】
本発明で使用される好ましい酵素は、アスペルギルス属(Aspergillus)、アルトロバクター属(Arthrobacter)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、桿菌属(Bacillus)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、カンジダ属(Candida)、フザリウム属(Fusarium)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ヒューミコラ属(Humicola)、ムコール属(Mucor)、ピチア属(Pichia)、ペニシリウム属(Penicillium)、リゾムコール属(Rhizomucor)、クモノスカビ属(Rhizopus)またはサームス属(Thermus)の有機体由来の細菌性および真菌性酵素触媒である。より好ましい細菌性および真菌性酵素触媒は、アルトロバクター種(Arthrobacter sp.)、アルカリゲネス種(Alcaligenes sp.)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、こうじ菌(Aspergillus oryzae)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、リケニホルミス菌(Bacillus licheniformis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブルコルデリア・プランタリー(Burkholderia plantarii)、カンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)、カンジダ・リポリチカ(Candidia lipolytica)、カンジダ・ユティリス(Candida utilis)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、クロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、ゲオトリクム・カンディドゥム(Geotrichum candidum)、ヒューミコラ・ラヌギノザ(Humicola lanuginosa)、ムコール種(Mucor sp.)、ムコール・ジャポニクス(Mucor japonicus)、ムコール・ジャワニクム(Mucor javanicum)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、ピチア・ミソ(Pichia miso)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾープス種(Rhizopus sp.)、リゾープス・ニグリカンス(Rhizopus nigricans)、リゾープス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、リゾープス・アルヒズス(Rhizopus arrhizus)、リゾープス・デレマール(Rhizopus delemar)、リゾープス・ニべウス(Rhizopus niveus)、ペニシリウム・アシラーゼ(Penicillium acylase)、ペニシリウム・ロクエフォルティ(Penicillium roqueforti)、サームス・アクアティクス(Thermus aquaticus)、サームス・フラヴス(Thermus flavus)、サームス・テルモフィルス(Thermus thermophilus)、クロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)、バークホルデリア・セバシア(Burkholderia cepacia)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・バークホルデリア(Pseudomonas burkholderia)、シュードモナス・セバシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)またはシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)由来のものである。特に、リパーゼは、カンジダ・アンタルチカ リパーゼB(Candida antartica lipase B)「CALB」など、バークホルデリア・セバシア(Burkholderia cepacia)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)またはカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のものである((非特許文献5)を参照されたい)。適切な商業的に入手可能なC.アンタルチカ(C.antartica)由来の触媒の例としては、ノボザイム(Novozym)(登録商標)435(製品番号#L4777、シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)、ミズーリ州(MO))およびキラザイム(CHIRAZYME)L−2、c−fC2、lyo(ID番号#2207257、バイオキャタリティックス(BioCatalytics)、パサディナ(Pasadena)、カリフォルニア州(CA))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましいバークホルデリア・セバシア(Burkholderia cepacia)由来のリパーゼは、PS−C「アマノ(Amano)」IおよびPS−D「アマノ(Amano)」Iであり、米国、イリノイ州、ロンバードのアマノ・エンザイム(Amano Enzyme,USA(Lombard,IL))から入手可能である。好ましいシュードモナス種(Pseudomonas sp.)由来のリパーゼは、ICR−107、ICR−108およびICR−113であり、バイオキャタリティック(BioCatalytics)から入手可能である。
【0032】
用語「由来の」とは、酵素がその特定の生物から単離できるか、または他の方法で取得できることを意味する。酵素は、全細胞または透過化した細胞の一部として使用してよく、また、部分的に精製してもよく、全体を精製してもよい。
