説明

酸化アルミニウム前駆体ゾル、光学用部材および光学用部材の製造方法

【課題】凝集を抑制した有機アルミニウム化合物を含む酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いることにより、良好な反射防止性能を有する光学用部材を提供する。
【解決手段】アルミニウムアルコキシドまたはアルミニウム塩化合物を加水分解して得られた重縮合物、溶媒と、一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物を含むことを特徴とする酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いる。


R1、R2は炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、またはアリル基であり、R3は炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリル基、またはアリール基であり、nは1以上3以下の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布性が良好で、かつ可視領域を含む広い領域で良好な反射防止性能を低温での焼成処理であっても作製可能な酸化アルミニウム前駆体ゾル及び、それを用いた光学用部材の製造方法及び、光学用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の波長以下の微細構造を用いた反射防止構造体は、適切なピッチ、高さの微細構造を形成することにより、広い波長領域ですぐれた反射防止性能を示すことが知られている。微細構造を形成する方法としては、波長以下の粒径の微粒子を分散した膜の塗布などが知られている。
【0003】
また、微細加工装置(電子線描画装置やレーザー干渉露光装置,半導体露光装置,エッチング装置など)によるパターン形成によって微細構造を形成する方法は、ピッチ、高さの制御が可能である。また、すぐれた反射防止性を持つ微細構造を形成することが出来ることが知られている(特許文献1)。
【0004】
それ以外の方法として、アルミニウムの水酸化酸化物であるベーマイトを基材上に成長させて反射防止効果を得ることも知られている。これらの方法では、真空成膜法あるいは液相法(ゾルゲル法)により成膜した酸化アルミニウム(アルミナ)の膜を水蒸気処理あるいは温水浸漬処理により、表層をベーマイト化して微細構造を形成し、反射防止膜を得ている(特許文献2)。
【0005】
ベーマイトの微細構造を用いて反射防止膜を形成する方法では垂直入射および斜入射による反射率が極めて低く、優れた反射防止性能が得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭50−70040号公報
【特許文献2】特開平9−202649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、有機アルミニウム化合物の凝集が起こりやすいゾルを部材上に塗布し膜を形成すると、膜の均一性が低下し、膜ムラによる外観不良を招く場合がある。
【0008】
また、液相法(ゾルゲル法)のようなウエットプロセスを用いる場合は通常、成膜時の焼成温度は200℃をこえる高温である(特許文献2)。そのため光学用部材の面精度や周辺部材への悪影響や、樹脂基材の様な高温に耐えることのできない基材には成膜できないという問題が生じる。液相法(ゾルゲル法)によって酸化アルミニウム膜を形成するゾルには空気中の水分や水の添加によりアルミニウムアルコキシドが急激に加水分解され白濁することを防止する目的で安定化剤が添加されている。安定化剤には、一般的にβ−ケトエステル化合物類、β−ジケトン化合物類、アルカノ−ルアミン類のような化合物が用いられている。
【0009】
安定化剤はアルミニウムとキレートを形成し、有機アルミニウム化合物を生成し、凝集を起こす場合がある。生成した有機アルミニウム化合物は高い融点または昇華点を有することもあることから、200℃より低い焼成を行っても得られる酸化アルミニウム膜中に有機アルミニウム化合物が残存してしまう。また、有機アルミニウム化合物が凝集すると、焼成成膜時に光学膜中のアルミニウムアルコキシドを加水分解して得られる粒子間の結合形成を阻害することが推測される。粒子間の結合形成が不十分であると酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造が十分に形成されず、反射防止性能が悪化する。
【0010】
製膜時の膜ムラによる外観不良や、粒子間の結合形成を阻害しないためには、有機アルミニウム化合物の凝集を抑制することが好ましい。しかしながら、有機アルミニウム化合物の構造制御をすることなくゾルを安定に保ちながら有機アルミニウム化合物の凝集を抑制し、200℃より低い焼成温度において外観不良を抑制した良好な反射防止性能を有する光学膜を得ることは困難であった。
【0011】
上記の様な酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いて反射防止膜を形成する液相法(ゾルゲル法)において、有機アルミニウム化合物の凝集により光学用部材の外観が損なわれない酸化アルミニウム前駆体ゾルが望まれている。また、より低温で高性能な反射防止膜が作製可能な酸化アルミニウム前駆体ゾルとそれを用いた光学用部材の製造方法および光学用部材が望まれている。
【0012】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、200℃より高い焼成温度はもちろんのこと、200℃以下の焼成温度であっても膜ムラが極力抑えられた良好な反射防止性能を有する光学用部材およびその製造方法を提供するものである。また、凝集を抑制した有機アルミニウム化合物を含む酸化アルミニウム前駆体ゾル及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルは、アルミニウムアルコキシドまたはアルミニウム塩化合物を加水分解して得られた重縮合物、溶媒を含み、さらに下記一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物を含むことを特徴とする。
【0014】
【数1】

【0015】
R1、R2は炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、またはアリル基であり、R3は炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリル基、またはアリール基であり、nは1以上3以下の整数である。
【0016】
本発明の光学用部材の製造方法は、(a)基材の少なくとも一方の面上に本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルを供給する工程、(b)前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に広げる工程、(c)基材を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜を形成する工程、(d)前記酸化アルミニウム膜を60℃以上100℃以下の温水中に浸漬して酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成する工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の光学用部材は、基材表面に、少なくとも、酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウムを主成分とする層を有する光学用部材であって、下記一般式2を満たすことを特徴とする。
Y−X≦0.4 (一般式2)
ここで、
Xは、前記光学用部材の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数の比(O/Al)
Yは、前記光学用部材の表面を、光電子の検出角度を75°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数の比(O/Al)
【0018】
本発明の光学用部材は、基材表面に、少なくとも、酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウムを主成分とする層を有する光学用部材であって、前記凹凸構造の高さは240nm以上であり、かつ、微小光散乱度が6.0以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低温での焼成処理であっても良好な反射防止性能を有する光学用部材およびその製造方法を提供することができる。また、凝集を抑制した有機アルミニウム化合物を含む酸化アルミニウム前駆体ゾルおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の光学用部材の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明の光学用部材の一実施態様を示す概略図である。
【図3】本発明の光学用部材の一実施態様を示す概略図である。
【図4】本発明の光学用部材の一実施態様を示す概略図である。
【図5】本発明の光学用部材の一実施態様を示す概略図である。
【図6】本発明の実施例1および比較例1の光の波長(nm)に対する絶対反射率(%)の関係を示す図である。
【図7】光電子の検出角度について説明する図
【図8】光電子の検出角度について説明する図
【図9】微小光散乱について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明に係る光学用部材の製造方法は、(a)基材の少なくとも一方の面上に前記本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルを供給する工程、(b)前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に広げる工程、(c)基材を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜を形成する工程、(d)前記酸化アルミニウム膜を60℃以上100℃以下の温水中に浸漬して酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成する工程を有することを特徴とする。
【0023】
前記光学用部材が、基材の少なくとも一方の面の表面に、酸化アルミニウムを成分として含有する板状の結晶から形成される凹凸構造を有する酸化アルミニウムを主成分とする層からなる反射防止膜を有することが好ましい。
【0024】
図1は本発明の光学用部材の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【0025】
(工程(a))
図1(a)は、工程(a)において、基材1に酸化アルミニウム前駆体ゾル2が供給された状態を表す。酸化アルミニウム前駆体ゾル2は、本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いる。本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルは、後に詳細に説明するが、アルミニウムアルコキシドを加水分解して得られた重縮合物、溶媒を含み、さらに一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物を含む。
【0026】
【数2】

