説明

酵素阻害作用または酵素阻害作用と抗菌作用とを有する歯科用組成物

【課題】分解酵素による歯質有機成分の分解を抑制し、歯周病または齲蝕の予防効果を発揮し、且つ、長期にわたる歯芽の保存が可能な、歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】
本発明に係る歯科用組成物は、酵素阻害剤(A)を含有することを特徴とする。前記酵素阻害剤(A)は、EC3.4に属するペプチド結合加水分解酵素を阻害する酵素阻害剤であることが好ましく、マトリックスメタロプロテイナーゼを阻害する酵素阻害剤であることがより好ましい。また、本発明に係る歯科用組成物は、さらに抗菌剤(B)を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物に関する。より詳しくは、本発明は、口腔内組織に適用される歯科用コート材、歯科用接着材、歯科用根管充填材、歯科用コンポジットレジンなどに好適な歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、生体内に存在する全タンパク質の約30%を占める生体分子であり、皮膚、粘膜、筋肉などの軟組織を構成する主成分である。また、コラーゲンは、骨や歯の硬組織の石灰化を誘導するために必要な要素の一つでもあり、特に、骨や歯の象牙質またはセメント質においては、約20〜30%の割合を占める成分である。
【0003】
ところで、生体内には様々な酵素が存在する。特に口腔内には、人体由来の酵素のみならず、雑多な口腔内微生物が産生する様々な酵素が存在している。その中でも、EC3.4に属するペプチド結合加水分解酵素は、コラーゲンを分解する酵素である。
【0004】
これまでの研究で、口腔内に存在するペプチド結合加水分解酵素の一つであるマトリックスメタロプロテイナーゼの働きで、象牙質内に存在するコラーゲンや他の歯質有機成分が分解されることが明らかとなっている。その結果、歯周病や齲蝕の治療後に、2次齲蝕の発生およびそれに伴う補綴物などの脱落の危険性が増すことが示唆されている。
【0005】
例えば、口腔内疾患の一つである歯周病は、口腔内に存在するPorphyromonas gingivalisなどの歯周病原性菌が生産するマトリックスメタロプロテイナーゼなどの酵素、他のタンパク質または生体アミンなどの化合物が、直接的または生体の免疫系を活性化することで間接的に組織破壊をもたらし、その結果、歯周組織の軟質化および歯槽骨の退縮などが発生する疾患である。
【0006】
一般的に、口腔内の軟組織は、唾液分泌や細胞サイクルなどにより細菌の定着が困難な環境となっている。しかしながら、歯周ポケットのような歯と歯肉組織との境などは、唾液の緩衝作用も低く、構造的にも細菌が定着しやすい環境であると言える。主として、歯周病は、この歯周ポケットで増殖した歯周病原性菌の影響で発症する。
【0007】
一方、ミュータンス菌に代表される齲蝕病原性菌は、歯表面に存在する付着性タンパク抗原により歯表面に付着し、スクロース(ショ糖)により不溶性グルカンを生成する。この不溶性グルカンは、プラーク中で生産された乳酸などの有機酸の拡散を防ぐとともに、唾液の緩衝作用を回避するため、プラーク内部があるpH以下になると歯質が脱灰され齲蝕となる。
【0008】
また、象牙質齲蝕の場合、齲蝕部位を除去した後、象牙質内に存在するコラーゲン繊維と歯科材料に含まれる樹脂とにより、人工エナメル質である樹脂含浸層を形成したうえで、補綴物を接着することで生体を保護している。
【0009】
このため、齲蝕治療後にコラーゲン繊維が分解され、人工エナメル質が脆弱化し、生体と補綴物との間のシーリング性が低下することで、このような隙間から細菌が再度進入して2次齲蝕が発生する可能性がある。
【0010】
特許文献1によれば、マトリックスメタロプロテイナーゼは、慢性関節リウマチ、変形性関節症、骨粗鬆症、歯周炎、多発性硬化症、歯肉炎、角膜表皮および胃潰瘍;アテロー
ム性動脈硬化症、再狭窄および虚血性心不全に導く新内膜(neointimal)増殖;ならびに腫瘍転移などの、生体内の結合組織の破壊の結果起こる多くの疾患に関係があるとされている。そして、特許文献1には、イソフタル酸誘導体がマトリックスメタロプロテイナーゼを阻害することで、これらの疾患の治療に有効であると記載されているが、具体的にイソフタル酸誘導体の歯科用途としての使用方法は明記されていない。
【0011】
また、特許文献2には、クロルヘキシジン類と他の抗菌剤とを複合することで、広い抗菌活性を有する口腔用組成物が開示されている。しかしながら、前記口腔用組成物は、有用な酵素阻害作用は有していない。
【特許文献1】特表2005―503327号公報
【特許文献2】特開平6―239723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、(1)分解酵素による歯質有機成分の分解を抑制し、加えて、細菌の繁殖を抑制することで、歯周病および齲蝕の予防効果を発揮し、且つ、(2)長期にわたる歯芽の保存が可能な、歯科用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような従来技術の知見から、歯周病または齲蝕予防には、歯周組織周辺または歯槽骨周辺のコラーゲン分解酵素を阻害し、コラーゲンの分解を抑制するとともに、歯周病原性菌や齲蝕病原性菌の増殖を抑制することが有効であると考えられる。
【0014】
加えて、このようなコラーゲン分解酵素を阻害し、また細菌の増殖を抑制することは、齲蝕治療後の樹脂含浸層のような人工エナメル質の脆弱化を抑制することにもつながるため、長期にわたる歯芽の保存が可能になると考えられる。
【0015】
本発明者らは上記のような考えの下、上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、酵素阻害剤を用いることで、分解酵素による歯質有機成分の分解を抑制でき、歯周病および齲蝕予防効果を発揮するとともに、治療後に長期にわたる歯芽の保存が可能な酵素阻害作用を有する歯科用組成物が提供されることを見出した。
【0016】
また、酵素阻害剤と抗菌剤とをともに用いることで、分解酵素による歯質有機成分の分解を抑制でき、加えて、細菌の繁殖を抑制でき、さらに効果的に歯周病および齲蝕予防効果を発揮するとともに、治療後に長期にわたる歯芽の保存が可能な酵素阻害作用および抗菌作用を有する歯科用組成物が提供されることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[15]に関する。
[1]酵素阻害剤(A)を含有することを特徴とする歯科用組成物。
[2]前記酵素阻害剤(A)が、EC3.4に属するペプチド結合加水分解酵素を阻害する酵素阻害剤であることを特徴とする前記[1]に記載の歯科用組成物。
【0018】
[3]前記酵素阻害剤(A)が、マトリックスメタロプロテイナーゼを阻害する酵素阻害剤であることを特徴とする前記[1]〜[2]の何れかに記載の歯科用組成物。
[4]前記酵素阻害剤(A)が、酸性基を有する酵素阻害剤(A1)であることを特徴とする前記[1]〜[3]の何れかに記載の歯科用組成物。
【0019】
[5]前記酵素阻害剤(A)が、下記一般式(1)で表される化合物、該化合物(1)の塩、および該化合物(1)の酸無水物から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする前記[1]〜[3]の何れかに記載の歯科用組成物。
【0020】
【化1】

【0021】
[式(1)中、X1、X2およびX3は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、ヒドロキシ、カ
ルボキシ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC1〜C6アルキル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC1〜C6アルコキシ、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルケニル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルキニル、またはNX45
〔X4およびX5は、それぞれ独立に水素、(メタ)アクリレート基を有してもよいC1
6アルキル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルケニル、(メタ)ア
クリレート基を有してもよいC2〜C6アルキニル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC6アリール、(メタ)アクリレート基を有してもよいC3〜C6シクロアルキル、(メ