【0033】
本発明のプロセスは、酵素が所望の反応に対して触媒活性を示す温度で実施される。温度の上限は、通常、酵素が活性な触媒でなくなる温度である。これは、反応媒体中で酵素が変性する温度であることが多い。この上限温度は使用する酵素および使用するプロセス内容物、特に予め選択した溶媒によって変化するであろう。通常、この温度は約0℃〜約130℃の範囲(後者は、耐熱微生物から単離された酵素のような高温用の特別な酵素を使用する場合である)である。温度が高くなるほど反応が速くなることが多く、また、各種プロセス内容物の溶解度が増すことが通常であるから、一般により高い温度(但し、酵素が活性を停止する温度未満)であることが好ましい。本発明の一実施形態では、好ましい温度範囲は約40〜約100℃の範囲であり、より好ましい温度範囲は約60〜80℃である。
【0034】
プロセスにおける反応物質の好ましい濃度は、それぞれgおよびmLで表した反応物質の全重量および反応混合物の体積を基準として、少なくとも1〜約25w/vパーセントであり、より好ましい濃度は、約3〜約15w/vパーセントである。これらの濃度の上限値は、一つには、反応物質を溶液として維持しようとする要求によって決定される。これらの濃度は、反応が行われている温度での値である。反応の過程で濃度を変えてもよい。反応過程を通して、濃度を維持または変更するために、反応物質を連続的または間歇的に加えてもよい。
【0035】
反応物質がジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体とジオールとを含むとき、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体とジオールの好ましい比は、約0.7:1〜1.3:1の間である。
【0036】
本発明の方法は、バッチ式でも、セミバッチ式でも、あるいは、連続式でもよい。酵素は固体担体に坦持させてもよいし、あるいは坦持させずに使用してもよい。それは固定層で使用してもよいし、あるいは溶媒中に懸濁させてもよい。
【0037】
全プロセスを通じて、酵素の触媒活性状態を保つため、反応混合物中に十分な水が存在するようにしなければならない。反応物質が、無水物でないならば、必要な濃度の水を供給してもよい。プロセスの最初に適当な量の水を溶媒に加える必要がある場合があり、全プロセスを通じて水の供給を続ける必要がある場合もある。反応全体を通じて酵素の活性を維持するのに必要な水の量は、CEOの生成速度を測定することによって決定できる。酵素の活性評価の方法については、(非特許文献16)、(非特許文献17)および(非特許文献18)を参照されたい。一般に、溶媒の親水性が高いほど、多くの水が存在しなければならず、特に、生成するアルコールなどの、エステル交換/エステル化プロセスの副生物を除くために、反応混合物を不活性ガスで連続的にパージする場合はそうである。例えば、溶媒としてヘキサンを使用するとき、反応の全過程にわたって酵素活性を維持するためには、約50ppmの水が必要である。トルエンを使用するときは、反応の全過程にわたって酵素活性を維持するために、約100〜約200ppmの水が必要であり、メチルイソブチルケトンを使用するときは、約400〜500ppmの水が必要である。溶媒中に存在する水の量は、カール−フィッシャー(Karl−Fischer)滴定法または当業者に知られた他の方法で測定することができる。
【0038】
反応混合物は、プロセス中、好ましくは不活性ガスで連続的にパージして、生成したアルコールなどのエステル交換/エステル化プロセスの副生物を除去することが好ましい。このパージプロセスによって水もまた除かれることがあり、その場合、全プロセスを通じて水を加え、水の量を維持して、酵素活性が維持されるようにする必要がある。パージプロセスによって溶媒が除去されるなら、場合により、同様に、全プロセスを通じて溶媒を追加しなければならない。
【0039】
本発明の方法で生成したCEOは、当業者に知られた方法で回収することができる。例えば、CEOが固体ならば、溶液を冷却することにより、および/または溶媒の一部または全部を除去することにより、および/またはCEOが溶解しない溶媒を追加することにより、そして、固体CEOを、例えば、ろ過により回収することにより、溶液から回収することができる。CEOは、結晶化、液−液抽出などにより回収することができる。他の成分(出発物質またはLEOなど)を含む混合物からCEOを単離するために使用できる他の方法としては、選択結晶化;CEOを含む溶液を半透膜に通す;ショートパス蒸留などの蒸留技術の使用;昇華;溶融結晶化;選択溶媒または選択吸着材などの使用などが挙げられる。
【0040】
本発明の方法により生成される好ましいCEOは、1,4−ブタンジオールとジメチルテレフタレートから誘導される2量体(3,8,15,20−テトラオキサトリシクロ[20.2.2.210,13]オクタコサ−10,12,22,24,25,27−ヘキサエン−2,9,14,21−テトラオン)(CBPT)(構造1);1,4−ブタンジオールとジメチルテレフタレートから生成される3量体(3,8,15,20,27,32−ヘキサオキサテトラシクロ[32.2.2.210,13.222,25]ドテトラコンタ−10,12,22,24,34,36,37,39,41−ノナエン−2,9,14,21,26,33−ヘキサオン);1,3−プロパンジオールとジメチルテレフタレートから生成される2量体(3,7,14,18−テトラオキサトリシクロ[18.2.2.29,12]ヘキサコサ−9,11,20,22,23,25−ヘキサエン−2,8,13,19−テトラオン)(構造2);ジ(エチレングリコール)とジメチルテレフタレートから生成される2量体(3,6,9,16,19,22−ヘキサオキサトリシクロ[22.2.2.211,14]トリアコンタ−11,13,24,26,27,29−ヘキサエン−2,10,15,23−テトラオン)(構造3);およびエチレングリコールとジメチルテレフタレートから生成される3量体(3,6,13,16,23,26−ヘキサオキサテトラシクロ[26.2.2.28,11.218,21]ヘキサトリアコンタ−8,10,18,20,28,30,31,33,35−ノナエン−2,7,12,17,22,27−ヘキサオン)である。