【0027】
R1、R2は炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、またはアリル基であり、R3は炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリル基、またはアリール基であり、nは1以上3以下の整数である。
【0028】
酸化アルミニウム前駆体ゾル2を供給する方法には、細管や一個または複数の細孔から酸化アルミニウム前駆体ゾル2を滴下するなどによって供給する方法がある。また、スリットを介して基材1上に酸化アルミニウム前駆体ゾル2を付着させる方法、あるいは版に一旦酸化アルミニウム前駆体ゾル2を付着させてから基材1に転写させる方法などが挙げられる。また、基材1を酸化アルミニウム前駆体ゾル2に浸漬することで、基材1にゾル2を供給することができる。
【0029】
ここで、本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルについて説明する。
【0030】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルは、基材上に塗布、乾燥してから温水中に浸漬すると酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成することができ、本発明の光学用部材の製造方法に用いるのに適している。
【0031】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルは、アルミニウム化合物を溶媒中で水と接触させて得られるアルミニウム化合物の加水分解物および/またはその縮合物を主成分として含んでいる。アルミニウム化合物をAl−X(Xはアルコキシル基、アシロキシル基、ハロゲン基、硝酸イオンを表す)とした時に、その加水分解物とはAl−X(OH)、Al−X(OH)、あるいはAl−(OH)で表される化合物である。前記加水分解物はその−OH基同士あるいは−X基と−OH基が反応してHOあるいはXHの脱離を伴いながらAl−O−Al結合を形成する。その結果得られる1個以上のAl−O−Al結合を有し、直鎖構造または枝分かれ構造を持った化合物がアルミニウム化合物の縮合物である。前記粒子が非晶質であることが好ましい。
【0032】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルに含有されるアルミニウム化合物の加水分解物および/またはその縮合物を成分として含有する粒子の含有量は、金属酸化物に換算して1重量%以上7重量%以下、好ましくは2.5重量%以上6重量%以下が望ましい。多すぎるとゾルの粘度が高くなり、1回のコーティング操作において、膜厚が厚く不均一になり易く所望の反射防止性能を得ることができない。少なすぎると1回のコーティング操作における膜厚が薄くなりすぎて、複数回塗布と加熱を繰り返すことになるため、工程数と外観不良発生の可能性を増加させることになる。
【0033】
アルミニウム化合物などの金属化合物の具体例は以下に例示する。
【0034】
アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム−n−ブトキシド、アルミニウム−sec−ブトキシド、アルミニウム−tert−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、またこれらのオリゴマー、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0035】
上記の金属化合物の中でもアルミニウム−n−ブトキシド、アルミニウム−sec−ブトキシドなどの金属アルコキシドを原材料に用いることが好ましい。
【0036】
前記アルミニウムアルコキシドは水に対する反応性が高く、空気中の水分や水の添加により急激に加水分解され溶液の白濁、沈殿を生じる。また、アルミニウム塩化合物は有機溶媒のみでは溶解が困難で、溶液の安定性が低い。これらを防止するために安定化剤を添加し、溶液の安定化を図る。
【0037】
安定化剤にはβ−ジケトン化合物を用いる。β−ジケトン化合物は媒中でケト−エノール相変異性によりエノラートとなる。エノラートは金属アルコキシドのアルコール脱離を伴ってアルミニウム原子に配位し、有機金属化合物を生成する。数量体になっている金属アルコキシドに安定化剤が配位することで金属アルコキシドの急激な加水分解を抑制する。金属アルコキシドが加水分解され粒子が成長すると、遊離したエノラートはすでにエノラートが配位している金属アルコキシドにさらに配位する。
【0038】
このようにして安定化剤はアルミニウムアルコシキドとともにキレートを形成する。酸化アルミニウム前駆体ゾル中に生成した有機アルミニウム化合物は、その化学構造によっては凝集を起こす場合がある。有機アルミニウム化合物が凝集すると、焼成成膜時に光学膜中のアルミニウムアルコキシドを加水分解して得られる粒子間の結合形成を阻害することが推測される。粒子間の結合形成が不十分であると酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が十分に形成されず、反射防止性能が悪化する。また、有機アルミニウム化合物は150℃以上の昇華点を有することもあるため、200℃より低い焼成温度においては、焼成により酸化アルミニウム膜中から有機アルミニウム化合物を完全に除去しきれない。
加えて、少なくともアルミニウムを含有する金属アルコキシドと安定化剤を原料に使用したゾルを光学部品上に塗布し膜を形成すると、有機アルミニウム化合物の凝集が起こるため、膜ムラなどの外観不良を招く場合がある。
【0039】
そこで本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルでは、α位に炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリル基、またはアリール基を持つ安定化剤を用いる。また、さらに、γ位に、炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、またはアリル基もつ安定化剤を用いる。有機アルミニウム化合物の凝集を抑制するためには、立体的に嵩高い置換基をもつ安定化剤を使用することが考えられる。しかし、立体的に嵩高い置換基をγ位にもつ安定化剤を用いた場合、アルミニウムアルコキシドに対する安定化剤の配位も阻害することになり、アルミニウムアルコシキドを安定に保つことができない。そこで、α位に置換基を設けることで、有機アルミニウム化合物の凝集を抑制する。α位はケトン基とは対極に位置するため、アルミニウムアルコキシドに対する安定化剤の配位を立体的に阻害せず、有機アルミニウム化合物同士の凝集のみを抑える。しかしながら、長鎖アルキル基のような置換基自体に、相互作用がある場合には凝集効果が減ずると考えられる。そのため、有機アルミニウム化合物の凝集を抑制するためには、α位に炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリル基、またはアリール基をもつβ−ジケトン化合物類を用いる。さらにα位に電子供与性の官能基がある安定化剤から成る有機アルミニウム化合物はα炭素に求電子反応が起こりやすい状態になる。従って、α位に電子供与性の官能基がある安定化剤から成る有機アルミニウム化合物は分解し、より低沸点の化合物になるため、焼成成膜時に膜中から有機アルミニウム化合物を取り除くにはより好ましい。また、アルミニウムアルコキシドの安定化のために、γ位の置換基は、炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、またはアリル基もつβ−ジケトン化合物類を用いる。
【0040】
このような、α位に炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリル基、またはアリール基をもち、γ位に、炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、またはアリル基もつ安定化剤としては、3−メチル−2,4−ペンタンジオン、3−エチル−2,4−ペンタンジオン、3−ブチル−2,4−ペンタンジオン、3−ペンチル−2,4−ペンタンジオン、3−ヘキシル−2,4−ペンタンジオン、3−イソプロピル−2,4−ペンタンジオン、3−イソブチル−2,4−ペンタンジオン、3−イソペンチル−2,4−ペンタンジオン、3−イソヘキシル−2,4−ペンタンジオン、3−フェニル−2,4−ペンタンジオン、3−パーフルオロアセチルアセトンなどを挙げることができる。
【0041】
安定化剤の添加量は金属化合物の種類によって異なるが、アルミニウムアルコキシド1モルに対して0.5モル以上2モル以下が好ましい。また、安定化剤は水を加える前に、一定時間アルコキシドと混合することによって効果を発揮する。
【0042】
加水分解を引き起こすためには、水を適量添加する必要がある。水の添加量は溶媒や濃度によって適量が変化する。水の添加量は、アルミニウム化合物1モルに対し0.5モル以上2モル未満であることが好ましい。
【0043】
また、加水分解反応の一部を促進する目的で水に触媒を加えることができる。触媒として塩酸、リン酸などの酸または塩基を含む触媒を0.1mol/L以下の濃度で用いることが好ましい。酸または塩基触媒を加えることでアルミニウムアルコキシドを加水分解して得られる粒子の形状を制御することができる。また、アルミニウム前駆体ゾル中に酸または塩基を0.001重量%以上0.06重量%未満含むことでアルミニウム前駆体ゾルの安定性がより向上する。
【0044】
溶媒としては、アルミニウム化合物などの原料が均一に溶解し、かつ粒子が凝集などしない有機溶媒であれば良い。例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチルプロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、シクロペンタノール、2−メチルブタノール、3−メチルブタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチルブタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、3−エチルブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノールなどの1価のアルコール類:エチレングリコール、トリエチレングリコールなどの2価以上のアルコール類:メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、イソプロポキシエタノール、ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1―エトキシ−2−プロパノール、1−プロポキシ−2−プロパノールなどのエーテルアルコール類:ジメトキシエタン、ジグライム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルのようなエーテル類:ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類:n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類:トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類:アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類:クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類:N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートのような非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0045】
上記溶媒の中でもアルミニウム化合物の溶解性が高く、吸湿し難い点で炭素数5以上8以下の一価のアルコールが好ましい。溶媒の吸湿によりアルミニウム化合物の加水分解が進行すると粒径の制御が困難になる。また塗工時の吸湿は粒子の凝集を招き、光学特性の安定性を損なう。さらに、一般的な低沸点アルコールを用いると溶媒の揮発が早く、前述した安定化剤が膜中に残存するため光学特性に影響を与えるが、炭素数5以上8以下の一価のアルコールは用いると乾燥および/または焼成時に溶媒が安定化剤を伴って揮発するため安定化剤が残存し難い。一方、前記炭素数5以上8以下の一価のアルコールは疎水性が高く、加水分解に必要な水を均一に混合できず粒径を一定にすることが困難である。そのため炭素数5以上8以下の一価のアルコールに対し水溶性溶媒を併用することが好ましい。ここで述べる水溶性溶媒とは23℃の溶媒に対する水の溶解度が80重量%以上である溶媒を指す。
