酸化ガリウム基板とその製造方法
【課題】チッピングやクラック、剥離等を無くした、酸化ガリウム基板の提供と、酸化ガリウム基板の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化ガリウム基板16の(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面15に対しても90±5度で交わり、さらに主面15の中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、主面15の周縁部に形成された第1のオリエンテーションフラット14を形成し、更に酸化ガリウム基板16の主面15の中心点を対称点にして第2のオリエンテーションフラット17を他方の主面周縁に形成し、酸化ガリウム基板16の直径をWD、第1のオリエンテーションフラット14と第2のオリエンテーションフラット17のそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、OLを0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定して、酸化ガリウム基板16を作製する。
【解決手段】酸化ガリウム基板16の(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面15に対しても90±5度で交わり、さらに主面15の中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、主面15の周縁部に形成された第1のオリエンテーションフラット14を形成し、更に酸化ガリウム基板16の主面15の中心点を対称点にして第2のオリエンテーションフラット17を他方の主面周縁に形成し、酸化ガリウム基板16の直径をWD、第1のオリエンテーションフラット14と第2のオリエンテーションフラット17のそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、OLを0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定して、酸化ガリウム基板16を作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ガリウム基板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザダイオード(LD:Laser Diode)等の発光素子を含む各種半導体素子は、炭化ケイ素(SiC)やサファイア(Al2O3)等で作製される基板上に所定の半導体膜を成長させることによって製造される。
【0003】
SiCを用いる発光素子として、SiC単結晶基板上にn型及びp型のGaN層を積層した発光素子が知られている。この発光素子は、SiC単結晶基板上にn型GaN層及びp型GaN層を形成し、劈開を利用したダイシング加工により複数に切り出すことによって、製造される。
【0004】
一方、Al2O3を用いて発光素子を作製する場合、Al2O3単結晶基板上にバッファ層を介してn型GaN層を数μm形成し、その後にInを含有するGaN層を含んだ発光層を形成する。
【0005】
多くの発光素子には、GaNをはじめとして、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)等の窒化物半導体が用いられている。従来は、SiCやAl2O3から製造される基板上に窒化物半導体膜を成長させていたため、基板材料と窒化物半導体膜との間に格子定数のミスマッチ(以下、ミスマッチと表記)が発生し、成長により作製された窒化物半導体膜の中に欠陥や転位等が発生していた。そのため良質な窒化物半導体膜を作製することは困難であった。
【0006】
Al2O3とGaNの間には16%のミスマッチが存在するため、基板上にGaN層を直接成長させることは困難であり、成長させたとしても結晶性の良好なGaN層は得られない。
【0007】
一方、SiCとGaN間のミスマッチは理論上は3.4%と言われている。しかしSiCでは、3C、4H、6H、15R等の多くの相が存在し、単相のSiC製基板を得ることは困難である。またSiCは硬度が非常に高く加工性が悪いことから、基板の平坦加工が困難であり、原子スケールで見た場合、基板表面に相の異なる多数のステップが発現してしまう。その基板の上にGaN層を成長させると、多結晶性や欠陥密度の異なるGaN層が成長することになる。このようにSiCの場合、一つの基板上において無数の質の異なる核が成長し、結果としてそれらが合わさる形でGaN層が成長するので、GaN層の品質向上は極めて困難である。このような理由のため、SiCとGaNの実際のミスマッチはAl2O3とGaNの場合に比べると小さいものの、それでも約6%と大きいのが現状であった。
【0008】
このようにAl2O3とGaNとの間またはSiCとGaNとの間には大きなミスマッチが存在するため、SiCやAl2O3からなる基板の上にまず、AlNやAlGaNで構成される低温バッファ層と呼ばれるバッファ層を堆積し、そのバッファ層の上にGaN層を高温で成長させなければならなかった。
【0009】
そこでSiCやAl2O3に代わる基板材料として、酸化ガリウムが考案されている(例えば、特許文献1を参照)。酸化ガリウム単結晶を基板材料に用い、その基板の表面を窒化処理してGaN層を形成することにより、SiCやAl2O3製の基板と比べて、ミスマッチを低減させることが出来る。更に酸化ガリウム(β-Ga2O3)単結晶は単相であり且つ原子スケールに於いても平坦であるため、SiCで見られるような大きなミスマッチは見られない。
【0010】
更に酸化ガリウム単結晶は、可視領域から紫外領域の波長の光を透過する無色透明の導電体なので、GaNの発光領域の全波長範囲、特に紫外領域での利用が可能になると他に、バルク単結晶が製造できるという特長がある。また例えば6H-SiCの場合、バンドギャップは3.03eVであるので約427nm以下の波長域においては不透明である。GaNの発光領域は約550〜380nmであることを考慮すると、SiCで利用できる波長範囲はその約2/3である。それに対してβ-Ga2O3の場合、約260nmまで透過するので、GaNの発光領域の全波長範囲、特に紫外領域での利用が可能になる。
【0011】
まとめると、酸化ガリウム単結晶は青色発光素子材としてバルク状の単結晶作製が可能であり、且つ前記の通り導電性であり、発光領域で光透過性を有し、GaN層とのミスマッチも小さい。従って、酸化ガリウム単結晶はSiCやAl2O3が有する問題を解決することも可能である。
【0012】
また酸化ガリウム単結晶は、4.8eVのワイドバンドギャップを有して可視領域透明であると共に、結晶中に酸素欠損が生ずることでn型半導体としての挙動を示すため、垂直構造型の発光素子を得ることが出来る等、Al2O3基板等とは異なる素子開発の可能性も備えている。
【0013】
このような酸化ガリウム単結晶の製造方法の一例として、EFG(Edge-defined Film-fed Growth)法が考案されている。EFG法とは、鉛直方向に伸びるスリットを有するダイの下部側を坩堝内の酸化ガリウム融液中に浸漬した状態で、毛細管現象により融液をスリット下部側の開口部から上部側の開口部へと吸い上げて、スリット上部側の開口部に到達した融液に種結晶を接触させた後に、この種結晶を鉛直方向に引き上げることで、酸化ガリウム単結晶(以下、必要に応じて単結晶と表記)を結晶成長させる方法である。
【0014】
作製された単結晶から、円形平板状の酸化ガリウム単結晶を切り出すことで、酸化ガリウム基板が作製される。
【0015】
前記種結晶は、酸化ガリウム融液に接触する面(結晶成長面)が所定の面となるように種結晶保持具に取り付けられている。なお種結晶の結晶成長面は、例えば特許文献2に依れば(001)面(以下、(001)などと表記)が最も好ましいとされる。その理由は種結晶の(001)を結晶成長面とし、種結晶のc軸を引き上げ方向として、EFG法により(100)を結晶成長の主面とする単結晶を製造すると、酸化ガリウム単結晶の(100)及び(001)の劈開性を弱くできるためとしている。酸化ガリウム単結晶の(100)及び(001)の劈開性が弱くなれば、LED製造工程における切削等の加工性が向上し、酸化ガリウム基板及びLEDの量産性を高めることが可能となる。
【0016】
種結晶の(001)を結晶成長面に設定して、スリットの開口に到達している酸化ガリウム融液に接触させた後、融液の温度を降下させると接触部分の融液が結晶化する。この状態で一定の上昇速度で種結晶を前記の通りc軸方向、即ち鉛直方向に引き上げると、(100)が垂直に立った単結晶が得られる。
【0017】
更に、GaN膜と酸化ガリウム基板との間に良好な接合界面が形成されるため、酸化ガリウム単結晶の(100)に所定の前処理を行った上で、化学機械研磨を施すことで、原子レベルで平坦化された鏡面状態の表面を形成させることが可能となる。特に、発光素子の高機能化や高密度化が進むにつれて、更に原子レベルで平坦な基板が求められるようになっている。
【0018】
前記の通り、EFG法において前記c軸方向に単結晶を結晶成長させると、(100)が垂直に立った単結晶が得られるので、成長面に対してほぼ垂直方向な面を主面とするように酸化ガリウム基板を切り出すと、基板の主面は(100)となる。しかし前記特許文献2のような酸化ガリウム単結晶の製造方法が開示されているにも関わらず、酸化ガリウム単結晶を円抜き加工する際には、依然として(100)を劈開面とした強い劈開性を示し、 (100)である基板主面の全面に亘って、チッピングやクラック、剥離等が生じていた。特に(100)は、酸化ガリウム単結晶の劈開面が主面に対し平行であるので、円抜き加工する際に極めて劈開し易く、(100)を主面とすると主面全面でチッピングやクラック、剥離等(以下、必要に応じて欠陥と表記)が発生し易かった。このため、(100)を主面とした円形の酸化ガリウム基板を、欠陥を発生させることなく製造することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2004−056098号公報
【特許文献2】特開2006−312571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
そこで(100)を除く面を、円形の酸化ガリウム基板の主面とすることにより、主面全面での欠陥の発生を防止する案が考えられ得る。(100)を除く面としては、劈開面(100)が主面に対して斜め、もしくは垂直に交わる面であり、具体的には(101)、(110)、(111)が挙げられる。
【0021】
