説明

酸キャップされた四級化ポリマー及びそのようなポリマーを含む組成物

本発明は、ポリマーの骨格に結合され、対イオンにより中和されている第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーにおいて、対イオンが、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成るところのポリマーである。本発明は更に、このポリマーの製造、防汚組成物中でのその使用法、及び該ポリマーを含む防汚組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料に関し、特に海洋用途のための防汚塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に沈められるところの人工構造物、例えば、船体、ブイ、掘削用基壇(drillingplatform)、油井リグ、及び配管は、水中生物、例えば、緑色及び褐色藻類、海産甲殻動物(barnacle)、イガイ(mussel)等により汚染される傾向にある。そのような構造物は普通金属製であるが、また、他の構造物質、例えば、コンクリートを含み得る。この汚染は船体に有害である。何故ならば、それは、水を通って移動する間に摩擦抵抗を増大させ、その結果として、速度が減じられ、かつ燃料コストが増大されるからである。それは、静的構造物、例えば、掘削用基壇及び油井リグの脚に有害である。何故ならば、第一に、波及び流れに対する汚染の厚い層の抵抗が、該構造に予測できないかつ潜在的に危険な応力を生じさせ得るからであり、及び第二に、汚染が、欠陥、例えば、応力割れ及び応力腐食について構造を検査することを困難にするからである。それは、配管、例えば、冷却水の取り入れ口及び出口に有害である。何故ならば、有効断面積が汚染により減じられ、その結果、流速が減じられるからである。
【0003】
通常、海洋生物のための殺生物剤の放出により、海洋生物、例えば、海産甲殻動物及び藻類の定着及び成長を禁止するために、例えば、船体上にトップコートとして防汚塗料を使用することが知られている。
【0004】
伝統的には、防汚ペイントは、該ペイントから浸出されるところの殺生物性顔料を伴う比較的不活性なバインダーを含んでいた。使用されていたところのバインダーの中に、ビニル樹脂及びロジンがある。ビニル樹脂は海水不溶性であり、かつこれらに基づいた塗料は、浸出を確保するために顔料粒子の間に接触を有するように高顔料濃度を使用する。ロジンは、海水にほんの僅か溶解するところの硬く脆い樹脂である。ロジンに基づいた防汚塗料は、可溶性マトリックス又は侵食塗料と言われている。殺生物性顔料は使用においてロジンバインダーのマトリックスの外に非常に徐々に浸出されて、ロジンの骨格マトリックスを離れる。これは船体表面を洗い落として、塗膜内の深みから殺生物性顔料の浸出を可能にする。
【0005】
近年におけるたくさんの成功した防汚ペイントは、殺生物性トリオルガノスズ部分が化学的に結合され、かつ殺生物性部分が海水により徐々に加水分解されるところのポリマー状バインダーに基づいた「自己研磨性コポリマー」塗料であった。そのようなバインダー系において、直鎖状ポリマー単位の側鎖基が、海水と反応することにより第一段階において分離除去され、ここで、残っているところのポリマー骨格が、結果として水可溶性又は水分散性になる。第二段階において、船の塗料層の表面における水可溶性又は水分散性骨格が洗い出され又は侵食される。そのような塗料系は、例えば、英国特許出願公開第1 457 590号公報に開示されている。トリオルガノスズの使用が法律により制限されており、かつ世界的に禁止されるであろう故に、防汚組成物中に使用され得るところの替わりの防汚物質のための必要性がある。
【0006】
英国特許出願公開第2 273 934号公報は、オルガノスズに基づいた防汚系に対する代替物であるところのバインダー系を開示している。開示された加水分解可能なポリマー状バインダーの一つは、ポリマー状骨格に結合された第四級アンモニウム基を含む。そのようなポリマー状バインダーは、R基の一つが(メタ)アクリルアミド官能性を有するところのハロゲン化物キャップされた第四級アンモニウムモノマーの共重合により製造される。これらのポリマー状バインダーは、ハロゲン化物キャップされた第四級アンモニウム基のために海水中に部分的に可溶である。しかし、全体のバインダーが開始からある程度まで海水可溶性である故に、塗料は比較的迅速に侵食する。
【0007】
非殺生物性部分を放出するところの自己研磨性コポリマー塗料は、欧州特許出願公開第69 559号公報、欧州特許出願公開第204 456号公報、欧州特許出願公開第529 693号公報、欧州特許出願公開第779 304号公報、国際公開第91/14743号公報、国際公開第91/09915号公報、英国特許出願公開第231 070号公報、及び特開平9‐286933号公報に開示されている。