【0041】
【化1】

【0042】
1,4−ブタンジオールとジメチルテレフタレートから、1,3−プロパンジオールとジメチルテレフタレートから、ジ(エチレングリコール)とジメチルテレフタレートから誘導される分子量がより大きいオリゴマー;1,4−シクロヘキサンジメタノールとジメチルテレフタレートから誘導されるオリゴマー;1,5−ペンタンジオールとジメチルテレフタレートから誘導されるオリゴマー;1,6−ヘキサンジオールとジメチルテレフタレートから誘導されるオリゴマー;エチレングリコールとジメチル2,6−ナフタレンジカルボキシレートから誘導されるオリゴマー;および上記の2種以上から誘導されるCEOもまた好ましいCEOである。
【0043】
本発明の方法により生成されるCEOは、分子量のより大きいポリエステルに重合することができ、それらは、射出成形、ブロー成形、押出成形、ファイバ、フィラメントおよびフィルムにおいて多くの用途を持ち、耐久製品や使い捨て製品の製造に有用である。
【0044】
次の方法に限定するものではないが、射出回転成形、レジンフィルムインフュージョン、レジントランスファー成形、フィラメントワインディング、プリプレグまたはフィルムを製造するための粉末コーティング、熱溶融プリプレグの調製、圧縮成形、ロールラッピングおよび引抜成形などの方法を使用して、物品を成形する過程で、重合を行わせてもよい。重合はCEOの融点より高い温度で行うことが好ましい。
【0045】
鎖状ポリエステルへのCEOの重合に関しては、米国特許公報(特許文献9)および米国特許公報(特許文献2)に記載されており、また、(非特許文献3)にディー・ジェイ・ブルネル(D.J.Brunelle)によるレビューがある。
【0046】
重合は、有機スズ化合物、チタン酸エステル、カルベン、サリチル酸のアルカリ金属塩、第一スズアルコキシド、有機スズ化合物および金属アセチルアセトナートなどの重合触媒の存在下で行うことが好ましい。
【0047】
鎖状ポリエステルへの重合の前または途中で、強化剤、鉱物フィラーおよび他の添加剤などの添加剤をCEOに加えてもよい。これらの添加剤は、得られるポリエステルに取り込まれるであろう。適切な添加剤の例としては、ガラス繊維、ヒュームドシリカ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、短繊維、フライアッシュ、ガラス微小球体、マイクロバルーン、砕石、ナノクレー、鎖状ポリマー、窒化ホウ素、染料、顔料、磁性材料、酸化防止剤、UV安定剤、熱安定剤、可塑剤、難燃剤、滑剤および離型剤を挙げることができる。
【0048】
CEOから製造される物品としては、自動車のボディパネルおよびシャーシ部品、バンパービーム、航空機の翼外板、風車の羽根、流体貯蔵タンク、トラクターのフェンダー、テニスラケット、ゴルフシャフト、ウインドサーフィンマスト、玩具、ロッド、チューブ、バー、ストック、自転車のフォーク、機械のハウジングなどが挙げられる。
【実施例】
【0049】
(略語)
次の略語を使用する:「DMT」はジメチルテレフタレート;「BDO」は1,4−ブタンジオール;「min」は分;「g」はグラム;「mg」はミリグラム;「mM」はミリモル、「GC」はガスクロマトグラフィを意味する。
【0050】
(原料)
ジメチルテレフタレート(CAS#120−61−6)および1,4−ブタンジオール(CAS#110−63−4)は、ミルウォーキー州ウィスコンシンのアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin))から入手し、そのまま使用した。tert−アミルアルコール(CAS#75−85−4)は、ミルウォーキー州ウィスコンシンのアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin))から入手した。これは、使用するまで4Åの活性化モレキュラーシーブ上で保管し、水分含有率は約380ppmであった。トルエン(CAS#109−88−3)は、ニュージャージー州ギッブスタウンのEMD・ケミカルズ(EMD Chemicals(Gibbstown,New Jersey))から入手し、そのまま4Åの活性化モレキュラーシーブ上で保管し、水分含有率は130ppmであった。
【0051】
(生成物分析)
実施例1、2、5および6と、比較例1〜4、7および12〜15の反応の主要生成物は、CPBT(構造1)であった。より高分子量の環状オリゴマーも付加的に生成された。実施例3と、比較例8および9の反応の主要生成物は、1,6−ヘキサンジオールおよびジメチルテレフタレートからなる2量体CEOである。より高分子量のCEOも付加的に生成される。実施例4と、比較例10および11の反応の主要生成物は、1,5−ペンタンジオールおよびジメチルテレフタレートからなる2量体CEOである。より高分子量のCEOも付加的に生成される。
【0052】
試料は、LCにより以下の方法を使用して分析する。反応混合物に使用される反応溶媒を、30〜50℃の温度で真空下に除去する。溶媒を除去する前に、元の反応容積の約1〜3倍量のクロロホルムを加える。ある場合には、反応溶媒を除去せず、クロロホルムを直接反応混合物に加える。生成物と残留反応物質を溶解するのに十分な量のクロロホルムを加える。加えるクロロホルムの量は、使用した反応物質の元の濃度に依存する。オリゴマーと、未反応のジオールおよびジエステルが、クロロホルムに容易に溶解するのに対し、非坦持または坦持酵素はクロロホルムの液面に浮く。透明溶液から一定量を分取し、ろ過する。適切な標準を含む等容積のクロロホルムをろ過した分取液に加え、LCバイアルに充填する。分析は、UVダイオードアレイディテクタを備えたウォーター−アライアンスセパレーションズ製HPLC1100モジュール2695液体クロマトグラフ(Water−Alliance Separations HPLC 1100 module 2695 Liquid Chromatograph)を用いて行う。直径4.6mm、長さ250mm、粒子径5ミクロンのスフェリソーブシリカカラム(Spherisorb silica column)(カタログ番号#Z226025、スペルコ・インコーポレーティッド(Supelco Inc.))を使用する。全流量0.5ml/minで、溶媒勾配混合移動相を使用する。まず、移動相に体積比50/50のオクタンとクロロホルムの混合物を使用する。この混合物は、10分間で100%のクロロホルムへと直線的に変化し、その後、25分には50/50の混合物に戻る。環状オリゴマーのピークを、保持時間により同定する。対応する高分子量ポリマーから抽出するか、または、前の反応から単離した純粋な環状オリゴマーのサンプルを使用し、予想される環状オリゴマーのピークの保持時間を求める。ピークの同定は、HPLC−MSにより独立して確認する。環状オリゴマーの濃度は、内部標準と、その標準に対する分離された純オリゴマーの応答係数を用いて求める。見掛けの収率は、HPLCで観察された全てのピーク(溶媒と標準を除く)の全面積に対する環状成分のHPLC面積パーセントに基づいて求める。