【0046】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルに含有される溶媒の含有量は、50重量%以上98重量%以下、好ましくは60重量%以上93重量%以下が望ましい。
【0047】
前記溶媒の混合比としては、炭素数5以上8以下の一価のアルコールを50重量%以上90重量%以下、沸点110℃以上170℃以下の水溶性溶媒を10重量%以上50重量%以下の割合で含有することが好ましい。炭素数5以上8以下の一価のアルコールが少なすぎる場合はコーティング時に膜厚が不均一になり外観が悪化する。炭素数5以上8以下の一価のアルコールが多すぎる場合は溶媒の疎水性が高くなり、水が均一に分散しない。
水溶性溶媒は110℃以上170℃以下の沸点を有する水溶性溶媒である。沸点110℃未満の水溶性溶媒を用いると、揮発による吸湿や白化が起こり易い。沸点170℃を超える水溶性溶媒を用いると、乾燥後も酸化アルミニウム膜中に残存して反射率のばらつきを生じる。前記水溶性溶媒がグリコールエーテルであることが好ましい。
【0048】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルを調製するにあたり、アルミニウムアルコキシドの加水分解と縮合反応を促進するために加熱することができる。加熱温度は溶媒の沸点にも依るが60℃以上150℃以下が好ましく、加熱することによって粒子が成長し粒子性が向上する。
【0049】
酸化アルミニウム前駆体ゾルには、アルミニウム化合物とともに少量のZr、Si、Ti、Zn、Mgの各々の化合物の少なくとも1種からなる金属化合物とを用いることができる。これらの金属化合物としては各々の金属アルコキシドや塩化物や硝酸塩などの金属塩化合物を用いることができる。ゾルを調製時の副生成物がコーティングの際の製膜性に与える影響が小さいなどの理由から、特に金属アルコキシドを用いるのが好ましい。また、金属化合物の総量100モル%中のアルミニウム化合物の含まれる量は90モル%以上が好ましい。
【0050】
ジルコニウムアルコキシドの具体例として、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラn−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド、ジルコニウムテトラt−ブトキシド等などが挙げられる。
【0051】
シリコンアルコキシドとしては、一般式Si(OR)で表される各種のものを使用することができる。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の同一または別異の低級アルキル基が挙げられる。
【0052】
チタニウムアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン等が挙げられる。
【0053】
亜鉛化合物としては、例えば酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛などが挙げられ、特に酢酸亜鉛、塩化亜鉛が好ましい。
マグネシウム化合物としてはジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム等のマグネシウムアルコキシド、マグネシウムアセチルアセトネート、塩化マグネシウム等が挙げられる。
【0054】
上記の金属化合物の中でもジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウムなどの金属アルコキシドを原材料に用いることが好ましい。
【0055】
(工程(b))
次に、本発明の光学用部材の製造方法における、(b)前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に広げる工程について説明する。
【0056】
図1(b)は、工程(b)において、工程(a)で供給された酸化アルミニウム前駆体ゾル2が基材1上に広げられた状態を表す。酸化アルミニウム前駆体ゾル2を基材1上に広げる方法としては、基材1を回転することによって滴下したゾル2を広げるスピンコート法、基材1上をブレードやロールを移動させて滴下したゾル2を広げるブレードコート法やロールコート法などが挙げられる。また、酸化アルミニウム前駆体ゾル2を供給しながら広げることも可能である。スリットから酸化アルミニウム前駆体ゾル2を供給しながらスリットまたは基材1を移動させてゾル2を広げるスリットコート法や、一旦版に付着させたゾル2を版または基材1を移動させながら転写する印刷法などである。
【0057】
基材1を酸化アルミニウム前駆体ゾル2に一旦浸漬してから基材1を等速で引き上げるディップコート法なども一例である。凹面などの立体的に複雑な形状を有する光学用部材を製造する場合、酸化アルミニウム前駆体ゾル2の供給源を接近することが困難であるためスピンコート法が好ましい。
【0058】
前記酸化アルミニウム前駆体ゾルは、基材上に150nm以上の厚さになるように広げられることが好ましい。150nm以上の厚さで広げられることにより、工程(d)により形成される酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を、十分な高さをもって形成することができる。150nm以上の厚さで広げられると、工程(d)を経た酸化アルミニウムを主成分とする層は、240nm以上の厚さで形成することができるため、より効果的に斜入射による反射防止性能を高めることができる。
【0059】
本実施形態においては、基材上に直接酸化アルミニウム前駆体ゾルを広げる例を示すが、これに限らず、基材上に一層または複数の異なる層を形成し、その層の上に、酸化アルミニウム前駆体ゾル2を広げてもよい。前記一層または複数の異なる層は、例えば酸化アルミニウム以外を主成分とする層であってもよい。
【0060】
(工程(c))
次に、本発明の光学用部材の製造方法における、(c)基材を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜を形成する工程について説明する。
【0061】
図1(c)は、工程(c)において、基材1を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜3を形成した状態を表す。基材1の加熱乾燥を行うと,工程(b)で基材1上に広げた酸化アルミニウム前駆体ゾル2は溶媒が揮発して、ゾル2中の粒子が堆積した酸化アルミニウム膜3が形成される。さらに加熱すると未反応のアルコキシドや水酸基の縮合反応が進行する。加熱温度は溶媒の揮散に必要な140℃以上が好ましく、基材やその他の周辺部材への影響を考慮に入れると200℃以下が好ましい。加熱方法としては熱風循環オーブン、マッフル炉、IH炉中で加熱する方法、IRランプで加熱する方法などが挙げられる。
【0062】
(工程(d))
次に、本発明の光学用部材の製造方法における、(d)前記酸化アルミニウム膜を60℃以上100℃以下の温水中に浸漬して酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成する工程について説明する。
【0063】
図1(d)は、工程(d)において、基材1上に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造5を有する酸化アルミニウムを主成分とする層4が形成された状態を表す。凹凸構造5は工程(c)で得られた酸化アルミニウム膜3を60℃以上100℃以下の温水に接触し形成される。形成される酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造は、主にアルミニウムの酸化物、アルミニウムの水酸化物またはアルミニウムの酸化物の水和物の結晶からなり、特に好ましい結晶としてはベーマイトがある。酸化アルミニウム膜3を温水に接触する方法は、基材1を温水に浸漬する方法、温水を流水もしくは霧状にして酸化アルミニウム膜3に接触させる方法などが挙げられる。以下、酸化アルミニウム膜を温水に接触させ形成される結晶を、酸化アルミニウムの結晶、あるいは酸化アルミニウムを主成分とする板状の結晶、あるいは酸化アルミニウムを成分として含有する板状の結晶、あるいは板状結晶、あるいは酸化アルミニウムベーマイトと称することにする。また、本願では、アルミニウムの酸化物またはアルミニウムの水酸化物またはアルミニウムの酸化物の水和物を酸化アルミニウムと称することとする。また、酸化アルミニウム単独/或いはZrO、SiO、TiO、ZnO、MgOの何れかを含み、酸化アルミニウムが70モル%以上である一層以上の酸化物層のことを酸化アルミニウムを主成分とする層と称することとする。
【0064】
酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造5は、酸化アルミニウムを主成分とする板状の結晶から形成されている板状結晶であることが好ましい。酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶は、ベーマイトであることが好ましい。
【0065】
次に、本発明の光学用部材の製造方法によって製造される本発明の光学用部材の一実施形態について説明する。本発明の光学用部材は、基材表面に、少なくとも酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウムを主成分とする層を有する。
【0066】
本実施形態に係る光学用部材を示す模式的な概略断面図を図2に示す。
【0067】
図2において、基材1上に、少なくとも、表面に酸化アルミニウムを主成分とする板状の結晶が形成されている酸化アルミニウムを主成分とする層6が積層されている。酸化アルミニウムの結晶、あるいは、酸化アルミニウムを主成分とする板状の結晶は、アルミニウムの酸化物またはアルミニウムの水酸化物またはアルミニウムの酸化物の水和物による結晶から形成され、特に好ましい板状の結晶としてはベーマイトがある。
【0068】
また、これらの板状の結晶を配することで、その端部が微細な凹凸構造7を形成するので、微細な凹凸構造の高さを大きくし、その間隔を狭めるために板状結晶は選択的に基材の表面に対して特定の角度で配置される。
【0069】
基材1の表面が平板、フィルムないしシートなどの平面の場合を、図3に示す。板状結晶は基材の表面に対して、すなわち板状結晶の傾斜方向8と基材表面との間の角度θ1の平均角度が45°以上90°以下、となるように配置されることが望ましい。さらに好ましくは60°以上90°以下となるように配置されることが望ましい。
【0070】
また、基材1の表面が二次元あるいは三次元の曲面を有する場合を、図4で示す。板状結晶は基材の表面に対して、すなわち板状結晶の傾斜方向8と基材表面の接線9との間の角度θ2の平均角度が45°以上90°以下、好ましくは60°以上90°以下となるように配置されることが望ましい。
【0071】
酸化アルミニウムを主成分とする層6の厚さは、好ましくは20nm以上1000nm以下であり、より好ましくは50nm以上1000nm以下である。さらに好ましくは、240nm以上1000nm以下である。凹凸を形成する層厚が20nm以上1000nm以下では、微細な凹凸構造による反射防止性能が効果的であり、また凹凸の機械的強度が損なわれる恐れが無くなり、微細な凹凸構造の製造コストも有利になる。また、層厚が50nm以上1000nm以下とすることにより、反射防止性能をさらに高めることとなり、より好ましい。さらに層厚が240nm以上1000nm以下であると、より斜入射による反射防止性能を高めることができる。
【0072】
本発明の光学用部材は、非常に膜ムラが少ないことを特徴としている。本願発明者が鋭意検討した結果、従来の光学用部材における酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造に比べて、本発明の光学用部材は、その表面部と内部の酸化アルミニウムの結晶状態に差が少ないことがわかった。本発明の光学用部材は、基材1上に積層された酸化アルミニウムを主成分とする層6の端部に微細な凹凸構造7を形成しており、この微細な凹凸が大気から基材に向けて屈折率を連続的に変化させて境界面をなくすことで反射防止性能を発現させている。そのため、微細な凹凸構造7の表面部と内部ではアルミニウムの結晶状態に差が少ないことが好ましいと考えられる。さらに、表面部の屈折率は出来るだけ低いことが望ましい。
【0073】