【0008】
米国特許第4,675,051号明細書は、海水中に徐々に溶解され、かつロジンと、少なくとも一つの第一級又は第二級アミン基を含む脂肪族ポリアミンとの反応により製造される樹脂の形態においてバインダーを含むところの海洋防汚塗料を開示する。欧州特許出願公開第802 243号公報は、ロジン化合物、オルガノシリルエステル基を含むポリマー、及び防汚剤を含む塗料組成物を開示している。
【0009】
国際公開第02/02698号公報は、海水に徐々に溶解されるところの防汚塗料を開示する。該塗料は、バインダー及び殺海洋生物性を有する成分を含む。バインダーは、ロジン物質及びフィルム形成性補助樹脂を含む。フィルム形成性補助樹脂は、非加水分解性、水不溶性のフィルム形成性ポリマー及び酸官能性フィルム形成性ポリマーを含み、ここで、この酸基は、第四級アンモニウム基又は第四級ホスホニウム基によりブロックされている。第一段階において、ブロックしている基が海水種を加水分解、解離又はそれと交換され、残っているポリマー骨格が、結果として海水に可溶性又は分散性になる。第二段階において、船の塗料層の表面における可溶性又は分散性の骨格が洗い流され又は侵食される。
【0010】
酸官能性ポリマーにおけるブロックしている基として使用されるところの第四級アンモニウム基又は第四級ホスホニウム基の構造は、塗料が溶解又は侵食するところの速度に影響する。より長鎖の第四級アンモニウム基は、塗料のゆっくりとした分解を確保するけれども、これらの基は、寸法増加に伴ってより毒性となる。この毒性は例えば、特開平2-120372号公報に開示されている防かび塗料組成物に使用されている。
【0011】
従って、ブロックしている基が海水種と加水分解され、解離され又は交換され得るところのブロックされた官能性基を含むバインダーポリマーが必要性であり、ここで、残っているところのポリマー骨格は、結果として海水に可溶性又は分散性になり、該ブロックしている基は低毒性、好ましくは非殺生物性である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題/欠点に対する解決を提供するところのポリマーに関する。本発明は更に、このポリマーの製造、防汚組成物におけるその使用、該ポリマーを含む防汚組成物、及び水中に沈められる人工構造物、例えば、船体、ブイ、掘削用基壇、油井リグ、及び配管の保護のためのそのような防汚組成物の使用法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のバインダーポリマーは、ポリマーの骨格に(ペンダント状に)結合された第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーであり、ここで、該第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基は、対イオンにより、中和されており、換言すれば、ブロック又はキャップされている。これらの対イオンは、少なくとも6個の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は更に、そのような長鎖の、カルボキシレートキャップされた第四級官能性アンモニウム又はホスホニウムポリマーを製造する方法に関し、該方法が、
式(I)
【化1】

(ここで、YはO又はNHであり、ZはN又はPであり、R1は水素原子又はC1〜C4アルキル基、好ましくは水素又はC1〜C2アルキル基であり、R2はC2又はC3〜C12の二価の炭化水素基、好ましくはC2又はC3〜C8の二価の炭化水素基、より好ましくはC2又はC3〜C4の二価の炭化水素基であり、R3及びR4は独立して、C1〜C6アルキル基、好ましくはメチル、又は任意的に置換されたフェニル基を表す)
のアミン又はホスフィン官能性モノマーの四級化、
6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸から誘導されたカルボキシレート基による該四級化されたアンモニウム又はホスホニウムモノマーの対イオンの置き換え(これは、対イオンでキャップされている四級化されたモノマーをもたらし、ここで、対イオンは、6個以上の炭素原子を含む脂肪族炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成る)、
長鎖の酸でキャップされた第四級アンモニウムモノマーの少なくとも一つのタイプ及び/又は長鎖の酸でキャップされた第四級ホスホニウム官能性モノマーの少なくとも一つのタイプの重合
の段階を含む。
【0015】