本発明者等が、(101)、(110)、(111)を基板の主面に設定して円形の酸化ガリウム基板を作成し欠陥有無を確認したところ、主面全面での欠陥発生は防止された。しかしながら、図12に示すように、円形の酸化ガリウム基板100の主面101の中心点を対称点にして、主面101の一部である、主面周縁のおおよそ点対称な位置(ハッチングで示す領域)に、欠陥が発生してしまうことが、本発明者等の研究により判明した。このように、欠陥の無い酸化ガリウム基板を提供することは極めて困難であった。
【0022】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、チッピングやクラック、剥離等が無い酸化ガリウム基板と、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的は以下の本発明により達成される。即ち、
(1)本発明の酸化ガリウム基板は、(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面に対しても90±5度で交わり、さらに主面の中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、主面の周縁部に形成された第1のオリエンテーションフラットを有し、
更に第2のオリエンテーションフラットを有し、
酸化ガリウム基板の主面の中心点を対称点にして、第2のオリエンテーションフラットが、第1のオリエンテーションフラットと点対称に配置されるように他方の主面周縁に形成され、
酸化ガリウム基板の直径をWD、第1のオリエンテーションフラットと第2のオリエンテーションフラットのそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、
OLが0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定されることを特徴とする。
【0024】
(2)本発明の酸化ガリウム基板の一実施形態は、前記OLが0.003×前記WD以上0.067×前記WD以下の範囲に設定されることが好ましい。
【0025】
(3)また、本発明の酸化ガリウム基板の製造方法は、
酸化ガリウム単結晶を作製し、
次に、酸化ガリウム単結晶の(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面に対しても90±5度で交わり、更に形成予定の酸化ガリウム基板の主面中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、第1のオリエンテーションフラットを主面の周縁部に形成し、
更に酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にして、第2のオリエンテーションフラットを、第1のオリエンテーションフラットと点対称に配置されるように他方の主面周縁に形成し、
次に、第1のオリエンテーションフラット及び第2のオリエンテーションフラットが残存するように酸化ガリウム単結晶を円抜き加工し、
酸化ガリウム基板の直径をWD、第1のオリエンテーションフラットと第2のオリエンテーションフラットのそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、
OLが0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲となるように酸化ガリウム基板を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明請求項1記載の発明(即ち、前記(1)の発明)に依れば、酸化ガリウム基板のチッピングやクラック、剥離等を無くすことが可能となる。
【0027】
更に、チッピングやクラック、剥離等と云った欠陥を酸化ガリウム基板から効率的に除去することもでき、オリエンテーションフラットにより除去される基板部分の面積を小さくすることが可能となり、単結晶からの酸化ガリウム基板の作製もより高効率化することが出来る。
【0028】
更に、本発明請求項2記載の発明(即ち、前記(2)の発明)に依れば、同じ直径の酸化ガリウム基板の場合、オリエンテーションフラットにより除去される基板部分をより小さくすることが可能となる。従って、酸化ガリウム単結晶からの酸化ガリウム基板の取り代が拡大するので、効率良く酸化ガリウム基板を作製することが出来る。
【0029】
また、本発明請求項3記載の発明(即ち、前記(3)の発明)に依れば、酸化ガリウム単結晶での欠陥の発生及び欠陥の拡大を防止することが可能となる。従って、酸化ガリウム基板での欠陥の発現箇所の奥行きを小さく出来る。更に、同じ直径の酸化ガリウム基板の場合、オリエンテーションフラットにより除去される基板部分を小さくすることが可能となる。従って、単結晶からの酸化ガリウム基板の取り代が拡大するので、効率良く酸化ガリウム基板を作製することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】EFG法による酸化ガリウム単結晶の製造方法の一例の育成炉を説明する、模式断面図である。
【図2】EFG法による酸化ガリウム単結晶の製造方法説明図である。
【図3】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の一例を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の一例を示す平面図である。
【図5】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の一例を示す平面図及び側面図である。
【図6】β-Ga2O3結晶面の一例を示す立体図である。
【図7】β-Ga2O3結晶面の他の例を示す立体図である。
【図8】β-Ga2O3結晶面の更に他の例を示す立体図である。
【図9】(101)、(110)、(111)の何れかを主面とする酸化ガリウム基板の欠陥発生箇所の領域を示す平面模式図である。
【図10】実施例2の酸化ガリウム基板を示す平面写真である。
【図11】比較例の酸化ガリウム基板を示す平面写真である。
【図12】(101)、(110)、(111)の何れかを主面とする酸化ガリウム基板の欠陥発生箇所を示す平面模式図である。
【図13】酸化ガリウム基板の劈開面に対して、切断加工時の圧力の加わる角度φを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図1〜図8を参照して、本発明に係る酸化ガリウム基板を詳細に説明する。図3〜図5より、本実施形態の酸化ガリウム基板16は、第1のオリエンテーションフラット14(以下、オリフラ14)を有する。更に図3及び図5(b)よりオリフラ14は、(100)に対して90度に交わるように形成されており、且つ、(100)を除く面で構成される主面15に対しても90度に交わるように形成されることを特徴とする。なお図5(b)は、図5(a)の本実施形態に係る酸化ガリウム基板の平面図を、DO方向((100)と主面に平行な方向に対して垂直な方向であり、且つ主面15内にある方向)から見た酸化ガリウム基板の側面図である。
【0032】
本発明に於ける酸化ガリウム基板の主面とは、(100)を除いて如何なる面であっても良いものと定義する。酸化ガリウム単結晶(以下、必要に応じて単結晶と表記)の劈開面(100)が、主面に対して斜め、或いは垂直に交わる面を選択することが、劈開による欠けや割れの防止という点から好ましく、具体例としては、(101)、(110)、または(111)を主面15として選択することが好ましい。
【0033】
酸化ガリウム単結晶を成長させ、その単結晶から酸化ガリウム基板16を製造した場合は、(100)を劈開面とした劈開性が強くなる。従って、本発明に於いては、(100)は主面には含まないものとする。なお本実施形態の酸化ガリウム基板に於いては、単結晶の成長方向としてb軸方向を例に取り説明する。
【0034】
なお、オリフラ14と(100)及び主面との交差角度の許容範囲は、90±5度以内に設定する。また図4及び図5(a)より、主面15の中心点を通る法線(図示しない)を回転軸とした場合のオリフラ14の回転角度の許容誤差は、±5度までと設定する。
【0035】
なお酸化ガリウム基板16は、β-Ga2O3単結晶基板が最も好ましい。β-Ga2O3単結晶は導電性を有するので、電極構造が垂直型の発光素子(LED)を作製することが可能となる。その結果、発光素子全体に電流を流すことが出来ることから、電流密度を低くすることが可能となる。従って発光素子の寿命を長くすることが出来る。
【0036】
更にβ-Ga2O3単結晶はn型導電性を有し、比抵抗は室温で0.1Ω・cm程度の値が得られる。また、発光素子として用いる温度範囲においてβ-Ga2O3単結晶は比抵抗の温度変化が小さいため、発光素子としての安定性が得られる。
【0037】
更に、β-Ga2O3単結晶は単相であり且つ原子スケールで平坦であるため、GaNとの間に大きな格子定数のミスマッチが見られない。また、バンドギャップの観点においては、β-Ga2O3単結晶の場合、約260nmまで透過するので、GaNの発光領域の全波長範囲、特に紫外領域での利用が可能となる。
【0038】
図6〜図8は、β-Ga2O3単結晶の結晶面を示す立体図であり、図6は(100)と(101)をそれぞれハッチングで示し、図7は(100)と(110)をそれぞれハッチングで示し、図8は(100)と(111)をそれぞれハッチングで示している。β-Ga2O3単斜晶は、α=γ=90度、β=103.8度で、a軸格子定数(a0)=12.2Å、b軸格子定数(b0)=3.0Å、c軸格子定数(c0)=5.8Åで形成されている。図6〜図8より、オリフラ14は、(100)に対して90度(但し、±5度の許容誤差あり)で交わり、且つ、(100)を除く面で構成される主面15((101)、(110)、または(111))に対しても90度(但し、±5度の許容誤差あり)で交わるものとする。
【0039】
なお、本発明の酸化ガリウム単結晶とは、純粋な酸化ガリウム単結晶以外に、ドーパントを含む酸化ガリウム単結晶や、酸化ガリウム単結晶を構成するGa元素の一部が他の元素に置換された酸化ガリウム単結晶も含む。なおドーパントとしては、例えばCu、Zr、 Ag、Zn、Cd、Al、In、Si、Ge及びSnからなる群から選ばれる1種以上が挙げられ、その添加濃度は0ppmを超え10000ppm以下の範囲とされ、上限値は1000ppm以下が好ましい。また、Ga元素と置換される他の元素としては、例えば、Al、In、Zn、Mg、Cu、 Zr等が挙げられ、その置換率はmol%で、0mol%を超え50mol%以下の範囲内とされ、上限値は、40mol%以下が好ましい。
【0040】
