説明

酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法、及びこれを用いた窒化物半導体膜の製造方法

【課題】立方晶系の窒化物半導体と格子整合して、III族窒化物半導体を結晶成長させた際に六方晶系結晶の混入が低減されて立方晶系結晶が支配的となる、高品質な立方晶系の窒化物半導体を得ることができる酸化ガリウム単結晶複合体基板を、簡便にかつ低コストで製造することができる方法、及び窒化物半導体膜の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化ガリウム単結晶からなる基板の表層部に窒化ガリウム層を有する酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法であって、上記基板の表面を化学的機械研磨し、当該表面をECRプラズマ又はRFプラズマにより励起された窒素プラズマで窒化処理して、基板の表層部に立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層を形成する酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法であり、この複合体の表面に窒化物半導体膜を成長させる窒化物半導体膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化ガリウム(Ga2O3)単結晶からなる基板の表層部に立方晶窒化ガリウム(GaN)からなる窒化ガリウム層を有する酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法、及びこの複合体を用いて窒化物半導体を成長させる窒化物半導体膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、及びこれらの混晶等から形成されるIII族窒化物半導体は、直接遷移型であって、かつ、バンドギャップがおよそ0.7eV〜6.2eVまで設計可能であることから、可視光領域をカバーできる発光素子用材料として各種の応用が期待されている。すでに青、緑、白色の発光ダイオード(LED)や青紫のLED等で市場に出ているものもある。
【0003】
ところで、窒化物半導体の結晶学的な特徴として、熱平衡状態で安定な六方晶系のウルツ鉱型構造と、準安定な立方晶系のせん亜鉛鉱型構造との2つの結晶構造を有することが挙げられる。これまで、一般的には六方晶系結晶が広くデバイスとして利用されており、熱力学的に準安定相である立方晶系結晶は、純粋な形で高品質エピタキシャル結晶を成長させることが困難であるとされている。しかしながら、立方晶系結晶は六方晶系結晶より結晶としての対称性が高いため、バンドの異方性がなくなりキャリアに対する散乱が小さく、キャリアの高移動度が期待でき、更にはドーピング効率が優れることなどから、へき開を利用した半導体レーザのキャビティやピエゾ電界の低減による発光効率の向上など光・電子デバイスとして応用上有利であるとされている。そのため、立方晶系構造を有するIII族窒化物半導体膜の結晶成長に関する開発が近時盛んに進められている。なかでも、高効率青色発光ダイオードや青色半導体レーザ、高温動作二次元電子ガスFET等の応用が進むGaNの立方晶結晶については特に注目が集まっている。
【0004】
例えば、これまでに立方晶GaNをエピタキシャル成長させる基板としては、Si、GaAs、GaP、3C−SiC、MgO等が用いられている(非特許文献1のp180表9.3参照)。立方晶GaNは、通常これらの立方晶系構造を有する結晶の(001)面上へのエピタキシャル成長によって得られており、GaAs基板及びSi基板の(100)面にGaNを成長させると立方晶系の結晶が得られるとされている。なお、これらの基板の(111)面にGaNを成長させると六方晶系の結晶が得られることが分かっている(非特許文献1のp168〜169参照)。
【0005】
しかしながら、Siは、大口径ウエハが可能であって、低コストであるというメリットを有するものの、高周波特性に劣ると共に、GaNとの界面反応性の点やGaNとの格子定数のミスマッチが大きいといった問題を有する。また、GaAsは、Siより高周波特性に優れるが、Siと同様に格子不整合が大きいためデバイスレベルの結晶を形成するのが困難であると共に、AsやPは環境問題を考える上で積極的に使用していく材料としては不向きである。更に、SiCは熱伝導率が高くパワーデバイス用基板として優れるが、高品質化、高純度化、高抵抗化、低価格化、大口径化等の点で更なる改善が必要とされている。