式(I)のアミン又はホスフィン官能性モノマーの四級化は、モノマー(I)を炭酸ジエステル、好ましくは最大6個の炭素原子を持つ炭酸ジエステル、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジプロピルカーボネートと反応させることにより実行され得る。ジメチルカーボネートを使用する反応が最も好ましい。
【0016】
例えば、炭酸ジエステルを使用する式(I)のアミン官能性モノマーの四級化は、式(II)
【化2】

(ここで、Y、R1、R2、R3及びR4は上記と同じであり、R5はC1〜C5アルキル基であり、好ましくはR5はメチルであり、かつXは炭酸ジエステルのアニオン性残基である)
の第四級アンモニウム官能性モノマーをもたらす。反応条件は、第三級アミンRXRyRZNの四級化のために欧州特許出願公開第291 074号公報に開示されているようであり得、ここで、RX、Ry、及びRZは炭化水素残基を表す。例えば、式(I)のアミン官能性モノマー及び炭酸ジエステルは、0.2〜5のモル比で使用され得る。通常、該反応は、20〜200℃の反応温度で溶剤の存在下又は不存在下において行われ得る。好ましくは、約90psi〜100psi(6.1 105Pa〜6.8 105Pa)の高められた圧力下に、アルコール、好ましくはメタノールの存在下に115〜135℃の温度で達成される。
【0017】
第四級アンモニウム又は第四級ホスホニウムモノマーのカーボネート対イオンの置き代えは、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸を使用して達成され得る。例えば、該酸は、炭酸、スルホン酸、又はサルフェートであり得る。好ましくは、該酸は、6個以上の炭素原子、より好ましくは8個以上の炭素原子を含む。該酸は好ましくは、最大50個の炭素原子、更により好ましくは最大30個の炭素原子、及び最も好ましくは最大20個の炭素原子を含む。
【0018】
長鎖の、酸キャップされた第四級アンモニウム又は第四級ホスホニウム官能性モノマー、又は第四級官能性モノマーの混合物の重合は、種々のコモノマー、任意的にコモノマーの混合物を使用して達成され得る。例えば、付加共重合は、アルキル、アルコキシアルキル、炭素環式若しくはヘテロ環式アルコール又はアミンのエステル又はアミドを、不飽和カルボン酸、例えば、メチルアクリレート又はメタクリレート、ブチルアクリレート又はメタクリレート、イソブチルアクリレート又はメタクリレート、及びイソボルニルアクリレート又はメタクリレートと反応させることにより製造される不飽和モノマーにより達成され得る。あるいは、不飽和コモノマーは、ビニル系化合物、例えば、スチレン、ビニルピロリドン又は酢酸ビニルであり得る。
【0019】
6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸から誘導される対イオンを有する第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーは、上記のように、長鎖の、酸キャップされた第四級官能性モノマーの少なくとも一つのタイプの重合により製造され得る。あるいは、それは、第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーを、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸と反応させることにより製造され得る。
【0020】
本発明は更に、ポリマーの骨格に結合された第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーの使用に関し、ここで、該第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基は対イオンにより中和されており、かつ、該対イオンは、防汚塗料組成物において6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成る。
【0021】
本発明は更に、殺海洋生物性を有する成分及び、ポリマーの骨格に結合された第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーを含む防汚塗料組成物に関し、ここで、該第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基は対イオンにより中和されており、かつ、該対イオンは、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成る。
【0022】
本発明に従う塗料が海水に溶解又は侵食するところの速度は、実質的に、放出される基の毒性に関係される問題なしに、ブロックしている基の構造により調節され得る。好ましくは、ブロックしている基は、6〜50個の炭素原子、より好ましくは6〜20個の炭素原子を含む脂肪族炭化水素基を有する一つ以上の酸のアニオン性残基を含む。
