説明

酸化オレフィンの製造方法

(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含む触媒存在下でオレフィンと酸素とを反応させることを含む、酸化オレフィンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、出典明示して本明細書の一部とみなす、2010年7月9日に出願した米国仮特許出願61/362,978号の優先権の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は、酸化オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
プロピレンオキサイドのような酸化オレフィンは、ポリウレタンフォーム、高分子、アルキレングリコール、化粧品、食品乳化剤のような多種の貴重な消費者製品の製造に使用され、ならびに燻蒸剤および殺虫剤として使用される重要かつ用途が広い中間体である。
【0004】
オレフィンエポキシド化に対する以前の調査には、Agを主成分とする触媒の使用(Appl.Catal.A.Gen.2001,221,73.)、ならびにシリカ担持Cu(J.Catal.2005,236,401)、種々の金属酸化物(Appl.Catal.A.Gen.2007,316,142)、同時使用反応物としてH2を含む金を主成分とする触媒(Ind.& Eng.Chem.Res.1995,34,2298,J.Catal.1998,178,566;Appl.Catal.A.Gen.2000,190,43;Angew.Chem.Int.Ed.2004,43,1546)、迅速に不活性化されるチタニアを主成分とする触媒(Catal.Commun.2001,1356;Catal.Commun.2003,4,385)、金属硝酸塩の溶融塩(Appl.Catal.A.Gen.2000,196,217)、反応物としてのO3(Appl.Catal.A.Gen.2000,196,217)および亜酸化窒素(Ind.& Eng.Chem.Res.1995,34,2298)の使用が含まれていた。これらの進歩は科学的に興味深いものであるが、低いPO選択率および/または低いプロピレン転化率、短い触媒寿命、高圧の使用または高価な同時使用反応物の使用(Appl.Catal.A.Gen.2007,316,142)のような重大な欠点を有している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のものを提供する:
[1](a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含む触媒存在下でオレフィンと酸素とを反応させることを含む、酸化オレフィンの製造方法。
[2]触媒が(d)ハロゲン成分を含む[1]記載の方法。
[3]触媒が(e)複合酸化物を含む[1]または[2]記載の方法。
[4](a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分が多孔性担体に担持されている[1]記載の方法。
[5](a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物、(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分および(d)ハロゲン成分が多孔性担体に担持されている[2]記載の方法。
[6]多孔性担体がAl2O3、SiO2、TiO2またはZrO2を含む[4]または[5]記載の方法。
[7]多孔性担体がSiO2を含む[4]または[5]記載の方法。
[8](a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分の総量が触媒の量の0.01ないし80重量%である[1]ないし[7]のいずれか1に記載される方法。
[9]触媒中のルテニウム/マンガン金属モル比が1/99ないし99/1である[1]ないし[8]のいずれか1に記載される方法。
[10]触媒中のルテニウム/(c)成分金属モル比が1/99ないし99/1である[1]ないし[9]のいずれか1に記載される方法。
[11](a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物がRuO2である[1]ないし[10]のいずれか1に記載される方法。
[12](b)マンガン酸化物がMn2O3である[1]ないし[11]のいずれか1に記載される方法。
[13](c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分がアルカリ金属含有化合物またはアルカリ土類金属含有化合物である[1]ないし[12]のいずれか1に記載される方法。
[14](c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分がナトリウム含有化合物である[1]ないし[13]のいずれか1に記載される方法。
[15]触媒を、ルテニウムイオン、マンガンイオンおよびアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得る[4]記載の方法。