【0006】
一方で、単に上記のような基板の立方晶系結晶の(001)面を用いるだけで立方晶GaNの成長が保証されるわけではない。すなわち、初期成長の段階で特別な注意を払わなければ、エネルギー的に安定相である六方晶系結晶の混在が支配的になってしまう。例えばGaAs基板の熱分解により、初期成長プロセス中に基板の一部がエッチングされて界面の平坦性が損なわれ、この平坦性が損なわれた部分から多くの積層欠陥が発生し、積層欠陥が増えることによって立方晶系結晶が徐々に六方晶系結晶に変わってしまう。このような六方晶GaNの混入や立方晶GaNの結晶性低下の原因として、GaN成長面の僅かな平坦性の崩れによるGaN(111)ファセット面の形成や、プラズマ状窒素が基板にダメージを及ぼすため基板と結晶成長面との界面での平坦性が損なわれて、GaAs(111)ファセット面が形成されることなどが考えられる。更には、エピタキシャル成長による膜と基板との格子不整合が大きいことによって、バッファ層のアモルファス化等も原因のひとつと考えられている。
【0007】
このように、結晶成長面での高品質な立方晶GaN薄膜を得ることが非常に困難であることから、六方晶系のエピタキシャル膜に比べて得られる立方晶系のエピタキシャル膜の品質は未だ十分であるとは言い難い。そのため、立方晶系構造を有する窒化物半導体膜の品質向上のためには、立方晶GaNをエピタキシャル成長させるために相応しい新規な基板の開発が必要である。究極的には、バルクのGaN単結晶基板を用いてこれにGaN膜をエピタキシャル成長させることが考えられるが、バルクGaN単結晶は作製時におけるN2の蒸気圧が大きく、融点も高いため、通常の溶融法で作製することが極めて困難であり、単結晶育成には高温高圧の条件が必要となって装置が大掛かりになると共に、非常にコストが嵩んでしまう。また、LPE(Liquid Phase Epitaxy)やNaフラックス法によってバルクGaN単結晶を作製する方法もあるが、結晶構造の制御が困難であり品質にも問題があり、立方晶GaNをエピタキシャル成長させる基板としてバルクGaN単結晶を用いることは現実的ではない。
【0008】
このような状況の下、V族原料ガスとIII族原料ガスとを導入してGaAs基板上にGaNバッファ層を形成し、所定の加熱工程と原料ガスの導入とを経てGaNバッファ層上に六方晶GaNの混在率を低減させた立方晶GaNを形成する方法(特許文献1参照)、GaAs単結晶基板上に所定の方法によってInGaAsN単結晶薄膜、III族窒化物単結晶薄膜、及びIII族窒化物半導体結晶を成長させることにより、立方晶GaNをはじめとした高品質のIII族窒化物半導体結晶を得る方法(特許文献2参照)、GaNを成長させる主面が特定の結晶系に属する単結晶から形成されると共に、GaN単結晶の構造周期に対するミスフィット率が所定の値をとれるようにガーネット等の基板を用いて欠陥のきわめて少ない良質なGaN薄膜を形成する方法(特許文献3参照)、主面が(001)面を有するタングステンの単結晶基板上に立方晶GaN系半導体をヘテロエピタキシャル成長させる方法(特許文献4参照)、GaAs基板上にAlAsを結晶成長させ、次いでこのAlAs層の表面と窒素とを反応させてAlAs層の表面層をAlN膜に変え、更にこのAlN膜上にGaNを結晶成長させることによって、へき開が容易で良質な立方晶系GaNを成長させる方法(特許文献5参照)、GaAs基板上にアルミニウムを含む立方晶系の半導体層を介してGaNで構成される立方晶系窒化物半導体層を形成することで、表面窒化された半導体層の上に平坦な立方晶系窒化物半導体層を形成する方法(特許文献6参照)等の種々の方法が検討されている。また、ガリウム酸化物の基板上にMOCVD法によってGaN系化合物半導体薄膜を形成させた発光素子について報告されているが(特許文献7参照)、このGaN系化合物半導体薄膜については立方晶系か六方晶系かは特に言及がない。このように多種多彩の方法が検討されているが、このことは立方晶系の窒化物半導体をエピタキシャル成長させる際にうまく格子整合する基板が存在しないことに由来するものと考えられる。