【0023】
本発明の他の実施態様によれば、塗料は、殺海洋生物性を有する成分及び第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーに加えてロジン物質を含み、ここで、該第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基は、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成る対イオンにより中和されている。
【0024】
ロジンは余り良好なフィルム形成体ではなく、そしてロジンに基づいた防汚塗料に他のフィルム形成性樹脂を加えることが知られている。従って、ロジン物質を含む本発明に従う防汚塗料組成物は好ましくは更に、非加水分解性、水不溶性のフィルム形成性ポリマーを含む。ロジン物質と、長鎖の、酸キャップされた第四級官能性ポリマーと、任意的な一つ以上の他のフィルム形成性樹脂との比は、殺海洋生物性を有する成分が塗料から浸出された後に、塗膜の強度及び/又はロジンに基づいた塗料マトリックスの確かな浸食に影響を及ぼす。
【0025】
本発明の好ましい実施態様によれば、防汚塗料は、20:80〜95:5の重量比でロジン物質とフィルム形成性補助樹脂とのブレンドを含むバインダーを有し、ここで、該フィルム形成性補助樹脂が、第四級アンモニウム及び/又は第四級ホスホニウム官能性フィルム形成性ポリマー(A)の20〜100重量%(ここで、該四級化された基が、海水種を加水分解、解離又それと交換することができて、ポリマーを海水に溶解させる基によりブロックされており、かつ、該ブロックしている基が、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基である)、及び非加水分解性、水不溶性のフィルム形成性ポリマー(B)の80〜20%を含む。
【0026】
殺海洋生物性を有する成分及び長鎖の、酸キャップされた第四級官能性ポリマーを含む組成物に加えられ得るところのロジン物質は、好ましくはロジン、より詳細には、木ロジン又はあるいはタールロジン若しくはガムロジンである。ロジンの主化学成分はアビエチン酸である。ロジンは、市販されているグレードのいずれでもよく、好ましくはWW(ウォーターホワイト)ロジンとして販売されているものである。ロジン物質はあるいは、ロジン誘導物、例えば、マレイン化又はフマル化されたロジン、水素化されたロジン、ホルミル化されたロジン又は重合されたロジン、又はロジン金属塩、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅又は亜鉛ロジネートであり得る。
【0027】
非加水分解性、水不溶性のフィルム形成性ポリマー(B)は、例えば、ビニルエーテルポリマー、例えば、ポリ(ビニルアルキルエーテル)又はビニルアルキルエーテルと酢酸ビニル若しくは塩化ビニルとのコポリマー、アセテートエステルポリマー、例えば、好ましくはアルキル基中に1〜6個の炭素原子を含みかつコモノマー、例えば、アクリロニトリル又はスチレンを含み得るところの、一つ以上のアルキルアクリレート又はメタクリレートのホモポリマー又はコポリマー、又は酢酸ビニルポリマー、例えば、ポリビニルアセテート又は酢酸ビニル塩化ビニルコポリマーであり得る。ポリマー(B)はあるいは、ポリアミド、とりわけ、可塑化効果を有するポリアミド、例えば、脂肪酸二量体のポリアミド又は商標「Santiciser」の下に販売されているポリアミドであり得る。
【0028】
我々は、非加水分解性、水不溶性のフィルム形成性ポリマー(B)が組成物中に存在するとき、本発明の塗料が、フィルム形成性及び浸食性の最適な組み合せを有することが分かった。最も好ましくは、ロジン対合計のフィルム形成性補助樹脂との重量比が、25:75、50:50又は55:45から80:20までである。加水分解性又は解離性フィルム形成性ポリマー(A)は好ましくは、フィルム形成性補助樹脂の少なくとも30重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%、最大80又は90重量%を形成し、非加水分解性、水不溶性のポリマー(B)が残りである。
【0029】
ロジン及びフィルム形成性補助樹脂を形成するポリマーは、塗料溶剤の少なくとも一部を形成するところの通常の溶剤、例えば、芳香族炭化水素、例えば、キシレン、トルエン又はトリメチルベンゼン、アルコール、例えば、n-ブタノール、エーテルアルコール、例えば、ブトキシエタノール又はメトキシプロパノール、エステル、例えば、ブチルアセテート又はイソアミルアセテート、エーテル-エステル、例えば、エトキシエチルアセテート又はメトキシプロピルアセテート、ケトン、例えば、メチルイソブチルケトン又はメチルイソアミルケトン、脂肪族炭化水素、例えば、ホワイトスピリット、又はこれらの溶剤の二つ以上の混合物中に混合され得る。