更に、周縁部にオリフラ14が形成されている主面15の他方の周縁に、第2のオリエンテーションフラット17(以下、オリフラ17)が形成される。なお、主面15の他方の周縁とは、オリフラ14が形成されている主面15の周縁に対して、円形の酸化ガリウム基板を想定した場合の主面15の中心点を対称点にした、点対称の位置に配置される他方の周縁部分を意味する。従って、オリフラ17は主面15の中心点を対称点にして、オリフラ14と点対称に形成される、ということになる。
【0041】
図4におけるオリフラ14またはオリフラ17の、それぞれの長さOXとしては、SEMI規格におけるオリフラの長さを満たすため、酸化ガリウム基板16の直径WD(図4参照)の10%以上は必須である。更に本実施形態においては、酸化ガリウム基板16の直径をWD、オリフラ14とオリフラ17のそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、OLが0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲となるように設定するものとする。本発明では、オリフラ14又はオリフラ17の奥行きOLとは、図4に示すようにオリフラ14及びオリフラ17を形成する前の円形の酸化ガリウム基板の主面周縁から、主面15の中心点までを結ぶ直径方向の直線上における、欠陥が無くなるまでオリフラ14又はオリフラ17として削除される寸法であり、且つオリフラ14又はオリフラ17の法線方向の寸法と定義する。更に、前記「直径方向」とは、円形の酸化ガリウム基板の主面周縁から、オリフラを設ける主面周縁部から主面15の中心点までを結ぶ直線方向と定義する。図3〜図5では、オリフラ14とオリフラ17のそれぞれの長さOXが、同一の場合の酸化ガリウム基板を図示している。
【0042】
更にオリフラ14又はオリフラ17の奥行きOLは、0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲まで縮小可能である。前述より0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲と設定していたOLが、何故0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲まで縮小可能となるかの理由については、後述する。なお、オリフラ14又はオリフラ17の奥行きOLは、0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲、または0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲内で、異なるように設定しても良い。
【0043】
次に、本実施形態に係る酸化ガリウム基板の製造方法を説明する。本実施形態に係る酸化ガリウム単結晶の製造方法の一例として、EFG法が挙げられる。図1は、EFG法で用いられる酸化ガリウム単結晶の製造装置の構造を示す模式断面図である。なお、結晶成長方法としては、坩堝内で溶融された融液に種結晶を接触させることにより、融液から酸化ガリウム単結晶を結晶成長させる方法により実施されるのであれば特に制限されない。
【0044】
図1に示すように、酸化ガリウム単結晶の製造装置1の内部には、酸化ガリウム単結晶の原料としての融液2を受容する坩堝3が配置されている。原料としては、少なくともガリウムを含み、かつ、溶融工程において原料を溶融した際に酸化ガリウムを含む融液が得られるものであることが必須要件である。また、製造しようとする酸化ガリウム単結晶の純度、組成に応じて、ガリウム以外の金属元素やその化合物が原料に含まれていても良い。出発原料の材料組成の具体例としては、酸化ガリウムや炭酸ガリウムなどのようなガリウムの酸化物や塩類、これらの水和物、および、これらの混合物などが挙げられる。
【0045】
また原料の形態としては、粉末状、インゴット状、インゴットを粗く破砕した破砕物状等の何れかの形態でも良い。
【0046】
坩堝3は有底円筒状に形成されて支持台4上に載置されており、その底面の温度を熱電対7によって測定されている。坩堝3は融液2を受容できるように、耐熱性を有する金属材料、例えばイリジウム(Ir)により形成され、図示しない原料投入部により坩堝3内に必量な量の原料が投入される。
【0047】
更に、坩堝3内にはダイ5が配置されている。ダイ5は例えば略直方体状に形成され、その下端から上端(開口5B)に延びる1つまたは複数のスリット5Aが設けられている。例えば図1では、ダイ5はその厚さ方向の中央に1つのスリット5Aが設けられている。
【0048】
スリット5Aは、ダイ5のほぼ全幅に亘ってダイ5の厚さ方向に所定の間隔のスリット幅を有するように設けられている。このスリット5Aは、融液2を毛細管現象によってダイ5の下端からスリット5Aの開口5Bに上昇させる役割を有する。
【0049】
更に、坩堝3の上面には蓋6が配置されている。蓋6は、ダイ5を除く坩堝3の上面を閉塞する形状に形成されている。このため、坩堝3の上面に蓋6が配置された状態では、スリット5Aの開口5Bを除く坩堝3の上面は閉塞される(図2参照)。このように、蓋6は坩堝3から高温の融液2が蒸発することを防止し、更にスリット5Aの上面以外に融液2の蒸気が付着することを抑制する。
【0050】
また、坩堝3を包囲するように設けられた断熱材8の周囲には、例えば、高周波コイルからなるヒータ部9が配置される。このヒータ部9により坩堝3が所定の温度に加熱され、坩堝3内の原料が溶融して融液2が得られる(溶融工程)。更に、断熱材8は、坩堝3と所定の間隔を有するように配置されており、ヒータ部9により加熱される坩堝3周辺の保温性を高める役割をもつ。
【0051】
坩堝3内に収容される原料は、坩堝3の温度上昇に基づいて溶融(原料メルト)し、融液2となる。この融液2の一部は、ダイ5のスリット5Aに侵入し、前記のように毛細管現象に基づいてスリット5A内を上昇し開口5Bから露出する。
【0052】
また、スリット5Aの上方には、種結晶10を保持する種結晶保持具11が配置されている。種結晶保持具11は、種結晶保持具11(種結晶10)を昇降可能に支持するシャフト12に接続されている。そしてシャフト12により種結晶保持具11を降下させて、種結晶10を開口5Bから露出した融液2に接触させた後に融液2を降温させることで、接触部分の融液が結晶化して酸化ガリウム単結晶13の結晶成長が開始される。
【0053】
続いて種結晶保持具11を所定の上昇速度で引き上げる。具体的には、まずシャフト12により種結晶保持具11を高速で上昇させながら細いネック部を作製(ネッキング)する。次に、種結晶保持具11の上昇速度を所定の速度に設定し、種結晶10を中心に酸化ガリウム単結晶13をダイ5の幅方向に拡幅するように結晶成長させる(スプレディング)。酸化ガリウム単結晶13が、ダイ5の全幅まで拡幅すると(フルスプレッド)、ダイ5の全幅と同程度の幅を有する平板状の酸化ガリウム単結晶13が育成される(直胴工程)。
【0054】
続いて、ダイ5の全幅と同程度の幅を有する平板状の酸化ガリウム単結晶13を、適切な長さ(直胴長さ)引き上げる。直胴長さは特に限定されない。
【0055】
次に、シャフト12を制御して種結晶保持具11の上昇速度を上げ、酸化ガリウム単結晶13を融液2から切り離すとともに、ヒータ部9を制御して坩堝3の温度を降下させて加熱を終了する。これにより所定の大きさの酸化ガリウム単結晶13が製造される。
【0056】
酸化ガリウム単結晶は、充分に温度降下したことを確認後、例えば電着ダイヤモンドコアドリル等により円抜き加工を施して円形基板状に切り出す。ここでは、板状の単結晶から主面周縁に沿って円形基板を切り出すことを、円抜き加工と定義する。次に、例えばスライシングマシン等により前記のようなオリフラ14及び17を、酸化ガリウム基板の一枚毎に形成して酸化ガリウム基板を作製する。
【0057】
更に、作製した酸化ガリウム単結晶の片面を主面とし、少なくともその片面に研磨加工等を施して、主面を平坦化する。
【0058】
前記単結晶から、円抜き加工を施して平面形状が円形の酸化ガリウム基板を切り出す際に、前記図9に示すように円形の酸化ガリウム基板(以下、説明の便宜上、円形の酸化ガリウム基板も適宜、酸化ガリウム基板16と表す)の主面15の周縁に、二箇所ハッチングで示すように欠陥が発生することを、本発明者等は確認した。欠陥は、チッピングやクラック、又は剥離等である。更に、図9に模式的に示すように、欠陥は円形の酸化ガリウム基板16の主面15の中心点を対称点にして、主面15周縁のおおよそ点対称な二箇所の位置に発生することも本発明者等は観察の結果、確認した。
【0059】
なぜ、主面15の周縁のおおよそ点対称な位置に欠陥が発生するのか、その原因を本発明者等は検討した。検討の結果、円形の酸化ガリウム基板16を結晶育成した単結晶から切り出す際の、単結晶への切削工具の刃の進入角度と、単結晶の劈開面の角度との関係が、欠陥発生の原因であるとの結論を本発明者等は導き出した。切削工具の刃が単結晶へ進入する際に、単結晶を劈開面の方向に押し付ける切削加工の圧力、もしくは単結晶を劈開面の方向に剥がす切削加工の圧力が加わる場合に、円形の酸化ガリウム基板16は剥がれ易くなり、チッピングやクラック、剥離等が発生し易くなることを見出した。
【0060】
主面15に於いては、酸化ガリウム基板16を円抜き加工する際に、劈開面18が剥がれ易くなる箇所は、図13に模式的に示すようにφで-50度〜50度となった。即ちこの角度φの範囲においては、単結晶を劈開面の方向に押し付ける切削加工の圧力、もしくは単化粧を劈開面の方向に剥がす切削加工の圧力が加わることで、チッピングやクラック、剥離等が発生し易くなる、との規則性を本発明者等は見出した。本発明者等によるこの結論は、円形の酸化ガリウム基板16の観察結果と良く一致することも、本発明者等は確認した。
【0061】
更に本発明者等が検討を重ねた結果、図9に示すように欠陥の発現箇所の奥行きOLは、前記円抜き加工と、オリフラ(14及び17)形成加工の、工程順序により変わることも確認された。前述のように、円抜き加工を先に行い、次にオリフラ形成加工を行った場合の欠陥箇所の奥行きOLを本発明者等が観察した結果、酸化ガリウム基板16の直径をWDと表すと、前記奥行きOLは少なくとも0.003×WD以下では必ず発生し、最大で0.181×WDであった。従って、オリフラ形成加工により欠陥箇所を全て取り除くためには、前記規則性に則って主面15の周縁の2箇所にオリフラ14、17を設けると共に、各オリフラ14、17の奥行きOLを0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定して、オリフラ14、17を形成することで欠陥箇所を除去する必要性があることを、本発明者等は見出し、本発明を完成させるに至った。
【0062】
