説明

酸化タングステン光触媒体

【課題】 優れた光触媒活性を発現しうる酸化タングステン光触媒体を提供する。
【解決手段】 本発明の酸化タングステン光触媒体は、酸化タングステン粒子に電子吸引性物質が担持されてなる酸化タングステン光触媒体であって、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により分析したときに、電子吸引性物質の二次イオン強度(M)と酸化タングステンの二次イオン強度(WO)との強度比(M/WO)が0.038〜0.050である、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子吸引性物質が担持されてなる酸化タングステン光触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が、伝導帯に電子が、それぞれ生成する。かかる正孔および電子は、それぞれ強い酸化力および還元力を有することから、半導体に接触した分子種に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は、光触媒体と呼ばれている。
【0003】
このような光触媒体の一つとして、これまでから、酸化タングステン粒子が単独で用いられている。かかる酸化タングステン粒子は屋内空間での光の大部分を占める可視光線を吸収することができるため、可視光応答型光触媒体として注目されている。しかし、酸化タングステン粒子単独からなる光触媒体に可視光線のみを照射した場合、光励起された電子が移動する先の伝導帯の準位が酸素の酸化還元準位よりも低くなるため、かかる伝導帯に励起された電子では酸素の還元が効果的に行われず、活性酸素種の生成量が不充分となる傾向があった。そのため、可視光線は照射されるが紫外線は照射されない環境下では、酸化タングステン粒子単独からなる光触媒体は、高い光触媒活性を発現しえなかった。
【0004】
そこで、近年、酸化タングステン粒子を用いた光触媒体の光触媒活性を高める手段として、酸化タングステンに白金などの電子吸引性物質を担持させることが検討されている。例えば、分散媒中に酸化タングステン粒子を分散させるとともに白金の前駆体化合物を溶解させた分散液に対し、キセノンランプにて可視光線を照射することによって、白金の前駆体化合物を白金粒子に還元して、白金粒子を担持した酸化タングステン光触媒体を得る方法が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,2008,130(25),7780−7781
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載された白金粒子を担持した酸化タングステン光触媒体は、電子吸引性物質を担持しない酸化タングステン単独からなる光触媒体に比べると、高い光触媒活性を示すものであったが、充分に満足しうるレベルとは言えず、さらに高い光触媒活性を発現させることが求められていた。
【0007】
そこで、本発明の課題は、優れた光触媒活性を発現しうる酸化タングステン光触媒体とその製造方法、並びにこの光触媒体を用いた光触媒機能製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、電子吸引性物質が担持されてなる酸化タングステン光触媒体の光触媒活性をより向上させるには、酸化タングステン粒子に担持されている電子吸引性物質を、できる限り分散するように(換言すれば、電子吸引性物質の粒子が凝集しないように)酸化タングステン粒子の表面に存在させることが重要であることを見出した。そして、担持されている電子吸引性物質の分散性を把握するには、飛行時間型二次質量分析計(TOF−SIMS)による分析で得られる電子吸引性物質の二次イオン強度(M)と酸化タングステンの二次イオン強度(WO)との強度比(M/WO)を指標とすればよいことを見出し、この強度比(M/WO)が特定範囲内である電子吸引性物質担持酸化タングステン光触媒体であれば、優れた光触媒活性を示しうることを見出した。さらに、本発明者は、前記強度比(M/WO)が特定範囲となるように、電子吸引性物質をより高い分散性で担持させる手段を検討したところ、上述した非特許文献1に記載の方法の如く、分散媒中に酸化タングステン粒子を分散させるとともに電子吸引性物質の前駆体化合物を溶解させた分散液を調製し、これに光を照射することによって電子吸引性物質前駆体を電子吸引性物質に還元するにあたり、照射する光として水銀灯を光源とした可視光線を選択するとともに、可視光線を照射後、犠牲剤を添加し、さらに水銀灯を光源として可視光線を照射するようにすれば、分散性が向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づき完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)酸化タングステン粒子に電子吸引性物質が担持されてなる酸化タングステン光触媒体であって、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により分析したときに、電子吸引性物質の二次イオン強度(M)と酸化タングステンの二次イオン強度(WO)との強度比(M/WO)が0.038〜0.050である、ことを特徴とする酸化タングステン光触媒体。
(2)担持された電子吸引性物質が白金である、前記(1)に記載の酸化タングステン光触媒体。
(3)前記(1)または(2)に記載の酸化タングステン光触媒体を分散体として得る方法であって、分散媒中に酸化タングステン粒子を分散させるとともに電子吸引性物質の前駆体化合物を溶解させた分散液を調製し、該分散液に対し水銀灯を光源として可視光線を照射した後、犠牲剤を添加し、さらに水銀灯を光源として可視光線を照射する、ことを特徴とする酸化タングステン光触媒体の製造方法。
(4)表面に光触媒体層を備える光触媒機能製品であって、前記光触媒体層が前記(1)または(2)に記載の酸化タングステン光触媒体により形成されている、ことを特徴とする光触媒機能製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた光触媒活性を発現しうる酸化タングステン光触媒体を提供することができる。また、本発明によれば、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)を行うことで、当該光触媒体が発揮しうる光触媒活性の程度を容易に把握することが可能になる、という効果も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(酸化タングステン光触媒体)