【0030】
ロジンを持つか又は持たない本発明に従う防汚塗料は非ポリマー状可塑剤を含み得る。そのような可塑剤は、例えば、合計バインダーポリマーに基づいて最大50重量%、最も好ましくは少なくとも10重量%で存在し得、かつバインダーポリマーに基づいて最大35重量%で存在し得る。そのような可塑剤の例は、フタレートエステル、例えば、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート又はジオクチルフタレート、ホスフェートトリエステル、例えば、トリクレジル若しくはトリス(イソプロピル)フェニルホスフェート、又は塩素化されたパラフィンである。
【0031】
殺海洋生物性を有する成分は通常、水生生物体のための殺生物剤又は顔料、又はこれらの混合物である。この殺生物剤及び/又は顔料は、慣用の塗料ブレンディング技術を使用してバインダーと混合され得る。殺海洋生物性を有する成分が顔料であるとき、それは、塗料の顔料の全て又は一部であり得る。塗料組成物は好ましくは、例えば、15〜55%の顔料体積濃度を有する。
【0032】
殺海洋生物性を有する成分が顔料であるとき、顔料は、金属含有顔料、例えば、0.5〜10重量ppmの海水での溶解性を有する金属含有顔料を含み得る。殺水生生物剤としてまた挙動するところのそのような顔料の例は、銅又は亜鉛化合物、例えば、酸化第一銅、チオシアン酸第一銅、硫酸第一銅、亜鉛エチレンビス(ジチオカーバメート)、亜鉛ジメチルジチオカーバメート、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、亜鉛ジエチルジチオカーバメート、銅樹脂酸塩又はエチレンビス(ジチオカーバメート)第一銅を含む。0.5〜10ppmの海水における溶解性を有する他の乏しい溶解性顔料は、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ドロマイト、及び酸化亜鉛を含む。乏しい溶解性顔料の混合物が使用され得る。例えば、非常に効果的な殺生物性顔料であるところの酸化第一銅、チオシアン酸第一銅又は亜鉛エチレンビス(ジチオカーバメート)が、殺生物剤として効果的ではないが、海水においてより迅速に僅かに溶解するところの酸化亜鉛と混合され得る。銅金属は、例えば、フレーク形態又は粉末形態において殺水生生物剤として存在し得る。
【0033】
防汚コーティング組成物は、海洋生物体のための金属を含有しない殺生物剤、即ち、殺生物剤であるが顔料でないところの殺海洋生物性を有する成分を含み得る。そのような化合物の例は、テトラメチルチウラムジサルファイド、メチレンビス(チオシアネート)、キャプタン、ピリジウムトリフェニルボロン、置換されたイソチアゾロン、例えば、4,5‐ジクロロ‐2‐n‐オクチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オン、2‐メチルチオ‐4‐ターシャリーブチルアミノ‐6‐シクロプロピルアミノ‐s‐トリアジン、N‐3,4‐ジクロロフェニル‐N’,N’‐ジメチル‐尿素(「Diuron」)、2‐(チオ‐シアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、2,4,5,6‐テトラクロロ‐イソフタロニトリル、ジクロロフルアニド、トリルフルアニド、2‐(p‐クロロフェニル)‐3‐シアノ‐4‐ブロモ‐5‐トリフルオロメチルピロール、3‐ブチル‐5‐(ブロモメチリデン)‐2(5H)‐フラノン及び2,3,5,6‐テトラクロロ‐4‐(メチル‐スルホニル)ピリジンである。そのような金属を含有しない殺生物剤は、銅を含まない、若しくは金属さえ含まない、又は顔料を含まない防汚コーティングにおいてコーティングの単なる殺生物剤とて使用され得る。
【0034】
任意的に、防汚組成物は、一つ以上の酸官能性殺生物剤、例えば、(9E)‐4‐(6,10‐ジメチルオクタ‐9,11‐ジエニル)フラン‐2‐カルボン酸及びp‐(スルホオキシ)ケイ皮酸(ゾステリックアシッド)を含む。そのような金属を含まない酸官能性殺生物剤(の混合物)は、銅を含まない、又は金属さえ含まない又は顔料を含まない防汚コーティングにおいてコーティングの単なる殺生物剤として使用され得る。
【0035】
通常、水生生物体のための殺生物剤又は顔料又はそれらの混合物であるところの、殺海洋性生物性を有する成分に加えて、該コーティング組成物は(他の)顔料を含み得る。例えば、海水と反応性ではなく、かつ海水に非常に不溶性(0.5重量ppm未満の溶解性)であり得るところの顔料、例えば、二酸化チタン又は酸化第二鉄又は有機顔料、例えば、フタロシアニン又はアゾ顔料。そのような非常に不溶性な顔料は好ましくは、塗料の合計顔料含有量の60重量%未満、最も好ましくは40重量%未満で使用される。
