説明

酸化インジケーター

【課題】簡単に被検査対象物の酸化度を確認することができる酸化インジケーターを提供すること。
【解決手段】表面が酸化によって変化する材料からなる酸化表示部材11に対し、酸素透過性を有する透明樹脂からなる酸化調整部材12が表面に貼り付けられたものであり、酸化調整部材12は、酸化表示部材11の表面からの厚みが一定の変化をもって形成された酸化インジケーター1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目視によって簡単に被検査対象物の酸化度を確認することができる酸化インジケーターに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品などでは金属同士を半田付けやロウ付けした接合が行われるが、その接合に当たっては、被接合部材(ワーク)の接合面に存在する酸化膜が接合品質に大きな影響を及ぼしてしまう。そのため、ワークは、真空保管や恒温恒湿保管などの保管方法によって品質管理が行われている。しかし、保管庫内であっても長い間置かれていれば徐々に酸化が生じる。その際、同じ保管庫内であっても、開閉が頻繁に行われる扉付近は、扉から遠い位置よりも酸化し易く、保管されたワークに酸化のバラツキが生じてしまう。そのため、各々のワークについて酸化度を正確に把握することが求められている。
【0003】
酸化したワークは還元処理し、酸化による接合不良を回避する方法が採られている。しかし、ワーク毎の酸化のバラツキが把握できない場合、十分に還元できずに不良品を出してしまう。そこで、酸化度を確認するためには、従来からサンプリングによる確認が行われている。例えば、半田付け試験や元素分析などである。しかし、こうしたサンプリング検査は、検査用のワークが必要になるため、各箇所のバラツキを正確に把握するためには多くのワークが必要になり、無駄が多くコスト高になってしまう。また、検査に時間や手間がかかるため負担も大きかった。
【0004】
ところで、金属表面の酸化測定や酸化を利用した検査手段が開示されている。例えば、下記特許文献1には、古くなって障害の可能性があるリチウムイオン電池などの期限管理を行う管理用タイマー素子が開示されている。具体的には、酸化反応によって変色する金属からなる変色層の表面を、酸素の進入を抑制する酸素透過性樹脂膜で覆い、大気中の酸素の浸透によって酸化反応した変色層の色変化によって期限管理を行うものである。また、下記特許文献2には、金属表面に形成された酸化膜の厚さを測定する方法が開示されている。具体的には、酸化膜の厚さに対応する輝度を有する複数のスケールを用意し、それとワーク表面の輝度とを照合して酸化膜の厚さを検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−101825号公報
【特許文献2】特開2006−337310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の発明は、被検査対象物の所定の期限管理を行うために、酸化を利用して一定時間の経過を確認することはできるものの、タイマー素子の酸化であって、ワーク自体の酸化度を把握することはできない。また、これをワーク自体に適応したとしても、酸化現象が確認できるだけで酸化の程度を確認することはできない。この点、特許文献2の方法は、酸化の程度を確認することができるが、複数種のスケールを作成し、そのスケールと被検査対象物とを同時に撮影した後、演算装置によって輝度を評価してデータベースから酸化膜の厚さを検出する必要がある。従って、手間のかかる検査であるため、更に簡単に酸化度の確認が可能な手段が求められている。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決すべく、簡単に被検査対象物の酸化度を確認することができる酸化インジケーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の酸化インジケーターは、表面が酸化によって変化する材料からなる酸化表示部材に対し、酸素透過性を有する透明樹脂からなる酸化調整部材が前記表面に貼り付けられたものであり、前記酸化調整部材は、前記酸化表示部材の表面からの厚みが一定の変化をもって形成されたものであることを特徴とする。
また、本発明の酸化インジケーターは、前記酸化調整部材の厚みが、階段状に変化したもの、又は傾斜して変化したものであることが好ましい。
また、本発明の酸化インジケーターは、前記酸化表示部材が、酸化度を確認する金属よりも酸化し易い金属で形成されたものであることが好ましい。
また、本発明の酸化インジケーターは、前記酸化表示部材が、シリカゲルで形成されたものであることが好ましい。