本発明の酸化タングステン光触媒体は、酸化タングステン粒子に電子吸引性物質が担持されてなる粒子である。
【0012】
前記酸化タングステン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化タングステンであれば、特に制限はされないが、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子等が挙げられる。なお、酸化タングステン粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
前記三酸化タングステン粒子は、例えば、(1−i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法、(1−ii)メタタングステン酸アンモニウムやパラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、などによって得ることができる。
前記酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点から、通常3〜100m2/g、好ましくは5〜80m2/gであるのがよい。
【0013】
前記酸化タングステン粒子に担持される電子吸引性物質とは、光触媒体(すなわち、酸化タングステン粒子)の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、該電子吸引性物質が光触媒体の表面に担持されて存在することにより、光照射によって伝導帯に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、光触媒活性を高めることができるのである。
前記電子吸引性物質としては、例えば、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoから選ばれる少なくとも1種の金属原子、好ましくはCu、Pt、AuおよびPdから選ばれる1種以上の金属原子(特に好ましくは、貴金属原子)を含有してなるもの(具体的には、これら金属原子からなる金属)が挙げられる。特に好ましくは、Ptからなる金属(白金)であるのがよい。なお、電子吸引性物質は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
本発明の酸化タングステン光触媒体において、前記電子吸引性物質の担持量は、金属原子換算で、酸化タングステン粒子100質量部に対し、0.05〜0.6質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.3質量部である。電子吸引性物質の担持量が前記範囲よりも少ないと、光触媒活性が不充分となるおそれがあり、一方、前記範囲を超えると、担持量の増加に見合っただけの効果が得られず、経済的に不利となる傾向がある。
【0015】
本発明の酸化タングステン光触媒体は、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により分析したときに、電子吸引性物質の二次イオン強度(M)と酸化タングステンの二次イオン強度(WO)との強度比(M/WO)が0.038〜0.050であるものである。この強度比(M/WO)が0.038未満であると、酸化タングステン粒子の表面で電子吸引性物質の粒子が凝集して存在している傾向があり、充分な光触媒活性を発揮しえないこととなる。一方、前記強度比(M/WO)が0.050を超えると、酸化タングステン粒子の表面を覆う電子吸引性物質の量が多くなり、光触媒反応を行わせる際に酸化タングステン粒子が吸収する光の量が少なくなる結果、光触媒活性が低下する。
【0016】
なお、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)は、固体表面のキャラクタリゼーション法の一つであって、真空中で一次イオンビーム(Ga+やAr+等)を固体表面に照射し、それによって放出される二次イオンを電場により加速して、物質特有である検出器まで到達時間を求めることで、二次イオンの質量数を測定するものであり、この特性を利用して、固体表面に存在する金属、有機物または無機物などの同定を可能にする(例えば、“TOF-SIMS:Surface Analysis by Mass Spectrometry”,John C. Vickerman and David Briggs,IM Publications and Surface Spectra Limited(2001)を参照)。例えば、電子吸引性物質が担持された酸化タングステン光触媒体をTOF−SIMSで分析すると、その表面に存在する電子吸引性物質の二次イオン強度(M)と酸化タングステンの二次イオン強度(WO)とを求めることができ、この両者の強度比(M/WO)から、酸化タングステン光触媒体の表面に担持されている電子吸引性物質の分散性を知ることができる。詳しくは、電子吸引性物質の分散性が高い場合には、電子吸引性物質の二次イオンが多く検出され、酸化タングステンの二次イオンの検出量は減少するため、前記強度比(M/WO)は大きくなる。一方、電子吸引性物質の分散性が低い場合(換言すれば、電子吸引性物質が酸化タングステン粒子の表面で凝集している場合)には、電子吸引性物質の二次イオンの検出量は少なくなり、酸化タングステンの二次イオンが多く検出されることになり、前記強度比(M/WO)は小さくなる。
【0017】
本発明の酸化タングステン光触媒体は、後述する本発明の酸化タングステン光触媒体の製造方法によって分散体として得られるが、本発明の酸化タングステン光触媒体が該製造方法によって得られたものに限定されないことは言うまでもなく、例えば、従来公知の金属粒子担持方法に従い、酸化タングステン粒子の表面に電子吸引性物質を担持させることによっても、本発明の酸化タングステン光触媒体を得ることはできる。
【0018】
(酸化タングステン光触媒体の製造方法)