【0036】
コーティング組成物は更に、他の添加剤、例えば、慣用の増粘剤、特にチキソトロピー剤、例えば、シリカ又はベントナイト及び/又は安定剤、例えば、ゼオライト又は脂肪族若しくは芳香族アミン、例えば、デヒドロアビエチルアミンを含み得る。
【0037】
本発明は、次の実施例に従って説明される。これらは、本発明を説明することを目的としており、本発明の範囲を如何なる方法においても限定するとして解釈されるべきではない。
【0038】
実施例1
トリメチルアンモニウムプロピルメタクリルアミドのメチルカーボネート塩が、下記の方法においてパルミチン酸を使用して中和された。
【0039】
固体状のパルミチン酸(60.26グラム、0.235モル)が、トリメチルアンモニウムプロピルメタクリルアミドメチルカーボネート塩(61.18グラム、0.235モル)のメタノール性溶液(300ミリリットル)に加えられた。(CO2ガスが放出される)バブリング縣濁物が、N2雰囲気下に室温で一晩攪拌された。得られた溶液が、更に1時間、35℃に加熱されて、完全な反応を確保した。減圧下における溶剤の蒸発除去は、1H‐NMRにより所望の生成物であることを確認されたところのオフホワイトの固体/半固体をもたらし、そして更なる精製なしに使用された。
【0040】
上記の実験は、この反応のために通常採用される条件下において実行された。これらの反応条件における変化が可能である。例えば、替わりの溶剤、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、又はキシレンとそれらの混合物が、重合段階に(単離なしに)直接向けられ得るところのモノマー溶液をもたらすために採用され得る。加えて、反応は、より短い時間、高められた温度で実行され得る。
【0041】
実施例2
実施例1において製造されたトリメチルアンモニウムプロピルメタクリルアミドパルミテート塩が、50%固体のポリマー溶液が得られるようにイソボルニルメタクリレート(iBoMA)(20:80)と重合された。
【0042】
(3:1)キシレン:ブタノール(50グラム)中のトリメチルアンモニウムプロピルメタクリルアミドパルミテート(103.57グラム、0.235モル)、iBoMA(208.96グラム、0.940モル)、及び2,2’‐アゾビス‐(2‐メチルブチロニトリル)AMBN開始剤(2.26グラム、0.118モル、1モル%)を含む供給溶液が製造された。この供給溶液が、85℃で(3:1)キシレン:ブタノール(265グラム)を含む反応容器に、機械攪拌を伴いかつN2の雰囲気下に3時間半に亘って滴下添加された。モノマーの添加が完了した後に、温度が95℃に上げられ、そして補助量のAMBN(1.13グラム、0.0059モル、1/2モル%)が加えられた。反応が、1時間、この高められた温度で維持された。ポリマー溶液が冷却されている貯蔵容器に移送された。
【0043】
上記の実験は、これらの条件における変化が可能であるけれども、この反応のために通常採用される条件下に実行された。他の溶剤又は通常の塗料溶剤から構成される溶剤混合物が代替物として使用され得る。他のコモノマーは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、スチレン、及び他のビニル系モノマーである。また、モノマーの比は変化され得る。通常、第四級官能性の酸キャップされたモノマーが、15〜30モル%の量で存在するであろう。ポリマー溶液の粘度は、物質が通常、例えば、30%を超え、又は45%を超え、及び例えば、75%未満の固体パーセンテージで調合され得るようである。加えて、替わりの開始剤、例えば、α,α’‐アゾイソブチロニトリル(AIBN)が使用され得る。
【0044】
実施例3
下記の物質が、高速分散装置を使用して表示された重量%において混合されて、本発明に従う銅含有防汚塗料を形成した。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例4
下記の物質が、高速分散装置を使用して表示された重量%において混合されて、本発明に従う銅を含まない防汚塗料を形成した。
【0047】
【表2】

【0048】
実施例5
下記の物質が、高速分散装置を使用して表示された重量%において混合されて、本発明に従う亜鉛及び銅を含まない防汚塗料を形成した。
【0049】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーの骨格に結合され、対イオンにより中和されている第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーにおいて、対イオンが、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成ることを特徴とするポリマー。
