説明

酸化ストレスに起因する疾病の予防改善用組成物及びその用途

【課題】酸化ストレスに起因する生活習慣病の予防改善用組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
牡蠣肉の加工処理物を有効成分を有効成分として含む経口摂取用組成物として利用する。主な有効成分としてオメガ3系高度不飽和脂肪酸、タウリンを含むことを特徴とし、該組成物はスーパーオキサイドアニオン消去能がIC50値として450μg以下/ml、且つヒドロキシルラジカル消去能がIC50値として300μg以下/ml、且つ一重項酸素消去能が200(50s−1)μg以下/mlの時、更に有効な効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、K値(%)が25.0%以下の牡蠣肉を出発原料とする加工処理物であって、全脂質含有量が5.0重量%以上20.0重量%以下であって、該加工処理物の全脂質中のエイコサペンタエン酸(以下、EPAと略記)、ドコサヘキサエン酸(以下、DHAと略記)等のオメガ3系脂肪酸類の合計が固形分換算で5.0重量%以上50.0重量%以下であって、且つ、該加工処理物中のタウリン含有量が固形物換算で5.0重量%以上20.0重量%以下であって、且つ、高いラジカル消去能を有することを特徴とする酸化ストレスに起因する疾病の予防改善用組成物、並びに、該組成物を固形物換算で少なくとも1.0重量%以上含むことを特徴とする飲食品に関する。
【0002】
換言すると、本発明は、食品であって、該食品の固形分100.0g当りの成分組成として、全脂質含有量が5.0g以上20.0g以下であって、固形分100.0g当りのEPA、DHA等のオメガ3系高度不飽和脂肪酸含有量合計が0.25g以上10.0g以下であって、且つ、タウリン含有量が5.0g以上20.0g以下であって、且つ、高いラジカル消去能を有することを特徴とする、酸化ストレス増大に起因する疾病の予防改善に有効な組成物、並びに、該組成物を固形物換算で少なくとも1.0重量%以上含むことを特徴とする飲食品であって、且つ、K値(%)が25.0%以下の牡蠣肉を出発原料とする加工処理物であることを特徴とする。
【背景技術】
【0003】
一般に、活性酸素種(以下、ROSと略記)と疾病との関係は広く認知されており、循環器系疾患、ガン、白内障、神経疾患、脳疾患、肝疾患、腎疾患の他、アレルギー、糖尿病などのいわゆる生活習慣病にも係っている。ROSが関係するこれらの疾病に対しては抗酸化物質の有効性が広く認められている。
【0004】
一方、牡蠣肉はEPA、DHA等のオメガ3系高度不飽和脂肪酸やタウリン等の機能性成分を著量含有していること、並びに、各種の生活習慣病に有効であることが古くから知られており、健康食品としてだけでなく漢方素材としても広く利用されている。
【0005】
本願においてはオメガ3系高度不飽和脂肪酸とはEPA及びDHAを指す。
【0006】
本願において固形分換算とは水分を一切含まない固形分あたりの数量に換算することを指す。
【0007】
タウリンは化学的定義に従えばカルボキシル基を持たないため、アミノ酸ではないとされているが、本願においては、分析的には液クロ法などでは遊離アミノ酸と同一の方法で定量される上、慣例的に遊離アミノ酸として理解されていることが多いため、本願ではあえて遊離アミノ酸の一種として扱う。
【0008】
その保健機能性は一般に牡蠣肉中のタウリン、グリコーゲン、亜鉛、カルシウム等のアミノ酸、ミネラル、ビタミン類に基づく可能性が示唆されている。
【0009】
牡蠣肉の加工処理物は、肝臓病(特許文献1)、高血圧(特許文献2)、糖尿病(特許文献3)等への予防改善法が提案されている。
【0010】
更に、酸化ストレス抑制に基づく上記生活習慣病の予防改善に寄与する成分として、オメガ3系高度不飽和脂肪酸並びにタウリン等の存在は広く公知となっている。
【0011】
しかしながら、食品としての牡蠣肉加工処理物自体の抗酸化的作用は知られておらず、酸化ストレスに起因する疾病の予防改善に有効に機能するために必要とされる該加工処理物のラジカル消去能の範囲も知られておらず、ゆえに、酸化ストレスに起因する疾病の予防改善に有効な該加工処理物の品質は省みられず、その利用は過去に試みられて来なかった。
【0012】
一方、食品としての品質向上や機能性向上を目的として、牡蠣肉エキスの抽出加工方法(特許文献4)、牡蠣肉エキスの分解、有効成分分画方法(特許文献5−7)等が公知となっている。
【0013】
しかし、糖尿病(特許文献3)、アルコール性脂肪性肝炎や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)等の肝臓病、腎臓病、アトピー性皮膚炎等の疾病に関し、食品としての牡蠣肉加工処理物による酸化ストレスの抑制を介して予防改善効果を果たすために必要とされる成分組成の特徴、即ち、オメガ3系高度不飽和脂肪酸含有量、並びに、タウリン含有量、並びに、ラジカル消去能の範囲は知られていなかった。
【0014】
係る背景下、保健機能性や安全性に優れ、且つ、牡蠣肉加工処理物を含む組成物並びにその用途が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−343236号公報
【特許文献2】特開2003−210191号公報
【特許文献3】特開2006−327996号公報
【特許文献4】特開2002−335908号公報
【特許文献5】特開2001−292741号公報
【特許文献6】特開2003−210191号公報
【特許文献7】特開2008−142032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記背景下にてなされたものであり、牡蠣肉の加工処理物に関し、コスト的に安価で安全性に優れ、酸化ストレスに起因する生活習慣病の予防改善に有効な各種ラジカル消去能の範囲と機能発現に必要な成分を有する組成物の割合を解明し、該組成物を含む飲食品組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ね、〔1〕牡蠣肉の加工処理物が高いラジカル消去能を発現するために必要な成分組成の解明、〔2〕該加工処理物の生理機能発揮に必要なラジカル消去能の範囲の解明〔3〕該加工処理物による酸化ストレス抑制と疾病の関連解明、に基づき本発明に至ったものであり、下記態様を有する。
【0018】
〔項1〕
K値(%)が25.0%以下の牡蠣肉を出発原料とする牡蠣肉の加工処理物であって、該加工処理物の全脂質含有量が固形分換算で5.0重量%以上20.0重量%以下であって、且つ、該加工処理物の全脂質中に占めるオメガ3系高度不飽和脂肪酸含有量合計が50重量%以上50.0重量%以下であって、且つ、該加工処理物中のタウリン含有量が固形物換算で5.0重量%以上20.0重量%以下であって、且つ、高いラジカル消去能を有することを特徴とする、酸化ストレス増大に起因する疾病の予防改善に有効な組成物の提供に関する。
【0019】
〔項2〕
牡蠣肉の加工処理物のスーパーオキサイドアニオン消去能がIC50として450μg/ml以下であって、
且つ、ヒドロキシルラジカル消去能がIC50として300μg/ml以下であって、且つ、一重項酸素消去能が200μg/ml以下(50s−1)であることを特徴とする請求項1記載の組成物の提供に関する。
【0020】
〔項3〕
酸化ストレス増大に起因する疾病が糖尿病であることを特徴とする項1記載の組成物の提供に関する。
【0021】
〔項4〕
酸化ストレス増大に起因する疾病が肝臓病であることを特徴とする項1記載の組成物の提供に関する。