しかし、本発明の光学用部材は、酸化アルミニウムを主成分とする膜を温水中に浸漬して、酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成する。つまり酸化アルミニウム膜が60℃以上100℃以下の温水に接触することで、アルミニウムの酸化物またはアルミニウムの水酸化物または酸化アルミニウムの水和物による結晶が混在する板状結晶層及び凹凸構造を形成していく。そのため、温水に直接接触する表面部と内部ではアルミニウムの反応の度合に差が生じてしまう。また、有機アルミニウム化合物が凝集して残存している場合も、酸化アルミニウムによる板状の結晶の均一的な形成を阻害してしまう。その場合、反射防止性能が低下するだけでなく、膜の均一性が低下し、膜ムラによる外観不良を招く場合があると考えられる。
【0074】
ここで、本発明において用いた酸化アルミニウムを主成分とする層の表面に形成された凹凸構造の表面部と内部のアルミニウムの結晶状態の評価方法の一例について説明する。
アルミニウムの組成式から、アルミニウムの原子の数を1としたときの酸素の原子の数の比(O/Al)を算出することで、アルミニウムの反応状態を疑似的に数値化することができる。たとえば水酸化アルミニウム(Al(OH)3)のO/Alは3であり、酸化アルミニウム(Al2O3)のO/Alは1.5であり、酸化アルミニウムベーマイト(AlO(OH))のO/Alは2である。そこで、酸化アルミニウムを主成分とする層の表面部と内部のアルミニウムと酸素の元素比率を測定することで、凹凸構造を形成する酸化アルミニウムの結晶の形成状態を評価する。
【0075】
凹凸構造の表面部および内部のアルミニウムの原子の数と酸素の原子の数の比率を測定する方法としては、X線光電子分光分析(X−ray Photoelectron Spectroscopy、以下XPS分析と表記する)による表面元素分析法を用いることができる。はじめに凹凸構造についてXPS分析で全元素の存在を検索するサーベイスペクトルを取得すると、炭素(C)、酸素(O)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)の4元素が特に多く含有されていることがわかる。そこでC1s、O1s、F1s、Al2pの各ピークを選択して、より正確な元素比率がわかるナロースペクトルを取得すると、そのピーク面積を分析した元素分析結果から、X線照射範囲内におけるアルミニウムの原子の数と酸素の原子の数の比率が算出できる。
【0076】
XPS分析は、測定試料を傾斜させて光電子の検出角度を変えると実効的な検出深さが変わる。ここで「光電子の検出角度」とは、測定試料の表面から検出器の法線方向までの角度を指す。具体的には、光電子の検出角度が小さくなるほど光電子の脱出深さは浅くなるため、より浅い層の情報のみを検出するようになる。この原理を利用すると、測定試料を分析装置から取り出して加工することなく、またスパッタリングによる表面破壊処理をおこなうこともなく、試料の表面部のみの情報とより内部まで含めた情報とをそれぞれ別に取得することができる。
【0077】
そこで、本発明の酸化アルミニウムを主成分とする層の表面に形成される酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を評価する方法として、酸化アルミニウムを主成分とする層の表面をX線光電子分光法を用いて分析する。具体的には、光電子の検出角度を基材表面に対して45°に設定して測定される領域と、光電子の検出角度を基材表面に対して75°に設定して測定される領域から検出されるアルミニウムの原子の数と酸素の原子の数の比率を比較する。それぞれの条件で表面元素分析を行なうことで、それぞれの光電子スペクトルを得ることができる。その光電子スペクトルから、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数(O/Al)を算出することができる。
【0078】
本発明においては、異なる光電子の検出角度で算出されたO/Alを比較することで、酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造の表面部と内部の結晶状態を評価する。図7および図8は、光電子の検出角度について説明する図である。図7(a)は、基材の表面76が、平板、フィルムないしシートなどの平面の場合を示し、光電子の検出角度αを基材表面76に対して45°に設定して表面元素分析を行なっている様子を示している。図7(b)は、基材の表面76が、平板、フィルムないしシートなどの平面の場合を示し、光電子の検出角度αを基材表面76に対して75°に設定して表面元素分析を行なっている様子を示している。図7では、わかりやすいように、基材表面76と平行な線81と、検出器の法線82との間の角度を光電子の検出角度として図示しているが、平行な線81と検出器の法線82との間の角度と、基材表面76と検出器の法線82との間の角度とは同じである。図8(a)は、基材の表面76が二次元あるいは三次元の曲面を有する場合を示し、光電子の検出角度αを基材表面76に対して45°に設定して表面元素分析を行なっている様子を示している。基材の表面が、二次元あるいは三次元の曲面を有する場合は、X線照射位置における基材表面の接線77と検出器の法線82との間の角度を45°に設定する。図8(b)は、基材の表面76が二次元あるいは三次元の曲面を有する場合を示し、光電子の検出角度を基材表面76に対して75°に設定して表面元素分析を行なっている様子を示している。基材の表面76が、二次元あるいは三次元の曲面を有する場合は、X線照射位置における基材表面の接線77と検出器の法線82との間の角度を75°に設定する。図8では、わかりやすいように、基材表面の接線77と平行な線83と、検出器の法線82との間の角度を光電子の検出角度として図示しているが、平行な線83と検出器の法線82との間の角度と、基材表面の接線77と検出器の法線82との間の角度は同じである。
【0079】
図7および図8では、基材71と、表面に凹凸構造75を有する酸化アルミニウムを主成分とする層74との間に、酸化アルミニウムを主成分とする層74とは異なる層80を有する光学用部材について記載したが、酸化アルミニウムを主成分とする層74とは異なる層80は、設けても設けなくてもよい。酸化アルミニウムを主成分とする層74とは異なる層80は、例えば、酸化アルミニウム以外を主成分とする層であってもよい。
【0080】
凹凸構造の表面部のO/Alと、内部のO/Alの差が小さいほど、大気中から凹凸構造への屈折率の連続性を保つことができ、膜ムラが少なく良好な反射率性能を発現させることができる。本発明においては、光電子の検出角度を基材表面に対して45°に設定して測定されるO/Alと、光電子の検出角度を基材表面に対して75°に設定して測定されるO/Alとの差が小さいほど、膜ムラが少なく良好な反射防止性能を発現させることができる。本発明の光学用部材は、光電子の検出角度を基材表面に対して45°に設定して測定されるO/Alと、光電子の検出角度を基材表面に対して75°に設定して測定されるO/Alとの差が0.4以下であることが好ましい。さらに、光電子の検出角度を基材表面に対して45°に設定して測定されるO/Alの値が小さいほどアルミニウム化合物としては屈折率が低くなる。本発明の光学用部材は、光電子の検出角度を基材表面に対して45°に設定して測定されるO/Alの値が2.0以下であることがより好ましい。つまり、本発明の光学用部材は、基材表面に、少なくとも酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウムを主成分とする層を有し、
下記一般式2を満たすことを特徴とする。
Y−X≦0.4 (一般式2)
ここで、
Xは、前記光学用部材の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、Al原子の数を1とした時のO原子の数の比(O/Al)
Yは、前記光学用部材の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、Al原子の数を1とした時のO原子の数の比(O/Al)
また、前記Xは、2.0より大きいことが好ましい。
【0081】
さらに、本発明の光学用部材は、曲面形状や平面であっても斜入射光に対して反射防止性能に優れている。曲率の大きなレンズに対して光軸に平行な光が入射すると、レンズ開口部に近づくにつれ入射角度が大きくなり、照射面積が大きくなるため、光散乱が起こりやすくなる。光学用レンズの場合は光散乱が起こると画像に影響を与える可能性が考えられるが、本発明の光学用部材であれば、この光散乱を極力抑えることができる。
【0082】
斜入射による反射防止性能を高めるためには、均一で十分な高さをもつ微細凹凸構造を形成する必要がある。十分な高さをもつ酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成するには酸化アルミニウム膜を厚くする必要がある。しかしながら、酸化アルミニウム膜が厚い場合には酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に供給し乾燥および/または焼成する際に溶媒の揮散速度が膜表面と基材界面とで異なるため溶解再析出による酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造の均一性が低下し、微小光散乱が起こると考えられる。微小光散乱が起こる機構を図9で示す。図9において、6は酸化アルミニウムを主成分とする層、7は凹凸構造、90は光束を示す。図9に示すように、凹凸構造の高さやピッチは可視光の波長よりも小さいので、微小光散乱は酸化アルミニウムを主成分とする層6の凹凸構造7の根元部分の高低差によって起こると考えられる。
【0083】
乾燥および/または焼成温度が高い場合は表面から急激に膜が焼き締まり、収縮を起すことで膜内に粗密が発生し、温水への溶解性が変化するために基板近傍の酸化アルミウム膜の均一性が失われると推測され、膜厚が厚くなるにしたがって膜内部から溶媒が揮散しにくくなるため、微小光散乱が起こりやすくなる。
【0084】
一方、低温で酸化アルミニウム膜を形成すると酸化アルミニウム膜に不純物が蒸発しきらず多く含まれるために、温水処理時に膜が部分的に温水中に溶け出し、膜ムラが発生する。さらに、不純物とともに酸化アルミニウムが再析出の速度にくらべ急激に溶解するため、微細構造が十分に形成されず、反射防止性能が低下してしまう。
【0085】
したがって、微小光散乱を抑制するためには乾燥および/または焼成温度が高い場合でも急激に溶媒の揮散を抑えるように酸化アルミニウム前駆体ゾルに高沸点の溶媒を選択するか、低温でも酸化アルミニウム膜から不純物を除去する方法が考えられる。
高沸点の溶媒を選択すると酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材に供給する際に指触乾燥までに時間がかかるため中心から放射状にムラが発生し、塗布性が悪化する。溶媒は塗布性に直接的に影響を与えるため、選択が容易ではない。
【0086】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いて形成された光学用部材は、十分な高さをもつ酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を有し、かつ、微小光散乱が抑制された優れた反射防止性能を有する。
【0087】
ここで、本発明において用いた微小光散乱の評価方法の一例について説明する。微小光散乱は通常の曇度では評価が困難であるため、測定方法を考案し、微小散乱度を定義し、評価する。
【0088】
光源に150Wのハロゲンファイバー照明装置(PHL−150C)を用い、ハロゲンファイバー照明装置で発せられた光はロッドホモジナイザ(RHO−13S−E2)を通り、虹彩絞りで照度を4000xlにする。その光を光学素子に45°の角度で当て、測定サンプルの正面からカメラレンズ(Canon Compact−Macro Lens EF 50mm)を装着したカメラ(Canon EOS40D)でシャッタースピード10秒、絞りF10、ISO400の条件で撮影する。酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された面を光源側に向ける。
【0089】
得られた画像を汎用画像処理ソフト(Adobe Photo Shop)で解析する。700×700ピクセルを定量し、輝度を求める。
【0090】
基板の測定値をW0とし、光学用部材の測定値をW1とした時、光学用部材の微小光散乱度Wは次の式(3)で定義する。
【0091】
【数3】