【特許文献1】特開2001−15442号公報
【特許文献2】特開2003−142404号公報
【特許文献3】特開平7−288231号公報
【特許文献4】特開平10−126009号公報
【特許文献5】特開平10−251100号公報
【特許文献6】特開平11−54438号公報
【特許文献7】特開2004−56098号公報
【非特許文献1】赤崎勇編著「III族窒化物半導体」培風館(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、立方晶系の窒化物半導体に対する格子不整合を可及的に減らすことができる新規な基板について鋭意検討した結果、単結晶が比較的容易に得られる酸化ガリウム(Ga2O3)に着目して、この酸化ガリウム単結晶の表面に所定の処理を行い、ECRプラズマ又はRFプラズマにより励起された窒素プラズマで窒化処理することで、酸化ガリウム単結晶の表層部が立方晶窒化ガリウムに改質された酸化ガリウム単結晶複合体を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明の目的は、立方晶系の窒化物半導体と格子整合して、III族窒化物半導体を結晶成長させた際に六方晶系結晶の混入が低減されて立方晶系結晶が支配的となる、高品質な立方晶系の窒化物半導体を得ることができる酸化ガリウム単結晶複合体を、簡便にかつ低コストで製造できる方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、六方晶系結晶に対して立方晶系結晶が支配的に成長し、高品質な立方晶系窒化物半導体膜を得ることができる窒化物半導体膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、酸化ガリウム単結晶からなる基板の表層部に窒化ガリウム層を有する酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法であって、上記基板の表面を化学的機械研磨し、当該表面をECRプラズマ又はRFプラズマにより励起された窒素プラズマで窒化処理して、基板の表層部に立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層を形成する酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、上記酸化ガリウム単結晶複合体の表面に、窒化物半導体膜を成長させる窒化物半導体膜の製造方法である。
【0014】
本発明における酸化ガリウム単結晶複合体とは、酸化ガリウム(Ga2O3)単結晶からなる基板の表層部に窒化ガリウム層を有したものである。この窒化ガリウム層については、実質的に立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層であればよい。実質的に立方晶窒化ガリウムからなるとは、後述する実施例に示すように、例えば酸化ガリウム単結晶複合体の表面の反射高速電子回折(RHEED)パターンがスポット状又はストリーク状であって、立方晶窒化ガリウムが形成されていると判断できればよいことを意味し、実質的に上記RHEEDパターンに影響を及ぼさない程度のその他のものについては含まれてもよい。
【0015】
また、この窒化ガリウム層については、例えば本発明の酸化ガリウム単結晶複合体の表面に窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、及びこれらの混晶等から形成されるIII族窒化物半導体を成長させる際に、得られる窒化物半導体のデバイス特性や機能性等を考慮して、好ましくは実質的に<100>配向した立方晶窒化ガリウムからなるのがよい。ここで、実質的に<100>配向した立方晶窒化ガリウムとは、例えば酸化ガリウム単結晶複合体の表面の反射高速電子回折(RHEED)パターンがスポット状又はストリーク状であって、<100>配向した立方晶窒化ガリウムが形成されていると判断できればよいことを意味する。
【0016】