また、本発明の酸化インジケーターは、前記酸化表示部材の表面が予め酸化された状態のものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化度を知りたい被検査対象物と一緒に置いておくことで、酸化調整部材の厚みの違いに応じて酸化表示部材の表面の酸化範囲が異なるため、その酸化範囲を目視することで簡単に酸化度を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】酸化インジケーターの第1実施形態を示した側面図である。
【図2】第1実施形態の酸化インジケーターによる酸化度の表示状態を示した平面図である。
【図3】酸化インジケーターの第2実施形態を示した側面図である。
【図4】第2実施形態の酸化インジケーターによる酸化度の表示状態を示した平面図である。
【図5】酸化インジケーターの第3実施形態を示した側面図である。
【図6】第3実施形態の酸化インジケーターによる還元度の表示状態を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る酸化インジケーターの実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態の酸化インジケーターを示した側面図である。この酸化インジケーター1は、平らな表面を有する板状の酸化表示部材11と、その表面に貼り付けられた酸化調整部材12とから構成されている。この酸化インジケーター1は、例えばニッケルメッキが施された金属板を被検査対象物とし、その被検査対象物の酸化度合いを示すものである。
【0012】
そこで、酸化インジケーター1を構成する酸化表示部材11は、ニッケルよりも酸化し易い金属が使用され、例えばアルミニウムや亜鉛などが選択される。一方、酸化調整部材12には、酸素透過性が既知の樹脂が使用されるが、酸化透過性が良いと酸化表示部材11全体が酸化してしまい、酸化度の比較できなくなってしまう。そこで、酸化調整部材12には、ある程度酸素が通り難いものが使用され、例えばアクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、あるいはウレタン樹脂などが選択される。また、酸化表示部材11の酸化度が目視で確認できるように透明な樹脂が使用される。
【0013】
酸化調整部材12は、図示するように階段状に形成され、酸化表示部11表面からの厚みが段階的に厚くなるように、4段のステップ121〜124が形成されている。すなわち、本実施形態の酸化インジケーター1は、酸化調整部材12の厚みによって酸化表示部材11の表面に達する酸素や水分の透過量を変化させ、酸化表示部材11の表面に生じる酸化に差が生じるようにしたものである。
【0014】
前述した被検査対象物、すなわちニッケルメッキが施された金属板は、例えばメッキ工程を経た後、真空保管や恒温恒湿保管が可能な保管庫内に置かれ、必要に応じて電子部品の製造工程へ搬送される。その際、酸化の度合いが設定した基準を超えてしまっている場合には、その被検査対象物は廃棄処分となる。これまで、酸化の度合いが正確に把握できなかったため、製造工程で行われる半田付けによって初めて不良を確認するという状況であったが、本実施形態では、製造工程へ搬送する段階で酸化度の確認が可能になる。
【0015】
この被検査対象物は、例えば一定量毎に一つの容器に入れられて保管され、その容器内へ酸化インジケーター1が一緒に入れられる。その後、保管庫内で一定期間置かれて製造工程へと搬送される際、容器に被検査対象物が使用されるため、一緒に入れられていた酸化インジケーター1による酸化度の確認が行われる。ここで、図2は、酸化インジケーター1(1A,1B)による酸化度の表示状態を示した図であり、酸化調整部材12側から見た平面図である。図2(a)に示す酸化インジケーター1Aと、図2(b)に示す酸化インジケーター1Bは、酸化の度合いによって酸化表示部材11に生じる酸化範囲S(ドットで表示した範囲)が異なった場合を示している。
【0016】
酸化インジケーター1は、ステップ121〜124の厚さに従って各々酸素や水分の透過量が異なるため、厚さの薄いステップ121側から酸化が始まり、時間の経過に伴ってステップ122,123,124へと順に酸化範囲Sが広がる。酸化インジケーター1は、酸化調整部材12のステップ121〜124が目盛りになっており、どの段階まで酸化範囲Sが広がったか、確認が可能になる。なお、酸化した酸化表示部材11は、酸化膜の厚さ、つまり酸化度によって色が変化する。そのため、図2では区別して記載していないが、酸化が進んだ箇所の確認は容易であるのに対し、酸化の度合いが小さい箇所では酸化の見極めが難しい。そこで、酸化範囲Sの確認には、ステップ121〜124のどこまで酸化範囲Sが広がっているかを見極めるために色見本が使用される。
【0017】
作業者は、容器から取り出した酸化インジケーター1に色見本を突き合わせ、酸化調整部材12のどの段階にまで酸化表示部材11表面の酸化、すなわち変色が広がっているかを確認する。それによって、例えば図2(a)に示す酸化インジケーター1Aは、ステップ122まで酸化範囲Sが広がり、図2(b)に示す酸化インジケーター1Bは、ステップ123まで酸化範囲Sが広がっていることが分かる。そして、この酸化インジケーター1は、酸化表示部材11が被検査対象物よりも酸化し易い金属を使用しているため、どの段階まで酸化範囲Sが広がった場合に同じ空間で酸化した被検査対象物が不良品とすべきか、その対応関係が予め決められている。