【0092】
本発明の光学用部材は、基材表面に、少なくとも、酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウムを主成分とする層を有する光学用部材であって、前記酸化アルミニウムを主成分とする層の厚みは240nm以上1000nm以下であり、かつ、微小光散乱度が6.0以下である。また、光学部材の光の波長400nmから700nmまでの反射率の平均値が0.21%以下である。また、基材と酸化アルミニウムを主成分とする層との間に酸化アルミニウム以外を主成分とする層を有してもよい。
【0093】
さらに、本発明の光学用部材における凹凸構造の面密度も重要であり、これに対応する中心線平均粗さを面拡張した平均面粗さRa’値が5nm以上、より好ましく10nm以上、さらに好ましくは15nm以上100nm以下、また表面積比Srが1.1以上である。より好ましくは1.15以上、さらに好ましくは1.2以上3.5以下である。
【0094】
得られた微細凹凸組織の評価方法の一つとして、走査型プローブ顕微鏡による微細凹凸組織表面の観察があり、該観察により該膜の中心線平均粗さRaを面拡張した平均面粗さRa’値と表面積比Srが求められる。すなわち、平均面粗さRa’値(nm)は、JIS B 0601で定義されている中心線平均粗さRaを、測定面に対し適用し三次元に拡張したもので、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」と表現し、次の式(3)で与えられる。
【0095】
【数4】