【0022】
〔項5〕
前項記載の肝臓病がアルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする項1記載の組成物の提供に関する。
【0023】
〔項6〕
酸化ストレス増大に起因する疾病が腎臓病であることを特徴とする項1記載の組成物の提供に関する。
【0024】
〔項7〕
酸化ストレス増大に起因する疾病がアトピー性皮膚炎であることを特徴とする項1記載の組成物の提供に関する。
【0025】
〔項8〕
項1記載の組成物を固形物換算で少なくとも1.0重量%以上100.0重量%以下含むことを特徴とする飲食品の提供に関する。
【0026】
換言すると、本願は食品であって、該食品の固形分100.0g当りの成分組成として、全脂質含有量が5.0g以上20.0g以下であって、固形分100.0g当りのEPA、DHA等のオメガ3系高度不飽和脂肪酸含有量合計が0.25g以上10.0g以下であって、且つ、タウリン含有量が5.0g以上20.0g以下であって、且つ、高いラジカル消去能を有することを特徴とする、酸化ストレス増大に起因する疾病の予防改善に有効な組成物、並びに、該組成物を固形物換算で少なくとも1.0重量%以上含むことを特徴とする飲食品の提供に関し、且つ、K値(%)が25.0%以下の牡蠣肉を出発原料とすることを特徴とする牡蠣肉の加工処理物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、牡蠣肉の加工処理物を用いることにより、酸化ストレスの抑制に基づく生活習慣病の予防改善用組成物並びに該組成物を含有する飲食品の提供を実現し、従来同等品よりも安価かつ大量に供給可能となり、国民の健康に寄与し、産業的規模における実際的且つ安心、安全な新規保健機能性組成物の利用を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例5に記載の牡蠣肉のFD処理品の過酸化脂質産生抑制能測定結果を示す図である。
【図2】実施例6に記載の実験手順を示す図である。
【図3】実施例6記載の実験において、投与期間終了後犠牲死させたラットの血液の血液生化学的肝機能パラメータの変化を示す図である。
【図4】実施例6記載の実験において、投与期間終了後犠牲死させたラットの肝臓ミトコンドリアにおけるROS産生変化を示す図である。
【図5】実施例6記載の実験において、投与期間終了後犠牲死させたラットの肝臓組織の病理組織学的変化を観察した結果を示す写真の模写図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0030】
牡蠣は分類学上100種類以上存在する、とされているが、本発明において用いる牡蠣は、オメガ3脂肪酸含有量、タウリンの含有量等の成分組成、ラジカル消去能の高さから判断したとき、本願になる品質的条件を満足できる品種であれば全て利用可能である。しかし、本発明においては産業的に数量確保が可能でコスト的に有利な国産真牡蠣、Crassostrea gigas、の利用が好ましい。
【0031】
例えば、一般に冬季に水揚げされる上記真牡蠣の場合、水揚げの時期、場所によって品質は異なる。また、同一時期に同一場所から採取された牡蠣も個体差が大きいため、本願になる品質的要件を満足する牡蠣取得のためには慎重な選別が必要である。
【0032】
本発明においては、原料として用いる牡蠣に含まれるオメガ3脂肪酸含有量、タウリンの含有量等の成分組成、ラジカル消去能の高さが重要であり、同時に、産業的利用に必要な量の確保が可能であることが重要である。これらの要件は採集時期、地域など様々な条件によって変動するため、品質的要件が満足される限りにおいては、採集時期、産地等の制限はない。
【0033】
本発明において用いる牡蠣肉の加工処理物は経口的に摂取するときの味、香り、色調などの官能評価的品質の食品としての優秀さが重要である。原料牡蠣は水産物としての特性上、鮮度低下によって官能評価上の価値が低下する。また、オメガ3系高度不飽和脂肪酸の酸化も発生する。更に、鮮度低下に伴ってラジカル消去活性は本発明において要求される活性以下に低下し、所望の機能発揮が困難となる。従って、原料として用いる牡蠣は少なくとも食品として利用可能な鮮度であることが必要である。従って、鮮度の指標として例えば、高速液体クロマトグラフ法で出発原料となる牡蠣肉のK値(%)を測定したとき、25.0%以下であることが必要である。このとき、試料として用いる牡蠣の使用部位は閉殻筋が望ましい(小関聡美・北上誠一・加藤登・新井健一:東海大学紀要海洋学部、4(2),31−46(2006).参照)。本発明において牡蠣肉のK値(%)とは閉殻筋を用いたときの測定値を意味している。
【0034】
また、本発明において用いる原料牡蠣は鮮度、成分組成上の前記条件を満たす限りにおいて、市場的価値の小さいいわゆるくず牡蠣も使用可能である。
【0035】
本発明においては、牡蠣肉の加工処理物とは牡蠣殻を除いた剥き身の生、冷凍保管品、乾燥品、水抽出物、エタノール含有溶媒による抽出物、酸、酵素による分解物並びにこれら抽出物の濃縮品、特定成分の分画濃縮品、任意の食品との混合物等と定義される。形態は、生、液状、乾燥固体状などが含まれる。
【0036】
一般に、牡蠣は生食用、加熱調理用などに分別されて市場に出荷されるが、本発明においては、原料となる牡蠣肉の採集コスト、数量確保の容易さなどを勘案し、一般に、食用に適さない、とされる市場的価値の小さいいわゆるくず牡蠣肉の利用が可能であることは前述の通りである。
【0037】
本発明においては、牡蠣肉の加工処理物として生の状態でそのまま利用する場合は、公知の調理法により処理して摂取しても良いし、このものを出発原料として水、熱水、含水又は無水エタノールの抽出物として利用しても良い。更に、酸、酵素による分解物並びにこれら抽出物の濃縮品、特定成分の分画濃縮品、任意の食品との混合物等としても利用出来る。形態は、生、液状、乾燥固体状などが含まれる。
【0038】
本発明においては、牡蠣肉の加工処理物として牡蠣肉の乾燥品を出発原料とする場合、一般に、乾燥処理の前まで変質しない条件で保管する必要がある。本発明においては、保管条件は室温、冷蔵、冷凍の別に関して特段の制限は設けていないが、長期間保管する場合は品質保持上、例えば、マイナス20℃以下、望ましくはマイナス40℃以下の低温条件下にて保管することが望ましいことは当然である。
【0039】
原料とする牡蠣肉は乾燥工程の前後いずれかで、付着殻屑、金属、昆虫などの混入異物を除くことが望ましいが、除去対象や除去方法そのものに関する本発明の制限は無い。一般には、乾燥工程前に本工程を加えることが望ましい。
【0040】
牡蠣肉は乾燥する前のいずれかの工程において、殺菌工程を経ることが望ましい。殺菌方法そのものは本発明において特段の制限は設けていないが、食品工業において通常用いるブランチングの手法の他、熱水、蒸気、加圧、アルコールなどへの暴露など公知の実施可能な殺菌技術であって、食品衛生上問題が無く、かつ、内在するプロテアーゼなどの酵素を失活させ、同時に、原料中のオメガ3系高度不飽和脂肪酸等の有効成分の大幅な減少、流出を伴わないことが重要であることは言うまでもない。但し、更に続く加工工程にて内在するプロテアーゼなどの自己消化酵素を利用する場合は酵素失活を伴う殺菌工程を避ける場合があることは当然である。
【0041】
牡蠣肉の乾燥は熱風乾燥(AD)法、凍結乾燥(FD)法、ドラムドライ(DD)法、スーパーヒート法、遠赤外線利用法、天日乾燥法を始め、コスト的、品質的要件を満足する食品工業で実施可能なあらゆる手法が利用可能である。
【0042】