タ)アクリレート基を有してもよい3〜8員のヘテロアリールである。また、X4とX5とが結合して、O、SおよびNから選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環原子として有する3〜8員のヘテロ環を形成してもよい。〕であり;
1およびE2は、それぞれ独立にOまたはSであり;
AおよびBは、それぞれ独立にOX4(ここで、X4は前記X4と同義である。)または
NX45(ここで、X4およびX5はそれぞれ前記X4およびX5と同義である。)である。]
[6]前記酵素阻害剤(A)が、イソフタル酸誘導体、該イソフタル酸誘導体の塩、および該イソフタル酸誘導体の酸無水物から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする前記[1]〜[3]の何れかに記載の歯科用組成物。
【0022】
[7]さらに、抗菌剤(B)を含有することを特徴とする前記[1]〜[6]の何れかに記載の歯科用組成物。
[8]前記抗菌剤(B)の少なくとも一部が、フェノール係数0.001〜300の消毒薬および化学療法薬から選択される少なくとも1種の抗菌剤であることを特徴とする前記[7]に記載の歯科用組成物。
【0023】
[9]前記抗菌剤(B)が、クロルへキシジン類およびその塩から選択される少なくとも1種の抗菌剤であることを特徴とする前記[7]に記載の歯科用組成物。
[10]さらに、重合性単量体(C)および重合開始剤(D)を含有することを特徴とする前記[1]〜[9]の何れかに記載の歯科用組成物。
【0024】
[11]さらに、充填材(E)を含有することを特徴とする前記[10]に記載の歯科用組成物。
[12]口腔内粘膜、歯周組織、歯槽骨および歯牙から選択される口腔内組織に適用される歯科用コート剤に用いられることを特徴とする前記[1]〜[11]の何れかに記載の歯科用組成物。
【0025】
[13]歯科用接着材に用いられることを特徴とする前記[1]〜[11]の何れかに記載の歯科用組成物。
[14]歯科用根管充填材に用いられることを特徴とする前記[1]〜[11]の何れかに記載の歯科用組成物。
【0026】
[15]歯科用コンポジットレジンに用いられることを特徴とする前記[1]〜[11]の何れかに記載の歯科用組成物。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る酵素阻害剤を含有する歯科用組成物を用いることで、マトリックスメタロプロテイナーゼなどのペプチド結合加水分解酵素を阻害することができ、歯周病や治療後の2次齲蝕を予防し、長期にわたる歯芽の保存が可能となる。
【0028】
また、本発明に係る酵素阻害剤と抗菌剤とをともに含有する歯科用組成物を用いることで、マトリックスメタロプロテイナーゼなどのペプチド結合加水分解酵素を阻害し、さらには、細菌の繁殖を抑制することができ、さらに効果的に歯周病や治療後の2次齲蝕を予防し、長期にわたる歯芽の保存が可能となる。
【0029】
特に、酵素阻害剤として酸性基を有する酵素阻害剤(例えば、イソフタル酸誘導体)、および歯周病原性菌や齲蝕病原性菌の増殖を抑制する抗菌剤としてクロルヘキシジン類を用いることで、一層効果的に歯周病や治療後の2次齲蝕を予防し、長期にわたる歯芽の保存が可能となる。
【0030】
すなわち、本発明によれば、(1)分解酵素による歯質有機成分の分解を抑制し、加えて、細菌の繁殖を抑制することで、歯周病および齲蝕の予防効果を発揮し、且つ、(2)長期にわたる歯芽の保存が可能な、歯科用組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る酵素阻害作用を有する歯科用組成物、および酵素阻害作用と抗菌作用とを有する歯科用組成物について説明する。なお、本発明において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタアクリル酸を包含した上位概念を意味し、「(メタ)アクリレート」などについても同様である。
【0032】
本発明に係る歯科用組成物は、必須成分として酵素阻害剤(A)を含有し(これにより酵素阻害作用が奏される。)、好ましくは抗菌剤(B)を含有する(これにより、酵素阻害作用とともに抗菌作用が奏される。)。
【0033】
また、本発明に係る歯科用組成物は、さらに重合性単量体(C)および重合開始剤(D)を含有することが好ましく、さらに充填材(E)を含有していてもよい。
<酵素阻害剤(A)>
酵素阻害剤(A)としては、歯科用途として使用可能な酵素阻害作用を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、EC3.4に属する酵素、すなわち、一般的にペプチド結合加水分解酵素を阻害する酵素阻害剤が好ましく用いられる。前記ペプチド結合加水分解酵素を阻害する酵素阻害剤としては、例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼを阻害する酵素阻害剤が挙げられる。
【0034】
より具体的には、酵素阻害剤(A)として、酸性基を有する酵素阻害剤(A1)を用いることが好ましい。前記酸性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、チオリン酸基が挙げられる。酸性基を有する酵素阻害剤(A1)の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、Tanomastat、R
ebimastatが挙げられる。
【0035】
また、酵素阻害剤(A)として、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)、該化合物(1)の塩、および該化合物(1)の酸無水物を用いることもまた好ましい。ここで、化合物(1)の塩とは、化合物(1)にカルボキシ、アミノなどが含まれる場合において、その金属塩をいう。また、化合物(1)の酸無水物とは、化合物(1)にカルボキシが含まれる場合において、その分子間または分子内で脱水した酸無水物をいう。
【0036】
これらの中では、酵素阻害剤(A)として、化合物(1)、該化合物(1)の塩、および該化合物(1)の酸無水物から選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。
【0037】
【化2】

【0038】
式(1)中、X1、X2およびX3は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、ヒドロキシ、カル
ボキシ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、(メタ)アクリレート基(−OCOCR=CH2;Rは水素またはメチルである。)を有してもよいC1〜C6アルキル、(メタ)
アクリレート基を有してもよいC1〜C6アルコキシ、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルケニル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルキニル、またはNX45
〔X4およびX5は、それぞれ独立に水素、(メタ)アクリレート基を有してもよいC1
6アルキル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルケニル、(メタ)ア
クリレート基を有してもよいC2〜C6アルキニル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC6アリール、(メタ)アクリレート基を有してもよいC3〜C6シクロアルキル、(メ
タ)アクリレート基を有してもよい3〜8員のヘテロアリールである。また、X4とX5とが結合して、O、SおよびNから選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環原子として有する3〜8員のヘテロ環を形成してもよい。〕であり;
1およびE2は、それぞれ独立にOまたはSであり;
AおよびBは、それぞれ独立にOX4(ここで、X4は前記X4と同義である。)または
NX45(ここで、X4およびX5はそれぞれ前記X4およびX5と同義である。)である。
【0039】
ただし、上記一般式(1)において、X1、X2、X3、−CE1A、−CE2Bのうち、
少なくとも1つはカルボキシであることが好ましく、2つがカルボキシであることがより好ましい。ここで、X1および−CE1Aがカルボキシであるか、X3および−CE2Bがカルボキシであることが好ましく、この場合にはこれらで酸無水物基(すなわち、化合物(1)の酸無水物。)を形成していてもよい。
【0040】
上記ハロゲンとしては、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードが挙げられる。
上記C1〜C6アルキルは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキルであることが
好ましく、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、ネオペンチル、n−ヘキシルが挙げられる。
【0041】
上記C1〜C6アルコキシとしては、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシが挙げられる。また、上記C1〜C6アルコキシは、−O−(CH22−O−CH3
などのポリエーテルであってもよい。
【0042】
上記C2〜C6アルケニルは、炭素数2〜6の直鎖状または分岐状のアルケニルであることが好ましく、例えば、エテニル、3−ブテン−1−イル、2−エテニルブチル、3−ヘキセン−1−イルが挙げられる。
【0043】
上記C2〜C6アルキニルは、炭素数2〜6の直鎖状または分岐状のアルキニルであることが好ましく、例えば、エチニル、3−ブチン−1−イル、プロピニル、2−ブチン−1−イル、3−ペンチン−1−イルが挙げられる。
【0044】
上記C6アリールとしては、例えば、フェニル、トリルが挙げられる。
上記C3〜C6シクロアルキルは、炭素数3〜6のシクロアルキルであり、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。
【0045】
上記3〜8員のヘテロアリールは、3〜8個の環原子を有し、これらの少なくとも一部がヘテロ原子であるヘテロアリールである。好ましいヘテロアリールは、O、SおよびNから選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環原子として1〜4個有し、より好ましいヘテロアリールは、5または6員の芳香環中に、1または2個の前記ヘテロ原子を環原子として有する。
【0046】
上記3〜8員のヘテロアリールの具体例としては、ピリジル、ベンゾチエニル、フラニル、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾールが挙げられる。
また、上記C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C6アリール、C3〜C6シクロアルキル、3〜8員のヘテロアリールは、これ
らに含まれる少なくとも1つ、好ましくは1つの水素が(メタ)アクリレート基に置換されていてもよい(すなわち、(メタ)アクリレート基を有してもよい)。特に、直鎖状のC1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニルである場合には、これらに含まれる末端炭素に結合した水素が(メタ)アクリレート基に置換されていることが好ましい。なお、(メタ)アクリレート基が有する炭素は、上記C1
6アルキルなどの炭素数には含めないものとする。
【0047】
上記NX45の具体例としては、アミノ、メチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、3−アミノプロピルアミノ、3−エチルアミノブチルアミノ、3−ジ−n−プロピルアミノ−プロピルアミノ、4−ジエチルアミノブチルアミノが挙げられる。
【0048】
また、X4とX5とは、それらが結合している窒素と一緒になって、O、SおよびNから選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環原子として有する3〜8員のヘテロ環を形成してもよい。前記3〜8員のへテロ環は、好ましくは1つの窒素と1〜7個の炭素と残部がO、SおよびNから選択される少なくとも1種のヘテロ原子とからなる。
【0049】
上記3〜8員のへテロ環としては、例えば、ピロリジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、モルホリニルが挙げられる。
化合物(1)の中では、下記一般式(2)で表されるイソフタル酸誘導体(以下、「イソフタル酸誘導体(2)」ともいう。)、該イソフタル酸誘導体(2)の塩、および該イソフタル酸誘導体(2)の酸無水物から選択される少なくとも1種の化合物を用いること
が好ましい。ここで、化合物(2)の塩とは、化合物(2)にカルボキシが含まれる場合において、その金属塩をいう。また、化合物(2)の酸無水物とは、化合物(2)にカルボキシが含まれる場合において、その分子間または分子内で脱水した酸無水物をいう。
【0050】
【化3】

【0051】
式(2)中、X6、X7およびX8は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、ヒドロキシまたは
カルボキシであり;X9およびX10は、それぞれ独立に水素または(メタ)アクリレート
基を有してもよいC1〜C6アルキルである。
【0052】
ただし、上記一般式(2)において、X6、X7、X8、−COOX9、−COOX10のうち、少なくとも1つはカルボキシであることが好ましく、2つがカルボキシであることがより好ましい。ここで、X7および−COOX9がカルボキシであるか、X8および−CO
OX10がカルボキシであることが好ましく、この場合にはこれらで酸無水物基(すなわち、化合物(2)の酸無水物。)を形成していてもよい。
【0053】
式(2)において、上記C1〜C6アルキルは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキルであることが好ましく、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、ネオペンチル、n−ヘキシルが挙げられる。特に、直鎖状のC1〜C6アルキルである場合には、これに含まれる末端炭素に結合した水素が(メタ)アクリレート基に置換されていることが好ましい。
【0054】
特に、酵素阻害剤(A)としては、下記一般式(3)で表される化合物(以下、「化合物(3)」ともいう。)が好ましい。
【0055】
【化4】

【0056】
式(3)中、X11、X12およびX13は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、ヒドロキシまたはカルボキシであり;X14は、水素または(メタ)アクリレート基を有してもよいC1
6アルキルであり;X11、X12、X13および−COOX14の隣接している置換基同士(
例えばX12と−COOX14との部分)がカルボキシの場合は、これらで酸無水物基を形成
していてもよく;X15はC1〜C6アルキレンであり;Rは水素またはメチルである。ここで、前記C1〜C6アルキレンは、直鎖状または分岐状のアルキレンであることが好ましい。
【0057】
また、酸性基を有する酵素阻害剤(A1)以外の酵素阻害剤(A)としては、例えば、Batimastat、Marimastatなどのサクシニルヒドロキサム酸類;MMI270などのスルフォンアミドヒドロキサム酸類;Doxycyclinなどのテトラサイクリン系の天然化合物;TIMP(tissue inhibitor of metalloproteinases)−1、TIMP−2、TIMP−3、TIMP−4などのタンパク質類が挙げられる。
【0058】
酵素阻害剤(A)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
<抗菌剤(B)>
抗菌剤(B)としては、歯科用途として使用可能な抗菌作用を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、既知の消毒薬および化学療法薬などの、口腔内細菌に対して抗菌作用を有する抗菌剤が挙げられる。
【0059】
上記抗菌剤としては、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンなどのクロルへキシジン類およびそれらの塩などが好ましく用いられる。
また、上記抗菌剤としては、フェノール係数0.001〜300の消毒薬、化学療法薬もまた好ましく用いられる。すなわち、抗菌剤(B)の少なくとも一部に、これらのフェノール係数0.001〜300の消毒薬および化学療法薬から選択される少なくとも1種の抗菌剤を用いることもまた好ましい。
【0060】
これらの抗菌剤(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
≪フェノール係数0.001〜300の消毒薬≫
フェノール係数0.001〜300の消毒薬としては、例えば、水銀、銀、銅、金、コバルト、鉛、鉄、アルミニウム、亜鉛などの金属状態における比重が5.0以上の重金属、該重金属を有する化合物、該重金属を有する化合物の塩;
過酸化水素(オキシドール)、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤およびそれらの塩;塩素、次亜塩素酸ナトリウム、クロルヘキシジン、クロラミンなどの塩素化合物およびそれらの塩;ヨウ素、ヨードグリセリン、ヨードホルム、ポビドンヨードなどのヨウ素化合物およびそれらの塩;