[16]触媒を、ルテニウムイオン、マンガンイオン、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンおよびハロゲンイオンを含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得る[5]記載の方法。
[17]オレフィンがプロピレンであり、酸化オレフィンがプロピレンオキサイドである[1]ないし[16]のいずれか1に記載される方法。
[18]100ないし350℃の温度でオレフィンと酸素とを反応させることを含む[1]ないし[17]のいずれか1に記載される方法。
[19](a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含む、酸化オレフィン製造用の触媒。
[20](d)ハロゲン成分を含む[19]記載の触媒。
[21](e)複合酸化物を含む[19]または[20]記載の触媒。
[22](a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分が多孔性担体に担持されている[19]記載の触媒。
[23](a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物、(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分および(d)ハロゲン成分が多孔性担体に担持されている[20]記載の触媒。
[24]ルテニウムイオン、マンガンイオンおよびアルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得られる[22]記載の触媒。
[25]ルテニウムイオン、マンガンイオン、アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分およびハロゲンイオンを含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得られる[23]記載の触媒。
[26](c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分がアルカリ金属含有化合物またはアルカリ土類金属含有化合物である[19]ないし[25]のいずれか1に記載される触媒。
[27]多孔性担体がAl2O3、SiO2、TiO2またはZrO2を含む[22]ないし[26]のいずれか1に記載される触媒。
[28]多孔性担体がSiO2を含む[22]ないし[27]のいずれか1に記載される触媒。
[29]酸化オレフィンがプロピレンオキサイドである[19]ないし[28]のいずれか1に記載される触媒。
[30]酸化オレフィンを製造するための触媒の使用であり、該触媒が(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含む該使用。
[31]酸化オレフィンがプロピレンオキサイドである、[30]記載の触媒の使用。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の方法は、(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含む触媒存在下でオレフィンと酸素とを反応させることを含む。
【0007】
成分(a)、(b)および(c)は、多孔性担体または非−多孔性担体上に担持されていてもよい。非−多孔性担体には、例えば、CAB−O−SIL(登録商標)のようなSiO2を含む非−多孔性担体が含まれる。
触媒では、成分(a)、(b)および(c)は、好ましくは多孔性担体に担持されている。この触媒は、本発明の1つの態様である酸化オレフィンの製造に価値がある。
【0008】
多孔性担体は、成分(a)、(b)および(c)を担持することができる孔を有する。多孔性担体は、好ましくはAl2O3、SiO2、TiO2またはZrO2、より好ましくはSiO2を含む。SiO2を含む多孔性担体には、例えば、メソ多孔性シリカが含まれる。かかる多孔性担体はゼオライトも含んでいてもよい。
【0009】
触媒が担体としてSiO2を含む場合には、酸化オレフィンを良好な収率および良好な選択率で調製することができる。
【0010】
触媒は、1種以上の(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物を含むことができる。ルテニウム酸化物は、通常、ルテニウムと酸素とから構成される。ルテニウム酸化物には、例えば、RuO2およびRuO4が含まれる。(a)成分は、好ましくはRuO2である。
【0011】
触媒は、1種以上の(b)マンガン酸化物を含んでいてもよい。(b)マンガン酸化物は、通常、マンガンと酸素とから構成される。(b)マンガン酸化物には、例えば、MnO、MnO2、Mn2O3およびMn3O4が含まれる。マンガン酸化物は、好ましくはMn2O3およびMn3O4である。
【0012】
触媒は、1種以上の(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含んでいてもよい。
(c)成分は、アルカリ金属含有化合物、アルカリ土類金属含有化合物、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含んでいてもよい。