本発明の酸化タングステン光触媒体の製造方法においては、まず、分散媒中に酸化タングステン粒子を分散させるとともに電子吸引性物質の前駆体化合物を溶解させた分散液(これを「前駆体含有分散液」と称することもある)を調製する。
【0019】
前記前駆体含有分散液の調製に使用する酸化タングステン粒子については、(酸化タングステン光触媒体)の項で上述した通りである。なお、酸化タングステン粒子は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記前駆体含有分散液の調製に使用する電子吸引性物質の前駆体化合物は、可視光線の照射により(酸化タングステン光触媒体)の項で上述した電子吸引性物質に還元されうる化合物であり、かつ分散媒中に溶解し得るものであればよい。例えば白金を電子吸引性物質とするべく白金前駆体化合物を使用する場合、白金前駆体化合物を構成する白金は、分散媒に溶解した状態では、通常、プラスの電荷を帯びた白金イオンとして存在する。そして、この白金イオンは、酸化タングステン粒子の表面において可視光線の照射により0価の白金粒子に還元され、酸化タングステン粒子の表面に担持される。
【0020】
前記電子吸引性物質の前駆体化合物としては、所望する電子吸引性物質を構成する金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、りん酸塩等が挙げられる。例えば、白金の前駆体化合物の具体例としては、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕、ジニトロジアミン白金〔Pt(NO2)2(NH3)2〕等が挙げられる。なお、電子吸引性物質の前駆体化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記電子吸引性物質の前駆体化合物の使用量は、金属原子換算で、酸化タングステン粒子100質量部に対して、0.05〜0.6質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.3質量部とするのがよい。電子吸引性物質の前駆体化合物の使用量が前記範囲よりも少ないと、光触媒活性が不充分となるおそれがあり、一方、前記範囲を超えると、担持量の増加に見合っただけの効果が得られず、経済的に不利となる傾向がある。
【0022】
前記前駆体含有分散液の調製に使用する分散媒は、特に制限されるものではなく、通常、水、各種アルコール類、またはこれらの混合溶媒等が用いられる。
前記前駆体含有分散液を調製するにあたり、分散媒中への酸化タングステン粒子や電子吸引性物質の前駆体化合物の投入方法やその順序などに関しては、特に制限はなく、通常の方法に従って行えばよい。
酸化タングステン粒子を分散媒中に分散させる際には、分散媒に酸化タングステン粒子を加えた後、ボール媒体とともに攪拌することにより、酸化タングステン粒子を分散媒中に良好に分散させることができる。かかる分散処理には、例えば、媒体攪拌式分散機、転動ボールミル、振動ボールミルなどの従来公知の分散機を用いればよく、ボール媒体としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、無機ガラスなどからなり、直径が通常0.01〜0.65mm、好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下であるビーズが用いられる。なお、酸化タングステン粒子の分散媒中への分散処理は、通常は1段階で行われるが、例えば、直径の大きなボール媒体とともに攪拌した後、直径の小さなボール媒体とともに攪拌するといったように多段階で行うと、効率よく酸化タングステン粒子を分散媒中に分散させることができる。
【0023】
本発明の酸化タングステン光触媒体の製造方法においては、前記前駆体含有分散液に対し水銀灯を光源として可視光線を照射する(以下、この光照射を「前光照射」と称することもある)。例えば、紫外光を照射した場合や、キセノンランプに紫外線カットフィルター等を組合せてなる光源により可視光線を照射した場合には、酸化タングステン粒子の表面に担持される電子吸引性物質が凝集するおそれがある。具体的には、水銀灯における波長400nm以上の可視光線を照射することが好ましく、波長400nm未満の紫外光は実質的に照射することのないようカットすることが好ましい。したがって、必要に応じて、例えば、光源と前記前駆体含有分散液との間に亜硫酸ナトリウム飽和水溶液を介在させるなどの紫外線カット法が採用される。
なお、可視光線の照射(前光照射のみならず、後述する後光照射も含む)は、前記前駆体含有分散液を攪拌しながら行ってもよいし、前記前駆体含有分散液を透明なガラスやプラスチック製の管に流通させながら行ってもよい。
【0024】
可視光線を照射する時間(前光照射と、後述する後光照射とを合わせた合計時間)は、通常30分以上、好ましくは1時間以上であり、通常24時間以下、好ましくは6時間以下である。特に、前光照射の照射時間は、少なくとも30分以上であることが好ましい。可視光線の照射時間が30分未満であると、電子吸引性物質の担持量が不充分となり、光触媒活性が低下するおそれがあり、一方、24時間を超えて可視光線を照射しても、通常それまでに電子吸引性物質の前駆体化合物の大部分が還元されてしまっているので、経済的に不利になる傾向がある。
【0025】
本発明の酸化タングステン光触媒体の製造方法においては、可視光線を照射した後(前光照射の後)の前駆体含有分散液に、犠牲剤を添加し、その後さらに水銀灯を光源として可視光線を照射する(以下、この光照射を「後光照射」と称することもある)。例えば、犠牲剤を、前光照射を行う前の前駆体含有分散液中に添加しておき、可視光線を照射した場合、酸化タングステン粒子の表面における電子吸引性物質の析出が極めて速く起こり、電子吸引性物質の分散度を制御できなくなる。
【0026】
犠牲剤としては、光が照射された際に、酸化タングステンの価電子帯に生成する正孔の光触媒作用により、容易に酸化分解するものが用いられる。かかる犠牲剤としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトン、蓚酸等のカルボン酸などが挙げられる。犠牲剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、犠牲剤が固体の場合には、適用な溶媒に添加して用いてもよいし、固体のまま用いてもよい。