メチルアルコール、エチルアルコール、アリルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、シクロペンタノール、n−ヘキシルアルコール、シクロヘキサアルコール、n−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコール、ベンジルアルコール、α−フェニルエチルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールなどの第一級アルコール、第二級アルコールおよび第三級アルコールなどのアルコール類;
ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタールアルデヒドなどのアルデヒド類;フェノール、クレゾール、チモール、グアヤコール、イルガサンDP300などのフェノールおよびフェノール誘導体;ユージノール、メントール、カンフルなどの植物性揮発油類;
親水基がカルボン酸、硫酸エステル、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、第四級アンモニウム塩、アミノ酸、ベタイン、ポリエチレングリコール、多価アルコールなどの陰イオン型、陽イオン型、両性イオン型および非イオン型の界面活性剤(例えば、塩化ベンゼトニウム、ヘキサデシルピリジニウムおよびその塩(例えば、ヘキサデシルピリジニウムクロリド)など);
アクリノール、塩化メチルロザニリンなどの有機色素類;
電解酸性水、オゾン水などの消毒作用のある水、が挙げられる。
【0061】
これらの中では、塩化ベンゼトニウム、ヘキサデシルピリジニウムおよびその塩(例えば、ヘキサデシルピリジニウムクロリド)が好ましい。また、これらの消毒薬は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
≪化学療法薬≫
化学療法薬としては、例えば、ベンジルペニシリン、フェノキシメチルペニシリン、メチシリン、オキサシリン、フェネチシリン、プロピシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロサシリン、アンピシリン、アモキシリン、シクラシリン、バカンピシリン、タランピシリン、レナンピシリン、スルベニシリン、カルベニシリン、チカルシリン、カルフェシリン、メズロシリン、ペピラシリン、アスポキシリンなどのペニシリン系化学療法薬;
セファロチン、セファピリン、セファロリジン、セファゾリン、セフテゾール、セファセトリル、セファレキシン、セファグリシン、セフラジン、セファトリジン、セフロキサジン、セファクロール、セファチアム、セフォキシチン、セフメタゾール、セフロキシム、セファマンドール、アキセチル、ヘキシチル、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフメノキシム、セフトリアクソン、セフタジジム、セフォペラゾン、セフブペラゾン、ラタモキセフ、セフミノックス、セフピミゾール、セフピラミド、セフゾナム、フロモキセフ、セフォジジム、セフィキシム、セフチブテン、セフジニール、セフプロジル、セフテラム・ピボシキル、セフポドキシム・プロキセチル、セフェタメット・ピボキシル、セフジトレン・ピボキシル、セフカペン・ピボキシル、セフピローム、セフィピーム、セフォゾプラン、セフォセリス、セフルプレナムなどのセファム系化学療法薬;
カルバペネム、モノバクタムなどの他のβ−ラクタム系化学療法薬;
ホスホマイシン、バシトラシン、バンコマイシンなどの他の細胞壁合成阻害薬;
ストレプトマイシン、カナマイシン、ベカナマイシン、ジベカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、シソミシン、ネチルマイシン、ミクロマイシン、アミカシン、アルベカシン、フラジオマイシン、パロモマイシン、リボスタマイシン、アストロマイシンなどのアミノグルコシド系化学療法薬;
エリスロマイシン、オレアンドマイシン、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、キタサマイシン、アセチルスピラマイシン、ミデカマイシン、ジョサマイシン、ロキタマイシンなどのマクロライド系化学療法薬;
リンコマイシン、クリンダマイシンなどのリンコサミド系化学療法薬;
テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメチルクロルテトラサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系化学療法薬;
チアンフェニコールなどのクロラムフェニコール系化学療法薬;
ナリジクス酸、ピロミド酸、ピペミド酸、エノキサシン、トスフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ロメフロキサシン、スパルフロキサシン、フレロキサシン、パズフロキサシン、バロフロキサシン、シノキサシンなどのキノロン系化学療法薬;
リファンピシンなどのアンサマイシン系化学療法薬;パラアミノ安息香酸、スルファニルアミドなどのスルホンアミド系化学療法薬;スルファメトキサゾール・トリメトプリンなどのST合剤;イソニアジド、エチオナミド、エタンブトール、パラアミノサリチル酸などの抗結核薬;コリスチン、ポリミキシンBなどの細胞膜傷害薬;アムホテリシンB、ナイスタチンなどのポリエン系抗真菌薬;グリセオフルビンなどのグリサン系抗真菌薬;フルシトシンなどのフロロピリミジン系抗真菌薬;クロトリマゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール、ビフォナゾールなどのイミダゾール系抗真菌薬;フルコナゾール、イトラコナゾールなどのトリアゾール系抗真菌薬;メトロニダゾール、ピリメサミンなどの抗原
虫薬;
アシクロビル、ガンシクロビル、ハロゲン化ピリジン、アデニンアラビノシド、シトシンアラビノシド、アマンタジン、リマンタジン、ジブドジン、ザルシタビン、ジタノジン、ネビラピン、デラビリジン、サキナビル、インジナビル、リトナビル、ネルフィナビルなどの抗ウイルス薬、が挙げられる。
【0063】
これらの化学療法薬は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
<重合性単量体(C)>
重合性単量体(C)としては、ラジカル重合開始剤により重合する単量体であれば特に限定されず、例えば、単官能重合性単量体、二官能重合性単量体、三官能以上の多官能重合性単量体が挙げられ、好ましくは単官能(メタ)アクリル酸エステル、二官能(メタ)アクリル酸エステル、三官能以上の多官能(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、使用目的などに応じて適宜選択される。
【0064】
重合性単量体(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
≪単官能(メタ)アクリル酸エステル≫
単官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレートなどの直鎖状または分枝状のアルキル(メタ)アクリレート;
グリシジル(メタ)アクリレート、テトラフルフリル(メタ)アクリレートなどの酸素原子などを有する複素環(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのハロゲン(例えば、塩素)を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、が挙げられる。
【0065】
≪二官能(メタ)アクリル酸エステル≫
二官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどの直鎖状または分枝状のポリまたはモノアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0066】
≪多官能(メタ)アクリル酸エステル≫
多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリメチロールアルカントリ(メタ)アクリレートに代表される三官能(メタ)アクリル酸エステル;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどのポリメチロールアルカンのエテールのテトラ(メタ)アクリレートに代表される四官能(メタ)アクリル酸エステル;
ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレートなどのポリメチロールアルカンのエーテルのポリ(メタ)アクリレートに代表される五官能以上の(メタ)アクリル酸エステル、が挙げられる。
【0067】