アルカリ金属含有化合物には、例えば、Na、K、RbおよびCsのようなアルカリ金属を含有する化合物が含まれる。アルカリ土類金属含有化合物には、例えば、Ca、Mg、SrおよびBaのようなアルカリ土類金属を含有する化合物が含まれる。アルカリ金属イオンには、例えば、Na+、K+、Rb+およびCs+が含まれる。アルカリ土類金属イオンには、例えば、Ca2+、Mg2+、Sr2+およびBa2+が含まれる。
【0013】
アルカリ金属成分はアルカリ金属酸化物であってもよい。アルカリ金属酸化物には、例えば、Na2O、Na2O2、K2O、KO2、K2O2、Rb2O、Rb2O2、Cs2O、Cs2O2、CsO2、CsO3、Cs2O3、Cs11O3、Cs4OおよびCs7Oが含まれる。アルカリ土類金属成分は、アルカリ土類金属酸化物であってもよい。アルカリ土類金属酸化物には、例えば、CaO、CaO2、MgO、MgO2、SrO、SrO2、BaOおよびBaO2が含まれる。
【0014】
アルカリ金属含有化合物は、好ましくはアルカリ金属塩である。アルカリ土類金属含有化合物は、好ましくはアルカリ土類金属塩である。アルカリ金属塩には、アニオンと一緒に前記したアルカリ金属イオンが含まれる。アルカリ土類金属塩には、アニオンと一緒に前記したアルカリ土類金属イオンが含まれる。かかる塩のアニオンには、例えば、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、NO3-、SO42-、CO32-、HCO3-およびSO32-が含まれる。かかる塩は、好ましくはアルカリ金属ハロゲン化物のようなハロゲンを含むアルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属ハロゲン化物のようなハロゲンを含むアルカリ土類金属含有塩であり、より好ましくはハロゲンを含むアルカリ金属塩であり、なおより好ましくはアルカリ金属塩化物である。
【0015】
(c)成分は、好ましくはアルカリ金属含有化合物またはアルカリ土類金属含有化合物であり、より好ましくはナトリウム含有化合物である。
【0016】
触媒は、好ましくはRuO2、Mn2O3およびMn3O4のいずれかおよびアルカリ金属含有塩、なおより好ましくはRuO2、Mn2O3およびMn3O4のいずれかおよびナトリウム含有塩を含む。酸化オレフィンの製造にかかる組合せを採用することによって、酸化オレフィンの収率および選択率を改善することができるからである。特に、触媒が(c)成分としてNaClを含む場合には、優れた酸化オレフィン選択率を示す。
【0017】
触媒中のルテニウム/マンガン金属モル比は、好ましくは1/99ないし99/1である。金属モル比がかかる範囲に入る場合には、酸化オレフィンの収率および選択率をさらに改善することができる。モル比の下限は、より好ましくは2/98であり、なおより好ましくは3/97であり、さらに好ましくは10/90であり、特に好ましくは20/80である。モル比の上限は、より好ましくは98/2であり、なおより好ましくは97/3であり、さらに好ましくは90/10であり、特に好ましくは80/20である。
【0018】
触媒中のルテニウム/(c)成分金属モル比は、好ましくは1/99ないし99/1である。モル比がかかる範囲に入る場合には、酸化オレフィンの収率および選択率をさらに改善することができる。モル比の下限は、より好ましくは2/98であり、なおより好ましくは3/97である。モル比の上限はより好ましくは98/2であり、なおより好ましくは97/3である。モル比の「(c)成分」は、(c)成分中に存在するアルカリ金属またはアルカリ土類金属および(c)成分中に存在するアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを表す。
【0019】
成分(a)、(b)および(c)を触媒の多孔性担体に担持させる場合、成分(a)、(b)および(c)の総含量は、好ましくは触媒の量の0.01ないし80重量%である。総含量がかかる範囲に入る場合には、酸化オレフィンの収率および選択率をさらに改善することができる。総含量の下限は、より好ましくは触媒の量の0.05重量%、なおより好ましくは0.1重量%である。総含量の上限は、より好ましくは触媒の量の50重量%、なおより好ましくは30重量%である。
【0020】
触媒は、成分(a)、(b)および(c)の他に(d)ハロゲン成分を含んでいてもよい。成分(d)は、一般的にハロゲン含有化合物である。ハロゲンには、例えば、塩素、フッ素、ヨウ素および臭素が含まれる。
かかるハロゲン含有化合物には、例えば、RuCl3のようなルテニウムハロゲン化物、MnCl2およびMnCl3のようなマンガンハロゲン化物、Ru2OCl4、Ru2OCl5およびRu2OCl6のようなルテニウムオキシハロゲン化物、およびMnOCl3、MnO2Cl2、MnO3ClおよびMn8O10Cl3のようなマンガンオキシハロゲン化物、好ましくはMn8O10Cl3が含まれる。
成分(d)は、成分(a)、(b)および(c)または多孔性担体のいずれかに担持させてもよい。
【0021】
さらに、触媒には、ルテニウム、マンガンおよび酸素からなるもの、NaMnO2のようなナトリウム、マンガンおよび酸素からなるもの、ならびにNaRuO4およびNa4RuO4のようなナトリウム、ルテニウムおよび酸素からなるものを含む(e)複合酸化物が含まれてもよい。
【0022】