【0053】
(実施例1および比較例1、2)
40mLのガラスバイアル中で、酵素ノボザイム(登録商標)435(Novozym(登録商標)435)の存在下、1,4−ブタンジオール(BDO)とジメチルテレフタレート(DMT)を反応させて、一連のバッチ反応を行った。実施例1では、溶媒として、重量比50/50のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例1では、溶媒として、重量比75/25のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例2では、溶媒として、トルエンを使用した。
【0054】
それぞれの場合で、BDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとした。酵素の仕込み量は6重量パーセント(酵素の担体を含む)とした。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行った。電磁攪拌棒で攪拌した。70℃で96時間反応させた。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流した。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌した。担体担持酵素は液面に浮いた。HPLCおよびGC分析用に、得られた溶液の一部を採取した。HPLC分析の結果、DMTの消費量に基づく転化率は、3つの全ての反応で、>90%であった。
【0055】
実施例1では、環状オリゴマーの収率は約20%であった。比較例1では、環状オリゴマーの収率は約7%であった。比較例2では、環状オリゴマーの収率は約9%であった。
【0056】
(実施例2および比較例3、4)
40mLのガラスバイアル中で、酵素ノボザイム(登録商標)435(Novozym(登録商標)435)の存在下、1,4−ブタンジオール(BDO)とジメチルテレフタレート(DMT)を反応させて、一連のバッチ反応を行った。実施例2では、溶媒として、重量比50/50のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例3では、溶媒として、重量比75/25のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例4では、溶媒として、トルエンを使用した。
【0057】
それぞれの場合で、BDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約75mMとした。酵素の仕込み量は6重量パーセント(酵素の担体を含む)とした。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行った。電磁攪拌棒で攪拌した。70℃で168時間反応させた。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流した。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌した。担体担持酵素は液面に浮いた。HPLCおよびGC分析用に、得られた溶液の一部を採取した。HPLC分析の結果、DMTの消費量に基づく転化率は、3つの全ての反応で、>90%であった。
【0058】
実施例2では、環状オリゴマーの収率は約25%であった。比較例3では環状オリゴマーの収率は約3%であった。比較例4では、環状オリゴマーの収率は約5%であった。
【0059】
(比較例5〜7)
比較例5〜7では、エステル(交換)反応用として、非酵素触媒である下記のN−メシチル複素環式カルベン含有触媒を使用した。
【0060】
【化2】

【0061】
実施例1および2と比較例1〜4で使用したものと同一の、注意深くコントロールされた加熱反応ブロックを使用して、20mLのガラスバイアル中で前記と同様のバッチ反応を行った。比較例5では、溶媒として、重量比50/50のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例6では、溶媒として、重量比75/25のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例7では、溶媒として、トルエンを使用した。
【0062】
それぞれの場合で、BDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとした。メシチル複素環式カルベンの仕込み量は0.24重量パーセントとした。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行った。電磁攪拌棒で攪拌した。50℃で8時間反応させた。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流した。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌した。HPLCおよびGC分析用に、得られた溶液の一部を採取した。HPLC分析の結果、DMTの消費量に基づく転化率は、3つの全ての反応で、>90%であった。
【0063】
比較例5および6では、環状オリゴマーの生成は観察されなかった。比較例7では、環状オリゴマーの収率は6%であった。
【0064】
(実施例3および比較例8、9)