【0018】
例えば、ニッケルメッキが施された被検査対象物に対して酸化インジケーター1を使用した場合、ステップ123の位置まで酸化範囲Sが広がってしまっていれば、その被検査対象物は、接合不良を引き起こす程度に酸化していると判断する。これは、酸化表示部材11及び酸化調整部材12に使用する材料や、酸化調整部材12の各ステップ121〜123の厚さを考慮して決定される。そこで、被検査対象物を使用する時点で酸化インジケーター1を確認し、ステップ122までしか酸化していない酸化インジケーター1Aの場合には、同じ容器に入れられていた被検査対象物は使用可能であると判断される。一方、ステップ123まで酸化してしまった酸化インジケーター1Bの場合には、同じ容器に入れられていた被検査対象物は使用不可と判断される。
【0019】
よって、本実施形態によれば、被検査対象物の酸化度を酸化インジケーター1に現れた酸化範囲Sを見ることで容易に確認することができる。そして、酸化インジケーター1自体の構成が非常に簡単であるため、低コストで酸化度を確認することができる。しかも、被検査対象物の酸化度を、酸化インジケーター1における酸化範囲Sの広がりであって、しかも目視で確認することもできるため、非常に簡単に確認することができる。
【0020】
(第2実施形態)
次に、図3は、第2実施形態の酸化インジケーターを示した側面図である。この酸化インジケーター2は、平らな表面を有する板状の酸化表示部材21と、その表面に貼り付けられた酸化調整部材22とから構成されている。そして、第1実施形態と同様に、ニッケルメッキが施された金属板(被検査対象物)を対象にしており、酸化表示部材21にはアルミニウムや亜鉛など、被検査対象物より酸化し易い金属が使用され、酸化調整部材22には、適度な酸素透過性を有する透明なアクリル樹脂などが使用される。
【0021】
酸化インジケーター2は、酸化調整部材22の上面が傾斜面であって、その厚みが連続的に厚くなるように形成されている。すなわち、本実施形態でも、酸化調整部材22の厚みによって酸化表示部材21の表面に達する酸素や水分の透過量を変化させ、酸化表示部材21の表面に生じる酸化の度合いに差が生じるように形成されている。そして、酸化による接合不良を示す酸化度の目印として小さい溝を切ったライン221が形成されている。
【0022】
図4は、酸化インジケーター2(2A,2B)による酸化度の表示状態を示した図であり、酸化調整部材22側から見た平面図である。そして、図4(a)と図4(b)は、ドットで表示するように、酸化度の違いにより酸化表示部材21に生じる酸化範囲Sが異なった場合を示している。酸化インジケーター2は、透過した酸素などが酸化表示部材21に達しやすい図面左側から酸化が始まり、図面右側へと酸化範囲Sが広がっていく。そうした酸化範囲Sの広がりによって酸化度の確認が可能である。ここでも、酸化範囲Sの確認を見極めるために色見本が使用される。
【0023】
作業者は、容器から取り出した酸化インジケーター2に色見本を突き合わせ、酸化による変色がどの程度であるかを確認する。それによって、例えば図2(a)に示すように、酸化範囲Sがライン221まで達していない酸化インジケーター2Aの場合は、同じ容器に入れられていた被検査対象物は使用可能であると判断される。一方、図2(b)に示すように、酸化範囲Sがライン221を超えている酸化インジケーター2Bの場合には、同じ容器に入れられていた被検査対象物は使用不可と判断される。
【0024】
よって、本実施形態によれば、被検査対象物の酸化度を酸化インジケーター2に現れた酸化範囲Sを見ることで容易に確認することができる。そして、酸化インジケーター2自体の構成が非常に簡単であるため、低コストで酸化度を確認することができる。しかも、被検査対象物の酸化度を、酸化インジケーター2における酸化範囲Sの広がりであって、しかも目視で確認することもできるため、非常に簡単に確認することができる。
【0025】
(第3実施形態)
ところで、前記実施形態では、酸化度を確認する酸化インジケーター1,2について説明したが、本実施形態では、酸化した被検査対象物を還元処理する際の還元能力を確認するものについて説明する。被検査対象物が、製造工程で半田付けされる場合、水素などの還元ガス中に入れられて酸化表面の還元処理が行われる。しかし、還元が十分でなければ、半田付けしても接合不良を引き起こしてしまうため、還元処理工程での還元能力を把握することが重要である。図5は、そうした還元能力を把握するための酸化インジケーター示した側面図である。
【0026】