更には、窒化ガリウム層の膜厚については1nm以上、好ましくは1nm〜10nmの範囲であるのがよい。窒化ガリウム層の膜厚が1nmより薄いと、例えば酸化ガリウム単結晶複合体を上記のような窒化物半導体の結晶成長用基板として用いる場合に立方晶系の窒化物半導体を得ることが難しくなり、別途バッファ層を形成する必要が生じてしまう。反対に窒化ガリウム層の膜厚が10nmより厚くなると、例えば窒化物半導体の立方晶系結晶を成長させる観点や、得られる立方晶系結晶の品質向上の観点では効果が飽和すると共に、窒化ガリウム層を形成するための処理時間が長くなってコスト高となる。尚、上記窒化ガリウム層の膜厚は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)やX線光電子分光法(XPS)による深さ方向分析や電子顕微鏡による断面観察から算出することができる。
【0017】
また、本発明において窒化処理の対象となる基板を形成する酸化ガリウム(Ga2O3)単結晶については、一般的に入手可能なものを用いることができ、例えば浮遊帯域溶融法(フローティングゾーン法;FZ法)、EFG法、ベルヌーイ法、チョクラルスキー(CZ)法等によって得られた酸化ガリウム単結晶を使用することができるが、好ましくはFZ法により得られた酸化ガリウム単結晶であるのがよい。FZ法は、容器を使わずに原料を融解させて単結晶を育成するため、得られる単結晶への不純物混入を可及的に防止でき、かつ、結晶性に優れた単結晶を得ることができる点で有利である。そのため、FZ法により得られた酸化ガリウム単結晶を使用すれば、表層部に形成される窒化ガリウム層の結晶性等に悪影響を及ぼすおそれが可及的に排除できる。FZ法により酸化ガリウム単結晶を得る際には、酸化ガリウム粉末を焼成して得た酸化ガリウム焼結体を原料として用意し、これを原料棒にして酸化ガリウム単結晶を育成するのが好ましい。酸化ガリウム粉末は比較的入手が容易であるため、安価に結晶性に優れた酸化ガリウム単結晶を得ることができる点で有利である。これらにおいてFZ法を用いて酸化ガリウム単結晶を得るための具体的な手段については、一般的に採用される装置や単結晶育成のための条件等で行うことができる。尚、酸化ガリウム単結晶からなる基板の形状やその大きさ等については、最終的に得られる酸化ガリウム複合体基板の用途等に応じて自由に設計することができる。
【0018】
本発明においては、酸化ガリウム単結晶からなる基板を窒化処理に先駆けて化学的機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)する。この化学的機械研磨は、砥粒などの粒子による機械的な除去作用と加工液による化学的な溶去作用を重畳させた研磨方法であり、LSI用シリコンウエハの鏡面仕上げ加工等で汎用的に用いられている。本発明においては、例えば粒径が0.01〜0.95μmのコロイダルシリカからなる砥粒を用いて、NaOH溶液に分散させた研磨液(pH9.5)を用い、荷重0〜1kg、研磨盤の回転速度50〜70rpm、研磨時間20〜90分の条件で表面が平坦になるように研磨する。予め酸化ガリウム単結晶の表面を化学的機械研磨して平坦化しておくことで、後の窒化処理により形成される立方晶窒化ガリウム中の欠陥形成や六方晶系結晶の形成を低減させることができる。また、得られる窒化ガリウム層が均一かつ平坦になり、具体的には表面粗さRqが1nm以下といった極めて平坦性に優れた窒化ガリウム層を得ることができ、窒化物半導体をエピタキシャル成長させてLEDやレーザダイオード(LD)等のデバイスに応用する際に求められる表面平坦性を確保することができる。なお、上記表面粗さRqは二乗平均平方根粗さを表し、JIS B0601に準拠するものである。
【0019】
化学的機械研磨する表面については、好ましくは酸化ガリウム単結晶の(100)面であるのがよい。酸化ガリウム単結晶の(100)面は酸化ガリウム単結晶の成長方向に対して平行な面であることから、酸化ガリウム単結晶は(100)面にへき開しやすく、また、例えば半導体レーザ等のレーザ発振させる際に用いる光共振器のミラーをGaN結晶のへき開面で形成する場合にも好適である。
【0020】
上記のようにして化学的機械研磨した酸化ガリウム単結晶からなる基板の当該表面については、ECR(電子サイクロトロン共鳴:Electron Cyclotron Resonance)プラズマ又はRF(高周波:Radio Frequency)プラズマにより励起された窒素プラズマで窒化処理し、酸化ガリウム単結晶からなる基板の表層部に立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層を形成する。ECRプラズマ又はRFプラズマを用いた窒化処理によれば、準安定相である立方晶窒化ガリウムの形成により適した800℃以下の低温処理が可能なため、酸化ガリウム単結晶の表層部を効率的に立方晶窒化ガリウムに改質して窒化ガリウム層を形成することができる。より高いプラズマ密度で高励起のプラズマが得られる観点から、好ましくはECRプラズマを用いた窒化処理であるのがよい。