さらにオリフラ14は、(100)に対して90度(但し、±5度の許容誤差あり)で交わり、且つ(100)を除く面で構成される主面15に対しても90度(但し、±5度の許容範囲あり)で交わるように、かつ、円形の主面の中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で形成すると共に、主面15の中心点を対称点にした、オリフラ14に対して点対称の位置にオリフラ17を形成し、オリフラ17とオリフラ14のそれぞれの奥行きOLを0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定することにより、チッピングやクラック、剥離等を無くした酸化ガリウム基板を作製することが可能となる。
【0063】
更に、前記規則性に則って2つのオリフラ14、17を設けると、オリフラ14、17により円形の酸化ガリウム基板から除去される面積も小さくすることが可能となり、単結晶からの酸化ガリウム基板16の作製もより高効率化することが出来る。
【0064】
一方、オリフラ形成加工を先に行い、次にオリフラ14、17が残存するように円抜き加工を行って酸化ガリウム基板を作製した場合、欠陥を除去するために必要なオリフラの奥行きOLを比較的小さく出来ることを、本発明者等は確認した。この場合の酸化ガリウム基板の製造方法の工程は次のようになる。まず酸化ガリウム単結晶を成長させて作製し、次に、単結晶の(100)に対して90度で交わり、且つ(100)を除く面で構成される主面に対しても90度で交わるようにオリフラ14を単結晶に形成する。更に、形成予定である酸化ガリウム基板の主面中心点を通る法線を回転軸にして、回転角度にして±5度の誤差内でオリフラ14を主面の周縁部に形成する。更に、形成予定である酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にして、オリフラ17が、オリフラ14と点対称に配置されるように他方の主面周縁となる位置の単結晶に形成される。
【0065】
次にオリフラ14及びオリフラ17が残存するように単結晶を円抜き加工する。酸化ガリウム基板16の直径をWDと表すと、前記奥行きOLが少なくとも0.003×WD以下では必ず欠陥が発生し、OLが大きくなるにつれて欠陥の生じる頻度は減少し、OLが0.067×WDよりも大きくなると、欠陥は生じなくなった。オリフラ形成加工を円抜き加工よりも先に行った場合に、欠陥を除去するために必要なオリフラの奥行きOLが小さくなった理由として、前記規則性に則って発現する欠陥発現箇所を、予めオリフラ形成加工により除去しているためと本発明者等は結論付けた。欠陥発現箇所が除去された後に円抜き加工が行われても、欠陥発現箇所は既に存在しないため、酸化ガリウム単結晶での欠陥の発生及び欠陥の拡大を防止することが可能となる。従って、酸化ガリウム基板16での欠陥を除去するために必要なオリフラの奥行きOLを比較的小さく出来るとの効果を呈すと結論付けられる。
【0066】
これにより、各オリフラ14、17の奥行きOLを、比較的短い0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲に設定可能となる。従って、同じ直径の酸化ガリウム基板の場合、オリフラ14、17により除去される基板部分を小さくすることが可能となる為、その分、単結晶からの酸化ガリウム基板16の取り代を拡大させ、効率良く酸化ガリウム基板16を作製することが出来る。
【0067】
このようにして得られた酸化ガリウム基板16は、例えば発光素子のエピタキシャル成長用基板として用いられる他、新たな酸化ガリウム単結晶を成長させるための種結晶として使用することが出来る。
【0068】
以下に、実施例1及び2を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例1、2にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0069】
−出発原料、溶融工程、及び結晶成長工程−
酸化ガリウム単結晶の製造方法として、EFG法を採用すると共に、出発原料として酸化ガリウム粉末を用いた。次に、Ir製の坩堝内に、ダイ(坩堝内における体積40cm3)を配置した後、出発原料を充填した坩堝を高周波加熱式の育成炉内に配置し、坩堝を1800℃程度に加熱して出発原料を溶融した。その後、スリットの上側開口部に上昇してきた融液に種結晶を接触させ、b軸方向に引き上げることで、幅50mm、厚み3mm、直胴結晶長さ50mmの板状の酸化ガリウム単結晶を結晶成長させた。
【0070】
単結晶から酸化ガリウム基板を作製して実施例1とした。酸化ガリウム基板の直径WDは1インチ(25.4mm)と設定した。オリフラ形成加工はスライシングマシンで行い、酸化ガリウム基板の円抜き加工は電着ダイヤモンドコアドリルで行った。また、単結晶から円抜き加工して円板を切り出し、次に、酸化ガリウム円板の主面周縁に2箇所、オリフラ部分を設けることで、実施例1の酸化ガリウム基板を作製した。
【0071】
また、実施例1の主面は(101)とした。2つのオリフラの奥行きOLは4.5mmで統一し、(100)及び主面に対する、オリフラの交差角度は90度(但し、許容範囲を±5度とする)と設定し、主面の中心点を通る法線を回転軸とした場合のオリフラの回転角度の許容誤差は、±5度に設定した。
【比較例】
【0072】
オリフラを酸化ガリウム基板に形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして酸化ガリウム基板を作製した。
【0073】
<評価>
実施例1及び比較例について、剥離、クラック、割れの有無及び発現度合いを評価した。結果を表1に示す。なお、剥離、クラック、割れの評価は、目視により確認可能な欠陥は目視で行い、目視で確認不可能な微小な欠陥は光学顕微鏡により行った。
【0074】
【表1】
【0075】
表1の結果から、実施例1においては主面周縁で欠陥が全く認められず、基板全体でも欠陥は認められなかった。一方、比較例においては、実施例1においてオリフラを設けた箇所に相当する、主面周縁の2箇所に欠陥の発現が確認された。比較例において欠陥が発現した2箇所とは、酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にした、点対称位置にある2箇所の主面周縁部であった。
【0076】
以上の結果から、1インチの酸化ガリウム基板に於いては、オリフラを2箇所設け、互いのオリフラは、(100)に対して90度で交わり、且つ(100)を除く面で構成される主面に対しても90度で交わるように形成し、2つのオリフラの奥行きOLを4.5mmに設定することにより、欠陥を生じなくなることが確認された。
【実施例2】
【0077】
−出発原料、溶融工程、及び結晶成長工程−
実施例1と同様に酸化ガリウム基板を作製して実施例2としたが、円抜き加工とオリフラ形成加工の工程順序を実施例1とは逆にした。即ち、単結晶に2箇所オリフラ部分を予め設け、次にオリフラ部分を設けた単結晶から円形に平板を円抜き加工して切り出すことで、実施例2の酸化ガリウム基板を作製した。
【0078】
また、実施例2の主面は(101)で実施例1と同様に設定したものの、実施例2における2つのオリフラの奥行きOLを1.7mmで統一し、(100)及び主面に対する、オリフラの交差角度は90度(但し、許容範囲を±5度とする)と設定し、主面の中心点を通る法線を回転軸とした場合のオリフラの回転角度の許容誤差は、±5度に設定した。
【0079】
実施例1の比較例を、実施例2の比較例にも用いることとした。
【0080】
<評価>
実施例2及び比較例について、剥離、クラック、割れの有無及び発現度合いを評価した。結果を表2に示す。なお、剥離、クラック、割れの評価は、目視により確認可能な欠陥は目視で行い、目視で確認不可能な微小な欠陥は光学顕微鏡により行った。
【0081】
【表2】
【0082】
表2及び図10の結果から、実施例2においては主面周縁で欠陥が全く認められず、基板全体でも欠陥は認められなかった。一方、比較例においては、図11に示すように、実施例2においてオリフラを設けた箇所に相当する、主面周縁の2箇所に欠陥の発現が確認された。比較例において欠陥が発現した2箇所とは、酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にした、点対称に位置にある2箇所の主面周縁部であった。
【0083】
以上の結果から、1インチの酸化ガリウム基板に於いては、オリフラを2箇所設け、互いのオリフラは、(100)に対して90度で交わり、且つ(100)を除く面で構成される主面に対しても90度で交わるように形成し、2つのオリフラの奥行きOLを1.7mmに設定することにより、欠陥を生じなくなることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1 育成炉
2 酸化ガリウムを含む融液
3 坩堝
4 支持台
5 ダイ
5A スリット
5B 開口部
6 蓋
7 熱電対
8 断熱材
9 ヒータ部
10 種結晶
11 種結晶保持具
12 シャフト
13 酸化ガリウム単結晶
14 第1のオリエンテーションフラット
15 主面
16 酸化ガリウム基板
17 第2のオリエンテーションフラット
18 劈開面
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ガリウム基板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザダイオード(LD:Laser Diode)等の発光素子を含む各種半導体素子は、炭化ケイ素(SiC)やサファイア(Al2O3)等で作製される基板上に所定の半導体膜を成長させることによって製造される。
【0003】
SiCを用いる発光素子として、SiC単結晶基板上にn型及びp型のGaN層を積層した発光素子が知られている。この発光素子は、SiC単結晶基板上にn型GaN層及びp型GaN層を形成し、劈開を利用したダイシング加工により複数に切り出すことによって、製造される。
【0004】
一方、Al2O3を用いて発光素子を作製する場合、Al2O3単結晶基板上にバッファ層を介してn型GaN層を数μm形成し、その後にInを含有するGaN層を含んだ発光層を形成する。
【0005】
多くの発光素子には、GaNをはじめとして、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)等の窒化物半導体が用いられている。従来は、SiCやAl2O3から製造される基板上に窒化物半導体膜を成長させていたため、基板材料と窒化物半導体膜との間に格子定数のミスマッチ(以下、ミスマッチと表記)が発生し、成長により作製された窒化物半導体膜の中に欠陥や転位等が発生していた。そのため良質な窒化物半導体膜を作製することは困難であった。
【0006】
Al2O3とGaNの間には16%のミスマッチが存在するため、基板上にGaN層を直接成長させることは困難であり、成長させたとしても結晶性の良好なGaN層は得られない。