また、二官能以上の(メタ)アクリル酸エステルにおいては、例えば、トリエチレングリコールアクリレートメタクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレートジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートジメタクリレートなどのように、メタクリレート基とアクリレート基とを1分子中に併せ持つ化合物も含まれる。
【0068】
<重合開始剤(D)>
重合開始剤(D)としては、熱または光重合開始剤などの重合開始剤が用いられる。
≪熱重合開始剤≫
上記熱重合開始剤としては、有機過酸化物、ジアゾ系化合物が好ましく用いられる。また、重合を短時間で効率よく行いたい場合には、80℃での分解半減期が10時間以下である熱重合開始剤が好ましい。
【0069】
上記有機過酸化物としては、例えば、イソブチルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイドなどのアルキルパーオキサイド;アセチルパーオキサイドなどの過酸化カルボン酸無水物;ベンゾイルパーオキサイドなどの芳香族系過酸化カルボン酸無水物;
スクシン酸パーオキサイドなどのポリカルボン酸の過酸化無水物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネートなどの直鎖状または分枝状の脂肪族系または芳香族系パーオキシジカーボネート;
tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシネオデカネート、クメンパーオキシネオデカネートなどの直鎖状または分枝状の脂肪族系または芳香族系過酸化エステル;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシドなどのカルボン酸とスルホン酸との過酸化無水物、が挙げられる。
【0070】
上記ジアゾ系化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,
4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)が挙げられる。
【0071】
これらの熱重合開始剤の中では、ベンゾイルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルが好ましい。また、レドックス開始剤として、アミンなどの還元剤を併用することもできる。また、これらの熱重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
≪光重合開始剤≫
上記光重合開始剤としては、光増感剤を単独で用いてもよく、光増感剤と光重合促進剤とを組み合わせて用いてもよい。これらの中では、光増感剤と光重合促進剤との組み合わせが好ましい。
【0073】
上記光増感剤としては、例えば、α−ジケトン化合物、カンファーキノンなどのカンファーキノン系化合物;α−ナフチルなどのナフチル系化合物;ベンジル、p,p’−ジメトキシベンジルなどのベンジル系化合物;ペンタジオンなどのβ−ジケトン化合物;
1,4−フェナントレンキノン、ナフトキノンなどのキノン化合物;ジフェニルトリメチルベンゾイルフォスフィンオキシドなどのベンゾイルフォスフィンオキシド系化合物、が挙げられる。これらの中では、カンファーキノンが好ましい。
【0074】
これらの光増感剤は、可視光または紫外光照射によって励起されて重合を開始する公知の化合物類である。これらの光増感剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
上記光重合促進剤としては、例えば、アシルホスフィンオキサイドおよびその誘導体;N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリンなどのN,N−ジアルキル(または芳香族)アニリン;N,N−ジメチル−p−トルイジンなどのN,N−ジアルキル(または芳香族)−p−トルイジン;
p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸、p−N,N−ジエチルアミノ安息香酸、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−N,N−ジエチルアミノ安息香酸エチル、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−N,N−ジエチルアミノ安息香酸メチルなどのN,N−ジアルキルアミノ安息香酸およびそれらのアルキルエステル;
p−N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒドなどのp−N,N−ジアルキルアミノベンズアルデヒド;p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、p−N,N−ジエチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチルなどのp−N,N−ジアルキルアミノ安息香酸のアルコキシアルキルエステル;
p−N,N−ジメチルアミノベンゾニトリル、p−N,N−ジエチルアミノベンゾニトリルなどのp−N,N−ジアルキルアミノベンゾニトリル;p−N,N−ジヒドロキシエチルアニリンなどのp−N,N−ジヒドロキシアルキルアニリン;
p−ジメチルアミノフェネチルアルコールなどのp−ジアルキルアミノフェネチルアルコール;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのN,N−ジアルキルアミノエチルメタクリレート;
トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第三級アミン類;該第三級アミンとクエン酸、リンゴ酸または2−ヒドロキシプロパン酸との組み合わせ;
5−ブチルアミノバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸などのバルビツール酸類;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物、が挙げられる。
【0076】
これらの光重合促進剤の中では、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートなどの芳香族に直接窒素原子が結合した第三級芳香族アミンのエステル化合物、ならびに重合性基を有する脂肪族第三級アミンアシルホスフィンオキシドおよびその誘導体が好ましく用いられる。また、これらの光重合促進剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
また、本発明に係る歯科用硬化性組成物において、重合開始剤(D)として、有機過酸化物を併用しなくても確実に重合硬化でき、さらに歯質に対する接着性を向上させるためには、カルボニル基を有する芳香族系アミンである有機アミン化合物を使用することも好ましい。
【0078】
具体的には、N−フェニルグリシン(NPG)、N−トリルグリシン(NTG)、N−メチル−N−フェニルグリシン(NMePG)、N−(2−カルボキシフェニル)グリシン(N2CPG)、N−(2−ヒドロキシフェニル)グリシン(N2HPG)、N−(4−カルボキシフェニル)グリシン(N4CPG)、N−(4−ヒドロキシフェニル)グリシン(N4HPG)、N−(4−メトキシフェニル)グリシン(N4MPG)、N−(メトキシカルボニル)−N−フェニルグリシン(NMCNPG)、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N−フェニルグリシン(NPG−GMA)などのグリシン類およびそれらの塩が挙げられる。
【0079】
≪開始剤助剤≫
また、開始剤助剤として、含硫黄還元性化合物を配合することも好ましく、具体例として、有機系含硫黄化合物、無機系含硫黄化合物が挙げられる。これらの有機系および無機系含硫黄化合物は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0080】
上記有機系含硫黄化合物としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などの芳香族スルフィン酸およびそれらの塩類;ベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クロルベンゼンスルホン酸、ナフタリンスルホン酸などの芳香族スルホン酸およびそれらの塩類が挙げられる。これらの中では、p−トルエンスルフィン酸塩が好ましく用いられ、特にp−トルエンスルフィン酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0081】
上記無機系含硫黄化合物としては、例えば、亜硫酸、重亜硫酸、メタ亜硫酸、メタ重亜硫酸、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、1亜2チオン酸、1,2チオン酸、次亜硫酸、ヒドロ亜硫酸およびそれらの塩類が挙げられる。これらの中では、亜硫酸塩が好ましく用いられ、該亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムが特に好ましく用いられる。