本発明においては、原料牡蠣肉の乾燥工程においてオメガ3系高度不飽和脂肪酸等の有効成分の大幅な減少を避けるため、更には、食品としての官能評価的品質の劣化を避けるため、望ましくは60℃以下10℃以上の温度条件下での乾燥が好適である。60℃以上の温度条件下では有効成分の熱変性による大幅な減少のリスクが大きくなり、官能的な評価も低下する。5℃以下では乾燥効率が著しく阻害され、コスト的な条件を喪失するだけでなく、長期間の乾燥時間中に食品としての味、香りだけでなく、有効成分の変性など品質的な問題を招くことがある。
【0043】
この様に乾燥された牡蠣肉は、水分含量5.0重量%以下とすることが品質保持上望ましい。最終的な残存水分量は通常1.0重量%以上となるが、本発明においては含水量の下限に関する制限は無い。
【0044】
乾燥された牡蠣肉の加工処理物の形状に特段の制限はないが、そのまま、又は、任意のサイズに破砕後、加工処理物原料として保管出来る。例えば、利用するまでに3ヶ月間以上の長期間保管の必要がある場合などは、ガスバリヤー性の高いアルミ包材、脱酸素剤、低温(例えば、5℃以下)などの環境が望ましいことは当然である。
【0045】
採集後の生牡蠣肉原料を乾燥させないでそのまま利用する場合、例えば、凍結粉砕機、融砕機等により微粉砕品とし、このものをそのまま牡蠣肉の加工処理物として利用することが出来る。この場合、原料牡蠣肉からの異物除去、洗浄、殺菌などの工程は必要に応じて都度加えることが出来ることは自明のことである。
【0046】
また、本発明おいては採集された牡蠣肉を、例えば、洗浄、殺菌、異物除去等の各工程を経た後、乾燥させないでそのまま抽出用原料とし、該抽出物を本発明で用いる加工処理物とすることが出来る。洗浄、殺菌、異物除去等の各工程を経ることは本発明においては必須ではないが、その全て又は1つ以上の工程を省くことは可能である。
【0047】
しかし、工業的に抽出用原料として用いる場合は、原料採集時期と抽出までの時間は通常定められていないことが多く、例えば、次年度の採集時期までの約1年間又は1年間以上保存する場合も有り得るため、先述の方法にて乾燥させた原料牡蠣肉の加工処理物を用いることが実際的である。
【0048】
本発明においては、牡蠣肉の加工処理物は生であれ乾燥品であれ、抽出工程を経ないで、例えばプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼなどの加水分解酵素を用いて全体を分解し、このものを最終的にそのまま、又は乾燥物として、又は、上記抽出物と混合して用いることが出来る。
【0049】
乾燥牡蠣肉の水抽出物又は濃度1.0重量%以上99.8重量%以下のエタノールによる抽出物、及び、該抽出物等の牡蠣肉の加工処理物の残存溶媒含量を5.0重量%以下に調整した乾燥品の調製は、例えば、下記手順にて行う。
【0050】
以下に、水抽出の詳細を示す。
すなわち、例えば、水分5.0重量%以下に調製された牡蠣肉乾燥品又はその粉砕品に対して、水を重量比で20倍量加え、即ち、浴比20とし、25℃又は常温下にて30分間攪拌抽出した後、濾液を分離し、得られた濾液を減圧濃縮後フリーズドライ(FD)法にて処理することにより、残存水分含量5.0重量%以下の乾燥された牡蠣肉の加工処理物を水抽出物の乾燥品粉末として得ることが出来る。
【0051】
抽出に際して、本発明においては浴比に関する特段の制限は設けていないが、抽出率、作業性、濾過性、抽出物の乾燥効率を勘案した時、浴比15〜45が実際的であり、浴比20が最も効率的かつ経済的である。
【0052】
本発明において抽出温度に関する特段の制限は設けていないが、抽出率、作業性、濾過性、抽出物の品質を勘案した時、25℃又は常温以上60℃以下が実際的であり効率的である。25℃又は常温以下の場合は、作業性そのもの、又は、製品品質に著しい問題が発生することはないが、一般に抽出効率が悪くなり、低温維持のための設備、エネルギーコストが必要となる。60℃以上の場合は、有価物であるオメガ3系高度不飽和脂肪酸等を含む有効成分の減少、官能評価上の味、香りの品質低下を招く。但し、60℃以上で加工することにより、食品としての特別な官能評価上の味、香りの品質を求める場合はこの限りではない。
【0053】
本発明において、攪拌抽出時間は少なくとも1分以上、60分以下が望ましいが、抽出率、品質確保の観点から、抽出時間は3分以上30分以下が最も望ましい。極く短時間の抽出で十分な抽出率を確保可能であるが、1分以下では抽出率が悪い上に、短時間の工程管理が実際的ではなくなる。また、60分以上の場合は残存するプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼなどの分解作用により、また、微小な破砕物が発生し、続く濾過工程が実施困難となることがある。製品は本工程において濾液として得られる。製品の品質劣化防止のため、抽出温度、時間は都度見直す必要がある。
【0054】
極性のより小さい機能性成分、例えば、オメガ3系高度不飽和脂肪酸などの抗酸化性の画分を効率よく抽出するために、水の代わりに含水エタノールを用いることが出来る。食品衛生法上の安全性確保のためにはエタノールの使用が必要である。エタノール含有量は少なくとも1.0重量%以上99.8重量%以下が必要であるが、望ましくは20.0重量%以上50.0重量%以下、更に望ましくは30.0重量%以上40重量%以下であるとき、抗酸化性画分又は有価物成分を効率よく取得出来るだけでなく、作業安全性確保、コスト的な優位性、使用溶媒の回収、などの面で有利である。製品は本工程において濾液として得られる。
【0055】
水抽出又は濃度1.0重量%以上99.8重量%以下のエタノールによる抽出後の濾過残渣物は、オメガ3系高度不飽和脂肪酸を含む有価物の回収率向上を目的として更に任意の複数回にわたり、水又は濃度1.0重量%以上99.8重量%以下のエタノールによって繰り返し再抽出し、濾液としても良い。
【0056】
殺菌工程は本願においては必須ではないが、上記抽出工程の前後いずれかで加えることが出来る。殺菌方法そのものは本発明では制限はないが、対象が乾燥物であれ液状であれ、食品工学的に公知の方法、例えば、加熱、紫外線照射、ガス、マイクロ波、高圧、殺菌剤などの利用によって目的を達することが可能である。
【0057】
抽出物は水又は熱水抽出物であれエタノール含有水抽出物であれ、そのまま製品として利用することが出来る。これらの抽出物は食品工学的手法により部分的に濃縮しても良い。また、任意の1種類以上の混合物を添加しても良い。混合物としては例えば、糖類、大豆タンパク質の如きタンパク質類、増粘剤などの安定化剤、塩、各種の機能性素材、任意の食品原料などが想定されるが、本発明においては混合物の種類は特段の制限はない。
【0058】
上記抽出物並びにその混合物は水やエタノールなどの残存溶媒量を少なくとも5.0重量%以下の乾燥品又はその粉末品とすることが出来る。最終的な残存水分量は通常1.0重量%以上となるが、本発明においては残存水分量に関する下限の限定は無い。
【0059】
溶媒の除去は公知の食品工学的手法、例えば、凍結乾燥(FD)法、噴霧乾燥(SD)法、流下薄膜法などが適用可能である。凍結乾燥法の場合は、オメガ3系高度不飽和脂肪酸等有効成分の熱劣化防止のため、乾燥中の棚温度を60℃以下10℃以上にすることが望ましい。噴霧乾燥法の場合は、少なくとも、噴霧直前の製品保管温度は60℃以下10℃以上にすることが望ましい。
【0060】