【0021】
ECRプラズマ又はRFプラズマにより励起された窒素プラズマで窒化処理する際の窒素源としては窒素(N2)ガス、アンモニア(NH3)ガス、又は窒素(N2)に水素(H2)を添加した混合ガス等を用いることができ、好ましくは窒素(N2)ガスを用いるのがよい。また、窒化処理する際の酸化ガリウム単結晶からなる基板の表面の温度については、プラズマ源や窒素源の種類によっても異なるが、例えば窒素源を窒素ガスとしてECRプラズマを用いる場合、500〜800℃の範囲であるのが好ましい。この温度が500℃より低いと窒素と酸化ガリウム単結晶との反応による窒化が十分に行われないおそれがあり、反対に800℃より高くなると立方晶窒化ガリウムよりも六方晶窒化ガリウムが成長しやすくなってしまう。
【0022】
このECRプラズマ又はRFプラズマを用いた窒化処理については、一般的な装置を用いて行うことができ、例えばECRプラズマを用いた窒化処理については、ECR−MBE(molecular beam epitaxy)装置のチャンバーを用いて行ってもよい。この際、マイクロ波パワー100〜300W、窒素流量8〜20sccm(standard cc/min)、処理時間30〜120分とするのがよい。
【0023】
また、本発明においては、酸化ガリウム単結晶からなる基板の表面を化学的機械研磨した後、当該研磨した表面にフッ化水素(HF)を用いたHF処理及び/又はH2O:H2SO4:H22=1:(3〜4):1の体積比で混合した溶液を用いたエッチャント処理を施し、更に当該処理した表面を加熱するサーマルクリーニングを行うようにしてもよい。窒化処理に先駆けて上記のような所定の溶液を用いた表面処理を行うことにより、基板の表面に形成された酸化皮膜を除去することができ、更にサーマルクリーニングを行うことで純粋な酸化ガリウム(Ga2O3)以外の不安定な酸化物を除去することができる。このHF処理とエッチャント処理は、一般に、Siの酸化物処理に使用されているものであり、好ましくは酸化ガリウム単結晶からなる基板の表面をHF処理した後、更にエッチャント処理するのがよい。また、上記サーマルクリーニングについては、酸化ガリウム単結晶からなる基板を750〜850℃、好ましくは800℃の温度で、加熱時間20〜60分の加熱処理を行うようにするのがよい。
【0024】
更に本発明においては、上記HF処理及び/又はエッチャント処理を行う前に、酸化ガリウム単結晶からなる基板をアセトンに浸漬して洗浄すると共に、メタノールに浸漬して洗浄をするようにしてもよい。
【0025】
本発明によって得られた酸化ガリウム単結晶複合体の用途については特に制限はされないが、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、及びこれらの混晶等から形成されるIII族窒化物半導体を形成する窒化物半導体用基板として用いることができる。これらの窒化物半導体を形成する場合には、具体的には酸化ガリウム単結晶複合体の表面に有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシャル法(MBE法)等の方法を用いて窒化物半導体膜を成長させることができ、好ましくはMBE法を用いて窒化物半導体膜を成長させるのがよい。例えば立方晶GaN膜を成長させる場合、MBE法ではGaNに対する最適成長温度が600〜800℃であって、MOCVD法の最適成長温度である1000〜1100℃と比べてより低温であることから、準安定相である立方晶GaN膜の成長により適している。
【0026】
MBE法を用いて窒化物半導体膜を成長させる際、III族源としてはGa、Al、In等の固体を用いるのが好ましい。また、窒素源としては窒素(N2)ガス、アンモニア(NH3)ガス、又は窒素(N2)に水素(H2)を添加した混合ガス等を用いることができ、好ましくは窒素(N2)ガスである。
【0027】