触媒が成分(d)または(e)を含む場合、その成分は前記した多孔性担体に担持してもよい。
【0023】
触媒の製造は特定の方法に制限されるものではなく、例えば、従来の方法が含まれる。
成分(a)、(b)および(c)を触媒の多孔性担体に担持させる場合、触媒は、ルテニウムイオン、マンガンイオンおよびアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得ることができる。担体は粉体の形態にすることができ、あるいは必要に応じて所望の構造に成形することができる。触媒がハロゲンを含むアルカリ金属塩またはハロゲンを含むアルカリ土類金属塩である成分(c)、および/または多孔性担体に担持された成分(d)を含む場合、触媒は、溶液がマンガンイオン、ルテニウムイオン、アルカリ金属含有イオンまたはアルカリ土類金属含有イオンおよびハロゲンイオンを含むこと以外は前記したものと同じ方法で得ることができる。
【0024】
ルテニウムイオン、マンガンイオンおよびアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含有する溶液は、ルテニウム金属塩もしくはルテニウム酸化物、マンガン金属塩もしくはマンガン酸化物、およびアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩またはアルカリ金属酸化物もしくはアルカリ土類金属酸化物を溶媒に溶解することによって調製することができる。溶液は、好ましくは、ルテニウム金属塩、マンガン金属塩およびアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を溶媒に溶解することによって調製する。ルテニウム金属塩には、例えば、臭化ルテニウム、塩化ルテニウム、ヨウ化ルテニウムのようなハロゲン化物、Ru2OCl4、Ru2OCl5およびRu2OCl6のようなオキシハロゲン化物、[RuCl2(H2O)4]Clのようなハロゲノ錯体、[Ru(NH35H2O]Cl2、[Ru(NH35Cl]Cl2、[Ru(NH36]Cl2および[Ru(NH36]Cl3のようなアンミン錯体、Ru(CO)5およびRu3(CO)12のようなカルボニル錯体、[Ru3O(OCOCH36(H2O)3]のようなカルボキシラート錯体、ニトロシル塩化ルテニウム、および[Ru2(OCOR)4]Cl(R=1ないし3個の炭素原子を有するアルキル基)、[Ru(NH35(NO)]Cl3、[Ru(OH)(NH34(NO)](NO32および[Ru(NO)](NO33のようなニトロシル錯体、アミン錯体、アセチルアセトナート錯体、および(NH4)2RuCl6のようなアンモニウム塩が含まれる。マンガン金属塩には、例えば、炭酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、臭化マンガン、塩化マンガン、ヨウ化マンガン、過塩素酸マンガン、酢酸マンガンおよびマンガンアセチルアセトナートが含まれる。溶液用のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩は、(c)成分と同一または異なるものであってもよい。アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩には、例えば、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ土類金属酢酸塩、アルカリ金属酪酸塩、アルカリ土類金属酪酸塩、アルカリ金属安息香酸塩、アルカリ土類金属安息香酸塩、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属クエン酸塩、アルカリ土類金属クエン酸塩、アルカリ金属ギ酸塩、アルカリ土類金属ギ酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属次亜塩素酸塩、アルカリ土類金属次亜塩素酸塩、アルカリ金属ハロゲン酸塩、アルカリ土類金属ハロゲン酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属亜硝酸塩、アルカリ金属シュウ酸塩、アルカリ土類金属シュウ酸塩、アルカリ金属過ハロゲン酸塩、アルカリ土類金属過ハロゲン酸塩、アルカリ金属プロピオン酸塩、アルカリ土類金属プロピオン酸塩、アルカリ金属酒石酸塩およびアルカリ土類金属酒石酸塩が含まれるが、好ましくはアルカリ金属ハロゲン化物およびアルカリ金属硝酸塩であり、より好ましくはNaNO3およびNaClである。溶媒用の金属塩の少なくとも1種は、好ましくはハロゲンイオンを含み、より好ましくは塩素イオンを含む。かかるハロゲンイオンは、アルカリ金属ハロゲン化物またはアルカリ土類金属ハロゲン化物のような成分(c)、またはルテニウムハロゲン化物、ルテニウムオキシハロゲン化物ならびにマンガンハロゲン化物およびマンガンオキシハロゲン化物のような(d)成分を形成してもよい。
溶液は、そのpHを制御する目的で酸性または塩基性の化合物を含んでいてもよい。
【0025】
溶液用の溶媒には、例えば、水、およびメタノールまたはエタノールのようなアルコールが含まれる。
多孔性担体の総量は、好ましくは得られる触媒の20ないし99.99重量%であり、より好ましくは50ないし99.95重量%であり、なお好ましくは70ないし99.9重量%である。