犠牲剤の使用量は、電子吸引性物質の前駆体化合物を電子吸引性物質に還元するのに充分な量であればよく、通常、前駆体含有分散液に含まれる電子吸引性物質の前駆体化合物に対して1〜2000質量倍程度である。
なお、後光照射は、上述した前照射と同様にして行えばよい。
【0027】
かくして、本発明の酸化タングステン光触媒体が分散媒中に分散してなる分散液(分散体)が得られる。この分散体は、そのままで基材への塗布などに使用することもできるが、必要に応じて、各種添加剤を添加してもよい。
前記添加剤としては、例えば、光触媒作用を向上させる目的で添加されるものが挙げられる。このような光触媒作用向上効果を目的とした添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物;リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂;等が挙げられる。これらの添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、前記添加剤としては、本発明の酸化タングステン光触媒体を用いて基材の表面に光触媒体層を形成する際に、酸化タングステン粒子をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等を用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10−183061号公報、特開平10−183062号公報、特開平10−168349号公報、特開平10−225658号公報、特開平11−1620号公報、特開平11−1661号公報、特開2004−059686号公報、特開2004−107381号公報、特開2004−256590号公報、特開2004−359902号公報、特開2005−113028号公報、特開2005−230661号公報、特開2007−161824号公報など参照)。
【0029】
(光触媒機能製品)
本発明の光触媒機能製品は、上述した本発明の酸化タングステン光触媒体により形成された光触媒体層を表面に備えるものである。この光触媒体層は、優れた光触媒活性を示す。
光触媒体層の形成は、例えば、上述した本発明の酸化タングステン光触媒体を分散した光触媒体分散液(例えば、上述した本発明の酸化タングステン光触媒体の製造方法で得られた分散体など)を、基材(製品)の表面に塗布した後、分散媒を揮発させるなど、従来公知の成膜方法によって形成することができる。
【0030】
前記光触媒体層を形成するにあたり、光触媒体分散液の塗布は、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレー法、ハケ塗り法などの従来公知の方法を適宜採用して行えばよい。また、塗布後に分散媒を揮発させる際には、風乾や加熱乾燥などの従来公知の方法を採用すればよい。
前記光触媒体層の膜厚は、特に制限されるものではなく、その用途等に応じて、数百nm〜数mmまで適宜設定すればよいのであるが、通常、0.1μm〜1mm程度である。
【0031】
本発明の光触媒機能製品において、光触媒体層は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面であって、かつ分解対象とする悪臭物質等が発生もしくは存在する箇所と連続または断続して空間的につながる面に形成されていることが好ましい。なお、基材(製品)の材質は、形成される光触媒体層を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。
【0032】
本発明の光触媒機能製品は、屋外においては勿論のこと、蛍光灯やナトリウムランプのような可視光源からの光しか受けない屋内環境においても、光の照射によって高い光触媒作用を示す。したがって、前記光触媒体層を、例えば病院の天井材、タイル、ガラスなどに形成すると、屋内照明による光照射によって、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機物、アルデヒド類、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物質、窒素酸化物の濃度を低減させ、さらには黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌等を分解、除去することができる。
【0033】
本発明の光触媒機能製品の具体例としては、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車内装材(自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、冷蔵庫やエアコン等の家電製品、衣類やカーテン等の繊維製品などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における各種物性の測定および得られた光触媒体の評価は以下の方法で行った。
【0035】
<飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)>
得られた白金担持酸化タングステン光触媒体分散液から溶媒を除去して粉末状とし、この粉末をスパチュラ1〜2杯分用いてハンドプレス(アズワン(株)製「ハンドプレスHP−1」)にてプレスすることにより10mmφ、厚み約1mmのペレットを作製し、このペレットを試料として、飛行時間型二次イオン質量分析計(ION-TOF社製「TOF.SIMS 5」を用いた分析を行った。なお、試料は、両面テープをつけたTOF−SIMS用マウントに貼り付け、分析条件は、イオン源:Bi(25kv、0.23pA−10kHz)、width(H+):0.84ns、 Resolution(SiH+):6914、測定エリア:200μm×200μm、Polarity:Positive、Flood Gun:OFF、とした。
【0036】
<光触媒活性(アセトアルデヒド分解能)>
光触媒活性は、蛍光灯の光の照射下でのアセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。