【0082】
重合性単量体(C)の硬化を速やかに終了させるには、光増感剤と光重合促進剤との組み合わせが好ましく、カンファーキノンと、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチルなどの芳香族に直接窒素原子が結合した第三級芳香族アミンのエステル化合物との組み合わせ、またはアシルホスフィンオキシドとの組み合わせが特に好ましく用いられる。
【0083】
また、重合開始剤(D)として、カンファーキノンと、カルボニル基を有する芳香族系アミンである有機アミン化合物と、開始剤助剤とを併用することもまた好ましい。
<充填材(E)>
本発明に係る歯科用組成物を用いて、例えば歯科用コンポジットレジンを作製する場合には、上記成分(A)〜(D)の他に、さらに充填材(E)を該組成物に配合することが好ましい。このような充填材(E)としては、無機充填材および複合充填材が好ましく、これらをともに前記組成物に配合してもよい。
【0084】
≪無機充填材≫
上記無機充填材としては公知のものが使用でき、例えば、(1)周期律第1、2、3、4族の遷移金属および他のX線造影性に優れる金属;(2)これら(1)の酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、亜硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩;(3)これら(2)の混合物、複合塩、金属塩が挙げられる。
【0085】
具体的には、二酸化ケイ素、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、バリウムガラスなどのガラス粉末;石英粉末、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、バリウム塩、ガラスビーズ、ガラス繊維、フッ化バリウム、鉛塩、タルクを含有するガラスフィラー、コロイダルシリカ、シリカゲル、ジルコニウム酸化物、スズ酸化物、炭素繊維、タングステン酸カルシウム、炭酸酸化ビスマス、モリブデン酸カルシウム、他のセラミックス粉末が挙げられる。
【0086】
上記無機充填材の平均粒子径は、通常は0.01〜5μmであり、歯科用コンポジットレジンの硬化表面に光沢性および透明性を付与したい場合には、その平均粒子径は、好ま
しくは0.01〜3μm、より好ましくは0.01〜1μm、特に好ましくは0.01〜0.1μmである。
【0087】
上記利点(光沢性および透明性)を発揮させるには、日本アエロジル(株)製のR972、R972V、R972CF、RX200、RY200、R202、R805、R976、R812、R812Sなどの疎水性アエロジル;OX−50などの親水性アエロジルと呼ばれているシリカが好適である。これらの中では、R805、R972、R812、R812Sが好適である。
【0088】
上記疎水性アエロジルは、高純度の二酸化ケイ素エアロゾルの疎水化品として市販されているため、敢えて表面改質する必要がない。さらに、その平均粒子径は0.05μm以下であり、可視光線の波長よりも小さい。このため、上記疎水性アエロジルを配合した硬化物は、可視光線が乱反射し難く、透明性に優れる。
【0089】
また、上記無機充填材に対しては、目的に応じてシランカップリング剤などの表面処理剤による表面処理が実施される場合がある。このような表面処理剤としては、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランシリルイソシアネ−ト、ビニルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジオクチルジクロロシランなどのジアルキルジクロロシラン、ヘキサメチレンジシラザンなどのシランカップリング剤;これらのカップリング剤に相当するジルコニウムカップリング剤、チタニウムカップリング剤、アルミニウムカップリング剤が挙げられる。
【0090】
上記表面処理剤は、無機充填剤100重量部に対して、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲で使用される。表面処理剤の使用量が前記数値範囲の下限値を下回ると無機充填材と液体成分とのなじみが悪くなり、一方、上限値を上回ると未反応の表面処理剤が溶出する可能性が高くなることがある。
【0091】
≪複合充填材≫
上記複合充填材とは、上記無機充填材と重合性単量体とを混合した後、加熱や重合開始剤により該重合性単量体を重合させた硬化物を、所望の粒子径になるまで粉砕した粉砕物のことをいう。また、上記複合充填材には、酵素阻害剤(A)(例えば、イソフタル酸誘導体)や抗菌剤(B)(例えば、クロルヘキシジン類)が含有されていてもよい(但し、これらは酵素阻害剤(A)または抗菌剤(B)の含有量として計算する。)。
【0092】
充填剤(E)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、充填材(E)の形状としては、球状体であっても不定形体であってもよく、粒子径とともに適宜選択される。
【0093】
<他の成分(F)>
本発明に係る歯科用組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、重合禁止剤;非水溶性有機溶媒などの非水溶性有機化合物;チタンホワイト、チタンイエロ−などの顔料;紫外線吸収剤;染料;酸化防止剤などの他の成分(F)を配合してもよい。これらの他の成分(F)は、それぞれの適量にて配合される。
【0094】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンなどのハイドロキノン化合物類;ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールなどのフェノール類が挙げられる。これらの重合禁止剤は、歯科用組成物の保存安定性を向上させるために配合されることが好ましく、特に、ハイドロキノンモノメチルエーテルと2,6−ジ−ter
t−ブチル−p−クレゾールとの組み合わせが好ましく用いられる。
【0095】
<水系媒体(G)>
本発明に係る歯科用組成物には、水系溶媒(G)(ただし、抗菌作用を有するものを除く。)を配合してもよい。ここで使用される水系媒体(G)としては、水(ただし、消毒作用のある水を除く。)単独、水と混合し得る有機溶媒、または水と該有機溶媒とを混合した溶媒である。
【0096】
上記水としては、例えば、蒸留水(精製水)、イオン交換水が挙げられる。また、水系溶媒として生理食塩水を用いることもできる。これらの中では、蒸留水、イオン交換水が好ましく用いられる。
【0097】
上記水と混合し得る有機溶媒とは、好ましくは水100重量部に5重量部以上の量で溶解し得る有機溶媒であり、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。歯髄への為害性や刺激性を考慮して、これらの有機溶媒の中では、エタノールやアセトンを用いることが特に好ましい。
【0098】
水系溶媒(G)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
<歯科用組成物の調製>
本発明に係る歯科用組成物は、必須成分として酵素阻害剤(A)を含有し、さらに抗菌剤(B)を含有することが好ましい。本発明に係る歯科用組成物において、酵素阻害剤(A)の含有量は、歯科用組成物の合計100重量%に対して、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.01〜30重量%である。また、抗菌剤(B)の含有量は歯科用組成物の合計100重量%に対して、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.01〜30重量%である。
【0099】
また、さらに重合性単量体(C)および重合開始剤(D)を含有することが好ましく、このような歯科用組成物は、上記の成分を適宜の割合で混合して調製される。例えば、酵素阻害剤(A)、抗菌剤(B)、重合性単量体(C)および重合開始剤(D)を含有する歯科用組成物において、これら各成分は下記範囲の含有量となるように配合される。
【0100】
なお、酵素阻害剤(A)には、重合性を有しない酵素阻害剤(Ao)や重合性を有する酵素阻害剤も含まれ得る。一方、重合性単量体(C)にも、酵素阻害作用を有しない重合性単量体(Co)や酵素阻害作用を有する重合性単量体も含まれうる。すなわち、これら酵素阻害作用および重合性を有する成分(AC)は、酵素阻害剤(A)および重合性単量体(C)の何れにも属するものとなる。また、重合性を有する重合開始剤(D)は、重合性単量体(C)には属さず、重合開始剤(D)に属するものとする。