【0026】
含浸によって調製する組成物は、通常、乾燥し、その乾燥方法は限定されない。
含浸によって調製する組成物は、組成物を焼成する前に、好ましくはほぼ40℃ないしほぼ200℃の温度にて乾燥する。乾燥は好ましくは常圧または減圧した空気の雰囲気下または不活性ガス雰囲気(例えば、Ar、N2、He)下で行う。乾燥時間は、好ましくは0.5ないし24時間の範囲である。乾燥した後、組成物は必要に応じて所望の構造に成形することができる。
【0027】
組成物を焼成する方法は限定されず、組成物の焼成は好ましくは酸素を含有するガス雰囲気下で行う。かかるガス流には、例えば空気、酸素、亜酸化窒素および他の酸化ガスが含まれる。ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴンおよび水蒸気のような希釈ガスと適当な比で混合した後に使用してもよい。焼成の最適温度はガスおよび組成物の種類に依存して変化するが、温度が高すぎるとマンガン酸化物およびルテニウム酸化物の凝集を引き起こす可能性がある。したがって、焼成温度は典型的には200ないし800℃、好ましくは400ないし600℃である。
【0028】
触媒は粉体として使用することができるが、通常はそれを球形、ペレット、柱形、リング形、中空柱形または星形のような所望の構造に成形する。触媒は押出し、ラム押出し、錠剤成形のような公知の方法によって成形することができる。通常、焼成は所望の構造に成形した後に行うが、成形する前に行うこともできる。
【0029】
次に、前記した触媒存在下での酸素とのオレフィンの反応を以下に説明する。
本発明においては、オレフィンは線状または分枝状の構造を有してもよく、通常、2ないし10個、好ましくは2ないし8個の炭素原子を含有してもよい。オレフィンには、例えば、好ましくはエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテンおよびブタジエンが含まれ、より好ましくはエチレン、プロピレンおよびブテンが含まれ、なおより好ましくはプロピレンが含まれる。
【0030】
一般的に、反応は気相中で行う。反応においては、オレフィンおよび酸素をガスの形態で各々送給してもよい。オレフィンおよび酸素ガスは、それらの混合ガスの形態で送給することができる。オレフィンおよび酸素ガスは、希釈ガスと送給してもよい。希釈ガスには、例えば窒素、アルゴンおよびヘリウムのような希ガス、二酸化炭素、水蒸気、メタン、エタンおよびプロパンが含まれる。好ましい希釈ガスは、窒素、二酸化炭素およびそれらの両方である。
【0031】
酸素源としては、純粋な酸素を使用してもよく、あるいは空気のような純粋な酸素および反応に不活性なガスを含有する混合ガスを使用してもよい。反応に不活性なガスには、例えば窒素、アルゴンおよびヘリウムのような希ガス、二酸化炭素、水蒸気、メタン、エタンおよびプロパンが含まれる。好ましい反応に不活性なガスは、窒素、二酸化炭素およびそれらの両方である。使用する酸素の量は、反応の型、触媒、反応温度などに依存して変化する。酸素の量は、オレフィン1モルに対して、典型的には0.01ないし100モル、好ましくは0.03ないし30モル、より好ましくは0.05ないし10モルであり、特に好ましくは0.25ないし10モルである。
【0032】
反応は一般的には100ないし350℃、好ましくは120℃ないし330℃、より好ましくは170ないし310℃の温度で行う。
【0033】
本反応は、低圧ないし高圧の範囲の反応圧力下で行う。かかる反応圧力条件下で反応を行うことによって、酸化オレフィンの生産性および選択性を改善することができる。低圧とは大気圧よりも低い圧力を意味する。高圧とは大気圧よりも高い圧力を意味する。反応圧力は、絶対圧で、典型的には0.01ないし3MPaの範囲であり、好ましくは0.02ないし2MPaの範囲である。
【0034】
本発明の反応は、バッチ反応または連続反応として行ってもよいが、好ましくは産業上利用のために連続反応として行ってもよい。本発明の反応は、オレフィンおよび酸素を混合した後、その混合物を低圧下ないし高圧下で触媒と接触させることによって行ってもよい。
【0035】
反応器の型は限定されない。反応器の型は、例えば流動床反応器、固定床反応器、移動床反応器などであるが、好ましくは固定床反応器である。固定床反応器を使用する場合は、単管反応器または複数管反応器を利用することができる。1個よりも多い反応器を使用することができる。反応器の数が大きい場合は、例えばマイクロ反応器のような、複数のチャネルを有することができる小さな反応器を使用することができる。また、断熱型または熱交換型を使用してもよい。
【0036】
本発明においては、酸化オレフィンは線状または分枝状の構造を有してもよく、通常2ないし10個、好ましくは2ないし8個の炭素原子を含有してもよい。酸化オレフィンには、例えば好ましくはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブテンオキサイド、ペンテンオキサイド、ヘキセンオキサイド、ヘプテンオキサイド、オクテンオキサイドおよび3,4−エポキシ−1−ブテン、より好ましくはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドおよびブテンオキサイド、なおより好ましくはプロピレンオキサイドが含まれる。