上記抽出物及びその混合物、並びに乾燥品の保管方法に特段の制限はないが、先述の牡蠣肉の加工処理物と同様に、そのまま、又は、任意のサイズに破砕後、加工処理物原料として保管出来る。例えば、利用するまでに3ヶ月間以上の長期間保管の必要がある場合などは、ガスバリヤー性の高いアルミ包材、脱酸素剤、低温(例えば、5℃以下)などの環境が望ましいことは当然である。
【0061】
上述の各加工処理物はそのままでも生活習慣病に対し有効に機能するが、適時、抽出、濃縮、分画などの操作を加えたり、各操作により得られた製品を混合することにより、該加工処理物中の全脂質中に占めるオメガ3系高度不飽和脂肪酸の含有量合計が5.0重量%以上50.0重量%以下であって、且つ、該加工処理物中のタウリン含有量が固形物換算で5.0重量%以上20.0重量%以下であって、且つ、高いラジカル消去能を有する品質まで高めることによって更なる用途拡大が可能となり、また同時に、機能強化を達成できる。
【0062】
濃縮方法は都度任意の公知技術を利用でき、本願においては濃縮方法そのものは制限されない。
【0063】
EPA及びDHA等のオメガ3系高度不飽和脂肪酸は牡蠣肉を含む水産物油脂中に広く分布する高度不飽和脂肪酸であり、循環器系疾患、脳神経機能障害、糖尿病、腎臓病、アトピー性皮膚炎など広範な疾病への有効性が公知となっている機能性脂質である。しかし、EPAは不飽和結合を5個、DHAは不飽和結合を6個有するため、天然物の中でも特異的に酸化速度が大きく、劣化し易いことで知られている。
【0064】
本発明者らはin vitro条件下では酸化速度が極めて大きいこれらオメガ3系高度不飽和脂肪酸が、in vivo条件下では抗酸化的に機能し(金行孝雄・高山房子・川崎博己・戸谷永生・万倉三正・森昭胤:第63回日本栄養・食糧学会(長崎)講演要旨集、p.96(2009).)、酸化ストレスの抑制に有効であることを発見し、酸化ストレスに起因する生活習慣病である糖尿病、肝臓病、腎臓病(宮城晃子、高山房子、長谷川あずさ、川崎博已、江頭亨、万倉三正、植木啓司、岡田茂、森昭胤:第47回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会中国四国支部学術大会(岡山)講演要旨集,p191,9B13−50(2008).)、アトピー性皮膚炎などに対する有効性を見出し、本願発明の出発点を得たものである。
【0065】
通常、日本国内で生産される養殖牡蠣は冬期に水揚げされるが、その時期、養殖場所、個体差など様々な要因により脂質含量、オメガ3系高度不飽和脂肪酸は大きく変動する。
【0066】
本発明においては、牡蠣の機能性が充分に発揮されるために牡蠣肉に含まれる全脂質含量が固形分換算で5.0〜20.0重量%であり、全脂質中のオメガ3系高度不飽和脂肪酸含量が少なくとも5.0%以上50.0重量%以下であることが望ましい。更に望ましくは、全脂質含量は固形分換算で10.0〜15.0重量%であり、全脂質中のオメガ3系高度不飽和脂肪酸含量が15.0重量%以上30.0重量%以下であることが望ましい。全脂質中のオメガ3系高度不飽和脂肪酸含量は多い方が良いが、通常は50.0重量%以下である。
【0067】
全脂質含量は固形分換算で20.0重量%を超えると、官能評価上の違和感、脂質酸化などのリスク増大を招く。
【0068】
タウリンはサザエ、コウイカ、マダコ、マグロやブリの血合いなどに多く含まれるアミノ酸様化合物の一つで、牡蠣にも特異的に著量含まれている。また、高いラジカル消去活性を有するヒポタウリンはタウリン合成の前駆体の一つとして牡蠣肉中に同様に分布し、タウリン同様の機能を発揮している可能性がある。
【0069】
タウリンはヒトに対して、胆汁酸の分泌を促進し、肝臓を能化したり、疲労回復、細胞膜安定化作用など多岐にわたる生理機能を発揮することが知られており、特に、抗酸化作用を介した肝障害、肝炎、肝繊維化に有効とされている。
【0070】
なお、タウリンのプレカーサーでもあるヒポタウリンは一重項酸素消去能を介して、皮膚の光老化防止(特開2002−128651参照)、にきび改善(特開2001−288035参照)のため、化粧品分野で広く用いられている。
【0071】
牡蠣肉の加工処理物が酸化ストレスに起因する疾病の予防改善に有効に作用するためには、タウリンは牡蠣肉中に固形分換算で少なくとも5.0重量%以上含まれることが必要である。本願においてはタウリン含有量に上限は無いが、実際的には固形分換算で20.0重量%以下が官能評価的に許容される上限である。
【0072】
同様に、先述の通り、牡蠣肉の加工処理物が酸化ストレスに起因する疾病の予防改善に有効に作用するため、ヒポタウリンがタウリン同様の機能を発揮している可能性がある。本願においてはヒポタウリン含有量に制限は無いが、実際的には固形分換算で4.0重量%以下が官能評価的に許容される上限である。
【0073】
生体内において、オメガ3系高度不飽和脂肪酸はプロスタグランジン代謝への干渉、レゾルビン、PPAR(peroxisome proliferator activated receptor)を介して最終的に酸化ストレスに起因する疾病の予防改善に寄与しているのに対して、タウリンは独自の抗酸化作用や生体内ホメオスタシスを介して酸化ストレスの抑制に寄与していると考えられる。
【0074】
即ち、オメガ3系高度不飽和脂肪酸とタウリンはそれぞれ別の経路を介して生体内酸化ストレスの抑制に寄与することにより、相乗的に有効性を発揮していると理解され、結果として、両者を著量含有している牡蠣肉の加工処理物の生理機能を高めているものと理解される。
【0075】
牡蠣肉の加工処理物は抗酸化性の機能性成分を含有しており、生活習慣病の予防及び/又は改善・治療のために必要なラジカル消去能を有する。
【0076】
本発明になる組成物のスーパーオキサイドアニオン及びヒドロキシルラジカルなどのフリーラジカル消去能は、例えば、電子スピン共鳴分光(ESR)法にて測定することが出来る。さらに具体的に例示すると、ESR装置はX−Band(日本電子株式会社製RX型)にデジタル高速掃引ユニット(ラジカルリサーチ社)を組込み改良したフリーラジカル検出装置にESR装置用WIN−RADシステムRDA−03W ESRデータアナライザ(ラジカルリサーチ社)を接続したシステムから構成することが出来る。
【0077】
ESR測定条件は、例えば特開2008−195672号公報に例示してある方法を用いることができる。
【0078】
本発明においては、スーパーオキサイドアニオン及びヒドロキシルラジカル消去能は試料(牡蠣肉の加工処理物)を含まない対照ESR測定時の信号相対強度を50重量%減弱させる牡蠣肉の加工処理物の濃度をIC50値(μg/ml,最終濃度)として定義してある。
【0079】
または、上記スーパーオキサイドアニオン及びヒドロキシルラジカル消去能に相当する、即ち、同一のラジカル消去能を発揮するTrolox((±)−Hydroxy−2,5,7,8−tetramethylchromane−2−carboxylic acid、アルドリッチ社)の濃度を求め、ベリー類の加工処理物製品のIC50値(μg/ml,最終濃度)に相当する単位(μmol Trolox equivalent/mg)として示してある。換言すると、Troloxをヒドロキシルラジカル消去能評価のための標品として用い、試料のヒドロキシルラジカル消去能に相当するTroloxの化学当量を求めることにより評価を行う。
【0080】
このことにより、ESR機種の違い、手法の違い、試薬類純度の違いなどによるデータのバラツキを最小限に留め、データに客観性を与えることが可能となる。
【0081】