【0101】
本発明に係る歯科用組成物において、酵素阻害剤(A)の含有量(成分(Ao)+(AC))は、成分(Ao)、(B)、(Co)、(AC)および(D)の合計100重量%に対して、好ましくは0.01〜70重量%、より好ましくは0.025〜70重量%、さらに好ましくは0.25〜50重量%である。酵素阻害剤(A)の含有量(成分(Ao)+(AC))が前記数値範囲の下限値を下回ると歯周病および齲蝕の予防効果や歯芽の保存効果が発揮され難くなり、一方、前記値を上回ると酵素阻害活性が過剰となり刺激性が大きくなることがある。
【0102】
また、成分(Ao)の含有量は、成分(Ao)、(B)、(Co)、(AC)および(D)の合計100重量%に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量
%以下、さらに好ましくは10重量%以下であり、その下限値は、好ましくは0.001重量%、より好ましくは0.01重量%である。成分(Ao)の含有量が前記数値範囲の上限値を上回ると重合不足による硬化不良を招く可能性が高くなり、また、非重合成分の溶出量が増加することがある。
【0103】
本発明に係る歯科用組成物において、抗菌剤(B)の含有量は、成分(Ao)、(B)、(Co)、(AC)および(D)の合計100重量%に対して、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.01〜30重量%である。抗菌剤(B)の含有量が前記数値範囲の下限値を下回ると歯周病および齲蝕の予防効果や歯芽の保存効果が発揮され難くなり、一方、上限値を上回ると重合不足による硬化不良を招く可能性が高くなり、また、非重合成分の溶出量が増加することがある。
【0104】
本発明に係る歯科用組成物において、重合性単量体(C)の含有量(成分(Co)+(AC))は、成分(Ao)、(B)、(Co)、(AC)および(D)の合計100重量%に対して、好ましくは20〜99重量%、より好ましくは50〜99.99重量%である。重合性単量体(C)の含有量が前記数値範囲の下限値を下回ると重合不足による硬化不良を招く可能性が高くなり、一方、上限値を上回ると歯周病の予防効果や歯芽の保存効果が発揮され難くなることがある。
【0105】
また、重量比(Co)/(AC)は、好ましくは10/90〜99.9/0.1、より好ましくは30/70〜99.9/0.1、さらに好ましくは50/50〜99.9/0.1である。重量比(Co)/(AC)が前記数値範囲の下限値を下回ると液体成分の酸性度が強くなり刺激性が高くなる可能性があり、一方、上限値を上回ると歯周病および齲蝕の予防効果や歯芽の保存効果が発揮され難くなることがある。
【0106】
本発明に係る歯科用組成物において、重合開始剤(D)の含有量は、成分(Ao)、(B)、(Co)、(AC)および(D)の合計100重量%に対して、好ましくは0.01〜20重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。重合開始剤(D)の含有量が前記数値範囲の下限値を下回ると重合不足による硬化不良を招く可能性が高くなり、一方、上限値を上回ると重合速度の上昇により操作時間が短縮し使用し難くなることがある。
【0107】
また、本発明において、任意成分である充填材(E)、他の成分(F)および水系溶媒(G)は、下記範囲の含有量となるように配合されることが好ましい。
本発明に係る歯科用組成物において、充填材(E)の含有量は、該組成物全体100重量%に対して、好ましくは0〜90重量%である。充填剤(E)の含有量が前記数値範囲の上限値を上回ると、粘度上昇により歯科用組成物の使用が難くなることがある。
【0108】
本発明に係る歯科用組成物において、他の成分(F)の含有量の合計は、成分(Ao)、(B)、(Co)、(AC)および(D)の合計100重量部に対して、好ましくは50重量部以下、より好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下である。他の成分(F)の含有量の合計が前記数値範囲を超えると、本発明の本来の性能を充分に発揮することが困難となることがある。
【0109】
本発明に係る歯科用組成物において、水系溶媒(G)の含有量は、組成物全体100重量部に対して、好ましくは0〜90重量部である。水系溶媒(G)の含有量が前記数値範囲の上限値を上回ると、重合不足による硬化不良を招くことがある。
【0110】
<歯科用組成物の用途>
本発明に係る歯科用組成物は、酵素阻害作用または酵素阻害作用と抗菌作用とを有する。このため、前記歯科用組成物は、例えば、口腔内粘膜、歯周組織、歯槽骨または歯牙な
どの口腔内組織に適用される歯科用コート剤;歯科用接着材;歯科用根管充填材;歯科用コンポジットレジンに好適に用いられる。また、歯科用合着セメント、小窩裂溝填塞材、義歯床用レジンなどにも好適に用いられる。
【実施例】
【0111】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されることはない。なお、実施例および比較例で得られた歯科用組成物の酵素活性の測定および抗菌試験は以下のようにして行った。
【0112】
〔酵素活性の測定〕
酵素活性の測定には、Molecular Probes社製の酵素活性アッセイキットである、Enzchek Gelatinase/Collagenase Assay Kitを用いた。
【0113】
先ず、以下の要領(1a)〜(1b)にて、健全象牙質粉末を調製した。
(1a)人歯を液体窒素で凍結して凍結人歯とし、スチールミルを用いて−120℃、30Hzの条件にて、該凍結人歯を5分間粉砕した。
【0114】
(1b)上記(1a)で得られた粉砕物を篩分けし、網目サイズ180μmを通過、150μmを非通過のものを回収して、回収された粉砕物を健全象牙質粉末とした。
次に、健全象牙質粉末と下記実施例1〜5で得られた歯科用組成物とを用いて、酵素活性測定用サンプルを以下の要領(2a)〜(2d)にて調製した。
【0115】
(2a)健全象牙質粉末600mgと下記実施例1〜5で得られた歯科用組成物0.7mlとを暗室中で混合・錬和して、該錬和物をガラス板上に広げた。
(2b)ガラス板上に広げられた錬和物に弱いエアーブローを施し、錬和物中に含まれるアセトンと精製水とを除去した。
【0116】
(2c)さらに、ガラス板上に広げられた錬和物上に別のガラス板を載置することにより、該錬和物をガラス板で両側から挟んだ。次いで、ガラス板を通して錬和物に光照射(600mW/cm2で40秒間)することにより、該錬和物を硬化させ、縦:7cm、横
:4cm、厚み0.4mmの硬化物を得た。
【0117】
(2d)この硬化物をスチールミルで粉砕し、得られた粉砕物を篩分けして、網目サイズ300μmを通過、225μmを非通過のものを回収し、酵素活性測定用サンプルとした。
【0118】
Enzchek Gelatinase/Collagenase Assay Kitを用いて、以下の要領(3a)〜(3d)にて、健全象牙質粉末および酵素活性測定用サンプルの酵素活性値を測定した。
【0119】
(3a)10X Buffer(2mL)に蒸留水(8mL)を加えて該10X Bufferを希釈し、1X Bufferを調製した。
(3b)NaN3(1.3mg)に蒸留水(10mL)を加えてNaN3溶液を調製した。上記Kit付属のDQゼラチン1本に、前記NaN3溶液(1mL)を加え、50℃で
5分間超音波処理して該DQゼラチンを完全に溶かし、さらに1X Bufferを用いて体積2倍に希釈し、DQゼラチン溶液を調製した。
【0120】
(3c)上記Kit付属のCollagenase(Type IV from Clostridium histolyticum 500U)1本に、蒸留水(0.5m
L)を加え、1X Bufferを用いて体積100倍に希釈し、コラゲナーゼ溶液を調製した。また、前記コラゲナーゼ溶液は使用するまで冷蔵庫中で保存した。
【0121】
(3d)96wellマイクロプレートに、1X Buffer(60μL)と、酵素活性測定用サンプル(80mg)と、DQゼラチン溶液(20μL)とを混合して入れ、さらに該マイクロプレートにコラゲナーゼ溶液(100μL)を加え、暗所にて24時間、室温でインキュベートした。その後、吸収極大495nm、放射極大515nmで蛍光強度の測定を行い、酵素活性値を測定した。
【0122】
〔抗菌試験〕
ヒト口腔内細菌をカルチュレットにて採取し、直ちに該細菌をリン酸緩衝溶液中に分散させ、得られた分散体の所定量を嫌気性菌用羊血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン(株)製)に塗抹した。
【0123】
次いで、下記実施例1〜7で得られた歯科用組成物75μlを抗菌試験用サンプルとし、ペーパーディスク(直径8mm、厚み1.5mm)に染み込ませた。このペーパーディスクを上記寒天培地上に置き、嫌気性下で37℃にて24時間、菌を培養させた。24時間後のペーパーディスク周囲における菌の発育状況を観察し、下記表1に示す基準で判定を行った。