【0037】
得られる酸化オレフィンは、蒸留による分離のような当該技術分野で公知の方法によって収集される。
【実施例】
【0038】
実施例1においては、以下の方法に準拠してデータ分析を行った:
反応ガスを外部標準としてのエタン(10Nml/分)と混合した後に、Gaskuropack 54のカラム(2m)を備えたTCD−GCに直接導入した。直列に連結し、ドライアイス/メタノール浴を用いて冷却した二重のメタノールトラップを用いて、反応ガス中のすべての生成物を1時間収集した。2つのメタノール溶液を一緒に混合し、外部標準としてのアニソールに添加した後に、異なるカラム、PoraBOND U(25m)およびPoraBOND Q(25m)を備えた2つのFID−GCを用いて分析した。
【0039】
検出された生成物はプロピレンオキサイド(PO)、アセトン(AT)、COx(CO2およびCO)、プロパナール(PaL)、アクロレイン(AC)であった。
生成物のプロピレン転化率、生成物選択率および収率(生成物の選択率×プロピレン転化率として計算した)は、炭素収支に基づいて計算した。
プロピレン転化率(XPR)は下式:
【0040】
【数1】

から決定し;PO選択率(SPO)は下式:
【0041】
【数2】

を使用して計算した。
各金属の重量は、触媒の調製に使用した金属塩の量から決定した。
【実施例1】
【0042】
触媒は、同時含浸法によって調製した。これは、所定重量(1.9g)の非晶質シリカ粉体(SiO2、日本アエロジル株式会社、380m2/g)を、0.55gの(NH4)2RuCl6(Aldrich社)、0.28gのMnCl2および0.10gのNaCl(和光純薬工業株式会社)を含有する水溶液混合物に並行して同時含浸することによって行った。空気中で24時間攪拌して担体に水溶液混合物を含浸させた。ついで、得られた材料を乾燥するまで100℃に加熱し、空気中、500℃にて12時間焼成した。
【0043】
触媒は、固定床反応器を使用することによって評価した。かくして得られた触媒1mLをステンレス鋼製の1/2−インチOD反応管に充填し、その反応管に450NmL/hのプロピレン、900NmL/hの空気、および990NmL/hの窒素ガスを供給して、高圧条件下(絶対圧力で0.3MPaに等しい)、200、250および270℃の反応温度で反応を行った。
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【実施例2】
【0045】
実施例1で得た触媒(5.0mg)を、Angew.Chem.Int.Ed.38(1999)2794に記載される、反応器チャネル内にアレイマイクロ反応器、各反応器チャネルに沿ったウェルおよび表面保護処理された200マイクロIDキャピラリーサンプリングプローブを備えた反応器のウェルに入れた。1体積%のプロピレン(C3H6)、4体積%のO2、および95体積%のHeからなる混合ガスを、250℃の反応器温度にて、20,000h-1のガス毎時空間速度(GHSV)で触媒を含有するウェルに送給した。
【0046】
ガスのサンプリングは、表面保護処理された200マイクロIDキャピラリーサンプリングプローブを使用して反応器出口のガスを取り出すことによって行った。
【0047】
サンプルガスのデータ分析は、熱伝導度検出器(TCD)、PoraPLOT U(10M)およびモレキュラーシーブ 13×(10M)を備えたオン−ライン・マイクロ−ガスクロマトグラフ(Varian,CP−4900)によって行った。
【0048】
検出された生成物はプロピレンオキサイド(PO)、アセトン(AT)、アセトアルデヒド(AD)、COx(CO2およびCO)、およびプロパナール+アクロレイン(PaL+AC)であった。
【0049】
生成物のプロピレン転化率、生成物選択率および収率(生成物の選択率×プロピレン転化率として計算した)は、炭素収支に基づいて計算した。
プロピレン転化率(XPR)は下式:
【0050】
【数3】

から決定し;ついで、PO選択率(SPO)は下式:
【0051】
【数4】

を使用して計算した。
注記:PaLは典型的には微量でしか見出されないがPaLおよびACは同じ保持時間に出現するため、これらの化合物は一緒に報告される。
結果を表2に示す。
【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含む触媒存在下でオレフィンと酸素とを反応させることを含む、酸化オレフィンの製造方法。
【請求項2】
触媒が(d)ハロゲン成分を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
触媒が(e)複合酸化物を含む請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分が多孔性担体に担持されている請求項1記載の方法。
【請求項5】
(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物、(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分および(d)ハロゲン成分が多孔性担体に担持されている請求項2記載の方法。
【請求項6】