【0007】
一方、SiCとGaN間のミスマッチは理論上は3.4%と言われている。しかしSiCでは、3C、4H、6H、15R等の多くの相が存在し、単相のSiC製基板を得ることは困難である。またSiCは硬度が非常に高く加工性が悪いことから、基板の平坦加工が困難であり、原子スケールで見た場合、基板表面に相の異なる多数のステップが発現してしまう。その基板の上にGaN層を成長させると、多結晶性や欠陥密度の異なるGaN層が成長することになる。このようにSiCの場合、一つの基板上において無数の質の異なる核が成長し、結果としてそれらが合わさる形でGaN層が成長するので、GaN層の品質向上は極めて困難である。このような理由のため、SiCとGaNの実際のミスマッチはAl2O3とGaNの場合に比べると小さいものの、それでも約6%と大きいのが現状であった。
【0008】
このようにAl2O3とGaNとの間またはSiCとGaNとの間には大きなミスマッチが存在するため、SiCやAl2O3からなる基板の上にまず、AlNやAlGaNで構成される低温バッファ層と呼ばれるバッファ層を堆積し、そのバッファ層の上にGaN層を高温で成長させなければならなかった。
【0009】
そこでSiCやAl2O3に代わる基板材料として、酸化ガリウムが考案されている(例えば、特許文献1を参照)。酸化ガリウム単結晶を基板材料に用い、その基板の表面を窒化処理してGaN層を形成することにより、SiCやAl2O3製の基板と比べて、ミスマッチを低減させることが出来る。更に酸化ガリウム(β-Ga2O3)単結晶は単相であり且つ原子スケールに於いても平坦であるため、SiCで見られるような大きなミスマッチは見られない。
【0010】
更に酸化ガリウム単結晶は、可視領域から紫外領域の波長の光を透過する無色透明の導電体なので、GaNの発光領域の全波長範囲、特に紫外領域での利用が可能になると他に、バルク単結晶が製造できるという特長がある。また例えば6H-SiCの場合、バンドギャップは3.03eVであるので約427nm以下の波長域においては不透明である。GaNの発光領域は約550〜380nmであることを考慮すると、SiCで利用できる波長範囲はその約2/3である。それに対してβ-Ga2O3の場合、約260nmまで透過するので、GaNの発光領域の全波長範囲、特に紫外領域での利用が可能になる。
【0011】
まとめると、酸化ガリウム単結晶は青色発光素子材としてバルク状の単結晶作製が可能であり、且つ前記の通り導電性であり、発光領域で光透過性を有し、GaN層とのミスマッチも小さい。従って、酸化ガリウム単結晶はSiCやAl2O3が有する問題を解決することも可能である。
【0012】
また酸化ガリウム単結晶は、4.8eVのワイドバンドギャップを有して可視領域透明であると共に、結晶中に酸素欠損が生ずることでn型半導体としての挙動を示すため、垂直構造型の発光素子を得ることが出来る等、Al2O3基板等とは異なる素子開発の可能性も備えている。
【0013】
このような酸化ガリウム単結晶の製造方法の一例として、EFG(Edge-defined Film-fed Growth)法が考案されている。EFG法とは、鉛直方向に伸びるスリットを有するダイの下部側を坩堝内の酸化ガリウム融液中に浸漬した状態で、毛細管現象により融液をスリット下部側の開口部から上部側の開口部へと吸い上げて、スリット上部側の開口部に到達した融液に種結晶を接触させた後に、この種結晶を鉛直方向に引き上げることで、酸化ガリウム単結晶(以下、必要に応じて単結晶と表記)を結晶成長させる方法である。
【0014】
作製された単結晶から、円形平板状の酸化ガリウム単結晶を切り出すことで、酸化ガリウム基板が作製される。
【0015】
前記種結晶は、酸化ガリウム融液に接触する面(結晶成長面)が所定の面となるように種結晶保持具に取り付けられている。なお種結晶の結晶成長面は、例えば特許文献2に依れば(001)面(以下、(001)などと表記)が最も好ましいとされる。その理由は種結晶の(001)を結晶成長面とし、種結晶のc軸を引き上げ方向として、EFG法により(100)を結晶成長の主面とする単結晶を製造すると、酸化ガリウム単結晶の(100)及び(001)の劈開性を弱くできるためとしている。酸化ガリウム単結晶の(100)及び(001)の劈開性が弱くなれば、LED製造工程における切削等の加工性が向上し、酸化ガリウム基板及びLEDの量産性を高めることが可能となる。
【0016】
種結晶の(001)を結晶成長面に設定して、スリットの開口に到達している酸化ガリウム融液に接触させた後、融液の温度を降下させると接触部分の融液が結晶化する。この状態で一定の上昇速度で種結晶を前記の通りc軸方向、即ち鉛直方向に引き上げると、(100)が垂直に立った単結晶が得られる。
【0017】
更に、GaN膜と酸化ガリウム基板との間に良好な接合界面が形成されるため、酸化ガリウム単結晶の(100)に所定の前処理を行った上で、化学機械研磨を施すことで、原子レベルで平坦化された鏡面状態の表面を形成させることが可能となる。特に、発光素子の高機能化や高密度化が進むにつれて、更に原子レベルで平坦な基板が求められるようになっている。
【0018】
前記の通り、EFG法において前記c軸方向に単結晶を結晶成長させると、(100)が垂直に立った単結晶が得られるので、成長面に対してほぼ垂直方向な面を主面とするように酸化ガリウム基板を切り出すと、基板の主面は(100)となる。しかし前記特許文献2のような酸化ガリウム単結晶の製造方法が開示されているにも関わらず、酸化ガリウム単結晶を円抜き加工する際には、依然として(100)を劈開面とした強い劈開性を示し、 (100)である基板主面の全面に亘って、チッピングやクラック、剥離等が生じていた。特に(100)は、酸化ガリウム単結晶の劈開面が主面に対し平行であるので、円抜き加工する際に極めて劈開し易く、(100)を主面とすると主面全面でチッピングやクラック、剥離等(以下、必要に応じて欠陥と表記)が発生し易かった。このため、(100)を主面とした円形の酸化ガリウム基板を、欠陥を発生させることなく製造することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2004−056098号公報
【特許文献2】特開2006−312571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
そこで(100)を除く面を、円形の酸化ガリウム基板の主面とすることにより、主面全面での欠陥の発生を防止する案が考えられ得る。(100)を除く面としては、劈開面(100)が主面に対して斜め、もしくは垂直に交わる面であり、具体的には(101)、(110)、(111)が挙げられる。
【0021】
本発明者等が、(101)、(110)、(111)を基板の主面に設定して円形の酸化ガリウム基板を作成し欠陥有無を確認したところ、主面全面での欠陥発生は防止された。しかしながら、図12に示すように、円形の酸化ガリウム基板100の主面101の中心点を対称点にして、主面101の一部である、主面周縁のおおよそ点対称な位置(ハッチングで示す領域)に、欠陥が発生してしまうことが、本発明者等の研究により判明した。このように、欠陥の無い酸化ガリウム基板を提供することは極めて困難であった。
【0022】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、チッピングやクラック、剥離等が無い酸化ガリウム基板と、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的は以下の本発明により達成される。即ち、
(1)本発明の酸化ガリウム基板は、(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面に対しても90±5度で交わり、さらに主面の中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、主面の周縁部に形成された第1のオリエンテーションフラットを有し、
更に第2のオリエンテーションフラットを有し、
酸化ガリウム基板の主面の中心点を対称点にして、第2のオリエンテーションフラットが、第1のオリエンテーションフラットと点対称に配置されるように他方の主面周縁に形成され、
酸化ガリウム基板の直径をWD、第1のオリエンテーションフラットと第2のオリエンテーションフラットのそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、
OLが0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定されることを特徴とする。
【0024】
(2)本発明の酸化ガリウム基板の一実施形態は、前記OLが0.003×前記WD以上0.067×前記WD以下の範囲に設定されることが好ましい。
【0025】
(3)また、本発明の酸化ガリウム基板の製造方法は、
酸化ガリウム単結晶を作製し、
次に、酸化ガリウム単結晶の(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面に対しても90±5度で交わり、更に形成予定の酸化ガリウム基板の主面中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、第1のオリエンテーションフラットを主面の周縁部に形成し、
更に酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にして、第2のオリエンテーションフラットを、第1のオリエンテーションフラットと点対称に配置されるように他方の主面周縁に形成し、
次に、第1のオリエンテーションフラット及び第2のオリエンテーションフラットが残存するように酸化ガリウム単結晶を円抜き加工し、
酸化ガリウム基板の直径をWD、第1のオリエンテーションフラットと第2のオリエンテーションフラットのそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、
OLが0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲となるように酸化ガリウム基板を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明請求項1記載の発明(即ち、前記(1)の発明)に依れば、酸化ガリウム基板のチッピングやクラック、剥離等を無くすことが可能となる。
【0027】
更に、チッピングやクラック、剥離等と云った欠陥を酸化ガリウム基板から効率的に除去することもでき、オリエンテーションフラットにより除去される基板部分の面積を小さくすることが可能となり、単結晶からの酸化ガリウム基板の作製もより高効率化することが出来る。
【0028】