牡蠣肉の加工処理物を酸化ストレス増大に起因する生活習慣病の予防及び/又は改善・治療用組成物として利用するに当たり、スーパーオキサイドアニオン消去能はESRで測定した時、最も望ましくはIC50値として450μg/ml以下、とすることにより有効に目的を達成できる。又はTrolox換算で36.7μg以上/mlであることを特徴とする。具体的な測定条件は実施例2に示す通りである。
【0082】
牡蠣肉の加工処理物を酸化ストレス増大に起因する生活習慣病の予防及び/又は改善・治療用組成物として利用するに当たり、ヒドロキシルラジカル消去能はESRで測定した時、望ましくはIC50値として300μg以下/mlとすることにより有効に目的を達成できる。又はTrolox換算で81.7μg以上/mlであることを特徴とする。具体的な測定条件は実施例3に示す通りである。
【0083】
一重項酸素消去能は特許文献9記載の方法に準拠して測定できる。一重項酸素消去能は有効に機能を発揮するためには少なくともIC50値として200μg/ml(50s−1)以下であることが必要である。又はTrolox換算で107.8μg以上/mlであることを特徴とする。安全な上限値に関しては具体的な知見が存在しないため、本願においては設定していないが、通常はβ−カロチン、アスタキサンチン等の一重項酸素消去能の50%以下であることが望ましい。
【0084】
以上説明したように、本発明は高いラジカル消去能を有する牡蠣肉の加工処理物を提供し、経口摂取用組成物として用いることにより酸化ストレス増大に起因し、かつ、メタボリックシンドロームを構成する生活習慣病の有効な予防方法及び/又は治療方法を提供する。
【0085】
本発明になる牡蠣肉の加工処理物は少なくとも糖尿病、アルコール性脂肪性肝炎及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含む肝臓病、腎臓病、アトピー性皮膚炎から選ばれる少なくとも1種類以上の予防改善に有効である。従って、本発明においてはラジカル消去能が重要な役割を担っている。詳細は、吉川敏一編の「抗酸化物質のすべて」(先端医学社,東京(1998))、あるいは、二木鋭雄・島崎弘幸・美濃真編の「抗酸化物質」(学会出版センター、東京(1994))に記載の通りである。
【0086】
本発明になる組成物を1.0重量%以上100.0重量%以下混合してなる酸化ストレス増大に起因する生活習慣病の予防改善に有効な組成物は食品として用いることが出来る。
【0087】
本発明になる組成物はそのままでも摂取可能であるが、他の食品と混合して摂取することが出来る。該組成物の他の食品への添加量は、食品に対して1.0重量%以上、望ましくは3.0重量%以上、更に望ましくは5.0重量%以上が適当である。最終製品の形状維持、酸化安定性維持のため、また、官能評価上の品質確保のため、他の食品への添加量は50.0重量%以下であることが実際的である。混合する食品は粉末状、液状、ペースト状など様々な状態が可能であるが、本発明においてはこれらの状態の制限は受けない。
【0088】
また、本発明になる牡蠣肉の加工処理物を100.0重量%以下含む食品組成物への利用が可能であることは当然である。
【0089】
本発明になる組成物の一つは食品なので、本発明においては摂取量、摂取方法、摂取期間には特段の上限及び下限、又はその他の条件などは設定していない。従って、大量に短期間摂取する場合、少量に長期間摂取する場合、他の保健機能性素材と共に摂取する場合など各種のケースが想定されるが、このこと自体によっては本発明は制限されない。
【0090】
しかし、一般に、摂取量が多い方が有効性が高いことは当然である。即ち、オメガ3系高度不飽和脂肪酸、タウリンを本願で要求している量含み、かつ、ラジカル消去能を有する牡蠣肉の加工処理物を少なくとも固形物換算で1.0g以上/体重kg/日、60日間以上摂取することにより、本願において言及している糖尿病、肝臓病、腎臓病、アトピー性皮膚炎等の疾病を予防改善することが出来る。
【0091】
本発明になる組成物の他の食品への混合量、混合方法はコスト、官能評価を含む品質的要件、要求する機能の内容によって異なる。
【0092】
以下、実施例によって本発明をさらに説明する。但し、下記の実施例は発明を例示するためのものであり、本発明をいかなる意味においても限定するものではない。
【実施例1】
【0093】
牡蠣肉の加工処理物の製造例
2008年3月中旬に岡山県内の牡蠣養殖場より食品グレードの真牡蠣(Crassostrea gaigas)の冷凍剥き身を牡蠣肉として購入し出発原料とした。
鮮度指標であるK値(%)は高速液体クロマトグラフ法で測定したとき、10.5%であった。
【0094】
上記牡蠣肉10.0Kgをマイナス80℃にて冷凍後、棚温度50℃で真空凍結乾燥(FD)処理し、乾燥牡蠣肉2.2Kgを得た。このものは使用するまで、脱酸素剤の共存下、ガスバリヤー性の高いアルミ包剤に入れてマイナス80℃にて保管した。FD処理した本牡蠣肉は水分を2.5重量%含んでいた。従って、該牡蠣肉10.0Kg中の固形分は21.5重量%である。
【0095】
FD処理した上記牡蠣肉の総脂質含量はクロロホルム−メタノール混液(2:1)にて抽出した時、固形分換算で12.0重量%であった。
【0096】
総脂質中の脂肪酸は定法に従い酸触媒法(HCl/MeOH)にてメチル化した。脂肪酸組成はガスクロマトグラフィーにて定量した。分離は、キャピラリーカラム(BPX−70、SGE社)、検出はFIDを用いた。内部標準物質としてはヘンエイコセン酸メチルを用いた。この時、総脂質中のEPAは10.3重量%、DHAは11.6重量%であり、オメガ3系高度不飽和脂肪酸としては、合計21.9重量%であった。従って、牡蠣肉の加工処理物固形分100g当りのオメガ3系高度不飽和脂肪酸は計2.6gであった。
【0097】
同様に、FD処理した上記牡蠣肉の全遊離アミノ酸組成を島津高速液体クロマトグラフLC10Aアミノ酸分析システムにて定量したとき、タウリン含有量は固形分換算で13.1重量%であった。
【実施例2】
【0098】
牡蠣肉の加工処理物のスーパーオキサイドアニオンラジカル消去能測定
【0099】
実施例1で調整された牡蠣肉の加工処理物としての牡蠣肉のFD処理品に関し、酵素反応で発生させたスーパーオキサイドアニオンラジカルに対する消去能を評価した。スピントラップ剤DMPO(2−(5,5−Dimethyl−2−oxo−2−λ5−[1,3,2]dioxaphosphinan−2−yl)−2−methyl−3,4−dihydro−2H−pyrrole−1−oxide、ラジカルリサーチ社)を用いたESR測定により、DMPO−スーパーオキサイドアニオンのアダクトとして活性酸素を検出し、DPMPO−スーパーオキサイドアニオン/MnのESR信号の相対強度により定量化した。詳細は、上記の特許文献7の特開2008−142032号公報に例示されている通りである。
【0100】
なお、Xanthine Oxidase添加1分後に掃引を開始することで一定量発生させたスーパーオキサイドアニオンラジカル(Takayama F.et al:Japanese Journal of Pharmacology,64,71−78(1994)参照)とDMPOのアダクトによるESR信号と、Mnによる6本のESR信号の低磁場から3番目のESR信号を比較し、DMPO−スーパーオキサイドアニオンラジカル/MnのESR信号の相対強度によりスーパーオキサイドアニオンラジカルを定量化した。被験素材およびTroloxを添加せず実施した対照ESR測定で観察されたDMPO−スーパーオキサイドアニオンラジカル/MnのESR信号の相対強度を100%とした。
【0101】
その結果、その結果、牡蠣肉のFD処理品のスーパーオキサイドアニオン消去能はIC50として評価したとき、394.3μg/mlであった。