また、MBE法を用いる場合、具体的には酸化ガリウム単結晶複合体の表面にRF−MBE法によって窒化物半導体を成長させるのが好ましい。上述したように、酸化ガリウム単結晶の表面を窒化処理する際にはプラズマ密度がより高いECRプラズマを用いる方がより適しているが、窒化物半導体膜を得る際にはプラズマ密度が必要以上に高くなると成長する膜にダメージが加わるおそれがあることから、RF−MBE法がより適している。
【0028】
酸化ガリウム単結晶複合体にRF−MBE法を用いて窒化物半導体膜を成長させる際には、例えばRFプラズマセルを用いたMBE装置によって行うことができる。この場合の製造条件については、使用する窒素源やIII族源によっても異なるが、例えば窒素(N2)ガス及び固体のGaを用いて窒化ガリウム膜を成長させる場合、分子状窒素(N2)に周波数13.56MHzの高周波をかけて励起したプラズマを発生させ、成膜条件として、酸化ガリウム単結晶複合体の温度を600〜800℃、窒素ガス流量を2〜10sccm、RFパワーを200〜400W、及び成膜時間を30〜120分とするのがよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、酸化ガリウム単結晶からなる基板の表層部に立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層を有した酸化ガリウム単結晶複合体を得ることができる。比較的入手が容易な酸化ガリウム単結晶を用いて、所定の研磨処理及び窒化処理を施すことにより、酸化ガリウム単結晶の表層部を立方晶窒化ガリウムに改質することができるため、例えばバルクの窒化ガリウム単結晶を得るために必要な製造条件よりはるかに簡便かつ低コストで上記酸化ガリウム単結晶複合体を得ることができる。また、得られた酸化ガリウム単結晶複合体は、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、及びこれらの混晶等から形成されるIII族窒化物半導体を形成する窒化物半導体用基板として用いた場合、六方晶系結晶の混入を低減できて六方晶系結晶に対して立方晶系結晶を支配的に成長させることができる高品質な立方晶系の窒化物半導体膜を得ることができ、立方晶系窒化物半導体をエピタキシャル成長させるのに好適である。特に、立方晶窒化ガリウム(GaN)を結晶成長させる際には基板との界面における格子不整合が可及的に低減されることから、高品質な立方晶GaN膜のエピタキシャル成長が可能である。なお、六方晶系結晶に対して立方晶系結晶が支配的であるとは、六方晶系結晶より立方晶系結晶の存在量が多いことを意味する。
【0030】
また、本発明における窒化物半導体膜の製造方法によれば、上記酸化ガリウム単結晶複合体を用いるため、六方晶系結晶の混入が低減されて立方晶系結晶が支配的に成長した高品質な立方晶系の窒化物半導体膜を得ることができる。更には、別途バッファ層を形成することなく立方晶系の窒化物半導体膜をエピタキシャル成長させることができることから、製造プロセスが簡素化されて低コストで窒化物半導体膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0032】
[酸化ガリウム単結晶の作製]
先ず、純度99.99%の酸化ガリウム粉末をラバーチューブに封じ、静水圧450MPaにてロッド状に整形した。これを電気炉に入れ大気中1600℃にて20時間焼成して酸化ガリウム焼結体を得た。焼成後に得られたロッドサイズは、およそ9mmφ×40mmのサイズであった。
次いで、この酸化ガリウム焼結体を原料棒として、光FZ(フローティングゾーン:浮遊帯域溶融)法によって酸化ガリウム単結晶の育成を行った。単結晶の育成には、双楕円の赤外線集光加熱炉(ASGAL Co製SS-10W)を使用した。具体的には、上記で得られた酸化ガリウム焼結体を原料棒として上軸に設置し、下軸には酸化ガリウム単結晶を種結晶として設置した。結晶成長雰囲気は、酸素ガスと窒素ガスとの体積の割合がO2/N2=20.0(vol%)となる乾燥空気雰囲気として、反応管に供給する上記乾燥空気の流量は500ml/minとした。原料棒と種結晶の先端を炉中心に移動して溶解接触させ、また、上記原料棒及び種結晶の回転速度を20rpmとして、1気圧下で、結晶成長速度が5mm/hとなるように帯域溶融操作を行った。このようにして、10mm径×80mm長さの酸化ガリウム単結晶を作製した。