更に、本発明請求項2記載の発明(即ち、前記(2)の発明)に依れば、同じ直径の酸化ガリウム基板の場合、オリエンテーションフラットにより除去される基板部分をより小さくすることが可能となる。従って、酸化ガリウム単結晶からの酸化ガリウム基板の取り代が拡大するので、効率良く酸化ガリウム基板を作製することが出来る。
【0029】
また、本発明請求項3記載の発明(即ち、前記(3)の発明)に依れば、酸化ガリウム単結晶での欠陥の発生及び欠陥の拡大を防止することが可能となる。従って、酸化ガリウム基板での欠陥の発現箇所の奥行きを小さく出来る。更に、同じ直径の酸化ガリウム基板の場合、オリエンテーションフラットにより除去される基板部分を小さくすることが可能となる。従って、単結晶からの酸化ガリウム基板の取り代が拡大するので、効率良く酸化ガリウム基板を作製することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】EFG法による酸化ガリウム単結晶の製造方法の一例の育成炉を説明する、模式断面図である。
【図2】EFG法による酸化ガリウム単結晶の製造方法説明図である。
【図3】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の一例を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の一例を示す平面図である。
【図5】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の一例を示す平面図及び側面図である。
【図6】β-Ga2O3結晶面の一例を示す立体図である。
【図7】β-Ga2O3結晶面の他の例を示す立体図である。
【図8】β-Ga2O3結晶面の更に他の例を示す立体図である。
【図9】(101)、(110)、(111)の何れかを主面とする酸化ガリウム基板の欠陥発生箇所の領域を示す平面模式図である。
【図10】実施例2の酸化ガリウム基板を示す平面写真である。
【図11】比較例の酸化ガリウム基板を示す平面写真である。
【図12】(101)、(110)、(111)の何れかを主面とする酸化ガリウム基板の欠陥発生箇所を示す平面模式図である。
【図13】酸化ガリウム基板の劈開面に対して、切断加工時の圧力の加わる角度φを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図1〜図8を参照して、本発明に係る酸化ガリウム基板を詳細に説明する。図3〜図5より、本実施形態の酸化ガリウム基板16は、第1のオリエンテーションフラット14(以下、オリフラ14)を有する。更に図3及び図5(b)よりオリフラ14は、(100)に対して90度に交わるように形成されており、且つ、(100)を除く面で構成される主面15に対しても90度に交わるように形成されることを特徴とする。なお図5(b)は、図5(a)の本実施形態に係る酸化ガリウム基板の平面図を、DO方向((100)と主面に平行な方向に対して垂直な方向であり、且つ主面15内にある方向)から見た酸化ガリウム基板の側面図である。
【0032】
本発明に於ける酸化ガリウム基板の主面とは、(100)を除いて如何なる面であっても良いものと定義する。酸化ガリウム単結晶(以下、必要に応じて単結晶と表記)の劈開面(100)が、主面に対して斜め、或いは垂直に交わる面を選択することが、劈開による欠けや割れの防止という点から好ましく、具体例としては、(101)、(110)、または(111)を主面15として選択することが好ましい。
【0033】
酸化ガリウム単結晶を成長させ、その単結晶から酸化ガリウム基板16を製造した場合は、(100)を劈開面とした劈開性が強くなる。従って、本発明に於いては、(100)は主面には含まないものとする。なお本実施形態の酸化ガリウム基板に於いては、単結晶の成長方向としてb軸方向を例に取り説明する。
【0034】
なお、オリフラ14と(100)及び主面との交差角度の許容範囲は、90±5度以内に設定する。また図4及び図5(a)より、主面15の中心点を通る法線(図示しない)を回転軸とした場合のオリフラ14の回転角度の許容誤差は、±5度までと設定する。
【0035】
なお酸化ガリウム基板16は、β-Ga2O3単結晶基板が最も好ましい。β-Ga2O3単結晶は導電性を有するので、電極構造が垂直型の発光素子(LED)を作製することが可能となる。その結果、発光素子全体に電流を流すことが出来ることから、電流密度を低くすることが可能となる。従って発光素子の寿命を長くすることが出来る。
【0036】
更にβ-Ga2O3単結晶はn型導電性を有し、比抵抗は室温で0.1Ω・cm程度の値が得られる。また、発光素子として用いる温度範囲においてβ-Ga2O3単結晶は比抵抗の温度変化が小さいため、発光素子としての安定性が得られる。
【0037】
更に、β-Ga2O3単結晶は単相であり且つ原子スケールで平坦であるため、GaNとの間に大きな格子定数のミスマッチが見られない。また、バンドギャップの観点においては、β-Ga2O3単結晶の場合、約260nmまで透過するので、GaNの発光領域の全波長範囲、特に紫外領域での利用が可能となる。
【0038】
図6〜図8は、β-Ga2O3単結晶の結晶面を示す立体図であり、図6は(100)と(101)をそれぞれハッチングで示し、図7は(100)と(110)をそれぞれハッチングで示し、図8は(100)と(111)をそれぞれハッチングで示している。β-Ga2O3単斜晶は、α=γ=90度、β=103.8度で、a軸格子定数(a0)=12.2Å、b軸格子定数(b0)=3.0Å、c軸格子定数(c0)=5.8Åで形成されている。図6〜図8より、オリフラ14は、(100)に対して90度(但し、±5度の許容誤差あり)で交わり、且つ、(100)を除く面で構成される主面15((101)、(110)、または(111))に対しても90度(但し、±5度の許容誤差あり)で交わるものとする。
【0039】
なお、本発明の酸化ガリウム単結晶とは、純粋な酸化ガリウム単結晶以外に、ドーパントを含む酸化ガリウム単結晶や、酸化ガリウム単結晶を構成するGa元素の一部が他の元素に置換された酸化ガリウム単結晶も含む。なおドーパントとしては、例えばCu、Zr、 Ag、Zn、Cd、Al、In、Si、Ge及びSnからなる群から選ばれる1種以上が挙げられ、その添加濃度は0ppmを超え10000ppm以下の範囲とされ、上限値は1000ppm以下が好ましい。また、Ga元素と置換される他の元素としては、例えば、Al、In、Zn、Mg、Cu、 Zr等が挙げられ、その置換率はmol%で、0mol%を超え50mol%以下の範囲内とされ、上限値は、40mol%以下が好ましい。
【0040】
更に、周縁部にオリフラ14が形成されている主面15の他方の周縁に、第2のオリエンテーションフラット17(以下、オリフラ17)が形成される。なお、主面15の他方の周縁とは、オリフラ14が形成されている主面15の周縁に対して、円形の酸化ガリウム基板を想定した場合の主面15の中心点を対称点にした、点対称の位置に配置される他方の周縁部分を意味する。従って、オリフラ17は主面15の中心点を対称点にして、オリフラ14と点対称に形成される、ということになる。
【0041】
図4におけるオリフラ14またはオリフラ17の、それぞれの長さOXとしては、SEMI規格におけるオリフラの長さを満たすため、酸化ガリウム基板16の直径WD(図4参照)の10%以上は必須である。更に本実施形態においては、酸化ガリウム基板16の直径をWD、オリフラ14とオリフラ17のそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、OLが0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲となるように設定するものとする。本発明では、オリフラ14又はオリフラ17の奥行きOLとは、図4に示すようにオリフラ14及びオリフラ17を形成する前の円形の酸化ガリウム基板の主面周縁から、主面15の中心点までを結ぶ直径方向の直線上における、欠陥が無くなるまでオリフラ14又はオリフラ17として削除される寸法であり、且つオリフラ14又はオリフラ17の法線方向の寸法と定義する。更に、前記「直径方向」とは、円形の酸化ガリウム基板の主面周縁から、オリフラを設ける主面周縁部から主面15の中心点までを結ぶ直線方向と定義する。図3〜図5では、オリフラ14とオリフラ17のそれぞれの長さOXが、同一の場合の酸化ガリウム基板を図示している。
【0042】
更にオリフラ14又はオリフラ17の奥行きOLは、0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲まで縮小可能である。前述より0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲と設定していたOLが、何故0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲まで縮小可能となるかの理由については、後述する。なお、オリフラ14又はオリフラ17の奥行きOLは、0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲、または0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲内で、異なるように設定しても良い。
【0043】
次に、本実施形態に係る酸化ガリウム基板の製造方法を説明する。本実施形態に係る酸化ガリウム単結晶の製造方法の一例として、EFG法が挙げられる。図1は、EFG法で用いられる酸化ガリウム単結晶の製造装置の構造を示す模式断面図である。なお、結晶成長方法としては、坩堝内で溶融された融液に種結晶を接触させることにより、融液から酸化ガリウム単結晶を結晶成長させる方法により実施されるのであれば特に制限されない。
【0044】
図1に示すように、酸化ガリウム単結晶の製造装置1の内部には、酸化ガリウム単結晶の原料としての融液2を受容する坩堝3が配置されている。原料としては、少なくともガリウムを含み、かつ、溶融工程において原料を溶融した際に酸化ガリウムを含む融液が得られるものであることが必須要件である。また、製造しようとする酸化ガリウム単結晶の純度、組成に応じて、ガリウム以外の金属元素やその化合物が原料に含まれていても良い。出発原料の材料組成の具体例としては、酸化ガリウムや炭酸ガリウムなどのようなガリウムの酸化物や塩類、これらの水和物、および、これらの混合物などが挙げられる。
【0045】
また原料の形態としては、粉末状、インゴット状、インゴットを粗く破砕した破砕物状等の何れかの形態でも良い。
【0046】
坩堝3は有底円筒状に形成されて支持台4上に載置されており、その底面の温度を熱電対7によって測定されている。坩堝3は融液2を受容できるように、耐熱性を有する金属材料、例えばイリジウム(Ir)により形成され、図示しない原料投入部により坩堝3内に必量な量の原料が投入される。