酸化インジケーター3は、第1実施形態と同様に、平らな表面を有する板状の酸化表示部材31と、その表面に貼り付けられた上面が階段状の酸化調整部材32とから構成され、酸化表示部材31にはアルミニウムや亜鉛などが使用され、酸化調整部材32には透明のアクリル樹脂などが使用されている。そして、この酸化インジケーター3は、酸化表示部材31の表面に酸化処理が施され、予め酸化膜33がつくられている。酸化膜33は、例えば酸化表示部材31を酸素やハロゲン系の酸化性のあるガスを含む酸化ガス中に置いた酸化処理によって生成する。そして、その上に酸化調整部材32が貼り付けられて酸化インジケーター3が形成される。或いは、酸化調整部材32を貼り付けた後に酸化表示部材31の表面を酸化させるようにしてもよい。
【0027】
図6は、酸化インジケーター3(3A,3B)による還元度の表示状態を示した図であり、酸化調整部材32側から見た平面図である。そして、図6(a)と図6(b)は、ドットで示すように、還元度の違いによって酸化表示部材31に生じるドットの無い還元範囲Kが異なった場合を示している。酸化インジケーター3は、表面全体にあった酸化膜33の範囲(酸化範囲)S(ドットで表示した部分)が、酸化調整部材32を透過した還元ガスによって還元される。還元は、酸化調整部材32のない図面左側から始まり、厚さの薄いステップ321から図面右側へと還元範囲Kが広がる。そうした還元範囲Kの広がりによって還元度の確認が可能となる。
【0028】
そこで、酸化インジケーター3は還元処理工程に置かれ、酸化表示部材31表面の酸化膜33に対して還元処理が行われる。そして例えば、図6(a)に示す酸化インジケーター3Aのように、ステップ321までしか還元されていない場合には、当該還元処理工程の還元能力が低いと判断され、図6(b)に示す酸化インジケーター3Bのように、ステップ322まで還元したような場合には還元能力が十分であると判断される。
【0029】
よって、本実施形態では、被検査対象物に対して行う還元処理の還元能力を酸化インジケーター3に現れた酸化膜の還元範囲Kを見ることで容易に確認することができる。そして、酸化インジケーター3自体の構成が簡単で低コストで還元能力を確認することができる。しかも、酸化インジケーター3の還元度(還元範囲Kの広がり)すなわち還元処理工程の還元能力を目視で確認することもできるため、非常に簡単な作業で済ませることが可能である。
【0030】
以上、本発明に係る酸化インジケーターの実施形態を説明したが、本発明は、これに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では酸化表示部材11などにアルミニウムなどの金属を使用して構成したが、これは酸化による変化を見るために選択した部材である。この点、金属以外にも湿度によって変色を生じさせるものとしてシリカゲルがある。そこで、前記実施形態の酸化インジケーター1などに、酸化表示部材11としてシリカゲルを選択するようにしてもよい。
また、酸化表示部材11などには、被検査対象物より酸化し易いアルミニウムなどの金属を使用したが、被検査対象物と同じ金属であってもよい。
更に、前記第3実施形態では、酸化調整部材32を階段形状にしたものを示したが、第2実施形態と同様に傾斜面であってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 酸化インジケーター
11 酸化表示部材
12 酸化調整部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が酸化によって変化する材料からなる酸化表示部材に対し、酸素透過性を有する透明樹脂からなる酸化調整部材が前記表面に貼り付けられたものであり、
前記酸化調整部材は、前記酸化表示部材の表面からの厚みが一定の変化をもって形成されたものであることを特徴とする酸化インジケーター。
【請求項2】
請求項1に記載する酸化インジケーターにおいて、
前記酸化調整部材は、厚みが階段状に変化したもの、又は傾斜して変化したものであることを特徴とする酸化インジケーター。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する酸化インジケーターにおいて、
前記酸化表示部材は、酸化度を確認する金属よりも酸化し易い金属で形成されたものであることを特徴とする酸化インジケーター。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載する酸化インジケーターにおいて、
前記酸化表示部材は、シリカゲルで形成されたものであることを特徴とする酸化インジケーター。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載する酸化インジケーターにおいて、
前記酸化表示部材の表面が予め酸化された状態のものであることを特徴とする酸化インジケーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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