【0033】
[酸化ガリウム単結晶複合体の作製]
上記で得た酸化ガリウム単結晶の(100)面を切り出し、縦8mm×横8mm×厚さ2mmのサイズの基板を得た〔基板の表面は酸化ガリウム単結晶の(100)面〕。この基板の表面を1μmのダイヤモンドスラリーにて研磨した後、最終仕上げとして化学的機械研磨(CMP)を行った。CMPは、1μm以下の粒径のコロイダルシリカを砥粒としてNaOH溶液に分散させた研磨液(pH9.5〜10)を用い、荷重0kg、研磨盤の回転数75rpm、研磨時間25分の条件で行った。図1は、CMP処理後の酸化ガリウム単結晶の表面の反射高速電子回折(RHEED)パターンを示す。図1の(a-1)は酸化ガリウム単結晶の[010]軸方位より電子線を入射したときのRHEEDパターンであり、図1の(a-2)は同じく[001]軸方位より電子線を入射したときのRHEEDパターンである。参考として、CMPを行わずに手研磨のみの酸化ガリウム単結晶の表面のRHEEDパターンを図1(b)に示す。図1の(b-1)が酸化ガリウム単結晶の[010]軸方位より電子線を入射したものであり、図1の(b-2)が同じく[001]軸方位より電子線を入射したときのものである。これら(a)と(b)とを比較すると、いずれも手研磨の場合のRHEEDパターンはスポット状であるのに対し、CMP処理後の酸化ガリウム単結晶ではストリーク状のRHEEDパターンであることから、CMP処理によってより平坦な酸化ガリウム単結晶の表面が得られていることが確認できた。
【0034】
次に、CMP処理後の基板をアセトン中に10分間浸漬して洗浄した後、更にメタノール中にて10分間浸漬して洗浄した。洗浄後の基板については、フッ酸中に10分間浸漬するHF処理、及びH2O:H2SO4:H22=1:4:1の体積比で混合した溶液(60℃)に5分間浸漬するエッチャント処理を行った。次いで、この基板をECR−MBE装置(日電アネルバ社製)の試料台にセットし、基板を800℃付近まで加熱した後30分間保持させてサーマルクリーニングを行った後、窒素(N2)ガスを窒素源として、ECRプラズマを用いてこの基板の表面〔酸化ガリウム単結晶の(100)面〕を窒化処理した。このECRプラズマにおける窒化処理の条件は、マイクロ波パワー200W、窒素流量10sccm、酸化ガリウム単結晶の温度(基板温度)750℃、処理時間60分である。
【0035】
上記で窒化処理した基板について、その表面の窒化ガリウムの[111]軸方位より電子線を入射して得た反射高速電子回折(RHEED)パターンを図2に示す。図2の(a)、(b)に示すようにいずれもスポット状のパターンが観察され、これらのパターンから、いずれも<100>配向した窒化ガリウムであることが分かる。すなわち、窒化処理後の酸化ガリウム単結晶の表面には立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層が形成されたことが確認された。また、この窒化ガリウム層の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)によって測定したところ、0.2nmと極めて平坦であることが確認された。AFM測定の結果を図3に示す。図3(a)は6μm×6μmの表面粗さ分布(2次元)を示し、図3(b)は上記(a)の3次元分布表示を示す。上記RHEEDパターンの結果とあわせて考えれば、原子レベルで平坦化された酸化ガリウム単結晶をECRプラズマで窒化処理することにより、酸化ガリウム単結晶の表層部に平坦でかつ均一な立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層が形成されて、酸化ガリウム複合体基板が得られたことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法によって得られる酸化ガリウム単結晶複合体は、酸化ガリウム単結晶の表層部に立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層を有するため、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、及びこれらの混晶等から形成されるIII族窒化物半導体膜を成長させる基板として適しており、得られる窒化物半導体膜は六方晶系の結晶構造の混入が可及的に低減された高品質の立方晶系の窒化物半導体膜とすることができる。