【0047】
更に、坩堝3内にはダイ5が配置されている。ダイ5は例えば略直方体状に形成され、その下端から上端(開口5B)に延びる1つまたは複数のスリット5Aが設けられている。例えば図1では、ダイ5はその厚さ方向の中央に1つのスリット5Aが設けられている。
【0048】
スリット5Aは、ダイ5のほぼ全幅に亘ってダイ5の厚さ方向に所定の間隔のスリット幅を有するように設けられている。このスリット5Aは、融液2を毛細管現象によってダイ5の下端からスリット5Aの開口5Bに上昇させる役割を有する。
【0049】
更に、坩堝3の上面には蓋6が配置されている。蓋6は、ダイ5を除く坩堝3の上面を閉塞する形状に形成されている。このため、坩堝3の上面に蓋6が配置された状態では、スリット5Aの開口5Bを除く坩堝3の上面は閉塞される(図2参照)。このように、蓋6は坩堝3から高温の融液2が蒸発することを防止し、更にスリット5Aの上面以外に融液2の蒸気が付着することを抑制する。
【0050】
また、坩堝3を包囲するように設けられた断熱材8の周囲には、例えば、高周波コイルからなるヒータ部9が配置される。このヒータ部9により坩堝3が所定の温度に加熱され、坩堝3内の原料が溶融して融液2が得られる(溶融工程)。更に、断熱材8は、坩堝3と所定の間隔を有するように配置されており、ヒータ部9により加熱される坩堝3周辺の保温性を高める役割をもつ。
【0051】
坩堝3内に収容される原料は、坩堝3の温度上昇に基づいて溶融(原料メルト)し、融液2となる。この融液2の一部は、ダイ5のスリット5Aに侵入し、前記のように毛細管現象に基づいてスリット5A内を上昇し開口5Bから露出する。
【0052】
また、スリット5Aの上方には、種結晶10を保持する種結晶保持具11が配置されている。種結晶保持具11は、種結晶保持具11(種結晶10)を昇降可能に支持するシャフト12に接続されている。そしてシャフト12により種結晶保持具11を降下させて、種結晶10を開口5Bから露出した融液2に接触させた後に融液2を降温させることで、接触部分の融液が結晶化して酸化ガリウム単結晶13の結晶成長が開始される。
【0053】
続いて種結晶保持具11を所定の上昇速度で引き上げる。具体的には、まずシャフト12により種結晶保持具11を高速で上昇させながら細いネック部を作製(ネッキング)する。次に、種結晶保持具11の上昇速度を所定の速度に設定し、種結晶10を中心に酸化ガリウム単結晶13をダイ5の幅方向に拡幅するように結晶成長させる(スプレディング)。酸化ガリウム単結晶13が、ダイ5の全幅まで拡幅すると(フルスプレッド)、ダイ5の全幅と同程度の幅を有する平板状の酸化ガリウム単結晶13が育成される(直胴工程)。
【0054】
続いて、ダイ5の全幅と同程度の幅を有する平板状の酸化ガリウム単結晶13を、適切な長さ(直胴長さ)引き上げる。直胴長さは特に限定されない。
【0055】
次に、シャフト12を制御して種結晶保持具11の上昇速度を上げ、酸化ガリウム単結晶13を融液2から切り離すとともに、ヒータ部9を制御して坩堝3の温度を降下させて加熱を終了する。これにより所定の大きさの酸化ガリウム単結晶13が製造される。
【0056】
酸化ガリウム単結晶は、充分に温度降下したことを確認後、例えば電着ダイヤモンドコアドリル等により円抜き加工を施して円形基板状に切り出す。ここでは、板状の単結晶から主面周縁に沿って円形基板を切り出すことを、円抜き加工と定義する。次に、例えばスライシングマシン等により前記のようなオリフラ14及び17を、酸化ガリウム基板の一枚毎に形成して酸化ガリウム基板を作製する。
【0057】
更に、作製した酸化ガリウム単結晶の片面を主面とし、少なくともその片面に研磨加工等を施して、主面を平坦化する。
【0058】
前記単結晶から、円抜き加工を施して平面形状が円形の酸化ガリウム基板を切り出す際に、前記図9に示すように円形の酸化ガリウム基板(以下、説明の便宜上、円形の酸化ガリウム基板も適宜、酸化ガリウム基板16と表す)の主面15の周縁に、二箇所ハッチングで示すように欠陥が発生することを、本発明者等は確認した。欠陥は、チッピングやクラック、又は剥離等である。更に、図9に模式的に示すように、欠陥は円形の酸化ガリウム基板16の主面15の中心点を対称点にして、主面15周縁のおおよそ点対称な二箇所の位置に発生することも本発明者等は観察の結果、確認した。
【0059】
なぜ、主面15の周縁のおおよそ点対称な位置に欠陥が発生するのか、その原因を本発明者等は検討した。検討の結果、円形の酸化ガリウム基板16を結晶育成した単結晶から切り出す際の、単結晶への切削工具の刃の進入角度と、単結晶の劈開面の角度との関係が、欠陥発生の原因であるとの結論を本発明者等は導き出した。切削工具の刃が単結晶へ進入する際に、単結晶を劈開面の方向に押し付ける切削加工の圧力、もしくは単結晶を劈開面の方向に剥がす切削加工の圧力が加わる場合に、円形の酸化ガリウム基板16は剥がれ易くなり、チッピングやクラック、剥離等が発生し易くなることを見出した。
【0060】
主面15に於いては、酸化ガリウム基板16を円抜き加工する際に、劈開面18が剥がれ易くなる箇所は、図13に模式的に示すようにφで-50度〜50度となった。即ちこの角度φの範囲においては、単結晶を劈開面の方向に押し付ける切削加工の圧力、もしくは単化粧を劈開面の方向に剥がす切削加工の圧力が加わることで、チッピングやクラック、剥離等が発生し易くなる、との規則性を本発明者等は見出した。本発明者等によるこの結論は、円形の酸化ガリウム基板16の観察結果と良く一致することも、本発明者等は確認した。
【0061】
更に本発明者等が検討を重ねた結果、図9に示すように欠陥の発現箇所の奥行きOLは、前記円抜き加工と、オリフラ(14及び17)形成加工の、工程順序により変わることも確認された。前述のように、円抜き加工を先に行い、次にオリフラ形成加工を行った場合の欠陥箇所の奥行きOLを本発明者等が観察した結果、酸化ガリウム基板16の直径をWDと表すと、前記奥行きOLは少なくとも0.003×WD以下では必ず発生し、最大で0.181×WDであった。従って、オリフラ形成加工により欠陥箇所を全て取り除くためには、前記規則性に則って主面15の周縁の2箇所にオリフラ14、17を設けると共に、各オリフラ14、17の奥行きOLを0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定して、オリフラ14、17を形成することで欠陥箇所を除去する必要性があることを、本発明者等は見出し、本発明を完成させるに至った。
【0062】
さらにオリフラ14は、(100)に対して90度(但し、±5度の許容誤差あり)で交わり、且つ(100)を除く面で構成される主面15に対しても90度(但し、±5度の許容範囲あり)で交わるように、かつ、円形の主面の中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で形成すると共に、主面15の中心点を対称点にした、オリフラ14に対して点対称の位置にオリフラ17を形成し、オリフラ17とオリフラ14のそれぞれの奥行きOLを0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定することにより、チッピングやクラック、剥離等を無くした酸化ガリウム基板を作製することが可能となる。
【0063】
更に、前記規則性に則って2つのオリフラ14、17を設けると、オリフラ14、17により円形の酸化ガリウム基板から除去される面積も小さくすることが可能となり、単結晶からの酸化ガリウム基板16の作製もより高効率化することが出来る。
【0064】
一方、オリフラ形成加工を先に行い、次にオリフラ14、17が残存するように円抜き加工を行って酸化ガリウム基板を作製した場合、欠陥を除去するために必要なオリフラの奥行きOLを比較的小さく出来ることを、本発明者等は確認した。この場合の酸化ガリウム基板の製造方法の工程は次のようになる。まず酸化ガリウム単結晶を成長させて作製し、次に、単結晶の(100)に対して90度で交わり、且つ(100)を除く面で構成される主面に対しても90度で交わるようにオリフラ14を単結晶に形成する。更に、形成予定である酸化ガリウム基板の主面中心点を通る法線を回転軸にして、回転角度にして±5度の誤差内でオリフラ14を主面の周縁部に形成する。更に、形成予定である酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にして、オリフラ17が、オリフラ14と点対称に配置されるように他方の主面周縁となる位置の単結晶に形成される。
【0065】
次にオリフラ14及びオリフラ17が残存するように単結晶を円抜き加工する。酸化ガリウム基板16の直径をWDと表すと、前記奥行きOLが少なくとも0.003×WD以下では必ず欠陥が発生し、OLが大きくなるにつれて欠陥の生じる頻度は減少し、OLが0.067×WDよりも大きくなると、欠陥は生じなくなった。オリフラ形成加工を円抜き加工よりも先に行った場合に、欠陥を除去するために必要なオリフラの奥行きOLが小さくなった理由として、前記規則性に則って発現する欠陥発現箇所を、予めオリフラ形成加工により除去しているためと本発明者等は結論付けた。欠陥発現箇所が除去された後に円抜き加工が行われても、欠陥発現箇所は既に存在しないため、酸化ガリウム単結晶での欠陥の発生及び欠陥の拡大を防止することが可能となる。従って、酸化ガリウム基板16での欠陥を除去するために必要なオリフラの奥行きOLを比較的小さく出来るとの効果を呈すと結論付けられる。
【0066】
これにより、各オリフラ14、17の奥行きOLを、比較的短い0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲に設定可能となる。従って、同じ直径の酸化ガリウム基板の場合、オリフラ14、17により除去される基板部分を小さくすることが可能となる為、その分、単結晶からの酸化ガリウム基板16の取り代を拡大させ、効率良く酸化ガリウム基板16を作製することが出来る。
【0067】
このようにして得られた酸化ガリウム基板16は、例えば発光素子のエピタキシャル成長用基板として用いられる他、新たな酸化ガリウム単結晶を成長させるための種結晶として使用することが出来る。
【0068】
以下に、実施例1及び2を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例1、2にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0069】
−出発原料、溶融工程、及び結晶成長工程−