多孔性担体がAl2O3、SiO2、TiO2またはZrO2を含む請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
多孔性担体がSiO2を含む請求項4または5記載の方法。
【請求項8】
(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分の総量が触媒の量の0.01ないし80重量%である請求項1または2記載の方法。
【請求項9】
触媒中のルテニウム/マンガン金属モル比が1/99ないし99/1である請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
触媒中のルテニウム/(c)成分金属モル比が1/99ないし99/1である請求項1または2記載の方法。
【請求項11】
(a)銅酸化物がCuOである請求項1または2記載の方法。
【請求項12】
(b)マンガン酸化物がMn2O3である請求項1または2記載の方法。
【請求項13】
(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分がアルカリ金属含有化合物またはアルカリ土類金属含有化合物である1または2記載の方法。
【請求項14】
(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分がナトリウム含有化合物またはカリウム含有化合物である請求項1または2記載の方法。
【請求項15】
触媒を、ルテニウムイオン、マンガンイオンおよびアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得る請求項4記載の方法。
【請求項16】
触媒を、ルテニウムイオン、マンガンイオン、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンおよびハロゲンイオンを含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得る請求項5記載の方法。
【請求項17】
オレフィンがプロピレンであり、酸化オレフィンがプロピレンオキサイドである請求項1または2記載の方法。
【請求項18】
100ないし350℃の温度でオレフィンと酸素とを反応させることを含む請求項1または2記載の方法。
【請求項19】
(a)ルテニウムまたはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含む、酸化オレフィン製造用の触媒。
【請求項20】
(d)ハロゲン成分を含む請求項19記載の触媒。
【請求項21】
(e)複合酸化物を含む請求項19または20記載の触媒。
【請求項22】
(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分が多孔性担体に担持されている請求項19記載の触媒。
【請求項23】
(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物、(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分および(d)ハロゲン成分が多孔性担体に担持されている請求項20記載の触媒。
【請求項24】
ルテニウムイオン、マンガンイオンおよびアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得られる請求項22記載の触媒。
【請求項25】
ルテニウムイオン、マンガンイオン、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンおよびハロゲンイオンを含有する溶液に多孔性担体を含浸させて組成物を調製した後に、その組成物を焼成することによって得られる請求項23記載の触媒。
【請求項26】
(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分がアルカリ金属含有化合物またはアルカリ土類金属含有化合物である請求項19または20記載の触媒。
【請求項27】
多孔性担体がAl2O3、SiO2、TiO2またはZrO2を含む請求項22または23記載の触媒。
【請求項28】
多孔性担体がSiO2を含む請求項22または23記載の触媒。
【請求項29】
酸化オレフィンがプロピレンオキサイドである請求項19または20記載の触媒。
【請求項30】
酸化オレフィンを製造するための触媒の使用であり、該触媒が(a)ルテニウム金属またはルテニウム酸化物、(b)マンガン酸化物および(c)アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含む該使用。
【請求項31】
酸化オレフィンがプロピレンオキサイドである、請求項30記載の触媒の使用。

【公表番号】特表2013−505986(P2013−505986A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532153(P2012−532153)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2011/038168
【国際公開番号】WO2012/005822
【国際公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】