【0096】
Ra’:平均面粗さ値(nm)、
:測定面が理想的にフラットであるとした時の面積、|X−X|×|Y−Y|、F(X,Y):測定点(X,Y)における高さ、XはX座標、YはY座標、
からX:測定面のX座標の範囲、
からY:測定面のY座標の範囲、
:測定面内の平均の高さ。
【0097】
また、表面積比Srは、Sr=S/S〔S:測定面が理想的にフラットであるときの面積。S:実際の測定面の表面積。〕で求められる。なお、実際の測定面の表面積は次のようにして求める。先ず、最も近接した3つのデータ点(A,B,C)より成る微小三角形に分割し、次いで各微小三角形の面積△Sを、ベクトル積を用いて求める。△S(△ABC)=[s(s−AB)(s−BC)(s−AC)]0.5〔但し、AB、BCおよびACは各辺の長さで、s≡0.5(AB+BC+AC)〕となり、この△Sの総和が求める表面積Sになる。微細凹凸の面密度がRa’が5nm以上で、Srが1.1以上になると、凹凸構造による反射防止を発現することができる。また、Ra’が10nm以上で、Srが1.15以上であると、その反射防止効果は前者に比べ良好なものとなる。そしてRa’が15nm以上で、Srが1.2以上になると実際の使用に耐えうる性能となる。しかしRa’が100nm以上で、Srが3.5以上になると反射防止効果よりも凹凸構造による散乱の効果が勝り十分な反射防止性能を得ることが出来ない。
【0098】
基材1と酸化アルミニウムを主成分とする層4との間に酸化アルミニウム以外を主成分とする層を設けることができる。図5は基材1上に酸化アルミニウム以外を主成分とする層10、さらにその上に酸化アルミニウムを主成分とする層4が形成された光学用部材の例である。
【0099】
酸化アルミニウム以外を主成分とする層10は、主に基材1と酸化アルミニウムを主成分とする層4との屈折率差を調整する目的で設けられる。そのため酸化アルミニウム以外を主成分とする層6は無機材料もしくは有機材料からなる透明膜であることが好ましい。
【0100】
酸化アルミニウム以外を主成分とする層10に用いられる無機材料の例としては、SiO、TiO、ZrO、ZnO、Taなどの金属酸化物が挙げられる。無機材料からなる酸化アルミニウム以外を主成分とする層10を形成する方法は蒸着やスパッタなどの真空製膜法、金属酸化物前駆体ゾルの塗布によるゾルゲル法などが挙げられる。
【0101】
一方、酸化アルミニウム以外を主成分とする層10に用いられる有機材料の例としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、マレイミド樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリエーテル、ポリウレア、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリケトン、ポリスルホン、ポリフェニレン、ポリキシリレン、ポリシクロオレフィンなどの有機ポリマーが挙げられる。有機材料からなる酸化アルミニウム以外を主成分とする層10を形成する方法は、主にその溶液を塗布により形成するウェットコート法などが挙げられる。
【0102】
その他、酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造5の表面に、反射防止性を損なわない程度に処理を施すことができる。耐擦傷性や防汚性を付与するためにSiO薄膜、FAS(フッ素化アルキルシラン)やフッ素樹脂の極めて薄い層を設ける例を挙げることができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。各実施例、比較例で得られた、表面に微細な凹凸を有する光学用部材について、下記の方法で評価を行った。
【0104】
(1)酸化アルミニウム前駆体ゾル1から6の調製
14.8gのアルミニウム−sec−ブトキシド(ASBD、川研ファインケミカル製)と、アルミニウム−sec−ブトキシドに対して0.5モル当量の安定化剤と、2−エチルブタノールとを均一になるまで混合攪拌した。0.01M希塩酸を2−エチルブタノール/1−エトキシ−2−プロパノールの混合溶媒に溶解してから、前記アルミニウム−sec−ブトキシドの溶液にゆっくり加え、暫く攪拌した。溶媒は最終的に2−エチルブタノールと1−エトキシ−2−プロパノールの混合比が7/3の混合溶媒になるように調整した。さらに120℃のオイルバス中で2から3時間以上攪拌することによって酸化アルミニウム前駆体ゾル1から6を調製した。調製に用いた安定化剤と各原料の使用量と酸化アルミニウム前駆体ゾルの有機アルミニウム化合物含有量は表1に示した。
【0105】
(2)SiO−TiOゾル液7の調製
14.6gのケイ酸エチルに3.15gの0.01M希塩酸〔HClaq.〕と17.2gの2−プロパノールの混合溶媒をゆっくり加えてから、室温で攪拌した。6時間攪拌した後、91.5gの4−メチル−2−ペンタノールと46.4gの2−エチルブタノールの混合溶媒で希釈してA液とした。6.7gのテトラn−ブトキシチタンを2.6gの3−オキソブタン酸エチルと16.8gの4−メチル−2−ペンタノールの混合溶液に溶解した。この溶液を室温で3時間攪拌しB液とした。A液を攪拌しながらB液をゆっくり加え、さらに室温で3時間攪拌することでSi/Tiモル比が78/22のSiO−TiOゾル液7を調製した。
【0106】
(3)基材の洗浄
片面だけ研磨され、もう一方の面がスリガラス状の大きさ約φ30mm、厚さ約1mmの円盤状ガラス基板及び大きさ3cm角、厚さ約1mmのSi基板をアルカリ洗剤中で超音波洗浄した後、オーブン中で乾燥した。
【0107】
(4)反射率測定
絶対反射率測定装置(USPM−RU、オリンパス製)を用い、400nmから700nmの範囲の入射角0°時の反射率測定を行った。測定範囲の反射率の平均値をもって評価した。
【0108】
(5)基板の表面観察
基板表面を目視によって観察を行った。膜ムラが見られる場合は、以下のように分類した。
膜ムラ1:基材周辺部にみられる環状の膜ムラ
膜ムラ2:基材周辺部に向け中心から筋状に延びる膜ムラ
【0109】
(6)アルミニウムの反応状態の評価
測定装置には、アルバック・ファイ社のQuantera SXMを用いた。単色化されたAlX線源を用い、X線のビーム径は100μmとした。このX線ビームを500μm×500μmの領域で走査させることでスペクトルを得た。分析指定元素ピークはC1s、O1s、F1s、Al2pを選択した。積算回数はC1sを10、O1sを3、F1sを5、Al2pを10とした。エネルギースリット幅は140eVを選択した。測定時のエネルギーピッチは0.125eVを選択した。
試料表面を、試料台の検出器に対する角度設定を45°として測定した。また、試料表面を、試料台の検出器に対する角度設定を75°として測定した。
【0110】
(7)微小光散乱度測定
光源に150Wのハロゲンファイバー照明装置(PHL−150C)を用い、ハロゲンファイバー照明装置で発せられた光はロッドホモジナイザ(RHO−13S−E2)を通り、虹彩絞りで照度を4000xlにした。その光を光学素子に45°の角度で当て、測定サンプルの正面からカメラレンズ(Canon Compact−Macro Lens EF 50mm)を装着したカメラ(Canon EOS40D)でシャッタースピード10秒、絞りF10、ISO400の条件で撮影した。酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成した面を光源側に向けた。
得られた画像を汎用画像処理ソフト(Adobe Photo Shop)で解析した。700×700ピクセルを定量し、輝度を小数点1位まで表した。
【0111】
基板の測定値をW0とし、光学素子の測定値をW1とすると、光学素子の微小光散乱度Wは次の式(3)で定義した。
【0112】
【数5】