特に、基板とエピタキシャル層との格子不整合が可及的に低減される点から、立方晶GaN膜の成長に好適である。これらの窒化物半導体膜は、LED、LD等の光学的用途や、各種トランジスタ、センサー等に応用が可能である。更には、次世代エレクトロニクスに不可欠な超高周波・高出力動作のトランジスタ用基板、及び次世代の窒化物半導体レーザとして期待される青色面発光レーザや青色量子ドットレーザ等の光デバイス用基板等にも適している。本発明によれば、このような用途を有するIII族窒化物半導体膜を高品質で成長させることができる酸化ガリウム単結晶複合体を簡便に得ることができ、しかも、比較的容易に得られる酸化ガリウム単結晶を用いているためコストを抑えることができる。そのため、本発明は工業的にも極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、実施例1に係る酸化ガリウム単結晶の表面の反射高速電子回折(RHEED)パターンである。(a-1)及び(a-2)は化学的機械研磨により得られた酸化ガリウム単結晶のRHEEDパターンであり、(b-1)及び(b-2)は手研磨により得られた酸化ガリウム単結晶のRHEEDパターンである。
【図2】図2は、実施例1に係る酸化ガリウム単結晶複合体の表面の反射高速電子回折(RHEED)パターンであり、(a)及び(b)は得られた代表的な2つのパターンを示す。
【図3】図3は、実施例1に係る酸化ガリウム単結晶複合体の窒化ガリウム層のAFM測定写真であり、(a)は6μm×6μmの表面粗さ分布(2次元)を示し、(b)は上記(a)の3次元分布表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム単結晶からなる基板の表層部に窒化ガリウム層を有する酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法であって、上記基板の表面を化学的機械研磨し、当該表面をECRプラズマ又はRFプラズマにより励起された窒素プラズマで窒化処理して、基板の表層部に立方晶窒化ガリウムからなる窒化ガリウム層を形成することを特徴とする酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法。
【請求項2】
窒化ガリウム層が、実質的に<100>配向した立方晶窒化ガリウムからなる請求項1に記載の酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法。
【請求項3】
窒化ガリウム層の膜厚が1nm以上である請求項1又は2に記載の酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法。
【請求項4】
酸化ガリウム単結晶からなる基板の表面が、酸化ガリウム単結晶の(100)面である請求項1〜3のいずれかに記載の酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法。
【請求項5】
窒化処理に先駆けて、化学的機械研磨した表面にフッ化水素(HF)を用いたHF処理及び/又はH2O:H2SO4:H22=1:(3〜4):1の体積比で混合した溶液を用いたエッチャント処理を施し、当該処理した表面を加熱するサーマルクリーニングを行う請求項1〜4のいずれかに記載の酸化ガリウム単結晶複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により得た酸化ガリウム単結晶複合体の表面に、窒化物半導体膜を成長させることを特徴とする窒化物半導体膜の製造方法。
【請求項7】
窒素(N2)ガスを用いたRF−MBE法により窒化物半導体膜を成長させる請求項6に記載の窒化物半導体膜の製造方法。
【請求項8】
窒化物半導体膜が窒化ガリウム膜である請求項6又は7に記載の窒化物半導体膜の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−137727(P2007−137727A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334950(P2005−334950)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】