40mLのガラスバイアル中で、ある組成範囲の反応溶媒を使用し、かつ、酵素ノボザイム(登録商標)435(Novozym(登録商標)435)を使用して、1,6−ヘキサンジオール(HDO)とジメチルテレフタレート(DMT)の一連のバッチ反応を行う。実施例3では、溶媒として、重量比50/50のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例8では、溶媒として、重量比75/25のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例9では、溶媒として、トルエンを使用した。
【0065】
それぞれの場合で、HDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとする。固定化酵素の仕込み量は6重量パーセントである。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行う。電磁攪拌棒で攪拌する。70℃で96時間反応させる。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流す。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌する。固定化酵素を混合物から分離し、得られた溶液のサンプルをHPLCおよびGCにより分析する。HPLC分析の結果、DMTおよびHDOの転化率は、3つの全ての反応で、>90%である。実施例3では、比較例8および9と比較して、環状エステルオリゴマーの収率が向上していることが観察される。
【0066】
(実施例4および比較例10、11)
40mLのガラスバイアル中で、ある組成範囲の反応溶媒を使用し、かつ、酵素ノボザイム(登録商標)435(Novozym(登録商標)435)を使用して、1,5−ペンタジオール(PDO)とジメチルテレフタレート(DMT)の一連のバッチ反応を行う。実施例4では、溶媒として、重量比50/50のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例10では、溶媒として、重量比75/25のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例11では、溶媒として、トルエンを使用した。
【0067】
それぞれの場合で、PDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとする。固定化酵素の仕込み量は6重量パーセントである。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行う。電磁攪拌棒で攪拌する。70℃で96時間反応させる。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流す。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌する。固定化酵素を混合物から分離し、得られた溶液のサンプルをHPLCおよびGCにより分析する。HPLC分析の結果、DMTおよびHDOの転化率は、3つの全ての反応で、>90%である。実施例4では、比較例10および11と比較して、環状エステルオリゴマーの収率が向上していることが観察される。
【0068】
(実施例5および比較例12、13)
40mLのガラスバイアル中で、ある組成範囲の反応溶媒を使用し、かつ、酵素ノボザイム(登録商標)435(Novozym(登録商標)435)を使用して、1,4−ブタンジオール(BDO)とジメチルテレフタレート(DMT)の一連のバッチ反応を行う。実施例5では、溶媒として、重量比50/50の2,3−ジメチル−2−ブタノールとトルエンの混合物を使用した。比較例12では、溶媒として、重量比75/25の2,3−ジメチル−2−ブタノールとトルエンの混合物を使用した。比較例13では、溶媒として、トルエンを使用した。
【0069】
それぞれの場合で、BDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとする。固定化酵素の仕込み量は6重量パーセントである。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行う。電磁攪拌棒で攪拌する。70℃で96時間反応させる。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流す。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌する。固定化酵素を混合物から分離し、得られた溶液のサンプルをHPLCおよびGCにより分析する。HPLC分析の結果、DMTおよびHDOの転化率は、3つの全ての反応で、>90%である。実施例5では、比較例12および13と比較して、環状エステルオリゴマーの収率が向上していることが観察される。
【0070】
(実施例6および比較例14、15)
40mLのガラスバイアル中で、ある組成範囲の反応溶媒を使用し、かつ、酵素ノボザイム(登録商標)435(Novozym(登録商標)435)を使用して、1,4−ブタンジオール(BDO)とジメチルテレフタレート(DMT)の一連のバッチ式反応を行う。実施例5では、溶媒として、重量比50/50の3−エチル−3−ペンタノールとトルエンの混合物を使用した。比較例14では、溶媒として、重量比75/25の3−エチル−3−ペンタノールとトルエンの混合物を使用した。比較例15では、溶媒として、トルエンを使用した。
【0071】
それぞれの場合で、BDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとする。固定化酵素の仕込み量は6重量パーセントである。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行った。電磁攪拌棒で攪拌する。70℃で96時間反応させる。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流す。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌する。固定化酵素を混合物から分離し、得られた溶液のサンプルをHPLCおよびGCにより分析する。HPLC分析の結果、DMTおよびHDOの転化率は、3つの全ての反応で、>90%である。実施例6では、比較例14および15と比較して、環状エステルオリゴマーの収率が向上していることが観察される。