【0102】
同様にして、上記水抽出物乾燥品に関し、Troloxのスーパーオキサイドアニオン消去能を測定したところ、IC50値(μg/ml)としてみた時、41.9μg/ml、同じくアスコルビン酸ナトリウムのスーパーオキサイドアニオン消去能は3.4μg/mlであった。
【0103】
以上の結果から、牡蠣肉の加工処理物である牡蠣肉のFD処理品の高いラジカル消去能が証明された。
【実施例3】
【0104】
牡蠣肉のFD処理品のヒドロキシルラジカル消去能測定
実施例1で調整された牡蠣肉のFD処理品に関し、ラジカル消去能を評価するためESRを用いてヒドロキシルラジカル消去能を測定した。ラジカルトラップ剤およびESR装置は実施例3と同様である。測定条件は(特許文献10)に例示されている通りである。
【0105】
その結果、IC50値(μg/ml)としてみた時、固形分換算された牡蠣肉のFD処理品のヒドロキシルラジカル消去能は、239.7μg/mlであった。
【0106】
同様にして、上記水抽出物乾燥品に関し、Troloxのヒドロキシルラジカル消去能を測定したところ、IC50値(μg/ml)としてみた時、固形分換算されたヒドロキシルラジカル消去能は102.3μg/ml、同じくアスコルビン酸ナトリウムのヒドロキシルラジカル消去能は24.1μg/mlであった。
【0107】
以上の結果から、牡蠣肉の加工処理物である牡蠣肉のFD処理品の高いラジカル消去能が本発明で制限している通りに証明された。すなわち、保健機能性を発揮するに足る充分な能が確認された。
【実施例4】
牡蠣肉のFD処理品の一重項酸素消去能測定
【0108】
特許文献8記載の方法に準拠して一重項酸素消去能を測定したところ、131.4μg/ml(50s−1)であった。Troloxの一重項酸素消去能を測定したところ、IC50値(μg/ml)としてみた時、固形分換算されたヒドロキシルラジカル消去能は164.1μg/ml、同じくアスコルビン酸ナトリウムの一重項酸素消去能は29.9μg/mlであった。従って、例えば光老化によって増悪化するアトピー性皮膚炎に対して、有効に機能することが示唆された。
【0109】
実施例2、3、4に記載の結果を表1にまとめて示す。

【実施例5】
【0110】
牡蠣肉のFD処理品の過酸化脂質産生抑制能測定
【0111】
牡蠣肉のFD処理品の過酸化脂質産生抑制能に関し、Trolox及びアスコルビン酸を対照として非特許文献2に準拠して測定した。
【0112】
その結果、脂質過酸化を50%抑制する時の濃度(IC50)は、牡蠣肉のFD処理品0.12mg/mL、Trolox0.05mg/mL、アスコルビン酸0.09mg/mLであり、いずれも濃度依存的に高い抑制作用を示した。牡蠣肉のFD処理品の脂質過酸化抑制能は公知の他の天然素材と比較した時、きわめて高いことが明白である。(図1参照。)
【0113】
一般に、糖尿病においてはグリケーション反応が合併症の併発、進展に重要な役割を果たし、同時に、血漿脂質の過酸化が発生する。従って、牡蠣肉のFD処理品のラジカル消去能並びに過酸化脂質産生抑制能は酸化ストレスに起因する糖尿病及び合併症の予防改善に有効であることを同時に実証するものである。
【0114】
また、急性腎不全、薬剤性腎炎、糸球体腎炎、糖尿病性腎炎、慢性腎不全、腎移植など各種腎疾患の進展機序には活性酸素、フリーラジカルが関与する。同時に、血漿脂質の過酸化が発生する。従って、牡蠣肉のFD処理品のラジカル消去能並びに過酸化脂質産生抑制能は酸化ストレスに起因する腎疾患の予防改善に有効であることを同時に実証するものである。
【0115】
一般に、皮膚は物理的、化学的要因により活性酸素や過酸化脂質を巻き込んだ生物学的反応の惹起されやすい臓器のひとつと理解される。特に、アトピー性皮膚炎の場合は、疾患の進展機序に活性酸素、フリーラジカルが関与する。同時に、血漿脂質の過酸化が発生する。従って、牡蠣肉のFD処理品のラジカル消去能並びに過酸化脂質産生抑制能は酸化ストレスに起因するアトピー性皮膚炎の予防改善に有効であることを同時に実証するものである。
【実施例6】
【0116】
牡蠣肉のFD処理品の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)への効果
【0117】
NASHは脂肪肝を基盤とし、セカンドヒットとして酸化ストレスが負荷されることにより発症する代表的な生活習慣病の一つとして理解されている(特許文献8)。このことから、本願においては実施例2、3、4に示すとおり高いラジカル消去能並びに過酸化脂質産生抑制能を有する牡蠣肉の加工処理物の生活習慣病への有効性を示すための例示として牡蠣肉のFD処理品のNASHへの有効性評価試験結果を示す。NASH病態モデルは、TAKAYAMA F.et al.,J.Pharmacological Sci.,100(1),pp.164(2006)に記載されている高山らの方法に準拠して作成した。
【0118】
実験的に調整された脂肪肝担持ラットに対し、酸化ストレス(OS)を負荷し、生体内低酸素状態を形成させることによりNASHの生化学的・病理組織学的特徴を有する病態モデルラットを作出し、このものに対し本発明に使用する実施例1で製造された牡蠣肉のFD処理品を投与し、該ラットの血液の生化学的特徴変化,肝臓ミトコンドリアにおけるROS派生の変化、肝臓組織の病理組織学的変化を観察することにより、NASHに対する該牡蠣肉のFD処理品の有効性評価を行った。
【0119】
実験動物として、6週齢Wistar系雄性ラット(180−200g/匹)を用いた。脂肪肝作成のため、4週間,自由摂取にてコリン欠乏高脂肪食(CDHF,オリエンタル酵母)を与えた。その後も,病態維持のため実験終了までCDHFを与えた。
【0120】
動物はポリプロピレン不透明ケージ(W220×L320×H135,夏目製作所)内で2〜3匹ずつ飼育した。飼育室は、湿度40〜50%,室温20〜25℃に維持し、12時間の明暗サイクル(点灯;AM8:00,消灯;PM8:00)に設定した。
【0121】
酸化ストレス(OS)を付加し生体内低酸素状態を形成させ、NASH病態を作出するため、上記脂肪肝担持ラットに対し、生理食塩水に溶解させた亜硝酸ナトリウムを30mg/Kg(体重)/日、6週間にわたり腹腔内投与した。投与期間中は2週間ごとに尾静脈から採血し、病態の確認を行い、病態の進行状況に問題がないことを確認した。
【0122】
NASHに対する牡蠣肉のFD処理品の有効性評価のため、上記亜硝酸ナトリウム投与群に対し、同時期に牡蠣肉のFD処理品を高脂肪餌に混餌し、摂餌量から牡蠣FDの下記投与量を達成する含量のFD処理品を含む混餌の給餌により、0.5g/Kg(体重)/日、又は1.5/Kg(体重)/日、6週間にわたり経口投与した。
【0123】
投与期間終了後、犠牲死させ、該ラットの血液の生化学的特徴変化、肝臓ミトコンドリアにおける活性酸素・フリーラジカル種(ROS)派生の変化、肝臓組織の病理組織学的変化を観察した。
【0124】
本実施例においては、[1]群(Control:齧歯類用通常餌給餌)、[2]群(CDHF:コリン欠乏高脂肪餌給餌)(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品0.5g/Kg)、[3]群(NASH=[CDHF+OS]:コリン欠乏高脂肪餌給餌、5週目より連日、亜硝酸ナトリウム50mg/Kg腹腔内投与)、[4]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品0.5g/Kg)、[5]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品1.5g/Kg)に関し詳述する。なお、各群6匹(n=6)とした。(図2参照。)