酸化ガリウム単結晶の製造方法として、EFG法を採用すると共に、出発原料として酸化ガリウム粉末を用いた。次に、Ir製の坩堝内に、ダイ(坩堝内における体積40cm3)を配置した後、出発原料を充填した坩堝を高周波加熱式の育成炉内に配置し、坩堝を1800℃程度に加熱して出発原料を溶融した。その後、スリットの上側開口部に上昇してきた融液に種結晶を接触させ、b軸方向に引き上げることで、幅50mm、厚み3mm、直胴結晶長さ50mmの板状の酸化ガリウム単結晶を結晶成長させた。
【0070】
単結晶から酸化ガリウム基板を作製して実施例1とした。酸化ガリウム基板の直径WDは1インチ(25.4mm)と設定した。オリフラ形成加工はスライシングマシンで行い、酸化ガリウム基板の円抜き加工は電着ダイヤモンドコアドリルで行った。また、単結晶から円抜き加工して円板を切り出し、次に、酸化ガリウム円板の主面周縁に2箇所、オリフラ部分を設けることで、実施例1の酸化ガリウム基板を作製した。
【0071】
また、実施例1の主面は(101)とした。2つのオリフラの奥行きOLは4.5mmで統一し、(100)及び主面に対する、オリフラの交差角度は90度(但し、許容範囲を±5度とする)と設定し、主面の中心点を通る法線を回転軸とした場合のオリフラの回転角度の許容誤差は、±5度に設定した。
【比較例】
【0072】
オリフラを酸化ガリウム基板に形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして酸化ガリウム基板を作製した。
【0073】
<評価>
実施例1及び比較例について、剥離、クラック、割れの有無及び発現度合いを評価した。結果を表1に示す。なお、剥離、クラック、割れの評価は、目視により確認可能な欠陥は目視で行い、目視で確認不可能な微小な欠陥は光学顕微鏡により行った。
【0074】
【表1】
【0075】
表1の結果から、実施例1においては主面周縁で欠陥が全く認められず、基板全体でも欠陥は認められなかった。一方、比較例においては、実施例1においてオリフラを設けた箇所に相当する、主面周縁の2箇所に欠陥の発現が確認された。比較例において欠陥が発現した2箇所とは、酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にした、点対称位置にある2箇所の主面周縁部であった。
【0076】
以上の結果から、1インチの酸化ガリウム基板に於いては、オリフラを2箇所設け、互いのオリフラは、(100)に対して90度で交わり、且つ(100)を除く面で構成される主面に対しても90度で交わるように形成し、2つのオリフラの奥行きOLを4.5mmに設定することにより、欠陥を生じなくなることが確認された。
【実施例2】
【0077】
−出発原料、溶融工程、及び結晶成長工程−
実施例1と同様に酸化ガリウム基板を作製して実施例2としたが、円抜き加工とオリフラ形成加工の工程順序を実施例1とは逆にした。即ち、単結晶に2箇所オリフラ部分を予め設け、次にオリフラ部分を設けた単結晶から円形に平板を円抜き加工して切り出すことで、実施例2の酸化ガリウム基板を作製した。
【0078】
また、実施例2の主面は(101)で実施例1と同様に設定したものの、実施例2における2つのオリフラの奥行きOLを1.7mmで統一し、(100)及び主面に対する、オリフラの交差角度は90度(但し、許容範囲を±5度とする)と設定し、主面の中心点を通る法線を回転軸とした場合のオリフラの回転角度の許容誤差は、±5度に設定した。
【0079】
実施例1の比較例を、実施例2の比較例にも用いることとした。
【0080】
<評価>
実施例2及び比較例について、剥離、クラック、割れの有無及び発現度合いを評価した。結果を表2に示す。なお、剥離、クラック、割れの評価は、目視により確認可能な欠陥は目視で行い、目視で確認不可能な微小な欠陥は光学顕微鏡により行った。
【0081】
【表2】
【0082】
表2及び図10の結果から、実施例2においては主面周縁で欠陥が全く認められず、基板全体でも欠陥は認められなかった。一方、比較例においては、図11に示すように、実施例2においてオリフラを設けた箇所に相当する、主面周縁の2箇所に欠陥の発現が確認された。比較例において欠陥が発現した2箇所とは、酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にした、点対称に位置にある2箇所の主面周縁部であった。
【0083】
以上の結果から、1インチの酸化ガリウム基板に於いては、オリフラを2箇所設け、互いのオリフラは、(100)に対して90度で交わり、且つ(100)を除く面で構成される主面に対しても90度で交わるように形成し、2つのオリフラの奥行きOLを1.7mmに設定することにより、欠陥を生じなくなることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1 育成炉
2 酸化ガリウムを含む融液
3 坩堝
4 支持台
5 ダイ
5A スリット
5B 開口部
6 蓋
7 熱電対
8 断熱材
9 ヒータ部
10 種結晶
11 種結晶保持具
12 シャフト
13 酸化ガリウム単結晶
14 第1のオリエンテーションフラット
15 主面
16 酸化ガリウム基板
17 第2のオリエンテーションフラット
18 劈開面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム基板は、
(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面に対しても90±5度で交わり、さらに主面の中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、主面の周縁部に形成された第1のオリエンテーションフラットを有し、
更に第2のオリエンテーションフラットを有し、
酸化ガリウム基板の主面の中心点を対称点にして、第2のオリエンテーションフラットが、第1のオリエンテーションフラットと点対称に配置されるように他方の主面周縁に形成され、
酸化ガリウム基板の直径をWD、第1のオリエンテーションフラットと第2のオリエンテーションフラットのそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、
OLが0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定される、酸化ガリウム基板。
【請求項2】
前記OLが0.003×前記WD以上0.067×前記WD以下の範囲に設定される、請求項1記載の酸化ガリウム基板。
【請求項3】
酸化ガリウム基板の製造方法は、
酸化ガリウム単結晶を作製し、
次に、酸化ガリウム単結晶の(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面に対しても90±5度で交わり、更に形成予定の酸化ガリウム基板の主面中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、第1のオリエンテーションフラットを主面の周縁部に形成し、
更に酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にして、第2のオリエンテーションフラットを、第1のオリエンテーションフラットと点対称に配置されるように他方の主面周縁に形成し、
次に、第1のオリエンテーションフラット及び第2のオリエンテーションフラットが残存するように酸化ガリウム単結晶を円抜き加工し、
酸化ガリウム基板の直径をWD、第1のオリエンテーションフラットと第2のオリエンテーションフラットのそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、
OLが0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲となるように酸化ガリウム基板を製造する、酸化ガリウム基板の製造方法。
【請求項1】
酸化ガリウム基板は、
(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面に対しても90±5度で交わり、さらに主面の中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、主面の周縁部に形成された第1のオリエンテーションフラットを有し、
更に第2のオリエンテーションフラットを有し、
酸化ガリウム基板の主面の中心点を対称点にして、第2のオリエンテーションフラットが、第1のオリエンテーションフラットと点対称に配置されるように他方の主面周縁に形成され、
酸化ガリウム基板の直径をWD、第1のオリエンテーションフラットと第2のオリエンテーションフラットのそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、
OLが0.003×WD以上0.181×WD以下の範囲に設定される、酸化ガリウム基板。
【請求項2】
前記OLが0.003×前記WD以上0.067×前記WD以下の範囲に設定される、請求項1記載の酸化ガリウム基板。
【請求項3】
酸化ガリウム基板の製造方法は、
酸化ガリウム単結晶を作製し、
次に、酸化ガリウム単結晶の(100)に対して90±5度で交わり、かつ(100)を除く面で構成される主面に対しても90±5度で交わり、更に形成予定の酸化ガリウム基板の主面中心点を通る法線を回転軸として、回転角度にして±5度の誤差内で、第1のオリエンテーションフラットを主面の周縁部に形成し、
更に酸化ガリウム基板の主面中心点を対称点にして、第2のオリエンテーションフラットを、第1のオリエンテーションフラットと点対称に配置されるように他方の主面周縁に形成し、
次に、第1のオリエンテーションフラット及び第2のオリエンテーションフラットが残存するように酸化ガリウム単結晶を円抜き加工し、
酸化ガリウム基板の直径をWD、第1のオリエンテーションフラットと第2のオリエンテーションフラットのそれぞれの直径方向における奥行きをOLと表したとき、
OLが0.003×WD以上0.067×WD以下の範囲となるように酸化ガリウム基板を製造する、酸化ガリウム基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−67524(P2013−67524A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205567(P2011−205567)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000240477)並木精密宝石株式会社 (210)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000240477)並木精密宝石株式会社 (210)
【Fターム(参考)】
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