【0113】
【表1】

【0114】
(注1)*安定化剤量(モル当量)は、アルミニウム−sec−ブトキシドに対する安定化剤のモル当量を示す。
(注2)*アルミニウム−sec−ブトキシド量(重量%)は、酸化アルミニウム前駆体ゾルに対する原料のアルミニウム−sec−ブトキシドの重量%を示す。
(注3)*触媒水(モル当量)は、アルミニウム−sec−ブトキシドに対する触媒水のモル当量を示す。
【0115】
実施例1
前記の方法で洗浄したS−LAH55(n550nm=1.83)平板ガラスにSiO−TiOゾル液7を適量滴下し、3000rpmで20秒間スピンコートを行った。この基板を200℃の熱風循環オーブンで12時間焼成することでレンズ凹面にSiO−TiO層付きレンズを作製した。
SiO−TiO層付き平板ガラスに酸化アルミニウム前駆体ゾル1を適量滴下し、3500rpmで20秒間スピンコートを行った後、140℃の熱風循環オーブンで2時間焼成し、非晶性酸化アルミニウム膜を被膜した。
【0116】
次に、75℃の熱水中に20分間浸漬したのち、60℃で20分間乾燥させた。
【0117】
実施例2
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル2を用い、非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0118】
実施例3
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル3を用い、非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例1と同様の操作を行った。
実施例1から3について反射率の測定を行ったところ、本願に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルからなる光学膜の平均反射率が低くなることが確認された。また、凝集による膜ムラはみられなかった。
【0119】
実施例4
前記の方法で洗浄したSi基板に酸化アルミニウム前駆体ゾル1を適量滴下し、3500rpmで20秒スピンコートを行った後、140℃の熱風循環オーブンで2時間焼成し、非晶性酸化アルミニウム膜を被膜した。次に、75℃の熱水中に20分浸漬したのち、60℃で20分乾燥させた。
【0120】
実施例5
前記の方法で洗浄したSi基板に酸化アルミニウム前駆体ゾル1を適量滴下し、3500rpmで20秒スピンコートを行った後、200℃の熱風循環オーブンで2時間焼成し、非晶性酸化アルミニウム膜を被膜した。次に、75℃の熱水中に20分浸漬したのち、60℃で20分乾燥させた。
【0121】
実施例4と5について、試料の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析を行い、その結果を表3に示した。次に、実施例4と5について、試料の表面を、光電子の検出角度を75°に設定してX線光電子分光法で分析を行い、その結果を表4に示した。さらに、これらの結果から下記X、YおよびY−Xの値を求め、平均反射率および外観不良との比較を行った。その結果を表5に示した。
Xは、試料の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数の比(O/Al)
Yは、試料の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数の比(O/Al)
その結果、本願に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルからなる光学膜は、YとXの差が小さかった。このことから、凹凸構造の表面部と内部のアルミニウムの結晶状態に差が少なく、反応状態が良好であり、膜の均一性にも優れていることがわかった。また、光電子の検出角度を45°に設定した時の測定結果であるXが2より大きかったことから、表面部の構造が持つ屈折率が低いことが確認できた。さらに、平均反射率が低く、凝集による膜ムラもみられなかった。
【0122】
比較例1
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル4を用い、非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0123】
比較例2
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル5を用い、非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0124】
比較例3
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル6を用い、非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0125】
比較例1から3について反射率の測定を行ったところ、本件に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルからなる光学膜と同等の良好な反射防止性能を同焼成条件で実現することが困難であることが確認された。また、酸化アルミニウム前駆体ゾルを平板ガラスにスピンコートした時点で比較例1および2では膜ムラ1が、比較例2では膜ムラ2がみられた。
【0126】
比較例4
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル4を用い、非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例4と同様の操作を行った。
【0127】
比較例5
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル4を用い、非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例5と同様の操作を行った。
【0128】
比較例4と5についてXPS分析による表面部の元素分析を行い、その結果を表3に示した。次に、比較例4と5についてXPS分析による内部の元素分析を行い、その結果を表4に示した。さらに、これらの結果から下記X、YおよびY−Xの値を求め、平均反射率および外観不良との比較を行った。その結果を表5に示した。
Xは、試料の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数の比(O/Al)
Yは、試料の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数の比(O/Al)
その結果、比較例4および5については、表面部と内部の構造差が大きく、かつ表面部の構造が持つ屈折率が高いことがわかった。また、本件に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルからなる光学膜と同等の良好な反射防止性能を同焼成条件で実現することが困難であることが確認された。また、酸化アルミニウム前駆体ゾルを平板ガラスにスピンコートした時点で膜ムラ1がみられた。
【0129】
【表2】