まず、光触媒活性測定用の試料を作製した。すなわち、ガラス製シャーレ(外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mL)に、得られた白金担持酸化タングステン光触媒体分散液を、底面の単位面積あたりの固形分換算の滴下量が1g/m2となるように滴下し、シャーレの底面全体に均一となるように展開した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機内で大気中1時間保持することにより乾燥させて、ガラス製シャーレの底面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に、紫外線強度が2mW/cm2となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒活性測定用試料とした。
【0037】
次に、この光触媒活性測定用試料をシャーレごとガスバッグ(内容積1L)の中に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比(酸素:窒素)が1:4である混合ガス0.6Lを封入し、さらにその中に1容量%でアセトアルデヒドを含む窒素ガス3mLを封入して、遮光下(暗所)で室温下1時間保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、測定用試料近傍での照度が6000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにガスバッグの外から蛍光灯の光を照射し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。このとき、測定試料近傍の紫外光の強度は40μW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)であった。蛍光灯の光の照射を開始してから1.5時間毎にガスバッグ内のガスをサンプリングし、アセトアルデヒドの濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所社製「GC−14A」)にて測定した。そして、照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度から一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能として評価した。この一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒド分解能(すなわち光触媒活性)が高いと言える。
【0038】
(実施例1)
まず、イオン交換水4kgに酸化タングステン粉末(高純度化学社製;純度99.99%)1kgを加えて混合し、媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1 1009」)を用いて、直径0.05mmのジルコニアビーズ1.85kgとともに、攪拌速度(周速)12.6m/秒、流速0.25L/分、処理時間50分の条件で分散処理を施すことにより、酸化タングステン粒子の水分散体を得た。この水分散体における酸化タングステン粒子の平均分散粒子径は、サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用い、同装置に付属の解析ソフトに基づき「単分散モード」にて解析することにより測定したところ、96nmであった。また、この水分散体における酸化タングステン粒子のBET表面積は、比表面積測定装置(ユアサアイオニクス(株)製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法により測定したところ、33.5m2/gであった。なお、この水分散体における酸化タングステンの濃度は20.1質量%である。
【0039】
上記で得られた酸化タングステン粒子の水分散体248.75gに水201.25gを加え、その中に、白金濃度が1質量%であるヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を、Ptが酸化タングステン粒子100重量部に対して0.1重量部となるように加えることにより分散液を得、この分散液に対して攪拌下で可視光線を1時間照射した。このとき、光源としては高圧水銀灯(USHIO製;100W)を用い、紫外線カットフィルターを装着する代わりに、この高圧水銀灯と分散液との間に、6℃に冷却した亜硫酸ナトリウム飽和水溶液が内部に流れる石英管ジャケットを介在させ、高圧水銀灯からの光が亜硫酸ナトリウム飽和水溶液を通して前記分散液に照射されるようにした。次いで、光照射後の分散液にメタノール50gを加え、攪拌しながら上記と同様にして可視光線を2時間照射し、白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を得た。
【0040】
得られた分散液中の白金担持酸化タングステン光触媒体について、飛行時間型二次イオン質量分析を行ったところ、白金の二次イオン強度(M)と酸化タングステンの二次イオン強度(WO)との強度比(M/WO)は0.0404であった。また、この光触媒体の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は、0.92h-1であった。
【0041】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られた酸化タングステン粒子の水分散体9.95gに水8.05gを加え、その中に、白金濃度が1質量%であるヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を、Ptが酸化タングステン粒子100重量部に対して0.1重量部となるように加えることにより分散液を得、この分散液に対して攪拌下で可視光線を1時間照射した。このとき、光源としては、紫外線カットフィルター(旭テクノグラス製「L−42」)を装着したキセノンランプ(USHIO製;500W)を用いた。次いで、光照射後の分散液にメタノール2gを加え、攪拌しながら上記と同様にして可視光線を2時間照射し、白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を得た。
【0042】
得られた分散液中の白金担持酸化タングステン光触媒体について、飛行時間型二次イオン質量分析を行ったところ、白金の二次イオン強度(M)と酸化タングステンの二次イオン強度(WO)との強度比(M/WO)は0.0313であった。また、この光触媒体の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は、0.75h-1であった。