【0072】
(比較例16)
表1に示す酵素のサンプル、各200mgを、電磁攪拌棒を備えた8mLの反応バイアルに加えた。各バイアルに、DMT(97mg)、DEG(DEG530mgをトルエン5mLに溶解して調製した溶液500μL)およびトルエン1.4mLを加えた。得られた溶液のDEG濃度は約0.25Mであった。トルエンで飽和した窒素気流中、攪拌しながら50℃で96時間インキュベートした。真空下でトルエンを除去することによって反応を停止させ、全ての生成物および未反応出発原料を十分に溶解できる量のクロロホルムを加え、60μm細孔のガラスフィルターを使用して、得られた混合物をろ過し、溶解していない酵素を除去した。DMTの転化率を求めるために、ろ液をガスクロマトグラフィにより分析し、また、環状エステルオリゴマー(CEO)の濃度を求めるために、ろ液をHPLCにより分析した。結果を表1に示す。
【0073】
酵素を存在させない以外は全く同じ方法で行う反応を、対照として実施した。DMTの有意な転化またはCEOの有意な生成は認められなかった。
【0074】
【表1】

【0075】
(実施例7および比較例17、18)
40mLのガラスバイアル中で、1,6−ヘキサンジオール(HDO)とジメチルテレフタレート(DMT)の一連のバッチ反応を行う。各反応では、特定の反応溶媒と、次の酵素(表1を参照):PS−C「アマノ(Amano)」I、PS−D「アマノ(Amano」I、ICR−107、ICR−108、ICR−113、のなかの1つを使用する。実施例7では、溶媒として、重量比50/50のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例17では、溶媒として、重量比75/25のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例18では、溶媒として、トルエンを使用した。全部で15の反応を行う。
【0076】
それぞれの場合で、HDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとする。固定化酵素の仕込み量は6重量パーセントである。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行う。電磁攪拌棒で攪拌する。70℃で96時間反応させる。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流す。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌する。固定化酵素を混合物から分離し、得られた溶液のサンプルをHPLCおよびGCにより分析する。HPLC分析の結果、DMTおよびHDOの転化率は、各反応で、少なくとも約10%である。実施例7では、比較例17および18と比較して、環状エステルオリゴマーの収率が向上していることが観察される。
【0077】
(実施例8および比較例19、20)
40mLのガラスバイアル中で、1,5−ペンタンジオール(PDO)とジメチルテレフタレート(DMT)の一連のバッチ反応を行う。各反応では、特定の反応溶媒と、次の酵素(表1を参照):PS−C「アマノ(Amano)」I、PS−D「アマノ(Amano」I、ICR−107、ICR−108、ICR−113、のなかの1つを使用する。実施例8では、溶媒として、重量比50/50のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例19では、溶媒として、重量比75/25のtert−アミルアルコールとトルエンの混合物を使用した。比較例20では、溶媒として、トルエンを使用した。全部で15の反応を行う。
【0078】
それぞれの場合で、PDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとする。固定化酵素の仕込み量は6重量パーセントである。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行った。電磁攪拌棒で攪拌する。70℃で96時間反応させる。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流す。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌する。固定化酵素を混合物から分離し、得られた溶液のサンプルをHPLCおよびGCにより分析する。HPLC分析の結果、DMTおよびHDOの転化率は、各反応で、少なくとも約10%である。実施例8では、比較例19および20と比較して、環状エステルオリゴマーの収率が向上していることが観察される。
【0079】
(実施例9および比較例21、22)
40mLのガラスバイアル中で、1,4−ブタンジオール(BDO)とジメチルテレフタレート(DMT)の一連のバッチ反応を行う。各反応では、特定の反応溶媒と、次の酵素(表1を参照):PS−C「アマノ(Amano)」I、PS−D「アマノ(Amano」I、ICR−107、ICR−108、ICR−113、のなかの1つを使用する。実施例9では、溶媒として、重量比50/50の2,3−ジメチル−2−ブタノールとトルエンの混合物を使用した。比較例21では、溶媒として、重量比75/25の2,3−ジメチル−2−ブタノールとトルエンの混合物を使用した。比較例22では、溶媒として、トルエンを使用した。全部で15の反応を行う。
【0080】
それぞれの場合で、BDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとする。固定化酵素の仕込み量は6重量パーセントである。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行う。電磁攪拌棒で攪拌する。70℃で96時間反応させる。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流す。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌する。固定化酵素を混合物から分離し、得られた溶液のサンプルをHPLCおよびGCにより分析する。HPLC分析の結果、DMTおよびHDOの転化率は、各反応で、少なくとも約10%である。実施例9では、比較例21および22と比較して、環状エステルオリゴマーの収率が向上していることが観察される。