【0124】
【表1】

【0125】
[実施例1]
酵素阻害剤(A)として4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物(4−META)20重量部(これは、酵素阻害作用および重合性を有する成分(AC)である。);重合性単量体(Co)としてウレタンジメタクリレート(UDMA)20重量部および2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)2重量部;重合開始剤(D)としてカンファーキノン(CQ)0.2重量部、N−フェニルグリシンナトリウム0.3重量部およびp−トルエンスルフィン酸ナトリウム0.3重量部;水系溶媒(G)としてアセトン40重量部および精製水17.2重量部からなる歯科用組成物(1)を調製した。前記歯科用組成物(1)を用いて酵素活性の測定と抗菌試験を行った。結果を表2および表3に示す。
【0126】
[実施例2]
上記歯科用組成物(1)100重量部に、抗菌剤(B)としてグルコン酸クロルヘキシジン0.5重量部を配合し、歯科用組成物(2)を調製した。前記歯科用組成物(2)を
用いて酵素活性の測定と抗菌試験を行った。結果を表2および表3に示す。
【0127】
[実施例3]
上記歯科用組成物(1)100重量部に、抗菌剤(B)としてグルコン酸クロルヘキシジン1重量部を配合し、歯科用組成物(3)を調製した。前記歯科用組成物(3)を用いて酵素活性の測定と抗菌試験を行った。結果を表2および表3に示す。
【0128】
[実施例4]
上記歯科用組成物(1)100重量部に、抗菌剤(B)としてグルコン酸クロルヘキシジン2重量部を配合し、歯科用組成物(4)を調製した。前記歯科用組成物(4)を用いて酵素活性の測定と抗菌試験を行った。結果を表2および表3に示す。
【0129】
[実施例5]
上記歯科用組成物(1)100重量部に、抗菌剤(B)としてグルコン酸クロルヘキシジン5重量部を配合し、歯科用組成物(5)を調製した。前記歯科用組成物(5)を用いて酵素活性の測定と抗菌試験を行った。結果を表2および表3に示す。
【0130】
[実施例6]
上記歯科用組成物(1)100重量部に、抗菌剤(B)として塩化ベンゼトニウム0.5重量部を配合し、歯科用組成物(6)を調製した。前記歯科用組成物(6)を用いて抗菌試験を行った。結果を表3に示す。
【0131】
[実施例7]
上記歯科用組成物(1)100重量部に、抗菌剤(B)としてヘキサデシルピリジニウム0.5重量部を配合し、歯科用組成物(6)を調製した。前記歯科用組成物(6)を用いて抗菌試験を行った。結果を表3に示す。
【0132】
[比較例1]
上記実施例1〜5で得られた歯科用組成物を用いずに、健全象牙質粉末のみを用いて酵素活性測定用サンプルを調製し、酵素活性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
【表3】

【0135】
表2に示したように、通常の健全象牙質粉末と比較して、酵素阻害剤(A)を含有する歯科用組成物は酵素阻害能が高い。また、表3に示したように、このような酵素阻害作用を有する歯科用組成物に、さらに、グルコン酸クロルヘキシジンなどの抗菌剤(B)を配合することで抗菌作用も同時に奏される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素阻害剤(A)を含有することを特徴とする歯科用組成物。
【請求項2】
前記酵素阻害剤(A)が、EC3.4に属するペプチド結合加水分解酵素を阻害する酵素阻害剤であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記酵素阻害剤(A)が、マトリックスメタロプロテイナーゼを阻害する酵素阻害剤であることを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記酵素阻害剤(A)が、酸性基を有する酵素阻害剤(A1)であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記酵素阻害剤(A)が、下記一般式(1)で表される化合物、該化合物(1)の塩、および該化合物(1)の酸無水物から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の歯科用組成物。
【化1】

[式(1)中、X1、X2およびX3は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、ヒドロキシ、カ
ルボキシ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC1〜C6アルキル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC1〜C6アルコキシ、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルケニル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルキニル、またはNX45
〔X4およびX5は、それぞれ独立に水素、(メタ)アクリレート基を有してもよいC1
6アルキル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC2〜C6アルケニル、(メタ)ア
クリレート基を有してもよいC2〜C6アルキニル、(メタ)アクリレート基を有してもよいC6アリール、(メタ)アクリレート基を有してもよいC3〜C6シクロアルキル、(メ
タ)アクリレート基を有してもよい3〜8員のヘテロアリールである。また、X4とX5とが結合して、O、SおよびNから選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環原子として有する3〜8員のヘテロ環を形成してもよい。〕であり;
1およびE2は、それぞれ独立にOまたはSであり;
AおよびBは、それぞれ独立にOX4(ここで、X4は前記X4と同義である。)または
NX45(ここで、X4およびX5はそれぞれ前記X4およびX5と同義である。)である。]
【請求項6】
前記酵素阻害剤(A)が、イソフタル酸誘導体、該イソフタル酸誘導体の塩、および該イソフタル酸誘導体の酸無水物から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の歯科用組成物。
【請求項7】
さらに、抗菌剤(B)を含有することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記抗菌剤(B)の少なくとも一部が、フェノール係数0.001〜300の消毒薬および化学療法薬から選択される少なくとも1種の抗菌剤であることを特徴とする請求項7に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記抗菌剤(B)が、クロルへキシジン類およびその塩から選択される少なくとも1種の抗菌剤であることを特徴とする請求項7に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
さらに、重合性単量体(C)および重合開始剤(D)を含有することを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の歯科用組成物。
【請求項11】
さらに、充填材(E)を含有することを特徴とする請求項10に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
口腔内粘膜、歯周組織、歯槽骨および歯牙から選択される口腔内組織に適用される歯科用コート剤に用いられることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の歯科用組成物。
【請求項13】
歯科用接着材に用いられることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の歯科用組成物。
【請求項14】
歯科用根管充填材に用いられることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の歯科用組成物。
【請求項15】
歯科用コンポジットレジンに用いられることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の歯科用組成物。

【公開番号】特開2010−83795(P2010−83795A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253954(P2008−253954)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】