【0043】
(参考例1)
実施例1で得た白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を、天井を構成する天井材の表面に塗布し乾燥させることにより、天井材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、さらには、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもできる。
【0044】
(参考例2)
実施例1で得た白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を、屋内の壁面に施工されたタイルに塗布し乾燥させることにより、タイル表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、さらには、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもできる。
【0045】
(参考例3)
実施例1で得た白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を、窓ガラスの屋内側表面に塗布し乾燥させることにより、ガラス表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、さらには、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもできる。
【0046】
(参考例4)
実施例1で得た白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を、壁紙に塗布し乾燥させることにより、壁紙の表面に光触媒体層を形成することができ、さらにこの壁紙を屋内の壁面に施工することによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、さらには、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもできる。
【0047】
(参考例5)
実施例1で得た白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を、屋内の床面に塗布し乾燥させることにより、床面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、さらには、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもできる。
【0048】
(参考例6)
実施例1で得た白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を、自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車の天井材などの自動車内装材の表面に塗布し乾燥させることにより、これら自動車内装材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、車内照明による光照射により車内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、さらには、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもできる。
【0049】
(参考例7)
実施例1で得た白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を、エアコンの表面に塗布し乾燥させることにより、エアコンの表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、さらには、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもできる。
【0050】
(参考例8)
実施例1で得た白金担持酸化タングステン光触媒体の分散液を、冷蔵庫の庫内に塗布し乾燥させることにより、冷蔵庫内に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明や冷蔵庫内の光源による光照射により冷蔵庫内における揮発性有機物(例えば、エチレン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、さらには、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステン粒子に電子吸引性物質が担持されてなる酸化タングステン光触媒体であって、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により分析したときに、電子吸引性物質の二次イオン強度(M)と酸化タングステンの二次イオン強度(WO)との強度比(M/WO)が0.038〜0.050である、ことを特徴とする酸化タングステン光触媒体。
【請求項2】
担持された電子吸引性物質が白金である、請求項1に記載の酸化タングステン光触媒体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の酸化タングステン光触媒体を分散体として得る方法であって、分散媒中に酸化タングステン粒子を分散させるとともに電子吸引性物質の前駆体化合物を溶解させた分散液を調製し、該分散液に対し水銀灯を光源として可視光線を照射した後、犠牲剤を添加し、さらに水銀灯を光源として可視光線を照射する、ことを特徴とする酸化タングステン光触媒体の製造方法。
【請求項4】
表面に光触媒体層を備える光触媒機能製品であって、前記光触媒体層が請求項1または2に記載の酸化タングステン光触媒体により形成されている、ことを特徴とする光触媒機能製品。

【公開番号】特開2011−36825(P2011−36825A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188626(P2009−188626)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】