【0125】
血漿中AST、ALT値はトランスアミナーゼCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社)にて測定した。血漿中ヒアルロン酸値はヒアルロン酸測定キット(生化学工業株式会社)にて測定した。
【0126】
肝臓ミトコンドリアの分画、肝臓ミトコンドリア由来活性酸素・フリーラジカル種(ROS)派生の検出は、下記参考文献1〜3に示された方法に準拠して作成した。
・参考文献1:EGASHIRA T.et al.,Toxicology Letter,117,115−119(2000).
・参考文献2:YUDONG Wang et al.,Free Radical Biology and Medicine,36(11),pp.1434−1443(2004).
・参考文献3:TAKAYAMA F.et al.,Japanese Journal of Pharmacology,85,227−233(2001).
【0127】
肝臓試料は、下大静脈より1.15%塩化カリウム溶液(5mMベンズアミジン含む)にて灌流後採取した。肝臓組織1gに対しトリス塩酸緩衝液(pH7.4,0.25Mシュクロース、0.1M塩化カリウム含む)と共にホモジェナイズし、このものの3,000×g(10分間,4℃)上清を9,000×g(20分間,4℃)にて遠心分離し、沈殿物をトリス塩酸緩衝液(pH7.4,0.25Mシュクロース、0.1M塩化カリウム含む)にて2回遠心洗浄しミトコンドリア画分とした。該画分14.28mgに対し,1mlトリス塩酸緩衝液(pH7.4,0.25Mシュクロース,0.1M塩化カリウム含む)で希釈し試料溶液とした。この濃度はミトコンドリアのタンパク量に換算すると,500μg/mlに相当する。
【0128】
活性酸素・フリーラジカル種(ROS)派生量計測のため,上記肝臓ミトコンドリア溶液35μl、0.1%dodecyl maltoside、5mM glutamate、5mM malate、200mM succinateを含む溶液25μl、4.6M DMPO溶液20μl、2mM NADH溶液20μl,合計100μlを37℃、5分間インキュベーションした。インキュベーション後、直ちにESR装置(JES−REIX/HR、日本電子株式会社)にて常温で測定した。
【0129】
測定に当たり、実施例2及び3と同様に、予めcavity内に挿入したMnOのMn2+によるESRスペクトル信号強度に対するDMPOスピンアダクト(DMPO−OH)によるESRスペクトル信号の強度すなわち相対強度を算出し定量化した。即ち、ESR信号強度(DMPO−OH/Mn)で算定した。
【0130】
統計学的処理として、全ての結果は平均値±標準誤差で示した。得られたデータは一元配置分散分析(Analysis of variance,ANOVA)後、Turkeyの多重比較検定法を用いて統計学的処理を行った。2群間の比較にはStudent‘st−testを用い、危険率5%以下を有意差有りと判定した。
【0131】
投与期間終了後,犠牲死させ、該ラットの血液の生化学的特徴変化、肝臓ミトコンドリアにおけるROS産生変化、肝臓組織の病理組織学的変化を観察した結果を以下に示す。(図3、4、5参照。)
【0132】
齧歯類用通常飼料飼育の[1]群(Control群)、コリン欠乏高脂肪餌給餌による[2]群(CDHF群:単純脂肪肝群)と牡蠣肉のFD処理品を投与しなかった[3]群(NASH[CDHF+OS]:非アルコール性脂肪性肝炎に牡蠣非投与群)における化学的測定結果は以下の通りであった。
1)血漿中AST値(units/ml)は149±39 IU/L、263±5IU/L、から660±180 IU/Lに上昇、
2)血漿中ALT値(units/ml)は35±3 IU/L、40±4 から140±50 IU/Lに上昇、
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/ml)は92±12mg/ml、123±21mg/mL、から210±19mg/mlに上昇、
上記結果から、酸化ストレスに伴うNASH症状が発現していることが認められた。
【0133】
上記[3]群(NASH)に対し、実施例1にて調整した本発明に使用する牡蠣肉のFD処理品0.5g/Kg(体重)を投与した[4]群、(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品1.5g/Kg)を投与した[5]群における実験期間終了後における生化学的測定結果は以下の通りであった。
【0134】
1)血漿中AST値(units/ml)は660±180IU/Lから250±30、199±35IU/Lに低下、
2)血漿中ALT値(units/ml)は140±50 IU/L から60±13、60±10 IU/Lに低下、
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/ml)は92±12mg/mlから210±19mg/mlに上昇、に対し,実施例1にて調製した本発明に使用する牡蠣肉のFD処理品を投与したNASH+牡蛎肉0.5g/KgおよびNASH+牡蛎肉1.5の血漿中ヒアルロン酸値(mg/ml)は、各々、185±11mg/mL、167±21mg/mLと低下していた。
上記結果から、酸化ストレスに伴うNASH症状が牡蠣肉(体重)投与により用量依存的に改善される傾向が認められた。
【0135】
上記[1]群(CDHF+OS)に対し、実施例1にて調整した本発明に使用する牡蠣肉のFD処理品3g/Kg(体重)を投与した[3]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品3g/Kg)における投与前と投与期間終了後における生化学的測定結果は以下の通りであった。
【0136】
1)血漿中AST値(units/ml)は21±3 IU/Lから80±10IU/Lに上昇、
2)血漿中ALT値(units/ml)は22±3 IU/Lから16±2 IU/Lに低下、
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/ml)は111±15mg/mlから160±9mg/mlに上昇、
上記結果から、酸化ストレスに伴うNASH症状が牡蠣肉のFD処理品1g/Kg(体重)投与により改善される傾向が認められた。
【0137】
肝臓ミトコンドリア由来ROS産生値(シグナル相対強度)に関し下記結果が得られた。酸化ストレス(OS)付加前のシグナル相対強度0.6±0.1に対し、[1]群(CDHF+OS)は1.0±0.1、[2]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品1g/Kg)は0.8±0.1、[3]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品3g/Kg)は0.5±0.1であった。
【0138】
本結果から、NASHの進行に伴って増大する肝臓ミトコンドリア由来ROS産生が実施例1にて調整した本発明に使用する牡蠣肉のFD処理品投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0139】
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため、公知の手法に基づきヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行い、大滴脂肪の沈着状態を観察し下記結果を得た。