【0081】
(実施例10および比較例23、24)
40mLのガラスバイアル中で、1,4−ブタンジオール(BDO)とジメチルテレフタレート(DMT)との一連のバッチ反応を行う。各反応では、特定の反応溶媒と、次の酵素(表1を参照):PS−C「アマノ(Amano)」I、PS−D「アマノ(Amano」I、ICR−107、ICR−108、ICR−113、のなかの1つを使用する。実施例10では、溶媒として、重量で50/50の3−エチル−3−ペンタノールとトルエンの混合物を使用した。比較例23では、溶媒として、重量比75/25の3−エチル−3−ペンタノールとトルエンの混合物を使用した。比較例24では、溶媒として、トルエンを使用した。全部で15の反応を行う。
【0082】
それぞれの場合で、BDOおよびDMTの溶媒中の仕込み濃度をそれぞれ約70mMとする。固定化酵素の仕込み量は6重量パーセントである。反応は、温度コントロールされた単一の加熱ブロック内に設置したガラスバイアル中で行った。電磁攪拌棒で攪拌する。70℃で96時間反応させる。副生物のメタノールを除去するために、対応する溶媒混合物で飽和した窒素を、反応温度でバイアルの上部空間に流す。反応の終わりに、真空下、適度な温度(約50℃)で溶媒を除去し、反応生成物および未反応の出発原料を溶解するのに十分な量のCHClを加え、この混合物を激しく攪拌する。固定化酵素を混合物から分離し、得られた溶液のサンプルをHPLCおよびGCにより分析する。HPLC分析の結果、DMTおよびHDOの転化率は、各反応で、少なくとも約10%である。実施例10では、比較例23および24と比較して、環状エステルオリゴマーの収率が向上していることが観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状エステルオリゴマーの製造方法であって、
(a)(i)少なくとも1種のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、少なくとも1種のジオール、
(ii)少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステル、並びに、
(iii)少なくとも1種の鎖状エステルオリゴマー
の1つまたは複数から選択される第1の成分と、
(b)エステルのエステル交換反応、カルボン酸のエステル化反応および/またはエステルの加水分解反応を触媒することができる少なくとも1種の酵素を含む第2の成分と
を含む成分を、溶媒中で反応させる工程を含み、
前記溶媒が、約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の第3級アルコールおよび約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の非アルコール溶媒を含み、重量パーセントは溶媒の全重量を基準にしていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第3級アルコールが、約4〜約8個の炭素原子を有し、かつ、一般式(R)(R)(R)COHで示される請求項1に記載の方法であって、R、RおよびRは、独立して、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチルおよび3−ペンチルから選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記第3級アルコールが、tert−アミルアルコールであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第3級アルコールが、2,3−ジメチル−2−ブタノールまたは3−エチル−3−ペンタノールであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記非アルコール溶媒が、トルエン、ベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、メチレンクロライド、メチルtert−ブチルエーテル、メチルイソブチルケトンおよびクロロホルムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記非アルコール溶媒が、トルエンであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
成分(a)が、式HO((CHO)Hで示される少なくとも1種のジオール、およびジメチルテレフタレートを含み、pは2〜15、rは1〜10であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
成分(a)が、式HO((CHO)Hで示される少なくとも1種のジオール、およびジメチルテレフタレートを含み、pは2〜10、rは1〜5であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
成分(a)が、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジ(エチレングリコール)、ジ(ブチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、シクロヘキサンジメタノールおよびトリ(ブチレングリコール)から選択される1種または複数のジオールと、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレートおよびジメチル2,6−ナフタレンジカルボキシレートの1種または複数を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
成分(a)が、式HO((CHO)Hで示されるジオールとジメチルテレフタレートから誘導される少なくとも1種の鎖状エステルオリゴマーを含み、pは2〜15、rは1〜10であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