【0130】
(注4)*平均反射率(%)は、光の波長400nmから700nmの範囲の入射角0°時の反射率の平均値を示す。
【0131】
【表3】

【0132】
【表4】

【0133】
【表5】

【0134】
実施例6
前記の方法で洗浄したL−BAL42(n550nm=1.58)平板ガラスに酸化アルミニウム前駆体ゾル1を適量滴下し、約150nmの膜厚になるように20秒間スピンコートを行なった。その後、熱風循環オーブンで30分焼成し、非晶性酸化アルミニウム膜を被膜した。スピンコート時の回転数と熱風循環オーブンでの焼成の製膜温度は表6に示した。
【0135】
次に、75℃の熱水中に20分間浸漬したのち、60℃で20分間乾燥させた。
【0136】
実施例7
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル2を用い、表6に示したスピンコート時の回転数と熱風循環オーブンでの焼成の製膜温度で非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0137】
実施例8
表6に示したスピンコート時の回転数と熱風循環オーブンでの焼成の製膜温度で非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0138】
実施例9
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル2を用い、表6に示したスピンコート時の回転数と熱風循環オーブンでの焼成の製膜温度で非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0139】
実施例10
表6に示したスピンコート時の回転数と熱風循環オーブンでの焼成の製膜温度で非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0140】
実施例11
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル2を用い、表6に示したスピンコート時の回転数と熱風循環オーブンでの焼成の製膜温度で非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
反射率の測定を行ったところ、本願に係る光学用部材からなる光学膜の平均反射率は低くなり、かつ、微小光散乱度も低くなることが確認された。また、焼成が不十分であることによる膜ムラはみられなかった。
【0141】
比較例6
酸化アルミニウム前駆体ゾル1の代わりに酸化アルミニウム前駆体ゾル6を用い、表6に示したスピンコート時の回転数と熱風循環オーブンでの焼成の製膜温度で非晶性酸化アルミニウム膜を形成した以外は実施例6と同様の操作を行った。
【0142】
【表6】



【0143】
(注5)*平均反射率(%)は、光の波長400nmから700nmの範囲の入射角0°時の反射率の平均値を示す。
(注6)*微小光散乱は所定の方法で測定した値を示す。
【0144】
〔性能評価〕
実施例1から3の結果から特定の構造を有する有機アルミニウム化合物を含有する酸化アルミニウム前駆体ゾル1から3の反射率を下げる効果と有機アルミニウム化合物の凝集による膜ムラの抑制効果が確認された。一方、比較例1から3では酸化アルミニウム前駆体ゾルの塗布性が悪く、反射防止性能が劣った光学膜が得られた。
【0145】
実施例4と5の結果から、特定の構造を有する有機アルミニウム化合物を含有する酸化アルミニウム前駆体ゾル1から作製される光学部材の結晶構造が、反射率を下げる効果と有機アルミニウム化合物の凝集による膜ムラの抑制効果を持つことが確認された。一方、比較例4と5の結果から、特定の構造を持たない酸化アルミニウム前駆体ゾル4から作製される光学用部材は、酸化アルミニウム前駆体ゾルの塗布性が悪く、反射防止性能が劣った光学膜が得られた。また、この光学部材は高温焼成処理を行っても有機アルミニウム化合物の除去が十分に行われず、実施例4と5が示すような性能を持たないことがわかった。
【0146】
実施例6から11の結果から本願に係る光学用部材は製膜温度が低い場合でも膜ムラのなく、低い微小光散乱度と高い反射防止性能を併せ持った光学用部材であることが確認された。一方、比較例6で用いた酸化アルミニウム前駆体ゾル6は製膜温度が180℃より低い場合には焼成が不十分になり膜ムラが生じ、180℃の成膜温度の場合は、微小光散乱度が高く光散乱が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明により製造される光学用部材は、任意の屈折率を有する透明基材に対応でき、可視光に対して優れた反射防止効果を示すとともに、長期的な耐候性を有する。よって、ワープロ、コンピュータ、テレビ、プラズマディスプレイパネル等の各種ディスプレイなどの光学部材に利用することができる。また、液晶表示装置に用いる偏光板、各種光学硝材及び透明プラスチック類からなるサングラスレンズ、度付メガネレンズ、カメラ用ファインダーレンズ、プリズム、フライアイレンズ、トーリックレンズ、各種光学フィルター、センサーなどの光学部材に利用することができる。さらにはそれらを用いた撮影光学系、双眼鏡などの観察光学系、液晶プロジェクタなどに用いる投射光学系:レーザービームプリンターなどに用いる走査光学系等の各種光学レンズ:各種計器のカバー、自動車、電車等の窓ガラスなどの光学部材に利用することができる。
【符号の説明】
【0148】
1 基材
2 酸化アルミニウム前駆体ゾル
3 酸化アルミニウム膜
4 酸化アルミニウムを主成分とする層
5 酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造
6 酸化アルミニウムを主成分とする層
7 凹凸構造
10 酸化アルミニウム以外を主成分とする層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムアルコキシドまたはアルミニウム塩化合物を加水分解して得られた重縮合物、溶媒と、
下記一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物を含むことを特徴とする酸化アルミニウム前駆体ゾル。
【数1】


R1、R2は炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、またはアリル基であり、R3は炭素数1以上6以下のアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリル基、またはアリール基であり、nは1以上3以下の整数である。
【請求項2】
前記溶媒が炭素数5以上8以下の一価のアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の酸化アルミニウム前駆体ゾル。
【請求項3】
酸または塩基を含むことを特徴とする請求項1または2記載の酸化アルミニウム前駆体ゾル。
【請求項4】
(a)基材の少なくとも一方の面上に請求項1に記載の酸化アルミニウム前駆体ゾルを供給する工程と、
(b)前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に広げる工程と、
(c)基材を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜を形成する工程と、
(d)前記酸化アルミニウム膜を60℃以上100℃以下の温水中に浸漬して酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成する工程と、
を有することを特徴とする光学用部材の製造方法。
【請求項5】
基材表面に、少なくとも、酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウムを主成分とする層を有し、
下記一般式2を満たすことを特徴とする光学用部材。
Y−X≦0.4 (一般式2)
ここで、
Xは、前記酸化アルミニウムを主成分とする層の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数の比(O/Al)
Yは、前記酸化アルミニウムを主成分とする層の表面を、光電子の検出角度を45°に設定してX線光電子分光法で分析したときの、アルミニウムの原子の数を1とした時の酸素の原子の数の比(O/Al)
【請求項6】
前記Xは、2.0より大きいことを特徴とする請求項5記載の光学用部材。
【請求項7】
基材表面に、少なくとも、酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウムを主成分とする層を有する光学用部材であって、
前記酸化アルミニウムを主成分とする層の厚みは240nm以上であり、かつ、微小光散乱度が6.0以下であることを特徴とする光学用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−251890(P2011−251890A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54420(P2011−54420)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】