【請求項2】
式(I)
【化1】

(ここで、YはO又はNHであり、ZはN又はPであり、R1は水素原子又はC1〜C4アルキル基であり、R2はC2又はC3〜C12のアルキレン基であり、R3及びR4は独立して、C1〜C6アルキレン基又は任意的に置換されたフェニル基を表す)
のアミン又はホスフィン官能性モノマーの四級化、
6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸から誘導されたカルボキシレート基による該四級化されたアンモニウム又はホスホニウムモノマーの対イオンの置き換え、
長鎖の酸でキャップされた第四級アンモニウムモノマーの少なくとも一つのタイプ及び/又は長鎖の酸でキャップされた第四級ホスホニウム官能性モノマーの少なくとも一つのタイプの重合
の段階を含むところの、請求項1記載のポリマーの製造法。
【請求項3】
ポリマーの骨格に結合され、対イオンにより中和されている第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーを防汚コーティング組成物において使用する方法において、対イオンが、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成ることを特徴とする方法。
【請求項4】
殺海洋生物性を有する成分、並びにポリマーの骨格に結合され、対イオンにより中和されている第四級アンモニウム基及び/又は第四級ホスホニウム基を含むポリマーを含む防汚コーティング組成物において、対イオンが、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基から成ることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項5】
対イオンが6〜50個の炭素原子を含むことを特徴とする請求項4記載のコーティング組成物。
【請求項6】
更にロジン物質を含むことを特徴とする請求項4又は5記載のコーティング組成物。
【請求項7】
コーティング組成物が、20:80〜95:5の重量比でロジン物質とフィルム形成性補助樹脂とのブレンドを含むバインダーを有し、ここで、該フィルム形成性補助樹脂が、第四級アンモニウム及び/又は第四級ホスホニウム官能性フィルム形成性ポリマー(A)の20〜100重量%(ここで、該四級化された基が、海水種を加水分解、解離又はそれと交換することができて、ポリマーを海水に溶解させる基によりブロックされており、かつ、該ブロックしている基が、6個以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族、又はアルカリール炭化水素基を有する酸のアニオン性残基である)、及び非加水分解性、水不溶性のフィルム形成性ポリマー(B)の80〜20%を含むことを特徴とする請求項6記載のコーティング組成物。
【請求項8】
バインダーが、55:45〜80:20の重量比でロジン物質とフィルム形成性補助樹脂とのブレンドを含むことを特徴とする請求項7記載のコーティング組成物。
【請求項9】
フィルム形成性補助樹脂が、海水に溶解するポリマーを加水分解又は解離することができるフィルム形成性ポリマー(A)の30〜90重量%、及び非加水分解性、水不溶性のフィルム形成性ポリマー(B)の70〜10重量%を含むことを特徴とする請求項7又は8記載のコーティング組成物。
【請求項10】
非加水分解性、水不溶性のフィルム形成性ポリマー(B)がアクリレートエステルポリマー又はビニルエーテルポリマーであることを特徴とする請求項4〜9のいずれか一つに記載のコーティング組成物。
【請求項11】
バインダーが、バインダーポリマー合計に基づいて最大50重量%で存在する非ポリマー状可塑剤を含むことを特徴とする請求項4〜10のいずれか一つに記載のコーティング組成物。
【請求項12】
船体、ブイ、掘削用基壇、油井リグ、配管、又は他の水中に沈められるところの人工構造物の保護のために請求項4〜11のいずれか一つに記載のコーティング組成物を使用する方法。

【公表番号】特表2006−510748(P2006−510748A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−530027(P2004−530027)
【出願日】平成15年7月16日(2003.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007693
【国際公開番号】WO2004/018533
【国際公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(500286643)アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ (67)
【Fターム(参考)】