【0140】
1)[1]群(CDHF+OS)は多くの大滴性の脂肪滴および大きな肝細胞配列の乱れ有り。
2)[2]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品1g/Kg)は中程度の大滴性の脂肪滴および中程度の肝細胞配列の乱れ有り。
3)[3]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品3g/Kg)は小程度大滴性の脂肪滴および小程度の肝細胞配列の乱れ有り。
【0141】
本結果から、NASHの進行に伴って増大する肝臓組織における大滴性の脂肪滴増大および肝細胞配列の乱れ増大が実施例1にて調整した本発明に使用する牡蠣肉のFD処理品投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0142】
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため,公知の手法に基づきマッソン・トリクローム染色により膠原線維を染色し、線維化状態を観察し下記結果を得た。
1)[1]群(CDHF+OS)は門脈域から中心静脈域の架橋形成が生じ偽小葉形成が認められた(F3〜F4)。
2)[2]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品0.5g/Kg)は軽度の門脈域から中心静脈域の架橋形成が認められた(F2〜F3)。
3)[3]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品1.5g/Kg)は門脈域と中心静脈周囲に繊維化が認められるが、架橋形成は認められない(F2)。
【0143】
本結果から、NASHの進行に伴って増大する肝臓組織における架橋形成および繊維化増大が実施例1にて調整した本発明に使用する牡蠣肉のFD処理品投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。(図4参照。)
【0144】
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため、公知の手法に基づきベルリン・ブルー染色により鉄イオンを染色し、鉄イオン沈着状態を観察し下記結果を得た。(図5参照。)ここで、F値は、線維化の程度を示し数値が小さいほど良好である。
【0145】
1)[1]群(CDHF+OS)は門脈域から中心静脈域に大きな鉄の沈着が認められた。
2)[2]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品1g/Kg)は門脈域から中心静脈域に軽度の鉄の沈着が認められた。
3)[3]群(CDHF+OS+牡蠣肉のFD処理品3g/Kg)は鉄の沈着は殆んど認められなかった。
【0146】
本結果から、NASHの進行に伴って増大する肝臓組織における鉄の沈着増大が実施例1にて調整した本発明に使用する牡蠣肉のFD処理品投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0147】
以上の結果から、抗酸化治療の有効な代表的生活習慣病の一つであるNASHモデル実験動物に対する牡蠣肉のFD処理品の有効性が確認された。
【0148】
更に、アルコール性脂肪性肝炎に関しても同様な結果が得られ、牡蠣肉のFD処理品の酸化ストレスの増大に起因する肝臓病に対する有効性が示された。
【実施例7】
【0149】
牡蠣肉の加工処理物含有組成物の用途
【0150】
実施例1で製造した牡蠣肉のFD処理品を0.1重量%、1.0重量%、5.0重量%、10.0重量%添加した麺類を試作し、10名の官能評価者により試食を行った。
【0151】
その結果、牡蠣肉のFD処理品を添加した全ての区の麺類に関して全員が食品として摂取可能と評価し,本製品が官能評価的に優れた品質を有することが確認された。しかし、0.1重量%添加品はNASHに対する必要な機能を発揮するために大量の摂食が必要、と評価された。即ち,保健機能性を向上させるため、製品そのものの絶対的摂取量を上げる必要性に対し、0.1重量%添加品の利用は現実的ではないと評価された。従って、本発明においては牡蠣肉のFD処理品を少なくとも1.0重量%以上含有する経口摂取用組成物であることが必要と結論した。
【実施例8】
【0152】
牡蠣肉のFD処理品からの水抽出物含有組成物の用途
【0153】
実施例1で製造した牡蠣肉のFD処理品からの水抽出物乾燥品を10.0重量%、30.0重量%、50.0重量%、90.0重量%、95.0重量%、100.0重量%含む錠剤を試作し、10名の官能評価者により試食を行った。
【0154】
その結果、牡蠣肉のFD処理品からの水抽出物乾燥品を添加した全ての区の錠剤に関して全員が食品として摂取可能と評価し、本製品が官能評価的に許容可能な品質を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
K値(%)が25.0%以下の牡蠣肉を出発原料とする加工処理物であって、
該加工処理物の全脂質含有量が固形分換算で5.0重量%以上20.0重量%以下であって、
且つ、該加工処理物の全脂質中に占めるオメガ3系高度不飽和脂肪酸含有量合計が5.0重量%以上50.0重量%以下であって、
且つ、該加工処理物中のタウリン含有量が固形物換算で5.0重量%以上20.0重量%以下であって、
且つ、高いラジカル消去能を有することを特徴とする、
酸化ストレス増大に起因する疾病の予防改善に有効な組成物。
【請求項2】
牡蠣肉の加工処理物のスーパーオキサイドアニオン消去能がIC50として450μg/ml以下であって、
且つ、ヒドロキシルラジカル消去能がIC50として300μg/ml以下であって、
且つ、一重項酸素消去能が200μg/ml(50s−1)以下であること、
を特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
酸化ストレス増大に起因する疾病が糖尿病であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
酸化ストレス増大に起因する疾病が肝臓病であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前項記載の肝臓病がアルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項6】
酸化ストレス増大に起因する疾病が腎臓病であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項7】
酸化ストレス増大に起因する疾病がアトピー性皮膚炎であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項8】
請求項1記載の組成物を固形物換算で少なくとも1.0重量%以上100.0重量%以下含むことを特徴とする飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−56935(P2012−56935A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219894(P2010−219894)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 岡山県産業労働部産業振興課発行「平成21年度特別電源所在県科学技術振興事業研究成果発表会要旨集」 平成22年3月10日発行
【出願人】(510260477)
【Fターム(参考)】