成分(a)が、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジ(エチレングリコール)、ジ(ブチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、シクロヘキサンジメタノールおよびトリ(ブチレングリコール)から選択される1種または複数のジオールと、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレートおよびジメチル2,6−ナフタレンジカルボキシレートの1種または複数から誘導される少なくとも1種の鎖状エステルオリゴマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記酵素が担持されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記酵素が担持されていないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記酵素が、珪藻土、キトサン、アルギン酸塩またはカラゲナンを含む多糖類、チタニア、シリカ、アルミナ、ポリアクリレートおよびポリメタクリレートからなる群より選択される材料に担持されていることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素が、リパーゼ、プロテアーゼまたはエステラーゼであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記酵素が、リパーゼであることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リパーゼが、カンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)、バークホルデリア・セバシアまたはシュードモナス種から誘導されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
カンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)から誘導される前記リパーゼが、カンジダ・アンタルチカ リパーゼBであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
鎖状ポリエステルの製造方法であって、
(a)(i)少なくとも1種のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、少なくとも1種のジオール、
(ii)少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステル、並びに、
(iii)少なくとも1種の鎖状エステルオリゴマー
の1つまたは複数から選択される第1の成分と、
(b)エステルのエステル交換反応、カルボン酸のエステル化反応および/またはエステルの加水分解反応を触媒することができる少なくとも1種の酵素を含む第2の成分と
を含む成分を、溶媒中で反応させることによって環状エステルオリゴマーを生成する工程と、
得られた環状エステルオリゴマーを重合して、鎖状ポリエステルを生成する工程と
を含む方法であって、
前記溶媒が、約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の第3級アルコールおよび約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の非アルコール溶媒を含み、重量パーセントは溶媒の全重量を基準にしていることを特徴とする方法。
【請求項20】
鎖状ポリエステル成形品を形成する方法であって、
(a)(i)少なくとも1種のジカルボン酸および/またはジカルボン酸誘導体と、少なくとも1種のジオール、
(ii)少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸エステル、並びに、
(iii)少なくとも1種の鎖状エステルオリゴマー
の1つまたは複数から選択される第1の成分と、
(b)エステルのエステル交換反応、カルボン酸のエステル化反応および/またはエステルの加水分解反応を触媒することができる少なくとも1種の酵素を含む第2の成分と
を含む成分を、溶媒中で反応させることによって環状エステルオリゴマーを生成する工程と、
得られた環状エステルオリゴマーを型に入れる工程と、
前記環状エステルオリゴマーを重合して鎖状ポリエステル物品を形成する工程と、
物品を型から取り出す工程と
を含む方法であって、
前記溶媒が、約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の第3級アルコールおよび約30〜約70重量パーセントの少なくとも1種の非アルコール溶媒を含み、重量パーセントは溶媒の全重量を基準にしていることを特徴とする方法。
【請求項21】
重合触媒の存在下で、前記環状エステルオリゴマーを型に入れることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
重合触媒および少なくとも1種の添加剤の存在下で、前記環状エステルオリゴマーを型に入れることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
請求項20に記載の方法によって製造されていることを特徴とする鎖状ポリエステル物品。
【請求項24】
自動車のボディパネルまたはシャーシ部品、バンパービーム、航空機の翼外板、風車の羽根、流体貯蔵タンク、トラクターのフェンダー、テニスラケット、ゴルフシャフト、ウインドサーフィンマスト、玩具、ロッド、チューブ、バー、ストック、自転車のフォークおよび機械のハウジングの形態をしていることを特徴とする請求項23に記載の物品。

【公表番号】特表2008−545439(P2008−545439A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515897(P2008−515897)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/022210
【国際公開番号】WO2006/133332
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】